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特許7342371絶縁回路基板、及び、絶縁回路基板の製造方法
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  • 特許-絶縁回路基板、及び、絶縁回路基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】絶縁回路基板、及び、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/09 20060101AFI20230905BHJP
   H05K 3/20 20060101ALI20230905BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20230905BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20230905BHJP
   H05K 1/05 20060101ALI20230905BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
H05K1/09 C
H05K3/20 Z
H01L23/12 S
H01L23/12 J
H01L23/36 C
H05K1/05 A
B32B15/08 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019024743
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020136349
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂庭 慶昭
(72)【発明者】
【氏名】大橋 東洋
【審査官】原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181417(WO,A1)
【文献】特開2012-160548(JP,A)
【文献】特開平01-266790(JP,A)
【文献】特開2013-229545(JP,A)
【文献】国際公開第2014/046130(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H05K 3/20
H01L 23/12
H01L 23/36
H05K 1/05
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路パターン状を有する回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記絶縁樹脂層は、熱伝導率が10W/(m・K)以上とされており、
前記回路層は、前記絶縁樹脂層側に配置された銅層と、この銅層に積層されたアルミニウム層と、を有しており、前記アルミニウム層は、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムで構成されており、
前記銅層の厚さtaが0.25mm以上5.0mm以下の範囲内とされ、前記アルミニウム層の厚さtbが0.02mm以上0.3mm以下の範囲内とされ、前記銅層の厚さtaと前記アルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが2.5以上15以下の範囲内とされており、
前記銅層と前記アルミニウム層との接合界面には、CuとAlの金属間化合物からなる金属間化合物層が形成されており、この金属間化合物層は、複数の相の金属間化合物が積層した構成とされていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記銅層の厚さtaと前記アルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが10以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【請求項3】
前記銅層の厚さtaが0.3mm以上とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁回路基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
積層した銅板及びアルミニウム板を積層方向に加圧するとともに加熱して、前記銅板と前記アルミニウム板とを固相拡散接合し、銅とアルミニウムの積層板を形成する積層板形成工程と、
前記積層板を加工して、前記回路層を構成する金属片を形成する金属片形成工程と、
前記金属基板の一方の面に、樹脂組成物を配置する樹脂組成物配置工程と、
前記樹脂組成物の一方の面に、前記金属片をパターン状に配置するとともに、押圧部材を配置する金属片及び押圧部材配置工程と、
前記金属基板と前記樹脂組成物と前記金属片及び押圧部材を積層方向に加圧するとともに加熱して、前記樹脂組成物を硬化させて前記絶縁樹脂層を形成するとともに、前記金属基板と前記絶縁樹脂層、前記絶縁樹脂層と前記金属片を接合する樹脂硬化工程と、
を備えていることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路パターン状を有する回路層と、を備えた絶縁回路基板、及び、この絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
上述の絶縁回路基板として、例えば特許文献1に記載された金属ベース回路基板が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載された金属ベース回路基板においては、金属基板上に絶縁樹脂層が形成され、この絶縁樹脂層上に回路パターンを有する回路層が形成されている。ここで、絶縁樹脂層は、熱硬化型樹脂であるエポキシ樹脂で構成されており、回路層は、銅箔で構成されており、絶縁樹脂層上に配設された銅箔をエッチング処理することによって回路パターンを形成している。
