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特許7342391荷電装置および荷電装置を備える空気清浄機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】荷電装置および荷電装置を備える空気清浄機
(51)【国際特許分類】
   B03C 3/40 20060101AFI20230905BHJP
   B03C 3/68 20060101ALI20230905BHJP
   B03C 3/41 20060101ALI20230905BHJP
   B03C 3/02 20060101ALI20230905BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20230905BHJP
   A61L 9/015 20060101ALI20230905BHJP
   F24F 8/192 20210101ALI20230905BHJP
   F24F 8/26 20210101ALI20230905BHJP
   F24F 8/80 20210101ALI20230905BHJP
【FI】
B03C3/40 A
B03C3/68 Z
B03C3/41 B
B03C3/02 B
A61L9/00 Z
A61L9/015
F24F8/192
F24F8/26
F24F8/80 140
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019051765
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020151654
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-12-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 春期講演会 静電気学会 http://www.iesj.org/academic/syunki.html 開催日 平成31年3月4日 2019年度静電気学会春期講演会プログラム http://www.iesj.org/content/files/pdf/2019/Program_syunki2019.pdf 電気集じん装置荷電部における鋸歯状放電電極のオゾン生成量時間変化
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 加奈絵
(72)【発明者】
【氏名】永吉 健太郎
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-216559(JP,A)
【文献】特開昭63-252555(JP,A)
【文献】特開2008-308372(JP,A)
【文献】特開2001-106515(JP,A)
【文献】特開平09-315803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0047433(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C3/00-11/00
A61L9/00-9/22
F24F8/00-8/99
C01B13/00-13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に不動態被膜が形成される放電電極と、当該放電電極に対向配置される対向電極とを有する荷電部と、
前記放電電極への通電を制御する制御部と、
湿度を検出する湿度検出部と、を備え、
前記制御部は、
前記湿度検出部で検出される湿度が所定湿度以下のとき、前記放電電極への通電によって当該放電電極の温度を所定温度以上まで高めるように制御する、荷電装置。
【請求項2】
前記放電電極は突起部を有し、当該突起部に前記不動態被膜が形成されている、請求項に記載の荷電装置。
【請求項3】
前記放電電極は、ステンレスで形成される、請求項1または2に記載の荷電装置。
【請求項4】
前記不動態被膜は、酸化クロム(III)(Cr203)である、請求項に記載の荷電装置。
【請求項5】
前記所定湿度はRH35%である、請求項3または4に記載の荷電装置。
【請求項6】
前記所定温度は、前記不動態被膜がオゾンと反応して、前記不動態被膜を構成する金属元素の六価の化合物が生成される温度である、請求項1から5のいずれか一項に記載の荷電装置。
【請求項7】
前記所定温度は470Kである、請求項1から6のいずれか一項に記載の荷電装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の荷電装置を備える空気清浄機であって、
除湿部をさらに備える空気清浄機。
【請求項9】
請求項に記載の空気清浄機であって、
前記制御部は、
前記湿度検出部で検出される湿度が所定湿度を超えているとき、前記除湿部を駆動して前記荷電部の湿度を前記所定湿度以下に制御する、空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電装置および荷電装置を備える空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放電電極からの放電によって、塵埃などの微粒子を帯電させる荷電機能と、オゾンを発生させるオゾン発生機能とを兼用できるようにした電気集塵機が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、1台の装置で高い荷電効率と高いオゾン発生効率とを得られるように、荷電する際は放電電極にプラスの高電圧を印加する一方、オゾンを発生させる際は放電電極にマイナスの高電圧を印加するようにしたものがある(例えば、特許文献2を参照)。また、マイナスの電圧を印加してオゾンを発生させるオゾン発生部と、プラスの高電圧を印加して荷電する荷電部とを、一つのユニット内に配置したものがある(たとえば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-286240号公報
