(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20230905BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20230905BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20230905BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/78 D
F16C19/08
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2019124205
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 浩
(72)【発明者】
【氏名】上本 隆文
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 慎也
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102015220367(DE,A1)
【文献】特開2005-121164(JP,A)
【文献】特開2009-068581(JP,A)
【文献】特開2011-080575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78
F16C 19/08
F16J 15/3232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心状に配置される外方部材及び内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に設けられる複数の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間に形成され前記転動体が設けられている内部空間に、当該内部空間の外側となる外部空間から異物が侵入するのを防ぐシールと、を備え、
前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の一方に取り付けられていて、当該外方部材と当該内方部材との内の他方の接触部に接触する少なくとも二つのリップを有し、当該二つのリップと当該接触部とによって囲まれる空間がリップ空間となり、
前記シールは、前記内部空間を通じて前記外部空間と前記リップ空間との間で、双方向について気体の通過を可能とさせるための通気穴を有
し、
前記シールは、前記通気穴として、前記内部空間と前記リップ空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第一通気穴と、前記内部空間と前記外部空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第二通気穴と、を有し、
前記第一通気穴及び前記第二通気穴それぞれには、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とする通気材が設けられていて、
前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の前記一方に取り付けられている金属部材と、前記リップを含み前記金属部材に固定されている弾性部材と、を有し、
前記金属部材に前記第一通気穴及び前記第二通気穴が形成されていて、
当該第一通気穴及び当該第二通気穴それぞれを覆うようにして前記通気材が設けられていて、
前記弾性部材は、当該通気材の内の前記第一通気穴及び前記第二通気穴を覆う部分以外を覆うと共に、前記金属部材に固定されている、
転がり軸受装置。
【請求項2】
同心状に配置される外方部材及び内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に設けられる複数の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間に形成され前記転動体が設けられている内部空間に、当該内部空間の外側となる外部空間から異物が侵入するのを防ぐシールと、を備え、
前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の一方に取り付けられていて、当該外方部材と当該内方部材との内の他方の接触部に接触する少なくとも二つのリップを有し、当該二つのリップと当該接触部とによって囲まれる空間がリップ空間となり、
前記シールは、前記内部空間を通じて前記外部空間と前記リップ空間との間で、双方向について気体の通過を可能とさせるための通気穴を有
し、
前記シールは、前記通気穴として、前記内部空間と前記リップ空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第一通気穴と、前記内部空間と前記外部空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第二通気穴と、を有し、
前記第一通気穴及び前記第二通気穴それぞれには、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とする通気材が設けられていて、
