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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
F04D19/04 G
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019177839
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021055588
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕章
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-520295(JP,A)
【文献】特開2001-248587(JP,A)
【文献】米国特許第01492846(US,A)
【文献】特開2014-111939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するロータと、
前記ロータに対するガス流入路と、
前記ロータにより排気されたガスを排出するガス排出路と、を備え、
ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス排出路の流路中心軸を前記平面に投影した第1投影直線、および、前記第1投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第1仮想円を仮定したときに、
前記第1仮想円は、前記第1投影直線により長い第1円弧と短い第2円弧とに2分割され、
前記ロータは、前記第1円弧の第1端点から第2端点の方向に回転しており、
前記ガス排出路の排出方向は、前記第1円弧の第1端点から前記第1投影直線に沿って前記第1仮想円の外側に向かう方向であり、
前記ガス流入路は前記ロータの内周側からガスを流入させる構成であって、
ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス流入路の流路中心軸を前記平面に投影した第3投影直線、および、前記第3投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第3仮想円を仮定したときに、
前記第3仮想円は、前記第3投影直線により長い第5円弧と短い第6円弧とに2分割され、
前記ロータの回転方向は、前記第5円弧の第1端点から第2端点の方向であって、
前記ガス流入路の流入方向は、前記第3投影直線に沿って前記第3仮想円の内側から前記第5円弧の第1端点へ向かう方向である、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
チャンバを高真空に排気する真空ポンプの一つとしてターボ分子ポンプがある(例えば、特許文献1参照)。ターボ分子ポンプにおいては、タービン翼や円筒ロータが形成されたポンプロータを高速回転させることで排気作用を発生させている。吸気口側の低圧なガスは、ポンプロータの排気作用によりより圧力の高いガスとされて、ポンプロータの排気側へと排出され、さらに、ターボ分子ポンプの排気ポートに接続されたバックポンプによりポンプ外へと排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-230087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポンプロータの排気側の圧力は混合流領域から粘性流領域に亘る圧力範囲となるので、ポンプロータから排出されるガスはポンプロータと同様に高速回転しながら排出される。そのため、高速回転しているガスをポンプロータの排気側空間からポンプ外へとスムーズに排出するためには、排気側空間から排気ポート出口までのガス流路の構造が重要になってくる。ガス流路の構造が不適切な場合には、排出するガスの流れの影響によってガス流路に生成物が過剰に堆積したり、排気側空間の圧力が高くなってポンプロータを回転駆動するモータの消費電力増加を招いたりする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様による真空ポンプは、回転するロータと、前記ロータに対するガス流入路と、前記ロータにより排気されたガスを排出するガス排出路と、を備え、ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス排出路の流路中心軸を前記平面に投影した第1投影直線、および、前記第1投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第1仮想円を仮定したときに、前記第1仮想円は、前記第1投影直