【文献】特開平4-78456号公報
【文献】特開2008-284412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、塵埃を帯電させるための放電の副産物としてオゾンが発生するものであり、発生するオゾン濃度が低くなってしまう。また、特許文献2の装置は、一度にどちらか一方の極性の高電圧しか印加できないので、荷電効率およびオゾン発生効率を同時に高めることができない。また、特許文献3では、荷電効率とオゾン発生効率の両方を同時に高められるものの、オゾン発生部や荷電部、プラスの電圧供給部とマイナスの電圧供給部がそれぞれ必要になる上に、装置の大型化を招いてしまう。
【0005】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、荷電効率とオゾン発生効率を同時に高めつつ、装置の大型化を抑制することができる荷電装置および荷電装置を備える空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の開示する荷電装置の一態様は、表面に不動態被膜が形成される放電電極と、当該放電電極に対向配置される対向電極とを有する荷電部と、放電電極への通電を制御する制御部と、湿度を検出する湿度検出部とを備える。制御部は、湿度検出部で検出される湿度が所定湿度以下のとき、放電電極への通電によって当該放電電極の温度を所定温度以上まで高めるように制御する。
【発明の効果】
【0007】
本願の開示する荷電装置および荷電装置を備える空気清浄機の一態様によれば、荷電効率とオゾン発生効率を同時に高めつつ、装置の大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る荷電装置を備える電気集塵機が設けられた空気清浄機の概略構成図である。
図2図2は、同上の電気集塵機の構成図である。
図3A図3Aは、同上の電気集塵機が備える実施形態に係る荷電装置の放電電極板の正面図である。
図3B図3Bは、同上の荷電部の放電電極板の平面図である。
図3C図3Cは、同上の放電電極板の側面図である。
図3D図3Dは、同上の放電電極板の放電電極の先端部を断面視で示す説明図である。
図4図4は、同上の電気集塵機が備える制御部を主とするブロック図である。
図5図5は、同上の電気集塵機の制御手順を示すフローチャートである。
図6図6は、実施形態に係る電気集塵機が備える荷電部における放電電極の形状とオゾン濃度との関係を示すグラフである。
図7図7は、同上の放電電極の形状および相対湿度とオゾン生成量との関係を示すグラフである。
図8図8は、相対湿度とオゾン濃度との関係を時間変化で示すグラフである。
図9図9は、放電電極の針数を117とした場合におけるオゾン濃度の時間変化を示すグラフである。
図10図10は、放電電極の針数を58とした場合におけるオゾン濃度の時間変化を示すグラフである。
図11図11は、参考例に係る放電電極におけるオゾン濃度湿度特性を示すグラフである。
図12図12は、放電電極に印加する高電圧の極性とオゾン生成量との関係を時間変化で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示する荷電装置および空気清浄機の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によって、本願の開示する荷電装置および空気清浄機の構造および制御方法が限定されるものではない。また、以下の説明による構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。なお、実施形態の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付して説明する。以下の実施形態では、開示の技術にかかる荷電装置を、空気清浄機が備える電気集塵機に適用した場合を示した。しかし、これに限られず、開示の技術にかかる荷電装置は、例えば、放電によりオゾンを発生させることのできる各種装置に適用することができる。
【0010】
図1は、実施形態に係る荷電装置を備える電気集塵機が設けられた空気清浄機の概略構成図、図2は、同電気集塵機の構成図である。図1に示すように、空気清浄機1は、空気を清浄化するための装置類を収納する筐体10を備えている。筐体10は、合成樹脂材で略直方体状に形成されており、室内の空気を吸引する吸込口11と、清浄化された空気を室内に吹き出す吹出口12とが形成される。
【0011】
図1および図2に示すように、筐体10内には、吸引された空気から大きな塵埃を除去するプレフィルタ14と、プレフィルタ14を通過した空気中の塵埃を静電気力によって集塵する複数の電気集塵機2と、電気集塵機2を通過した空気を脱臭処理する脱臭フィルタ5とが設けられる。
【0012】
電気集塵機2は、それぞれ荷電部3と集塵部4とを備える。本実施形態では、荷電部3が荷電装置として機能する。なお、本実施形態においては、3つの電気集塵機2が筐体10内に配置されているが、配置される数は何ら限定されない。
【0013】
