(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】タンタル酸分散液及びタンタル酸化合物
(51)【国際特許分類】
C01G 35/00 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
C01G35/00 D
(21)【出願番号】P 2022169710
(22)【出願日】2022-10-24
(62)【分割の表示】P 2022532564の分割
【原出願日】2021-06-03
【審査請求日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2020125669
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 彰記
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-005161(JP,A)
【文献】特開2011-157553(JP,A)
【文献】特開2006-117460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 35/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にタンタル酸及びアミンを含有するタンタル酸分散液であって、
タンタル酸分散液の400nmの透過率が40%以上であ
り、
タンタル酸分散液中における、揮発温度が110℃以上の有機物の含有量が1質量%未満である、タンタル酸分散液。
【請求項2】
タンタルをTa
2O
5換算で9質量%含有する濃度に調整したタンタル酸分散液(25℃)30gに、濃度2.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加し、添加後15分間攪拌して反応液を生成し、該反応液にエタノール100mLを添加すると、Na
8Ta
6O
19・15H
2Oの沈殿が生成する、請求項1に記載のタンタル酸分散液。
【請求項3】
タンタルをTa
2O
5換算で9質量%含有する濃度に調整したタンタル酸分散液(25℃)30gに、濃度3質量%の水酸化カリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加し、添加後15分間攪拌して反応液を生成し、該反応液にエタノール100mLを添加すると、K
8Ta
6O
19・16H
2Oの沈殿が生成する、請求項1に記載のタンタル酸分散液。
【請求項4】
水酸化テトラメチルアンモニウムを含有するタンタル酸分散液を除く、請求項1~3の何れか一項に記載のタンタル酸分散液。
【請求項5】
アミンを0.01~30質量%含有する、請求項1~4の何れか一項に記載のタンタル酸分散液。
【請求項6】
タンタルをTa
2O
5換算で0.01~40質量%含有する、請求項1~5の何れか一項に記載のタンタル酸分散液。
【請求項7】
揮発温度が110℃以上の有機物を含有しない、請求項1~
6の何れか一項に記載のタンタル酸分散液。
【請求項8】
前記揮発温度が110℃以上の有機物が、オキシカルボン酸、しゅう酸及びEDTAである、請求項
1~7の何れか一項に記載のタンタル酸分散液。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか一項に記載のタンタル酸分散液を、部品の表面にコーティングする、部品表面層への製膜方法。
【請求項10】
請求項1~
8の何れか一項に記載のタンタル酸分散液が、部品の表面にコーティングされた、表面層製膜部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中にタンタル乃至タンタル酸を含有するタンタル酸分散液及びタンタル酸化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタルは、貴金属に匹敵する化学的耐性を有し、かつ、体心立方結晶構造でありながら、室温以下の温度でも容易に加工できるため、様々な工業的用途に利用されている材料である。例えば化学プラントの熱交換器、高温工業炉設備のチャージキャリア、医療用インプラント、エレクトロニクス部品のコンデンサーなどの様々な分野で、タンタルを含む材料が使用されている。
また近年、オプトエレクトロニクス、触媒等の材料として、酸化タンタルが注目されている。
【0003】
例えば特許文献1には、しゅう酸とタンタル酸化物が(HCOO)2/Ta2O5モル比0.5~5の範囲で構成される粒子径500Å以下の酸化タンタルゾルが開示されていると共に、活性な水酸化タンタル化合物に、(HCOO)2/Ta2O5モル比5.0~30の範囲となるようにしゅう酸を加え、温度90℃以上で2時間以上の加熱反応を行うことを特徴とする酸化タンタルゾルの製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、クエン酸、酒石酸及びリンゴ酸から選ばれた少なくとも一種のオキシカルボン酸をオキシカルボン酸/Ta2O5(モル比)0.05~10の範囲で含有してなる酸化タンタルゾルが開示されていると共に、クエン酸、酒石酸及びリンゴ酸から選ばれた少なくとも一種のオキシカルボン酸の存在下でタンタルのフッ化水素酸溶液とアルカリ溶液を反応させることを特徴とする酸化タンタルゾルの製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、TaCl5を少量のメタノールに溶かし、水を加え、そこにアンモニア水溶液を加えてタンタル酸Ta2O5・nH2Oの沈殿を作成し、この沈殿を水洗して塩化物イオンを完全に除去し、しかる後に、水、ヒドロキシカルボン酸もしくはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)、さらにアミン(アンモニア水もしくはグアニジン炭酸塩)と過酸化水素水を加えて溶かすことを特徴とする有機タンタル水溶液の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、タンタル酸化合物そのものではないが、4価のチタン化合物の溶液又は分散液と5価のタンタル化合物の溶液又は分散液と水溶性還元剤とを混合し、100~250℃の温度に加熱して得られたる酸化チタン系粉末を、平均粒径100nm以下の微粒子に粉砕したものを溶媒に分散させた分散液を基板に塗布した後、乾燥して成膜する溶媒に分散させた分散液を基板に塗布した後、乾燥して成膜することを特徴とする光触媒薄膜の製造方法が開示されており、中間物質としてタンタル酸化物を含有する酸化チタン系酸化物が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平08-143315号公報
【文献】特開2006-117460号公報
【文献】特開2006-182714号公報
【文献】特開2010―188226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水中にタンタル乃至タンタル酸を含有するタンタル酸分散液、特にタンタル乃至タンタル酸の水和物乃至そのイオンが水中に分散してなるタンタル酸分散液を工業的に提供することができれば、各種部品の表面にコーティングして化学的耐性の高い表面層を製膜したり、触媒の添加剤として使用したり、アルカリ金属と反応させて、アルカリ金属のタンタル塩として工業的に利用したり、様々な工業的用途に有効利用することが期待できる。
しかしながら、上記特許文献1~3に開示されている酸化タンタルゾルや有機タンタル水溶液のように、従来知られているタンタル酸分散液の多くは、オキシカルボン酸、しゅう酸、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのように、揮発し難い有機成分を含んでいるため、当該有機成分が製膜する際の妨げになったり、触媒の添加剤として使用する際には触媒作用を阻害したり、工業上利用する際の妨げとなることがあった。
【0009】
また、反応性の高いタンタル酸化合物を工業的に提供することができれば、触媒の添加剤として使用したり、アルカリ金属化合物と反応させて、アルカリ金属のタンタル酸塩として工業的に利用したり、様々な工業的用途に有効利用することが期待できる。
