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  • 特許-グリセルアルデヒド代謝促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】グリセルアルデヒド代謝促進剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20230905BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230905BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230905BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230905BHJP
   A23C 9/13 20060101ALN20230905BHJP
   A23C 9/123 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/045
A61P3/00
A23L2/00 F
A23L2/52
A23C9/13
A23C9/123
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019164147
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021040514
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】上岡 勇輝
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-189344(JP,A)
【文献】特開2007-063203(JP,A)
【文献】特開2011-231095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリコサノールを含有するグリセルアルデヒド代謝促進剤。
【請求項2】
請求項1記載のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する、グリセルアルデヒド代謝促進用飲食物組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリコサノールを含有するグリセルアルデヒド代謝促進剤および、グリセルアルデヒドの代謝促進剤を含有する飲食物に関する。グリセルアルデヒドの代謝を促進することで生活習慣病の予防ができる。
【背景技術】
【0002】
ブドウ糖などの還元糖の代謝物とたんぱく質から終末糖化産物(AGEs:Advanced Glycation End Products)ができる反応をたんぱく質の糖化という。AGEsはたんぱく質代謝によって血中に遊離することで、通常は腎臓で対外へ排出されるが、生体内の組織たんぱく質、特に寿命の長いたんぱく質が糖化を受けるとAGEsが長期にわたり体内にとどまることになる。このため加齢や生活習慣病によりAGEs生体内に蓄積されると、肌の弾力の低下、動脈硬化、骨粗しょう症、非アルコール性脂肪性肝疾患、認知症の原因になるとも考えられている。そのため、AGEs及び、その中間体の産生を抑制することにより各疾病リスク軽減や老化の抑制につながることが期待されている。
【0003】
AGEsはさまざまな代謝経路で生成されることが明らかになっているが、なかでも糖代謝中間体のグリセルアルデヒドに由来するAGEs(Glycer-AGEs)は、他の経路から生成してくるAGEsに比べて強い細胞障害性を有すると指摘されている。Glycer-AGEsは、高血圧症、認知症、悪性腫瘍、非アルコール性脂肪性肝炎などにも関与することが示されており、Glycer-AGEsの生成や蓄積を抑えることが生活習慣病の発症・進展の予防および治療に重要である(非特許文献1)。
このような考えから、多くの糖代謝中間体(3-デオキシグルコソン、グリオキサール、メチルグリオキサールに着目し、それらの生成を阻害することを目的とする、たんぱく質の抗糖化組成物が開示されている(特許文献1)。
【0004】
ポリコサノールとは炭素数24から36の高級脂肪族アルコール組成物の総称であり、天然ワックスを原材料として得ることができる。高級脂肪族アルコール組成物には高コレステロール症の改善効果(特許文献2)、アセトアルデヒド代謝促進効果(特許文献3)、糖尿病改善効果(特許文献4)が報告されている。糖尿病改善効果においても、血糖値、インスリン抵抗性の改善についての記載はあるが、グリセルアルデヒドの代謝に関する報告はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特平8-173113号公報
【文献】特開2006-282655号公報
【文献】特開2010-189344号公報
【文献】特開2007-063203号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】日本薬理学雑誌139巻第5号、193-197ページ、2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、糖代謝中間体としてグリセルアルデヒドに着目し、細胞内へのグリセルアルデヒドが蓄積するとたんぱく質と反応しGlycer-AGEsの生成を促すことから、グリセルアルデヒドの代謝を促進させる物質について検討した。
すなわち、本発明の課題は、グリセルアルデヒド代謝促進剤およびグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する飲食物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、グリセルアルデヒドの代謝を促進できる物質の検討を行ったところ、ポリコサノールにグリセルアルデヒドの代謝促進作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、次の[1]~[2]に関する。
[1]ポリコサノールを含有するグリセルアルデヒド代謝促進剤。
[2]上記[1]に記載のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する飲食物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリセルアルデヒド代謝促進剤およびグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する飲食物を提供することができる。
