(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20230904BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230904BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
F02D29/00 C
F02D29/02 301Z
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
(21)【出願番号】P 2021561182
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035372
(87)【国際公開番号】W WO2021106327
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019214838
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 純一
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-352340(JP,A)
【文献】特開2016-200093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
F02D 29/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の発進操作を検出したときに、車速が所定の解除閾値に到達するまでの期間、ドライバのアクセル操作量に応じた基本発進時目標回転数(N2)
から、内燃機関(10)の目標トルク(T7)を所定の上限トルク(T3)以下に制限するための余剰回転数(N21)を減算して、前記内燃機関(10)の発進時目標回転数(N3)を設定する発進時目標回転数設定部(51)と、
前記内燃機関(10)の目標アイドル回転数(N1)又は前記発進時目標回転数(N3)のうちのいずれか大きい方の値
(N4)から現在の前記内燃機関(10)の回転数(N)を減算した差分がゼロに収束するように前記内燃機関(10)の
基本アイドル回転制御トルク(T2
´)を設定
し、前記基本アイドル回転制御トルク(T2´)と前記所定の上限トルク(T3)のうちのいずれか小さい方の値をアイドル回転制御トルク(T2)とするアイドル回転制御トルク算出部(53)と、
要求トルク(T6)の変化速度が所定の閾値を超えないように、前記ドライバのアクセル操作量に応じた基本ドライバ要求トルク(T1)
又は前記所定の上限トルク(T3)から前記アイドル回転制御トルク(T2)を減算した値(T3-T2)のうちのいずれか小さい方の値(T5)をダンピング処理して前記要求トルク(T6)を設定す
る要求トルク算出部(55)と、
前記アイドル回転制御トルク(T2)と前
記要求トルク(T6)とを加算し
て目標トルク(T7)を設定する目標トルク算出部(57)と、
前記目標トルク(T7)に基づいて前記内燃機関(10)を制御する機関制御部(59)と、
を備え、
前記アイドル回転制御トルク算出部(53)は、前記アイドル回転制御トルク(T2)と前記基本ドライバ要求トルク(T1)との和(T2+T1)が前記上限トルク(T3)を超える場合に
おける前記基本ドライバ要求トルク(T1)から前記値(T3-T2)を減算した差分トルク(T4)
に相当する前記余剰回転数(N21)を算出し、前記発進時目標回転数設定部(51)による演算に用いられる前記余剰回転数(N21)としてフィードバックする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記発進時目標回転数設定部(51)は、前記車速が所定の解除閾値に到達した場合に前記基本発進時目標回転数(N2)をゼロに設定する
ことを特徴とする請求項
1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の発進を補助して内燃機関が停止することを防ぐ制御装置が知られている。例えば、特許文献1には、登坂路や積載時における車両の発進を補助する発進補助装置であって、登坂路や積載時における車両の発進時にクラッチ断から半クラッチに至るまでアクセル踏込量に対する目標エンジン回転数を、平坦路や無積載時における車両の発進時よりも高くする発進補助装置が開示されている。
【0003】
