(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20230905BHJP
A41D 1/00 20180101ALI20230905BHJP
A41D 13/12 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A41D13/00 102
A41D1/00 C
A41D13/12 145
(21)【出願番号】P 2019093076
(22)【出願日】2019-05-16
【審査請求日】2022-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宝田 博美
(72)【発明者】
【氏名】松生 良
(72)【発明者】
【氏名】石川 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】宮村 孝子
【審査官】冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0119677(US,A1)
【文献】特開2016-179250(JP,A)
【文献】特開2019-68901(JP,A)
【文献】中国実用新案第208404545(CN,U)
【文献】国際公開第2018/123034(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/05-5/0538、5/24-5/398
A41B9/06
A41D1/00、13/00、13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上半身の体幹部の肌面に密着させて用いる電極またはセンサと、
前記電極または前記センサと接続される電子機器を取り付けるためのコネクタと、
身頃の裾から
、前記電極または前記センサが設置されている位置まで
、上方向に開閉可能な開閉機構と、
を備え
、
前記開閉機構は、前記身頃の裾と、前記コネクタとの間の範囲に一つのみ設けられていることを特徴とする衣服。
【請求項2】
前記開閉機構は、前記電極または前記センサと前記コネクタとを接続する配線を通過しない位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
前記肌面に接触する前記電極または前記センサを、前記身頃の上から前記肌面に押さえつける伸縮性のベルトを備え、
前記ベルトは、解放または長さ調整の少なくとも一方が可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の衣服。
【請求項4】
前記コネクタは、前記ベルトと異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載の衣服。
【請求項5】
前記開閉機構は、前記身頃の裾から開く片開き線ファスナーであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の衣服。
【請求項6】
前記電極は、心電位または心拍を取得するための生体信号取得用電極、または生体に電気刺激を与えるための電気刺激入力用電極であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の衣服。
【請求項7】
前記センサは、着用者の皮膚表面の体温を検出する温度センサ、または前記皮膚の変位を検出する変位センサであることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌面に密着させて用いる電極またはセンサを備える衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の身体、特に心臓からの生体信号である心拍や心電図は、人の健康状態や活動状況の観察、疾病の診断、あるいは精神状態の推定等の様々な有益な情報を得ることができる。そのため、肌面に電極を貼付して生体信号を取得することが古くから行われている。
【0003】
医療分野では、一般的に装置から配線で繋がれた電極を身体に貼り付けることにより正確な心電図を取得するが、その場合、対象者はその場から離れることができず、行動が制約される。また、長時間活動している際の生体信号を取得する場合、例えば小型の装置を携帯し、当該装置と接続された電極を貼り付けたまま、日常生活の中で心電図を取得する「ホルター心電図検査」という検査方法が利用される。しかしながら、この検査方法では、電極を貼り付けるための粘着シートによって肌がかぶれやすく、かゆみを伴う場合がある。また、この検査方法では、測定中に粘着シートを適正な位置に貼り直すことが困難であるため、測定中は入浴することができない等の不便を伴う。
【0004】
一方、心拍センサについては、電極を備えた衣服やベルトが種々開発されており、小型の装置を接続して、スポーツにおける効率的なトレーニングや安全確認のために心拍のモニタリングをする用途等で用いられている。その他にも、皮膚に直接密着させることにより、体温や皮膚の伸縮(身体の動き)等を測定するセンサ等も開発されており、これらのセンサを一体化させた衣服等も存在する。
