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特許7342277香味成分の抽出方法及び加工済たばこ葉の構成要素の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】香味成分の抽出方法及び加工済たばこ葉の構成要素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24B 15/24 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
A24B15/24
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022539907
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029275
(87)【国際公開番号】W WO2022024307
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七崎 裕介
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129679(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129680(WO,A1)
【文献】特表2014-501104(JP,A)
【文献】特開2006-180715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 3/12- 3/14
A24B 15/00-15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法であって、
アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する工程Aと、
前記工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させる工程Bと、を備え、
前記工程Aにおいて、
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、
加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、
一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下であることを特徴とする、
香味成分の抽出方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%超である、請求項1に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項3】
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉のpHが9.5以上である、請求項1又は2に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項4】
前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が初めて100℃以上、150℃以下の温度範囲に達した際に、前記加水処理が施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項5】
前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、初めて20重量%以下となった際に、前記加水処理が施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項6】
前記アルカリが、炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項7】
前記工程Bにおいて、前記捕集溶媒の温度が、5℃以上、35℃以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の香味成分の抽出方法。
【請求項8】
加工済たばこ葉の構成要素の製造方法であって、
アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する工程Aと、
前記工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させて、捕集溶液を得る工程Bと、
前記捕集溶液を前記構成要素に添加する工程Cと、を備え、
前記工程Aにおいて、
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、
加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、
一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下であることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味成分の抽出方法、及び加工済たばこ葉の構成要素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、たばこ原料から香味成分(例えば、ニコチン成分を含むアルカロイド)を抽出し、抽出された香味成分を加工済たばこ葉の構成要素に担持させる技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び特許文献2には、アルカリ処理が施されたたばこ原料を加熱する工程Aと、特定のタイミングまで前記工程Aで気相中に放出される放出成分を常温の捕集溶媒に接触させて捕集溶液を得る工程Bとを備える、たばこ原料から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法に関する技術が開示されている。また、特許文献1及び特許文献2には、前記工程A及びBに加え、前記捕集溶液を前記構成要素に添加する工程Cを備える嗜好品(加工済たばこ葉)の構成要素の製造方法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/129679号明細書
【文献】国際公開第2015/129680号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示された技術において、たばこ原料から香味成分を抽出する工程A及び工程Bは、たばこ原料から一定量の香味成分を回収するために、一定以上の抽出処理時間を必要とする。例えば、たばこ原料中のニコチン濃度が0.4重量%に達するまでに要する抽出処理時間は180分である。したがって、加工済たばこ葉の構成要素を製造する効率の観点から、前記抽出処理時間を短縮するという点で改善の余地がある。
【0006】
また、特許文献1及び特許文献2には、前記工程A及び前記工程Bにおける前記抽出処理時間が一定以上になると、香味等へ不所望な影響を及ぼす成分であるたばこ特異的ニトロソアミン(以下、単に「TSNA」とも称する。)のたばこ原料からの放出量が増加する傾向にあることが開示されている。したがって、前記抽出処理時間を短縮することで、捕集溶液中のTSNA濃度をより低いレベルに保つことができると期待される。
