(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】ADHタンパク質ファミリー変異体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20230904BHJP
C07K 14/395 20060101ALI20230904BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230904BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20230904BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230904BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C07K14/395
C12N1/19
C12N9/04 Z
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2020566962
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 CN2019088833
(87)【国際公開番号】W WO2019228353
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】201810554584.5
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520037016
【氏名又は名称】康碼(上海)生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】KANGMA-HEALTHCODE (SHANGHAI) BIOTECH CO., LTD
【住所又は居所原語表記】BUILDING 12, 118 FURONGHUA ROAD, PUDONG NEW AREA, SHANGHAI 201321,PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グオ、ミン
(72)【発明者】
【氏名】デン、ミニ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、シュエ
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-146236(JP,A)
【文献】特開平11-285390(JP,A)
【文献】Definition: alcohol dehydrogenase[Kluyveromyces marxianus],Database GenBank[online],2019年12月16日,〈https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/QGN16380.1〉,Accession No.QGN16380
【文献】LeBrun, LA et al.,Participation of histidine-51 in catalysis by horse liver alcohol dehydrogenase,Biochemistry,43,2004年,pp.3014-3026
【文献】Jornvall, H et al.,Human liver alcohol dehydrogenase: amino acid substitution in the beta 2 beta 2 Oriental isozyme explains functional properties, establishes an active site structure, and parallels mutational exchanges in the yeast enzyme.,Proc Natl Acad Sci USA,81,1984年05月,pp.3024-3028
【文献】Ehrig, T et al.,General base catalysis in a glutamine for histidine mutant at position 51 of human liver alcohol dehydrogenase,Biochemistry,30,1991年,pp.1062-1068
【文献】Chen, Y et al.,Optimized expression in Pichia pastoris eliminates common protein contaminants from subsequent His-tag purification,Biotechnol Lett.,36,2014年04月,pp.711-718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/53
C07K 14/395
C12N 1/19
C12N 9/04
C12N 15/63
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質であって、前記変異タンパク質が非天然タンパク質であり、前記変異タンパク質が野生型
Kluyveromyces lactisのADH1タンパク質に基づいて、47、51、124およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、または、野生型Kluyveromyces lactisのADH2タンパク質に基づいて、45、49、122およびそれらの組み合わせから選択される、または野生型Kluyveromyces lactisのADH3タンパク質に基づいて、71、75、148およびそれらの組み合わせから選択される、または野生型Kluyveromyces lactisのADH4タンパク質に基づいて、72、76、149およびそれらの組み合わせから選択される、1以上の部位で置換および/または欠失を有し、ここにおいて、当該変異タンパク質は、ADH活性を有し、野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、当該変異タンパク質は、Ni媒体に対する結合能が低下されている、ADH変異タンパク質。
【請求項2】
前記変異を受けたヒスチジンが、塩基性アミノ酸へ独立に変異されることができる、請求項
1に記載の変異タンパク質。
【請求項3】
前記変異を受けたヒスチジンが、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ独立に変異されることができる、請求項2に記載の変異タンパク質。
【請求項4】
前記ADH変異タンパク質のアミノ酸配列が、以下の群:
(a)そのアミノ酸配列が配列番号:2~13の任意の1つであるポリペプチド;
(b)配列番号:2~13に示されているアミノ酸配列を有するポリペプチドの1つに由来し、ADH活性
を有し、野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、前記変異タンパクのNi媒体への低下させた結合能力を有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、配列番号:2~13に示されているアミノ酸配列の任意の1つ中の1または数個のアミノ酸残基、1~20アミノ酸残基、1~15アミノ酸残基、1~10アミノ酸残基、1~8アミノ酸残基、1~3アミノ酸残基、または1アミノ酸残基の置換、欠
失によって形成されている、;
(c)配列番号:2~13に示されている配列の任意の1つと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列相同性を有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、ADH活性
を有し、野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、前記変異タンパク質のNi媒体への低下させた結合能
力を有する;
(d)配列番号:1、26、27または28に示されている配列と少なくとも90%、95%、98%または99%の相同性を有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、ADH活性
を有し、野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、前記変異タンパク質のNi媒体への低下させた結合能
力を有する;
から選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の変異タンパク質。
【請求項5】
ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドが請求項1~4のいずれか一項に記載の変異タンパク質をコードし、または請求項1~4のいずれか一項に記載の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドに相補的である、ポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項
5に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項7】
内因性ADHタンパク質をコードする遺伝子が請求項1~4のいずれか一項に記載の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドに変異されており、
前記内因性ADHタンパク質は、Ni媒体に親和性を有し、
前記変異タンパク質は、ADH活性
を有し、野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、低下したNi媒体への結合能力を有し、
Kluyveromycesに由来する、遺伝子改変された株。
【請求項8】
請求項
7に記載された遺伝子改変された株の細胞溶解物。
【請求項9】
請求項
8に記載された細胞溶解物を含む、インビトロタンパク質合成系。
【請求項10】
当該インビトロタンパク質合成系が無細胞系である、請求項
9に記載のインビトロタンパク質合成系。
【請求項11】
当該インビトロタンパク質合成系が無細胞転写及び翻訳系である、請求項
9に記載のインビトロタンパク質合成系。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載のADH変異タンパク質を含む酵素調製物。
【請求項13】
請求項
7に記載の遺伝子改変された株を製造する方法。
【請求項14】
野生型Kluyveromyces lactisのADHに比較して、精製にNi媒体を用いたとき、改善された発現タンパク質の生成物純度を提供する、請求項
7に記載の遺伝子改変された株、又は請求項
8に記載の細胞溶解物、又はタンパク質合成に適用可能な請求項
9に記載のインビトロタンパク質合成系の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野に関し、より具体的には、ADHタンパク質ファミリー変異体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の分離および精製は、標的タンパク質の一端にポリタグを融合することによって、または標的タンパク質の特異的な特徴を介して、および他の物質を分離するためのクロマトグラフィー法を使用することによって、混合物、抽出物、細胞溶解液、反応生成物などから標的タンパク質が精製される過程を表す。アフィニティークロマトグラフィーは、親和性を有する2つの分子のうちの一方が不溶性マトリックス上に固定されており、2つの分子間の親和性の特異性および可逆性に基づいて、他方の分子が分離および精製される方法を表す。アフィニティークロマトグラフィーのために使用される一般的なポリタグとしては、主に、ヒスチジン(Histidine、His)、グルタチオンS転移酵素(Glutathione S-transferase、GST)、マルトース結合タンパク質(Maltose Binding Protein、MBP)などが挙げられる。固定化金属キレートアフィニティークロマトグラフィー(immobilized metal-chelating affinity chromatography、IMAC)の原理は、タンパク質表面上のアミノ酸残基が金属イオンと異なる親和性を形成することができるという事実に主に基づいており、親和性は、静電的引力、共有結合および配位結合による結合という3つの種類に分類することができる。タンパク質表面がヒスチジン、システインまたはトリプトファンを含有する場合、対応するイミダゾリル基、チオール基またはインドリル基が金属イオンと配位結合を形成することができる。この方法は、便利な発現、低コスト、標的タンパク質に対する小さな影響およびその他の利点のために、一般的に使用されるタンパク質精製ツールとなった。
【0003】
しかしながら、実際の応用過程には、この精製方法もある種の問題を有する。Ni-NTA樹脂を例にとると、いくつかの非標的タンパク質もその三次元構造の表面上にいくつかの不連続なヒスチジン残基を有し、このため非標的タンパク質もある程度Ni-NTA樹脂に結合し、これにより、最終的な標的タンパク質の純度を妨げる。
【0004】
したがって、非標的タンパク質のヒスチジン残基を改造して、ヒスチジン残基がNi-NTA樹脂などのNiイオンアフィニティー媒体に結合できないようにし、標的タンパク質の純度を改善する効果を達成するための方法を発明する差し迫った必要性本分野において存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、非標的タンパク質のヒスチジン残基を改造して、ヒスチジン残基がNi-NTA樹脂などのNiイオンアフィニティー媒体に結合できないようにし、標的タンパク質の純度を増加させるための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様によれば、本発明は、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を提供する。変異タンパク質は非天然タンパク質であり、変異タンパク質は、野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)のアミノ酸45~149のうち少なくとも一つのヒスチジン(H)の変異を有する。
【0007】
別の好ましい実施形態において、変異は、野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の67、69、93および/または94位のヒスチジン(H)を含まない。
【0008】
別の好ましい実施形態において、野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)と比較して、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質のNi媒体への結合能力は、10%、好ましくは25%、より好ましくは50%、より好ましくは80%、最も好ましくは100%低下される。
【0009】
別の好ましい実施形態において、ヒスチジンは、独立に、塩基性アミノ酸へ変異させることができる。
【0010】
別の好ましい実施形態において、ヒスチジンの独立した変異の種類は同じであることができ、または異なることができる。
【0011】
別の好ましい実施形態において、ヒスチジンは、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ独立に変異させることができる。
【0012】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、K.lactisに由来する。
【0013】
別の好ましい実施形態において、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)は、ADH1、ADH2、ADH3および/またはADH4タンパク質を含む。
【0014】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:1に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH1)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
47位のヒスチジン(H);
51位のヒスチジン(H);および
124位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0015】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:26に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
45位のヒスチジン(H);
49位のヒスチジン(H);および
122位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0016】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:27に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH3)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
71位のヒスチジン(H);
75位のヒスチジン(H);および
148位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0017】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:28に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH4)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