プレフィルタ14は、例えば糸状のPET材を編みこんだ網目構造を有し、図示しない樹脂枠で保持される。プレフィルタ14は、筐体10の内部に吸い込まれた空気に含まれている比較的大きな塵埃を捕集する。脱臭フィルタ5は、プレフィルタ14および電気集塵機2で塵埃が除かれた空気から、触媒フィルタによって、例えばアンモニアやメチルメルカプタン等の臭気成分やホルムアルデヒド等の有害成分を取り除く脱臭処理を行う。
【0014】
また、筐体10内には、脱臭フィルタ5の下流側に配置されるファン6と、ファン6を回転させるファンモータ61と、空気清浄機1を制御する制御基板7とが設けられる。
【0015】
さらに、筐体10内には、吸込口11から吸引された空気の塵埃濃度を検出する埃センサ13と、運転開始操作、運転停止操作などを行う操作表示基板15とが設けられる。
【0016】
また、筐体10には、各電気集塵機2の各集塵部4に電力を供給する単一の集塵部用の定電圧高圧電源部(以下「集塵部用高圧電源40」とする)が配置される。他方、荷電部3に電力を供給する荷電部用の定電流高圧電源部(以下「荷電部用高圧電源30」とする)は、3つの荷電部3にそれぞれ配置される。
【0017】
かかる構成により、空気清浄機1は、ファンモータ61により駆動されるファン6の回転により、矢印fで示すように、吸込口11から室内空気を吸引し、プレフィルタ14、電気集塵機2、脱臭フィルタ5を通過させながら空気を清浄し、清浄された空気を吹出口12より室内に吹き出す。
【0018】
なお、空気清浄機1の風量設定は、操作表示基板15の操作に基づいて手動で風量を切換えることができるが、例えば、埃センサ13の検出信号に基づいて、適切な風量に自動で切換わる自動風量モード設定を設けることもできる。
【0019】
ここで、実施形態に係る荷電装置を備える電気集塵機2について、図2を参照しながら説明する。図2に示すように、電気集塵機2は、荷電部3と集塵部4とを備える。荷電部3は、通過する空気中に含まれる塵埃などの微粒子を帯電させる。集塵部4は、荷電部3で帯電された微粒子を静電気力により捕集する。荷電装置として機能する荷電部3は、先端が鋭利な鋸歯形状をした荷電部放電電極(以下「放電電極310」とする)と、放電電極310と異なる極性をもった荷電部対向電極(以下「対向電極320」とする)とが、所定の間隔をあけて交互に配置されている。また、対向電極320は、平板電極で構成されている。
【0020】
集塵部4は、平板電極を多数枚平行に配列し、交互に異なる極性の電圧が印加されるよう電気的に接続した構造であり、本実施形態においては、放電電極310と同極性のものを集塵部高圧電極(以下「高圧電極410」とする)、対向電極320と同極性のものを集塵部捕集電極(以下「捕集電極420」とする)と呼ぶ。
【0021】
荷電部3の放電電極310と対向電極320との間には、電源50から電源部55を介して、荷電部用高圧電源30により高電圧が印加される。荷電部用高圧電源30は、制御基板7に搭載された制御部70により荷電部スイッチ301,302,303を介して駆動、制御される。
【0022】
集塵部4の捕集電極420と高圧電極410との間には、電源50から電源部55を介して、集塵部用高圧電源40により高電圧が印加される。集塵部用高圧電源40は、制御基板7に搭載された制御部70により集塵部スイッチ401を介して駆動、制御される。
【0023】
荷電部用高圧電源30は、電気集塵機2が内蔵する荷電部3の個数と同数(ここでは3個)が設けられており、各電気集塵機2の荷電部3と1対1に対応して接続される。集塵部用高圧電源40は、電気集塵機2が内蔵する集塵部4の個数にかかわらず1つであり、すべての集塵部4が並列に接続される。
【0024】
また、本実施形態に係る電気集塵機2は、図示するように、湿度検出部となる湿度センサ210と、温度センサ220と、除湿部230とを備え、それぞれ制御部70と電気的に接続されている。湿度センサ210は、空気清浄機1または電気集塵機2の周辺の相対湿度を取得するためのセンサであり、これにより荷電部3周辺の相対湿度を検出することができる。温度センサ220は、放電電極310の表面温度を検出することができる。また、除湿部230は、少なくとも荷電部3周辺の相対湿度を低くすることができるものであればよい。除湿部230は、例えば、空気清浄機1を設置する室内の除湿が可能なもの、あるいは空気清浄機1または電気集塵機2の周辺の除湿を行うことができるものであればよい。この場合、空気清浄機1または電気集塵機2に取り込まれる空気が除湿されることで、その内部に配置される荷電部3周辺の相対湿度を低くすることができる。あるいは、空気清浄機1に取り込まれた空気を暖めることで荷電部3の周辺の相対湿度を低くするものであってもよい。
【0025】
ここで、図3A図3Dを参照しながら、荷電部3が備える放電電極310について説明する。図3Aは、実施形態に係る荷電装置の放電電極板の正面図、図3Bは、同放電電極板の平面図、図3Cは、同放電電極板の側面図、図3Dは、同放電電極の先端部を断面視で示す説明図である。図3Bに示すように、放電電極310は、先端部に複数の突起部315が形成された鋭利な鋸歯形状に形成されている。そして、図3Aおよび図3Cに示すように、複数の放電電極310が、所定間隔をあけて枠部311に連結されている。ここでは、複数の放電電極310が、ステンレス(例えば、SUS304)製の矩形板状の放電電極板31を切り起こすことで形成されている。
【0026】
また、本実施形態においては、放電電極310の各突起部315は、図3Dに示すように、不動態被膜316が形成されている。
【0027】
本実施形態における不動態被膜316は、三価クロムであり、例えば酸化クロム(III)(Cr)により形成される。すなわち、図3Dに示すように、放電電極310の先端部に形成された突起部315において、ステンレス製の基体315aに酸化クロム(III)(Cr)からなる不動態被膜316が形成されている。
