(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】送給制御装置、ワイヤ送給システム、および、溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
B23K9/12 304B
(21)【出願番号】P 2019173765
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
(72)【発明者】
【氏名】松田 夏芽
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252535(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074267(WO,A1)
【文献】特開平05-057440(JP,A)
【文献】特開昭57-068274(JP,A)
【文献】特開昭61-046373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1送給モータを有し、速度指令に基づいて溶接ワイヤの送給速度を制御するように、前記第1送給モータの回転速度が制御される第1送給部と、第2送給モータを有し、前記第1送給部による前記溶接ワイヤの送給を補助する第2送給部とを備えるワイヤ送給システムにおいて、前記第2送給部を制御する送給制御装置であって、
前記速度指令に基づいて、前記第2送給モータの回転速度を制御する速度制御部と、
前記第2送給モータのトルクを制御するトルク制御部と、
前記速度指令が変化する変化期間には、前記速度制御部による制御とし、前記速度指令が変化しない不変期間には、前記トルク制御部による制御とする切替部と、
を備えている送給制御装置。
【請求項2】
第1送給モータを有し、速度指令に基づいて溶接ワイヤの送給速度を制御するように、前記第1送給モータの回転速度が制御される第1送給部と、第2送給モータを有し、前記第1送給部による前記溶接ワイヤの送給を補助する第2送給部とを備えるワイヤ送給システムにおいて、前記第2送給部を制御する送給制御装置であって、
前記速度指令に基づいて、前記第2送給モータの回転速度を制御する速度制御部と、
前記第2送給モータのトルクを制御するトルク制御部と、
前記速度指令が変化する変化期間のうち前記速度指令の変化率の絶対値が所定値以上である第1変化期間には、前記速度制御部による制御とし、
前記変化期間のうち前記変化率の絶対値が前記所定値未満である第2変化期間
、および、前記速度指令が変化しない不変期間には
、前記トルク制御部による制御と
する切替部と、
を備えている送給制御装置。
【請求項3】
前記第2送給部は、前記第1送給部に前記溶接ワイヤを送り出す、
請求項1または2に記載の送給制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の送給制御装置と、
前記第1送給部と、
前記第2送給部と、
を備えているワイヤ送給システム。
【請求項5】
溶接トーチと、
前記溶接トーチに電力を供給する溶接電源装置と、
前記溶接トーチに前記溶接ワイヤを送給する、請求項4に記載のワイヤ送給システムと、
を備えている溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送給モータによってワイヤを送給する送給部を制御する送給制御装置、当該送給制御装置を備えたワイヤ送給システム、および、当該ワイヤ送給システムを備えた溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
消耗電極型の溶接システムにおいて、電極として用いられる溶接ワイヤは、ワイヤ送給装置によって、溶接トーチの先端に送給される。ワイヤ送給装置は、設定された溶接電流に応じた送給速度で、溶接ワイヤを送給する。ワイヤ送給装置がワイヤ供給源から離れている場合、溶接ワイヤの送給抵抗が増大するので、溶接ワイヤは滑らかに送給されにくくなる。この問題を解決するために、ワイヤ送給装置とワイヤ供給源との間に、さらにワイヤ送給装置を追加したワイヤ送給システムが開発されている。追加されたワイヤ送給装置が溶接ワイヤを送り出すことで、溶接ワイヤの送給抵抗が減少する。2つのワイヤ送給装置を区別するために、本明細書では、指令された送給速度で溶接ワイヤを送給するための送給の中心になるワイヤ送給装置をメイン送給装置と記載し、メイン送給装置による送給を補助して、送給抵抗を減少させるために追加されたワイヤ送給装置をアシスト送給装置と記載する。
【0003】
