(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】テニスボール用接着剤
(51)【国際特許分類】
C09J 121/02 20060101AFI20230905BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230905BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230905BHJP
A63B 39/00 20060101ALI20230905BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20230905BHJP
C09J 107/02 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C09J121/02
C09J11/04
C09J11/06
A63B39/00 B
A63B45/00 C
C09J107/02
(21)【出願番号】P 2019133975
(22)【出願日】2019-07-19
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018190883
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 建彦
(72)【発明者】
【氏名】田口 順則
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡明
(72)【発明者】
【氏名】志賀 一喜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文哉
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】三村 耕平
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-138282(JP,A)
【文献】特開平09-249863(JP,A)
【文献】特開2007-000167(JP,A)
【文献】特開2003-320057(JP,A)
【文献】特開平09-249716(JP,A)
【文献】特開2012-102185(JP,A)
【文献】特開平6-157824(JP,A)
【文献】特開2012-102186(JP,A)
【文献】特開2002-331049(JP,A)
【文献】特開昭58-98372(JP,A)
【文献】特開2000-33131(JP,A)
【文献】米国特許第5413333(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00- 47/04
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムラテックスとスルフェンアミド系加硫促進剤とを含
み、
加硫剤として硫黄をさらに含む水性接着剤であって、
上記水性接着剤中の固形分をキュラストメーターにて温度150℃で測定するとき、10%トルク時間t10が3分以上15分以下であり、かつ、10%トルク時間t10の90%トルク時間t90に対する比(t10/t90)が0.60以上0.95以下であるテニスボール用水性接着剤。
【請求項2】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤の量が、固形分換算で、0.05質量%以上5.0質量%以下である請求項
1に記載の水性接着剤。
【請求項3】
硫黄含有量が、固形分換算で、0.5質量%以上10.0質量%以下である請求項1
又は2に記載の水性接着剤。
【請求項4】
上記スルフェンアミド系加硫促進剤が、一般式R
1-S-N(-R
2)-R
3で示される化合物であり、このR
1、R
2及びR
3が、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数3~20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルフェニル基、含窒素複素環基、含硫黄複素環基又は含窒素及び硫黄複素環基である請求項1から
3のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項5】
上記ゴムラテックスが、天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスである請求項1から
4のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項6】
無機充填剤をさらに含み、この無機充填剤の量が、固形分換算で、0.1質量%以上40質量%以下である請求項1から
5のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項7】
上記無機充填剤が、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ケイソウ土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及びアルミナからなる群から選択される1又は2以上である請求項
6に記載の水性接着剤。
【請求項8】
その固形分濃度が、3.0質量%以上70質量%以上である請求項1から
7のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項9】
ブルックフィールド型回転粘度計を用いて23±1℃で測定される粘度が、20cps以上20,000cps以下である請求項1から
8のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項10】
pHが7.0以上12.0以下である請求項1から