従来、車両に搭載された内燃機関の制御として、演算パラメータとしてトルクを用いてトルクの演算を行うトルク制御が知られている。内燃機関のトルク制御には、アイドル運転時の内燃機関の回転数を所定の回転数に維持するためのアイドル回転トルク制御と、ドライバのアクセル操作による要求トルクの増減を内燃機関の挙動に反映させるドライバ要求トルク制御とがある。このうち、ドライバ要求トルク制御では、アクセルペダル踏込時のショックを低減するために、ドライバ要求トルクが増加する際の変化速度に制限をかける処理(以下、「ダンピング処理」ともいう)が行われている。一方、アイドル回転トルク制御では、目標アイドル回転数の維持に悪影響を与えないように、ダンピング処理は行われていない。
【0004】
また、内燃機関を制御するための最終的なトルク目標値である目標トルクの算出方法として、アイドル回転制御トルクとドライバ要求トルクとを加算する方法がある。二つの要求トルクを加算する方法によれば、アイドル運転状態からアクセルペダルを踏み込んだ場合の応答性が良いというメリットがある。
【0005】
また、車両の発進時に内燃機関を制御する方法として、目標トルクの最大値(最大トルク)を上限トルク以下に制限する制御も用いられている。この場合の上限トルクは、内燃機関の機械的な強度やスモークの発生領域等を考慮して設定される。この最大トルクを制限する制御は、アイドル回転制御トルクとドライバ要求トルクとの和が上限トルク以下となるように、トルクの和が上限トルクを超える分をあらかじめドライバ要求トルクから減算する。ダンピング処理後のドライバ要求トルクが確実に上限トルク以下となるように、減算される値は、ダンピング処理が行われる前のドライバ要求トルクとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、車両の発進時における発進性を向上させるために、クラッチ及びギヤの状態に基づいて車両の発進操作を検出したときに、車速が所定の閾値に到達するまでの期間にアイドル回転制御トルクを算出するための目標回転数を、アクセル操作量及びクラッチポジションに基づいて増大させる制御が行われる場合がある。当該制御が実行された場合には、アイドル回転制御トルクが大きくなって、アイドル回転制御トルクが上限トルクに到達することが考えられる。上述したように、上限トルクを超える余剰分のトルクをドライバ要求トルクから減算する制御によれば、アイドル回転制御トルクが上限トルクに到達した場合のドライバ要求トルクはゼロに制限されるが、アイドル回転制御トルクが上限トルクとなっているために、アイドル回転制御トルクとドライバ要求トルクとを加算した目標トルクはやはり上限トルクとなる。
【0008】
そして、車速が所定の閾値を超えて、アイドル回転制御トルクを算出するための目標回転数の増大が解除された場合に、アイドル回転制御トルクはゼロになり、ドライバ要求トルクがゼロに制限されることがなくなる。そうすると、ダンピング処理後のドライバ要求トルクの値がゼロから徐々に増加する。このため、アイドル回転制御トルク及びドライバ要求トルクを加算した目標トルクが、上限トルクから一時的に落ち込み、乗り心地が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、車両の発進時における乗り心地の低下を抑制可能な内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある観点によれば、車両の発進操作を検出したときに、車速が所定の解除閾値に到達するまでの期間、ドライバのアクセル操作量に応じた基本発進時目標回転数から、内燃機関の目標トルクを所定の上限トルク以下に制限するための余剰回転数を減算して、内燃機関の発進時目標回転数を設定する発進時目標回転数設定部と、内燃機関の目標アイドル回転数又は発進時目標回転数のうちのいずれか大きい方の値から現在の内燃機関の回転数を減算した差分がゼロに収束するように内燃機関の基本アイドル回転制御トルクを設定し、基本アイドル回転制御トルクと所定の上限トルクのうちのいずれか小さい方の値をアイドル回転制御トルクとするアイドル回転制御トルク算出部と、要求トルクの変化速度が所定の閾値を超えないように、ドライバのアクセル操作量に応じた基本ドライバ要求トルク又は所定の上限トルクからアイドル回転制御トルクを減算した値のうちのいずれか小さい方の値をダンピング処理して要求トルクを設定する要求トルク算出部と、アイドル回転制御トルクと要求トルクとを加算して目標トルクを設定する目標トルク算出部と、目標トルクに基づいて内燃機関を制御する機関制御部と、を備え、アイドル回転制御トルク算出部は、アイドル回転制御トルクと基本ドライバ要求トルクとの和が上限トルクを超える場合における基本ドライバ要求トルクから値を減算した差分トルクに相当する余剰回転数を算出し、発進時目標回転数設定部による演算に用いられる余剰回転数としてフィードバックする内燃機関の制御装置が提供される。
