(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】床用建材
(51)【国際特許分類】
E04F 15/04 20060101AFI20230905BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
E04F15/04 601Z
B32B23/08
(21)【出願番号】P 2019055612
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大島 野乃花
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-002626(JP,A)
【文献】特開2008-055658(JP,A)
【文献】特開2007-077602(JP,A)
【文献】特開2016-098541(JP,A)
【文献】特開2009-255420(JP,A)
【文献】特開2000-326458(JP,A)
【文献】特開2017-133151(JP,A)
【文献】特開2017-155556(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0120564(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/00 - 15/22
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系基材上に熱可塑性樹脂成形体を積層してなる床用建材において、
前記熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、
前記無機質材料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、80質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記着色顔料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であ
り、
前記無機質材料は、粉末形状であり、平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内であり、且つ最大粒子径が50μm以下であることを特徴とする床用建材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂成形体の表面に化粧シートを積層してなることを特徴とする請求項1に記載の床用建材。
【請求項3】
前記無機質材料は、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、炭酸カルシウム、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムとの錯体、三酸化アンチモンとシリカとの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華との錯体、ジルコニウムのケイ酸、及びジルコニウム化合物と三酸化アンチモンとの錯体、並びにそれらの塩の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の床用建材。
【請求項4】
前記無機質材料は、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムとの錯体、三酸化アンチモンとシリカとの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華との錯体、ジルコニウムのケイ酸、及びジルコニウム化合物と三酸化アンチモンとの錯体、並びにそれらの塩の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の床用建材。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の床用建材。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂と、前記無機質材料との合計含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、90質量%以上99質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の床用建材。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂成形体の第1の面に形成された第1のアンカー層と、
前記熱可塑性樹脂成形体の前記第1の面とは反対側の面である第2の面に形成された第2のアンカー層と、を更に備え、
前記第1のアンカー層及び前記第2のアンカー層は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含有することを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の床用建材。
【請求項8】
ISO5660-1に準拠したコーンカロリ燃焼試験に準拠して、床用建材に対する総発熱量及び時間に対する発熱速度を求めた際に、(i)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m
2以下であり、(ii)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m
2を超えず、かつ(iii)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないことを満たす不燃性能であることを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の床用建材。
【請求項9】
木質系基材上に熱可塑性樹脂成形体を積層してなる床用建材において、
前記熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、
前記無機質材料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記着色顔料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であり、
前記無機質材料は、粉末形状であり、平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内であり、且つ最大粒子径が50μm以下であることを特徴とする床用建材。
【請求項10】
木質系基材上に熱可塑性樹脂成形体を積層してなる床用建材において、
前記熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、