9のいずれかに記載の水性接着剤。
【請求項11】
2つの半球状のハーフコアからなる中空のコアを備えており、
上記2つのハーフコアが、請求項1から
10のいずれかに記載の水性接着剤を用いて、貼り合わせられているテニスボール。
【請求項12】
水に分散剤を添加して分散媒を調製する工程と、
ゴムラテックスに配合するための複数の添加剤のそれぞれを、上記分散媒に投入して混合した後、そのpHを8.0以上12.0以下に調整することにより、各添加剤のスラリーを得る工程と、
上記工程で得た各添加剤のスラリーを、上記ゴムラテックスに添加して混合する工程と、を含んでおり、
上記複数の添加剤の少なくとも1つが、スルフェンアミド系加硫促進剤であ
り、
上記複数の添加剤の他の一つが、加硫剤としての硫黄である、テニスボール用水性接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスボール用接着剤に関する。詳細には、本発明は、硬式テニスボールの製造に用いる接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テニスボールは、ゴム組成物からなるコアを備えている。このコアは、中空の球体である。通常、コアは、2つの半球状のハーフコアを貼り合わせることにより形成される。2つのハーフコアの貼り合わせには、接着剤が用いられる。
【0003】
プレーでは、テニスボールが繰り返し打撃される。接着強度が弱い接着剤により得られたコアでは、繰り返し打撃による破損が生じる場合がある。耐久性の観点から、コア用接着剤には、十分な接着強度が必要である。
【0004】
また、硬式テニスで使用されるテニスボールでは、コアの内部に、大気圧よりも40kPaから120kPa高い圧力の圧縮ガスが充填されている。このテニスボールは、加圧テニスボール(プレッシャーボール)とも称される。加圧テニスボールのコア用接着剤には、接着強度に加えて、ガスの漏出を防止する気密性も必要である。
【0005】
従来、ハーフコアをなすゴム組成物との親和性の観点から、ゴム成分、加硫剤、加硫促進剤等をナフサ等の有機溶剤に溶解した溶剤系接着剤が、コアの作成に使用されている。この溶剤系接着剤を用いて2つのハーフコアを貼り合わせた後、加熱及び加圧することにより、接着剤中のゴム成分が架橋される。この架橋により、2つのハーフコアが接着され、中空のコアが形成される。
【0006】
近年、環境に対する影響及び作業者の負担軽減の観点から、溶剤系接着剤に変えて、種々の水性接着剤が開発されている。テニスボールの製造用としては、例えば、特開昭57-179265号公報及び特開昭57-179266号公報に、解重合処理した天然ゴムラテックス又は合成ゴムラテックスを基材とするメルトンシーム用接着剤が開示されている。特開昭58-98372号公報では、ゴムラテックスに高温分解型加硫剤を配合したメルトンダンベル用接着剤が提案されている。
【0007】
特開2007-167号公報には、コアとフェルト部との間に介在する接着層を、ポリアクリル酸金属塩を含む水系組成物を用いて形成するテニスボールの製造方法が開示されている。特開2000-309766号公報では、天然ゴムラテックスにチウラム促進剤及びスルフェンイミド促進剤を配合したテニスボールカバー用接着剤が、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭57-179265号公報
【文献】特開昭57-179266号公報
【文献】特開昭58-98372号公報
【文献】特開2007-167号公報
【文献】特開2000-309766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開昭57-179265号公報、特開昭57-179266号公報、特開2007-167号公報に開示された水性接着剤には、チアゾール系又はジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤が配合されている。特開2000-309766号公報で提案された接着剤では、チウラム促進剤とスルフェンイミド促進剤とが併用されている。これらの水性接着剤の硬化速度は、かなり大きい。一方、特開昭58-98372号公報で提案された接着剤には、高温分解型加硫剤としてモルホリンジスルフィドが配合されている。この水性接着剤の硬化速度は、かなり小さい。
【0010】
先に提案されたこれらの水性接着剤は、いずれも、コアの外周面にメルトン(フェルト)を接着するために用いられている。例えば、硬化速度の大きい水性接着剤を用いて、ハーフコア同士を貼り合わせた場合、その流動性が早期に低下するため、ハーフコア同士の接着面全体を十分に密着させることができない場合がある。また、水性接着剤中の水分が蒸発する前に硬化が進行するため、硬化した接着剤中に残存する水分により、接着強度が低下するという問題がある。同様に、硬化速度の小さい水性接着剤を用いた場合も、十分な接着強度が得られない場合がある。
【0011】
テニスボールのコアの形成に必要な接着強度が得られる水性接着剤は、未だ提案されていない。本発明の目的は、接着強度に優れたテニスボールのコア用水性接着剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る水性接着剤は、ゴムラテックスとスルフェンアミド系加硫促進剤とを含んでいる。
【0013】
好ましくは、この水性接着剤中の固形分をキュラストメーターにて温度150℃で測定するとき、10%トルク時間t10は3分以上15分以下であり、かつ、10%トルク時間t10の90%トルク時間t90に対する比(t10/t90)は0.60以上0.95以下である。
【0014】
好ましくは、この水性接着剤中のスルフェンアミド系加硫促進剤の量は、固形分換算で、0.05質量%以上5.0質量%以下である。好ましくは、この水性接着剤の硫黄含有量は、固形分換算で、0.5質量%以上10.0質量%以下である。
