(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】異方導電性シート、異方導電性シートの製造方法、電気検査装置および電気検査方法
(51)【国際特許分類】
H01R 11/01 20060101AFI20230904BHJP
H01R 43/00 20060101ALI20230904BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20230904BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20230904BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20230904BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20230904BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230904BHJP
【FI】
H01R11/01 501G
H01R43/00 H
H01B5/16
C08L83/05
C08L83/07
B32B7/12
B32B27/00 D
(21)【出願番号】P 2022535381
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2021025714
(87)【国際公開番号】W WO2022009942
(87)【国際公開日】2022-01-13
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2020119278
(32)【優先日】2020-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西浦 克典
(72)【発明者】
【氏名】山田 大典
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/105693(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/007216(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/032521(WO,A1)
【文献】特開平10-247536(JP,A)
【文献】特開2017-82125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 11/01
H01R 43/00
H01B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、
前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、
少なくともその一部が前記複数の導電路と前記絶縁層との間に配置された複数の接着層と、を有し、
前記接着層は、ビニル基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含み、
下記a)およびb)のいずれかを満たす、
異方導電性シート。
a)前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、
前記接着層のビニル基の少なくとも一部は、前記絶縁層のSiH基と付加反応によって結合している。
b)前記絶縁層は、SiCH
3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーンゴム組成物の架橋物を含み、
前記接着層のビニル基の少なくとも一部は、前記絶縁層のSiCH
3基とラジカル付加反応によって結合している。
【請求項2】
前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、
前記接着層のビニル基の少なくとも一部は、前記絶縁層のSiH基の少なくとも一部と付加反応によって結合している、
請求項1に記載の異方導電性シート。
【請求項3】
前記加水分解性基の少なくとも一部は、前記導電路上の官能基と結合している、
請求項1または2に記載の異方導電性シート。
【請求項4】
前記加水分解性基は、アルコキシシリル基である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項5】
前記シランカップリング剤組成物は、前記シランカップリング剤を含む一以上のアルコキシシランを含み、
前記シランカップリング剤組成物に含まれる4官能のアルコキシシランの含有量は、前記シランカップリング剤組成物に含まれる1~4官能のアルコキシシランの合計量に対して30質量%以下である、
請求項4に記載の異方導電性シート。
【請求項6】
前記複数の導電路は、ライン状に配置された複数の導電路を含む列を含み、
前記接着層は、
前記複数の導電路の列に沿って、前記複数の導電路の列に含まれる複数の導電路のそれぞれの一方の側の側面と接するように配置された第1接着層と、
前記第1接着層上に配置され、前記複数の導電路の列に沿って、前記複数の導電路の列に含まれる複数の導電路のそれぞれの他方の側の側面と接するように配置された第2接着層と
を含み、
前記第1接着層または前記第2接着層の少なくとも一方が、前記シランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項7】
前記第1接着層は、平面状である、
請求項6に記載の異方導電性シート。
【請求項8】
前記第1接着層および前記第2接着層の厚みは、それぞれ前記第1面側における前記導電路の端部の円相当径の1~40%である、
請求項6または7に記載の異方導電性シート。
【請求項9】
前記第1接着層および前記第2接着層の厚みは、それぞれ0.05~3μmである、
請求項6または7に記載の異方導電性シート。
【請求項10】
前記導電路は、金、銀、銅およびそれらの合金からなる群より選ばれる一以上を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項11】
前記導電路は、銅またはそれらの合金を含む、
請求項10に記載の異方導電性シート。
【請求項12】
前記導電路は、銅箔に由来する、
請求項11に記載の異方導電性シート。
【請求項13】
前記導電路の延在方向は、前記絶縁層の厚み方向に対して斜めである、
請求項1~12のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項14】
前記第1面側における、前記複数の導電路の中心間距離は、5~55μmである、
請求項1~13のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項15】
検査対象物の電気検査に用いられる異方導電性シートであって、
前記検査対象物は、前記第1面上に配置される、
請求項1~14のいずれか一項に記載の異方導電性シート。
【請求項16】
1)絶縁層と、前記絶縁層の表面上に配置された複数の導電線と、前記複数の導電線の周囲の少なくとも一部を覆うシランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む接着層とを有するユニットを複数準備する工程と、
2)前記複数のユニットを積層し、一体化させて、積層体を得る工程と、
3)前記積層体の積層方向に沿って、前記複数の導電線の延在方向と交差するように切断して、異方導電性シートを得る工程とを有し、
前記シランカップリング剤組成物は、ビニル基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含み、
下記a)およびb)のいずれかを満たす、
異方導電性シートの製造方法。
a)前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、
前記1)の工程では、接着層のビニル基の少なくとも一部を、前記絶縁層のSiH基と付加反応させる。
b)前記絶縁層は、SiCH
3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーンゴム組成物の架橋物を含み、
前記1)の工程では、前記接着層のビニル基の少なくとも一部を、前記絶縁層のSiCH
3基とラジカル付加反応させる。
【請求項17】
前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、
前記1)の工程では、前記接着層のビニル基の少なくとも一部を、前記絶縁層のSiH基と付加反応させる、
請求項16に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項18】
前記1)の工程では、
前記加水分解性基の少なくとも一部を、前記導電路上の官能基とさらに結合させる、
請求項16または17に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項19】
