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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ゴム状弾性体の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20230905BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20230905BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20230905BHJP
【FI】
G06F30/10
B60C19/00 Z
G06F30/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019128593
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2021015367
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】角田 昌也
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082790(JP,A)
【文献】特開2018-147460(JP,A)
【文献】特開2018-161853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/10
B60C 19/00
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、前記第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て得られた第1ゴム状弾性体について、予め定められた第1性能を予測するための方法であって、
コンピュータに、前記第1材料群から選択される1以上のポリマーを含む複数種類の第2材料群からなる複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容を含む第1データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練条件を含む第2データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群から得られた複数種類の第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ゴム状弾性体群の前記第1性能を含む第5データを入力する工程、
前記コンピュータが、少なくとも前記第1データ、前記第2データ、前記第3データ、前記第4データ及び前記第5データの関係を示す第1近似応答関数を構築する工程、
前記コンピュータに、前記第1材料群の配合内容と、前記第1材料群の混練条件と、前記第1材料群の混練時の物理量と、前記第1加硫条件とを入力する工程、並びに、
前記コンピュータが、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件と、前記第1近似応答関数とに基づいて、前記第1ゴム状弾性体の前記第1性能を計算する工程を含む、
ゴム状弾性体の予測方法。
【請求項2】
前記第1材料群の混練時の物理量を入力する工程に先立ち、前記コンピュータが、前記第1データ、前記第2データ及び前記3データの関係を示す第2近似応答関数を構築する工程と、
前記コンピュータが、前記第1材料群の配合内容及び混練条件と、前記第2近似応答関数とに基づいて、前記第1材料群の混練時の物理量を計算する工程をさらに含み、
前記第1材料群の混練時の物理量を入力する工程は、計算された前記物理量を入力する工程を含む、請求項1記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項3】
前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、
前記混練時の物理量は、前記ロータのトルク、及び、前記チャンバー内の温度の少なくとも1つを含む、請求項1または2記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項4】
前記第1材料群及び前記第2材料群は、カーボンブラックを含む複数種類の配合剤を含み、
前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、
前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記ポリマーと前記配合剤との混練を開始してから、前記ロータのトルクが最大となるまで混練する第1工程と、前記第1工程の後に、前記ポリマーと前記配合剤とを混練する第2工程とを含み、
前記混練時の物理量は、前記第1工程時の物理量と、前記第2工程時の物理量とを含む、請求項1ないし3のいずれかに記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項5】
前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1工程に先立ち、前記配合剤を含まない前記ポリマーを素練りする第3工程をさらに含み、
前記混練時の物理量は、前記第3工程時の物理量をさらに含む、請求項4記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項6】
前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、
前記混練条件は、前記チャンバーの容積に対する前記第1材料群又は前記第2材料群の充填率、前記ロータの回転数、及び、混練停止条件の少なくとも1つを含む、請求項1ないし5のいずれかに記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項7】
前記第1性能は、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδの少なくとも一つを含む、請求項1ないし6のいずれかに記載のゴム状弾性体の予測方法。
【請求項8】
複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、前記第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て製造され、かつ、予め定められた第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件の少なくとも一つを予測するための方法であって、
コンピュータに、前記第1材料群から選択される1以上のポリマーを含む複数種類の第2材料群からなる複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容を含む第1データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練条件を含む第2データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群から得られた複数種類の第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データを入力する工程、
前記コンピュータに、前記第2ゴム状弾性体群の前記第1性能を含む第5データを入力する工程、
前記コンピュータが、少なくとも前記第1データ、前記第2データ、前記第3データ、前記第4データ及び前記第5データの関係を示す第1近似応答関数を構築する工程、
前記コンピュータに、前記第1性能の前記物性値を入力する工程、並びに、
前記コンピュータが、前記第1近似応答関数と、前記第1性能の前記物性値とに基づいて、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件の少なくとも一つを計算する工程を含む、
ゴム状弾性体の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム状弾性体の性能を予測するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、ポリマー組成物を加硫したゴム状弾性体について、予め定められた第1性能を予測するための方法を提供している。この方法では、先ず、材料のいくつかを混合したポリマー組成物を加硫した複数種類のゴム状弾性体について、材料の配合割合、加硫条件及び第1性能を、コンピュータに入力する工程が行われる。次に、コンピュータが、材料の配合割合と、加硫条件と、第1性能との関係を示す近似応答関数を構築する工程が行われる。そして、コンピュータが、評価対象のゴム状弾性体の配合割合と、加硫条件と、近似応答関数とに基づいて、評価対象のゴム状弾性体の第1性能を計算する工程が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-147460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、第1性能を予測することができるものの、その予測精度についてはさらなる改善の余地があった。