【0015】
好ましくは、このスルフェンアミド系加硫促進剤は、一般式R1-S-N(-R2)-R3で示される化合物であり、このR1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数3~20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルフェニル基、含窒素複素環基、含硫黄複素環基又は含窒素及び硫黄複素環基である。
【0016】
好ましくは、このゴムラテックスは、天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスである。
【0017】
好ましくは、この水性接着剤は、無機充填剤をさらに含む。この無機充填剤の量は、好ましくは、固形分換算で、0.1質量%以上40質量%以下である。好ましくは、この無機充填剤は、シリカ、カーボンブラック、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、ケイソウ土、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム及びアルミナからなる群から選択される1又は2以上である。
【0018】
好ましくは、この水性接着剤の固形分濃度は、3.0質量%以上70質量%以上である。好ましくは、この水性接着剤のブルックフィールド型回転粘度計を用いて23±1℃で測定される粘度が、20cps以上20,000cps以下である。好ましくは、この水性接着剤のpHは、7.0以上12.0以下である。
【0019】
本発明に係るテニスボールは、2つの半球状のハーフコアからなる中空のコアを備えている。この2つのハーフコアは、前述したいずれかの水性接着剤を用いて貼り合わせられている。
【0020】
本発明に係る水性接着剤の製造方法は、
(1)水に分散剤を添加して分散媒を調整する工程と、
(2)ゴムラテックスに配合するための複数の添加剤を、それぞれ、この分散媒に投入して混合した後、そのpHを8.0以上12.0以下に調整することにより、各添加剤のスラリーを得る工程と、
(3)得られた各添加剤のスラリーを、このゴムラテックスに添加して混合する工程と、
を含んでいる。この複数の添加剤の少なくとも1つは、スルフェンアミド系加硫促進剤である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る水性接着剤の硬化速度は、適正である。この水性接着剤によって、ハーフコア同士は十分な強度で接着される。この水性接着剤を用いて得られるコアは、耐久性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るテニスボールの一部切り欠き断面図である。
【
図2】
図2の(a)及び(b)は、
図1のテニスボールのコアの形成工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0024】
図1には、本発明の一実施形態に係るテニスボール2が示されている。このテニスボール2は、中空のコア4と、このコア4を被覆する2枚のフェルト部6と、この2枚のフェルト部6の間隙に位置するシーム部8とを有している。コア4の厚みは、通常、3mmから4mm程度である。コア4の内部には、圧縮ガスが充填されている。コア4の表面には、2枚のフェルト部6が接着剤により貼り付けられている。
【0025】
図2は、
図1のテニスボール2が有するコア4の形成工程を説明するための断面図である。
図2(a)に示される通り、このコア4の形成工程では、始めに、2つのハーフコア20が準備される。各ハーフコア20は、半球殻状であり、円環状のエッジ部21を有している。次に、各ハーフコア20のエッジ部21に、本発明に係る水性接着剤が塗布され、一方のハーフコア20に、塩化ナトリウム及び亜硝酸ナトリウムのタブレット並びに水が投入される。その後、
図2(b)に示される通り、2つのハーフコア20が、互いのエッジ部21で貼り合わされる。この2つのハーフコア20からなる球体が、所定の金型に投入され、加熱及び加圧されることにより、中空のコア4が形成される。
【0026】
本発明に係る水性接着剤は、ゴムラテックスとスルフェンアミド系加硫促進剤とを含んでいる。コア4の形成工程において、エッジ部21に塗布されたこの接着剤が加熱及び加圧されるとき、接着剤中の揮発成分(主として水分)が除去されるとともに、ゴムラテックスに由来するゴム成分の架橋反応が進行する。このゴム成分の架橋反応により接着剤が硬化して、2つのハーフコア20が接合されることにより、中空のコア4が形成される。
【0027】
この水性接着剤では、ゴム成分の架橋反応の進行により流動性が低下するまでの時間が適正である。この水性接着剤は、ハーフコア20同士が貼り合わせられた後、硬化するまでの間に、各エッジ部21に存在する微細な空隙に流入しうる。これにより、ハーフコア20同士の密着性が向上する。また、アンカー効果によって接着強度の向上も達成される。さらに、この水性接着剤では、硬化するまでの間に揮発成分(水分)が十分に除去され、その後速やかに硬化する。この水性接着剤を用いて得られるコア4では、揮発成分(水分)の残存による接着強度の低下が生じない。
【0028】
好ましくは、この水性接着剤中の固形分を、JIS-6300-2「未加硫ゴム-物理特性-第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に記載の方法に準拠して、キュラストメーターにて温度150℃で測定するとき、10%トルク時間t10は、3分以上15分以下であり、かつ、10%トルク時間t10の90%トルク時間t90に対する比(t10/t90)は0.60以上0.95以下である。ここで、t10は、トルクの最小値から最大値の10%に到達するまでの時間であり、t90は、トルクの最小値から最大値の90%に到達するまでの時間である。t10及びt90の測定方法の詳細は、実施例にて後述する。