なお、本明細書に記載の「ドライバ要求トルク(T6)」は、内燃機関の要求トルクを示し、特許請求の範囲における「要求トルク(T6)」に相当する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、車両の発進時における乗り心地の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る制御装置により実行されるトルク制御の制御ロジックを示す説明図である。
【
図3】同実施形態に係る制御装置によるトルク制御のフローチャートである。
【
図4】参考例に係るトルク制御の制御ロジックを示す説明図である。
【
図5】参考例に係る制御装置による目標トルクの推移を示す説明図である。
【
図6】同実施形態に係る制御装置による目標トルクの推移を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
<1.内燃機関の制御装置の構成例>
まず、本実施形態に係る内燃機関の制御装置の構成例を説明する。
図1は、内燃機関の制御装置50の構成例を示す模式図である。
【0015】
制御装置50は、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンに例示される内燃機関10の駆動を制御する。以下、内燃機関10がディーゼルエンジンである場合を例に採って説明する。
【0016】
内燃機関10は、複数の気筒を備え、それぞれの気筒内をピストンが往復移動する。ピストンは、クランクシャフトの回転に伴って、クランクシャフトが1回転するごとに1往復移動する。内燃機関10は、それぞれの気筒に対応して燃料噴射弁を備えている。燃料噴射弁は、主として吸気行程において燃料を噴射し、気筒内に混合気を形成する。形成された混合気は、圧縮行程において自然発火して膨張してクランクシャフトを回転させる。燃料噴射弁の駆動は、制御装置50により制御される。内燃機関10の動力は、クランクシャフトを介して変速機21に伝達される。変速機21は、有段あるいは無段の変速機構を備え、クランクシャフトの回転数を所定のギヤ比で変速して駆動輪へ伝達する。
【0017】
内燃機関10は、クランクシャフトの回転角度を検出するクランク角センサ15を備える。クランク角センサ15のセンサ信号は、制御装置50に入力される。制御装置50は、入力されたセンサ信号に基づいてクランクシャフトの回転数、すなわち、内燃機関の回転数を検出する。変速機21は、車速を検出する車速センサ17を備える。車速センサ17のセンサ信号は、制御装置50に入力される。制御装置50は、入力されたセンサ信号に基づいて車速を検出する。
【0018】
制御装置50の一部又は全部は、例えばマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されている。あるいは、制御装置50の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、CPU(Central Processing Unit)等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0019】
図1には、制御装置50の機能構成が示されている。制御装置50は、発進時目標回転数設定部51、アイドル回転制御トルク算出部53、ドライバ要求トルク算出部55、目標トルク算出部57及び機関制御部59を備える。これらの各部は、具体的には、マイクロコンピュータ等によるプログラムの実行により実現される機能であってもよい。
【0020】
このほか、制御装置50は、一つ又は複数の通信用のインタフェースや駆動回路を備えている。また、制御装置50は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の図示しない記憶部を備える。記憶部には、マイクロコンピュータ等により実行されるプログラムや、演算処理に用いられる各種パラメータ、取得情報、演算結果等が記憶される。
【0021】
上述したように、制御装置50は、クランク角センサ15及び車速センサ17のセンサ信号を取得可能になっている。また、制御装置50は、ブレーキペダルの操作量(以下「ブレーキ操作量」ともいう)br、シフトレバーの位置(以下「シフトポジション」ともいう)ge、クラッチペダルの操作量(以下「クラッチ操作量」ともいう)cl及びアクセルペダルの操作量(以下「アクセル操作量」ともいう)acの情報を取得可能になっている。これらの情報は、例えば、ブレーキペダルセンサ31、シフトポジションセンサ33、クラッチペダルセンサ35及びアクセルペダルセンサ37のセンサ信号に基づいて取得することができる。