【0005】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ポリマー組成物の混練時の物理量が、第1性能に影響を与えることを知見した。そして、この物理量を考慮することによって、第1性能を精度良く予測できることを知見した。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測することができる方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、前記第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て得られた第1ゴム状弾性体について、予め定められた第1性能を予測するための方法であって、コンピュータに、前記第1材料群から選択される1以上のポリマーを含む複数種類の第2材料群からなる複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容を含む第1データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練条件を含む第2データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群から得られた複数種類の第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ゴム状弾性体群の前記第1性能を含む第5データを入力する工程、前記コンピュータが、少なくとも前記第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数を構築する工程、前記コンピュータに、前記第1材料群の配合内容と、前記第1材料群の混練条件と、前記第1材料群の混練時の物理量と、前記第1加硫条件とを入力する工程、並びに、前記コンピュータが、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件と、前記第1近似応答関数とに基づいて、前記第1ゴム状弾性体の前記第1性能を計算する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1材料群の混練時の物理量を入力する工程に先立ち、前記コンピュータが、前記第1ないし3データの関係を示す第2近似応答関数を構築する工程と、前記コンピュータが、前記第1材料群の配合内容及び混練条件と、前記第2近似応答関数とに基づいて、前記第1材料群の混練時の物理量を計算する工程をさらに含み、前記第1材料群の混練時の物理量を入力する工程は、計算された前記物理量を入力する工程を含んでもよい。
【0009】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、前記混練時の物理量は、前記ロータのトルク、及び、前記チャンバー内の温度の少なくとも1つを含んでもよい。
【0010】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1材料群及び前記第2材料群は、カーボンブラックを含む複数種類の配合剤を含み、前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記ポリマーと前記配合剤との混練を開始してから、前記ロータのトルクが最大となるまで混練する第1工程と、前記第1工程の後に、前記ポリマーと前記配合剤とを混練する第2工程とを含み、前記混練時の物理量は、前記第1工程時の物理量と、前記第2工程時の物理量とを含んでもよい。
【0011】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1工程に先立ち、前記配合剤を含まない前記ポリマーを素練りする第3工程をさらに含み、前記混練時の物理量は、前記第3工程時の物理量をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1材料群又は前記第2材料群を混練する工程は、前記第1材料群又は前記第2材料群が投入されるチャンバーと、前記チャンバー内で回転する少なくとも1本のロータとを有する混練機が用いられ、前記混練条件は、前記チャンバーの容積に対する前記第1材料群又は前記第2材料群の充填率、前記ロータの回転数、及び、混練停止条件の少なくとも1つを含んでもよい。
【0013】
本発明に係る前記ゴム状弾性体の予測方法において、前記第1性能は、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδの少なくとも一つを含んでもよい。
【0014】
本発明は、複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、前記第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て製造され、かつ、予め定められた第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件の少なくとも一つを予測するための方法であって、コンピュータに、前記第1材料群から選択される1以上のポリマーを含む複数種類の第2材料群からなる複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容を含む第1データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練条件を含む第2データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ポリマー組成物群から得られた複数種類の第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データを入力する工程、前記コンピュータに、前記第2ゴム状弾性体群の前記第1性能を含む第5データを入力する工程、前記コンピュータが、少なくとも前記第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数を構築する工程、前記コンピュータに、前記第1性能の前記物性値を入力する工程、並びに、前記コンピュータが、前記第1近似応答関数と、前記第1性能の前記物性値とに基づいて、前記第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び前記第1加硫条件の少なくとも一つを計算する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明のゴム状弾性体の予測方法は、第1ゴム状弾性体の第1性能の計算に用いられる第1近似応答関数の構築に、第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データが用いられる。この混練時の物理量は、前記第2ポリマー組成物群から得られる複数種類の第2ゴム状弾性体群の前記第1性能に影響する。したがって、第1発明のゴム状弾性体の予測方法は、前記第1性能に影響する前記混練時の物理量を考慮して、第1ゴム状弾性体の前記第1性能を精度良く予測することができる。
【0016】
第2発明のゴム状弾性体の予測方法は、第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体を製造するのに必要な第1材料群の配合内容等について、その配合内容等の計算に用いられる第1近似応答関数の構築に、第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データが用いられる。この混練時の物理量は、前記第2ポリマー組成物群から得られる複数種類の第2ゴム状弾性体群の第1性能に影響する。したがって、第2発明のゴム状弾性体の予測方法は、前記第1性能に影響する前記混練時の物理量を考慮して、前記第1材料群の配合内容等を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】混練機の一例を示す部分断面図である。
図2】ロータのトルク、ロータの回転数、ラムの位置、及び、チャンバー内の温度と、時間との関係の一例を示すグラフである。
図3】ゴム状弾性体の予測方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
図4】ゴム状弾性体の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】更新工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の他の実施形態のゴム状弾性体の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明のさらに他の実施形態のゴム状弾性体の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図8】実施例1の第1性能の予測値と、第1性能の実測値との関係を示すグラフである。
