IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧

<>
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図1
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図2
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図3
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図4
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図5
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図6
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図7
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図8
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図9
  • 特許-ガス発生装置およびガス発生方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ガス発生装置およびガス発生方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20230905BHJP
   G01N 30/04 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
G01N1/00 102D
G01N1/00 101T
G01N30/04 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019193325
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2021067561
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 薫
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋臣
(72)【発明者】
【氏名】田辺 省三
(72)【発明者】
【氏名】小林 信弥
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-222220(JP,A)
【文献】実開昭58-082843(JP,U)
【文献】特開平06-117972(JP,A)
【文献】米国特許第06234001(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0123849(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/ 00 - 1/ 44
B01J20/281 -20/292
G01N30/ 00 -30/ 96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器の校正用のガスを発生させるガス発生装置であって、
液相の物質を保持する担体と、
前記担体が充填された中空部、第1の端部および第2の端部を有し、前記第2の端部側に前記検出器が接続された管状部材と、
前記管状部材の前記第1の端部から前記管状部材の前記中空部内にキャリアガスを供給するガス供給源とを備え、
前記ガス供給源は、前記検出器の校正時に、前記管状部材の前記第2の端部から、前記中空部の温度における蒸気圧および前記キャリアガスの流量に応じた濃度を有する気相の前記物質が発生する流量で、前記キャリアガスを繰り返し供給する、ガス発生装置。
【請求項2】
前記管状部材の前記中空部内の温度を調整可能に構成された温調部をさらに備える、請求項1に記載のガス発生装置。
【請求項3】
前記ガス供給源から前記管状部材の前記中空部内に供給される前記キャリアガスの流量を調整する制御部をさらに備える、請求項2に記載のガス発生装置。
【請求項4】
記制御部は、前記検出器により検出される気相の前記物質の濃度が目標濃度になるように、前記温調部および前記ガス供給源の少なくとも一方を制御する、請求項3に記載のガス発生装置。
【請求項5】
前記管状部材の前記第2の端部の下流側に希釈用ガスを導入することにより、気相の前記物質を希釈するように構成された希釈部をさらに備える、請求項1からのいずれか1項に記載のガス発生装置。
【請求項6】
検出器の校正用の気相の物質を発生させるガス発生方法であって、
担体が充填された中空部、第1の端部および第2の端部を有し、前記第2の端部側に前記検出器が接続され、前記担体に液相の前記物質が保持された管状部材を準備するステップと、
前記検出器の校正時に、前記管状部材の前記第1の端部から前記管状部材の前記中空部内にキャリアガスを繰り返し供給するステップとを備える、ガス発生方法。
【請求項7】
前記管状部材の前記中空部内の温度を調整するステップをさらに備える、請求項に記載のガス発生方法。
【請求項8】
ガス供給源から前記管状部材の前記中空部内に供給する前記キャリアガスの流量を調整するステップをさらに備える、請求項またはに記載のガス発生方法。
【請求項9】
前記管状部材の前記第2の端部から発生する気相の前記物質の濃度を検出するステップをさらに備える、請求項からのいずれか1項に記載のガス発生方法。
【請求項10】
前記管状部材の前記第2の端部から発生する気相の前記物質の濃度を検出するステップ
と、