【0005】
例えば特許文献1には、センサを備えたセンサバンドが身体に密着し、センサが肌面に押しつけられるように構成された衣服であって、センサバンド以外の部分が身体に緩くフィットすることにより、着用感を損なわないセンサ付き衣服が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、伸縮性を有する生地で構成された衣服であって、電極の設置部分の周囲を延ばした状態で固定することにより、身体に電極を密着させたセンサ付き衣服が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2005-525478号公報
【文献】特開2016-179250号公報
【文献】登録実用新案第3129552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で開示された衣服では、センサバンドが窮屈であるため、脱ぎ着する際に生地を無理に引っ張ると、センサを接続する配線が切れたり、あるいはセンサの性能が低下したりする場合があった。
【0009】
また、特許文献2で開示された衣服では、伸縮性を有する生地のテンションが時間経過とともに緩むため、長時間着用すると、肌面に対する電極の密着度が低下する。そのため、生体信号の取得精度が低下し、ノイズが増加する場合があった。
【0010】
また、肌面に対する密着度を向上させるために、電極やセンサ(以下、「電極等」という)を取り付けた生地の上から、伸縮性の高い生地で更に締め付ける方法もあるが、電極等を生地に固定すると、その部分の伸縮が規制されるため、伸縮性が低下する。そのため、衣服をいくら緩めに作ったとしても、脱ぎ着する際に電極等の設置部分に強い力がかかり、電極等の剥離や破損が起きやすくなる。
【0011】
一方、大きな周長で作られた衣服に電極等を設置した場合、今度は着用した際に肌面に対して電極等が密着しなくなる。また、電極等を生地の上から別部材で締め付けたりすると、生地が折り畳まれて皺が発生し、肌面に電極を接触させる際の邪魔になる。
【0012】
また、一般的に上半身に着用するTシャツや肌着等の衣服は、頭からかぶって着用するデザインが主流であるが、頭からかぶることが困難な程ストレッチの効いたコンプレッションウェアや、あるいは麻痺等により身体を動かしにくい人が着用する下着等には、前開きの開閉構造が設けられている場合がある。例えば特許文献3では、前身頃に前開きの全開ファスナーを設けることにより、脱ぎ着が容易な衣服が提案されている。
【0013】
しかしながら、特許文献3で提案されたような全開ファスナーは、首を通す必要がなくて着用しやすい反面、例えば後遺症による片麻痺等で片手を動かしにくい人の場合、片手で左右のファスナーを噛み合わせることができないため、着用しにくいという問題がある。
【0014】
また、身体の左右に電極等を配置することが多いウェアラブルインナーに、特許文献3で開示された全開ファスナーを付与しようとすると、左右のセンサに接続される電子機器の配線が全開ファスナーによって分断されてしまうため、配線を背中側で取り回す等の工夫が必要となる。そのため、配線の取り回しが長くなったり、あるいは背中側に電子機器を取り付けることになったりしてしまい、着用者が電子機器の状態を視認することが困難となる。
【0015】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、日常生活で長時間快適に使用することでき、かつ脱ぎ着の際に電極やセンサの性能を損なうことのない衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る衣服は、上半身の体幹部の肌面に密着させて用いる電極またはセンサと、前記電極または前記センサと接続される電子機器を取り付けるためのコネクタと、身頃の裾から、少なくとも前記電極または前記センサが設置されている位置まで開閉可能な開閉機構と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記開閉機構は、前記電極または前記センサと前記コネクタとを接続する配線を通過しない位置に設けられていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記肌面に接触する前記電極または前記センサを、前記身頃の上から前記肌面に押さえつける伸縮性のベルトを備え、前記ベルトは、解放または長さ調整の少なくとも一方が可能であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記コネクタは、前記ベルトと異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記開閉機構は、前記身頃の裾から開く片開き線ファスナーであることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記電極は、心電位または心拍を取得するための生体信号取得用電極、または生体に電気刺激を与えるための電気刺激入力用電極であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る衣服は、上記発明において、前記センサは、着用者の皮膚表面の体温を検出する温度センサ、または前記皮膚の変位を検出する変位センサであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る衣服によれば、身頃の裾から電極またはセンサが設置されている位置まで開閉可能な開閉機構を備えているため、脱ぎ着の際に開閉機構を開くことにより、衣服の周長を広げることができ、頭や肩を容易に通すことが可能となる。また、開閉機構を開くことにより、脱ぎ着の際に生地を引っ張ったとしても、電極またはセンサが設置されて生地の伸縮性が低下している部分に強い力がかかることがないため、電極またはセンサの剥離および破損を抑制することができる。また、着用時に開閉機構を閉じることにより、適度な締め付けにより、肌面に対して電極またはセンサを押し当てることができるため、電極やセンサの機能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1に係る衣服を正面からみた図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態1に係る衣服の開閉機構を開いた状態を正面からみた図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1に係る衣服を裏返しにした状態を正面から見た図である。
【
図4】
図4は、前身頃を全開する開閉機構を備える衣服を正面から見た図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態2に係る衣服を正面から見た図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態3に係る衣服を正面から見た図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施例において、衣服を着用して歩行中の着用者の心電図等のノイズ状況の例1を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例において、衣服を着用して歩行中の着用者の心電図等のノイズ状況の例2を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例において、衣服を着用して歩行中の着用者の心電図等のノイズ状況の例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る衣服の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、以下の実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものも含まれる。
【0026】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る衣服1について、
図1~
図3を参照しながら説明する。衣服1は、例えば上半身の体幹部の肌面に密着させて用いる電極またはセンサを備えた衣服である。この衣服1は、例えば医療分野において病院の患者等が着用する患者衣や、スポーツ分野で利用されるウェアラブルインナー等に適用される。衣服1は、電極とセンサのいずれを備えていてもよいが、本実施の形態では、電極を備える衣服1について説明する。
【0027】
衣服1は、
図1に示すように、袖のないタンクトップ型で構成されている。衣服1をタンクトップ型で構成することにより、肩の動作により衣服1が引っ張られることが少なくなるため、電極等による生体信号の測定時にノイズがより発生しにくくなる。なお、衣服1は、タンクトップ型に限定されず、袖があるTシャツ型等であってもよい。
【0028】
衣服1は、
図1~
図3に示すように、前身頃11と、後身頃12と、開閉機構14と、電極21と、コネクタ22と、配線23と、を備えている。
【0029】
開閉機構14は、前身頃11を開閉するための機構である。開閉機構14は、前身頃11の裾13から襟まで完全には開かず、裾13から前身頃11の途中までが開く半開き構造を有している。そのため、開閉機構14としては、前身頃11の裾13から上方向に向かって開く片開き線ファスナーを用いることが好ましい。
【0030】
開閉機構14として片開き線ファスナーを用いた場合、開閉機構14を開く場合は前身頃11の裾13から上方向に向かって開く動作を行い、開閉機構14を閉じる場合は裾13に向かって上方向に閉じる動作を行う。このように、開閉機構14として片開き線ファスナーを用いることにより、例えば後遺症による片麻痺等で片手を動かしにくい人であっても、片手で開閉機構14を開閉することができ、容易に衣服1を脱ぎ着することが可能となる。