前記無機質材料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記着色顔料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であり、
前記熱可塑性樹脂と、前記無機質材料との合計含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、90質量%以上99質量%以下の範囲内であることを特徴とする床用建材。
【請求項11】
木質系基材上に熱可塑性樹脂成形体を積層してなる床用建材において、
前記熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、
前記無機質材料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、
前記着色顔料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であり、
前記熱可塑性樹脂成形体の第1の面に形成された第1のアンカー層と、
前記熱可塑性樹脂成形体の前記第1の面とは反対側の面である第2の面に形成された第2のアンカー層と、を更に備え、
前記第1のアンカー層及び前記第2のアンカー層は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含有することを特徴とする床用建材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床用建材に関する。
【背景技術】
【0002】
フローリング材として合板やMDF、パーティクルボード等の木質系基材の表面側に化粧シートを貼り合わせたシートフローリング材が普及してきている。シートフローリング材に関する技術としては、例えば特許文献1や特許文献2に記載したものがある。
この背景には従来までのように表面が突板であると施工現場で表層の色目が合わない等の問題が起きること、またより高意匠の突板を求めると高級材を使用することになり非常に高価なフローリング材になってしまうこと等に起因する。
【0003】
シートフローリング材が普及してくると、木質系基材の耐衝撃性、耐キャスター性にバラツキがあり、品質が安定しないという問題点が重要視されてきた。そこで、化粧シートの裏面側に0.1mm~0.5mm程度のポリエチレンテレフタレートフィルムや木粉含有樹脂シート等のバッカー材を貼り合わせた仕様が上市されてきた。中でも木粉含有樹脂シートをバッカー材として使用した仕様は広く一般に普及している。
【0004】
翻って一般的なフローリング材は端部や中央部にルーター等によりC面やV溝を形成する。従来までの表層に突板を貼り合せたフローリング材ではC面部やV溝部に着色を施し、さらに紫外線硬化性樹脂等により表面を保護していたが、工程が増えることで手間が掛かっていた。一方、木粉含有樹脂シートをバッカー材として用いたフローリング材では、木粉含有樹脂シートに顔料を配合し、表層の化粧シートの色目と合わせた着色木粉含有樹脂シートとし、着色木粉含有樹脂シートの裏面の木質系基材に到達しないC面やV溝を形成することで着色工程や表面保護のための工程を省略している。
【0005】
しかしながら自然物である木粉は元来色目のバラツキが大きく、所望の色目を出すために一度決定した顔料配合では品質が安定せず、都度色調調整が必要となることがあり非常に手間であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-142150
【文献】特開平10-195305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、すなわち本発明の課題とするところは、不燃性を備えた床用建材であって、所望の色目を安定して出し、品質を安定させた床用建材、即ち不燃性を備えつつ、安定した色調品質を確保することが可能な床用建材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、木質系基材上に熱可塑性樹脂成形体を積層してなる床用建材において、前記熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、前記無機質材料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、前記着色顔料の含有量は、前記熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であることを特徴とする床用建材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る床用建材であれば、不燃性を備えつつ、安定した色調品質を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る床用建材の断面の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成>
以下、本発明の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1に本発明の実施形態に係る床用建材の断面の構造を示す。本実施形態に係る床用建材は、表面側より適宜設ける化粧シート1、熱可塑性樹脂成形体2、及び木質系基材3を少なくとも含んでいる。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
なお、後述する各種材料の含有量は、乾燥状態における対応する部材全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。例えば、後述する本実施形態の無機質材料の含有量は、乾燥状態における熱可塑性樹脂成形体2全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。また、後述する表面アンカー層(第1のアンカー層)4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、乾燥状態における表面アンカー層4a全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。また、後述する裏面アンカー層(第2のアンカー層)4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、乾燥状態における裏面アンカー層4b全体の質量に対する含有比率(質量%)を意味する。
【0013】
また、本実施形態において不燃性とは、ISO5660-1に準拠したコーンカロリ燃焼試験に準拠して、本実施形態の床用建材に対する総発熱量及び時間に対する発熱速度を求めた際に、(i)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、(ii)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、かつ(iii)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないことを満たす不燃性である。