また、本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤によれば、細胞障害性を有すると指摘されているGlycer-AGEs産生の原因物質であるグリセルアルデヒドの代謝を促進するため、体内でのGlycer-AGEsの産生又は蓄積を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のグリセルアルデヒド代謝の促進効果をトリオキナーゼの活性より示した図である。ポリコサノールの添加により、トリオキナーゼの活性が高まっている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤は、炭素数24~36の高級脂肪族アルコールを含むポリコサノールを有効成分として含有する。
【0012】
[ポリコサノール]
本発明ポリコサノールに含まれる高級脂肪族アルコールとしては、通常炭素数24~36の1価および2価の飽和アルコールが挙げられる。具体的には、たとえば、テトラコサノール(C24)、ヘキサコサノール(C26)、オクタコサノール(C28)、トリアコンタノール(30)、ドトリアコンタノール(C32)、テトラトリアコンタノール(C34)、ヘキサトリアコンタノール(C36)などが挙げられる。これら高級脂肪族アルコールは単独物でも、複数含む組成物でもいずれでもかまわない。
本発明のポリコサノールは、天然ワックスより分離精製したものが好ましく用いられる。天然ワックスとしては、炭素数24~36の高級脂肪族アルコールを構成成分として含む天然ワックスであれば特に限定されないが、好ましくは高含量の高級脂肪族アルコールを構成成分として有するワックスが挙げられる。たとえば、植物起源のワックスとしては米ぬかワックス(ライスワックス)、さとうきびワックス、カルナウバワックス、小麦ワックスなどが挙げられ、動物起源のワックスとしては、蜜蝋、マッコウ鯨油、羊毛脂などが挙げられ、これらから選ばれた少なくとも1種を用いることができる。米ぬかワックス(ライスワックス)、さとうきびワックス、カルナウバワックス、蜜蝋は一般的に流通しており、入手が容易であるため好ましい。また、米ぬかワックスおよびさとうきびワックスは、米、米油、砂糖などの生産において副産物として大量に発生するため、安価であり特に好ましい。天然由来の高級脂肪族アルコールは、そのままで本発明に使用できるので、実施に適している。
【0013】
ポリコサノールは、天然ワックスの加水分解反応等により得ることができる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。分解生成物である高級脂肪族アルコールの一般的な生成方法は、ヘキサン、アセトン、エタノール等の有機溶剤、または中鎖トリグリセライド等の食品素材を用いて抽出する方法が挙げられるが、本発明にかかるポリコサノールの抽出はいずれでもよい。また、高級脂肪族アルコールの分子内の水酸基に、一度、エチル基、メチル基等を修飾し、蒸留により分離した後、修飾基を除去する方法もあるが、本発明にかかるポリコサノールは、いずれの方法で得られたものでもよい。
【0014】
[グリセルアルデヒドの代謝促進]
グリセルアルデヒドは生体内では解糖系の中間体として生成するグリセルアルデヒド-3-リン酸が、非酵素的な脱リン酸化を受けて生成されると考えられている。グリセルアルデヒドは、分子内にリン酸基を有しないため、蓄積すると細胞膜を通過して細胞外に輸送、漏出し、細胞外のたんぱく質と非酵素的に反応してGlycer-AGEsを生成することになる。Glycer-AGEsの生成を抑制するためには、グリセルアルデヒドが体内に多量に蓄積しないことが重要となる。
トリオキナーゼは、細胞内でのグリセルアルデヒドとグリセルアルデヒド―3リン酸との平衡に係わる酵素であり、この酵素の活性を高めることで、グリセルアルデヒドの代謝を促進し、グリセルアルデヒド―3リン酸に変換することができる。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤は、トリオキナーゼによるグリセルアルデヒドのリン酸化の活性を高めることができるものである。
【0015】
上述したが、Glycer-AGEsの生成と係わる生活習慣病としては、加齢による肌の弾力の低下、動脈硬化、骨粗しょう症、非アルコール性脂肪性肝疾患、認知症、悪性腫瘍を挙げることができる。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤は、これらの生活習慣病の発症・進展の予防および治療、特に予防において使用することができる。
【0016】
本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤は、定法にしたがって製剤化することができるが、経口用製剤とすることが好ましい。剤形はとしては、固体製剤であってもよく、あるいは液体製剤であってもよい。たとえば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル、乳剤、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等が挙げられる。
高級脂肪族アルコールは、一般に水に溶解し難いので、これを乳化して本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤に使用してもかまわない。乳化剤としては、特に限定はないが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなどを使用することができる。
また、製剤化に際し必要に応じて、賦形剤等の添加剤を加えることができる。たとえば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、界面活性剤、増粘剤、コーティング剤、pH調整剤、抗酸化剤、甘味料、保存料、着色料、香料等を単独、若しくはこれらを目的によって組み合わせて使用することができる。添加剤は特に限定されないが、たとえば、乳糖、結晶セルロース、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、グリセリン脂肪酸エステル、キサンタンガム、セラック、クエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸等を添加してもよい。添加剤の含有量は特に限定されず、添加剤の総量として、たとえば99.99~10質量%、好ましくは99.9~30質量%、より好ましくは99~50質量%である。