【0029】
10%トルク時間t10が3分以上15分以下である水性接着剤は、架橋反応の進行により流動性が低下する前に、各エッジ部21に存在する微細な空隙に流入しうる。これにより、ハーフコア20同士の密着性が向上し、アンカー効果によって大きな接着強度が達成される。また、この水性接着剤によれば、硬化するまでの間に揮発成分(水分)が十分に除去されるため、揮発成分(水分)の残存による接着強度の低下が生じない。
【0030】
密着性及び接着強度の観点から、10%トルク時間t10は、3.1分以上が好ましく、3.2分以上がより好ましく、3.3分以上が特に好ましい。製造効率の観点から、好ましい10%トルク時間t10は、10分以下である。
【0031】
比(t10/t90)が0.60以上0.95以下である水性接着剤では、ハーフコア20同士が密着し、揮発成分(水分)が除去された後、速やかに硬化が進行する。この水性接着剤では、短時間で大きな接着強度が達成される。
【0032】
接着強度の観点から、比(t10/t90)は、0.65以上が好ましく、0.67以上がより好ましく、0.70以上が特に好ましい。好ましい比(t10/t90)は0.90以下である。
【0033】
適正な硬化速度及び接着強度が得られる限り、水性接着剤に含まれるゴムラテックスの種類は特に限定されない。本願明細書において、ゴムラテックスとは、ゴム成分が水又は水溶液に微粒子状に分散したエマルジョンを意味する。天然ゴムラテックス及び/又は合成ゴムラテックスが好適に用いられる。
【0034】
合成ゴムラテックス中の合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム又はこれらの変性物が例示される。変性物の例としては、カルボキシル基、アミン基、水酸基等の官能基変性ゴムが挙げられる。接着強度の観点から、天然ゴムラテックス、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム及びイソプレンゴムからなる群から選択される1又は2以上が好ましく、少なくとも天然ゴムラテックスを含んで選択される1又は2以上がより好ましく、天然ゴムラテックスが特に好ましい。流動性及び密着性の観点から、より好ましい天然ゴムラテックスは、解重合天然ゴムラテックスである。
【0035】
ゴムラテックスの固形分濃度は、後述する各種添加剤のスラリーとの混合性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。接着強度の観点から、ゴムラテックスの固形分濃度は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
【0036】
本発明に係る水性接着剤には、必須の添加剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤が配合される。スルフェンアミド系加硫促進剤は、ゴムの加硫反応において、初期には反応遅延剤として作用し、所定時間経過後には反応促進剤として作用する。このスルフェンアミド系加硫促進剤は、ハーフコア20同士の接着初期における流動性の維持と、所定時間後の大きな硬化速度とに寄与しうる。
【0037】
スルフェンアミド系加硫促進剤の好適な一例は、一般式R1-S-N(-R2)-R3で示される化合物である。この一般式において、R1、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数3~20の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルキルエーテル基、アルキルフェニル基、含窒素複素環基、含硫黄複素環基又は含窒素及び硫黄複素環基である。
【0038】
このような化合物の具体例として、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-エチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等が挙げられる。N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド及びN-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドからなる群から選択される1又は2以上がより好ましい。
【0039】
接着強度の観点から、水性接着剤に含まれるスルフェンアミド系加硫促進剤の量は、固形分換算で、0.05質量部以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。密着性の観点から、水性接着剤に含まれるスルフェンアミド系加硫促進剤の量は、固形分換算で、5.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が特に好ましい。
【0040】
本発明の効果が阻害されない範囲で、水性接着剤が、スルフェンアミド系加硫促進剤以外に、他の加硫促進剤を含んでもよい。併用しうる加硫促進剤としては、例えば、グアニジン系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、モルホリン系加硫促進剤、アルデヒド-アミン系加硫促進剤、アルデヒド-アンモニア系加硫促進剤、イミダゾリン系加硫促進剤、キサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。
【0041】
スルフェンアミド系加硫促進剤と他の加硫促進剤とを併用する場合、全加硫促進剤中、スルフェンアミド系加硫促進剤の割合が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0042】