【0007】
そこで本発明では、たばこ原料又は加工済たばこ葉から一定量の香味成分を抽出するまでに要する時間を従来の方法よりも短縮できるとともに、香味成分を捕集した捕集溶液中のTSNA濃度をより低いレベルに保つことができる香味成分の抽出方法、及び前記抽出方法を含む加工済たばこ葉の構成要素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、香味成分を抽出するためにアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉が加熱される工程において、該アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量を特定量以上とし、加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が特定量以下にすることにより、上記課題を解決できることを見出し本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1] たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法であって、
アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する工程Aと、
前記工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させる工程Bと、を備え、
前記工程Aにおいて、
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、
加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、
一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下であることを特徴とする、
香味成分の抽出方法。
[2] 前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%超である、[1]に記載の香味成分の抽出方法。
[3] 前記アルカリ処理されたたばこ原料のpHが9.5以上である、[1]又は[2]に記載の香味成分の抽出方法。
[4] 前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が100℃以上、150℃以下の温度範囲に達した際に、前記加水処理が施される、[1]~[3]に記載の香味成分の抽出方法。
[5] 前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、初めて20重量%以下となった際に、前記加水処理が施される、[1]~[4]に記載の香味成分の抽出方法。
[6] 前記アルカリが、炭酸カリウム又は炭酸ナトリウムである、[1]~[5]に記載の香味成分の抽出方法。
[7] 前記工程Bにおいて、前記捕集溶媒の温度が、5℃以上、35℃以下である、[1]~[6]に記載の香味成分の抽出方法。
[8] 加工済たばこ葉の構成要素の製造方法であって、
アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する工程Aと、
前記工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させて、捕集溶液を得る工程Bと、
前記捕集溶液を前記構成要素に添加する工程Cと、を備え、
前記工程Aにおいて、
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、
加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、
一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下であることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、たばこ原料又は加工済たばこ葉から一定量の香味成分を抽出するまでに要する時間を従来の方法よりも短縮できるとともに、香味成分を捕集した捕集溶液中のTSNA濃度をより低いレベルに保つことができる香味成分の抽出方法、及び加工済たばこ葉の構成要素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施形態に係る抽出装置の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る抽出装置の一例を示す図である。
図3図3は、香味成分の適用例を説明するための図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る抽出方法を示すフロー図である。
図5図5は、たばこ原料の加熱処理時間に対する香味成分(ここでは、ニコチン)の回収率の推移を示すグラフである。
図6図6は、たばこ原料の加熱処理時間に対するTSNAの回収量の推移を示すグラフである。
図7図7は、たばこ原料の加熱処理時間に対するたばこ原料の品温の推移を示すグラフである。
図8図8は、たばこ原料の加熱処理時間に対するたばこ原料の水分量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0013】
本明細書において、「たばこ原料」とは、収穫され熟成処理を受ける前のたばこ葉や熟成処理を受けた後のたばこ葉であって、たばこ製品で利用される種々の形態に加工される前のものの総称であり、熟成処理を受ける前の生葉や乾葉これらの粉砕物、熟成処理されたラミナやその粉砕物、熟成処理された中骨やその粉砕物などを例示することができる。
また、本明細書において、「加工済たばこ葉」とは、前記たばこ原料をたばこ製品で利用される種々の形態に加工したものの総称であり、たばこ刻やたばこシート、たばこ顆粒などを例示することができる。このような加工済たばこ葉は、前記たばこ原料のみから構成されることもあり、また、前記たばこ原料及びその他の材料から構成されることもある。そのため、加工済たばこ葉の「構成要素」とは、前記たばこ原料及び前記その他の材料を含む概念である。
【0014】
本発明の実施形態に係る香味成分の抽出方法は、たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法である。前記抽出方法は、アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する工程Aと、前記工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させる工程Bと、を備える。
【0015】
前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下である。
なお、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の「当初水分量」とは、アルカリ処理された後、加熱処理される前の、アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量であり、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対する重量%により表すことができる。ここで、水分量の算出基準となるたばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量とは、それぞれの乾燥重量のことを意味する。以下でも同様である。