前記検出するステップにより検出される気相の前記物質の濃度が目標濃度になるように、前記管状部材内に供給する前記キャリアガスの流量および前記管状部材の温度の少なくとも一方を調整するステップとをさらに備える、請求項に記載のガス発生方法。
【請求項11】
前記管状部材の前記第2の端部の下流側に希釈用ガスを導入することにより、気相の前記物質を希釈するステップをさらに備える、請求項に記載のガス発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生装置およびガス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所定のガスを検出するための装置(例えば、匂いセンサ、水素炎イオン化検出器(FID)、ガスクロマトグラフ等)を性能評価または校正するときには、所定の濃度に調整された当該ガスをこれらの装置に複数回供給し、当該ガスを適切に検出できるか否かを判定することが一般的に行なわれる。このような濃度既知のガスを以下、標準ガスとも称する。
【0003】
標準ガスを発生させる一般的な方法として、試料液をフラスコ等の容器中でバブリングさせる方法、あるいは一定量の試料液をバッグに注入し気化させる方法等が知られている。
【0004】
また、特開2010-101685号公報(特許文献1)に開示された標準ガス供給管には、両方の端部が閉塞されたガラス管の内部に有機溶剤を保持した担体が封入されている。この標準ガス供給管の折欠け部を折り欠き、シリンジ等で内部の気体を採取することで、標準ガスを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-101685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような一般的な標準ガスの発生方法は、比較的沸点の高い有機物においては、安定した濃度のガスを得ることができない場合がある。例えば、バブリングによる方法は、蒸気圧が低いため、気液平衡の安定化に時間がかかる。また、バッグを用いる方法では、温度を保つべき体積が大きく、ムラができやすい。また、バッグの耐熱温度によって、かけられる温度に制限がある。
【0007】
特許文献1の技術によれば、沸点の高い有機物を対象とすることも可能である。しかし、この標準ガス供給管では、発生させるガスの流量を調整することが困難である。発生させるガスの流量を制御しなければ、安定した濃度のガスを得ることは難しい。よって、安定した濃度のガスを連続的に得ることができない。
【0008】
それゆえに、本発明の目的は、所望の濃度のガスを安定して発生させることが可能なガス発生装置およびガス発生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従うガス発生装置は、担体と、管状部材と、ガス供給源とを備える。担体は、液相の物質を保持する。管状部材は、担体が充填された中空部を有し、第1の端部および第2の端部を有する。ガス供給源は、管状部材の第1の端部から管状部材の中空部内にキャリアガスを供給する。ガス供給源は、管状部材の第2の端部から、中空部の温度における蒸気圧およびキャリアガスの流量に応じた濃度を有する気相の物質が発生する流量で、キャリアガスを供給する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の濃度のガスを安定して発生させることが可能なガス発生装置およびガス発生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に従うガス発生装置の構成を示す概略図である。
図2】実験に用いた有機物を説明する図表である。
図3】カラムの準備の工程を説明するフローチャートである。
図4】カラムから発生する試料ガスの検出濃度を示す図表である。
図5】カラムから発生する試料ガスの検出値を示す図である。
図6】カラムから発生する試料ガスの検出値の再現性を説明する図表である。
図7】カラムの温度調整による試料ガスの濃度の制御を説明する図である。
図8】試料ガスの検出に複数の装置を使用した場合の、各装置の測定結果の相関を説明する図である。
図9】試料ガスの濃度の制御の一例を示すフローチャートである。
図10】実施の形態の変形例に従うガス発生装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ガス発生装置の構成]
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一の符号を付して、その説明は原則的に繰返さないものとする。
【0013】
図1は、実施の形態に係るガス発生装置100の構成を表わす図である。
図1を参照して、実施の形態に係るガス発生装置100は、ボンベ3a,3b,3jと、マスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)2a,2b,2jと、カラム1と、バルブ4と、水素炎イオン化検出器(FID:Flame Ionization Detector)6と、ガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph)7と、制御部8と、入力部84と、表示部85とを備える。
【0014】
ボンベ3aは、カラム1内に試料を運ぶための不活性ガスであるキャリアガスを供給するガスボンベである。キャリアガスは、窒素、水素、ヘリウム、アルゴン等である。ボンベ3aは、キャリアガスの供給源であれば良く、例えば、キャリアガスを供給する配管等に代えてもよい。
【0015】
MFC2aは、ボンベ3aの下流に接続される。MFC2aは、ボンベ3aから供給されるキャリアガスの質量流量を計測し、流量制御を行なうように構成される。MFC2aは、カラム1に供給されるキャリアガスの流量を制御できる装置の一例である。ボンベ3aおよびMFC2aは、「ガス供給源」の一実施例に対応する。