水性接着剤が、必要に応じて、加硫剤を含んでもよい。好適な加硫剤として、例えば、粉末硫黄、不溶性硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄等の硫黄;モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド等の硫黄化合物が挙げられる。水性接着剤中の加硫剤の量は特に限定されないが、接着強度の観点から、固形分換算で、0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましい。硬化速度の適正化の観点から、加硫剤の量は、固形分換算で、10質量%以下が好ましい。
【0043】
本発明の効果が得られる限り、水性接着剤に、無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤の例としては、シリカ、カーボンブラック、タルク、マイカ、ケイソウ土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ビスマス、アルミナ等が挙げられる。2種以上の無機充填剤が併用されてもよい。好ましい無機充填剤は、シリカ、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選択される1又は2以上である。水性接着剤中の無機充填剤の量は特に限定されないが、エッジ部21への付着性の観点から、固形分換算で、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、10質量%以上が特に好ましい。加熱時の流動性の観点から、無機充填剤の量は、固形分換算で、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。
【0044】
水性接着剤は、必要に応じて、加硫促進助剤を含みうる。好適な加硫促進助剤としては、ステアリン酸等の脂肪酸、亜鉛華等の金属酸化物、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩が例示される。本発明の効果が阻害されない限り、水性接着剤が、さらに、増粘剤、粘着性付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の添加剤を含んでもよい。
【0045】
本発明の効果が得られる限り、水性接着剤の固形分濃度は特に限定されない。接着強度の観点から、その固形分濃度は、3.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上が特に好ましい。流動性の観点から、その固形分濃度は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0046】
好ましくは、この水性接着剤は硫黄を含んでいる。この硫黄は、単体としての硫黄であってもよく、硫黄化合物を構成する硫黄原子でもよい。この硫黄が、加硫剤又は加硫促進剤に由来するものであってもよい。水性接着剤に含まれる硫黄は、架橋構造の形成に寄与しうる。硬化後の架橋密度が大きい接着剤によって、ハーフコア20同士が強度に接着される。この観点から、水性接着剤中の硫黄含有量は、固形分換算で、0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。硬化速度の適正化の観点から、好ましい硫黄含有量は、10.0質量%以下である。本願明細書において、水性接着剤中の硫黄含有量は、第17改正日本薬局方、一般試験法に記載の酸素フラスコ燃焼法に準じて測定される硫黄元素の量である。
【0047】
エッジ部21への付着性の観点から、水性接着剤の粘度は、20cps以上が好ましく、100cps以上がより好ましく、200cps以上が特に好ましい。塗布性及び流動性の観点から、水性接着剤の粘度は、20,000cps以下が好ましく、10,000cps以下がより好ましく、6,000cps以下が特に好ましい。この水性接着剤の粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計を用いて、測定温度23±1℃で測定される。測定方法の詳細は、実施例にて後述する。
【0048】
ラテックスの安定性の観点から、水性接着剤のpHは、好ましくは7.0以上12.0以下、より好ましくは8.0以上11.5以下、特に好ましくは9.5以上10.5以下に調整される。pHの測定方法は、実施例にて後述する。
【0049】
本発明に係る水性接着剤の製造方法は、
(1)水に分散剤を添加して分散媒を調整する工程、
(2)ゴムラテックスに配合するための複数の添加剤を、それぞれ、この分散媒に投入して混合した後、そのpHを8.0以上12.0以下に調整することにより、各添加剤のスラリーを得る工程、
及び
(3)得られた各添加剤のスラリーを、このゴムラテックスに添加して混合する工程、
を含んでいる。
【0050】
本発明において、ゴムラテックスに配合する複数の添加剤の少なくとも一つは、スルフェンアミド系加硫促進剤である。換言すれば、この製造方法は、ゴムラテックスに、スルフェンアミド系加硫促進剤のスラリーを添加して混合する工程を含んでいる。本発明の効果が阻害されない限り、ゴムラテックスにスルフェンアミド系加硫促進剤以外の加硫促進剤のスラリーを配合する工程を有してもよい。ゴムラテックスに配合する他の添加剤として、加硫剤、加硫促進助剤、無機充填剤、増粘剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等が例示される。
【0051】
