(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】貯血槽
(51)【国際特許分類】
A61M 1/36 20060101AFI20230905BHJP
A61M 1/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61M1/36 117
A61M1/36 119
A61M1/36 101
A61M1/00 170
(21)【出願番号】P 2019182154
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 祐司
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-088737(JP,A)
【文献】特開2008-149001(JP,A)
【文献】特開2010-207349(JP,A)
【文献】米国特許第05755705(US,A)
【文献】特開2021-053302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静脈血および/または吸引血を貯留するための貯血槽であって、
血液の流入部と血液の流出部とを有するハウジングと、
前記ハウジングの内部に配置され、前記流入部から流入した血液を濾過するための濾過手段と、
前記濾過手段と前記流出部との間に配置され、前記濾過手段により濾過された血液を前記流出部の方向に導くガイド部材と、を備え、
前記ハウジングの側面には、内部に貯留される血液の貯血量を測定する貯血量測定領域が設けられ、
前記貯血量測定領域は、下方領域に平坦面を含み、
前記濾過手段は、前記静脈血を濾過する静脈血濾過手段と、前記吸引血を濾過する吸引血濾過手段とを含み、
前記吸引血濾過手段は、前記ハウジングの前記貯血量測定領域と前記静脈血濾過手段との間において、前記貯血量測定領域と対向するように配置され、
前記貯血量測定領域の前記平坦面の内面に対して、前記吸引血濾過手段の下方領域は、
略並行であり、前記平坦面の内面に血液が流れる寸法に設定されている、貯血槽。
【請求項2】
前記吸引血濾過手段の前記下方領域は、全体としての外観は板状の形態を有する底部材を有し、
前記平坦面の前記内面に対して、前記底部材が並行に配置されている、請求項1に記載の貯血槽。
【請求項3】
前記平坦面の前記内面と前記底部材との最短距離は、0.50mm~2.0mmである、請求項2に記載の貯血槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯血槽に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術においては、人工心肺装置が用いられる。人工心肺装置は、主に、貯血槽、送血ポンプ、熱交換器、血液回路、および人工肺等から構成されている。このような人工心肺装置では、まず、患者の静脈より脱血した血液(静脈血)および術野より吸引した血液(吸引血)が、貯血槽に送り込まれ、貯血槽において、一時的に貯留される。この血液が、送血ポンプにより熱交換器に送り込まれ、熱交換器において、血液の温度調節が行われる。人工肺において、温度調節が行われた血液のガス交換(二酸化炭素除去、酸素添加)が行われる。最後に、この血液が、動脈血として、患者の体内に戻される。
【0003】
このような人工心肺装置は、心臓手術において一時的に心臓と肺の機能を代行する。このため、人工心肺装置では、血液を患者に送り返す前に、手術時に血液に混入した異物や気泡等を、取り除く必要がある。たとえば、特許文献1には、骨片や肉片等の異物および気泡を同時に血液から取り除くことができる貯血槽(カーディオトミーリザーバを内蔵した貯血槽)が、示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される貯血槽に貯留される貯血量の管理は、貯血槽の外部に設けられるレベルセンサを用いて管理される。具体的には、貯血槽の側面には、下方から上方に延びる帯状の貯血量測定領域が設けられる。この貯血量測定領域には、予め血液の貯留量を示す目盛りが付されている。この目盛りに基づき、検出すべき貯血量の目盛位置にレベルセンサが貼着されて、貯血量の液面が検出される。
【0006】
