(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230904BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230904BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CES
C08L29/04 S
C08J5/18 CEX
(21)【出願番号】P 2021181402
(22)【出願日】2021-11-05
【審査請求日】2021-11-05
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202110668489.X
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁 志傑
(72)【発明者】
【氏名】林 文星
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-293948(JP,A)
【文献】特開2005-068324(JP,A)
【文献】国際公開第2019/039458(WO,A1)
【文献】特開2002-284885(JP,A)
【文献】特開2002-284811(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124233(WO,A1)
【文献】特開2018-131543(JP,A)
【文献】特開2020-007550(JP,A)
【文献】特開2020-143182(JP,A)
【文献】特開2021-028356(JP,A)
【文献】特開平11-320557(JP,A)
【文献】特開2008-308657(JP,A)
【文献】特開2000-128998(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118648(WO,A1)
【文献】特開2006-097033(JP,A)
【文献】特開2003-097772(JP,A)
【文献】特開2000-159907(JP,A)
【文献】特開2020-090646(JP,A)
【文献】特開2005-239902(JP,A)
【文献】特開2002-080606(JP,A)
【文献】特開2000-265024(JP,A)
【文献】特開2002-146142(JP,A)
【文献】特開2006-328195(JP,A)
【文献】特開2001-302799(JP,A)
【文献】特開2000-128996(JP,A)
【文献】特開2011-111473(JP,A)
【文献】特開2000-063528(JP,A)
【文献】特開2001-096529(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021422(WO,A1)
【文献】特開2000-265025(JP,A)
【文献】国際公開第2004/009313(WO,A1)
【文献】特開2015-143345(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110844(WO,A1)
【文献】特開平09-095583(JP,A)
【文献】特開2008-201432(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104513444(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含みペレット形態であるエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物であって、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物は、表面のコア部の空隙容積(Vvc)が0.010μm
3/μm
2より大きく且つ50μm
3/μm
2より小さく、且つ、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さい、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項2】
含水率が1%未満である、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂のエチレン含有量は20~48mole%の間である、請求項1又は2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂の鹸化度は99.5mole%よりも大きい、請求項1又は2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
表面の線の最大高さ(Rz)は0.01~9.9μmの間である、請求項1又は2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項6】
表面の静電圧は6kV未満である、請求項1又は2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項7】
エチレン含有量が異なる2種類以上のエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む、請求項1又は2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(ethylene-vinyl alcohol,EVOH)樹脂組成物に関するものである。エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物は高い表面均一性を有しており、特に表面のコア部の空隙容積(Vvc)が0.010μm3/μm2より大きく且つ50μm3/μm2より小さい。又は、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さい。本発明はさらに、EVOH樹脂組成物により形成されたフィルム及びEVOH樹脂組成物を含む多層構造体を開示する。
【背景技術】
【0002】
EVOH樹脂は多層体において広範に使用され、傷みやすい商品の保存に用いられている。例えば、EVOH樹脂や多層体は、一般的に、食品包装産業、医療機器及び付属品産業、製薬産業、電子産業並びに農業用化学品産業において使用されている。EVOH樹脂は、一般的に、別個の層として多層体中に加えられ、酸素バリア層として用いられている。
【0003】
現在公知であるEVOH樹脂により形成されたEVOHペレットは、表面粗さが大きく、ペレット間の摩擦が高いため、EVOHを加工する際のトルクが極めて高くなってしまう。従来においては、潤滑剤を添加することでEVOHの加工性を調整していたが、さらなる改善が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工時のトルク出力を低減し得るとともに、高い表面均一性を実現し得るEVOH樹脂に対する継続的需要に鑑みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、高い表面均一性を有する、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂組成物に関するものであり、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物は、例えば、表面のコア部の空隙容積(Vvc)が0.010μm3/μm2より大きく且つ50μm3/μm2より小さいか、又は、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さい、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂を含む。EVOH樹脂組成物は、ペレット、フィルム、繊維などの形態を呈し得る。EVOH樹脂組成物は、フィルム又は多層構造体の調製に用いることができる。発明者は、EVOHペレットの表面粗さをコントロールすることによって、EVOHを加工する際のトルク出力を低減し得るだけでなく、EVOHの表面に生じる静電気が招く微粉の表面吸着を減少させることができ、且つ成膜時に生じる気泡数が減少し、成膜後のフィルム厚みの均一性が改善されることを発見した。