分散媒は、複数の添加剤のそれぞれを分散するスラリーの作製に用いられる。分散剤の種類は特に限定されず、添加剤の種類及びスラリーの濃度に応じて、アニオン型、ノニオン型及びカチオン型の界面活性剤から適宜選択されて用いられる。アニオン型界面活性剤としては、炭素数8~20個のアルキルスルホネート、アルキルアリールサルフェート、ナフタレンスルホン酸ナトリウム-ホルムアルデヒド縮合物、ロジン酸のアルカリ金属塩等が例示される。ノニオン型界面活性剤の例としては、芳香族ポリグリコールエーテル、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート等が挙げられる。カチオン型界面活性剤としては、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド等が例示される。アニオン型又はノニオン型の界面活性剤が好ましい。2種以上の界面活性剤を併用してもよい。
【0052】
スラリーの安定性の観点から、分散媒中の分散剤の濃度は0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。得られる接着剤の接着強度の観点から、分散媒中の分散剤の濃度は20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0053】
ラテックスの分散安定性の観点から、好ましくは、この製造方法は、分散媒のpHを8.0以上12.0以下に調整する工程をさらに含んでいる。例えば、精製水に分散剤を溶解した後、所定のpHが得られるまでアンモニア水等を添加することにより分散媒を調製してもよい。
【0054】
この製造方法では、複数の添加剤が、それぞれ、所定の固形分濃度となるように分散媒に投入され、そのpHが8.0以上12.0以下に調整された後、ボールミル等で均一に混合されることにより、各添加剤のスラリーが得られる。その後、得られた各添加剤のスラリーが、ゴムラテックスに添加されて均一に混合されることにより、本発明に係る水性接着剤が製造される。この製造方法が、ゴムラテックスに各添加剤のスラリーを配合した後、水等の希釈剤を添加してその固形分濃度を調整する工程をさらに含んでもよい。
【0055】
以下、この実施形態におけるテニスボール2が備えるコア4(ハーフコア20)の好ましい材料について順次説明するが、コア4(ハーフコア20)の材料は、本発明の目的が達成される範囲内で変更されうる。
【0056】
コア4は、ゴム組成物が架橋されることによって形成される。好適な基材ゴムとしては、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、イソブチレン-イソプレン共重合体及びアクリルゴムが例示される。より好ましい基材ゴムは、天然ゴム及びポリブタジエンである。基材ゴムとして、2種以上が併用されてもよい。
【0057】
天然ゴムとポリブタジエンとが併用される場合、打球感の観点から、天然ゴムの配合量Nに対するポリブタジエンゴムの配合量Bの質量比B/Nは、1.4以下が好ましく、1.0以下がより好ましく、0.4以下が特に好ましい。基材ゴムの全量が、天然ゴムであってもよい。
【0058】
コア4のゴム組成物が、加硫剤及び加硫促進剤を含んでもよい。水性接着剤に関して前述された加硫剤及び加硫促進剤が適宜選択されて用いられ得る。コア4のゴム組成物における加硫剤及び加硫促進剤の量は、その種類に応じて調整される。反発性能の観点から、基材ゴム100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。加硫剤の配合量は5.0質量部以下が好ましい。反発性能の観点から、加硫促進剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましい。加硫促進剤の配合量は、6.0質量部以下が好ましい。
【0059】
コア4のゴム組成物が、さらに充填剤を含んでもよい。好適な充填剤としては、タルク、カオリンクレー、グラファイト、グラフェン、ベントナイト、ハロサイト、モンモリロナイト、マイカ、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト、バーミキュライト、イライト、アロフェン、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等が例示される。タルク、カオリンクレー、グラファイト及びグラフェンが好ましい。2種以上が併用されてもよい。
【0060】
コア4のゴム組成物における充填剤の量は、その種類によって適宜調整されるが、反発性能及び耐久性の観点から、基材ゴム100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が特に好ましい。打球感の観点から、その量は、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下が特に好ましい。
【0061】
本発明の効果を阻害しない範囲で、コア4のゴム組成物が、加硫助剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、軟化剤、加工助剤、着色剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
【0062】
本発明の目的が達成される限り、このゴム組成物を製造する方法は、特に限定されない。例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等既知の混練機に、基材ゴムと、適宜選択された添加剤とを投入して混練して得られる混練物を加熱及び加圧することにより、このゴム組成物が製造されてもよい。混練条件及び加硫条件は、ゴム組成物の配合により選択される。好ましい混練温度は50℃以上180℃以下である。好ましい加硫温度は、140℃以上180℃以下である。加硫時間は2分以上60分以下が好ましい。
【0063】