特許文献1に開示される貯血槽においては、ハウジングの側面に設けられた貯血量測定領域は、上下方向に延びるように側方に膨出する曲面が設けられている。より具体的には円柱状の一部の面が上下方向に延びるように形成されている。貯血槽に吸引血を回収する際には、貯血槽の内部は陰圧となる。この場合に、ハウジングがこの陰圧により変形すると液面の位置が変化し、正確な貯血量の管理を行なうことができない。そこで、ハウジングの変形を阻止する観点から、ハウジングの側面には、ハウジングの剛性を高めるために、上下方向に延びる曲面が設けられている。
【0007】
ここで、貯血槽の通常の使用状態においては、貯血槽の内部には、一定量の吸引血が貯血されている。その結果、貯血槽の内部に配置された濾過手段の下端部は貯血液の中に浸漬しており、濾過手段を通じて貯血槽に貯留される吸引血は、貯血液の中に導入される。
【0008】
しかしながら、術中の不可避的な事象の発生により、貯血槽の内部の貯血液が大幅に減少し、さらに、大量の吸引血が濾過手段を通じて貯血槽に貯留されることが考えられる。この場合には、濾過手段の下端部が貯血液の液面よりも上に位置する結果、濾過手段を通じて貯血槽に貯留される吸引血が、貯血液の液面に落下する状態となる。その結果、貯血液の液面に気泡が創出されるおそれがある。
【0009】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、貯血液の液面での気泡の創出を抑制することが可能な構成を備える、貯血槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この開示における貯血槽においては、静脈血および/または吸引血を貯留するための貯血槽であって、血液の流入部と血液の流出部とを有するハウジングと、上記ハウジングの内部に配置され、上記流入部から流入した血液を濾過するための濾過手段と、上記濾過手段と上記流出部との間に配置され、上記濾過手段により濾過された血液を上記流出部の方向に導くガイド部材と、を備え、上記ハウジングの側面には、内部に貯留される血液の貯血量を測定する貯血量測定領域が設けられ、上記貯血量測定領域は、下方領域に平坦面を含み、上記濾過手段は、上記静脈血を濾過する静脈血濾過手段と、上記吸引血を濾過する吸引血濾過手段とを含み、上記吸引血濾過手段は、上記ハウジングの上記貯血量測定領域と上記静脈血濾過手段との間において、上記貯血量測定領域と対向するように配置され、上記貯血量測定領域の上記平坦面の内面に対して、上記吸引血濾過手段の下方領域は、略並行に配置されている。
【0011】
他の形態における貯血槽においては、上記吸引血濾過手段の前記下方領域は、全体としての外観は板状の形態を有する底部材を有し、上記平坦面の上記内面に対して、上記底部材が並行に配置されている。
【0012】
他の形態における貯血槽においては、上記平坦面の上記内面と上記底部材との最短距離は、0.50mm~2.0mmである。
【発明の効果】
【0013】
この開示における貯血槽によれば、貯血液の液面での気泡の創出を抑制することが可能な構成を備える、貯血槽を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施の形態のフィルタ支持ユニットの第2支持部材の分解斜視図である。
【
図3】実施の形態の第2支持部材を構成するフィルタ挟持部材の斜視図である。
【
図4】実施の形態の第2支持部材を構成する底部材の斜視図である。
【
図7】
図1中のVII-VII線矢視断面図である。
【
図8】
図5中のVIIIで囲まれた領域の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に基づいた貯血槽の実施の形態について、図を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。上記各実施の形態に表れる構成を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0016】
本発明において、静脈血とは患者の血管からカニューレを介して脱血された血液を示し、吸引血とは術野である心臓内外から吸引した血液(ベント血およびサクション血)を示す。上記本発明において異物とは、脂肪球、肉片、骨片、変性蛋白および凝集塊等の吸引血に含まれる可能性のある血液以外の物質を示す。
【0017】
(貯血槽1の構成)
以下、
図1から
図7を参照して、本実施の形態の貯血槽1の構成について説明する。
図1は、本実施の形態の貯血槽1の外観図、
図2は、フィルタ支持ユニット20の第2支持部材22の分解斜視図、
図3は、第2支持部材22を構成するフィルタ挟持部材222の斜視図、
図4は、第2支持部材22を構成する底部材322の斜視図、
図5は、貯血槽の断面図、
図6は、
