(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤、これを含む非細胞毒性不織布およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/165 20060101AFI20230904BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20230904BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20230904BHJP
D04H 1/4291 20120101ALI20230904BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20230904BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230904BHJP
【FI】
D06M13/165
D06M13/256
D06M13/292
D04H1/4291
C09D4/00
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2022521400
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 KR2020013971
(87)【国際公開番号】W WO2021075837
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】10-2019-0126899
(32)【優先日】2019-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】504092127
【氏名又は名称】トーレ・アドバンスド・マテリアルズ・コリア・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】TORAY ADVANCED MATERIALS KOREA INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】300,3gongdan 2-ro,Gumi-si,Gyeongsangbuk-do 39389 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュ ヒー
(72)【発明者】
【氏名】セオ ヤング ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム デ ヒー
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-524202(JP,A)
【文献】国際公開第2007/108206(WO,A1)
【文献】特開2018-084004(JP,A)
【文献】特開2013-204158(JP,A)
【文献】特表2005-506463(JP,A)
【文献】特開昭60-126381(JP,A)
【文献】特開昭58-108263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
15~20重量%のナトリウム塩、
10~16重量%のビス(2-(C
1
~C
3
のアルキル)(C
4
~C
8
のアルキル))マレート(bis(2-(C
1
~C
3
alkyl)(C
4
~C
8
alkyl))maleate)、
2~8重量%のリン酸塩および
残量のアルコールエーテル系化合物を含む
親水性改質コート剤を含み、
前記ナトリウム塩は、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム(docusate sodium(=dioctyl sodium sulfosuccinate))、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、スルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-(C
1
~C
3
のアルキル)(C
4
~C
8
のアルキル))エステルナトリウム塩(Sodium bis(2-(C
1
~C
3
alkyl)(C
4
~C
8
alkyl))sulfosuccinate)、ナトリウムタロエート、ナトリウムココエートおよびパーム核脂肪酸ナトリウムの中から選ばれた1種以上を含み、
前記リン酸塩は、(Z)-α-2-オクタデセニル-ω-ヒドロキシポリ(オキシ-1,2-エタンジル)リン酸塩およびポリ(オキシ-1,2-エタンジイル),α-ドデシル-ω-ヒドロキシ-,ホスフェート,ポタシウム塩{Poly(oxy-1,2-ethanediyl),α-dodecyl-ω-hydroxy-,phosphate,potassium salt}の中から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする
不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤。
【請求項2】
前記アルコールエーテル系化合物は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコールおよびアルコールポリオキシエチレンエーテルの中から選ばれた1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の