【0016】
カラム1は、MFC2aの下流に接続される。カラム1は、管状部材10、担体11および隔壁12を含む。管状部材10は、第1の端部10a、第2の端部10bおよび中空部10cを有する。中空部10cには担体11が充填される。また、担体11が充填された箇所の両端に、隔壁12が詰められている。担体11には、液体状態の試料がコーティングされる。隔壁12は、担体11において発生した試料ガスを通過させつつ、試料を保持する担体11が管状部材10から流出しないように封止するストッパーの役割を果たす。なお、上記液体状態の試料および試料ガスは、それぞれ「液相の物質」および「気相の物質」の一実施例に対応する。
【0017】
このように、管状部材10内に充填された担体11表面で試料が液相を形成するようにすると、担体11表面で試料の蒸気圧分がガス状態で存在する。したがって、カラム1は、MFC2aにより管状部材10の第1の端部10aにボンベ3aから所定の流量のキャリアガスが供給されると、管状部材10の第2の端部10bからキャリアガスの流量に応じた濃度の試料ガスを発生するように構成される。これによると、カラム1に供給するキャリアガスの流量を制御することで、カラム1から発生する試料ガスの濃度を制御することができる。したがって、所定流量のキャリアガスをカラム1に繰り返し供給することにより、カラム1から一定濃度の試料ガスを繰り返し発生させることができる。
【0018】
担体11は、好ましくは多孔質担体であり、特に多孔質シリカ担体および珪藻土担体が適している。オクタン等の蒸気圧が高い成分はシリカゲルを利用することが可能である。特に、蒸気圧の高い気化しやすい試料については、吸着性が高い担体を用いることで、安定にガスを発生させることが可能である。
【0019】
隔壁12は、試料ガスを通過させることができる部材であり、例えばシリカウールである。
【0020】
また、カラム1は、予め試料を保持させた状態で、ボンベ3aおよびMFC2aに接続するだけでその試料のガスを安定に発生することができるように構成される。よって、図1に示したガス発生装置100において、上記試料を保持するカラム1を異なる試料を保持する別のカラムに交換するだけで、異なる試料のガスを発生させることができる。
【0021】
恒温部9aは、管状部材10の温度を調整可能に構成された温調部である。恒温部9aは、管状部材10の温度を目標温度に調整することができるように構成される。また、恒温部9aは、管状部材10の温度を一定温度に調整することができるように構成される。恒温部9aは例えば、恒温槽またはリボンヒータにより実現される。
【0022】
恒温部9bは、カラム1からバルブ4までの配管の温度を調整可能に構成された温調部である。恒温部9bは、カラム1からバルブ4までの配管への試料ガスの吸着を防ぐために、高温(望ましくは試料の沸点に近い高温)に維持しておくことが可能に構成される。恒温部9bは例えば、恒温槽またはリボンヒータにより実現される。
【0023】
ボンベ3bおよびMFC2bは、カラム1から発生する試料ガスの希釈に用いられる。ボンベ3bは、試料ガスを希釈するためのガス(希釈用ガス)の供給源である。本実施の形態では、希釈用ガスをキャリアガスと同じ成分のガスとする。MFC2bは、ボンベ3bから供給される希釈用ガスの質量流量をそれぞれ計測し、流量制御を行なう。MFC2bから供給される希釈用ガスは、カラム1とバルブ4との間の混合点41に供給されることにより、カラム1からの試料ガスを希釈する。ボンベ3bおよびMFC2bは、「希釈部」の一実施例に対応する。なお、本実施の形態のように希釈用ガスがキャリアガスと同じ成分のガスである場合、ボンベ3aからMFC2aへの配管を分岐させる等の方法により、ボンベ3aがMFC2bにもガスを供給するように構成してもよい。すなわち、この場合、ボンベ3bとボンベ3aとは同一である。
【0024】
ボンベ3jおよびMFC2jは、ブランクガスの発生および制御に用いられる。ブランクガスは、試料ガスが装置5、FID6およびGC7に供給されない場合に供給される、試料ガスを含まないガスである。本実施の形態では、ブランクガスをキャリアガスと同じ成分のガスとする。MFC2jは、ボンベ3jから供給されるブランクガスの質量流量をそれぞれ計測し、流量制御を行なう。MFC2jから供給されるブランクガスは、バルブ4に供給される。なお、本実施の形態のようにブランクガスがキャリアガスと同じ成分のガスである場合、ボンベ3aからMFC2aへの配管を分岐させる等の方法により、ボンベ3aがMFC2cにもガスを供給するように構成してもよい。すなわち、この場合、ボンベ3cとボンベ3aとは同一である。
【0025】
バルブ4は、混合点41およびMFC2jの下流で、装置5、FID6およびGC7の上流である箇所に接続される。バルブ4は、装置5、FID6およびGC7への試料ガスとブランクガスとの供給を制御する。具体的には、バルブ4は、装置5、FID6およびGC7に供給するガスを試料ガスとブランクガスとで切り替える。また、バルブ4は、装置5、FID6およびGC7各々に供給するガスの比率を調整可能に構成してもよい。
【0026】
装置5、FID6およびGC7は、各々バルブ4の下流に接続され、バルブ4から供給されるガスが導入される。装置5は、ガス発生装置100から発生した試料ガスが供給される対象の一例である。FID6およびGC7は、管状部材10から発生した試料ガスの濃度に基づいた検出値を得られる「検出器」の一実施例に対応する。
【0027】
