IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジェイル メディカル コーポレーションの特許一覧

特許7342179骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法
<>
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図1
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図2
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図3
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図4
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図5
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図6
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図7
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図8
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図9
  • 特許-骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20230904BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20230904BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20230904BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20230904BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/16
A61K6/891
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022046533
(22)【出願日】2022-03-23
(65)【公開番号】P2023033082
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0113154
(32)【優先日】2021-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2021年3月26日に開催された「2021年韓国生体材料学会:春季学術集会」において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】522116834
【氏名又は名称】ジェイル メディカル コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン,イン・キュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,フン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ヤン・ホ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/117208(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110292654(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0117382(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1618887(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0104122(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0069664(KR,A)
【文献】特開2021-049360(JP,A)
【文献】特開2021-003527(JP,A)
【文献】Macromol. Res.,2018年,26(2),pp.128-138
【文献】Journal of Biomaterial Applications,2018年,32(7),pp.987-995
【文献】Database CAplus on STN, AN 2013:292502, DN 160:179569, Key Engineering Materials, 2013, 529-530(Bioceramics 24), 233-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリドーパミンがコーティングされた多孔性ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)インプラントの表面の少なくとも一部上に固定されたコラーゲン層を含み、
前記コラーゲン層は、前記多孔性PEEKインプラントの表面にコーティングされた前記ポリドーパミンを媒介としてコラーゲンとの相互結合が誘導されて固定され、
記多孔性PEEKインプラントは、表面に多数の気孔が単層で形成されていることを特徴とする骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項2】
前記多孔性PEEKインプラントは、
表面から厚さ0.5μm~3.0μmの単層の気孔層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項3】
前記多孔性PEEKインプラントは、集束イオンビーム(Focused ion beam,FIB)でインプラント表面をV字型にエッチング後、走査電子顕微鏡(SEM)で断面を観察したとき、表面に形成された気孔の直径が1000nm未満であることを特徴とする請求項2に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項4】
前記コラーゲン層は、複数のコラーゲン分子が集まって形成された線維状の束を通して具現されることを特徴とする請求項1に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項5】
前記コラーゲン層は、豚皮由来の塩沈殿圧縮濃縮された液状コラーゲンを用いて形成されたものを含むことを特徴とする請求項1に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項6】
前記多孔性PEEKインプラント表面をX線光電子分光装置で測定時、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の組成の総和100%のうち窒素(N)を4.00~6.00atom%で含み、
前記多孔性生体インプラントの表面をX線光電子分光装置で測定時、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の組成の総和100atom%のうち窒素(N)を15.50atom%以上で含むことを特徴とする請求項1に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラント。