不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤。
【請求項3】
ASTM D7042標準試験(20℃)に基づいて測定した粘度が950~1,100mPa・sであることを特徴とする請求項1
または2に記載の
不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤。
【請求項4】
不織布を準備する第1段階と、
請求項
3に記載の
不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤を前記不織布の一部または全体にコーティングする第2段階と、
熱処理して
前記不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤を
前記不織布に熱的固定させて、
前記不織布を親水性に改質させる第3段階と、を含み、
前記第1段階の
前記不織布が、疎水性繊維を含むことを特徴とする非細胞毒性不織布の製造方法。
【請求項5】
疎水性繊維を含む不織布の一部または全部が親水
性に改質された
非細胞毒性不織布であって、
前記非細胞毒性不織布の全体重量中、請求項
3に記載の
不織布用非細胞毒性親水性改質コーティング剤を0.1~3重量%で含むことを特徴とする非細胞毒性不織布。
【請求項6】
前記疎水性繊維は、平均直径が1μm~50μmであることを特徴とする請求項
5に記載の非細胞毒性不織布。
【請求項7】
ISO 10993-5方法に基づいてIC
50の測定時、細胞生存率が70~100%であることを特徴とする請求項
5に記載の非細胞毒性不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞毒性が殆どなく、疎水性表面を有する製品、例えば疎水性不織布を親水性に改質させるのに適した親水性改質コーティング剤、これを利用して製造した非細胞毒性不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来に公知となったポリプロピレンなどのポリオレフィン素材で製造された不織布などは、強い疎水性に起因して、親水性が要求される産業用不織布および衛生用品としての適用用途が非常に制限的であるという問題がある。
【0003】
特に、衛生用品、例えば、使い捨て吸収製品である乳児が使用するおむつ(baby diaper)、尿失禁者が使用するおむつ(adult diaper)、女性用生理用ナプキン(sanitary napkin)、およびパンティーライナー(panty liner)などには不織布が使用され、前記不織布としては、ほとんど合成不織布が適用され、合成不織布は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン素材の不織布が適用されている。ところで、このような衛生用品は、親水性が要求されるが、ポリオレフィン素材の不織布は、疎水性であるから、不織布に親水性を付与した後に適用される。
【0004】
これを解決するために、合成親水性改質コーティング剤を不織布に塗布するが、皮膚に触れる面に使用する場合、合成親水性改質コーティング剤が排出されずに人体に残ることになる問題点がある。しかも、皮膚細胞膜を通じて入ってきた合成親水性改質コーティング剤は、血液に乗って全身に回り、脳、心臓、肝臓、脾臓などの細胞に障害を起こす危険があり、また、アトピー皮膚炎を引き起こすことができる問題点がある。
【0005】
したがって、人体と直接接触する疎水性素材の製品、好ましくは疎水性不織布に親水性を付与しつつ、人体に無害な親水性改質コーティング剤の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような従来不織布の諸般問題点に対する背景を基礎にしてこれらの不織布に対する問題点を解決することをその主要な目的とし、詳細には、細胞毒性の少ない最適な組成および組成比を有する親水性改質コーティング剤を製造し、これを利用して疎水性不織布に親水性を付与した非細胞毒性不織布を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、ナトリウム塩、マレイン酸塩、リン酸塩およびアルコールエーテル系化合物を含む。
【0008】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、ナトリウム塩15~20重量%、マレイン酸塩10~16重量%、リン酸塩2~8重量%および残量のアルコールエーテル系化合物を含んでもよい。