【0014】
(化粧シート1)
適宜設ける化粧シート1は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の床材表面に使用されている化粧シートが使用可能である。具体的には従来公知のポリ塩化ビニル系樹脂あるいはポリオレフィン系樹脂からなるものが使用可能である。環境問題への対応を考慮すると、燃焼時の塩化水素又はダイオキシン等の有害物質の発生のおそれのない、ポリオレフィン系樹脂からなるものが好適である。化粧シート1の層構成は、特に限定されるものではなく、例えば、樹脂基材に絵柄模様を印刷し、その上に透明樹脂層、表面保護層を積層したものが挙げられる。なお、絵柄模様が無く着色樹脂層を設けたものであっても良い。以下、化粧シート1を構成する、表面保護層、透明樹脂層、絵柄模様及び樹脂基材の各層について簡単に説明する。
【0015】
[表面保護層]
表面保護層としては、その材質は本実施形態において特に限定されるものではなく、例えば、各種表面物性の観点からは硬化性樹脂を使用することが望ましい。具体的には、例えば、ウレタン系樹脂、アミノアルキド系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂や、不飽和ポリエステル系樹脂、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂等の電離放射線硬化性樹脂等を用いることができる。それらの中でも、表面硬度や耐摩耗性等の表面物性と、折り曲げ加工や三次元成形加工等に適した可撓性とのバランスに優れた、2液硬化型ウレタン系樹脂、すなわち、アクリルポリオール又はアクリルポリエーテルを主剤とし、イソシアネート硬化剤を添加して架橋硬化させる熱硬化性樹脂等が、本実施形態に係る床用建材の目的には最も適している。表面保護層の膜厚は、本実施形態において特に制限されるものではないが、物性面及び可撓性面の兼ね合いから、通常3μm以上20μm以下の範囲内とするのが適当である。
【0016】
表面保護層には必要に応じて、例えば紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、艶調整剤、滑剤、帯電防止剤、結露防止剤、抗菌剤、防黴剤、減摩剤、着色剤、充填剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上を添加しても良い。また、表面保護層は同種又は異種の2層以上から構成しても良く、例えば、シリカ、アルミナ、炭化珪素等の高硬度耐摩耗性粒子を含有する第1の層の上に、係る粒子を含有しない第2の層を設けて、耐摩耗性や耐傷付き性と表面光沢や表面平滑性との両立を図っても良い。また、全面に設けられた第1の層の上に、それとは艶状態の異なる第2の層を任意の模様状に設けて、艶変化による視覚的な立体感を表現したりする等の応用も可能である。
【0017】
[透明樹脂層]
透明樹脂層としては、従来公知のポリ塩化ビニル系樹脂あるいはポリオレフィン系樹脂からなるものが使用可能であり特に限定しないが、環境問題への対応を考慮して、燃焼時の塩化水素又はダイオキシン等の有害物質の発生のおそれのない、ポリオレフィン系樹脂からなるものが好適である。透明樹脂層の厚みは総厚が70μm以上120μm以下の範囲内が好適である。
【0018】
[絵柄模様]
絵柄模様は、所望の意匠絵柄の付与を目的として印刷等により設けられる。その絵柄の種類や構成材料、形成方法等に関して一切制限はない。一般的には、絵柄としては例えば木目柄や石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字又は記号、或いはそれらの組み合わせ等であるが、単色無地(ベタ)であっても勿論構わない。構成材料は、染料又は顔料等の着色剤を合成樹脂等の展色剤中に分散した印刷インキ又は塗料等を使用するのが一般的である。絵柄模様の形成方法としては、例えばグラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、インクジェット印刷法、転写印刷法等の公知の印刷方法や、ベタ状の場合には例えばグラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法等の公知の塗工方法等を用いることができる。また、絵柄模様はその表面側の表面保護層あるいは適宜設ける透明樹脂層との間に、層間接着強度を上げるための接着剤層(図示せず)を設けても良い。
【0019】
[樹脂基材]
樹脂基材としては、従来公知のポリ塩化ビニル系樹脂あるいはポリオレフィン系樹脂からなるものが使用可能であり特に限定しないが、環境問題への対応を考慮して、燃焼時の塩化水素又はダイオキシン等の有害物質の発生のおそれのない、ポリオレフィン系樹脂からなるものが好適である。厚みはこれに印刷可能な程度の厚みがあればよく、70μm以上120μm以下の範囲内が好適である。
【0020】
(熱可塑性樹脂成形体2)
本実施形態における熱可塑性樹脂成形体2には、熱可塑性樹脂と、無機質材料と、着色顔料とを含有し、無機質材料の含有量が熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であり、着色顔料の含有量が熱可塑性樹脂成形体の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であるものを用いる。以下、熱可塑性樹脂成形体2の構成について、詳細に説明する。
【0021】
本実施形態の無機質材料の含有量は、熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、15質量%以上90質量%以下の範囲内であればよく、20質量%以上80質量%以下の範囲内であればより好ましく、60質量%以上80質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。無機質材料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、15質量%未満であると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が多くなるため、不燃性または難燃性が得にくい傾向がある。また、熱可塑性樹脂成形体2の表面をホフマンスクラッチテスターを用いて引っ掻いた際に、視認できる程度の傷が付く、即ち十分な表面硬度が得られないことがある。一方、無機質材料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、90質量%を超えると、相対的に熱可塑性樹脂の割合が少なくなる。このため、熱可塑性樹脂成形体2表面に、後述するアンカー層の塗工等を行った際に熱可塑性樹脂成形体2表面に所謂「粉吹き」が発生することがある。ここで、「粉吹き」とは、熱可塑性樹脂成形体2に含まれた無機質材料が熱可塑性樹脂成形体2の表面に浮き出ることをいう。また無機質材料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、90質量%を超えると、熱可塑性樹脂成形体2を折り曲げて再び開いた際に、折り曲げた部分から割れが発生したり、無機質材料が落ちたりすることがある。