線により長い第1円弧と短い第2円弧とに2分割され、前記ロータは、前記第1円弧の第1端点から第2端点の方向に回転しており、前記ガス排出路の排出方向は、前記第1円弧の第1端点から前記第1投影直線に沿って前記第1仮想円の外側に向かう方向である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、流入または排出するガスの影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施の形態の真空ポンプを示す断面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図3は、流路の中心軸の位置関係を説明する図である。
図4図4は、比較例を示す断面図である。
図5図5は、変形例1を示す断面図である。
図6図6は、図5のB1-B1断面図である。
図7図7は、図6のB2-B2断面図である。
図8図8は、変形例2を示す断面図である。
図9図9は、変形例3を示す図である。
図10図10は、図9のE矢視図である。
図11図11は、第2の実施の形態の真空ポンプを示す断面図である。
図12図12は、図11のC1-C1断面図である。
図13図13は、図11のC2-C2断面図である。
図14図14は、パージガスをシャフト空間に導入する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、真空ポンプの一例を示す図であり、ターボ分子ポンプ1の断面図である。複数の回転翼段2Aおよびロータ円筒部2Bを備えるポンプロータ2は、磁気軸受11a,11b,11cによって磁気浮上支持されるシャフト5に締結されている。シャフト5はモータ12によって回転駆動される。なお、磁気軸受11a~11cが作動していない状態では、シャフト5はメカニカルベアリング3a,3bによって支持される。
【0009】
ポンプロータ2の軸方向上下に並んだ複数の回転翼段2Aに対して、複数の固定翼段4Aが交互に配設されている。複数の回転翼段2Aおよび複数の固定翼段4Aにより、ターボ分子ポンプ1のタービン翼段が構成される。固定翼段4Aの後段(図示下方)には、ロータ円筒部2Bと共にドラッグポンプ段を構成するネジステータ4Bが設けられている。
【0010】
メカニカルベアリング3a,3b、磁気軸受11a~11cおよびモータ12は、ベース6に設けられている。ベース6には、ロータ円筒部2Bおよびネジステータ4Bの下端側に排気側空間600が形成されている。ベース6に固定され排気ポート7およびパージポート8は、流路62,63を介して排気側空間600に連通している。排気ポート7には流路62に連通する流路71が形成され、パージポート8には流路63と連通する流路81が形成されている。
【0011】
ターボ分子ポンプ1の吸気口1aから流入したガス分子は、破線矢印R1のような経路で排気側空間600へ排気される。図示していないが、排気ポート7にはバックポンプが接続され、排気側空間600のガスは流路62,71を通ってポンプ外に排気される。大流量のガスを排気するとロータ温度が上昇し、特にロータ円筒部2Bにおける温度上昇が顕著になる。その場合、ロータ円筒部2Bの温度上昇を抑えるために、パージポート8から冷却用のガス(例えば、窒素ガス)を排気側空間600に導入することがある。
【0012】
図2は、図1のA-A断面図である。図2では、断面平面とポンプロータ2のロータ中心軸J0(図1参照)とが交わる点を原点Oとしてxy軸を表示した。また、y軸は、ベース6に形成された流路62,63の中心軸J1,J2に対して平行となるように設定した。ロータ円筒部2Bの断面は、中心部分のベース6を隙間を介して囲むようなリング形状となっている。図2では、ネジステータ4Bは想像線(二点鎖線)で示したが、ネジステータ4Bの断面は、ロータ円筒部2Bを隙間を介して囲むようなリング形状となっている。排気されるガスは、ロータ円筒部2Bとネジステータ4Bとの隙間を紙面の裏面側へと排気され、排気側空間600へ排出される。
【0013】
ベース6に形成された流路62,63の中心軸J1,J2は、y軸からずれている。排気ポート7の流路71は、ベース側の流路62と同軸になっている。同様に、パージポート8の流路81は、ベース側の流路63と同軸になっている。このように、本実施の形態では、ロータ円筒部2B(すなわち排気側空間600)に連通する排気用の流路62,71の中心軸J1を、ポンプロータ2の中心軸からずらして配置している。また、ネジステータ4Bの排気側(すなわち排気側空間600)に連通する吸気用の流路63,81の中心軸J2を、ポンプロータ2の中心軸からずらして配置している。
【0014】