【0009】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤の組成のうち前記ナトリウム塩は、オクチルナトリウムスルホコハク酸(ドクサートナトリウム(=スルホコハク酸ジオクチルナトリウム))、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アンモニウム-α-スルホ-ω-(ノニルフェノキシ)ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、スルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-(C1~C3のアルキル)(C4~C8のアルキル))エステルナトリウム塩、ナトリウムタロエート、ナトリウムココエートおよびパーム核脂肪酸ナトリウムの中から選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0010】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤の組成のうち前記マレイン酸塩は、ビス(2-(C1~C3のアルキル)(C4~C8のアルキル))マレート、エチレン無水マレイン酸共重合体およびイソブチレン無水マレイン酸共重合体の中から選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0011】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤の組成のうち前記リン酸塩は、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)エステルおよび(Z)-α-2-オクタデセニル-ω-ヒドロキシポリ(オキシ-1,2-エタンジル)リン酸塩の中から選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0012】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤の組成のうち前記アルコールエーテル系化合物は、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコールおよびアルコールポリオキシエチレンエーテルの中から選ばれた1種以上を含んでもよい。
【0013】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、ASTM D7042標準試験(20℃)に基づいて測定した粘度が950~1,100mPa・sでありうる。
【0014】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤を水に10重量%の濃度で溶解させた溶液は、pHが5~8(20℃分析時)でありうる。
【0015】
本発明の好ましい一実施例において、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、融点が-2~2℃でありうる。
【0016】
本発明の他の目的は、上記で説明した非細胞毒性親水性改質コーティング剤を利用して非細胞毒性不織布を製造する方法に関し、不織布を準備する第1段階と、非細胞毒性親水性改質コーティング剤を前記不織布の一部または全体にコーティングする第2段階と、熱処理して親水性改質コーティング剤を不織布に熱的固定させて、不織布を親水性に改質させる第3段階と、を含む工程を行うことによって製造できる。
【0017】
本発明の好ましい一実施例において、前記不織布は、疎水性繊維を含んでもよい。
【0018】
本発明の好ましい一実施例において、前記疎水性繊維は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維およびプロピレンエチレン共重合繊維の中から選ばれた1種以上を含むポリオレフィン系繊維でありうる。
【0019】
本発明の好ましい一実施例において、前記疎水性繊維は、平均直径が1~50μmでありうる。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、非細胞毒性不織布に関し、疎水性繊維を含む不織布の一部または全部が親水性不織布に改質された不織布であって、不織布の全体重量中、前記非細胞毒性親水性改質コーティング剤を0.1~3重量%で含んでもよい。
【0021】
本発明の好ましい一実施例において、ISO 10993-5方法に基づいてIC50の測定時、細胞生存率が70~100%でありうる。
【0022】
本発明の好ましい一実施例において、前記不織布は、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、エアレイド(Air-laid)、ウェットレイド(Wet-laid)またはドライレイド不織布(Dry-laid)でありうる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の親水性改質コーティング剤は、細胞毒性がなく、コーティング性に優れ、これを利用して繊維素材製品を親水性改質させる場合、低い再濡れ性を有するところ、疎水性繊維製品を親水性繊維に改質させることに使用するのに適しており、特に、皮膚に直接接触する製品に適用するのに適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
本発明の非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、ナトリウム塩、マレイン酸塩、リン酸塩およびアルコールエーテル系化合物を含む。
【0026】