メイン送給装置は、内蔵する送給モータの回転速度を制御することで、溶接ワイヤの送給速度を制御する速度制御を行う。一方、アシスト送給装置は、内蔵する送給モータのトルクを制御するトルク制御を行う。特許文献1には、このようなワイヤ送給システムが開示されている。また、送給モータのトルクをトルクコントローラによって変換して出力することでトルク制御を行うアシスト送給装置もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの場合、アシスト送給装置は、トルク制御を行うので、溶接ワイヤの送給速度が急激に変化するときに追従できない。したがって、メイン送給装置とアシスト送給装置とで送給速度に差が生じて、送給負荷が増加する。一方、送給速度の急変時に追従できるように、アシスト送給装置も速度制御を行うようにしたワイヤ送給システムも開発されている。しかし、この場合、メイン送給装置とアシスト送給装置とでワイヤ送給量を同期させるためのワイヤバッファが必要になるので、溶接システム全体の構成が複雑になり、また、コストが増加する。
【0006】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、送給速度の急変時にも追従することができ、かつ、全体構成を簡略化できる送給制御装置、ワイヤ送給システム、および溶接システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される送給制御装置は、第1送給モータを有し、速度指令に基づいて溶接ワイヤの送給速度を制御するように、前記第1送給モータの回転速度が制御される第1送給部と、第2送給モータを有し、前記第1送給部による前記溶接ワイヤの送給を補助する第2送給部とを備えるワイヤ送給システムにおいて、前記第2送給部を制御する送給制御装置であって、前記速度指令に基づいて、前記第2送給モータの回転速度を制御する速度制御部と、前記第2送給モータのトルクを制御するトルク制御部と、前記速度指令が変化する変化期間には、前記速度制御部による制御とし、前記速度指令が変化しない不変期間には、前記トルク制御部による制御とする切替部と、を備えている。なお、「変化期間」は、当該期間の間、常に送給速度が変化する場合に限定されるものではなく、当該期間の間に送給速度が変化しない期間が含まれていてもよい。例えば、短い間隔で送給速度が変化する期間と変化しない期間とが交互に繰り返される(階段状に送給速度が変化する)ような期間も、変化期間と言える。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記切替部は、前記変化期間のうち前記速度指令の変化率の絶対値が所定値以上である第1変化期間には、前記速度制御部による制御とし、前記変化率の絶対値が前記所定値未満である第2変化期間には、前記速度制御部による制御とせずに、前記トルク制御部による制御とする。本発明の好ましい実施の形態においては、前記第2送給部は、前記第1送給部に前記溶接ワイヤを送り出す。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供されるワイヤ送給システムは、本発明の第1の側面によって提供される送給制御装置と、前記第1送給部と、前記第2送給部とを備えている。本発明の第3の側面によって提供される溶接システムは、溶接トーチと、前記溶接トーチに電力を供給する溶接電源装置と、前記溶接トーチに前記溶接ワイヤを送給する、本発明の第2の側面によって提供されるワイヤ送給システムとを備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、切替部は、速度指令が変化する変化期間には、第2送給モータの制御を速度制御とする。したがって、第2送給部は、送給速度の変化に追従することができる。また、切替部は、変化期間以外の速度指令が変化しない不変期間には第2送給モータの制御をトルク制御とする。したがって、第1送給部と第2送給部とでワイヤ送給量を同期させるためのワイヤバッファは、不要である。よって、全体構成が簡略化され、また、コストの増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す溶接システムにおけるアシスト送給装置のワイヤ送給制御処理を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図1に示す溶接システムにおけるワイヤ送給状態の一例を示すタイミングチャートである。
【
図4】第1実施形態に係る溶接システムの変形例におけるワイヤ送給状態の一例を示すタイミングチャートである。
【