【0016】
上述した特許文献1及び特許文献2に開示される従来の香味成分の抽出方法では、アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対し、39%±2%である。従来の香味成分の抽出方法において、当初水分量がこのように設定された理由の一つは、抽出装置にたばこ原料又は加工済たばこ葉を仕込みアルカリ処理を行った後の、加熱操作を始めてから終えるまでの間に、追加の操作を行うことなく、所望の回収率で香味成分を得ることができたからである。
しかしながら、このような従来の香味成分の抽出方法では、前記加熱操作を始めてから終わるまでの時間、すなわち、所望の回収率の香味成分を得るまでに要する時間が180分程度であり、加工済たばこ葉の構成要素を製造する工程の中でも比較的長い時間を占めていた。
また、一般的に、高温で加熱される時間が長くなる程、たばこ原料又は加工済たばこ葉からのTSNAの放出量が増加することが知られていたが、上述したような従来の香味成分の抽出方法においても、所望の回収率の香味成分を得るために加熱処理の時間を長くする程、TSNAの回収量が上昇することが報告されていた。
【0017】
本発明者は、香味成分の抽出方法において、所望の回収率の香味成分を得るまでに要する時間を短縮するとともにTSNAの回収量を抑制することを検討した結果、上記の条件、すなわち、前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下とすること、を見出した。
前記工程Aを上記のような条件とすることで、従来の方法に比べて、所望の回収率の香味成分を得るまでに要する時間を短縮できるとともに、TSNAの回収量を抑制できる。
【0018】
所望の回収率の香味成分を得るまでに要する時間を短縮できる理由は、次のように考えられている。本発明の実施形態に係る前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉は、その当初水分量が従来よりも少なく設定されており、また、加熱処理中に加水処理を施したとしても、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量は、従来の方法における当初水分量よりも低い35重量%以下に制御されている。そのため、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が上昇する速度が速く、香味成分が従来の方法よりも早いタイミングで該たばこ原料又は加工済たばこ葉から放出されるためである。
また、TSNAの回収量を抑制できる理由は、次のように考えられている。本発明の実施形態に係る前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉は、加熱処理中に加水処理を受けることからその品温が一時的に下がる。その結果、前記たばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が高温状態となる時間を短縮できるためである。
【0019】
前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%超であることが好ましい。
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、25重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。また、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、35重量%以下であることが好ましい。前記当初水分量がこのような数値範囲内にあることで、加熱処理される前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が上昇する速度が速くなり、香味成分が従来の方法よりも早いタイミングで該たばこ原料又は加工済たばこ葉から放出される
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量が、たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%以下である場合、たばこ原料又は加工済たばこ葉に付与されたアルカリが溶解しきらず析出してしまうことがある。
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、後述するアルカリ処理においてたばこ原料又は加工済たばこ葉に添加する、アルカリ水溶液の濃度によって調整することができる。
【0020】
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉のpHは、9.5以上であることが好ましい。前記pHが9.5以上であることで、たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を効率的に放出させることができ、香味成分の回収率が上昇する。一方で、前記pHが9.5未満であると、たばこ原料又は加工済たばこ葉からの香味成分の回収率が低下することがある。
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉のpHの上限は特に制限されないが、pHを上昇させるために要する処理時間の観点から、通常12以下であり、11以下であることが好ましい。
前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉のpHは、後述するアルカリ処理においてたばこ原料又は加工済たばこ葉に添加する、アルカリの種類やアルカリ水溶液の濃度によって調整することができる。
【0021】
前記アルカリ処理に使用するアルカリは、たばこ原料又は加工済たばこ葉のpHを上記の数値範囲内にすることができれば特に制限されないが、食品添加物として使用できる物質であることが好ましく、例えば、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。炭酸カリウムや炭酸ナトリウムは、水への溶解性が良好であることから、たばこ原料又は加工済たばこ葉に噴霧するためのアルカリ水溶液を容易に調整できる点からも好ましい。
【0022】
前記工程Aにおいて、前記加水処理は、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が100℃以上、150℃以下の温度範囲に達した際に施されることが好ましい。前記温度範囲は、100℃以上、130℃以下であることがより好ましく、100℃以上、110℃以下であることがさらに好ましい。前記加水処理がこのような温度範囲内で施されることにより、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉からの香味成分の効率的な放出を維持しつつ、TSNAの放出量を抑制することができる。
【0023】