前記ナトリウム塩は、オクチルナトリウムスルホコハク酸(ドクサートナトリウム(=スルホコハク酸ジオクチルナトリウム))、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アンモニウム-α-スルホ-ω-(ノニルフェノキシ)ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、スルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-(C1~C3のアルキル)(C4~C8のアルキル))エステルナトリウム塩、ナトリウムタロエート、ナトリウムココエートおよびパーム核脂肪酸ナトリウムの中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよく、好ましくはオクチルナトリウムスルホコハク酸(ドクサートナトリウム)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アンモニウム-α-スルホ-ω-(ノニルフェノキシ)ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)およびスルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-(C1~C3のアルキル)(C4~C8のアルキル))エステルナトリウム塩の中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよく、より好ましくはアンモニウム-α-スルホ-ω-(ノニルフェノキシ)ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)およびスルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-(C2~C3のアルキル)ヘキシル)エステルナトリウム塩の中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよい。
【0027】
また、ナトリウム塩の含有量は、親水性改質コーティング剤の全体重量中、15~20重量%を、好ましくは16~18.5重量%を、より好ましくは16.5~18.0重量%で含んでもよい。この際、ナトリウム塩の含有量が15重量%未満なら、改質コーティング剤のpHが非常に低くなる問題があり得、20重量%を超過すると、かえって改質コーティング剤のpHが非常に高まる問題および不織布の改質後、再濡れ性が低下する問題があり得るので、前記範囲内で使用した方が良い。
【0028】
親水性改質コーティング剤組成のうち前記マレイン酸塩は、ビス(2-(C1~C3のアルキル)(C4~C8のアルキル))マレート、エチレン無水マレイン酸共重合体およびイソブチレン無水マレイン酸共重合体の中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよく、好ましくはビス(2-(C2~C3のアルキル)(C5~C7のアルキル))マレートおよびエチレン無水マレイン酸共重合体の中から選ばれた1種または2種を、より好ましくはビス(2-(C2~C3のアルキル)ヘキシル)マレートを使用できる。
【0029】
また、マレイン酸塩の含有量は、親水性改質コーティング剤の全体重量中、10~16重量%を、好ましくは11.0~14.8重量%を、より好ましくは12.0~14.0重量%で含んでもよい。この際、マレイン酸塩の含有量が10重量%未満なら、改質された不織布の親水性向上効果が低下する問題があり得、16重量%を超過すると、細胞毒性が増加する問題があり得るので、前記範囲内で使用した方が良い。
【0030】
次に、親水性改質コーティング剤組成のうち前記リン酸塩は、ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸、リン酸トリス(2-エチルヘキシル)エステル、(Z)-α-2-オクタデセニル-ω-ヒドロキシポリ(オキシ-1,2-エタンジル)リン酸塩およびポリ(オキシ-1,2-エタンジイル),α-ドデシル-ω-ヒドロキシ-,ホスフェート,ポタシウム塩{Poly(oxy-1,2-ethanediyl),α-dodecyl-ω-hydroxy-,phosphate,potassium salt/cas no.58318-92-6}の中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよい。
【0031】
また、リン酸塩の含有量は、親水性改質コーティング剤の全体重量中、2~8重量%を、好ましくは2.5~7.5重量%を、より好ましくは3.0~6.2重量%を含んでもよい。この際、リン酸塩の含有量が2重量%未満なら、改質された不織布の耐久吸収度の向上効果が不十分な問題があり得、8重量%を超過すると、かえって耐久吸収度が低下する問題があり得るので、前記範囲内で使用した方が良い。
【0032】
次に、親水性改質コーティング剤組成のうちアルコールエーテル系化合物は、前記親水性改質コーティング剤の他の組成物に対する溶媒の役割をするものであって、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコールおよびアルコールポリオキシエチレンエーテルの中から選ばれた1種または2種以上を含んでもよく、好ましくはジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリビニルエーテルおよびアルコールポリオキシエチレンエーテルの中から選ばれた1種または2種を、より好ましくはジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびアルコールポリオキシエチレンエーテルの中から選ばれた1種または2種を使用できる。