図5】第2実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図6】第3実施形態に係る溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図であり、溶接システムA1の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、溶接システムA1は、溶接電源装置1、メイン送給装置2、アシスト送給装置3、ワイヤ供給源4、および溶接トーチ5を備えている。溶接トーチ5は、ワイヤ供給源4からアシスト送給装置3およびメイン送給装置2を介して、溶接ワイヤBを送給される。溶接電源装置1は、溶接トーチ5の先端から突出された溶接ワイヤBの先端と図示しない被加工物との間にアークを発生させるための電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物の溶接を行う。なお、
図1においては、溶接ワイヤBを送給するための構成を中心に記載しており、電力を供給するための構成や、シールドガスを供給するための構成、通信のための構成などの記載を省略している。溶接電源装置1とメイン送給装置2およびアシスト送給装置3との通信方法は限定されず、通信線によって通信を行ってもよいし、無線通信によって通信を行ってもよい。また、電力線を用いた電力線搬送通信であってもよい。
【0015】
本実施形態では、溶接ワイヤBの送給経路には、溶接ワイヤBを送給するための構成として、送給部21(メイン送給装置2)と送給部31(アシスト送給装置3)の2個の送給装置が配置されている。送給部21は、溶接ワイヤBを送給方向(溶接ワイヤBが進行する方向)に送り出す。また、送給部31は、送給部21より送給方向とは反対側、すなわち、送給部21とワイヤ供給源4との間に配置され、溶接ワイヤBを送給部21に送り出す。溶接システムA1が、本発明の「ワイヤ送給システム」に相当する。
【0016】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための電力を溶接トーチ5に供給するものである。溶接電源装置1は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した溶接電力に変換して出力する。また、溶接電源装置1は、溶接システムA1全体の制御を行う。例えば、溶接電源装置1は、溶接電力の制御、溶接ワイヤBの送給制御、およびシールドガスの供給制御を行う。
【0017】
溶接電源装置1は、制御部11を備えている。制御部11は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、溶接電源装置1および溶接システムA1を制御する。制御部11は、設定された溶接条件に応じて電力を出力するように、図示しないインバータ回路を制御する。また、制御部11は、メイン送給装置2およびアシスト送給装置3を制御することで、溶接ワイヤBの送給を制御する。具体的には、制御部11は、メイン送給装置2に、溶接ワイヤBの送給速度を指令する速度指令S1を送信する。メイン送給装置2は、受信した速度指令S1に基づいて、溶接ワイヤBの送給速度を制御する。また、制御部11は、アシスト送給装置3に、速度指令S1と、速度指令S1の変化の開始を知らせる速度変化開始信号S2と、速度指令S1の変化の終了を知らせる速度変化終了信号S3とを送信する。アシスト送給装置3は、受信した速度指令S1、速度変化開始信号S2、および速度変化終了信号S3に基づいて、制御を行う。本実施形態では、制御部11は、速度指令S1に基づいて、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を生成する。なお、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3の生成方法は限定されない。制御部11は、例えば、溶接開始信号、溶接終了信号、アーク検出信号、および溶接条件変更信号などに基づいて、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を生成してもよい。
【0018】
ワイヤ供給源4は、溶接ワイヤBを供給するものであり、例えば、溶接ワイヤBが巻回されたワイヤリールである。なお、ワイヤ供給源4は、ワイヤリールに限定されない。
【0019】
メイン送給装置2は、溶接ワイヤBの送給を行うものであり、溶接ワイヤBを溶接トーチ5に送り出す。メイン送給装置2は、送給部21、制御部22、および速度検出部23を備えている。
【0020】
送給部21は、制御部22より入力される駆動信号に基づいて駆動され、溶接ワイヤBを送給する構成である。送給部21は、送給モータ211、送給ロール212および加圧ロール213を備えている。送給部21が、本発明の「第1送給部」に相当する。送給モータ211は、溶接ワイヤBを送給するための駆動力を発生させるものである。送給モータ211は、制御部22から入力される駆動信号によって駆動される。送給モータ211が、本発明の「第1送給モータ」に相当する。送給ロール212は、送給モータ211の回転軸に取り付けられており、送給モータ211で発生するトルクが伝達されて回転する。なお、送給ロール212は、送給モータ211の回転軸に直接取り付けられているものに限定されない。1個以上のギヤにより、送給モータ211のトルクを送給ロール212に伝達させ、送給ロール212を回転させる構成であってもよい。溶接ワイヤBは送給ロール212に接触しており、送給モータ211のトルクが溶接ワイヤBを送り出す接線力に変換される。したがって、送給モータ211が駆動することで、溶接ワイヤBが送り出される。加圧ロール213は、溶接ワイヤBを挟んで、送給ロール212に対向するように配置されており、溶接ワイヤBを送給ロール212側に加圧する。これにより、溶接ワイヤBは、送給ロール212の回転に応じて送給される。