【0004】
そして、特許文献1に記載された金属ベース回路基板においては、回路層の上にはんだ層を介して各種素子等が接合され、上述の各種モジュールが構成される。
ここで、銅箔からなる回路層及び絶縁樹脂層は、熱膨張係数が大きいため、上述の各種モジュールに冷熱サイクルが負荷された場合には、熱応力によってはんだ層にクラックが生じてしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、例えば特許文献2、3には、冷熱サイクル負荷時の熱応力に起因するはんだ層のクラックの発生を抑制する技術が提案されている。
特許文献2においては、フィラーを含まない低弾性樹脂層を形成することにより、はんだ層に作用する熱応力を緩和する技術が提案されている。
特許文献3においては、絶縁樹脂層全体を低弾性化することにより、はんだ層に作用する熱応力を緩和する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-207666号公報
【文献】特開2012-129445号公報
【文献】特開2007-149870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、最近では、各種素子からの発熱量が大きくなる傾向にあり、従来にも増して、放熱特性に優れた絶縁回路基板が要求されている。
ここで、上述の特許文献2においては、フィラーを含んでいないため、熱伝導率が低くなり、放熱特性が不十分であった。
また、特許文献3においては、フィラーを含有しているものの、やはり、熱伝導率が例えば5W/(m・K)以下と低く、放熱特性が不十分であった。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、回路層上にはんだ層を介して各種素子を接合した場合であっても、熱応力によるはんだ層のクラックの発生を抑制でき、かつ、放熱特性に優れた絶縁回路基板、及び、この絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、本発明の絶縁回路基板は、金属基板と、この金属基板の一方の面に形成された絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の前記金属基板とは反対側の面に形成された回路パターン状を有する回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記絶縁樹脂層は、熱伝導率が10W/(m・K)以上とされており、前記回路層は、前記絶縁樹脂層側に配置された銅層と、この銅層に積層されたアルミニウム層と、を有しており、前記アルミニウム層は、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムで構成されており、前記銅層の厚さtaが0.25mm以上5.0mm以下の範囲内とされ、前記アルミニウム層の厚さtbが0.02mm以上0.3mm以下の範囲内とされ、前記銅層の厚さtaと前記アルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが2.5以上15以下の範囲内とされており、前記銅層と前記アルミニウム層との接合界面には、CuとAlの金属間化合物からなる金属間化合物層が形成されており、この金属間化合物層は、複数の相の金属間化合物が積層した構成とされていることを特徴としている。
【0010】
この構成の絶縁回路基板によれば、前記絶縁樹脂層が、熱伝導率が10W/(m・K)以上の樹脂で構成されており、絶縁樹脂層での熱伝導性に優れている。また、前記回路層は、前記絶縁樹脂層側に配置された銅層を有しており、熱伝導率の高い銅層によって熱を面方向に拡げることが可能となる。よって、放熱特性に特に優れた絶縁回路基板となる。
また、前記回路層は、銅層に積層するアルミニウム層を有しており、このアルミニウム層上にはんだ層が形成されることになる。そして、上述のアルミニウム層は、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムで構成されているので、冷熱サイクル負荷時にはんだ層に作用する熱応力をこのアルミニウム層で緩和することが可能となる。
よって、冷熱サイクルが負荷された場合であっても、はんだ層におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記銅層の厚さtaと前記アルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが10以下とされていることが好ましい。
この場合、前記銅層の厚さtaと前記アルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが10以下とされ、銅層に対して十分な厚さのアルミニウム層が形成されており、このアルミニウム層において、冷熱サイクル負荷時にはんだ層に作用する熱応力を確実に緩和することが可能となる。