前記第一通気穴を覆う前記通気材と、前記第二通気穴を覆う前記通気材とは、共通するシートにより構成されている、
転がり軸受装置。
【請求項3】
前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の前記一方に取り付けられている金属部材と、前記リップを含み前記金属部材に固定されている弾性部材と、を有し、
前記金属部材に前記第一通気穴及び前記第二通気穴が形成されていて、
当該第一通気穴及び当該第二通気穴それぞれを覆うようにして前記通気材が設けられていて、
前記弾性部材は、当該通気材の内の前記第一通気穴及び前記第二通気穴を覆う部分以外を覆うと共に、前記金属部材に固定されている、請求項
2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記シールは、更に、前記外方部材と前記内方部材との間から侵入する異物を受ける環状の樋構造部を、前記リップよりも前記外部空間側に有し、
前記第二通気穴は、前記樋構造部と、前記外部空間側に設けられている前記リップとの間に設けられていて、
前記第一通気穴は、前記外部空間側に設けられている当該リップと、前記内部空間側に設けられている前記リップとの間に設けられている、請求項
1~3のいずれか一項に記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、様々な回転機器に設けられる。転がり軸受は、同心状に配置される外輪及び内輪と、これら外輪と内輪との間に設けられる複数の転動体とを備える。転動体は、外輪及び内輪それぞれに設けられている軌道面を転動する。このため、外輪と内輪との間であって転動体が設けられている軸受の内部空間に、軸受の外部から異物が侵入するのを防止する必要がある。そこで、外輪と内輪との間の開口側にシールが設けられる。
【0003】
前記のような転がり軸受にシールが設けられて構成される転がり軸受装置は、自動車の車輪を支持する車輪用軸受装置にも採用される。例えば、特許文献1に、シールを備える車輪用軸受装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のシールは、
図8に示すように、外方部材(「外輪部材」とも言われる)91に取り付けられるシール本体99と、内方部材(「内軸部材」とも言われる)92に取り付けられるスリンガ98とを有する。シール本体99は、複数(
図8では3つ)のゴム製のリップ95a,95b,95cを有する。リップ95a,95bは、スリンガ98に接触し、主に、外部空間97の異物が内部空間96に侵入するのを防ぐ。リップ95cは、主に、内部空間96に設けられているグリース等の潤滑剤の漏洩を防ぐ。
【0006】
転がり軸受装置が回転すると、転動体が設けられている内部空間96の温度が上昇する。また、スリンガ98に接触するリップ95a,95bの温度が上昇し、これらリップ95a,95b間に形成されるリップ空間94も温度が高くなる。内部空間96は、シール90によって密封されているが、温度上昇によってその圧力が高くなると、内部空間96の気体が、リップ95a,95bとスリンガ98との接触部を通過し、外部空間97へ流出する。また、リップ空間94においても、温度上昇によって圧力が高くなると、リップ空間94の気体が外部空間97へ流出する。その後、転がり軸受装置の回転が停止すると、内部空間96及びリップ空間94の温度は低下する。すると、これら内部空間96及びリップ空間94が外部空間97に対して負圧となる。
【0007】
リップ空間94が負圧になると、リップ95a,95bがスリンガ98に吸着した状態となる。この状態で、転がり軸受装置の回転が再開されると、リップ95a,95bとスリンガ98との間の摺動抵抗が増加し、回転抵抗が高くなる。なお、このような回転抵抗が高くなる現象は、車輪用軸受装置に限らず、他の回転機器に用いられるシール付きの転がり軸受装置においても生じる。
【0008】
そこで、本開示は、シールを備える転がり軸受装置において、そのシールのリップが接触部(相手部材)に吸着するのを防ぐことができ、回転トルクが高くなるのを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の転がり軸受装置は、同心状に配置される外方部材及び内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に設けられる複数の転動体と、前記外方部材と前記内方部材との間に形成され前記転動体が設けられている内部空間に、当該内部空間の外側となる外部空間から異物が侵入するのを防ぐシールと、を備え、前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の一方に取り付けられていて、当該外方部材と当該内方部材との内の他方の接触部に接触する少なくとも二つのリップを有し、当該二つのリップと当該接触部とによって囲まれる空間がリップ空間となり、前記シールは、前記内部空間を通じて前記外部空間と前記リップ空間との間で、双方向について気体の通過を可能とさせるための通気穴を有する。
【0010】
前記転がり軸受装置によれば、内部空間、外部空間、及びリップ空間の内の少なくとも一つの空間における温度変化が原因で、各空間の圧力が変化し、他の空間と圧力差が生じようとしても、その圧力差は前記通気穴によって防がれ、内部空間、外部空間、及びリップ空間の圧力が等しくなる。このため、リップが接触部に吸着するのを防ぐことができ、この結果、転がり軸受装置の回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【0011】