【0021】
速度検出部23は、送給モータ211の回転速度を検出するためのものであり、例えばエンコーダである。速度検出部23は、送給モータ211の回転速度に応じたパルス信号を生成して、制御部22に出力する。なお、回転速度の検出方法は限定されない。
【0022】
制御部22は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、メイン送給装置2を制御する。制御部22は、溶接電源装置1の制御部11からの指令に基づいて、送給部21を駆動させることで溶接ワイヤBの送給を行う。制御部22は、溶接電源装置1の制御部11より受信した速度指令S1に基づいて駆動信号を生成し、送給部21の送給モータ211に出力する。具体的には、制御部22は、速度検出部23より入力されるパルス信号から送給モータ211の回転速度を検出する。そして、制御部22は、検出した送給モータ211の回転速度が速度指令S1に応じた回転速度に一致するように駆動信号を調整して、フィードバック制御を行う。
【0023】
アシスト送給装置3は、メイン送給装置2による溶接ワイヤBの送給を補助するものであり、溶接ワイヤBをメイン送給装置2に送り出す。アシスト送給装置3は、溶接ワイヤBを送り出すことで、メイン送給装置2での溶接ワイヤBの送給抵抗を減少させる。アシスト送給装置3は、送給部31、制御部32、速度検出部33、およびトルク検出部34を備えている。
【0024】
送給部31は、制御部32より入力される駆動信号に基づいて駆動され、溶接ワイヤBを送給する構成である。送給部31は、送給モータ311、送給ロール312および加圧ロール313を備えている。送給部31が、本発明の「第2送給部」に相当する。送給モータ311は、溶接ワイヤBを送給するための駆動力を発生させるものである。送給モータ311は、制御部32(後述する駆動部324)によって駆動される。送給モータ311が、本発明の「第2送給モータ」に相当する。送給ロール312および加圧ロール313は、送給ロール212および加圧ロール213と同様のものである。
【0025】
速度検出部33は、送給モータ311の回転速度を検出するためのものであり、例えばエンコーダである。速度検出部33は、送給モータ311の回転速度に応じたパルス信号を生成して、制御部32に出力する。なお、回転速度の検出方法は限定されない。
【0026】
トルク検出部34は、送給モータ311のトルクを検出するためのものであり、例えば送給モータ311を流れる電流を検出する電流センサである。送給モータ311のトルクは送給モータ311を流れる電流に比例するので、電流を検出することでトルクを検出することができる。トルク検出部34は、送給モータ311のトルクに応じた電流を制御部32に出力する。なお、トルクの検出方法は限定されない。
【0027】
制御部32は、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されており、アシスト送給装置3を制御する。制御部32は、溶接電源装置1の制御部11からの指令に基づいて、送給部31を駆動させることで、溶接ワイヤBの送給行う。制御部32は、速度制御部321、トルク制御部322、切替部323、および駆動部324を備えている。
【0028】
速度制御部321は、速度検出部33より入力されるパルス信号から送給モータ311の回転速度を検出する。そして、速度制御部321は、検出した送給モータ311の回転速度を速度指令S1に応じた回転速度に制御するための速度制御信号を生成し、切替部323に出力する。
【0029】
トルク制御部322は、トルク検出部34より入力される電流から送給モータ311のトルクを検出する。そして、トルク制御部322は、検出した送給モータ311のトルクを所定のトルクに制御するためのトルク制御信号を生成し、切替部323に出力する。
【0030】