【0022】
このように、本実施形態の無機質材料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、15質量%以上90質量%以下、好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは60質量%以上80質量%以下の範囲内であれば、不燃性または難燃性を得つつ、粉吹きの発生を低減させ、且つシートの折り曲げ部における割れの発生を低減することができ、さらに十分な表面硬度を得ることができる。
【0023】
また、本実施形態の無機質材料は、粉末形状(粉体形状)であることが好ましく、その平均粒子径が1μm以上3μm以下の範囲内であり、且つ最大粒子径が50μm以下であることが好ましい。無機質材料の平均粒子径及び最大粒子径が上記数値範囲内であれば、熱可塑性樹脂に対する無機質材料の分散性を向上させつつ、熱可塑性樹脂成形体2表面の平坦性を維持することができる。無機質材料の平均粒子径が1μm未満であると、無機質材料同士の凝集力が高まり、後述する熱可塑性樹脂への分散性が低下することがある。また、無機質材料の平均粒子径が3μmを超えると、熱可塑性樹脂成形体2表面の平坦性が低下し、後述する表面アンカー層4aまたは裏面アンカー層4bの厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。また、無機質材料の最大粒子径が50μmを超えると、熱可塑性樹脂成形体2表面の平坦性が低下し、後述する表面アンカー層4aまたは裏面アンカー層4bの厚みが不均一となったり、ムラや欠けが発生したりすることがある。なお、本実施形態において、「平均粒子径」とは、モード径を意味する。なお、最大粒子径を有する粒子は、無機質材料全体の5質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0024】
無機質材料は、例えば、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含有した粉末である。炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体は、50質量%以上100質量%以下の範囲内で含むものが好ましい。つまり、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体の純度は、炭酸カルシウム等が50質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましい。炭酸カルシウム等の含有量が50質量%以上含む炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体であれば、熱可塑性樹脂成形体2に、十分な不燃性または十分な難燃性を付与することができると共に、十分な機械強度を付与することができる。
【0025】
なお、無機質材料としては、上記炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体以外に、例えば、シリカ(特に中空シリカ)、アルミナ、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、珪酸ジルコン、酸化ジルコンなどのジルコニウム化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、ホウ酸亜鉛、三酸化モリブデンあるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムとの錯体など、三酸化アンチモンとシリカとの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華との錯体、ジルコニウムのケイ酸、ジルコニウム化合物と三酸化アンチモンとの錯体、並びにそれらの塩などの少なくとも一種が挙げられる。特に、炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩は製造手法による粒径のコントロールや熱可塑性樹脂との相溶性の制御が容易であり、また、材料コストとしても安価であるため熱可塑性樹脂成形体2の低廉化の観点からも好適である。
【0026】
また、無機質材料は、結晶性を有する粉末材料、所謂結晶粉末であってもよいし、結晶性を有さない粉末材料、所謂アモルファスタイプの粉末材料であってもよい。無機質材料が結晶性を有する粉末材料であれば、粉末自体が均質で等方性を備えるため、粉末自体の機械強度が向上し、熱可塑性樹脂成形体2の耐傷性や耐久性能が向上する傾向がある。また、無機質材料がアモルファスタイプの粉末材料であれば、粉末自体の電気伝導性や熱伝導性、あるいは光透過率や光吸収率を適宜調整することが可能となるため、触感や艶等のバリエーションが豊富な意匠性を付与することが可能となる。
【0027】
本実施形態の熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルの少なくとも1種を含んでいれば好ましく、ポリプロピレンを含んでいればより好ましい。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエステルの少なくとも1種を使用することで、無機質材料の分散性が向上する。また、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンを使用することで、無機質材料の分散性がさらに向上する。なお、熱可塑性樹脂としては、ポリスチレンを使用することもできる。
【0028】
また、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、90質量%以上99質量%以下の範囲内であることが好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性または十分な難燃性を得つつ、シートの折り曲げ部に発生する割れを低減することができる。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、90質量%未満であると、十分な不燃性または十分な難燃性が得られないことがある。また、シートの折り曲げ部に割れが発生したりすることがある。
【0029】