また、好ましくは、前記シールは、前記通気穴として、前記内部空間と前記リップ空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第一通気穴と、前記内部空間と前記外部空間とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする第二通気穴と、を有する。
この構成によれば、第一通気穴及び第二通気穴によって、内部空間を通じて外部空間とリップ空間との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる構成が得られる。
【0012】
また、好ましくは、前記第一通気穴及び前記第二通気穴それぞれには、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とする通気材が設けられている。
この構成によれば、第一通気穴及び第二通気穴を通じて、空間の圧力差を解消するために気体を通過可能とするが、異物としての液体が軸受内部に侵入するのを防止することができる。
【0013】
また、好ましくは、前記シールは、前記外方部材と前記内方部材との内の前記一方に取り付けられている金属部材と、前記リップを含み前記金属部材に固定されている弾性部材と、を有し、前記金属部材に前記第一通気穴及び前記第二通気穴が形成されていて、当該第一通気穴及び当該第二通気穴それぞれを覆うようにして前記通気材が設けられていて、前記弾性部材は、当該通気材の内の前記第一通気穴及び前記第二通気穴を覆う部分以外を覆うと共に、前記金属部材に固定されている。
この構成によれば、金属部材に通気材を付した状態で、その金属部材に弾性部材を接着することで、前記シールが製造される。
【0014】
また、第一通気穴及び第二通気穴は共に小さく、これら通気穴を覆う通気材も小さくてよいが、製造が困難となるかもしれない。そこで、好ましくは、前記第一通気穴を覆う前記通気材と、前記第二通気穴を覆う前記通気材とは、共通するシートにより構成されている。この構成によれば、通気材を第一通気穴及び第二通気穴を覆う構成が容易に得られる。
【0015】
また、好ましくは、前記シールは、更に、前記外方部材と前記内方部材との間から侵入する異物を受ける環状の樋構造部を、前記リップよりも前記外部空間側に有し、前記第二通気穴は、前記樋構造部と、前記外部空間側に設けられている前記リップとの間に設けられていて、前記第一通気穴は、前記外部空間側に設けられている当該リップと、前記内部空間側に設けられている前記リップとの間に設けられている。
この構成によれば、外方部材と内方部材との間から異物が侵入したとしても、その異物を樋構造部が受けることができ、異物が第二通気穴に付着し難くなる。
【発明の効果】
【0016】
本開示シールを備える転がり軸受装置によれば、そのシールのリップが接触部(相手部材)に吸着するのを防ぐことができ、回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】シールの断面図であり、
図2とは異なる位置での断面を示している。
【
図6】弾性部材を成型する金型を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔転がり軸受装置について〕
図1は、転がり軸受装置の一例を示す断面図である。
図1に示す転がり軸受装置は、自動車に用いられる車輪用軸受装置(ハブユニット)10である。車輪用軸受装置10は、自動車の車体が有する懸架装置(ナックル)に取り付けられ、車輪を回転可能に支持する。車輪用軸受装置10は、外方部材12と、内方部材11と、転動体である複数の玉13と、保持器14と、車両インナ側のシール15と、車両アウタ側のシール16とを備える。以下の説明では、外方部材12を「外輪部材12」と称し、内方部材11を「内軸部材11」と称する。なお、前記転動体は玉13以外にころ(円すいころ)等であってもよい。
【0019】
本開示において、車輪用軸受装置(転がり軸受装置)10の中心線Cに平行な方向を「軸方向」と定義する。車輪用軸受装置10の軸方向と、シール15,16それぞれの軸方向とは一致する。車輪用軸受装置10の軸方向及びシール15,16の軸方向それぞれを単に「軸方向」と称する。車輪用軸受装置10の中心線Cに直交する方向を「径方向」と定義する。車輪用軸受装置10の径方向と、シール15,16それぞれの径方向とは一致する。車輪用軸受装置10の径方向及びシール15,16の径方向それぞれを単に「径方向」と称する。中心線Cを中心とする回転方向を「周方向」と定義する。車輪用軸受装置10の周方向と、シール15,16それぞれの周方向とは一致する。車輪用軸受装置10の周方向及びシール15,16の周方向それぞれを単に「周方向」と称する。
【0020】
本開示では、車輪用軸受装置10が懸架装置(ナックル)に取り付けられた状態で、車輪側である車両アウタ側(
図1の右側)を「軸方向一方側」と称し、車体中央側である車両インナ側(
図1の左側)を「軸方向他方側」と称する。
【0021】
