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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】積層体およびラベル
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/023 20190101AFI20230904BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230904BHJP
   G09F 3/02 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B27/00 B
G09F3/02 F
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020561540
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050069
(87)【国際公開番号】W WO2020130130
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018240071
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】塩見 恭子
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-119658(JP,A)
【文献】特開平09-277707(JP,A)
【文献】特開平09-123606(JP,A)
【文献】特表2012-501873(JP,A)
【文献】国際公開第2009/147825(WO,A1)
【文献】特公昭63-042042(JP,B1)
【文献】特開2016-215611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G09F 1/00-5/04
B23K 26/00-26/70
B65D 65/00-65/46
B41M 5/035
B41M 5/26
B41M 5/36-5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層と、
前記レーザー光に対する吸収性を有する第二の層と、
光学的に透明な基材層と、
前記レーザー光に対する吸収性を有する第三の層と、がこの順で重なっているレーザー印字用の積層体であって、
前記第一の層の厚さが2μm以上20μm以下であり、
前記第二の層の厚さが15μm以下であり、
前記第三の層は、前記第二の層に対して同じ色相を有する、積層体。
【請求項2】
前記第二の層は、前記吸収性を有する有機顔料を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記第二の層は、カーボンブラックを含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第一の層は、金属酸化物および金属の一方または両方を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記第一の層は、酸化チタンを含む、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記第三の層は、前記第一の層に対して視認可能な色差をさらに有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記第三の層は、接着性をさらに有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の積層体に前記レーザー光を照射することにより形成された印字部を有するラベルであって、
前記印字部は、前記第一の層側から見て、前記基材層が露出している部分である、ラベル。
【請求項9】
レーザー印字用の積層体であって、
レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層と、
前記レーザー光に対する吸収性を有する第二の層と、
光学的に透明な基材層と、がこの順で重なっており、
前記第二の層は、樹脂とレーザー光に対する吸収性を有する顔料とを含有する樹脂組成物で構成され、
前記樹脂は、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する樹脂成分を含み、
前記第一の層の厚さが2μm以上20μm以下であり、かつ
前記第二の層の厚さが15μm以下である、積層体。
【請求項10】
前記樹脂は、前記アクリル樹脂100質量部に対して40質量部以上200質量部以下の前記ポリカプロラクトンポリオールの構成単位を含有する、請求項9に記載の積層体。
【請求項11】
前記ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量は1000以上4000以下である、請求項9または10に記載の積層体。
【請求項12】
前記ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価は50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である、請求項9~11のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項13】
前記アクリル樹脂のガラス転移温度は30℃以上100℃以下である、請求項9~12のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項14】
前記顔料はカーボンブラックであり、
前記樹脂組成物における前記顔料の含有量は、前記樹脂の総量に対して4質量%以上17質量%以下である、請求項9~13のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項15】
前記樹脂成分におけるイソシアネート基の当量は、前記アクリル樹脂および前記ポリカプロラクトンポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.5以上2.0以下である、請求項9~14のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項16】
前記基材層はエステル系樹脂で構成されている、請求項9~15のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項17】
前記エステル系樹脂は芳香族エステル系樹脂である、請求項16に記載の積層体。
【請求項18】
前記芳香族エステル系樹脂はポリエチレンテレフタレートである、請求項17に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびラベルに関する。
【背景技術】
【0002】
製品の管理や品質保証の目的で、製造番号または賞味期限などの個別情報を印字したラベルまたはシートを個々の製品に貼り付けることは広く行われている。当該個別情報は、例えばバーコードとして印字される。当該ラベルまたはシートとしては、レーザーの照射によって印字される積層体が知られている。当該積層体としては、酸化チタンを含有する白色層とカーボンブラックを含有する黒色層とを直接積層させた積層体が知られている。また、当該積層体としては、透明基材の両面に視認可能な色差を有し、レーザー光の照射により除去され得る着色層が積層された積層体が知られている。当該積層体は、例えば、透明な樹脂基材の一方の表面上に酸化チタンの層を有し、当該樹脂基材の他方の表面上にカーボンブラックの層を有している(例えば、特許文献1参照)。図4は、当該積層体の層構成の一例を模式的に示す図である。
【0003】
図4に示されるように、積層体100は、酸化チタンを含有する白色層51、透明なPETフィルム52、カーボンブラックを含有する黒色層53、透明粘着層54および剥離紙55がこの順で重なって構成されている。図中の矢印Bは、レーザー光の照射方向および照射位置を示している。
【0004】
積層体100では、白色層51にレーザー光が照射されると、COレーザーの場合は、白色層51がエッチングされて白色層51に印字部となる穴30が形成され、PETフィルム52が露出する。レーザー光の走査によって、穴30の平面視したときの形状は所望の形状になり、白色層51と黒色層53との色の対比によって所望の形状に応じた像が積層体100に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国公開特許公報「特開2007-106087号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の積層体においては、酸化チタンの層側から印字のためにレーザー光を照射すると、波長によっては白色層51がエッチングされず、印字を十分に行うことができない場合がある。また、酸化チタンを含有する白色層とカーボンブラックを含有する黒色層とを直接積層させた積層体は、酸化チタンの層を貫通するようなレーザー光を照射すると、カーボンブラックの層までエッチングされて、印字した部分に貫通した部分が含まれることがある。
【0007】
一方、工程管理用ラベルに上記の積層体を用いる場合では、一般に上記ラベルは小さい。このため、所望の領域からはみ出ないように情報を密に印字する必要がある。したがって、当該積層体には、高い寸法安定性が求められることがある。
【0008】
しかしながら、従来の積層体100では、レーザー光の照射による熱が黒色層53に伝播し蓄積されることがある。このため、PETフィルム52が軟化することがある。したがって、レーザー印字により形成された文字または二次元コードが歪むことがあり、その結果、当該文字または二次元コードの寸法が変化することがあり、あるいは精細な印字ができなくなることがある。このように、従来の技術では、レーザー印字によって精細な印字を作製する観点から検討の余地が残されている。
【0009】
本発明は、レーザー光の照射による印字の不良の発生を抑制可能なレーザー印字用の積層体、および、その積層体にレーザー光を照射することによる印字されたラベル、を提供することを第一の課題とする。
【0010】
また、本発明は、レーザー印字によって精細な印字を作製可能なレーザー印字用の積層体を提供することを第二の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
少なくとも上記第一の課題を解決するために、本発明の一態様に係る積層体は、レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層と、当該レーザー光に対する吸収性を有する第二の層と、光学的に透明な基材層と、レーザー光に対する吸収性を有する第三の層とがこの順で重なっているレーザー印字用の積層体である。上記の第二の層の厚さが15μm以下であり、上記の第三の層は、第二の層に対して同じ色相をさらに有する。
【0012】
また、少なくとも上記の第一の課題を解決するために、本発明の一態様に係るラベルは、上記の積層体にレーザー光を照射することにより形成された印字部を有する。当該印字部は、第一の層側から見て基材層が露出している部分である。
【0013】
また、少なくとも上記の第二の課題を解決するために、本発明の一態様に係る積層体は、レーザー印字用の積層体であって、レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層と、前記レーザー光に対する吸収性を有する第二の層と、光学的に透明な基材層と、がこの順で重なっている。そして、前記第二の層は、樹脂とレーザー光に対する吸収性を有する顔料とを含有する樹脂組成物で構成され、前記樹脂は、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する樹脂成分を含む。
【0014】
なお、本明細書において、同じ色相とは、視認による判別が困難な程度の色差を指し、例えば、測色計(コニカミノルタ株式会社製、商品名:CM-3500d)にて正反射光除去(SCE)方式で測定したL値の差が7未満、好ましくは5未満である。また、本明細書において、異なる色相とは、視認可能な色差を指し、例えば、測色計(コニカミノルタ株式会社製、商品名:CM-3500d)にてSCE方式で測定したL値の差が7以上、好ましくは10以上である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、レーザー光の照射による印字の不良の発生を抑制可能なレーザー印字用の積層体を提供することができ、あるいは、当該積層体へレーザー光を照射することにより印字されたラベルを提供することができる。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、レーザー印字によって精細な印字を作製可能なレーザー印字用の積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るラベルの断面構造の一例を模式的に示す図である。
図3】本発明の他の実施型形態に係る積層体の断面構造の一例を模式的に示す図である。
図4】従来のレーザー印字用の積層体における層構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下の説明において、本発明のうち、前述の第一の課題を解決するための発明を「第一発明」とも言い、前述の第二の課題を解決するための発明を「第二発明」とも言う。
【0019】
{第一発明を実施するための形態}
〔積層体〕
図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の断面構造の一例を模式的に示す図である。図1に示されるように、積層体10は、第一の層11、第二の層12および基材層13を有する。第一の層11、第二の層12および基材層13は、この順で重なっている。積層体10は、レーザー印字用の積層体である。
【0020】
本実施形態において、レーザー印字は、積層体10に、第一の層11側からレーザー光を照射して第一の層11および第二の層12を削ることである。このことはエッチングとも言う。当該エッチングにより、第一の層11および第二の層12が削られ、基材層13が露出する。以下、符号を省略することがある。
【0021】
[第一の層]
第一の層は、レーザー光に対する遮蔽性を有する。レーザー光に対する遮蔽性とは、レーザー光を反射するかあるいは反射および吸収する性質を含むことを意味する。第一の層は、当該遮蔽性を有する材料を含む層であってよく、第一の層の材料の例には、金属酸化物または金属が挙げられる。したがって、第一の層は、例えば、金属および金属酸化物の一方またはその両方を含有する層である。
【0022】
金属酸化物は、一般にレーザー光を反射する性質と吸収する性質との両方(すなわち遮蔽性)を有し、このような金属酸化物を第一の層の材料に用いることができる。当該金属酸化物の例には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、アルミナ、シリカおよびマイカなどが含まれる。金属は、一般にレーザー光を反射する性質を有する。当該金属の例には、アルミニウム、および、銅と亜鉛の合金、などが含まれる。中でも、第一の層の材料は、白色度および第二の層の隠蔽性の観点から酸化チタンであることが好ましい。
【0023】
第一の層は、レーザー光の照射によりエッチングされるように構成されていればよい。たとえば、第一の層は、金属酸化物および金属の一方または両方の粒子を分散相とし、熱分解性が良好な樹脂を連続相として含有するスラリーの塗膜であってもよく、金属酸化物および金属の一方または両方の粒子による蒸着膜であってもよい。
【0024】
当該スラリーは、インクであってもよいし、塗料であってもよい。また、当該スラリーは、調製されてもよいし、あるいは市販品であってもよい。
【0025】