図1中のVI-VI線矢視断面図、
図7は、
図1中のVII-VII線矢視断面図である。なお、
図6および
図7は、内部の構成を省略して記載している。
【0018】
貯血槽1は、ハウジング10と、フィルタ支持ユニット20と、血液導入管30と、静脈血濾過手段40と、吸引血濾過手段50と、ガイド部材60とを備えている。
【0019】
ハウジング10は、
図1に示すように、ハウジング本体11と、蓋体12とを有している。ハウジング10の内部には、
図5に示すように、血液を貯留する貯留空間Sが、形成されている。貯留空間Sは、ハウジング本体11に蓋体12を装着することにより形成されるハウジング10の内部空間である。
【0020】
ハウジング本体11は、一部が開口した箱形形状に形成されている。ハウジング本体11の開口は、略楕円形状または略四角形状に形成されている。ハウジング本体11は、
図1および
図5に示すように、箱形部11aと、突出部11bとを有している。箱形部11aは、血液が流入する側の貯留空間S、すなわち上部貯留空間Saを、形成する。突出部11bは、血液が流出する側の貯留空間S、すなわち下部貯留空間Sbを、形成する。突出部11bは、箱形部11aの底部の一部が前方向に突出した部分であり、箱形部11aに一体に形成されている。突出部11bの底部には、貯留空間Sから外部に連通する管状の血液流出口11cが設けられている。血液流出口11cは、たとえば、体外血液循環回路の送血ラインのチューブに接続される。
【0021】
箱形部11aの前方側の面と突出部11bの前方側の面とは、同一面に形成されている。同一側面には、貯血量を確認するための目盛り(図示せず)が設けられている。箱形部11aの底部および突出部11bの底部は、ハウジング本体11の開口に対向している。
【0022】
図1中において、前方向とは、矢印X1が示す方向であり、後方向とは、矢印X1とは反対の矢印X2が示す方向である。矢印X1および矢印X2を含む仮想平面と同一仮想平面おいて、矢印X1および矢印X2に対して直交する方向に延びる矢印Z1および矢印Z2の方向を横方向と呼ぶ。さらに、矢印X1、矢印X2、矢印Z1、および、矢印Z2の方向に直交する方向に延びる矢印Y1および矢印Y2の方向を縦方向と呼ぶ。貯血槽1の使用状態においては、矢印Y1が上方向、矢印Y2が下方向となる。
【0023】
蓋体12は、
図1および
図5に示すように、ハウジング本体11の開口を覆うようにハウジング本体11に嵌合され装着される。蓋体12には、第1血液流入口12aと第2血液流入口12bとが、設けられている。第1血液流入口12aは、たとえば、体外血液循環回路における静脈血用の脱血ラインのチューブに接続される。第2血液流入口12bは、たとえば、体外血液循環回路における吸引血用の脱血ラインのチューブに接続される。これら第1血液流入口12aおよび第2血液流入口12bは、蓋体12がハウジング本体11に装着された状態において、外部から貯留空間Sたとえば上部貯留空間Saに連通する。
【0024】
蓋体12には、貯血槽1内における血液の増減に伴う空気の出入りを許可する脱気口(図示せず)が、設けられている。消泡後の空気や破泡後の空気は、脱気口から外部に排出される。
【0025】
図1、
図6および
図7を参照して、ハウジング本体11の横方向に位置する側面には、縦方向(上下方向)に延びる帯状形態の貯血量測定領域11mが設けられている。この貯血量測定領域11mは、下方側に位置する平坦面11h(
図6参照)と、上方側に位置する曲面11p(
図7参照)とを含む。
【0026】
平坦面11hは、横断面が平坦な形状である。曲面11pは、横断面が、前方に向かって膨出する円柱の一部を構成するような曲面形状である。このように、ハウジング本体11の前方向の側面に平坦面11hを設けておくことで、この領域にレベルセンサ(図示省略)を貼着した場合、レベルセンサ(図示省略)は平坦な面に貼着されることから、レベルセンサの剥がれを抑制することが可能となる。その結果、貯血量の検出不良の発生を抑制することができる。
【0027】
上記レベルセンサが貼着されることが想定されない上方領域においては、曲面11pを設けておくことで、貯血槽1に吸引血を回収する際の、貯血槽1の内部の陰圧に対する変形を抑制することが可能となる。これによって、レベルセンサの検出不良の発生が抑制される。
【0028】
