(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-01
(45)【発行日】2023-09-11
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20230904BHJP
【FI】
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2023524070
(86)(22)【出願日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2023005646
【審査請求日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022023343
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 伸行
(72)【発明者】
【氏名】荻野 晋一
【審査官】齊藤 光子
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基含有樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、並びに(D)リン酸基含有化合物を含有する塗料組成物
であって、
前記亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)が金属錯体であり、
前記亜鉛化合物が、カルボン酸亜鉛化合物又はアセチルアセトン亜鉛錯体であり、
前記アミジン化合物が、下記式(1)で表される構造を有する化合物である、塗料組成物
R
1
-C(=NR
2
)-NR
3
R
4
・・・(1)
[式(1)中、R
1
は水素原子、置換されていてもよい有機基、又はアミン基である。
R
2
とR
3
は互いに独立して、水素原子、有機基、又は互いに結合した構造を有する複素環である。
R
4
は水素原子、置換されていてもよい有機基、又はエーテル化されていてもよいヒドロキシル基である。]。
【請求項2】
前記水酸基含有樹脂(A)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)を含む、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)が、1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)を含む、請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記リン酸基含有化合物(D)が、アルキルリン酸エステル(D1)及び/又はリン酸基含有樹脂(D2)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
被塗物上に、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して、塗膜を形成することと、次いで、前記塗膜を加熱して硬化させることとを含む、塗膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗料組成物及び塗膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車車体等の塗装において、近年、省エネルギー及び環境負荷の軽減の観点から、焼付硬化工程の短縮に向けての開発が活発になされている。
【0003】
焼付硬化工程の短縮においては、硬化工程の低温化及び短時間化の要求が高まっている。このような低温短時間硬化の要求を満足させるための塗料組成物として、水酸基含有樹脂を、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として硬化させる、水酸基/イソシアネート基架橋系塗料組成物の検討が行われている。
【0004】
上記水酸基/イソシアネート基架橋系塗料組成物の硬化反応を促進させる触媒としては、有機錫化合物が一般的に用いられてきた(特許文献1)。
【0005】
しかし、有機錫化合物は、その触媒性能は非常に高いものの、近年その毒性が問題となっているため、有機錫化合物に代わる触媒が求められている。
【0006】
また、水酸基/イソシアネート基架橋系塗料組成物は通常、水酸基含有樹脂を含有する主剤と、ポリイソシアネート化合物を含有する硬化剤を混合し使用するが、混合後の作業時間を確保するために、優れたポットライフが求められている。
【0007】
特許文献2には、(A)(a)2級水酸基含有重合性不飽和モノマー20~50質量%及び(b)その他の重合性不飽和モノマー50~80質量%からなるモノマー成分の共重合体である2級水酸基含有アクリル樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、ならびに、(C)(C1)金属が、亜鉛、錫、ジルコニウム、ビスマス、鉛、コバルト、マンガン、チタン、アルミニウム及びモリブデンからなる群から選ばれる1種である金属化合物及び(C2)アミジン化合物からなる有機金属触媒を含有するものであり、ポリイソシアネート化合物(B)中のイソシアネート基と、2級水酸基含有アクリル樹脂(A)中の水酸基との当量比(NCO/OH)が0.8~1.8の範囲内であることを特徴とする塗料組成物によれば、低温かつ短時間での硬化性に優れ、ポットライフ(可使時間)も両立することができ、さらに、仕上り外観にも優れる硬化塗膜を得ることができることが記載されている。しかし、近年では、さらに優れたポットライフを有する塗料組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2002-338885号公報
【文献】国際公開WO2013/04720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、有機錫化合物を使用することなく、低温かつ短時間での硬化性に優れ、さらに、優れたポットライフを有する塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)水酸基含有樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、並びに(D)リン酸基含有化合物を含有する塗料組成物によれば、上記目的を達成できることを見出した。
【0011】
本発明によれば、以下の態様を含む塗料組成物及び塗膜形成方法が提供される。
【0012】
項1.(A)水酸基含有樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、並びに(D)リン酸基含有化合物を含有する塗料組成物。
【0013】
項2.前記水酸基含有樹脂(A)が、水酸基含有アクリル樹脂(A1)を含む、項1に記載の塗料組成物。
【0014】
項3.前記水酸基含有アクリル樹脂(A1)が、1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)を含む、項2に記載の塗料組成物。
【0015】
項4.前記リン酸基含有化合物(D)が、アルキルリン酸エステル(D1)及び/又はリン酸基含有樹脂(D2)を含む、項1~3のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【0016】
項5.被塗物上に、項1~4のいずれか1項に記載の塗料組成物を塗装して、塗膜を形成することと、次いで、前記塗膜を加熱して硬化させることとを含む、塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗料組成物は、有機錫化合物を使用することなく、低温かつ短時間での硬化性に優れ、さらに、優れたポットライフを有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、単数形(a, an, the等)は、本明細書で別途明示がある場合又は文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。 以下、本発明の塗料組成物(以下、「本塗料」と略称する場合がある。)について、さらに詳細に説明する。
【0019】
本発明の塗料組成物は、(A)水酸基含有樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、並びに(D)リン酸基含有化合物を含有する塗料組成物である。
【0020】
水酸基含有樹脂(A)
