(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】評価方法及び評価システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20230905BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230905BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
G01N21/64 Z
G01B11/16 H
(21)【出願番号】P 2019093727
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智大
(72)【発明者】
【氏名】田中 浩一
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109493329(CN,A)
【文献】特開平07-077498(JP,A)
【文献】特開平02-098606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01N 3/00 - G01N 3/62
E01D 1/00 - E01D 24/00
E21D 11/00 - E21D 19/06
E21D 23/00 - E21D 23/26
E04G 23/00 - E04G 23/08
H04N 5/222 - H04N 5/257
H04N 23/00
H04N 23/40 - H04N 23/76
H04N 23/90 - H04N 23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面を評価する方法であって、
前記表面に生じる損傷状況が識別可能な第1配色の計測点を、前記表面に塗布された第2配色の下地塗料の上に、前記第1配色に対する補色の照明光の反射率が前記下地塗料とは異なる前記第1配色の計測点用塗料で形成し、
前記照明光によって前記表面により反射される光のうち、前記補色の光を透過するバンドパスフィルタを介して、加力前の前記計測点を認識可能に撮影した第1画像と加力後の前記計測点を認識可能に撮影した第2画像とを取得し、
前記第1画像と前記第2画像とから
、前記計測点の位置の変化を示す変位マッピング図を生成して出力することを特徴とする評価方法。
【請求項2】
画像を撮影する撮影装置と構造物の表面を評価する制御部
とを備えた評価システムであって、
前記表面に生じる損傷状況が識別可能な第1配色の計測点を、前記表面に塗布された第2配色の下地塗料の上に、前記第1配色に対する補色の照明光の反射率が前記下地塗料とは異なる前記第1配色の計測点用塗料で形成し、
前記撮影装置は、前記照明光によって前記表面により反射される光のうち、前記補色の光を透過するバンドパスフィルタを介して、加力前の前記計測点を認識可能とする第1画像と、加力後の前記計測点を認識可能とする第2画像とを撮影し、
前記制御部は、
前記撮影装置が撮影した前記第1画像と
前記第2画像とを取得し、
前記第1画像と前記第2画像とから
、前記計測点の位置の変化を示す変位マッピング図を生成して出力することを特徴とする評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面に発生する損傷状況と表面の変位等、構造物の表面を評価するために用いる評価方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物を構成するコンクリートの劣化状態を把握するために、コンクリートの試験体を用いた加力実験が行われている。この加力実験により、試験体に生じたひび割れを特定するための技術が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載のひび割れ検出方法においては、コンクリート構造物の表面を撮像した原画像データに対し、ウェーブレット変換を用いて低周波成分を除去する処理を行なって、空間変化率が小さい構造物表面の染みや汚れを除去した二値化画像データを作成する。そして、この二値化画像データを用いて、ひび割れに該当する画素を隣接する画素の平均輝度値で置換することによって背景画像データを作成し、この背景画像データで原画像を除算することにより、染みや汚れあるいは光ムラを除去して、ひび割れだけを抽出する。
【0003】
更に、試験体の表面の変位を把握するために、表面にパターンで計測点を形成し、変形前後の各計測点の位置を撮影するデジタル画像相関法も検討されている(例えば、非特許文献1参照。)。非特許文献においては、変形前後の表面に形成されたパターンを構成する各計測点の位置から、表面のひずみを算出する3D動的変形計測システムが記載されている。
【0004】
そして、従来、このようなデジタル画像相関法を用いる計測点の変位を把握し易くするために、計測点を、下地とのコントラストが強くなる色で形成していた。具体的には、表面全体を白色に塗布した後、その上に、黒色で計測点を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】宮下進太郎著 「新製品・新技術紹介 画像相関法に基づく3D動的変形計測システム ARAMIS」、一般社団法人 軽金属溶接協会編、「軽金属溶接」Vol.56 (2018)、NO.5、pp190-193