【0022】
発進時目標回転数設定部51は、車両の発進操作を検出したときに、車速Vがあらかじめ設定された所定の解除閾値V0に到達するまでの期間に、内燃機関10の発進時目標回転数N3を設定する。本実施形態において、発進時目標回転数設定部51は、基本発進時目標回転数N2及び余剰回転数N21に基づいて発進時目標回転数N3を設定する。
【0023】
基本発進時目標回転数N2は、車両が発進制御モードに設定されている場合に、アクセル操作量ac及びクラッチ操作量clに基づいて設定される回転数の目標値である。発進時目標回転数設定部51は、車両の発進操作が行われてから、アクセルペダルが踏み込まれた場合の発進性を向上させるために、アクセル操作量ac及びクラッチ操作量clに基づいて基本発進時目標回転数N2を増加させるように構成されている。例えば、発進時目標回転数設定部51は、アクセル操作量acが増加するほど、及び、クラッチ操作量clが減少するほど、基本発進時目標回転数N2を増大させる。
【0024】
発進時目標回転数設定部51は、例えば、ブレーキ操作量br、シフトポジションge及びクラッチ操作量clに基づいて発進制御モードをオンに設定する。具体的に、発進時目標回転数設定部51は、クラッチが開放されている状態でシフトポジションgeがインギヤの状態とされ、ブレーキペダルの踏込が解除された場合に、車両の発進操作が行われようとしていると検知して、発進制御モードをオンに設定する。
【0025】
また、発進時目標回転数設定部51は、発進制御モードがオンに設定された後、車速Vが所定の解除閾値V0に到達したとき、あるいは、ブレーキペダルが踏み込まれたとき等に発進制御モードをオフに設定する。発進制御モードがオフにされる解除閾値V0は、停止状態にあった車両が所定の車速に到達して、車両の発進操作が完了したと判定するための閾値である。
【0026】
余剰回転数N21は、アイドル回転制御トルクT2と基本ドライバ要求トルクT1との和T1+T2が所定の上限トルクT3を超える場合に、トルクの和T1+T2から上限トルクT3を減算した差分トルクT4に相当する余剰回転数N21である。つまり、発進時目標回転数N3で何ら制限をかけずに内燃機関10を駆動した場合の出力トルク(T2)と、アクセル操作量acに基づいて何ら制限をかけずに内燃機関10を駆動した場合の出力トルク(T1)との和を上限トルクT3以下に制限するために減少させるべき回転数である。発進時目標回転数設定部51は、基本発進時目標回転数N2から余剰回転数N21を減算した値を発進時目標回転数N3に設定する。
【0027】
アイドル回転制御トルク算出部53は、内燃機関10の目標アイドル回転数N1又は発進時目標回転数N3のうちのいずれか大きい方の値N4に基づいて内燃機関10のアイドル回転制御トルクT2を設定する。目標アイドル回転数N1は、内燃機関10のアイドル状態における回転数の目標値である。目標アイドル回転数N1は、例えば、外気温T_aに応じてあらかじめ設定されて記憶部に記憶されており、アイドル回転制御トルク算出部53は、外気温センサ等のセンサ信号に基づいて検出される外気温T_aに基づいて、目標アイドル回転数N1を求める。
【0028】
アイドル回転制御トルク算出部53は、上記のいずれか大きい方の値N4から現在の内燃機関10の回転数Nを減算した差分がゼロに収束するようにPI(Proportional-Integral)演算を行い、アイドル回転制御トルクT2を算出する。本実施形態においては、最終的に目標トルクT7が上限トルクT3を超えないように、アイドル回転制御トルク算出部53は、上記PI演算を行って得られた基本アイドル回転制御トルクT2´と上限トルクT3のうちのいずれか小さい方の値をアイドル回転制御トルクT2に設定する。
【0029】
ドライバ要求トルク算出部55は、アクセル操作量acに応じた基本ドライバ要求トルクT1に基づいて、変化速度が所定の閾値を超えないように内燃機関10のドライバ要求トルクT6を設定する。つまり、ドライバ要求トルク算出部55は、ドライバ要求トルクT6を設定する際にダンピング処理を行う。ダンピング処理は、例えば、ローパスフィルタに基づいて行われてもよい。これにより、アクセルペダルの踏込時のショックを低減することができる。なお、ドライバ要求トルク算出部55は、ドライバ要求トルクの減少時にはダンピング処理を行わないことが好ましい。車両の駆動トルクの低下のタイミングが遅れることを避けるためである。
【0030】