前記加水分解性基は、アルコキシシリル基である、
請求項16~18のいずれか一項に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項20】
前記シランカップリング剤組成物は、前記シランカップリング剤を含む一以上のアルコキシシランを含み、
前記シランカップリング剤組成物に含まれる4官能のアルコキシシランの含有量は、前記シランカップリング剤組成物に含まれる1~4官能のアルコキシシランの合計量に対して30質量%以下である、
請求項16~19のいずれか一項に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項21】
前記1)の工程では、
前記複数の導電線は、前記絶縁層上に配置された、金、銀、銅およびそれらの合金からなる群より選ばれる一以上の金属箔をエッチングして形成する、
請求項16~20のいずれか一項に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項22】
前記金属箔は、銅箔である、
請求項21に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項23】
前記複数の導電線と前記絶縁層との間には第1接着層がさらに配置されており、
前記複数の導電線の周囲を覆うように第2接着層を形成する工程をさらに含み、
前記第1接着層および前記第2接着層の少なくとも一方が、シランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む、
請求項21または22に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項24】
前記一体化は、熱プレスにより行う、
請求項16~23のいずれか一項に記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項25】
厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、
前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、
少なくともその一部が前記複数の導電路と前記絶縁層との間に配置された複数の接着層と、を有し、
前記絶縁層は、ビニル基を有する、シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、
前記接着層は、SiH基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含み、
前記接着層のSiH基の少なくとも一部は、前記絶縁層のビニル基の少なくとも一部と付加反応によって結合している、
異方導電性シート。
【請求項26】
1)ビニル基を有する、シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含む絶縁層と、前記絶縁層の表面上に配置された複数の導電線と、前記複数の導電線の周囲の少なくとも一部を覆うシランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む接着層とを有するユニットを複数準備する工程と、
2)前記複数のユニットを積層し、一体化させて、積層体を得る工程と、
3)前記積層体の積層方向に沿って、前記複数の導電線の延在方向と交差するように切断して、異方導電性シートを得る工程とを有し、
前記1)の工程では、
前記シランカップリング剤組成物は、SiH基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含み、
前記SiH基を、前記絶縁層のビニル基と付加反応させる、
異方導電性シートの製造方法。
【請求項27】
複数の電極を有する検査用基板と、
前記検査用基板の前記複数の電極が配置された面上に配置された、請求項1~15のいずれか一項に記載の異方導電性シートと、を有する、
電気検査装置。
【請求項28】
複数の電極を有する検査用基板と、端子を有する検査対象物とを、請求項1~15のいずれか一項に記載の異方導電性シートを介して積層して、前記検査用基板の前記電極と、前記検査対象物の前記端子とを、前記異方導電性シートを介して電気的に接続する工程を有する、
電気検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方導電性シート、異方導電性シートの製造方法、電気検査装置および電気検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品に搭載されるプリント配線板などの半導体デバイスは、通常、電気検査が行われる。電気検査は、通常、電気検査装置の(電極を有する)基板と、半導体デバイスなどの検査対象物となる端子とを電気的に接触させ、検査対象物の端子間に所定の電圧を印加したときの電流を読み取ることにより行われる。そして、電気検査装置の基板の電極と、検査対象物の端子との電気的接触を確実に行うために、電気検査装置の基板と検査対象物との間に、異方導電性シートが配置される。
【0003】
異方導電性シートは、厚み方向に導電性を有し、面方向に絶縁性を有するシートであり、電気検査におけるプローブ(接触子)として用いられる。このような異方導電性シートは、電気検査装置の基板と検査対象物との間の電気的接続を確実に行うために、押し込み荷重を加えて使用される。そのため、異方導電性シートは、厚み方向に弾性変形しやすいことが求められている。
【0004】
そのような異方導電性シートとしては、シリコーンゴムなどで構成される絶縁層と、その厚み方向に貫通するように配置された複数の金属線とを有する異方導電性シートが知られている(例えば特許文献1)。また、厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有する弾性体(例えばシリコーンゴムシート)と、貫通孔の内壁面に接合された中空状の複数の導電部材とを有する電気コネクターが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-213186号公報
【文献】国際公開第2018/212277号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、電気検査時における押し込み荷重のさらなる低減が求められており、金属線や導電部などの導電路の構成材料のさらなる低弾性率化が検討されている。しかしながら、導電路の構成材料を低弾性率化するほど、押し込み荷重による加圧と除圧の繰り返しによって、導電路が絶縁層から剥がれて、導通不良が発生しやすいという問題があった。特許文献1や2においても、同様の問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、弾性変形を繰り返しても、導電路の剥がれが少なく、良好な密着性を維持できる異方導電性シート、異方導電性シートの製造方法、電気検査装置および電気検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0009】
本発明の第1の異方導電性シートは、厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、少なくともその一部が前記複数の導電路と前記絶縁層との間に配置された複数の接着層と、を有し、前記接着層は、ビニル基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含み、下記a)およびb)のいずれかを満たす。
a)前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、前記接着層のビニル基の少なくとも一部は、前記絶縁層のSiH基と付加反応によって結合している。
b)前記絶縁層は、SiCH3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーンゴム組成物の架橋物を含み、前記接着層のビニル基の少なくとも一部は、前記絶縁層のSiCH3基とラジカル付加反応によって結合している。
【0010】
本発明の第1の異方導電性シートの製造方法は、1)絶縁層と、前記絶縁層の表面上に配置された複数の導電線と、前記複数の導電線の周囲の少なくとも一部を覆うシランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む接着層とを有するユニットを複数準備する工程と、2)前記複数のユニットを積層し、一体化させて、積層体を得る工程と、3)前記積層体の積層方向に沿って、前記複数の導電線の延在方向と交差するように切断して、異方導電性シートを得る工程とを有し、前記シランカップリング剤組成物は、ビニル基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含み、下記a)およびb)のいずれかを満たす。
