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特許7342181免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を回収する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20230904BHJP
   C40B 40/02 20060101ALI20230904BHJP
   C40B 40/08 20060101ALI20230904BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20230904BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230904BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12N15/10 114Z
C40B40/02 ZNA
C40B40/08
C07K14/725
C07K16/00
【請求項の数】 19
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022047676
(22)【出願日】2022-03-24
(62)【分割の表示】P 2019216722の分割
【原出願日】2015-02-13
(65)【公開番号】P2022084830
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】1402591.0
(32)【優先日】2014-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516243504
【氏名又は名称】メモ テラポイティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ヘルト マルティン
(72)【発明者】
【氏名】エッスリンゲル クリシュトフ
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/188872(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0301919(US,A1)
【文献】特表2007-505611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C40B 40/00-40/10
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のサブユニットを有する免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAを回収する方法であって、前記2以上の遺伝子又は遺伝子産物は所定のソース細胞中に含まれ、下記の各工程を含む工程;
a)ソース細胞をmRNA捕捉部位と共にマイクロリアクターに封入する工程であって、mRNA捕捉部位がビーズ又は粒子である、工程、
b)前記マイクロリアクター内で前記細胞を溶解し、細胞mRNAを該マイクロリアクターのルーメン内に放出させ、これを前記mRNA捕捉部位に結合させる工程、
c)前記マイクロリアクターを溶解又は破壊し、前記mRNA捕捉部位に結合したmRNAを溶液中において逆転写して対応するcDNA遺伝子産物を得る工程であって、cDNA遺伝子産物が共有結合によりビーズ又は粒子に保持される工程、
d)前記免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトをPCRにより作製する工程であって、前記免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトの作製が、マイクロリアクター内でオーバーラップ・エクステンションPCRによるcDNAの増幅により達成される、工程、及び
e)前記PCR産物をプラスミドベクターにクローニングして2シストロン性又は多シストロン性の発現コンストラクトを得る工程;
e’)このようにして所定のソース細胞集団の免疫受容体をコードするPCR産物を含むプラスミドライブラリーを作製する工程。
【請求項2】
工程c)の後に、下記の各工程を更に含む、請求項に記載の方法。
(i)mRNA捕捉部位における逆転写によるcDNA合成をモニタする工程、及び
(ii)凝集したmRNA捕捉部位を除去する工程。
【請求項3】
前記コンストラクトを増幅する工程がネスティッドPCRの使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
調節エレメントをPCR産物に挿入する工程を更に含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫受容体が、少なくとも2つのサブユニットを有する抗体、又は少なくとも2つのサブユニットを有するT細胞受容体である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫受容体が、治療目的のタンパク、診断又は科学研究目的のタンパク、又は産業目的のタンパクである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法
【請求項7】
上記mRNA捕捉部位が、磁性ビーズ又は粒子である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記mRNA捕捉部位が、その表面に結合したオリゴdT-DNA配列を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記2シストロン性又は多シストロン性発現ベクターが、IRES(内部リボソーム侵入部位)配列との組み合わせを伴う、又は伴わない2Aペプチド結合多シストロン性ベクターである、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
各マイクロリアクターが1個のソース細胞を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロリアクターが、・ハイドロゲル形成ポリマー、好ましくはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリリジン、ポリアクリルアミド及び/又はアクリル酸、・セルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロース及びセルロースエステル、及び/又は・多糖類、好ましくはアガロース、アルギン酸(alginates)、カラギーナン、ペクチン酸(pectinates)及び/又はキトサン、から成る群より選択される材料を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記マイクロリアクターが、水/油(water/oil)エマルジョン中の水滴として形成される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記マイクロリアクターが、10μm以上1000μm以下の直径を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロリアクターが、0.52pl以上523nl以下の容量を有する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記マイクロリアクターが楕円体形状を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ソース細胞が細胞のコレクションに由来するものであり、前記コレクションのメンバーが、異なる免疫受容体用の遺伝子産物を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ソース細胞が、未成熟又は成熟したB細胞又はT細胞から成る群より選択される哺乳類細胞である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物が、
・Ig重鎖遺伝子(VDJ再構成)及びIg軽鎖遺伝子(VJ再構成)、又は
・TCRα鎖遺伝子(再構成)及びTCRβ鎖遺伝子(再構成)
である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
・Ig定常Hサブドメイン及び/又はIg定常Lサブドメイン、又は
・TCRα鎖及びTCRβ鎖
をコードするcDNAをPCR産物中に挿入する工程を更に含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライブラリ又は天然資源由来のタンパクをコードする遺伝子は、治療、診断、科学研究又は商業目的に利用できる様、単離される場合がある。このことは、特に免疫受容体に当てはまる。
【0003】
T細胞及びB細胞によってコードされる免疫受容体は、体細胞組換えと呼ばれるプロセスにより生殖細胞系の遺伝子断片のファミリーから組み立てられ、異なる受容体を発現する個々の細胞となる。これらの細胞はその後、親和性成熟と呼ばれる体細胞変異プロセスを経て、さらに免疫受容体の多様性を増大化させている。
【0004】
かかる免疫受容体がそれをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を持つ場合(例えば、抗体とT細胞受容体の様に、双方の遺伝子産物が受容体の抗原結合容量に共同的に寄与している場合)、後者が或る適切な発現系内に発現された時に生成したタンパクの本来の正しい機能を保証する上で、これら2以上の遺伝子又は遺伝子産物の当初の対合の維持が重要な鍵となる。
【0005】
この様な現象は、例えば或る個体のアンチボディオームから個々の免疫グロブリンをコードする各遺伝子を回収する上で極めて重要である。ここで、天然のB細胞に見られる様な当初の免疫グロブリンの重鎖と軽鎖(IgH+IgL)との対合の維持が、個々の抗体の正しい組換えコピーを産生し、その機能性を保証する上で重要である。IgH及びIgLは2つの異なる遺伝子の産物であり、双方共、或る抗体の特異性を決定するのに必要である。各B細胞は個別のIgH+IgLの組合せを発現しており、これによって固有の抗体特異性を備えている。
【0006】
別の例としてT細胞受容体-融合タンパクが挙げられる。これは、T細胞受容体から誘導され、アルファ鎖とベータ鎖(α鎖とβ鎖)から成り、機能性のためには両者の正しい対合が同様に必要とされる。
【0007】
ヒトB細胞から免疫グロブリン遺伝子を単離し、様々な種類のモノクローナル抗体を生成する組換え方法はファージ・ディスプレイを始め種々知られているが、これらの方法では免疫グロブリンの重鎖と軽鎖がランダムに対合する。
【0008】
抗体クローニング法には、当初の免疫グロブリンの重鎖と軽鎖との対合の情報が、多様性の源として選択したドナーから単離されたB細胞内に存在するかの様に保たれる、という特有の利点がある。特に、これら標準的(オーセンティック) な抗体は、生体内の選別プロセスを経て宿主に有害な作用を及ぼすおそれのある特異性を既に失っているものと考えられる。
【0009】
更に、同族の(cognate)IgH対合及びIgL対合を有する抗体は、親B細胞のオリジナルの特異性を示すことに加え、ランダムに対合したIgHとIgLとから成る抗体に比べて、より高い安定性、より高い発現性、その他の好ましい物理化学的性質を備えている。これら好ましい性質は、スクリーニングや大量生産に際して重要である。
【0010】
モノクローナル抗体を特にヒトB細胞から得ようとする試みは、これまで様々なB細胞クローニング技術で行われている。ここで、B細胞は刺激されて、分割(divide)し、及び/又は抗体を産生するが、或る目的の抗体を産生する単独のB細胞、又はB細胞の混合物を同定するためには、上記のような産生が必要である。目的の抗体を発現するB細胞クローンの同定は限界希釈クローニング等の細胞クローニング法 、又は、細胞刺激と、分子クローニング工程とそれに続く公知の適当な方法により組み換え的に発現された抗体を用いる反復スクリーニング法とを組み合わせた方法で行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ハイブリドーマ技術等の細胞クローニング法は、クローニング効率が1%未満と低い場合が多く、目的の抗体が非常に大量のB細胞により発現されている場合(感染時やワクチン接種後など)のみ有効である。しかし、これは厳しい制限である。なぜなら抗体は、B細胞数に富む状態を生み出せる感染その他の条件には関与しない標的に対して産生されるものと一般に考えられているからである。その例は、免疫介在疾患、神経変性疾患、又はがんに見られる。
【0012】