【0028】
次に、電気集塵機2内における塵埃の捕集作用について簡単に説明する。荷電部3の放電電極310に正極の高電圧を印加し、対向電極320を荷電部用高圧電源30の接地極(アース)に接続すると、コロナ放電が起こり、この電極間には、電子と空気分子が正に帯電したイオンが満たされる。このうち電子は、放電電極310に到達し、荷電部用高圧電源30に向かって流れる。このときの荷電部3全体での電流を0.25mAとすると、電極間にはこの電流値に対応してイオンが発生する。
【0029】
この正イオンで満たされた空間を塵埃が通過する際、その通過時間と放電電極310と対向電極320とで作られる電界の強さに応じて、イオンと塵埃の衝突による電荷の移動が起こり、塵埃に正の電荷が帯電する。
【0030】
一方、集塵部4の高圧電極410に例えば5kVを印加し、捕集電極420を集塵部用高圧電源40の接地極(アース)に接続すると、両電極の間隔が2mmであれば、25kV/cmの静電界が形成される。荷電部3で正に帯電した塵埃は、集塵部4に移動すると、静電界により塵埃と反対極性の捕集電極420に吸引される方向に力を受ける。
【0031】
空気中を浮遊する塵埃は、空気抵抗により直ちに終端速度に到達し、流れ方向と捕集電極420方向の速度成分を持った等速運動となる。捕集電極420方向の速度成分は、塵埃の電荷量、および、高圧電極410と捕集電極420の間の静電界の強さ(電界強度)に比例し、流れ方向の速度と集塵部4の奥行で定まる集塵部4の通過時間内に、捕集電極420に到達した塵埃が捕集される。
【0032】
空気中を浮遊する塵埃は十分に小さく、中には捕集電極420から遠ざかる方向に動くものもあり、集塵部4を通過している間にすべての塵埃が捕集されるわけではない。しかし、空気清浄機1の運転中、捕集されなかった塵埃は繰り返し空気清浄機1内に取り込まれて電気集塵機2を通過することになるので、捕集されずに集塵部4を通過する塵埃の量は、空気清浄機1の運転開始からの時間の経過にともない次第に減少していく。
【0033】
本実施形態に係る空気清浄機1は、上述した塵埃の捕集作用を実行しながら、電気集塵機2の荷電部3で生成するオゾンを利用して、例えば空気清浄機1の内部の除菌や、室内の空気の除菌まで果たすことができる。
【0034】
すなわち、電気集塵機2に荷電装置として設けられた荷電部3において、所定の条件が揃うと、放電電極310からのコロナ放電により生成されるオゾン濃度が急激に上昇する現象が起きることが分かった。かかる現象を利用することにより、本実施形態に係る空気清浄機1は、コンパクトな装置でありながらも十分な集塵機能とオゾン発生機能(および除菌機能)とを果たすことができる。
【0035】
十分なオゾン濃度を得るための条件、すなわちオゾン濃度が急増する条件(所定の条件)を以下に示す。放電電極310の材質としては、クロムを含有するステンレス(例えばSUS304)を用い、その形状は、針先(突起部315)に電流が集中し電力密度が高くなる形状(例えば鋸歯状)とする。そして、例えば相対湿度(RH:Relative Humidity)がRH35%以下とした低湿度雰囲気下において、連続通電により放電電極310の先端部となる針先(突起部315)を高温にした場合としている。ここで、針先の温度としては、470K以上であることが望ましい。この470Kは、放電電極310の突起部315に形成された不動態被膜316である酸化クロム(III)(Cr)の一部がオゾンと反応して酸化クロム(VI)(Cr0)に変化することで、酸素分子と反応してオゾンを生成する触媒として作用するようになる温度である。
【0036】
確かに、一般的には、相対湿度が低くなるほど発生するオゾンの濃度は高くなる傾向があるものの、上記の所定の条件を満たすようにして荷電部3を連続的に稼働させると、オゾンが急増する現象が確認された。しかも、一般的に低湿度の場合に想定されるオゾン濃度の数倍~十数倍の濃度が検出されている。
【0037】
本実施形態では、荷電部3の放電電極310として、厚みを0.1mmとするとともに、形状を鋸歯形状(図3B参照)とし、安価で耐久性のあるステンレス材料のSUS304を用いて形成したものを採用した。SUS304は、特別な処理を行わずとも表面に不動態被膜が形成されている。なお、表面に不動態被膜が形成されたステンレス材料としては、SUS304のほか、SUS303、SUS316等のオーステナイト系の材料を用いることができる。また、このときの対向電極320は、厚みを0.5mmとするとともに、形状を平板状とし、材料としては放電電極310と同様にSUS304を用いて形成したものを採用した。
【0038】
また、さらに、鋸歯形状とした放電電極310の突起部315に、三価クロムからなる不動態被膜316を形成した。ここで、三価クロムの一つである酸化クロム(III)(Cr)は、放電電極310からのコロナ放電によって生成されるオゾンと470K前後で反応し、その一部が強力な酸化剤である六価クロムの酸化クロム(VI)(Cr0)に変化することが分かっている。このときの反応は次の化学反応式で表される。
【0039】
Cr+0→ 2Cr0
【0040】
かかる酸化クロム(VI)(Cr0)は、高湿度雰囲気下では不安定であり、直ちに酸化クロム(III)に戻り、触媒としては作用しないことが分かっている。そのため、高湿度雰囲気下においてはオゾンの急増現象は発生しない。一方、酸化クロム(VI)(Cr0)は、低湿度雰囲気下では安定しており、触媒として作用することでオゾンの発生量を急増させると推定される。このときの反応は次の化学反応式で表される。