しかし、特許文献4に開示されているタンタル酸化合物は、アルカリ金属化合物との反応性が十分でないという課題を抱えていた。
【0010】
そこで本発明の目的は、オキシカルボン酸、しゅう酸、EDTAなどの揮発し難い有機成分を含まず、水への分散性が高い、新たなタンタル酸分散液及びその製造方法を提供すること、並びに、アルカリ金属化合物との反応性の高い新たなタンタル酸化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水中にタンタル乃至タンタル酸及びアミンを含有するタンタル酸分散液であり、該タンタル酸分散液を乾燥させた粉末を、CuKα線を使用した粉末X線回折測定すると、X線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が1.00以上であることを特徴とするタンタル酸分散液を提案する。
【0012】
本発明はまた、タンタル塩溶液をアミン水溶液に加えて一次反応液を得、当該一次反応液をアンモニア水に加えて二次反応液を得、当該二次反応液で生じたタンタル含有沈殿物を洗浄し、洗浄後のタンタル含有沈殿物とアミンと水とを混合してタンタル酸分散液を作製することを特徴とする、タンタル酸分散液の製造方法を提案する。
【0013】
本発明はまた、CuKα線を使用した粉末X線回折測定すると、X線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が0.90以上であることを特徴とするタンタル酸化合物を提案する。
【発明の効果】
【0014】
本発明が提案するタンタル酸分散液は、オキシカルボン酸、しゅう酸、EDTAなどの揮発し難い有機成分を含まず、且つ、水への分散性が高いという特徴を有している。特にアミンの含有量を高めることにより、水への分散性をさらに高めることができ、透過率が極めて高い水溶液とすることができる。よって、本発明が提案するタンタル酸分散液は、各種部品の表面にコーティングして、化学的耐性などの所定の機能を有する表面層を製膜したり、触媒の添加剤として使用したり、様々な工業的用途に有効利用することができる。また、本発明が提案するタンタル酸分散液は、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと混合して反応させるだけで、アルカリ金属のタンタル酸塩を容易に得ることができる。
【0015】
本発明が提案するタンタル酸化合物は、アルカリ金属化合物、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとの反応性が高く、例えば、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、アルカリ金属化合物、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと液中で混合して反応させるだけで、アルカリ金属のタンタル酸塩を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を用いて、NaOHとの反応性試験を行って得られた沈殿物のXRDパターンである。
【
図2】比較例2で得られたタンタル酸含有液(サンプル)を用いて、NaOHとの反応性試験を行って得られた沈殿物のXRDパターンである。
【
図3】実施例1で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を用いて、KOHとの反応性試験を行って得られた沈殿物のXRDパターンである。
【
図4】実施例1で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図5】実施例2で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図6】実施例3で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図7】実施例4で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図8】実施例5で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図9】実施例6で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図10】比較例1で得られたタンタル酸含有液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【
図11】比較例2で得られたタンタル酸含有液(サンプル)を乾燥させた粉末を、粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0018】
<本タンタル酸分散液>
本発明の実施形態の一例に係るタンタル酸分散液(「本タンタル酸分散液」)は、水中にタンタル乃至タンタル酸及びアミンを含有するタンタル酸分散液である。
【0019】
本発明において「タンタル酸分散液」とは、タンタル乃至タンタル酸に起因するものが水中に沈殿しない状態で分散している状態の液、若しくは、タンタル乃至タンタル酸が水に溶解して水溶液となっている状態の液の意味である。
例えば室温にて24時間以上静置した後、目視にて沈殿が観察されなければ、タンタル乃至タンタル酸に起因するものが水中に沈殿しない状態で分散していると認めることができる。
本タンタル酸分散液の状態としては、水のような液体状のほか、ペースト状、懸濁液状(ゾル)などの状態を包含する。
【0020】
本タンタル酸分散液が、水中にタンタル乃至タンタル酸を含有していることは、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)などにより確認することができる。
また、本タンタル酸分散液が、水中にアミンを含有していることは、GC-MSなどにより確認することができる。
なお、本タンタル酸分散液において、タンタル乃至タンタル酸が水中でどのような状態で存在しているかについては調査中である。技術的に証明できている訳ではないが、本タンタル酸分散液においてタンタル乃至タンタル酸は、タンタル乃至タンタル酸の水和物乃至そのイオンとして存在していると推定することができる。特に、後述するXRDパターンの特徴などからすると、タンタル乃至タンタル酸がアミンとイオン結合してなるポリ酸構造のイオンとして水中に存在していると推測することができる。
【0021】
本タンタル酸分散液は、タンタルをTa2O5換算で0.1~40質量%含有するのが好ましく、中でも0.5質量%以上、その中でも1質量%以上の割合で含有するのがさらに好ましい。一方、中でも30質量%以下、その中でも20質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
なお、本タンタル酸分散液におけるタンタル乃至タンタル酸は、必ずしもTa2O5状態で存在するものではない。本発明において、本タンタル酸分散液におけるタンタルの含有量をTa2O5換算で示しているのは、Ta濃度を示す際の業界の慣例に基づくものである。
【0022】
本タンタル酸分散液は、アミンを0.01~30質量%含有するのが好ましい。
アミンの量が多ければ、タンタル乃至タンタル酸の水に対する分散性乃至溶解性を高めることができる。技術的に証明できている訳ではないが、アミンがタンタル酸とイオン結合することで、水に対する溶解性を高めることができるものと推察することができる。かかる観点から、本タンタル酸分散液は、アミンを0.01質量%以上含有するのが好ましく、中でも0.1質量%以上、その中でも0.5質量%以上含有するのがさらに好ましい。
他方、アミンの量が多すぎると、製膜性の障害になったり、触媒作用を阻害したりするなどの不具合を生じる可能性がある。よって、本タンタル酸分散液は、アミンを30質量%以下の割合で含有するのが好ましく、中でも25質量%以下、その中でも20質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
この際、例えば五酸化タンタル濃度9質量%の本タンタル酸分散液におけるアミンの濃度を5質量%以上とすることにより、タンタル乃至タンタル酸が水に溶解して、透過率が極めて高い分散液、すなわち400nm透過率40%以上、さらに好ましくは50%以上の水溶液とすることができる。