切替部323は、速度制御部321から入力される速度制御信号と、トルク制御部322から入力されるトルク制御信号とを切り替えて、駆動部324に出力する。切替部323は、速度変化開始信号S2が入力されてから速度変化終了信号S3が入力されるまでの期間、すなわち、速度指令S1が変化する期間(以下では、「変化期間」とする)には、速度制御部321から入力される速度制御信号を駆動部324に出力する。一方、速度変化終了信号S3が入力されてから速度変化開始信号S2が入力されるまでの期間、すなわち、速度指令S1が変化しない期間(以下では、「不変期間」とする)には、トルク制御部322から入力されるトルク制御信号を駆動部324に出力する。
【0031】
駆動部324は、送給部31の駆動を制御して、溶接ワイヤBの送給を制御する。駆動部324は、切替部323から入力される信号に基づいて駆動信号を生成し、送給部31の送給モータ311に出力する。
【0032】
制御部32は、変化期間には、駆動部324が速度制御信号に基づいて駆動信号を生成するので、速度制御を行う。一方、制御部32は、不変期間には、駆動部324がトルク制御信号に基づいて駆動信号を生成するので、トルク制御を行う。制御部32が、本発明の「送給制御装置」に相当する。
【0033】
図2は、アシスト送給装置3の制御部32が行うワイヤ送給制御処理を説明するためのフローチャートである。ワイヤ送給制御処理は、溶接電源装置1の制御部11から速度指令S
1を受信したときに開始される。
【0034】
まず、制御部32は、速度変化開始信号S2を受信したか否かを判別する(S1)。速度変化開始信号S2を受信した場合(S1:YES)、制御部32は、速度制御を行う(S2)。次に、制御部32は、速度変化終了信号S3を受信したか否かを判別する(S3)。速度変化終了信号S3を受信していない場合(S3:NO)、ステップS2に戻る。一方、速度変化終了信号S3を受信した場合(S3:YES)、ステップS4に進む。つまり、制御部32は、速度変化開始信号S2を受信した後は、速度変化終了信号S3を受信するまで、速度制御を行う。
【0035】
ステップS1において速度変化開始信号S2を受信していない場合(S1:NO)、または、ステップS3において速度変化終了信号S3を受信した場合(S3:YES)、制御部32は、トルク制御を行う(S4)。次に、制御部32は、速度指令S1が「0」になったか否かを判別する(S5)。速度指令S1が「0」になった場合(S5:YES)、ワイヤ送給制御処理は終了する。速度指令S1が「0」になっていない場合(S5:NO)、ステップS1に戻る。つまり、制御部32は、速度変化開始信号S2を受信するか、速度指令S1が「0」になるまで、トルク制御を行う。
【0036】
なお、
図2のフローチャートに示す処理は一例であって、制御部32が行うワイヤ送給制御処理は上述したものに限定されない。
【0037】
図3は、溶接システムA1におけるワイヤ送給状態の一例を示すタイミングチャートである。
図3(a)は、溶接電源装置1が出力する溶接電流の設定値である設定電流を示している。
図3(b)は、溶接電源装置1から送信される速度指令S
1の時間変化を示している。
図3(c)は、速度指令S
1の変化率の絶対値を示している。
図3(d)は、溶接電源装置1から送信される速度変化開始信号S
2を示し、
図3(e)は、溶接電源装置1から送信される速度変化終了信号S
3を示している。
図3(f)は、メイン送給装置2の送給モータ211の回転速度の時間変化を示している。
図3(g)は、アシスト送給装置3での送給制御の状態の時間変化を示している。
図3(h)は、アシスト送給装置3の送給モータ311の回転速度の時間変化を示している。
【0038】
図3では、一般的なアーク溶接における溶接ワイヤBの送給を示している。時刻t0で溶接が開始され、時刻t0~t2の期間は、スタート期間を示している。当該スタート期間では、まず、時刻t0に、溶接ワイヤBの送給速度がゼロから比較的低速のスローダウン速度に変化する。これにより、溶接ワイヤBの先端が溶接トーチ5の先端からゆっくり突出し、被加工物に接触する。時刻t1において、短絡により電流が流れて溶接ワイヤBの先端が溶融して溶滴移行によりアークが発生する。アークが発生した後は、送給速度は、スローダウン速度から設定電流に応じた所定の送給速度まで上昇する。時刻t2で所定の送給速度に達した後は、所定の送給速度が継続される。次に、時刻t3で設定電流が切り替えられたことで、設定電流が変更されている。このとき、送給速度も変更される。送給速度の変更は、時刻t3~t4の期間に行われている。時刻t4で所定の送給速度に達した後は、所定の送給速度が継続される。そして、時刻t5で溶接が停止され、時刻t5~t6の期間で、送給速度がゼロまで下降している。スタート期間のうちアーク発生以降の時刻t1~t2の期間、設定電流変更時の時刻t3~t4の期間、および、溶接終了時の時刻t5~t6の期間が、速度指令S
1が変化する変化期間である。また、スタート期間のうちアーク発生までの時刻t0~t1の期間、時刻t2~t3の期間、および、時刻t4~t5の期間が、速度指令S
1が変化しない不変期間である。
【0039】