【0012】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記銅層の厚さtaが0.3mm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記銅層の厚さtaが0,3mm以上とされ、銅層の厚さが確保されているので、銅層において、効率的に熱を面方向に拡げることができ、放熱特性を確実に向上させることができる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、積層した銅板及びアルミニウム板を積層方向に加圧するとともに加熱して、前記銅板と前記アルミニウム板とを固相拡散接合し、銅とアルミニウムの積層板を形成する積層板形成工程と、前記積層板を加工して、前記回路層を構成する金属片を形成する金属片形成工程と、前記金属基板の一方の面に、樹脂組成物を配置する樹脂組成物配置工程と、前記樹脂組成物の一方の面に、前記金属片をパターン状に配置するとともに、押圧部材を配置する金属片及び押圧部材配置工程と、前記金属基板と前記樹脂組成物と前記金属片及び押圧部材を積層方向に加圧するとともに加熱して、前記樹脂組成物を硬化させて前記絶縁樹脂層を形成するとともに、前記金属基板と前記絶縁樹脂層、前記絶縁樹脂層と前記金属片を接合する樹脂硬化工程と、を備えていることを特徴としている。
【0014】
この構成の絶縁回路基板の製造方法においては、上述のように、銅とアルミニウムの積層板を形成する積層板形成工程と、前記回路層を構成する金属片を形成する金属片形成工程と、樹脂組成物を配置する樹脂組成物配置工程と、前記樹脂組成物の一方の面に金属片及び押圧部材を配設する金属片及び押圧部材配置工程と、前記樹脂組成物を硬化させる樹脂硬化工程と、を備えているので、上述の構成の絶縁回路基板を製造することが可能となる。
また、エッチングすることなく、回路パターンが形成されることになり、回路層が銅層とアルミニウム層との積層体で構成されていても、回路パターンを精度良く形成することが可能となる。
さらに、前記金属基板と前記樹脂組成物と前記金属片及び押圧部材を積層方向に加圧しているので、樹脂組成物を十分に加圧して、前記樹脂組成物を確実に硬化させることができ、絶縁樹脂層の絶縁性を確保することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回路層上にはんだ層を介して各種素子を接合した場合であっても、熱応力によるはんだ層のクラックの発生を抑制でき、かつ、放熱特性に優れた絶縁回路基板、及び、この絶縁回路基板の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を備えたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の概略説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法を説明するフロー図である。
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10、及び、この絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0018】
図1に示すパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面(図1において上面)に第1はんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(図1において下側)に第2はんだ層32を介して接合されたヒートシンク31と、を備えている。
【0019】
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
ここで、絶縁回路基板10と半導体素子3とは、第1はんだ層2を介して接合されている。この第1はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
【0020】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等で構成されている。本実施形態においては、無酸素銅からなる放熱板とされている。なお、ヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
ここで、絶縁回路基板10とヒートシンク31とは、第2はんだ層32を介して接合されている。この第2はんだ層32は、上述のはんだ層2と同様に、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)で構成することができる。
【0021】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、図1及び図2に示すように、金属基板11と、金属基板11の一方の面(図1及び図2において上面)に形成された絶縁樹脂層12と、絶縁樹脂層12の一方の面(図1及び図2において上面)に形成された回路層15と、を備えている。
【0022】
金属基板11は、絶縁回路基板10に搭載された半導体素子3において発生した熱を面方向に拡げることによって、放熱特性を向上させる作用を有する。このため、金属基板11は、熱伝導性に優れた金属、例えば銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている。本実施形態では、無酸素銅の圧延板で構成されている。
また、金属基板11の厚さは、0.05mm以上3mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。
【0023】
絶縁樹脂層12は、回路層15と金属基板11との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性を有する熱硬化型樹脂で構成されている。この絶縁樹脂層12は、熱伝導率が10W/(m・K)以上とされている。
本実施形態では、絶縁樹脂層12の強度及び熱伝導率を確保するために、フィラーを含有する熱硬化型樹脂が用いられている。