【0006】
さらに/又は、上述のEVOH樹脂組成物は、表面の粗さ曲線の最大高さ(Rz)が約0.01~約9.5μmである。
【0007】
本発明の他の態様において提供するEVOH樹脂組成物(またはそのペレット)は、含水率が1%未満である。例えば、本発明のEVOH樹脂組成物は、表面のコア部の空隙容積が0.010μm3/μm2より大きく且つ40μm3/μm2より小さく、その含水率は1%未満である。又は、本発明のEVOH樹脂組成物は、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さく、その含水率は1%未満である。意外なことに、EVOHペレットの表面粗さ及び含水率を一定範囲内にコントロールすることによって、押出機内のトルク及び表面の静電性を低減し得ることが分かった。例えば、上述のEVOH樹脂組成物の表面の静電圧は6kv未満であり得る。本発明のEVOH樹脂組成物は、それにより形成されるフィルム及び多層構造体の気泡発生状態を改善することができる。
【0008】
さらに/又は、EVOH樹脂組成物中のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、99.5mole%又はより高い鹸化度を有することができる。EVOH樹脂組成物中のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂は、約20~約48mole%のエチレン含有量を有することができる。例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は、約25~約45mole%でよい。EVOH樹脂組成物は、異なるエチレン含有量を有する2種類以上のEVOHにより形成することができる。
【0009】
少なくとも1つの実施例による多層構造体は、(a)上述のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂により形成された少なくとも1つの層、(b)少なくとも1つのポリマー層、及び(c)少なくとも1つの粘着層を含む。ポリマー層は、例えば、低密度ポリエチレン層、ポリエチレングラフト化マレイン酸無水物(polyethylene grafted maleic anhydride)層、ポリプロピレン層及びナイロン層で組成されたグループから選択されたものでよい。粘着層は、結合層(tie layer)である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
以下、本発明の技術の実施について、添付図面を参照しつつ、例としてのみ記述する。
【0011】
【
図1】本発明を使用したコア部の空隙容積の例を説明する図である。
【
図2】本発明を使用した極点高さの例を説明する図である。
【0012】
なお、本発明の各態様は添付図面に示す配置、手段及び特性に限らないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂組成物に関するものである。EVOH樹脂組成物は良好な表面特性を有しており、特に表面のコア部の空隙容積(Vvc)が0.010μm3/μm2より大きく且つ50μm3/μm2より小さい。又は、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さい。EVOH樹脂組成物は、フィルム又は多層構造体の調製に用いることができる。発明者は、EVOHペレットの表面粗さをコントロールすることによって、EVOHを加工する際のトルク出力を低減し得るだけでなく、EVOHの表面に生じる静電気が招く微粉の表面吸着を減少させ得ることを発見した。
【0014】
上述のコア部の空隙容積(Vvc)とは、負荷面積率p%の空隙容積と負荷面積率q%の空隙容積との差異を指す(その定義はISO 25178:2012を参照する)。また、体積パラメータにより、コア部、突出ピーク部、突出ボトム部の大きさを定量化することもできる。
図1に示す通り、Vmpは突出ピーク部の体積を表し、Vmcはコア部の体積を表し、Vvcはコア部空間の容積を表し、Vvvは突出ボトム部の負荷面積率を表し、
図1のプリセット例では10%、80%が指定されている。上述のVvcは、例えば、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ50μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ45μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ40μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ35μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ30μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ25μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ20μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ15μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ10μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ5μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ1μm
3/μm
2より小さいか、0.010μm
3/μm
2より大きく且つ0.1μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ50μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ45μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ40μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ35μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ30μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ25μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ20μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ15μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ10μm