外輪部材12と内軸部材11との間に、軸受の内部側の空間7が形成される。この内部側の空間7を、以下「内部空間7」と称する。内部空間7は、玉13が設けられている環状の空間である。シール15,16それぞれは、外輪部材12と内軸部材11との間に設けられている。車両アウタ側のシール16は、軸受の外部側の空間8から異物が内部空間7に侵入するのを防ぐ。車両アウタ側の外部側の空間8を、以下「外部空間8」と称する。車両インナ側のシール15は、軸受の外部側となる空間78から異物が内部空間7に侵入するのを防ぐ。車両インナ側の外部の空間78を、以下「外部空間78」と称する。
【0022】
車両アウタ側の外部空間8は、大気に開放されている空間である。なお、車輪用軸受装置10では、図示しないが、その軸方向他方側にカバー等が取り付けられていたり、その軸方向他方側が機器の内部に収容された状態となっていたりする。その場合、軸方向他方側の外部空間78は、閉ざされた空間となり、車両アウタ側の外部空間8と別の空間である。
【0023】
外輪部材12の内周側に、玉13が転動する外軌道面17,17が設けられている。内軸部材11は、ハブ軸(内軸)23と、このハブ軸23の軸方向他方側に取り付けられている内輪24とを有する。ハブ軸23の外周側に内軸軌道面18が形成されている。内輪24の外周面に内輪軌道面19が形成されている。ハブ軸23は、内軸軌道面18が形成され外輪部材12の径方向内方に位置する軸部23aと、車輪を取り付けるためのフランジ部23bとを有する。フランジ部23bは、軸部23aの軸方向一方側の端部から径方向外方に延びて設けられている。
【0024】
一方の外軌道面17と内軸軌道面18との間に複数の玉13が設けられる。他方の外軌道面17と内輪軌道面19との間に複数の玉13が設けられる。外輪部材12と内軸部材11との間に、玉13が二列となって設けられていて、外輪部材12と内軸部材11とは同心状に配置される。保持器14は、各列の複数の玉13を保持する。
【0025】
〔車両アウタ側のシール16について〕
図2は、車両アウタ側(軸方向一方側)のシール16を示す断面図である。シール16は、内部空間7の軸方向一方の開口側に設けられている。
図2において、シール16の左側が内部空間7であり、シール16の右側及び径方向外側が外部空間8である。
【0026】
シール16は、外輪部材12の軸方向一方側の端部12aに取り付けられている。シール16は、外輪部材12に取り付けられている金属部材26と、金属部材26に固定されている弾性部材27とを有する。弾性部材27はゴム製である。弾性部材27は、金属部材26に加硫接着されている。弾性部材27は、金型により成型される。その際、その金型に、金属部材26及び後述するシート58が設けられ、弾性部材27は、金属部材26及びシート58と共に成型される。
【0027】
金属部材26は、外輪部材12の端部12aの外周側に嵌合している円筒部28と、円筒部28の軸方向一方側の端部28aから径方向内方に延びて設けられている環状部29とを有する。環状部29は、その径方向の途中部に段付き形状を有する。円筒部28は、端部12aの内周側に嵌合していてもよい。
【0028】
弾性部材27は、円筒部28を覆っている円筒状の第一被覆部31と、環状部29を覆っている円環状の第二被覆部32とを有する。本開示の弾性部材27は、更に、樋構造部33と、第一リップ34と、第二リップ35とを有する。
【0029】
樋構造部33は、第一リップ34及び第二リップ35よりも外部空間8側に設けられている。樋構造部33は、円筒状の底壁部36と、円環状の側壁部37とを有する。底壁部36は、第二被覆部32の径方向外側部32aから軸方向一方に延びて設けられている円筒状の部分である。側壁部37は、底壁部36の軸方向一方側の端部36aから径方向外方に延びて設けられている円環状の部分である。第二被覆部32の径方向外側部32aと、底壁部36と、側壁部37とによって囲まれる空間が、樋空間38となる。樋空間38は環状となって構成される。樋空間38は、外輪部材12と内軸部材11(フランジ部23b)との間から侵入する異物を収容することが可能となる。
【0030】
例えば、泥水等の異物が樋空間38に収容されると、その異物は、樋空間38において周方向に沿って低い位置へと流れる。また、側壁部37とフランジ部23bとの間には、小隙間39が形成されている。このため、外部空間8の異物は樋構造部33とフランジ部23bとの間を通過し難い。以上より、樋構造部33は、外部空間8の泥水等の異物が第一リップ34側に侵入するのを抑制することができる。
【0031】
第一リップ34は、樋構造部33の径方向内方、つまり、樋構造部33よりも内部空間7側に設けられている。第一リップ34は、第二被覆部32の径方向中央部32bから内軸部材11(フランジ部23b)に向かって延びて設けられている。第一リップ34は、径方向中央部32bから軸方向一方かつ径方向外方に延びて設けられている。第一リップ34は、内軸部材11(フランジ部23b)の一部41に接触する。第一リップ34は、内軸部材11に接触することで、弾性変形した状態となる。つまり、第一リップ34は、締め代を有して内軸部材11に接触する。第一リップ34よりも径方向外側であって、樋構造部33が設けられている空間は、外部空間8と繋がっていて、外部空間8との間で気体が自由に通過可能である。
【0032】