72位のヒスチジン(H);
76位のヒスチジン(H);および
149位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0018】
別の好ましい実施形態において、47位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)、アスパラギン(N)および/またはアルギニン(R)、より好ましくはリジン(K)およびアスパラギン(N)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0019】
別の好ましい実施形態において、51位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)および/またはアルギニン(R)、より好ましくはアルギニン(R)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0020】
別の好ましい実施形態において、124位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0021】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:1に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
47位のヒスチジン(H);および
124位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0022】
別の好ましい実施形態において、45位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0023】
別の好ましい実施形態において、49位のヒスチジン(H)は、リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0024】
別の好ましい実施形態において、122位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0025】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:26に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
122位のヒスチジン(H);および
45位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0026】
別の好ましい実施形態において、71位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0027】
別の好ましい実施形態において、75位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0028】
別の好ましい実施形態において、148位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0029】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:27に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
148位のヒスチジン(H);および
71位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0030】
別の好ましい実施形態において、72位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0031】
別の好ましい実施形態において、76位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0032】
別の好ましい実施形態において、149位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0033】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:28に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
149位のヒスチジン(H);および
72位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0034】
別の好ましい実施形態において、変異は、以下の群:H47K;H47N;H47Q;H47R;H51K;H51R;H124K;H124R;H47KおよびH124K;H47NおよびH124K;H47QおよびH124K;H47RおよびH124Kから選択される。
【0035】
別の好ましい実施形態において、変異は、以下の群:H47K;H47N;H51R;H124R;H47KおよびH124K;H47NおよびH124Kから選択される。
【0036】
別の好ましい実施形態において、変異は、以下の群:H122K;H122R;H45K;H45R;H45N;H45Q;H49K;H49R;H122KおよびH45K;H122KおよびH45R;H122KおよびH45N;H122KおよびH45Qから選択される。
【0037】
別の好ましい実施形態において、変異は、以下の群:H148K;H148R;H71K;H71R;H71N;H71Q;H75K;H75R;H148KおよびH71K;H148KおよびH71R;H148KおよびH71N;H148KおよびH71Qから選択される。
【0038】
別の好ましい実施形態において、変異は、以下の群:H149K;H149R;H72K;H72R;H72N;H72Q;H76K;H76R;H149KおよびH72K;H149KおよびH72R;H149KおよびH72N;H149KおよびH72Qから選択される。
【0039】
別の好ましい実施形態において、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質のアミノ酸配列は、以下の群から選択される。
【0040】
(1)そのアミノ酸配列が配列番号:2~13のいずれか1つであるポリペプチド。
【0041】
(2)配列番号:2~13に示されているアミノ酸配列のポリペプチドに由来し、(1)に記載されているポリペプチドの機能を有するポリペプチドであって、ポリペプチドが、配列番号:2~13のいずれか1つに示されているアミノ酸配列中の1またはいくつかの(好ましくは1~20、より好ましくは1~15、より好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~3、最も好ましくは1つの)アミノ酸残基の置換、欠失または付加によって形成されている。
【0042】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号:2~13のいずれか1つである。
【0043】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号:2~13と少なくとも70%の(好ましくは75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%の)配列同一性を有する。
【0044】
別の好ましい実施形態において、変異(例えば、47、51および/または124位)を除き、変異タンパク質の残りのアミノ酸配列は、配列番号:1に示されている配列と同一または実質的に同一である。
【0045】
別の好ましい実施形態において、変異(例えば、45、49および/または122位)を除き、変異タンパク質の残りのアミノ酸配列は、配列番号:26に示されている配列と同一または実質的に同一である。
【0046】
別の好ましい実施形態において、変異(例えば、71、75および/または148位)を除き、変異タンパク質の残りのアミノ酸配列は、配列番号:27に示されている配列と同一または実質的に同一である。
【0047】
別の好ましい実施形態において、変異(例えば、72、76および/または149位)を除き、変異タンパク質の残りのアミノ酸配列は、配列番号:28に示されている配列と同一または実質的に同一である。
【0048】
別の好ましい実施形態において、「残りのアミノ酸配列が実質的に同一である」は、最大50(好ましくは1~20、より好ましくは1~10、より好ましくは1~5の)アミノ酸が異なり、相違が、アミノ酸の置換、欠失または付加を含み、変異タンパク質が、なお、(i)インビトロ無細胞合成系で外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができ;ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができることを表す。
【0049】
別の好ましい実施形態において、配列番号:1、26、27または28に示されている配列との相同性は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%または90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%または99%である。
【0050】
第二の態様によれば、本発明は、ポリヌクレオチドを提供し、該ポリヌクレオチドは、本発明の第一の態様の変異タンパク質をコードする。
【0051】
別の好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは、以下の群:
(a)配列番号:2~13のいずれか1つに示されているポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(b)その配列が配列番号:14~25のいずれか1つであるポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2~13のいずれか1つに示されているポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;野生型ADH1タンパク質のヌクレオチド配列に示されている配列に対する、該ポリヌクレオチドの配列の相同性は95%以上(好ましくは、98%以上)である;
(d)(a)~(c)に記載されているポリヌクレオチドのいずれかに相補的なポリヌクレオチド;
から選択される。
【0052】
別の好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは、変異タンパク質のORFの側面に付属エレメントをさらに含有し、付属エレメントは、以下の群:シグナルペプチド、分泌性ペプチド、タグ配列(6Hisなど)およびこれらの組み合わせから選択される。
【0053】
別の好ましい実施形態において、ポリヌクレオチドは、以下の群:DNA配列、RNA配列およびこれらの組み合わせから選択される。
【0054】
第三の態様によれば、本発明は、ベクターを提供し、該ベクターは本発明の第二の態様のポリヌクレオチドを含有する。
【0055】
別の好ましい実施形態において、ベクターは、1またはそれより多くのプロモーターを含み、プロモーターは、核酸配列、エンハンサー、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列、複製起点、選択的マーカー、核酸制限部位および/または相同組換え部位に機能的に連結されている。
【0056】
別の好ましい実施形態において、ベクターには、プラスミドおよびウイルスベクターが含まれる。
【0057】
別の好ましい実施形態において、ウイルスベクターは、以下の群:アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、SV40、ポックスウイルスおよびこれらの組み合わせから選択される。
【0058】
別の好ましい実施形態において、ベクターには、発現ベクター、シャトルベクターおよび組込みベクターが含まれる。
【0059】
第四の態様によれば、本発明は宿主細胞を提供し、宿主細胞は本発明の第三の態様に係るベクターを含有し、または宿主細胞はそのゲノム中に組み込まれた本発明の第二の態様に係るポリヌクレオチドを有する。
【0060】
別の好ましい実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、植物細胞または哺乳動物細胞(ヒト細胞よび非ヒト哺乳動物細胞を含む)などの真核生物細胞である。
【0061】
別の好ましい実施形態において、宿主細胞は、E.coliなどの原核生物細胞である。
【0062】
別の好ましい実施形態において、酵母細胞は、以下の群:Pichia pastoris、Kluyveromycesおよびこれらの組み合わせから得られる1またはそれより多くの酵母から選択され、好ましくは酵母細胞はKluyveromyces、より好ましくは、Kluyveromyces marxianusおよび/またはKluyveromyces lactisを含む。
【0063】
別の好ましい実施形態において、宿主細胞は、以下の群:E.coli、コムギ麦芽細胞、昆虫細胞、SF9細胞、Hela細胞、HEK293細胞、CHO細胞、酵母細胞およびこれらの組み合わせから選択される。
【0064】
第五の態様によれば、本発明は、本発明の第一の態様のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を製造するための方法であって、
本発明の第四の態様に係る宿主細胞が、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を発現させるために発現に適した条件下で培養される工程と;および/または
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質が単離される工程と
を含む方法を提供する。
【0065】
第六の態様によれば、本発明は、酵素調製物を提供し、該酵素調製物は、本発明の第一の態様に係るアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を含む。
【0066】
別の好ましい実施形態において、酵素調製物には、注射調製物および/または凍結乾燥調製物が含まれる。
【0067】
第七の態様によれば、本発明は、本発明の第一の態様に係る変異タンパク質の使用であって、(i)インビトロ無細胞合成系中での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができる;および/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができる酵素調製物を調製するために、変異タンパク質が使用される使用を提供する。
【0068】
別の好ましい実施形態において、Niは、以下の群:ニッケル元素、ニッケルイオン、遊離のニッケルイオン、ニッケルが結合されているクロマトグラフィー媒体、Ni+2
、Niビーズ、Ni-NTAおよびこれらの組み合わせから選択される。
【0069】
第八の態様によれば、本発明は、遺伝子改変された株が提供され、ここで内因性ADHタンパク質をコードする遺伝子は本発明の第一の態様に従う変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドに変異され、内因性ADHタンパク質はNi媒体に親和性を有し、変異タンパク質はADH活性及びNi媒体への低下した結合能力を有する。
いくつかの好ましい実施形態において、遺伝子改変された株は酵母に由来する。
いくつかの好ましい実施形態において、遺伝子改変された株はKluyveromycesに由来する。
いくつかの好ましい実施形態において、遺伝子改変された株はKluyveromyces lactisに由来する。
第九の態様によれば、本発明は、本発明の第八の態様に従う遺伝子改変された株の細胞溶解物を提供する。
第十の態様によれば、本発明は、本発明の第九の態様に従う細胞溶解物を含むインビトロタンパク質合成系を提供する。
いくつかの好ましい実施形態において、インビトロタンパク質合成系は、無細胞系である。
いくつかの好ましい実施形態において、インビトロタンパク質合成系は、無細胞転写及び翻訳系である。
第十一の態様によれば、本発明は、本発明の第一の態様に従うADH変異タンパク質を含む酵素調製物を提供する。
第十二の態様によれば、本発明は、本発明の第八の態様に従う遺伝子改変された株を製造する方法を提供する。
第十三の態様によれば、本発明は、本発明の第八の態様に従う遺伝子改変された株、又は本発明の第九の態様に従う細胞溶解物、又はタンパク質合成に適用可能な本発明の第十の態様に従うインビトロタンパク質合成系の使用を提供し、精製にNi媒体を用いたとき、改善された発現タンパク質の生成物純度が提供される。
本発明の範囲内において、上記技術的特徴および本明細書の以下に具体的に記載されている技術的特徴(例えば、実施形態または実施例)は互いに組み合わせることができ、これにより、新たなまたは好ましい技術的解決策を形成することが理解されるべきである。簡潔にするために、詳細は本明細書では繰り返されない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【
図1】
図1は、K.lactisゲノム中のADH1
遺伝子を改造してNi媒体へのその結合を除去するための設計経路を示す。
【
図2】
図2は、K
lADHファミリータンパク質ADH1~4の配列相同性比較を示す。黒い領域は、配列が高い相同性を有することを表す。
【
図3】
図3は、KlADH1とScADH1の間の配列相同性比較を示し、2つの間の配列相同性は84.9%である。
【
図4】
図4は、2HCYをテンプレートとして用いるKlADH4の相同性モデリングを示す。2HCYおよびKlADH4はいずれも四量体であり、各単量体の6His集合領域は、それぞれ、枠によって表されている。