ここで、フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を用いることができる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂等を用いることができる。本実施形態では、絶縁樹脂層12は、フィラーとしてアルミナを含有するエポキシ樹脂で構成されている。
また、絶縁樹脂層12の厚さは、20μm以上250μm以下の範囲内とされており、本実施形態では、60μmとされている。
【0024】
回路層15は、図1及び図2に示すように、絶縁樹脂層12側に配置された銅層15aと、この銅層15aに積層されたアルミニウム層15bと、を備えた積層構造とされている。すなわち、アルミニウム層15bに、第1はんだ層2を介して半導体素子3が搭載される構成とされている。
銅層15aは、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、無酸素銅の圧延板とされている。
アルミニウム層15bは、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムで構成されており、本実施形態では純度が99.99mass%以上の4Nアルミニウム(上述の弾性率38MPa)で構成されている。
なお、アルミニウム層15aの塑性変形域における弾性率は、応力ひずみ線図における0.2%耐力から最大引っ張り強さまでの傾きである。
【0025】
ここで、銅層15aの厚さtaは、0.25mm以上5.0mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、銅層15aの厚さtaの下限は、0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることがさらに好ましい。一方、銅層15aの厚さtaの上限は、2.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
また、アルミニウム層15bの厚さtbは、0.02mm以上0.3mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、アルミニウム層15bの厚さtbの下限は、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。一方、アルミニウム層15bの厚さtbの上限は、0.2mm以下であることが好ましく、0.15mm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
さらに、銅層15aの厚さtaとアルミニウム層15bの厚さtbとの比ta/tbは、2.5以上15以下の範囲内であることが好ましい。
なお、上述の厚さ比ta/tbの下限は、3以上であることが好ましく、5以上であることがさらに好ましい。一方、上述の厚さ比ta/tbの上限は、12.5以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましい。
【0028】
なお、本実施形態においては、回路層15を構成する銅層15a及びアルミニウム層15bは、固相拡散接合によって接合されており、銅層15aとアルミニウム層15bとの接合界面には、CuとAlの金属間化合物からなる金属間化合物層(図示なし)が形成されている。なお、この金属間化合物層は、複数の相の金属間化合物で構成されており、具体的には、η相、ζ相、δ相、及びγ相等が積層した構成とされている。
【0029】
また、この回路層15は、図5に示すように、絶縁樹脂層12(樹脂組成物22)の一方の面(図5において上面)に、銅層25aとアルミニウム層25bとが積層された積層構造の金属片25が接合されることにより形成されている。
この回路層15においては、上述の金属片25がパターン状に配置されることで回路パターンが形成されている。
【0030】
次に、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、図3から図5を参照して説明する。
【0031】
(積層板形成工程S01)
まず、図3及び図4に示すように、無酸素銅からなる銅板35aと4Nアルミニウムからなるアルミニウム板35bとを積層して接合し、積層板35を形成する。
本実施形態では、銅板35aとアルミニウム板35bとを固相拡散接合することにより、積層板35を形成している。
【0032】
この積層板形成工程S01においては、銅板35aの上にアルミニウム板35bを積層する。このとき、銅板35a及びアルミニウム板35bのそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされていることが好ましい。
そして、積層した銅板35a及びアルミニウム板35bを、積層方向に加圧(0.1MPa以上3.5MPa以下)するとともに加熱して、銅板35aとアルミニウム板35bとを固相拡散接合し、積層板35を得る。
ここで、固相拡散接合時の接合条件は、加熱温度を400℃以上548℃未満、加熱温度での保持時間を5分以上240分以下の範囲内とすることが好ましい。
【0033】
(金属片形成工程S02)
次に、上述の積層板35を打ち抜き加工することにより、回路層15となる金属片25を形成する。
本実施形態では、図4に示すように、打ち抜き加工機51の凸型52及び凹型53によって積層板35を挟持して剪断することにより、所定の形状の金属片25を積層板35から打ち抜く。これにより、銅層25aとアルミニウム層25bとの積層構造の金属片25が得られる。
【0034】
(樹脂組成物配置工程S03)
次に、図3及び図5に示すように、金属基板11の一方の面(図5において上面)に、フィラーと、熱硬化型樹脂と、硬化剤と、を含有する樹脂組成物22からなるシート材を配置する。このとき、樹脂組成物22の厚さt0は、40μm以上500μm以下の範囲内とされている。