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、計測点のパターンを黒色で形成した場合、このパターンに紛れて、ひび割れ等の損傷状況を把握することが難しかった。具体的には、
図5(a)及び(b)には、加力実験を行なった十字形状の試験体の左側部分及び右側部分を示す。この試験体においては、
図5(a)に示す左側部分には変形計測用の黒色の計測点のパターンが形成され、
図5(b)に示す右側部分には黒色の計測点のパターンが形成されていない。この場合、
図5(a)の左側部分にもひび割れが生じているはずであるが、この
図5(a)では、ひび割れを把握することは難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する評価方法は、構造物の表面を評価する方法であって、前記表面に生じる損傷状況が識別可能な第1配色の計測点を、前記表面に塗布された第2配色の下地塗料の上に、前記第1配色に対する補色の照明光の反射率が前記下地塗料とは異なる前記第1配色の計測点用塗料で形成し、前記照明光によって前記表面により反射される光のうち、前記補色の光を透過するバンドパスフィルタを介して、加力前の前記計測点を認識可能に撮影した第1画像と加力後の前記計測点を認識可能に撮影した第2画像とを取得し、前記第1画像と前記第2画像とから、前記計測点の位置の変化を示す変位マッピング図を生成して出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面の損傷状況及び表面の変位を的確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】実施形態における表面評価処理の処理手順を説明する流れ図。
【
図4】実施形態においてひび割れが生じた表面を撮影した画像の説明図であって、(a)損傷観察画像、(b)はバンドパスフィルタに透過させて取得した画像。
【
図5】従来における加力実験を行なった十字形状の試験体の表面の説明図であり、(a)は試験体の左側部分、(b)は試験体の右側部分。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図4を用いて、
評価方法及び
評価システムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、柱梁架構等に用いられるコンクリート製の部材(試験体)の加力実験において、試験体(構造物)の表面のひび割れ(損傷状態)及び表面における変位(ひずみや移動量等)を評価する。
【0012】
図1に示す試験体の表面F1は、加力実験後の状態を示している。この表面F1には、ひび割れC1が生じている。
図1に示すように、本実施形態の撮影システムとしての表面評価システム10は、単色光光源装置11、撮影装置15、バンドパスフィルタ16及び解析装置20を備える。
【0013】
単色光光源装置11は、単色光を発生させて、試験体の表面に投光する。本実施形態では、この単色光光源装置11は、青色光を発生させる青色LEDである。本実施形態で使用する青色LEDは、青色光を出力し、特に波長465~470(nm)の青色光を強く出力する特性を有する。
【0014】
撮影装置15は、センサ感度の範囲に合わせて、試験体の表面を撮影する。撮影装置15のレンズの前には、バンドパスフィルタ16が取り外し可能に配置される。バンドパスフィルタ16がレンズの前に設置された場合には、撮影装置15は、バンドパスフィルタ16を通過する波長域がセンサ感度の範囲より狭いため、バンドパスフィルタ16を通過する透過光による撮影画像を生成する。また、バンドパスフィルタ16をレンズの前から取り外した場合には、撮影装置15は、可視光の波長域を含む白色LED等の白色光により照明された被写体の撮影画像を生成する。
【0015】
バンドパスフィルタ16は、所定の特定波長域のみを通過させるフィルタであり、ガラスやアクリル等で形成されている。本実施形態では、単色光光源装置11の青色光が、試験体の表面で反射され、この反射光のみを透過させるために用いる。具体的には、波長465~470(nm)の光を透過するバンドパスフィルタ16を用いる。本実施形態では、波長465~470(nm)の光を透過するバンドパスフィルタ16を用いることにより、単色光光源装置11が出力した青色光のみを通過させて、試験体の表面で反射された光を特定する。
【0016】
解析装置20は、撮影装置15に接続される。
(ハードウェア構成例)
図2は、解析装置20として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0017】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶部H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0018】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースであり、例えばネットワークインタフェースカードや無線インタフェース等である。
【0019】