当該連続相が熱分解性の良好な樹脂であることは、レーザー光の照射によって印字部の細部まで精密にエッチングする観点から好ましい。当該熱分解性の良好な樹脂は、一種でもそれ以上でもよい。なお、「熱分解性の良好な樹脂」とは、レーザー光を照射した場合に、熱によって分解して上記のスラリーの塗膜における連続相として実質的に作用しなくなる樹脂、とも言える。熱分解性の良好な樹脂の例には、熱硬化性樹脂、アクリル樹脂およびブチラール樹脂が含まれる。当該熱硬化性樹脂は、軟化点を有さない熱硬化性樹脂であることが、上記の観点から特に好ましい。
【0026】
第一の層の膜厚は、厚すぎると、レーザー光線の照射による削り量が不十分となり、印字不良を生じることがある。また、第一の層を貫通させるためにレーザー光の強度を強くせざるを得ないため、下の層(例えば後述する基材層または第三の層など)へ悪影響を与えることがある。レーザー光の照射によって第一の層のエッチングを十分に実施する観点から、第一の層の膜厚は、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
また、第一の層の膜厚は、薄すぎると、第二の層およびそれよりも第一の層とは反対側に配置される他の層(以下、「第二の層等」とも言う)を第一の層側から隠蔽するのに不十分となることがある。第二の層等を隠蔽し、レーザー光の照射による印字を十分に明確に表示する観点から、第一の層の膜厚は、2μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0028】
たとえば、当該膜厚が2μm以上であることは、第二の層等に対して十分に異なる色相を実現する観点から好ましい。特に、当該膜厚が6μm以上であることは、第二の層等に対する隠蔽性を十分に発現させる観点からより好ましい。
【0029】
第一の層の膜厚は、膜厚を測定する公知の方法によって測定することが可能である。また、第一の層の膜厚は、後述するスラリーにおける粒子の含有量、および、当該スラリーの塗布回数、などによって調整することが可能である。
【0030】
[第二の層]
第二の層は、レーザー光に対する吸収性を有する。第二の層の材料には、レーザー光に対する吸収性を有する公知の材料を用いることができる。第二の層の材料の例には、当該吸収性を有する有機顔料が含まれる。当該有機化合物は、一般に、光エネルギーを熱エネルギーに変換する性質を有している。このため、第二の層は、平面視したときのレーザー光が照射された部分の連続相(例えば樹脂)が光および熱により分解される。より精細な印字を実現する観点から、第二の層の材料は当該遮蔽性を有さないこと、例えば、第二の層が前述した金属または金属酸化物を含有しないこと、が好ましい。
【0031】
当該有機顔料の例には、カーボンブラックの他、ポリメチン骨格を伸ばしたシアニン系顔料、平面四配位構造を有するニッケルジチオレン系顔料、スクアリウム系顔料、ナフトキノン系顔料、ジインモニウム系顔料、アゾ系の有機顔料、および、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、アズレノシアニン系顔料等の縮合多環系の有機顔料、が含まれる。アズレノシアニン系顔料の例には、(10、12、22、24、34、36、46、48-オクトオクチル)2,3-アズレノシアニン亜鉛が含まれる。さらに、当該有機顔料は、市販品であってもよく、当該市販品の例には、山田化学工業株式会社製近赤外吸収色素「FDN-010」および、山本化成株式会社製近赤外吸収色素「YKR-2200」が含まれる。中でも、光熱変換効率が高いことから、上記の有機顔料は、カーボンブラックであることが好ましい。
【0032】
第二の層の材料が呈する色は、印字が十分に明確に表示される範囲において、第一の層または第一および第二の層以外の他の層が呈する色、あるいは積層体が配置される下地の色などに応じて適宜に決めてよい。
【0033】
第二の層は、レーザー光の照射によって分解し、熱またはガス、若しくはその両方が発生するように構成されていればよく、例えば、上記の有機顔料を分散相とし、前述の熱分解性が良好な樹脂を連続相として含有するスラリーの塗膜であってもよい。当該スラリーは、インクまたは塗料などから構成されてもよく、調製されてもよいし、あるいは市販品であってもよい。
【0034】
第二の層の膜厚は、15μm以下である。第二の層の膜厚が15μm以下であると、レーザー光の照射によって第一の層を第二の層とともに十分にエッチングすることが可能である。
【0035】
また、第二の層の膜厚が15μm以下であると、レーザー光の照射時に発生する熱が第一、第二の層以外の他の層に与える影響を小さくすることが可能であり、例えば後述する基材層の変形を抑制することが可能となる。さらに、第二の層の膜厚が15μm以下であると、第二の層の上に第一の層を形成する場合における第一の層の膜厚精度を十分に小さくすることが可能である。たとえば、第二の層が上記の膜厚以下であることにより、第一の層の膜厚精度を3μm程度かそれ以下に抑えることが可能であり、第一の層のエッチングが不十分であることによる印字不良の発生を抑制することが可能である。
【0036】
第二の層の膜厚は、上記の観点から、8μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましい。
【0037】
第二の層の膜厚は、レーザー光の照射によって第一の層とともにエッチングが可能な範囲であればよい。当該膜厚の下限は、他の理由に基づいて決めることが可能である。たとえば、第二の層の膜厚は、当該第二の層を安定かつ容易に作製可能な観点から、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
第二の層の膜厚は、膜厚を測定する公知の方法によって測定することが可能である。第二の層の膜厚は、例えば、上記のスラリーの塗布方法によって適宜に調整することが可能である。また、第二の層の膜厚は、例えば、既存の層を研磨することによって調整することも可能である。
【0039】
[基材層]
基材層は、光学的に透明である。「光学的に透明」とは、例えば、可視光の透過率が80%以上であり、かつレーザー光の透過率が50%以上であることを意味する。基材層における可視光の透過率が十分に高いと、エッチング後の積層体(ラベル)を第一の層側から平面視した場合に、下地を基材層越しに十分に視認することが可能となる。特に、第一の層と下地の色相を異なるものとすることで、第一の層に対するコントラストが良好な印字が可能となる。
【0040】
また、基材層におけるレーザー光の吸収率は、エッチングにおいて基材層よりも第二の層の反対側に配置される他の層の影響によって基材層に貫通孔が形成されることを抑制する観点によれば、低い方が好ましい。一方で、基材層におけるレーザー光の透過率は、高い方が好ましい。当該透過率を高くすることにより、基材層における第二の層側へのレーザー光の反射および散乱を抑制できるため、より精細なエッチングを実現できる。このような観点から、基材層におけるレーザー光の透過率は、50%以上であってよい。基材層における上記の光透過性は、一積層体において一様であってもよいし、エッチングをすべき部分に応じて異なっていてもよい。
【0041】
基材層の材料には、一般に高い透明性を有する材料を用いることができる。このような材料の例には、ガラス、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。
【0042】
基材層の形状は、限定されない。基材層の厚さは、一定であってもよいし、一積層体において異なる厚さを有していてもよい。基材層は、一般に積層体(またはエッチング後のラベル)が可撓性を有することが、ラベルの汎用性を高める観点から好ましいことから、樹脂製のフィルムであることが好ましい。当該フィルムの厚さは、限定されず、例えば、エッチング時に上記の貫通孔を形成しない範囲、および、取り扱い性の観点において、適宜に決めることが可能である。このような観点から、当該フィルムの厚さは、例えば25~300μmであってよい。
【0043】
[他の層]
本実施形態の積層体は、本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した第一の層、第二の層および基材層以外の他の構成をさらに有していてもよい。当該他の構成の例には、第三の層、接着層および離型層が含まれる。
【0044】
(第三の層)
第三の層は、通常、第一の層、第二の層および基材層に次いで重なるように配置される。
【0045】
第三の層は、通常、レーザー光に対する吸収性を有する。第三の層がレーザー光に対する吸収性を有することは、第三の層でのレーザー光の反射および散乱を抑制し、より精細なエッチングを実現する観点から好ましい。当該第三の層は、第二の層と同様に構成することが可能であり、例えば、前述の有機顔料を分散相とし、樹脂を連続相として含有するスラリーの塗膜であってもよい。当該スラリーは、調製されてもよいし、あるいは市販品であってもよい。
【0046】
第三の層の膜厚は、限定されないが、十分に厚いことが、エッチング時においてレーザー光の貫通を防止する観点から好ましい。このような観点から、第三の層の膜厚は、10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。第三の層の膜厚の上限は、限定されないが、第三の層による効果が頭打ちになる観点から、例えば300μm以下であってよい。
【0047】
第三の層は、エッチング後に第一の層側から見たときに、基材層を介して視認される。よって、第三の層は、第一の層に対して視認可能な色差を有することが好ましい。当該色差は、第一の層の色に応じて視認可能な範囲で適宜に決めることが可能である。
【0048】
また、第三の層は、第二の層に対して同じ色相を有することが好ましい。第三の層の色相が第二の層の色相と同じであると、エッチングによって形成された印字部の縁において第三の層の色と第二の層の色との差が目立たなくなる。よって、印字部の縁をより明確に視認することが可能である。
【0049】
第三の層は、さらに接着性を有していてもよい。積層体またはラベルは、製品に貼り付けられるように構成されることがある。第三の層が接着性を有することは、簡易な構成で積層体またはラベルに接着性を持たせる観点から好ましい。
【0050】
接着性を有する第三の層は、例えば、第三の層における連続相を構成する樹脂に、当該接着性を発現する樹脂を用いることによって構成され得る。このような接着性を有する樹脂には、接着層を形成するための公知の樹脂組成物を用いることが可能である。第三の層における接着性を有する樹脂の含有量は、本実施形態の効果に加えて当該接着性が発現される範囲において適宜に決めることができる。
【0051】
(接着層)
接着層は、接着性を有する層である。接着層は、本実施形態に係る積層体が第三の層を有さない場合、または第三の層が接着性を有さない場合に、基材層または第三の層の上に配置されてよい。接着層は、接着剤となる公知の樹脂組成物の塗膜であってよく、公知の方法によって作製することが可能である。
【0052】
(離型層)
離型層は、積層体における接着性を有する層を着脱自在に覆うための層であり、当該接着性を有する層に対して離型性を有する。離型層は、例えば、当該接着性を有する層に対して剥離可能なフィルム、または、剥離紙などの公知の離型材で構成することが可能である。
【0053】
(その他)
本実施形態の積層体は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した各層の間に介在するさらなる層を含んでもよい。このような介在するさらなる層の例には、前述の各層を接着するさらなる接着層、積層方向において隣り合う二層の間に形成される層であって、両層の組成を含む中間層、各層の保護のためのバリアー層、ならびに、二層間の密着性を高めるためのプライマー層およびアンカー層、が含まれる。
【0054】
[積層体の製造方法]
本実施形態の積層体は、前述した順に重なるように前述した層を配置、形成することにより製造することが可能である。
【0055】
たとえば、当該積層体は、下記(1)、(2)の二工程を含む製造方法によって製造することが可能である。当該製造方法は、必要に応じて、下記(3)~(5)の工程の少なくともいずれか、をさらに含んでもよい。
(1)フィルム状の基材層における一方の表面に第二の層用のスラリーを塗布し、乾燥させて第二の層を形成する工程。
(2)第二の層の表面に第一の層用のスラリーを塗布し、乾燥させて第一の層を形成する工程。
(3)基材層における他方の表面に第三の層用のスラリーを塗布し、乾燥させて第三の層を形成する工程。
(4)基材層における他方の表面または第三の層の表面に接着剤用の樹脂組成物を塗布して接着層を形成する工程。
(5)接着層に離型材を貼り合わせる工程。
【0056】
上記の製造方法において、スラリーまたは接着剤は、所期の塗膜に応じた公知の塗工方法によって塗布することが可能である。このような塗布方法の例には、スクリーン印刷、グラビア印刷、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、コンマコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スプレー塗装、静電塗装および浸漬塗装が含まれる。
【0057】
また、上記の製造方法において、塗布したスラリーは、当該スラリーの材料に応じた公知の方法によって乾燥させることが可能である。このような乾燥方法の例には、熱風による乾燥、および、オーブンまたはホットプレートなどの加熱装置による加熱、が含まれる。塗布により形成されるスラリーからなる層(スラリー層)の乾燥について、形成したスラリー層をその都度乾燥してもよいし、形成した複数または全てのスラリー層および塗膜を一度に乾燥してもよい。
【0058】
また、本実施形態の積層体は、第一の層、第二の層、基材層および第三の層のいずれか二つを予め作製しておき、それらを加熱して積層させる方法によって製造することも可能である。あるいは、当該積層体は、予め作製された二つの層を、前述したさらなる接着層を介して貼り合わせて積層させる方法によって製造することも可能である。
【0059】
また、本実施形態の積層体は、各層の材料のスラリー層を、積層方向の一端側から順次作製し、乾燥させることによって製造することも可能である。たとえば、当該積層体は、工程フィルム上に第一の層の塗膜を形成し、当該第一の層の塗膜の上に第二の層の塗膜を形成し、第二の層の塗膜の上に基材層の塗膜を形成し、基材層の塗膜の上に第三の層のスラリー層を形成し、形成した塗膜およびスラリー層を乾燥し、工程フィルムを剥離する方法によっても製造することが可能である。
【0060】
各層用のスラリーにおける分散相の含有量は、塗布回数が多ければ少なくすることが可能である。よって、当該スラリーの組成は、形成される層の組成が実現される範囲において、スラリーの塗布回数に応じて適宜に決めることが可能である。
【0061】
一回の塗布でスラリー層を形成する場合では、第一の層用のスラリーにおける金属酸化物粒子または金属粒子の含有量は、例えば連続相となる樹脂100質量部に対して15~150質量部であってよい。第二の層用のスラリーにおける有機顔料粒子の含有量は、連続相となる樹脂100質量部に対して4~50質量部であってよい。特に7~35質量部とすることで、印字した文字の鮮鋭性が良好となる。第三の層用のスラリーにおける有機顔料粒子の含有量は、連続相となる樹脂100質量部に対して7~50質量部であってよい。
【0062】
本実施形態の積層体は、レーザー光線を照射することによりエッチングされた印字部を有するラベルに好適に使用することができる。
【0063】
〔ラベル〕
図2は、本発明の一実施形態に係るラベルの断面構造の一例を模式的に示す図である。図2に示されるように、ラベル20は、第一の層11、第二の層12、基材層13、および印字部21を有する。すなわち、ラベル20は、前述した本実施形態の積層体10と印字部21とを有する。
【0064】