また、ドライバ要求トルク算出部55は、基本ドライバ要求トルクT1が、上限トルクT3からアイドル回転制御トルクT2を減算した残りのトルクの値(T3-T2)よりも大きい場合には、最終的な目標トルクT7が上限トルクT3を超えないように、上記の残りのトルクの値(T3-T2)に基づいてドライバ要求トルクT6を設定する。ダンピング処理を行う前の入力値として、上記の残りのトルクの値(T3-T2)を用いることによって、最終的な目標トルクT7が上限トルクT3を超えることを確実に防ぐことができる。
【0031】
目標トルク算出部57は、アイドル回転制御トルク算出部53により算出されたアイドル回転制御トルクT2と、ドライバ要求トルク算出部55により算出されたドライバ要求トルクT6とを加算して目標トルクT7を設定する。算出される目標トルクT7は、上限トルクT3を上限として設定されるため、車両の発進時においてアクセルペダルの踏込によるショックが低減される。
【0032】
機関制御部59は、目標トルク算出部57により設定された目標トルクT7に基づいて、内燃機関10を制御する。具体的に、機関制御部59は、内燃機関10の燃料噴射量、燃料噴射時期、空燃比等を制御することによって、目標トルクT7相当のトルクを内燃機関10から出力させる。
【0033】
<2.制御装置の動作>
ここまで、本実施形態に係る内燃機関の制御装置50の構成例を説明した。以下、本実施形態に係る内燃機関の制御装置50の動作例を説明する。
【0034】
図2は、制御装置50により実行されるトルク制御の制御ロジックを示す説明図である。アイドル回転制御トルクT2の演算ロジックから説明すると、まず、アクセル操作量ac及びクラッチ操作量clに基づいて求められる基本発進時目標回転数N2が求められる。車両が停止した状態において発進操作が検出され、発進制御モードReq_saがオンに設定されている場合、上記の基本発進時目標回転数N2がそのまま基本発進時目標回転数N2とされる。一方、発進制御モードReq_saがオフに設定されている場合、基本発進時目標回転数N2はゼロに設定される。
【0035】
次いで、基本発進時目標回転数N2から余剰回転数N21を減算して、発進時目標回転数N3が求められる。上述のとおり、余剰回転数N21は、最終的な目標トルクT7を上限トルクT3以下に制限するために減少させるべき回転数である。次いで、外気温T_aに応じて設定される目標アイドル回転数N1と、算出された発進時目標回転数N3とが比較され、いずれか大きい方の値N4から現在の内燃機関10の回転数Nを減算した差分がゼロに収束するようにPI演算が行われて基本アイドル回転制御トルクT2´が算出される。
【0036】
そして、最終的な目標トルクT7があらかじめ設定された上限トルクT3を超えないように、基本アイドル回転制御トルクT2´と上限トルクT3のうちのいずれか小さい方の値がアイドル回転制御トルクT2として設定される。
【0037】
なお、余剰回転数N21は、アクセル操作量ac及び内燃機関10の回転数Nに基づいて算出される基本ドライバ要求トルクT1から、上限トルクT3からアイドル回転制御トルクT2を減算した値(T3-T2)又は基本ドライバ要求トルクT1のうちのいずれか小さい方の値T5を減算した差分トルクT4をフィードバック演算することにより算出される。
【0038】
一方、ドライバ要求トルクT6の演算ロジックを説明すると、まず、アクセル操作量ac及び内燃機関10の回転数Nに基づいて基本ドライバ要求トルクT1が算出される。次いで、ドライバ要求トルクとアイドル回転制御トルクとの和が上限トルク(T3)以内となるように、基本ドライバ要求トルクT1と、上限トルクT3で制限されたアイドル回転制御トルクT2を減算した値(T3-T2)とが比較され、いずれか小さい方の値T5がダンピング処理されることによってドライバ要求トルクT6が算出される。
【0039】
このようにしてそれぞれ算出されたアイドル回転制御トルクT2とドライバ要求トルクT6が加算されて、最終的な目標トルクT7が算出される。つまり、本実施形態に係る制御装置50は、最終的な目標トルクT7を上限トルクT3以下に制限するために、ドライバ要求トルクT6ではなくアイドル回転制御トルクT2に制限をかける。また、制御装置50は、アイドル回転制御トルクT2及びドライバ要求トルクT6をそれぞれ算出し、これらを加算して目標トルクT7を算出した後に、目標トルクT7を上限トルクT3に抑える減算処理を行うのではなく、アイドル回転制御トルクT2を算出するために用いられる発進時目標回転数N4をあらかじめ減算処理している。これによって、内燃機関10から出力されるトルクを低下させるタイミングの遅れを抑制することができる。
【0040】
図3は、
図2に示した制御ロジックに基づき実行される内燃機関の制御装置50によるトルク制御のフローチャートを示す。