したがって、例えばB細胞の提供から標準的な抗体レパートリーの分子クローニングを行う技術は、単一細胞レベルで実施できることが必要である。これまでのところ、10万種以上もの異なる抗体特異性に対する完全アンチボディオームを十分なスループットで、且つ現実的なコストと所要時間で実施できる単一B細胞からの抗体の分子クローニングは、未だ実現されていない。
【0013】
本発明の1つの目的は、免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物の回収を容易化することである。
【0014】
本発明の他の目的は、そのタンパク質が治療、診断、科学研究又は産業目的に用いる際に有用である2以上の遺伝子又は遺伝子産物でコードされている免疫受容体を送達する方法を提供することである。
【0015】
本発明の更に他の目的は、そのタンパク質が、所望の抗原との結合能以外の性質によるバイアスを全く、或いは少なくとも最小限しか受けない、2以上の遺伝子又は遺伝子産物でコードされている免疫受容体を産生し得る方法を提供することである。
【0016】
本発明の更に他の目的は、免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物の単一細胞内における当初の対合を、単離中にも維持できる様にすることにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はそのmRNAでコードされる免疫受容体の発現能を有する細胞ライブラリのスクリーニングにおいて、そのスループットを高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明を詳述するに先立ち、以下に述べる装置や方法は変更される場合があり、したがって本発明は、ここに述べる装置類の特定の部材や方法の各工程に限定されないことを断っておく。また、ここで用いる用語は特定の実施例を既述する目的のみに用い、発明を限定する意図は何ら無いものとする。更に、明細書本文と特許請求の範囲において単数形で記載される名詞は、その文脈中で明示されない断り単数及び/又は複数の意味で用いるものとする。更にまた、パラメータの範囲が数値限定されている場合、その範囲はその両端の数値を含むものとする。
【0019】
本発明の一側面によれば、2つ以上のサブユニットを有する免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAを回収する方法であって、上記2以上の遺伝子又は遺伝子産物は単一のソース細胞に含有される方法が提供される。該方法は以下の各工程、即ち
a)ソース細胞をmRNA捕捉部位と共にマイクロリアクターに封入する工程、
b)上記マイクロリアクター内で上記細胞を溶解し、細胞mRNAを該マイクロリアクターのルーメン内に放出させ、これを上記mRNA捕捉部位に結合させる工程、
c)上記mRNA捕捉部位に結合したmRNAを逆転写して対応するcDNA 遺伝子産物を得る工程、
d)上記免疫受容体のサブユニットをコードする上記2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトを作製する工程、
e)上記PCR産物をプラスミド・ベクターにクローニングして2シストロン性又は多シストロン性の発現コンストラクトを得る工程、
を含む。
【0020】
このようにして、或るソース細胞集団の免疫受容体をコードする複数のcDNAを含むプラスミド・ライブラリが作製される。
【0021】
本明細書中で述べる「免疫受容体」とは、2つ以上のサブユニットを持ち、或るターゲット分子、好ましくはタンパクに特異的に結合することができるタンパクを示す語である。かかる免疫受容体とは、例えば重鎖と軽鎖を持つ抗体であり、或いはアルファ鎖とベータ鎖を持つT細胞受容体である。
【0022】
本明細書中で述べる「ターゲット分子」とは、治療、診断、解析、科学研究、又は産業目的等のために免疫受容体が作製される際の標的となる分子を包含する。ターゲット分子には、ペプチド、タンパク、糖タンパク,炭水化物、核酸、タンパク-核酸複合体、低分子、特に受容体タンパク、サイトカイン、タンパク凝集体(特にβアミロイド、タウタンパク又はα-シヌクレイン等の病理学的凝集体)、MHC-抗原性ペプチド複合体等のタンパク複合体、及び構造タンパクが包含される。
【0023】
本明細書中で述べる「或るターゲット分子に対する特異性」とは、免疫受容体が或るターゲットとは反応するが、その他とは反応しない能力を指す。特異性は化学組成、物理力、及び結合部位の分子構造に依存する。
【0024】
本明細書中で述べる「ソース細胞」とは、免疫受容体又はそのmRNAを発現する能力を有する細胞、即ち、免疫受容体をコードする遺伝子の供給源となる細胞を指す。これは例えば天然物、例えばドナーから単離される細胞または細胞のコレクションに関するものでもよく、これらは例えばドナー由来であって互いに異なる抗体をコードする複数のB細胞であってよい。同様に、ソース細胞はドナー由来であって互いに異なるT細胞受容体をコードする複数のT細胞であってよい。
【0025】
したがって、上記抗体又はT細胞受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物又はcDNAは、更に将来の使用に備えて回収されるものである。
【0026】
本明細書中で述べる「マイクロリアクター」とは、上記ソース細胞を3次元的に封入できる物理的な構造物である。好ましい実施態様において、このマイクロリアクターは楕円体形状を有し、自由浮遊型であり、微小環境内又は微小流体環境内で取り扱うことができる。
【0027】
本明細書中で述べる「mRNAの逆転写」とは、とりわけ逆転写PCR(RT-PCRとも言う)を指し、1本鎖mRNAテンプレートが2本鎖DNA(cDNAと呼ばれることもある)に転写される。
【0028】
ここで重要なことは、この方法では2つ以上のサブユニットを有する免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を同時に回収できることである。したがって、2以上のサブユニットの特異的な組合せが、本発明の主題であるプロセス全体を通じて維持される。このことは、例えば互いに特異的な軽鎖と重鎖とから成る 免疫グロブリン系抗体に当てはまり、これら各鎖の特異的対合は各抗体が正しく機能する上で必須である。本発明者らはこの性質を本発明の特異的な利点と考えている。なぜなら、従来のどの方法も重鎖と軽鎖の特異的対合を維持することができず、抗体を機能不全に陥らせる可能性があるからである。
【0029】
上記ソース細胞は細胞ライブラリ等の細胞コレクション、及び/又はドナー等の天然物から単離された細胞のコレクションに由来する細胞でもよい。好ましい実施例において、このコレクション又はライブラリは、100万種類までの細胞(したがって100万種類までの抗体をコードできる)を含むことができる。
【0030】
免疫受容体の異なるサブユニットをコードするmRNAは、まず捕捉部位への付着により空間的に連結し、続いてオーバーラップ・エクステンションPCRにより物理的に結合するという事実、及び/又は、PCR産物が、免疫受容体の異なるサブユニットをコードする2以上のcDNAを含む2シストロン性又は多シストロン性発現コンストラクトにクローニングされるという事実により、2以上の遺伝子又は遺伝子産物が一緒に処理されて回収され、2つ以上のサブユニットの上記の特異的な組合せがプロセス全体を通じて保持される。
【0031】
オーバーラップ・エクステンションPCR(以下、oePCRと称する)は、PCRの一変法である。この手法は、小さな DNA断片を大きなポリヌクレオチドに結合させる為に用いられる (Embletonら、1992)。
【0032】
多くのPCR反応におけると同様、1本のヌクレオチドの増幅には2つのプライマーを用いる(両端に1本ずつ)。2つのDNA分子を連結するには、連結させたい端部にそれぞれ特殊なプライマーを用いる。即ち、各分子について、連結させたい端部におけるプライマーは、その5’オーバーハングがもう一方の分子に対して相補的となる構造を有している。アニーリングに引き続き複製が開始すると、DNAは連結の相手の分子に対して相補的な新しい配列を作りながら伸長する。2つのDNA分子の増幅が臨界濃度に達すると、これら2つの別々の遺伝子は2つの相補的なプライマー配列がアニールした場所で対合する。
【0033】
導入された相補的オーバーラップ配列はヘテロ2本鎖を伸長させるためのプライマーとして機能し、これら2つの配列を融合する。これらのヘテロ2本鎖は2つのプライマーをアニールすると、新たに形成されたヘテロ2本鎖の自由端(連結プロセスに関与しない部分)で更に増幅される。
【0034】
所望により追加の増幅工程を、2つの別々の遺伝子の各自由端に対して特異的なネスティッド(nested)プライマーを用いる2回目のPCRにおいて実施する。
【0035】
この方法は、制限エンドヌクレアーゼ(又はリガーゼ)を必要としない点で、他の遺伝子連結方法に優る。したがって、oePCRによれば、mRNA捕捉マトリクス・ビーズ上の2つの別々の遺伝子の単なる「空間的配位」が共有結合へと変化し(confirmation /transformation)、 1本のヘテロ2本鎖DNAが形成される。
【0036】
好ましくは、工程c)の後に追加の品質管理工程を行い、この工程でmRNA捕捉部位へのmRNAの結合の均一性を評価してもよい。特に好ましい実施態様において、この捕捉部位にはmRNAが結合しておらず、2つ以上の該部位の凝集物はこの工程で除去される。
【0037】
好ましい指標に照らせば、30%以上のmRNA捕捉部位にmRNAが結合しており、より好ましくは40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、最も好ましくは90%以上のRNA捕捉部位にmRNAが結合している。
【0038】
好ましくは、工程d)の後に、追加の品質管理工程を行い、この工程で異なるサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物の分布均一性を評価してもよい。好ましい指標に照らせば、30%以上のmRNA捕捉部位がクローン化可能な増幅産物(cDNA)を含む。より好ましくは40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、最も好ましくは90%以上のmRNA捕捉部位がクローン化可能な増幅産物を含む。
【0039】
好ましくは、工程d)の後に、追加の品質管理工程を行い、対合したIgH遺伝子及びIgL遺伝子の多様性を、例えば結合したサブユニット又は遺伝子の代表的なサンプルのシーケンス解析でそれぞれ調べることにより、交差汚染率を評価してもよい。好ましい指標に照らせば、後者は35%以下である。交差汚染率は、より好ましくはクローン化可能な増幅産物を含むmRNA捕捉部位の30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、最も好ましくは5%以下である。
【0040】
工程c)では、mRNAを捕捉し逆転写の準備を行う(prime)為の核酸分子の選択は、例えばmRNA捕捉部位によって支配される。実施態様によっては、後者はオリゴdTプライマー又はランダムヘキサマープライマーなどの、或る細胞の全mRNAに対して相補的である特異的な捕捉能を示す核酸配列を示す場合がある。
【0041】
他の実施態様において、mRNAの捕捉と逆転写の準備に用いられる核酸分子を、特定のmRNAだけが転写される様に、例えば、或る免疫グロブリンのHCとLCをコードするmRNAのみが転写される様に、設計してもよい。
【0042】
好ましい実施態様によれば、本発明の方法は工程c)の後に、免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトを増幅する工程を備えてもよい。
【0043】
こうした目的には、特異的なPCRプライマーが用いられる。例えば、或る抗体をコードするコンストラクトを増幅するには、V(D)J再構成(軽鎖cDNA遺伝子産物が下流側に続くと想定)後、再編成(V(D)J再編成)免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖cDNAの可変領域(v領域)に特異的なプライマーを用いることができる。この目的に適した特異的PCRプライマーは、例えばWardemannら (2003)が報告している。
【0044】
工程c)の後には同様に品質管理工程を追加することが好ましく、その工程は下記の各工程、即ち
(i)mRNA捕捉部位におけるcDNA合成をモニタする工程、及び
(ii)凝集したmRNA捕捉部位を除去する工程、
を含んでよい。
【0045】
この手法によれば、HC/LC対合の中断に繋がりかねない異なるマイクロリアクターに由来する2つ以上のmRNA捕捉部位間のクロストークを排除することができる。
【0046】