また、前記工程Aにおいて、前記加水処理は、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、初めて20重量%以下となった際に施されることが好ましい。前記加水処理がこのようなタイミングで施されることにより、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉からの香味成分の効率的な放出を維持しつつ、TSNAの放出量を抑制することができる。
【0024】
前記工程Bにおいて、前記捕集溶媒の温度は、5℃以上、35℃以下であることが好ましく、10℃以上、20℃以下であることがより好ましい。前記捕集溶媒の温度がこのような温度範囲内にあることで、捕集溶媒の凝固を防ぐとともに、捕集溶液から香味成分が揮散することを抑制することができ、香味成分を効率的に回収することができる。
【0025】
本発明の実施形態に係る加工済たばこ葉の構成要素の製造方法は、前記たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法を適用する、加工済たばこ葉の構成要素の製造方法である。すなわち、本発明の実施形態に係る加工済たばこ葉の構成要素の製造方法は、アルカリを用いてアルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉を加熱する前記工程Aと、該工程Aで気相中に放出される放出成分を捕集溶媒に接触させて捕集溶液を得る前記工程Bと、前記捕集溶液を前記加工済たばこ葉の構成要素に添加する工程Cとを備える。前記工程Aにおいて、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量は、前記アルカリを全て溶解し得る最小の水分量以上であり、加熱中の前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉に加水処理が施され、一貫して前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は該加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下である。
前記加工済たばこ葉の構成要素の製造方法に、前記たばこ原料又は加工済たばこ葉から香味成分を抽出する香味成分の抽出方法を適用することにより、加工済たばこ葉の構成要素の製造時間を短縮できるとともに、前記構成要素に含まれ得るTSNA量を抑制できる。
【0026】
(抽出装置)
以下において、本発明の実施形態に係る抽出装置について説明する。図1及び図2は、本発明の実施形態に係る抽出装置の一例を示す図である。
【0027】
第1に、アルカリ処理装置10の一例について、図1を参照しながら説明する。アルカリ処理装置10は、容器11と、噴霧器12とを有する。
【0028】
容器11は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を収容する。容器11は、例えば、耐熱性・耐圧性を有する部材(例えば、SUS;Steel Used Stainless)によって構成される。容器11は、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。これによって、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に含まれる香味成分の容器11の外側への揮散が抑制される。
【0029】
噴霧器12は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に前記アルカリの水溶液を付与することでアルカリ処理する。
【0030】
たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に含まれる香味成分(ここでは、ニコチン成分)の初期含有量は、乾燥状態において、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の総重量が100重量%である場合に、2.0重量%以上であることが好ましく、4.0重量%以上であることがより好ましい。
【0031】
たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50としては、例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana.tabacum)やニコチアナ・ルスチカ(Nicotiana.rustica)等のタバコ属の熟成前のたばこ葉やこれを熟成したもの、又は熟成したたばこ葉をたばこ製品で利用される種々の形態に加工したものを用いることができる。ニコチアナ・タバカムとしては、例えば、バーレー種又は黄色種等の品種を用いることができる。なお、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50としては、バーレー種及び黄色種以外の種類の熟成前のたばこ葉やこれを熟成したもの、又は熟成したたばこ葉をたばこ製品で利用される種々の形態に加工したものを用いてもよい。
【0032】
たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50は、たばこ原料又は加工済たばこ葉の刻み又は粉粒体によって構成されることが好ましく、粉粒体によって構成されることがより好ましい。このような場合において、刻み又は粉粒体の粒度は、通常0.5mm以上、10mm以下であり、0.5mm以上、5mm以下であることが好ましい。該粒度が0.5mmよりも小さい場合、容器11の壁面へのこびり付きが多く発生するため抽出効率の観点から好ましくない。また、該粒度が10mm以下である場合、刻み又は粉粒体の表面積が大きくなるため抽出効率が良好となり、該粒度が5mm以下である場合、刻み又は粉粒体の表面積がより大きくなるため抽出効率がさらに良好となる。なお、本明細書において、「刻み」は、たばこ原料や加工済たばこ葉を細かく刻むことにより得られるものである。また、「粉粒体」は、たばこ原料や加工済たばこ葉を粗砕することにより得られるものである。
【0033】
第2に、捕集装置20の一例について、図2を参照しながら説明する。捕集装置20は、容器21と、導入パイプ22と放出部分23と、導出パイプ24とを有する。
【0034】
容器21は、捕集溶媒70を収容する。容器21は、例えば、ガラスによって構成される。容器21は、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。
【0035】
捕集溶媒70としては、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。これらの捕集溶媒70の中で、取り扱いの容易さやコスト抑制の観点から、水を用いることが好ましい。捕集溶媒70によって捕捉された香喫味成分の再揮散を防ぐために、捕集溶媒70に対して、リンゴ酸やクエン酸等の任意の酸が添加されてもよい。香喫味成分の捕捉効率を上昇するために、捕集溶媒70に対して、クエン酸水溶液等の成分又は物質が添加されてもよい。すなわち、捕集溶媒70は、複数種類の成分又は物質によって構成されていてもよい。香喫味成分の捕捉効率を上昇するために、捕集溶媒70の初期pHは、アルカリ処理後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50のpHよりも低いことが好ましい。