図9】比較例の第1性能の予測値と、第1性能の実測値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のゴム状弾性体の予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)は、第1ゴム状弾性体の予め定められた第1性能を予測するためのものである。
【0019】
第1ゴム状弾性体は、複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て得られる。本実施形態において、第1ゴム状弾性体、及び、第1ポリマー組成物は、現実には存在していない未知のゴム状弾性体、及び、ポリマー組成物として構成されている。したがって、第1ゴム状弾性体が有する第1性能の物性値も未知である。
【0020】
第1性能については、第1ゴム状弾性体の性能を示すものであれば、適宜選択される。第1性能には、例えば、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδの少なくとも一つを含めることができる。本実施形態の第1性能では、これらの全てが含まれている。なお、第1性能は、このような態様に限定されるわけではなく、第1ゴム状弾性体から形成される製品において重要な物性等が含まれてもよい。
【0021】
本実施形態の第1ポリマー組成物は、未加硫ゴムである場合が例示されるが、これに限定されるわけではない。第1ポリマー組成物を構成する第1材料群は、複数の第1材料を含んで構成されている。本実施形態の第1材料群には、1以上のポリマー及び配合剤が含まれている。
【0022】
ポリマーとしては、例えば、一般的なポリマー組成物(本実施形態では、未加硫ゴム)に配合される未加硫の原料ゴムである。原料ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)及びスチレンブタジエンゴム(SBR)等から選択される。一方、配合材としては、例えば、カーボンブラックやシリカ等のフィラー、オイル、加工助剤、シランカップリング剤、硫黄及び加硫促進剤から選択される。
【0023】
第1材料群(後述の第2材料群)を混練する工程には、混練機が用いられる。図1は、混練機2の一例を示す部分断面図である。
【0024】
混練機2は、第1材料群(後述の第2材料群)が投入されるチャンバー3と、チャンバー3内で回転する少なくとも1本(本実施形態では、2本)のロータ4とを有している。チャンバー3は、ケーシング5と、ロータ4との間で区画されている。本実施形態のチャンバー3は、断面横向きの略8の字状に形成されている。
【0025】
ケーシング5の上部には、チャンバー3内に、第1材料群(後述の第2材料群)を投入するためのラム6が設けられている。一方、ケーシング5の下部には、チャンバー3で混練された第1ポリマー組成物(後述の第2ポリマー組成物)を排出するための排出部7が設けられている。
【0026】
本実施形態において、第1材料群(後述の第2材料群)を混練する工程では、例えば、ポリマーと、カーボンブラックを含む配合剤との混練を開始してからロータのトルクが最大となる(BIT(Black Incorporation Time))まで混練する第1工程U1と、第1工程U1の後に、ポリマー及び配合剤を混練する第2工程U2とを含んでいる。さらに、第1材料群を混練する工程では、第1工程U1に先立ち、配合剤を含まないポリマーを素練りする第3工程U3をさらに含んでいる。図2は、ロータのトルク(Nm)、ロータの回転数(rpm)、ラムの位置(cm)、及び、チャンバー内の温度(℃)と、時間(秒)との関係の一例を示すグラフである。
【0027】
図2に示されるように、先ず、第3工程U3では、ラム6(図1に示す)からポリマー(図示省略)を投入した後に、ラム6を開いた状態(即ち、ラム6を上昇させた状態)で、ポリマーを素練りしている。次に、第3工程U3後に行われる第1工程U1では、カーボンブラック含む配合剤をラム6から投入した後に、ラム6を閉じた状態(即ち、ラム6を下降させた状態)で、ポリマーと配合剤とを混練している。
【0028】
次に、第2工程U2では、第1工程U1に引き続き、ポリマーと配合剤とを混練している。第2工程U2では、混練の途中でラム6を開いて、ラム6(図1に示す)の上に付着した配合剤(図示省略)等をチャンバー3内に投入する工程が行われてもよい。第2工程U2の後に、第1材料群(後述の第2材料群)を混練して得られた第1ポリマー組成物(後述の第2ポリマー組成物)は、排出部7から排出される。
【0029】
各第1工程U1~第3工程U3では、複数の第1材料群(後述の第2材料群)の混練時の物理量が求められている。混練時の物理量としては、例えば、ロータのトルク及びチャンバー内の温度が含まれており、適宜測定することができる。さらに、本実施形態では、ロータの回転数R2(rpm)と、ラム6(図1に示す)の位置とがそれぞれ求められている。
【0030】
ロータのトルクT(Nm)は、ロータ4(図1に示す)を回転させるモータ(図示省略)の消費電力W(kW)と、モータの回転数R1(rpm)とに基づいて、下記式(1)で計算することができる。
T=W×1000/(R1×2×3.14/60) …(1)
【0031】
チャンバー内の温度は、図1に示したチャンバー3内に設けられた温度センサー(図示省略)によって測定することができる。ロータの回転数R2(rpm)は、モータの回転数R1に、減速比を乗じることで求めることができる。ラム6(図1に示す)の位置は、例えば、レーザー変位計(図示省略)で測定することができる。
【0032】
図2に示されるように、混練時の物理量(ロータのトルク及びチャンバー内の温度)は、第1工程U1~第3工程U3で異なる傾向がある。第1工程U1では、ロータ4の回転によって、カーボンブラックがゴムの中に埋設されていくと、大きなゴム塊が形成され、ロータのトルクが最大となる(BIT(Black Incorporation Time))。第2工程U2では、時間の経過とともに、ロータのトルクが徐々に減少している。
【0033】
一方、チャンバー内の温度は、第1工程U1から第2工程U2にかけて、時間の経過とともに上昇している。このチャンバー内の温度の上昇により、ポリマーと配合剤(例えば、シリカ及びシランカップリング剤)との反応が促進される。
【0034】
このように、トルクや温度の変化は、第1材料群(後述の第2材料群)の混練を管理する上で重要な指標であり、混練後に第1ポリマー組成物(後述の第2ポリマー組成物)を加硫して得られる第1ゴム状弾性体(第2ゴム状弾性体)の第1性能に影響する。
【0035】
図3は、ゴム状弾性体の予測方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。本実施形態の予測方法では、コンピュータ1が用いられる。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の予測方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0036】
図4は、ゴム状弾性体の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の予測方法では、先ず、コンピュータ1(図2に示す)に、複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容を含む第1データが入力される(工程S1)。
【0037】
第2ポリマー組成物群は、複数種類の第2ポリマー組成物を含んでいる。各第2ポリマー組成物は、複数種類の第2材料群を混練して得られる。これらの第2ポリマー組成物が加硫されることにより、複数種類の第2ゴム状弾性体(第2ゴム状弾性体群)を得ることができる。本実施形態において、各第2ポリマー組成物、及び、各第2ゴム状弾性体は、未知の第1ポリマー組成物や第1ゴム状弾性体とは異なり、現実に存在している既知のポリマー組成物、及び、ゴム状弾性体として構成されている。
【0038】
第2材料群は、複数の第2材料を含んでいる。本実施形態の第2材料群には、第1材料群から選択される1以上のポリマーが含まれている。これにより、第2ポリマー組成物を構成するポリマーに、第1ポリマー組成物を構成するポリマーを含ませることができるため、後述の工程S6において、第1ゴム状弾性体の第1性能を予測可能な第1近似応答関数を、精度良く構築することができる。ポリマーの種類等については、上述のとおりである。さらに、第2材料群には、上述の配合剤が含まれている。
【0039】
複数種類の第2ポリマー組成物群の配合内容には、各第2ポリマー組成物について、個々の第2材料の分子に関する情報と、第2材料の配合割合とがそれぞれ含まれている。分子に関する情報については、上記特許文献1の記載に基づいて、適宜取得することができる。これらの配合内容は、コンピュータ1(図3に示す)に記憶される。