【0023】
なお、本タンタル酸分散液は、タンタル(Ta2O5換算で)100質量部当たり、55~100質量部のアミンを含有するのが好ましい。かかる割合でアミンを含有することにより、タンタル乃至タンタル酸が水に溶解して、透過率が極めて高い分散液、すなわち400nm透過率40%以上、さらに好ましくは50%以上の水溶液とすることができる。
本発明では、400nm透過率が40%以上の分散液を水溶液と称する。
【0024】
本タンタル酸分散液が含有するアミンとしては、アルキルアミンなどを好ましく例示することができる。
上記アルキルアミンとしては、アルキル基を1~3個有するものを好ましく使用可能である。アルキル基を2~3個有する場合、3個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものが好ましい。
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミンなどを挙げることができる。
中でも、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンおよびジメチルエチルアミンが好ましく、中でもメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンがさらに好ましい。
【0025】
本タンタル酸分散液は、それを乾燥させた粉末を、CuKα線を使用した粉末X線回折測定して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が1.00以上であるのが好ましい。
2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が大きければ、本タンタル酸分散液の分散性がより高く、本タンタル酸分散液の透過率がより高くなることが確認されている。X線回折パターンにおいて、2θ=15°より低角度側に現れるピークの強度が高いことはポリ酸構造の特徴の一つであることが確認されている。そのため、強度比(5.5°/29°)高いほど、ポリ酸構造の占める割合が高くなり、本タンタル酸分散液の分散性が高くなり、透過率が高くなるものと推察することができる。
かかる観点から、本タンタル酸分散液における上記強度比(5.5°/29°)は1.00以上であるのが好ましく、中でも1.01以上、中でも1.02以上、中でも1.03以上、その中でも1.06以上、その中でも1.10以上であるのがさらに好ましい。なお、上限値は、おそくらく2.00程度であると予想される。
なお、前記2θ=29°の強度及び2θ=5.5°の強度は、該角度付近のピーク位置の強度ではなく、該角度を指定した強度である。
【0026】
上記のポリ酸構造とは、式:[TaxOy]n-・mH2O(6≦x≦10、19≦y≦28、n=6、mは0~50の整数)で表される構造であると推定することができる。具体的には、ポリ酸構造のイオンとして、[Ta6O19]6-・mH2Oで表される構造を有する含水化合物などを挙げることができる。但し、この含有化合物に限定するものではない。
この推定の根拠としては、X線回折パターンにおける特徴のほか、アルカリ金属化合物との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHと混合して反応させると、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができる点を挙げることができる。
【0027】
(その他の成分)
本タンタル酸分散液は、水中にタンタル乃至タンタル酸の水和物乃至そのイオン、及びアミン以外の成分を含有しない組成とすることができる。
他方、本タンタル酸分散液は、その作用効果を阻害しない範囲で、タンタル乃至タンタル酸及びアミン以外の成分(「他成分」と称する)を含有してもよい。例えば、該他成分として、アンモニア、無機分散剤、pH調整剤等の添加剤などを含有してもよい。但し、これらに限定するものではない。この際、本タンタル酸分散液における該他成分の含有量は、5質量%未満であるのが好ましく、中でも4質量%未満、その中でも3質量%未満であるのがさらに好ましい。
また、本タンタル酸分散液は、意図してではなく、不可避不純物を含むことが想定される。この際、不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0028】
なお、本タンタル酸分散液は、揮発し難い有機物成分を含有しないことが特徴の一つである。本タンタル酸分散液が揮発し難い有機物成分を含有しなければ、比較的低温(100℃以下)で乾燥させることにより製膜することができるばかりか、不純物を含まないため、触媒原料など各種用途に有効に利用することができる。
なお、本発明において「揮発し難い有機物成分」とは、オキシカルボン酸、しゅう酸やEDTAなど、揮発温度が110℃以上の有機物を意味する。
本タンタル酸分散液が、「揮発し難い有機物成分は含有しない」ことは、製造方法から確認できるほか、製造方法が不明の場合には、例えばガスクロマトグラフィーや、核磁気共鳴装置(NMR)、GC-MSなどにより、揮発し難い有機物成分の有無を分析することで確認することができる。
この際、本タンタル酸分散液が、「揮発し難い有機物成分は含有しない」とは、揮発温度が110℃以上の有機物の含有量が1%未満である場合をいう。
【0029】
(透過率)
本タンタル酸分散液は、400nmの透過率を40%以上、さらに50%以上、さらに60%以上、さらに70%以上とすることができる。
本タンタル酸分散液は、アミンの含有量を高めることにより、400nmの透過率を高めることができる。
【0030】
(アルカリ金属化合物との反応性)
本タンタル酸分散液は、80℃以上に加熱せずとも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物と混合して攪拌するだけで反応して、アルカリ金属のタンタル塩を作製することができる。
【0031】
例えば、タンタルをTa2O5換算で9質量%含有する濃度に調整した本タンタル酸分散液(25℃)30gに、2.2質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加した後、添加後15分間撹拌して反応液を得、この反応液にエタノールを100mL添加して得られた沈殿物を乾燥すると、Na8Ta6O19・15H2Oからなる粉体を得ることができる。
これより、本タンタル酸分散液は、アルカリ金属塩との反応性が高く、上記のように水酸化ナトリウム水溶液と反応させると、Na8Ta6O19・15H2Oの沈殿が生成するものであると言うことができる。
【0032】
また、例えば、タンタルをTa2O5換算で9質量%含有する濃度に調整した本タンタル酸分散液(25℃)30gに、3質量%濃度の水酸化カリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加した後、添加後15分間撹拌して反応液を得、この反応液にエタノールを100mL添加して得られた沈殿物を乾燥すると、K8Ta6O19・16H2Oからなる粉体を得ることができる。
これより、本タンタル酸分散液は、アルカリ金属塩との反応性が高く、上記のように水酸化カリウム水溶液と反応させると、K8Ta6O19・16H2Oの沈殿が生成するものであると言うことができる。
【0033】
通常、例えばNa8Ta6O19・15H2O、K8Ta6O19・16H2Oなどのアルカリ金属のタンタル酸塩を得るためには、水酸化タンタルと水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液とを混合して、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させるなど、少なくとも80℃以上に加熱して反応させる必要があるなど、簡単に作製することは難しい。しかし、本タンタル酸分散液は、アルカリ金属塩との反応性が高いため、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液と混合して反応させて冷却するだけで、タンタル酸水和物(Na8Ta6O19・15H2O、K8Ta6O19・16H2O)を得ることができる。