第二リップ35は、第一リップ34よりも内部空間7側に設けられている。第二リップ35は、第二被覆部32の径方向内側部32cから内軸部材11(軸部23a)に向かって延びて設けられている。第二リップ35は、径方向内側部32cから径方向内方かつ軸方向他方に延びて設けられている。第二リップ35は、内軸部材11の他部42に接触する。第二リップ35は、内軸部材11に接触することで、弾性変形した状態となる。つまり、第二リップ35は、締め代を有して内軸部材11に接触する。内軸部材11において、第一リップ34が接触する前記一部41から、第二リップ35が接触する前記他部42までの範囲を「接触部43」と定義する。
【0033】
以上より、本開示のシール16は、外輪部材12に取り付けられていて、内軸部材11の接触部43に接触する二つのリップ34,35を有する。シール16は、外輪部材12に取り付けられている金属部材26と、金属部材26に固定されている弾性部材27とを有する。弾性部材27に前記リップ34,35が含まれる。二つのリップ34,35と接触部43とによって囲まれる空間がリップ空間9となる。
【0034】
なお、内軸部材11において軸部23aとフランジ部23bとの境界領域に、図示しないがスリンガが取り付けられていてもよい。この場合、リップ34,35は、そのスリンガに接触する。つまり、前記接触部43は、内軸部材11に固定されているスリンガに設けられる。なお、スリンガが設けられる場合、図示しないが、スリンガの径方向外側部が、樋構造部33を径方向外方から覆うのが好ましい。
【0035】
図3は、シール16の断面図であり、
図2とは異なる位置での断面を示している。
図4は、シール16の斜視図である。
図2は、
図4のA矢視の断面を示していて、
図3は、
図4のB矢視の断面を示している。シール16は、通気穴50を有する。本開示の通気穴50は、第一通気穴51と第二通気穴52とを有して構成される。
【0036】
図2において、第一通気穴51は、内部空間7とリップ空間9とを繋ぐ穴である。そのために、
図2及び
図4に示すように、第一通気穴51は、第一リップ34と第二リップ35との間に設けられている。第一通気穴51は、内部空間7からリップ空間9へと気体を通過可能とし、かつ、リップ空間9から内部空間7へと気体を通過可能とする。
図5は、金属部材26の一部を軸方向から見た図である。金属部材26は、全体として環状であり、その内周側に第一通気穴51が設けられている。第一通気穴51は周方向に間隔をあけて複数設けられている。
【0037】
図2及び
図4に示すように、第一通気穴51には、第一の通気材53が設けられている。第一の通気材53は、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とするシート状の部材である。第一通気穴51に第一の通気材53が設けられているが、第一通気穴51は、内部空間7とリップ空間9とにおいて双方向で気体を通過可能とする。第一の通気材53については、後にも説明する。
【0038】
図3において、第二通気穴52は、内部空間7と外部空間8とを繋ぐ穴である。そのために、
図3及び
図4に示すように、第二通気穴52は、樋構造部33と第一リップ34との間に設けられている。第二通気穴52は、内部空間7から外部空間8へと気体を通過可能とし、かつ、外部空間8から内部空間7へと気体を通過可能とする。
図5において、金属部材26に、第二通気穴52が設けられている。第二通気穴52は、周方向に間隔をあけて複数設けられている。第二通気穴52は、第一通気穴51よりも径方向外側の領域に設けられている。
【0039】
第一通気穴51と第二通気穴52とは周方向について異なる位置に(異なる位相で)設けられている。なお、第一通気穴51及び第二通気穴52の数は変更可能であり、少なくとも一つの第一通気穴51と、少なくとも一つの第二通気穴52とが設けられていればよい。
【0040】
図3及び
図4に示すように、第二通気穴52には、第二の通気材54が設けられている。第二の通気材54は、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とするシート状の部材である。第二通気穴52に第二の通気材54が設けられているが、第二通気穴52は、内部空間7と外部空間8とにおいて双方向で気体を通過可能とする。第二の通気材54については、後にも説明する。
【0041】
本開示では、第一通気穴51を覆う第一の通気材53と、第二通気穴52を覆う第二の通気材54とは、共通するシート58により構成されている。つまり、その共通するシート58の内周側の一部が第一の通気材53となり、シート58の外周側の一部が第二の通気材54となる。金属部材26の環状部29に付けられたシート58が、弾性部材27の第二被覆部32によって覆われている。ただし、第二被覆部32には、第一通気穴51及び第二通気穴52と対応する位置に、開口55が設けられている。このため、第一の通気材53及び第二の通気材54が開口55から露出する。弾性部材27に開口55を形成するために、
図6に示すように、弾性部材27を成型する金型56は、開口55となる部位に、開口55と同じ形状の凸部57を有する。
【0042】
以上のように(
図2、
図4、及び