装置5として、例えば匂いセンサ等の匂いに対する応答を評価したいものを設置することができる。本実施の形態において、装置5は、試料ガス中の試料を検出する匂いセンサであり、検出値を制御部8に出力する。装置5は、例えば、半導体式匂いセンサ、水晶振動子式匂いセンサ、FETバイオセンサまたは膜型表面応力センサである。例えば、半導体式匂いセンサは、半導体表面における匂い分子の吸着と表面反応による半導体の抵抗値を検出値として出力するように構成される。ただし、装置5は、例示した匂いセンサ等の装置に限定されず、ガス発生装置100により評価できるものであればよい。
【0028】
FID6は、試料ガス中の成分が単一の場合に、試料ガスの発生と同時に該成分の濃度をモニタリングすることが可能である。本実施の形態において、FID6は、試料ガス中の有機物を検出する水素炎イオン化検出器であり、検出値を制御部8に出力する。FID6は、有機物がキャリアガスとともに水素炎に入ってきたときに生成される微量のイオンをイオン電流として検出するように構成される。FID6は、FIDに限定されず、例えばバリア放電イオン化検出器(BID:Barrier Discharge Ionization Detector)等、他の試料ガスの濃度を検出する装置であってもよい。
【0029】
GC7は、試料ガス中の各成分を検出するガスクロマトグラフであり、検出値を制御部8に出力する。GC7は、試料ガス中の成分を分離し、それぞれの成分の量に対応する電気信号を制御部8に出力するように構成される。すなわち、GC7では試料ガスが多成分を含む場合に、各成分の濃度を定量することが可能である。GC7は、FIDのための検量線作成にも用いられる。
【0030】
制御部8は、CPU(Central Processing Unit)81と、メモリ82と、インターフェース(I/F)83とを含む。制御部8は、メモリ82に記憶されたプログラムをCPU81が読み出して実行することにより、ガス発生装置100全体を統括的に制御する。
【0031】
制御部8は、I/F83を介して、ユーザインターフェースである入力部84および表示部85と、有線あるいは無線で接続されている。
【0032】
入力部84は、たとえばキーボードあるいはマウスなどのポインティングデバイスであり、ユーザからの指令を受け付ける。表示部85は、たとえば液晶(LCD:Liquid Crystal Display)パネルで構成され、ユーザに情報を表示する。ユーザインターフェースとしてタッチパネルが用いられる場合には、入力部84と表示部85とが一体的に形成される。
【0033】
制御部8は、装置5、FID6およびGC7からの検出値を受信し、適宜処理を行なう。制御部8は、当該処理結果を、ガス発生装置100の各部の制御に反映することが可能なように構成される。また、制御部8は、当該処理結果を、表示部85を用いてユーザに報知することができる。
【0034】
[比較例に係るガス発生装置およびその課題]
次に本実施の形態に係るガス発生装置の動作について説明する。最初に比較例として、一般的なガス発生装置の構成およびその課題について説明する。匂いセンサ、水素炎イオン化検出器、ガスクロマトグラフ等の所定のガスを検出するための装置の性能評価または校正をするためには、所定の濃度に調整されたガス(以下、標準ガスとも称する)が使用される。具体的には、評価対象の装置に標準ガスを繰り返し供給し、当該装置が標準ガスを繰り返し適切に検出できるか否かが確かめられる。
【0035】
標準ガスを調整する手段としては、標準ガスが充填された高圧ガスボンベまたはプッシュ缶を使用する方法が最も簡便である。しかし、比較的沸点の高い有機物、特に匂い成分(例えば、アセトフェノン、オイゲノール、アニソール等)は高温でないと気化しないので、高圧ガスボンベまたはプッシュ缶を使用する方法は実施困難である。
【0036】
また、標準ガスを発生させる一般的な方法としては、試料液をフラスコ等容器中でバブリングさせる方法、一定量の試料液をバッグに注入し気化させる方法および試料液をディフュージョンチューブに入れガスを流す方法等が知られている。各方法の詳細については公知であるので説明を省略する。
【0037】
試料液をフラスコ等容器中でバブリングさせる方法は、気液平衡を安定に、短時間で行なうにはガスの流量のとりうる範囲に限界がある。また、ガスの流量を変化させると、濃度が安定するのに時間を要する。
【0038】
一定量の試料液をバッグに注入し気化させる方法では、バッグへの吸着および外気の影響を受けやすいという課題があり、数時間に及ぶ安定な濃度での使用には問題がある。
【0039】
試料液をディフュージョンチューブに入れガスを流す方法では、担体などを使用していないことから、試料液とガスとが接する表面積が小さいため、安定性が低いという課題がある。
【0040】
よって、いずれの方法においても、比較的沸点の高い有機物においては、安定した濃度のガスを発生させることは困難である。
【0041】
標準ガスを得るその他の方法として、特開2010-101685号公報(特許文献1)には、両方の端部が閉塞されたガラス管の内部に有機溶剤を保持した担体が封入された標準ガス供給管が開示されている。この標準ガス供給管の折欠け部を折り欠き、シリンジ等で内部の気体を採取することで、標準ガスを使用できる。
【0042】
しかしながら、上記標準ガス供給管はガラス管を用いており管全体が比較的短い(全長が50~300mm程度)。また、上記標準ガス供給管はシリンジを用いて内部の気体を採取するので、他の装置無しには、評価対象の装置に当該気体を導入するときの流量を、正確に制御することが困難である。したがって、標準ガス供給管単体では、所望の安定した濃度のガスを発生させることは困難である可能性がある。また、複数本の標準ガス供給管を用いる場合には、全ての標準ガス供給管で標準ガスの濃度にばらつきがないことを保証することも困難である可能性がある。よって、複数の標準ガス供給管を使用しても、やはり所望の安定した濃度のガスを採取することは困難である可能性がある。
【0043】
[本実施の形態に係るガス発生装置の動作]