【0036】
導入パイプ22は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の加熱によってたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から気相中に放出される放出成分61を捕集溶媒70に導く。放出成分61は、少なくとも、香味成分の指標であるニコチン成分を含む。
【0037】
放出部分23は、導入パイプ22の先端に設けられており、捕集溶媒70に浸漬される。放出部分23は、複数の開口23Aを有している。導入パイプ22によって導かれた放出成分61は、複数の開口23Aから泡状の放出成分62として捕集溶媒70中に放出される。
【0038】
導出パイプ24は、捕集溶媒70によって捕捉されなかった残存成分63を容器21の外側に導く。
【0039】
ここで、放出成分62は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の加熱によって気相中に放出される成分であるため、放出成分62によって捕集溶媒70の温度が上昇する可能性がある。従って、捕集装置20は、捕集溶媒70の温度を常温に維持するために、捕集溶媒70を冷却する機能を有していてもよい。
【0040】
捕集装置20は、捕集溶媒70に対する放出成分62の接触面積を増大するために、ラシヒリングを有していてもよい。
【0041】
(適用例)
以下において、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から抽出された香味成分の適用例について説明する。図3は、香味成分の適用例を説明するための図である。例えば、香味成分は、加工済たばこ葉等に付与される。
【0042】
図3に示すように、香味吸引具100は、ホルダ110と、炭素熱源120と、加工済たばこ葉130と、フィルタ140とを有する。
【0043】
ホルダ110は、例えば、筒状形状を有する紙管である。炭素熱源120は、加工済たばこ葉130を加熱するための熱を発生する。加工済たばこ葉130は、香味を発生する物質であり、ニコチン成分を含むアルカロイドが付与される香味源基材の一例である。フィルタ140は、夾雑物質が吸口側に導かれることを抑制する。
【0044】
ここでは、香味成分の適用例として、香味吸引具100について説明したが、実施形態は、これに限定されるものではない。
香味成分は、その他の香味吸引具に適用されてもよい。例えば、加工済たばこ葉が内側となるように巻紙で巻装されることで充填されるたばこロッドや、加工済たばこ葉が空気の流入口と流出口とを備える収容体の流路に充填されるたばこカートリッジを、電気ヒーター等の燃焼を用いない熱源を利用することで直接的に又は間接的に加熱することで香味を発生させる、いわゆる非燃焼加熱式たばこ製品のたばこ充填物に適用されてもよい。ここで、前記たばこ充填物の一例としては、前記たばこロッドに充填されているたばこシートを挙げることができ、他の例としては、前記たばこカートリッジに充填されているたばこ顆粒を挙げることができる。
その他にも、香味成分は、例えば、電子シガレットのエアロゾル源(いわゆるE-liguid)に適用されてもよい。また、香味成分は、ガム、タブレット、フィルム、飴等の香味源基材に付与されてもよい。
【0045】
(抽出方法)
以下において、本発明の実施形態に係る香味成分の抽出方法について説明する。図4は、前記香味成分の抽出方法を示すフロー図である。
【0046】
図4に示すように、ステップS10において、上述したアルカリ処理装置10を用いて、アルカリをたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に付与する。アルカリとしては、上述したように、炭酸カリウムや炭酸ナトリウム、又はこれらの混合物等を例示できる。
【0047】
たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50は、前記アルカリの水溶液が添加されることでアルカリ処理される。
たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に含まれる香味成分(ここでは、ニコチン成分)の初期含有量は、乾燥状態において、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の総重量が100重量%である場合に、2.0重量%以上であることが好ましく、4.0重量%以上であることがより好ましい。
【0048】
アルカリ処理後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50のpHは、上述したように、9.5以上であることが好ましい。前記pHが9.5以上であることで、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から香味成分を効率的に放出させることができ、香味成分の回収率が上昇する。一方で、前記pHが9.5未満であると、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50からの香味成分の回収率が低下する。また、前記アルカリ処理されたたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50のpHの上限は特に制限されないが、上述したように、pHを上昇させるために要する処理時間の観点から、通常12以下であり、11以下であることが好ましい。
【0049】
アルカリ処理後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の水分量は、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%超であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。前記当初水分量がこのような数値範囲内にあることで、加熱処理される前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の品温が上昇する速度が速くなり、香味成分が従来の方法よりも早いタイミングで該たばこ原料又は加工済たばこ葉から放出される。前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の当初水分量が、たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、20重量%以下である場合、たばこ原料に付与されたアルカリが溶解しきらず析出してしまうことがある。
なお、前記アルカリ処理後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の水分量は、ステップ20Sの加熱処理におけるアルカリ処理されたたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の当初水分量である。
【0050】