【
図5】
図5は、ScADH1四量体の構造図を示す。2つのサブユニットAおよびBは、NADH/NAD+結合ドメインを通じて二量体を形成し、2つのAB二量体は「背中合わせ」の四量体を形成する。
【
図6】
図6は、ScADH1中のH66周囲のアミノ酸構造の図を示す。H66は、ADH1の2つの立体構造において、触媒性Zn2+をキレートすることに関与している。
図AはNADが結合されている閉じた立体構造を示し、
図BはNADが結合されていない開いた立体構造を示す。
【
図7】
図7は、ScADH1中のH48周囲のアミノ酸構造の図を示す。H48は、三元複合体の形成に関与しており、基質のプロトン移動過程に影響を与える。
【
図8】
図8は、ScADH1中のH44周囲のアミノ酸構造の図を示す。H44のイミダゾール環上のND1は、NAD+/NADHの結合に関与する可能性がある。
【
図9】
図9は、pKMCas9_StR_KlADH1のプラスミドプロファイルを示す。該プラススミドは、tRNA-Tyrプロモーター、SNR52ターミネーターおよびkana選択マーカーを有する。
【
図10】
図10は、pKMD1-ΔKlADH1のプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図11】
図11は、pKMD1-KlADH1-H47Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図12】
図12は、pKMD1-KlADH1-H47Nのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図13】
図13は、pKMD1-KlADH1-H47Qのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図14】
図14は、pKMD1-KlADH1-H47Rのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図15】
図15は、pKMD1-KlADH1-H51Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図16】
図16は、pKMD1-KlADH1-H51Rのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図17】
図17は、pKMD1-KlADH1-H124Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図18】
図18は、pKMD1-KlADH1-H124Rのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図19】
図19は、pKMD1-KlADH1-H47KH124Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図20】
図20は、pKMD1-KlADH1-H47NH124Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図21】
図21は、pKMD1-KlADH1-H47QH124Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図22】
図22は、pKMD1-KlADH1-H47RH124Kのプラスミドプロファイルを示す。相同性アーム1および相同性アーム2は、それぞれ、KlADH1遺伝子のORFの約800bp上流および下流に位置する遺伝子配列であり、プラスミドはAmp選択マーカーを有する。
【
図23】
図23は、Ni-NTAによる精製のポリアクリルアミドゲル分析を示す。図に示されているように、KlADH1遺伝子のノックアウトおよび異なる位置でのHis変異は、Ni-NTAへのKlADH1の親和性を著しく低下させることができる。標的バンドのサイズは約37KDであり、バンドは、左から右へ、それぞれ、マーカー、K.lactis野生型細胞株WT、KlADH1がノックアウトされている細胞株ΔADH1、KlADH1の単一変異を有する細胞株H47K、H47N、H47R、H51K、H124K、H124KH47KおよびH124KH47Nを表す。
【
図24】
図24は、野生型細胞株WT、KlADH1がノックアウトされている細胞株ΔADH1およびKlADH1の単一変異を有する細胞株H47Kの無細胞転写-翻訳活性の分析を示す。図に示されているように、バンドは、それぞれ、左から右に、ΔADH1、KlADH1 H47K、K.lactis野生型細胞株WTおよび陰性対照を表す。
【
図25】
図25は、野生型細胞株WTおよびKlADH1の単一変異を有する細胞株H47K(Mut)の無細胞転写-翻訳によって調製された標的タンパク質の精製分析を示す。図に示されているように、バンドは、それぞれ、左から右に、KlADH1の単一変異を有する細胞株H47K(Mut)およびK.lactis野生型細胞株WTを表す。
図Aは、外来性標的タンパク質を添加しない、KlADH1とNi-NTA間の親和性分析を示す。
図Bは、KlADH1の単一変異を有する細胞株H47Kの無細胞転写-翻訳系に標的タンパク質N-His8-eGFPが添加されたときの、eGFPの精製分析を示す。
図Cは、KlADH1の単一変異を有する細胞株H47Kの無細胞転写-翻訳系に標的タンパク質N-His8-Strep-eGFPが添加されたときの、Strep-eGFPの精製分析を示す。
【
図26】
図26は、それぞれ、KlADH1遺伝子のノックアウトおよびKlADH1遺伝子に対する部位特異的変異によって、標的タンパク質の純度および特異性を改善するための、KlADH1のNi媒体への結合能の除去を要約する。
【発明を実施するための形態】
【0071】
大規模で徹底的な研究の後、本発明者らは、予想外のことに、ADHファミリータンパク質変異体を得た。野生型ADHファミリータンパク質と比べて、本発明のADHファミリータンパク質変異体は、著しく、(i)インビトロ無細胞合成系での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができ、ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができる。これを基礎にして、本発明者らは本発明を完成した。
用語
本開示の理解を容易にするために、まず、ある種の用語を定義する。本願において使用される場合、本明細書中に別段の明記がなければ、以下の用語の各々は、以下に与えられた意味を有するものとする。その他の定義は、本願全体を通じて記載されている。
【0072】
「約」という用語は、当業者によって決定される特定の値または組成の許容され得る誤差範囲内の値または組成を表し得、誤差範囲は、一部に、値または組成物がどのように測定または決定されるかに依存するであろう。例えば、本明細書において使用される場合、「約100」という表現は、99~101の間の全ての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0073】
本明細書において使用される場合、「含有する(contain)」または「含む(include)」という用語は、非限定的、半限定的または限定的であると理解することができる。換言すれば、これらの用語には、「実質的に~からなる(consist substantially of)」または「からなる(consist of)」も含まれる。
【0074】
配列同一性(または相同性)は、(参照ヌクレオチド配列またはタンパク質の長さの50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%であり得る)所定の比較ウィンドウに沿って、2つの並置された配列を比較し、同じ残基が出現する位置の数を決定することによって決定される。通常、これは、百分率として表される。ヌクレオチド配列同一性の測定は、当業者に周知の方法である。
【0075】
本明細書において使用される場合、「被験体」および「必要とする被験体」という用語は、任意の哺乳動物または非哺乳動物を表す。哺乳動物としては、ヒト、脊椎動物(げっ歯類など)、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、キリン、シカ、ラクダ、カモシカ、野ウサギ(hare)およびウサギが挙げられるが、これらに限定されない。
ADHファミリータンパク質
ヒトおよび動物の肝臓、植物および微生物の細胞中には、大量のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)ファミリータンパク質を見出すことができる。生物中での短鎖アルコールの代謝のための鍵となる酵素として、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)ファミリータンパク質は、多くの生理的過程において重要な役割を果たす。例えば、ヒトおよび哺乳動物では、アルコールデヒドロゲナーゼおよびアセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)は、体内でのアルコールの代謝に関与するアルコールデヒドロゲナーゼ系を構成する。
【0076】
ADHファミリータンパク質には、ADH1、ADH2、ADH3および/またはADH4タンパク質が含まれる。
【0077】
図2に示されているように、本発明は、ADH2(配列番号:26の45~122位)、ADH3(配列番号:27の71~148位)およびADH4(配列番号:28の72~149位)がADH1(配列番号:1の47~124位)に対して高度に相同である(約98.7%)こと、ならびにADH2(H45、H49、H122)、ADH3(H71、H75、H148)およびADH4(H72、H76、H149)が、それぞれ、ADH1中のH47、H51およびH124に対応すること、すなわち、ADH1、ADH2、ADH3およびADH4の変異部位間の対応する関係が以下のとおりであることを初めて見出した。
【0078】
【表1】
野生型ADHファミリータンパク質
本明細書において使用される場合、「野生型ADHファミリータンパク質」は、遺伝子工学技術(ゲノム配列決定、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)など)を通じてそのヌクレオチド配列を取得することができ、ヌクレオチド配列からそのアミノ酸配列を推定することができる、人工の改造を有さない天然に存在するADHファミリータンパク質を表す。野生型ADHファミリータンパク質の源は、K.lactis野生型細胞株である。野生型ADHファミリータンパク質には、ADH1、ADH2、ADH3および/またはADH4タンパク質が含まれる。
【0079】
本発明の好ましい実施形態において、野生型ADHファミリータンパク質(例えば、ADH1、ADH2、ADH3、ADH4)のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号:1、26、27または28に示されている。
ADHファミリータンパク質変異体およびそのコード核酸
本明細書において使用される場合、「変異タンパク質」、「本発明の変異タンパク質」、「本発明のADH変異タンパク質」、「本発明の変異されたADHタンパク質」、「ADH変異体」および「ADHファミリータンパク質の変異体」という用語は互換的に使用することができ、全て、天然に存在しない変異体ADHタンパク質を表し、変異タンパク質は、野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の45~149位のアミノ酸に少なくとも1つのヒスチジン(H)の変異を有する。
【0080】
さらに、本発明において、変異は、野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の67、69、93および/または94位のヒスチジン(H)を含まない。
【0081】
本発明において、ヒスチジンは、塩基性アミノ酸へ独立に変異させることができ、ヒスチジンの独立の変異の種類は同一であることができ、または異なることができる。
【0082】
好ましい実施形態において、ヒスチジンは、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異させることができる。
【0083】
好ましい実施形態において、本発明の変異体ADHタンパク質は、配列番号:1、26、27または28に示されているタンパク質を人工的に改造することによって得られたタンパク質である。
【0084】
ここで、変異タンパク質は、活性に関連するコアアミノ酸を含有し、コアアミノ酸の少なくとも1つは人工的に改造されており、本発明の変異タンパク質は、著しく、(i)インビトロ無細胞合成系での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができ、ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができる。
【0085】
「コアアミノ酸」という用語は、配列番号:1、26、27または28の配列を基礎とし、配列番号:1、26、27または28と少なくとも80%の(例えば、84%、85%、90%、92%、95%、98%の)相同性を有する配列を表し、対応する位置は本明細書に記載されている特異的なアミノ酸である。例えば、配列番号:1に示されている配列に基づいて、コアアミノ酸は、
47位のヒスチジン(H);および/または
51位のヒスチジン(H);および/または
124位のヒスチジン(H)
である。
【0086】
例えば、配列番号:26に示されている配列に基づいて、コアアミノ酸は、
45位のヒスチジン(H);および/または
49位のヒスチジン(H);および/または
122位のヒスチジン(H)
である。
【0087】
例えば、配列番号:27に示されている配列に基づいて、コアアミノ酸は、
71位のヒスチジン(H);および/または
75位のヒスチジン(H);および/または
148位のヒスチジン(H)
である。
【0088】
例えば、配列番号:28に示されている配列に基づいて、コアアミノ酸は、
72位のヒスチジン(H);および/または
76位のヒスチジン(H);および/または
149位のヒスチジン(H)
である。
【0089】
上記コアアミノ酸を変異させることによって得られた変異タンパク質は、著しく、(i)インビトロ無細胞合成系での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができ、ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができるという活性を有する。
【0090】
別の好ましい実施形態において、47位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)、アスパラギン(N)および/またはアルギニン(R)、より好ましくはリジン(K)および/またはアスパラギン(N)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0091】
別の好ましい実施形態において、51位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)および/またはアルギニン(R)、より好ましくはアルギニン(R)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0092】
別の好ましい実施形態において、124位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせ、好ましくはリジン(K)から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0093】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:1に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
47位のヒスチジン(H);および
124位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0094】
別の好ましい実施形態において、45位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0095】
別の好ましい実施形態において、49位のヒスチジン(H)は、リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0096】
別の好ましい実施形態において、122位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0097】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:26に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
122位のヒスチジン(H);および
45位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0098】
別の好ましい実施形態において、71位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0099】
別の好ましい実施形態において、75位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0100】
別の好ましい実施形態において、148位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0101】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:27に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