一方、本実施の形態に係るガス発生装置においては、上記のように、MFC2aによりボンベ3aからカラム1に所定の流量のキャリアガスが供給されると、カラム1からキャリアガスの流量に応じた濃度の試料ガスを発生する。よって、カラム1に一定流量のキャリアガスを繰り返し供給することで、カラム1から一定濃度の試料ガスを繰り返し安定して発生させることができる。
【0044】
さらに、MFC2aはボンベ3aからカラム1に供給されるキャリアガスの流量を調整可能である。カラム1から発生する試料ガスの濃度は、カラム1に供給されるキャリアガスの流量に依存する。よって、MFC2aによってキャリアガスの流量を調整することにより、カラム1から発生する試料ガスの濃度が調整できる。
【0045】
カラム1に供給されるキャリアガスの流量が増えるにしたがって、担体11に保持される試料が気化しやすくなることは、カラム1から発生する試料ガスの濃度を上昇させるように作用する。このようにキャリアガスの流量の増減と試料ガスの濃度の増減との関係性は、試料の担体11への吸着性等の化学的特性に依存する。そして、この化学的特性によって、試料ガスの濃度は、キャリアガスの流量に依存する。よって、ボンベ3a、MFC2aおよびカラム1により、カラム1に供給されるキャリアガスの流量に応じた濃度を有する試料ガスを発生することができる。
【0046】
また、上記したように、カラム1内で発生する試料ガスの濃度は蒸気圧に依存し、蒸気圧はカラム1の温度に依存する。よって、一般には、カラム1の温度が高くなるほど、高い濃度の試料ガスが得られる。よって、恒温部9aにより、カラム1の温度を調整することで、カラム1から発生する試料ガスの濃度を調整できる。したがって、本実施の形態に従うガス発生装置100では、所望の濃度の標準ガスを繰り返し安定して発生することができる。
【0047】
さらに、ガス発生装置100の担体11の表面にコーティングされた液体とガスとの気液平衡状態は、バブリング時の気液平衡状態、および、サンプリングバッグ内、ディフュージョンチューブ内での気液平衡状態と比べ、液体とガスとの接触面積が圧倒的に大きい。そのために、短時間に気液平衡状態が得やすい。さらに本実施の形態においては、担体11として、多孔質担体を使うことで、さらに接触面積を大きくすることが可能である。
【0048】
さらに、本実施の形態においては、バブリング容器のような液面がないため、キャリアガスの流量変更による圧力変化が発生しても、液面変動のような大きな影響を受けにくいという利点もある。
【0049】
また、本実施の形態において、担体11を充填した管状部材10を用いることは、長期間にわたって安定に試料ガスを発生することにも有用である。
【0050】
管状部材10に内径3mm、外径4mm、長さ3mのステンレス管を用いた場合、数ヶ月に及ぶ標準ガスの使用が可能となる。このようなステンレス管は、ガスクロマトグラフィにおけるガス中の成分の分離の工程にも用いられているものである。管状部材10の長さを長くすることで、管状部材10内の担体11の量を多くすることが可能であり、その結果、管状部材10内に保持される試料の量も多くすることが可能である。したがって、カラム1から発生する試料ガスの長期安定性を向上させることができる。
【0051】
本実施の形態では、カラム1から発生する試料ガスを、FID6またはGC7で分析することができる。よって、FID6またはGC7の分析結果を基に、カラム1から発生する試料ガスの有無、濃度、流量等が確認できる。具体的には、当該装置の検出値を基に、恒温部9aの温度およびMFC2aの流量が、試料ガスの有無、濃度、流量等にどう影響するのかを分析することが可能である。よって、当該装置の検出値を基に、恒温部9aの温度およびMFC2aの流量の少なくとも一方の設定を調整することで、ユーザが所望する濃度の試料ガスを繰り返し安定して得ることができる。
【0052】
さらに、本実施の形態に示したような、カラム1から発生する試料ガスを、装置5に供給すると同時に、FID6またはGC7に供給する構成は、装置5の性能を評価する際に有用である。上記のように、匂いセンサ等の装置の性能を評価する時には、所定の濃度の試料ガスを繰り返し装置に供給し、当該濃度と当該装置の検出値との関係が適切であるか否かが確認される。この確認においては、当該装置に供給される試料ガスの濃度が正確に所定の濃度となっているかが重要である。鑑みて、本実施の形態では、装置5の性能を評価する場合に、評価対象の装置5に与える試料ガスの濃度をFID6またはGC7で同時にモニターできる。これによると、評価対象の装置5には、常に濃度がモニターされた状態の標準ガスを供給することが可能となる。これは、評価対象の装置5において、確実に所望の濃度の標準ガスが供給されていることを保証する。よって、評価対象の装置5における、標準ガスの濃度と検出値の関係を示す実験結果も高い信頼性を得ることとなる。したがって、当該装置5の性能の評価にも役立つ。
【0053】
また、ガス発生装置100は、所望の濃度の試料ガスを繰り返し発生させることが必要な装置の一部としても用いることができる。本実施の形態に従うガス発生装置100において、少なくともボンベ3a、MFC2aおよびカラム1を用いると、所望の濃度の試料ガスを繰り返し安定して発生させることが可能である。よって、この最小限の構成要素を含むガス発生装置100の部分を「ガス発生部」と称すると、この「ガス発生部」を組み込んだ装置は、所望の濃度の試料ガスを繰り返し安定して発生させることが可能になる。
【0054】
このような装置の例として、アルツハイマー病の診断に用いられる嗅覚検査装置がある。この例においては、アルツハイマー病の診断に用いる匂い試料をカラム1に担持させておくことで、所望の濃度の当該匂いを繰り返し発生させ、被験者に与えることができる。同様にして、様々な種類の匂いを担持させるカラム1を使用すること、および/または、様々な濃度の匂いを発生させることで、匂いの嗅ぎ分けをトレーニングする装置の一部としても使用が可能である。なお、この例においては、装置5は、被験者の鼻に対応する。