【0040】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)に、複数種類の第2ポリマー組成物群(各第2ゴム状弾性体)の混練条件を含む第2データが入力される(工程S2)。混練条件としては、各第2ポリマー組成物を構成する第2材料群の混練に用いられる条件であれば、適宜選択することができる。本実施形態の混練条件には、チャンバー3(図1に示す)の容積に対する第2材料群の充填率、ロータ4(図1に示す)の回転数、及び、混練停止条件の少なくとも1つが含まれている。このような混練条件は、各第2ポリマー組成物の混練時の物理量に影響を及ぼし、ひいては、第2ポリマー組成物から得られる第2ゴム状弾性体の第1性能に影響を及ぼすものである。
【0041】
本実施形態の第2データには、チャンバー3(図1に示す)の容積に対する第2材料群の充填率、ロータ4(図1に示す)の回転数、及び、混練停止条件の全てが含まれるのが望ましい。これにより、本実施形態の予測方法では、第2データとして、多くのパラメータが設定されるため、後述の工程S6において、第1性能を精度良く予測可能な第1近似応答関数を構築することが可能となる。
【0042】
チャンバー3(図1に示す)の容積は、混練機2のメーカーから提供された仕様に基づくものである。このチャンバー3の容積に基づいて、第2材料群の充填率が求められる。ロータ回転数は、図2に示した第1工程U1~第3工程U3毎にそれぞれ異なるものが設定されてもよい。
【0043】
混練停止条件は、チャンバー内の温度が予め定められた温度になったときに、混練を停止させるための条件である。混練停止条件は、適宜設定することができる。本実施形態の混練停止条件は、第1混練停止条件と、第2混練停止条件とを含んでいる。
【0044】
第1混練停止条件は、第2材料群の混練の途中でラム6(図1に示す)を開いて、ラム6の上に付着した配合剤(図示省略)等をチャンバー3内に投入するための条件である。本実施形態の第1混練停止条件の温度は、例えば、110~130℃(本実施形態では、120℃)に設定される。第2混練停止条件は、第2材料群の混練を停止させて、第2ポリマー組成物を排出部7から排出するための条件である。本実施形態の第2混練停止条件の温度は、例えば、145~165℃(本実施形態では、155℃)に設定される。
【0045】
これらの混練条件は、このような態様に限定されるわけではなく、混練機2の性能等に応じて適宜取得することができる。これらの混練条件は、コンピュータ1(図3に示す)に記憶される。
【0046】
次に、本実施形態の予測方法は、コンピュータ1(図3に示す)に、複数種類の第2ポリマー組成物群(各第2ゴム状弾性体)の混練時の物理量を含む第3データが入力される(工程S3)。混練時の物理量については、各第2ポリマー組成物を構成する第2材料群について、混練時に取得可能な物理量であれば、適宜選択することができる。本実施形態の物理量には、ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度の少なくとも1つが含まれている。このような物理量は、複数種類の第2材料群の反応速度や反応量を変化させ、ひいては、第2ポリマー組成物から得られる第2ゴム状弾性体の第1性能に影響を及ぼすものである。
【0047】
第3データには、ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度の双方が含まれるのが望ましい。ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度の取得方法としては、上述のとおりである。これにより、本実施形態の予測方法では、第3データとして、多くのパラメータが設定されるため、後述の工程S6において、第1性能を精度良く予測可能な第1近似応答関数を構築することが可能となる。
【0048】
図2に示されるように、混練時の物理量は、混練する工程(第1工程U1~第3工程U3)ごとに異なる傾向がある。このため、混練時の物理量には、混練する第1工程U1~第3工程U3ごとに取得された物理量が含まれるのが望ましい。とりわけ、ポリマーと配合剤とが混練される第1工程U1及び第2工程U2の物理量は、ポリマーや配合剤の種類や配合割合に応じて異なる傾向がある。このため、混練時の物理量には、第1工程U1時の物理量と、第2工程U2時の物理量とが含まれるのが望ましい。
【0049】
さらに、ポリマーを素練りする第3工程U3の物理量は、ポリマーの種類に応じて異なる傾向がある。このため、混練時の物理量には、第3工程U3時の物理量がさらに含まれてもよい。本実施形態では、第1工程U1時の物理量、第2工程U2時の物理量、及び、第3工程U3時の物理量が含まれている。
【0050】
第1工程U1時のロータのトルク、及び、チャンバー内の温度は、第1工程U1中に取得されたトルク、及び、チャンバー内の温度に基づいて、適宜入力される。本実施形態のロータのトルクとしては、第1工程U1中に測定されたトルクの積分値が、コンピュータ1(図3に示す)に入力される。なお、図1に示したラム6が開いている(上昇している)間は、ポリマー等を十分に混練できない傾向がある。このため、トルクの積分値には、ラム6が閉じている(下降させている)間のトルクを対象に求められるのが望ましい。
【0051】
一方、チャンバー内の温度としては、第1工程U1中に測定されたチャンバー内の温度の平均値が、コンピュータ1(図3に示す)に入力される。
【0052】
第2工程U2時、及び、第3工程U3時において、ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度は、第1工程U1時のロータのトルク、及び、チャンバーの温度と同様の手順で求めることができ、コンピュータ1(図3に示す)に入力される。
【0053】
なお、第1材料群(後述の第2材料群も同様)を混練する工程において、配合剤の分割投入や、再練り(リミル)によって、第2工程U2及び第3工程U3が交互に実施される場合には、全ての第2工程U2の物理量の合計値から求められる平均値、及び、全ての第3工程U3の物理量の合計値から求められる平均値が、第2工程U2時の物理量、及び、第3工程U3時の物理量として、コンピュータ1(図3に示す)に入力されてもよい。
【0054】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)に、複数種類の第2ゴム状弾性体群(各第2ゴム状弾性体)の加硫条件を含む第4データが入力される(工程S4)。第2ゴム状弾性体群は、複数種類の第2ゴム状弾性体を含んでいる。各第2ゴム状弾性体は、複数種類の第2ポリマー組成物をそれぞれ加硫することで得られる。
【0055】
本実施形態の加硫条件は、各第2ポリマー組成物について、加硫時に設定された温度条件等が設定される。このような加硫条件は、各第2ポリマー組成物の加硫時の反応速度や反応量を変化させ、第2ゴム状弾性体の第1性能に直接影響を及ぼすものである。本実施形態の加硫条件は、各第2ポリマー組成物の加硫温度曲線に基づいて設定される。加硫条件の詳細については、上記特許文献1に記載されるとおりである。加硫条件は、コンピュータ1(図3に示す)に記憶される。
【0056】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)に、複数種類の第2ゴム状弾性体群(各第2ゴム状弾性体)の第1性能を含む第5データが入力される(工程S5)。第1性能については、上述のとおり、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδの少なくとも一つを含み、本実施形態では、これらの全てが含まれている。本実施形態では、各第2ゴム状弾性体の第1性能(貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδ)が、第5データとしてコンピュータ1に入力される。なお、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδは、上記特許文献1の記載に基づいて測定することができる。
【0057】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)が、少なくとも第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数を構築する(工程S6)。本実施形態では、第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数が構築される。なお、工程S6では、例えば、第1ないし5データと、第1ないし5データとは異なるデータ(第2ポリマー組成物群に関するデータ)とを用いて、それらの関係を示す第1近似応答関数が構築されてもよい。
【0058】