図3は、流路62,63,71,81の中心軸の位置関係を説明する図である。ここでの位置関係とは、ロータ中心軸J0に直交する平面における位置関係を表している。なお、図1、2に示す例では、流路62,63,71,81は、中心軸J1,J2がxy平面内すなわちロータ中心軸J0に直交する平面内となるように形成されているが、本実施の形態は中心軸J1,J2がxy平面に対して斜めに交わっている場合にも適用される。中心軸J1,J2がxy平面に対して斜めに交わっている場合には、中心軸J1,J2をロータ中心軸J0に直交する平面に投影したときの投影直線J11,J12を中心軸J1,J2の代わりに用いて位置関係を表す。図3では、中心軸J1,J2がxy平面に対して斜めに交わっている場合も考慮して、投影直線J11,J12を用いて表示した。なお、図3には、後述する流路64の中心軸J4の投影直線J14についても表示している。
【0015】
図3において、二点鎖線で示す円Cはxy座標軸の原点Oを中心とする仮想円である。まず、排気ポート7に関する投影直線J11について説明する。投影直線J11は、仮想円Cと2点P1,P3で交わる。仮想円Cは、投影直線J11により長さの異なる2つの円弧P1P2P3および円弧P1P5P3に分割される。すなわち、投影直線J11の位置は、仮想円Cの中心Oからずれている。ポンプロータ2は、R2で示すように、長さの長い方の円弧P1P5P3の端点P1(第1端点)から端点P3(第2端点)の方向に回転している。排気ポート7から排出されるガスの排出方向R5は、円弧P1P5P3の端点P1から投影直線J11に沿って仮想円Cの外側に向かう方向である。
【0016】
一方、パージポート8に関する投影直線J12は、仮想円Cと2点P4,P6で交わる。仮想円Cは、投影直線J12により長さの異なる2つの円弧P4P2P6および円弧P4P5P6に分割される。すなわち、投影直線J12の位置は、仮想円Cの中心Oからずれている。ポンプロータ2は、長さの長い方の円弧P4P5P6の端点P6(第1端点)から端点P4(第2端点)の方向に回転している。パージポート8から流入するガスの流入方向R6は、投影直線J12に沿って仮想円Cの外側から円弧P4P5P6の端点P4(第2端点)へ向かう方向である。
【0017】
図2、3に示す構成の特徴を説明する前に、図4に示すような構成の比較例について説明する。比較例では、流路62,71の中心軸がy軸と一致するように排気ポート7が設けられ、流路63,81の中心軸がy軸と一致するようにパージポート8が設けられている。ロータ円筒部2Bは実線矢印R2で示す時計回りに回転しており、排気側空間600に排気されたガスもロータ円筒部2Bに連れ回されるように時計回りに回転している。破線矢印R3は排気側空間600に排出されたガスの流れを示している。
【0018】
ベース6の流路62および排気ポート7の流路71の方向は、排気側空間600内のガスの流れに対して直交している。そのため、排気ポート7からガスが排出される際に、矢印R41のように流路62,71の内周面の図示左側の面へのガスの衝突が激しく、この面に生成物が堆積しやすい。また、矢印R41のようなガスの衝突に加えて、流路62,71の図示右側の領域では矢印R42で示すようなガスの渦が生じやすい。すなわち、排気側空間600内のガスの流れに対して流路62,71の方向が直角になっているため排気抵抗が増加し、コンダクタンスの低下およびモータ消費電力の増加を招いている。
【0019】
また、パージポート8に関しても、流路63,81の方向が排気側空間600内のガスの流れに対して直交している。この場合、供給されるパージガスは、パージポート8から排気側空間600に直角に流れ込むと共に、矢印R43で示すような渦が生じる。そのため、パージガスは、排気側空間600内で破線矢印R3のように回転しているガスの流れを妨げる働きをし、ロータ円筒部2Bの回転に対しても抵抗となる。その結果、モータ消費電力の増加を招く。
【0020】
一方、図2に示す構成の場合、図3に示すように排気用ガス流路である流路62,71の中心軸J1の投影直線J11は、仮想円Cの中心である原点Oすなわちロータ中心軸J0よりも図示右方向にずれている。そのため、排気側空間600のガスの流れR3から排気ポート7に分岐するガス流R5の分岐角度θが、図4の場合の分岐角度(ほぼ90度)よりも小さくなる。その結果、図2の流路62,71の図示左側(回転方向)の内周面へのガスの衝突が緩和されると共に、流路62,71の図示右側(回転逆方向)の面付近における渦の生成も抑えられる。すなわち、生成物の堆積の抑制、モータ消費電流の増加の抑制を図ることができる。
【0021】