ハウジング本体11および蓋体12の構成材料としては、たとえば、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等を挙げることができる。左記のような材料で形成されるハウジング本体11は、貯血槽1の内部に貯留された貯血量や内部の血液の状態を、目視で確認することができるように、実質的に透明であるのが好ましい。
【0029】
フィルタ支持ユニット20は、静脈血濾過手段40および吸引血濾過手段50を支持するためのものであり、ハウジング10たとえば蓋体12に装着される。フィルタ支持ユニット20は、
図2から
図5に示すように、第1支持部材21と第2支持部材22とを含む。第1支持部材21は、静脈血濾過手段40、たとえば後述する静脈血用のフィルタ部材41を支持する部分である。第1支持部材21は、フレーム構造で形成されており、蓋体12の裏面に装着される。第1支持部材21は、貯血槽1の使用状態においては、後方向から前方向に向かって傾斜するように、ハウジング本体11の内部に収容されている。
【0030】
第2支持部材22は、
図2から
図5に示すように、吸引血濾過手段50、たとえば後述する吸引血用の第1フィルタ部材51および吸引血用の第2フィルタ部材52を、支持する部材である。第2支持部材22は、蓋体12の裏面に装着される。具体的には、第2支持部材22は、枠体122と、枠体122との間において吸引血用の第2フィルタ部材52を挟持するフィルタ挟持部材222と、吸引血用の第2フィルタ部材52の底部を支持する底部材322とを有している。
【0031】
枠体122は、蓋体12の裏面に装着される。枠体122は、互いに対向した2つの板部122aと、2つの板部122aを連結する連結部材122bと、各板部122aの内面に形成されたツメ部122cとを有している。第2支持部材22は、2つの板部122aにおいて、蓋体12の裏面に装着される。吸引血用の第2フィルタ部材52は、板部122aと連結部材122bとに被せた状態において、板部122aに係止され装着される。
【0032】
フィルタ挟持部材222は、蓋体12の裏面に装着される。フィルタ挟持部材222は、枠体122の外形に沿うような箱状に形成されている。フィルタ挟持部材222には、上部、中央部、および下部に開口が形成されている。上部の開口222aは、枠体122を挿入するためのものである。中央部の開口222bは、吸引血用の第2フィルタ部材52の第1フィルタ部52aたとえば不織布を通過した血液が主に通過する通過口になっている。下部の開口222cは、吸引血用の第2フィルタ部材52の第2フィルタ部52bたとえばメッシュクロス(スクリーンメッシュ)を通過した血液が主に通過する通過口になっている。フィルタ挟持部材222は、吸引血用の第2フィルタ部材52を枠体122に被せた状態において、蓋体12に装着される。
【0033】
底部材322は、フィルタ挟持部材222に装着される。詳細には、底部材322は、フィルタ挟持部材222に形成された開口222cに装着される。底部材322は、吸引血用の第2フィルタ部材52の底部(後述する第2フィルタ部52b)を支持した状態で、吸引血が内部を通過可能なように形成されている。底部材322は、吸引血用の第2フィルタ部材52の底部を支持する支持部322aと、吸引血濾過手段50からの吸引血が通過可能な通路部322bが、形成されている。支持部322aは、板状に形成されており、吸引血用の第2フィルタ部材52の底部に当接して、吸引血用の第2フィルタ部材52の底部を支持する。
【0034】
通路部322bは、矩形筒状に形成されている。言い換えると、通路部322bは、中空の嘴状に形成されている。通路部322bには、対向する側面に開口部322cが設けられている。これにより、通路部322bを通過する吸引血は、通路部322bの先端からだけでなく、開口部322cからも流出する。
【0035】
底部材322がフィルタ挟持部材222に装着された状態においては、通路部322bは、水平方向を基準とした所定の傾斜角度αに設定される(
図5を参照)。具体的には、水平方向を基準とした通路部322bの傾斜角度αが約65度になるように、底部材322がフィルタ挟持部材222に装着される。
【0036】
さらに、底部材322がフィルタ挟持部材222に装着された状態においては、底部材322の通路部322bの先端部は、突出部11bの内部に配置される。これにより、濾過後の吸引血を、突出部11bの上部から突出部11bの内部へと導くことができる。
【0037】
「蓋体12の裏面」という文言は、蓋体12における、第1血液流入口12aおよび第2血液流入口12bが設けられた側とは反対側の面を示す文言である。「蓋体12の表面」という文言は、蓋体12の裏面とは反対側の面を示す文言である。すなわち、「蓋体12の表面」という文言は、蓋体12における、第1血液流入口12aおよび第2血液流入口12bが設けられた側の面を示す文言である。