【請求項7】
PEEKインプラント表面に多数の気孔を形成して、多孔性PEEKインプラントを製造する第1段階;
前記多孔性PEEKインプラントをドーパミンコーティング液でコーティングおよび乾燥して、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを製造する第2段階;および
ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントの表面の少なくとも一部上に多孔性のコラーゲン層を固定する第3段階;を含む工程を行うことを特徴とする骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントの製造方法。
【請求項8】
前記第1段階の多孔性PEEKインプラントは、
PEEKインプラントを混合酸溶液に1分~5分間浸漬させて、浸漬工程を行う第1-1段階;
浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、200~500rpmの速度で3分~10分間撹拌を行う第1-2段階;
第1-2段階を行ったPEEKインプラントを高圧洗浄機で水圧120~170barの水を1分~30分間加えて洗浄する第1-3段階;および
第1-3段階を行ったPEEKインプラントを超音波強度15~50KHz下で超音波洗浄を行った後、乾燥する第1-4段階;を行うことによって製造することを特徴とする請求項に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントの製造方法。
【請求項9】
前記第1段階の多孔性PEEKインプラントは、
PEEKインプラントを混合酸(mixed acid)溶液に1~5分間浸漬させて、超音波下で浸漬工程を行う第1-1段階;
浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、200~500rpmの速度で3分~10分間撹拌を行う第1-2段階;および
第1-2段階を行ったPEEKインプラントを超音波強度50~80KHz下で洗浄を行った後、乾燥する第1-3段階;を行うことによって製造することを特徴とする請求項に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントの製造方法。
【請求項10】
前記ドーパミンコーティング液は、ドーパミン塩酸塩およびpH8.0~9.0のトリスバッファー水溶液を含み、
前記ドーパミンコーティング液は、ドーパミン塩酸塩を0.20~0.40mg/mlの濃度で含むことを特徴とする請求項に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントの製造方法。
【請求項11】
第3段階は、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを液状コラーゲン溶液でコーティング、洗浄および乾燥して、コラーゲン層を形成し、
前記液状コラーゲン溶液は、コラーゲン0.0005~0.0500重量%、EDC((1-ethyl-3-(3-dimethyl aminopropyl)carbodiimide)0.100~0.300重量%、NHS(N-hydroxysuccinimide)0.100~0.300重量%および残量の水を含むことを特徴とする請求項に記載の骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用および/または整形外科用インプラントに関し、より具体的には、骨癒着能に優れながらも、機械的物性に優れた多孔性インプラントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、医療用生体インプラントは、脊椎固定補填材、椎間補正補填材、人工関節などを永久的に移植するために使用するものであり、ヒトの生体組織に対して非常に安定した生体親和的な材料を使用しなければならない。また、副作用やその他化学、生化学的反応性があってはならず、反復的な荷重および瞬間的な圧力の付加に対して変形および破壊されないように機械的強度が非常に高くなければならず、生体組織、特に骨組織との結合力が非常に高くなければならない医療用機構である。
【0003】
このようなインプラントは、骨組織に埋植された後、永久的に機能を発揮するようにしたり、または目的とする機能を行う期間の間のみで埋植された後、骨組織から除去され、埋植された間に、骨組織との結合力を高めるために、インプラント表面に様々な加工を行うことが一般的である。このような加工の例として、骨組織との比表面積を高めるための粗さ加工や、骨組織と類似した成分、例えば水酸化アパタイトのような成分をインプラント表面にコーティングする加工が挙げられる。
【0004】
しかしながら、このような骨組織との結合力が高くインプラント表面を加工した場合にも、インプラントが埋植された後、周辺組織で発生する炎症などの副作用に対する解決は 現状では不十分な状態である。特に歯科矯正用マイクロインプラントのように、埋植された後に矯正のためにインプラントを支持台で矯正用鉄線を引くなどの矯正力を発生させる行為は、インプラントと歯槽骨や周辺組織間の隙間を形成し、このような隙間に細菌などの炎症誘発原因が浸透して炎症を発生させ、そのため、インプラント埋植施術の失敗を引き起こすことができる。
【0005】
また、従来のインプラント材質は、一般的にチタンのような生体親和的な材料で具現して生体内副作用を最小化するが、商用化チタンインプラントの場合、組織炎症を誘発させ、このような組織炎症は、インプラントと埋植された骨および/または歯ぐき間の隙間を生成させ、隙間をさらに離隔させることによって、さらなる細菌浸透による炎症を誘発させる原因となる問題が発生した。しかも、従来のインプラントの場合、骨癒着能が低下するにつれて、手術後に患部から離脱する現象が発生したり、表面処理したインプラントの場合、移植物との解離などによって永久移植の観点から安全性が低下する問題があった。
【0006】
これより、骨癒着能に優れ、移植物との解離が発生せず、金属や細菌による炎症反応を最小化でき、骨形成を加速化できると同時に、無機化した骨形成性に優れた効果を全部発現できるインプラントに対する研究が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0104122号公報
【文献】韓国公開特許第10-2018-0028993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような点に鑑みてなされたものであって、骨癒着能に優れ、移植物との解離が発生せず、金属や細菌による炎症反応を最小化でき、骨形成を加速化できると同時に、無機化した骨形成性に優れた効果を全部発現できる多孔性生体インプラントおよびその製造方法を提供することに目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するための本発明は、多孔性生体インプラントに関し、多孔性ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)インプラントの表面の少なくとも一部上に固定されたコラーゲン層を含む。