3/μm
2より小さいか、1μm
3/μm
2より大きく且つ5μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ50μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ45μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ40μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ35μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ30μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ25μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ20μm
3/μm
2より小さいか、10μm
3/μm
2より大きく且つ15μm
3/μm
2より小さいか、30μm
3/μm
2より大きく且つ50μm
3/μm
2より小さいか、30μm
3/μm
2より大きく且つ45μm
3/μm
2より小さいか、30μm
3/μm
2より大きく且つ40μm
3/μm
2より小さいか、又は30μm
3/μm
2より大きく且つ35μm
3/μm
2より小さくてよい。
【0015】
上述の極点高さ(Sxp)とは、負荷面積率p%と負荷面積率q%の高さの差異を指す(その定義はISO 25178:2012を参照する)。また、負荷曲線を使用して、Sxpを算出する。
図2に示す通り、Sxpは表面中の特に高いピークを除去した後の、表面平均面と表面ピーク部の高さの差異を表し、
図2のプリセット例中では、負荷面積率2.5%と50%の高さの差異が表されている。上述のSxpは、例えば、0.010より大きく且つ9.0 μmより小さい、0.010より大きく且つ7.0 μmより小さい、0.010より大きく且つ5.0 μmより小さい、0.010より大きく且つ3.0 μmより小さい、0.010より大きく且つ1.0 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.9 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.7 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.5 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.3 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.1 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.09 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.07 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.05 μmより小さい、0.010より大きく且つ0.03 μmより小さい、0.1より大きく且つ9.0 μmより小さい、0.1より大きく且つ7.0 μmより小さい、0.1より大きく且つ5.0 μmより小さい、0.1より大きく且つ3.0 μmより小さい、0.1より大きく且つ1.0 μmより小さい、0.1より大きく且つ0.9 μmより小さい、0.1より大きく且つ0.7 μmより小さい、0.1より大きく且つ0.5 μmより小さい、0.1より大きく且つ0.3 μmより小さい、1.0より大きく且つ9.0 μmより小さい、1.0より大きく且つ7.0 μmより小さい、1.0より大きく且つ5.0 μmより小さい、又は1.0より大きく且つ3.0 μmより小さくてよい。
【0016】
1つの態様では、本発明はEVOH樹脂組成物を提供する。EVOH樹脂組成物は、ペレット、フィルム、繊維などの形態を呈し得る。本明細書に記載のEVOHペレットとは、EVOH樹脂組成物の造粒を経て形成された1つ以上のペレットの形態及び/又は形状を指す。本発明の全文では、造粒を経て形成された1つ以上のEVOHペレット形態のEVOH樹脂組成物を記述しているが、EVOH樹脂組成物はビーズ、立方体、チップ、削りくずなどの形態に加工されてもよい。幾つかの実施例において、EVOH樹脂組成物はペレット形態であり、ペレット形態は、柱形状、円粒形状又は偏平形状でよく、柱形状は円柱形状、楕円柱形状、角柱形状でよく、円粒形状は円球形状、楕円球形状又は碁石形状でよい。
【0017】
上述のEVOH樹脂組成物の表面粗さの特徴は、線の最大高さ(Rz)によっても表すことができる(その定義はJIS B 0601 (2001版)を参照し、基準長さの輪郭線において、最高ピークの高さと最低ボトムの深さの合計である。。1つの実施例において、EVOH樹脂組成物の表面のRzは、約0.01μm~約9.9μmの間でよく、例えば、約0.01μm~約9.9μm、約0.01μm~約9.5μm、約0.01μm~約9μm、約0.01μm~約8.5μm、約0.01μm~約8μm、約0.01μm~約7.5μm、約0.01μm~約7μm、約0.01μm~約6.5μm、約0.01μm~約6μm、約0.01μm~約5.5μm、約0.01μm~約5μm、約0.01μm~約4.5μm、約0.01μm~約4μm、約0.01μm~約3.5μm、約0.01μm~約3μm、約0.01μm~約2.5μm、約0.01μm~約2μm、約0.01μm~約1.5μm、約0.01μm~約1μm、約0.02μm~約9.5μm、約0.02μm~約8.5μm、約0.02μm~約7.5μm、約0.02μm~約6.5μm、約0.02μm~約5.5μm、約0.02μm~約4.5μm、約0.02μm~約3.5μm、約0.02μm~約2.5μm、約0.02μm~約1.5μm、約0.1μm~約9.5μm、約0.1μm~約8.5μm、約0.1μm~約7.5μm、約0.1μm~約6.5μm、約0.1μm~約5.5μm、約0.1μm~約4.5μm、約0.1μm~約3.5μm、約0.1μm~約2.5μm、約0.1μm~約1.5μm、約1μm~約9.5μm、約1μm~約8.5μm、約1μm~約7.5μm、約1μm~約6.5μm、約1μm~約5.5μm、約1μm~約4.5μm、約1μm~約3.5μm、約1μm~約2.5μm、約1μm~約1.5μm、約5μm~約9.5μm、約5μm~約9μm、約5μm~約8.5μm、約5μm~約8μm、約5μm~約7.5μm、約5μm~約7μm、約5μm~約6.5μm又は約5μm~約6μmである。
【0018】
本発明のEVOH樹脂組成物は通常、特定の範囲の含水率を有しており、例えば、揮発分をEVOH樹脂組成物の含水率の評価とした場合、EVOH樹脂組成物の含水率は、1重量百分比(wt%)未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.01~1wt%の間、0.08~1wt%の間、又は0.05~1wt%の間であり得る。意外なことに、EVOH樹脂組成物の含水率を一定範囲にコントロールすることで、押出機内のトルク及び表面の静電性を低減し得るだけでなく、EVOH樹脂組成物により形成されたフィルム又は多層構造体の気泡形成を低減し得ることが分かった。