【0038】
血液導入管30は、静脈血を第1血液流入口12aからハウジング10の内部に導くための静脈血用の血液導入管31と、吸引血を第2血液流入口12bからハウジング10の内部に導くための吸引血用の血液導入管32とを有している。
【0039】
静脈血用の血液導入管31は、第1血液流入口12aの位置において、蓋体12の裏面に装着される。上記静脈血用の血液導入管31は、管状に形成されており、第1支持部材21のフレーム構造の内部に挿通され配置される。蓋体12がハウジング本体11に装着されたときには、静脈血用の血液導入管31は、一端が蓋体12の裏面に装着された状態において、他端が突出部11bの内部に位置する。言い換えると、蓋体12がハウジング本体11に装着されたときには、静脈血用の血液導入管31は、蓋体12の第1血液流入口12aから、ハウジング本体11の突出部11bに向けて斜めに延びた状態で、ハウジング10の内部に配置される。貯血槽1の使用状態においては、血液導入管31は後方側から前方側に向かって下方に傾斜するようにハウジング本体11の内部に収容される。
【0040】
吸引血用の血液導入管32は、第2血液流入口12bの位置において、蓋体12の裏面に装着される。具体的には、吸引血用の血液導入管32は、管状に形成されており、第2支持部材22と蓋体12との間において、第2血液流入口12bの位置において、蓋体12の裏面に装着される。蓋体12がハウジング本体11に装着されたときには、吸引血用の血液導入管32は、一端が蓋体12の裏面に装着された状態において、他端は突出部11bの上方に位置する。言い換えると、蓋体12がハウジング本体11に装着されたときには、吸引血用の血液導入管32は、蓋体12の第2血液流入口12bから、ハウジング本体11の突出部11bに向けて下方に延びた状態で、第2支持部材22たとえば枠体122の内部に配置される。
【0041】
なお、吸引血用の血液導入管32が、第2血液流入口12bの位置において蓋体12の裏面に装着される場合の例を示しているが、吸引血用の血液導入管32は、第2血液流入口12bの位置において蓋体12の裏面に一体に形成されるようにしても良い。
【0042】
静脈血濾過手段40は、ハウジング10の内部に装着される。静脈血濾過手段40は、静脈血用のフィルタ部材41を有している。静脈血用のフィルタ部材41は、第1血液流入口12aから静脈血用の血液導入管31を介してハウジング10の内部に導入された静脈血から、気泡を除くためのものである。このため、静脈血用のフィルタ部材41の孔径は、約20μmから40μmであるのが好ましい。
【0043】
静脈血用のフィルタ部材41は、一部が開口した袋状に形成されており、静脈血濾過手段40は、貯血槽1の使用状態においては、後方向から前方向に向かって傾斜するように、ハウジング10の内部に配置される。具体的には、静脈血用のフィルタ部材41は、上部が開口した袋状に形成されており、フィルタ支持ユニット20の第1支持部材21の外面に装着される。より具体的には、静脈血用のフィルタ部材41は、フィルタ支持ユニット20の第1支持部材21のフレーム構造を包み込むように、フィルタ支持ユニット20の第1支持部材21に装着される。これにより、蓋体12がハウジング本体11に装着されたときには、静脈血用のフィルタ部材41は、蓋体12の第1血液流入口12aから、ハウジング本体11の突出部11bに向けて斜めに延びた状態で、ハウジング10の内部に配置される。
【0044】
吸引血濾過手段50は、ハウジング10の内部に装着される。吸引血濾過手段50は、吸引血用の第1フィルタ部材51と、吸引血用の第2フィルタ部材52とを有している。吸引血濾過手段50は、静脈血濾過手段40に対して、ハウジング本体11の横方向に位置する貯血量測定領域11m側に設けられている。よって、吸引血濾過手段50は、ハウジング10の貯血量測定領域11mと静脈血濾過手段40との間に位置している。また、吸引血濾過手段50は、貯血量測定領域11mに対向するようにハウジング本体11の内部に位置している。
【0045】
吸引血用の第1フィルタ部材51は、第2血液流入口12bから吸引血用の血液導入管32を介してハウジング10の内部に導入された吸引血から、比較的大きな異物および気泡を取り除くためのものである。
【0046】