【0010】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性生体インプラントは、表面に多数の気孔が形成されている。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性生体インプラントは、表面から厚さ0.5μm~3μmで単層の気孔層が形成されていてもよい。
【0012】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性生体インプラントは、表面に形成された気孔の平均直径が1000nm以内でありうる。
【0013】
本発明の一実施例によれば、前記コラーゲン層は、複数のコラーゲン分子が集まって形成された線維状の束を通して具現できる。
【0014】
本発明の一実施例によれば、前記コラーゲン層は、ポリドーパミンを介して前記多孔性生体インプラントに固定されてもよい。
【0015】
本発明の一実施例によれば、前記コラーゲン層は、前記ポリドーパミンのアミン基と置換結合されて、前記多孔性生体インプラントに固定されてもよい。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記コラーゲン層は、豚皮由来の塩沈殿圧縮濃縮された液状コラーゲンを用いて形成できる。
【0017】
本発明の一実施例によれば、コラーゲンおよびポリドーパミンが結合されていない前記多孔性生体インプラント表面をX線光電子分光装置で測定時、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の組成の総和100%のうち窒素(N)を4.00~6.00atom%で含んでもよい。
【0018】
本発明の一実施例によれば、前記多孔性生体インプラントの表面をX線光電子分光装置で測定時、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の総和100%のうち窒素(N)を15.50atom%以上で含んでもよい。
【0019】
また、本発明は、上記で説明した多孔性生体インプラントを製造する方法に関するものであって、PEEKインプラント表面に多数の気孔を形成して、多孔性PEEKインプラントを製造する第1段階;前記多孔性PEEKインプラントをドーパミンコーティング液にコーティングおよび乾燥して、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを製造する第2段階;およびポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントの表面の少なくとも一部上に多孔性のコラーゲン層を固定する第3段階;を含む工程を行うことによって製造できる。
【0020】
本発明の一実施例によれば、前記第1段階の多孔性PEEKインプラントは、PEEKインプラントを混合酸溶液に1分~5分間浸漬させて、浸漬工程を行う第1-1段階;浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、200~500rpmの速度で3分~10分間撹拌を行う第1-2段階;第1-2段階を行ったPEEKインプラントを高圧洗浄機で水圧120~170barの水を1分~30分間加えて洗浄する第1-3段階;および第1-3段階を行ったPEEKインプラントを超音波強度15~50KHz下で超音波洗浄を行った後、乾燥する第1-4段階;を行うことによって製造したものでありうる(方法1)。
【0021】
本発明の一実施例によれば、前記第1段階の多孔性PEEKインプラントは、PEEKインプラントを超音波下で混合酸溶液に1分~5分間浸漬させて、浸漬工程を行う第1-1段階;浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、200~500rpmの速度で3分~10分間撹拌を行う第1-2段階;および第1-2段階を行ったPEEKインプラントを超音波強度50~80KHz下で超音波洗浄を行った後、乾燥する第1-3段階を行うことによって製造したものでありうる(方法2)。
【0022】
本発明の一実施例によれば、前記ドーパミンコーティング液は、ドーパミン塩酸塩およびpH8.0~9.0のトリスバッファー水溶液を含んでもよい。
【0023】
本発明の一実施例によれば、前記ドーパミンコーティング液は、ドーパミン塩酸塩を0.20~0.40mg/mlの濃度で含んでもよい。
【0024】
本発明の一実施例によれば、第3段階は、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを液状コラーゲン溶液でコーティング、洗浄および乾燥して、コラーゲン層を形成できる。
【0025】
本発明の一実施例によれば、前記コラーゲン溶液は、コラーゲン0.0005~0.0500重量%、EDC((1-ethyl-3-(3-dimethyl aminopropyl)carbodiimide)0.100~0.300重量%、NHS(N-hydroxysuccinimide)0.100~0.300重量%および残量の水を含んでもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に多孔性生体インプラントは、インプラント表面に均一なサイズで気孔が形成されているところ、比表面積の増加によってコラーゲン層との接合力に優れていると共に、多量のコラーゲンを固定できるので、骨癒着能に優れ、移植物との解離が発生せず、金属や細菌による炎症反応を最小化でき、骨形成を加速化できると同時に、無機化した骨形成性に優れている。また、表面に形成された気孔が3次元に形成されておらず、2次元にインプラント表面の部分にのみ形成されているので、PEEKインプラント自体の機械的物性にほとんど影響を及ぼすことなく、歯科用および/または整形外科用生体インプラントに広く使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の一実施例による骨癒着能に優れた多孔性生体インプラントを製造する模式図である。
図2図2は、比較準備例1で製造したPEEKインプラント表面に対するSEM測定イメージである。
図3図3のAおよびBそれぞれは、準備例1で製造した多孔性PEEKインプラントに対する高倍率と低倍率のSEMイメージである。
図4図4のA、BおよびCそれぞれは、準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントに対して倍率を異ならせて測定したSEMイメージである。
図5図5のA、B、CおよびDそれぞれは、比較準備例2で硫酸を用いて製造した多孔性PEEKインプラントに対して倍率を異ならせて測定したSEMイメージである。
図6図6は、比較準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントのSEM表面単層イメージであり、硫酸でエッチングした後のイメージである。
図7図7は、準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントのSEM表面断層写真を示したイメージであり、混合酸でエッチングした後のイメージである。