図5参照)、金属部材26の一部に第一通気穴51が形成されている。その第一通気穴51を覆うようにして第一の通気材53が設けられている。そして、弾性部材27が、第一の通気材53の内の第一通気穴51を覆う部分以外を覆うと共に、金属部材26に固定されている。また(
図3、
図4、及び
図5参照)、金属部材26の他部に第二通気穴52が形成されている。その第二通気穴52を覆うようにして第二の通気材54が設けられている。そして、弾性部材27が、第二の通気材54の内の第二通気穴52を覆う部分以外を覆うと共に、金属部材26に固定されている。
【0043】
通気材53,54の材質等について説明する。なお、第一の通気材53と第二の通気材54は同じであり、また、前記のとおり共通のシート58により構成されている。そこで、第一の通気材53を代表として説明する。通気材53は、防水透湿材であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン製のシートである。本開示の通気材53は、ポリテトラフルオロエチレン製の繊維状物を多数、集合させ連結させて構成したシートであり、多孔質構造を有する。その多孔質構造は、織布状であってもよく、不織布状であってもよい。なお、通気材53は、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とする性質を有していればよく、材質及び構造は特に限定されない。
【0044】
〔本開示の車輪用軸受装置10の車両アウタ側のシール16について〕
以上より、本開示の車輪用軸受装置10は(
図1参照)、玉13が設けられている内部空間7に、外部空間8から異物が侵入するのを防ぐシール16を備える。シール16は、外輪部材12に取り付けられていて、内軸部材11の接触部43に接触する二つのリップ34,35を有する。二つのリップ34,35と接触部43とによって囲まれる空間が、リップ空間9となる。そして、シール16は、通気穴50(第一通気穴51及び第二通気穴52)を有する。通気穴50は、内部空間7を通じて外部空間8とリップ空間9との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる。
【0045】
この車輪用軸受装置10によれば、次に説明するように、二つのリップ34,35が接触部43に吸着するのを防ぐことができ、この結果、車輪用軸受装置10の回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【0046】
すなわち、自動車が走行し、内軸部材11が車輪と共に回転すると、玉13の回転等によって、内部空間7の温度が上昇する。また、シール16においてリップ34,35が内軸部材11に摺動することから、リップ空間9の温度も上昇する。これに対して、外部空間8では大きな温度変化が生じない。
【0047】
仮に通気穴50が存在しない場合、内部空間7及びリップ空間9それぞれは閉じた空間である。このため、内部空間7及びリップ空間9の温度が上昇すると、内部空間7及びリップ空間9の圧力(内圧)が上昇し、やがて内部空間7及びリップ空間9の気体が、リップ34,35と接触部43との間から徐々に漏れ出す。その後、自動車が走行を止め、内軸部材11の回転が停止すると、内部空間7及びリップ空間9の温度が降下する。すると、仮に通気穴50が存在しない場合、内部空間7及びリップ空間9が外部空間8に対して負圧となる。リップ空間9が負圧になると、リップ34,35が接触部43に吸着した状態となる。この状態で、自動車が走行を開始し、内軸部材11の回転が再開されると、リップ34,35と接触部43との間の摺動抵抗が増加し、回転抵抗が高くなる。
【0048】
しかし、本開示では、シール16は通気穴50(第一通気穴51及び第二通気穴52)を有する。通気穴50は、前記のとおり、内部空間7を通じて外部空間8とリップ空間9との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる。このため、内軸部材11が回転することで、内部空間7及びリップ空間9の温度が上昇しても、リップ空間9の気体は第一通気穴51を通じて内部空間7へ流れ、更に、内部空間7の気体は第二通気穴52を通じて外部空間8へ流れることができる。したがって、内部空間7、外部空間8、及びリップ空間9それぞれの間に圧力差が生じない。
【0049】
また、その後、内軸部材11の回転が停止すると、内部空間7及びリップ空間9の温度が降下する。この場合においても、外部空間8から内部空間7へ第二通気穴52を通じて気体が流れることができ、内部空間7からリップ空間9へ第一通気穴51を通じて気体が流れることができる。このため、内部空間7、外部空間8、及びリップ空間9それぞれの間に圧力差が生じない状態が維持される。このため、リップ34,35が接触部43に吸着した状態とならず、この結果、車輪用軸受装置10の回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【0050】
本開示の車輪用軸受装置10の機能(車両アウタ側のシール16の機能)を、車輪用軸受装置10における温度変化に着目してまとめると次のとおりである。
車輪用軸受装置10が回転して、車輪用軸受装置10の温度が上昇すると、リップ空間9から内部空間7へと、気体が第一通気穴51を通じて流れ、内部空間7から外部空間8へと、気体が第二通気穴52を通じて流れる。