また、本実施形態では、フィラーとしてアルミナと窒化ホウ素を用いている。また、熱硬化型樹脂としてエポキシ樹脂を用いている。
【0035】
(金属片及び押圧部材配置工程S04)
次に、上述の樹脂組成物22の一方の面(図5において上面)に、複数の金属片25を回路パターン状に配置するとともに、金属片25以外の領域に押圧部材40を配設する。
押圧部材40は、金属片25と同じ厚さとなるよう設計されており、具体的には、押圧部材40と金属片25との厚さの公差が0.03mm以内とされている。
【0036】
(樹脂硬化工程S05)
次に、金属基板11と樹脂組成物22と金属片25及び押圧部材40とを積層方向に加圧するとともに加熱して、樹脂組成物22を硬化させて絶縁樹脂層12を形成するとともに、金属基板11と絶縁樹脂層12、絶縁樹脂層12と金属片25を接合する。
この樹脂硬化工程S05においては、加熱温度が120℃以上250℃以下の範囲内とされ、加熱温度での保持時間が10分以上180分以下の範囲内とされている。また、積層方向の加圧荷重が1MPa以上5MPa以下の範囲内とされている。
ここで、この樹脂硬化工程S05においては、硬化前の樹脂組成物22の厚さt0と硬化後の絶縁樹脂層12の厚さt1との比t1/t0が0.8以下となるように、金属基板11と樹脂組成物22と金属片25及び押圧部材40とを積層方向に加圧することが好ましい。
【0037】
以上のようにして、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0038】
(ヒートシンク接合工程S06)
次に、金属基板11とヒートシンク31とをはんだ材を介して積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
【0039】
(半導体素子接合工程S07)
次いで、回路層15に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態に係る絶縁回路基板10によれば、絶縁樹脂層12が、熱伝導率が10W/(m・K)以上の樹脂で構成されているので、絶縁樹脂層12での熱伝導性に優れている。さらに、回路層15が銅層15aを備えているので、この銅層15aによって、半導体素子3からの熱を面方向に効率的に拡げることができる。よって、放熱特性に優れた絶縁回路基板10を提供することができる。
【0041】
そして、本実施形態に係る絶縁回路基板10においては、回路層15が絶縁樹脂層12側に配置された銅層15aと、この銅層15aに積層されたアルミニウム層15bと、を有し、アルミニウム層15bに第1はんだ層2を介して半導体素子3が接合される構成とされており、このアルミニウム層15bが、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムで構成されているので、第1はんだ層2に作用する熱応力をこのアルミニウム層15bで十分に緩和することが可能となる。よって、冷熱サイクルが負荷された場合であっても、第1はんだ層2におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0042】
さらに、本実施形態において、銅層15aの厚さtaとアルミニウム層15bの厚さtbとの比ta/tbが10以下とされている場合には、銅層15aに対して十分な厚さのアルミニウム層15bが形成されていることになり、このアルミニウム層15bにおいて、第1はんだ層2に作用する熱応力を確実に緩和することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態において、銅層15aの厚さtaが0.3mm以上とされている場合には、銅層15aの厚さが確保されることになり、銅層15aにおいて、効率的に熱を面方向に拡げることができ、放熱特性を確実に向上させることができる。
【0044】
さらに、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、銅板35aとアルミニウム板35bが固相拡散接合された積層板35を形成する積層板形成工程S01と、回路層15を構成する金属片25を形成する金属片形成工程S03と、樹脂組成物22を配置する樹脂組成物配置工程S03と、樹脂組成物22の一方の面に金属片25及び押圧部材40を配置する金属片及び押圧部材配置工程S04と、樹脂組成物22を硬化させて絶縁樹脂層12を形成する樹脂硬化工程S05と、を備えているので、上述の絶縁回路基板10を製造することが可能となる。
【0045】
また、エッチングすることなく、回路パターンが形成されることになり、回路層15が銅層15aとアルミニウム層15bとの積層体で構成されていても、回路パターンを精度良く形成することが可能となる。
さらに、金属基板11と樹脂組成物22と金属片25及び押圧部材40を積層方向に加圧しているので、樹脂組成物22を十分に加圧することで樹脂組成物22を確実に硬化させることができ、絶縁樹脂層12の絶縁性を確保することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態においては、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0047】
また、本実施形態においては、金属基板を銅又は銅合金で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム又はアルミニウム合金等の他の金属で構成されたものであってもよい。また、複数の金属が積層された構造のものであってもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、絶縁樹脂層を構成する樹脂組成物として、無機フィラーとしてアルミナ及び窒化ホウ素を含有するエポキシ樹脂を用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、絶縁樹脂層の熱伝導率が10W/(m・K)以上であり、かつ、回路層と金属基板とを絶縁できるものであればよい。