【0041】
30→ 20
【0042】
つまり、低湿度雰囲気下にある放電電極310の温度を、放電電極310の表面に形成された不動態被膜(酸化クロム(III)(Cr))がオゾンと反応し、不動態被膜を構成する金属元素の六価の化合物(酸化クロム(VI)(Cr0))が生成されるようになる温度(470K)以上となるよう、通電を制御することで、高濃度のオゾンを発生させることができる。
【0043】
そして、上述の条件下において、以下に示す通電制御を行うことにより、一つの荷電部3で高濃度のオゾンを発生しつつ高効率で荷電することを可能にした。また、本実施形態では、荷電部3の前段部に除湿部230を設け(図2および図4を参照)、相対湿度を所望する湿度になるように制御可能としている。すなわち、オゾンの発生量を増加させるには、低湿度雰囲気下が望ましいため、本実施形態における空気清浄機1では、荷電部3の前段部に除湿部230を設けることで、除湿の有無によりオゾンの生成量を制御することを可能にしている。
【0044】
ここで、図4を参照しながら、制御基板7について、制御部70を主として説明する。図4は、本実施形態の電気集塵機2が備える制御部70を主とするブロック図である。なお、制御基板7には、荷電部用高圧電源30、集塵部用高圧電源40、除湿部230およびファンモータ61へ電力を供給するファンモータ電源(不図示)を制御する制御部も含まれるが、図4では、除湿部230および荷電部用高圧電源30を制御する制御部70以外の図示を省略している。
【0045】
制御部70は、湿度管理部710、通電制御部720および判定部730を有する。制御部70は、例えばCPUやメモリなどのマイクロコンピュータを有し、所定のプログラムを読み出して処理することで湿度管理部710、通電制御部720および判定部730としての機能を果たす。湿度管理部710は、除湿部230に接続され、通電制御部720は、荷電部用高圧電源30に接続され、判定部730は、湿度センサ210および温度センサ220に接続されている。
【0046】
こうして、制御部70は、湿度センサ210が検出した相対湿度に基づいて、判定部730により、荷電部3の放電電極310の温度を制御する通電制御を開始するか否かを判定する。すなわち、湿度センサ210が検出した湿度が、オゾンの急増現象が生じるか否かの境界となる所定湿度(例えばRH35%)以下のとき、通電制御を実行して、通電制御部720により荷電部用高圧電源30を制御し、例えば電圧を一定に維持しながら電流を大きくし、放電電極310の温度を、不動態被膜(酸化クロム(III)(Cr))がオゾンと反応することで、不動態被膜を構成する金属元素の六価の化合物(酸化クロム(VI)(Cr0))が生成される所定温度(例えば470K)以上まで高める。
【0047】
ここで、所定湿度であるRH35%や所定温度とした470Kなどの値は、制御基板7に設けられた記憶部700に記憶されている。すなわち、記憶部700は、例えば、揮発性半導体記憶装置を一例とする内部記憶装置または半導体を記憶媒体とする不揮発性の外部記憶装置等である。
【0048】
記憶部700は、各種の計測値、取得値、算出値、各種閾値などを記憶することができ、各種の計測値、取得値、算出値は、計測タイミング、取得タイミング、算出タイミング毎に、時系列で記憶部700に記憶される。
【0049】
図5は、実施形態に係る電気集塵機2の制御手順を示すフローチャートである。電気集塵機2の制御手順は、空気清浄機1の運転開始をきっかけとして実行される。
【0050】
図5に示すように、制御部70は、空気清浄機1の運転開始に応じて、電気集塵機2の運転を開始する(ステップS11)。次に、制御部70は、荷電部3周辺の相対湿度が、オゾンの急増現象が生じるか否かの境界となる所定湿度(RH35%)以下であるかを判断する(ステップS12)。すなわち、制御部70は、判定部730により湿度センサ210の検出結果により荷電部3の相対湿度を判断し、荷電部3周辺の相対湿度が、オゾンの急増現象が生じるか否かの境界となる所定湿度(RH35%)を超えていれば、RH35%以下になるまで待機する。
【0051】
このとき、荷電部3周辺の相対湿度がRH35%を超えている場合(ステップS12:No)、制御部70の湿度管理部710は、除湿部230を駆動して相対湿度を下げる。そして、湿度センサ210の検出結果により荷電部3周辺の相対湿度がRH35%以下になったと判断すると(ステップS12:Yes)、制御部70の通電制御部720は、通電制御を実行して荷電部用高圧電源30を制御する(ステップS13)。
【0052】
そして、制御部70は、放電電極310の表面温度が例えば470K(所定温度)になったか否かを判定する(ステップS14)。このとき、放電電極310の表面温度が470K以下であれば(ステップS14:No)、制御部70の通電制御部720は、荷電部用高圧電源30を制御して放電電極310への通電量を増加させ、温度センサ220の検出結果により放電電極310の表面温度が470K以上になったと判断すると(ステップS14:Yes)、この制御手順を終了する。
【0053】
このように、本実施形態では、制御部70は、湿度センサ210で検出される相対湿度がRH35%以下のとき、荷電部用高圧電源30を制御して、放電電極310の表面温度が470K以上となるように放電電極310への通電量を制御する。
【0054】
このように、本実施形態に係る荷電部3では、塵埃を荷電するという本来の機能を維持しつつ、放電電極310を、高濃度のオゾンを発生させるオゾナイザとしても機能させることが可能となる。
【0055】