【0017】
また、本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤は、飲食物に添加してもよく、飲食物の形態としては、液状、ゲル状、粉末状、あるいは固形状等の飲食物が挙げられる。具体例としては、飲料(茶、スープ等)、調味料(ドレッシング、味噌等)、畜肉魚肉加工食品(ハム、ソーセージ等)、パン、菓子類(ゼリー、アイスクリーム等)、乳製品(ヨーグルト、クリーム等)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0018】
他の生理活性物質または健康食品素材と組み合わせてもかまわない。このような物質としては、例えば、青汁、健康酢、ローヤルゼリー、プロポリス、ブルーベリー、イソフラボン、にんにく、ウコン、酵素、イチョウ葉、マカ、コラーゲン、グルコサミン、カルニチン、CoQ10、ビタミン、ミネラルなどが挙げられる。
【0019】
本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤の有効成分であるポリコサノールは、天然物由来の食品としてサプリメント等で広く用いられている。この点から、本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤の摂取量は厳しく制限されるものではないと考えられるが、概ね、下限は目的に応じた効果を発揮しうる最低量を、上限は摂取のしやすさ、経済性等の観点から実際的な量を基準とし、通常、成人1日あたり2mg~5g、好ましくは10mg~1gを摂取すればよい。摂取期間は長期間の方が好ましく、1週間以上、好ましくは1ヶ月以上、さらに好ましくは3ヶ月以上継続的に摂取することが望まれる。
【実施例
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[試験試料]
試験試料は米ぬか由来のポリコサノールである「コメコサノール(商品名、日油株式会社製)」を用いた。試験に使用したコメコサノールはポリコサノール(高級脂肪族アルコール)を80質量%以上含有するものであり、組成を表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
[細胞株および培養]
ブタ腎臓細胞株LLC-PK1を用いてグリセルアルデヒド代謝測定試験を行った。培養培地は抗生物質を含むM199培地に3%仔牛胎児血清の濃度で加えたものとした。培養条件は37℃、5%COとした。
24well Plateに細胞を播種し、コンフルエント状態まで培養後、培養液によりポリコサノールを以下に示す倍率で希釈した培地で3日間培養した。72時間培養後に培地を除去し、PBSで洗浄後、細胞を回収した。
【0023】
[ポリコサノール希釈倍率]
1)コントロール群 ポリコサノール無添加
2)ポリコサノール 15μg/ml
3)ポリコサノール 30μg/ml
4)ポリコサノール 60μg/ml
5)ポリコサノール 120μg/ml
【0024】
[グリセルアルデヒド代謝酵素の活性測定]
回収した細胞を0.5mLのLysis Buffer(10mMマレイン酸、1mM EDTA、pH5.6)に溶解してCell Lysateを調製した。96well black plateにLysate溶液、最終濃度400μMとなるようにグリセルアルデヒド及び、所定量のグリセルアルデヒド定量キット試薬(コスモ・バイオ株式会社)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、プレートリーダー(インフィニットM200 PRO、TECAN社製)で蛍光値の上昇率を測定することで、トリオキナーゼ活性を測定した。
Cell Lysate中の細胞量をDNA定量キット(コスモ・バイオ株式会社)のプロトコルに従い、DNA量を測定した。トリオキナーゼ活性をDNA量で除すことで1細胞あたりのトリオキナーゼ酵素活性を算出した。
トリオキナーゼ活性測定に使用した試薬の組成を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
[試験結果]
試験結果を図1に示す。図1のグラフの縦軸は、ポリコサノール無添加のブタ腎臓細胞のトリオキナーゼ活性を100としたときの相対値を表している。ポリコサノールを添加した細胞ではポリコサノールの濃度依存的にトリオキナーゼ活性が上昇しており、ポリコサノールがトリオキナーゼを活性化し、グリセルアルデヒド代謝を促進していることがわかった。
【0027】
(処方例)
以下に示す表3~6の処方で、ポリコサノールを含有する、錠剤、ソフトカプセル、清涼飲料水、ヨーグルトを常法に従って製造した。なお、ポリコサノールとして、表1の組成の「コメコサノール(商品名、日油株式会社製)」を使用した。
【0028】
[錠剤]
表3に記載の配合で、常法に従って錠剤を得た。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する錠剤を製造することができた。
【0029】
【表3】
【0030】
[ソフトカプセル]
表4に記載の配合で、常法に従ってソフトカプセルを得た。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有するソフトカプセルを製造することができた。
【0031】
【表4】
【0032】
[清涼飲料水]
表5に記載の配合で、常法に従って清涼飲料水を得た。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する清涼飲料水を製造することができた。
【0033】
【表5】
【0034】
[ヨーグルト]
表6に記載の配合で、常法に従ってヨーグルトを得た。本発明のグリセルアルデヒド代謝促進剤を含有するヨーグルトを製造することができた。
【0035】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、生体内において好ましくない物質であるGlycer-AGEsの生成を促すグリセルアルデヒドを有効に低減させることができ、様々な疾病リスク軽減や老化の抑制に有用なグリセルアルデヒド代謝促進剤および、グリセルアルデヒド代謝促進剤を含有する飲食物を提供するものである。

図1