ステップS20において、アルカリ処理が施されたたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を加熱する。例えば、加熱処理においては、アルカリ処理装置10の容器11にたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50が収容された状態で、容器11とともにたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を加熱することができる。このようなケースにおいて、捕集装置20の導入パイプ22が容器11に取り付けられることは勿論である。
【0051】
ここで、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の加熱温度は、80℃以上、150℃以下の範囲である。たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の加熱温度が80℃以上であることによって、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から十分な香味成分が放出されるタイミングを早めることができる。一方で、たばこ原料50の加熱温度が150℃以下であることによって、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50からTSNAが放出されるタイミングを遅らせることができる。
【0052】
ステップS20において、加熱処理中のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対して加水処理が施される。加熱処理中のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50が加水処理を受けることで、その品温が一時的に下がり、TSNAの回収量を抑制できる。
加熱処理後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の水分量は、該たばこ原料の全重量に対して、35重量%以下である。そのため、加水量は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の水分量が、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、35重量%以下となるように調整される。
【0053】
加熱処理中のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対する加水処理の回数は、上記の水分量の上限を超えない限り特に制限されず、1回でもよく、2回以上でもよい。また、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対して連続的に加水処理を施してもよい。
前記加水処理の回数は、1回であることが好ましい。その理由としては、加水処理の回数が極力少ないほど、作業の手間が少なく済むからである。また、加水処理を行う度に加熱処理中のたばこ原料又は加工済たばこ葉の温度が下がることから、香味成分の抽出効率の観点からも加水処理の回数が少ないことが好ましいためである。
【0054】
加熱処理中のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対し、加水処理を施すタイミングは、該たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の品温が100℃以上、150℃以下の温度範囲に達した時であることが好ましい。前記温度範囲は、100℃以上、130℃以下であることがより好ましく、100℃以上、110℃以下であることがさらに好ましい。前記加水処理がこのような温度範囲内で施されることにより、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉からの香味成分の効率的な放出を維持しつつ、TSNAの放出量を抑制することができる。
また、加熱処理中のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対し、加水処理を施すタイミングは、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉の水分量が、該たばこ原料又は加工済たばこ葉の全重量に対して、初めて20重量%以下となった際に施されることが好ましい。前記加水処理がこのようなタイミングで施されることにより、前記アルカリ処理されたたばこ原料又は加工済たばこ葉からの香味成分の効率的な放出を維持しつつ、TSNAの放出量を抑制することができる。
【0055】
また、ステップS20において、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に対して通気処理を施すことが好ましい。これによって、アルカリ処理されたたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から気相に放出される放出成分61に含まれる香味成分量を増大させることができる。通気処理では、例えば、80℃における飽和水蒸気をたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に接触させる。通気処理における通気時間は、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を処理する装置及びたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50が500gである場合には、通気時間は、90分以内である。通気処理における総通気量についても、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を処理する装置及びたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50が500gである場合には、総通気量は、3L/g程度である。また、通気流量についても、たばこ原料(又は加工済たばこ葉)50を処理する装置及びたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、通気流量は、15L/min程度である。
【0056】
前記通気処理で用いる空気は、飽和水蒸気でなくてもよい。通気処理で用いる空気の水分量は、特にたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の加湿を必要とせずに、例えば、加熱処理及び通気処理が適用されているたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50に含まれる水分量が35重量%以下の範囲に収まるように調整されてもよい。通気処理で用いる気体は、空気に限定されるものではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【0057】
ステップS30において、上述した捕集装置20を用いて、ステップS20で気相中に放出される放出成分を捕集溶媒70に接触させる。なお、説明の便宜上、図4においてステップS20及びステップS30を別々な処理として記載しているが、ステップS20及びステップS30は、並列的に行われる処理であることに留意すべきである。並列的とは、ステップS30を行う期間がステップS20を行う期間と重複することを意味しており、ステップS20及びステップS30が同時に開始・終了する必要はないことに留意すべきである。
【0058】