【0031】
開閉機構14は、前身頃11の裾13から、少なくとも電極21が設置されている位置までの範囲に設けられている。また、開閉機構14は、
図3に示すように、電極21とコネクタ22とを接続する配線23と干渉せず、当該配線を通過しない位置に設けられている。
【0032】
開閉機構14としては、前記した線ファスナーの他に、面ファスナー、ボタン、スナップ等を用いてもよい。但し、衣服1が伸縮性のある生地によって構成されている場合に、開閉機構14としてボタンを用いると、生地が引っ張られた際にボタンの間から肌が覗いてしまう可能性がある。そのため、衣服1が伸縮性のある生地によって構成されている場合、開閉機構14として線ファスナーや面ファスナーを用いることが好ましい。なお、開閉機構14として線ファスナーを用いた場合、線ファスナーのエレメントが肌面に直に接触すると着用者が違和感を覚えるため、線ファスナーの下にインナーフラップを設けることが好ましい。
【0033】
電極21は、
図3に示すように、前身頃11の裏側に配置されている。電極21の数と電極21を配置する位置は、当該電極21の用途に応じて決定される。例えば電極21によって心電位または心拍を取得する場合、同図に示すように、胸部の下側の左右の位置に一つずつ電極21が配置される。
【0034】
電極21としては、例えば心電位または心拍を取得するための生体信号取得用電極や、生体に電気刺激を与えるための電気刺激入力用電極等を用いることができる。また、電気刺激入力用電極としては、例えば腹筋等に電気信号を入力して筋肉運動を行うためのEMS(Electrical Muscle Stimulation)電極や、微弱な電気入力によって疲労や傷みを緩和するTENS(Transcutaneou Electrical Nerve Stimulation)電極等を用いることができる。電極21として電気刺激入力用電極を用いる場合、刺激を入力する筋肉上の肌に電極21が当たるように、衣服1の腹や脇腹、腰部等に電極21を設置すればよい。
【0035】
また、電極21の代わりにセンサを用いる場合、当該センサとしては、着用者の皮膚表面の体温を検出する温度センサや、着用者の皮膚の変位を検出する変位センサ、あるいは赤外線や赤色光を用いて心拍を取得する光学式の心拍センサ等を用いることができる。
【0036】
コネクタ22には、図示しない電子機器が取り付けられる。この電子機器は、電極21から生体信号を受信するための機器であり、受信した生体信号を更にスマホ等に送信するトランスミッタ、または生体信号を内部に記録する記録装置等である。また、電子機器は、配線23を通じて電極21と接続される。
【0037】
以上のような構成を備える本実施の形態に係る衣服1によれば、前身頃11の裾13から電極21が設置されている位置まで開閉可能な開閉機構14を備えているため、脱ぎ着の際に開閉機構14を開くことにより、衣服1の周長を広げることができ、頭や肩を容易に通すことが可能となる。また、開閉機構14を開くことにより、脱ぎ着の際に生地を引っ張ったとしても、電極21が設置されて生地の伸縮性が制限されている部分に強い力がかかることがないため、電極21および配線23の剥離および破損を抑制することができる。また、着用時に開閉機構14を閉じることにより、適度な締め付けにより、肌面に対して電極21を押し当てることができるため、電極21の機能を十分に発揮させることができる。
【0038】
また、本実施の形態に係る衣服1によれば、様々な体型の人が、歩行や階段の昇降等の日常生活を営む中で、強い締め付けや蒸れ感を感じることなく快適に着用することができる。また、衣服1を脱ぎ着する際に、電極21に干渉することなく、容易に身体を通すことができる。
【0039】
また、例えば
図4に示した衣服101のように、前身頃11を全開にできる開閉機構141を備えている場合、身体の前側にコネクタ22を配置しようとすると、配線23を背中側から通して身体の前側に導くか、あるいは開閉機構141を跨いで配線23を配置する必要がある。一方、本実施の形態に係る衣服1では、前身頃11を全開にしない開閉機構14を備えているため、一般的に身体の左右に配置することの多い複数の電極21からの配線23を、身体の全面に配置したコネクタ22に最短距離で接続することが可能になる。従って、配線23の取り回しが短くなる。更に、衣服1では、電子機器を身体の前側に取り付けることができるため、着用者が電子機器の状態を常時視認することが可能となる。
【0040】
また、本実施の形態に係る衣服1では、身体の前側ではなく後襟等の身体の後側にコネクタ22を配置することも可能である。この場合、配線23を身体の後側に通過させることにより、身体前面の開閉機構14を全開にすることが容易になり、少なくとも両手を使って脱ぎ着する際の利便性が向上する。但し、コネクタ22を身体の後側に配置した場合、着用者が着用中に電子機器の状態を視認することは困難となる。