mRNA捕捉部位におけるcDNAの合成のモニタリングは、例えば逆転写RT-PCRで用いられる方法と同様の方法で行うことができ、この場合のRT-PCRの進行は、例えば一端に蛍光レポーター、他端にクエンチャーを有し、マトリクスに結合するDNAプローブを用いてモニタされる。
【0047】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、工程d)で上述した免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトの作製は、オーバーラップ・エクステンションPCRでcDNAを増幅することで達成できる。
【0048】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、コンストラクトを増幅する工程はネスティッド(nested)PCR(以下、nPCRとも称する)の使用を含む。
【0049】
この手法によれば、工程e)で上述した様に、増幅されたPCR産物を供給することでクローニング用に十分量のcDNAのコピーが利用可能となるのみならず、適切な制限部位を導入し十分な特異性を与えることにより、免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物のみを増幅することができる。
【0050】
ネスティッドPCRは、予期されないプライマー結合部位の増幅による生成物における非特異的結合を減ずることを目的とした、ポリメラーゼ連鎖反応の一変法である。ポリメラーゼ連鎖反応そのものは、温度介在性DNAポリメラーゼを介したDNAサンプルの増幅に用いられるプロセスである。この産物は配列決定や解析に用いることができ、多くの遺伝子研究室において重要な役割を担っている他、科学捜査その他のヒト遺伝学的案件におけるDNA鑑定にも利用されている。従来のPCRでは、ターゲットDNAの両末端に対して相補的なプライマーが必要であった。しかし、これらプライマーがDNAの正しくない領域に結合し、予想外の産物が生成するという共通の問題があった。ネスティッドポリメラーゼ連鎖反応では2組のプライマーが、2回連続して行われるポリメラーゼ連鎖反応の中で用いられる。2番目の組は、最初のPCRラン産物中に含まれる二次ターゲットを増幅するための物である。
【0051】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、本発明の方法は更に、cDNAの発現を助ける調節エレメントをPCR産物中に導入する工程を含む。この調節エレメントとは、例えば開裂部位、シグナル・ペプチド、又はプロモーターである。
【0052】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記マイクロリアクターは工程b)、工程c)、又は工程d)の後に溶解又は破壊される。
【0053】
マイクロリアクターがアルギン酸から成る場合(本明細書に記載の通り)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を加えて媒質中の2価陽イオン(例えばCa2+)の力価を下げることで、これを溶解できる。ここで、アルギン酸は、そのゲル様状態を保つことが必要である。或いは、アルギン酸(alginates)を消化する酵素、アルギナーゼを用いてもよい。
【0054】
アルギナーゼはβ-D-マンヌロン酸残基を含む多糖類の開裂を触媒するポリ(β-D-マンヌロン酸)リアーゼ であり、末端に4-デオキシ-α-L-エリスロ-ヘキサ-4-エノピラヌロノシル基を有するオリゴ糖を産する。アルギナーゼはリアーゼのファミリーに属し、その系統名はポリ(β-D-1,4-マンヌロニド)リアーゼである。他にも、アルギン酸リアーゼI、アルギン酸リアーゼ、アルギナーゼI、アルギナーゼII等の常用名がある。
【0055】
mRNA捕捉部位は或るソース細胞の全mRNAを捕捉することができるので、注目する免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAの細胞特異的な対合を確認する決定工程は、細胞性の全mRNAがmRNA捕捉部位に結合するのとほぼ同時に達成される。前述した様に、この特異的な対合は、注目する個々の免疫受容体が正しく機能する上で必須である。
【0056】
ところで、マイクロリアクターの溶解(但し、注目する免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAの細胞特異的な対合の喪失はない)の最も早いタイミングは、工程b)の後である。その理由は、全ての細胞性mRNA(注目する免疫受容体をコードするmRNAを含む)が、そこに存在するmRNA捕捉部位に捕捉されることになるからである。
【0057】
好ましくは、マイクロリアクター1個当たり、1個以上100個以下のmRNA捕捉部位が用いられる。より好ましくは、マイクロリアクター1個当たり、5個以上50個以下のmRNA捕捉部位が用いられる。
【0058】
実施態様によっては、この後の各工程、即ち(i)mRNA捕捉部位に結合したmRNAを逆転写して対応するcDNA遺伝子産物を得る工程(工程c)、(ii)免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子産物を含むコンストラクトを作製する工程(工程d)、及び/又は(iii)PCR産物をプラスミドベクターにクローニングして2シストロン性又は多シストロン性の発現コンストラクトを得る工程(工程e)は、溶液中で行うことができる。即ち、マイクロリアクターの外部で、注目する免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAの特異的対合が失われるおそれの無い状態で、行うことができる。
【0059】
或いは他の実施態様において、これらの各工程の一部または全てをマイクロリアクター中で行ってもよい。
【0060】
本発明の他の好ましい実施態様において、工程b)の後、mRNA捕捉部位は適当なプライマーと少なくとも1種類のポリメラーゼとを用いて乳化される。
【0061】
この目的の為、mRNA捕捉部位(例えば、ポリ(dT)結合磁性ビーズ)にアニールされたmRNAを回収し、洗浄し、プライマー、逆転写酵素及び耐熱性DNAポリメラーゼで乳化してRT-PCRを行い、その後必要に応じてoePCRを行うことが好ましい。
【0062】
この様なプロセスは、例えば細胞性mRNAを捕捉したポリ(dT)結合磁性ビーズを磁性ラック上でペレット化することで実現でき、その後洗浄と再懸濁を行う。ビーズは次に適当なRT-PCR混合物中に懸濁させ、得られた懸濁物を油相を満たした撹拌槽に投入する。生成した乳化物を適当なPCRプレート又はチューブに注入し、サーマルサイクラーに収容する。
【0063】
本発明の他の好ましい実施態様において、免疫受容体は少なくとも2つのサブユニットを有する抗体か、又は少なくとも2つのサブユニットを有するT細胞受容体である。抗体においては、サブユニットは重鎖と軽鎖である一方、T細胞受容体様抗体においては、サブユニットはアルファ鎖とベータ鎖である。
【0064】
本明細書中で述べる「抗体」とは、基本的に免疫グロブリン概念に基づく免疫受容体を指すものとする。ソース細胞、即ち免疫受容体の発現能を有する細胞から単離された時点では、この抗体はまだ当初のIg型(IgG、IgD、IgE、IgA、及び/又はIgM)を有している。好ましくは、これは既述のスクリーニング・プロセスの対象となる型でもあり、該プロセスでは発現細胞のライブラリをスクリーニングすることで、或る1つのターゲット分子に特異性を有する1つの免疫受容体を発現する1種類の細胞を検出する。
【0065】
但しこれは、その後治療、診断、解析、科学研究または産業目的に用いられるこの免疫受容体がこの型を維持していることを意味するものではない。該免疫受容体はscFv、Fab、及び/又はF(ab)などの断片や誘導体として存在してもよい。同様に、その後、治療、診断、解析、科学研究または産業目的に用いられるこの免疫受容体は新しい抗体型を有していてもよく、この型としては二重又は三重特異性抗体コンストラクト、ダイアボディ(Diabody)、ラクダ科動物抗体(Camelid Antibody)、ドメイン抗体、scFvsから成る2本鎖を持つ2価のホモダイマー、IgA(J鎖と分泌成分とで連結された2つのIgG構造)、サメ抗体、新世界霊長類フレームワークと非新世界霊長類CDRとから成る抗体、CH3+VL+VHを含む二量化コンストラクト、及び抗体コンジュゲート(毒素、サイトカイン、放射性同位体又は標識物質と結合した抗体又は断片又は誘導体等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
当初のIg型を保ち所定の標的に対する特異性を有することが判明している所定の抗体を、如何にして上述のような断片や誘導体に、又は上述の新しい抗体型に翻訳するかは、当業者の知る所である。
【0067】
別の好ましい型として、「リバースキメラ型」が挙げられる。これは、本発明の方法で得たヒト抗体からヒト可変領域を単離し、これを非ヒト定常領域(例えばネズミ定常領域)に融合したものである。特定の診断、解析、科学研究又は診断用途において、非ヒト抗体(特にネズミ抗体やウサギ抗体)を用いる解析手順、組織学的手順、スクリーニング手順等のインフラがひと通り整備されている場合、或いは標識化抗マウス抗体を標的特異的検出抗体(即ち、ネズミであって、ネズミFc領域を有する)の標識化に用いる場合に、このリバースキメラ型は特段の威力を発揮する。この様な環境では、完全なヒト検出抗体はその他の環境に適合しない場合がある。
【0068】
本発明の方法で得たヒト可変領域から作られたリバースキメラ型は、本発明の長所 (重鎖と軽鎖の対合が維持されることによる優れた結合能)と、従来の標準的な解析手順、組織学的手順、スクリーニング手順への産生抗体の適合性とを合体させたものである。
【0069】
かかるリバースキメラはキメラ抗体と同様に作製することができ、例えばBoulianneら (1984) やMorrissonら (1984)が論じている確率された組換え法によって作製可能である。
【0070】
T細胞受容体(TCR)はTリンパ球の表面に見られる分子である。T細胞受容体は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識をつかさどる。T細胞受容体は通常、アルファ(α)鎖とベータ(β)鎖という2つの異なるタンパク鎖から成る(但し、5%のTリンパ球では、T細胞受容体はガンマ(γ)鎖とデルタ(δ)鎖から成る)。
【0071】
TCRが抗原性標的及びMHCと結合すると、Tリンパ球は関連酵素、共同受容体、特化したアダプター分子、及び活性化または放出された転写因子が関与する一連の生化学的事象を通じて活性化される。
【0072】
組換えT細胞受容体融合タンパクは近年、ペプチドと主要組織適合性複合体(MHC)との複合体として細胞表面に存在するペプチド抗原に狙いを定める手段であることが明らかになった。
【0073】
この目的のため、例えばTCRを免疫刺激因子に融合させることで、T細胞受容体の可溶性変異体を作製することができる。これら融合タンパクは、元々存在する細胞内抗原に狙いを定める為に用いることができる。この様な細胞内抗原は、他の標的療法、特に抗体によっては感知されない。この手法によれば、癌特異的抗原に特化したT細胞受容体の可溶性変異体を用いて種々の癌を標的とすることができる (Cardら、2004)。
【0074】
本発明の他の好ましい実施態様において、上記免疫受容体は治療用タンパク(例えば、疾患の治療用又は予防用にヒト又は動物被験体に用いられるタンパク)、診断又は科学研究用タンパク(例えば、被験物質の検出に用いられるタンパク)、又は商業用タンパク(例えば、 所定の化合物の単離や生成等、工業プロセスで用いられるタンパク)である。
【0075】
本発明の他の側面によれば、発現細胞のライブラリを作製する方法が提供される。上記ライブラリの各細胞は、請求項1に記載の方法で回収された、免疫受容体のサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を発現させることができる。本方法は下記の工程、即ち
g)2シストロン性又は多シストロン性発現コンストラクトを用いて発現細胞をトランスフェクションする工程、及び
h)上記発現細胞をマイクロリアクターに封入する工程、
を含む。
【0076】
上述した通り、これらマイクロリアクターは基本的にソース細胞、即ち注目する免疫受容体又はそのmRNAを発現させる能力のある細胞 に用いたものと同様である。但し、好ましい一実施態様において、発現細胞はカプセル化後に膨張するので、これらマイクロリアクターはより大きなサイズであっても良い。
【0077】