【0019】
本発明のEVOH樹脂組成物は、表面の静電圧が6kv未満であり得るが、例えば、6kv未満、5.5kv未満、5kv未満、4.5kv未満、4kv未満、3.5kv未満、3kv未満、2.5kv未満、2kv未満又は1kv未満である。
【0020】
EVOHペレットは、EVOHにより形成され、EVOHはエチレン含有量を有している。例えば、EVOHのエチレン含有量は、約20~約48mole%、約20~約45mole%、約25~約45mole%、約28~約42mole%又は約30~約40mole%でよい。EVOH樹脂組成物は、異なるエチレン含有量を有する2種類以上のEVOHにより形成することができる。例えば、そのうちの1種類のEVOHのエチレン含有量は、約20~約35mole%の範囲内でよく、例えば約24~約35mole%、約28~約35mole%、約20~約32mole%、約24~約32mole%、約28~約32mole%、約20~約30mole%又は約24~約30mole%である。さらに/又は、そのうちの1種類のEVOHのエチレン含有量は、約36~約48mole%の範囲内でよく、例えば約40~約48mole%、約44~約48mole%、約36~約45mole%又は約40~約45mole%である。しかし、幾つかの好ましい実施例において、EVOH樹脂組成物は、エチレン含有量が約20~約48mole%の単一のEVOHにより形成される。
【0021】
さらに/又は、EVOHの鹸化度は90mole%以上でよく、好適には95mole%以上、好適には97mole%以上、好適には99.5mole%以上である。
【0022】
EVOH樹脂組成物は、ある状況下において、ホウ素化合物及び/又はホウ酸及び/又はケイ皮酸及び/又はアルカリ金属及び/又は共役ポリエン及び/又は潤滑剤及び/又はアルカリ土類金属を含み得る。上述の物質は、EVOH樹脂組成物により良好な性質を付与し得る。
【0023】
典型的なEVOH樹脂組成物は、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びホウ素化合物を含むことができ、そのうち、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物のホウ素含有量は10~450ppmである。幾つかの状況において、EVOH樹脂組成物のホウ素含有量は、EVOH樹脂組成物の総重量に基づき、10~450ppm、10~約400ppm、10~約350ppm、10~約300ppm、10~約275ppm、10~約250ppm、10~約225ppm、10~約200ppm、10~約175ppm、約20~450ppm、約20~約400ppm、約20~約350ppm、約20~約300ppm、約20~約275ppm、約20~約250ppm、約20~約225ppm、約20~約200ppm、約20~約175ppm、約60~450ppm、約60~約400ppm、約60~約350ppm、約60~約300ppm、約60~約275ppm、約60~約250ppm、約60~約225ppm、約60~約200ppm、約60~約175ppm、約100~450ppm、約100~約400ppm、約100~約350ppm、約100~約300ppm、約100~約275ppm、約100~約250ppm、約100~約225ppm、約100~約200ppm、約100~約175ppm、約140~450ppm、約140~約400ppm、約140~約350ppm、約140~約300ppm、約140~約275ppm、約140~約250ppm、約140~約225ppm、約140~約200ppm、約180~約450ppm、約180~約400ppm、約180~約350ppm、約180~約300ppm、約180~約275ppm、約180~約250ppm、約180~約225ppm、約220~450ppm、約220~約400ppm、約220~約350ppm、約220~約300ppm、約220~約275ppmであり得る。EVOH樹脂組成物のホウ素含有量が一定範囲内にある場合、EVOH樹脂組成物の粘度が増加し、且つEVOH樹脂組成物がスクリューに粘着する機会が低減するか、又はスクリュー上のEVOHを除去することができ、これにより、材料に自浄機能を持たせて、フィルム厚みの均一性をさらに改善することができる。ある状況下において、ホウ素含有量が10~450ppmであるだけでなく、EVOH樹脂組成物はさらにケイ皮酸、アルカリ金属、共役ポリエン、アルカリ土類金属、それらの塩及び/又はそれらの混合物を含み得る。上述の物質は、一般的にEVOH樹脂組成物中でよく存在する物質であり、より良好な性質を持たせる。EVOH樹脂組成物中の単位重量あたりの共役ポリエン構造を有する化合物の含有量が1~30000ppmである場合、加熱着色がより抑制され、熱安定性をより優れたものにし得る。EVOH樹脂組成物中の単位重量あたりのアルカリ金属を有する化合物又はアルカリ土類金属を有する化合物の含有量が金属換算で1~1000ppmである場合、ロングラン成形性をより優れたものにし得る。
【0024】
ある状況下において、ホウ素化合物はホウ酸又はその金属塩を含み得る。金属塩の例として、ホウ酸カルシウム、ホウ酸コバルト、ホウ酸亜鉛(四ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛など)、ホウ酸アルミニウム・カリウム、ホウ酸アンモニウム(メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウムなど)、ホウ酸カドミウム(オルトホウ酸カドミウム、四ホウ酸カドミウムなど)、ホウ酸カリウム(メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウムなど)、ホウ酸銀(メタホウ酸銀、四ホウ酸銀など)、ホウ酸銅(ホウ酸第2銅、メタホウ酸銅、四ホウ酸銅など)、ホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウムなど)、ホウ酸鉛(メタホウ酸鉛、六ホウ酸鉛など)、ホウ酸ニッケル(オルトホウ酸ニッケル、二ホウ酸ニッケル、四ホウ酸ニッケル、八ホウ酸ニッケルなど)、ホウ酸バリウム(オルトホウ酸バリウム、メタホウ酸バリウム、二ホウ酸バリウム、四ホウ酸バリウムなど)、ホウ酸ビスマス、ホウ酸マグネシウム(オルトホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、メタホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウムなど)、ホウ酸マンガン(ホウ酸第1マンガン、メタホウ酸マンガン、四ホウ酸マンガンなど)、ホウ酸リチウム(メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウムなど)、それらの塩又はそれらの組み合わせを含むが、これらに限らない。例えばホウ砂、カーナイト、インヨーアイト、コトウ石、ザイベリ石/スーアン石(suanite)及びザイベリ石(szaibelyite)などのホウ酸塩鉱物などを含み得る。そのうち、ホウ砂、ホウ酸及びホウ酸ナトリウム(メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム及び八ホウ酸ナトリウムなど)を使用するのが好ましい。