【0041】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る衣服1Aについて、
図5を参照しながら説明する。衣服1Aは、同図に示すように、前記した実施の形態1に係る衣服1の構成に加えて、伸縮性を有するベルト15を備えている。また、同図では図示を省略したが、
図3と同様に、衣服1Aの内側には二つの電極21と、電極21とコネクタ22とを接続する二本の配線223が設けられている。
【0042】
前記した実施の形態1に係る衣服1では、開閉機構14を閉じることにより電極21を肌面に密着させて精度の高い生体信号を取得することができるが、例えば着用者の身体に対して衣服1のサイズが大きい場合、長時間着用すると電極21の密着度が低下し、生体信号のノイズが増加する可能性がある。
【0043】
そこで、本実施の形態に係る衣服1Aでは、伸縮性を有する素材からなるベルト15を電極21の真上を通るように配置している。ベルト15は、前身頃11の表側に配置されており、当該電極21を、前身頃11の上から肌面に押さえつける。このように、電極21の真上を通るようにベルト15を配置することにより、身体に対して衣服1のサイズが大きく、緩みがある場合であっても、ベルト15によって電極21を押さえつけることできる。そのため、電極21が肌面から離れにくくなり、生体信号の取得精度を長時間維持することが可能となる。
【0044】
ベルト15は、
図5に示すように、捩れや位置ズレを防止するために、前身頃11に設けられたベルト通し111,112に通されている。また、ベルト15は、当該ベルト15の長さを調整することができる長さ調整機構151,152を備えている。このような長さ調整機構151,152を備えることにより、着用者の体型に応じて、着用時に衣服1Aの周長を調整することができるため、様々な体型の着用者が衣服1Aを着用することが可能となる。また、ベルト15は、衣服1Aを脱ぐ際に身体を通しやすいように解放機構を備えていてもよい。
【0045】
また、ベルト15を備える衣服1Aの場合、当該ベルト15と異なる位置にコネクタ22を配置することが好ましい。すなわち、電子機器を取り付けるコネクタ22は、着用者が圧迫感を感じないように、接続する電子機器ごとベルト15によって押さえつけられることのない位置に配置することが好ましい。この場合、例えば衣服1Aの内側の電極21がある位置よりも高い位置に、コネクタ22を配置する。これにより、開閉機構14を避けて配線23が配置されることになるため、当該配線23の長さを短くすることができ、かつ電子機器の操作性も向上させることができる。
【0046】
以上説明したような実施の形態2に係る衣服1Aによれば、開閉機構14を閉じた上で、更に電極21が存在する位置の前身頃11の上から伸縮性のベルト15によって電極21を押さえつけるため、肌面に対する電極21の密着度が向上し、生体信号の取得精度が向上する。
【0047】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る衣服1Bについて、
図6を参照しながら説明する。衣服1Bは、同図に示すように、前記した実施の形態1に係る衣服1の構成に加えて、伸縮性を有するベルト16を備えている。また、同図では図示を省略したが、
図3と同様に、衣服1Bの内側には二つの電極21と、電極21とコネクタ22とを接続する二本の配線223が設けられている。
【0048】
衣服1Bでは、ベルト16の両端部161が前身頃11に縫い付けられている。これにより、開閉機構14を閉じた際に、ベルト16のストレッチ力によって、電極21が配置された部分が押さえつけられるため、肌面に対する電極21の密着度が向上する。また、衣服1Bを脱ぐ場合、開閉機構14を開くことにより、ベルト16も同時に開かれるため、衣服1Bの脱ぎやすさが向上する。
【0049】
ベルト16は、当該ベルト16の長さを調整することができる長さ調整機構162,163,164,165を備えている。このような長さ調整機構162,163,164,165を備えることにより、着用者の体型に応じて、着用時に衣服1Bの周長を調整することができるため、様々な体型の着用者が衣服1Bを着用することが可能となる。
【0050】
また、ベルト16を備える衣服1Bの場合、当該ベルト16と異なる位置にコネクタ22を配置することが好ましい。すなわち、電子機器を取り付けるコネクタ22は、着用者が圧迫感を感じないように、接続する電子機器ごとベルト16によって押さえつけられることのない位置に配置することが好ましい。この場合、例えば衣服1Bの内側の電極21がある高さよりも高い位置にコネクタ22を配置する。これにより、開閉機構14を避けて配線23が配置されることになるため、当該配線23の長さを短くすることができ、かつ電子機器の操作性を向上させることができる。
【0051】