また、パージガスを流入させるパージポート8に関しては、流路63,81の中心軸J2の投影直線J12は、仮想円Cの中心である原点Oよりも図示右方向にずれている。そのため、パージポート8から排気側空間600のガスの流れR3に流入するガス流R6の合流角度θは、図4に示す場合の合流角度(ほぼ90度)よりも小さくなる。その結果、パージポート8から流入するガス流R6の、排気側空間600の回転するガスの流れR3を妨げる効果が小さくなり、排気抵抗によるモータ消費電力の増加を抑えることができる。
【0022】
(変形例1)
図5は変形例1を説明する図であり、排気ポート7がベース6の外周面ではなく底面に設けられている場合を示す。この場合には、同軸関係にある流路62,71の中心軸J1は、ロータ中心軸J0に対してねじれの位置の関係になっている。
【0023】
図6図5のB1-B1断面図であり、図7図6のB2-B2断面図である。図6に示すように、排気側空間600の底面部分には、ベース6の底面に形成された流路62の開口62aが形成されている。図7に示すように、流路62,71の中心軸J1は、排気側空間600の底面部分に対して斜めに交差している。図6の一点鎖線J11は、流路62,71の中心軸J1をxy平面に投影した投影直線である。
【0024】
このように、流路62,71の中心軸J1が排気側空間600の底面部分に対して斜めに交差している場合であっても、図1に示す構成の場合と同様に、図3に示す投影直線J11と同様の位置関係を有している。すなわち、投影直線J11は仮想円Cと2点P1,P3で交わり、投影直線J11により仮想円Cが長さの異なる2つの円弧P1P2P3および円弧P1P5P3に分割される。投影直線J11は、仮想円Cの中心Oからずれていることになる。ポンプロータ2は、R2で示すように、長さの長い方の円弧P1P5P3の端点P1(第1端点)から端点P3(第2端点)の方向に回転している。排気ポート7から排出されるガスの排出方向R5は、円弧P1P5P3の端点P1から投影直線J11に沿って仮想円Cの外側に向かう方向である。
【0025】
このように、排気ポート7がベース6の底面に斜めに固定される場合であっても、排気ポート7の中心軸J1の投影直線J11を図3に示すような位置関係とすることで、生成物堆積の抑制、排気コンダクタンスの低下の抑制を図ることができる。排気コンダクタンスの低下が抑制されることで排気側空間600の圧力上昇が低減され、モータ消費電力の増加が抑制される。
【0026】
(変形例2)
図8は、変形例2を示す図である。変形例2では、ベース6に形成されたパージガス用の流路64は、流出口がロータ円筒部2Bの内周面側に形成されている。図2には、変形例2における流路64も破線で示した。図2から分かるように、パージガスはロータ円筒部2Bの内周面へ向けて矢印R7の方向に流出される。J4は流路64の中心軸である。
【0027】
図3に示した中心軸J4の投影直線J14は仮想円Cと2点P10,P11で交わり、投影直線J14により仮想円Cが長さの異なる2つの円弧P10P5P11および円弧P10P2P11に分割される。すなわち、投影直線J14の位置は、仮想円Cの中心Oからずれている。ポンプロータ2は、長さの長い方の円弧P10P2P11の端点P10から端点P11の方向に回転している。流路64から流入するパージガスの流入方向R7は、投影直線J14に沿って仮想円Cの内側から円弧P10P2P11の端点P10へ向かう方向である。
【0028】
例えば、図2において、仮に流路64をy軸の右側に配置した場合には、ロータ円筒部2Bの回転を阻害するような抵抗となる。一方、変形例2では、図3のように、排気側空間600のガスの流れR3に対して流入方向R7で流入するパージガスの合流角度θは、90度よりも小さくなる。そのため、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、生成物の堆積の抑制、モータ消費電流の増加の抑制を図ることができる。
【0029】
上述した図8に示す例では、ロータ円筒部2Bの内周面へ向けて矢印R7の方向にパージガスを供給したが、図14に示す例のように、磁気軸受11a~11cやモータ12が設けられている空間にパージガスを導入するようにしても良い。図14では、ベース6に形成された流路63は、パージポート8の流路81と、シャフト5に固定されたロータディスク51の配置空間とを接続するように設けられている。シャフト5が配置される空間には、磁気軸受11a~11c、モータ12および変位センサ等が設けられており、これらの電子部品の腐食を防止するために、流路63を介してパージガスを導入している。
【0030】
(変形例3)
図9,10は、変形例3を説明する図である。変形例3では、ターボ分子ポンプ1の吸気口に取り付けられるL型のチャンバ9の構造について説明する。このようなL型のチャンバ9は、例えば、装置側のチャンバ内の構造物に対するポンプロータ2からの放射熱の影響を防止する場合に用いられる。通常、吸気ポート91のフランジ90は、ゲートバルブ等を介して装置側のチャンバに接続される。