図8図8のAおよびBそれぞれは、実施例1で製造した多孔性PEEK-Dおよび多孔性PEEK-DCに対するSEM測定イメージである。
図9図9のAは、気孔の形成前、Bは、気孔の形成後、Cは、コラーゲン固定化PEEKインプラント表面において骨芽細胞(osteoblast)の3時間培養後の電子顕微鏡イメージである。
図10図10のAは、非多孔性PEEKインプラント、Bは、多孔性PEEKインプラント、Cは、コラーゲン固定化PEEKインプラント(多孔性PEEK-DC)の上に骨芽細胞をそれぞれ7日間培養したときに生成されたカルシウムをAlizarin Red Sで染色して得られた蛍光イメージである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明において使用する用語「多孔性生体インプラント」は、PEEKインプラント表面にポリドーパミンおよび前記ポリドーパミンによりインプラント表面に固定されたコラーゲン層を含むインプラントを意味する。
【0029】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
本発明による多孔性生体インプラントは、多孔性ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)インプラントの表面の少なくとも一部上に固定されたコラーゲン層を含んで具現される。
【0031】
まず、前記多孔性PEEKインプラントについて説明する。
【0032】
本発明によるインプラントは、ポリエーテルエーテルケトンで形成されたものであり、従来の金属系(例えば、チタンなど)インプラントの問題点である腐食および金属イオン放出などを解決できながらも、骨癒着能に優れ、骨形成を加速化できると同時に、無機化した骨形成性に優れた効果を全部発現できる。
【0033】
また、多孔性PEEKインプラントは、PEEKインプラント表面をエッチング(etching)処理して、2次元構造の複数の気孔が形成されたものであり、このように3次元構造で気孔を形成せず、インプラント表面にのみあたかも単層構造で気孔を形成することによって、インプラントの優れた機械的物性を維持しつつ、コラーゲン固定率および付着率を増大させることができる。好ましい一例として、前記多孔性PEEKインプラントは、表面から厚さ(または深さ)0.5μm~3.0μmで、好ましくは、1.0μm~2.5μmで、より好ましくは、厚さ1.5μm~2.0μmで気孔層が形成されていてもよい。この際、気孔層の厚さが0.5μm未満なら、気孔の形成によるコラーゲン付着率の増大および固定化率の増大効果が不十分であり、気孔層の厚さが3.0μmを超過すると、機械的強度が減少する問題があり得るので、インプラント表面から前記範囲内の厚さ(または深さ)で気孔層が形成されることが好ましく、表面にコラーゲン層などが固定されていない多孔性PEEKインプラントの表面には、気孔が均一に形成されており、表面に形成された気孔の直径は、1000nm未満、好ましくは、360~930nm、さらに好ましくは、380~900nm程度の範囲で形成されていてもよい。
【0034】
また、前記表面にコラーゲン層などが固定されていない多孔性PEEKインプラントの表面は、X線光電子分光装置で測定時、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の組成の総和100atom%のうち窒素(N)を4.00~6.00atom%、好ましくは、4.30~6.00atom%、より好ましくは、4.50~5.50atom%で含んでもよく、このようなN含有量は、多孔性PEEKインプラント表面にエッチング工程時にインプラント表面の一部にニトロ基が生成されたためである。
【0035】
次に、前記コラーゲン層について説明する。
【0036】
前記コラーゲン層は、骨癒着能に優れ、骨形成を加速化でき、無機化した骨形成性に優れた効果を発現する機能を行う。
【0037】
前記コラーゲン層は、前記PEEKインプラント表面の少なくとも一部上に固定され、好ましくは、前記コラーゲン層は、前記PEEKインプラント表面の全部上に固定されてもよい。
【0038】
また、前記コラーゲン層は、複数のコラーゲン分子が集まって形成された線維状の束を通して具現でき、このために、溶解性を高めた液状コラーゲンを用いて前記コラーゲン層を形成でき、好ましくは、豚皮由来の液状コラーゲンを用いて前記コラーゲン層を形成できる。
【0039】
また、前記コラーゲン層は、多孔性形態のコラーゲン層で形成できる。もし、固状コラーゲン、一例として、ラット尾(rat tail)由来の固状コラーゲンを用いて反応させる場合、コラーゲンの低い溶解性によって反応性が低くなって、一定濃度のコラーゲン層を形成しにくい。
【0040】
前記コラーゲン層は、ポリドーパミンを介して前記多孔性PEEKインプラントに固定されてもよく、好ましくは、多孔性PEEKインプラント表面にコーティングされたポリドーパミンを媒介としてコラーゲンとの相互結合を誘導して固定されてもよく、より好ましくは、図1に示されたように、前記コラーゲン層は、前記ドーパミンのアミン基と化学結合されることによって、PEEKインプラントに固定されてもよい。
【0041】
もし、何らの処理もしない状態の多孔性PEEKインプラントにコラーゲン層を結合して使用すると、PEEK表面にアミノ基のような反応性グループがないので、固定されたコラーゲン層の量が大きく制限されることによって、骨癒着能が低下し、骨形成を加速化できず、無機化した骨形成性が低下することがあり、移植物との解離が発生することがある。しかしながら、本発明によるPEEKインプラントは、ドーパミンを媒介として化学結合することによって、後述するコラーゲン層を高集積することかでき、これによって、骨癒着能に優れ、骨形成を加速化でき、無機化した骨形成性に優れ、移植物との解離が発生しない効果を全部同時に発現できる。
【0042】
ポリドーパミンにより固定されたコラーゲン層が形成された本発明の多孔性生体インプラントは、表面をX線光電子分光装置で測定したとき、表面の組成中、炭素(C)、酸素(O)、窒素(N)および硫黄(S)の組成の総和100atom%のうち窒素(N)を15.50atom%以上で、好ましくは、16.00~18.00atom%、より好ましくは、16.30~17.40atom%で含んでもよい。
【0043】
前述の本発明の多孔性生体インプラントを製造する方法について説明すると、次の通りである。
【0044】
本発明の多孔性生体インプラントは、PEEKインプラント表面に多数の気孔を形成して、多孔性PEEKインプラントを製造する第1段階;前記多孔性PEEKインプラントをドーパミンコーティング液にコーティングおよび乾燥して、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを製造する第2段階;およびポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントの表面の少なくとも一部上に多孔性のコラーゲン層を固定する第3段階;を含む工程を行うことによって製造できる。
【0045】
第1段階の多孔性PEEKインプラントは、エッチング工程を行うことで表面に多孔性を形成するが、次の二つの方法によって製造できる(方法1、方法2)。
【0046】