吸引血用の第1フィルタ部材51は、一部が開口したハット状に形成されており、ハウジング10の内部に配置される。吸引血用の第1フィルタ部材51は、蓋体12の裏面に装着される。具体的には、吸引血用の第1フィルタ部材51は、鍔部51aと凹部51bとを有している。より具体的には、吸引血用の第1フィルタ部材51は、凹部51bが吸引血用の血液導入管32に嵌合され、鍔部51aが蓋体12の裏面に装着される。吸引血用の第1フィルタ部材51の鍔部51aが、蓋体12に装着される第2支持部材22により支持される。詳細には、吸引血用の第1フィルタ部材51の鍔部51aが、第2支持部材22の枠体122に設けられるツメ部122cにより支持される。
【0047】
吸引血用の第1フィルタ部材51には、発泡ウレタンが、用いられている。吸引血用の第1フィルタ部材51の内面たとえば凹部51bの内面には、気泡の接触時に消泡する消泡剤たとえばシリコーンが、塗布されている。このため、吸引血が吸引血用の第1フィルタ部材51を通過する前に、吸引血が第1フィルタ部材51の内面に接触すると、吸引血に含まれる気泡が、消泡剤により破裂させられる。そして、吸引血が吸引血用の第1フィルタ部材51を通過した後には、吸引血用の第1フィルタ部材51の目のサイズに対応した所定のサイズ以上の気泡が、吸引血から取り除かれる。吸引血が吸引血用の第1フィルタ部材51を通過するときには、吸引血から異物も取り除かれる。ここでは、たとえば、吸引血用の第1フィルタ部材51の目のサイズより大きな異物が、吸引血から取り除かれる。
【0048】
吸引血用の第2フィルタ部材52は、第1フィルタ部材を通過した吸引血、すなわち、吸引血用の第2フィルタ部材52において比較的大きな異物および気泡が除去された吸引血から、異物および気泡を取り除くためのものである。吸引血用の第2フィルタ部材52の孔径は、約20μmから200μmであるのが好ましい。
【0049】
吸引血用の第2フィルタ部材52は、一部が開口した袋状に形成されており、ハウジング10の内部に配置される。具体的には、吸引血用の第2フィルタ部材52は、上部が開口した袋状に形成されている。上記吸引血用の第2フィルタ部材52は、吸引血用の第1フィルタ部材51の外側に配置されるフィルタ支持ユニット20の第2支持部材22に、装着される。たとえば、吸引血用の第2フィルタ部材52は、板部122aと連結部材122bとに被せられ、板部122aに係止され装着される。この状態において、フィルタ挟持部材222が、枠体122に装着される。底部材322が、フィルタ挟持部材222に形成された開口222cに装着される。これにより、吸引血用の第2フィルタ部材52は、底部が内方に折り返された状態で、フィルタ支持ユニット20に支持される。この状態においては、吸引血用の第1フィルタ部材51が、吸引血用の第2フィルタ部材52の内部に、配置されている。
【0050】
吸引血が吸引血用の第2フィルタ部材52を通過するときには、吸引血用の第1フィルタ部材51で取り除くことができなかった異物が取り除かれる。上記このときには、吸引血用の第1フィルタ部材51で取り除くことができなかった気泡が、吸引血から取り除かれる。すなわち、吸引血用の第2フィルタ部材52の目(微細孔)のサイズに対応した所定のサイズ以上の異物および気泡が、吸引血から取り除かれる。ここでは、吸引血が吸引血用の第2フィルタ部材52を通過することにより、たとえば、40ミクロン以上のサイズの異物および気泡が、吸引血から取り除かれる。
【0051】
図5を参照して、吸引血濾過手段50の下方領域に位置するガイド部材60は、吸引血濾過手段50と血液流出口11cとの間に配置され、吸引血濾過手段50により濾過された血液を血液流出口11cの方向に導く部材である。
【0052】
具体的には、
図4に示すように、ガイド部材60は、第2支持部材22すなわち底部材322に装着される。より具体的には、ガイド部材60は、板状に形成され、底部材322の通路部322bの内部に挿入され装着される。ガイド部材60が挿入された底部材322は、全体としての外観は板状である。
【0053】
ガイド部材60は、厚み方向に圧縮された発泡材料で、構成されている。ガイド部材60には、上記の底部材322の傾斜角度αたとえば底部材322の通路部322bの傾斜角度αに対応する密度Dの材料が、用いられる。たとえば、ガイド部材60は、0.12g/cm3から0.16g/cm3までの範囲内の密度Dを有する材料により、構成される。より具体的には、ガイド部材60は、0.13g/cm3の密度Dを有する材料により、構成されている。
【0054】
