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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】予測システム、予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/08 20230101AFI20230905BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230905BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20230905BHJP
【FI】
G06N3/08
G06Q10/04
G06Q50/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019015335
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020123198
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内 清次
(72)【発明者】
【氏名】三川 玄洋
【審査官】北川 純次
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-224990(JP,A)
【文献】特開2000-222005(JP,A)
【文献】特開2013-141331(JP,A)
【文献】特開2001-083986(JP,A)
【文献】特開平03-189858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/02-3/10
G06N 20/00
G06Q 10/04
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の所定のパラメータに基づき所定の推定方法で推定した推定値と、前記推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を出力する係数出力部と、
前記所定のパラメータのうち少なくとも一以上のパラメータに基づき学習がなされたニューラルネットワークに、所定の期間における前記所定のパラメータを入力して、学習後の前記係数を出力し、出力された学習後の前記係数と、予測日の前記所定の推定方法で推定した推定値と、に基づいて、前記予測日における予測値を算出する予測部と、
を備え、
前記予測部は、学習後の前記係数が、所定の上限閾値と所定の下限閾値との間に収まっていない場合には、学習後の前記係数を、前記上限閾値と前記下限閾値との中間値に補正し、補正後の前記係数を用いて前記予測値を算出する
ことを特徴とする予測システム。
【請求項2】
前記所定の推定方法で推定した推定値と、当該推定値に対応する前記実績値と、の誤差を示す前記係数を出力するべく、前記所定のパラメータのうち少なくとも一以上のパラメータに基づき前記ニューラルネットワークを学習させる学習部
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の予測システム。
【請求項3】
所定の期間において、前記学習部で学習された前記ニューラルネットワークを、前記所定の期間よりも短い期間における前記所定のパラメータに基づきファインチューニングする再学習部
をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の予測システム。
【請求項4】
前記係数出力部は、電力設備における、所定の推定方法で推定した電力に関する推定値と、前記推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を出力する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の予測システム。
【請求項5】
前記電力設備は、太陽光発電設備であり、
前記所定のパラメータは、少なくとも日射量を示す日射量情報を含む
ことを特徴とする請求項4に記載の予測システム。
【請求項6】
前記予測部は、前記学習後の係数と、前記予測日の前記所定の推定方法で推定した推定値と、前記電力設備のパネル上の積雪による影響を示す積雪係数と、に基づいて、前記予測日における予測値を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の予測システム。
【請求項7】
前記係数算出部は、前記所定の推定方法で推定した推定値のうち所定の閾値以上の推定値を抽出し、前記実績値のうち所定の閾値以上の前記実績値を抽出し、抽出された前記推定値と前記実績値との誤差を示す係数を出力する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の予測システム。