【0041】
まず、ドライバ要求トルク算出部55は、アクセル操作量ac及び内燃機関10の回転数Nに基づいて基本ドライバ要求トルクT1を算出する(ステップS11)。次いで、発進時目標回転数設定部51は、外気温T_aに基づいて目標アイドル回転数N1を設定する(ステップS13)。次いで、発進時目標回転数設定部51は、発進制御モードReq_saの設定情報を取得し(ステップS15)、発進制御モードReq_saがオンに設定されているか否かを判別する(ステップS17)。
【0042】
発進制御モードReq_saがオンに設定されている場合(S17/Yes)、発進時目標回転数設定部51は、アクセル操作量ac及びクラッチ操作量clに基づいて基本発進時目標回転数N2を設定する(ステップS19)。一方、発進制御モードReq_saがオフに設定されている場合(S17/No)、発進時目標回転数設定部51は、基本発進時目標回転数N2をゼロに設定する(ステップS21)。
【0043】
次いで、ドライバ要求トルク算出部55は、内燃機関10の回転数N等のパラメータに基づいて上限トルクT3を算出する(ステップS23)。次いで、アイドル回転制御トルク算出部53は、基本発進時目標回転数N2から現在の内燃機関10の回転数Nを減算した値がゼロに収束するようにPI演算を行ったときの基本アイドル回転制御トルクT2´を求め、当該基本アイドル回転制御トルクT2´と基本ドライバ要求トルクT1との和が上限トルクT3を超えているか否かを判別する(ステップS25)。
【0044】
基本ドライバ要求トルクT1と基本アイドル回転制御トルクT2´との和が上限トルクT3を超えている場合(S25/Yes)、アイドル回転制御トルク算出部53は、差分トルクT4((T1+T2)-T3)を算出する(ステップS27)。一方、基本ドライバ要求トルクT1と基本アイドル回転制御トルクT2´との和が上限トルクT3を超えていない場合(S25/No)、アイドル回転制御トルク算出部53は、差分トルクT4をゼロに設定する(ステップS29)。
【0045】
ステップS25~ステップS29の処理は、
図2に示す制御ロジックにおいては、上限トルクT3又は基本アイドル回転制御トルクT2´のいずれか小さい方の値であるアイドル回転制御トルクT2(=MIN(T2´,T3))を上限トルクT3から減算した値(T3-T2)又は基本ドライバ要求トルクT1のいずれか小さい方の値T5を、基本ドライバ要求トルクT1から減算して差分トルクT4を算出する部分に相当する。
【0046】
次いで、アイドル回転制御トルク算出部53は、算出された差分トルクT4に基づきフィードバック演算を行い、余剰回転数N21を算出する(ステップS31)。次いで、発進時目標回転数設定部51は、ステップS19又はS21で算出した基本発進時目標回転数N2から余剰回転数N21を減算して発進時目標回転数N3を設定する(ステップS33)。次いで、アイドル回転制御トルク算出部53は、発進時目標回転数N3又は目標アイドル回転数N1のうちのいずれか大きい方の値N4を算出する(ステップS35)。
【0047】
次いで、アイドル回転制御トルク算出部53は、算出した上記の値N4から現在の内燃機関10の回転数Nを減算した値がゼロに収束するようにPI演算を行い、基本アイドル回転制御トルクT2´を更新する(ステップS37)。次いで、アイドル回転制御トルク算出部53は、基本アイドル回転制御トルクT2´と上限トルクT3とを比較し、いずれか小さい方の値をアイドル回転制御トルクT2として算出する(ステップS39)。
【0048】
次いで、ドライバ要求トルク算出部55は、基本ドライバ要求トルクT1と上限トルクT3からアイドル回転制御トルクT2を減算した値(T3-T2)とを比較し、いずれか小さい方の値T5を算出する(ステップS41)。次いで、ドライバ要求トルク算出部55は、上記の値T5をローパスフィルタに基づいてダンピング処理し、ドライバ要求トルクT6を算出する(ステップS43)。
【0049】
次いで、目標トルク算出部57は、ステップS39で算出されたアイドル回転制御トルクT2と、ステップS43で算出されたドライバ要求トルクT6とを加算して最終的な目標トルクT7を設定する(ステップS45)。設定された目標トルクT7は、機関制御部59の制御パラメータとして用いられ、内燃機関10から出力されるトルクが制御される。制御装置50は、以上のステップS11~ステップS45の処理を繰り返し実行して、車両の発進時における内燃機関10のトルク制御を行う。
【0050】