【0055】
以下に、実際に行なった実験結果と共に、本実施の形態に係るガス発生装置の特徴をより詳細に説明する。
【0056】
図2には、実験で試料として使用した高沸点の有機物を説明する図である。実験には、アニソール、アセトフェノン、オイゲノールおよびグアヤコールを使用した。図2を参照して、各々の物質の沸点は155℃~205℃と比較的高いため、上記したようにガスボンベの使用、容器中でのバブリング等の従来の標準ガスの調整手法では、安定した濃度の標準ガスを得ることは困難である。
【0057】
図3は、カラム1を準備する工程を説明するフローチャートである。図3を参照して、ステップS01において、管状部材10に担体11を充填する。本実験においては、全長3mのステンレス製の管状部材10を複数本用意し、各々の管状部材10に多孔質シリカ担体であるシンワソルブ(登録商標)を充填した。また、このように担体11を充填した後、隔壁12で担体11を封止した。
【0058】
ステップS02において、ステップS01で作成した複数本のカラム1の各々の重量を測定する。
【0059】
ステップS03において、ステップS04の準備として、固体または液体状態の試料を溶媒に溶解する等の試料の調製を行なう。本実験においては、カラム1内での試料の流れをよくするために、各試料の50%アセトン溶液を作成した。
【0060】
ステップS04において、カラム1ごとに担体11に液体状態の試料を保持させる。本実験においては、カラム1にステップS03で調製した試料の50%アセトン溶液を通過させた。
【0061】
ステップS05において、カラム1を安定化させる。本実験においては、10ml/分の窒素ガスを1時間通過させることにより、担体11を乾燥させた。このことにより、アセトンを除去し、また、担体11に安定に保持できる量以上に試料が残留することを防ぐことができる。
【0062】
ステップS06において、各カラム1の重量を再び測定する。ステップS06で測定されたカラム1の重量から、ステップS02において測定されたカラム1の重量を差し引くことにより、カラム1に保持された試料の重量(保持量)が計算できる。
【0063】
このようにして準備されたカラム1は、試料の保持量が、ステップS06で計算した保持量の1~2%になるまで使用できる。また、カラム1を実験において使用した後に、再びカラム1の重量を測定することで、試料の消費量と残存量とを計算することができる。そして、この消費量と残存量とを基に、カラム1の残存寿命を推定することが可能である。
【0064】
図4は、実際に図3の工程で準備された複数のカラム1の一部のカラムにおいて、各々発生した試料ガスの検出濃度を示す図表である。図4に示したようにオイゲノール、グアヤコール、アセトフェノンおよびアニソールを各々保持するカラム1に、5ml/分~25ml/分の流量のキャリアガスを供給すると、カラム1から各成分を含む試料ガスが発生することが確認された。
【0065】
図5は、カラム1から発生する試料ガスのFID6による検出値を示す図である。具体的には、アセトフェノンを充填したカラム1に、1分半間隔で連続5回、同一流量のキャリアガスを流すことにより、試料ガスを発生させた場合のFID6の検出値の変化を示す。図5を参照して、横軸は時間を示し、縦軸はFID6の検出値である電圧値(μV)を示す。図5から、カラム1にキャリアガスを流すごとに、ほぼ同一の高さおよび形状を有するピークがFID6において検出されていることが分かる。
【0066】
図6は、図5で検出した各ピークの面積値を計算した結果を示す図表である。また、図6には、各ピークの面積値の再現性の指標となる標準偏差および相対標準偏差を計算した結果も合わせて示している。図6を参照して、各ピークの面積値の相対標準偏差は2.0%であることから、各ピークの面積値のばらつきは小さいことが分かる。
【0067】
図5および図6からは、カラム1から発生される試料ガスの検出値は再現性が高いといえる。すなわち、ガス発生装置100において、一定濃度の試料ガスが繰り返し安定して発生していることが分かる。
【0068】
さらに、約1ヶ月の期間で試料ガスの濃度がほぼ一定値を維持していることが確認された。
【0069】
図7は、カラムの温度調整による試料ガスの濃度の制御を説明する図である。図7のグラフは、オイゲノールを保持するカラム1の温度をリボンヒータを用いて様々な値に調整した場合の、GC7の検出値の変化を示すグラフである。図7を参照して、横軸はカラム1の温度を示し、縦軸はGC7の検出値である電圧値(μV)を示す。図7から、カラム1の温度が高くなるほど、GC7の検出値が高くなることが分かる。GC7の検出値は、カラム1から発生する試料ガスの濃度に比例する。すなわち、カラム1の温度が高くなるほど、カラム1から発生する試料ガスの濃度が高くなる。これによると、カラム1の温度を調整することによって、試料ガスの濃度を制御できることが分かる。
【0070】
図8は、試料ガスの検出に複数の装置を使用した場合の、各装置の検出値の相関を説明する図である。図8では、一定温度下のカラム1に一定流量のキャリアガスを繰り返し供給した場合の、FID6の応答(図8(A))および匂いセンサの応答(図8(B))を示す。図8の横軸は時刻である。時刻t1~t2,t3~t4,t5~t6の時間は、カラム1にキャリアガスを供給したタイミングを示す。図8の縦軸は各々FID6の検出値であるイオン電流値(A)(図8(A))および匂いセンサの検出値である抵抗値(Ω)(図8(B))を示す。
【0071】