入力装置H12は、利用者等からの入力を受け付ける装置であり、例えばマウスやキーボード等である。表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。
【0020】
記憶部H14は、解析装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶装置(例えば、後述する画像情報記憶部25)である。記憶部H14の一例としては、ROM、RAM、ハードディスク等がある。
【0021】
プロセッサH15は、記憶部H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、解析装置20における各処理(例えば、後述する制御部21における処理)を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、解析装置20のアプリケーションプログラムが起動された場合、後述する
図3に示す各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0022】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、プロセッサH15は、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは(3)それらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0023】
(解析装置20の機能)
図1に示す解析装置20は、表面のひび割れ等の損傷や表面の変位を計測して解析するためのコンピュータ端末である。解析装置20は、制御部21及び画像情報記憶部25を備える。
【0024】
制御部21は、後述する処理(画像取得段階、変位計測段階、計測出力段階等を含む処理)を行なう。このための表面評価プログラムを実行することにより、制御部21は、画像取得部211、変位計測部212及び計測出力部213として機能する。
【0025】
画像取得部211は、撮影装置15から画像を取得する。
変位計測部212は、表面における変位を評価するために、表面に形成されたランダムパターンで配置された計測点M1の位置の変化(変位)を計測する。
計測出力部213は、加力実験の前後で撮影した画像に基づいて計測した表面の変位と、ひび割れの位置とを出力する。
【0026】
画像情報記憶部25は、撮影装置15で撮影した画像を記憶する。本実施形態では、損傷観察画像と変位計測用画像とを記憶する。損傷観察画像は、白色の光により撮影された画像であって、表面に発生したひび割れが観察できる画像である。変位計測用画像は、バンドパスフィルタ16を用いて撮影された画像であって、実験前に撮影される第1画像と、実験後に撮影される第2画像とが含まれる。
【0027】
<表面評価処理>
次に、
図1、
図3及び
図4を用いて、表面評価処理について説明する。本実施形態の表面評価処理は、試験体の加力実験を行なう前に実行する準備処理と、加力実験を行なった後に実行する計測処理とを含む。
【0028】
まず、試験体において計測対象の表面の全面に下地塗料を塗布する(ステップS1-1)。本実施形態では、下地塗料として、白色の汎用の水性塗料を用いる。
下地塗料が乾いた後、下地塗料の上に、蛍光塗料で計測点を形成する(ステップS1-2)。本実施形態では、株式会社小松プロセス製の「水性蛍光塗料 蛍彩 蛍光イエロー」を用いて、ランダムパターンで計測点M1を形成する。このランダムパターンは、複数の形状及び大きさを有する計測点M1をランダムに配置したパターンである。このランダムパターンを形成する塗料は特殊であるが、パターンの形状や配置は、通常の加力実験で使用されるものと同じパターンを用いることができる。本実施形態では、手書きでランダムに計測点M1を、下地塗料の上に描く。
【0029】
そして、解析装置20の制御部21は、ランダムパターンの試験前の撮影記録処理を実行する(ステップS1-3)。具体的には、単色光光源装置11により青色光で試験体の表面F1を照らす。そして、撮影装置15により、試験体の表面F1を撮影する。
【0030】
この場合、撮影装置15は、表面F1において反射され、かつバンドパスフィルタ16の透過光により第1画像を生成する。本実施形態では、白色の下地において青色光が反射され、黄色の蛍光塗料で形成された各計測点においては、青色光が吸収される。このため、撮影装置15は、バンドパスフィルタ16を介して、下地に対応する部分の輝度が高く(明るく)、各計測点に対応する部分の輝度が低く(暗く)なる画像を生成する。
【0031】
そして、撮影装置15は、生成した第1画像を、解析装置20の制御部21に送信する。制御部21の画像取得部211は、取得した第1画像を、画像情報記憶部25に記録する。
その後、従来と同様に、加力実験を行なう。
【0032】
加力実験が終了した場合には、解析装置20の制御部21は、ひび割れの撮影記録処理を実行する(ステップS2-1)。具体的には、バンドパスフィルタ16を撮影装置15のレンズの前から取り外し、白色の照明光により試験体の表面F1を撮影する。そして、撮影装置15が撮影した画像を、損傷観察画像として画像情報記憶部25に記憶する。
【0033】