本実施形態の工程S6では、先ず、第1近似応答関数の構築に先立ち、第2ゴム状弾性体群(各第2ゴム状弾性体)の分子に関する情報が計算されるのが望ましい。各第2ゴム状弾性体の分子に関する情報は、第1データの第2ポリマー組成物群の配合内容(個々の第2材料の分子に関する情報、及び、第2材料の配合割合)を用いて計算される。各第2ゴム状弾性体の分子に関する情報は、第2ゴム状弾性体の第2材料の配合割合(充填量)に基づいて、個々の第2材料の分子に関する情報を加重平均することによって計算される。これにより、各第2ゴム状弾性体の分子に関する情報は、実際に測定されなくても、実際の第2ゴム状弾性体の各第2材料の分子に関する情報に近似させることができるため、測定時間やコストの増大を抑制することができる。各第2ゴム状弾性体の分子に関する情報の計算方法については、上記特許文献1に記載のとおりである。
【0059】
次に、本実施形態の工程S6では、第1データ(各第2ポリマー組成物の配合内容)、第2データ(各第2ポリマー組成物の混練条件)、第3データ(各第2ポリマー組成物群の混練時の物理量)、第4データ(各第2ゴム状弾性体の加硫条件)、第5データ(各第2ゴム状弾性体の第1性能)、及び、各第2ゴム状弾性体の分子に関する情報を用いて、第1近似応答関数が生成される。このような第1近似応答関数は、例えば、未知の第1ゴム状弾性体の第1性能を、既知の第2ゴム状弾性体の第1性能で補完して予測することができる。したがって、このような第1近似応答関数を予め構築しておくことにより、第1ゴム状弾性体を実際に製造しなくても、第1ゴム状弾性体の第1性能を予測することができる。
【0060】
第1近似応答関数は、第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データを用いて構築されているため、第1性能に影響する混練時の物理量を考慮することができる。したがって、第1近似応答関数は、第1ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測するのに役立つ。さらに、第1近似応答関数は、第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データを用いて構築されているため、第1性能に影響する加硫条件をさらに考慮することができる。
【0061】
第1近似応答関数は、慣例に従って、種々の方法で構築することができる。第1近似応答関数には、例えば、応答曲面法(RSM:Response Surface Methodology)、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)、又は、Kriging法などが好適に用いられる。第1近似応答関数は、RSM、RBF、Kriging法の順に近似精度は向上するが、同時に計算コストも増大する。このため、本実施形態の第1近似応答関数には、精度とコストとのバランスに優れたRBFが用いられる。RBFの詳細については、上記特許文献1の記載のとおりである。なお、第1近似応答関数は、非線形性への対応力を高めるために、ニューラルネットワークの中間層を多層化する深層学習によって構築されてもよい。
【0062】
次に、本実施形態の予測方法では、第1近似応答関数の精度が、良好か否かが判断される(工程S7)。第1近似応答関数の精度の良否については、適宜判断することができる。工程S7では、第1近似応答関数について、ブラインドテストが実施される。本実施形態のブラインドテストは、コンピュータ1によって行われるが、オペレータ等によって行われてもよい。
【0063】
本実施形態の工程S7では、先ず、第2ゴム状弾性体群(複数種類の第2ゴム状弾性体)のうち、一つの第2ゴム状弾性体が選択される。次に、工程S7では、選択されていない残りの第2ゴム状弾性体について、第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数が構築される。この工程S7で構築される第1近似応答関数は、上述の工程S6で構築された第1近似応答関数とは別に、独立して構築される。次に、工程S7では、選択された一つの第2ゴム状弾性体について、第2ポリマー組成物の配合内容、混練条件、混練時の物理量、加硫条件、及び、分子に関する情報が、工程S7で構築された第1近似応答関数に代入される。これにより、工程S7では、選択された一つの第2ゴム状弾性体の第1性能が計算される。第2ゴム状弾性の分子に関する情報は、上述の手順(上記特許文献1の式(3))で求められる。
【0064】
本実施形態の工程S7では、第2ゴム状弾性体群のうち、複数の第2ゴム状弾性体について、上記の手順に基づいて、第1性能が計算される。そして、工程S7では、複数の第2ゴム状弾性体について、計算された第1性能と、実際の第1性能とが比較される。計算された第1性能と、実際の第1性能との相関係数が、予め定められた許容範囲内にある場合、第1近似応答関数の精度が良好であると判断される。
【0065】
許容範囲については、要求される計算精度に応じて、適宜設定することができる。本実施形態では、例えば、相関係数が0.75以上、より好ましくは0.90以上であれば、第1近似応答関数の精度が良好であると判断される。
【0066】
工程S7において、第1近似応答関数の精度が良好であると判断された場合(工程S7で、「Y」)、次の工程S8が実施される。一方、第1近似応答関数の精度が良好でないと判断された場合(工程S7で、「N」)、第1ないし第5データを更新する工程(更新工程)S9が実施され、更新された第1データ~第5データを用いて、第1近似応答関数が再構築される(工程S6)。図5は、更新工程S9の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0067】
本実施形態の更新工程S9では、先ず、第1データに、新たな第2ポリマー組成物(即ち、第1データに含まれていない既知の第2ポリマー組成物)の配合内容が追加される(工程S91)。追加される第2ポリマー組成物の個数については、適宜設定することができる。次に、本実施形態の更新工程S9では、第1データに追加された新たな第2ポリマー組成物について、その混練条件が第2データに追加される(工程S92)。次に、本実施形態の更新工程S9では、第1データに追加された新たな第2ポリマー組成物について、その混練時の物理量が、第3データに追加される(工程S93)。次に、本実施形態の更新工程S9では、第1データに追加された第2ポリマー組成物から得られる新たな第2ゴム状弾性体について、その下流条件が、第4データに追加される(工程S94)。次に、本実施形態の更新工程S9では、第4データに追加された新たな第2ゴム状弾性体について、その第1性能が、第5データに追加される(工程S95)。そして、図4に示されるように、更新工程S9の後に行われる工程S6では、更新された第1データ~第5データを用いて、第1近似応答関数が再構築される。
【0068】
このように、本実施形態の予測方法では、ブラインドテストが実施されることにより、第1近似応答関数の精度の良否を判断することができる。そして、精度が良好でないと判断された場合には、精度が良好になるまで、第1ないし第5データを更新して、第1近似応答関数を再構築することができる。これにより、本実施形態の予測方法では、第1近似応答関数を精度よく構築することができる。なお、ブラインドテストは、第2ポリマー組成物群に含まれる全ての第2ポリマー組成物について実施されてもよい。
【0069】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)に、第1材料群の配合内容と、第1材料群の混練条件と、第1材料群の混練時の物理量と、第1加硫条件とが入力される(工程S8)。上述したように、本実施形態の第1ゴム状弾性体は、現実には存在していない未知のゴム状弾性体である。これらの配合内容、混練条件、混練時の物理量、及び、第1加硫条件については、適宜設定することができる。
【0070】
本実施形態の第1材料群の配合内容としては、第1ポリマー組成物(第1ゴム状弾性体)を構成する複数の第1材料群(各第1材料)について、それらの分子に関する情報と、配合割合とが設定される。本実施形態の各第1材料は、第1データの第2材料群に含まれている。
【0071】
本実施形態の第1材料群の混練条件としては、第1材料群の混練時に予定されている混練条件(本例では、チャンバー3の容積に対する第1材料群の充填率、ロータ4の回転数、及び、混練停止条件)が設定される。
【0072】
本実施形態の第1材料群の混練時の物理量としては、第1材料群の混練条件に基づいて、第1材料群を混練したときの物理量(本例では、ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度)の予測値が設定される。この予測値は、適宜設定することができ、例えば、第2データに含まれる複数の混練条件のうち、第1材料群の混練条件に近似する第2ポリマー組成物の混練条件を選択し、その混練条件で混練された第2ポリマー組成物の混練時の物理量から、第1材料群の混練時の物理量を予測して設定してもよい。なお、第1材料群の混練条件に近似する第2ポリマー組成物の混練条件が複数存在する場合には、それらの混練条件で混練された第2ポリマー組成物の混練時の物理量の平均値を、第1材料群の混練時の物理量として設定してもよい。