148位のヒスチジン(H);および
71位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0102】
別の好ましい実施形態において、72位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0103】
別の好ましい実施形態において、76位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0104】
別の好ましい実施形態において、149位のヒスチジン(H)は、以下の群:リジン(K)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ変異されている。
【0105】
別の好ましい実施形態において、変異タンパク質は、配列番号:28に対応する野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の1またはそれより多くのコアアミノ酸に変異を有し、1またはそれより多くのコアアミノ酸は、以下の群:
149位のヒスチジン(H);および
72位のヒスチジン(H)
から選択される。
【0106】
本発明の変異されたADHタンパク質中のアミノ酸連続番号は、野生型ADHタンパク質のアミノ酸配列(好ましくは、配列番号:1、26、27または28)に基づいていることが理解されるべきである。ある具体的な変異タンパク質が配列番号:1、26、27または28に示されている配列と少なくとも80%の相同性を有する場合、変異タンパク質のアミノ酸配列連続番号は、アミノ酸のN末端またはC末端方向の1~5の転位位置など、配列番号:1、26、27または28のアミノ酸連続番号と比べて転位を有する可能性がある。本分野における慣用の配列並置技術を用いると、このような転位は合理的な範疇にあり、80%の(例えば、90%、95%、98%の)相同性を有し、同一または類似の活性を有する変異タンパク質は、アミノ酸連続番号の転位の故に、本発明の変異タンパク質の範囲から除外されるべきではないことが一般に当業者によって理解されている。
【0107】
本発明の変異タンパク質は、合成されたタンパク質または組換えタンパク質である、すなわち、化学的に合成された生成物であり得、または組換え技術を用いて原核生物もしくは真核生物宿主(例えば、細菌、酵母、植物)から産生されることができる。組換え産生スキームにおいて使用される宿主によって、本発明の変異タンパク質はグリコシル化または非グリコシル化されることができる。本発明の変異タンパク質は、開始メチオニン残基を包含することもでき、または除外することもできる。
【0108】
本発明は、変異タンパク質の断片、誘導体および類縁体も含む。本明細書において使用される場合、「断片」、「誘導体」および「類縁体」という用語は、変異タンパク質と同じ生物学的機能または活性を実質的に保持するタンパク質を表す。
【0109】
本発明の変異タンパク質の断片、誘導体または類縁体は、(i)1またはそれより多くの保存的もしくは非保存的アミノ酸残基(好ましくは、保存的アミノ酸残基)が置換されているのに対して、このような得られる置換されたアミノ酸残基は遺伝コードによってコードされてもよく、またはコードされなくてもよい変異タンパク質、(ii)1もしくはそれより多くのアミノ酸残基中に置換基を有する変異タンパク質、または(iii)別の化合物(ポリエチレングリコールなどの、変異タンパク質の半減期を延長する化合物など)との成熟変異タンパク質の融合によって形成された変異タンパク質、または(iv)変異タンパク質配列への追加のアミノ酸配列の融合によって形成された変異タンパク質(リーディング配列または分泌性配列またはこの変異タンパク質を精製するために使用される配列またはプロテイノゲン配列または抗原IgG断片の、変異タンパク質との融合によって形成される融合タンパク質など)であり得る。本明細書の教示にしたがって、これらの断片、誘導体および類縁体は、当業者に周知の範疇に属する。本発明において、保存的に置換されたアミノ酸は、好ましくは、表Iにしたがうアミノ酸置換によって生成される。
【0110】
【0111】
本発明の活性な変異タンパク質は、著しく、(i)インビトロ無細胞合成系での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善し、ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させるという活性を有する。
【0112】
本発明において、変異タンパク質は、本発明の第一の態様において記載されているとおりである。好ましくは、変異タンパク質は、配列番号:2~13のいずれか1つに示されているアミノ酸配列である。
【0113】
本発明の変異タンパク質は、一般的には、配列番号:2~13のいずれか1つに示されている配列と比較されたより高い相同性(同一性)を有することが理解されるべきである。好ましくは、変異タンパク質は、配列番号:2~13に示されている配列のいずれかと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%~90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%の相同性を有する。
【0114】
さらに、本発明の変異タンパク質は修飾されることもできる。修飾(通常、一次構造を変化させない)形態には、アセチル化またはカルボキシル化などの、変異タンパク質のインビボまたはインビトロで化学的に誘導された形態が含まれる。修飾には、合成およびプロセシングにおいてまたは変異タンパク質のさらなるプロセシング工程において実施されるグリコシル化修飾などのグリコシル化も含まれる。この修飾は、グリコシル化を行う酵素(哺乳動物のグリコシラーゼまたはデグリコシラーゼなど)に変異タンパク質を曝露することによって達成することができる。修飾形態には、リン酸化されたアミノ酸残基(ホスホチロシン、ホスホセリン、ホスホスレオニンなど)を有する配列がさらに含まれる。修飾形態には、修飾されており、これにより、タンパク質分解に対する増加した耐性または改善された溶解度を得る変異タンパク質がさらに含まれる。
【0115】
「変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド」という用語は、本発明の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドであり得、さらなるコード配列および/または非コード配列をさらに含有するポリヌクレオチドでもあり得る。
【0116】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAの形態であり得る。別の好ましい実施形態において、ヌクレオチドはDNAである。DNA形態には、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAが含まれる。DNAは、一本鎖または二本鎖であり得る。DNAは、コード鎖または非コード鎖であり得る。成熟ポリペプチドをコードするコード領域配列は、配列番号:2~13の任意の1つに示されているポリペプチドをコードする配列と同じであり得、または縮退バリアントであり得る。本明細書において使用される場合、本発明における「縮退バリアント」は、配列番号:2~13の任意の1つに示されているポリペプチドをコードするが、対応するコード領域の配列が異なる核酸配列を表す。
【0117】
本発明は、先述のポリヌクレオチドのバリアントにも関する。バリアントは、本発明のものと同じアミノ酸配列を有するポリペプチドまたは変異タンパク質の断片、類縁体および誘導体をコードする。これらのヌクレオチドバリアントには、置換バリアント、欠失バリアントおよび挿入バリアントが含まれる。本分野において公知であるように、対立遺伝子バリアントはポリヌクレオチドの別の形態である。対立遺伝子バリアントは、1またはそれより多くのヌクレオチドの置換、欠失または挿入であり得るが、対立遺伝子バリアントによってコードされる変異タンパク質の機能を実質的に変化させない。
【0118】
核酸配列は、DNA、RNA、cDNAまたはPNAであり得る。核酸配列は、ゲノム、組換えまたは合成であり得る。核酸配列は、単離されまたは精製されることができる。核酸配列は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、核酸配列は、本明細書に記載されている光感受性タンパク質をコードするであろう。核酸配列は、Sambrook et al.Molecular Cloning:A laboratory manual,Cold Spring Harbour Laboratory Pressに記載されているクローニング技術などのクローニング技術によって、例えば、制限酵素消化、連結およびゲル電気泳動を含む標準的な分子クローニング技術によって得ることができる。核酸配列は、例えば、PCR技術を用いて単離することができる。単離は、任意の不純物からのならびにその起源中で当該核酸配列と付随して天然に見出されるその他の核酸配列および/またはタンパク質からの核酸配列の単離を意味する。好ましくは、核酸配列は、精製/製造過程からの細胞物質、培地またはその他の化学物質も含有しない。核酸配列は、合成であり得る、例えば、直接的化学合成によって作製することができる。核酸配列は、裸の核酸として与えることができ、またはタンパク質もしくは脂質との複合体の形態で与えることができる。
【0119】
本発明は、先述の配列とともにハイブリッド形成し、先述の配列と少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の同一性を有するポリヌクレオチドにも関する。本発明は、特に、厳しい条件(または厳密な条件)下で本発明のポリヌクレオチドとともにハイブリッド形成することができるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「厳しい条件」は、(1)0.2×SSC、0.1%SDS、60℃など、より低いイオン強度およびより高い温度でのハイブリダイゼーションおよび溶出;または(2)50%(v/v)ホルムアミド、0.1%ウシ血清/0.1% Ficoll、42℃などの変性剤の存在下でのハイブリダイゼーション;または(3)2つの配列間の同一性が少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%である場合にのみハイブリダイゼーションが起こる、を表す。
【0120】
本発明の変異タンパク質およびポリヌクレオチドは、好ましくは、単離された形態で与えられ、より好ましくは、均一状態まで精製される。
【0121】
本発明の完全長ポリヌクレオチド配列は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工の合成法によって取得することができる。PCR増幅法のために、本発明に開示された関連ヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列にしたがってプライマーを設計することができ、市販のcDNAライブラリーまたは当業者に公知の慣用の方法にしたがって調製されたcDNAライブラリーをテンプレートとして用いて、関連配列を増幅することができる。配列が長い場合、PCR増幅を2回またはそれより多く実施することがしばしば必要であり、次いで、PCR増幅の各々から得られた増幅された断片は、正しい順序で一緒に接合される。
【0122】
関連配列が得られたら、組換え方法によって、関連配列を大量に得ることができる。これは、通常、ベクター中への関連配列のクローニング、細胞中への形質転換、関連配列を得るための慣用の方法による増殖された宿主細胞からのその後の単離を表す。
【0123】
さらに、関連配列、特に、短い断片長を有する関連配列も、人工的合成方法によって合成することができる。通常、まず多くの小さな断片を合成し、次いで、長い配列を有する断片を得るために連結を実行する。
【0124】
現在、本発明のタンパク質(またはその断片もしくは誘導体)をコードするDNA配列は、完全に化学合成を介して得ることができる。次いで、DNA配列は、本分野において公知の様々な既存のDNA分子(例えば、ベクターなど)および細胞中に導入することができる。さらに、化学合成を介して本発明のタンパク質配列中に変異を導入することもできる。
【0125】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドを得るために、PCR技術を用いてDNA/RNAを増幅する方法が使用される。特に、ライブラリーから完全長cDNAを得ることが困難である場合、好ましくは、RACE法(RACE、Rapid Amplification of cDNA ends)を使用することができる。PCRのために使用されるプライマーは、本明細書に開示されている本発明の配列情報にしたがって適切に選択することができ、慣用の方法によって合成することができる。増幅されたDNA/RNA断片は、ゲル電気泳動などの慣用の方法によって分離し、精製することができる。
【0126】
本発明において、ADHタンパク質変異体のDNAコード配列は、配列番号:14~25のいずれか1つに示されているヌクレオチド配列である。
発現ベクターおよび宿主細胞
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含有するベクター、本発明のベクターを用いるまたは本発明の変異タンパク質のコード配列を用いる遺伝子工学によって作製された宿主細胞にも関し、組換え技術を通じて本発明のポリペプチドを作製するための方法に関する。
【0127】
慣用の組換えDNA技術を通じて、本発明のポリヌクレオチド配列は、組換え変異タンパク質を発現または作製するために使用することができる。一般的に言えば、この方法は、以下の工程:
(1)本発明の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド(またはバリアント)でまたはポリヌクレオチドを含有する組換え発現ベクターで適切な宿主細胞を形質転換または形質導入する工程;
(2)適切な培地中で宿主細胞を培養する工程;ならびに
(3)培地または細胞からタンパク質を単離および精製する工程;
を含む。
【0128】
本発明において、変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、組換え発現ベクター中に挿入することができる。「組換え発現ベクター」という用語は、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルスなどの哺乳動物細胞ウイルスまたは本分野において周知の他のベクターを表す。宿主内で複製され、安定であることができる限り、任意のプラスミドおよびベクターを使用することができる。発現ベクターの重要な特徴は、発現ベクターが、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子および翻訳調節エレメントを含有することである。
【0129】
本発明の変異タンパク質をコードするDNA配列および適切な転写/翻訳調節シグナルを含有する発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術などが含まれる。DNA配列は、mRNA合成を誘導するために、発現ベクター中に適切なプロモーターに効果的に連結されることができる。これらのプロモーターの代表例としては、E.coliのlacまたはtrpプロモーター;λファージのPLプロモーター;CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、SV40初期および後期プロモーター、レトロウイルスのLTRおよび原核生物もしくは真核生物細胞またはその中のウイルス中で遺伝子発現を調節することができるいくつかの他の公知のプロモーターを含む真核生物プロモーターが挙げられる。発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位および転写終結因子も含む。
【0130】
さらに、発現ベクターは、好ましくは、真核生物細胞培養に対してはジヒドロ葉酸還元酵素、ネオマイシン耐性および緑色蛍光タンパク質(GFP)など、またはE.coliに対してはテトラサイクリン耐性もしくはアンピシリン耐性など、形質転換された宿主細胞を選択するための表現型の特徴を与えるために、1またはそれより多くの選択的マーカー遺伝子を含有する。
【0131】
上記適切なDNA配列および適切なプロモーターまたは調節配列を含有するベクターは、適切な宿主細胞を形質転換して、適切な宿主細胞がタンパク質を発現できるようにするために使用することができる。
【0132】
宿主細胞は、原核生物細胞(E.coliなど)、または下等な真核生物細胞、または酵母細胞、植物細胞もしくは哺乳動物細胞(ヒト細胞および非ヒト哺乳動物細胞を含む)などの高等真核生物細胞であり得る。代表例としては、E.coli、コムギ麦芽細胞、昆虫細胞、SF9細胞、Hela細胞、HEK293細胞、CHO細胞、酵母細胞などが挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、酵母細胞(Pichia pastoris、Kluyveromycesまたはこれらの組み合わせなど、好ましくは酵母細胞はKluyveromycesを含み、より好ましくは、Kluyveromyces marxianusおよび/またはKluyveromyces lactisを含む)が宿主細胞として選択される。
【0133】