なお、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量は、熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、99質量%である場合には、熱可塑性樹脂の含有量を9質量%以上84質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を15質量%以上90質量%以下の範囲内とすることが好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上80質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を19質量%以上79質量%以下の範囲内とすることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂の含有量を20質量%以上40質量%以下の範囲内とし、無機質材料の含有量を59質量%以上79質量%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量が上記数値範囲内であれば、十分な不燃性または十分な難燃性を確実に得つつ、シートの折り曲げ部に発生する割れを確実に低減することができる。
【0030】
また、熱可塑性樹脂成形体2の厚みは、50μm以上1000μm以下の範囲内であればよく、50μm以上250μm以下の範囲内であることが好ましく、70μm以上200μm以下の範囲内であることがより好ましい。熱可塑性樹脂成形体2の厚みが上記数値範囲内であれば、十分な不燃性または十分な難燃性を確実に得つつ、シートの折り曲げ部に発生する割れを低減することができる。熱可塑性樹脂成形体2の厚みが50μm未満であると、十分な不燃性または十分な難燃性が得にくい傾向がある。また、熱可塑性樹脂成形体2の厚みが250μmを超えると、シートの折り曲げ部に割れが発生することがある。
また、熱可塑性樹脂成形体2は、1軸延伸または2軸延伸の熱可塑性樹脂成形体であることが好ましい。熱可塑性樹脂成形体2が1軸延伸または2軸延伸の熱可塑性樹脂成形体であれば、床用建材10の汎用性を高めることができる。
【0031】
本実施形態の着色顔料は、イソインドリノン、ポリアゾ、フタロシアニン等の顔料を配合して所望の色調を発現するように添加すれば良い。本実施形態の着色顔料の含有量は、熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して、0質量%超10質量%以下の範囲内であればよく、0質量%超8質量%以下の範囲内であればより好ましく、4質量%以上6質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。着色顔料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して0質量%であると、熱可塑性樹脂成形体2に所望の色調を付与することができない。また、着色顔料の含有量が熱可塑性樹脂成形体2の質量に対して10質量%を超えると、相対的に無機質材料の割合が少なくなるため、不燃性または難燃性が得にくい傾向がある。
【0032】
なお、本実施形態の熱可塑性樹脂成形体2は、上記構成に限定されるものではない。例えば、熱可塑性樹脂成形体2は、紙粉を含んだものであってもよい。熱可塑性樹脂成形体2に含める紙粉としては、例えば、平均粒子径が10μm以上50μm以下の範囲内である微細パウダーでバージンパルプ、あるいは、製紙段階での断裁片、加工段階での加工ロス、印刷段階での裁ち落とし、古紙等の損紙等が使用可能であるが、着色効果の安定性を考慮するとある一定の品種の紙を粉砕した紙粉が望ましい。紙粉粒径が50μmを超えると熱可塑性樹脂成形体2の断面が紙粉部分と樹脂部分での海島模様が目視にて認識されてしまい、意匠的に好ましくない。また、紙粉粒径が10μmに満たないと取り扱いが困難となり、作業効率が低下することがある。なお、前述の「平均粒子径」とは、モード径を意味する。
【0033】
熱可塑性樹脂成形体2の表面(第1の面)及び裏面(第2の面)の少なくとも一方に、例えば、後述する表面アンカー層(第1のアンカー層)4a及び裏面アンカー層(第2のアンカー層)4bを形成する前に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことが好ましい。ここで、「熱可塑性樹脂成形体2の表面(第1の面)」とは、化粧シート1側の面を意味する。ここで、「熱可塑性樹脂成形体2の裏面(第2の面)」とは、化粧シート1とは反対側の面、即ち木質系基材3側の面を意味する。また、熱可塑性樹脂成形体2の表面及び裏面の少なくとも一方に、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理を施すことで、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bと、熱可塑性樹脂成形体2との接着性(密着性)が向上する。
また、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bを形成する前に、例えば、熱可塑性樹脂成形体2の表面及び裏面の少なくとも一方をブラッシングして、粉吹きした無機質材料、例えば炭酸カルシウム及び炭酸カルシウム塩の少なくとも一方を含む粉体を事前に落とすようにしてもよい。
【0034】
(表面アンカー層4a)
表面アンカー層4aは、熱可塑性樹脂成形体2の表面全体を覆うように形成された層であって、熱可塑性樹脂成形体2に含まれる無機質材料の粉落ちを防止するための層である。熱可塑性樹脂成形体2に化粧シート1を積層(接着)させるための接着剤層(図示せず)の塗工時に熱可塑性樹脂成形体2に含まれる無機質材料が塗工系内、具体的には印刷塗工装置内で粉落ちすると、その塗工系内を汚染することがある。また、熱可塑性樹脂成形体2に含まれる無機質材料が粉落ちすると、化粧シート1を接着させるための接着剤層の抜け等の不具合が発生する可能性がある。ここで、「接着剤層の抜け」とは、化粧シート1を接着させるための接着剤層が部分的に塗工されないことをいう。化粧シート1を接着させるための接着剤層に抜け等が発生すると、熱可塑性樹脂成形体2と化粧シート1との密着性が低下することがある。
【0035】
表面アンカー層4aは、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含有していることが好ましい。ここで、「塩酢ビ」とは、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体を意味する。また、「塩酢ビを含むウレタン系樹脂」とは、塩酢ビとウレタン系樹脂とを含んだ組成物であり、塩酢ビの含有量とウレタン系樹脂の含有量との比(塩酢ビの含有量(質量)/ウレタン系樹脂の含有量(質量))は80/20~1/99の範囲内であればよく、50/50~5/95の範囲内であれば好ましく、20/80~10/90の範囲内であればさらに好ましい。