a)前記絶縁層は、SiH基を有するオルガノポリシロキサンと、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、前記1)の工程では、接着層のビニル基の少なくとも一部を、前記絶縁層のSiH基と付加反応させる。
b)前記絶縁層は、SiCH3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーンゴム組成物の架橋物を含み、前記1)の工程では、前記接着層のビニル基の少なくとも一部を、前記絶縁層のSiCH3基とラジカル付加反応させる。
【0011】
本発明の第2の異方導電性シートは、厚み方向の一方の側に位置する第1面と、他方の側に位置する第2面とを有する絶縁層と、前記絶縁層内において前記厚み方向に延在するように配置され、かつ前記第1面と前記第2面の外部にそれぞれ露出している複数の導電路と、少なくともその一部が前記複数の導電路と前記絶縁層との間に配置された複数の接着層と、を有し、前記絶縁層は、ビニル基を有する、シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含み、前記接着層は、SiH基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含み、前記接着層のSiH基の少なくとも一部は、前記絶縁層のビニル基の少なくとも一部と付加反応によって結合している。
【0012】
本発明の第2の異方導電性シートの製造方法は、1)ビニル基を有する、シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含む絶縁層と、前記絶縁層の表面上に配置された複数の導電線と、前記複数の導電線の周囲の少なくとも一部を覆うシランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む接着層とを有するユニットを複数準備する工程と、2)前記複数のユニットを積層し、一体化させて、積層体を得る工程と、3)前記積層体の積層方向に沿って、前記複数の導電線の延在方向と交差するように切断して、異方導電性シートを得る工程とを有し、前記1)の工程では、前記シランカップリング剤組成物は、SiH基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤を含み、前記SiH基を、前記絶縁層のビニル基と付加反応させる。
【0013】
本発明の電気検査装置は、複数の電極を有する検査用基板と、前記検査用基板の前記複数の電極が配置された面上に配置された、本発明の異方導電性シートとを有する。
【0014】
本発明の電気検査方法は、複数の電極を有する検査用基板と、端子を有する検査対象物とを、本発明の異方導電性シートを介して積層して、前記検査用基板の前記電極と、前記検査対象物の前記端子とを、前記異方導電性シートを介して電気的に接続する工程を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、弾性変形を繰り返しても導電路の剥がれが少なく、良好な密着性を維持できる異方導電性シート、異方導電性シートの製造方法、電気検査装置および電気検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1Aは、本実施の形態に係る異方導電性シートを示す部分拡大平面図であり、
図1Bは、
図1Aの異方導電性シートの1B-1B線の部分拡大断面図である。
【
図3】
図3A~Hは、本実施の形態に係る異方導電性シートの製造方法の一部の工程を示す断面模式図である。
【
図4】
図4A~Cは、本実施の形態に係る異方導電性シートの製造方法の残りの工程を示す模式図である。
【
図5】
図5AおよびBは、シランカップリング剤組成物による接着機構を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態に係る電気検査装置を示す断面図である。
【
図7】
図7A~Gは、他の実施の形態に係る異方導電性シートの製造方法の一部の工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.異方導電性シート
図1Aは、本実施の形態に係る異方導電性シート10(第1の異方導電性シート)の部分拡大平面図であり、
図1Bは、
図1Aの異方導電性シート10の1B-1B線の拡大断面図である。
図2は、
図1Bの拡大図である。以下の図面は、いずれも模式図であって、縮尺などは実際のものとは異なる。
【0018】
異方導電性シート10は、絶縁層11と、当該絶縁層11の内部においてその厚み方向に延在するように配置された複数の導電路12と、少なくともその一部が複数の導電路12と絶縁層11との間に配置された複数の接着層13とを有する。
【0019】
1-1.絶縁層11
絶縁層11は、厚み方向の一方の側に位置する第1面11aと、厚み方向の他方の側に位置する第2面11bとを有する層である(
図1AおよびB参照)。絶縁層11は、複数の導電路12同士の間を絶縁する。1つの絶縁層11は、
図1Aに示されるように、接着層13によって分けられていてもよい。本実施の形態では、絶縁層11の第1面11aが異方導電性シート10の一方の面、絶縁層11の第2面11bが異方導電性シート10の他方の面をなし、かつ第1面11a上に、検査対象物が配置されることが好ましい。
【0020】
絶縁層11は、a)シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含むか、または、b)シリコーンゴム組成物の有機過酸化物架橋物を含む。本実施の形態では、a)シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含む。
【0021】
a)のシリコーンゴム組成物の付加架橋物は、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、SiH基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノ水素ポリシロキサン)と、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物の付加架橋物である。当該付加架橋物は、(シランカップリング剤のビニル基と結合する)SiH基を有する。
【0022】
ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、シリコーンゴム組成物の主剤(ベースポリマー)であり、ケイ素原子に結合したビニル基またはビニル基を含有する基(例えばアリル基)を1分子中に少なくとも2つ有するオルガノポリシロキサンである。ビニル基またはビニル基を含有する基以外の有機基の例には、メチル基、エチル基、フェニル基などが含まれ、好ましくはメチル基である。
【0023】
ビニル基またはアリル基は、分子主鎖中にあってもよいし、分子末端にあってもよいし、その両方にあってもよいが、分子末端にあることが好ましい。そのようなビニル基を有するオルガノポリシロキサンの例には、両末端にビニル基を有するジメチルポリシロキサンが含まれる。
【0024】
SiH基を有するオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2つ、好ましくは3つ以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。SiH基は、分子末端にあっても、分子主鎖にあっても、その両方にあってもよい。SiH基を有するオルガノポリシロキサンは、硬化剤(架橋剤)として機能するものであり、そのSiH基が、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン中のビニル基とヒドロシリル化付加反応により架橋して硬化する。
【0025】
SiH基を有するオルガノポリシロキサンの例には、メチルハイドロジェンポリシロキサンや、そのメチル基の一部または全部を、他のアルキル基やフェニル基などに置換したものなどが含まれる。
【0026】
SiH基を有するオルガノポリシロキサンの含有量は、得られる付加架橋物中において、未反応のSiH基が残るように設定される。
【0027】
付加反応触媒は、上記ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと上記SiH基を有するオルガノポリシロキサンのヒドロシリル化反応を促進させるために添加されうる。付加反応触媒は、ヒドロシリル化反応の触媒活性を有する公知の金属、金属化合物、金属錯体などを用いることができる。特に白金、白金化合物、それらの錯体を用いることが好ましい。
【0028】
絶縁層11は、貯蔵弾性率を上記範囲に調整しやすくする観点から、多孔質に形成されてもよい。
【0029】
シリコーンゴム組成物の付加架橋物のJIS K6253 デュロメータ タイプAによる硬度は、電気検査時の押し込み荷重により弾性変形しうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば30~90度であることが好ましい。