【0073】
第1加硫条件としては、第1ポリマー組成物の加硫時に予定されている加硫条件が設定される。加硫条件の詳細については、上述のとおりである。さらに、本実施形態の工程S8では、第1ゴム状弾性体の分子に関する情報が入力される。分子に関する情報については、第2ゴム状弾性体の分子に関する情報と同様の手順で求めることができる。
【0074】
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)が、第1ゴム状弾性体の第1性能を計算する(工程S10)。工程S10では、工程S8で入力された第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件と、第1近似応答関数とに基づいて、第1ゴム状弾性体の第1性能が計算される。
【0075】
本実施形態の工程S10では、工程S8で入力された第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量、第1加硫条件、及び、第1ゴム状弾性体の分子に関する情報が、第1近似応答関数に代入される。これにより、工程S10では、第1ゴム状弾性体の第1性能を計算することができる。
【0076】
第1近似応答関数は、第2ゴム状弾性体群(複数種類の第2ゴム状弾性体)に含まれていない第1ゴム状弾性体について、その第1ゴム状弾性体の第1性能を、各第2ゴム状弾性体の第1性能で補完して予測するためのものである。したがって、工程S10では、第1ゴム状弾性体を構成する第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量、第1加硫条件、及び、第1ゴム状弾性体の分子に関する情報が、第1近似応答関数に代入されることにより、第1ゴム状弾性体の第1性能(本例では、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδ)を容易に計算(予測)することができる。
【0077】
第1近似応答関数の構築には、第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を含む第3データが用いられている。これにより、本実施形態の予測方法は、第1性能に影響する第2ポリマー組成物群の混練時の物理量を考慮して、第1ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測することができる。さらに、第1近似応答関数の構築には、第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データが用いられている。これにより、本実施形態の予測方法は、混練時の物理量だけでなく、第1性能に影響する加硫条件を考慮することができるため、第1ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測することができる。
【0078】
このように、本実施形態の予測方法は、第1ゴム状弾性体を製造することなく、第1ゴム状弾性体の第1性能を容易に予測することができる。このため、本実施形態の予測方法は、ゴム状弾性体の開発コストを大幅に低減することができる。また、本実施形態の第1性能は、第1ゴム状弾性体から形成されるゴム製品(例えば、タイヤ)等の耐久性、耐摩耗性、又は、転がり抵抗等の性能を予測するのに用いることができるため、ゴム製品の設計に役立つ。
【0079】
次に、本実施形態の予測方法は、第1ゴム状弾性体の第1性能が、良好か否かが判断される(工程S11)。第1性能が良好か否かの判断は、第1ゴム状弾性体から形成される製品に応じて適宜行われる。第1性能が良好か否かの判断は、コンピュータ1によって行われてもよいし、オペレータによって行われてもよい。
【0080】
工程S11において、第1性能が良好であると判断された場合(工程S11で、「Y」)、工程S8で入力された第1材料群の配合内容、第1材料群の混練条件、第1材料群の混練時の物理量、及び、第1加硫条件に基づいて、第1ゴム状弾性体(ゴム製品)が製造される(工程S12)。
【0081】
一方、工程S11において、第1性能が良好でないと判断された場合(工程S11で、「N」)、第1材料群の配合内容、第1材料群の混練条件、第1材料群の混練時の物理量、及び、第1加硫条件の少なくとも1つを変更し(工程S13)、工程S10及び工程S11が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、所望の第1性能を有する第1ゴム状弾性体を製造することができる。
【0082】
これまでの実施形態の工程S8では、第1材料群の混練時の物理量として、第1材料群の混練条件に基づいて、第1材料群を混練したときの物理量の予測値が設定されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1ないし3データの関係を示す第2近似応答関数に基づいて、第1材料群の混練時の物理量が計算されてもよい。図6は、本発明の他の実施形態の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0083】
この実施形態の予測方法では、第1材料群の混練時の物理量を入力する工程S8に先立ち、コンピュータ1(図3に示す)が、第1ないし3データの関係を示す第2近似応答関数を構築する(工程S14)。工程S14では、第1データ(各第2ポリマー組成物の配合内容)、第2データ(各第2ポリマー組成物の混練条件)、及び、第3データ(各第2ポリマー組成物群の混練時の物理量)を用いて、第2近似応答関数が生成される。このような第2近似応答関数は、例えば、未知の第1ポリマー組成物を構成する第1材料群の混練時の物理量を、既知の第2ポリマー組成物群(複数種類の第2ポリマー組成物)の混練時の物理量で補完して予測することができる。したがって、このような第2近似応答関数を予め構築しておくことにより、第1材料群の混練時の物理量を、容易に予測することができる。
【0084】
第2近似応答関数は、第1近似応答関数と同様に、種々の方法で構築することができる。この実施形態の第2近似応答関数は、第1近似応答関数と同様に、RBFが用いられる。
【0085】
この実施形態の予測方法では、第2近似応答関数を構築する工程S14の後に、第2近似応答関数の精度が、良好か否かが判断されてもよい。第2近似応答関数の精度の良否については、適宜判断することができるが、第1近似応答関数と同様に、ブラインドテストが実施されるのが望ましい。第2近似応答関数のブラインドテストについては、これまでの実施形態で説明した第1近似応答関数のブラインドテストと同様の手順で実施することができる。
【0086】
第2近似応答関数のブラインドテストが良好でない場合には、更新工程S9と同様に、第1ないし第5データを更新して、第2近似応答関数が再構築されるのが望ましい。これにより、この実施形態の予測方法では、第2近似応答関数を精度良く構築することができる。
【0087】
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)に、第1材料群の配合内容、及び、混練条件が入力される(工程S15)。この実施形態の第1ゴム状弾性体は、現実には存在していない未知のゴム状弾性体である。これらの配合内容、及び、混練条件については、これまでの実施形態の工程S8と同様に、適宜設定することができる。
【0088】
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)が、第1材料群の配合内容及び混練条件と、第2近似応答関数とに基づいて、第1材料群の混練時の物理量を計算する(工程S16)。工程S16では、工程S15で入力された第1材料群の配合内容及び混練条件が、第2近似応答関数に代入される。これにより、工程S16では、第1材料群の混練時の物理量を計算することができる。
【0089】
第2近似応答関数は、第2ポリマー組成物群(複数種類の第2ポリマー組成物)に含まれていない第1ポリマー組成物について、その第1ポリマー組成物を構成する第1材料群の混練時の物理量を、各第2ポリマー組成物の混練時の物理量で補完して予測するためのものである。したがって、工程S16では、第1材料群の配合内容及び混練条件が、第2近似応答関数に代入されることにより、第1材料群の混練時の物理量(本例では、ロータのトルク、及び、チャンバー内の温度)を容易に計算(予測)することができる。計算された第1材料群の混練時の物理量は、次の工程S8において、第1材料群の混練時の物理量として入力される。
【0090】
このように、この実施形態の予測方法では、第2近似応答関数を用いて、第1材料群の混練時の物理量を予測することができるため、例えば、第1材料群の混練条件から混練時の物理量を予測していた実施形態に比べて、オペレータの経験や勘に左右されることなく、第1材料群の混練時の物理量を一意に求めることができる。したがって、この実施形態の予測方法では、第1ゴム状弾性体の第1性能の予測がバラつくのを防ぐことができる。