【0034】
なお、生成した沈殿が、Na8Ta6O19・15H2O又はK8Ta6O19・16H2Oの沈殿であることの確認は、例えば次のようなX線回折測定(XRD)による同定によって行うことができる。但し、この方法に限定するものではない。
すなわち、生成した前記沈殿を、下記条件にてX線回折測定により測定し、ICDDカードNo.00-024-1145のXRDパターンと照らし合わせて、Na8Ta6O19・15H2Oであるか否か同定することができる。また、ICDDカードNo.01-073-8508のXRDパターンと照らし合わせて、K8Ta6O19・16H2Oであるか否か同定することができる。
【0035】
<本分散液製造方法>
次に、本タンタル酸分散液の好適な製造方法(「本分散液製造方法」と称する)について説明する。
【0036】
本分散液製造方法の一例として、タンタル塩溶液をアミン水溶液に加えて一次反応液を得(この処理を「一次中和工程」と称する)、当該一次反応液をアンモニア水に加えて二次反応液を得(この処理を「二次中和工程」と称する)、当該二次反応液で生じたタンタル含有沈殿物を洗浄し(この処理を「洗浄工程」と称する)、洗浄後のタンタル含有沈殿物とアミンと水とを混合してタンタル酸分散液を作製する(この処理を「分散工程」と称する)ことを特徴とする、タンタル酸分散液の製造方法を挙げることができる。
また、後述する本タンタル酸化合物を利用して、本タンタル酸化合物とアミンと水とを混合して本タンタル酸分散液を作製することも可能である。
但し、本タンタル酸分散液の製造方法は、これらの製造方法に限定されるものではない。
【0037】
本分散液製造方法は、上記工程を備えていれば、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
また、説明しやすいため、下記では、工程ごとに説明するが、各工程は、装置及び時間的に一連の処理とすることもできるし、また、装置及び時間を別にする異なる処理工程とすることもできる。
【0038】
(タンタル塩溶液)
出発物質であるタンタル塩溶液は、タンタルが溶解している溶液であればよい。例えば塩化タンタル水溶液、フッ化タンタル水溶液などを挙げることができる。
塩化タンタル水溶液は、塩化タンタル(TaCl5)を少量のメタノールに溶かし、さらに水を加えて作製することができる。
【0039】
他方、フッ化タンタル水溶液は、タンタル、タンタル酸化物又は水酸化タンタルを、フッ化水素酸水溶液などのフッ酸(HF)と反応させてフッ化タンタル(H2TaF7)とし、これを水に溶解して作製することができる。
このフッ化タンタル水溶液は、水(例えば純水)を加えて、タンタルをTa2O5換算で1~100g/L含有するように調製するのが好ましい。この際、タンタル濃度が1g/L以上であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になるので、フッ化タンタル水溶液のタンタル濃度は、Ta2O5換算で1g/L以上であるのがより好ましく、生産性を考えた場合、中でも10g/L以上、その中でも20g/L以上であるのがさらに好ましい。他方、タンタル濃度が100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になるので、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるのがより好ましく、中でも80g/L以下、その中でも70g/L以下であるのがさらに好ましい。
フッ化タンタル水溶液のpHは、タンタル乃至タンタル酸化物を完全溶解させる観点から、2以下であるのが好ましく、中でも1以下であるのがさらに好ましい。
【0040】
(一次中和工程)
本分散液製造方法では、タンタル塩溶液とアミン水溶液とを反応させた後(一次中和)、アンモニア水と反応させる処理(二次中和)を行うことが重要である。
タンタル塩溶液とアミン水溶液による一次中和だけで、アンモニア水による二次中和を実施しないと、沈殿物が生成しないか、或いは沈殿生成量が少なくなり、本タンタル酸分散液の収率が低くなりやすい。さらに、沈殿物が生成したとしても、そのまま洗浄工程に進んだ場合、一部溶解しないタンタル酸化合物水和物となってしまい、分散性の高いタンタル酸分散液を得ることはできない。
また、一次中和と二次中和の順番を逆にして、タンタル塩溶液とアンモニア水とを反応させた後、アミン水溶液と反応させた場合も、後の分散工程において、タンタル乃至タンタル酸を好適に水中に分散させることはできず、まして水溶液とすることはできない。
【0041】
一次中和工程では、フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液を、アミン水溶液に加えて反応させる逆中和を実施するのが好ましい。
フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液にアミン水溶液を添加する正中和では、後の分散工程において、タンタル乃至タンタル酸を好適に水に分散させることはできず、まして水溶液とことはできない。
逆中和することによって、タンタル乃至タンタル酸の構造が水に溶けやすい構造になると推測している。
【0042】
一次中和工程で用いるアミン水溶液のアミンとしては、アルキルアミンなどを好ましく例示することができる。
【0043】
上記アルキルアミンとしては、アルキル基を1~3個有するものを好ましく使用可能である。アルキル基を2~3個有する場合、3個のアルキル基は全部同じものでもよいし、また、異なるなるものを含んでいてもよい。アルキルアミンのアルキル基としては、溶解性の観点から、アルキル基の炭素数1~6のものが好ましく、中でも4以下、その中でも3以下、さらにその中でも2以下のものが好ましい。
【0044】
上記アルキルアミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、トリn-プロピルアミン、iso-プロピルアミン、ジiso-プロピルアミン、トリiso-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジn-ブチルアミン、トリn-ブチルアミン、iso-ブチルアミン、ジiso-ブチルアミン、トリiso-ブチルアミンおよびtert-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミンなどを挙げることができる。
中でも、溶解性の点からは、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミンおよびジメチルエチルアミンが好ましく、中でもメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンがさらに好ましい。
【0045】
前記一次中和において、分散性を高める観点から、前記タンタル塩溶液を、該タンタル塩溶液に含まれるフッ素とモル比で等量以上すなわち1以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、中でも1.2以上、その中でも1.4以上のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。
他方、廃液量が多くなる観点から、前記タンタル塩溶液を、該記タンタル塩溶液に含まれるフッ素とモル比で2以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることが好ましく、中でも1.8以下、その中でも1.6以下のアミンを含有するアミン水溶液に加えることがさらに好ましい。
【0046】
一次中和工程では、フッ化タンタル水溶液などのタンタル塩溶液を、アミン水溶液に加える際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に前記タンタル塩溶液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。
この際、前記タンタル塩溶液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