【0030】
1-2.導電路12
導電路12は、絶縁層11内において、その厚み方向に延在し、かつ第1面11aと第2面11bとにそれぞれ露出するように配置されている(
図1B参照)。
【0031】
導電路12が、絶縁層11の厚み方向に延在しているとは、具体的には、導電路12の軸方向が、絶縁層11の厚み方向に対して略平行(具体的には、絶縁層11の厚み方向と導電路12の軸方向とのなす角度のうち小さいほうの角度が10°以下)であるか、または所定の範囲で傾斜していること(絶縁層11の厚み方向と導電路12の軸方向とのなす角度のうち小さいほうの角度が10°超45°以下)をいう。中でも、押し込み荷重をかけたときに、弾性変形しやすくし、電気的接続を容易にする観点では、導電路12の軸方向は、絶縁層11の厚み方向に対して傾斜していることが好ましい(
図1B参照)。なお、軸方向とは、導電路12の第1面11a側の端部12aと、第2面11b側の端部12bとを結ぶ方向をいう。すなわち、導電路12は、端部12aが第1面11a側に露出し、端部12bが第2面11b側に露出するように配置されている(
図1B参照)。
【0032】
導電路12の形状は、特に制限されず、円柱状であってもよいし、角柱状であってもよい。本実施の形態では、導電路12の形状は、四角柱状である(
図1AおよびB参照)。
【0033】
第1面11a側における導電路12の端部12aの円相当径dは、第1面11a側における、複数の導電路12の端部12aの中心間距離pを後述する範囲に調整でき、かつ検査対象物の端子と導電層15との導通を確保できる程度であればよく、例えば2~30μmであることが好ましい。第1面11a側における、導電路12の端部12aの円相当径dとは、第1面11a側から絶縁層11の厚み方向に沿って見たときの、導電路12の端部12aの円相当径をいう。
【0034】
第1面11a側における導電路12の端部12aの円相当径と、第2面11a側における端部12bの円相当径とは、同じであってもよいし(
図1B参照)、異なってもよい。
【0035】
第1面11a側における複数の導電路12の中心間距離(ピッチ)pは、特に制限されず、検査対象物の端子のピッチに対応して適宜設定されうる。検査対象物としてのHBM(High Bandwidth Memory)の端子のピッチは55μmであり、PoP(Package on Package)の端子のピッチは400~650μmであることなどから、これらの検査対象物に合わせる観点では、第1面11a側における複数の導電路12の端部12aの中心間距離pは、例えば5~650μmでありうる。中でも、検査対象物の端子の位置合わせを不要とする(アライメントフリーにする)観点では、第1面11a側における複数の導電路12の中心間距離pは、5~55μmであることがより好ましい。複数の導電路12の中心間距離pとは、複数の導電路12の中心間距離のうち最小値をいう。
【0036】
第1面11a側における複数の導電路12の中心間距離pと、第2面11b側における複数の導電路12の中心間距離とは、同じであってもよいし(
図1B参照)、異なってもよい。
【0037】
複数の導電路12は、ランダムに配置されてもよいし、マトリクス状に配置されてもよい。本実施の形態では、複数の導電路12は、マトリクス状に配置されている。具体的には、複数の導電路12は、複数の列Lで構成されており;複数の列Lのそれぞれは、ライン状に配置された複数の導電路12を含む(
図1A参照)。
【0038】
導電路12を構成する材料は、導電性を有する材料であればよく、特に制限されない。導電路12を構成する材料の体積抵抗率は、十分な導通が得られる程度であればよく、特に制限されないが、例えば1.0×10-4Ω・m以下であることが好ましく、1.0×10-6~1.0×10-9Ω・mであることがより好ましい。体積抵抗率は、ASTM D 991に記載の方法で測定することができる。
【0039】
導電路12を構成する材料の25℃における弾性率は、特に制限されないが、電気検査時の押し込み荷重を低減する観点では、50~100GPaであることが好ましい。弾性率は、例えば、共振法(JIS Z2280に準拠)で測定することができる。
【0040】
導電路12を構成する材料は、体積抵抗率が上記範囲を満たすものであればよく、特に制限されず、銅、金、白金、銀、ニッケル、錫、鉄およびこれらのうち1種の合金などの金属材料でありうる。中でも、良好な導電性と柔軟性を有し、電気検査時の押し込み荷重を低減しやすくする観点では、金、銀、銅およびそれらの合金からなる群より選ばれる一以上が好ましく、銅およびその合金がより好ましい。
【0041】
導電路12の側面12cは、平滑面であってもよいし、粗面であってもよい。異方導電性シート10の高周波特性を損なわれにくくする観点では、平滑面であること、具体的には、表面積率が一定以下(例えば表面積率が1~1.5)であることが好ましい。表面積率は、表面積率=表面積/面積で表される。
【0042】
表面積は、測定領域の奥行き(凹凸)を加味した三次元面積である。面積は、測定領域を法線方向から見たときに見える領域の二次元面積である。表面積率が1に近いほど表面の凹凸が少なく、表面積率が大きいほど表面の凹凸が多いことを意味する。表面積や面積は、レーザー顕微鏡により測定することができる。測定領域は、縦250μm×横250μmとしうる。測定は、3回行い、それらの平均値として求めることができる。
【0043】
1-3.接着層
接着層13は、複数の導電路12と絶縁層11との間の少なくとも一部に配置されている(
図1B参照)。そして、接着層13は、導電路12と絶縁層11との間の接着性を高めて、これらの境界面で剥がれにくくする。すなわち、接着層13は、導電路12と絶縁層11との間の接着性を高めるための接合層またはプライマー層としても機能しうる。
【0044】
接着層13は、導電路12の側面12cの一部に配置されていてもよいし、全部に配置されていてもよい。本実施の形態では、接着層13は、導電路12の側面12cの全部に(側面12cを取り囲むように)配置されている(
図1A参照)。
【0045】
接着層13は、1つの層で構成されてもよいし、複数の層で構成されてもよい。
【0046】
本実施の形態では、接着層13は、導電路12の側面12cを取り囲むように配置されており、かつ複数の層で構成されている。具体的には、接着層13は、第1接着層13Aと、第2接着層13Bとを含む。
【0047】
第1接着層13Aは、複数の導電路12の列Lに沿って、当該列Lに含まれる複数の導電路12のそれぞれの一方の側の側面12c(
図1Aでは側面12cの下側)と接するように連続して配置されている。第1接着層13Aは、平面状(板状)であってもよいし(
図1A参照)、曲面状であってもよい。
【0048】
第2接着層13Bは、第1接着層13A上であって、複数の導電路12の列Lに沿って、当該列Lに含まれる複数の導電路12のそれぞれの他方の側の側面12c(
図1Aでは側面12cの上側)と接するように連続して配置されている。
【0049】
このように、接着層13が、第1接着層13Aと第2接着層13Bとを含むことで、絶縁層11を構成する複数のユニット25間の密着性(後述の
図3および4参照)を高めることができる。特に、第1接着層13Aおよび第2接着層13Bが、それぞれ上記シランカップリング剤組成物またはその重縮合物を含むことで、これらの層間でシリカ結合が形成されるため、高い密着性が得られやすい。
【0050】
第1接着層13Aおよび第2接着層13Bは、同じ組成のものであってもよいし、異なる組成であってもよい。また、第1接着層13Aおよび第2接着層13Bは、一体化して1つの層となっていてもよい。また、第1接着層13Aおよび第2接着層13Bの一部は、導電路12に接していなくてもよい(
図1A参照)。
【0051】
第1接着層13A(または第2接着層13B)は、ビニル基と加水分解性基とを有するシランカップリング剤(以下、「ビニル系シランカップリング剤」ともいう)を含むシランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む。そして、シランカップリング剤組成物中のビニル系シランカップリング剤のビニル基の少なくとも一部は、絶縁層11を構成するシリコーンゴム組成物の付加架橋物のSiH基と付加反応(ヒドロシリル化反応)して共有結合しており;加水分解性基(好ましくはアルコキシシリル基)の少なくとも一部は、加水分解されてシラノール基となり、導電路12上の官能基(例えば、導電路12の表面に形成された酸化膜中に存在するSiOH基など)と反応(例えば脱水縮合)して結合している(後述の
図5B参照)。それにより、導電路12と絶縁層11とは、シランカップリング剤組成物および/またはその重縮合物を含む第1接着層13A(または第2接着層13B)を介して良好に接合される。
【0052】
(シランカップリング剤組成物)