【請求項8】
コンピュータが
一以上の所定のパラメータに基づき所定の推定方法で推定した推定値と、前記推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を出力する係数出力ステップと、
前記所定のパラメータのうち少なくとも一以上の所定のパラメータに基づき学習がなされたニューラルネットワークに、所定の期間における前記所定のパラメータを入力して、学習後の前記係数を出力し、出力された学習後の前記係数と、予測日の前記所定の推定方法で推定した推定値と、に基づいて、前記予測日における予測値を算出する予測ステップと、
を実現する予測方法であって、
前記コンピュータは、前記予測ステップにおいて、学習後の前記係数が、所定の上限閾値と所定の下限閾値との間に収まっていない場合には、学習後の前記係数を、前記上限閾値と前記下限閾値との中間値に補正し、補正後の前記係数を用いて前記予測値を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測システム、予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、予測対象の太陽光発電装置の周辺に設置されている太陽光発電装置の発電量の変動に基づいて、予測対象の太陽光発電装置の発電量を予測する発電量予測システムが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2013-51326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された発電量予測システムは、予測対象の太陽光発電装置における発電量の変動状況を示す予測対象変動パターンと、予測対象の太陽光発電装置の周辺の地点に設置された太陽光発電装置における発電量の変動状況を示す周辺変動パターンと、を照合することにより、予測対象の太陽光発電装置における将来の発電量を予測する。この発電量予測システムによれば、風に流される雲の影響を考慮して太陽光発電装置の発電量を予測することはできるが、設備劣化や気象条件などによる誤差要因を考慮していないため、正確に発電量の予測をすることができない虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述した課題を解決する主たる本発明は、一以上の所定のパラメータに基づき所定の推定方法で推定した推定値と、前記推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を出力する係数出力部と、前記所定のパラメータのうち少なくとも一以上のパラメータに基づき学習がなされたニューラルネットワークに、所定の期間における前記所定のパラメータを入力して、学習後の前記係数を出力し、出力された学習後の前記係数と、予測日の前記所定の推定方法で推定した推定値と、に基づいて、前記予測日における予測値を算出する予測部と、を備え、前記予測部は、学習後の前記係数が、所定の上限閾値と所定の下限閾値との間に収まっていない場合には、学習後の前記係数を、前記上限閾値と前記下限閾値との中間値に補正し、補正後の前記係数を用いて前記予測値を算出する。
本発明の他の特徴については、添付図面および本明細書の記載により明らかとなる。

【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、推定値と実測値との誤差を縮小することができるため、予測精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】電力システムの構成の一例を示す図である。
図2】電力予測システムの構成の一例を示す図である。
図3】過去DBの一例を示すテーブルである。
図4】設備DBの一例を示すテーブルである。
図5】係数DBの一例を示すテーブルである。
図6】予測DBの一例を示すテーブルである。
図7】ニューラルネットワークを示す概念図である。
図8】予測日を予測する処理の一例を示すフローチャートである。
図9】積雪係数の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下の説明において、同一符号を付した部分は同一の要素を表し、その基本的な構成および動作は同様であるものとする。
【0009】
===電力システム1===
図1は、電力システム1の構成の一例を示す図である。電力システム1は、図1に示すように、電力設備100、気象観測計200、電力予測システム10を含んで構成されている。それぞれの構成要素は、ネットワーク400を介して接続されている。
【0010】