本発明のポリヌクレオチドが高等真核生物細胞中で発現される場合、エンハンサー配列がベクター中に挿入されれば、転写は増強されるであろう。エンハンサーは、プロモーターに対して作用して遺伝子転写を増強する、通常、約10~300塩基対のDNAのシス作用因子である。例としては、複製起点の後期側の100~270塩基対のSV40エンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、アデノウイルスエンハンサーなどが挙げられる。
【0134】
当業者は、適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび宿主細胞をどのようにして選択するかを知っている。
【0135】
組換えDNAを使用することによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の慣用技術を使用することによって実施することができる。宿主がE.coliなどの原核生物である場合、DNAを吸収することができるコンピテント細胞は、対数増殖期後に採集し、CaCl2法によって処理することができ、使用される工程は本分野において周知である。別の方法は、MgCl2を使用することである。必要であれば、形質転換は、電気穿孔によって実施することもできる。宿主が真核生物である場合、以下のDNA形質移入法を選択することができる:リン酸カルシウム共沈法および慣用の機械的方法、例えば、微量注入、電気穿孔、リポソームパッケージングなど。
【0136】
得られた形質転換体は、本発明の遺伝子によってコードされるポリペプチドを発現するための慣用の方法によって培養することができる。使用される宿主細胞によって、培養中で使用される培地は、様々な慣用の培地から選択することができる。培養は、宿主細胞の増殖に適した条件下で実施される。宿主細胞が適切な細胞密度まで増殖した後、選択されたプロモーターが、適切な方法(温度切り替えまたは化学的誘導など)によって誘導され、細胞をさらなる期間培養する。
【0137】
上記方法に挙げられている組換えポリペプチドは、細胞の内側でもしくは細胞膜上で発現されることができ、または細胞の外側に分泌されることができる。必要であれば、組換えタンパク質は、その物理的、化学的およびその他の特徴によって、様々な分離方法を介して分離および精製することができる。これらの方法は、当業者に周知である。これらの方法の例としては、慣用の再生処理、タンパク質沈殿剤での処理(塩析法)、遠心、細菌の浸透圧性溶解、超処理(ultra-treatment)、超遠心分離法、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)およびその他の様々な液体クロマトグラフィー技術ならびにこれらの方法の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
本発明の主な利点には、以下のものが含まれる。
【0139】
(1)本発明は、Ni媒体に結合する細胞中の成分の質量分析同定を介して、Ni媒体に結合することができる細胞内タンパク質の種類を決定する。
【0140】
(2)初めて、本発明は、細胞ゲノム中のADHファミリータンパク質を系統的に分析することによって、Ni媒体に結合し得るADHファミリータンパク質中の一連のヒスチジン部位を提供する。
【0141】
(3)初めて、本発明は、ADH1の遺伝子ノックアウトおよびNi媒体に結合し得るADH1中の一連のヒスチジン部位の部位特異的変異を通じて、ADH1のNi媒体への結合能力を著しく低下させることができるいくつかの株を得る。
【0142】
(4)上記複数の細胞株の無細胞系転写-翻訳活性を分析することによって、ADH1の部位特異的変異は、無細胞系転写-翻訳活性に対して遺伝子ノックアウトより小さな効果を有することが見出され、無細胞系転写-翻訳活性に影響を及ぼさず、かつADH1のNi媒体への結合能力を著しく低下させる細胞株が初めて得られる。
【0143】
(5)本発明は、Kluyveromyces lactis(K.lactis)を例として挙げているが、原核生物細胞、真核生物細胞、酵母細胞、ヒト源細胞、Hela細胞、CHO細胞、HEK293細胞、Saccharomyces cerevisiaeなどを含むその他の細胞にも、同じ設計、分析および実験方法が適用され得る。
【0144】
(6)本発明において、ADHファミリータンパク質のコアアミノ酸の変異は、著しく、(i)インビトロ無細胞合成系での外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善することができ、ならびに/または(ii)変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができることが初めて見出された。
【0145】
本発明は、具体的な実施例(または実施形態)とともに、以下でさらに例示される。これらの実施例(または実施形態)は、専ら例示のために与えられており、本発明の範囲に対する限定とみなされるべきでないことが理解されるべきである。以下の実施例(または実施形態)中で具体的に記載された条件がない実験方法に関しては、一般に、Sambrook et.al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に記載されている条件などの慣用の条件に従うか、または製造業者によって推奨される条件に従うことができる。別段の記載がなければ、百分率および部は、重量百分率および重量部を表す。
【0146】
別段の記載がなければ、本発明の実施例において使用される試薬および材料は全て市販の生成物である。
【0147】
本発明は、Kluyveromyces lactis(K.lactis)を例として挙げているが、原核生物細胞、真核生物細胞、酵母細胞、ヒト源細胞、Hela細胞、CHO細胞、HEK293細胞、Saccharomyces cerevisiaeおよびその他の細胞を含むその他の細胞にも、同じ設計、分析および実験方法が適用され得る。
一般的な方法
本発明は、以下のような設計および方法を提供する:Ni精製および質量分析解析を通じて、Ni結合タンパク質が同定され、次いで、これを基礎として、ゲノム中のADHファミリータンパク質を点変異に供して、ADHファミリータンパク質のNi媒体への結合能力を低下させ、これにより、Niによって精製されるタンパク質の効率、収率および純度を向上させる。以下の工程が含まれる:
(1)以下の方法によるADHファミリータンパク質の同定および分析:
A.Niによって精製されたタンパク質のポリアクリルアミドゲル電気泳動分析;
B.非特異的バンド(35~50kDa)の質量分析解析;および
C.ADHタンパク質として同定された主要な非特異的バンドを同定するための、質量分析解析の結果のペプチド比較;
(2)以下の方法によるNi媒体へのK.lactis ADHファミリータンパク質の潜在的な結合部位の分析:
A.K.lactis中のADH1タンパク質およびSaccharomyces cerevisiae中のADH1タンパク質の配列並置;
B.相同性モデリングのためのテンプレートとしてScADHを使用し、ADH1中のH47、H51およびH124;ADH2中のH45、H49およびH122;H71、H75およびH148中のADH3;ADH4中のH72、H76およびH149など、KlADH中のHis豊富な領域部位を見出すこと;
C.改造がADHの触媒活性に影響を与えるかどうかなど、この領域中のHis部位に対して改造可能性分析を実施し、以下の群:H124K、H124R、H47K、H47R、H47N、H47Q、H51K、H51R、H124KH47K、H124KH47R、H124KH47N、H124KH47Qおよびこれらの組み合わせから選択されるADH1の部位特異的変異;以下の群;H122K、H122R、H45K、H45R、H45N、H45Q、H49K、H49R、H122KH45K、H122KH45R、H122KH45N、H122KH45Qおよびこれらの組み合わせから選択されるADH2の部位特異的変異;以下の群:H148K、H148R、H71K、H71R、H71N、H71Q、H75K、H75R、H148KH71K、H148KH71R、H148KH71N、H148KH71Qおよびこれらの組み合わせから選択されるADH3の部位特異的変異;以下の群:H149K、H149R、H72K、H72R、H72N、H72Q、H76K、H76R、H149KH72K、H149KH72R、H149KH72N、H149KH72Qおよびこれらの組み合わせから選択されるADH4の部位特異的変異など、別のアミノ酸を最終的に選択すること;
(3)Cas9-gRNAクローニングベクターの構築、構築方法が以下のとおりである:
A.特異的な遺伝子の配列に対して、それぞれ、その遺伝子のスプライシングを導くgRNA配列を設計すること;
B.Cas9を含有するベクター中に上記gRNA配列を組み替えて、gRNAおよびCas9がその中で同時発現される第一のベクターを得ること;
(4)以下の方法による特異的な遺伝子のノックアウトのために使用されるドナーDNAの構築:
A.遺伝子データベースから特異的な遺伝子のヌクレオチド配列をダウンロードし、それぞれ、遺伝子の800bp上流および下流に位置する配列を使用することによって第二のベクターを構築すること;
B.プライマーM13FおよびM13Rを用いて第二のベクターを増幅し、アルコール沈殿によって、得られたPCR生成物を濃縮してドナーDNAを得ること;
(5)以下の方法によるヒスチジン残基の特異的点変異を有するドナーDNAの構築:
A.遺伝子データベースから特異的な遺伝子のヌクレオチド配列をダウンロードし、標的遺伝子ならびにそれぞれ標的遺伝子の800bp上流および下流に位置する配列を使用し、アミノ酸残基の一部に点変異を施し、gRNAに同義変異を施すことによって第二のベクターを構築すること;
B.プライマーM13FおよびM13Rを用いて第二のベクターを増幅し、アルコール沈殿によって、得られたPCR生成物を濃縮してドナーDNAを得ること;
(6)以下の方法によって、特異的な遺伝子のノックアウトまたは点変異を有する細胞株を取得すること:
A.第一のベクターおよびドナーDNAをコンピテント細胞中に同時に形質転換すること;
B.拡大培養のために単クローンの細胞をスクリーニングし、ゲノムを抽出し、ADH遺伝子および相同性アームを増幅するためのプライマーを設計し、配列決定によって、増幅されたPCR生成物を確認する;
(7)以下の方法によって、遺伝子ノックアウトまたは点変異に供された株のNi媒体への結合能力を試験する:
A.遺伝子ノックアウトまたは点変異に供された得られた株に対して拡大培養を実施し、細胞破砕を実施して、細胞溶解物を得ること;
B.Ni媒体を通じて細胞溶解物を精製し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を介して、精製された生成物を分析すること;
(8)無細胞インビトロタンパク質合成系。
【0148】
遺伝子改変された細胞株を用いて、酵母細胞溶解物を調製し、インビトロタンパク質翻訳系中に添加する。20~30℃で、2~12時間、反応系を放置し、多機能マイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)を使用することによって吸光度の値を読み取り、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)の活性を検出する。
[実施例1]
K.lactis中のADHファミリー遺伝子の分析および特異的改造
1.1 K.lactis中のADHファミリー遺伝子の分析
K.lactis中で発現されたHisタグ標識された標的タンパク質がNi媒体でアフィニティー精製されると、35~50kDaに明白な非特異的バンドが存在した。質量分析の結果は、非特異的なタンパク質が、主に、K.lactis中のADHファミリータンパク質に由来することを示した(表1)。ADHは、NAD(P)依存性酸化還元酵素であり、ほぼ全ての生物中に存在し、それぞれ、アルデヒドおよびケトンへの第一級および第二級アルコールの可逆的酸化を触媒する。K.lactis中のADHファミリータンパク質には、KlADH1、KlADH2、KlADH3およびKlADH4の4つの種類が含まれ、これらの全てが染色体のDNAによってコードされている。それらのうち、KlLA0F21010gのKEGGデータベースコードを有するADH1遺伝子配列(配列番号32)は染色体Fに位置しており;KlLA0F18260gのKEGGデータベースコードを有するADH2遺伝子配列(配列番号29)は染色体Fに位置しており; KlLA0B09064gのKEGGデータベースコードを有するADH3遺伝子配列(配列番号30)は染色体Bに位置しており;KlLA0F13530gのKEGGデータベースコードを有するADH4遺伝子配列(配列番号31)は染色体Fに位置している。それらのうち、ADH1およびADH2は、細胞質中でそれらの機能を実行するのに対して、ADH3およびADH4は、ミトコンドリア中でそれらの機能を実行し、それぞれ、37.3kDa、37.1kDa、39.6kDaおよび40.2kDaの相対的分子量を有する。これらの4つのADHタンパク質のアミノ酸配列は高度に相同性があり、それらの三次構造も極めて類似している。
【0149】
【0150】
K.lactis中のADHファミリータンパク質の結晶構造は未だ知られていないので、本発明者らは、その空間的三次構造を予測するために相同性モデリングを使用した。K.lactis中のKlADH1とSaccharomyces cerevisiae(PDB NO.4W6Z)中のScADH1との間の一次配列並置は、これら2つが84.9%の配列相同性を有する四量体であることを示す。ScADH1をテンプレートとして使用する相同性モデリングは、K.lactis中のKlADH1の各単量体が、それぞれ、47、51、69、124、243および321位に位置する合計6つのHisを含有することを示した。完全な四量体は、合計4つのHis豊富な領域を含有する。各単量体の5番目のHisが相対的に独立していることを除き、各単量体の他の5つのHisが空間中で近接しており、他の5つのHisのうち、空間中で(および配列中でも)最も近接しているのは、各単量体の前の3~4つのHisである。
【0151】
K.lactis中の4つのADHは高度に相同であり、5つのHisは高度に保存されているので、KlADH2、KlADH3およびKlADH4の空間的構造もKlADH1の空間的構造に類似している、すなわち、各ADHタンパク質の最初の4つのHisは空間中でクラスターを形成し得、これにより、Ni媒体への親和性を生じる。
1.2 K.lactis中のADHファミリー遺伝子の特異的改造
Ni媒体へのADHの親和性を除去するときのADH活性に対する効果をできるだけ最小化することの必要性に照らすと、KlADH中のHisの機能の分析が鍵となる。多数の比較およびスクリーニングを通じて、ScADH1タンパク質中の6つのHisと相同なKlADH1タンパク質中の6つのHisのうち、H44、H48、H66およびH121は、KlADH1中でクラスター化された4つのHisとの相同性故に、本発明の分析のキーポイントとなる。
図6に示されているように、H66は、ScADH1の2つの立体構造の両方で、触媒性Zn
2+をキレートすることに関与しているので、ADHの触媒活性に対して重要な影響を果たし得、本発明の改造の標的として採用されない。
図7に示されているように、H48は補酵素に結合しないが、三元複合体の形成に関与し、基質のプロトン移動過程に影響を与える。本発明の研究は、H44イミダゾール環上のND1はNAD
+のO2Aと水素結合を形成し得、これによって、NAD
+/NADHの結合に関与することを見出した。H44Rは、NAD
+およびNADHの解離定数を2~4倍低下させ、変換数を4~6倍減少させることができる。さらに、H121の側鎖は、T130と水素結合を形成することができる。
【0152】
上記研究に基づいて、本発明では、ScADH1中のADH1の機能に対して比較的小さな影響を有する3つのHis部位(それぞれ、H44、H48およびH121)を類似の機能を有するアミノ酸に変異させ、最後に、KlADH1に対して設計された点変異スキームは、H124K、H124R、H47K、H47R、H47N、H47Q、H51K、H51R、H124KH47K、H124KH47R、H124KH47NおよびH124KH47Qであった。
【0153】
K.lactis中のADH2、ADH3およびADH4はADH1と高度に相同性であるので(
図2)、すなわち、ADH2中のH45、H49およびH122、ADH3中のH71、H75およびH148、ADH4中のH72、H76およびH149は、それぞれ、ADH1中のH47、H51およびH124に対応する。
【0154】
したがって、本発明では、ADH1遺伝子のノックアウトならびにH47、H51およびH124の部位特異的変異において具体的に示されているとおり、Ni媒体へのADH1の結合を低下させるための例としてADH1を採用する。ADH1に対する方法と類似の方法を使用することによって、ADH2、ADH3およびADH4も対応する部位において改変操作することができる。
[実施例2]
CRISPR/Cas9を介したADH1遺伝子の標的化されたノックアウト
2.1 KlADH1 CRISPR gRNA配列の決定
KlADH1中に設計された点変異にしたがって、PAM配列(NGG)を選択し、対応するgRNA配列を決定した。本実施例においてgRNAを選択するための原理は以下のとおりである:GC含量は中程度(40%~60%)であるべきであり、ポリT構造の存在は回避すべきである。この実施形態において、KlADH1 gRNA1配列は、TGGGTGAAAACGTCAAGGGC(配列番号:33)である。
【0155】