ビニル系シランカップリング剤の1分子中のビニル基の数は、特に制限されず、1つであってもよいし、2以上であってもよいが、好ましくは1つである。
【0053】
加水分解性基は、加水分解により水酸基となり、導電路12上の官能基と化学結合する反応基であり、好ましくはアルコキシシリル基である。すなわち、ビニル系シランカップリング剤は、ビニル基を有するアルコキシシランでありうる。ビニル系シランカップリング剤の1分子中のアルコキシシリル基の数は、特に制限されず、1つであってもよいし、2以上あってもよいが、好ましくは1である。
【0054】
ビニル系シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン(VTMOS)、ジメトキシメチルビニルシラン(DMMVS)、ジメチルエトキシビニルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリイソプロポキシビニルシラン、ビニルトリ(ジメトキシエトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン(AlyTMOS)、アリルトリエトキシシランが含まれる。
【0055】
ビニル系シランカップリング剤の分子量は、特に制限されないが、第1接着層13A(または第2接着層13B)の柔軟性を損なわないようにする観点では、適度に小さいことが好ましい。
【0056】
シランカップリング剤組成物に含まれるビニル系シランカップリング剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0057】
シランカップリング剤組成物におけるビニル系シランカップリング剤の含有量は、導電路12と絶縁層11とを十分に接着させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えばシランカップリング剤組成物中の全固形分に対して10~100質量%であることが好ましい。ビニル系シランカップリング剤の含有量が10質量%以上であると、絶縁層11および導電路12との密着性を十分に高めうる。同様の観点から、ビニル系シランカップリング剤の含有量は、上記組成物中の全固形分に対して20~100質量%であることがより好ましい。
【0058】
シランカップリング剤組成物は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、上記以外の他のシランカップリング剤や金属アルコキシドおよびその加水分解縮合物などが含まれる。
【0059】
他のシランカップリング剤は、ビニル基を有しないシランカップリング剤であり、その例には、アミノ基を有するシランカップリング剤(アミノプロピルトリメトキシシランなど)、エポキシ基を有するシランカップリング剤(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、メルカプト基を有するシランカップリング剤(メルカプトプロピルトリメトキシシランなど)が含まれる。
【0060】
金属アルコキシドは、下記式で表される化合物でありうる。
(R1)xM(OR2)(4-x)
【0061】
式中のR1は、水素原子、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基など)、炭素-炭素二重結合含有有機基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基など)、ハロゲン含有基(例えば、クロロプロピル基、フルオロメチル基などのハロゲン化アルキル基など)を表す。複数のR1は、同一でも異なっていてもよい。
【0062】
R2は、炭素原子数1~6、好ましくは1~4の低級アルキル基を表す。複数のOR2は、同一でも異なっていてもよい。
【0063】
xは、2以下の整数を表し、yは(4-x)の整数を表す。
【0064】
Mは、金属原子である。金属原子の例には、珪素原子、アルミニウム原子、ジルコニウム原子、チタニウム原子が含まれ、好ましくは珪素原子である。
【0065】
金属アルコキシドおよびその加水分解縮合物は、水および触媒の添加により、ゾルゲル反応することで、金属酸化物となる化合物であってもよい。このような化合物の例には、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン類や、これらに対応するアルコキシアルミニウム、アルコキシジルコニウム、アルコキシチタンが含まれる。
【0066】
このように、シランカップリング剤組成物は、ビニル系シランカップリング剤としてビニル基を有するアルコキシシラン(1~3官能アルコキシシラン)を含みうるだけでなく、他のシランカップリング剤や金属アルコキシドとしてもアルコキシシラン(1~4官能アルコキシシラン)を含みうる。このような場合、得られる第1接着層13A(または第2接着層13B)の柔軟性を高めて、導電路12と絶縁層11との間の接着性をより高める観点では、シランカップリング剤組成物中の4官能のアルコキシシランの量を、3官能以下のアルコキシシランの合計量よりも少なくすることが好ましい。
【0067】
具体的には、シランカップリング剤組成物に含まれる4官能のアルコキシシランの量は、シランカップリング剤組成物に含まれる1~4官能のアルコキシシランの合計量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
シランカップリング剤組成物は、必要に応じて溶剤や硬化促進剤などをさらに含んでもよい。
【0069】
溶剤は、上記成分を分散または溶解させうるものであればよく、特に制限されないが、例えばキシレン、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ゴム揮発油、シリコーン系溶剤などの有機溶剤が含まれる。硬化促進剤は、前述と同様の付加反応触媒(白金族金属系触媒など)を用いることができる。
【0070】
第1接着層13A(または第2接着層13B)を構成するシランカップリング剤組成物またはその重縮合物の弾性率は、絶縁層11を構成するSiH基を有するシリコーンゴム組成物の付加架橋物の弾性率よりも高く、導電路12を構成する金属材料の弾性率と同程度またはそれ以下であることが好ましい。
【0071】
(第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚み)
第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚みは、絶縁層11と導電路12とを十分に接着させうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば第1面11a側における導電路12の円相当径dに対して1~40%でありうる。第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚みが導電路12の円相当径dに対して1%以上であると、導電路12と絶縁層11との間で十分な密着性が得られやすく、40%以下であると、導電路12の柔軟性が損なわれにくい。同様の観点から、第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚みは、導電路12の円相当径dに対して2~30%であることがより好ましい。具体的には、第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚みは、0.05~3μmとしうる。なお、第1接着層13A(または第2接着層13B)の厚みとは、絶縁層11の厚み方向と直交する方向の厚み(t)をいう(
図2参照)。
【0072】
2.異方導電性シートの製造方法
本実施の形態に係る異方導電性シート10は、任意の方法で製造することができる。例えば、本実施の形態に係る異方導電性シート10は、1)絶縁層と、その表面上に配置された複数の導電線と、当該複数の導電線の周囲の少なくとも一部を覆う接着層とを有するユニットを複数準備する工程と、2)複数のユニットを積層し、一体化させて、積層体を得る工程と、3)積層体の積層方向に沿って切断して、異方導電性シートを得る工程とを経て製造することができる。
【0073】
1)の工程において、複数の導電線は、任意のものを用いることができ、既存の導電線をそのまま用いてもよいし、導電層(例えば金属箔など)をエッチングして得られるものであってもよい。以下、複数の導電線をエッチングにより形成する例で説明する。
【0074】
図3A~Hは、本実施の形態に係る異方導電性シート10の製造方法の一部の工程を示す断面模式図である。
図4A~Cは、本実施の形態に係る異方導電性シート10の製造方法の残りの工程を示す模式図である。
図5AおよびBは、シランカップリング剤組成物24による接着機構を示す模式図であり、
図5Aは、付加反応前の状態を示し、
図5Bは、付加反応後の状態を示す。
図4Cでは、接着層13の図示は省略している。
【0075】
本実施の形態に係る異方導電性シート10は、i)金属箔21と絶縁層22とを有する絶縁層-金属箔積層体20を準備する工程(