電力設備100は、例えば送配電設備や発電設備である。以下では、電力設備100を太陽光発電設備として説明する。太陽光発電設備は、ネットワーク400を介して電力に関する各種情報を電力予測システム10に送信する。
【0011】
気象観測計200は、気象に関する計測機器であり、例えば日射量計、気温計、風速計を含む。気象観測計200は、電力予測システム10に、例えば、日射量を示す日射量情報、気温、風速を示す気温情報を送信する。なお、電力設備100が例えば風力発電設備である場合、気象観測計200に風向の計測が含まれていてもよい。気象観測計200は、電力予測システム10に対して、ネットワーク400を介してデジタル信号で各種情報を出力するものであってもよいし、直接アナログ信号で出力するものであってもよい。
【0012】
電力予測システム10は、電力に関する推定値と実績値との差を示す係数(調整係数)に基づいて、将来における太陽光発電設備の発電出力を予測するシステムである。電力予測システム10は、気象観測計200から、日射量情報、気温情報、風速情報など、係数を算出するための情報を取得する。なお、電力予測システム10が、日射量情報、風速情報、気象情報を、ネットワーク400を介して気象庁データベース300から取得するように構成されていてもよい。
【0013】
将来における太陽光発電設備100の発電出力を推定する手法として、気象データ、パネル容量に基づいて推定することが考えられる。しかし、この手法では、気象データが発電出力の計算に影響を及ぼす度合を精度良く定めることが難しいこと、また、パネル容量の大きさに対してパワーコンディショナ容量が小さいことにより生じる過積載やパネルの劣化による発電出力の低下が考慮されていないことなどに起因して、発電出力の推定精度が低下する虞があった。
【0014】
これに対して、本実施形態の電力予測システム10では、発電出力の推定値とその推定値に対応する実績値との誤差を抑制するための係数を該推定値に掛けることにより、発電出力の正確な予測を可能とする。この電力予測システム10について、以下詳細に説明する。
【0015】
===電力予測システム10===
図2は、電力予測システム10の構成例を示す。図2に示すように、電力予測システム10は、入力部11、制御部12、記憶部13及び通信部14を備えている。
【0016】
入力部11は、電力予測システム10に対する各種入力を受信する。
【0017】
制御部12は、CPUやMPUなどの演算処理部121及びRAMなどのメモリを備えている。演算処理部121は、各種入力に基づき、記憶部13に記憶されているプログラムを実行することで、各種機能部を動作させるものである。このプログラムは、CDROMなどの記録媒体に記憶され、あるいは、ネットワーク400を介して配布され、コンピュータにインストールされるものであってもよい。メモリは、電力予測システム10用プログラムにおいて処理の実行中、演算などに必要な各種情報を、一時的に記憶するためのものである。
【0018】
記憶部13は、ハードディスクなどの記憶装置によって構成され、制御部12における処理の実行に必要な各種プログラムや、各種プログラムの実行に必要なデータなどを記録しておくものである。本実施形態では、記憶部13は、過去データベース(DB)131、設備DB132、係数DB133、予測DB134を有していることが望ましい。なお、一例として各DBをリレーショナル型データベースで示す。
【0019】
過去DB131には、発電出力の推定値を算出するための過去の実績に関する情報が登録されている。図3に示すように、例えば、過去DB131は、「日時」、「地点」、「日射量」、「気温」、「風速」、「発電出力」、「推定値」を示すフィールドを有している。
【0020】
設備DB132には、発電出力の推定値を算出するための太陽光発電設備100に関する情報が登録されている。図4に示すように、例えば、設備DB132は、「地点」、「傾斜角度」、「設置方位角度」、太陽光発電設備100の「種別」、太陽光発電設備100の「パネル容量」、パワーコンディショナの容量を示す「パワコン容量」、経時変化や損失等を考慮するため設備種別等に応じて汎用的に使用される固定の係数(以下,「固定係数」)を示すフィールドを有している。
【0021】
係数DB133には、推定値と実績値との誤差を示す調整係数が登録されている。図5に示すように、例えば、係数DB133は、「時点」、「実績値」、「推定値」、「調整係数」を示すフィールドを有している。
【0022】
予測DB134には、推定値から予測値を算出するための補正後の調整係数が登録されている。図6に示すように、例えば、予測DB134は、「予測時点」、「推定値」、「補正後の調整係数」、「予測値」を示すフィールドを有している。
【0023】