水酸基含有樹脂(A)は、1分子中に少なくとも1個の水酸基を有する樹脂である。水酸基含有樹脂(A)としては、公知の樹脂を広く使用でき、例えば、水酸基を有するアクリル樹脂、水酸基を有するポリエステル樹脂、水酸基を有するアクリル変性ポリエステル樹脂、水酸基を有するポリエーテル樹脂、水酸基を有するポリカーボネート樹脂、水酸基を有するポリウレタン樹脂、水酸基を有するエポキシ樹脂、水酸基を有するアルキド樹脂等の樹脂が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、水酸基含有樹脂(A)は、形成される塗膜の耐水性等の観点から、水酸基含有アクリル樹脂(A1)を含むことが好ましい。
【0021】
水酸基含有アクリル樹脂(A1)
水酸基含有アクリル樹脂(A1)は、例えば、水酸基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマー(水酸基含有重合性不飽和モノマー以外の重合性不飽和モノマー)を共重合することにより得ることができる。
【0022】
上記水酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物である。該水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物;該(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体;(メタ)アクリル酸とエポキシ基含有化合物(例えば、「カージュラE10P」(商品名)、Hexion, Inc.製、ネオデカン酸グリシジルエステル)との付加物;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール、さらに、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0023】
上記水酸基含有重合性不飽和モノマーと共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとしては、例えば、下記(1)~(6)に示すモノマー等を使用することができる。これらの重合性不飽和モノマーは単独でもしくは2種以上で組み合わせて使用することができる。
【0024】
(1)酸基含有重合性不飽和モノマー
酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に酸基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個以上有する化合物である。該モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及び無水マレイン酸などのカルボキシル基含有モノマー;ビニルスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有モノマーなどを挙げることができる。これらは1種で又は2種以上を使用することができる。酸基含有重合性不飽和モノマーを使用する場合、水酸基含有アクリル樹脂(A1)の酸価が、好ましくは0.5~15mgKOH/g、より好ましくは1~12mgKOH/gとなる量とする。
【0025】
(2)アクリル酸又はメタクリル酸と炭素数1~20の1価アルコールとのエステル化物
具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート,tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製、商品名)、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0026】
(3)芳香族系ビニルモノマー
具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0027】
芳香族系ビニルモノマーを構成成分とすることにより、得られる樹脂のガラス転移温度が上昇し、また、高屈折率で疎水性の塗膜を得ることができることから、塗膜の光沢向上による仕上り外観の向上効果を得ることができる。
【0028】
芳香族系ビニルモノマーを構成成分とする場合、その配合割合は、モノマー成分の総量に対して好ましくは3~50質量%、より好ましくは5~40質量%の範囲内である。
【0029】
(4)グリシジル基含有重合性不飽和モノマー
グリシジル基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中にグリシジル基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個以上有する化合物であり、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等を挙げることができる。
【0030】
(5)重合性不飽和結合含有窒素原子含有化合物
例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。
【0031】
(6)その他のビニル化合物
例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、バーサティック酸ビニルエステル等を挙げることができる。バーサティック酸ビニルエステルとしては、市販品である「ベオバ9」、「ベオバ10」(以上、商品名、Hexion, Inc.製)等を挙げることができる。
【0032】
本明細書において、重合性不飽和モノマーとは、1個以上(例えば、1~4個)の重合性不飽和基を有するモノマーを示す。重合性不飽和基とは、ラジカル重合しうる不飽和基を意味する。かかる重合性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニルエーテル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、マレイミド基等が挙げられる。
【0033】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。また、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0034】
上記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の水酸基価は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、好ましくは20~200mgKOH/g、より好ましくは25~180mgKOH/g、特に好ましくは30~160mgKOH/gの範囲内である。
【0035】
また、上記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の重量平均分子量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、好ましくは2000~50000であり、より好ましくは3000~40000、特に好ましくは4000~30000の範囲内である。
【0036】
なお、本明細書において、平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフで測定したクロマトグラムから標準ポリスチレンの分子量を基準にして算出した値である。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8120GPC」(東ソー株式会社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」、「TSKgel G-2000HXL」(いずれも東ソー株式会社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1cc/分、検出器;RIの条件で行った。
【0037】
また、水酸基含有アクリル樹脂(A1)のガラス転移温度は、形成される塗膜の硬度及び仕上り外観等の観点から、好ましくは-30~85℃、より好ましくは-10~80℃、特に好ましくは10~75℃の範囲内である。
【0038】
本明細書において、アクリル樹脂のガラス転移温度(℃)は、下記式によって算出した。
【0039】
1/Tg(K)=(W1/T1)+(W2/T2)+・・・・・ (1)
Tg(℃)=Tg(K)-273 (2)
各式中、W1、W2、・・は共重合に使用されたモノマーのそれぞれの質量分率、T1、T2、・・はそれぞれの単量体のホモポリマ-のTg(K)を表わす。
なお、T1、T2、・・は、Polymer Hand Book(Second Edition,J.Brandup・E.H.Immergut編)III-139~179頁による値である。また、モノマーのホモポリマーのTgが明確でない場合のガラス転移温度(℃)は、静的ガラス転移温度とし、例えば示差走査熱量計「DSC-220U」(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて、試料を測定カップにとり、真空吸引して完全に溶剤を除去した後、3℃/分の昇温速度で-20℃~+200℃の範囲で熱量変化を測定し、低温側の最初のベースラインの変化点を静的ガラス転移温度とした。