反対に、車輪用軸受装置10が停止して、車輪用軸受装置10の温度が降下すると、外部空間8から内部空間7へと、気体が第二通気穴52を通じて流れ、内部空間7からリップ空間9へと、気体が第一通気穴51を通じて流れる。
【0051】
また、別の観点として、本開示の車輪用軸受装置10の機能(車両アウタ側のシール16の機能)を、通気穴51,52それぞれに着目してまとめると次のとおりである。
第一通気穴51において、車輪用軸受装置10の温度が上昇すると、気体がリップ空間9から内部空間7へ流れ、反対に、その温度が降下すると、気体が内部空間7からリップ空間9へ流れる。
第二通気穴52において、車輪用軸受装置10の温度が上昇すると、気体が内部空間7から外部空間8へ流れ、反対に、その温度が降下すると、気体が外部空間8から内部空間7へ流れる。
【0052】
以上のように、第一通気穴51及び第二通気穴52により構成される通気穴50は、内部空間7を通じて外部空間8とリップ空間9との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる。
【0053】
本開示の車輪用軸受装置10によれば、内部空間7、外部空間8、及びリップ空間9の内の少なくとも一つの空間における温度変化が原因で、各空間の圧力が変化し、他の空間と圧力差が生じようとしても、その圧力差は通気穴50(第一通気穴51、第二通気穴52)によって防がれる。このため、内部空間7、外部空間8、及びリップ空間9の圧力が等しくなる。よって、リップ34,35が接触部43に吸着するのを防ぐことができ、この結果、車輪用軸受装置10の回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【0054】
本開示の車輪用軸受装置10では、前記のとおり、シール16は、環状の樋構造部33を有する。第二通気穴52は、その樋構造部33と、外部空間8側に設けられている第一リップ34との間に設けられている。第一通気穴51は、外部空間8側に設けられている第一リップ34と、内部空間7側に設けられている第二リップ35との間に設けられている。このため、外輪部材12と内軸部材11との間から異物が侵入したとしても、その異物を樋構造部33が受けることができ、異物が第二通気穴52に付着し難くなる。このため、第二通気穴52が異物で塞がれず、第二通気穴52は長期にわたって機能することが可能となる。
【0055】
〔車両インナ側のシール15について〕
図7は、車両インナ側(軸方向他方側)のシール15を示す断面図である。シール15は、外輪部材12の軸方向他方側の端部12bに取り付けられている。内軸部材11が備える内輪24の外周側にスリンガ60が取り付けられている。シール15は、外輪部材12の端部12bに取り付けられている金属部材63と、金属部材63に固定されているゴム製の弾性部材64とを有する。弾性部材64は、スリンガ60に接触する二つのリップ71,72を有する。
【0056】
一方のリップ71を第一リップ71と称し、他方のリップ72を第二リップ72と称する。第一及び第二のリップ71,72は、主に、外部空間78から内部空間7へ異物が侵入するのを防止する。本開示のシール15は、第三のリップ73を有する。第三のリップ73は、主に、内部空間7のグリース等の潤滑剤が外部空間78に漏洩するのを防止する。
【0057】
第一リップ71は、スリンガ60の一部61に接触する。第一リップ71は、スリンガ60に接触することで、弾性変形した状態となる。第二リップ72は、スリンガ60の他部62に接触する。第二リップ72は、スリンガ60に接触することで、弾性変形した状態となる。スリンガ60において、第一リップ71が接触する前記一部61から、第二リップ72が接触する前記他部62までの範囲を「接触部75」と定義する。第一リップ71と第二リップ72と接触部75とによって囲まれる空間がリップ空間74となる。
【0058】
車両アウタ側のシール16(
図2及び
図3参照)と同様に、車両インナ側のシール15(
図7参照)は、リップ71,72が接触部75に吸着するのを防ぐための通気穴65を有する。通気穴65は、内部空間7を通じて外部空間78とリップ空間74との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる。シール16は、通気穴65として、第一通気穴66と、第二通気穴67とを有する。第一通気穴66は、内部空間7とリップ空間74とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする。第二通気穴67は、内部空間7と外部空間78とを繋ぎ双方向で気体を通過可能とする。
【0059】
車両アウタ側のシール16と同様に、車両インナ側のシール15においても、第一通気穴66及び第二通気穴67それぞれには、気体の通過を可能としかつ液体の通過を不能とする通気材68,69が設けられている。通気材68,69は、車両アウタ側のシール15が備える通気材53,54と同じ防水透湿材であり、共通するシート58により構成されている。
【0060】
車両インナ側のシール15における、通気穴65(第一通気穴66及び第二通気穴67)及び通気材68,69と、車両アウタ側のシール16における通気穴50(第一通気穴51及び第二通気穴52)及び通気材53,54とは、同様の構成である。そのため、ここでは、車両インナ側についての各部の説明を省略する。しかし、車両アウタ側のシール16における各構成を、車両インナ側のシール15に適用可能である。