【0047】
(二次中和工程)
二次中和では、一次中和工程で得た一次反応液を、アンモニア水に加えて二次反応液を得るようにするのが好ましい。一次反応液をアンモニア水に加えると、水中に沈殿物(「タンタル含有沈殿物」と称する)が生じることになる。
【0048】
二次中和においても、本タンタル酸分散液の分散性をさらに向上させる観点から、一次中和工程で得た一次反応液を、アンモニア水に加えて反応させる逆中和を実施するのが好ましい。
【0049】
この際、上記アンモニア水溶液は、本タンタル酸分散液の分散性を高める観点から、アンモニア濃度が10~30質量%であることが好ましい。中でも15質量%以上、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、中でも29質量%以下、その中でも28質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
二次中和工程では、後の分散工程における分散性を高める観点から、前記一次反応液を、該一次反応液に含まれるフッ素に対してモル比で7.5以上のアンモニア、中でも8.0以上、その中でも8.5以上のアンモニアを含有するアンモニア水溶液に加えることがさらに好ましい。
他方、廃液量が多くなる観点から、前記一次反応液を、該一次反応液に含まれるフッ素に対してモル比で10.0以下のアンモニアを含有するアンモニア水に加えることが好ましく、中でも9.5以下、その中でも9.0以下の割合でアンモニアを含有するアンモニア水に加えることがさらに好ましい。
【0051】
二次中和工程では、一次反応液をアンモニア水に加える際、1分以内に中和反応させるのが好ましい。すなわち、時間をかけて徐々に一次反応液を加えるのではなく、例えば一気に投入するなど、1分以内の時間で投入して中和反応させるのが好ましい。
この際、一次反応液の添加時間は、1分以内とするのが好ましく、中でも30秒以内、その中でも10秒以内とするのがさらに好ましい。
【0052】
(洗浄工程)
前記二次中和で得られた二次反応液、中でもそのタンタル含有沈殿物には、不純物として、フッ化アンモニウムなどのフッ素化合物など、タンタル乃至タンタル酸の水和物乃至イオン及びアミン以外の不要成分が水中に存在するため、当該不要成分を除去するのが好ましい。
【0053】
洗浄方法、例えばフッ素化合物の除去方法は任意である。例えば、アンモニア水や純水を用いた逆浸透ろ過、限外ろ過、精密ろ過などの膜を用いたろ過による方法のほか、遠心分離、その他の公知の方法を採用することができる。
洗浄工程は、常温で行えばよく、それぞれの温度調整は特に必要ない。
【0054】
(分散工程)
次に、洗浄工程で洗浄されて得たタンタル含有沈殿物、例えばフッ素除去して得られたタンタル含有沈殿物は、水などの分散媒を加えると共に、アミンを加えて、必要に応じて攪拌して反応を促進させることで、本タンタル酸分散液を作製することができる。
【0055】
添加するアミンの種類としては、一次中和で用いることができるアミンと同様である。
アミンの添加量は、上述したように、アミンの量が多ければ、タンタル乃至タンタル酸の水に対する分散性乃至溶解性を高めることができる一方、アミンの量が多過ぎると、製膜性の障害になったり、触媒作用を阻害したりするなどの不具合を生じる可能性がある観点から、上述のように調整するのが好ましい。
【0056】
本分散液製造方法における各工程は、常温で行えばよく、各工程において、強制的に温度調整する必要は特にない。
【0057】
<本タンタル酸分散液の用途>
本タンタル酸分散液は、揮発し難い有機物成分を含まないため、比確的低温(100℃以下)で乾燥させることで製膜することができる。よって、例えば各種コーティング液として有効利用することができる。また、触媒原料など、各種用途に利用することができる。
また、本タンタル酸分散液に各種添加剤を加えて、各種用途に利用することもできる。
【0058】
<本タンタル酸化合物>
次に、本発明の実施形態の一例に係るタンタル酸化合物(「本タンタル酸化合物」)について説明する。
【0059】
本タンタル酸化合物は、一部又は全部がアンモニウム塩であることが好ましい。さらに、アミンを含有していてもよい。
【0060】
本タンタル酸化合物は、タンタルをTa2O5換算で70~95質量%含有するのが好ましく、中でも75質量%以上、その中でも78質量%以上の割合で含有するのがさらに好ましい。一方、中でも93質量%以下、その中でも90質量%以下の割合で含有するのがさらに好ましい。
なお、本タンタル酸化合物は、必ずしもTa2O5状態で存在するものではない。本発明において、本タンタル酸化合物におけるタンタルの含有量をTa2O5換算で示しているのは、Ta濃度を示す際の業界の慣例に基づくものである。
【0061】
本タンタル酸化合物は、CuKα線を使用した粉末X線回折測定して得られるX線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が0.90以上であるのが好ましい。
2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が大きければ、本タンタル酸化合物の反応性がより高くなることが確認されている。X線回折パターンにおいて、2θ=15°より低角度側に現れるピークの強度が高いことはポリ酸構造の特徴の一つであることが確認されている。そのため、強度比(5.5°/29°)高いほど、ポリ酸構造の占める割合が高くなり、本タンタル酸化合物の反応性が高くなるものと推察することができる。
かかる観点から、本タンタル酸化合物における上記強度比(5.5°/29°)は0.90以上であるのが好ましく、中でも0.92以上、その中でも0.94以上であるのがさらに好ましい。なお、上限値は、おそくらく2.00程度であると予想される。
なお、前記2θ=29°の強度及び2θ=5.5°の強度は、該角度付近のピーク位置の強度ではなく、該角度を指定した強度である。
【0062】
本タンタル酸化合物は、ポリ酸構造を有する化合物であると推定される。中でも、式:[TaxOy]n-・mH2O(6≦x≦10、19≦y≦28、n=6、mは0~50の整数)で表される構造を有する含水化合物であると推定することができる。具体的には、[Ta6O19]6-・mH2Oで表される構造を有する含水化合物などを挙げることができる。但し、この含有化合物に限定するものではない。
この推定の根拠としては、X線回折パターンにおける特徴のほか、次に説明するようにアルカリ金属との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHと混合して反応させると、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができる点を挙げることができる。
【0063】
(アルカリ金属化合物との反応性)
本タンタル酸化合物は、80℃以上に加熱せずとも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩と混合して攪拌するだけで反応して、アルカリ金属のタンタル酸塩を作製することができる。
【0064】
例えば、本タンタル酸化合物3gを純水30mLでスラリー化したものに、2.2質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加した後、添加後15分間撹拌して反応液を得、この反応液にエタノールを100mL添加して得られた沈殿物を乾燥すると、Na8Ta6O19・15H2Oからなる粉体を得ることができる。
これより、本タンタル酸化合物は、アルカリ金属塩との反応性が高く、上記のように水酸化ナトリウム水溶液と反応させると、Na8Ta6O19・15H2Oの沈殿が生成するものであると言うことができる。
【0065】
また、例えば、本タンタル酸化合物3gを純水30mLでスラリー化したものに、3質量%濃度の水酸化カリウム水溶液(25℃)30mLを、攪拌しながら添加した後、添加後15分間撹拌して反応液を得、この反応液にエタノールを100mL添加して得られた沈殿物を乾燥すると、K8Ta6O19・16H2Oからなる粉体を得ることができる。
これより、本タンタル酸化合物は、アルカリ金属塩との反応性が高く、上記のように水酸化カリウム水溶液と反応させると、K8Ta6O19・16H2Oの沈殿が生成するものであると言うことができる。