【0031】
図10は、図9のE矢視図である。ターボ分子ポンプ1の吸気口側から見た場合、ポンプロータ2は破線矢印R2で示すように時計回りの方向に回転している。吸気ポート91から流入するガスの流量が大きくて、ポンプ吸気口圧力が混合流領域の圧力範囲まで上昇するような場合、ロータ回転方向R2に回転するガス流がチャンバ9内において生じやすくなる。そのような場合、図10のx軸よりも図示上側に流入するガスの流れは、回転するガス流の流れを妨げる方向となる。逆に、x軸よりも図示下側に流入するガスの流れは、回転するガス流とほぼ同じ方向となる。
【0032】
吸気ポート91の中心軸はJ10であるが、中心軸J10をロータ中心軸J0に直交する平面に投影した投影直線の位置関係は、図3に示したパージポート8に関する投影直線J12の場合と同様となる。すなわち、中心軸J10の投影直線を図3の投影直線J12と見做した場合、投影直線J12は仮想円Cと2点P4,P6で交わり、仮想円Cを長さの異なる2つの円弧P4P2P6および円弧P4P5P6に分割する。投影直線J12の位置は仮想円Cの中心Oからずれており、図10では中心軸J10がロータ中心軸J0に対して図示下側にずれている。そのため、吸気ポート91の中心軸J10がx軸と一致している場合と比較して、チャンバ9内の回転するガス流に逆行するガスの割合が小さくなる。その結果、流入するガスによる排気抵抗を抑えることができ、モータ消費電力の低減を図ることができる。
【0033】
-第2の実施の形態-
図11~13は、第2の実施の形態を説明する図である。図11はターボ分子ポンプ100のロータ中心軸J0に沿った断面図である。図12図11のC1-C1断面図であり、図12はC2-C2断面図である。第2の実施の形態のターボ分子ポンプ100は、質量分析装置等の排気に用いられる。質量分析装置では圧力領域の異なる真空室が複数設けられており、複数の吸気口を有するターボ分子ポンプ100を用いることで、複数の真空室を一台のターボ分子ポンプ100で排気することができる。
【0034】
図11に示すように、ターボ分子ポンプ100は、第1吸気口71,第2吸気口72および第3吸気口73が形成されたハウジング70と、排気ポート85が設けられたベース80とを備えている。ハウジング70の内部に設けられたシャフト5には、第1タービンロータ20および第2タービンロータ30が固定されている。シャフト5を回転駆動するモータ12は、ベース80に設けられている。
【0035】
シャフト5は、永久磁石43,44を用いた磁気軸受とベース80に設けられたボールベアリング84とによって支持されている。永久磁石44はシャフト5に固定され、永久磁石43は磁石ホルダ40に保持されている。磁石ホルダ40はホルダ支持部41に固定され、そのホルダ支持部41はハウジング70に固定されている。磁石ホルダ40には、ボールベアリング42が設けられている。ボールベアリング42は、永久磁石44と永久磁石43とが接触しないようにシャフト5の振れ回りを規制する規制部材として機能する。
【0036】
第1タービンロータ20には、複数のタービン翼が形成された第1タービン翼段21が軸方向に複数段形成されている。複数の第1タービン翼段21に対して、複数のタービン翼が形成された第1固定翼段22が軸方向に交互に配置されている。複数の第1タービン翼段21と複数の第1固定翼段22とにより、第1ターボ分子ポンプステージTP1が構成される。
【0037】
第2タービンロータ30には、複数のタービン翼が形成された第2タービン翼段31が軸方向に複数段形成されている。複数の第2タービン翼段31に対して、複数のタービン翼が形成された第2固定翼段32が軸方向に交互に配置されている。複数の第2タービン翼段31と複数の第2固定翼段32とにより、第2ターボ分子ポンプステージTP2が構成される。第1固定翼段22および第2固定翼段32の軸方向の位置決めは、スペーサ23,33,50によって行われる。
【0038】
第2タービンロータ30には、第2タービン翼段31よりもポンプ下流側に、円板部34が形成されている。円板部34には、第1ロータ円筒部67と第2ロータ円筒部68が固定されている。第2ロータ円筒部68は、第1ロータ円筒部67の内周側に配置される。第1ロータ円筒部67の外周側には円筒形状の第1ネジステータ65が設けられ、第1ロータ円筒部67と第2ロータ円筒部68との間には円筒形状の第2ネジステータ66が設けられている。第1ネジステータ65の排気上流側には、ハウジング70の第3吸気口73と対向する位置に、ガス流入路として機能する貫通孔65aが形成されている。
【0039】