このようにして、制御装置50は、ドライバ要求トルクT6ではなくアイドル回転制御トルクT2に制限をかけて最終的な目標トルクT7を算出する。このため、車速Vが所定の解除閾値V0に到達して発進時目標回転数がゼロに設定される時点で、アイドル回転制御トルクT2が上限トルクT3に到達し、ドライバ要求トルクT6がゼロに制限されることが避けられる。したがって、ドライバ要求トルクT6のダンピング処理も相俟って、発進制御モードがオンからオフに切り替わった場合の目標トルクT7の落ち込みが低減され、乗り心地の低下を抑制することができる。
【0051】
<3.作用>
次に、本実施形態に係る内燃機関の制御装置50による作用を説明する。
【0052】
まず、発進制御モードがオンからオフに切り替わったときに目標トルクT7が大きく落ち込む参考例を説明する。
図4は、参考例に係るトルク制御の制御ロジックを示す説明図であり、
図5は、当該制御ロジックに基づいて発進制御を実行した場合の目標トルクT7の推移を示す説明図である。
【0053】
図4に示すように、参考例に係る制御ロジックでは、基本ドライバ要求トルクT1とアイドル回転制御トルクT2との和が上限トルクT3を超える場合に、差分トルク(T4)に対応する余剰回転数(N21)をあらかじめ基本発進時目標回転数N2から減算する処理が行われない。
【0054】
図5に示すように、ブレーキペダルが踏み込まれ、シフトレバーがニュートラルの状態にあり、内燃機関10と変速機21とを接続するクラッチが接続され、アクセルペダルが開放された状態において、目標アイドル回転数N1に基づいて算出されるアイドル回転制御トルクT2が目標トルクT7に設定される(時刻ti1までの期間)。
【0055】
時刻ti1において、クラッチが開放され、時刻ti2において、シフトポジションがニュートラルの状態からインギヤの状態に切り替わり、さらに、時刻ti3において、ブレーキペダルが開放されたとする。そうすると、アクセルペダルが踏み込まれた際の応答性を向上させるために、基本発進時目標回転数N2が目標アイドル回転数N1よりも大きい値に設定される。これに伴って基本発進時目標回転数N2に基づいて算出されるアイドル回転制御トルクT2が目標トルクT7に設定される。アイドル回転制御トルクT2はPI演算されるために、時刻ti3以降アイドル回転制御トルクT2は漸増し、内燃機関10の回転数Nも漸増している。
【0056】
時刻ti4において、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセル操作量acに応じて設定される基本発進時目標回転数N2がさらに増大し、これに伴ってアイドル回転制御トルクT2が増大する。併せて、アクセル操作量ac及び内燃機関10の回転数Nに基づいて設定される基本ドライバ要求トルクT1が増大し、ドライバ要求トルクT6が増大する。このため、アイドル回転制御トルクT2とドライバ要求トルクT6とを加算した目標トルクT7も増大する。ドライバ要求トルクT6はダンピング処理されているため、ドライバ要求トルクT6及び目標トルクT7は漸増する。
【0057】
ただし、時刻ti4~時刻ti5までの間、アイドル回転制御トルクT2は上限トルクT3に達していないため、アイドル回転制御トルクT2は制限されていないものの、ドライバ要求トルクとアイドル回転制御トルクとの和が上限トルクT3以内となるように、上限トルクT3とアイドル回転制御トルクT2との差分(T3-T2)により基本ドライバ要求トルクT1が制限されている。
【0058】
時刻ti5において、クラッチが半クラッチ状態へ移行し始めると、さらに基本発進時目標回転数N2が増大する。そうすると、アイドル回転制御トルクT2が増大するため、目標トルクT7を上限トルクT3に制限するために、ドライバ要求トルクT6が減少する。そして、時刻ti6において、アイドル回転制御トルクT2が上限トルクT3に到達すると、以降のドライバ要求トルクT6はゼロに制限される。
【0059】
その状態で、時刻ti7において、車速Vが所定の解除閾値V0に到達すると、発進制御モードが解除されて基本発進時目標回転数N2がゼロに戻される。これによって、アイドル回転制御トルクT2がゼロになる一方、ダンピング処理されるドライバ要求トルクT6は、上限トルクT3になるまで漸増する。ダンピング処理されるドライバ要求トルクT6は、時間をかけて増大することから、発進制御モードが解除される時刻ti7の直後に目標トルクT7が大きく落ち込んでいる。
【0060】
図6は、本実施形態に係る内燃機関10の制御装置50による発進制御を実行した場合の目標トルクT7の推移を示す説明図である。
【0061】
アクセルペダルが踏み込まれる時刻ti4までは、アイドル回転制御トルクT2、ドライバ要求トルクT6及び目標トルクT7いずれも参考例の場合と同様に推移する。なお、アイドル回転制御トルクT2はPI演算されるために、時刻ti3以降アイドル回転制御トルクT2は漸増し、内燃機関10の回転数Nも漸増している。