以上説明したような実施の形態3に係る衣服1Bによれば、開閉機構14を閉じた上で、更に電極21が存在する位置の前身頃11の上から伸縮性のベルト16によって電極21を押さえつけるため、肌面に対する電極21の密着度が向上し、生体信号の取得精度が向上する。
【実施例】
【0052】
本発明に係る衣服の実施例について、
図7~
図9を参照しながら説明する。実施例1として、
図1~
図3で示したような開閉機構を備える衣服を作成した。実施例1において、電子機器としては、「トランスミッタ01(NTTドコモ社製)」を用いた。また、電極としては、繊維に導電性物質を含浸したテキスタイル電極を用い、熱接着樹脂によって衣服の生地に圧着した。また、電極と電子機器とを接続する配線としては、銀メッキ繊維テープを用い、ポリウレタンテープによって覆って絶縁した。
【0053】
また、実施例2として、
図6で示したような、開閉機構を備え、かつ長さ調節機能付きのベルトを備える衣服を作成した。実施例2の電子機器、電極および配線は、実施例1と同じものを用いた。また、比較例として、実施例1,2のような開閉機構を備えない衣服を用いた。比較例の電子機器、電極および配線は、実施例1と同じものを用いた。
【0054】
実施例1,2および比較例の衣服について、5人の被験者がそれぞれ20回の着脱を行い、着脱感、20回着脱後の損傷の有無、心拍測定中のノイズ量について評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
(着脱感)
実施例1は、開閉機構を開くと電極付近の周長にゆとりができるため、脱ぎ着がしやすかった。また、実施例2は、開閉機構を開いた上でベルトの緩みを最大にすることにより、身体を通すのが容易だった。
【0057】
一方、比較例は、電極の配線が伸びないため、その付近の衣服の生地の伸縮性が阻害され、肩を通しにくかった。特に、衣服を脱ぐ際に首の後ろの生地を掴んで引き抜くような脱ぎ方を行うと、比較例は電極の周辺が伸びにくいため引っ掛かり、時間が掛かって脱ぎにくかった。また、衣服の適用サイズの範囲内の胸囲であっても、やや太めの被験者は衣服が脱ぎにくいと感じた。従って、比較例は、実施例1,2と比較して全般的に着脱感が劣ると評価された。
【0058】
(損傷の有無)
実施例1,2は、20回着脱後も損傷は発生しなかった。一方、比較例は、脱着時に電極および配線に負荷がかかるため、5人中2人については、着脱を繰り返すうちに配線を被覆するポリウレタンテープの一部が切れ、剥がれが生じた。
【0059】
(心拍測定中のノイズ量)
ここで、
図7~
図9は、衣服の着用者の心電図等のノイズ状況を示している。同図で示した加速度のグラフは、被験者がほぼ同じ歩き方で上下動していることを示している。また、心電のグラフでは、被験者のR波を確認することができる。
【0060】
前記した表1に示した心拍測定中のノイズ量の5段階評価において、例えば「評価5」は、
図7に示すように、ノイズがほとんどなく、生体信号の取得精度が高い状態を示している。また、「評価3」は、
図8に示すように、ややノイズはあるものの、心拍の測定は可能な状態を示している。また、「評価1」は、
図9に示すように、ノイズが多くて測定が不可能な状態を示している。同図では、被験者の歩行の上下動がノイズとして心電に含まれた結果、R波が検出できず、心拍が乱れていることがわかる。
【0061】
20回の着脱の前後で歩行中の心電位を測定したところ、歩行中であっても、初回は全被験者でほぼノイズのない心拍を測定できたが、比較例では、衣服の脱着時に電極の周辺が強く引っ張られた結果、生地が伸びて電極の着圧が緩くなり、20回の着脱後にノイズが増加した。
【0062】
一方、実施例1では、脱着時に開閉機構を開くことにより、脱着によって生地が伸びることがなく、かつ着用時に開閉機構を閉じることにより適度な締め付けを得ることができるため、20回の着脱後においても、1回目の着脱時と比較してノイズが大幅に増加することはなかった。また、実施例2では、着用時に開閉機構を閉じるだけではなく、胴回りに合わせて適切にベルトの長さを調整することにより、実施例1よりも更に電極が肌面に密着して動かないことから、実施例1よりも生体信号を更に精度良く取得することが可能であった。
【0063】
以上、本発明に係る衣服について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0064】
例えば、前記した衣服1Aのベルト15および衣服1Bのベルト16は、後身頃12に設けられた図示しないベルト通しに通すか、あるいは後身頃12の中心で生地に縫い付けてもよい。これにより、ベルト15,16の捩れや位置ズレがより生じにくくなる。
【符号の説明】
【0065】
1,1A,1B,101 衣服
11 前身頃
111,112 ベルト通し
12 後身頃
13 裾
14,141 開閉機構
15 ベルト
151,152 長さ調整機構
16 ベルト
161 両端部
162,163,164,165 長さ調整機構
21 電極
22 コネクタ
23 配線