方法1:PEEKインプラントを混合酸溶液に浸漬させて、浸漬工程を行う第1-1段階;浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、撹拌を行う第1-2段階;第1-2段階を行ったPEEKインプラントを高圧洗浄機で洗浄する第1-3段階;および第1-3段階を行ったPEEKインプラントを超音波洗浄を行った後、乾燥する第1-4段階;を行うことによって製造できる。前記混合酸溶液は、85.00~99.99体積%濃度の硫酸および60~70体積%濃度の硝酸を1:0.7~1.2重量比で混合した酸溶液を使用でき、好ましくは、90.00~99.99体積%濃度の硫酸および62.00~69.00体積%濃度の硝酸を1:0.8~1.2重量比で、より好ましくは、95.00~99.99体積%濃度の硫酸および64.00~68.00体積%濃度の硝酸を1:0.8~1.1重量比で混合した酸溶液を使用できる。この際、前記硫酸および/または硝酸の濃度が前記範囲を外れると、PEEKインプラント表面に均一なサイズの気孔が形成されないことがある。また、混合酸溶液内硝酸の混合比が0.7重量比未満なら、気孔層が単層を維持しにくく、均一なサイズで気孔が形成されないことがあり、1.2重量比を超過すると、表面に気孔形成数が少ない。
【0047】
前記第1-1段階は、PEEKインプラントを混合酸溶液に1分~5分間、好ましくは、1分~3分間浸漬させて、浸漬工程を行うことができ、浸漬時間が1~5分を外れると、PEEK表面に気孔形成数が少ないか、または非常に多く生じて、機械的強度が不足することがあるので、前記時間の間のみで浸漬工程を行った方がよい。
【0048】
また、方法1の第1-2段階は、酸除去のための洗浄工程であって、浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に浸漬させた後、200~500rpmの撹拌速度で、好ましくは、200~350rpmの撹拌速度で3分~10分間撹拌を行うことができる。
【0049】
また、方法1の第1-3段階は、第1-2段階を行った図2のように、PEEKインプラント表面にひび割れた破片が存在し、これを除去するための工程であって、高圧洗浄機を用いて水圧120~170barの水を0.5分~30分間、好ましくは、高圧洗浄機を用いて水圧130~160barの水を1分~5分間加えて高圧洗浄を行うことで、インプラント表面のひび割れた破片を剥がす工程である(図3のA、B参照)。この際、水圧が120bar未満なら、ひび割れた破片除去がうまくいかないことがあり、170barを超過すると、かえってインプラント表面に形成された気孔を破損させることができるので、前記範囲内の水圧で高圧洗浄を行った方がよい。
【0050】
また、方法1の第1-4段階は、PEEKインプラント表面に存在する残余の破片および気孔を閉塞している異物などを除去するための超音波洗浄工程であって、前記方法1の超音波洗浄および第1-3段階を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、超音波強度15~80KHz、好ましくは、超音波強度15~50KHzを、より好ましくは、超音波強度15~30KHzを加えて5~120分間超音波洗浄を行うことができる。この際、超音波強度が16KHz未満なら、インプラント表面に閉塞された気孔が多量残存することがあり、超音波強度が80KHzを超過すると、かえって第1-1~第1-3段階工程を通じて形成された気孔の周辺が破壊されて、気孔数が減少し、表面に気孔が不均一に形成されることがあるので、前記範囲内の超音波強度で超音波洗浄を行った方がよい(図3のA、B参照)。
【0051】
また、第1-4段階の前記乾燥は、当業界において使用する一般的な乾燥方法で行うことができ、好ましい一例として、自然乾燥させたり、50~70℃で熱乾燥を行うこともできる。
【0052】
方法2:多孔性PEEKインプラントを製造する方法2は、高圧洗浄を省略した方法であって、PEEKインプラントを混合酸溶液に浸漬させて、超音波処理する浸漬工程を行う第1-1段階;浸漬工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、撹拌を行う第1-2段階;および第1-2段階を行ったPEEKインプラントを超音波洗浄を行った後、乾燥する第1-3段階;を行うことによって製造できる。
【0053】
方法2で、前記第1-1段階は、超音波下で混合酸を処理することが方法1の第1-1段階と異なっている。
【0054】
第1-2段階を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、超音波強度15~80KHz、好ましくは、超音波強度40~80KHzを、より好ましくは、50~80KHzを加えて5~120分間超音波洗浄を行うことができる。この際、超音波強度が30KHz未満なら、インプラント表面のひび割れた破片が不十分に除去され、閉塞された気孔が多量残存することがあり、超音波強度が80KHzを超過すると、かえって第1-1~第1-2段階工程を通じて形成された気孔の周辺が破壊されて、気孔数が減少し、表面に気孔が不均一に形成されるので、前記範囲内の超音波強度で超音波洗浄を行った方がよい。
【0055】
また、第1-3段階の前記乾燥は、当業界において使用する一般的な乾燥方法で行うことができ、好ましい一例として、常温で自然乾燥させたり、50~70℃で熱乾燥を行うこともできる。
【0056】
第1段階の多孔性PEEKインプラントは、混合酸(硫酸/硝酸)を用いてエッチング工程を行うことで表面に多孔性を形成する。一方、単一酸(硫酸)を用いてエッチング工程を行うことで表面に多孔性を形成することもできる。本発明において単一酸処理および混合酸処理表面の気孔層の厚さを比較するために、集束イオンビームを用いてPEEKインプラント表面にV字型にエッチングした後、走査電子顕微鏡で観察して、図6図7に示した。
【0057】
図6は、単一酸(硫酸)処理して得られた表面断層写真である。単一酸処理して得られたPEEKインプラントの場合、図5のDに示すように、大小の気孔が多層で深く形成されている。図6のエッチング後の断面を見ると、最下深さ16μm以上の気孔層が形成され、エッチングされた周辺の組織が崩れたことが分かる。これは、硫酸が速い速度でPEEKの深い内部まで浸透したためであり、気孔の密度がかなり大きくて、集束アルゴンイオンビーム(FIB)に耐えずに崩れたためである。
【0058】
図7は、集束イオンビームを用いて混合酸処理したPEEKインプラントのエッチング後のイメージを示したものである。気孔層の厚さは、約1.83μmの厚さで単層を構成していることが分かる。また、エッチングされた周辺の組織が良好に維持されていることが分かる。これらの結果から、PEEKインプラントは、硫酸/硝酸の混合酸を用いることによって、気孔サイズが均一であり、単層で気孔が形成された多孔性PEEKインプラントを製造できることが分かった。
【0059】
次に、本発明の多孔性生体インプラント製造方法の前記第2段階は、上記で説明した方法1または方法2によって第1段階で製造した多孔性PEEKインプラントをドーパミンコーティング液でコーティングおよび乾燥して、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを製造する工程を行う(図1参照)。
【0060】