ここで、ステップS20及びステップS30において、アルカリ処理装置10の容器11内の圧力は常圧以下である。詳細には、アルカリ処理装置10の容器11内の圧力の上限は、ゲージ圧で+0.1MPa以下である。また、アルカリ処理装置10の容器11の内部は、減圧雰囲気であってもよい。
【0059】
ここで、捕集溶媒70としては、上述したように、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。捕集溶媒70の温度は、上述したように、5℃以上、35℃以下であることが好ましく、10℃以上、20℃以下であることがより好ましい。前記捕集溶媒の温度がこのような温度範囲内にあることで、捕集溶媒の凝固を防ぐとともに、捕集溶液から香味成分が揮散することを抑制することができ、香味成分を効率的に回収することができる。
【0060】
ステップS40において、捕集溶液に含まれる香味成分の濃度を上昇させるために、香味成分を捕捉した捕集溶媒70(すなわち、捕集溶液)に対して、減圧濃縮処理、加熱濃縮処理又は塩析処理が施される。
【0061】
ここで、減圧濃縮処理は、密閉空間で行われるため、空気接触が少なく、捕集溶媒70を高温にする必要がないため、成分変化の懸念が少ない。従って、減圧濃縮を用いれば、利用可能な捕集溶媒の種類が増大する。
【0062】
加熱濃縮処理では、香味成分の酸化などのような液の変性の懸念があるが、香味を増強する効果が得られる可能性がある。但し、減圧濃縮と比べると、利用可能な捕集溶媒の種類が減少する。例えば、MCT(Medium Chain Triglyceride)のようなエステル構造を有する捕集溶媒を用いることができない可能性がある。
【0063】
塩析処理では、減圧濃縮処理と比べて、香味成分の濃度を高めることが可能であるが、液溶媒相と水相とのそれぞれに香味成分が分離されるため、香味成分の歩留まりが悪い。また、疎水性物質(MCT等)の共存が必須であると想定されるため、捕集溶媒、水及び香味成分の比率によっては、塩析が生じない可能性がある。
【0064】
ステップS50において、香味成分を含む捕集溶液を加工済たばこ葉の構成要素に添加する。すなわち、ステップS50において、捕集溶媒70に捕捉された香味成分を香味源基材(加工済たばこ葉の構成要素)に担持させる。
【0065】
[その他の実施形態]
本発明を上述した実施形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0066】
例えば、ステップS20で香味成分を放出した後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50(抽出残渣)に対して、ステップS30でたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50から放出された香味成分と接触することによってたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50の香味成分を含むことになった捕集溶媒(すなわち、捕集溶液)を添加してもよい(掛け戻し処理)。このような掛け戻し処理を行うことによって、香味等へ不所望な影響を及ぼす成分(アンモニウムイオンやTSNA等)をさらに除去することができ、香味成分の損失を抑制したたばこ原料又は加工済たばこ葉を製造することができる。掛け戻し処理において、抽出残渣に添加される捕集溶液は中和されてもよい。掛け戻し処理において、抽出残渣に捕集溶液を添加した後に、香味成分を含む抽出残渣を中和してもよい。なお、掛け戻し処理において、抽出残渣に捕集溶液を掛け戻した後のたばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれる香味成分量(ここでは、ニコチン成分)は、香味成分を放出する前のたばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれる香味成分量(ここでは、ニコチン成分)以下となることに留意すべきである。
【0067】
さらには、上述した掛け戻し処理を行う前において、ステップS20で香味成分を放出した後のたばこ原料(又は加工済たばこ葉)50(抽出残渣)を洗浄溶媒によって洗浄してもよい。洗浄溶媒として、水性溶媒を挙げることができ、その具体例としては、純水や超純水でもよく、市水を挙げることができる。これによって、抽出残渣に残存する香味等へ不所望な影響を及ぼす物質が除去される。従って、上述した掛け戻し処理を行う場合において、香味等へ不所望な影響を及ぼす成分(アンモニウムイオンやTSNA等)をさらに除去することができ、香昧成分の損失を抑制したたばこ原料又は加工済たばこ葉を製造することができる。
【0068】
[測定方法]
(たばこ原料又は加工済たばこ葉のpHの測定方法)
アルカリ処理後のたばこ原料又は加工済たばこ葉のpHは、pHメーター(例えば、IQ Scientific InstrumentsInc.製のIQ240)で測定することができ、例えば、アルカリ処理後のたばこ原料又は加工済たばこ葉2~10gに重量比で10倍の蒸留水を加え、室温(例えば22℃)で水とたばこ原料又は加工済たばこ葉との混合物を200rpmで10分間振盪し5分間静置した後、得られた抽出液のpHをpHメーターで測定する。
【0069】
(捕集溶液のpHの測定方法)
捕集溶液を22℃の室温でコントロールされた実験室内で、室温になるまで密閉容器内で放置して温度調和する。調和後、ふたを開けて、pHメーター(例えば、METTLER TOLEDO社製:セブンイージーS20)のガラス電極を捕集溶液に浸して測定を開始する。pHメーターは、あらかじめpH4.01、6.87、9.21のpHメーター校正液にて校正する。センサーからの出力変動が5秒間で0.1mV以内に安定した点を、その捕集溶液のpHとする。
【0070】
(たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン量の測定方法)
たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン量は、ドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行う。すなわち、たばこ原料又は加工済たばこ葉を250mg採取し、11%水酸化ナトリウム水溶液7.5mLとヘキサン10mLを加え、60分間振とう抽出する。抽出後、上澄みであるヘキサン相をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)に供し、たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン重量を定量する。
【0071】
(たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれる水分量の測定方法)
たばこ原料又は加工済たばこ葉を250mg採取し、エタノール10mLを加え、60分間振とう抽出を行う。抽出後、抽出液を0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(GC/TCD)に供し、たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれる水分量を定量する。
【0072】