図8(A)からは、FID6が試料ガスの発生を検出していることが分かる。図8(B)からは、匂いセンサが試料ガスの発生を検出していることが分かる。図8(A)と図8(B)とを比較すると、FID6による試料ガスの検出と匂いセンサによる試料ガスの検出とは同時となっている。このように、カラム1の下流の複数の装置で同時に試料ガスがモニターできるので、1つの装置を性能評価または校正するために、他の装置の検出値を利用することができる。
【0072】
図9は、本実施の形態に係るガス発生装置から発生する試料ガスの濃度の制御の一例を示すフローチャートである。図9のフローチャートは、制御部8によって実行される。
【0073】
ステップS11において、制御部8は、試料ガスの目標濃度を受信すると、メモリ82に目標濃度を記憶する。この目標濃度は、例えば、ユーザによって入力部84に入力され、入力部84から制御部8のI/F83に出力される。
【0074】
ステップS12において、制御部8は、カラム1において目標濃度の試料ガスを発生させるための、MFC2aから供給するキャリアガスの流量、MFC2bから供給する希釈用ガスの流量および/または恒温部9a,9bの温度を設定する。例えば、目標濃度が高くなるに従って、恒温部9a,9bの温度も高くなるように設定される。また、制御部8は、MFC2a,2bおよび/または恒温部9a,9bに、設定した流量および温度を指令する。MFC2a,2bは、当該指令に基づいて、カラム1に供給されるキャリアガスおよび希釈用ガスの流量をそれぞれ調整する。恒温部9a,9bは、当該指令に基づいて、カラム1および配管の温度をそれぞれ調整する。そして、当該カラム1の流量および温度に基づいてカラム1から発生した試料ガスは、FID6によって検出される。
【0075】
ステップS13において、制御部8は、FID6の検出値を受信すると、受信した検出値をメモリ82に記憶する。ステップS14において、制御部8は、メモリ82に記憶されたFID6の検出値を基に、実際にカラム1で発生した試料ガスの濃度である検出濃度を算出する。
【0076】
ステップS15において、制御部8は、検出濃度は目標濃度範囲内にあるか否かを判定する。具体的には、制御部8は、検出濃度が目標濃度を含む許容範囲(例えば目標濃度±k)に含まれるか否かを判定する。
【0077】
検出濃度が目標濃度範囲内にある場合(ステップS15においてYES)、制御部8は処理をメインルーチンに戻す。
【0078】
一方、検出濃度が目標濃度範囲内にない場合(ステップS15においてNO)、制御部8は当該検出濃度と目標濃度との偏差を基に、目標濃度の試料ガスを発生させるための、MFC2a,2bの流量および/または恒温部9a,9bの温度を再設定する。例えば、温度制御については、試料毎に試料ガスの濃度とカラム温度との関係を予め取得しておき、当該関係を参照することにより、偏差をなくすための温度の補正量を設定することができる。また、キャリアガスの流量制御については、試料毎に試料ガスの濃度とキャリアガスの流量との関係を予め取得しておき、当該関係を参照することにより、偏差をなくすための流量の補正量を設定することができる。また、制御部8は、MFC2a,2bおよび/または恒温部9a,9bに、再設定した流量および温度を指令し、処理をメインルーチンに戻す。
【0079】
以上のように、本実施の形態に係るガス発生装置100においては、試料を保持したカラム1に対し、一定流量のキャリアガスを繰り返し供給することにより、キャリアガスの流量に応じた濃度の試料ガスを繰り返し発生する発生させることができる。さらに、恒温部9aによる温度調整、および、MFC2aによるキャリアガスの流量の調整を行なうことで、カラム1から発生する試料ガスの濃度を制御することができる。その結果、ガス発生装置100から、所望の濃度の標準ガスを安定して発生させることができる。
【0080】
[変形例]
図10は、実施の形態の変形例に従うガス発生装置100Aの構成を示す概略図である。ガス発生装置100Aが、図1に示したガス発生装置100と異なる点は、複数のカラム1a~1dを備える点である。ガス発生装置100Aでは、カラム1a~1dにおいて試料ガスを発生させるためにボンベ3a~3hおよびMFC2a~2hが備えられる。また、ガス発生装置100Aでは、希釈用のボンベ3iおよび対応するMFC2iも備えられる。
【0081】
カラム1aは、MFC2aを介してボンベ3aの下流に接続され、MFC2aを介してボンベ3aのキャリアガスが供給される。カラム1aから発生する試料ガスの濃度は、恒温部9aの温度調整およびMFC2aの流量調整により制御することができる。カラム1aから発生した試料ガスは、ボンベ3bからMFC2bを介して供給される希釈用ガスにより混合点41aにおいて適宜希釈される。
【0082】
カラム1bは、MFC2cを介してボンベ3cの下流に接続され、MFC2cを介してボンベ3cのキャリアガスが供給される。カラム1bから発生する試料ガスの濃度は、恒温部9aの温度調整およびMFC2cの流量調整により制御することができる。カラム1bから発生した試料ガスは、ボンベ3dからMFC2dを介して供給される希釈用ガスにより混合点41bにおいて適宜希釈される。
【0083】
カラム1cは、MFC2eを介してボンベ3eの下流に接続され、MFC2eを介してボンベ3eのキャリアガスが供給される。カラム1cから発生する試料ガスの濃度は、恒温部9aの温度調整およびMFC2eの流量調整により制御することができる。カラム1cから発生した試料ガスは、ボンベ3fからMFC2fを介して供給される希釈用ガスにより混合点41cにおいて適宜希釈される。
【0084】
カラム1dは、MFC2gを介してボンベ3gの下流に接続され、MFC2gを介してボンベ3gのキャリアガスが供給される。カラム1dから発生する試料ガスの濃度は、恒温部9aの温度調整およびMFC2gの流量調整により制御することができる。カラム1dから発生した試料ガスは、ボンベ3hからMFC2hを介して供給される希釈用ガスにより混合点41dにおいて適宜希釈される。