図4(a)には、白色光で撮影した損傷観察画像を示す。この画像において、表面F1には、黄色の蛍光塗料で各計測点が形成されている。白色光の下では、試験体の表面の下地塗料及び各計測点(黄色)は明度が高いが、ひび割れは黒色で明度が低い。このため、下地塗料に対してランダムパターンの各計測点が目立たず、表面に生じたひび割れをはっきりと識別することができる。
【0034】
次に、解析装置20の制御部21は、ランダムパターンの試験後の撮影記録処理を実行する(ステップS2-2)。具体的には、ランダムパターンの試験前の撮影記録処理と同様に、単色光光源装置11から青色光を試験体の表面F1に投光し、試験体の表面F1を、バンドパスフィルタ16を取り付けた撮影装置15で撮影する。そして、解析装置20の制御部21の画像取得部211は、撮影装置15から第2画像を取得して、画像情報記憶部25に記録する。
【0035】
図4(b)には、第2画像を示す。この画像においては、試験体の表面F1に蛍光塗料で形成された各計測点を認識することができる。
次に、解析装置20の制御部21は、画像比較による変位計測処理を実行する(ステップS2-3)。具体的には、制御部21の変位計測部212は、画像情報記憶部25から第1画像及び第2画像を取得する。そして、変位計測部212は、第1画像及び第2画像において対応する同一の計測点を特定し、特定した計測点の位置の変化(変位)を示す変位マッピング図を生成する。
【0036】
そして、解析装置20の制御部21は、試験結果の出力処理を実行する(ステップS2-4)。具体的には、制御部21の計測出力部213は、画像情報記憶部25から、損傷観察画像を取得し、この画像に含まれるひび割れの位置を特定する。そして、計測出力部213は、ステップS2-3で生成した変位マッピング図と、ひび割れの位置を特定した損傷観察画像とを、表示装置に出力する。この場合、画像における試験体の形状や撮影装置15の撮影位置に基づいて、損傷観察画像における試験体の表面位置と、変位マッピング図における試験体の表面位置との位置合わせを行なって出力してもよい。
【0037】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、試験体の表面F1に生じるひび割れC1と識別可能な配色の各計測点M1を、試験体の表面F1に形成する。各計測点M1は、バンドパスフィルタ16を介して撮影した場合、表面F1の下地と識別可能に形成される。そして、加力実験前後の第1画像及び第2画像を比較して、試験体の表面の変位を特定して出力する。これにより、表面に生じたひび割れ等の損傷状況と、各計測点M1に基づいて特定される試験体の表面の変位とを対比して把握することができる。
【0038】
(2)本実施形態では、試験体の表面F1に、青色光を反射する白色の下地塗料を塗布し、その上に、青色光を吸収する黄色の蛍光塗料で各計測点M1を形成する。これにより、各計測点M1を形成した蛍光塗料の黄色と下地の白色とは、黒色のひび割れC1と明度が違うため、各計測点M1に対してひび割れC1を容易に把握することができる。
【0039】
(3)本実施形態では、第1画像及び第2画像を取得する場合には、単色光光源装置11から青色光を試験体の表面F1に投光する。青色は、色相環において、明度の高い黄色やオレンジの補色及びその近傍の位置にある。明度の低いひび割れと区別し易い黄色やオレンジ色を計測点として用いることができ、可視光においてひび割れを容易に検出することができる。また、単色光及びこの単色光の波長に応じたバンドパスフィルタ16を用いることにより、環境の影響を低減でき、計測点M1の位置を明確に特定することができる。なお、青色以外の単色光(例えば、赤色光や緑色光)を用いる場合、この単色光の補色及びその近傍の色は、明度が低い(暗い)色となる。このため、単色光の補色で各計測点を形成した場合には、ひび割れを特定することが難しくなる。また、単色光以外の光を用いる場合、この光は広範囲の波長を含むため、バンドパスフィルタを通過する周波数の成分の光が弱くなり、各計測点が区別し難くなる。
【0040】
(4)本実施形態では、解析装置20の制御部21は、青色光のみを透過するバンドパスフィルタ16を介して撮影した第1画像及び第2画像を取得する。黄色の蛍光塗料で形成された各計測点M1からの蛍光(反射光)は、バンドパスフィルタ16を透過しないため、第1画像及び第2画像において、各計測点M1に対応する部分は黒色になる。従って、バンドパスフィルタ16を用いることにより、各計測点M1と下地の白色とのコントラストを明確にでき、各計測点の位置を明確に把握することができる。なお、バンドパスフィルタ16がない場合には、撮影装置15において、各計測点から蛍光(反射光)を受光するため、各計測点M1に対応する部分は黒色にならない。
【0041】
(5)本実施形態では、解析装置20の制御部21は、第1画像及び第2画像を用いて試験体の表面の変位に関する変位マッピング図と、ひび割れの位置を特定した損傷観察画像とを出力する。これにより、試験体の表面F1の変位とひび割れC1との位置関係を把握することができる。
【0042】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、試験体の表面F1に、単色光光源装置11からの青色光を反射する白色の下地塗料を塗布し、下地塗料の上に青色光を吸収する黄色の蛍光塗料で各計測点を形成し、青色光のみを透過するバンドパスフィルタ16を用いた。損傷状況と識別可能な配色の計測点を形成する色や材料、バンドパスフィルタの特性等は、これに限定されない。