【0040】
上記モノマー混合物を共重合して水酸基含有アクリル樹脂(A1)を得るための共重合方法は、特に限定されるものではなく、それ自体既知の共重合方法を用いることができるが、なかでも有機溶剤中にて、重合開始剤の存在下で重合を行なう溶液重合法を好適に使用することができる。
【0041】
上記溶液重合法に際して使用される有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、スワゾール1000(丸善石油化学株式会社製、商品名、高沸点石油系溶剤)等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。
【0042】
これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができるが、アクリル樹脂の溶解性の点からエステル系溶剤、ケトン系溶剤を使用することが好ましい。また、さらに芳香族系溶剤を好適に組合せて使用することもできる。
【0043】
水酸基含有アクリル樹脂(A1)の共重合に際して使用できる重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-t-アミルパーオキサイド、t-ブチルパーオクトエート、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等の公知のラジカル重合開始剤を挙げることができる。
【0044】
水酸基含有アクリル樹脂(A1)は単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0045】
上記水酸基含有アクリル樹脂(A1)としては、低温かつ短時間での硬化性等の観点から、1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)を含むことが好ましい。
【0046】
上記1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)は、例えば、上記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の製造方法において、前記水酸基含有重合性不飽和モノマーの1種として、1級水酸基含有重合性不飽和モノマーを使用することによって製造することができる。
【0047】
上記1級水酸基含有重合性不飽和モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエステル部のアルキル基の炭素数が2~8、好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4の1級水酸基を有する重合性不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸とエポキシ基含有化合物(例えば、「カージュラE10P」(商品名)、Hexion, Inc.製、ネオデカン酸グリシジルエステル)との付加物等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、形成される塗膜の硬度等の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを好適に使用することができる。
【0048】
上記1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)の製造における、上記1級水酸基含有重合性不飽和モノマーの使用量は、形成される低温かつ短時間での硬化性等の観点から、共重合モノマー成分の総量に対して、10~60質量%の範囲内であることが好ましく、5~50質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0049】
また、上記1級水酸基含有アクリル樹脂(A11)において、前記水酸基含有重合性不飽和モノマー全量中の上記1級水酸基含有重合性不飽和モノマーの含有割合は低温かつ短時間での硬化性等の観点から、50~100質量%の範囲内であることが好ましく、55~100質量%の範囲内であることがより好ましく、60~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明の塗料組成物における、上記水酸基含有アクリル樹脂(A1)の含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、塗料組成物の樹脂固形分量を基準として、40~85質量%が好ましく、45~75質量%がより好ましく、50~70質量%がさらに好ましい。
【0051】
ポリイソシアネート化合物(B)
ポリイソシアネート化合物(B)は、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であって、例えば、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物、芳香族ポリイソシアネート化合物、該ポリイソシアネート化合物の誘導体等を挙げることができる。
【0052】
上記脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトヘキサン酸メチル(慣用名:リジンジイソシアネート)等の脂肪族ジイソシアネート化合物;2,6-ジイソシアナトヘキサン酸2-イソシアナトエチル、1,6-ジイソシアナト-3-イソシアナトメチルヘキサン、1,4,8-トリイソシアナトオクタン、1,6,11-トリイソシアナトウンデカン、1,8-ジイソシアナト-4-イソシアナトメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアナトヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアナト-5-イソシアナトメチルオクタン等の脂肪族トリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0053】
前記脂環族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(慣用名:イソホロンジイソシアネート)、4-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート(慣用名:水添TDI)、2-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-もしくは1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(慣用名:水添キシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物、メチレンビス(4,1-シクロヘキサンジイル)ジイソシアネート(慣用名:水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート化合物;1,3,5-トリイソシアナトシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアナトシクロヘキサン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアナトプロピル)-2,6-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアナトプロピル)-2,5-ジ(イソシアナトメチル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-3-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)-ヘプタン、6-(2-イソシアナトエチル)-2-イソシアナトメチル-2-(3-イソシアナトプロピル)-ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等の脂環族トリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0054】
前記芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、メチレンビス(4,1-フェニレン)ジイソシアネート(慣用名:MDI)、1,3-もしくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物、ω,ω'-ジイソシアナト-1,4-ジエチルベンゼン、1,3-又は1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(慣用名:テトラメチルキシリレンジイソシアネート)もしくはその混合物等の芳香脂肪族ジイソシアネート化合物;1,3,5-トリイソシアナトメチルベンゼン等の芳香脂肪族トリイソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0055】