これらの発現細胞は、治療用、診断用、解析用、科学研究用又は産業用タンパクの異種発現に通常用いられる細胞であることが好ましい。ここで「発現細胞」の語は、細菌細胞 (大腸菌等)、 真菌細胞(ピキア、アスペルギルス、サッカロミセス、 シゾサッカロミセス、ハンゼヌラ、Arxula、トリコデルマ等)、哺乳類細胞(CHO、COS、HEK、HeLa、3T3、NSO又はHepG2、PER.C6等)、又は昆虫細胞を包含する意味である。
【0078】
本発明において、「ソース細胞」及び「発現細胞」とは互いに異なる別物であることに注意を要する。ソース細胞は、所定のタンパクをコードする 遺伝子の供給源となる細胞を意味し、例えばドナー等の天然物から単離される単独の細胞、又は細胞のコレクションである。
【0079】
これに対し「発現細胞」とは、上記免疫受容体を発現させるための本発明の方法に実際に用いられる細胞であり、免疫受容体を大量に取得し、使用する前に免疫受容体を精製するためのものである。
【0080】
工程g)では、各発現細胞に2シストロン性又は多シストロン性発現コンストラクトが1つだけトランスフェクションされることが好ましい。これは、当業者には良く知られた限界希釈法で達成されることが好ましい。
【0081】
同様に工程h)では、各マイクロリアクターに発現細胞が1個だけ封入されることが好ましい。これは、100%より遙かに少ない細胞数、例えば細胞数の10%又は細胞数の30%に形質移入が行われるように細胞当たりのウイルス粒子数を決定することで達成されることが好ましい(限界希釈法)。
【0082】
封入された発現細胞は、タンパク発現、及び/又は細胞増殖が進行する条件下で培養されることが好ましい。
【0083】
好ましい一実施態様において、工程h)における封入の前に、トランスフェクションされた細胞をタンパク発現が可能な条件下でインキュベートすることが好ましい。この実施態様によれば、機能不全を来した細胞や導入遺伝子(例えば、マーカー遺伝子(蛍光マーカー/表面マーカー)と結合された免疫受容体)を発現しない細胞を選別除去することができる。
【0084】
工程g)又は工程h)の後には品質管理工程を追加的に行うことが好ましく、この工程で感染細胞が、機能的な抗体を発現できるか否かをチェックする。
【0085】
本発明の他の側面によれば、前述の方法で作製された発現細胞のライブラリをスクリーニングする方法が提供される。この方法は、所定のターゲット分子に特異性を示す免疫受容体を発現する1種類の細胞(又はマイクロリアクター内に存在するその純系の子孫)を検出する方法であり、該方法は下記の工程の少なくとも1つを含む。
i)マイクロリアクター内に侵入し、そこに含まれる発現細胞によって発現される免疫受容体に結合できる標識化ターゲットを用いる工程、及び
j)マイクロリアクターから既に流出し現在は上清中に存在する発現細胞によって発現される免疫受容体を、マイクロリアクター培養物の逐次分画で検出する工程、
の少なくとも1つを含む。
【0086】
後者に関しては、本発明で意味するところの免疫受容体を検出できる樹立されたスクリーニング技術を用いることができる。
【0087】
前者に関しては、マイクロリアクター内の免疫受容体の濃度は、上清液体中の濃度よりも早くピーク・レベルに達するので、この様な免疫受容体の保持時間をスクリーニングに利用することができる。この場合、マイクロリアクター内で抗体特異性の検出を行う前に、洗浄工程を設けてマイクロリアクターを取り巻く上清液体中の免疫受容体濃度を低下させる。蛍光標識抗原と結合して染色陽性となったマイクロリアクターを選別し、例えば更なる確認の為のスクリーニング用にそのまま残すか、又は破壊して抗体反応性/特異的な細胞クローンの更なる成長、又はモノクローナル抗体の産生に用いる。
【0088】
後者に関しては、マイクロリアクター培養物を沈降させるか又は遠心することでマイクロリアクターを取り巻く上清を回収し、これを直接分析して目的の機能又は他の性質を備えた免疫受容体の存在を確認する。
【0089】
各例において、個々の発現細胞に発現する免疫受容体が標識化ターゲットに対する特異性を備えていれば、個々の実験結果は陽性(「当たり」)である。
【0090】
ターゲットを標識化するための標識は、放射性同位体、酵素、発光体、蛍光体、燐光体、金属含有粒子 (例えば、金含有粒子)、X線濃厚物(X-ray dense entity)、抗体等から成るものであってよい。適切な標識は、もっぱら当業者が適宜に選択し得るものである。
【0091】
本発明には3通りの方法(サブステップとも称する)が含まれると理解され、これらは共通の発明の思想によって相互に関連付けられるものである。その方法とは即ち、(i)或る免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物、又はcDNAを回収する方法、(ii)回収された遺伝子、又は遺伝子産物、又はcDNAに基づいて発現細胞のライブラリを作製する方法、及び(iii)かかる発現細胞のライブラリをスクリーニングする方法、である。
【0092】
これら3方法は各々単独で成立するが、好ましい実施態様において、本発明の方法はサブステップ(i)と(ii)、(ii)と(iii)、又は(i)~(iii)を含んでよい。
【0093】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記RNA捕捉部位はビーズ又は粒子であり、好ましくは磁性ビーズ又は粒子である。このmRNA捕捉部位は、その表面にオリゴdT-DNA配列を結合していることが好ましい。
【0094】
ここで、オリゴdT-DNA配列を含む磁性ビーズが好ましい。この種のビーズの一例として、Dynabeads(登録商標)Oligo (dT)25がLife Technologies社より市販されている。オリゴdTビーズは、メッセンジャーRNAのpoly-A末端と、ビーズ表面に結合されたオリゴdT配列との塩基対に頼るものである。従って、オリゴdT ビーズは所定の細胞のmRNA全体を回収するのに用いられる。アニーリング後に、バイアルを磁石上に置き、mRNAを結合したビーズをチューブの側面に濃縮する。不要な夾雑物を含む上清を捨てる。この手順は全RNAの調製やその他の精製工程を一切必要とせず、15分以内に完了することができる。ビーズ表面に結合したオリゴdTは、mRNAの捕捉に利用できると共に、第一鎖cDNA合成における逆転写酵素のプライマーとして働く。
【0095】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記2シストロン性又は多シストロン性発現ベクターは、IRES(内部リボソーム侵入部位)配列を伴う、又は伴わない2Aペプチド結合多シストロン性ベクターである。
【0096】
2Aペプチド結合多シストロン性ベクターは、例えばSzymczakら (2004)が論じている。当業者であれば、他の適当な2シストロン性又は多シストロン性の発現も本発明の範囲に包含され、それ以上の進歩性を要することなく本発明の文脈内で使用可能であることが、容易に理解できるであろう。
【0097】
本発明で述べるところのマイクロリアクターを調製するための材料と方法は、当業者によく知られている。a)適正なサイズのカプセルを作製することができ、且つ b)高度に単分散されたカプセルを作製することができれば、基本的にいずれの方法を用いてもよい。
【0098】
更に、好ましい実施態様において用いられる材料は、a)該材料の存在下で用いた全て又は一部の反応物質に対して所望の透過性を示すカプセルを作製することができ、b)その存在下で採用した全ての反応条件に対して安定なカプセルを作製することができ、且つc)カプセル構造内で進行する酵素反応に対する阻害効果が全く無いか、あっても少ない様な、材料である。細胞(単数又は複数)、及び/又は(改変か増幅の少なくとも一方を受けた)核酸(単数又は複数)は、カプセルが溶解されるまでカプセルから離脱できないことは自明である。
【0099】
本発明の方法を実施するにあたり、用いるカプセル材料は、カプセル構造内で進行する増幅反応又はシーケンス反応などの酵素反応に対して阻害効果が全く無いか、あっても少ない材料とすることが必要であろう。増幅反応やシーケンス反応に対して適切に低い阻害効果を示すカプセル材料は、先に列挙した通りである。封入した細胞を増殖させ得るカプセル材料は数多くある。また、あらゆる反応条件に対して安定なカプセル材料を用いることが更に好ましい。このカプセルは、例えば細胞成長、細胞溶解、インビトロ増幅、或いはDNAシーケンシングに由来する化学的、物理的、機械的ストレスによって分解しないことが好ましい。好ましいカプセル材料については後述する。
【0100】
より好ましくは、本発明の実施に用いられるマイクロリアクターは、Serp ら (2000) が論じている単一液滴の形成方法に従って生成される。良好な結果が得られる他の手法として、フローフォーカシング技術 (Cellena(登録商標)、Ingeniatrics Tecnologias 社、スペイン国セビリア);Gomez-Herreros ら (2012); Martinez ら (2012) が論じているミクロ流体デバイスに内蔵されたフローフォーカシング・ノズル、エマルジョン重合法(One Cell Systems社、米国);及びPruse ら (1998) が論じているジェットカッター技術が挙げられる。
【0101】
本発明で用いられるカプセルは、用いられる反応物質の一部又は全てを透過させ得るポアサイズを有することが好ましい。本発明の方法を実施するに当たり、細胞増殖、異化産物の除去、増幅、標識化、及び/又はシーケンシングに必要な数多くの反応物質、及び精製を支援する反応物質に対して透過性を有するカプセル材料を用いることが好ましい。
【0102】
本発明の他の好ましい実施態様において、各マイクロリアクターは1種類のソース細胞、例えば1種類のB細胞又は1種類のT細胞を含む。マイクロリアクター1個当たりの細胞数は「占有度」(DOO)とも呼ばれる。本実施態様では、単一細胞RT-PCRを実際に行ってmRNAを回収する。本実施態様に特有の利点は、前述の如く本法が、2つ以上のサブユニットを持つタンパクの該サブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を1種類の細胞から同時に回収できる一方法である、ということである。
【0103】
しかしながら単一細胞RT-PCRは、ライブラリ等の細胞コレクションの一部、又はヒト・ドナーから提供されたB細胞等の単一種類の細胞からタンパクのサブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を回収する用途や、これに基づいて発現細胞のライブラリを作製する用途にはこれまで用いられて来なかった。それは、単一細胞RT-PCRを高スループットな諸方法と組み合わせることが出来なかったからである。
【0104】
このため、単一細胞RT-PCRは、2つ以上のサブユニットを持つタンパクの該サブユニットをコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物を回収するプロセスのボトルネックと考えられてきた。
【0105】
但し、各マイクロリアクターがソース細胞を1個だけ含むことを特徴とする、好ましい本実施態様は、発現細胞の封入に用いられるマイクロリアクターには当てはまらない。
【0106】
ソース細胞、好ましくは1個のソース細胞を封入するのに用いられるマイクロリアクターは、所謂フィーダー細胞を含んでもよい。フィーダー細胞とは免疫受容体またはそのmRNAの発現能を持たない細胞であるが、溶解されると、mRNA捕捉体の飽和を助ける非免疫受容体関連mRNAを送達することができる。
【0107】
好ましくは、上記マイクロリアクターは、
・ハイドロゲル形成ポリマー、好ましくはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(エチレンイミン)、ポリリジン、ポリアクリルアミド及び/又はアクリル酸、
・セルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロース及びセルロースエステル,
及び/又は
・多糖類、好ましくはアガロース、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン酸及び/又はキトサン、
からなる群より選択される材料を含む。
【0108】
この種のマイクロリアクターは以下、「ナノリットルリアクター」(NLR)と称する場合があるが、これらの容量は必ずしもナノリットルのオーダーである必要はなく、これより大きい場合も小さい場合もある。
【0109】