【0033】
また、アルコールエーテル系化合物の含有量は、親水性改質コーティング剤の全体100重量%のうち、他の組成物を除いた残量として使用される。
【0034】
上記で説明した組成物を混合して製造した本発明の非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、ASTM D7042標準試験(20℃)に基づいて測定した粘度が950~1,100mPa・sであり、好ましくは980~1,080mPa・s、より好ましくは1,000~1,060mPa・sでありうる。
【0035】
また、本発明の非細胞毒性親水性改質コーティング剤を9~12重量%の濃度で、好ましくは10重量%の濃度で水に溶解した溶液は、20℃で分析時、pHが5~8、好ましくはpH5.5~7.5、より好ましくはpH5.8~7.0でありうる。
【0036】
また、本発明の非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、融点が-3~3℃、好ましくは融点が-2~2℃でありうる。
【0037】
上記で説明した非細胞毒性親水性改質コーティング剤を利用して疎水性製品を親水性に改質させることができ、好ましい一例として、不織布を親水性改質させる内容について説明すれば、次の通りである。
【0038】
不織布を準備する第1段階と、非細胞毒性親水性改質コーティング剤を前記不織布の一部または全体にコーティングする第2段階と、熱処理して親水性改質コーティング剤を不織布に熱的固定させて、不織布を親水性に改質させる第3段階と、を含む工程を行うことによって、親水性改質された不織布を製造できる。
【0039】
第1段階の前記不織布は、疎水性繊維を含み、一部の親水性繊維を含んでもよく、全部疎水性繊維で製造された不織布であってもよい。不織布の一部または全部は、疎水性を有していてもよい。
【0040】
前記疎水性繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維およびプロピレンエチレン共重合繊維の中から選ばれた1種以上を含むポリオレフィン系繊維でありうる。
【0041】
また、前記疎水性繊維は、平均直径1μm~50μm、好ましくは1μm~30μmでありうる。
【0042】
また、第1段階の不織布は、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、エアレイド(Air-laid)、ウェットレイド(Wet-laid)またはドライレイド不織布(Dry-laid)でありうる。
【0043】
次に、第2段階の非細胞毒性親水性改質コーティング剤は、上記で説明した通りである。また、第2段階のコーティングは、当業界において使用する一般的なコーティング方法によって行うことができ、好ましくはキスロールコーティング法またはスプレーコーティング法などによって行うことができる。
【0044】
次に、第3段階の熱処理は、ドラムドライヤーで100~150℃、好ましくは110~140℃の熱を加えて行うことができる。この際、熱処理温度が100℃未満なら、不織布の乾燥が十分に行われない問題があり得、熱処理温度が150℃を超過すると、不織布が固くなる問題があり得る。
【0045】
製造された親水性に改質された非細胞毒性不織布は、非細胞毒性親水性改質コーティング剤を0.1~3.0重量%で、好ましくは0.4~2.8重量%で、より好ましくは0.5~1.5重量%で含んでもよい。この際、非細胞毒性親水性改質コーティング剤の含有量が0.1重量%未満なら、親水性改質効果が不十分であり、3重量%を超過すると、不織布の再濡れ性が高くなって、湿らせる問題があり得る。
【0046】
また、第3段階の非細胞毒性不織布は、坪量が10~100 gsmでありうる。
【0047】
また、本発明の非細胞毒性不織布は、ISO 10993-5方法に基づいてIC50の測定時、細胞生存率が70~100%、好ましくは85~100%、より好ましくは90~100%でありうる。
【0048】
また、本発明の非細胞毒性不織布は、WSP 70.3(08)(Standard Test Method for Nonwoven Coverstock Liquid Strike-Through Time Using Simulated Urine)によって液体吸収速度の測定時、2.50~3.50秒、好ましくは2.50~3.20秒でありうる。
【0049】
また、本発明の非細胞毒性不織布は、WSP 70.7(09)(Standard Test Method for Nonwoven-Repeated Liquid Strike-Through Time)によって耐久吸収度の測定時、1回目の耐久吸収度が1.50~2.80秒であり、2回目の耐久吸収度が2.00~3.50秒であり、3回目の耐久吸収度が2.30~3.80秒でありうる。
【0050】
また、本発明の非細胞毒性不織布は、WSP 70.8(09)(Standard Test Method for Wetback After Repeated Strike-Through Time)によって液体に対する再濡れ性の測定時、再濡れ性が2.0~3.5g、好ましくは2.2~3.3gでありうる。
【0051】
また、本発明の非細胞毒性不織布は、ISO 10993-5方法に基づいてIC50の測定時、細胞生存率が70~100%、好ましくは85~100%、より好ましくは90~100%でありうる。