前記芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(慣用名:2,4-TDI)もしくは2,6-トリレンジイソシアネート(慣用名:2,6-TDI)もしくはその混合物、4,4'-トルイジンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物;トリフェニルメタン-4,4',4''-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアナトベンゼン、2,4,6-トリイソシアナトトルエン等の芳香族トリイソシアネート化合物;4,4'-ジフェニルメタン-2,2',5,5'-テトライソシアネート等の芳香族テトライソシアネート化合物等を挙げることができる。
【0056】
また、前記ポリイソシアネート化合物の誘導体としては、例えば、上記したポリイソシアネート化合物のダイマー、トリマー、ビウレット、アロファネート、ウレトジオン、ウレトイミン、イソシアヌレート、オキサジアジントリオン、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)、クルードTDI等を挙げることができる。
【0057】
上記ポリイソシアネート化合物及びその誘導体は、それぞれ単独で用いてもよく又は2種以上併用してもよい。
【0058】
前記ポリイソシアネート化合物(B)としては、形成される塗膜の耐候性等の観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物及びこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましく、得られる塗料組成物の形成される塗膜の仕上り外観等の観点から、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はその誘導体を使用することがより好ましい。
【0059】
上記脂肪族ポリイソシアネート化合物及び/又はその誘導体としては形成される塗膜の仕上り外観、硬化性及び耐候性等の観点から、なかでも、脂肪族ジイソシアネート化合物及び/又はそのイソシアヌレート体を使用することが好ましく、ヘキサメチレンジイソシアネート及び/又はそのイソシアヌレート体を使用することがより好ましい。
【0060】
本発明の塗料組成物におけるポリイソシアネート化合物(B)の含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、塗料組成物の樹脂固形分量を基準として、5~60質量%が好ましく、10~55質量%がより好ましく、15~50質量%がさらに好ましい。
【0061】
亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)
亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)は、本塗料の加熱時の硬化反応を促進させる触媒としての機能、及び、常温時の触媒能のブロック剤としての機能を併せ持つ。
【0062】
これは、亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)が、錯体構造を形成し、アミジン化合物がブロック剤となっており、このブロック剤であるアミジン化合物が低温で解離し、アミジン化合物の解離後は亜鉛化合物本来の低温硬化性に優れる触媒能が活性となることにより、本塗料の低温短時間での硬化性とポットライフの両立を達成することが可能となることによるものであると考えている。
【0063】
上記亜鉛化合物としては、例えば、カルボン酸亜鉛化合物、アセチルアセトン亜鉛錯体等を挙げることができる。特に、カルボン酸亜鉛化合物を好適に使用することができる。
【0064】
上記カルボン酸亜鉛化合物としては、具体的には、例えば、2-エチルヘキサン酸亜鉛、酢酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛等を挙げることができ、なかでも、触媒活性に優れ工業的に入手が容易なことから、オクチル酸亜鉛を好適に使用することができる。
【0065】
前記アミジン化合物は、下記式(1)で表される構造を有する有機化合物である。
R1-C(=NR2)-NR3R4・・・(1)
式(1)中、炭素(C)原子に、二重結合で窒素原子が1つ、及び単結合で窒素原子が1つ付いている。
【0066】
R1は水素原子、置換されていてもよい有機基、又はアミン基であり、具体的には、置換されていてもよいヒドロカルビル基又はエーテル化されていてもよいヒドロキシル基を挙げることができる。
【0067】
R2とR3は互いに独立して、水素原子、有機基、又は互いに結合した構造を有する複素環(前記複素環は、1又は2以上のヘテロ原子を有する単環であるか、又は、1又は2以上のヘテロ原子を有する結合した2重環である)である。
【0068】
R4は水素原子、置換されていてもよい有機基、又はエーテル化されていてもよいヒドロキシル基であり、好ましくは、置換されていてもよい炭素原子数8以上のヒドロカルビル基を挙げることができる。
【0069】
R1又はR4が有機基の場合、それらは例えば1乃至40の炭素原子を有するもの、あるいは、例えば、500~50000の分子量を有するポリマー基であってよい。
【0070】
R1、R2、R3、R4で表される基は、各々互いに独立して、置換基として、アルコール性水酸基を含有することができる。
【0071】
式(1)で表され、R2とR3とが結合していないアミジン化合物としては、具体的には、N’-シクロヘキシル-N,N-ジメチルホルムアミジン、N’-メチル-N,N-ジ-n-ブチルアセトアミジン、N’-オクタデシル-N,N-ジメチルホルムアミジン、N’-シクロヘキシル-N,N-ジメチルバレロアミジン、1-メチル-2-シクロヘキシルイミノピロリジン、3-ブチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、N-(ヘキシルイミノメチル)モルホリン、N-(α-(デシルイミノエチル)エチル)ピロリジン、N’-デシル-N,N-ジメチルホルムアミジン、N’-ドデシル-N,N-ジメチルホルムアミジン、N’-シクロヘキシル-N,N-アセトアミジン等を挙げることができる。
【0072】
また、該アミジン化合物として、R2-R3が、アミジン構造中の2つの窒素原子を含む5乃至7員環を形成し、R1-R3又はR1-R4のうちの1つが、アミジン構造中の1つの窒素原子と複数の炭素原子により5乃至9員環を形成した構造を有するアミジン化合物もアミジン化合物に包含される。
【0073】
このような構造を有するアミジン化合物としては、具体的には、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)オン-5-エン、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセ-7-エン、1,4-ジアザビシクロ(3.3.0)オクテ-4-エン、2-メチル-1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)オン-5-エン、2,7,8-トリメチル-1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)オン-5-エン、2-ブチル-1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)オン-5-エン、1,9-ジアザビシクロ(6.5.0)トリデセ-8-エン等を挙げることができる。
【0074】
また、アミジン化合物として、式(1)中のR2とR3が結合した構造を有する複素環化合物、例えば、イミダゾール、イミダゾリン、テトラヒドロピリミジン、ジヒドロピリミジン、ピリミジン環含有化合物を挙げることができる。
【0075】