特に好ましい一実施態様において、上記マイクロリアクターは2価又は3価の金属陽イオンで架橋されたアルギン酸ハイドロゲルを含む。アルギン酸を含むマイクロリアクターは、酵素や抗体等の球体構造物、或いは短鎖DNA(プライマー)が容易に通過できる。PCR産物などの長い糸状のDNA分子の通過速度は、ずっと遅い。従って、単一細胞に由来するPCR産物が、マイクロリアクター内で一時的に固定されることになる。アルギン酸を含むマイクロリアクターは更に、高スループットの解析やフローサイトメトリーによる選別にも供することができる。このアルギン酸カプセル材料はアルギン酸カルシウム、バリウム及び/又はストロンチウムを含むことが一層好ましい。 アルギン酸バリウムとアルギン酸ストロンチウムから成る各マイクロカプセルが、PCR反応に必要なポリメラーゼに対して極めて低い阻害能を示したことは驚くべき知見であった。従って、アルギン酸バリウムとアルギン酸ストロンチウムは、アルギン酸カルシウムに比べて優れた増幅を可能とするであろう。
【0110】
アルギン酸ビーズの作製と、その中に細胞を封入するプロセスは、例えばアルギン酸と封入すべき細胞との混合物を使用して、ポリマー・チューブ製のマイクロノズルを通じて導入することを含む。ビーズの直径は、ノズルの形状とスピン周波数(5~28Hz)に応じて適宜調節することができる。ビーズを、マイクロノズルから空気層のギャップを通して標準的なラボラトリ・チューブに入れた硬化剤(例えばCaCl溶液)へ向けて噴射する。
【0111】
好ましい別の実施態様において、上記マイクロリアクターは水/油エマルジョン中の水滴として形成される。以下、このタイプのマイクロリアクターを「エマルジョン液滴」とも称する。
【0112】
この様なマイクロリアクターは、例えばBiorad社から市販されているQX100TM Droplet DigitalTM PCRシステムを用いて作製することができる。この装置内では、サンプルと液滴形成用オイルとが8チャンネル液滴発生器カートリッジにロードされる。液滴ウェルを減圧し、フローフォーカシング・ノズルを通じてサンプルとオイルとを吸引し、ここで単分散液滴が形成される。
【0113】
上記の議論は、(i)ソース細胞の封入、又は或る免疫受容体をコードする2以上の遺伝子又は遺伝子産物又はcDNAの回収に用いられるマイクロリアクター、並びに(ii)発現細胞の封入に用いられるマイクロリアクターの双方に関連し、 いずれの場合もマイクロリアクターは 、水/油エマルジョン中の水滴として形成することができ、或いはハイドロゲル形成ポリマー、セルロース誘導体及び/又は多糖類(アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン酸及び/又はキトサンなど)から形成することができる。
【0114】
但し、好ましい一実施態様によれば、(i)の用途に用いられるマイクロリアクターは水/油エマルジョン中の水滴として形成され、一方(ii)の用途に用いられるマイクロリアクターは、ハイドロゲル形成ポリマー、セルロース誘導体及び/又は多糖類(アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン酸及び/又はキトサンなど)から形成される。
【0115】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記マイクロリアクターは、10μm以上1000μm以下の直径を有する。
【0116】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記マイクロリアクターは、0.52pl以上523nl以下の容量を有する。
【0117】
より好ましくは、(i)の用途に用いられる上記マイクロリアクターは0.5nl以上、5nl以下の容量を有し、(ii)の用途に用いられる上記マイクロリアクターは25nl以上、150nl以下の容量を有する。
【0118】
但し、好ましい一実施態様において、(i)の用途に用いられる上記マイクロリアクターは、水/油エマルジョン中の水滴として形成される一方、 (ii)の用途に用いられる上記マイクロリアクターは、ハイドロゲル形成ポリマー、セルロース誘導体及び/又は多糖類(アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ペクチン酸及び/又はキトサンなど)から形成される。但し、好ましくは、ソース細胞の封入に用いられるマイクロリアクターは、発現細胞を封入するマイクロリアクターよりも小さくすることができる。
【0119】
下記の表に、本発明で用いられるマイクロリアクターの様々なサブタイプの概要を示す。
【0120】
【表1】
【0121】
本発明の更に他の好ましい実施態様によれば、上記マイクロリアクターは楕円体形状を有する。
【0122】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、上記ソース細胞は異なる免疫受容体用の遺伝子産物を含む細胞メンバーのコレクションに由来する。上記ソース細胞は、未成熟又は成熟したB細胞又はT細胞から成る群より選択される哺乳類細胞であることが好ましい。
【0123】
本実施態様において、上記細胞のコレクションは成熟B細胞、例えばメモリーB細胞のコレクションである。このコレクションとは、異なるドナーから提供されたB細胞ドネーション(donations)でコンパイルされたコレクション、或いは又、所定のドナーから得られた全B細胞のコレクション、そのフラクション、又は少なくともそれ自体でアンチボディオーム(当該ドナーの成熟B細胞全体でコードされる抗体の完全一式)を構成するもの、又はそのフラクションである。
【0124】
未成熟B細胞、成熟B細胞とは、内部で既にVDJ組換えとVJ組換えとが完了しているタイプのB細胞である。このことは、これらの細胞がランダムに結合したvariable、joining、diverse の各遺伝子断片を既に有しており、固有の重鎖(VDJ)と固有の軽鎖(VJ)をコードする固有の組換え遺伝子が得られていることを意味する。
【0125】
このB細胞は、プラズマB細胞又はメモリーB細胞であることが好ましい。プラズマB細胞(プラズマ細胞、形質細胞、エフェクターB細胞とも言う)は既に抗原と接触して大量の抗体を産生・分泌している大型のB細胞であり、微生物に結合してこれを破壊し、食細胞に取り込まれ易くする他、補体系の活性化を支援する。プラズマB細胞は抗体ファクトリーと呼ばれることもある。この細胞の電子顕微鏡像を見ると、該細胞の細胞質中で抗体の合成をつかさどる粗面小胞体が、細胞質中に大量に存在しているのが解る。免疫応答を誘発した誘発物質を除去すると、この細胞はアポトーシスを起こす。アポトーシスは、生存に必要な種々のコロニー刺激因子との継続的な接触が中断することにより起こる。
【0126】
メモリーB細胞は、一次免疫応答の過程で遭遇する抗原に特異的な活性B細胞から形成される。メモリーB細胞は寿命が長く、同じ抗原との2度目の接触に速やかに反応することができる。
【0127】
T細胞、別名Tリンパ球は、細胞性免疫に主要な役割を果たすタイプのリンパ球である。T細胞はその表面にT細胞受容体(TCR)を有する点で、B細胞等の他のリンパ球と区別できる。T細胞には、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞の各種類が存在する。
【0128】
B細胞と同様、T細胞も胸腺細胞の発生過程で、免疫グロブリンに関して説明した事象と同様の規則的な組換え事象を基本的に同じ順番で経る。DからJへの組換えは、まずTCRのβ鎖で起こる。このプロセスは、6本のJβ1セグメント中1本へのDβ1遺伝子断片の接合か、又は7本のJβ2セグメント中1本へのDβ2遺伝子断片の接合を含む。DJ組換えに引き続き、(同様にして)VβからDββへの組換えが起こる。新しく生成した複合体中、Vβ-Dβ-Jβ遺伝子断片同士の間にある遺伝子断片が全て削除され、定常域遺伝子(Vβ-Dβ-Jβ-Cβ)を持つ一次転写物が合成される。mRNA転写では何らかの介在配列がスプライシングにより除去され、TCRのCβ鎖に対する完全長タンパクが翻訳される。このβ鎖の組換えに続き、TCRのα鎖の組換えが起こる。この組換えは、Ig軽鎖に関して上述したVからJへの組み換えに類似している。β鎖とα鎖との会合により形成されたαβ-TCRが、大多数のT細胞上に発現する。
【0129】
T細胞の特異性はMHC拘束型であるため、TCRはMHC分子の影響下で、主に細胞内プロセスを経た直鎖ペプチド抗原を認識する。この様式は、B細胞の認識モードと著しく異なっている。B細胞の認識モードでは、可溶化又は膜結合抗原がMHC分子の関与を何ら受けることなく、つまりそれらがMHCと複合化することを必要とせずに、その同族抗体の三次元標的構造を認識する。従って、T細胞とB細胞とは特異的免疫系の根本的に異なる2通りの認識モードを示す。MHC拘束型の抗原認識モードを示す抗体(TCR様抗体)は天然には存在しない様であるが、実験動物の過免疫で誘導することができる。但し、この様な特異性を、必要なレベルの特性と親和性を伴って広範な種類のペプチド-MHC複合体に発生させることは、困難であった。
【0130】
本発明の他の好ましい実施態様によれば、ソース細胞は1種又は2種以上のドナーから採取される。このドナーはヒトドナーであることが好ましい。但し、ドナーはウサギ、マウス、ブタ、ラット、牛(cow)、及び非人類霊長類であってもよい。
【0131】
上記ドナーは、所定の疾患について軽度又は微弱な症状を呈しているか、病気の進行が遅れているか、或いはその疾病に対して耐性があると判明しているドナーであることがより好ましい。この様なドナーは、メモリーB細胞の様なソース細胞、即ち該疾患に対して治療的、予防的又は遅延的な効果を持ち得る抗体等の治療用タンパクをコードする細胞を保有している可能性が高い。かかるタンパクは癌介在型サイトカインの拮抗剤であり、或いは所定の病原体に結合し、或いは免疫応答に関与する受容体に結合するからである。
【0132】
本発明の他の好ましい実施態様において、タンパクのサブユニットをコードする上記2以上の遺伝子又は遺伝子産物は、免疫グロブリン(Ig)重鎖遺伝子(VDJ再構成)及び免疫グロブリン(Ig)軽鎖遺伝子(VJ再構成)である。これらの遺伝子は、V及びV、或いはκ遺伝子及びλ遺伝子、とも呼ばれる。
【0133】
或いは、タンパクのサブユニットをコードする上記2以上の遺伝子又は遺伝子産物は、TCRα鎖遺伝子(組換え)及びTCRβ鎖遺伝子(組換え)である。
【0134】
本発明の他の好ましい実施態様において、上記方法は、Ig定常Hサブドメイン及び/又はIg定常LサブドメインをコードするcDNAを上記PCR産物中に挿入する工程を更に備える。
【0135】
或いは、上記方法は、TCRα鎖及びTCRβ鎖をコードするcDNAを上記PCR産物中に挿入する工程を更に備える。
【0136】
更に、上記免疫受容体は疾患の治療又は診断用に用いられることが好ましい。この疾患とはヒト又は動物の疾患であることが好ましく、新生物(neooplastic)疾患、神経変性疾患、感染症、免疫介在性疾患、及び/又は心血管疾患であることがより好ましい。
【0137】
新生物疾患は腫瘍、癌等の悪性疾患を包含する。免疫介在性疾患は自己免疫疾患を包含する。神経変性疾患は中枢神経系及び/又は末梢神経系の健全性に悪影響を及ぼす疾患を包含する。感染症は寄生虫、原生動物、原核生物、ウイルス、プリオン及び真菌に起因する疾患を包含する。免疫介在性疾患は免疫系の機能不全、例えば過活動や低活動を特徴とする疾患を包含する。心血管疾患は心血管系に悪影響を及ぼすあらゆる疾患、主に心疾患、脳や腎臓の血管疾患 、及び末梢動脈疾患を包含する。
【0138】
実施例及び図面の簡単な説明
本発明の更なる詳細、特徴、特定要件、利点はサブクレイムに開示されており、以下の各図面と実施例の例示的な記載は本発明の好ましい実施態様を示すものである。但し、これらの図面は本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではない。
実験例
【0139】
ヒト被験者又は動物種からの完全抗体レパートリー(アンチボディオーム)の組換体ディスプレイ
ヒト・アンチボディオームの組換体ディスプレイの出発物質として、ヒト・メモリーB細胞を用いる。或る被験体のメモリーB細胞プールは抗体特性を維持しており、又おそらく前回の抗体との遭遇によって産生された抗体の数も維持している(McHeyzer-Williams and Ahmed (1999)、Bernasconi ら (2002))。
【0140】
或いは、ヒト又は非ヒト由来の全てのタイプのB細胞、例えばプラズマ細胞、プレプラズマ細胞、B1-B細胞、及び未成熟B細胞又はハイブリドーマ細胞を、この手法によって処理することができる。
【0141】
1.NLRを用いたアンチボディオームmRNAの捕捉
1.1 ヒト・メモリーB細胞
メモリーB細胞は、セルソーティング(MoFlo XDPセルソーター、Beckman-Coulter社、スイス国ニヨン)により末梢血単核球細胞から単離した。選別基準としては、pan--B細胞マーカーCD22の発現と、未成熟B細胞のマーカーである表面IgM、IgDの発現の消失とを組み合わせた。CD19、CD27などの表面マーカーの他の組み合わせを単独で、又は表面発現型IgGと組み合わせて用いることもできる。