図3A~C参照)、ii)絶縁層-金属箔積層体20の金属箔21をエッチングして、複数の導電線21’を得る工程(
図3D~F参照)、iii)複数の導電線21’上に、シランカップリング剤組成物24を付与する工程(
図3G参照)、iv)複数の導電線21’をゴム組成物で封止して、ユニット25を得る工程(
図3H参照)、v)得られたユニット25を複数積層して、積層体26を得る工程(
図4AおよびB参照)、vi)得られた積層体26を積層方向に沿って切断して、異方導電性シート10を得る工程(
図4C参照)を経て製造することができる。
【0076】
i)の工程
まず、金属箔21と、絶縁層22とを有する絶縁層-金属箔積層体20を準備する(
図3A~C参照)。
【0077】
絶縁層-金属箔積層体20は、任意の方法で準備することができ、例えば金属箔21上に、直接または接着層を介して前述のシリコーンゴム組成物を付与またはラミネートした後、付加架橋させて得ることができる。本実施の形態では、金属箔21上に、シランカップリング剤組成物24を付与して、第1接着層13Aを形成後、シリコーンゴム組成物をさらに付与して、絶縁層22を形成する。それにより、金属箔21、絶縁層22およびそれらの間に配置された第1接着層13Aを有する絶縁層-金属箔積層体を得る(
図3BおよびC参照)。
【0078】
金属箔21は、前述の導電路12の原料をなすものであり、良好な導電性と柔軟性を有し、電気検査時の押し込み荷重を低減しやすくする観点では、金、銀、銅およびそれらの合金からなる群より選ばれる一以上の金属で構成された金属箔であることが好ましく、銅箔(例えば圧延銅箔)であることがより好ましい。
【0079】
(第1接着層13Aとなる)シランカップリング剤組成物24は、上記シランカップリング剤組成物でありうる。(第1接着層13Aとなる)シランカップリング剤組成物24の組成は、後述する(第2接着層13Bとなる)シランカップリング剤組成物24の組成と同じであってもよいし、異なってもよいが、後述する第2接着層13Bとの密着性を高める観点では、同じであることが好ましい。
【0080】
本実施の形態では、絶縁層22は、a)シランカップリング剤組成物の付加架橋物を含む。当該付加架橋物は、ビニル基を有するオルガノポリシロキサンと、SiH基を有するオルガノポリシロキサンとのヒドロシリル化反応に由来する架橋構造を有し、未反応のSiH基を有する(後述の
図5A参照)。そのような絶縁層22は、シランカップリング剤組成物24の塗膜上に、付加架橋型のシリコーンゴム組成物を付与した後、加熱乾燥させて得ることができる。付加架橋型のシリコーンゴム組成物は、通常、常温において液状である。
【0081】
ii)の工程
次いで、絶縁層-金属箔積層体20の金属箔21をエッチングして、複数の導電線21’を形成する(
図3D~F参照)。複数の導電線21’は、
図1Aにおける複数の列Lに対応する。
【0082】
本実施の形態では、絶縁層-金属箔積層体20の金属箔21上に、パターン状にマスク23を配置し、マスク23で覆われていない金属箔21の部分をエッチング除去する(
図3DおよびE参照)。
【0083】
マスク23は、例えば、所定のパターンに形成されたフォトレジストパターンでありうる。フォトレジストパターンをマスクとして、露出した金属箔21をエッチングして、フォトレジストパターンと略相似形状の導電線21’を形成する。
【0084】
エッチング方法は、特に制限されないが、化学エッチングで行うことができる。例えば、マスク23が配置された金属箔21を、エッチング液と接触させること(例えばエッチング液を噴霧すること)によって行うことができる。
【0085】
エッチング液としては、塩化第二銅水溶液や塩化第二鉄水溶液を用いることができる。エッチング液による処理は、例えば温度40~50℃、シャワー圧力0.1~0.7MPa、処理時間20~120秒の条件で行うことができる。
【0086】
そして、エッチング後、マスク23を除去して、複数の導電線21’を得る(
図3F参照)。フォトレジストパターンからなるマスク23は、例えばアルカリ溶液などにより剥離除去することができる。本実施の形態では、平面視したときに、複数の導電線21’の延在方向が、切断予定線に対して斜めになるように配置されている。
【0087】
iii)の工程
次いで、複数の導電線21’上に、(第2接着層13Bとなる)シランカップリング剤組成物24を付与する(
図3G参照)。
【0088】
シランカップリング剤組成物24の付与は、任意の塗布方法、例えばベーカーアプリケータやスプレーなどにより行うことができる。
【0089】
次いで、付与したシランカップリング剤組成物を乾燥させて、第2接着層13Bを得る。このとき、後述する絶縁層11との接着をより強固に行いやすくする観点では、シランカップリング剤組成物24の少なくとも一部を重縮合させておくことが好ましい。
【0090】
重縮合は、シランカップリング剤組成物中のビニル系シランカップリング剤(や金属アルコキシドなど)のアルコキシシリル基が加水分解してシラノール基となり、他のビニル系シランカップリング剤や金属アルコキシドが有するアルコキシシリル基またはシラノール基と縮合する反応でありうる。
【0091】
重縮合は、例えばシランカップリング剤組成物の塗膜を室温で乾燥させた後、加熱して行うことができる。具体的には、付与したシランカップリング剤組成物の塗膜を、室温で5秒以上乾燥させた後、50℃以上で5秒~30分焼付けして行うことができる。
【0092】
さらに、シランカップリング剤組成物24に含まれるビニル系シランカップリング剤の加水分解性基の少なくとも一部は、加水分解されて、導電線12上の官能基と結合しうる(後述の
図5A参照)。
【0093】
本実施の形態では、絶縁層22上に第1接着層13Aを形成しておくことで、(第1接着層13Aを形成しない場合よりも)ハジキなどをさらに生じにくくし、第2接着層13Bとなるシランカップリング剤組成物24を均一に付与しやすく、また、得られる層間で高い密着性が得られやすい。特に、第1接着層13Aと第2接着層13Bが、いずれもシランカップリング剤組成物24から得られるものであると、シラノール基同士の縮合反応により、シリカ結合が形成されるため、高い密着性が得られやすい。
【0094】
さらに、第1接着層13Aを形成しておくことで、(第1接着層13Aを形成しない場合よりも)第2接着層13Bとなるシランカップリング剤組成物24に含まれる溶剤などが下の絶縁層11に浸透しにくいため、それによる絶縁層22の膨潤も抑制しやすく、絶縁層22の変形をさらに抑制しやすい。
【0095】
iv)の工程
次いで、シランカップリング剤組成物24を付与した複数の導電線を埋めこむように、シリコーンゴム組成物を充填する(
図3H参照)。
【0096】
用いられるシリコーンゴム組成物は、上記i)の工程で用いられるシリコーンゴム組成物と同様のものを用いることができ、同じ組成のものであってもよいし、異なる組成のものであってもよい。ユニット間を一体化させやすくする観点から、用いられるシリコーンゴム組成物は、上記i)の工程で用いられるシリコーンゴム組成物と同じ組成のものであることが好ましい。
【0097】
次いで、充填したシリコーンゴム組成物を加熱して、付加架橋させる。それにより、シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含む絶縁層22が形成される。それにより、複数の導電線21’が絶縁層22中に埋め込まれたユニット25を得る(
図3H参照)。
【0098】
また、この加熱により、シランカップリング剤組成物24中のビニル系シランカップリング剤のビニル基の少なくとも一部は、(絶縁層22を構成する)シリコーンゴム組成物中の未反応のSiH基と付加反応して結合する(
図5AおよびB参照)。それにより、シランカップリング剤組成物24および/またはその重縮合物を含む接着層13が形成されるとともに、当該接着層13を介して、導電線12と絶縁層22とを良好に接合することができる。
【0099】
シリコーンゴム組成物の加熱は、シリコーンゴム組成物中の付加架橋反応とともに、シランカップリング剤組成物中のビニル系シランカップリング剤のビニル基と、シリコーンゴム組成物中のSiH基との付加反応(ヒドロシリル化反応)が進む条件下で行うことが好ましい。そのような観点では、加熱温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは120℃以上でありうる。加熱時間は、加熱温度にもよるが、例えば1~150分間でありうる。
【0100】
v)の工程
次いで、得られた複数のユニット25を積層し、一体化させて、積層体26を得る(
図4AおよびB参照)。本実施の形態では、複数のユニット25がそれぞれ同じ向きとなるように積層している(
図4A参照)。
【0101】
積層されるユニット25の表面は、ユニット25間の接着性を高める観点から、あらかじめコロナ処理、プラズマ処理、UV処理、イトロ処理などの表面処理を施してもよい。