また、「塩酢ビを含むウレタン系樹脂」は、前述の塩酢ビ及びウレタン系樹脂以外に硬化剤を含んでいてもよい。この硬化剤は、塩酢ビを含むウレタン系樹脂を確実に硬化させるために添加されるものであり、その含有量については特に限定されない。例えば、塩酢ビを含むウレタン系樹脂の含有量と、硬化剤の含有量との比(塩酢ビを含むウレタン系樹脂の含有量(質量)/硬化剤の含有量(質量))は99/1~1/99の範囲内であればよく、99/1~50/50の範囲内であれば好ましく、95/5~90/10の範囲内であればさらに好ましい。
【0036】
表面アンカー層4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、表面アンカー層4aの質量に対し、15質量%以上100質量%以下の範囲内が好ましく、80質量%以上100質量%以下の範囲内がより好ましく、85質量%以上95質量%以下の範囲内がさらに好ましい。表面アンカー層4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が上記数値範囲内であれば、表面アンカー層4aと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度を十分なものにしつつ、均一でムラや欠けのない表面アンカー層4aを形成することができる。表面アンカー層4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が表面アンカー層4aの質量に対し、15質量%未満であると、表面アンカー層4aと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度が不十分となることがある。また、表面アンカー層4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が表面アンカー層4aの質量に対し、80質量%未満であると、使用上何ら問題はないが、表面アンカー層4aの熱可塑性樹脂成形体2への食い込み比率が低下し、表面アンカー層4aと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度が低下することが僅かながらある。なお、表面アンカー層4aにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が表面アンカー層4aの質量に対し、100質量%以下であれば使用上何ら問題はないが、95質量%、より正確には98質量%を超えると、硬化不足で表面アンカー層4aに欠けが生じたり、表面アンカー層4aと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度が低下したりすることがある。
【0037】
また、表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、後述する裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量と同じであってもよい。即ち、表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量の1.0倍(0.95倍以上1.04倍以下の範囲内)であってもよい。表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が、裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量と同じである場合には、表面アンカー層4aの物性と裏面アンカー層4bの物性がほぼ同じになるため、熱可塑性樹脂成形体2が表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bを備えた状態において、歪みや反り等の発生を低減することができる。そのため、熱可塑性樹脂成形体2全体の歪みや反り等の発生を低減することができる。また、表面アンカー層4aを形成するための塗工液と、裏面アンカー層4bを形成するための塗工液とを共通化することができるため、製造コストを低減するとともに、作業効率を向上させることができる。
【0038】
また、表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量よりも多くてもよいし、少なくてもよい。表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が、裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量よりも多い、または少ない場合には、表面アンカー層4aの物性と裏面アンカー層4bの物性が異なるため、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bを備えた熱可塑性樹脂成形体2に、歪みや反り等を付与することができる。このように、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bを備えた熱可塑性樹脂成形体2に歪みや反り等を付与することで、その熱可塑性樹脂成形体2を湾曲した表面を備える基材等に隙間なく貼り合せることができる。例えば、表面アンカー層4aにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、裏面アンカー層4bにおける塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量の1.1倍以上10倍以下であってもよく、0.1倍以上0.9倍以下であってもよい。
【0039】
表面アンカー層4aの厚みは、例えば、0.5μm以上20μm以下の範囲内であり、好ましくは、0.5μm以上10μm以下の範囲内である。また、表面アンカー層4aの厚みは、裏面アンカー層4bの厚みと同じであってもよい。表面アンカー層4aの厚みが裏面アンカー層4bの厚みと同じである場合には、表面アンカー層4aの物性と裏面アンカー層4bの物性がほぼ同じになるため、熱可塑性樹脂成形体2が表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bを備えた状態において、歪みや反り等の発生を低減することができる。
【0040】
また、表面アンカー層4aの厚みは、裏面アンカー層4bの厚みよりも厚くてもよいし、薄くてもよい。表面アンカー層4aの厚みと裏面アンカー層4bの厚みを異なるものとすることで、光沢差が生じるため、熱可塑性樹脂成形体2の表面側と裏面側とを容易に視認することができる。そうすることで、熱可塑性樹脂成形体2の表面に、例えば積層面であることを表示する識別マーク等を形成することなく、化粧シート1を積層することができる。その結果、熱可塑性樹脂成形体2の裏面(非積層面)側に化粧シート1を積層することで生ずる製品ロスを低減することができる。
【0041】
(裏面アンカー層4b)