第2段階の前記コーティング方法は、噴霧法、浸漬法、ローリング法など特に限定されないが、好ましい一例として、浸漬法を使用して多孔性PEEKインプラントをポリドーパミンコーティング液に浸漬させた後、10~30時間、好ましくは、20~28時間程度ローラーミキサー(roller mixer)を行うことでコーティングを行うことができる。
【0061】
また、前記ドーパミンコーティング液は、ドーパミン塩酸塩(dopamine hydrochloride)および溶媒を含み、前記溶媒は、ドーパミンを溶解させることができる公知の溶媒なら、制限なしで使用でき、好ましくは、pH8.0~9.0のトリスバッファー溶液(Tris(hydroxymethyl)aminomethane buffer solution)を使用した方がよい。
【0062】
また、前記ドーパミンコーティング液は、前記ドーパミン塩酸塩を0.05~0.40mg/mlの濃度で、好ましくは、0.25~0.40mg/mlの濃度で含んだ方がよい。この際、ドーパミン塩酸塩の濃度が0.05mg/ml未満なら、インプラント表面にコーティングされるポリドーパミン量が少ないため、次の工程でコラーゲン付着率、固定率が低いため、多孔性生体インプラントの骨癒着能の低下、骨形成性の低下、移植物との解離発生などの問題が生じ得、0.40mg/mlを超過しても、これ以上コラーゲン付着率、固定率が増大しないので、前記範囲内の濃度でドーパミン塩酸塩を含んだ方がよい。
【0063】
また、第2段階の前記乾燥は、当業界において使用する一般的な乾燥方法で行うことができ、好ましい一例として、常温で自然乾燥または真空オーブン下で乾燥を行うこともできる。
【0064】
次に、本発明の多孔性生体インプラント製造方法の前記第3段階は、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントの表面の少なくとも一部上に多孔性のコラーゲン層を固定する工程であって、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを液状コラーゲン溶液でコーティング、洗浄および乾燥してコラーゲン層を形成できる。
【0065】
第3段階の前記コーティング方法は、噴霧法、浸漬法、ローリング法など特に限定されないが、好ましい一例として、浸漬法を使ってポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラントを液状コラーゲンコーティング液に浸漬させた後、30~60時間、好ましくは、40~55時間程度ローラーミキサー(roller mixer)を行うことでコーティングを行うことができる。
【0066】
また、前記液状コラーゲン溶液は、コラーゲン、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethyl aminopropyl)carbodiimide)、NHS(N-hydroxysuccinimide)および水を含んでもよい。
【0067】
前記液状コラーゲンは、商業的に購入可能な液状コラーゲンを使用でき、好ましい一例として、豚皮由来の塩沈殿圧縮濃縮された液状コラーゲンを使用できる。また、溶液内液状コラーゲン含有量は、0.0005~0.0500重量%、好ましくは、0.001~0.010重量%を含んでもよい。この際、溶液全体重量のうち液状コラーゲン含有量が0.0005重量%未満なら、固定化されるコラーゲンの量が顕著に低いため、目的とするレベルの効果を発現できず、液状コラーゲン含有量が0.0500重量%を超過するとしても、導入されるコラーゲンの量が増加しない。
【0068】
また、前記EDCおよびNHSは、液状コラーゲンのカルボキシ基を活性化するものであって、EDCおよびNHSそれぞれは、溶液の全体重量中、0.100~0.200重量%を使用した方がよい。
【0069】
第3段階で、前記洗浄は、精製水または脱イオン水で液状コラーゲンがコーティングされたインプラントを1~3回洗浄を行うことができる。
【0070】
また、第3段階の乾燥は、当業界において使用する一般的な方法で乾燥を行うことができ、好ましくは、常温で自然乾燥または真空オーブン下で乾燥を行うこともできる。
【0071】
上記で説明した本発明の多孔性生体インプラントは、骨折固定用、人工脊椎、人工義手、歯科矯正用など治療、矯正など生体内埋植されるインプラントの場合、制限なしで使用でき、好ましくは、整形外科用インプラントに使用可能である。
【0072】
下記の実施例を通じて本発明をより具体的に説明するが、下記実施例が本発明の範囲を限定するものではなく、これは、本発明の理解を助けるためのものと解すべきである。
【0073】
[実施例]
比較準備例1:表面エッチング処理したPEEKインプラントの製造
PEEKインプラント(VESTAKEEP(R) i4 R、製造社:Evonic operations GmbH)を用いて製造した椎間体癒合補填のための脊椎ケージを準備した。
【0074】
次に、前記PEEKインプラントを混合酸溶液に浸漬させた後、250rpm磁気撹拌機で撹拌を30分間行った。この際、前記混合酸溶液は、95体積%濃度の硫酸および65体積%濃度の硝酸を1:1の重量比で混合して製造した。
【0075】
次に、混合酸からPEEKインプラントを取り出した後、これを蒸留水で1分30秒間洗浄した後、これを1,500ml蒸留水に浸漬させた後、250rpmの速度で5分間撹拌を行った。
【0076】
次に、蒸留水からPEEKインプラントを取り出した後、約25~26℃で24時間の間乾燥して表面エッチング処理したPEEKインプラントを製造した。
【0077】
製造したPEEKインプラントのSEMイメージを図2に示した。
【0078】
図2を参照すると、PEEKインプラント表面に多くの亀裂が生じ、ひび割れた破片が剥がれていないことを確認できた。
【0079】
準備例1:多孔性PEEKインプラントの製造1
(1)表面エッチング処理工程
PEEKインプラントとして、比較準備例1と同じ椎間体癒合補填のための脊椎ケージを準備した。
【0080】
次に、前記PEEKインプラントを混合酸溶液に浸漬させた後、250rpm磁気撹拌機で撹拌を30分間行った。この際、前記混合酸溶液は、95体積%濃度の硫酸および65体積%濃度の硝酸を1:1の重量比で混合して製造した。
【0081】
次に、混合酸からPEEKインプラントを取り出した後、これを蒸留水で1分30秒間洗浄した後、これを1,500ml蒸留水に浸漬させた後、250rpmの速度で5分間撹拌を行った。
【0082】
(2)高圧洗浄工程
次に、蒸留水からPEEKインプラントを取り出した後、高圧洗浄機を用いて圧力150bar程度の水圧をPEEKインプラント表面に加えて1~5分間高圧洗浄を行った。
【0083】
(3)超音波洗浄および乾燥工程
次に、高圧洗浄工程を行ったPEEKインプラントを蒸留水に投入した後、超音波強度30KHzを加えて60分間超音波洗浄を行った。
【0084】
次に、超音波洗浄を完了したPEEKインプラントを真空乾燥器に投入した後、60℃で24時間乾燥を行って、多孔性PEEKインプラントを製造した。
【0085】
製造した多孔性PEEKインプラントのSEMイメージを図3のAおよびBに示した。
【0086】
図3を参照すると、比較準備例1とは異なって、表面に亀裂破片がなく、インプラント表面に2次元気孔構造が均質に形成されていることを確認できた。