通信部14は、電力予測システム10を専用回線VPNまたはネットワーク400に接続するための通信インタフェースを有する。通信部14は、例えば、LANカード、アナログモデム、ISDNモデムなどであり、これらをシステムバス等の伝送路を介して処理部と接続するためのインタフェースである。
【0024】
演算処理部121は、図2に示すように、機能部として、受付部121a、推定部121b、係数算出部121c、学習部121d、再学習部121e、予測部121fを備えている。
【0025】
本実施形態においては、後述するように、太陽光発電設備100の発電出力を算出するための傾斜面日射量、気温、風速(所定のパラメータ)と、これらに対応する調整係数とに基づいて機械学習を用いて予測値を算出する。ここで、機械学習には、教師あり学習、教師なし学習、強化学習があり、いずれを用いて予測値を算出してもよいが、本実施形態においては、一例としてニューラルネットワークを用いた教師あり学習による予測値の算出について以下説明する。
【0026】
受付部121aは、受信した各種データを過去DB131に登録する機能部である。
【0027】
推定部121bは、過去DB131に登録されている気象観測データに基づいて、太陽光発電設備100の発電出力の推定値を算出する機能部である。具体的には、推定部121bは、例えば、太陽光発電設備100の、過去の所定の時間における日射量、気温、風速、パネル容量、システム出力係数に基づいて、発電出力の推定値を算出する。発電出力推定値の推定方法は、特に限定されず、一例として以下の式(1)~(4)を用いて推定する手法が考えられる。
【0028】
Tpa=Ta+(A/(B×V0.8+1)+2)×Ga-2 ・・・(1)
(Tpa:太陽電池パネル温度(℃),Ta:外気温度(℃),A:係数(例えば屋根置き型「50」),B:係数(例えば屋根置き型「0.38」),V:風速(m/s),Ga:傾斜面日射量(kW/m))
【0029】
Kpt=1+αmax×(Tpa-25)・・・(2)
(Kpt:温度補正係数,αmax:最大出力温度係数(1/℃),Tpa:太陽電池パネル温度(℃))
【0030】
システム出力係数=Kloss × Kpt ・・・(3)
(Kloss:経時変化(汚れ,劣化),配線抵抗損失,インバータ損失等を考慮するため設備種別等に応じて汎用的に使用される固定の係数,Kpt:温度補正係数)
【0031】
推定値(Pw)=傾斜面日射量(Ga)×システム出力係数×パネル容量・・・(4)
【0032】
係数算出部121cは、所定の時間における、太陽光発電設備100の発電出力の推定値と、実際に発電した発電出力の実績値と、の誤差を示す調整係数を算出する機能部である。係数算出部121cで算出される調整係数は、例えば実績値を推定値で除したものであり、システム出力係数の低精度、パネルの過積載などによる推定値の精度の低下を解消するための係数である。係数算出部121cは、調整係数を係数DB133に登録する。
【0033】
係数算出部121cは、過去DB131から所定の期間における実績値および推定値を取得し、取得した実績値および推定値のうち、パワーコンディショナ容量に所定の係数を掛けた閾値よりも大きいものを抽出する。所定の係数は、例えば太陽光発電設備(パネル)の定格出力に対する、その出力下限を示す割合である。そして、係数算出部121cは、抽出された実績値および推定値に対応する調整係数を係数DB133から抽出する。このように、発電出力が小さい日の実績値および推定値を除外することにより、太陽光発電設備100の推定値の誤差が問題となってくる発電出力レベル以上の運転状態での実績値および推定値に基づいて調整係数を算出できるため、予測精度を向上できる。
【0034】
学習部121dは、ニューラルネットワークを学習させる機能部である。この学習は、入力データとラベルのペアである訓練データを用いる、教師あり学習である。教師あり学習は、所定の入力データに対する特定の結果を予測するときに用いられる。本実施形態では、例えば、入力データが傾斜面日射量、気温、風速、日時であり、ラベルは入力データに対応する発電出力の実績値を推定値で除した調整係数である。
【0035】
本実施形態では、ニューラルネットワークを隠れ層が一層の多層パーセプトロンとして説明するが、隠れ層が複数層あるものでもよく、単純パーセプトロンであってもよい。以下、隠れ層が一層の多層パーセプトロンのニューラルネットワークについて説明する。
【0036】
図7は、ニューラルネットワークを示す概念図である。図7に示すように、ノード01~04は入力データ(入力特徴量)を示す。ノード01~04とノード11,12,13とを接続する線は学習された係数(以下、「学習係数」と称する。)(重み)を示す。このノード11,12,13はいわゆる隠れ層である。同様に、ノード11,12,13とノード21とを接続する線は学習された学習係数(重み)を示す。ノード21は出力データを示す。出力データは、入力データに対する学習係数(重み)付きの和となる。