印字部21は、積層体1への後述する短波長レーザー光線の照射によって形成された部分である。たとえば、印字部21は、第一の層11の表面においてレーザー光線を照射するとともに、当該レーザー光の照射位置を移動させることにより、レーザー光線が照射された部分がエッチングされて形成される。印字部21では、基材層13が第一の層11側に露出する。
【0065】
印字部21は、第一の層11の表面においてレーザー光が照射された位置に応じた平面形状を有する。印字部21の平面形状は限定されず、その例には、文字、記号、模様およびそれらの組み合わせが含まれる。印字部21の平面形状は、ラベル20の用途に応じて適宜に決めることが可能である。このような印字部21の平面形状の例には、製品の管理のためのシリアルナンバー、および、品質保証のための情報に対応する文字または図形(例えば製造時期または賞味期限)、が含まれる。
【0066】
印字部21がエッチングによって形成されたことは、例えば、印字部21の表面形状を観察することによって確認することが可能である。たとえば、印字部21の表面は、レーザー光線の照射によって形成されているため、微視的に不均一な凹凸を有している。また、第一の層11または第二の層12が熱可塑性樹脂を含有する場合には、印字部21の表面には当該熱可塑性樹脂が溶融した痕が観察され得る。このように、印字部21の表面を観察することによって、印字部21がエッチングで形成されたことを確認することが可能である。
【0067】
[レーザー光]
ラベル20は、前述の積層体10に第一の層11側からレーザー光を照射することにより製造される。レーザー光は、第一の層11側から照射したときに第二の層12まで到達する範囲において適宜に選ぶことが可能である。当該レーザー光を照射可能なレーザーの例には、COレーザー、Ybレーザー、YVOレーザー、Nd:YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、半導体励起固体レーザー、Arレーザー、N/DyeレーザーおよびHeCdレーザーが含まれる。中でも、Ybレーザー、YVOレーザー、Nd:YAGレーザーを短波長レーザーと呼称する。一般的に設備が安価でその取り扱いも比較的容易である観点から、COレーザーおよびYbレーザー、YVOレーザー、Nd:YAGレーザーが好ましい。
【0068】
レーザー光の照射は、レーザーの波長、レーザーの出力、パルス周期、スポット径に応じて適宜に実施することが可能である。たとえば、Ybレーザーの出力が例えば13W、パルス周期50Hz、スポット径(線幅70μm)であれば、レーザー光の走査速度は、100~3000mm/秒であってよい。
【0069】
[作用]
本実施形態の積層体に、第一の層側からレーザー光を照射する。レーザー光が照射された部分では、レーザー光は第一の層で吸収、反射、散乱しつつ、その一部は第一の層を貫通して第二の層に到達する。第二の層は、到達したレーザー光を吸収し、その光エネルギーに応じた熱エネルギーを発生する。そして、レーザー光が照射された部分において、第二の層が第一の層とともにエッチングされ、基材層が露出する。
【0070】
このように、エッチングされる第一の層の直下にレーザー光に対する吸収性を有する第二の層を有することから、基材層が露出してなる精細な印字部がレーザー光の照射によって形成される。第二の層が、カーボンブラックのような光熱変換性に優れる有機顔料を含有していると、より高精細なエッチングが実現される。
【0071】
第一の層が金属酸化物を含むと、レーザー光によっては金属酸化物を還元する作用を呈するため、このようなレーザー光が照射される場合では、エッチング時の第一の層での樹脂の分解が抑制される。また、金属酸化物に酸化チタンを用いると、高いL値を有する第一の層が得られる。よって、印字部の視認性がより高められる。
【0072】
第一の層が金属を含むと、レーザー光が反射するため、エッチング時の第一の層での発熱がより抑制される。また、金属を含有する第一の層を採用すると、金属光沢を有する製品の表面に貼り付けられるラベルである場合には、製品に貼り付けられたときのラベルを目立たなくすることが可能である。
【0073】
積層体が第三の層をさらに有すると、照射されたレーザー光が第三の層で吸収されるため、第三の層におけるレーザー光の反射、散乱が抑制される。したがって、当該反射、散乱したレーザー光によるエッチングが抑制される。その結果、より高精細なエッチングが実現される。
【0074】
また、第三の層は、印字部において、第一の層側から見たときに基材層を介して視認される。よって、第三の層が第一の層に対して視認可能な色差を有すると、後述のラベルにおける印字部の視認性がより高められる。特に、第三の層が第二の層と同じ色相を有すると、当該印字部の縁が同じ色相で統一される。その結果、印字部の視認性がさらに高められる。また、第三の層が接着性を有すると、接着可能なラベルがより簡易な層構成で実現される。
【0075】
基材層には、樹脂製のフィルムを好適に用いることができる。このような樹脂製のフィルムは、その厚さ、および、可撓性などの物性、を容易に調整することが可能であり、積層体およびラベルの汎用性がさらに高められる。
【0076】
〔変形例〕
本実施形態の積層体は、製品に直接配置されていてもよい。たとえば、基材層が、ラベルを配置すべき製品の表面であってもよい。
【0077】
エッチングする時期は、積層体を上記の製品に貼り付ける前であってもよいし貼り付けた後であってもよい。積層体を製品に貼り付けた後にエッチングする場合には、当該製品上の積層体に直接レーザー光を照射することによってラベルが製造される。この場合、当該製品の検査の過程で、製品の合否判定に応じたラベルを製造することが可能である。
【0078】
離型層は、前述した有機顔料を含有していてもよい。この場合、離型層が第三の層を兼ねることが可能である。このような積層体の構成によれば、ラベルが配置されるべき製品の色が基材層を介して視認される、高精細なラベルを提供することが可能である。
【0079】
〔まとめ〕
第一発明の実施形態に係る積層体(10)は、レーザー印字用の積層体であって、レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層(11)と、レーザー光に対する吸収性を有する第二の層(12)と、光学的に透明な基材層(13)と、がこの順で重なっている。第二の層の厚さは15μm以下である。この態様によれば、第一の層側からレーザー光を照射した際に、第二の層がレーザー光のエネルギーを吸収し、その直上の第一の層とともにエッチングされるので、基材層の熱による変形や溶融による印字不良の発生を抑制することが可能である。
【0080】
第二の層は、レーザー光に対する吸収性を有する有機顔料を含んでいてもよい。この態様によれば、高精細なエッチングを実現する観点からより一層効果的である。
【0081】
第二の層は、カーボンブラックを含んでいてもよい。この態様によれば、高精細なエッチングを実現する観点、および、ラベルにおける印字部の視認性を高める観点、からより一層効果的である。
【0082】
第一の層は、金属酸化物および金属の一方または両方を含んでもよい。この態様によれば、ラベルにおける意匠性を高められる。
【0083】
第一の層は、酸化チタンを含んでいてもよい。この態様によれば、意匠性を高めことができる。
【0084】
本実施形態に係る積層体は、第一の層、第二の層および基材層に次いで重なっており、レーザー光に対する吸収性を有する第三の層をさらに含んでもよい。この態様によれば、高精細なエッチングを実現する観点からより一層効果的である。
【0085】
第三の層は、第一の層に対して視認可能な色差をさらに有していてもよい。この態様によれば、ラベルにおける印字部の視認性を高める観点からより効果的である。
【0086】
第三の層は、第二の層に対して同じ色相をさらに有していてもよい。この態様によれば、ラベルにおける印字部の視認性を高める観点からより一層効果的である。
【0087】
第三の層は、接着性をさらに有していてもよい。この態様によれば、より簡易な層構成で積層体またはラベルを接着可能に構成する観点からより一層効果的である。
【0088】
基材層は、樹脂製のフィルムであってもよい。この態様によれば、積層体の汎用性を高める観点からより一層効果的である。
【0089】
第一発明の実施形態に係るラベル(20)は、前述の第一発明の実施形態に係る積層体にレーザー光を照射することにより形成された印字部(21)を有する。当該印字部は、第一の層側から見て、基材層が露出している部分である。この態様によれば、レーザー光の照射による印字の不良の発生が抑制されるラベルを実現することが可能である。
【0090】
次に、第二発明を実施するための形態について説明する。
【0091】
{第二発明の実施形態}
〔積層体の概略構成〕
以下、第二発明の実施の形態について説明する。図1に示されるように、積層体10は、レーザー印字用の積層体であり、第一の層11、第二の層12および基材層13を有する。積層体10は、これらの層が上記の順で重なって構成されている。以下、上記の各層について説明する。
【0092】
[第一の層]
第二発明における第一の層は、段落0021~0025および0029で説明した事項については、第一発明と同様である。
【0093】
第二発明において、第一の層を作製するためのスラリーは、第一の層が積層体の用途に応じた適度な厚さを有する観点から、樹脂と、金属酸化物または金属の粒子とを含有する樹脂組成物であることが好ましく、第一の層は、当該樹脂組成物で構成されていることが好ましい。
【0094】
第一の層において、当該樹脂は連続相を構成し、上記粒子は分散相を構成する。当該連続相が熱分解性の良好な樹脂である。
【0095】
第一の層における上記樹脂は、中でも、アクリル樹脂が好ましい。これは、アクリル樹脂は熱分解した際に主鎖から壊れやすく灰として残り難いため、レーザー光による印字が鮮鋭になりやすいためである。第一の層におけるアクリル樹脂は、後述する第二の層におけるアクリル樹脂の中から適宜に選ばれ得る。第一の層において、アクリル樹脂は、第二の層のものと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0096】
第一の層は、本実施形態の効果を奏する範囲において、上記の樹脂および顔料以外の他の材料をさらに含有していてもよい。たとえば、第一の層における顔料以外の樹脂は、後述する第二の層の材料と同じであってもよい。他の材料は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、ポリオール樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。
【0097】
第一の層の膜厚は、段落0026に記載している観点から、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることがより一層好ましい。
【0098】
中でも、第一の層の膜厚は、印字性の観点から20μm以下であることが好ましい。当該膜厚が20μm以下であることは、レーザー印字時の発熱によって後述の基材層が変形することを抑制する観点から好ましい。
【0099】
また、第一の層の膜厚は、薄すぎると、第一の層の下地の層を第一の層側から隠蔽するのに不十分となることがある。当該下地の層を隠蔽し、レーザー光の照射による印字を十分に明確に表示する観点から、第一の層の膜厚は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、6μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることがより一層好ましい。
【0100】
たとえば、段落0028に記載している観点から、当該膜厚が2μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。
【0101】
[第二の層]
第二の層は、レーザー光に対する吸収性を有する。第二の層の材料には、レーザー光に対する吸収性を有する公知の材料を用いることができる。たとえば、第二の層は、樹脂とレーザー光に対する吸収性を有する顔料とを含有する樹脂組成物で構成される。
【0102】
(樹脂組成物)
第二の層において、上記樹脂組成物における樹脂は連続相であり、上記顔料は分散相である。なお、第二の層は、本実施形態の効果を奏する範囲において、上記の樹脂および顔料以外の他の材料をさらに含有していてもよい。他の材料は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、レベリング剤、消泡剤およびマット剤が含まれる。
【0103】
(樹脂)
第二の層における樹脂は、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する樹脂成分を含む。
【0104】
第二の層において、上記樹脂中におけるポリカプロラクトンポリオールの構成単位の含有量は、アクリル樹脂に対して少なすぎると第二の層の基材層に対する密着性が不十分となることがあり、多すぎると積層体の印字の精細さが不十分となることがある。第二の層と基材層との密着性を高める観点から、前述の樹脂におけるポリカプロラクトンポリオールの構成単位の含有量は、アクリル樹脂100質量部に対し、25質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましい。特に、当該含有量が40質量部以上であることは、ポリエチレンテレフタレートなどの透明な樹脂で構成されている基材層への密着性を高める観点から好ましい。
【0105】
また、当該密着性と積層体の印字性とを十分に高める観点から、前述の樹脂におけるポリカプロラクトンポリオールの構成単位の含有量は、アクリル樹脂100質量部に対し、200質量部以下であることが好ましい。
【0106】
なお、第二の層における上記樹脂成分の組成は、質量分析、赤外分光分析法および核磁気共鳴分光分析法などの公知の機器分析によって確認し、推定することが可能である。
【0107】
また、上記樹脂中におけるポリカプロラクトンポリオールの構成単位の含有量は、上記の樹脂成分を後述する合成法により調製する場合では、当該調整における当該構成単位の材料となるモノマーの量と実質的に同じである。よって、当該構成単位の含有量は、樹脂成分を調製する場合には、原料モノマーの量と同じとしてもよい。
【0108】
<アクリル樹脂>
第二発明において、「アクリル樹脂」は、(メタ)アクリル酸およびその誘導体をモノマーとする重合体であり、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルの一方または両方を意味する。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味する。さらに、「(メタ)アクリル単量体」は、アクリル酸、その誘導体、メタクリル酸およびその誘導体の少なくともいずれかを意味する。
【0109】
第二の層において、アクリル樹脂が水酸基またはカルボキシル基を有することは、基材層に対する第二の層の密着性を高める観点から好ましい。当該密着性が高まる理由は、前述の樹脂成分中におけるアクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートとの間に架橋反応が起こる結果、基材層表面との相互作用がより強まるためと考えられる。
【0110】
水酸基を含有するアクリル樹脂は、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリル単量体を単独で、または水酸基を有する(メタ)アクリル単量体とそれ以外の(メタ)アクリル単量体とを混合して、当該単量体を重合させることにより得られる。重合方法の例には、溶液重合、バルク重合およびエマルション重合が含まれる。
【0111】