このゴム組成物を用いて得られるコア4を備えたテニスボール2を製造する方法も、特に限定されない。例えば、予めダンベル状に裁断され、その裏面に接着剤が塗布され、その断面にシーム糊が付着させられたフェルト部6を、コア4の表面に貼り合わせることにより、テニスボール2が得られる。フェルト部6を貼り合わせる前に、コア4の表面に接着剤が塗布されてもよい。フェルト部6の貼り合わせ及びシーム糊には、既知の接着剤が適宜選択されて用いられ得る。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0065】
[実施例1]
始めに、100質量部の精製水に、1.6質量部のナフタレンスルホン酸ナトリウム-ホルムアルデヒド縮合物(BASF社製の商品名「タモールNN9104」)及び0.6質量部の芳香族ポリグリコールエーテル(LANXCESS社製の商品名「エマルビンWA」)を溶解し、市販のアンモニア水(28質量%)でpH8.0以上12.0以下に調整することにより、分散媒を準備した。次に、酸化チタン(石原産業社製の商品名「A220」)、酸化亜鉛(正同化学社製の商品名「酸化亜鉛2種」)、イオウ(三新化学社製の商品名「サンフェルEX」)及び加硫促進剤1(三新化学社製の商品名「サンセラーCM」)のそれぞれに、前述の分散媒を添加し、ボールミルで8時間以上撹拌した後、前述のアンモニア水を用いてpH8.0以上12.0以下に調整することにより、酸化チタンのスラリー(固形分濃度40質量%)、酸化亜鉛のスラリー(固形分濃度40質量%)、イオウ(20%オイル含有)のスラリー(固形分濃度40質量%)及び加硫促進剤1のスラリー(固形分濃度20質量%)を得た。最後に、100質量部の天然ゴムラテックス(野村貿易社の商品名「HYTEX-HA」、固形分濃度60質量%)に、38質量部の酸化チタンスラリー、8質量部の酸化亜鉛スラリー、2質量部のイオウスラリー及び2質量部の加硫促進剤1のスラリーを添加して均一に混合することにより、実施例1の水性接着剤を製造した。
【0066】
[実施例2-19及び比較例1-6]
ラテックス、スラリー及び精製水の配合量を下表1-5に示されるものに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2-19及び比較例1-6の水性接着剤を製造した。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
表1-5に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
天然ゴム:野村貿易社の天然ゴムラテックス、商品名「HYTEX-HA」(固形分濃度60質量%)
SBゴム:JSR社製のスチレン-ブタジエンゴムラテックス(固形分濃度50質量%)
DPL:レヂテックス社の解重合天然ゴムラテックス、商品名「DPL-51」(固形分濃度50質量%)
酸化チタン:石原産業社製の商品名「A220」
シリカ:東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールVN3」
酸化亜鉛:正同化学社製の商品名「酸化亜鉛2種」
イオウ:三新化学社製の不溶性硫黄、商品名「サンフェルEX」、20%オイル含有
加硫促進剤1:三新化学社製のN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、商品名「サンセラーCM」
加硫促進剤2:三新化学社製のN-(t-ブチル)-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(TBBS)、商品名「サンセラーNS」
加硫促進剤3:三新化学社製のN-オキソジエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(MBS)、商品名「サンセラーNOB」
加硫促進剤4:三新化学社製の4,4-ジチオモルホリン、商品名「サンフェルR」
加硫促進剤5:三新化学社製のジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、商品名「サンセラーEZ」
加硫促進剤6:三新化学社製のジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、商品名「サンセラーTRA」
加硫促進剤7:東京化成社製の無水フタル酸
加硫促進剤8:三新化学社製のジメチルジチオカルバミン酸鉄(III)、商品名「サンセラーTT-FE」
【0073】
[粘度測定]
ブルックフィールド型回転粘度計(東機産業社製のTVC-10型粘度計)を用いて、JIS Z8803「液体の粘度測定方法」の記載に準じて、実施例1-19及び比較例1-6の水性接着剤の粘度を測定した。温度23±1℃、回転数20rpmにて3回測定した時の平均値が粘度(cps)として下表6-10に示されている。
【0074】
[pH測定]
pHメーター(東興化学研究所製のTPX-999)を用いて、温度23℃にて実施例1-19及び比較例1-6の水性接着剤のpHを測定した。各3回測定したときの平均値がpHとして下表6-10に示されている。
【0075】
[トルク時間t10及びt90の測定]
(試験片の作製)
始めに、実施例1の水性接着剤に含まれる固形分の組成を求めた。この固形分の組成に従って、天然ゴム(Astlett Rubber社の商品名「SMR CV60」)、前述の酸化チタン及び前述の酸化亜鉛をバンバリーミキサーに投入して、温度90℃で5分間混練した。その後、得られた混練物に前述のイオウ及び前述の加硫促進剤1を添加して、オープンロールを用いて、温度50℃で3分間混練することにより、加硫試験に供する試験片を作製した。同様にして、実施例2-18及び比較例1-6の水性接着剤に含まれる固形分の組成と同じ組成の試験片をそれぞれ作製した。なお、実施例18に関する試験片の作製には、固形のSBゴム(日本ゼオン社製の商品名「Nipol 1502」)を使用した。