【0037】
学習部121dは、入力データ、ラベルをニューラルネットワークに与え、ラベルと出力データとの誤差が縮小するように学習係数を変更する。このように、学習部121dは、訓練データの特徴をニューラルネットワークに学習させ、入力データから最適な調整係数を出力するニューラルネットワーク(以下、「学習済みモデル」と称する。)を帰納的に取得する。
【0038】
ここで、各層間を伝搬する電気信号を調整する活性化関数は、任意の実数を非線形に変換することができる関数であればよい。例えば、活性化関数は、ハイパボリックタンジェント関数、ReLU関数などである。
【0039】
学習部121dは、その時点までの教師あり学習により構築した学習済みモデルを、記憶部に登録する。これにより、後述する再学習部121eは、学習済みモデルを取得して、ファインチューニングを実行できる。
【0040】
再学習部121eは、学習済みモデルの学習係数を用いてファインチューニングする機能部である。本実施形態においては、学習部121dで学習する訓練データが例えば一年間のデータであるのに対して、再学習部121eで学習する訓練データは例えば予測日の直近過去二週間である。このように予測日と同様の気象条件である直近過去の訓練データで再学習させることにより、一年間分の訓練データだけで学習モデルを生成することに比べて予測精度が向上する。
【0041】
予測部121fは、学習済みモデルに、所定の期間における傾斜面日射量、気温、風速を入力して、学習後の調整係数を出力し、学習後の調整係数が所定の条件を満たしている場合は、予測日の推定値に学習後の調整係数を掛けて予測値を算出する機能部である。ここで、所定の条件とは、所定の上限閾値と所定の下限閾値との間に収まっていることをいう。このような一定の範囲に収まる学習後の調整係数を用いることにより、異常値を排除できるため、予測精度を向上できる。
【0042】
予測部121fは、学習後の調整係数が所定の条件を満たしていない場合は、学習後の調整係数を上限閾値と下限閾値との間に収まるようにさらに補正する。学習後の調整係数の補正は、例えば、学習後の調整係数を上限閾値または下限閾値に補正することや、上限閾値と下限閾値の中間値に補正することである。
【0043】
===電力予測システム10の動作===
図8は、電力予測システム10の処理の一例を示すフローである。図8を参照しつつ、電力予測システム10が太陽光発電設備の発電出力の予測値を算出する処理について説明する。
【0044】
まず、電力予測システム10の受付部121aは、気象観測計200で観測した各種気象データを予め取得し(S10)、過去DB131に実績値を登録する(S11)。また、電力予測システム10には、予め設備DB132が構築されている。
【0045】
電力予測システム10の推定部121bは、過去DB131の過去の各種気象情報、設備DB132の設備情報に基づいて、太陽光発電設備の発電出力の推定値を算出する。電力予測システム10は、算出された推定値、該推定値に対応する実績値を係数DB133に登録する(S12)。この推定値は、過去における推定値である。
【0046】
以下においては、理解を容易にするために一例として、図5に示すように、所定の太陽光発電設備100における、時点1~時点5の実績値がそれぞれ「105kW」「200kW」「323kW」「441kW」「513kW」であり、時点1~時点5の推定値がそれぞれ「150kW」「250kW」「380kW」「490kW」「540kW」であるものとして説明する。
【0047】
電力予測システム10の係数算出部121cは、時点1~時点5の調整係数を算出し、それらを係数DB133に登録する(S13,S14)。具体的には、時点1の調整係数は、時点1の実績値「105kW」を時点1の推定値「150kW」で除した「0.7」である。同様に、時点2の調整係数は「0.8」となり、時点3の調整係数は「0.85」となり、時点4の調整係数は「0.9」となり、時点5の調整係数は「0.95」となる。
【0048】
係数算出部121cは、係数DB133を参照して、実績値および推定値のうち、所定の条件、すなわち本実施形態ではパワーコンディショナ容量に所定の係数を掛けた閾値よりも大きいものを抽出する(S15)。以下、電力予測システム10は、一例として過去一年分の実績値および推定値を抽出したものとする。なお、過去データは一年分よりも多ければ多いほど望ましい。
【0049】