時刻t0において、溶接が開始されると、溶接電源装置1は、メイン送給装置2およびアシスト送給装置3に、速度指令S
1の送信を開始する。このときの速度指令S
1は、スローダウン速度になっている(
図3(b)参照)。メイン送給装置2は、受信した速度指令S
1に基づいて、送給モータ211の速度制御を行う。これにより、送給モータ211の回転速度は、速度指令S
1に応じた速度になっている(
図3(f)参照)。メイン送給装置2は、常に、速度指令S
1に基づいて送給モータ211の速度制御を行うので、時刻t0~t6の間、送給モータ211の回転速度は、速度指令S
1に応じた速度になっている(
図3(f)参照)。アークが発生した時刻t1において、速度指令S
1が変化を開始するので(
図3(b)参照)、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度指令S
1の変化の開始を知らせる速度変化開始信号S
2を送信する(
図3(d)参照)。アシスト送給装置3は、速度変化開始信号S
2を受信したことで、送給モータ311の制御を速度制御に切り替えて(
図3(g)参照)、受信した速度指令S
1に基づいて、送給モータ311の速度制御を行う。これにより、送給モータ311の回転速度は、速度指令S
1に応じた速度になっている(
図3(h)参照)。
【0040】
時刻t2において、速度指令S
1の変化が終了すると、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度指令S
1の変化の終了を知らせる速度変化終了信号S
3を送信する(
図3(e)参照)。アシスト送給装置3は、速度変化終了信号S
3を受信したことで、送給モータ311の制御をトルク制御に切り替えて(
図3(g)参照)、送給モータ311のトルク制御を行う。速度指令S
1が変化しないので、送給モータ311はトルク制御されて、回転速度は変化していない(
図3(h)参照)。
【0041】
時刻t3において、設定電流が変更されて(
図3(a)参照)、速度指令S
1の変化が開始されると、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度変化開始信号S
2を送信する(
図3(d)参照)。アシスト送給装置3は、送給モータ311の制御を速度制御に切り替える(
図3(g)参照)。これにより、送給モータ311の回転速度は、速度指令S
1に応じた速度になっている(
図3(h)参照)。時刻t4において、速度指令S
1の変化が終了すると、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度変化終了信号S
3を送信する(
図3(e)参照)。アシスト送給装置3は、送給モータ311の制御をトルク制御に切り替える(
図3(g)参照)。速度指令S
1が変化しないので、送給モータ311はトルク制御されて、回転速度は変化していない(
図3(h)参照)。
【0042】
時刻t5において、溶接が停止されて、速度指令S
1の変化が開始されると、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度変化開始信号S
2を送信する(
図3(d)参照)。アシスト送給装置3は、送給モータ311の制御を速度制御に切り替える(
図3(g)参照)。これにより、送給モータ311の回転速度は、速度指令S
1に応じた速度になっている(
図3(h)参照)。時刻t6において、速度指令S
1の変化が終了すると、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度変化終了信号S
3を送信する(
図3(e)参照)。
【0043】
以上のように、スタート期間のうちアーク発生以降の時刻t1~t2の期間、設定電流変更時の時刻t3~t4の期間、および、溶接終了時の時刻t5~t6の期間である変化期間においては、アシスト送給装置3は、送給モータ311の速度制御を行っている。また、スタート期間のうちアーク発生までの時刻t0~t1の期間、時刻t2~t3の期間、および、時刻t4~t5の期間である不変期間においては、アシスト送給装置3は、送給モータ311のトルク制御を行っている。
【0044】
次に、溶接システムA1の作用効果について説明する。
【0045】
本実施形態によると、アシスト送給装置3の制御部32は、速度指令S1が変化する変化期間には、速度制御部321が生成した速度制御信号に基づく駆動信号を、送給部31の送給モータ311に出力する。これにより、制御部32は、送給モータ311の回転速度を制御する。したがって、アシスト送給装置3は、送給速度の急変時にも追従することができる。また、制御部32は、速度指令S1が変化しない不変期間には、トルク制御部322が生成したトルク制御信号に基づく駆動信号を、送給部31の送給モータ311に出力する。これにより、制御部32は、送給モータ311のトルクを制御する。変化期間は、不変期間と比較すると、著しく短い時間である。したがって、変化期間で速度制御が行われたとしても、不変期間でトルク制御が行われるので、メイン送給装置2とアシスト送給装置3との間でワイヤ送給量を同期させるためのワイヤバッファは、不要である。よって、全体構成が簡略化され、また、コストの増加が抑制される。