【0066】
<本化合物製造方法>
次に、本タンタル酸化合物の好適な製造方法(「本化合物製造方法」と称する)について説明する。
【0067】
本化合物製造方法の一例として、タンタル塩溶液をアミン水溶液に加えて一次反応液を得(この処理を「一次中和工程」と称する)、当該一次反応液をアンモニア水に加えて二次反応液を得(この処理を「二次中和工程」と称する)、当該二次反応液で生じたタンタル含有沈殿物を洗浄し(この処理を「洗浄工程」と称する)、洗浄後のタンタル含有沈殿物を必要に応じて乾燥させることを特徴とする、タンタル酸化合物の製造方法を挙げることができる。言い換えれば、前述した本分散液製造方法における洗浄工程までを行い、得られたタンタル含有沈殿物若しくはその乾燥物を本タンタル酸化合物として得ることができる。すなわち、本タンタル酸化合物は、本タンタル酸分散液を製造する際の中間物質として得ることができる。
但し、本化合物製造方法は、このような製造方法に限定されるものではない。
【0068】
本化合物製造方法は、上記工程を備えていれば、他の工程若しくは他の処理を追加することは適宜可能である。
また、説明しやすいため、下記では、工程ごとに説明するが、各工程は、装置及び時間的に一連の処理とすることもできるし、また、装置及び時間を別にする異なる処理工程とすることもできる。
【0069】
(タンタル塩溶液)
本化合物製造方法における出発物質である前記タンタル塩溶液の説明として、前述した本分散液製造方法における前記タンタル塩溶液の説明を援用する。
【0070】
(一次中和工程)
本化合物製造方法における一次中和工程の説明として、前述した本分散液製造方法における前記一次中和工程の説明を援用する。
【0071】
(二次中和工程)
本化合物製造方法における二次中和工程の説明として、前述した本分散液製造方法における前記二次中和工程の説明を援用する。
【0072】
(洗浄工程)
本化合物製造方法における洗浄工程の説明として、前述した本分散液製造方法における前記洗浄工程の説明を援用する。
【0073】
(乾燥工程)
前記洗浄工程で得られた洗浄後のタンタル含有沈殿物をそのまま本タンタル酸化合物として得てもよいし、また、前記タンタル含有沈殿物を乾燥して本タンタル酸化合物として得てもよい。
この際の乾燥方法は、公知の乾燥方法を適宜採用することができる。中でも、真空乾燥が好ましい。真空乾燥であれば、高温にすることなく、具体的には100℃以下の温度で容易に乾燥できるので好ましい。
乾燥温度に関しては、乾燥温度が高すぎると、得られた本タンタル酸化合物の反応性が低下する場合があるため、乾燥温度は100℃以下、中でも90℃以下、その中でも80℃以下、その中でも70℃以下、特に60℃以下であることが好ましい。
【0074】
なお、本化合物製造方法における各工程は、最後の乾燥工程を除いて、常温で行うのが好ましい。その際、各工程において、強制的に温度調整する必要は特にない。
【0075】
<本タンタル酸化合物の用途>
本タンタル酸化合物を用いて本タンタル酸分散液を製造することができる。すなわち、本タンタル酸化合物とアミンと水とを混合して本タンタル酸分散液を作製することが可能である。
また、本タンタル酸化合物は、本タンタル酸分散液の反応性には若干劣るものの、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと混合して反応させるだけで、アルカリ金属のタンタル酸塩を容易に得ることができる。
さらに本タンタル酸化合物は、触媒の添加剤など、各種用途に利用することができる。
【0076】
<語句の説明>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0077】
本発明について、以下の実施例により更に説明する。但し、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0078】
(実施例1)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液を、アンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水29.2mLと50質量%ジメチルアミンを9g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン9質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0079】
(実施例2)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液をアンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水30.2mLと50質量%ジメチルアミンを8g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン8質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0080】
(実施例3)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液をアンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水31.2mLと50質量%ジメチルアミンを7g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン7質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0081】
(実施例4)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液をアンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水30.2mLと50質量%ジメチルアミンを6g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン6質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0082】
(実施例5)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液をアンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水30.2mLと50質量%ジメチルアミンを5g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン5質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0083】
(実施例6)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液を、アンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物11.8gに純水27.0mLと40質量%メチルアミンを11.2g添加し、Ta2O5濃度9質量%、メチルアミン9質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0084】
(比較例1)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gに、アンモニア水(NH3濃度25質量%)400mLを、1分未満の時間で添加して反応液(pH12)を得た(正中和)。この反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、5Cろ紙を用いヌッチェろ過により、上澄み液のフリーフッ素が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は59質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物7.6gに純水33.4mLと50質量%ジメチルアミンを9g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン9質量%のタンタル酸含有液(サンプル)50gを作製した。