電力予測システム10の学習部121dは、抽出した実績値および推定値に対応する調整係数をラベルとし、該調整係数に対応する傾斜面日射量、気温、風速を入力データとして、ニューラルネットワークを学習させて、学習済みモデルを生成する(S16)。なお、学習部121dは、学習を開始する前にニューラルネットワークに重みを乱数で割り当てる。また、学習部121dがニューラルネットワークに対する教師あり学習を終了させる条件は、任意に定めることができる。例えば、予め定めておいた日数分だけ教師あり学習を繰り返した場合に、教師あり学習を終了させるようにする。また、ニューラルネットワークの出力データとラベルとの誤差の値が所定値以下となった場合に、教師あり学習を終了させるようにしてもよい。
【0050】
次に、操作者が、電力予測システム10に予測日を指定する(S17)。
【0051】
電力予測システム10の再学習部121eは、学習済みモデルを、予測日の直近二週間程度の訓練データでファインチューニングする(S18,S19)。これにより、学習済みモデルの予測精度を向上できる。なお、当該訓練データにおいても、係数算出部121cにおける抽出作業と同様に、実績値および推定値のうち、所定の条件、すなわち本実施形態ではパワーコンディショナ容量に所定の係数を掛けた閾値よりも大きいものを抽出して用いる。
【0052】
電力予測システム10の予測部121fは、再学習した学習済みモデルに予測日の傾斜面日射量、気温、風速を入力して、学習後の調整係数を算出する(S20)。
【0053】
予測部121fは、学習後の調整係数が所定の上限閾値と、所定の下限閾値との間に収まっているか否かを判定する(S21)。以下、一例として上限閾値を「0.95」とし下限閾値を「0.85」として説明する。予測部121fは、図6に示すように、学習後の調整係数が「0.9」である場合、範囲内であると判定する。ここで、例えば、学習後の調整係数が「0.8」である場合、予測部121fは、学習後の調整係数が範囲外であると判定し、学習後の調整係数を下限閾値「0.85」に補正する。また、例えば、学習後の調整係数が「0.98」である場合、予測部121fは、学習後の調整係数が範囲外であると判定し、学習後の調整係数を上限閾値「0.95」に補正する。なお、学習後の調整係数を下限閾値または上限閾値に補正するように説明したが、下限閾値と上限閾値との間に収まるように補正してもよい。
【0054】
電力予測システム10の推定部121bは、所定の太陽光発電設備100についての指定された予測日における推定値を算出する(S22)。予測部121fは、算出された推定値に学習後の調整係数を乗じて、予測日の予測値を算出する(S23)。予測部121fは、予測値を予測DB134に登録する(S24)。
【0055】
===他の実施形態===
予測部121fは、上述したように推定値に調整係数を乗じて予測値を算出しているが、さらに、太陽光発電設備100のパネル上の積雪による発電出力の減少を反映するための積雪係数を乗じてもよい。積雪係数は、例えば図9に示されるような値を示す。図9は、例えば縦軸を「積雪係数」とし横軸を「積雪深」とする座標である。図9に示すように、積雪係数は、所定の積雪深(LおよびH)の間で、積雪深が大きくなるにつれて積雪係数が小さくなる。予測部121fは、過去の所定の時間以内に積雪があったか否かを判定し、積雪がないと判定した場合は、パネル上に積雪がないと判定し、積雪係数を「1」とする。積雪があると判定した場合は、パネル上に積雪があると判定し、予測部121fは、例えば現在又は将来の時点における積雪深情報、気象情報、設備情報および定数情報から統計的手法を用いて、積雪係数を算出する。
【0056】
また、予測部121fは、上述したように算出された予測値から太陽光発電設備100で消費される自己消費分の電力を差し引いて、予測値を算出してもよい。
【0057】
また、所定の電力設備100を、太陽光発電設備100として説明したが、風力発電設備や電力需要設備などであってもよい。つまり、推定値を算出し、所定の条件を満たした推定値、実績値を用いて調整係数を算出し、ニューラルネットワークを用いて学習後の調整係数を算出することにより、予測値を算出できる設備であればよい。
【0058】
また、図1図2では、電力予測システム10が一の装置で構成されているように示したが、これに限定されない。電力予測システム10は、複数の装置で構成されていてもよく、また、クラウド上に構成されていてもよい。
【0059】
また、電力予測システム10は、太陽光発電設備100の発電出力の推定値と実績値との差を示す係数(調整係数)に基づいて、将来における太陽光発電設備100の発電出力を予測するシステムであるとして説明したが、これに限定されない。当該システムは、推定値と実績値を取得できるものであればよく、例えば、電力需要設備や電力消費設備などの電力設備全般、あるいは、製造設備による製造物の個数を予測するシステムであってもよい。
【0060】