【0025】
EVOH樹脂組成物は、アルカリ金属含有量約10~550 ppmを有することができる。上述のアルカリ金属含有量は、例えば、約10~550 ppm、約10~500 ppm、約10~450 ppm、約10~400 ppm、約10~350 ppm、約10~300 ppm、約10~250 ppm、約10~200 ppm、約10~150 ppm、約10~100 ppm、約10~50 ppm、約50~550 ppm、約50~500 ppm、約50~450 ppm、約50~400 ppm、約50~350 ppm、約50~300 ppm、約50~250 ppm、約50~200 ppm、約50~150 ppm、約50~100 ppm、約100~550 ppm、約100~500 ppm、約100~450 ppm、約100~400 ppm、約100~350 ppm、約100~300 ppm、約100~250 ppm、約100~200 ppm、約100~150 ppm、約200~550 ppm、約200~500 ppm、約200~450 ppm、約200~400 ppm、約200~350 ppm、約200~300 ppm、約200~250 ppm、約300~550 ppm、約300~500 ppm、約300~450 ppm、約300~400 ppm、約300~350 ppm、約400~550 ppm、約400~500 ppm、約400~450 ppm、又は約500~550 ppmでよい。
【0026】
EVOHペレットが円柱形状又は楕円柱形状である場合に、その高さの範囲は、1.5~5.0mm、1.7~5.0mm、2.2~5.0mm、2.4~5.0mm、2.6~5.0mm、2.8~5.0mm、3.0~5.0mm、3.2~5.0mm、3.4~5.0mm、3.6~5.0mm、3.8~5.0mm、4.0~5.0mm、1.7~4.5mm、1.7~4.4mm、1.7~4.2mm、1.7~4.0mm、1.7~3.8mm、1.7~3.6mm、1.7~3.4mm、1.7~3.2mm、1.7~3.0mmの間でよく、その断面積の長軸範囲は、1.5~5.0mm、1.7~5.0mm、2.2~5.0mm、2.4~5.0mm、2.6~5.0mm、2.8~5.0mm、3.0~5.0mm、3.2~5.0mm、3.4~5.0mm、3.6~5.0mm、3.8~5.0mm、4.0~5.0mm、1.7~4.5mm、1.7~4.4mm、1.7~4.2mm、1.7~4.0mm、1.7~3.8mm、1.7~3.6mm、1.7~3.4mm、1.7~3.2mm、1.7~3.0mmの間でよい。
【0027】
EVOHペレットが円粒形状である場合、円粒形状は円球形状、楕円球形状又は碁石形状でよく、ペレットの最大外径を長辺とし、長辺に垂直な断面のうち、面積が最大である断面中の最大直を短辺とする。長辺の範囲は、1.5~5.0mm、2.2~5.0mm、2.4~5.0mm、2.6~5.0mm、2.8~5.0mm、3.0~5.0mm、3.2~5.0mm、3.4~5.0mm、3.6~5.0mm、3.8~5.0mm、4.0~5.0mm、2.0~4.5mm、2.0~4.4mm、2.0~4.2mm、2.0~4.0mm、2.0~3.8mm、2.0~3.6mm、2.0~3.4mm、2.0~3.2mm、2.0~3.0mmの間でよく、短辺の範囲は、1.5~5.0mm、1.8~4.6mm、2.4~4.6mm、2.6~4.6mm、2.8~4.6mm、3.0~4.6mm、3.2~4.6mm、3.4~4.6mm、3.6~4.6mm、3.8~4.6mm、4.0~4.6mm、1.6~4.5mm、1.6~4.4mm、1.6~4.2mm、1.6~4.0mm、1.6~3.8mm、1.6~3.6mm、1.6~3.4mm、1.6~3.2mm、1.6~3.0mmの間でよい。
【0028】
上述のEVOH樹脂組成物は、それにより形成されるEVOHフィルムをより効率的に調製するのに役立つ。EVOHフィルムを調製する相応しい方法及び設備には、当業者が容易に理解できる方法及び設備を含むことができる。発明者は、EVOH樹脂組成物の表面粗さをコントロールすることで、EVOH樹脂組成物が押出機内のトルク及び表面の静電性を低減させ得るだけでなく、EVOH樹脂組成物により形成されたフィルム又は多層構造体の気泡形成を低減し得ると確信している。
【0029】
また別の態様では、本発明は多層構造体を提供し、それは少なくとも1つの本発明のEVOH樹脂組成物により形成された層、少なくとも1つのポリマー層、及び少なくとも1つの粘着剤層(adhesive layer)を有する。ポリマー層は、低密度ポリエチレン層、ポリエチレングラフト無水マレイン酸層、ポリプロピレン層、ナイロン層及びそれらの組み合わせから選択し得る。粘着剤層は、例えばARKEMA社のARKEMA OREVAC 18729などの結合層(tie layer)でよい。
【実施例】
【0030】
以下で提供する本発明の各態様の非限定的実施例は、主に本発明の各態様及びそれにより達成される効果を明らかにするためのものである。
[実施例1]
【0031】
以下では、EVOH樹脂組成物により形成されるEVOHペレットの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示する方法と同様の方法に基づき、非限定的実施例EVOH樹脂組成物を5種類(実施例EVOH1~5)、及び比較例EVOH樹脂組成物を5種類(比較例EVOH1~5)調製した。但し、実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5を調製する具体的な方法は、通常、1つ以上の面で以下に開示する方法と異なっている。
実施例EVOH1ペレット
【0032】
エチレン含有量が29mole%のエチレン酢酸ビニル共重合体(ethylene-vinyl acetate copolymer、以下では「EVAC」と呼ぶ)の鹸化を行い、鹸化度99.5%でEVOHポリマーを調製した。次に、EVOHをメタノールと水(比率は70:30)を含有した溶液中に溶解した。その後、溶液におけるEVOHの固体含有量は41wt.%となり、溶液を60℃下に置いた。
【0033】
水中ペレット製造(underwater pelletization)により、上述のメタノール、水及びEVOHの溶液の造粒を行った。具体的には、ポンプを使用して、上述のメタノール、水及びEVOHの溶液を流速120L/minで供給管に送り、次に直径2.8mmの吸込管へ送り、回転ナイフを用いて1500rpmでカットして、EVOHのペレットを得た。同時に、5℃の循環凝縮水を用いてEVOHペレットを冷却した。次に、EVOHペレットを遠心分離して、EVOH粒子を分離した。分離後のEVOH粒子を水で洗浄した後、EVOH粒子をホウ酸/酢酸ナトリウム溶液中に浸漬し、その濃度は最終製品のホウ素含有量及びアルカリ金属含有量により調整し、最後に3段階の異なる乾燥機の組み合わせによって乾燥を行い、長辺が3.0mm、短辺が2.4mmの円粒形状のEVOHペレットを得た。
【0034】
上述の三段階乾燥の状態は以下の通りである。第1段階の乾燥では、流動型乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、赤外線乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
実施例EVOH2ペレット