裏面アンカー層4bは、熱可塑性樹脂成形体2の裏面全体を覆うように形成された層であって、熱可塑性樹脂成形体2に含まれる無機質材料の粉落ちを防止するための層である。熱可塑性樹脂成形体2に木質系基材3を積層(接着)させるための接着剤層(図示せず)の塗工時に熱可塑性樹脂成形体2に含まれる無機質材料が塗工系内、具体的には印刷塗工装置内で粉落ちすると、その塗工系内を汚染することがある。
裏面アンカー層4bは、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂を含有していることが好ましい。
【0042】
裏面アンカー層4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量は、例えば、裏面アンカー層4bの質量に対し、15質量%以上100質量%以下の範囲内が好ましく、80質量%以上100質量%以下の範囲内がより好ましく、85質量%以上95質量%以下の範囲内がさらに好ましい。裏面アンカー層4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が上記数値範囲内であれば、均一でムラや欠けのない裏面アンカー層4bを形成することができる。裏面アンカー層4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が裏面アンカー層4bの質量に対し、15質量%未満であると、粉落ちの防止が十分でないことがある。また、裏面アンカー層4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が裏面アンカー層4bの質量に対し、80質量%未満であると、使用上何ら問題はないが、裏面アンカー層4bの熱可塑性樹脂成形体2への食い込み比率が低下し、裏面アンカー層4bと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度が低下することが僅かながらある。なお、裏面アンカー層4bにおける、塩酢ビを含むウレタン系樹脂、または塩酢ビを含むアクリル系樹脂の含有量が裏面アンカー層4bの質量に対し、100質量%以下であれば使用上何ら問題はないが、95質量%、より正確には98質量%を超えると、硬化不足で裏面アンカー層4bに欠けが生じたり、裏面アンカー層4bと熱可塑性樹脂成形体2との層間強度が低下したりすることがある。
【0043】
また、裏面アンカー層4bの厚みは、例えば、0.5μm以上20μm以下の範囲内であり、好ましくは、0.5μm以上10μm以下の範囲内である。
なお、実施形態では、上述のように、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bの両方を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bの少なくとも一方を設けた形態であっても良いし、表面アンカー層4a及び裏面アンカー層4bの両方を設けなくても良い。
この熱可塑性樹脂成形体2を使用することで、床用建材10に対して、ISO5660-1に準拠したコーンカロリ燃焼試験に準拠して、床用建材10に対する総発熱量及び時間に対する発熱速度を求めた際に、(i)加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m2以下であり、(ii)加熱開始後20分間、最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えず、かつ(iii)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないことを満たす不燃性を付与可能となる。
【0044】
(木質系基材3)
木質系基材3は、例えば合板、パーティクルボード、中密度木質繊維板(MDF)、又はハードボード等である。木質系基材3の厚みは、例えば1mm以上50mm以下である。
なお、木質系基材3としては、例えば、1%含水率変化当たりの寸法変化量が0.02%よりも大きく、且つ平均含水率が6~10質量%である木質系基材を使用してもよい。そのような木質系基材3としては、例えば、中密度木質繊維板(MDF)、高密度木質繊維板(HDF)、パーティクルボード(PB)、針葉樹合板及び早成樹合板の一つ、又はこれらの板から選択された2以上の板を積層して構成される基材が例示出来る。
【0045】
なお、木質系基材3と熱可塑性樹脂成形体2とを貼り付ける際の接着剤としては、例えば熱可塑性樹脂系、熱硬化性樹脂系、ゴム(エラストマー)系等のいずれのタイプの接着剤であってもよいものである。これらは、公知のもの、または市販品を適宜選択して使用することができる。熱可塑性樹脂系接着剤としては、たとえば、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等)、シアノアクリレート、ポリビニルアルキルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ニトロセルロース、酢酸セルロース、熱可塑性エポキシ、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等を挙げることができ、また、熱硬化性樹脂系接着剤としては、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド、ポリベンツイミダゾール、ポリベンゾチアゾール等を挙げることができる。ゴム系接着剤としては、天然ゴム、再生ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ステレオゴム(合成天然ゴム)、エチレンプロピレンゴム、ブロックコポリマーゴム(SBS、SIS、SEBS等)等を挙げることができる。
また、上述の接着剤は、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2とを貼り付ける際の接着剤としても使用可能である。
【実施例1】
【0046】
(実施例1)
市販ポリスチレンと、平均粒子径が0.8μmであるシリカ(含有量15質量%)と、着色顔料10質量%と、ステアリン酸カルシウム1質量%とを、2軸押出機によって混合、押出し、厚さ0.5mm、幅450mmの断面長方形状に成形し、その表裏にコロナ放電処理を施し、熱可塑性樹脂成形体2とした。
そしてこの熱可塑性樹脂成形体2の表面側に厚さ160μmのオレフィン系樹脂からなり、絵柄印刷層を備えた化粧シート1((株)トッパン・コスモ製:「エコシート」)をPUR接着剤50μm(厚さ)を塗布し接着した。その後、熱可塑性樹脂成形体2の裏面側に酢酸ビニル系接着剤30μm(厚さ)を塗布し、木質系基材3としてラワン普通合板を用いこれを貼り合わせ、実施例1の床用建材を得た。
【0047】
(実施例2)