【0062】
時刻ti4において、アクセルペダルが踏み込まれると、アクセル操作量ac及び内燃機関10の回転数Nに基づいて設定される基本ドライバ要求トルクT1が増大し、ドライバ要求トルクT6が増大する。このため、アイドル回転制御トルクT2とドライバ要求トルクT6とを加算した目標トルクT7も増大する。ドライバ要求トルクT6はダンピング処理されているため、ドライバ要求トルクT6及び目標トルクT7は漸増する。ただし、アクセル操作量acの増大に伴ってアイドル回転制御トルクT2が増大すると、基本ドライバ要求トルクT1とアイドル回転制御トルクT2との和が上限トルクT3を超えることになる。このため、本実施形態に係る制御装置50は、アイドル回転制御トルクT2を増大させていない。
【0063】
また、時刻ti5において、クラッチが半クラッチ状態へ移行し始めても、本実施形態に係る制御装置50は、アイドル回転制御トルクT2を増大させていない。その結果、時刻ti4~時刻ti5の間、目標トルクT7は上限トルクT3未満となっており、ドライバ要求トルクT6は、基本ドライバ要求トルクT1がダンピング処理された値に設定されている。
【0064】
その後、時刻ti8において、さらにアクセルペダルが踏み込まれると、基本ドライバ要求トルクT1がさらに増大し、これに伴ってドライバ要求トルクT6及び目標トルクT7も増大し始める。時刻ti8では、クラッチが半クラッチ状態となることから、内燃機関10の回転数Nは一旦低下している。ただし、基本ドライバ要求トルクT1の増大によって、基本ドライバ要求トルクT1とアイドル回転制御トルクT2との和が上限トルクT3に到達する。このため、目標トルクT7が上限トルクT3に到達する時刻ti9以降、ドライバ要求トルクT6は、基本ドライバ要求トルクT1ではなく、上限トルクT3からアイドル回転制御トルクT2を減算した値(T5)に基づいて設定される。これにより、最終的な目標トルクT7が上限トルクT3に制限される。
【0065】
その後、クラッチが半クラッチの状態から締結状態に移行する間、基本ドライバ要求トルクT1とアイドル回転制御トルクT2との和(T1+T2)から上限トルクT3を減算した差分トルク(T4)に相当する余剰回転数N21が基本発進時目標回転数N2から減算されてアイドル回転制御トルクT2が算出される。このため、アイドル回転制御トルクT2が上限トルクT3に到達することはなく、ドライバ要求トルクT6がゼロに制限されることがない。したがって、二つの要求トルクの差が大きく開くことがないようになっている。
【0066】
そして、時刻ti10において、車速Vが所定の解除閾値V0に到達すると、発進制御モードが解除されて基本発進時目標回転数N2がゼロに戻される。これにより、アイドル回転制御トルクT2がゼロになる一方、ダンピング処理されるドライバ要求トルクT6は、上限トルクT3になるまで漸増する。ただし、本実施形態においては、アイドル回転制御トルクT2が上限トルクT3よりも小さい値に制限され、ドライバ要求トルクT6がゼロに制限されていない。このため、ダンピング処理されるドライバ要求トルクT6が時間をかけて増大するものの、発進制御モードが解除される時刻ti7の直後における目標トルクT7の落ち込みが低減されている。したがって、車両の発進時における乗り心地の低下を抑制することができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る内燃機関の制御装置50によれば、車両の発進時において、アイドル回転制御トルクT2とドライバ要求トルクT6とを加算した目標トルクT7が上限トルクT3を超える場合に、アイドル回転制御トルクT2の算出に用いられる発進時目標回転数N3を制限する。このため、アイドル回転制御トルクT2が上限トルクT3に到達する一方、ドライバ要求トルクT6がゼロに制限されることを防ぐことができる。したがって、車速Vが解除閾値V0に到達して発進制御モードが解除されたときの目標トルクT7の落ち込みを低減することができる。これにより、車両の発進時における乗り心地の低下を抑制することができる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこのような例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0069】
10…エンジン、50…制御装置、51…発進時目標回転数設定部、53…アイドル回転制御トルク算出部、55…ドライバ要求トルク算出部、57…目標トルク算出部、59…機関制御部