プラスミド構築および形質転換のための方法は以下のとおりである:プライマーpKMCas9-KlADH1-gRNA1-PF:TGGGTGAAAACGTCAAGGGCGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(配列番号:34)およびpCas9-KlADH1-gRNA1-PR:GCCCTTGACGTTTTCACCCAAAAGTCCCATTCGCCACCCG(配列番号:35)を使用し、pCASプラスミドをテンプレートとして使用して、PCR増幅を行った。17μLの増幅された生成物を採取し、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートした。10μLのDpnI処理された混合物を50μLのDH5αコンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で45秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Kan耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。2つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMCas9_StR_KlADH1と名付けた。
2.2 ドナーDNAプラスミドの構築および増幅
本実施例では、直鎖ドナーDNAの保存および増幅を容易にするために、ドナーDNAをpKMD1プラスミド中にまず挿入し、次いで、直鎖ドナーDNA配列を得るためにPCRによって増幅した。
【0156】
pKMD1プラスミドをテンプレートとして用いて、pKMD1-PF:ATCGTCGACCTGCAGGCATG(配列番号:36)およびpKMD1-PR:ATCTCTAGAGGATCCCCGGG(配列番号:37)のプライマーを使用することによって、PCR増幅過程を実行した。17μLの増幅された生成物を採取し、次いで、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートし、プラスミド骨格の直鎖断片pKMD1-Tを得た。
2.2.1 ドナープラスミドpKMD1-ΔKlADH1の構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-HR1-PR:GAAGAGATTTCATTTATCTTTTTTTAGTATAGAGTTTGTGTGTTTAAAGCTTG(配列番号:39)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をΔKlADH1-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR2-PF:CAAACTCTATACTAAAAAAAGATAAATGAAATCTCTTCCGCATTCAAGTCATGAC(配列番号:40)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をΔKlADH1-F2と名付けた。
【0157】
1μLのそれぞれの増幅された生成物ΔKlADH1-F1、ΔKlADH1-F2およびpKMD1-Tを混合し、5μLのCloning Mix(TransGen Biotech Companyから得られるTransgene pEASY-Uni Seamless Cloning and Assembly Kitという名称のキット、以下同様)および2μLの水を加えた。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞(TransGen Biotech Companyから得られる、以下同様)中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-ΔKlADH1と名付けた。
2.3 K.lactisの電気形質転換
コンピテント細胞を-80℃の冷凍庫から取り出し、氷上で融解し、400ngのgRNAおよびCas9プラスミド(またはgRNA/cas9断片)および1000ngのドナーDNA断片を加えた。混合後、混合物を電気穿孔キュベット中に移し、2分間氷中に浸した。(1.5kV、200Ωおよび25μFのパラメータでの)電気ショックのために、電気穿孔キュベットを電気穿孔装置の中に置いた。電気ショックの完了後、混合物に700μLのYPDを直ちに加え、次いで、200rpmの速度で、30℃で1~3時間、振盪機上でインキュベートした。2~200μLの混合物を採り、YPD(G418耐性を有する)プレート上に播種し、単クローンのコロニーが出現するまで、30℃で2~3日間培養した。
2.4 陽性の同定
形質転換された細胞を有するプレートから、12~24の単クローンのコロニーを選び出した。細胞をテンプレートとして用いて、ADH1-CF:GTGATGGAACACGGGAATAG(配列番号:42)およびADH1-CR:CACATATACCTTGGCAGTAG(配列番号:43)の同定プライマーを使用するPCRによって、試料を検出した。PCRによって陽性を検査され、配列決定によって同定された株を、陽性の株として決定し、ΔADH1と名付けた。
[実施例3]
CRISPR/Cas9によるADH1 H47部位の部位特異的変異
3.1 KlADH1 CRISPR gRNA配列の決定
KlADH1中に設計された点変異にしたがって、PAM配列(NGG)を選択し、対応するgRNA配列を決定した。本実施例においてgRNAを選択するための原理は以下のとおりである:gRNAは設計された変異部位の近くにあるべきであり、GC含量は中程度(40%~60%)であるべきであり、ポリT構造の存在は回避すべきである。この実施形態において、KlADH1 gRNA1配列は、TGGGTGAAAACGTCAAGGGC(配列番号:33)である。
【0158】
プラスミド構築および形質転換のための方法は以下のとおりである:プライマーpCas9-KlADH1-gRNA1-PF:TGGGTGAAAACGTCAAGGGCGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(配列番号:34)およびpCas9-KlADH1-gRNA1-PR:GCCCTTGACGTTTTCACCCAAAAGTCCCATTCGCCACCCG(配列番号:35)を使用し、pCASプラスミドをテンプレートとして使用して、PCR増幅を行った。17μLの増幅された生成物を採取し、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加えた。混合後、37℃で3時間、混合物をインキュベートした。10μLのDpnI処理された混合物を50μLのDH5αコンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で45秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Kan耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。2つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMCas9_StR_KlADH1と名付けた。
3.2 ドナーDNAプラスミドの構築および増幅
本実施例では、直鎖ドナーDNAの保存および増幅を容易にするために、ドナーDNAをpKMD1プラスミド中にまず挿入し、次いで、直鎖ドナーDNA配列を得るためにPCRによって増幅した。
【0159】
pKMD1プラスミドをテンプレートとして用いて、pKMD1-PF:ATCGTCGACCTGCAGGCATG(配列番号:36)およびpKMD1-PR:ATCTCTAGAGGATCCCCGGG(配列番号:37)のプライマーを使用することによって、PCR増幅過程を実行した。17μLの増幅された生成物を採取し、次いで、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートし、プラスミド骨格の直鎖断片pKMD1-Tを得た。
3.2.1 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47K-PR:AGCATGAAGGTCAGTTTTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:44)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47K-PF:GTAAAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:45)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47N-F3と名付けた。
【0160】
増幅された生成物KlADH1-H47K-F1、KlADH1-H47K-F2、KlADH1-H47K-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47Kと名付けた。
3.2.2 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47Nの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47N-PR:AGCATGAAGGTCAGTATTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:48)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47N-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47N-PF:GTAATACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:49)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47N-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47N-F3と名付けた。
【0161】
増幅された生成物KlADH1-H47N-F1、KlADH1-H47N-F2、KlADH1-H47N-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47Nと名付けた。
3.2.3 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47Qの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47Q-PR:AGCATGAAGGTCAGTTTGACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:50)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47Q-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47Q-PF:GTCAAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:51)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47Q-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47Q-F3と名付けた。
【0162】
増幅された生成物KlADH1-H47Q-F1、KlADH1-H47Q-F2、KlADH1-H47Q-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47Qと名付けた。
3.2.4 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47Rの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47R-PR:AGCATGAAGGTCAGTTCTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:52)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47R-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47R-PF:GTAGAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:53)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47R-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47R-F3と名付けた。
【0163】
増幅された生成物KlADH1-H47R-F1、KlADH1-H47R-F2、KlADH1-H47R-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47Rと名付けた。
3.3 K.lactisの電気形質転換(実施例2.3と同じ)
3.4 陽性の同定
形質転換された細胞を有するプレートから、12~24の単クローンのコロニーを選び出した。ADH1-m-CF:TGGGAGAGAATGTTAAAGGT(配列番号:54)およびADH1-m-CR:TGACGGTCGTTAACTAAGAT(配列番号:55)の同定プライマーを使用し、細胞をテンプレートとして使用することによるPCRによって、試料を検出した。PCRによって陽性を検査され、配列決定によって同定された株を、陽性の株として決定し、それぞれ、ADH1 H47K、ADH1 H47N、ADH1 H47QおよびADH1 H47Rと名付けた。
[実施例4]
CRISPR/Cas9によるADH1 H51部位の部位特異的変異
4.1 KlADH1 CRISPR gRNA配列の決定
KlADH1中に設計された点変異にしたがって、PAM配列(NGG)を選択し、対応するgRNA配列を決定した。本実施例においてgRNAを選択するための原理は以下のとおりである:gRNAは設計された変異部位の近くにあるべきであり、GC含量は中程度(40%~60%)であるべきであり、ポリT構造の存在は回避すべきである。この実施形態において、KlADH1 gRNA1配列は、TGGGTGAAAACGTCAAGGGC(配列番号:33)である。
【0164】
プラスミド構築および形質転換のための方法は以下のとおりである:プライマーpCas9-KlADH1-gRNA1-PF:TGGGTGAAAACGTCAAGGGCGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(配列番号:34)およびpCas9-KlADH1-gRNA1-PR:GCCCTTGACGTTTTCACCCAAAAGTCCCATTCGCCACCCG(配列番号:35)を使用し、pCASプラスミドをテンプレートとして使用して、PCR増幅を行った。17μLの増幅された生成物を採取し、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加えた。混合後、37℃で3時間、混合物をインキュベートした。10μLのDpnI処理された混合物を50μLのDH5αコンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で45秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Kan耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。2つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMCas9_StR_KlADH1と名付けた。
4.2 ドナーDNAプラスミドの構築および増幅
本実施例では、直鎖ドナーDNAの保存および増幅を容易にするために、ドナーDNAをpKMD1プラスミド中にまず挿入し、次いで、直鎖ドナーDNA配列を得るためにPCRによって増幅した。
【0165】
pKMD1プラスミドをテンプレートとして用いて、pKMD1-PF:ATCGTCGACCTGCAGGCATG(配列番号:36)およびpKMD1-PR:ATCTCTAGAGGATCCCCGGG(配列番号:37)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実行した。17μLの増幅された生成物を採取し、次いで、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートし、プラスミド骨格の直鎖断片pKMD1-Tを得た。
4.2.1 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H51Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H51K-PR:CCAAGCTTTAAGGTCAGTATGACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:56)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H51K-PF:GTCATACTGACCTTAAAGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:57)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51K-F3と名付けた。
【0166】
増幅された生成物KlADH1-H51K-F1、KlADH1-H51K-F2、KlADH1-H51K-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H51Kと名付けた。