【0087】
準備例2:多孔性PEEKインプラントの製造2
前記準備例1と同じ方法で表面エッチング処理工程を行ったPEEKインプラントを製造した。
【0088】
次に、前記PEEKインプラントを蒸留水に投入した後、超音波強度60KHzを加えて1~5分間超音波洗浄を行った。
【0089】
次に、超音波洗浄を完了したPEEKインプラントを真空乾燥器に投入した後、60℃で24時間乾燥を行って、多孔性PEEKインプラントを製造した。
【0090】
製造した多孔性PEEKインプラントのSEMイメージを図4のA~Cに示した。
【0091】
図4を参照すると、比較準備例1とは異なって、表面に亀裂破片がなく、インプラント表面に2次元気孔構造が均質に形成されていることを確認できた。
【0092】
比較準備例2:多孔性PEEKインプラントの製造
PEEKインプラントとして、比較準備例1と同じ椎間体癒合補填のための脊椎ケージを準備した。
【0093】
次に、前記PEEKインプラントを99.5体積%濃度の硫酸溶液に浸漬させた後、30分間沈積した後、アセトン、エタノールおよび蒸留水でそれぞれ15分ずつ超音波洗浄を行った。
【0094】
その後、120℃で4時間の間乾燥を行って、エッチング処理した3次元構造のPEEKインプラントを製造した。
【0095】
製造した多孔性PEEKインプラントのSEMイメージを図5のA~Cに示した。図5のAの低倍率およびBの中倍率SEMイメージを見ると、表面が不均一に気孔が形成されており、井戸形態で凹設された部位が複数部位形成されることを確認できた。また、Cは、Bの左側凹設された部位のうち一部(赤色ボックス)部分を、Dは、右側部位の一部(白色ボックス)部分を高倍率で測定したSEMイメージであるが、気孔サイズが不均一に形成され、気孔がPEEKインプラント表面から深く多層構造で気孔層が形成されていることを確認できた。
【0096】
実験例1:表面気孔サイズおよび気孔層の厚さの測定
前記準備例1~2および比較準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントに対して集束イオンビーム(FIB)で表面をV字型にエッチングして、SEMで表面に形成された気孔の平均サイズおよび気孔層の厚さを測定し、その結果を下記表1に示した。
【0097】
また、比較準備例2をV字型にエッチングした後、走査電子顕微鏡で観察したイメージを図6に示し、準備例2をV字型にエッチングした後、走査電子顕微鏡で観察したイメージを図7に示した。
【0098】
【表1】
【0099】
準備例1および準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントは、図3および図4から確認できるように、PEEKインプラント表面に気孔が均一かつ等しく形成されたが、このような特徴によって、図7に示すように、表面気孔層の厚さ範囲が0.5~3μmで単層を示し、気孔サイズは、1000nm未満、好ましくは、360~930nm程度を有することを確認できた。特に、準備例1~2は、表面から非常に低い厚さで単層構造の気孔層が形成されて2次元構造の気孔が形成された。
【0100】
これに対し、図5および図6から確認できるように、硫酸を用いて処理した比較準備例2は、不均一なサイズの気孔が多量形成され、3次元構造で気孔が表面から深い部分まで形成され、気孔層の厚さが準備例1~2に比べて非常に大きい平均厚さ約22.5μmを示した。また、比較準備例2の多孔性PEEKインプラントは、準備例1~2に比べて気孔サイズが相対的に大きい180~2,300nmを示した。
【0101】
実験例2:引張および圧縮強度の測定
前記準備例1~準備例2、比較準備例2の多孔性PEEKインプラントそれぞれに対する引張強度および圧縮強度を測定し、その結果をそれぞれ下記表2~表3に示した。
【0102】
引張強度の測定は、食品医薬品安全処の食品医薬品安全評価院で提示する整形用インプラントに使用するPEEKの引張強度測定方法(ASTM D638)によってマ項第5型によって標準ダンベル型試験片を製造して行った。引張強度測定機は、モデルST-1002(製造社:SALT Co.,Ltd.)を使用して温度24℃および湿度約35%で行った。下記表1の対照群は、準備例1で使用した表面を酸でエッチング処理しないPEEKインプラントに対する引張強度の測定結果であり、それぞれサンプル12個ずつ測定した後、測定平均値を下記表2に示したものである。
【0103】
【表2】
【0104】
前記表2の引張強度の測定結果を見ると、混合酸で表面をエッチング処理して製造した準備例1および準備例2、そして単一酸(硫酸)処理して製造した比較準備例2が、いずれも、酸処理しない対照群とほぼ類似した引張強度を有することを確認できた。
【0105】
【表3】
【0106】
前記表3は、混合酸と単一酸を処理して得られた多孔性PEEKインプラントの圧縮強度を示している。混合酸で表面をエッチング処理して製造した準備例2および単一酸(硫酸)処理して製造した比較準備例2が、両方とも、酸処理しない対照群とほぼ類似した圧縮強度を有することを確認できた。このように酸を処理してPEEKインプラント表面に気孔を形成しても、試料の引張強度および圧縮強度に大きな影響を与えないことが分かった。
【0107】
実施例1:多孔性生体インプラントの製造
前記準備例2で製造した多孔性PEEKインプラントを準備した。
これとは別途に、1.214gのトリズマヒドロクロリド(Trizma hydrochloride)を100mlの蒸留水に溶解させて、10mmolのトリスバッファー溶液(Tris(hydroxymethyl)aminomethane buffer solution))を製造した。また、前記トリスバッファー溶液をpH8.5に調節した後、そこへ30mgのドーパミン塩酸塩(dopamine hydrochloride)を投入、撹拌して溶解させて、ドーパミン塩酸塩0.30mg/mlを含むドーパミンコーティング液を製造した。
【0108】
前記ドーパミンコーティング液に前記準備例2の多孔性PEEKインプラントを担持した後、24時間の間ローラーミックス(roller mix)を行って、インプラント表面にポリドーパミンをコーティングさせた。その後、水で洗浄した後、真空乾燥器に投入して約25~26℃で24時間の間乾燥を行って、ポリドーパミンがコーティングされた多孔性PEEKインプラント(多孔性PEEK-D)を製造した。製造した多孔性PEEK-DのSEM測定イメージを図8のAに示した。
【0109】
次に、前記多孔性PEEK-Dをコラーゲン溶液に浸漬させた後、48時間の間ローラーミキサー(roller mixer)を行った。この際、前記コラーゲン溶液は、蒸留水100g(またはml)当たりEDC(1-ethyl-3-(3-dimethyl aminopropyl)carbodiimide)0.125gおよびNHS(N-hydroxysuccinimide)0.125gを蒸留水に溶解させた後、豚皮由来の塩沈殿圧縮濃縮された液状コラーゲンを蒸留水に溶解させて、0.1重量%を含む溶液を製造したものを使用した。
【0110】
次に、コラーゲン溶液から多孔性PEEK-Dを取り出して、蒸留水で3回洗浄を行った後、真空乾燥器に投入し、約25~26℃で24時間の間乾燥を行って、コラーゲン層が固定された多孔性生体インプラント(多孔性PEEK-DC)を製造した。