【0052】
以下では、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、実施例によって本発明の権利範囲を限定して解釈してはならない。
【0053】
[実施例]
実施例1:非細胞毒性親水性改質コーティング剤の製造
ナトリウム塩であるスルホブタンジオキサン1,4-ビス(2-エチルヘキシル)エステルナトリウム塩(cas no.577-11-7)、マレイン酸塩であるビス(2-エチルヘキシル)マレート(bis(2-ethylhexyl)maleate,cas no.142-16-5)、リン酸塩であるポリ(オキシ-1,2-エタンジイル),α-ドデシル-ω-ヒドロキシ-,ホスフェート,ポタシウム塩(Poly(oxy-1,2-ethanediyl),α-dodecyl-ω-hydroxy-,phosphate,potassium salt/cas no.58318-92-6)およびアルコールエーテル系化合物であるジプロピレングリコールモノメチルエーテルを混合および撹拌して、非細胞毒性親水性改質コーティング剤を製造した。
【0054】
また、親水性改質コーティング剤内ナトリウム塩、マレイン酸塩、リン酸塩およびアルコールエーテル系化合物それぞれの含有量は、下記表1の通りである。
【0055】
実施例2~実施例7および比較例1~比較例6
前記実施例1と同じ方法で親水性改質コーティング剤を製造するが、下記表1と同じ組成および組成比を有する親水性改質コーティング剤をそれぞれ製造した。
【0056】
【0057】
比較例7
イソプロピルアルコールを親水性改質コーティング剤として準備した。
【0058】
比較例8
ジエステル(Di-ester)20重量%および残量のプロピレングリコール化合物を含む溶液を親水性改質コーティング剤として準備した。
【0059】
比較例9
シロキサン系親水性改質コーティング剤であるCTFA(Dimethylsiloxane,3-(3-((3-cocoamidopropyl)dimethylammonio)-2-hydroxyprpoxy)propyl groupterminated acetate/CAS 134737-05-6)を親水性改質コーティング剤として準備した。
【0060】
実験例1:親水性改質コーティング剤の粘度およびpHの測定
前記実施例1~7および比較例1~9で製造した親水性改質コーティング剤それぞれに対する粘度およびpHを測定し、その結果を下記表2に示した。
【0061】
この際、粘度は、ASTM D7042標準試験(20℃)に基づいて測定し、pHは、水に親水性改質コーティング剤を10重量%の濃度で溶解した溶液に対するpHであり、20℃で分析したものである。
【0062】
【0063】
表2の改質コーティング剤の物性測定の結果を見ると、実施例1~7は、粘度990~1,060mPa・s、pH5.2~6.3および融点-3℃~1℃の範囲の適正物性の範囲を示した。これに対し、ナトリウム塩を15重量%未満で使用した比較例1の場合、実施例1および実施例2と比較して、pHが急激に低くなって酸性化する問題があり、ナトリウム塩を20重量%超過して使用した比較例2の場合、実施例1および実施例3と比較して、pHが急激に増加する傾向を示した。
【0064】
また、実施例6~7および比較例5~6の融点を見ると、リン酸塩の含有量が改質コーティング剤の融点に影響を与えることを確認できるが、リン酸塩の使用量が減少すると、改質剤の融点が増加する傾向があることを確認でき、比較例5が融点が最も高く、実施例7と比較例6を比較してみると、リン酸塩を8重量%超過しても、融点の降下がない傾向を示した。
【0065】
製造例1:親水性改質された非細胞毒性不織布の製造
平均直径17μmのポリプロピレン繊維で製造された坪量18gsmのスパンボンド不織布を準備した(東レ先端素材、商品名LIVSEN)。
【0066】
次に、前記実施例1で製造した親水性改質コーティング剤をキスロールコーティング方式で不織布でコーティングおよび乾燥した。
【0067】
次に、ドラムドライヤで約125~130℃の温度の条件下で熱処理して、親水性に改質された非細胞毒性不織布を製造した。
【0068】
製造された非細胞毒性不織布内親水性改質コーティング剤の含有量は、約0.7重量%であった。
【0069】
製造例2~7および比較製造例1~11
前記製造例1と同じ方法で親水性改質された不織布を製造するが、実施例1の親水性改質コーティング剤の代わりに実施例2~5および比較例1~9で準備した親水性改質コーティング剤それぞれを使用して親水性に改質された不織布それぞれを製造して、下記表3のように製造例2~7および比較製造例1~11をそれぞれ実施した。
【0070】
【0071】
実験例1:液体の吸収速度(ストライクスルー、Strike through)の評価
製造例および比較製造例で製造した不織布を10cm×10cm(横×縦)のサイズに切断して、測定試料を準備した。
【0072】
以後、WSP 70.3(08)(Standard Test Method for Nonwoven Coverstock Liquid Strike-Through Time Using Simulated Urine)によって前記測定試料の吸収速度(具体的に、親水性不織布層の液体吸収速度)を測定し、その結果を下記表4に示した。同種の測定試料に対して10回ずつ吸収度を測定した後、その平均値を最終吸収速度として記録した。具体的に、前記測定試料を吸収紙の上に載置した後、前記吸収紙を用いて0.9重量%NaCl水溶液5mlを全部吸収する時間を吸収速度として評価した。