【0043】
例えば、青色の照射光を照射し、表面に白色の下地塗料を塗布し、青色のみを透過するバンドパスフィルタを用いる場合には、各計測点を、黄色、オレンジ色の反射塗料を用いて形成してもよい。具体的には、株式会社小松プロセス製の「ブライトコードNタイプ」の「イエロー」又は「オレンジ」を用いてもよい。また、黄緑色の塗料を用いてもよい。更に、これらを混在させて用いてもよい。
【0044】
また、実施形態において計測点に用いた塗料(照射光を吸収する塗料)で、下地を塗布し、実施形態で下地に用いた白色の塗料(又は反射塗料)で計測点を形成してもよい。この場合、各計測点を黄色の蛍光塗料で形成し、青色光を照射する場合には、下地として、明度が高い青色や空色を用いてもよい。
更に、バンドパスフィルタは、白色の下地塗料によって反射された照明光を反射した特定波長域の光を透過する物に限られない。通過させる光の波長や撮影装置15のセンサ感度の範囲に合わせたバンドパスフィルタを用いる。例えば、照明光を受けて発光する光(蛍光)を通過するバンドパスフィルタを用いてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、解析装置20の制御部21は、第1画像及び第2画像に基づいて変位マッピング図とともに、損傷観察画像を表示装置に出力した。制御部21は、損傷観察画像も出力する場合に限らず、変位マッピング図のみを出力してもよい。この場合、損傷については目視により把握してもよい。また、加力実験中に、変位マッピング図及び損傷観察画像を定期的に取得し、加力実験における時系列の変化を把握してもよい。
【0046】
・上記実施形態では、表面の計測点を、ランダムパターンで形成した。計測に用いる複数の計測点を、ランダムなパターンで形成する場合に限られず、規則的なパターンで形成してもよい。また、計測点を、手で形成する場合に限られず、パターンが形成されたローラ等を用いて形成してもよい。また、計測点は、パターンで形成しなくても、表面の変位が把握できれば、1つや2つであってもよい。
【0047】
・上記実施形態では、加力実験を行なう試験体の表面の変位と損傷状況とを把握した。表面を評価する構造物は、試験体に限られない。例えば、実際の建物等の構造物について、力が加わる前後の画像(第1画像及び第2画像)を取得し、表面の変位と損傷状況を把握してもよい。
・上記実施形態では、構造物としてコンクリートの試験体を用いた。測定する構造物の表面は、コンクリートに限定されず、例えば、鉄骨材等の金属、プラスチック等の合成樹脂、木等で構成される構造物の表面でもよい。
【0048】
・上記実施形態では、撮影装置15を用いて、ひび割れを撮影した損傷観察画像と、計測点のランダムパターンを撮影した第1及び第2画像とを生成した。損傷観察画像と、第1及び第2画像とは、別々の撮影装置を用いて生成してもよい。この場合、個々の撮影装置の撮影位置や構造体の形状に基づいて、損傷観察画像における構造体の表面位置と、第1及び第2画像における構造体の表面位置とを対応付けしてもよい。
・上記実施形態では、バンドパスフィルタ16が取り外し可能な撮影装置15を用いて、計測点のランダムパターンを撮影した。計測点のランダムパターンを撮影する撮影装置は、バンドパスフィルタが着脱可能な構成の撮影装置に限定されず、バンドパスフィルタを固定した着脱できない構成の撮影装置を用いてもよい。例えば、感光部の素子の表面に、特定の波長のみを透過させるような特殊な加工を施した撮影装置を用いてもよい。
また、ひび割れや計測点を撮影する撮影装置として、ステレオカメラを用いて画像を撮影してもよい。
【0049】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記下地塗料は、白色の塗料、又は反射塗料であって、前記計測点用塗料は、蛍光黄色の塗料、又は黄色の反射塗料であって、前記フィルタは、青色の照射光の反射光を透過するバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1又は2に記載の撮影方法。
これにより、計測点を形成する黄色は、下地の色に対してコントラストが弱いため、ひび割れを容易に把握することができる。
【0050】
(b)請求項1、2又は(a)に記載の撮影方法によって、前記構造物への加力の前に撮影した第1画像と、請求項1、2又は(a)に記載の撮影方法によって、前記加力の後に前記損傷状況が発生した状態を撮影した第2画像とを比較して、前記構造物の変位を特定することを特徴とする表面評価方法。
これにより、表面に生じたひび割れ等の損傷状況と、加力の前後の計測点の位置に基づいて特定される表面の変位とを対比して把握することができる。
【0051】
(c)前記制御部は、前記損傷状況が発生した状態の前記構造物に対して、前記照射光とは異なる観察光を照射して、前記損傷状況を特定して出力することを特徴とする請求項3に記載の撮影システム。
これにより、表面の変位とともに、表面の損傷状況を出力することができる。
【符号の説明】
【0052】
C1…ひび割れ、F1…表面、M1…計測点、10…表面評価システム、11…単色光光源装置、15…撮影装置、16…バンドパスフィルタ、20…解析装置、21…制御部、25…画像情報記憶部、211…画像取得部、212…変位計測部、213…計測出力部。