【0035】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、実施例EVOH2に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、実施例EVOH2のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、流動型乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
実施例EVOH3ペレット
【0036】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、実施例EVOH3に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、実施例EVOH3のEVOHペレットは、長辺1.5mm、短辺1.5mmのサイズで円粒形状のペレットに調製し、その三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、縦型乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、縦型乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、通気式回転型乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
実施例EVOH4ペレット
【0037】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、実施例EVOH4に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、実施例EVOH4のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、箱形乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、円筒攪拌乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
実施例EVOH5ペレット
【0038】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、実施例EVOH5に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、実施例EVOH5のEVOHペレットは、長辺5mm、短辺5mmのサイズで円粒形状のペレットに調製し、その三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、マイクロ波乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、通気式回転型乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
比較例EVOH1ペレット
【0039】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、比較例EVOH1に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、比較例EVOH1のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、気流式乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、箱形乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
比較例EVOH2ペレット
【0040】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、比較例EVOH2に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、比較例EVOH2のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、円筒攪拌乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、通気式回転型乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、ベルト式乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
比較例EVOH3ペレット
【0041】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、比較例EVOH3に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、比較例EVOH3のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、赤外線乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、円筒攪拌乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、気流式乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
比較例EVOH4ペレット
【0042】
実施例EVOH1ペレットと同様の工程を用いて、比較例EVOH4に用いられるEVOHペレットを調製した。但し、比較例EVOH4のEVOHペレットの調製時における三段階乾燥の状態は以下の通りとした。第1段階の乾燥では、赤外線乾燥機を用いて、80℃下で5時間乾燥した。第2段階の乾燥では、箱形乾燥機を用いて、100℃下で20時間乾燥した。第3段階の乾燥では、マイクロ波乾燥機を用いて、120℃下で20時間乾燥した。
比較例EVOH5ペレット
【0043】
エチレン含有量が32mole%のエチレン酢酸ビニル共重合体(ethylene-vinyl acetate copolymer、以下では「EVAC」と呼ぶ)の鹸化を行い、鹸化度99.5%でEVOHポリマーを調製した。次に、EVOHをメタノールと水(比率は70:30)を含有した溶液中に溶解した。その後、溶液におけるEVOHの固体含有量は41wt.%となり、溶液を60℃下に置いた。
【0044】
水中ペレット製造(underwater pelletization)により、上述のメタノール、水及びEVOHの溶液の造粒を行った。具体的には、ポンプを使用して、上述のメタノール、水及びEVOHの溶液を流速120L/minで供給管に送り、次に直径2.8mmの吸込管へ送り、回転ナイフを用いて1500rpmでカットした。5℃の水を添加して、EVOHペレットを冷却した。次に、EVOHペレットを遠心分離して、EVOH粒子を分離した。分離後のEVOH粒子を水で洗浄した後、流動型乾燥機を用いて、温度77℃の空気を0.7m/sの流速で吹き入れて1時間乾燥し、次に箱形乾燥機を用いて、温度120℃の窒素ガスを0.3m/sの流速で吹き入れて18時間乾燥し、最後に乾燥を経たEVOH樹脂組成物を得た。
【0045】
上述の箱形乾燥機、ベルト式乾燥機、マイクロ波乾燥機及び赤外線乾燥機は、「静止型乾燥機」に属する。縦型乾燥機及び流動型乾燥機は、「攪拌型乾燥機」に属する。円筒攪拌乾燥機、通気式回転型乾燥機及び気流式乾燥機は「強力攪拌型乾燥機」に属する。攪拌型乾燥機及び強力攪拌型乾燥機については、以下で簡単に説明する。