【0073】
実験例2:耐久吸収度の評価
製造例および比較製造例で製造した不織布を10cm×10cm(横×縦)のサイズに切断して、測定試料を準備した。
【0074】
以後、WSP 70.7(09)(Standard Test Method for Nonwoven-Repeated Liquid Strike-Through Time)によって前記測定試料の耐久吸収度(具体的に、親水性不織布層の反復吸収度)を測定し、その結果を下記表4に示した。同種の測定試料に対して3回ずつ耐久吸収度を測定した後、耐久吸収度として記録した。具体的に、前記測定試料を吸収紙の上に載置した後、前記吸収紙を用いて0.9重量%NaCl水溶液5mlを1回、2回、3回にわたって合計15mlを吸収する時間を耐久吸収度として評価し、評価記録は、1回、2回、3回それぞれ記録した。
【0075】
実験例3:再濡れ性(リウェット、Re-wet)の評価
前記実験例1によって液体の吸収度を評価した測定試料を利用してWSP 70.8(09)(Standard Test Method for Wetback After Repeated Strike-Through Time)によって前記測定試料の再濡れ性(具体的に、親水性不織布層の再濡れ性)を測定し、その結果を下記表4に示した。具体的に、前記評価例1によって液体の吸収度を評価した測定試料を新しい吸収紙の上に載置した後、0.9重量%NaCl水溶液20mlを前記吸収紙に入れ、前記測定試料に5kgの荷重を加えた後、前記測定試料に逆に再吸収される液体量を測定して、再濡れ性として記録した。
【0076】
実験例4:細胞毒性の評価
製造例および比較製造例で製造した不織布から試料を採取し、ISO 10993-5(Biological evaluation of medical devices-Part 5:Tests for in-vitro cytotoxicity)の方法でIC50(inhibition concentration 50、コロニー形成阻害濃度)分析を行い、その結果を下記表4に示した。IC50評価結果は、70~100%である場合、非細胞毒性不織布であると評価する。
【0077】
【0078】
前記表4の物性測定結果を見ると、製造例1~9の場合、疎水性繊維で製造された不織布を親水性に改質して、速い液体吸収速度、反復吸収に対する耐久性(耐久吸収度)および再濡れ性に優れているながらも、細胞毒性がないことを確認できる。これに対し、親水性改質コーティング剤を0.1重量%未満で使用した比較製造例1の場合、製造例1および製造例2と比較して、親水性改質効果がほとんどないため、吸収速度、耐久吸収度および再濡れ性が非常に良くない結果を示した。また、親水性改質コーティング剤を3.0重量%超過で使用した比較製造例2の場合、製造例1および製造例3と比較して、親水性増大効果が弱く、再濡れ性が非常に高いため、不織布がかえって湿っただけでなく、かえって細胞毒性が増加する結果を示した。
【0079】
実施例2の改質コーティング剤を使用した製造例3および実施例4の改質コーティング剤を使用した製造例4の場合、製造例1と比較して、親水性改質の観点から、大きな差異がなかった。これに対し、比較例2の改質コーティング剤を使用した比較製造例4の場合、製造例5と比較して、再濡れ性が大きく減少する問題があった。
【0080】
また、比較例3の改質コーティング剤を使用した比較製造例5の場合、製造例6(実施例4使用)と比較して、親水性向上効果が低下した結果を示し、比較例4の改質コーティング剤を使用した比較製造例6の場合、製造例1および製造例7(実施例5使用)と比較して、親水性改質効果が優れているが、毒性が急激に増大する問題があった。
【0081】
また、比較例5の改質コーティング剤を使用した比較製造例7の場合、製造例1および製造例8(実施例6使用)と比較して、吸収速度、耐久吸収度の向上効果が不十分であった。また、比較例6の改質コーティング剤を使用した比較製造例8の場合、製造例1および製造例9(実施例7使用)と比較して、吸収速度は大きな差異がないが、耐久吸収度が大きく減少し、細胞毒性も増加する問題があった。
【0082】
細胞毒性がない本発明(製造例1~9)とは異なって、従来の親水性改質コーティング剤であるイソプロピルアルコール(比較例7)、ジエステルとプロピレングリコール混合液(比較例8)およびCTFA(比較例9)で親水性改質コーティングされた不織布の場合(比較製造例9~11)の親水性は優れているが、細胞毒性がある問題があることを確認できた。
【0083】
前記実施例および実験例を通じて、本発明の親水性改質コーティング剤が、疎水性を親水性に効率的に改質させることを確認でき、細胞毒性がないことを確認できた。このような、本発明の親水性改質コーティング剤を利用して適用用途が制限的であった産業用不織布および/または衛生用品用不織布の適用用途の範囲を大きく拡張させることができることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の親水性改質コーティング剤を利用して親水性に改質させた不織布は、産業用不織布および/または衛生用品用不織布など多様な皮膚親和的かつ親水性を要する不織布製品を提供できる。