無機質材料(シリカ)の含有量を80質量%とし、着色顔料の含有量を5質量%とし、ステアリン酸カルシウムの含有量を3質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2の床用建材を得た。
(実施例3)
無機質材料(シリカ)の平均粒子径を1μmとした以外は実施例2と同様にして、実施例3の床用建材を得た。
【0048】
(実施例4)
無機質材料(シリカ)の平均粒子径を3μmとした以外は実施例2と同様にして、実施例4の床用建材を得た。
(実施例5)
無機質材料を三酸化アンチモンとした以外は実施例2と同様にして、実施例5の床用建材を得た。
【0049】
(実施例6)
無機質材料を酸化ジルコンとした以外は実施例2と同様にして、実施例6の床用建材を得た。
(実施例7)
無機質材料を酸化カルシウムとした以外は実施例2と同様にして、実施例7の床用建材を得た。
【0050】
(実施例8)
熱可塑性樹脂を市販ポリプロピレンとした以外は実施例1と同様にして、実施例8の床用建材を得た。
(実施例9)
熱可塑性樹脂を市販ポリエチレンとした以外は実施例1と同様にして、実施例9の床用建材を得た。
【0051】
(実施例10)
熱可塑性樹脂を市販ポリエステルとした以外は実施例1と同様にして、実施例10の床用建材を得た。
(実施例11)
熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量を90質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例11の床用建材を得た。
【0052】
(実施例12)
熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量を99質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例12の床用建材を得た。
(実施例13)
熱可塑性樹脂成形体2の両面にアンカー層を、塩酢ビを含むウレタン系樹脂で形成した以外は実施例1と同様にして、実施例13の床用建材を得た。
【0053】
(実施例14)
熱可塑性樹脂成形体2の両面にアンカー層を、塩酢ビを含むアクリル系樹脂で形成した以外は実施例1と同様にして、実施例14の床用建材を得た。
(実施例15)
無機質材料を炭酸カルシウムとし、その含有量を80質量%とし、その平均粒子径を2μmとして、熱可塑性樹脂をポリプロピレンとし、熱可塑性樹脂と無機質材料との合計含有量を90質量%とし、熱可塑性樹脂成形体2の両面にアンカー層を、塩酢ビを含むウレタン系樹脂で形成し、着色顔料の含有量を5質量%とし、ステアリン酸カルシウムを3質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例15の床用建材を得た。
【0054】
(実施例16)
熱可塑性樹脂成形体2の両面にアンカー層を、塩酢ビを含むアクリル系樹脂で形成した以外は実施例15と同様にして、実施例16の床用建材を得た。
(比較例1)
無機質材料の含有量を13質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の床用建材を得た。
【0055】
<性能評価>
以上の実施例1~16、比較例1に以下の4項目について性能評価を行った。
切削断面の着色効果:木質調の絵柄印刷層を施した当該化粧材を用意し、VカットラジアルソーにてV溝を切削加工し、溝部の着色効果を目視にて確認した。
○:絵柄印刷層・基材層表面と色味の遜色なし。
△:やや白みが見られ、微量ながら絵柄印刷層・基材層表面との差異が確認できる。
×:白みが強く、絵柄印刷層・基材層表面との差異が大きく目立つ。
上記評価において、「○」及び「△」を合格とした。
【0056】
不燃性能試験:ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において下記の要件を満たしているか否か評価した。
1.総発熱量が8MJ/m2以下
2.最大発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない
3.防火上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴が生じない
なお、不燃性基材としては、石こうボードを用いた。また、評価基準は以下の通りである。
○:上記要件を全て満たす
×:上記要件の少なくとも1つを満たさない
上記各評価において、「×」の評価があるシートは、シート全体として不合格とした。
【0057】
成形性:熱可塑性樹脂成形体2を2軸押出機によって混合、押出しし成形する際の成形のしやすさを確認した。
○:成形性良好
△:成形安定性にやや難有り、寸法安定性等に欠く
×:成形不可
上記評価において、「○」及び「△」を合格とした。
【0058】
熱安定性:熱機械分析装置TMAにて0℃~40℃の温度域における線膨張係数を算出した。
〇:7×10E-5未満
△:7×10E-5~10×10E-5未満
×:10×10E-5以上
上記評価において、「○」及び「△」を合格とした。
【0059】
接着性:床用建材の化粧シート1表面にニチバン製セロハンテープを圧着した後、一定の力で強く引き剥がし、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2との層間での剥離の有無を目視にて評価した。なお、評価基準は以下の通りである。
◎:15N(ニュートン)の力で引き剥がした場合に、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2との層間で剥離は発生せず
○:10Nの力で引き剥がした場合に、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2との層間で剥離は発生せず
△:10Nの力で引き剥がした場合に、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2との層間の一部で剥離が発生
×:セロハンテープ全面に化粧シート1が付着し、化粧シート1と熱可塑性樹脂成形体2との層間で顕著な剥離が発生
上記評価において、「◎」、「○」及び「△」を合格とした。
以上の結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
以上に示すように、本発明の実施例の範囲内に無機質材料・着色顔料・熱可塑性樹脂の配合を合わせることにより、成形性・熱安定性を確保しつつ、不燃性能・切削断面の着色効果及び層間接着性に優れる床用建材を作成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の床用建材は、戸建住宅、集合住宅、賃貸住宅、高齢者用住宅等の建築物における床面に使用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…化粧シート
2…熱可塑性樹脂成形体
3…木質系基材
4a…表面アンカー層
4b…裏面アンカー層
10…床用建材