【0142】
1.2 ナノリットルリアクター内へのメモリーB細胞とmRNA捕捉マトリクス・ビーズの同時封入
CD22-陽性且つIgM-、IgD-、IgA-陰性のB細胞100,000個を、mRNA捕捉Dynabeadsと共にNLRに封入する。一方、QX100液滴発生器を用い、ヒトIgGを発現する代替B細胞20,000個とmRNA捕捉ダイナビーズ(Dynabeads)とを、エマルジョン液滴内で乳化する。
【0143】
1.2.1 ナノリットルリアクター内への抗体産生細胞とmRNA捕捉マトリクスビーズの同時封入
占有度(DOO)が1となる様に、抗体産生細胞をオリゴdT結合Dynabeads5個と共に封入した(NLR当たりB細胞1個、Dynabeads 5~50個)。
【0144】
抗体産生細胞20,000個を1.6mlのカプセル化バッファに再懸濁し、0.5~5×10個のmRNA捕捉マトリクス・ビーズ (Dynabeads) を添加した。フィルタ除菌した2.5%アルギン酸溶液 (Pronova)6.4mlを加え、穏やかに混合した。層流ジェット粉砕型のカプセル製造器を用い、このアルギン酸/細胞/磁性ビーズ懸濁液を直径150μmのノズルから700Hzで処理した。
【0145】
ビーカー内で連続撹拌されている100mlの硬化液(hardening solution)中で液滴を集めた。このアルギン酸担体を15分間安定化し、NLRを形成させた。NLRを硬化液からふるいを通して回収し、80mlのカプセル化バッファ中で2回洗浄した。NLRを4℃/RT(室温)にてカプセル化バッファ中に集め、大粒子選別を行って細胞の入っていないNLR及び2個以上の細胞が入っているNRLを除去した。
【0146】
1.3 細胞の溶解とNLR内でのDynabeads 上へのmRNAの捕捉
NLR懸濁液を5分間静置し、上清を吸引除去した。得られたNLRを等容積の新しく調製した溶解バッファ中に穏やかに再懸濁し、室温、回転速度20rpmで30分間インキュベートし、細胞を完全に溶解させた。
【0147】
1.4 NLRの可溶化、洗浄及びmRNA捕捉マトリクスの回収
溶解反応物を濾過してNLRを回収し、カプセル化バッファで2回洗浄した。洗浄したNLRにEDTA溶液を加えて溶解し、キットに付属の磁気装置を用いてオリゴdTビーズを回収した。典型的には5~30%のDynabeadsがその表面にmRNAを結合していた。
【0148】
2.乳化液滴を用いたアンチボディオームmRNAの捕捉
本発明の他の好ましい実施態様では、マイクロリアクターの作製に油中水滴(water-in-oil)エマルジョンを用いる。油中水滴エマルジョンは、適当な界面活性剤の存在下で水相と油相を混合して形成する。
【0149】
上記油相は鉱物油、シリコーン油、Tegosoft DEC、Novec 7500、FC-40、FC-43、FC-70等の特殊溶剤、その他一般的なフッ素系油やこれらの混合物から成るものであってよい。界面活性剤としては、Triton X-100、Nonidet P-40 (NP-40)、Tween 80、Tween 40、Tween 20、ABIL EM 90、ABIL WE 09、ドデシル硫酸ナトリウム又はドデシル硫酸リチウム等の洗剤を用いることができ、又、Krytox等のフッ素系洗剤や、その他のパーフルオロポリエーテル(PFPE)系界面活性剤、これらの混合物も用いることができる。
【0150】
マイクロリアクターの安定化剤及びPCR反応促進剤として、数種類の添加剤を油中水滴(water-in-oil)エマルジョンの水相に添加してもよく、かかる添加剤は2-ピロリドン、ポリビニルピロリドン、ベタイン、DMSO、PEG8000、Pluronic F-68、グリセロール、BSA、及び/又はゼラチンである。
【0151】
油中水滴エマルジョンの作製方法には幾通りかある。一実施態様において、 (i)水/界面活性剤/油の混合物を、1個または数個のガラス・ビーズまたはスチール・ビーズと共に、或いはこれらを用いずに、ボルテックスに掛けて液滴を作製する。ビーズの平均直径は5mm、1mm、又は好ましくは400nmである。ボルテックスの代わりにTissueLyserミキサーをミルを用いれば、混合速度を調節することができ、周波数は15~17Hzで選択できる。
【0152】
他の実施態様において、(ii)ミクロ流体液滴生成装置(例えばBio-Rad社QX100TM Droplet DigitalTMPCR、Raindance 社RainDrop(登録商標)Digital PCR等)を用いて油中水滴エマルジョンを作製することができる。ここではミクロ流体チップを用いることにより、1ナノリットル・サイズや1ピコリットル・サイズの均一な油中水滴マイクロリアクターを作製することができる。
【0153】
油中水滴エマルジョン型の液滴を用いる場合、マイクロリアクターからmRNA捕捉部位、cDNA又はPCR産物の回収は、有機溶媒を添加により達成してもよい。この有機溶媒はエタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、クロロホルム又はアセトニトリルであってよく、これら混合物、及び/又はこれらと水との混合物であってよい。プロセスはDiehlら (2006)が記載している。
【0154】
2.1 細胞の封入、細胞の溶解、mRNAの捕捉及び逆転写
抗体発現細胞を回収し、細胞溶解バッファ(50mM Tris-HCl、pH 8.3、50mM KCl、50mM LiCl、5mM EDTA、10mM DTT)で希釈して細胞濃度を 2×10個/mlとした。オリゴdT Dynabeads (Life Technologies社、カタログ番号 61006)を細胞溶解 バッファで1回洗浄し、ビーズをDynalマグネット(Life Technologies社、カタログ番号12321D)上に集め、上清を捨てた。細胞に磁性ビーズを加えて穏やかに混合し、20μl当たりの最終含量を細胞数15,000、ビーズ数180,000とした。混合物を氷浴上に保ち、QX100 液滴生成装置(Bio-Rad)へ移した。DG8TM カートリッジ(Bio-Rad)内でエマルジョン生成を開始する直前に、細胞/Dynabeads混合物にプロテイナーゼK (Applichem社、カタログ番号A4392) を最終濃度0.2mg/mlとなる様に添加した。液滴はメーカーの説明にしたがって各20μlのサンプルを8本、同時調製した。 エマルジョンの油相には、Pico-SurfTM 2 (Novec 7500中、2%溶液)(Dolomite Microfluidics社、カタログ番号3200281)を用いた。8×40μlのエマルジョンをカートリッジから2本の1.5ml容の反応チューブへとピペットで移液した(各160μlのエマルジョン含むチューブが2本できる)。封入された細胞(図6参照)を、ヒートブロック内で70℃、15分間インキュべートして溶解した。その後、サンプルを室温に置き、徐冷すした。この室温インキュベーションを15分間行うことで、細胞から放出されたmRNAがオリゴdT-Dynabeadsに結合し易くなった。次に、エマルジョンに1mlのイソプロパノールを加えボルテックスに掛けて油相を破壊することにより、mRNAを結合したオリゴdTビーズを回収した。得られた透明な溶液をスピンフィルター (Thermo Scientific社、カタログ番号F2517-5)の上部に置き、3500rcfで30秒間遠心した。通過画分を捨て、回収されたビーズを70%エタノール中で1回洗浄した。オリゴdT-Dynabeads をmRNA精製キット (Life Technologies社、カタログ番号61006)のバッファB(300μl)に再懸濁し、新しい1.5ml容の反応チューブに移液した。ビーズを磁気的に回収し、バッファを100μlの1倍濃度DNaseバッファに交換した。続いて2μlのRNaseフリーDNaseI(NEB社、カタログ番号M0303S) を添加し、混合物を37℃で10分間インキュベートし、オリゴdTビーズに結合しているDNAを消化した。1μlの0.5M EDTAを添加して反応を停止した。ビーズをmRNA精製キット(Life Technologies社、カタログ番号61006)のバッファB(300μl)で2回洗浄し、続いてMaxima Reverse Transcriptase (Life Technologies社、カタログ番号EP0742)の1倍濃度のRTバッファ300μlで1回洗浄した。上清を捨て、mRNAで被覆されたオリゴdTビーズを、0.5mM dNTP、1倍濃度RTバッファ、20Uの RiboLock RNase インヒビタ(Thermo Scientific社、カタログ番号EO0381)及び200Uの Maxima Reverse Transcriptase (Life Technologies社、カタログ番号EP0742)を含む逆転写酵素混合物中に再懸濁した。反応混合物を55℃で1時間インキュベートした。その後、温度を5分間85℃に上げることにより、反応を停止させた。cDNAを共有結合させたオリゴdTビーズを磁気的に回収した。上清を捨て、ビーズを20mM Tris pH8.0中に再懸濁させ、次回使用時まで4℃で保存した。
【0155】
2.2 エマルジョン中でのオーバーラップ・エクステンションPCR
実験例2.1で上述の如く作製したcDNAビーズをオーバーラップ・エクステンションPCRのテンプレートとして用い、抗体VHとVLとをコードするDNA 配列を結合させた。1つの抗体に属する配列が正しく結合される様、又、配列間のクロストークが防止される様、このPCR反応は単一ビーズ・エマルジョン中で行った。これを実現するため、0.25mM dNTP、0.25μMの各プライマー(VH4、Vk2、CH、Ck1)、0.25% w/v BSA、2% w/v プルロニックF-68、1倍濃度バッファA及び1Uの KAPA Robust HotStart Polymerase(Kapa Biosystems社、カタログ番号KK5515)を含むPCR反応混合物でビーズを希釈した。ビーズは実験例2.1.で上述した如く、QX100 液滴生成装置とPico-SurfTM-1 エマルジョン ・オイル(Dolomite Microfluidics社、カタログ番号3200211)を用いて乳化させた。得られたエマルジョンを0.2ml容のPCRチューブに移し、PCRサーマルサイクラー(Peqlab社、peqSTAR 2x Thermocycler、カタログ番号95-07002) 中、下記の温度サイクルにしたがってPCR反応を進行させた。
・95℃、3分
-5サイクル
・95℃、15秒(ramp(温度変化速度)1℃/秒)
・62℃、15秒(ramp1℃/秒)
・72℃、15秒(ramp1℃/秒)

-30サイクル
・95℃、15秒(ramp0.5℃/秒)
・57℃、15秒(ramp0.5℃/秒)
・72℃、15秒(ramp0.5℃/秒)
-1サイクル
・72℃、10’
・8℃、無限時間
【0156】
PCR反応終了後、TEバッファ20μlとクロロホルム70μlを加え、ボルテックスに掛けてエマルジョンを破壊した。各サンプルを14,000rcfで2分間遠心して清澄化し、各サンプルの上相を新しいチューブに移した。DNAローディング・バッファを加え、各サンプルを調製用1.2%アガロースゲルで分析した。結合産物のサイズ約1100bpの位置にバンドが1本認められ(図6の1回目PCRを参照)。このバンドを切り出し、Qiagen MinEluteゲル抽出キット (カタログ番号28604) を用い、メーカーの説明に従ってゲルからDNAを精製した。
【0157】
2.3 ネスティッドPCR
実験例2.2で得られた精製済み結合PCR産物を、抗体VH及びVL特異的プライマーの2番目のセットを用いるPCR反応のテンプレートとして用いた。ここで、PCR反応混合物は25μl中に、2μlのテンプレートDNA、0.2mMのdNTP、1倍濃度バッファA、0.2μMの各JHプライマー(JH1、JH2、JH3、JH4)、0.4μMのCk2、0.25% w/v BSA、1倍濃度バッファA及び1Uの KAPA Robust Hotstart Polymerase(Kapa Biosystems社、カタログ番号KK5515)の各成分を含んでいた。PCR反応は実験例2で上述したサイクルプログラムに従って進行させた。得られたPCR断片を1.2%アガロースゲルで分析したところ、予想サイズ1070bpの位置にバンドが1本だけ認められた(図6の2回目PCRを参照)。このPCR断片は、クローニングに使える結合IgH+IgL抗体断片である。
【0158】
Meijer ら (2006)によるoePCR用プライマー
VH4 tattcccatggcgcgccSAGGTGCAGCTGGTGGAG
CH GACSGATGGGCCCTTGGTGG
VK2 ggcgcgccatgggaatagctagccGATGTTGTGATGACTCAGTCT