【0076】
実施例19に関する試験片は、以下の手順により作製した。始めに、実施例19の水性接着剤に含まれる固形分の組成を求めた。この固形分組成に従って、天然ゴム(Astlett Rubber社の商品名「SMR CV60」)、前述の酸化チタン及び前述の酸化亜鉛をバンバリーミキサーに投入し、温度90℃で5分間混練した後、オープンロールにて、温度50℃で4時間混練した。その後、得られた混練物に前述のイオウ及び前述の加硫促進剤1を添加して、オープンロールを用いて、温度50℃で3分間混練することにより、加硫試験に供する試験片を得た。
【0077】
なお、得られた混練物のムーニー粘度を、後述する方法により測定した結果、17.5Mであった。これに対し、実施例19と同組成で、イオウ及び加硫促進剤1の添加前の混練条件だけが異なる実施例2のムーニー粘度は、84.3Mであった。このことから、実施例19に関する試験片では、オープンロールによる50℃で4時間の混練により、天然ゴムが低分子量化(解重合)され、実施例19で用いた解重合天然ゴムラテックスと同等のゴム成分が形成されたことを確認した。
【0078】
JIS K6300-2「未加硫ゴム-物理特性-第2部:振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠して、キュラストメーター(JSRトレーディング社のキュラストメーター7)を使用して、測定温度150℃、60分間、振幅角±3°、振幅数100cpmで加硫試験をおこない、各試験片について加硫速度曲線を得た。得られた加硫速度曲線から、10%トルク時間t10及び90%トルク時間t90を求め、比(t10/t90)を算出した。得られた結果が下表6-10に示されている。比較例1に対応する試験片では、60分後もトルクの最大値に到達しなかったため、試験条件を変更して加硫試験をおこなった。
【0079】
[ムーニー粘度測定]
実施例2及び19の固形分組成に従って、前述の天然ゴム、酸化チタン及び酸化亜鉛をバンバリーミキサーに投入し、それぞれ、前述した混練条件で混練した後、イオウ及び加硫促進剤添加前の各混練物のムーニー粘度(単位M)を、JIS K6300-1「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度及びスコーチタイムの求め方」に準拠して測定した。測定には、ムーニービスコメーター(島津製作所社のSMV-301)を使用した。測定温度100℃、予熱約1分間、測定4分間で測定をおこなった。
【0080】
[接着力]
(試験用コアの作製)
100質量部の天然ゴム(Astlett Rubber社の商品名「SMR CV60」)、15質量部のカーボンブラック(キャボットジャパン社製の商品名「N330」)、4質量部のシリカ(東ソー・シリカ社製の商品名「ニプシールVN3」)、30質量部のカオリンクレー(イメリス社製の商品名「ECKALITE 120」)、17質量部の炭酸マグネシウム(神島化学工業社製の商品名「金星」)及び5質量部の酸化亜鉛(正同化学社製の商品名「酸化亜鉛2種」)をバンバリーミキサーに投入して、90℃で5分間混練した。得られた混練物に、0.5質量部のサリチル酸(東京化成社製)、2.3質量部の1,3-ジフェニルグアニジン(三新化学社製の商品名「サンセラーD」)及び3.5質量部のイオウ(前述の商品名「サンフェルEX」)を添加して、オープンロールを用いて50℃で3分間混練することによりゴム組成物を得た。
【0081】
得られたゴム組成物を金型に投入して、140℃で4分間プレスすることにより、2枚のハーフコアを形成した。各ハーフコアのエッジ部を紙やすり(#100)で処理した後、実施例1の水性接着剤をエッジ部に塗布し、室温下で2時間以上乾燥した。その後、一方のハーフコアに、0.5mlの水を投入した後、他方のハーフコアと貼り合わせて、150℃で6分間加熱することにより、試験用コア1を作製した。同様に、実施例2-19及び比較例1-6の水性接着剤を用いて、試験用コア2-19及び比較試験用コア1-6を作製した。
【0082】
(引張試験)
試験用コア1-19及び比較試験用コア1-6から、各10枚のJIS3号ダンベル片(厚さ2mm)を試験片として切り出した。このとき、2枚のハーフコアの接着面がダンベル片の中央部に位置するように、各試験片を切り出した。
【0083】
引張試験機(島津製作所製の商品名「オートグラフAGS-X」)を用いて、引張速度500mm/分で、各試験片の引張試験をおこない、破断後の試験片の断面を観察した。各10枚の試験片について、基材破壊(接着面以外で破断)したものを「良好」とし、界面破壊(いずれかのエッジ部で破断)又は凝集破壊(接着層で破断)したものを「不良」として判定し、以下の評価基準により接着力(接着強度)を評価した。評価結果が、下表6-10に示されている。
A:「接着良好」と判定した試験片が9枚以上
B:「接着良好」と判定した試験片が8枚
C:「接着良好」と判定した試験片が7枚
D:「接着良好」と判定した試験片が6枚以下
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
表6-10に示されるように、実施例の水性接着剤は、比較例の水性接着剤に比べて評価が高い。なお、比較例4及び比較例6に関しては、各加硫促進剤に加えて、さらにイオウを配合した場合も、適正な硬化速度が得られず、良好な接着力が得られなかった。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明された水性接着剤は、ゴム組成物を用いて得られる種々の中空ボールの製造にも適用されうる。
【符号の説明】
【0091】
2・・・テニスボール
4・・・コア
6・・・フェルト部
8・・・シーム部
20・・・ハーフコア
21・・・エッジ部