水酸基を有する(メタ)アクリル単量体の例には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-メチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチル-3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4-トリメチル-3-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-3-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが含まれる。水酸基を有する(メタ)アクリル単量体は、一種でもそれ以上でもよい。
【0112】
水酸基を有する(メタ)アクリル単量体以外の他の(メタ)アクリル単量体の例には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-メトキシ(メタ)アクリレート、2-エトキシ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートおよびテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが含まれる。他の(メタ)アクリル単量体は、一種でもそれ以上でもよい。
【0113】
また、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体は、カルボキシル基に加えて水酸基をさらに有することが、前述の相互作用を高める観点から好ましい。カルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体の例には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、グルタコン酸およびシトラコン酸が含まれる。これらの単量体は、一種でもそれ以上でもよい。
【0114】
アクリル樹脂のガラス転移温度は、第二の層をインキの塗布により形成する場合の良好な乾燥性を発現させる観点から、30℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。また、アクリル樹脂のガラス転移温度は、第二の層をインキの塗布により形成する場合に取扱いやすい塗工液を得る観点から100℃以下であることが好ましい。
【0115】
アクリル樹脂のガラス転移温度は、当該アクリル樹脂のモノマーである(メタ)アクリル単量体の質量割合に応じたガラス転移温度の総和である。アクリル酸のガラス転移温度Tgは、下記式により求められる。下記式中、Tg~Tgは、(メタ)アクリル樹脂を構成する(メタ)アクリル単量体1~nのそれぞれのガラス転移温度(K)を表す。また、下記式中、w~wは、(メタ)アクリル単量体1~nの質量における総量に対する個々の単量体の質量の比を表す。nは、(メタ)アクリル単量体の種類を表し、二以上の整数である。
【0116】
【数1】
【0117】
なお、アクリル酸のガラス転移温度Tgは、絶対温度(K)を用いて求められるが、本明細書ではセルシウス度(℃)で表示する。
【0118】
(メタ)アクリル単量体のガラス転移温度Tgは、示差走査熱量(DSC)測定装置を用いて下記の条件で測定して得られたDSCカーブの変曲点の温度である。
示差走査熱量(DSC)測定装置 「EXSTAR6000」(セイコーインスツルメンツ社製)
雰囲気 窒素気流
測定試料の量 10mg
昇温速度 10℃/分
【0119】
(メタ)アクリル単量体の代表的なガラス転移温度は、メタクリル酸メチル:103℃、n-ブチルメタクリレート:21℃、ブチルアクリレート:-57℃、2-ヒドロキシエチルメタクリレート:55℃、2-ヒドロキシエチルアクリレート:-15℃、アクリル酸:166℃、メタクリル酸:185℃などである。
【0120】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、制限されないが、5000以上100万以下であることが好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量が5000以上であることは、第二の層をインキの塗布で作製されるインキからなる層(インキ層)の乾燥性を高める観点から好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量が100万以下であることは、塗布時の作業性が良好な上記インキを得る観点から好ましい。当該作業性の向上の観点から、アクリル樹脂の重量平均分子量は、10万以下であることがより好ましい。
【0121】
なお、第二発明において、インキによる未乾燥の膜を「インキ層」とも言い、インキ層を一時的に、または完全に乾燥させたものを「塗膜」とも言う。一時的な乾燥とは、例えば、その上にインキを塗布してさらなるインキ層を作製可能な程度にインキ層を固化させる乾燥である。
【0122】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記(1)~(3)に従って測定され、標準ポリスチレン換算法により求められる値である。
(1)アクリル樹脂の溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥させ、アクリル樹脂のフィルムを得る。
(2)上記(1)で得られたアクリル樹脂のフィルムをテトラヒドロフランに固形分0.2質量%となるように溶解させる。
(3)得られた溶液を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記条件にて測定する。
(条件)
GPC:HLC-8220 GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSK-GEL GMHXL 4本使用(東ソー株式会社製)
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0123】
<樹脂成分>
第二の層に含有される樹脂成分は、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する。樹脂成分は、例えば、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの付加反応あるいは縮合反応など化学反応による生成物であってもよいし、当該生成物と同じ構造を有する生成物であって他の原料または他の反応による生成物であってもよい。
【0124】
樹脂成分は、アクリル樹脂およびポリカプロラクトンポリオールが有し、イソシアネート基との反応性を有する官能基と、ポリイソシアネートのイソシアネート基との反応生成物であってよい。当該官能基の例には、アクリル樹脂が有する水酸基、アクリル樹脂が有するカルボキシル基、および、ポリカプロラクトンポリオールが有する水酸基、が含まれる。樹脂成分は、上記の官能基の全てとイソシアネート基とが反応してなる構造を有していてもよいし、上記の官能基の一部、例えば主に水酸基、とイソシアネート基とが反応してなる構造を有していてもよい。樹脂成分の構成は、例えば、第二の層の作製時の条件を、当該官能基うちの所定の官能基とイソシアネート基とが反応する条件とすることによって適宜に調整することが可能である。
【0125】
≪ポリカプロラクトンポリオール≫
ポリカプロラクトンポリオールの一例は、R-[O-((C=O)-R’-O)-H]で表される。ここで、Rは、エチレングリコールおよびグリセリンなどの多価アルコールに由来する残基である。nは、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基の数に該当し、mは重合したカプロラクトンの数に該当する。R’は、開環重合するカプロラクトンに由来する残基であり、二価のアルキレン基であり得る。ポリカプロラクトンポリオールは、一種でもそれ以上でもよい。
【0126】
ポリカプロラクトンポリオールの水酸基の数は2~6個であることが好ましく、2~4個であることがより好ましい。たとえば、当該水酸基数は、積層体の印字性を高める観点から、3(トリオール)であることが好ましい。
【0127】
ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量は、1000以上4000以下であることが好ましい。第二の層の基材層に対する密着性を高める観点、および、第二の層におけるアクリル樹脂と上記樹脂成分との相互作用を高める観点から、ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量は、1000以上にすることが好ましい。また、第二の層を形成するためのインキの作業性を高める観点から、ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量は、4000以下であることが好ましい。
【0128】
また、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価は、50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。第一の層を塗工できる程度の耐溶剤性を確保する観点から、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価は、50mgKOH/g以上であることが好ましい。また、第一の層と第二の層との密着性を高める観点から、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価は、200mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0129】
ポリカプロラクトンポリオールは、合成して入手することができ、あるいは、市販品であってもよい。ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、分子中に複数の水酸基を有する化合物にポリカプロラクトンを反応させて得られる。
【0130】
ポリカプロラクトンポリオールの市販品としては、株式会社ダイセル製のプラクセル(登録商標)が挙げられ、その品番としては、#205(数平均分子量(Mn)530,水酸基の数2個,水酸基価212KOHmg/g)、#208(Mn830、水酸基の数2個)、#210(Mn1000、水酸基の数2個)、#212(Mn1250、水酸基の数2個)、#220(Mn2000、水酸基の数2個、水酸基価56KOHmg/g)、#305(Mn530,水酸基の数3個,水酸基価305KOHmg/g)、#308(Mn850、水酸基の数3個)、#309(Mn900、水酸基の数3個)、#312(Mn1250、水酸基の数3個)、#320(Mn2000、水酸基の数3個)及び#410(Mn1000、水酸基の数4個)が挙げられる。
【0131】
また、ポリカプロラクトンポリオールの市販品としては、パーストープジャパン社製のCAPA2085(Mn830、水酸基の数2個)、CAPA2100(Mn1000、水酸基の数2個)、CAPA2121(Mn1250、水酸基の数2個)、CAPA2125(Mn1250、水酸基の数2個)、CAPA2200(Mn2000、水酸基の数2個)、CAPA2201(Mn2000、水酸基の数2個)、CAPA2205(Mn2000、水酸基の数2個)、CAPA2209(Mn2000、水酸基の数2個)、CAPA3091(Mn900、水酸基の数3個)、CAPA3121J(Mn1200、水酸基の数3個)、CAPA3201(Mn2000、水酸基の数3個)及びCAPA4101(Mn1000、水酸基の数4個)が挙げられる。
【0132】
≪ポリイソシアネート≫
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2以上有している化合物のことをいう。ポリイソシアネートは、一種でもそれ以上でもよい。
【0133】
たとえば、芳香族ポリイソシアネートの例には、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリフェニルメタントリイソシアネートなどのポリメリックMDI、トリレンジイソシアネート(TDI)が含まれる。
【0134】
また、例えば、脂肪族または脂環式イソシアネートの例には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ヘプタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,4-シクロヘキサンビスメチルイソシアネートのような水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、および、4,4-メチレンビスシクロヘキシルイソシアネートのような水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、が含まれる。
【0135】
第二の層の変色を抑制する観点から、ポリイソシアネートは、脂肪族または脂環式ポリイソシアネートであることが好ましい。
【0136】
また、ポリイソシアネートの例には、イソシアネート化合物の2量体もしくは3量体が含まれる。このようなポリイソシアネートの例には、ウレトジオンもしくはイソシアヌレート、イソシアネート化合物とポリオール樹脂とのプレポリマーが含まれる。
【0137】
また、このようなポリイソシアネートの例には、イソシアネートと、多価アルコールまたは尿素化合物などとのアダクト体が含まれる。当該多価アルコールの例には、プロピレングリコール(2官能アルコール)、ブチレングリコール(2官能アルコール)、トリメチロールプロパン(TMP,3官能アルコール)、グリセリン(3官能アルコール)およびペンタエリスリトール(4官能アルコール)が含まれる。
【0138】
上記のアダクト体の例には、トリレンジイソシアネートと3官能アルコールとの付加物、イソホロンジイソシアネートと2官能アルコールとの付加物、イソホロンジイソシアネートと3官能アルコールとの付加物、が含まれる。
【0139】
ポリイソシアネートは、市販品であってもよい。また、基材層に対する第二の層の密着性を高める観点に加えて、インキの塗布によって第二の層を作製する場合のインキ層の乾燥性を高める観点から、ポリイソシアネートは、イソシアヌレートタイプであることが特に好ましい。イソシアヌレートタイプの例には、デュラネート(登録商標)TPA-100(旭化成株式会社製)、コロネート(登録商標)HX(東ソー株式会社製)、タケネート(登録商標)D140N、タケネートD131N、タケネートD204およびタケネートD268(三井化学株式会社製)が含まれる。
【0140】
上記樹脂成分におけるポリイソシアネートの構成単位の含有量は、アクリル樹脂およびポリカプロラクトンポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対するイソシアネート基の当量で0.5当量以上2.0当量以下となる量であることが好ましい。第二の層の上に前述のインキの塗布によってさらなる層を作製する場合に第二の層の膨潤を抑制する観点から、ポリイソシアネートの構成単位の含有量は、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基に対して0.5当量以上であることが好ましく、0.6当量以上であることがより好ましい。また、第二の層を前述のインキの塗布によって作製する場合のインキ層の乾燥性を高める観点から、ポリイソシアネートの構成単位の含有量は、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基に対して2.0当量以下であることが好ましく、1.5当量以下であることがより好ましく、1.2当量以下であることがさらに好ましい。
【0141】
≪その他の成分≫
第二の層における樹脂成分は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した化合物またはそれによる構成単位以外の他の成分をさらに含有していてもよい。たとえば、上記樹脂成分は、本実施形態の効果が得られる範囲において、ポリカプロラクトンポリオール以外の他のポリオールの構成単位をさらに含有していてもよい。他のポリオールの例には、ポリカーボネートポリオールおよびポリエーテルポリオールが含まれる。