【0061】
本開示の車輪用軸受装置10では、その軸方向他方側が機器の内部(機器が有するハウジング内)に収容された状態にある。このため、軸方向他方側の外部空間78は、閉じた空間となっている。車両インナ側の外部空間78は、車両アウタ側の外部空間8(
図1参照)と繋がっていない。また、外部空間78は、前記機器の他の部分の影響により、温度変化する。つまり、外部空間78は、内部空間7及びリップ空間74よりも温度が上昇したり、降下したりする。
【0062】
外部空間78の温度がリップ空間74及び内部空間7の温度よりも高くなって、外部空間78の圧力がリップ空間74及び内部空間7の圧力よりも高くなろうとすると、本開示のシール15によれば、外部空間78の気体が、第二通気穴67を通じて内部空間7に流れ、内部空間7の気体が、第一通気穴66を通じてリップ空間74に流れる。このため、外部空間78とリップ空間74との間に圧力差が生じず、内部空間7とリップ空間74との間に圧力差が生じない。
【0063】
反対に、外部空間78の温度がリップ空間74及び内部空間7の温度よりも低くなって、外部空間78の圧力がリップ空間74及び内部空間7の圧力よりも低くなろうとすると、本開示のシール15によれば、リップ空間74の気体が、第一通気穴66を通じて内部空間7に流れ、内部空間7の気体が、第二通気穴67を通じて外部空間78に流れる。このため、外部空間78とリップ空間74との間に圧力差が生じず、内部空間7とリップ空間74との間に圧力差が生じない。
【0064】
本開示の車輪用軸受装置10の機能(車両インナ側のシール15の機能)を、外部空間78における温度変化に着目してまとめると次のとおりである。
外部空間78の温度が降下すると、リップ空間74から内部空間7へと、気体が第一通気穴66を通じて流れ、内部空間7から外部空間78へと、気体が第二通気穴67を通じて流れる。
反対に、外部空間78の温度が上昇すると、外部空間78から内部空間7へと、気体が第二通気穴67を通じて流れ、内部空間7からリップ空間74へと、気体が第一通気穴66を通じて流れる。
【0065】
また、別の観点として、本開示の車輪用軸受装置10の機能(車両インナ側のシール15の機能)を、通気穴66,67それぞれに着目してまとめると次のとおりである。
第二通気穴67においては、外部空間78の温度が降下すると、気体が内部空間7から外部空間78へ流れ、反対に、外部空間78の温度が上昇すると、気体が外部空間78から内部空間7へ流れる。
第一通気穴66において、外部空間78の温度が降下すると、気体がリップ空間74から内部空間7へ流れ、反対に、外部空間78の温度が上昇すると、気体が内部空間7からリップ空間74へ流れる。
【0066】
以上のように、車両インナ側のシール15においても、第一通気穴66及び第二通気穴67により構成される通気穴65は、内部空間7を通じて外部空間78とリップ空間74との間で、双方向について気体の通過を可能とさせる。
【0067】
仮に通気穴65が設けられていない場合、外部空間78の温度が上昇し、圧力が高くなると、第一リップ71がスリンガ60(接触部75)に押し付けられる。すると、スリンガ60(接触部75)に対するリップ71,72の摺動抵抗が高くなってしまう。
しかし、本開示の車輪用軸受装置10が備えるシール15は、前記のとおり通気穴65を有する。したがって、内部空間7、外部空間78、及びリップ空間74それぞれの間に圧力差が生じない。この結果、リップ71(72)が接触部75に吸着した状態とならない。よって、車輪用軸受装置10の回転トルクが高くなるのを抑えることが可能となる。
【0068】
〔その他について〕
前記各形態では、シール15(16)が、外輪部材12に取り付けられていて、リップ34,35(71,72)は、内軸部材11側に接触する。図示しないが、シール15(16)が内軸部材11に取り付けられていて、リップ34,35(71,72)が外輪部材12側に接触する転がり軸受装置に対しても、本開示の通気穴50(65)を適用することができる。
【0069】
また、前記各形態では、相手部材(接触部)に接触するリップが二つである場合について説明した。しかし、シールは、相手部材(接触部)に接触するリップを、少なくとも二つ有していればよい。相手部材(接触部)に接触するリップが三つ以上となる場合、密閉状となるリップ空間は二つ以上となる。この場合、各リップ空間と、軸受内の内部空間とを繋ぐ通気穴が設けられていればよい。
【0070】
前記のようなシール15(16)を備える転がり軸受装置は、車輪用軸受装置10以外であってもよい。
【0071】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0072】
7:内部空間 8,78:外部空間 9,74:リップ空間 10:車輪用軸受装置(転がり軸受装置) 11:内軸部材(内方部材) 12:外輪部材(外方部材) 13:玉(転動体) 15:シール 16:シール 26,63:金属部材 27,64:弾性部材 33:樋構造部 34,71:第一リップ 35,72:第二リップ 43,75:接触部 50,65:通気穴 51,66:第一通気穴 52,67:第二通気穴 53,54,68,69:通気材 58:シート