たとえば、市販されている密度が26kg/m3から30kg/m3である発泡ウレタンを、上記のように圧縮した場合、0.13g/cm3から0.15g/cm3の密度を有する圧縮発泡ウレタンが得られる。
【0055】
一般的には、ガイド部材60の材料の密度Dが高くなるにつれて、ガイド部材60の空隙が少なくなる。このため、ガイド部材60の材料の密度Dが高くなると、血液がガイド部材60に浸透しにくくなる。すなわち、ガイド部材60の材料の密度Dが高くなると、血液は、ガイド部材60に浸透することなく、ガイド部材60の表面を伝わりやすくなる。このため、ガイド部材60の材料の密度Dが高くなると、血液がガイド部材60を伝わる速度が、速くなりやすい。このような理由から、たとえば、ガイド部材60の材料の密度Dが高くなるにつれて、ガイド部材60の傾斜角度αが緩くなるように、ガイド部材60を配置することが望ましい。
【0056】
図5では、ガイド部材60の密度Dが、0.13g/cm
3である場合の例が示されている。しかしながら、上記のような理由から、底部材322の傾斜角度αが変わった場合には、材料の密度Dを変更することが望ましい。
【0057】
さらに、
図5および
図6を参照して、本実施の形態のハウジング本体11の突出部11bの両側の側面の内面には、縦方向に延びる複数のリブ11rが設けられている。このリブ11rは、粘度が高い血液の流れを整流する役割を有する。
【0058】
ここで、
図8および
図9を参照して、吸引血濾過手段50の下方領域に位置する底部材322と、ハウジング本体11の貯血量測定領域11mの内面との位置関係について説明する。
図8は、
図5中のVIIIで囲まれた領域の部分拡大図、
図9は、
図8中のIX-IX線矢視断面図である。
【0059】
吸引血濾過手段50の下方領域に位置する底部材322は、
図2で示したように、Z1およびZ2方向に沿って平板状に延びる形態を有している。底部材322に対向する貯血量測定領域11mに設けられた平坦面11hの内面11sに対向している。その結果、この平坦面11hの内面11sに対して、底部材322は略並行に配置される。これにより、平坦面11hと底部材322との隙間は、Z1およびZ2方向の略全域において略一定寸法の距離S1となる。本実施の形態においては、平坦面11hの内面11sと底部材322との最短距離S1は、1.5mmである。
【0060】
このように、平坦面11hの内面11sと底部材322との隙間が一定寸法の距離S1となることで、底部材322においてガイド部材60で濾過された吸引血は、そのまま全域において均等に平坦面11hの内面11sに向かって吐出し内面11sに略同時に当接する。その結果、内面11sに当接する際の吸引血の流れに乱れを生じさせ難くなる。
【0061】
これにより、仮に貯血液の液面が低下し、濾過後の吸引血が貯血液の液面に落下する状態となった場合であっても、流れが乱れていない吸引血が貯血液の液面に落下することから、貯血液の液面での気泡の創出を抑制することができる。
【0062】
なお、上記実施の形態においては、平坦面11hの内面11sと底部材322との距離S1が、1.5mmの場合について説明したが、距離S1はこの数値に限定されるものではない。たとえば、平坦面11hの内面11sと底部材322との最短距離(S1)は、0.05mm~2.0mmであるとよい。0.50mmより小さいとガイド部材60から流出した血液がハウジング本体11の内面11sとガイド部材60との間を回り込み気泡が発生する可能性がある。2.0mmより大きいと、ガイド部材60から流血した血液がハウジング本体11の内面11sに当たらない可能性がある。
【0063】
これにより、底部材322においてガイド部材60で濾過された吸引血は、一旦内面11sに当接した後に、内面11sを伝わって貯血液の液面に注がれるようになるため、より効果的に貯血液の液面での気泡の創出を抑制することを可能とする。
【0064】
他方、底部材322に対向するハウジング本体11の貯血量測定領域11mが湾曲している場合には、平坦面11hと底部材322との隙間が中央部と両端側とで異なるため、底部材322においてガイド部材60で濾過された吸引血は、貯血量測定領域11mに当節すると吸引血の流れが掻き乱される状態となる。その結果、仮に貯血液の液面が低下し、濾過後の吸引血が貯血液の液面に落下する状態となった場合には、流れが乱れた吸引血が貯血液の液面に落下するために、貯血液の液面での気泡の創出を促すこととなる。
【0065】
したがって、本実施の形態に示すように、平坦面11hに対して、底部材322が略並行に配置される構成を採用することで、貯血液の液面での気泡の創出を抑制することができる。