【0091】
また、この実施形態の工程S13において、第1材料群の混練時の物理量の更新には、第2近似応答関数を用いて予測された混練時の物理量が用いられるのが望ましい。
【0092】
これまでの実施形態では、第1ゴム状弾性体の第1性能が予測される方法が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも一つが予測されてもよい。図7は、本発明のさらに他のゴム状弾性体の予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0093】
この実施形態の予測方法では、工程S7において、第1近似応答関数が良好であると判断された後に(工程S7で、「Y」)、コンピュータ1(図3に示す)に、第1性能の物性値が入力される(工程S17)。第1性能の物性値は、第2ゴム状弾性体群(複数種類の第2ゴム状弾性体)に含まれていない第1ゴム状弾性体について、その第1ゴム状弾性体に要求される第1性能の物性値である。工程S17では、第1性能(この実施形態では、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδ)の少なくとも一つについて、所望の物性値が入力される。この実施形態では、これらの第1性能の全てについて、所望の物性値が入力される。これらの物性値は、コンピュータ1に記憶される。
【0094】
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(図3に示す)が、第1近似応答関数と、第1性能の物性値とに基づいて、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも一つを計算する(工程S18)。この工程S18では、先ず、第1近似応答関数の逆関数が求められる。この逆関数は、第1性能の物性値の入力に対して、その物性値を有する第1ゴム状弾性体の第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも1つを出力するためのものである。
【0095】
逆関数は、遺伝的アルゴリズム(GA(Genetic Algorithm))や、粒子群最適化(PSO(Particle Swarm Optimization))等の最適化手法に基づいて求められる。このような逆関数は、例えば、上記特許文献1に記載のコンピュータソフトウエアで容易に求めることができる。
【0096】
次に、工程S18では、第1近似応答関数の逆関数に、第1性能の物性値(目的関数)が代入される。これにより、工程S18では、第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体を製造するために必要な第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも1つ(本例では、配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の全て)が、上記最適化手法に基づいて、第1データ~第5データで補完して求められる。
【0097】
このように、この実施形態の予測方法は、第1性能の物性値から、第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体を製造するために必要な情報(即ち、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも1つ)を容易に求めることができる。このため、この実施形態の予測方法は、第1ゴム状弾性体の試作や評価を繰り返したり、オペレータの経験や勘に左右されたりすることなく、所望の第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体を製造するために必要な情報を確実に特定することができる。
【0098】
この実施形態の予測方法では、第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件を求めることができるが、これらの求められた情報では、製造コストの予算超過を招く場合や、材料の調達が困難である場合がある。このため、予測方法では、工程S18に先立ち、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件の少なくとも1つについて、予め定められた制約条件が設定されてもよい。これらの制約条件は、例えば、製造コスト等に応じて、適宜設定することができる。
【0099】
配合内容の制約条件は、例えば、工程S18で計算される第1材料群(複数の第1材料)の配合割合を、予め定められた範囲に限定するためのものである。この制約条件は、例えば、第1ゴム状弾性体の製造コストの予算や、第1ゴム状弾性体を製造する工場で調達可能な第1材料に基づいて設定される。このような制約条件が設定されることにより、この実施形態の予測方法では、工程S18において、第1ゴム状弾性体の製造コストの予算超過を防ぎつつ、調達可能な第1材料の配合割合を求めるのに役立つ。
【0100】
混練条件の制約条件は、例えば、工程S18で計算されるチャンバーの容積に対する第2材料群の充填率、ロータの回転数、及び、混練停止条件を、予め定められた範囲に限定するためのものである。これらの制約条件は、例えば、混練機2(図1に示す)の仕様等に基づいて設定される。このような制約条件が設定されることにより、この実施形態の予測方法は、工程S18において、混練機2の仕様では困難な混練条件が計算されるのを防ぐことができる。
【0101】
混練時の物理量の制約条件は、例えば、工程S18で計算されるロータのトルク、及び、チャンバー内の温度を、予め定められた範囲に限定するためのものである。これらの制約条件は、例えば、混練機2(図1に示す)の仕様等に基づいて設定される。このような制約条件が設定されることにより、この実施形態の予測方法は、工程S18において、混練機2の仕様では困難な混練時の物理量が計算されるのを防ぐことができる。
【0102】
第1加硫条件の制約条件は、例えば、工程S18で計算される加硫温度、及び、加硫時間を、予め定められた範囲に限定するためのものである。これらの制約条件は、例えば、第1ゴム状弾性体を製造するための金型の構成、加熱手段、及び、ランニングコスト等に基づいて設定される。このような制約条件が設定されることにより、この実施形態の予測方法は、工程S18において、ゴム状弾性体の製造コストが超過するような加硫条件が計算されるのを防ぐことができる。
【0103】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0104】
[実施例A]
図4に示した処理手順に基づいて、複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て得られた第1ゴム状弾性体の第1性能が予測された(実施例1)。実施例1の予測方法では、コンピュータに、第1材料群から選択される1以上のポリマーを含む複数種類の第2材料群からなる12種類の第2ポリマー組成物群(第2ポリマー組成物1~12)の配合内容を含む第1データが入力された。
【0105】
配合内容は、各第2ポリマー組成物について、個々の第2材料の分子に関する情報と、第2材料の配合割合とがそれぞれ含まれている。個々の第2材料の分子に関する情報は、明細書中の記載、及び、上記特許文献1の記載に基づいて取得された。
【0106】
第2ポリマー組成物1~3、第2ポリマー組成物4~6、第2ポリマー組成物7~9、及び、第2ポリマー組成物10~12は、それぞれ同一の配合割合に設定されている。配合割合については、次のとおりである。なお、下記の配合割合のうち、「変量」と記載のないものは、全ての第2ポリマー組成物1~12において、同一に設定されている。
ポリマー:
s-SBR(油添) :55(phr)
s-SBR(非油添) :30(phr)
BR :30(phr)
フィラー:
カーボンブラック :13~54(phr)の間で変量
シリカ :26~72(phr)の間で変量
カップリング剤(TESPD):2.08~5.76(phr)の間で変量
ミネラルオイル :1.25~25.5(phr)の間で変量
加硫促進剤等:
酸化亜鉛 :1.5(phr)
ステアリン酸 :1.5(phr)
硫黄 :1.2~1.8(phr)の間で変量
加硫促進剤(CZ) :1.7(phr)
加硫促進剤(DPG) :2.2(phr)
【0107】
次に、実施例1の予測方法では、コンピュータに、第2ポリマー組成物群の混練条件を含む第2データが入力された。混練条件は、チャンバーの容積に対する第2材料群の充填率(以下、単に「充填率」ということがある。)、ロータの回転数、及び、混練停止条件が設定された。
【0108】