[攪拌型乾燥機](粒子が単一方向にのみ又はわずかに移動する)
● 縦型乾燥機:粒子全体が垂直に下を向き、熱風が平行に吹き送られる。
● 流動型乾燥機:熱風乾燥機と似ているが、風量が熱風乾燥機よりも大きく、風により粒子が上方に若干吹き動かされる。
[強力攪拌型乾燥機](粒子が2つ以上の方向に移動するか又は移動幅が激しい)
● 円筒攪拌乾燥機:外力を用いて攪拌するため、粒子が前後左右方向に衝突する。
● 通気式回転型乾燥機:乾燥時に粒子が管壁内で衝突する。
● 気流式乾燥機:風力が大きく、粒子を高速で移動させて、粒子を管壁内で衝突させる。
[実施例2]
【0046】
下記の方法に基づき、実施例EVOHペレット1~5を用いてそれぞれフィルムを形成した。実施例EVOHペレット1~5及び比較例EVOHペレット1~5を単層Tダイキャストフィルム押出機(光学制御システムMEV4)へ送り、フィルムを調製した。実施例EVOHペレット1~5及び比較例EVOHペレット1~5により形成された各フィルムの厚さは20μmであった。押出機の温度は220℃に設定し、金型(即ちTダイ)の温度は230℃に設定した。スクリューの回転数は7rpm(rotations/minutes)とした。
[実施例3]
【0047】
実施例EVOHペレット1~5及び比較例EVOHペレット1~5の評価を行い、これらのEVOHペレット及びそれらにより形成されたフィルムの性質を判断した。上述の通り、実施例1に記載の方法と類似の方法に基づき、実施例EVOHペレット1~5を調製した。但し、EVOHペレット1~5の調製方法は、調製するEVOHペレットについて、異なったVvc、Sxp、ペレット含水率又はRzを有するという面で異なっている。比較例EVOHペレット1~5についても、実施例1に記載したのと類似の方法に基づいて調製した。
【0048】
押出機の平均トルク、押出機の電流、EVOHペレット表面の静電気、微粉付着率及びフィルム厚みの均一性をさらに評価した。実施例2に記載したのと同様の方法に従って、実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5それぞれによりフィルムを形成し、フィルムに対する評価を行って、フィルムの気泡を判断した。
【0049】
下記表1は、実施例EVOHペレット1~5及び比較例EVOHペレット1~5における幾つかの属性の概要であり、即ち、Vvc、Sxp、ペレット含水率、Rz、押出機の平均トルク、押出機の電流、EVOHペレット表面の静電気、微粉付着率及びフィルム厚みの均一性、並びに実施例EVOHペレット1~5及び比較例EVOHペレット1~5により形成されたフィルムの気泡発生状態である。
【0050】
【0051】
各実施例及び比較例のホウ素含有量は、下記方法により測定した。最初に、濃硝酸とマイクロ波を用いて0.1 g EVOHペレット試料を分解し、EVOHペレットに試料溶液を形成させた。次に試料溶液を純水で希釈して濃度を0.75mg/mlに調整した。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP emission spectrochemical analysis deviceICP-OES); 分析計:iCAP7000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、Thermo)を用いて、試料溶液中のホウ素含有量を測定する。使用したホウ素化合物から誘導されるホウ素含有量と対応する測定値のことを指す。
【0052】
また、各実施例及び比較例のEVOHペレット中のアルカリ金属含有量も測定した。上述のEVOHペレット2gを白金皿に採取し、硫酸を数mL添加してガスバーナーで加熱した。ペレットが炭化して硫酸白煙がなくなるのを確認した後、数滴硫酸を添加して再び加熱した。この操作を有機物がなくなるまで繰り返し、完全に灰化させた。灰化が終わった容器を放冷し、塩酸を1mL添加して溶解させた。この塩酸溶液を超純水で洗浄し、50mLに定容した。この試料溶液中のアルカリ金属含有量を誘導結合プラズマ発光分析計(ICP-AES)(AgilentTechnology社製、720-ES型)によって測定した。最終的に、溶液中のアルカリ金属濃度から、上述のEVOH組成物ペレット中のアルカリ金属含有量として換算した。
【0053】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5のペレットの表面粗さを評価するために、EVOHペレットをプレート上に平置きして、ペレットの表面粗さを測定して、測定時に傾斜度が0.5より大きい部分のデータは排除して、走査平面が相対的に水平な状態であるよう確保する必要がある(傾斜度=面最大高さSz/解析範囲の辺の長さ129μm)。レーザ顕微鏡は、Olympus製のLEXT OLS5000-SAFであり、画像は24±3℃の空気温度及び63±3%の相対的湿度下で生成した。濾波器は濾波なしに設定した。光源は405nm-波長の光源とした。対物レンズは拡大率100xとした(MPLAPON-100xLEXT)。光学ズームは1.0xに設定した。画像面積は129μm x 129μmに設定した(Rzを測定するとき、画像面積の中心線を測定する)。解像度は1024画素 x 1024画素に設定した。100個のペレットの数値を測定し、その平均値をとった。その中、VvcとSxpはISO 25178:2012方法を用いて測定し、RzはJIS B 0601(2001)方法を用いて測定する。
【0054】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5の含水率の評価は、ISO 14663-2 Annex Aの方法を用いて解析した。
【0055】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5の加工時における押出機のトルク計算及び電流計算については、単軸スクリュー押出機を用いてEVOHペレットの押し出しを行った時に(型式はME25/5800V4、ブランドはOCS)、押出機のトルク値及び電流値を測定した。押し出し条件は以下の通りとした。スクリュー温度は、Zone1 195℃、Zone2 215℃、Zone3 220℃、Zone4 230℃、Zone5 230℃とした。スクリュー回転数は7rpmとした。トルクが30Torque未満である場合、「O」により最良であることを示した。トルクが30~50Torqueである場合、「Δ」によりまずまずであることを示した。トルクが50Torque超える場合、「X」により不良であることを示した。電流が30オングストローム未満である場合、「O」により最良であることを示した。電流が30~50オングストロームである場合、「Δ」によりまずまずであることを示した。電流が50オングストロームを超える場合、「X」により不良であることを示した。
【0056】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5のペレット表面の静電気の評価では、100gのEVOHペレットを南亞製のPE袋(L28*W41cm)内に入れて1分間揺り動かし、ANSI/ESD STM3.1を用いてペレット表面の静電圧を測定した(型式はDZ4、ブランドはSHISHDO)。静電気が5KV未満である場合、「O」により最良であることを示した。静電気が5~10KVである場合、「Δ」によりまずまずであることを示した。静電気が10KV超える場合、「X」により不良であることを示した。