上記イミダゾール化合物としては、具体的には、N-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾール、N-(3-アミノプロピル)イミダゾール、4-(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1-(tert-ブトキシカルボニル)イミダゾール、イミダゾール-4-プロピオン酸、4-カルボキシイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチル-4-イミダゾールカルボン酸、4-ホルミルイミダゾール、1-(エトキシカルボニル)イミダゾール、プロピレンオキサイドとイミダゾール及び2-メチルイミダゾールとの反応物、1-トリメチルシリルイミダゾール、4-(ヒドロキシメチル)イミダゾール塩酸塩、1-クロロ-2,3-エポキシプロパンとイミダゾールの共重合物、1-(p-トルエンスルホニル)イミダゾール、1,1-カルボニルビスイミダゾール、1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-2-イミダゾリンピロメリテート、4-(ヒドロキシメチル)イミダゾールピクリン酸塩、2-プロペン酸と4,5-ジヒドロ-2-ノニル-1H-イミダゾール-1-エタノールと2-ヘプチル-4,5-ジヒドロ-1H-イミダゾール-1-エタノールのジナトリウム塩、1-(シアノエチル)-2-ウンデシルイミダゾールトリメリテート、1-(2-ヒドロキシプロピル)イミダゾールのギ酸エステル、ナトリウムイミダゾール塩、銀イミダゾール塩等を挙げることができる。
【0076】
前記アミジン化合物は、単独で、又は2種以上併用して使用することができる。
【0077】
具体的には、本塗料において、亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒とは金属錯体であり、該錯体は、例えば、1モルのカルボン酸亜鉛と2モルのアミジン化合物をメタノール等の溶媒中で加熱することにより製造することができる。
【0078】
上記製造において、透明な溶液状態となるまで約50℃で約2時間保持することによって金属錯体を作成することができる。該透明溶液をろ過し乾燥する。アミジン化合物と亜鉛化合物とのモル比(アミジン化合物のモル数/亜鉛化合物のモル数の比)は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、1.3~8.0の範囲とすることが好ましく、1.6~5.0の範囲とすることがより好ましく、1.8~4.0の範囲とすることがさらに好ましい。
【0079】
亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒は、溶媒に溶解して使用することもできる。溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール化合物、トルエン、キシレン、ミネラルターペン、ミネラルスピリット等の炭化水素化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルグリコールアセテート、酢酸セルソルブ等のエステル化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン化合物、3-エトキシプロピオン酸エチル、3-メトキシブチルアセテート等のグリコールエーテル化合物、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物の有機溶媒、アセチルアセトン及びそのフッ素化置換体等のβ-ジケトン化合物、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル等のケトエステル化合物等の溶媒を挙げることができる。
【0080】
前記亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)の含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、本発明の塗料組成物の樹脂固形分100質量部を基準として、0.01~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.03~4質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05~3質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0081】
リン酸基含有化合物(D)
リン酸基含有化合物(D)は、常温時における亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)の触媒能を抑制する働きを有する。
【0082】
リン酸基含有化合物(D)としては、例えば、リン酸;モノ-n-プロピルリン酸、モノイソプロピルリン酸、モノ-n-ブチルリン酸、モノイソブチルリン酸、モノ-tert-ブチルリン酸、モノオクチルリン酸、モノデシルリン酸等のモノアルキルリン酸;ジ-n-プロピルリン酸、ジイソプロピルリン酸、ジ-n-ブチルリン酸、ジイソブチルリン酸、ジ-tert-ブチルリン酸、ジオクチルリン酸、ジデシルリン酸等のジアルキルリン酸;モノ-n-プロピル亜リン酸、モノイソプロピル亜リン酸、モノ-n-ブチル亜リン酸、モノイソブチル亜リン酸、モノ-tert-ブチル亜リン酸、モノオクチル亜リン酸、モノデシル亜リン酸等のモノアルキル亜リン酸;ジ-n-プロピル亜リン酸、ジイソプロピル亜リン酸、ジ-n-ブチル亜リン酸、ジイソブチル亜リン酸、ジ-tert-ブチル亜リン酸、ジオクチル亜リン酸、ジデシル亜リン酸等のジアルキル亜リン酸;アルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、アルキルリン酸エステル(D1)及びリン酸基含有樹脂(D2)等を挙げることができ、なかでも、アルキルリン酸エステル(D1)及び/又はリン酸基含有樹脂(D2)を含むことが好ましく、アルキルリン酸エステル(D1)を含むことがさらに好ましい。これらは1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0083】
なお、本発明では、リン酸基及び水酸基を含有する樹脂は、水酸基含有樹脂(A)ではなく、リン酸基含有化合物(D)に含まれるものとする。
【0084】
前記アルキルリン酸エステル(D1)としては、例えば下記式(2)で表される化学構造を有するものを挙げることができる。
【0085】
O=P(OR)n(OH)3-n ・・・式(2)
上記式中、Rは炭素数が4以上、好ましくは6~20のアルキル基を表す。該アルキル基は直鎖状でも分岐状でもよいが、好ましくは分岐状である。また、nは1以上3以下の整数である。また、n個のRは、それぞれ同じでも異なっていても良い。
【0086】
上記アルキルリン酸エステル(D1)として使用できる市販品は例えば、NACURE4054J(商品名、KING INDUSTRIES, Inc.製)、Korantin SMK(商品名、BASF SE製)、NIKKOLホステンHLP(商品名、日光ケミカルズ株式会社製)、フォスファノールRS-410、同RS-610、同RS-710、同RD-510Y、同RD-720、同RB-410、同RL-210、同RL-310、同ML-200、同ML-220、同RE-410、同PE-510、同RE-610、同RE-960、同RM-410、同RM-510、同RM-710、同RE-210、同RP-710、同SM-172(以上、商品名、東邦化学工業株式会社製)、プライサーフA212C、同A215C,同A208B、同A219B、同A210G、同A208F、同A212E(以上、商品名、第一工業製薬株式会社製)等が挙げられる。これらはそのままでも、アルカリ金属又は有機塩基で中和した塩としても使用できる。また、2種以上を併用しても良い。
【0087】
本発明の塗料組成物が、リン酸基含有化合物(D)として、上記アルキルリン酸エステル(D1)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、本発明の塗料組成物の樹脂固形分100質量部を基準として、0.01~3質量部の範囲内であることが好ましく、0.05~2.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.1~2質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0088】
上記リン酸基含有樹脂(D2)としては、リン酸基含有アクリル樹脂(D21)、リン酸基含有ポリエステル樹脂、リン酸基含有ポリエーテル樹脂、リン酸基含有ポリカーボネート樹脂、リン酸基含有ポリウレタン樹脂、リン酸基含有エポキシ樹脂などを挙げることができ、なかでも、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、リン酸基含有アクリル樹脂(D21)であることが好ましい。
【0089】
リン酸基含有アクリル樹脂(D21)は、リン酸基を有する重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを、常法により共重合せしめることによって合成することができる。
【0090】