【0111】
また、製造した多孔性PEEK-DCのSEM測定イメージを図8のBに示した。
【0112】
図8のAを参照すると、混合酸で表面エッチング処理して製造した多孔性PEEKインプラント表面にポリドーパミンを重合コーティングした多孔性PEEK-Dは、気孔構造を良好に維持していることを確認できた。また、図8のBを参照すると、ポリドーパミンを介してコラーゲンを結合した多孔性PEEK-DCも、気孔の維持が良好に行われていることを確認できた。
【0113】
このように表面に2次元気孔を有する本発明の多孔性生体インプラントは、比表面積が大きく増加して、コラーゲン導入率が増加するだけでなく、比表面積が大きい気孔構造のPEEKは、骨組織との接触面積が増加して、高い結合力とコラーゲンによる生体親和性が増加することができる。
【0114】
比較例1
前記実施例1と同じ方法で生体インプラントを製造するが、準備例2の多孔性PEEKインプラントの代わりに、表面が酸処理(エッチング処理)されない気孔がないPEEKインプラント(VESTAKEEP(R) i4 R、製造社:Evonic operations GmbH)を使用して、同じ方法および条件でPEEKインプラント表面にポリドーパミンコーティングおよびコラーゲンをコーティングして、生体インプラントを製造した。
【0115】
実施例2~3および比較例2~3
準備例2と同じ方法で多孔性インプラントを製造した後、これを用いて実施例1と同じ方法で多孔性生体インプラントを製造した。ただし、PEEK-Dの製造時、ドーパミンコーティング液内ドーパミン塩酸塩の濃度を0.20mg/ml(実施例2)および0.40mg/ml(実施例3)で製造したものをそれぞれ使用して、多孔性生体インプラントをそれぞれ製造して、実施例2および実施例3を実施した。
【0116】
また、準備例2と同じ方法で多孔性インプラントを製造した後、これを用いて実施例1と同じ方法で多孔性生体インプラントを製造した。ただし、PEEK-Dの製造時、ドーパミンコーティング液内ドーパミン塩酸塩の濃度を0.10mg/ml(比較例2)および0.50mg/ml(比較例3)で製造したものをそれぞれ使用して、多孔性生体インプラントをそれぞれ製造して比較例2および比較例3をそれぞれ実施した。
【0117】
実施例4~6および比較例5
準備例2と同じ方法で多孔性インプラントを製造した後、これを用いて実施例1と同じ方法で多孔性生体インプラントを製造した。
【0118】
ただし、PEEK-Dの製造時、ドーパミンコーティング液内ドーパミンの濃度を0.3mg/mlに固定させ、PEEK-DCの製造時、コラーゲンの濃度0.01重量%(実施例4)、0.05重量%(実施例5)、0.5重量%(比較例4)のコラーゲン溶液を使用して多孔性生体インプラントをそれぞれ製造して、実施例4~5および比較例4をそれぞれ実施した。
【0119】
実験例3:インプラント表面のXPS測定
前記実施例1の多孔性生体インプラントおよび比較例1の生体インプラントの製造時、各工程でのインプラントそれぞれに対するインプラント表面をX線光電子分光装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)で分析し、その結果を下記表4に示した。
【0120】
【表4】
【0121】
表4で、前記比較例1のPEEKおよび実施例1の多孔性PEEKと比較するとき、PEEKインプラント表面にNが新しく現れることを確認できる。これは、表面気孔の形成のために硫酸/硝酸の混合酸を処理する間に、PEEKのベンジルグループにおいてニトロ化反応(nitration)が起こったためである。
【0122】
また、比較例1のPEEK-D、PEEK-DCと実施例1の多孔性PEEK-DおよびPEEK-DCのN含有量を比較するとき、比較例1よりも実施例1のN含有量が相対的に顕著に増加する傾向を確認でき、これは、気孔の形成によるポリドーパミンコーティング量の増加およびこれによるコラーゲンコーティングの増加がなされたためである。一方、コラーゲン濃度を高めたり(比較例3、4)、低減した場合(比較例2)、表面N含有量の大きな変化は現れなかった。これは、表面にコラーゲンが結合できる反応サイトが限定されているので、コラーゲンの濃度にあまり影響を受けないものと言える。
【0123】
実験例4:インプラントの細胞適合性の評価(in vitro)
PEEKインプラントの細胞適合性を評価するために、気孔を形成しない比較例1のPEEK(非多孔性PEEK)、準備例1で製造した気孔が形成された多孔性PEEK、そして実施例1のコラーゲンが固定化されたPEEKインプラント(多孔性PEEK-DC)を準備した。
【0124】
骨芽細胞を5×10/mlに調整して培養3時間後の接着細胞をホルマリン固定化して、SEMでイメージを観察し、その結果を図9のA~Cに示した。その結果、非多孔性PEEKインプラント(A)よりも多孔性PEEKインプラント(B)において細胞がさらに多く付着したことが分かる。これより、表面のナノ気孔は、細胞付着率を促進させることが分かる。一方、多孔性PEEKインプラントにコラーゲンを固定化した多孔性PEEK-DCが、最も多い細胞が付着し、また、3時間の短い培養時間であるにもかかわらず、多くの細胞がスプレディング(spreading)を良好に行っていることが分かった。これは、表面に固定化されたコラーゲン分子内には、Arg-Gly-Asp(RGD)配列があり、骨芽細胞膜に存在するインターグリーン(Integrin)がコラーゲン中のRGD配列を認識することで行われる特異的なリガンド/レセプター(ligand/receptor)の相互作用による結果である。
【0125】
実験例5:インプラントのカルシウム生成促進効果(in vitro)
PEEKインプラントの細胞適合性を評価するために、気孔を形成しない比較例1のPEEK(非多孔性PEEK)、準備例1で製造した気孔が形成された多孔性PEEK、そして実施例1のコラーゲンが固定化されたPEEKインプラント(多孔性PEEK-DC)を準備した。
【0126】
骨芽細胞を5×10/mlに調整して7日間培養し、3日毎に培地を交換し、7日間培養した細胞をホルマリン固定化した後、alizarin Red S溶液を入れ、室温で1時間静置した後、SEMで蛍光イメージを観察し、その結果を図10のA~Cに示した。その結果、非多孔性PEEKインプラント(A)よりも多孔性PEEKインプラント(B)においてyellowish red発色が多く、これは、非多孔性PEEKよりも多孔性PEEKにおいてカルシウム生成が相対的にさらに促進されることを意味する。また、このような傾向は、多孔性PEEK-DCにおいて一層明確に現れることを確認でき、これからPEEK表面のナノ気孔およびコラーゲン固定化は、骨形成のための細胞の分化能力に非常に肯定的な効果を示すことを確認できた。
【0127】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明の思想は、本明細書に提示される実施例に制限されず、本発明の思想を理解する当業者は、同じ思想の範囲内で、構成要素の付加、変更、削除、追加などにより他の実施例を容易に提案でき、これも、本発明の思想範囲内に入ると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10