CK1 atatatatgcggccgcTTAACACTCTCCCCTGTTGAA
JH1 ggaggcgctcGAGACGGTGACCAGGGTGCC
JH2 ggaggcgctcGAGACGGTGACCATTGTCCC
JH3 ggaggcgctcGAGACGGTGACCAGGGTTCC
JH4 ggaggcgctcGAGACGGTGACCGTGGTCCC
CK2 accgcctccaccggcggccgcttaTTAACACTCTCCCCTGTTGAAGCTCTT
【0159】
3.NLR封入単一B細胞からのIgVH+IgVLの結合と増幅
本工程では、単一 B細胞の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖mRNAをそれぞれ捕捉した単一オリゴdT-Dynabeadsを、これに続くPCR反応でcDNAを合成するためのテンプレートとして用いた。このcDNAはビーズに共有結合で固定されているので、単一細胞内で進行しているかの様な正確な免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の対合が、オリゴdT- Dynabead 上でも維持される。続く工程では、オリゴdT- Dynabeadsを乳化し、これを免疫グロブリン(H+L)-オーバーラップ・エクステンションPCR(Ig-oePCR)に用いることで、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖とを連続的なポリヌクレオチド鎖に物理的に結合させた。
【0160】
3.1 PCRプライマーとポリメラーゼとを組み合わせた単一マトリクス・ビーズのエマルジョンPCR
cDNA複合化Dynabeadsを用いたエマルジョンPCRを、Droplet DigitalTM PCRシステムの説明にしたがって実施した。簡単に述べると、cDNA複合化Dynabeadsとプライマー混合物とをdNTP、バッファ及びキットに付属のPCR酵素と混合し、メーカーの説明に従ってQX200TM/QX100TM Droplet DigitalTMPCRシステムを用いる液滴生成のための準備を行う。エマルジョン液滴の生成にこれらのサンプルを用い、続いてエマルジョンPCRを実施した。Droplet DigitalTM PCRシステムのプロトコルに従って油相を除去し、Tris-EDTAとクロロホルム中で液滴を溶解した後、増幅産物を回収した。
【0161】
3.2 PCRプロコトルA
オリゴdT-Dynabeadに結合したcDNAからの結合免疫グロブリンの可変重鎖及び軽鎖領域の増幅は、公知のPCRプライマー・システム (Meijer et al. 2006) を用いたエマルジョンPCRで2工程PCRプロトコルに従って行った。これによりhead-to-head配置の2つの免疫グロブリン鎖がリンカー配列で連結された。このリンカー配列は、後に双方向性プロモーターが挿入される制限部位を含んでいた。
【0162】
3.3 PCRプロトコルB
別法として、V重鎖領域とV軽鎖領域とがtail-to-haid 配置となるPCRプライマー系を、免疫グロブリン重鎖と軽鎖との連結に用いた(詳細は図2参照)。これら免疫グロブリン特異的プライマーはWardemannら (2003)の方法で得られ、当該論文の内容は本明細書に明示的に組み込まれる。この方法の概要を図2に示す。図3は、Ig可変PCRについての例を示す。
【0163】
4.抗体発現ライブラリの作製
連結されたIgHカセットとIgLカセットのPCR断片を、適当な制限部位(PCRプロトコルAではNotI/XhoI、PCRプロトコルBではBSSHIIとBsiWI)を用いてアクセプタープラスミドベクターに大量にクローニングした。完全長免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の発現に必要なエレメントを全て提供できる、このアクセプタからベクターへの転換を、図4に示す。
【0164】
このアクセプタープラスミドベクターから、制限部位PmeI及びPacI を介して免疫グロブリン発現カセットを切り出し、レンチベクター導入ベクターに組み込む。このベクターは、ほ乳類プロモータ(CMV)と、後端にマーカー遺伝子EGFPが連結された内部リボソーム侵入部位とを有する。生成した3シストロン性抗体発現プラスミドを感染レンチベクター粒子を生成させるためのレンチベクター導入ベクター(Dullら、1998)として用い、この粒子をほ乳類細胞の形質移入に用いて抗体発現細胞へと転換させる。
【0165】
ライブラリのクローニングには、無制限クローニング法や無ライゲーション・クローニング法も用いることができる。これらの方法によれば、制限がある場合に遺伝子コンストラクトが望まない場所で切断され、短縮タンパクが発現してしまう危険を防止することができる (Gibson DG, Young L, Chuang RY, Venter JC, Hutchison CA 3rd, Smith HO. (2009). "Enzymatic assembly of DNA molecules up to several hundred kilobases". Nature Methods 6(5): 343-345.doi:10.1038/nmeth.1318. PMID19363495. を参照)。
【0166】
5.発現
5.1 発現細胞のトランスフェクションのためのレンチベクター粒子の作製
レンチベクター粒子はDullら(1998)による手順に従い、所謂第3世代レンチベクター・パッケージング・システムを用いて作製した。
【0167】
5.2 発現細胞の形質移入
Dullら(1998)の方法に従い、レンチべクターを用いて標準CHO K1細胞に形質移入を行った。CHO細胞1個につきレンチベクター粒子が1個だけ形質移入される様、感染多重度を細胞1個当たり0.5レンチベクター粒子に設定した。マーカー遺伝子GFPを用いてモニタしたところ、10%以上の細胞に形質移入が行われたことがわかった。
【0168】
5.3 NLR中への単一発現細胞の封入/高並列化クローン展開
3シストロン性抗体発現プラスミドでトランスフェクトされたCHO細胞を、サイトメーターソーターを用いてマーカー遺伝子(GFP)の発現を陽性の選択のために使用して、占有度(DOO)0.5にてNLRに封入した。NLRを標準培地で培養し、NLR中で細胞を増殖させた。
【0169】
4.4 占有度コントロール及び増殖調和化
カプセル化から12時間後、NLR培養物についてBiosorter で大粒子選別を行い、正の選択により単一の生存細胞を含み、且つGFP蛍光が陽性であるNLRを全て採取した。これにより、細胞の入っていない空のNLRと、異常な増殖速度によると思われる大量(例えば、他のNLRの細胞数の平均値の1.5倍を超える数)の細胞を含むNLRとを除外する。
【0170】
4.5 組換え抗体産生細胞の並列化クローン培養と、モノクローナル抗体の同定のためのスクリーニング
1種類の抗体産生細胞を含むNLRを標準培地で培養し、生育する細胞クローンが産生する免疫グロブリンを(i)NLR内では蛍光標識化プローブ抗原等を用いて検出し、(ii)NLRを取り巻く培養上清中ではウェスタン・ブロッティング、ELISA、免疫組織化学的分析、機能分析等の常法により検出する。
【0171】
NLR中の免疫グロブリン濃度は、上清中の濃度よりも早くピーク・レベルに達する。この様な免疫グロブリンの一時的な保持はスクリーニングに利用できる。即ち、抗体特異性をNLR内で検出する前に、NLRを取り巻く上清中の免疫グロブリン濃度を、洗浄工程を利用して希釈する。蛍光標識抗原によって染色陽性となったNLRを選別し、追加確認の為のスクリーニング用にそのままの状態で残すか、又は破壊して抗原反応的/特異的な細胞クローンを生育させ、モノクローナル抗体を産生させる。
【0172】
抗体特異性をNLR内で検出する代わりに、発現細胞の上清を分析して、注目する抗体の存在を検出することができる。この方法によれば、注目する抗体のより複雑な性質、例えば生物活性、組織切片の染色等を分析することができる。
【0173】
従って、NLR培養物の沈降又は遠心によって得られた、NLRを取り巻く上清を直接分析し、目的の機能又は他の性質を備えた抗体の存在を確認する。
【0174】
逐次分画と得られた各画分の再分析により、注目する抗体クローンを産生した細胞を含む単一NLRを識別する。この分画については、標準的な細胞培養の手順をマイクロタイターフォーマットにスケールダウンした手順で行う。最長24時間の培養期間後、上清を回収する。モノクローナル・プロデューサー細胞を含むNLRは、最終段階でマイクロタイター・プレート内への単一NLR沈着 (96ウェル又は384ウェル/フォーマット)によって回収し、上清の回収と分析はより長い72時間の培養期間後に行う。
【0175】
5.発現、及び注目する抗体を発現するクローン細胞系を回収するためのライブラリ・スクリーニング
注目する抗体を発現するAB2発現細胞を単一細胞としてNLRに封入し、このNLR30個を、無関係の抗体を発現する発現細胞を含む210,000個のNLR培養物に添加(スパイク)した。発現細胞のライブラリであるこのNLRのバルク培養物は、完全培地で培養した(図6参照)。
【0176】
続いて、210,030個のNLRをピペットで96穴マイクロタイター・プレートに分画した(培養物の1回目分画)。この培養物を3日間保ち、細胞成長、抗体発現、及びNLR外の上清中への抗体分泌を進行させた。
【0177】
4日目に、96ウェルの各々の培養上清50μlをELISAでスクリーニングし、AB2抗原特異的抗体の存在を検出した。陽性の培養物は、図E2に示した様に同定された。一例として陽性NLR培養物(Bh5)をクローン同定用に選択し、培養物Bh5の単一NLRをマイクロタイター・プレートに乗せ、さらに3日後、ELISAによる2回目スクリーニングを行った。
【0178】
この結果、ウェルE4に単一NLRが認められ、AB2抗原に特異的なmAB H5/E4を発現するクローン細胞系であることが解った(図7B参照)。
【0179】
6.使用装置及び材料一覧
・Biosorter 大粒子フローサイトメーター、 Union Biometrica社製、ベルギー国へール
・Nisco 層流ジェット粉砕型カプセル製造装置、Nisco Engineering AG社製、スイス国チューリヒ
・QX100/200 液滴精製装置、Bio-Rad社製、スイス国クルシエ
・アルギン酸、Pronova社製、ノルウェー国
・Dynabeads mRNA DIRECT Micro Kit、Life Technologies社製、スイス国バーゼル
・カプセル化バッファ: 0.9 % NaCl (w/v); 2.2 mM HEPES pH 7.4
・カプセル化バッファ: (0.9 % NaCl (w/v); 2.2 mM HEPES pH 7.4)
・硬化剤溶液: 100 mM CaCl2, 13 mM HEPES pH 7.4
・NLR溶解剤: 100mM EDTA
・細胞溶解バッファ/NLR (100 mM Tris-HCl, pH 7.5; 500 mM LiCl; 5mM ジチオスレイトール; 0.1% ラウロイルサルコシン; 0.1% Tween20; 0.1% デオキシコール酸)
・免疫グロブリン特異的SmartFlare RNA検出プローブ、Millipore社製、スイス国ツーク
・Maxima RT、Thermo Scientific社製、スイス国ライナッハ
・oePCR用プライマー: Meijers et al. (2006) 又はWardemann, et al. (2003)の方法で製造。Microsynth社製、スイス国バルガッハ
・5-プロパルギルアミノ-dCTP-Cy5、Jena Bioscience GmbH社製、ドイツ国イエナ
・dNTP、Thermo Scientific社製、スイス国ライナッハ
・ddPCR supermix、Bio Rad社製、スイス国クルシエ
・液滴生成オイル、Bio Rad社、スイス国クルシエ
・常法に従うプラスミドベクター内での分子クローニング
・エマルジョン液滴細胞溶解バッファ: 50 mM Tris-HCl pH 8.3, 50 mM KCl, 50 mM LiCl, 5 mM EDTA, 10 mM DTT, 0.2 mg/ml プロテイナーゼK
・RiboLock RNaseインヒビタ# EO0381、Thermo Fischer Scientific社製、スイス国 ライナッハ
・KAPA Robust Hotstart DNA ポリメラーゼ、KAPA Biosystems社製、KE5506, Axon lab、スイス国バーデン
・dNTP, NEB, Bioconcept社製、スイス国アルシュビル
・10% w/v Pluronic F68 # A1288,0100 水溶液、Applichem Axon lab社製、スイス国バーデン.