【0102】
複数のユニット25の一体化は、任意の方法で行うことができ、例えば熱圧着などで行うことができる。例えば、積層と一体化を順次繰り返して、ブロック状の積層体26を得る(
図4B参照)。
【0103】
vi)の工程
得られた積層体26を、導電線21’の軸方向に対して交差し(好ましくは直交し)、かつ積層方向に沿って、所定の間隔(T)に切断する(
図4Bの点線)。それにより、所定の厚み(T)を有する異方導電性シート10を得ることができる(
図4C参照)。
【0104】
得られる異方導電性シート10の絶縁層11は絶縁層22に由来し、複数の導電路12は、複数の導電線21’に由来する。
【0105】
得られた異方導電性シート10は、好ましくは電気検査に用いることができる。
【0106】
3.電気検査装置および電気検査方法
(電気検査装置)
図6は、本実施の形態に係る電気検査装置100の一例を示す断面図である。
【0107】
電気検査装置100は、
図1の異方導電性シート10を用いたものであり、例えば検査対象物130の端子131間(測定点間)の電気的特性(導通など)を検査する装置である。なお、同図では、電気検査方法を説明する観点から、検査対象物130も併せて図示している。
【0108】
図6に示されるように、電気検査装置100は、保持容器(ソケット)110と、検査用基板120と、異方導電性シート10とを有する。
【0109】
保持容器(ソケット)110は、検査用基板120や異方導電性シート10などを保持する容器である。
【0110】
検査用基板120は、保持容器110内に配置されており、検査対象物130に対向する面に、検査対象物130の各測定点に対向する複数の電極121を有する。
【0111】
異方導電性シート10は、検査用基板120の電極121が配置された面上に、当該電極121と、異方導電性シート10における第2面11b側の導電層13とが接するように配置されている。
【0112】
検査対象物130は、特に制限されないが、例えばHBMやPoPなどの各種半導体装置(半導体パッケージ)または電子部品、プリント基板などが挙げられる。検査対象物130が半導体パッケージである場合、測定点は、バンプ(端子)でありうる。また、検査対象物130がプリント基板である場合、測定点は、導電パターンに設けられる測定用ランドや部品実装用のランドでありうる。
【0113】
(電気検査方法)
図6の電気検査装置100を用いた電気検査方法について説明する。
【0114】
図6に示されるように、本実施の形態に係る電気検査方法は、電極121を有する検査用基板120と、検査対象物130とを、異方導電性シート10を介して積層して、検査用基板120の電極121と、検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して電気的に接続させる工程を有する。
【0115】
上記工程を行う際、検査用基板120の電極121と検査対象物130の端子131とを、異方導電性シート10を介して十分に導通させやすくする観点から、必要に応じて、検査対象物130を押圧して加圧したり、加熱雰囲気下で接触させたりしてもよい。
【0116】
(作用)
本実施の形態に係る異方導電性シート10では、複数の導電路12と絶縁層11との間に配置された接着層13(第1接着層13Aおよび第2接着層13B)を有する。それにより、複数の導電路12と絶縁層11との間の接着性が高められているため、電気検査時に加圧と除圧を繰り返しても、異方導電性シート10の導電路12が絶縁層11から剥がれるのを抑制することができる。
【0117】
特に、導電路12を銅などの柔軟な金属材料で構成することで、押し込み荷重を低減することができるものの、加圧と除圧の繰り返しによる導電路12の剥がれは生じやすくなる。本発明の異方導電性シート10では、そのような場合でも、導電路12を絶縁層11から剥がれにくくしうる。それにより、正確な電気検査を行うことができる。
【0118】
(変形例)
なお、上記実施の形態では、異方導電性シート10において、接着層13が、導電路12の側面12cの全部を覆うように配置される例を示したが、これに限定されず、側面12cの一部のみを覆うように配置されてもよい。例えば、上記実施の形態では、接着層13が、第1接着層13Aと第2接着層13Bとを含む例を示したが、これに限定されず、第1接着層13Aと第2接着層13Bのいずれか一方のみ(例えば第2接着層13Bのみ)で構成されてもよい。
【0119】
図7A~Gは、他の実施の形態に係る異方導電性シート10の製造方法の一部の工程を示す断面図である。
図7A~Gに示されるように、上記異方導電性シート10は、例えばi)の工程において、金属箔21上に、シランカップリング剤組成物24を形成する工程(
図3B参照)を行わない以外は上記実施の形態の異方導電性シート10の製造方法と同様にして製造することができる(
図7A~G参照)。
【0120】
また、上記実施の形態では、異方導電性シート10の製造方法のiv)の工程において、(接着層13を構成する)シランカップリング剤組成物のビニル系シランカップリング剤の付加反応と、(絶縁層22を構成する)シリコーンゴム組成物の付加架橋反応とを同時に行う例を示したが、これに限定されず、逐次的に行ってもよい。例えば、iv)の工程において、シリコーンゴム組成物の付加架橋反応を行った後、シランカップリング剤の付加反応を行ってもよい。
【0121】
また、上記実施の形態では、複数のユニット25の積層は、隣接する2つのユニット25が同じ方向を向くように(隣接する一方のユニット25の表面と他方のユニット25の裏面とを貼り合わせるように)積層する例を示したが、これに限定されず、隣接する2つのユニット25が向かい合うように(隣接する一方のユニット25の表面と他方のユニット25の表面とを貼り合わせるように)積層してもよい。この場合、導電線21’の延在方向の向きは、適宜調整すればよい。例えば、一方のユニット25と他方のユニット25が向かい合うように積層したときに、一方のユニット25の導電線21’の延在方向と他方のユニット25の導電線21’の延在方向とが一致するような、2種類のユニット25を用いてもよい。
【0122】
また、上記実施の形態では、異方導電性シート10において、導電路12の端部12a(または12b)が、第1面11a側(または第2面11b側)に突出していない例を示したが、これに限定されず、第1面11a側(または第2面11b側)に突出していてもよい。第1面11a側における導電路12の突出高さ(または第2面11b側における導電路12の突出高さ)は、特に制限されないが、例えば、絶縁層11の厚み(T)に対して5~20%程度としうる。
【0123】
また、上記実施の形態では、異方導電性シート10の製造方法において、複数の導電線21’を、絶縁層-金属箔積層体20の金属箔21をエッチングして形成する例を示したが、これに限定されず、絶縁シート上に、既存の導電線(金属線)を配置して形成してもよい。
【0124】
また、上記実施の形態では、異方導電性シート10において、導電路12が、絶縁層11の厚み方向に対して傾斜している例を示したが、これに限定されず、絶縁層11の厚み方向と略平行であってもよい。
【0125】
また、上記実施の形態では、絶縁層11を構成するシリコーンゴム組成物が、上記a)の付加架橋タイプのものである例を示したが、これに限定されず、上記b)の有機過酸化物架橋(ラジカル付加)タイプのものであってもよい。そして、接着層13のビニル基の少なくとも一部は、絶縁層11のSiCH3基(のメチル基)とラジカル付加反応により結合していてもよい。
【0126】
すなわち、絶縁層11は、SiCH3基を有するオルガノポリシロキサンと、有機過酸化物硬化剤とを含むシリコーンゴム組成物の架橋物を含んでもよい。
【0127】
SiCH3基を有するオルガノポリシロキサンの例には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどが含まれる。これらの化合物において、メチル基の少なくとも一部を他のアルキル基などに置換したものなども含まれる。
【0128】
有機過酸化物硬化剤の例には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-t-ブチルパーオキシカーボネートなどが挙げられる。
【0129】
そのようなシリコーンゴム組成物は、ミラブルタイプのものでありうる。ミラブルタイプのシリコーンゴム組成物は、室温において自己流動性がない非液状(固体状または高粘ちょうなペースト状)である。そのようなシリコーンゴム組成物の例には、粘土状シリコーンゴム(例えばKE-174-U、信越化学工業社製)などが含まれる。
【0130】
そのような異方導電性シートは、上記i)の工程において、シリコーンゴム組成物をラジカル付加反応(熱硬化)させて絶縁層22を得ること、および、上記iv)の工程において、(絶縁層22となる)シリコーンゴム組成物のラジカル付加反応を行うとともに、(接着層13となる)シランカップリング剤組成物24中のビニル系シランカップリング剤のビニル基と、(絶縁層22となる)シリコーンゴム組成物中のSiCH3基とのラジカル付加反応が進む条件で行うこと以外は上記実施の形態と同様の方法で得ることができる。