図12のC1-C1断面図に示すように、第1ネジステータ65の内周面、第2ネジステータ66の外周面と内周面、および、第2ロータ円筒部68の内周面が対向するベース80の対向面には、ネジ溝およびネジ山がそれぞれ形成されている。第1ロータ円筒部67、第2ロータ円筒部68、第1ネジステータ65、第2ネジステータ66と、ベース80の対向面に形成されたネジ溝およびネジ山とにより、ホルベック(Holweck)ポンプステージHPが構成される。
【0040】
図11の第1吸気口71から流入したガスは、第1ターボ分子ポンプステージTP1によって第1ターボ分子ポンプステージTP1の下流側に排気される。また、第2吸気口72からスペーサ50の開口50aを通過して流入したガス、および、第1ターボ分子ポンプステージTP1により排気されたガスは、第2ターボ分子ポンプステージTP2によって第2ターボ分子ポンプステージTP2の下流側に排気される。第2ターボ分子ポンプステージTP2により排気されたガス、および、第3吸気口73から第1ネジステータ65の貫通孔65aを通って流入したガスは、ホルベックポンプステージHPによって排気される。ホルベックポンプステージHPにより排気されたガスは、ベース80に形成された排気用の流路81,82を通過して、排気ポート85から排出される。
【0041】
第1吸気口71,第2吸気口72,第3吸気口73の圧力Pは、P(71)<P(72)<P(73)のように下流側ほど高くなる。例えば、圧力P(71)が分子流領域の初力範囲で、圧力P(72)が混合流領域の圧力範囲で、圧力P(73)が混合流領域~粘性流領域の圧力範囲のようになる。
【0042】
第1ネジステータ65と第1ロータ円筒部67と隙間にあるガスは、ロータ回転方向に回転しながら排気下流側に排気される。図12に示すように、混合流領域~粘性流領域のガスが流入する第3吸気口73および貫通孔65aの中心軸J6は、ロータ中心軸J0が通るx軸からずれている。中心軸J6をロータ中心軸J0に直交する平面に投影した投影直線の位置関係は、図3に示したパージポート8に関する投影直線J12の場合と同様となる。
【0043】
すなわち、中心軸J6の投影直線を図3の投影直線J12と見做した場合、投影直線J12は仮想円Cと2点P4,P6で交わり、仮想円Cを長さの異なる2つの円弧P4P2P6および円弧P4P5P6に分割する。投影直線J12の位置は仮想円Cの中心Oからずれており、図12では中心軸J6がロータ中心軸J0に対して図示上側にずれている。そのため、ロータ回転方向R2に回転するガス流に対して第3吸気口73から流入するガスの合流角度は、90度よりも小さくなる。その結果、ロータ回転方向に回転しながら排気されるガスの流れを妨げる働きが小さくなり、排気抵抗によるモータ消費電力の増加を抑えることができる。
【0044】
図13図11のC2-C2断面図であり、第2吸気口72の配置を説明する図である。上述したように第2吸気口72の圧力は第1吸気口71の圧力よりも高く、ガス流量によっては混合流領域となる。このような圧力領域では、タービン翼段で構成される第2ターボ分子ポンプステージTP2においても、ロータ回転方向に沿ったガスの流れが生じやすい。そのため、図12に示す第3吸気口73の中心軸J6の場合と同様に、第2吸気口72およびスペーサ50の開口50aの中心軸J8をロータ中心軸J0に対して図示上側に、ずらすことで、排気抵抗によるモータ消費電力の増加を抑えることができる。
【0045】
なお、圧力が分子流領域の圧力範囲である第1吸気口71に関しては、第2吸気口72および第3吸気口73のように、x軸に対してロータ回転方向にずらす構成とはしていない。しかしながら、大流量のガスを排気する場合も考慮して、第2吸気口72および第3吸気口73の場合と同様に、第1吸気口71の中心軸をロータ中心軸J0に対して同様にずらすようにしても良い。
【0046】
上述した複数の例示的な実施の形態および変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0047】
[1]一態様に係る真空ポンプは、回転するロータと、前記ロータに対するガス流入路と、前記ロータにより排気されたガスを排出するガス排出路と、を備え、ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス排出路の流路中心軸を前記平面に投影した第1投影直線、および、前記第1投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第1仮想円を仮定したときに、前記第1仮想円は、前記第1投影直線により長い第1円弧と短い第2円弧とに2分割され、前記ロータは、前記第1円弧の第1端点から第2端点の方向に回転しており、前記ガス排出路の排出方向は、前記第1円弧の第1端点から前記第1投影直線に沿って前記第1仮想円の外側に向かう方向である。
【0048】