充填率及びロータの回転数は、互いに異なる3つの条件(条件1~3)が設定された。第2ポリマー組成物1~3には、それぞれ異なる条件1~3が設定された。同様に、第2ポリマー組成物4~6、第2ポリマー組成物7~9、及び、第2ポリマー組成物10~12にも、条件1~3がそれぞれ設定された。一方、混練停止条件は、全ての第2ポリマー組成物1~12で同一に設定された。
条件1:
充填率:70%
ロータの回転数:55rpm
条件2:
充填率:75%
ロータの回転数:45rpm
条件3:
充填率:65%
ロータの回転数:65rpm
混練停止条件:
第1混練停止条件:120℃
第2混練停止条件:155℃
【0109】
次に、実施例1の予測方法では、コンピュータに、第2ポリマー組成物群(第2ポリマー組成物1~12)の混練時の物理量を含む第3データが入力された。混練時の物理量は、第2ポリマー組成物1~12を、上記混練条件で混練したときに測定されたロータのトルク、及び、チャンバー内の温度を含んでいる。ロータのトルクは、第1工程U1~第3工程U3について、各工程で測定されたトルクの積分値がそれぞれ設定された。一方、チャンバー内の温度は、第1工程U1~第3工程U3について、各工程で測定された温度の平均値がそれぞれ設定された。
【0110】
次に、実施例1の予測方法では、コンピュータに、第2ポリマー組成物群から得られた複数種類の第2ゴム状弾性体群の加硫条件を含む第4データが入力された。加硫条件は、上記特許文献1と同様に、第2ゴム状弾性体1~12の加硫温度曲線に基づいて、定熱時、昇温時、及び、放熱時毎に求められた変数a、C、kが設定された。各第2ゴム状弾性体1~12の加硫条件は、同一のものが設定されている。
【0111】
次に、実施例の1予測方法では、コンピュータに、第2ゴム状弾性体群の第1性能を含む第5データが入力された。第1性能には、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδが入力された。各第2ゴム状弾性体1~12について、これらの第1性能が測定され、コンピュータに入力された。
【0112】
次に、実施例1の予測方法では、コンピュータが、第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数が構築された。そして、第1近似応答関数の精度が良好であるか否かが、第2ゴム状弾性体1~12の材料の配合内容、混練条件、混練時の物理量、及び、加硫条件に基づいて、ブラインドテストが実施された。
【0113】
ブライドテストでは、先ず、第2ゴム状弾性体1~12のうち、1つの第2ゴム状弾性体が選択された。次に、ブラインドテストでは、選択されていない残りの第2ゴム状弾性体の第1データ、第2データ、第3データ、第4データ及び第5データを用いて第1近似応答関数が構築された。次に、ブラインドテストでは、選択された一つの第2ゴム状弾性体について、第2ポリマー組成物の配合内容、混練条件、混練時の物理量、及び、加硫条件に基づいて、第1性能が予測された。この第1性能は、第2ゴム状弾性体1~12の全てについて予測された。そして、予測された第2ゴム状弾性体1~12の第1性能と、実際に測定された第2ゴム状弾性体1~12の第1性能との相関が確認された。図8は、実施例1の第1性能の予測値と、第1性能の実測値との関係を示すグラフである。図8での第1性能は、30℃におけるtanδである。
【0114】
比較のために、第3データ(混練時の物理量)を含めずに、第1データ、第2データ、第4データ及び第5データの関係を示す近似応答関数が構築された(比較例)。比較例では、近似応答関数の精度が良好であるか否かが、第2ゴム状弾性体1~12の材料の配合内容、混練条件、及び、加硫条件に基づいて、ブラインドテストが実施された。比較例のブラインドテストは、第3データ、及び、混練時の物理量を用いない点を除いて、実施例1のブラインドテストと同様の手順で実施される。図9は、比較例の第1性能の予測値と、第1性能の実測値との関係を示すグラフである。図9での第1性能は、30℃におけるtanδである。
【0115】
図8に示した実施例1において、第1性能の予測値と、第1性能の実測値との決定係数R2は、0.9884であった。一方、図9に示した比較例において、第1性能の予測値と、第1性能の実測値との決定係数R2は、0.9328であった。したがって、第1性能に影響する混練時の物理量を考慮できる実施例1は、混練時の物理量を考慮できない比較例に比べて、第1近似応答関数を精度良く求めることができた。このような実施例1の第1近似応答関数に、第1材料群の配合内容と、第1材料群の混練条件と、第1材料群の混練時の物理量と、第1加硫条件とが代入されることにより、第1ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測することができることが確認できた。
【0116】
[実施例B]
図6に示した処理手順に基づいて、複数の第1材料群を混練して第1ポリマー組成物を得る工程と、第1ポリマー組成物を第1加硫条件で加硫する工程とを経て得られた第1ゴム状弾性体の第1性能が予測された(実施例2)。実施例2の予測方法では、実施例1の予測方法と同様に、第2ゴム状弾性体の第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数が構築された。
【0117】
さらに、実施例2の予測方法では、コンピュータが、第1ないし3データの関係を示す第2近似応答関数が構築された。そして、第2近似応答関数の精度が良好であるか否かが、第2ポリマー組成物1~12の配合内容、及び、混練条件に基づいて、ブラインドテストが実施された。
【0118】
第2近似応答関数のブラインドテストでは、先ず、第2ポリマー組成物1~12のうち、一つの第2ポリマー組成物が選択された。次に、ブラインドテストでは、選択されていない残りの第2ポリマー組成物の第1データ、第2データ、及び、第3データを用いて第2近似応答関数が構築された。次に、ブラインドテストでは、選択された一つの第2ポリマー組成物について、材料の配合内容、及び、混練条件に基づいて、混練時の物理量が予測された。混練時の物理量は、第2ゴム状弾性体1~12の全てについて予測された。そして、予測された第2ゴム状弾性体1~12の混練時の物理量と、実際に測定された第2ゴム状弾性体1~12の混練時の物理量との相関が確認された。
【0119】
実施例2では、混練時の物理量の予測値と、混練時の物理量の実測値との決定係数R2は、0.9905であった。したがって、実施例2では、第2近似応答関数を精度良く求めることができた。このような実施例2の第2近似応答関数に、第1材料群の配合内容と、第1材料群の混練条件とが代入されることにより、第1材料群の混練時の物理量を計算することができるため、オペレータの経験や勘に左右されることなく、第1材料群の混練時の物理量を一意に予測することができた。
【0120】
実施例2では、第1近似応答関数に、予測された第1材料群の混練時の物理量と、第1材料群の配合内容、混練条件及び第1加硫条件とが代入されることにより、第1ゴム状弾性体の第1性能を精度良く予測することができることが確認できた。
【0121】
[実施例C]
図7に示した処理手順に基づいて、予め定められた第1性能の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件が予測された(実施例3)。実施例3の予測方法では、実施例1の予測方法と同様に、第2ゴム状弾性体の第1ないし5データの関係を示す第1近似応答関数が構築された。そして、第1近似応答関数に、第1性能の所望の物性値を代入して、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件が計算された。
【0122】
計算された第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件に基づいて、第1ポリマー組成物、及び、第1ゴム状弾性体が製造された。そして、製造された第1ゴム状弾性体の第1性能が測定され、第1材料群の配合内容等の計算に用いられた第1性能(貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδ)の物性値との相関が求められた。
【0123】
テストの結果、実施例3では、いずれの第1性能(貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"及び損失正接tanδ)も、5%未満の誤差であった。なお、誤差が5%以下であれば、十分な予測精度である。このように、実施例3の予測方法は、第1性能の所望の物性値を有する第1ゴム状弾性体について、第1材料群の配合内容、混練条件、混練時の物理量及び第1加硫条件を精度良く求めることができた。
【符号の説明】
【0124】
S1 第1データを入力する工程
S2 第2データを入力する工程
S3 第3データを入力する工程
S4 第4データを入力する工程
S5 第5データを入力する工程
S6 第6データを入力する工程
S10 第1性能を計算する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9