【0049】
さらに、本実施形態では、アルミニウム層を純度99.99mass%以上の4Nアルミニウムで構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、塑性変形域における弾性率が100MPa未満のアルミニウムであればよい。
また、本実施形態では、銅層を無酸素銅で構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、タフピッチ銅等の他の銅又は銅合金で構成されていてもよい。
【0050】
また、本実施形態では、樹脂組成物の一方の面に、金属片と、この金属片と高さがほぼ同一の押圧部材を配置して、樹脂組成物を積層方向に加圧するものとして説明したが、これに限定されることはなく、樹脂組成物の一方の面全体を均一に加圧できる方法であれば、その他の方法を採用してもよい。
【実施例
【0051】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0052】
上述した本実施形態である絶縁回路基板の製造方法により、無酸素銅の圧延板(40mm×40mm、厚さ2.0mm)からなる金属基板の一方の面に、表1に示す絶縁樹脂層を形成されるとともに、この絶縁樹脂層上に表2に示す回路層(37mm×37mm,厚さは表2に記載)が形成された絶縁回路基板を製造した。なお、樹脂硬化工程は、表3に示す条件で実施した。
なお、絶縁樹脂層の熱伝導率は、大気雰囲気、室温(25℃)でレーザフラッシュ法によって熱拡散率を測定するとともに、比熱をDSCで測定し、密度をアルキメデス法により測定し、それぞれの値から算出した。
なお、第2層(アルミニウム層)の弾性率(塑性変形域における弾性率)は、応力ひずみ線図を作成し、0.2%耐力から最大引っ張り強さまでの傾きとして算出した。
【0053】
得られた絶縁回路基板の回路層上に、はんだ材(千住金属工業株式会社製エコソルダーペレットSM725)を用いて半導体素子(6mm×6mm)をはんだ接合した。なお、はんだ層の厚さは1.5mmとした。
はんだ接合条件は、雰囲気を窒素と水素の混合雰囲気(体積比で窒素:水素=1:3)とし、室温から昇温して210℃で10分保持した後、310℃で5分間保持した。なお、昇温速度は10℃/minとした。
【0054】
そして、ΔVF法により、絶縁回路基板の放熱特性を評価した。ΔVf法は、半導体素子の順方向からの立ち上がり電圧Vfの温度依存性を利用して放熱特性を評価するものであり、一定時間の電力印加前後でのVfの変化(ΔVf)を測定する。このΔVfが小さいと、素子の温度上昇が小さいことになり、絶縁回路基板の放熱特性が良好であることになる。評価結果を表3に示す。
【0055】
さらに、半導体素子を接合した絶縁回路基板に対して、-40℃×5.5分←→150℃×4.0分の冷熱サイクルを2000サイクル負荷した。その後、透過X線によってはんだ層を観察し、以下の式から接合率を算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち、はんだ層の面積とした。なお、はんだ層にクラックが多く存在すると、接合率が低下することになる。評価結果を表3に示す。
接合率(%)={(初期接合面積)-(剥離面積)}/(初期接合面積)×100
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
回路層を銅層のみで構成した比較例1においては、冷熱サイクル負荷後にはんだ層にクラックが多く観察され、接合率が大きく低下した。
回路層を銅層とアルミニウム層との積層構造とし、アルミニウム層の塑性変形域における弾性率が100MPa以上とされた比較例2,3においては、冷熱サイクル負荷後にはんだ層にクラックが多く観察され、接合率が大きく低下した。アルミニウム層によって熱応力を十分に緩和できなかったためと推測される。
【0060】
回路層をアルミニウム層のみで構成した比較例4においては、放熱特性が不十分であった。熱を十分に面方向に拡げることができなかったためと推測される。
絶縁樹脂層の熱伝導率が10W/(m・K)未満であった比較例5においては、放熱特性が不十分であった。絶縁樹脂層が熱抵抗となったためと推測される。
【0061】
これに対して、回路層を銅層とアルミニウム層との積層構造とし、アルミニウム層の塑性変形域における弾性率が100MPa未満とされ、絶縁樹脂層の熱伝導率が10W/(m・K)以上とされた本発明例1~7においては、冷熱サイクル負荷後におけるはんだ層のクラックが少なく、接合率が十分維持された。また、放熱特性に十分優れていた。
また、銅層の厚さtaとアルミニウム層の厚さtbとの比ta/tbが10以下とされた本発明例1-5,7においては、冷熱サイクル負荷後におけるはんだ層のクラックの発生がさらに抑制されており、接合率がさらに高くなった。
さらに、銅層の厚さtaが0.3mm以上とされた本発明例1~6においては、放熱特性にさらに優れていた。
【0062】
以上のことから、本発明例によれば、回路層上にはんだ層を介して各種素子を接合した場合であっても、熱応力によるはんだ層のクラックの発生を抑制でき、かつ、放熱特性に優れた絶縁回路基板、及び、この絶縁回路基板の製造方法を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
10 絶縁回路基板
11 金属基板
12 絶縁樹脂層
15 回路層
15a 銅層
15b アルミニウム層
22 樹脂組成物
25 金属片
35 積層板
40 押圧部材
図1
図2
図3
図4
図5