4.2.2 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H51Rの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H51R-PR:CCAAGCTCTAAGGTCAGTATGACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:58)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51R-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H51R-PF:GTCATACTGACCTTAGAGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:59)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51R-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H51R-F3と名付けた。
【0167】
増幅された生成物KlADH1-H51R-F1、KlADH1-H51R-F2、KlADH1-H51R-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H51Rと名付けた。
4.3 K.lactisの電気形質転換(実施例2.3と同じ)
4.4 陽性の同定
形質転換された細胞を有するプレートから、12~24の単クローンのコロニーを選び出した。細胞をテンプレートとして用いて、ADH1-m-CF:TGGGAGAGAATGTTAAAGGT(配列番号:54)およびADH1-m-CR:TGACGGTCGTTAACTAAGAT(配列番号:55)の同定プライマーを使用するPCRによって、試料を検出した。PCRによって陽性を検査され、配列決定によって同定された株を、陽性の株として決定し、それぞれ、ADH1 H51KおよびADH1 H51Rと名付けた。
[実施例5]
CRISPR/Cas9によるADH1 H124部位の部位特異的変異
5.1 KlADH1 CRISPR gRNA配列の決定
KlADH1中に設計された点変異にしたがって、PAM配列(NGG)を選択し、対応するgRNA配列を決定した。本実施例においてgRNAを選択するための原理は以下のとおりである:gRNAは設計された変異部位の近くにあるべきであり、GC含量は中程度(40%~60%)であるべきであり、ポリT構造の存在は回避すべきである。この実施形態において、KlADH1 gRNA1配列は、TGGGTGAAAACGTCAAGGGC(配列番号:33)である。
【0168】
プラスミド構築および形質転換のための方法は以下のとおりである:プライマーpCas9-KlADH1-gRNA1-PF:TGGGTGAAAACGTCAAGGGCGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(配列番号:34)およびpCas9-KlADH1-gRNA1-PR:GCCCTTGACGTTTTCACCCAAAAGTCCCATTCGCCACCCG(配列番号:35)を使用し、pCASプラスミドをテンプレートとして使用して、PCR増幅を行った。17μLの増幅された生成物を採取し、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートした。10μLのDpnI処理された混合物を50μLのDH5αコンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で45秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Kan耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。2つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMCas9_StR_KlADH1と名付けた。
5.2 ドナーDNAプラスミドの構築および増幅
本実施例では、直鎖ドナーDNAの保存および増幅を容易にするために、ドナーDNAをpKMD1プラスミド中にまず挿入し、次いで、直鎖ドナーDNA配列を得るためにPCRによって増幅した。
【0169】
pKMD1プラスミドをテンプレートとして用いて、pKMD1-PF:ATCGTCGACCTGCAGGCATG(配列番号:36)およびpKMD1-PR:ATCTCTAGAGGATCCCCGGG(配列番号:37)のプライマーを使用することによって、PCR増幅過程を実行した。17μLの増幅された生成物を採取し、次いで、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートし、プラスミド骨格の直鎖断片pKMD1-Tを得た。
5.2.1 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H124Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124K-PR:CCATCTTTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:60)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124K-PF:CTTGAGTGGATATACAAAAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:61)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124K-F3と名付けた。
【0170】
増幅された生成物KlADH1-H124K-F1、KlADH1-H124K-F2、KlADH1-H124K-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H124Kと名付けた。
5.2.2 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H124Rの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124R-PR:CCATCTCTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:62)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124R-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124R-PF:CTTGAGTGGATATACAAGAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:63)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H124R-F3と名付けた。
【0171】
増幅された生成物KlADH1-H124R-F1、KlADH1-H124R-F2、KlADH1-H124R-F3およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixおよび1μLの水を添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H124Rと名付けた。
5.3 K.lactisの電気形質転換(実施例2.3と同じ)
5.4 陽性の同定
形質転換された細胞を有するプレートから、12~24の単クローンのコロニーを選び出した。細胞をテンプレートとして用いて、ADH1-m-CF:TGGGAGAGAATGTTAAAGGT(配列番号:54)およびADH1-m-CR:TGACGGTCGTTAACTAAGAT(配列番号:55)の同定プライマーを使用するPCRによって、試料を検出した。PCRによって陽性を検査され、配列決定によって同定された株を、陽性の株として決定し、それぞれ、ADH1 H124KおよびADH1 H124Rと名付けた。
[実施例6]
CRISPR/Cas9によるADH1 H47およびH124部位の同時部位特異的変異
6.1 KlADH1 CRISPR gRNA配列の決定
KlADH1中に設計された点変異にしたがって、PAM配列(NGG)を選択し、対応するgRNA配列を決定した。本実施例においてgRNAを選択するための原理は以下のとおりである:gRNAは設計された変異部位の近くにあるべきであり、GC含量は中程度(40%~60%)であるべきであり、ポリT構造の存在は回避すべきである。この実施形態において、KlADH1 gRNA1配列は、TGGGTGAAAACGTCAAGGGC(配列番号:33)である。
【0172】
プラスミド構築および形質転換のための方法は以下のとおりである:プライマーpCas9-KlADH1-gRNA1-PF:TGGGTGAAAACGTCAAGGGCGTTTTAGAGCTAGAAATAGC(配列番号:34)およびpCas9-KlADH1-gRNA1-PR:GCCCTTGACGTTTTCACCCAAAAGTCCCATTCGCCACCCG(配列番号:35)を使用し、pCASプラスミドをテンプレートとして使用して、PCR増幅を行った。17μLの増幅された生成物を採取し、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートした。10μLのDpnI処理された混合物を50μLのDH5αコンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で45秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Kan耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。2つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMCas9_StR_KlADH1と名付けた。
6.2 ドナーDNAプラスミドの構築および増幅
本実施例では、直鎖ドナーDNAの保存および増幅を容易にするために、ドナーDNAをpKMD1プラスミド中にまず挿入し、次いで、直鎖ドナーDNA配列を得るためにPCRによって増幅した。
【0173】
pKMD1プラスミドをテンプレートとして用いて、pKMD1-PF:ATCGTCGACCTGCAGGCATG(配列番号:36)およびpKMD1-PR:ATCTCTAGAGGATCCCCGGG(配列番号:37)のプライマーを使用することによって、PCR増幅過程を実行した。17μLの増幅された生成物を採取し、次いで、1μLのDpnIおよび2μLの10×消化緩衝液を加え、混合した後、37℃で3時間、混合物をインキュベートし、プラスミド骨格の直鎖断片pKMD1-Tを得た。
6.2.1 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47KH124Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47K-PR:AGCATGAAGGTCAGTTTTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:44)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47KH124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47K-PF:GTAAAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:45)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47KH124K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124K-PR:CCATCTTTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:60)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47KH124K-F3と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124K-PF:CTTGAGTGGATATACAAAAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:61)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47KH124K-F4と名付けた。
【0174】
増幅された生成物KlADH1-H47KH124K-F1、KlADH1-H47KH124K-F2、KlADH1-H47KH124K-F3、KlADH1-H47KH124K-F4およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixを添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47KH124Kと名付けた。
6.2.2 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47NH124Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47N-PR:AGCATGAAGGTCAGTATTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:48)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47NH124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47N-PF:GTAATACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:49)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47NH124K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124K-PR:CCATCTTTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:60)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47NH124K-F3と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124K-PF:CTTGAGTGGATATACAAAAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:61)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47NH124K-F4と名付けた。
【0175】
増幅された生成物KlADH1-H47NH124K-F1、KlADH1-H47NH124K-F2、KlADH1-H47NH124K-F3、KlADH1-H47NH124K-F4およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixを添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47NH124Kと名付けた。
6.2.3 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47QH124Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47Q-PR:AGCATGAAGGTCAGTTTGACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:50)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47QH124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47Q-PF:GTCAAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:51)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47QH124K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124K-PR:CCATCTTTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:60)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47QH124K-F3と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124K-PF:CTTGAGTGGATATACAAAAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:61)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47QH124K-F4と名付けた。
【0176】