【0046】
また、本実施形態によると、切替部323は、溶接電源装置1から入力される速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3に基づいて、速度制御信号とトルク制御信号とを切り替える。したがって、切替部323は、速度制御信号とトルク制御信号とを、速度指令S1に応じて遅滞なく切り替えることができる。また、本実施形態によると、アシスト送給装置3は、メイン送給装置2とワイヤ供給源4との間に配置されて、溶接ワイヤBをメイン送給装置2に送り出している。したがって、メイン送給装置2とワイヤ供給源4との距離を長くすることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、速度変化開始信号S2と速度変化終了信号S3とを別々の信号としているが、これに限られない。例えば、制御部11は、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3の代わりに、変化期間にハイレベルになり、不変期間にローレベルになる速度変化信号S4を生成してもよい。この場合、切替部323は、速度変化信号S4がローレベルからハイレベルに立ち上がるタイミングで、駆動部324に出力する信号を速度制御信号に切り替え、速度変化信号S4がハイレベルからローレベルに立ち下がるタイミングで、駆動部324に出力する信号をトルク制御信号に切り替えればよい。また、変化期間の時間(速度変化が継続する時間)があらかじめ設定されている場合、制御部11は、速度変化終了信号S3を生成しなくてもよい。例えば、スタート期間においてスローダウン速度から設定電流に応じた所定の送給速度まで上昇させるための変化期間、設定電流が切り替えられたときの変化期間、および、溶接が停止されたときの変化期間の時間は、あらかじめ設定されている。切替部323は、駆動部324に出力する信号を速度制御信号に切り替えた後、これらの設定された時間が経過したときに、駆動部324に出力する信号をトルク制御信号に切り替えてもよい。
【0048】
〔変形例〕
溶接条件が切り替えられたときに設定電流が変更されるが、設定電流の変化量が小さい場合がある。この場合、変化期間における速度指令S1の変化がなだらかであり、当該変化期間に速度制御に切り替える必要がない場合がある。速度指令S1が変化する変化期間を、当該変化期間での単位時間当たりの速度変化量である変化率に応じて、変化率の絶対値が大きい第1変化期間と変化率の絶対値が小さい第2変化期間とに切り分けて、第2変化期間においては、速度制御に切り替えることなく、トルク制御を継続する構成としてもよい。具体的には、溶接電源装置1の制御部11は、変化期間の変化率を算出し、算出した変化率の絶対値を所定値と比較することで、当該変化期間が第1変化期間か第2変化期間かを判別する。そして、制御部11は、第2変化期間の場合、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を出力しない。
【0049】
図4は、当該変形例におけるワイヤ送給状態の一例を示すタイミングチャートである。
図4(a)~(h)は、それぞれ、
図3(a)~(h)と同じものを示している。
図4の例では、時刻t3における溶接条件の変更での設定電流の変化量が小さかった場合を示している(
図4(a)参照)。スタート期間のうちアーク発生以降の時刻t1~t2および溶接終了時(時刻t5~t6)の変化期間は変化率の絶対値が所定値以上だったので(
図4(c)参照)、溶接電源装置1(制御部11)は、第1変化期間であると判断し、速度変化開始信号S
2および速度変化終了信号S
3を出力している(
図4(d)、(e)参照)。したがって、これらの期間では、
図3の例と同様に、アシスト送給装置3は、送給モータ311の速度制御を行っている(
図4(g)参照)。一方、溶接条件変更時(時刻t3~t4)の変化期間は変化率の絶対値が所定値未満だったので(
図4(c)参照)、溶接電源装置1(制御部11)は、第2変化期間であると判断し、速度変化開始信号S
2および速度変化終了信号S
3を出力しない(
図4(d)、(e)参照)。したがって、当該期間では、アシスト送給装置3は、送給モータ311のトルク制御を継続している(
図4(g)参照)。
【0050】