【0142】
また、当該樹脂成分は、本実施形態の効果が得られる範囲において、ポリイソシアネート以外の、ポリオールの水酸基と反応する多価の官能基を有する化合物の構成単位をさらに含有していてもよい。当該他の化合物の例には、メラミン系架橋剤、ベンゾグアナミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属キレート系架橋剤、オルガノシラン系架橋剤、エポキシ系架橋剤および酸無水物系架橋剤が含まれる。メラミン系架橋剤の例には、ニカラック(登録商標)MS-11およびMS-001(共に日本カーバイド工業株式会社製)、ならびに、マイコート715(日本サイテックインダストリーズ株式会社製、「マイコート」はオルネクスジャパン株式会社の登録商標)、が含まれる。
【0143】
(顔料)
第二の層は、レーザー光に対する吸収性を有する顔料が含まれる。当該顔料は一種でもそれ以上でもよい。当該顔料は、段落0031に説明した事項については、第一発明と同様である。
【0144】
第二の層における顔料の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に、例えば顔料の種類に応じて、決めることが可能である。たとえば、顔料がカーボンブラックである場合では、樹脂組成物における顔料の含有量は、樹脂の総量に対して4質量%以上17質量%以下であることが好ましい。
【0145】
積層体のレーザー印字によってより精細な印字を実現する観点から、上記樹脂組成物におけるカーボンブラックの含有量は、樹脂の総量に対して4質量%以上であることが好ましく、さらに第二の層の厚みが薄くてもより精細な印字を実現する観点から、8質量%以上であることがより好ましい。また、上記樹脂組成物におけるカーボンブラックの含有量は、基材層に対する第二の層の密着性を高める観点、および、レーザー光照射時に第二の層から基材層へ伝わる熱によって基材層が変形することを防止する観点から、樹脂の総量に対して17質量%以下であることが好ましい。
【0146】
なお、第二の層は、段落0032および0038に説明した事項については第一発明と同様である。
【0147】
(その他の材料)
第二の層は、本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した以外の他の材料をさらに含有していてもよい。当該他の材料の例には、レベリング剤、消泡剤およびマット剤が含まれる。
【0148】
[基材層]
基材層は、段落0039に記載した事項については第一発明と同様である。第一の層と下地の色相とが異なることは、印字の第一の層に対するコントラストを高める観点から好ましい。
【0149】
なお、下地とは、基材層が第一の層および第二の層とは反対側で接する部分である。下地は、基材層の当該反対側に接して配置された他の層であってもよいし、積層体が接着剤層を介して貼り付けられる物体であってもよい。
【0150】
また、基材層におけるレーザー光の吸収率は、第一発明と同様に、レーザー光による印字によって基材層に熱が蓄えられて変形し、あるいは貫通孔が形成されることを抑制する観点によれば、低い方が好ましい。一方で、基材層におけるレーザー光の透過率は、高い方が好ましい。当該透過率が高いことは、基材層における第二の層側へのレーザー光の反射および散乱が抑制されることから、より精細なレーザー印字を実現する観点から好ましい。このような観点から、基材層におけるレーザー光の透過率は、第一発明と同様に、50%以上であってよい。基材層における上記の光透過性は、一積層体において一様であってもよいし、エッチングをすべき部分に応じて異なっていてもよい。
【0151】
基材層の形状は、限定されない。基材層の厚さは、一定であってもよいし、一積層体において異なる厚さの部分があってもよい。基材層が可撓性を有することは、積層体の汎用性を高める観点から好ましい。このような観点から、基材層は樹脂製のフィルムであることが好ましい。当該フィルムの厚さは、限定されず、例えば、レーザー印字時に基材層への蓄熱による基材層の変形を生じさせない範囲、および、取り扱い性の観点において、適宜に決めることが可能である。このような観点から、当該フィルムの厚さは、例えば25~300μmであってよい。
【0152】
基材層の材料には、一般に高い透明性を有する材料を用いることができる。このような材料の例には、ガラス、エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂が含まれる。中でも、基材層がエステル系樹脂で構成されていることは、積層体の汎用性を高める観点および精細なレーザー印字を実現する観点から好ましい。
【0153】
当該エステル系樹脂は、レーザー印字時の熱による変形を抑制する観点から、芳香族エステル系樹脂であることが好ましい。芳香族エステル系樹脂は、透明樹脂であることが、レーザー光照射時の熱による変形を抑制する観点からより好ましい。
【0154】
芳香族エステル系樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが含まれる。中でも、前述の観点から、芳香族エステル系樹脂はポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。
【0155】
基材層は、第二の層などの隣接する層との密着性を高めるための処理が施されていてもよい。たとえば、芳香族エステル系樹脂製の基材層の場合に、当該基材層には、第二の層に対する密着性を高めるために、基材層の表面における第二の層が接する部分に、コロナ処理または易接着コートの形成などの、密着性を高めるための処理が施されてもよい。
【0156】
[他の層]
本実施形態に係る積層体は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した各層の間に介在する他の層をさらに有していてもよい。当該他の層の例には、第一の層と第二の層との間に配置され、第一の層の色相と第二の層の色相との間の他の色相を有する中間層が含まれる。当該中間層を第一の層および第二の層との間に有することは、第二の層に対する第一の層の隠蔽性を高める観点から好ましい。よって、上記中間層は、積層体におけるレーザー印字の所期のコントラストを実現し、あるいは積層体の所期の美観を実現する観点から好適である。
【0157】
また、上記の他の層の例には、第一の層と第二の層との間、あるいは、第二の層と基材層との間に配置され、隣接する両方の密着性を高めるための接着剤層が含まれる。当該接着剤層は、積層体における層間の密着性を高める観点から好適である。
【0158】
積層体は、所望の場所に固定するために、基材層における第一の層および第二の層の反対側に接着剤層をさらに有していてもよい。また、レーザー印字の外観のコントラストを十分に高める観点から、当該接着剤層は、第一の層の色相とは異なる色相を有していてもよい。この接着剤層の色相は、所望の色の顔料を当該接着剤層に分散させることで適宜に設定することが可能である。
【0159】
また、上記の他の層の例には、離型層が含まれる。離型層は、段落0052に記載した事項については第一発明と同様である。前述した第一発明と同様である。
【0160】
上記の他の層も、本実施形態における第一の層および第二の層と同様に、所望の物性を有する樹脂および必要に応じた顔料を有するインキの塗布および乾燥によって作製することが可能である。
【0161】
〔積層体の製造方法〕
本実施形態の積層体は、レーザー印字用の積層体を製造する公知の方法を利用して製造することが可能である。たとえば、本実施形態の積層体は、基材層に第二の層の材料を含有する第二のインキを塗布し、当該第二のインキの塗膜を作製する工程と、第二のインキの塗膜に第一の層の材料を含有する第一のインキを塗布し、当該第一のインキの塗膜を作製する工程と、を含む方法によって製造することができる。
【0162】
第二のインキは、第二の層で前述した樹脂組成物の材料の組成物である。たとえば、第二のインキは、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオール、ポリイソシアネートおよびカーボンブラックを前述した量で含有する液状の組成物である。第二のインキの塗膜は、第二のインキの層を乾燥させることで作製される。
【0163】
第一のインキは、第一の層で前述した材料の組成物である。第一のインキは、顔料以外は第二のインキの材料と同じであってもよい。たとえば、第一のインキは、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオール、ポリイソシアネートおよび酸化チタンを前述した量で含有する液状の組成物である。第一のインキの塗膜は、第一のインキの層を乾燥させることで作製される。
【0164】
第一のインキまたは第二のインキは、公知の技術を利用して塗布することが可能である。たとえば、上記のインキは、スクリーン印刷、グラビア印刷、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、コンマコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スプレー塗装、静電塗装または浸漬塗装によって塗布することが可能である。
【0165】
第一のインキの塗膜または第二のインキの塗膜は、公知の技術を利用して作製することが可能である。たとえば、上記の塗膜は、熱風による乾燥、または、オーブンまたはホットプレートなどの加熱装置による加熱、によってインキ層を乾燥させることにより作製することが可能である。
【0166】
上記の製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記製造方法は、第二のインキの層または塗膜および第一のインキの層または塗膜を養生する工程をさらに含んでもよい。
【0167】
上記のインキ層または塗膜を養生する工程は、インキ層および塗膜中において、アクリル樹脂およびポリカプロラクトンポリオールと、ポリイソシアネートとを結合するウレタン結合が生成するのに十分な温度の環境を、十分な時間形成すればよい。たとえば、養生する工程は、熱風による乾燥、および、オーブンまたはホットプレートなどの加熱装置による加熱、によって実施することが可能である。養生する工程を含む場合では、第一のインキを塗布する前の第二のインキの塗膜は、第一のインキを塗布可能な程度に乾燥させたものであればよい。また、養生する工程によって、第一のインキの塗膜と第二のインキの塗膜の両方を同時に作製することが可能となる。よって、積層体の製造における省力化の観点から好ましい。
【0168】
また、上記製造方法は、基材層の表面にインキの塗膜の密着性を高めるための処理を施す工程をさらに含んでもよい。当該処理は、例えば、前述したコロナ処理および易接着コートを作製する処理である。
【0169】
また、上記の製造方法は、基材層における第二の層の反対側に、接着剤層を介して離型層を配置する工程をさらに含んでもよい。当該接着剤層は、離型層の表面に作製してもよいし、基材層における第二の層の反対側の表面に作製してもよい。作製した接着剤層と基材層または離型層とを貼り合わせることによって、基材層における第二の層の反対側に、接着剤層を介して離型層が配置される。
【0170】
また、上記の製造方法において、離型層と基材層との間の接着剤層には、第一の層の色相とは異なる色相を有する接着剤層を用いてもよい。たとえば、粘着性を有する樹脂組成物と、黒色の顔料(例えばカーボンブラック)とを含有する塗工液を基材層または離型層に塗布して塗膜を作製することにより、第一の層の色相とは異なる上記接着剤層を作製することができる。
【0171】
[レーザー光]
レーザー印字において積層体に照射されるレーザー光は、段落0067および0068に記載した事項については、第一発明と同様である。
【0172】
〔作用〕
図2は、図1に示される積層体10がレーザー光でエッチングされた状態を模式的に示す図である。たとえば、第一の層11における所定の位置にレーザー光が照射されると、第一の層11はレーザー光を反射するとともに吸収するが、一部は透過する。よって、照射されたレーザー光の一部は、第二の層12に到達し、第二の層12に吸収される。このため、第二の層12は発熱し、第二の層12を構成するアクリル樹脂は、発生した熱により分解する。
【0173】
第二の層12におけるアクリル樹脂の分解に伴って第二の層12にガスが発生し、このガスの発生により、レーザー光が照射された部分において、第二の層12とその直上の第一の層11が吹き飛ばされる。こうして、図2に示されるように、レーザー光が照射されたごく狭い領域に開口する穴である印字部21が形成され、基材層13が露出する。第二の層12は、基材層13に対して適切な密着性を有することから、第二の層12におけるレーザー光が照射されたごく狭い領域のみが吹き飛び、その周囲はエッチングされない。したがって、精細なエッチングが実現される。
【0174】
このように、本実施形態の積層体は、第二の層がアクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する樹脂成分を含む。アクリル樹脂はレーザー光の照射によって熱分解し、その際に主鎖が破壊されるために灰分として残留しにくい。このため、精細なレーザー印字に好適である。また、第二の層がアクリル樹脂およびポリオール樹脂がポリイソシアネートと反応した構造を有する。このため、第二の層が隣接する層に対して適度な密着性を発現する。よって、レーザー光が照射された領域では第二の層を基材層から吹き飛ばす一方で、それ以外の領域では、基材層に対して第二の層の十分な密着性を発現させる。
【0175】
このように、レーザー光の照射によって適切に壊れやすいアクリル樹脂と、適度な密着性を発現させられる上記樹脂成分とを含むことから、精細なエッチングが実現される。また、本実施形態の積層体では、前述したメカニズムのエッチングが可能な程度、すなわちレーザー光の照射による熱によって十分に吹き飛ぶ程度の厚さで第二の層が配置されていればよい。このため、本実施形態の積層体では、従来のレーザー印字用積層体に対して、レーザー光に対する吸収性を有する第二の層の厚さをより薄くすることが可能となる。したがって、従来に比べて、レーザー印字時におけるレーザー光の照射によって第二の層に蓄えられる熱量が少なく、また第二の層から基材層へ伝播する熱量が少ない。よって、従来に比べて、基材層の熱による変形が抑制され、当該変形による印字のゆがみが生じないことから、レーザー印字によってより精細な印字が作製され得る。
【0176】
本実施形態の積層体は、前述したようにさらなる層を有していてもよい。図3は、本発明の他の実施形態に係る積層体1の層構成の一例を模式的に示す図である。積層体1は、第一の層31、第二の層32および基材層33以外に、上記の他の層として第三の層をさらに有する以外は、図1に示される積層体10と同様の構成を有している。第三の層は、例えば接着剤層34および離型層35であってよく、これらは、いずれも、公知の材料を用いて構成することが可能である。接着剤層34は、例えばアクリル系粘着剤を含有する液状組成物(塗工液)の塗膜で構成され得る。離型層35は、例えば離型紙であってよい。
【0177】
積層体1では、エッチングによって基材層33が露出すると、印字部からは、その下地に相当する接着剤層34の色相(例えば、黒)が確認される。したがって、レーザー光の走査によって形成した印字の視認性がより一層高められる。また、離型層35を剥がすことにより、このように視認性が高められた状態の印字を有する積層体1(ラベル)を、接着剤層34を介して所望の位置に貼り付けることが可能となる。
【0178】
〔まとめ〕
第二発明の実施形態の積層体は、レーザー印字用の積層体であって、レーザー光に対する遮蔽性を有する第一の層(11)と、前記レーザー光に対する吸収性を有する第二の層(12)と、光学的に透明な基材層(13)と、がこの順で重なっている。そして、第二の層は、樹脂とレーザー光に対する吸収性を有する顔料とを含有する樹脂組成物で構成され、当該樹脂は、アクリル樹脂、ポリカプロラクトンポリオールおよびポリイソシアネートの反応生成物の構造を有する樹脂成分を含んでいる。本実施形態の積層体は、上記の第二の層を有することから、レーザー印字によって精細な印字を作製することができる。