【0057】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5のフィルム厚みの均一性の評価では、制御評価時に、正常に押し出されたフィルムの状態は平均厚さ25μmとし、フィルム厚みが不均一な状況については、10*10cmのフィルム面を選び、均等に9か所に印をつけ、厚さが本来の理論の±10μm以上であるものが5か所を上回った場合に、フィルム厚みが不均一であるとした。フィルム厚みが正常である場合、「O」により示した。フィルム厚みが不均一である場合、「Δ」により示した。フィルム破れの場合、「X」により示した。
【0058】
実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5の微粉付着率の評価では、100gのEVOHペレット及び10gの微粉(Size100μm未満)を南亞製のPE袋(L28*W41cm)内に入れて1分間揺り動かし、ペレットを取り出して、ポリ袋内に残った微粉量を測定した。計算は以下の通り行った。
微粉付着率=(10-ポリ袋内の微粉残留量)/10*100%
微粉付着率が1%未満である場合、「O」により最良であることを示した。微粉付着率が1~3%である場合、「Δ」によりまずまずであることを示した。微粉付着率が>3%である場合、「X」により不良であることを示した。
【0059】
結果、実施例EVOH1~5は低いトルク出力(10~31Torque)、電流(10~45.5オングストローム)及び低い静電特性(0.89~5.21KV)を有しており、実施例EVOH1~5は良好な加工トルク出力及び静電特性を表すことが示された。また、実施例EVOH1~5の微粉付着率はいずれもかなり低く、0~1.5%しかないため、EVOH樹脂組成物の表面に生じる静電気が招く微粉の表面吸着を確かに減少させることが示された。
【0060】
表1の比較から、発明者は、EVOHペレットの加工時に使用した三段階の異なった乾燥機の組み合わせにより、本発明が期待する表面粗さを得ることができ、以下の特性を有することを発見した。
● 第1段階の乾燥では、強力攪拌型乾燥機は使用できない:第1段階のペレットは含水率が高く、ペレットが軟らかいため、強力攪拌型乾燥機を使用するとペレット表面が擦れやすく、ペレットの表面粗さが増加してしまう。
● 第2、第3段階のどちらの乾燥にも強力攪拌型乾燥機を使用することはできない:第2、第3段階の乾燥において、どちらにも強力攪拌型乾燥機を使用した場合、ペレットが長時間摩擦されるため、表面粗さが高くなってしまう。
【0061】
本発明を測定した結果、EVOHの表面粗さを特定の範囲内にコントロールするだけで、単軸スクリュー押出機内のトルク及び表面の静電特性を低減することができていた。表1が示す通り、比較例EVOH1、2及び3は、本明細書に記載の所望範囲を上回るVvc及びSxpを有しており、測定の結果、いずれも高いトルク出力(158~188Torque)、押出機の電流(231.7~275オングストローム)及び静電特性(13.62~23.22KV)を有していた。比較例4及び5は、本明細書に記載の所望範囲を上回るVvc及びSxpを有することにより、粒子間の摩擦力不足による滑り現象が生じて、排出が不安定になり、成膜後のフィルム厚みの均一性が不良になっていた。
【0062】
また、実施例EVOH1~5及び比較例EVOH1~5により形成されたフィルムに対する気泡計算では、単軸スクリュー押出機を用いてEVOHペレットを20μmのフィルムに調製し、10*10cmのブロックを5つ選んで、各ブロックの気泡の有無を肉眼で観察した。選んだ5つのブロックの気泡数は、気泡数が0である場合、「O」により最良であることを示した。気泡数が1つより多く3つより少ない場合、「Δ」によりまずまずであることを示した。気泡数が3つより多い場合、「X」により不良であることを示した。
【0063】
実施例EVOH1~5により形成されたフィルムはいずれも気泡が発生しておらず、優れた特性を表していた。これにより、意外なことに、本発明がさらに得ることのできる好ましい実施形態は、ペレットの含水率を一定範囲にコントロールすることで、EVOHの成膜時における気泡の発生を効果的に減少し得ることが分かった。
【0064】
表1の比較から、発明者は、EVOHペレットの加工時に使用した3段階の異なった乾燥機の組み合わせにより、調製されたEVOHペレットが本発明の期待する含水率(本明細書では揮発分により計算する)を得ることができ、以下の特性を有することを発見した。
● 3段階の乾燥のすべてに静止型乾燥機を使用することは避けるのが好ましい:いずれにも静止型乾燥機を用いた場合、乾燥速度が遅いため、ペレットの含水率が高くなる可能性がある。
【0065】
要約すると、本発明のEVOH樹脂組成物は低い表面粗さを有しており、特に表面のコア部の空隙容積(Vvc)が0.010μm3/μm2より大きく且つ50μm3/μm2より小さい。又は、表面の極点高さ(Sxp)が0.010より大きく且つ9.0μmより小さいである。EVOH樹脂組成物の表面粗さ及び含水率のコントロールは、EVOH製造工程の乾燥段階における3段階の異なった乾燥機の使用により達成することができる。EVOH樹脂組成物は、フィルム又は多層構造体の調製に用いることができる。発明者は、EVOHペレットの表面粗さをコントロールすることによって、EVOHを加工する際のトルク出力を低減し得るだけでなく、EVOHの表面に生じる静電気が招く微粉の表面吸着を減少させ得ること、また良好なフィルム厚みの均一性を提供し得ることを発見した。
【0066】
本明細書において提供する全ての範囲は、割り当て範囲内における各特定の範囲及び割り当て範囲の間の二次範囲の組み合わせを含むという意味である。また、別段の説明がない限り、本明細書が提供する全ての範囲は、いずれも範囲のエンドポイントを含む。従って、範囲1~5は、具体的には1、2、3、4及び5、並びに2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などの二次範囲を含む。
【0067】
本明細書において参照される全ての刊行物及び特許出願はいずれも参照により本明細書に組み込まれ、且つありとあらゆる目的から、各刊行物又は特許出願はいずれも各々参照により本明細書に組み込まれることを明確且つ個々に示している。本明細書と参照により本明細書に組み込まれるあらゆる刊行物又は特許出願との間に不一致が存在する場合には、本明細書に準ずる。
【0068】
本明細書で使用する「含む」、「有する」及び「包含する」という用語は、開放的、非限定的な意味を有する。「1」及び「当該」という用語は、複数及び単数を含むと理解されるべきである。「1つ以上」という用語は、「少なくとも1つ」を指し、従って単一の特性又は混合物/組み合わせた特性を含むことができる。
【0069】
操作の実施例中又は他の指示する場所を除き、成分及び/又は反応条件の量を示す全ての数字は、全ての場合においていずれも「約」という用語を用いて修飾することができ、示した数字の±5%以内であるという意味である。本明細書で使用する「基本的に含まない」又は「実質的に含まない」という用語は、特定の特性が約2%未満であることを意味する。本明細書中に明確に記載されている全ての要素又は特性は、特許請求の範囲から否定的に除外することができる。