【0085】
(比較例2)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)400mLに、1分未満の時間で添加して反応液(pH12)を得た(逆中和)。この反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、5Cろ紙を用いヌッチェろ過により、上澄み液のフリーフッ素が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は55質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物8.2gに純水32.8mLと50質量%ジメチルアミンを9g添加し、Ta2O5濃度9質量%、ジメチルアミン9質量%のタンタル酸含有液(サンプル)50gを作製した。
【0086】
(実施例7)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液を、アンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
前記タンタル含有沈殿物の一部を、1000℃で4時間焼成することでTa2O5を生成し、その質量からタンタル含有沈殿物に含まれるTa2O5濃度を算出した。Ta2O5濃度は38質量%だった。
前記タンタル含有沈殿物19.7gに純水15.3mLと50質量%ジメチルアミンを15g添加し、Ta2O5濃度15質量%、ジメチルアミン15質量%のタンタル酸分散液(サンプル)50gを作製した。
【0087】
(実施例8)
タンタル酸分散液を作製するのに使用したタンタル含有沈殿物(Ta2O5濃度38質量%)の量を2.6gに、純水の量を9995.4mLに、50質量%ジメチルアミンの量を2gに変更した以外は、実施例7と同様に実施して、Ta2O5濃度0.01質量%、ジメチルアミン0.01質量%のタンタル酸分散液(サンプル)10kgを作製した。
【0088】
(実施例9)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、50質量%ジメチルアミン100mLに、1分未満の時間をかけて添加した。その後、15分撹拌し、一次反応液(pH11)を得た。この一次反応液を、アンモニア水(NH3濃度25質量%)460mLに、1分未満の時間をかけて添加し、二次反応液(pH12)を得た。この二次反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記二次反応液を、遠心分離機を用いてデカンテーションし、上澄み液のフリーフッ素量が100mg/L以下になるまで洗浄して、フッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
フッ素を除去したタンタル含有物沈殿を、60℃で15時間真空乾燥して、タンタル酸化合物(サンプル)を得た。
【0089】
(実施例10)
実施例9で使用した50質量%ジメチルアミン100mLに代えて、40質量%ジメチルアミン125mLを使用したこと以外は、実施例9と同様にしてタンタル酸化合物(サンプル)を得た。
【0090】
(比較例3)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gに、アンモニア水(NH3濃度25質量%)400mLを、1分未満の時間で添加して反応液(pH12)を得た(正中和)。この反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、5Cろ紙を用いヌッチェろ過により、上澄み液のフリーフッ素が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
フッ素を除去したタンタル含有物沈殿を、60℃で15時間真空乾燥して、タンタル酸化合物(サンプル)を得た。
【0091】
(比較例4)
三井金属鉱業社製水酸化タンタル137.9g(Ta2O5濃度66質量%)を55質量%フッ化水素酸水溶液120gに溶解させ、イオン交換水を849mL添加することによって、フッ化タンタル水溶液(Ta2O5濃度9.1質量%)を得た。
このフッ化タンタル水溶液100gを、アンモニア水(NH3濃度25質量%)400mLに、1分未満の時間で添加して反応液(pH12)を得た(逆中和)。この反応液はタンタル酸化合物水和物のスラリー、言い換えるとタンタル含有沈殿物のスラリーであった。
次に、前記反応液を、5Cろ紙を用いヌッチェろ過により、上澄み液のフリーフッ素が100mg/L以下になるまで洗浄してフッ素を除去したタンタル含有沈殿物を得た。この際、洗浄液にはアンモニア水を用いた。
フッ素を除去したタンタル含有物沈殿を、60℃で15時間真空乾燥して、タンタル酸化合物(サンプル)を得た。
【0092】
<NaOHとの反応性試験>
実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)又は比較例2で得たタンタル含有液(サンプル)(25℃)を30g量り、これに2.2質量%水酸化ナトリウム水溶液(25℃)30mLをマグネティックスターラー(撹拌速度:150rpm)で撹拌しながら1分間かけて添加した。添加後、15分間撹拌して反応液を得た。この反応液にエタノールを100mL添加し沈殿を得た。この沈殿物を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、純水で洗浄した後、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気で15時間静置乾燥した。得られた乾燥物をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。
【0093】
また、実施例9で得たタンタル酸化合物(サンプル)又は比較例3で得たタンタル酸化合物を3g量り、純水30mLにてスラリー化し、該スラリーに2.2質量%水酸化ナトリウム水溶液(25℃)30mLをマグネティックスターラー(撹拌速度:150rpm)で撹拌しながら1分間かけて添加した。添加後、15分間撹拌して反応液を得た。この反応液にエタノールを100mL添加し沈殿を得た。この沈殿物を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、純水で洗浄した後、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気で15時間静置乾燥した。得られた乾燥物をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。
【0094】
上記のX線回折測定条件及びX線回折条件は、下記<XRD測定>の条件と同様である。
図1、
図2には、実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)、比較例2で得たタンタル含有液(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体のX線回折パターンを示した。
【0095】
実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体及び実施例9で得たタンタル酸化合物(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体は、X線回折測定結果から、ICDDカードNo.00-024-1145のNa8Ta6O19・15H2Oからなるものであると同定された。
一方、比較例2で得たタンタル含有液(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体及び比較例3で得たタンタル酸化合物(サンプル)を用いて、水酸化ナトリウム水溶液と反応させて得られた粉体は、X線回折測定結果から、アモルファスでタンタル酸化物は得られなかった。
【0096】
<KOHとの反応性試験>