上記リン酸基を有する重合性不飽和モノマーとしては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリ(オキシエチレン)グリコール(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリ(オキシプロピレン)グリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0091】
その他の重合性不飽和モノマーとしては、水酸基含有アクリル樹脂(A1)の欄で例示した化合物を挙げることができる。
【0092】
リン酸基含有アクリル樹脂(D21)において、リン酸基を有する重合性不飽和モノマーは、リン酸基含有アクリル樹脂(D21)を構成する各モノマー成分の総量に基づき、1~50質量%であるのが好ましく、5~40質量%であるのが特に好ましい。
【0093】
リン酸基含有アクリル樹脂(D21)の重量平均分子量は、仕上り外観及び塗膜性能の観点から、3000~30000が好ましく、5000~25000がより好ましく、7000~20000の範囲内であることが特に好ましい。
【0094】
本発明の塗料組成物が、リン酸基含有化合物(D)として、上記リン酸基含有アクリル樹脂(D21)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、塗料組成物の樹脂固形分量を基準として、0.01~3質量%が好ましく、0.05~2.5質量%がより好ましく、0.1~2質量%がさらに好ましい。
【0095】
本発明の塗料組成物が、リン酸基含有化合物(D)として、上記アルキルリン酸エステル(D1)及び上記リン酸基含有アクリル樹脂(D21)以外のリン酸基含有化合物を含有する場合、その含有量は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、本発明の塗料組成物の樹脂固形分100質量部を基準として、0.01~3質量部の範囲内であることが好ましく、0.05~2.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.1~2質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0096】
本発明の塗料組成物における、前記亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)と、リン酸基含有化合物(D)との含有割合は、塗料組成物のポットライフ及び低温かつ短時間での硬化性等の観点から、前記亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)/リン酸基含有化合物(D)のモル比で、1/0.1~1/10の範囲内であることが好ましく、1/0.3~1/8の範囲内であることがより好ましく、1/0.5~1/5の範囲内であることがさらに好ましい。
【0097】
その他の成分
本発明の塗料組成物は、さらに任意選択で、水酸基含有樹脂(A)以外の樹脂、ポリイソシアネート化合物(B)以外の架橋剤、亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)以外の硬化触媒、顔料、つや消し剤、有機溶剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、耐擦り傷性向上剤等を含有することができる。
【0098】
上記水酸基含有樹脂(A)以外の樹脂としては、例えば、水酸基を含有しないアクリル樹脂、水酸基を含有しないポリエステル樹脂、水酸基を含有しないポリウレタン樹脂、水酸基を含有しないポリエーテル樹脂、水酸基を含有しないポリカーボネート樹脂、水酸基を含有しないエポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0099】
前記顔料としては、例えば、着色顔料、光輝性顔料、体質顔料等を挙げることができる。該顔料は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0100】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等を挙げることができる。
【0101】
光輝性顔料としては、アルミニウム粉末、雲母粉末、酸化チタンで被覆した雲母粉末等を挙げることができる。
【0102】
体質顔料としては、タルク、クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナホワイト等を挙げることができる。
【0103】
上記顔料の各々は単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0104】
本発明の塗料組成物がクリヤ塗料として使用される場合であって、顔料を含有する場合、顔料の配合量は、得られる塗膜の透明性を阻害しない程度の量であることが好ましく、例えば塗料組成物中の樹脂固形分総量に対して、0.1~20質量%の範囲内であることが好ましく、0.3~10質量%の範囲内であることがより好ましく、0.5~5質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0105】
また、本発明の塗料組成物が着色塗料として使用される場合であって、顔料を含有する場合、顔料の配合量は、塗料組成物中の樹脂固形分総量に対して、1~200質量%の範囲内であることが好ましく、2~100質量%の範囲内であることがより好ましく、5~50質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0106】
前記つや消し剤としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子、酸化スズ粒子、マグネシア粒子、PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂ビーズ、MMA-EGDM(エチレングリコールジメタクリレート)共重合樹脂ビーズ、ナイロン樹脂ビーズ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂ビーズ等が挙げられる。
【0107】
本発明の塗料組成物がつや消し塗料として使用される場合であって、つや消し剤を含有する場合、つや消し剤の配合量は、例えば塗料組成物中の樹脂固形分総量に対して、1~30質量%の範囲内であることが好ましく、2~25質量%の範囲内であることがより好ましく、3~20質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0108】
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、「スワゾール1000」(丸善石油化学株式会社製、商品名、芳香族系有機溶剤)等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、2-エトキシエチルプロピオネート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤等を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0109】
増粘剤としては、従来から公知のものを使用することができ、例えば、粘土鉱物(例えば、金属ケイ酸塩、モンモロリロナイト)、アクリル(例えば、分子中にアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのポリマー、オリゴマーからなる構造を含むもの、非水ディスパージョン樹脂等)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、アマイド(高級脂肪酸アマイド、ポリアマイド、オリゴマー等)、ポリカルボン酸(分子中に少なくとも2つ以上のカルボキシル基を有する誘導体を含む)、セルロース(ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースエーテル等種々の誘導体を含む)、及びウレタン(分子中にウレタン構造を含むポリマー、オリゴマー等)、ウレア(分子中にウレア構造を含むポリマー、オリゴマー等)、ウレタンウレア(分子中にウレタン構造とウレア構造を含むポリマー、オリゴマー等)などを挙げることができる。
【0110】
紫外線吸収剤としては、従来から公知のものを使用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系吸収剤、トリアジン系吸収剤、サリチル酸誘導体系吸収剤、ベンゾフェノン系吸収剤等の紫外線吸収剤を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組合せて使用することができる。
【0111】