本変形例によると、速度指令S1の変化がなだらかな変化期間に、必要ない速度制御に切り替わることを抑制することができる。なお、本変形例では、制御部11が1個の変化期間を第1変化期間であるか第2変化期間であるか判断する場合について説明したが、これに限られない。例えば、1個の変化期間が、急激に変化する部分と緩やかに変化する部分とに分かれており、2段階で変化する場合、制御部11は、急激に変化する期間を第1変化期間として、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を出力し、ゆるやかに変化する期間を第2変化期間として、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を出力しなくてもよい。この場合、アシスト送給装置3は、第1変化期間と判断された急激に変化する期間の開始時に速度変化開始信号S2が入力されて、速度制御に切り替る。そして、第2変化期間と判断されたゆるやかに変化する期間の開始時(第1変化期間の終了時)に速度変化終了信号S3が入力されて、トルク制御に切り替る。したがって、変化期間のうち急激に変化する期間だけ、アシスト送給装置3を速度制御に切り替えることができる。
【0051】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図であり、溶接システムA2の全体構成を示すブロック図である。同図において、溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態に係る溶接システムA2は、溶接電源装置1が速度変化開始信号S
2および速度変化終了信号S
3をアシスト送給装置3に出力せず、アシスト送給装置3が内部で生成する点で溶接システムA1と異なる。本実施形態に係る制御部32は、変化検出部325をさらに備えている。変化検出部325は、溶接電源装置1から入力される速度指令S
1に基づいて、速度変化開始信号S
2および速度変化終了信号S
3を生成し、切替部323に出力する。
【0052】
本実施形態においても、アシスト送給装置3の制御部32は、変化期間には送給モータ311の回転速度を制御し、不変期間には送給モータ311のトルクを制御する。したがって、アシスト送給装置3は送給速度の急変時にも追従することができ、かつ、溶接システムA2の全体構成が簡略化され、コストの増加が抑制される。さらに、溶接電源装置1は、アシスト送給装置3に、速度変化開始信号S2および速度変化終了信号S3を送信する必要がない。したがって、溶接電源装置1による通信の負担が軽減される。
【0053】
〔第3実施形態〕
図6は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図であり、溶接システムA3の全体構成を示すブロック図である。同図において、溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。本実施形態に係る溶接システムA3は、アシスト送給装置3の配置位置が溶接システムA1と異なる。本実施形態では、アシスト送給装置3がメイン送給装置2と溶接トーチ5との間に配置されている。つまり、アシスト送給装置3は、溶接ワイヤBの送給方向における下流側(溶接トーチ側)に配置されており、メイン送給装置2によって送り出された溶接ワイヤBを、溶接トーチ5に送り出す。
【0054】
本実施形態においても、アシスト送給装置3の制御部32は、変化期間には送給モータ311の回転速度を制御し、不変期間には送給モータ311のトルクを制御する。したがって、アシスト送給装置3は送給速度の急変時にも追従することができ、かつ、溶接システムA3の全体構成が簡略化され、コストの増加が抑制される。また、本実施形態によると、アシスト送給装置3は、メイン送給装置2と溶接トーチ5との間に配置されているので、メイン送給装置2と溶接トーチ5との距離を長くすることができる。なお、アシスト送給装置3は、溶接トーチ5の内部に組み込まれてもよい。
【0055】
上記第1~第3実施形態においては、制御部32がアシスト送給装置3に内蔵されている場合について説明したが、これに限られない。制御部32は、アシスト送給装置3とは別体の制御装置に内蔵されてもよい。また、制御部32は、溶接電源装置1に内蔵されてもよい。制御部22も同様である。
【0056】
本発明に係る送給制御装置、ワイヤ送給システム、および、溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る送給制御装置、ワイヤ送給システム、および、溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0057】
A1~A3:溶接システム、1:溶接電源装置、5:溶接トーチ、21:送給部、211:送給モータ、31:送給部、311:送給モータ、32:制御部、321:速度制御部、322:トルク制御部、323:切替部