【0066】
(血液の貯留形態)
以下に、上述の貯血槽1における血液の貯留形態について、説明する。
【0067】
静脈血が、体外血液循環回路における静脈血用の脱血ラインのチューブに接続された血液流入口すなわち第1血液流入口12aに到達すると、この静脈血が、静脈血用の血液導入管31を介してハウジング10の内部に導かれる。ここでは、静脈血用の血液導入管31の先端(上記の他端)は、ハウジング10の突出部11bの内部にまで延びているので、静脈血は、静脈血用のフィルタ部材41の底部の近傍にまで導かれる。すると、この静脈血が、静脈血用のフィルタ部材41の内部において底部から上方に向けて溜まり始める。この静脈血が、静脈血用のフィルタ部材41を通過するときに、この静脈血に含まれる気泡が、フィルタ部材41により消泡される。このようにして、静脈血が、静脈血用のフィルタ部材41すなわち静脈血濾過手段40により濾過され、貯血槽1に貯留される。
【0068】
上記吸引血が、体外血液循環回路における吸引血用の脱血ラインのチューブに接続された血液流入口すなわち第2血液流入口12bに到達すると、この吸引血が、吸引血用の血液導入管32を介してハウジング10の内部に導かれる。すると、この吸引血が、吸引血用の第1フィルタ部材51に溜まり始める。この吸引血が吸引血用の第1フィルタ部材51を通過するときに、この吸引血に含まれる比較的大きな異物たとえば骨片や肉片等が、このフィルタ部材により取り除かれる。この吸引血が吸引血用の第1フィルタ部材51を通過するときには、この吸引血に含まれる比較的大きな気泡が、このフィルタ部材により破泡および消泡される。
【0069】
すると、吸引血用の第1フィルタ部材51を通過した吸引血が、吸引血用の第2フィルタ部材52に溜まり始める。そして、この吸引血が吸引血用の第2フィルタ部材52を通過するときに、この吸引血に含まれる異物が、この第2フィルタ部材52により取り除かれる。この吸引血が吸引血用の第2フィルタ部材52を通過するときに、この吸引血に含まれる気泡が、このフィルタ部材により消泡される。
【0070】
具体的には、吸引血用の第1フィルタ部材51を通過した吸引血が、吸引血用の第2フィルタ部材52に溜まり始めると、まず、吸引血用の第2フィルタ部材52のメッシュクロス(第1フィルタ部52a)において、吸引血に含まれる異物および気泡が、取り除かれる。次に、目詰まり等でメッシュクロスの血液処理能力が低下すると、吸引血用の第2フィルタ部材52の不織布(第2フィルタ部52b)において、吸引血に含まれる異物および気泡が、取り除かれる。このようにして、吸引血は、吸引血用の第1フィルタ部材51および吸引血用の第2フィルタ部材52、すなわち吸引血濾過手段50により濾過される。
【0071】
すると、吸引血濾過手段50により濾過された血液が、ガイド部材60により、血液流出口11cの方向に導かれる。具体的には、ガイド部材60により導かれた血液が、ハウジング10の突出部11bに貯留される。このようにして、吸引血が、吸引血濾過手段50により濾過され、貯血槽1の下部貯留空間Sbに貯留される。
【0072】
通常の使用状態においては、ガイド部材60の下方は、貯血液の液面下に浸漬した状態である。他方、上記で説明したように、仮に貯血液の液面が低下し、濾過後の吸引血が貯血液の液面に落下する状態となった場合であっても、流れが乱れていない吸引血が貯血液の液面に落下することから、貯血液の液面での気泡の創出を抑制することを可能としている。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 貯血槽、10 ハウジング、11 ハウジング本体、11a 箱形部、11b 突出部、11c 血液流出口、11h 平坦面、11m 貯血量測定領域、11p 曲面、11r リブ、11s 内面、12 蓋体、12a 第1血液流入口、12b 第2血液流入口、20 フィルタ支持ユニット、21 第1支持部材、22 第2支持部材、30,31,32 血液導入管、40 静脈血濾過手段、41 フィルタ部材、50 吸引血濾過手段、51 第1フィルタ部材、51a 鍔部、51b 凹部、52 第2フィルタ部材、52a 第1フィルタ部、52b 第2フィルタ部、60 ガイド部材、122 枠体、122a 板部、122b 連結部材、122c ツメ部、222 フィルタ挟持部材、222a,222b,222c 開口、322 底部材、322a 支持部、322b 通路部、322c 開口部、S 貯留空間、Sa 上部貯留空間、Sb 下部貯留空間。