また、学習部121dは、傾斜面日射量、気温、風速を入力データとしてニューラルネットワークを学習させるように説明したが、これに限定されず、湿度や天候など多様なパラメータを入力データとしてニューラルネットワークを学習させてもよい。
【0061】
また、学習部121dは、入力データを正規化して0~1の範囲に変換して用いてもよい。正規化では、それぞれの特徴量を同じ特徴量の最大値で割る。これにより、それぞれの特徴量間のスケールの違いを合わせることができる。
【0062】
また、学習部121dは、各特徴量(入力データ)の平均を「0」、分散を「1」にするように、入力データを標準正規分布に従うように変換してもよい。このように各特徴量の分散をそろえておくことで、それぞれの特徴量の動きに対する感度を平等に見ることができる。
【0063】
また、学習部121dは、日時を入力することにより一つのニューラルネットワークのモデルを構築するように説明したが、予測時刻別の学習済みモデル、例えば、1時間毎に予測する場合、12:00の予測には12:00の学習済みモデル、13:00の予測には13:00の学習済みモデルというように、時刻毎に学習済みモデルを構築してもよい。これにより、他の時刻の入力値が当該時刻の予測値へ与える影響を軽減できる。
【0064】
===まとめ===
本実施形態に係る電力予測システム10は、一以上の所定のパラメータ(日射量、気温、風速など)に基づき所定の推定方法で推定した推定値と、推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を出力する係数出力部121cと、所定のパラメータのうち少なくとも一以上の所定のパラメータ(日射量、気温、風速など)に基づき学習がなされたニューラルネットワークに、所定の期間における所定のパラメータを入力して、学習後の調整係数を出力し、出力された学習後の調整係数と、予測日の推定値と、に基づいて、予測日における予測値を算出する予測部121fと、を備える。これにより、推定値と実績値との誤差を低減することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る電力予測システム10は、推定値と、推定値に対応する実績値と、の誤差を示す学習後の調整係数を出力するべく、推定値の算出に用いた所定のパラメータのうち少なくとも一以上のパラメータに基づきニューラルネットワークを学習させる学習部121dをさらに備える。これにより、ニューラルネットワークを迅速、効率的に学習させることができる。
【0066】
また、本実施形態に係る電力予測システム10は、所定の期間において、学習部121dで学習されたニューラルネットワークを、所定の期間よりも短い期間における所定のパラメータに基づきファインチューニングする再学習部121eをさらに備える。これにより、学習部121dによる学習済みモデルを再学習させるため予測精度が向上する。
【0067】
また、本実施形態に係る電力予測システム10の係数算出部121cは、電力設備100における、所定の推定方法で推定した電力に関する推定値と、推定値に対応する実績値と、の誤差を示す係数を算出する。これにより、設備劣化や気象条件に影響を受けやすい電力設備の出力を予測することで、電力系統の安定運転が可能となる。
【0068】
また、本実施形態に係る電力予測システム10が発電出力を予測する所定の電力設備100は、太陽光発電設備であり所定のパラメータには少なくとも日射量を含む。これにより、自然エネルギーによる発電設備における推定値と実績値との差を低減することができる。
【0069】
また、本実施形態に係る電力予測システム10の予測部121fは、学習後の調整係数と、予測日の推定値と、所定の電力設備100のパネル上の積雪による影響を示す積雪係数と、に基づいて、予測日における予測値を算出する。これにより、パネル上の積雪を考慮して予測値を算出するため、より正確な予測値を算出することができる。
【0070】
また、本実施形態に係る電力予測システム10の係数算出部121cは、推定値のうち所定の閾値以上の推定値を抽出し、実績値のうち所定の閾値以上の実績値を抽出し、抽出された推定値と実績値との誤差を示す係数を算出する。これにより、所定の電力設備100の推定値の誤差が問題となってくる発電出力レベル以上の運転状態での推定値、実績値を用いて予測するため、推定値と実績値との誤差をより低減することができる。
【0071】
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0072】
10 電力予測システム
100 電力設備
121c 係数算出部
121d 学習部
121e 再学習部
121f 予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9