なお、乾燥状態におけるたばこ原料又は加工済たばこ葉の重量は、上述した水分量をたばこ原料又は加工済たばこ葉の総重量から差し引くことによって算出される。
【0073】
(捕集溶液に含まれるニコチン量の測定方法)
捕集溶液に含まれるニコチン量は、上述したたばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン量の測定と同様にドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行う。すなわち、捕集溶液を250mg採取し、11%水酸化ナトリウム水溶液7.5mLとヘキサン10mLを加え、60分間振とう抽出する。抽出後、上澄みであるヘキサン相をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)に供し、捕集溶液に含まれるニコチン重量を定量する。
【0074】
ニコチンの回収率は、アルカリ処理及び加熱処理前のたばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン含有量に対する、捕集溶液に含まれるニコチンの量の百分率で表すことができる。
【0075】
(捕集溶液に含まれるTSNA量の測定方法)
捕集溶液を0.5mL採取し、0.1Mの酢酸アンモニウム水溶液9.5mLを添加することで希釈し、高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)にて分析し、捕集溶液に含まれるTSNA重量を定量する。
【0076】
(GC分析条件)
たばこ原料又は加工済たばこ葉に含まれるニコチン成分及び水分量の測定で用いるGC分析の条件は、以下の表に示す通りである。
【0077】
【表1】
【実施例
【0078】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0079】
[実験例]
(たばこ原料の準備)
熟成させたバーレー種のたばこラミナを、粒度が0.5mm以上、10mm以下となるように粗砕することで、たばこ原料を準備した。
得られたたばこ原料に含まれる香味成分(ここでは、ニコチン成分)の測定を、上述したドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行ったところ、たばこ原料に含まれるニコチン重量は、たばこ原料の総重量に対して、2.0重量%であった。
【0080】
(アルカリ処理)
得られたたばこ原料500gを、噴霧器を備える容器(容器回転揺動型粉体真空乾燥機ロッキングドライヤ、愛知電気株式会社製、容量10L)に投入した後、炭酸カリウム90gを水180gに溶解させて得た炭酸カリウム水溶液270gを、噴霧器を介して噴霧速度55g/minでたばこ原料に噴霧した。炭酸カリウム水溶液を噴霧する際に、容器を回転・揺動させることで炭酸カリウム水溶液をたばこ原料になじませた。アルカリ処理後のたばこ原料のpHの測定を上述した方法で行ったところ、該pHは、9.6であった。また、アルカリ処理後のたばこ原料の水分量の測定を上述した方法で行ったところ、該水分量は、該たばこ原料の総重量に対して、30重量%であった。
【0081】
(加熱処理及び捕集処理の準備)
アルカリ処理されたたばこ原料が入った前記ロッキングドライヤの容器内を減圧することで真空状態とした後、前記ロッキングドライヤの容器内に圧縮空気(約20℃、約60%-RH)を導入した。さらに、前記ロッキングドライヤの容器と、捕集溶媒が入った容器とを導入パイプで連結し、前記圧縮空気を流速15L/minで流入させることで、前記ロッキングドライヤの容器から捕集溶媒が入った容器への空気流れを発現させた。前記捕集溶媒には水を用いた。
【0082】
(加熱処理及び捕集処理)
前記ロッキングドライヤの容器外周にジャケット蒸気を導入することで、アルカリ処理されたたばこ原料の加熱処理を開始した。加熱によりたばこ原料から放出された成分を、導入パイプを介して捕集溶媒に捕集した。
たばこ原料から放出された成分を捕集した捕集溶媒(すなわち、捕集溶液)に含まれるニコチン量とTSNA量を、一定時間毎に、それぞれ上述した方法で行った。その結果から算出したニコチン回収量及びTSNA回収量の経時変化を図5及び図6に示す。
【0083】
上記加熱処理において、アルカリ処理されたたばこ原料の品温が120℃を超えないように、ジャケット蒸気の温度や流入量を調整することで、温度調整を適宜行った。
また、前記ロッキングドライヤの容器内部に設置した熱電対により、アルカリ処理されたたばこ原料の品温を一定時間毎に測定した。この測定結果を図7に示す。
さらに、アルカリ処理されたたばこ原料の水分量を、上述した方法により、一定時間毎に測定した。この測定結果を図8に示す。
なお、上記加熱処理の間、前記ロッキングドライヤの容器を回転・揺動させることで、容器内のアルカリ処理されたたばこ原料が均一に加熱されるようにした
【0084】
また、上記捕集処理において、捕集溶媒、すなわち水の温度が、15℃±5℃の温度を維持するためにチラーを用いて適宜冷却操作を行った。
【0085】
(加水処理)
上記加熱処理中のアルカリ処理されたたばこ原料の品温が、初めて105℃となったときに、該たばこ原料に対する加水処理を行った。この加水処理は、前記ロッキングドライヤが備える噴霧器を介して、水220gを噴霧速度55g/minで噴霧することで行われた。
加水処理直前のアルカリ処理されたたばこ原料の水分量は、該たばこ原料の総重量に対して、20重量%であった。
また、加水処理直後の、アルカリ処理されたたばこ原料の水分量は、該たばこ原料の総重量に対して、35重量%であった。
なお、加水処理の間、前記ロッキングドライヤの容器を回転・揺動させることで、容器内のアルカリ処理されたたばこ原料が均一に加水されるようにした。
【0086】
上述した準備及び処理を全て含む実験例を実施例とする。
一方で、上述した準備及び処理の内、(アルカリ処理)において、「炭酸カリウム90gを水180gに溶解させて得た炭酸カリウム水溶液270gを、噴霧器を介して噴霧速度55g/minでたばこ原料に噴霧」する工程を、「炭酸カリウム90gを水400gに溶解させて得た炭酸カリウム水溶液490gを、噴霧器を介して噴霧速度55g/minでたばこ原料に噴霧」する工程に変更し、(加水処理)を行わなかった実験例を比較例とする。
【0087】
図5に示すとおり、実施例においては、処理時間が90分を経過した時点で、ニコチンの回収率が60%を超えている。一方で、比較例においては、処理時間が160分を経過した時点でようやくニコチンの回収率が60%を超える。したがって、本発明は、香味成分が従来の方法よりも早いタイミングで該たばこ原料から放出される。
【0088】
また、図6に示すとおり、実施例においては、処理時間90分までのTSNA回収量の積算値が8735.09ngであるのに対し、比較例においては、処理時間160分までのTSNA回収量の積算値が36608.27ngであることから、同程度のニコチンを回収するための処理時間において、実施例の方が、TSNAの回収量をより抑制できる。
また、比較例においては、処理時間が160分を過ぎると、TSNAの回収量がより増大する傾向にある。したがって、処理時間を短縮することでTSNAの回収量を抑制できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8