したがって、荷電装置とオゾナイザとを個別に設ける必要がないので、荷電機能とオゾンによる殺菌機能とを併せもつ高機能の電気集塵機2を大型化することなく実現することができる。そして、かかる電気集塵機2を用いることで、やはり大型化を抑制しつつ、集塵と殺菌との両機能を併せ持つ高機能の空気清浄機1を提供することができる。
【0056】
また、例えば、荷電する際は放電電極に正極(プラス)の高電圧を印加し、オゾンを発生させる際には放電電極に負極(マイナス)の高電圧を印加することも考えられる。しかし、本実施形態に係る荷電部3では、放電電極310にマイナスの高電圧を印加するよりも、放電電極310にプラスの高電圧を印加することで、オゾン濃度をより高濃度とすることができる。
【0057】
ところで、かかる電気集塵機2、あるいはこれを備える空気清浄機1を家庭用として用いる場合、荷電部3において発生させた高濃度のオゾンによって臭気成分の分解を行うことができるが、例えば荷電部3の下流側にオゾン分解触媒などを配置するなどして、高濃度のオゾンがそのまま室内に放出されることがないようにすることが望ましい。
【0058】
ここで、上述してきた本実施形態における荷電部3のオゾン急増現象について、図6図12を用いて説明する。
【0059】
まず、放電電極310の形状が、鋸歯状である場合とワイヤで形成した線状の場合とでオゾン濃度の時間的な変化を比べる。図6は、実施形態に係る電気集塵機2が備える荷電部3における放電電極310の形状とオゾン濃度との関係を示すグラフである。なお、このときの荷電部3における相対湿度は28%であり、風速は1.1m/sである。
【0060】
図6のグラフで分かるように、放電電極がワイヤで形成された線状の電極である場合は、放電電極への通電時間が120分を超えてもオゾン濃度に特に変化はないが、放電電極310が鋸歯状の場合は、放電電極310への通電時間が60分を過ぎると、オゾン濃度が急激に高くなることが分かった。すなわち、放電電極310が鋸歯状の場合、オゾン濃度は、40ppb程度の濃度から、通電時間が60分から100分までの40分間程度で110ppbを超えるほどの濃度まで急激に高くなっている。
【0061】
この差異は、放電電極310の表面に形成された不動態被膜316の温度が、オゾン急増現象を生じる温度(470K)に達するか否かが、放電電極310の形状の違いによって変わるためであると考えられる。すなわち、放電電極310が鋸歯状の場合、放電電極310が突起部315を有するため、突起部315に電流が集中しやすく、不動態被膜316の温度が局所的に上昇し、オゾン急増現象を生じる温度(470K)に達したものと考えられる。一方、放電電極310がワイヤで形成された線状の場合、突起部を有しないので全体的に均一に温度が上昇してしまい、不動態被膜の温度が局所的に上昇することがなく、オゾン急増現象を生じる温度(470K)に達しなかったものと考えられる。
【0062】
次に、オゾン濃度の急激な変化が起こる条件となる湿度について説明する。図7は、通電時間に対する放電電極310の形状および相対湿度とオゾン生成量との関係を示すグラフである。なお、ここでのオゾン生成量はオゾン濃度と比例関係にあるため、オゾン生成量の増加とオゾン濃度の上昇には強い相関がある。図7に示すように、RH30%の低湿度雰囲気下の場合であっても、放電電極がワイヤで形成された線状の電極である場合は、通電時間が180分を超えてもオゾン生成量(オゾン濃度)に変化はない。他方、放電電極310が鋸歯状の場合、RH50%の雰囲気下では、通電時間が180分を超えてもオゾン生成量に殆ど変化はないが、RH30%の低湿度雰囲気下では、通電時間が60分を過ぎると、オゾン生成量は、通電開始直後のオゾン生成量の3倍ほどの生成量まで急激に高くなることが分かった。
【0063】
これは、放電電極310の突起部315の表面に形成された不動態被膜316を構成する酸化クロム(III)(Cr)の一部が、470K以上の温度でオゾンと反応し、酸化クロム(VI)(Cr0)に変化したものの、RH50%雰囲気下においては安定せず、直ちに酸化クロム(III)(Cr)に戻り触媒として作用しなかったため、オゾンの急増現象が発生しなかったものと推定される。一方、酸化クロム(VI)(Cr0)は、RH30%の低湿度雰囲気下では安定し、触媒として作用することでオゾンの発生量を急増させてしまうと推定される。そこで次に、オゾンの急増現象が起きるか否かの境界となる湿度条件を探索した。
【0064】
図8は、通電中に荷電部3周辺の相対湿度を変化させることで、通電時間とともにオゾン濃度がどのように変動するのか観察した実験結果を示すグラフである。具体的には、通電時間が0~250min.の間は相対湿度をほぼRH30%に保ち、通電時間が250min.を経過した時点で相対湿度を上昇させて通電時間が350min.まではほぼRH40%に保ち、通電時間が350min.を経過した時点で更に相対湿度を上昇させてRH50%とする条件で、オゾン濃度を測定した。なお、グラフ中の黒丸(●)は通電時間の各時点でのオゾン濃度を表し、白丸(〇)は通電時間の各時点での相対湿度を表す。また、このとき、荷電部3における風速は1.1m/s、放電電極310に流れる電流は150μAで一定である。
【0065】
グラフから分かるように、相対湿度がほぼRH30%で一定である通電時間が0~250min.の場合、オゾン濃度は、通電時間が30分を過ぎると、通電開始直後の0.05ppm程度の濃度から急激に高くなり始める。そして、通電時間が80分を過ぎると、オゾン濃度は0.2ppmを超えるまで増加し、その後は0.18~0.22ppmの間で安定している。その後、相対湿度を徐々に上げていき、相対湿度をRH40%程度まで上昇させると、オゾン濃度は急激に低下していくことが分かる。その後、相対湿度を更に上げていき、相対湿度がRH50%程度まで上昇すると、オゾン濃度は更に低下し、通電開始直後の0.05ppm付近まで戻っている。本実施例では以上の結果を考慮し、オゾン濃度の急激な増加が発生する条件を、RH35%以下の低湿度雰囲気下であることとした。