本発明の塗料組成物が、紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の配合量は、塗料組成物中の固形分総量に対して、0.1~10質量%の範囲内であることが好ましく、0.2~8質量%の範囲内であることがより好ましく、0.3~6質量%の範囲内であることが特に好ましい。
【0112】
光安定剤としては、従来から公知のものを使用することができ、例えば、ヒンダードアミン系光安定剤等を挙げることができる。
【0113】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、ポットライフの観点から、塩基性の低いヒンダードアミン系光安定剤を好適に使用することができる。このようなヒンダードアミン系光安定剤としては、アシル化ヒンダードアミン、アミノエーテル系ヒンダードアミン等を挙げることができ、具体的には「HOSTAVIN 3058」(商品名、Clariant AG製)、「TINUVIN 123」(商品名、BASF社 SE製)、「HALS 292」(商品名、BASF SE製)等を挙げることができる。
【0114】
本発明の塗料組成物の塗装方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装等の塗装方法が挙げられ、これらの方法によりウエット塗膜を形成することができる。これらの塗装方法では、任意選択で、静電印加してもよい。これらのうち、エアスプレー塗装又は回転霧化塗装が特に好ましい。本塗料の塗布量は、硬化膜厚として、5~50μmとなる量とすることが好ましく、10~40μmとなる量とすることが特に好ましい。
【0115】
また、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装及び回転霧化塗装を行う場合には、本塗料の粘度を、該塗装に適した粘度範囲、通常、アネスト岩田 粘度カップ NK2において、20℃で5~20秒、特に8~15秒の粘度範囲となるように、有機溶剤等の溶媒及び増粘剤を用いて、適宜、調整しておくことが好ましい。
【0116】
塗膜形成方法
本発明の塗料組成物は、被塗物上に本発明の塗料組成物を塗装して、塗膜を形成することと、次いで、前記塗膜を加熱して硬化させることとを含む、塗膜形成方法において好適に用いることができる。
【0117】
本発明の塗料組成物は各種工業用途に用いることができ、自動車外板又は部品用塗料組成物として好適に用いることができ、特にクリヤコート塗料組成物として好適に用いることができる。
【0118】
上記塗膜形成方法の好ましい態様としては、下記の方法(A)~(D)を挙げることができる。
【0119】
方法(A)
工程(A1):被塗物上に本発明の塗料組成物を塗装して、クリヤコート塗膜を形成する工程、及び
工程(A2):前記工程(A1)で形成されたクリヤコート塗膜を加熱して硬化させる工程、を含む塗膜形成方法。
【0120】
方法(B)
工程(B1):被塗物上にベースコート塗料組成物を塗装して、ベースコート塗膜を形成する工程、
工程(B2):前記ベースコート塗膜上に、本発明の塗料組成物を塗装して、クリヤコート塗膜を形成する工程、並びに、
工程(B3):前記工程(B1)で形成されたベースコート塗膜、及び、前記工程(B2)で形成されたクリヤコート塗膜を別々に又は同時に加熱して硬化させる工程、を含む塗膜形成方法。
【0121】
方法(C)
工程(C1):被塗物上に第1ベースコート塗料組成物を塗装して、第1ベースコート塗膜を形成する工程、
工程(C2):前記第1ベースコート塗膜上に、第2ベースコート塗料組成物を塗装して、第2ベースコート塗膜を形成する工程、
工程(C3):前記第2ベースコート塗膜上に、本発明の塗料組成物を塗装して、クリヤコート塗膜を形成する工程、並びに、
工程(C4):前記工程(C1)で形成された第1ベースコート塗膜、前記工程(C2)で形成された第2ベースコート塗膜、及び、前記工程(C3)で形成されたクリヤコート塗膜を別々に又は同時に加熱して硬化させる工程、を含む塗膜形成方法。
【0122】
方法(D)
工程(D1):被塗物上にプライマー塗料組成物を塗装して、プライマー塗膜を形成する工程、
工程(D2):前記プライマー塗膜上に第1ベースコート塗料組成物を塗装して、第1ベースコート塗膜を形成する工程、
工程(D3):前記第1ベースコート塗膜上に、第2ベースコート塗料組成物を塗装して、第2ベースコート塗膜を形成する工程、
工程(D4):前記第2ベースコート塗膜上に、本発明の塗料組成物を塗装して、クリヤコート塗膜を形成する工程、並びに、
工程(D5):前記工程(D1)で形成されたプライマー塗膜、前記工程(D2)で形成された第1ベースコート塗膜、前記工程(D3)で形成された第2ベースコート塗膜、及び、前記工程(D4)で形成されたクリヤコート塗膜を別々に又は同時に加熱して硬化させる工程、を含む塗膜形成方法。
【0123】
上記被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体の外板部;自動車部品;携帯電話、オーディオ機器などの家庭電気製品の外板部などを挙げることができる。これらの内、自動車車体の外板部及び自動車部品が好ましい。
【0124】
これらの被塗物の材質としては、特に限定されるものではない。例えば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅、ブリキ、ステンレス鋼、亜鉛メッキ鋼、亜鉛合金(Zn-Al、Zn-Ni、Zn-Feなど)メッキ鋼などの金属材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂類、各種のFRPなどのプラスチック材料;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;木材;紙、布などの繊維材料などを挙げることができる。これらの内、金属材料及びプラスチック材料が好ましい。
【0125】
また、塗膜が適用される被塗物面としては、自動車車体外板部及び内板部、自動車部品、家庭電気製品、これらを構成する鋼板などの金属基材などの金属表面に、リン酸塩処理、クロメート処理、複合酸化物処理などの表面処理が施されたものであってもよい。
【0126】
表面処理が施されていても施されていなくてもよい対象物の上には、さらに塗膜を形成してもよい。例えば、基材である被塗物に、任意選択で表面処理を施し、その上に下塗り塗膜を形成してもよい。上記下塗り塗膜は、例えば被塗物が自動車車体である場合には、自動車車体の塗装において通常使用されるそれ自体既知の下塗り用の塗料を使用して形成することができる。
【0127】
下塗り塗膜を形成するための下塗り塗料としては、例えば、電着塗料、好ましくはカチオン電着塗料を使用することができる。
【0128】
上記プライマー塗料組成物としては、ポリオレフィン樹脂、並びに、カルボキシル基、水酸基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂などの基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物などの架橋剤とを、顔料、増粘剤、及び任意選択のその他の成分と共に塗料化したものを使用することができる。
【0129】
上記第1ベースコート塗料組成物及び第2ベースコート塗料組成物としては、カルボキシル基、水酸基などの架橋性官能基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂などのアミノ樹脂、ブロックされていてもよいポリイソシアネート化合物などの架橋剤とを、顔料、増粘剤、及び任意選択のその他の成分と共に塗料化したものを使用することができる。
【0130】
前記加熱は公知の手段により行うことができ、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉などの乾燥炉を適用できる。加熱温度は50~110℃、好ましくは60~90℃の範囲内である。加熱時間は、特に制限されないが、好ましくは5~40分間、より好ましくは10~35分間の範囲内である。
【実施例】
【0131】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0132】
水酸基含有アクリル樹脂(A1)の製造
製造例1
温度計、サーモスタット、撹拌装置、還流冷却器、窒素導入管及び滴下装置を備えた反応容器に、「スワゾール1000」(商品名、丸善石油化学株式会社製、芳香族系有機溶剤)27部及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5部を仕込んだ。反応容器に、窒素ガスを吹き込みながら150℃で仕込み液を攪拌し、この中にスチレン20部、イソブチルメタクリレート24.8部、エチルアクリレート24部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート30部、アクリル酸1.2部及びジターシャリアミルパーオキサイド(重合開始剤)4.5部からなるモノマー混合物を4時間かけて均一速度で滴下した。その後、150℃で1時間熟成させた後冷却し、さらに酢酸イソブチルを21部加えて希釈し、固形分濃度65質量%の1級水酸基含有アクリル樹脂(A11-1)溶液を得た。得られた1級水酸基含有アクリル樹脂(A11-1)の酸価は9.3mgKOH/g、水酸基価は129mgKOH/g、重量平均分子量は6,000、ガラス転移温度39℃であった。