【0179】
本実施形態において、樹脂は、アクリル樹脂100質量部に対して40質量部以上200質量部以下のポリカプロラクトンポリオールの構成単位を含有してもよい。この構成は、第二の層の基材層への密着性を高める観点からより一層効果的である。
【0180】
また本実施形態において、ポリカプロラクトンポリオールの数平均分子量は1000以上4000以下であってもよい。この構成は、インキから第二の層を形成する際のインキを用いる作業の作業性を高める観点から、より一層効果的である。
【0181】
また、本実施形態において、ポリカプロラクトンポリオールの水酸基価は50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であってもよい。この構成は、第一の層と第二の層との密着性を高める観点からより一層効果的である。
【0182】
また、本実施形態において、アクリル樹脂のガラス転移温度は30℃以上100℃以下であってもよい。この構成は、インキによって第二の層を形成する場合のインキの取り扱い性および乾燥性を高める観点からより一層効果的である。
【0183】
また、本実施形態の第二の層において、顔料はカーボンブラックであり、樹脂組成物における顔料の含有量は、樹脂の総量に対して4質量%以上17質量%以下であってもよい。この構成は、精細なレーザー印字を実現する観点、および、第二の層の基材層に対する密着性を高める観点からより一層効果的である。
【0184】
また、本実施形態は、樹脂成分におけるイソシアネート基の当量は、アクリル樹脂およびポリカプロラクトンポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.5当量以上2.0当量以下であってもよい。この構成は、インキにより第二の層を形成する場合の第二の層の膨潤を抑制し、乾燥性を高める観点からより一層効果的である。
【0185】
また、本実施形態は、基材層がエステル系樹脂で構成されていてもよい。この構成は、積層体の汎用性を高める観点および精細なレーザー印字を実現する観点からより一層効果的である。
【0186】
また、本実施形態は、エステル系樹脂は芳香族エステル系樹脂であってよい。この構成は、レーザー光照射時の熱による基材層の変形を抑制する観点からより効果的である。さらに、本実施形態は、芳香族エステル系樹脂はポリエチレンテレフタレートであってよい。この構成は、上記の観点からより一層効果的である。
【0187】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0188】
{第一発明の実施例}
〔黒色インクの調製例1〕
下記成分を下記の量で混合し、固形分が30質量%となるように酢酸エチルで希釈して、黒色のインクK1を調製した。
ニカライトH4007K4 50.0質量部
プラクセル320 50.0質量部
タケネートD-131N 30.8質量部
CAB381-0.1 3.2質量部
顔料NX-591ブラック 36.6質量部
【0189】
「ニカライトH4007K4」は、日本カーバイド工業株式会社製のアクリル樹脂である。そのガラス転移温度は71℃であり、重量平均分子量は8000である。「ニカライト」は同社の登録商標である。
【0190】
「プラクセル320」は、株式会社ダイセル製のポリカプロラクトンポリオールである。その水酸基価は85mgKOH/gであり、数平均分子量は2000である。「プラクセル」は同社の登録商標である。
【0191】
「タケネートD-131N」は、三井化学株式会社製のイソシアネート架橋剤である。「タケネート」は同社の登録商標である。
【0192】
「CAB381-0.1」は、イーストマンケミカル社製のセルロースアセテートブチレートである。
【0193】
「NX-591ブラック」は、大日精化工業株式会社製の黒色カラーベースであり、そのカーボンブラック含有量は43.9質量%である。
【0194】
〔黒色インクの調製例2〕
「NX-591ブラック」の量を18.3質量部に変更した以外は黒色インクの調製例1と同様にして黒色のインクK2を調製した。
【0195】
〔黒色インクの調製例3〕
「NX-591ブラック」の量を73.2質量部に変更した以外は黒色インクの調製例1と同様にして黒色のインクK3を調製した。
【0196】
〔黒色インクの調製例4〕
下記成分を下記の量で混合して、アクリルベース液を調製した。
ニカライトH-4002 100質量部
ポリフローNo.85HF 2.0質量部
FZ-2110 0.16質量部
チヌビン327 2.05質量部
【0197】
「ニカライトH-4002」は、日本カーバイド工業株式会社製のアクリル樹脂であり、そのガラス転移温度は38℃であり、重量平均分子量は8000である。
【0198】
「ポリフローNo.85HF」は、共栄社化学株式会社製のアクリル系レベリング剤である。
【0199】
「FZ-2110」は、東レ・ダウコーニング株式会社製のシリコーン系消泡剤である。
【0200】
「チヌビン327」は、BASF社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である。「チヌビン」は同社の登録商標である。
【0201】
アクリルベース液100質量部に、下記成分を下記の量で混合して黒色のインクK4を調製した。
NX-591ブラック 21.7質量部
コロネートHK 25.7質量部
【0202】
「コロネートHK」は、東ソー株式会社製の無黄変ポリイソシアネートである。「コロネート」は同社の登録商標である。
【0203】
〔黒色インク(塗工液)の調製例5〕
下記の成分を下記の量で混合し、固形分が35質量%となるように酢酸エチルで希釈して、黒色の塗工液であるインクK5を調製した。なお、塗工液とは、着色顔料と接着剤とを含有するインクであり、接着性の着色層を形成するための液体材料である。
ニッセツKP-982 100.0質量部
コロネートL-45E 3.3質量部
NX-591ブラック 32.0質量部
【0204】
「ニッセツKP-982」は、日本カーバイド工業株式会社製のアクリル系粘着剤である。「ニッセツ」は同社の登録商標である。
【0205】
「コロネートL-45E」は、東ソー株式会社製のイソシアネート架橋剤である。
【0206】
〔白色インクの調製例1〕
下記成分を下記の量で混合し、固形分が30質量%となるように酢酸エチルで希釈して、白色のインクW1を調製した。
ニカライトH4007K4 80.0質量部
プラクセル305 20.0質量部
タケネートD-131N 46.5質量部
CAB381-0.1 3.7質量部
NBK-967ホワイト 82.1質量部
【0207】
「プラクセル305」は、株式会社ダイセル製のポリカプロラクトンポリオールであり、その水酸基価は305mgKOH/gであり、数平均分子量は500である。
【0208】
「NBK-967ホワイト」は、日弘ビックス株式会社製の酸化チタンを含有する白色カラーベースである。
【0209】
〔白色インクの調製例2〕
黒色インクの調製例4におけるアクリルベース液100質量部に、下記成分を下記の量で混合して白色のインクW2を調製した。
NX-501ホワイト 282質量部
コロネートHK 25質量部
【0210】
「NX-501ホワイト」は、大日精化工業株式会社製のアクリル系白色カラーベースであり、酸化チタンの含有量は58質量%である。
【0211】
〔白色インク(塗工液)の調製例3〕
32質量部のNX-591ブラックに代えて29質量部のNBK-967ホワイトを用いる以外は黒色インクの調製例5と同様にして、白色の塗工液であるインクW3を調製した。
【0212】
〔実施例1〕
厚み50μmのPETフィルムの両面易接着処理品である「コスモシャインA4300」(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン」は同社の登録商標)の一方の面にインクK1を、乾燥後の膜厚が1μmとなるように塗工し、150℃で1分間乾燥させてインクK1の塗膜を形成した。
【0213】
次いで、インクK1の塗膜の上にインクW1を、乾燥後の膜厚が15μmになるように塗工し、150℃で3分間乾燥させてインクW1の塗膜を形成した。次いで、インクK1、Bの塗膜を形成したPETフィルムを60℃で3日間養生し、PETフィルム、インクK1の塗膜およびインクW1の塗膜をこの順で有する塗装フィルム1-1を得た。
【0214】
次いで、剥離紙(リンテック株式会社製 EK-B)の表面にインクK5を、乾燥後の膜厚が20μmになるように塗工し、100℃で1分間乾燥させて、剥離紙上にインクK5の塗膜を形成した。次いで、インクK5の塗膜の上に塗装フィルム1-1を重ね、インクK5の塗膜とPETフィルムとを密着させた。こうして、図3に示されるような、第一の層31に相当するインクW1の塗膜、第二の層32に相当するインクK1の塗膜、基材層33に相当するPETフィルム、第三の層としての接着剤層34に相当するインクK5の塗膜、および離型層35に相当する離型紙、をこの順に有するレーザー印字用の積層体1-1を製造した。
【0215】
〔実施例2〕
インクK1を、乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、積層体1-2を製造した。
【0216】
〔実施例3〕
インクK1に代えてインクK2を用いる以外は実施例2と同様にして、積層体1-3を製造した。
【0217】
〔実施例4〕
インクK5を、乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工する以外は実施例2と同様にして、積層体1-4を製造した。
【0218】
〔実施例5〕
インクK5を、乾燥後の膜厚が2μmになるように塗工する以外は実施例2と同様にして、積層体1-5を製造した。
【0219】
〔参考例6〕
インクK5に代えてインクW3を用いる以外は実施例2と同様にして、積層体1-6を製造した。
【0220】
〔実施例7〕
インクK1を、乾燥後の膜厚が6μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、積層体1-7を製造した。
【0221】
〔実施例8〕
インクK1に代えてインクK3を用い、インクW1を、乾燥後の膜厚が8μmとなるように塗工する以外は実施例7と同様にして、積層体1-8を製造した。
【0222】
〔実施例9〕
インクK1を、乾燥後の膜厚が8μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、積層体1-9を製造した。
【0223】
〔実施例10〕
インクK1を、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、積層体1-10を製造した。
【0224】
〔実施例11〕
インクK1を、乾燥後の膜厚が15μmとなるように塗工した以外は実施例1と同様にして、積層体1-11を製造した。
【0225】
〔比較例1〕
PETフィルム(コスモシャインA4300)の両面に易接着処理を施した。次いで、当該PETフィルムにおける一方の表面にインクK4を、乾燥後の膜厚が30μmになるように塗工し、90℃で10分間乾燥して、PETフィルムの一方の表面上に黒色の層を形成した。
【0226】
次いで、PETフィルムの他方の表面にインクW2を、乾燥後の膜厚が30μmになるように塗工し、90℃で10分間乾燥して、PETフィルムの他方の表面上に白色の層を形成した。こうして、黒色の層、PETフィルムおよび白色の層をこの順で有する塗装フィルムを製造した。
【0227】
次いで、当該塗装フィルムにおける黒色の層の表面に下記組成を有する接着剤溶液を、乾燥後の膜厚が40μmになるように塗工し、90℃で5分間乾燥して、黒色の層上に接着層を形成した。「コロネートL」は、東ソー株式会社製におけるイソシアネート架橋剤である。
ニッセツKP-982 100.0質量部
コロネートL 2.4質量部
【0228】
次いで、接着層上に剥離紙を、離型性の表面を接着層に向けて重ねて密着させた。こうして、第一の層に相当する白色の層、基材層に相当するPETフィルム、第三の層に相当する黒色の層、接着層および剥離紙を有する積層体1-C1を製造した。
【0229】
〔比較例2〕
PETフィルムに代えて厚さ75μmの透明アクリルフィルム「アクリプレンHBL002」(三菱ケミカル株式会社製、「アクリプレン」は同社の登録商標)を用い、黒色の層および白色の層の膜厚をそれぞれ13μmに変更する以外は比較例1と同様にして積層体1-C2を製造した。
【0230】
〔比較例3〕
比較例1におけるPETフィルムの一方の表面にインクK4を、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗工し、90℃で10分間乾燥して、当該PETフィルムの一方の表面上に黒色の層を形成した。
【0231】
次いで、当該黒色の層の上にインクW2を、乾燥後の膜厚が30μmとなるように塗工し、90℃で10分間乾燥した。こうして、PETフィルム、黒色の層および白色の層をこの順で有する塗装フィルムを製造した。
【0232】
当該塗装フィルムにおけるPETフィルムの表面に、比較例1と同様に接着層を形成し、当該接着層に剥離紙を密着させた。こうして、第一の層に相当する白色の層、第二の層に相当する黒色の層、基材層に相当するPETフィルム、接着層および剥離紙をこの順で有する積層体1-C3を製造した。
【0233】
〔比較例4〕
PETフィルム「ルミラーX30」の一方の表面にインクW1を、乾燥後の膜厚が15μmになるように塗工し、150℃で3分間乾燥させた。「ルミラーX30」は、東レ株式会社製の黒色のPETフィルムである。「ルミラー」は同社の登録商標である。次いで、インクW1の塗膜を有する黒色のPETフィルムを60℃で3日間養生し、塗装フィルムを製造した。
【0234】
次いで、塗装フィルム1に代えて比較例4における塗装フィルムを用いる以外は実施例1と同様にしてインクK5の塗膜と剥離紙とを積層し、第一の層に相当するインクW1の塗膜、基材層に代わる黒色PETフィルム、第三の層に相当するインクK5の塗膜および剥離紙をこの順に有する積層体1-C4を製造した。
【0235】
〔評価〕
積層体1-1~1-11および1-C1~1-C4のそれぞれについて、下記の評価を行った。
【0236】
(1)短波長レーザー(Ybレーザー)に対する印字性
FAYbレーザーマーカーLP-Z130(パナソニック株式会社製)にて、出力20%、パルス周期50Hz、線幅0.07mm、1000mm/秒の条件で、積層体の第一の層にNd:YAGレーザー(以下、「短波長レーザー」とも言う)光を照射して、高さ3.5mm、幅2.0mmの文字「NIPPON CARBIDE INDUSTRIES CO.,INC.」および10mm角の二次元コードを印字した。その後、二次元コードリーダー(株式会社キーエンス製 製品名SR-H60W)を用いて、あるいは目視にて、印字した二次元コードを読み取り、当該積層体における短波長レーザー光に対する印字性を下記の基準にて評価した。「A」または「B」であれば実用上問題ないと言える。
A:二次元コードリーダーおよび目視のいずれによっても文字及び二次元コードの読み取りができた。また、印字した文字の端部がきれいだった。
B:二次元コードリーダーおよび目視のいずれによっても文字および二次元コードの読み取りができたが、印字した文字の端部が若干荒れていた。
C:文字を目視で読み取ることはできるが、二次元コードリーダーによる二次元コードの読み取りはできなかった。
D:二次元コードを二次元コードリーダーで読み取ることができず、また目視でも文字を読みとることが難しかった。
【0237】
(2)COレーザーに対する印字性