実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)を30g量り、これに3質量%水酸化カリウム水溶液30mLをマグネティックスターラー(撹拌速度:150rpm)で撹拌しながら1分間かけて添加した。添加後、15分間撹拌して反応液を得た。この反応液にエタノールを100mL添加し沈殿を得た。この沈殿物を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、純水で洗浄した後、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気で15時間静置乾燥した。得られた乾燥物をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。
【0097】
また、実施例9で得たタンタル酸化合物(サンプル)を3g量り、これに3質量%水酸化カリウム水溶液30mLをマグネティックスターラー(撹拌速度:150rpm)で撹拌しながら1分間かけて添加した。添加後、15分間撹拌して反応液を得た。この反応液にエタノールを100mL添加し沈殿を得た。この沈殿物を5Cろ紙を用いてヌッチェろ過し、純水で洗浄した後、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気で15時間静置乾燥した。得られた乾燥物をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉体についてX線回折測定を実施した。
【0098】
この際、X線回折測定条件及びX線回折条件は、下記<XRD測定>の条件と同様である。
図3に、実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)を用いて、水酸化カリウム水溶液と反応させて得られた粉体のX線回折パターンを示した。
【0099】
実施例1で得たタンタル酸分散液(サンプル)を用いて、水酸化カリウム水溶液と反応させて得られた粉体は、X線回折測定結果から、ICDDカードNo.01-073-8508のK8Ta6O19・16H2Oからなるものであると同定された。
また、実施例9で得たタンタル酸化合物(サンプル)を用いて、水酸化カリウム水溶液と反応させて得られた粉体についても、X線回折測定結果から、ICDDカードNo.01-073-8508のK8Ta6O19・16H2Oからなるものであると同定された。
【0100】
<XRD測定>
実施例1-8で得たタンタル酸分散液(サンプル)又は比較例1-2で得たタンタル酸含有液(サンプル)10gを、減圧乾燥炉を用いて、60℃、真空(0.08MPa以下)の雰囲気において15時間静置して乾燥させ、タンタル酸化合物の粉体(サンプル)を得た。
これらタンタル酸化物の粉体(サンプル)並びに実施例9、10及び比較例3、4で得たタンタル酸化合物について、CuKα線を使用した粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。
図4~11には、実施例1-6で得たタンタル酸分散液(サンプル)又は比較例1-2で得たタンタル酸含有液(サンプル)からそれぞれ得たタンタル酸化物の粉体(サンプル)のX線回折パターンを示した。
【0101】
=X線回折測定条件=
・装置:MiniFlexII(株式会社リガク製)
・測定範囲(2θ):5~90°
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:2.0°/min
・X線:CuKα線
・電圧:30kV
・電流:15mA
・発散スリット:1.25°
・散乱スリット:1.25°
・受光スリット:0.3mm
【0102】
=X線回解析条件=
・リガク社製データ解析ソフトPDXL2を使用した。
・ピークトップを明確化するためb-splingでピークを平滑化した。
【0103】
測定して得られたX線回折パターンから、2θ=5.5°及び2θ=29°における強度を求め、2θ=29°の強度に対する2θ=5.5°の強度の比率(5.5°/2θ=29°強度比)を算出して、実施例1~8及び比較例2のタンタル酸分散液(サンプル)の乾燥物については表3に、実施例9、10及び比較例3、4のタンタル酸化合物(サンプル)については表4に示した。
【0104】
<透過率測定>
実施例1-8で得たタンタル酸分散液(サンプル)又は比較例1-2で得たタンタル酸含有液(サンプル)の透過率を分光光度計にて測定した。
【0105】
=透過率測定条件=
・装置:UH4150形分光光度計
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200~2600nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0106】
測定して得られた透過率から、波長400nmにおける透過率を算出して表5に示した。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
(考察)
実施例1~6で得られたタンタル酸分散液(サンプル)を室温にて48時間静置し、その後観察したところ、いずれのサンプルについても沈殿は見られず、分散液の状態であることを確認した。
これに対し、比較例1,2で得られたタンタル酸含有液(サンプル)を室温にて48時間静置し、その後観察したところ、いずれのサンプルについても沈殿が観察された。
【0113】
実施例1~6で得られたタンタル酸分散液(サンプル)は、製造方法からして、水中にタンタル乃至タンタル酸の水和物乃至そのイオン及びアミン以外には、不可避不純物のみが含まれていることは明らかである。不可避不純物としては、フッ素化合物、アンモニアなどが想定される。よって、実施例1~6で得られたタンタル酸分散液(サンプル)は、少なくとも、有機物成分、特に揮発し難い有機物成分を含有しないことは明らかである。
【0114】
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、水中にタンタル乃至タンタル酸及びアミンを含有するタンタル酸分散液であって、該タンタル酸分散液を乾燥させた粉末を、CuKα線を使用した粉末X線回折測定して得られたX線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が1.00以上である本タンタル酸分散液は、オキシカルボン酸、しゅう酸、EDTAなどの揮発し難い有機成分を含まなくても、水への分散性が高いことが確認された。また、アミンの含有量を高めることにより、水への分散性をさらに高めることができ、透過率を高めることができることも分かった。
また、上記本タンタル酸分散液は、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと混合して反応させるだけで、アルカリ金属のタンタル酸塩を容易に得られることも分かった。
【0115】
X線回折パターンにおいて、2θ=15°より低角度側に現れるピークの強度が高いことはポリ酸構造の特徴の一つであること、並びに、アルカリ金属との反応性が高く、NaOH、LiOH又はKOHと混合して反応させると、ポリ酸構造を有する化合物を得ることができることなどから、本タンタル酸分散液において、タンタル乃至タンタル酸は、アミンとイオン結合してなるポリ酸構造のイオンとして水中に存在していると推測することができる。
【0116】
他方、上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、X線回折パターンにおいて、2θ=29°における強度に対する、2θ=5.5°における強度の強度比(5.5°/29°)が0.90以上である本タンタル酸化合物は、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムとの反応性が高く、オートクレーブなどを用いて高温高圧の条件下で反応させなくても、アルカリ金属塩、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと混合して反応させるだけで、アルカリ金属のタンタル酸塩を容易に得られることが分かった。
さらにこのような本タンタル酸化合物は、X線回折パターンにおける特徴のほか、アルカリ金属塩と反応させると、ポリ酸構造を有するアルカリ金属のタンタル酸塩が得られることから、ポリ酸構造を有する化合物であると推定することができる。