・Pico-Surf 1, 2% in Novec 7500 (# 3200211, Lot 211014, Dolomite, Valve Technology AG社製、スイス国ゲッティンゲン
・Pico-Surf 2, 2% in Novec 7500 (# 3100281, Lot 091014, Dolomite)
・peqSTAR 2x Thermocycler、Peqlab社製、# 95-07002
・アガロース、超高純度、Invitrogen社製、# 15510-027
・peqGREEN 染料、Peqlab社製、 # 37-5010、2万倍希釈にて使用
・1 kb DNA Ladder, NEB, Bioconcept社製、スイス国アルシュビル、# N3232S
・培地CHO-K1: 2mM グルタミン含有ハムズF12培地、10% FBS、Invitrogen社製、 スイス国ツーク
・ELISA用ペプチド抗原(AB2-抗原タンパク配列: stgdadgpggpgipdgpggn;無関係のコントロール用ペプチドタンパク配列: lpttmnyplwsqsyedssnq) 1mg単位未精製。Peptides&Elephants GmbH社製、ドイツ国ポツダム
・ELISAプレート: EIA/RIAプレート、96ウェル・ハーフエリア・プレート、平底 (Costar、Corning社製)
・コーティング・バッファ: 15mM Na2CO3, 30mM NaHCO3, pH 9.6
・洗浄バッファ: 0.05% Tween 含有PBS
・ブロッキング溶液:2% BSA、PBS溶液
・二次抗体:ヤギα-ヒトIgG Fc-特異的 (Jackson Immuno社製、# 109-035-098)、0.5% BSA/PBSで4千倍希釈
・検出溶液: TMB (Sigma社製、# T2285) 30mMクエン酸で20倍希釈、pH 4.1 (Sigma, # C2402)
・1M H2SO4 (AppliChem社製、# A2699)
【図面の簡単な説明】
【0180】
図1】マイクロリアクターへの同時封入の顕微鏡写真 単一細胞 (C、写真では抗体と視認性向上のためのマーカー遺伝子GFPを発現している代替B細胞が見えている)とmRNA捕捉マトリクスDynabeads (DB)とを含むマイクロリアクター(以下、「NanoLiter Reactor(ナノリットル・リアクター)」又は「NLR」と称するが、これらのリアクターの中にはピコリットル・オーダーの容量を持つ物もある)。代替B細胞は、元のヒト・メモリーB細胞内のIg発現レベルに合わせてIgG発現レベルを弱めた低活性化2シストロン性ヒトIgG発現カセットを持つレンチベクターを用い、CHO-K1細胞に対して安定した形質転換を行うことで作製した。低活性化は、CMV-プロモーター-EGFPカセットの終止コドンの後ろに2シストロン性抗体発現カセットを連結することで達成した。ここで用いた代替B細胞は、B細胞又はT細胞の挙動を忠実に反映している。
図2】免疫グロブリンV領域のPCR手順の概要図解1回目PCR: オーバーラップ・エクステンションPCR(oePCR)により、免疫グロブリンの可変重鎖と軽鎖とを増幅し、V重鎖領域とV軽鎖領域とをtail-to-head配置になる様に連結する。oePCR用のリンカー・プライマーの構成は下記の通り。Ig可変重鎖:リンカー・プライマー 3’ SalI JH: tattcgcactgcgcggcGTCGACgc-(JHファミリー特異的配列)Ig可変κ軽鎖:リンカー・プライマー 5’ XbaI Vk: gccgcgcagtgcgaataTCTAGAtgt-(FW1-V-κファミリー特異的配列)、リンカー・プライマー 5’ XbaI Vl: gccgcgcagtgcgaataTCTAGAtgt-(FW1-V-λファミリー特異的配列)使用した他のプライマーは、5'L(SP)-VH(1-6)、及び3'Cκ 543及び3'Cλ。大文字はIgHの定常領域を与えるポリヌクレオチド・カセットの挿入に用いられる制限部位、後のタンパク分解的切断のための開裂部位、及び後のクローニング工程におけるIgκ/λの分泌のためのシグナル・ペプチドを示す(下記参照)。小文字はオーバーラップ・エクステンションPCRにおいて重鎖コンストラクトと軽鎖コンストラクトとを連結するのに用いられるリンカー配列を示す。2回目PCR:発現ベクターにおけるクローニングを容易化するため、ネスティッドPCR(nPCR)を実施して更に増幅を行い、制限部位をプライマーを介してPCR産物に挿入した。BSSHII 制限部位 (大文字)を含む5’プライマーを下記構成にしたがって使用した。 5’ プライマー BSSHII VH-FW1: attttttttGCGCGCtgt-(FW1-V-重鎖ファミリー特異的配列);3’ プライマー: the 3' BsiWI Jκ-プライマーをWardemann ら (2003)の記載にしたがって使用した。
図3】カプセル化(単一)抗体発現細胞からの免疫グロブリン可変重鎖-軽鎖連結体の増幅 個体マトリクス結合cDNA(オリゴdT-Dynabeads)を介して単一細胞から得られた可変重鎖及び軽鎖を、2工程PCRプロトコルに従って増幅した。(A)1回目PCRで重鎖と軽鎖の可変領域を増幅した後、オーバーラップ・エクステンションを行い、オリゴDT-Dynabeadsを結合したcDNA上で単一チューブ/1段階反応を進行させた(レーン2)。コントロールとして、抗体を発現しない細胞を用いて同様の操作を行った(レーン1)。(B)1回目PCR産物(2段目)について行った2回目 (ネスティッド)PCR。抗体発現細胞に由来の免疫グロブリン重鎖-軽鎖連結体の存在が認められた(レーン2)が、コントロール細胞に由来のものは認められなかった(レーン1)。
図4】3シストロン性抗体発現プラスミドを作製するためのクローニング工程の概要I.結合したIgVH+IgVL PCR産物を、免疫グロブリンのシグナル・ペプチドと Igκ/λの定常領域を与えるシャトル・ベクターに挿入する。II.IgHの定常領域と、後のタンパク分解的切断の開裂部位と、Igκ/λの分泌のためのシグナル・ペプチドとを与えるポリヌクレオチド・カセットを、分子クローニングにより挿入する。III.得られた2シストロン性発現カセットを分子クローニングによりレンチベクター導入ベクターへ挿入し、レンチベクター粒子の作製に用いられる最終的な3シストロン性発現ベクターを得る。
図5】ナノリットルリアクター内におけるクローン増殖と、抗体産生の検出A)単一CHO発現細胞から生育したクローン細胞集団(CCC)の、ナノリットルリアクター(NLR)封入後8日目の様子。細胞は、封入に先立ち、3シストロン性抗体-EGFP-発現カセットをコードするレンチベクター粒子により形質転換した。B)クローン細胞集団(クローンAB2)による抗体(完全IgG)産生。NLR内の液相から回収したプロテインG精製抗体のウェスタン・ブロット像。還元的条件で実施したPAGEにより、Ig重鎖とIg軽鎖の発現が確認された。
図6】免疫グロブリン重鎖及び軽鎖mRNAの高スループット単一細胞RT-PCRA)細胞溶解前の、抗体発現細胞とmRNA捕捉ビーズとを含む液滴(工程1:細胞の封入)。溶解バッファ中の細胞とオリゴdT-DynabeadsとをPico-Surf2エマルジョン・オイルに封入した。液滴の容積は約1nlである。画像は封入の直後で細胞溶解前の状態を示す。B)デジタル・ドロップレットPCRの上流側におけるシングレットcDNAを連結した捕捉ビーズの蛍光活性化選別。四角の枠はシングレット連結ビーズの集団を示す。C)単一ビーズ・デジタル・ドロップレットPCRにより、IgHとIgLの両方を含む捕捉ビーズの大集団、即ち増幅された配列(点線の丸で囲んだ部分)の存在が示された。IgH及びIgLcDNAの存在は、いずれかのIg鎖に特異的な減光フルオロフォアがPCR反応によって放出されることに基づいてモニタする(IgH=Y軸、IgL=X軸)。ドロップレットPCRは、QX100ドロップレット・アナライザを用いて解析した。D)オーバーラップ・エクステンションPCRで、単一mRNA捕捉ビーズに由来するIgH-IgL結合体が生成した様子。1回目PCRはエマルジョン液滴中で、2回目(ネスティッド)PCRはバルクで実施。
図7】抗体発現細胞のライブラリを示すNLR培養物の増殖A)単一のカプセル化発現細胞から成るNLR培養物の写真。B)1日目のバルクNLR培養物の一部を示す顕微鏡写真。C)培養4日目のNRLの蛍光顕微鏡写真。GFP陽性のクローン細胞集団(矢印)がNLR内に生育し、単一のカプセル化発現細胞がクローン増殖したことが解る。
図8】注目するmAbを発現するクローン細胞株の同定と単離A)AB2発現細胞を含むNLR30個を、無関係の発現細胞を含む300倍以上の個数のNLRと混合し、バルク培養物を96ウェル・プレートの80ウェルにプレーティングした。カプセル化とプレーティングの4日後に、NLR培養物の上清液体をAB2抗原特異的ELISAで分析し、AB2陽性の培養ウェルを検出した。クローニングには「培養物H5」を選択した(矢印)。B)NLRの単数化とクローン細胞株E4の同定。バルク培養物H5から単一のNLRを各培養ウェルにプレーティングした。3日後に上清液体をAB2-ELISAで分析したところ、ウェルE4が、AB2特異的モノクローナル抗体を発現するクローン細胞株の単離を実証するものとして同定された。ポジティブ・コントロール(+)をウェルA1とA2内で実施した。
【0181】
参考文献
Embleton et al., Nucleic Acids Research, Vol. 20, No. 15, 3831 (1992)
Wardemann, et al., Science 301, 1374 (2003)
Boulianne et al., Nature 312, 643 - 646,(1984)
Morrisson et al., PNAS 82, 6851 - 6855 (1984)
Card et al., Cancer Immunol Immunother. Apr; 53(4):345-57 (2004)
Szymczak et al., Nat Biotechnol 22:589-594 (2004)
Serp et al., Biotechnology and Bioengineering, Vol. 70 (1) (2000)
Gomez-Herreros et al., Nucleic Acids Research, 40, 6508-6519 (2012)
Martinez et al. Macromol. Biosciences, 12, 946-951 (2012)
Pruse et al., Chem. Eng Technol.1998, 21(1):29-33
McHeyzer-Williams and Ahmed, Curr. Opin. Immunol. 11, 172-179, (1999)
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Meijer et al., J Mol Biol. 358: 764-772 (2006)
Dull et al., J. Virol 72(11) (1998)
Diehl et al. Nature Methods, 3, 551-559 (2006)
【0182】
使用したプライマー
1回目PCR
Ig可変重鎖:
フォワードプライマー:
1. 5' SP-VH1 ACAGGTGCCCACTCCCAGGTGCAG
2. 5' SP-VH3 AAGGTGTCCAGTGTGARGTGCAG
3. 5' SP-VH4/6 CCCAGATGGGTCCTGTCCCAGGTGCAG
4. 5' SP-VH5 CAAGGAGTCTGTTCCGAGGTGCAG

リバースプライマー:
5. 3'CHg1 adaptor-GTTGTCCACCTTGGTGTTGCTGG
6. 3' Cμ CH1 adaptor-GGGAATTCTCAGAGGAGACGA

Ig可変κ鎖:
フォワードプライマー:
7. 5' SP Vκ1/2 reverseadaptor-ATGAGGSTCCCYGCTCAGCTGCTGG
8. 5' SP Vκ3 reverseadaptor-CTCTTCCTCCTGCTACTCTGGCTCCCAG
9. 5' SP Vκ4 reverseadaptor-ATTTCTCTGTTGCTCTGGATCTCTG

リバースプライマー:
10. 3' Cκ 543 GTTTCTCGTAGTCTGCTTTGCTCA

IG可変λ鎖:
フォワードプライマー:
11. 5' SP Vλ1 reverseadaptor-GGTCCTGGGCCCAGTCTGTGCTG
12. 5' SP Vλ2 reverseadaptor-GGTCCTGGGCCCAGTCTGCCCTG
13. 5' SP Vλ3 reverseadaptor-GCTCTGTGACCTCCTATGAGCTG
14. 5' SP Vλ4/5 reverseadaptor-GGTCTCTCTCSCAGCYTGTGCTG
15. 5' SP Vλ6 reverseadaptor-GTTCTTGGGCCAATTTTATGCTG
16. 5' SP Vλ7 reverseadaptor-GGTCCAATTCYCAGGCTGTGGTG
17. 5' SP Vλ8 reverseadaptor-GAGTGGATTCTCAGACTGTGGTG

リバースプライマー:
18. 3' Cλ CACCAGTGTGGCCTTGTTGGCTTG

オーバーラップ・エクステンションPCR:
フォワードプライマー:
19. 5' BSSH2 VH1/5 CTGCAGCGCGCGTACAT TCCGAGGTGCAGCTGGTGCAG
20. 5' BSSH2 VH3 CTGCAGCGCGCGTACATTCTGAGGTGCAGCTGGTGGAG
21. 5' BSSH2 VH4 CTGCAGCGCGCGTACATTCCCAGGTGCAGCTGCAGGAG
22. 5' BSSH2 VH3-23 CTGCAGCGCGCGTACATTCTGAGGTGCAGCTGTTGGAG
23. 5' BSSH2 VH4-34 CTGCAGCGCGCGTACATTCCCAGGTGCAGCTACAGCAGTG

リバースプライマーs:
24. 3'BsiWI Jκ1/2/4 GCCACCGTACGTTTGATYTCCACCTTGGTC
25. 3'BsiWI Jκ3 GCCACCGTACGTTTGATATCCACTTTGGTC
26. 3'XhoICλ CTCCTCACTCGAGGGYGGGAACAGAGTG

oePCR リンカー・プライマー
Ig可変重鎖:
28. 3’ SalI JH tattcgcactgcgcggcGTCGACgc-(JHファミリー特異的配列)

Ig可変軽鎖:
29. 5’ XbaI Vk gccgcgcagtgcgaataTCTAGAtgt-(FW1-V-κファミリー特異的配列)
30. 5’ XbaI Vl gccgcgcagtgcgaataTCTAGAtgt-(FW1-V-λファミリー特異的配列)

nPCR
5’プライマー:
BSSHII VH-FW1 attttttttGCGCGCtgt-(FW1-V-重鎖ファミリー特異的配列)

3’プライマー
3' BsiWI Jκプライマー(下記の表を参照)
【0183】
本発明の実施に用いられる他のプライマー
太字は制限部位。
【0184】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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