【0131】
また、上記実施の形態では、絶縁層11が、SiH基を有するシリコーン系エラストマーを含み、接着層13が、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物を含む異方導電性シート(第1の異方導電性シート)の例を示したが、これに限定されない。例えば、絶縁層11が、ビニル基を有するシリコーン系エラストマーを含み、接着層13が、SiH基を有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物を含む異方導電性シート(第2の異方導電性シート)であってもよい。
【0132】
この場合、絶縁層11を構成するシリコーンゴム組成物は、得られる付加架橋物が一定量以上のビニル基を有するように調整された以外は上記実施の形態のシリコーンゴム組成物と同様としうる。
【0133】
接着層13を構成するシランカップリング剤組成物は、ビニル基を有するシランカップリング剤に代えて、SiH基を有するシランカップリング剤を含む以外は上記実施の形態と同様のシランカップリング剤組成物と同様としうる。SiH基を有するシランカップリング剤は、SiH基と、加水分解性基とを有する化合物であることが好ましく、下記のような構造を有する化合物が含まれる。
【化1】
【0134】
上記式において、Rw、Rxは、それぞれ置換または非置換の炭化水素基である。炭化水素基は、炭素原子数1~12、好ましくは1~8の炭化水素基であることが好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などが含まれる。置換基の例には、アルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、アルキルアミノ基などが含まれる。qは、1~50、好ましくは1~20の整数である。hは、0~50、好ましくは1~10の整数である。そのような化合物の例には、特開2010-248434号や特開平10-121023号に記載のものが含まれる。
【0135】
そのような異方導電性シートは、絶縁層11を、ビニル基を有するシリコーンゴム組成物の付加架橋物で構成し、かつ接着層13を、SiH基を有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物で構成する以外は上記実施の形態と同様にして製造することができる。
【0136】
また、上記実施の形態では、異方導電性シート10を電気検査に用いる例を示したが、これに限定されず、2つの電子部材間の電気的接続、例えばガラス基板とフレキシブルプリント基板との間の電気的接続や、基板とそれに実装される電子部品との間の電気的接続などに用いることもできる。
【実施例】
【0137】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0138】
1.サンプルの材料
(1)絶縁層の材料
(シリコーンゴム組成物の調製)
KE-2061-40(信越シリコーン社製、液状シリコーンゴム)(SiH基を有するジメチルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンジメチルポリシロキサンと、付加反応触媒とを含むシリコーンゴム組成物)のA液とB液を重量比1:1で混合し、トルエンにて濃度80%となるように希釈して、付加架橋型のシリコーンゴム組成物を得た。
【0139】
(2)導電路の材料
・F1-WS(古河電工社製、電解銅箔、厚み12μmの銅箔、粗面の表面積率1.36、光沢面の表面積率1.03)
・NC-WS(古河電工社製、電解銅箔、厚み18μmの銅箔、粗面の表面積率1.02、光沢面の表面積率1.01)
・GHY5-HA-V2(JX金属社製、圧延銅箔、厚み9μm、粗面の表面積率1.08、光沢面の表面積率0.50)
【0140】
(表面積率)
準備した金属箔の各面について、測定領域:縦250μm×横250μmの条件にて、レーザー顕微鏡(オリンパス社製OLS5000)により観察して、測定領域における表面積を測定した。また、測定領域の面積は、レーザー顕微鏡による測定値を用いた。そして、得られた値を、下記式(1)に当てはめて、表面積率を算出した。
式(1):表面積率=表面積/面積
なお、表面積および面積の測定は3回(n=3)ずつ行い、各測定ごとに表面積率を算出し、それらの平均値を「表面積率」とした。
【0141】
(3)接着層の材料
下記表1に示されるシランカップリング剤組成物1~12を準備した。
【表1】
【0142】
2.サンプルの作製および評価
<サンプル1~9の調製>
表2に示される銅箔上に、表2のシランカップリング剤組成物をベーカーアプリケータにて塗布した後、イナートオーブンで加熱して、表2に示される条件で乾燥させて、表2記載の厚みの接着層を形成した。得られた接着層上に、上記調製したシリコーンゴム組成物をベーカーアプリケータにて塗布した後、イナートオーブンで、100℃で10分間加熱した後、150℃で120分間さらに加熱して、乾燥および硬化させた。それにより、シリコーンゴム組成物の付加架橋物(SiH基を有するシリコーン系エラストマー)を含む、厚み20μmの絶縁層を形成した。それにより、銅箔/接着層/絶縁層の積層構造を有するサンプルを得た。
【0143】
<評価>
得られたサンプルの絶縁層と導電層との間の密着性を、以下の方法で評価した。
【0144】
(密着性)
マス数を100マスとし、評価基準を後述のようにした以外は、クロスカットテープ剥離試験(JIS K 5600-5-6:1999(ISO 2409:1992))に準じて密着性の評価を行った。
まず、サンプルの銅箔表面にカッターナイフにて2mm間隔で100マス(10×10)の碁盤目状の切れ込みを、銅箔表層から絶縁層(シリコーンゴム組成物の付加架橋物を含む層)に達するまで入れた。次いで、碁盤目状の部分に、粘着テープ(ニチバン株式会社製、「セロテープ(登録商標)」)を押圧荷重0.1MPaで貼着した。その後、粘着テープを急速に剥がし、(銅箔側の)最表層の剥離状態を観察し、以下の評価基準にて密着性を評価した。
○:100マスのうち、10マス未満で剥がれが発生した
△:100マスのうち、10マス以上50マス未満で剥がれが発生した
×:100マスのうち、50マス以上で剥がれが発生した
△以上であれば良好と判断した。
【0145】
サンプル1~9の評価結果を、表2に示す。
【表2】
【0146】
表2に示されるように、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物を用いて得られるサンプル1~5は、テープ剥離試験およびアルカリ浸漬超音波試験のいずれにおいても良好な密着性を示すことがわかる。
【0147】
これに対して、接着層を形成しなかったサンプル6は、テープ剥離試験およびアルカリ浸漬超音波試験でも、密着性が得られないことがわかる。また、ビニル基を有しないシランカップリング剤(MerTMOS、MTMOS、GPTMOS)を含むシランカップリング剤組成物を用いて得られるサンプル7~9も十分な密着性が得られないことがわかる。
【0148】
<サンプル10~17の調製>
シランカップリング剤組成物の種類および成膜条件を、表3に示されるように変更した以外はサンプル1と同様にして、銅箔/接着層/絶縁層の積層構造を有するサンプルを得た。
【0149】
<評価>
得られたサンプルの絶縁層と導電層との間の密着性を、上記と同様の方法で評価した。その結果を、表3に示す。
【表3】
【0150】
表3に示されるように、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むシランカップリング剤組成物を用いて得られるサンプル10~17は、いずれもテープ剥離試験およびアルカリ浸漬超音波試験のいずれにおいても良好な密着性を示すことがわかる。
【0151】
本出願は、2020年7月10日出願の特願2020-119278に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明によれば、弾性変形を繰り返しても導電路の剥がれが少なく、良好な密着性を維持できる異方導電性シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0153】
10 異方導電性シート
11 絶縁層
11a 第1面
11b 第2面
12 導電路
12a、12b 端部
12c 側面
13 接着層
13A 第1接着層
13B 第2接着層
20 絶縁層-金属箔積層体
21 金属箔
21’ 導電線
22 絶縁層
23 マスク
24 シランカップリング剤組成物
25 ユニット
26 積層体
100 電気検査装置
110 保持容器
120 検査用基板
121 電極
130 検査対象物
131 (検査対象物の)端子