増幅された生成物KlADH1-H47QH124K-F1、KlADH1-H47QH124K-F2、KlADH1-H47QH124K-F3、KlADH1-H47QH124K-F4およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixを添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47QH124Kと名付けた。
6.2.4 ドナープラスミドpKMD1-KlADH1-H47RH124Kの構築
Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-HR1-PF:TCGAGCTCGGTACCCGGGGATCCTCTAGAGATCATGGACAATACGTTACCGAGATGAGG(配列番号:38)およびKlADH1-H47R-PR:AGCATGAAGGTCAGTTCTACAGACACCGGAGTACTTGACG(配列番号:52)のプライマーを使用することによって、1つのPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47RH124K-F1と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H47R-PF:GTAGAACTGACCTTCATGCTTGGAAGGGTGACTGGCCTTTG(配列番号:53)およびKlADH1-gRNA1-m-PR:CCAACCTTTAACATTCTCTCCCATAGCAACAACGACACCAG(配列番号:46)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47RH124K-F2と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-gRNA1-m-PF:GGGAGAGAATGTTAAAGGTTGGAAGATTGGTGACTTCGCTGG(配列番号:47)およびKlADH1-H124K-PR:CCATCTTTTGTATATCCACTCAAGTCAGCTTCTGGACAGTTGG(配列番号:60)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47RH124K-F3と名付けた;Kluyveromyces lactisゲノムDNAをテンプレートとして用いて、KlADH1-H124K-PF:CTTGAGTGGATATACAAAAGATGGTTCTTTCCAACAATACGCTACTGC(配列番号:61)およびKlADH1-HR2-PR:TGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACGATCTTATACTGGGTAGATTTCAAACGGGAC(配列番号:41)のプライマーを使用することによって、別のPCR増幅過程を実施し、生成物をKlADH1-H47RH124K-F4と名付けた。
【0177】
増幅された生成物KlADH1-H47RH124K-F1、KlADH1-H47RH124K-F2、KlADH1-H47RH124K-F3、KlADH1-H47RH124K-F4およびpKMD1-Tのそれぞれ1μLを混合し、5μLのCloning Mixを添加した。混合後、50℃の水中に1時間、混合物を浸漬した。水浴後、混合物を2分間氷上に置いた。10μLの反応混合物を全て、50μLのTrans-T1コンピテント細胞中に加えた。混合物を30分間氷上に置き、42℃で30秒間、熱ショックを加えた後、1mLのLB液体培地を添加し、次いで、37℃で1時間、振盪しながら培養した。その後、Amp耐性LB固体培地上に混合物を被覆し、次いで、単クローンのコロニーが成長するまで、37℃で反転培養を実施した。6つの単クローンのコロニーを選び出し、次いで、LB液体培地中で振盪しながら培養した。PCR陽性と検出され、配列決定によって確認された後、プラスミドを抽出および保存し、pKMD1-KlADH1-H47RH124Kと名付けた。
6.3 K.lactisの電気形質転換(実施例2.3と同じ)
6.4 陽性の同定
形質転換された細胞を有するプレートから、12~24の単クローンのコロニーを選び出した。細胞をテンプレートとして用いて、ADH1-m-CF:TGGGAGAGAATGTTAAAGGT(配列番号:54)およびADH1-m-CR:TGACGGTCGTTAACTAAGAT(配列番号:55)の同定プライマーを使用するPCRによって、試料を検出した。PCRによって陽性を検査され、配列決定によって同定された株を、陽性の株として決定し、それぞれ、ADH1 H47KH124K、ADH1 H47NH124K、ADH1 H47QH124KおよびADH1 H47RH124Kと名付けた。
[実施例7]
KlADH1改造された細胞株の内因性タンパク質のNi媒体への結合能力の分析
7.1 タンパク質精製系のための試薬調製
結合緩衝液:0.5M NaCl、20mM Tris-HCl、5mMイミダゾール、pH7.9。
【0178】
洗浄緩衝液:0.5M NaCl、20mM Tris-HCl、60mMイミダゾール、pH7.9。
7.2 KlADH1改造された細胞株中の内因性タンパク質の精製および内因性タンパク質のNi媒体への結合能力の分析
結合緩衝液によって、Ni-NTAビーズを平衡化し、適切な量のKlADH1改造された細胞株の細胞溶解物を添加し、4℃で60分間インキュベートし、洗浄緩衝液でビーズを洗浄し、洗浄緩衝液の除去後に、少量の搭載緩衝液を加え、96℃で5分間の処理を実施した。上記試料をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。
[実施例8]
インビトロタンパク質合成系
8.1 インビトロタンパク質合成系のための保存溶液の調製
最終濃度:22mM 4-ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(7.4のpH)、30~150mM酢酸カリウム、1.0~5.0mM酢酸マグネシウム、1.5~4mMのヌクレオシド三リン酸(アデノシン三リン酸(ATP)、グアノシン三リン酸(GTP)、シチジン三リン酸(CTP)およびウリジン三リン酸(UTP))の混合物、0.08~0.24mMのアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、セリン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニンおよびヒスチジン)の混合物、25mMホスホクレアチン、1.7mMジチオスレイトール、0.27mg/mLクレアチンホスホキナーゼ、0.027~0.054mg/mL T7 RNAポリメラーゼ、1%~4%PEG、0.5%~2%スクロースおよび最後に添加される50体積%の細胞抽出物。
8.2 インビトロタンパク質合成反応
上記反応系を20~30℃の環境中に置き、反応のために、2~12時間、混合物を放置した。
【0179】
増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)の活性のアッセイ:反応の数時間後に、96ウェル白色プレートまたは384ウェル白色プレート中に、10μLの反応溶液を加え、その後に、Envision 2120多機能マイクロプレートリーダー(Perkin Elmer)中に、混合物を直ちに配置し、増強緑色蛍光タンパク質の活性を検出するために、吸光度を読み取り、ここで、活性の単位は、
図24に示されているように、相対的蛍光単位(RFU)値である。
[実施例9]
インビトロタンパク質合成および精製
9.1 インビトロタンパク質合成
野生型細胞株と比較して、ΔADH1細胞株は著しく低下した無細胞系転写-翻訳活性を有するのに対して、ADH1 H47K細胞株は明らかな変化を有さなかったという結果に照らして、ADH1 H47Kが、本発明者らのインビトロタンパク質合成研究のための材料となった。ADH1 H47K細胞株の無細胞転写-翻訳系を、N-His8-eGFPおよびN-His8-Strep-GFPのテンプレートとともに添加した。上記反応系を20~30℃の環境中に置き、2~12時間の反応のために混合物を放置した。
9.2 インビトロタンパク質精製
結合緩衝液によって、Ni-NTAビーズを平衡化し、適切な量の上記反応系を添加し、4℃で60分間インキュベートし、洗浄緩衝液でビーズを洗浄し、洗浄緩衝液の除去後に、少量の搭載緩衝液を加え、96℃で5分間の処理を実施した。上記試料をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。結果が、
図25に示されている。
本発明の実施例の結果は、以下のことを示す。
【0180】
本発明の実施例7の結果は、野生型細胞株と比べて、本発明の改造された細胞株によってNi媒体への親和性は全て、著しく低下されることを示した。
【0181】
それらのうち、ΔADH1、ADH1 H47K、ADH1 H47N、ADH1 H51R、ADH1 H124K、ADH1 H47KH124KおよびADH1 H47NH124Kなどの細胞株は、Ni媒体と最も低い親和性を有した。
【0182】
ΔADH1、ADH1 H47K、ADH1 H47N、ADH1 H51R、ADH1 H124K、ADH1 H47KH124KおよびADH1 H47NH124KはNi媒体に対して類似の親和性を有し、本発明は、無細胞系転写-翻訳活性を分析するために、ΔADH1およびADH1 H47Kを選択した。
【0183】
結果を
図24に示した。野生型無細胞系の転写-翻訳活性の相対的蛍光単位(RFU)値は442であり、ΔADH1無細胞系のRFU値は12であって、これは野生型無細胞系のRFU値より著しく低く、ADH1遺伝子のノックアウトが無細胞系転写-翻訳活性に対して大きな負の影響を有したことを示している。ADH1 H47Kの無細胞系の相対的蛍光単位(RFU)値は419であり、野生型細胞株のRFU値と比較して著しい変化を有していなかった。
【0184】
他の変異細胞株の無細胞系転写-翻訳活性を分析するために、同じ方法を使用した。結果は、他の変異細胞株の無細胞系転写-翻訳活性の相対的蛍光単位(RFU)値は300~400であり、野生型細胞株の無細胞系転写-翻訳活性のRFU値と実質的に等しい値であった。
【0185】
さらに、本発明のKlADH1 H47Kの無細胞転写-翻訳系中での外来性タンパク質N-His8-eGFPおよびN-His8-Strep-eGFPの発現純度を分析した。結果を
図25に示した。野生型細胞株(WT)と比較して、KlADH1 H47K細胞株は37kDに著しく弱まったADH1タンパク質バンドを示し、KlADH1 H47Kの無細胞転写-翻訳系において、外来性タンパク質N-His8-eGFPおよびN-His8-Strep-eGFPの純度が著しく改善されたことを示している。
【0186】
同じ方法を使用することによって、他の変異細胞株の純度を分析した。結果は、外来性タンパク質N-His8-eGFPおよびN-His8-Strep-eGFPの純度が、野生型細胞株(WT)の純度と比較して、他の変異細胞株の無細胞転写-翻訳系においても著しく改善されることを示した。
【0187】
上記結果は全て、本発明におけるADHファミリータンパク質の部位特異的変異はADHファミリータンパク質のNi媒体への結合能力を低下させることができるのみならず、株の無細胞系転写-翻訳活性に影響を与えず、細胞株の無細胞系転写-翻訳系における外来性タンパク質の発現純度をさらに効果的に改善できることを示している。
【0188】
本発明で言及されている全ての文書は、各文献が参考文献として個別に引用されているのと同様に、本願における参考文献として引用される。さらに、当業者は、上記教示に照らして、本発明に様々な変更または改変を施すことができること、均等物も本願の添付された特許請求の範囲によって定義されている範囲に属することが理解されるべきである。
以下に、本願発明の実施態様を付記する。
[1] アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質であって、前記変異タンパク質が非天然タンパク質であり、前記変異タンパク質が野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)のアミノ酸45~149のうちに少なくとも1つのヒスチジン(H)の変異を有する、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質。
[2] 前記変異が、前記野生型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)の67、69、93および/または94位のヒスチジン(H)を含まない、[1]に記載の変異タンパク質。
[3] 前記ヒスチジンが、塩基性アミノ酸へ独立に変異されることができる、[1]または[2]に記載の変異タンパク質。
[4] 前記ヒスチジンが、以下の群:リジン(K)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、アルギニン(R)およびこれらの組み合わせから選択される1またはそれより多くのアミノ酸へ独立に変異されることができる、[1]または[2]に記載の変異タンパク質。
[5] 前記変異タンパク質が、酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼに基づく改造によって得られ、前記酵母が、好ましくはKluyveromyces、より好ましくはKluyveromyces lactisである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の変異タンパク質。
[6] 前記アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質のアミノ酸配列が、以下の群:
(a)そのアミノ酸配列が配列番号:2~13の任意の1つであるポリペプチド;
(b)配列番号:2~13に示されているアミノ酸配列を有するポリペプチドの1つに由来し、アルコールデヒドロゲナーゼ活性と前記変異タンパクのNi媒体への低下させた結合能力とを有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、配列番号:2~13に示されているアミノ酸配列の任意の1つ中の1または数個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加によって形成され、置換、欠失または付加に供されるアミノ酸残基の数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~15、より好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より好ましくは1~3、最も好ましくは1である;
(c)配列番号:2~13に示されている配列の任意の1つと少なくとも70%の配列相同性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%の配列相同性、より好ましくは少なくとも95%%、96%、97%、98%、99%の配列相同性を有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、アルコールデヒドロゲナーゼ活性と前記変異タンパク質のNi媒体への低下させた結合能力とを有する;
(d)配列番号:1、26、27または28に示されている配列と少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも85%または90%の相同性、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%または99%の相同性を有するポリペプチド;前記ポリペプチドは、アルコールデヒドロゲナーゼ活性と前記変異タンパク質のNi媒体への低下させた結合能力とを有する;
から選択される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の変異タンパク質。
[7] ポリヌクレオチドであって、前記ポリヌクレオチドが[1]~[6]のいずれか一項に記載の変異タンパク質をコードし、または[1]~[6]のいずれか一項に記載の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチドに相補的である、ポリヌクレオチド。
[8] [7]に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
[9] 宿主細胞であって、前記宿主細胞が[8]に記載のベクターを含有し、または前記宿主細胞がそのゲノム中に組み込まれた[7]に記載のポリヌクレオチドを有する、宿主細胞。
[10] [1]~[6]のいずれか一項に記載のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を製造するための方法であって、
[9]に記載の宿主細胞が、前記アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を発現させるために、発現に適した条件下で培養される工程と;および/または
前記アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質が単離される工程と
を含む方法。
[11] [1]~[6]のいずれか一項に記載のアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)変異タンパク質を含む酵素調製物。
[12] 酵素調製物を調製するための[1]~[6]のいずれか一項に記載の変異タンパク質の使用であって、前記酵素調製物が、(i)インビトロ無細胞合成系での前記外来性タンパク質の発現純度、効率および/もしくは収率を改善し、ならびに/または(ii)前記変異タンパク質のNi媒体への結合能力を低下させる、使用。
【配列表】