【0066】
また、図9は、荷電部3における風速を0.06m/s、相対湿度をRH20%とし、放電電極310の針数(突起部315の数)を117とした場合におけるオゾン濃度の時間変化を示すグラフ、図10は、荷電部3における風速を0.06m/s、相対湿度をRH20%とし、放電電極310の針数(突起部315の数)を58(図9の場合の約半分の針数)とした場合におけるオゾン濃度の時間変化を示すグラフである。なお、このとき、放電電極310全体に流れる電流は150μAで一定であるものの、突起部315の数が117のときと58のときとでは、1つ1つの突起部315に流れる電流が変わるため、突起部315における電力密度(単位面積あたりの電力)に差がある。つまり、突起部315の数を58としたときの電力密度は、突起部315の数を117としたときの電力密度の約2倍になる。
【0067】
荷電部3における放電電極310の針数(突起部315の数)が117のときは、図9で示したように、通電開始直後は0.05ppm程度のオゾン濃度であるが、通電開始から30分ほどでオゾン濃度の急増現象が起きており、通電開始から60分が経過して以降は4~7ppmまで時間経過とともにオゾン濃度が高くなっていることが分かる。
【0068】
他方、荷電部3における放電電極310の針数(突起部315の数)が58のときは、図10に示すように、通電開始直後は0.05ppm程度のオゾン濃度であるが、通電開始から15分ほどでオゾン濃度の急増現象が起きており、通電開始から30分が経過して以降はオゾン濃度が6~9ppmで推移していることが分かる。図9図10の比較から、放電電極310の針数(突起部315の数)が少ないほど、すなわち、各々の突起部315に流れる電流(電力密度)が大きいほど、オゾンの急増現象は、より短時間で起きることが分かる。
【0069】
図9図10の比較から分かるように、放電電極310の形状や不動態被膜316の有無、荷電部3周辺における相対湿度などの条件が同じである場合、突起部315の数が少ないほど(各々の突起部315に流れる電流、すなわち電力密度が大きいほど)、通電開始からオゾン濃度の急増現象が起きるまでの時間は短くなることが分かる。これは、各々の突起部315に流れる電流(電力密度)が大きいほど、放電電極310の表面に形成された不動態被膜316の温度が470Kに到達するまでの時間が短くなるからであると推定される。
【0070】
また、図6および図7のグラフより、低湿度の場合のオゾン濃度の急激な上昇は、放電電極310の形状がワイヤのような線状ではなく、平板状の鋸歯形状の場合に生じることが分かったが、図11に示す参考例のように、線状のワイヤからなる放電電極であっても、相対湿度が低くなるにつれて生成されるオゾン濃度が高くなっていくことは知られている。図11は、参考例に係る放電電極におけるオゾン濃度湿度特性を示すグラフである。
【0071】
図11に示すように、確かに相対湿度が高いときよりも低いときの方がオゾン濃度は高いが、この場合のオゾン濃度は、0.025ppmから0.029ppmに増加した程度であり、また、相対湿度が10%程度変化しても、オゾン濃度の変化量は5%程度でしかない。
【0072】
その点、本実施形態に係る荷電部3においては、図6図10から分かるように、図11に示した参考例におけるオゾン濃度に対し、その数倍から数十倍の濃度となることが分かる。
【0073】
図12は、荷電部3の放電電極310に印加する電圧の極性(正極と負極)とオゾン生成量との関係を時間変化で示すグラフである。なお、このときの荷電部3における相対湿度はRH30%であり、風速は1.1m/s、放電電極310に流れる電流は150μAで一定としている。図示するように、放電電極310に印加する高電圧の極性が負極の場合、通電開始時点から通電時間が180分を超えるまでの間、オゾン生成量(オゾン濃度)は0.15~0.2ppmで推移しており、時間経過による変化は殆どない。一方、放電電極310に印加する高電圧の極性が正極の場合、通電開始時点では0.02ppmだったオゾン生成量が、通電時間が30分を過ぎると急激に増え始めることが分かる。すなわち、通電時間が30分を過ぎると、0.02ppm程度だったオゾン生成量が、そこから30分ほどの間に0.25ppmを超えるまで増加し、その後は0.25~0.33ppmの間で安定している。この結果は、オゾンの急増現象が、放電電極310に対して負極の高電圧を印加した場合には起こらず、放電電極310に対して正極の高電圧を印加した場合にのみ起こる可能性を示唆している。
【0074】
また、通電開始時点から通電時間が60分を超えるまでは、放電電極310に印加する高電圧の極性を正極としていた場合よりも、印加する高電圧の極性を負極としていた場合の方が、オゾン生成量が多い。一方、通電時間が60分を超えて以降(すなわちオゾンの急増現象が起きて以降)は、放電電極310に印加する高電圧の極性を負極としていた場合よりも、印加する高電圧の極性を正極としていた場合の方が、オゾン生成量が多くなるようになる。よって、本実施形態に係る荷電部3では、放電電極310に対し、正極の高電圧を印加するよう制御することで、負極の高電圧を印加するよう制御した場合よりも、オゾン濃度を更に高濃度とすることが可能になると考えられる。
【0075】