【0133】
亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C)の製造
製造例2
攪拌器、冷却器、温度制御器、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応装置にエチル-3-エトキシプロピオネート47部、「ニッカオクチックス亜鉛」(商品名、オクチル酸亜鉛、日本化学産業株式会社製、亜鉛含有量8質量%)81.6部を仕込み、反応容器内を窒素で置換し、50℃に加熱した。次に、攪拌下、1-メチルイミダゾール16.4部を滴下し、滴下終了後50℃の温度を2時間保持し、反応を終了させた。得られた亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C-1)は、亜鉛含有量4.5質量%の液体であった。
【0134】
製造例3~10
製造例2において、配合組成を表1に示すものとする以外は、製造例2と同様にして、亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒(C-2)~(C-9)を得た。
【0135】
【0136】
「ナフテン酸亜鉛」(注1):亜鉛含有量10.1%、東京化成工業株式会社製、
「アセチルアセトン亜鉛」(注2):亜鉛含有量25%、昭和化学株式会社製、
DBN(注3):1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、
DBU(注4):1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン。
【0137】
その他の有機金属触媒(E)の製造
製造例11
攪拌器、冷却器、温度制御器、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応装置にエチル-3-エトキシプロピオネート364部、「K-KAT 348」(商品名、オクチル酸ビスマス、ビスマス含有量25%、KING INDUSTRIES, Inc.製)83.6部を仕込み、反応容器内を窒素で置換し、50℃に加熱した。次に、攪拌下、1-メチルイミダゾール16.4部を滴下し、滴下終了後50℃の温度を2時間保持し、反応を終了させた。得られたその他の有機金属触媒(E-1)は、ビスマス含有量4.5質量%の液体であった。
【0138】
製造例12及び13
製造例11において、配合組成を表2に示すものとする以外は、製造例11と同様にして、その他の有機金属触媒(E-2)及び(E-3)を得た。
【0139】
【0140】
「ニッカオクチックスコバルト」(注5):商品名、オクチル酸コバルト、コバルト含有量8%、日本化学産業株式会社製、
「ニッカオクチックスマンガン」(注6):商品名、オクチル酸マンガン、マンガン含有量8%、日本化学産業株式会社製。
【0141】
リン酸基含有樹脂(D2)の製造
製造例14
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、メトキシプロパノール27.5部及びイソブタノール27.5部の混合溶剤を入れ、110℃に加熱した。次いで、スチレン25部、n-ブチルメタクリレート27.5部、「イソステアリルアクリレート」(商品名、大阪有機化学工業株式会社製、分岐高級アルキルアクリレート)20部、4-ヒドロキシブチルアクリレート7.5部、下記リン酸基含有重合性モノマー15部、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート12.5部、イソブタノール10部及びt-ブチルパーオキシオクタノエート4部からなる混合物121.5部を、4時間かけて上記混合溶剤に加え、さらにt-ブチルパーオキシオクタノエート0.5部とイソプロパノール20部からなる混合物を1時間滴下した。その後、1時間攪拌熟成して固形分濃度50%のリン酸基含有アクリル樹脂溶液(D21-1)を得た。本樹脂のリン酸基による酸価は83mgKOH/g、水酸基価は29mgKOH/g、重量平均分子量は10,000であった。
【0142】
リン酸基含有重合性モノマー:温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に、モノブチルリン酸57.5部及びイソブタノール41部を入れ、90℃に昇温後、グリシジルメタクリレート42.5部を2時間かけて滴下した後、さらに1時間攪拌熟成した。その後、イソプロパノ-ル59部を加えて、固形分濃度50%のリン酸基含有重合性モノマー溶液を得た。得られたモノマーのリン酸基による酸価は285mgKOH/gであった。
【0143】
塗料組成物の製造
実施例1~11及び比較例1~6
前記製造例1で得られた水酸基含有アクリル樹脂、上記製造例2~10で得られた亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、上記製造例11~13で得られたその他の有機金属触媒、上記製造例14で得られたリン酸基含有樹脂及び後記表3に記載の原材料を用いて、後記表3に示す配合にて羽根型撹拌機を用いて攪拌して混合し、さらに、酢酸ブチルを加えて、20℃におけるアネスト岩田 粘度カップ NK2による粘度が11秒となるように調整して塗料組成物No.1~17を得た。なお、表3に示す塗料組成物の配合は各成分の固形分質量比である。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
(注7)「スミジュールN3300」:商品名、住化コベストロウレタン株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、固形分含有率100%、
(注8)「NACURE4054J」:商品名、KING INDUSTRIES, Inc.製、2-エチルヘキシルリン酸エステル。
【0148】
ポットライフ
塗料組成物No.1~17のポットライフを、20℃で6時間静置した後の、20℃における粘度をアネスト岩田 粘度カップ NK2を用いて測定することにより評価した。測定結果を併せて表3に示した。6時間後の粘度が13秒以下を合格とする。
【0149】
試験板の作成
ブリキ板に、塗料組成物No.1~17を硬化膜厚で約30μmになるようにエアスプレー塗装を行ない、80℃で30分間加熱し硬化させた後、20℃恒温室で24時静置し、各試験板とした。
【0150】
NCO反応率(%)
FT-IR装置「FT/IR-420」(日本分光株式会社製)を用い、塗料配合直後については液膜法により、試験板については表面をATR法により、測定することにより評価した。それぞれイソシアネートピーク強度(2271cm-1)を測定し、これらの比を下記式から算出することにより、NCO反応率(%)を求めた。NCO反応率(%)が80%以上を合格とする。測定結果を併せて表3に示した。
【0151】
NCO反応率(%)=100-NCO残存率(%)
NCO残存率(%)=(試験板のイソシアネートピーク強度)/(塗料配合直後のイソシアネートピーク強度)×100
【0152】
ヌープ硬度
TUKON(American Chain&Cable Company, Inc.製、micro hardness tester)にて測定した。該ヌープ硬度は、四角錘ダイヤモンド圧子を一定の試験荷重で材料の試験面に押し込み、生じた菱形のくぼみの大きさから読み取られる塗膜の硬さを表したものであり、数値が大きいほど硬度が高いことを表す。ヌープ硬度が10以上を合格とする。測定結果を併せて表3に示した。
【0153】
以上、本発明の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0154】
例えば、上述の実施形態及び実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、任意選択でこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【要約】
(A)水酸基含有樹脂、(B)ポリイソシアネート化合物、(C)亜鉛化合物及びアミジン化合物からなる有機金属触媒、並びに(D)リン酸基含有化合物を含有する塗料組成物、及び、被塗物上に、上記塗料組成物を塗装して、塗膜を形成することと、次いで、前記塗膜を加熱して硬化させることとを含む、塗膜形成方法、を提供する。