例えば、図3の投影直線J11は、仮想円Cを長い円弧P1P5P3と短い円弧P1P2P3とに2分割しており、仮想円Cの中心Oに対するずれは、ガス排出路のガス流R5の排気側空間600のガスの流れR3からの分岐角度θが90度よりも小さくなる方向にずれている。その結果、生成物の堆積の抑制、モータ消費電流の増加の抑制を図ることができる。
【0049】
[2]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記ガス流入路は前記ロータの外周側からガスを流入させる構成であって、ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス流入路の流路中心軸を前記平面に投影した第2投影直線、および、前記第2投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第2仮想円を仮定したときに、前記第2仮想円は、前記第2投影直線により長い第3円弧と短い第4円弧とに2分割され、前記ロータの回転方向は、前記第3円弧の第1端点から第2端点の方向であって、前記ガス流入路の流入方向は、前記第2投影直線に沿って前記第2仮想円の外側から前記第3円弧の第2端点へ向かう方向である。
【0050】
例えば、図2のパージポート8の中心軸J2や図12の第3吸気口73の中心軸J6のロータ中心軸J0に直交する平面への投影直線J12は、図3に示すように、仮想円Cの中心Oに対するずれが、ロータ回転に伴うガス流R3に対するガス流入路からのガス流R6の合流角度θが90度より小さくなる方向にずれている。その結果、流入するガスの排気抵抗によるモータ消費電力の上昇を抑えることができる。
【0051】
[3]上記[1]に記載の真空ポンプにおいて、前記ガス流入路は前記ロータの内周側からガスを流入させる構成であって、ロータ中心軸に直交する平面において、前記ガス流入路の流路中心軸を前記平面に投影した第3投影直線、および、前記第3投影直線と2点で交わり前記ロータ中心軸を中心とする第3仮想円を仮定したときに、前記第3仮想円は、前記第3投影直線により長い第5円弧と短い第6円弧とに2分割され、前記ロータの回転方向は、前記第5円弧の第1端点から第2端点の方向であって、前記ガス流入路の流入方向は、前記第3投影直線に沿って前記第3仮想円の内側から前記第5円弧の第1端点へ向かう方向である。
【0052】
例えば、図3のパージガス用の流路64のようにロータ円筒部2Bの内周側からパージガスを流入させる構成においては、流路64の中心軸J7をロータ中心軸J0に直交する平面へ投影したときの投影直線J14は、仮想円Cの中心Oに対するずれが、ロータ回転に伴うガス流R3に対する流路64からのガス流R7の合流角度θが90度より小さくなる方向にずれている。その結果、流入するパージガスの排気抵抗によるモータ消費電力の上昇を抑えることができる。
【0053】
[4]上記[2]に記載の真空ポンプにおいて、前記ロータに形成された円筒ロータと、排気用隙間を介して前記円筒ロータの外周側に配置される円筒ステータと、を備え、前記円筒ステータの排気上流側には、前記円筒ステータを外周側から内周側へと貫通して前記排気用隙間に連通する前記ガス流入路が形成されている。
【0054】
例えば、図12に示すように、円筒形状の第1ネジステータ65の排気上流側には、第1ネジステータ65を外周側から内周側へと貫通する貫通孔65aがガス流入路として形成されている。この場合も、貫通孔65aから流入するガス流は、円筒ロータ67の回転方向に流れるガス流に対する合流角度が90度よりも小さいので、ポンプ内のガスの流れを妨げる働きが小さくなり、モータ消費電力の増加を抑えることができる。
【0055】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施形態では、ターボ分子ポンプステージとホルベックポンプステージとを備えるターボ分子ポンプを例に説明したが、ターボ分子ポンプステージのみで構成される真空ポンプやホルベックポンプステージのみで構成される真空ポンプ、すなわち分子ポンプと呼ばれる真空ポンプにも適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…ターボ分子ポンプ、2…ポンプロータ、6…ベース、7…排気ポート、8…パージポート、50a…開口、62,63,64,70,71,73,81,82…流路、65…第1ネジステータ、65a…貫通孔、66…第2ネジステータ、67…第1ロータ円筒部、68…第2ロータ円筒部、600…排気側空間、C…仮想円、J1~J4,J6,J8,J10…中心軸、J11,J12,J14…投影直線
図1
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