以上、本願の実施例を図面に基づいて説明したが、あくまでも例示であって、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施すことができる。
【0076】
上述してきた実施形態より、以下に示す荷電装置および空気清浄機1が実現できる。なお、以下の荷電装置は、電気集塵機2における荷電部3に相当する。
【0077】
(1)表面に不動態被膜316が形成される放電電極310と、この放電電極310に対向配置される対向電極320とを有する荷電部3と、放電電極310への通電を制御する制御部70と、湿度を検出する湿度センサ210とを備え、制御部70は、湿度センサ210で検出される相対湿度が所定湿度以下のとき、放電電極310への通電によってこの放電電極310の温度を所定温度以上まで高めるように制御する荷電装置。
【0078】
かかる構成により、一つの荷電装置において、十分なオゾンの発生が望める。そのため、装置の大型化を抑制しつつ、荷電効率とオゾン発生効率を同時に高めることができる。また、かかる荷電装置を、例えば、電気集塵機2や空気清浄機1に適用することで、これらの大型化も抑制することができる。
【0079】
(2)上記(1)において、所定湿度は、オゾンの急増現象が生じるか否かの境界となる湿度である、荷電装置。
【0080】
かかる構成により、上記(1)の効果をより確実に奏することができる。
【0081】
(3)上記(1)または(2)において、放電電極310は突起部315を有し、この突起部315に不動態被膜316が形成されている荷電装置。
【0082】
かかる構成により、上記(1)または(2)の効果をより確実に奏することができる。
【0083】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、放電電極310は、ステンレスで形成される荷電装置。
【0084】
かかる構成により、低コストで上記(1)から(3)の効果を奏することができる。
【0085】
(5)上記(4)において、不動態被膜316は、酸化クロム(III)(Cr)である荷電装置。
【0086】
かかる構成により、上記(4)の効果をより確実に奏することができる。
【0087】
(6)上記(4)または(5)において、所定湿度はRH35%である荷電装置。
【0088】
かかる構成により、(4)または(5)の効果をより確実に奏することができる。
【0089】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、所定温度は、不動態被膜(酸化クロム(III)(Cr))がオゾンと反応して、不動態被膜を構成する金属元素の六価の化合物(酸化クロム(VI)(Cr0))が生成される温度である荷電装置。
【0090】
かかる構成により、(1)から(6)の効果をより確実に奏することができる。
【0091】
(8)上記(1)から(7)のいずれかにおいて、所定温度は470Kである荷電装置。
【0092】
かかる構成により、(1)から(7)のいずれかの効果をより確実に奏することができる。
【0093】
(9)上記(1)から(8)のいずれかの荷電装置を備える空気清浄機1において、除湿部230をさらに備える、空気清浄機1。
【0094】
かかる構成により、除湿の有無でオゾンの生成量を制御することが可能となる。また、例えば、荷電装置を有する電気集塵機2や、これを搭載した空気清浄機1の使用環境における湿度に左右されず、上記(1)から(8)のいずれかの効果を確実に奏することができる。
【0095】
(10)上記(9)において、制御部70は、湿度センサ210で検出される湿度が所定湿度を超えているとき、除湿部230を駆動して荷電部3の湿度を所定湿度以下に制御する空気清浄機1。
【0096】
かかる構成により、除湿の有無でオゾンの生成量を制御することが可能となる。また、例えば荷電装置を有する電気集塵機2や、これを搭載した空気清浄機1の使用環境における湿度に左右されず、上記(9)の効果を確実に奏することができる。
【0097】
上述の実施形態および図示の具体的名称、処理、制御、各種のデータなどについては、一例を示すに過ぎず、適宜変更される場合がある。例えば、上述の実施形態では、放電電極310を、SUS304を材料として鋸歯状に形成している。これにより、放電電極310の先端に形成される突起部315には、三価クロムの一つである酸化クロム(III)(Cr)からなる不動態被膜316が形成されるものとした。しかし、必ずしも放電電極310の形状が鋸歯形状でなくとも、不動態被膜316に電流が集中し電力密度が高くなる突起部315を有する形状(例えば、とげ付き線、とげ付き円筒、針付きロッド等の形状)であれば、低湿度雰囲気下でオゾン濃度が急激に上昇する現象が生じるものと推察される。さらに、クロム以外で不動態被膜を形成しやすい金属としては、アルミニウム、ニッケル、チタン等が挙げられ、放電電極310に形成された酸化クロム(III)(Cr)の不動態被膜316が、これらの金属の不動態被膜に置き換えられた場合であっても、同様の現象が生じるものと推察される。
【0098】
また、上述の実施形態のより広範な態様は、上述のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。従って、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 空気清浄機
2 電気集塵機
3 荷電部(荷電装置)
70 制御部
210 湿度センサ(湿度検出部)
230 除湿部
310 放電電極
315 突起部
316 不動態被膜
320 対向電極
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12