COレーザーマーカーML-Z9510(株式会社キーエンス製)にて、線幅0.07mm、出力85%、860mm/秒の条件で、積層体の第一の層にCOレーザー光を照射して、10mm角および6mm角の二種類の大きさの二次元コードを印字した。そして、印字した二次元コードについて、上記の二次元コードリーダーによる読み取りを行い、当該積層体におけるCOレーザー光に対する印字性を下記の基準にしたがって評価した。
A:10mm角および6mm角のいずれの大きさの二次元コードの、二次元コードリーダーで読み取ることができた。
B:10mm角の二次元コードは、二次元コードリーダーで読み取ることができたが、6mm角二次元コードは、二次元コードリーダーで読み取ることができなかった。
C:10mm角、6mm角のいずれの大きさの二次元コードも二次元コードリーダーで読み取ることができなかった。
【0238】
(3)密着性
積層体における第一の層の密着性を、JIS K5600-5-6に記載の方法に準拠し、評価した。すなわち、第一の層より下の層またはフィルムを切断しないように、第一の層に1mm間隔でタテヨコ11本の切れ込みを、第一の層の平面方向における直交する二方向のそれぞれに沿って形成した。こうして、積層体の第一の層に碁盤目状の切込みを形成した。
【0239】
次いで、碁盤目状の切込み部にニチバン株式会社製 セロテープ CT-24(24mm幅、「セロテープ」は同社の登録商標)を、スキージを使って空気が入らないよう貼付けた。そして、貼り付けたセロテープの表面を、スキージを使って10回、人力で強く擦った。
【0240】
次いで、セロテープを、碁盤目状の切込み部の平面方向に対して90°の方向(鉛直方向)に勢いよく剥がした。そして、碁盤目状の切込み部において第一の層が剥離したか否かを目視にて確認した。
【0241】
そして、第一の層の剥離が確認されなかった積層体については、上記の剥離試験の後に、前述のようにして第一の層に短波長レーザー光を照射し、10mm角の二次元コードを印字した。そして、当該二次元コード部にセロテープを貼り付けて、上記と同様の剥離試験(セロテープの貼付、押擦および剥離)を実施した。
【0242】
以上の剥離試験の結果を目視にて観察して、積層体における第一の層の密着性を下記の基準にしたがって評価した。「A」または「B」であれば実用上問題ないと言える。
A:碁盤目状の切込み部および二次元コード部のいずれにおいても第一の層の剥離が観察されず、かつ剥離試験後の二次元コードは二次元コードリーダーで読み取ることができた。
B:碁盤目状の切込み部での剥離試験では第一の層の剥離は観察されなかったが、二次元コード部での剥離試験では第一の層の若干の剥離が観察された。しかしながら、剥離試験後の二次元コード部は二次元コードリーダーで読み取ることができた。
C:碁盤目状の切込み部での剥離試験では第一の層の剥離は観察されなかったが、二次元コード部での剥離試験では第一の層の剥離が観察され、かつ剥離試験後の二次元コード部は二次元コードリーダーで読み取ることができなかった。
D:碁盤目状の切込み部の剥離試験で第一の層の剥離が確認された。
【0243】
積層体1-1~1-11および1-C1~1-C4の層構成および評価結果を表1に示す。
【0244】
【表1】
【0245】
〔考察〕
積層体1-1~1-11は、いずれも、短波長レーザー光およびCOレーザー光のいずれのレーザー光に対しても実用上問題のない十分な印字性を有している。また、積層体1-1~1-11は、いずれも、実用上問題のない十分な第一の層の密着性を有している。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、いずれの積層体も、第三の層、基材層としての透明なPETフィルム、第二の層および第一の層をこの順で有するため、と考えられる。また、いずれの積層体も、第二の層の膜厚が比較的薄いので、第一の層の膜厚精度が高くなり、第一の層の膜厚のばらつきに伴う印字不良が実質的に発生しなかったため、と考えられる。
【0246】
積層体1-C1~1-C4は、短波長レーザー光またはCOレーザー光に対する印字性が不十分である。また、積層体1-C1は、短波長レーザー光に対する印字性および密着性が不十分である。これは、短波長レーザー光では第一の層を十分にエッチングすることができないものの、樹脂成分が一部分解され、その際に発生したガスにより、基材層(透明PETフィルム)と第一の層の間に剥がれが生じるため、と考えられる。
【0247】
積層体1-C2は、短波長レーザー光に対する印字性が不十分である。これは、短波長レーザー光では、第一の層が十分に吹き飛ばすことができないため、と考えられる。
【0248】
積層体1-C3は、COレーザー光に対する印字性および密着性が不十分である。これは、第二の層が厚すぎるため、第一の層における膜厚精度が不十分となり、第一の層の膜厚のばらつきによる印字不良が生じたため、と考えられる。さらに、第二の層の膜厚が厚すぎたことで、エッチング時に第二の層により大きな熱エネルギーが発生し、基材層(PETフィルム)が変形したため、と考えられる。
【0249】
積層体1-C4は、短波長レーザー光およびCOレーザー光のいずれのレーザー光に対する印字性も不十分である。基材層に相当する黒色PETフィルムがレーザー光を照射することにより発生した熱で変形したため、と考えられる。
【0250】
{第二発明の実施例}
〔材料の準備〕
[アクリル樹脂]
アクリル樹脂1~3をそれぞれ用意した。アクリル樹脂1は、ニカライトH4007K4である。アクリル樹脂2は、ニッセツSY-7674である。アクリル樹脂3は、ニカライトH4002である。アクリル樹脂1~3は、いずれも日本カーバイド工業株式会社の製品であり、「ニカライト」および「ニッセツ」は、いずれも同社の登録商標である。アクリル樹脂1~3は、いずれも、アクリル系モノマーの共重合体である。
【0251】
アクリル樹脂1~3のそれぞれについて、モノマーユニットの組成、ガラス転移温度Tg、重量平均分子量Mwおよび固形分量を表2に示す。表2中、「EA」はエチルアクリレート、「MMA」はメチルメタクリレート、「nBMA」はn-ブチルメタクリレート、「BA」はブチルアクリレート、「2HEA」は2-ヒドロキシエチルアクリレート、「2HEMA」は2-ヒドロキシエチルメタクリレート、「AA」はアクリル酸、をそれぞれ表す。
【0252】
【表2】
【0253】
[ポリオール]
ポリオール1~6をそれぞれ用意した。ポリオール1は、プラクセル205である。ポリオール2は、プラクセル305である。ポリオール3は、プラクセル210である。ポリオール4は、プラクセル220である。ポリオール5は、プラクセルL320ALである。ポリオール6は、プラクセル320である。ポリオール1~6は、いずれも株式会社ダイセルの製品であり、「プラクセル」は同社の登録商標である。
【0254】
ポリオール1~6は、いずれもポリカプロラクトンポリオールである。また、ポリオール1~6の固形分量は、いずれも100質量%である。さらに、ポリオール1の融解温度Tmは10℃以下であり、ポリオール2のTmは20℃以下である。ポリオール1~6のそれぞれについて、水酸基数、水酸基価および数平均分子量Mnを表3に示す。
【0255】
【表3】
【0256】
[メラミン樹脂]
メラミン樹脂として、ニカラックMS-11を用意した。ニカラックMS-11は日本カーバイド工業株式会社の製品であり、「ニカラック」は同社の登録商標である。ニカラックMS-11は、メチル化メラミン樹脂の溶液であり、その固形分量は60質量%である。
【0257】
[ポリイソシアネート]
ポリイソシアネート1~6をそれぞれ用意した。ポリイソシアネート1は、デュラネートD-201である。ポリイソシアネート1は旭化成株式会社の製品であり、「デュラネート」は同社の登録商標である。ポリイソシアネート2は、タケネートD-120Nである。ポリイソシアネート3は、タケネートD-140Nである。ポリイソシアネート4は、タケネートD-131Nである。ポリイソシアネート5は、タケネートD-268である。ポリイソシアネート6は、タケネートD-204EA-1である。ポリイソシアネート2~6は、いずれも三井化学株式会社の製品であり、「タケネート」は同社の登録商標である。ポリイソシアネート1~6のそれぞれについて、イソシアネート基の量および固形分量を表4に示す。
【0258】
【表4】
【0259】
[レベリング剤]
レベリング剤として、ポリフローNo85HFを用意した。ポリフローNo.85HFは、共栄社化学株式会社製のアクリル樹脂系のレベリング剤である。その固形分量は70質量%である。
【0260】
[顔料]
顔料1~3をそれぞれ用意した。顔料1は、FPGS-5910ブラックである。顔料1は、大日精化工業株式会社の製品である。顔料2は、NBK-968ブラックである。顔料2は、日弘ビックス株式会社製の黒色カラーベースである。顔料3は、NBK-967ホワイトである。顔料3は、日弘ビックス株式会社製の白色カラーベースである。顔料1~3のそれぞれについて、主な成分の名称とその含有量、および、顔料中の固形分量を表5に示す。
【0261】
【表5】
【0262】
〔インキ、塗工液の調製〕
以下に、上記の各材料を用いるインキおよび塗工液の調製例を説明する。以下の調製例における材料の量は、各材料における固形分量である。
【0263】
[インキ1の調製]
50質量部のアクリル樹脂1と50質量部のポリオール6を混合した。アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。得られた混合液に、36.6質量部の顔料1を加えて、攪拌し、次いで30.8質量部のポリイソシアネート4を加えた。アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は7.5質量%である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。得られた混合液に、固形分量が30質量%になるように酢酸エチルを加えて攪拌した。こうしてインキ1を得た。
【0264】
[インキ2の調製]
アクリル樹脂1の量を50質量部から33.3質量部に変更し、50質量部のポリオール6に代えて33.3質量部のポリオール1と33.3質量部のポリオール6を用い、ポリイソシアネート4の量を48.9質量部に変更し、顔料1の量を41.7質量部に変更した以外は、インキ1の調製と同様にしてインキ2を得た。このときのポリオール全体の水酸基価は148.5mgKOH/gである。インキ2において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は200質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は7.5質量%である。
【0265】
[インキ3の調製]
アクリル樹脂1の量を50質量部から33.3質量部に変更し、50質量部のポリオール6に代えて33.3質量部のポリオール2と33.3質量部のポリオール4を用い、ポリイソシアネート4の量を57.5質量部に変更し、顔料1の量を44.1質量部に変更した以外は、インキ1の調製と同様にしてインキ3を得た。このときのポリオール全体の水酸基価は180.5mgKOH/gである。インキ3において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は200質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は7.5質量%である。
【0266】
[インキ4の調製]
アクリル樹脂1の量を50質量部から33.3質量部に変更し、50質量部のポリオール6に代えて33.3質量部のポリオール2と33.3質量部のポリオール3を用い、ポリイソシアネート4の量を65.0質量部に変更し、顔料1の量を46.4質量部に変更した以外は、インキ1の調製と同様にしてインキ4を得た。このときのポリオール全体の水酸基価は208.5mgKOH/gである。インキ4において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は200質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は7.5質量%である。
【0267】
[インキ5の調製]
アクリル樹脂1の量を50質量部から60質量部に変更し、ポリオール6の量を50質量部から40質量部に変更し、ポリイソシアネート4の量を30.2質量部に変更し、36.6質量部の顔料1に代えて18.1質量部の顔料2を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外は、インキ1の調製と同様にしてインキ5を得た。インキ5において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は67質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基やカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は14質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0268】
[インキ6の調製]
アクリル樹脂1の量を60質量部から70質量部に変更し、ポリオール6の量を40質量部から30質量部に変更し、ポリイソシアネート4の量を15.1質量部に変更した以外は、インキ5の調製と同様にしてインキ6を得た。インキ6において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は43質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.50当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は14質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0269】
[インキ7の調製]
ポリイソシアネート4の量を29.5質量部に変更し、顔料2の量を16.1質量部に変更する以外は、インキ6の調製と同様にしてインキ7を得た。インキ7において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は43質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は14質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0270】
[インキ8の調製]
36.6質量部の顔料1に代えて9.2質量部の顔料2を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外はインキ1の調製と同様にしてインキ8を得た。インキ8において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は7質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は4.2質量%である。
【0271】
[インキ9の調製]
50質量部のアクリル樹脂1に代えて50質量部のアクリル樹脂3を用い、ポリイソシアネート4の量を17.1質量部に変更し、36.6質量部の顔料1に代えて32.8質量部の顔料2を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外はインキ1の調製と同様にしてインキ9を得た。インキ9において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は16.8質量%である。
【0272】
[インキ10の調製]
50質量部のアクリル樹脂1に代えて50質量部のアクリル樹脂1と25質量部のアクリル樹脂2を用い、ポリオールの量を25.0質量部に変更し、30.8質量部のポリイソシアネート4に代えて24.2質量部のポリイソシアネート1と41.8質量部のポリイソシアネート3を用い、36.6質量部の顔料1に代えて47.3質量部の顔料2を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外はインキ1の調製と同様にしてインキ10を得た。インキ10において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は33質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して1.75当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は16.8質量%である。
【0273】
[インキ11の調製]
30.8質量部のポリイソシアネート4に代えて12.0質量部のポリイソシアネート5を用い、36.6質量部の顔料1に代えて22.4質量部の顔料2を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外はインキ1の調製と同様にしてインキ11を得た。インキ11において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は20質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は12.0質量%である。
【0274】
[インキ12の調製]
30.8質量部のポリイソシアネート4に代えて9.0質量部のポリイソシアネート3を用い、36.6質量部の顔料1に代えて16.1質量部の顔料2と46.0質量部の顔料3を用い、レベリング剤を2.8質量部加える以外はインキ1の調製と同様にしてインキ12を得た。インキ12において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料2の量の割合は14質量%であり、当該総量に対する顔料3の量の割合は16.1質量であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0275】
[インキ13の調製]
アクリル樹脂1の量を50質量部から80質量部に変更し、50質量部のポリオール6に代えて20質量部のポリオール2を用い、ポリイソシアネート4の量を30.8質量部から46.5質量部に変更し、顔料1の量を36.6質量部から41.0質量部に変更し、レベリング剤を2.8質量部加えた以外はインキ1の調製と同様にしてインキ13を得た。インキ13において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は25質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は28質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は7.5質量%である。
【0276】
[インキ14の調製]
ポリイソシアネートに代えて21.3質量部のメラミン樹脂を用い、顔料3を用いない以外はインキ12の調製と同様にしてインキ14を得た。インキ14において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は100質量部である。また、メラミン樹脂の量は、メラミン樹脂のメチロール基がアクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量となる量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は14質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0277】
[インキ15の調製]
アクリル樹脂1の量を100質量部に変更し、ポリオールを用いず、ポリイソシアネート4の量を27.6質量部に変更し、顔料1の量を35.7質量部に変更し、レベリング剤を2.8質量部加えた以外はインキ1の調製と同様にしてインキ15を得た。インキ15において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は0質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料2の量の割合は14質量%であり、当該総量に対するカーボンブラックの量の割合は8.4質量%である。
【0278】
[インキ16の調製]
レベリング剤を用いず、かつ41.0質量部の顔料1に代えて146.5質量部の顔料3を用いる以外はインキ13の調製と同様にしてインキ16を得た。インキ16において、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量は25質量部である。また、ポリイソシアネートの量は、ポリオールが有する水酸基に対して0.98当量である。また、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する顔料の量の割合は100質量%である。
【0279】
インキ1~8の組成を表6に、インキ9~16の組成を表7にそれぞれ示す。表中、「ポリオール比」は、アクリル樹脂の量を100質量部としたときのポリオールの量の割合を表す。「NCO当量比」は、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基の、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボキシル基に対する割合を表す。ただし、インキ14については、メラミン樹脂が有するメチロール基の、アクリル樹脂およびポリオールが有する水酸基およびカルボンキシル基に対する割合を表す。「黒顔料比」は、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する黒色顔料の量の割合を表す。「白顔料比」は、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対する白色顔料の量の割合を表す。「CB比」は、アクリル樹脂、ポリオールおよびポリイソシアネートの総量に対するカーボンブラックの量の割合を表す。ただし、表7のインキ16におけるCB比は、白顔料における酸化チタンの含有比率である。
【0280】
【表6】
【0281】
【表7】
【0282】
[塗工液の調製]
下記の成分を下記の量で混合し、固形分が35質量%となるように酢酸エチルで希釈して、黒色の塗工液を調製した。なお、塗工液とは、着色顔料と接着剤とを含有するインキであり、着色されている(黒色の)接着剤層を形成するための液体材料である。
ニッセツKP-982 100.0質量部
コロネートL-45E 3.3質量部
NX-591ブラック 32.0質量部
【0283】
「ニッセツKP-982」は、日本カーバイド工業株式会社製のアクリル系粘着剤である。「コロネートL-45E」は、東ソー株式会社製のイソシアネート架橋剤である。「NX-591ブラック」は、大日精化工業株式会社製の黒色カラーベースであり、そのカーボンブラックの含有量は43.9質量%である。
【0284】
〔実施例12〕
厚み50μmのPETフィルムの両面易接着処理品である「コスモシャインA4300」(東洋紡績株式会社製、「コスモシャイン」は同社の登録商標)の一方の面にインキ1を、乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工し、150℃で1分間乾燥させてインキ1の塗膜を形成した。
【0285】
次いで、インキ1の塗膜の上にインキ16を、乾燥後の膜厚が15μmになるように塗工し、150℃で3分間乾燥させてインキ16の塗膜を形成した。次いで、両塗膜を形成したPETフィルムを60℃で3日間養生し、PETフィルム、インキ1の塗膜およびインキ16の塗膜をこの順で有する塗装フィルム2-1を得た。
【0286】
一方で、剥離紙(リンテック株式会社製 EK-B)の表面に前述の塗工液を、乾燥後の膜厚が20μmになるように塗工し、100℃で1分間乾燥させて、剥離紙上に塗工液の塗膜を形成した。次いで、塗工液の塗膜を塗装フィルム2-1のPETの表面に貼り合わせた。こうして、図3に示されるような、剥離紙、塗工液の塗膜、PETフィルム、インキ1の塗膜およびインキ16の塗膜をこの順で有するレーザー印字用の積層体2-1を得た。
【0287】
〔実施例13~18、20~22、24、25〕
インキ1に代えてインキ2~7および9~13のそれぞれを用いる以外は積層体2-1と同様にして、積層体2-2~2-7、2-9~2-11、2-13および2-14のそれぞれを得た。
【0288】
〔実施例19〕
コスモシャインA4300の一方の面にインキ8を、乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工し、150℃で1分間乾燥させてインキ8の塗膜を形成した。次いで、インキ8の塗膜の上にインキ8をさらに、乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工し、40℃で3日間養生した。こうして、コスモシャインA4300の一方の面上にインキ8の塗膜を形成した。
【0289】
次いで、積層体2-1と同様にインキ8の塗膜の上にインキ16の塗膜を形成し、PETフィルム、インキ8の塗膜およびインキ16の塗膜をこの順で有する塗装フィルム2-8を得た。次いで、積層体2-1と同様にして、剥離紙、塗工液の塗膜、PETフィルム、インキ8の塗膜およびインキ16の塗膜をこの順で有するレーザー印字用の積層体2-8を得た。
【0290】
〔実施例23〕
厚み50μmのPETフィルム「PET S-50」(ユニチカ株式会社製)の両面にコロナ処理を施した。次いで、積層体2-11と同様にして塗装フィルム2-12を作製し、積層体2-12を得た。
【0291】
〔比較例5、6〕
インキ1に代えてインキ14を用いる以外は積層体2-1と同様にして、積層体2-C1を得た。また、インキ1に代えてインキ15を用いる以外は積層体2-1と同様にして、積層体2-C2を得た。
【0292】
〔評価〕
[印字性]
積層体2-1~2-14、2-C1および2-C2のそれぞれについて、ファイバーレーザーマーカーLP-Z130(パナソニック(株)製)にて、出力20%、パルス周期50μ秒、線幅0.07mm、1000mm/秒の条件で短波長レーザーをインキ16の塗膜側から積層体に照射した。こうして積層体に、5mm×5mmの大きさのアルファベットからなる文字列、および、10mm角を含む誤り訂正率30%の二次元コード、を印字して試験片を作製した。
【0293】
そして、試験片に印字されている文字および二次元コードを熟練の複数の技術者が目視で観察した。さらに、二次元コードリーダー(株式会社キーエンス製 製品名SR-H60W)を用いて、試験片に印字されている二次元コードの読み取り操作を実行した。そして、下記の基準に基づいて積層体の印字性を判定した。二次元コードを目視で認識可能であれば、実用上問題ないと言える。
S:印字された文字を視認でき、かつ二次元コードリーダーによって二次元コードを読み取ることができ、さらに印字した文字の端部がきれいであった。
A:印字された文字を視認でき、かつ二次元コードリーダーによって二次元コードを読み取ることができたが、文字の端部が若干荒れていた。
B:印字された文字および二次元コードを視認できるが、二次元コードリーダーによって二次元コードを読み取ることができなかった。
C:印字された文字を視認することが難しく、二次元コードを二次元コードリーダーで読み取ることができなかった。
【0294】
[密着性(耐テープ剥離性)]
積層体2-1~2-14、2-C1および2-C2のそれぞれについて、前述の試験片を作製した。次いで、試験片における二次元コードの部分に24mm幅のセロハンテープ「セロテープCT-24」(ニチバン株式会社製、「セロテープ」は同社の登録商標)をしっかり密着させた。次いで、試験片の平面方向に対して45°の角度で急速にセロハンテープを引張り、剥がした。セロハンテープを剥がした後の試験片における文字および二次元コードを、熟練の複数の技術者が目視で観察した。さらに、二次元コードリーダー(株式会社キーエンス製 製品名SR-H60W)を用いて、セロハンテープ剥離後の試験片に印字されている二次元コードの読み取り操作を実行した。そして、下記の基準に基づいて積層体の密着性を判定した。セロハンテープを剥離した後であっても二次元コード読み取り可能であれば、実用上問題ないと言える。
S:セロハンテープ側に剥がれた破片がなく、二次元コードを読み取ることができた。
A:セロハンテープ側に剥がれた破片がわずかにあるが、二次元コードの欠損はなく、二次元コードを読み取ることができた。
B:セロハンテープ側に剥がれた破片が付着し、印字部にわずかに欠損がみられるが、二次元コードを読み取ることができた。
C:塗膜がはがれ、二次元コードを読み取ることができなかった。
【0295】
[密着性(耐引っ掻き性)]
積層体2-1~2-14、2-C1および2-C2のそれぞれに対応するインキ1~15の塗膜を、これらの積層体に対応するPETフィルム上に形成した。そして、当該塗膜を形成した後に、複数の熟練技術者が自身の爪で引っ掻き、引っ掻いた後を観察した。そして、PETフィルムに対するインキ1~15の塗膜に対応する積層体について、下記の基準に基づいて第二の層の密着性を判定した。上記インキの塗膜側から基材が見えなければ実用上問題ないと言える。
S:引っ掻いたインキの塗膜に痕がつかない。
A:引っ掻いたインキの塗膜に痕は残るものの、インキの塗膜が剥がれない。
B:引っ掻いたインキの塗膜の一部が削れるものの、インキの塗膜側から基材は見えない。
C:引っ掻いたインキの塗膜が剥がれてしまい、インキの塗膜側から基材が見える。
【0296】
積層体2-1~2-14、2-C1および2-C2のそれぞれの主な層構成と上記の評価結果とを表8に示す。
【0297】
【表8】
【0298】
〔考察〕
表8に示されるように、積層体2-1~2-14は、いずれも、十分な印字性および密着性を有している。
【0299】
また、例えば積層体2-8および積層体2-9から、CB比が4~17質量%の範囲で実用上問題のない良好な積層体が得られることがわかる。
【0300】
また、例えば積層体2-6および積層体2-10から、NCO当量比が0.5~2.0の範囲で実用上問題のない良好な積層体が得られることがわかる。
【0301】
また、例えば積層体2-1および積層体2-9から、アクリル酸のTgが高いと密着性も高まる傾向がみられる。これは、アクリル酸のTgが高い方が、第二の層のインキの乾燥性が良好なため、と考えられる。
【0302】
一方、積層体2-C1および2-C2は、いずれも、印字性については十分なものの、積層体2-1~2-14に比べて悪い。また、積層体2-C1および2-C2は、いずれも、密着性が不十分である。
【0303】
積層体2-C1は、密着性のうち、耐テープ剥離性が不十分である。これは、第一の層および第二の層のそれぞれにおいて十分な架橋構造が形成され、第一の層および第二の層の強度、ならびに、第一の層と第二の層との密着性、は十分であるが、第二の層の基材層に対する密着性が不十分であるため、と考えられる。
【0304】
積層体2-C2は、密着性のいずれもが不十分である。これは、第一の層および第二の層のそれぞれにおける架橋構造の構築が不十分であり、第一の層および第二の層の強度、ならびに、第二の層の基材層に対する密着性、のいずれもが不十分であるため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0305】
本発明は、工業製品における製品情報(製造番号、ロット番号など)の表示に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0306】
1、10、100 積層体
11、31 第一の層
12、32 第二の層
13、33 基材層
20 ラベル
21 印字部
30 穴
34 接着剤層
35 剥離層
51 白色層
52 PETフィルム
53 黒色層
54 透明粘着層
55 剥離紙
B レーザー光の照射方向および照射位置を示す矢印
図1
図2
図3
図4