【0085】
カラム1a~カラム1dの各々から発生する試料ガスは、混合点41a~41dとバルブ4との間の混合点42で混合される。ここで、カラム1a~カラム1dの少なくとも2つのカラムで異なる試料を保持するように構成すれば、混合点42では当該試料の混合ガスが得られる。このようにカラム1を複数並列させ、多種類のガス発生に対応するようにすれば、簡易に複数の試料の混合ガスを発生できる。
【0086】
ボンベ3iおよびMFC2iは、混合点42において混合された混合ガスの希釈に用いられる。ボンベ3iは、混合ガスを希釈するためのガスの供給源である。本実施の形態では、ボンベ3a~3h,3jと同じ種類のガスが充填されたガスボンベであるとする。MFC2iは、ボンベ3iから供給される希釈用ガスの質量流量をそれぞれ計測し、流量制御を行なう。MFC2iから供給される希釈用ガスは、混合点42とバルブ4との間の混合点43に供給されることにより、混合点42における混合ガスを希釈する。当該希釈されたガスは、バルブ4に供給される。
【0087】
以上のように、本実施の形態の変形例に係るガス発生装置100Aにおいても、上述したガス発生装置100と同様に、試料を安定的に保持させたカラム1に対し、ボンベ3aおよびMFC2aによりキャリアガスを供給することで、カラム1から試料ガスを発生させることができる。また、その際のカラム1の温度およびキャリアガスの流量を制御することができる。さらに、異なる試料を保持するカラム1を並列に接続することで、簡易に複数の試料の混合ガスも発生できる。
【0088】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0089】
(第1項)一態様に係るガス発生装置は、液相の物質を保持する担体と、前記担体が充填された中空部を有し、第1の端部および第2の端部を有する管状部材と、前記管状部材の前記第1の端部から前記管状部材の前記中空部内にキャリアガスを供給するガス供給源(3a,2a)とを備える。前記ガス供給源は、前記管状部材の前記第2の端部から、前記中空部の温度における蒸気圧および前記キャリアガスの流量に応じた濃度を有する気相の前記物質が発生する流量で、前記キャリアガスを供給してよい。
【0090】
第1項に記載のガス発生装置によれば、所望の濃度のガスを安定して発生させることが可能である。
【0091】
(第2項)第1項に記載のガス発生装置において、前記管状部材の前記中空部内の温度を調整可能に構成された温調部をさらに備えてよい。
【0092】
管状部材内で発生する試料ガスの濃度は蒸気圧に依存し、蒸気圧は管状部材の温度に依存する。よって、第2項に記載のガス発生装置によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を制御できる。
【0093】
(第3項)第2項に記載のガス発生装置において、前記ガス供給源から前記管状部材の前記中空部内に供給される前記キャリアガスの流量を調整する制御部をさらに備えてよい。
【0094】
管状部材から発生する試料ガスの濃度は、ガス供給源から管状部材の中空部内に供給されるキャリアガスの流量に依存する。よって、第3項に記載のガス発生装置によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を制御できる。
【0095】
(第4項)第1~3項のいずれか1項に記載のガス発生装置において、前記管状部材の前記第2の端部から発生した気相の前記物質の濃度を検出する検出器をさらに備えてよい。
【0096】
第4項に記載のガス発生装置によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を検出できる。
【0097】
(第5項)第3項に記載のガス発生装置において、前記管状部材の前記第2の端部から発生した気相の前記物質の濃度を検出する検出器をさらに備え、前記制御部は、前記検出器により検出される気相の前記物質の濃度が目標濃度になるように、前記温調部および前記ガス供給源の少なくとも一方を制御してよい。
【0098】
第5項に記載のガス発生装置によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度が検出できる。また、検出された濃度が目標濃度範囲内にない場合、当該検出された濃度と目標濃度との偏差を基に、温調部および/またはガス供給源の設定を調整することで、管状部材から発生する試料ガスの濃度を目標濃度に近づけることができる。
【0099】
(第6項)第1~5項のいずれか1項に記載のガス発生装置において、前記管状部材の前記第2の端部の下流側に希釈用ガスを導入することにより、気相の前記物質を希釈するように構成された希釈部をさらに備えてよい。
【0100】
第6項に記載のガス発生装置によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を、希釈することで調整することができる。例えば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を、匂いセンサ等の匂いに対する応答を評価したい装置に供給するのに適した濃度に調整できる。
【0101】
(第7項)一態様に係るガス発生方法は、気相の物質を発生させるガス発生方法であって、担体が充填された中空部、第1の端部および第2の端部を有し、前記担体に液相の前記物質が保持された管状部材を準備するステップと、前記管状部材の前記第1の端部から前記管状部材の前記中空部内にキャリアガスを供給するステップとを備えてよい。
【0102】
第7項に記載のガス発生方法によれば、所望の濃度のガスを安定して発生させることが可能である。
【0103】
(第8項)第7項に記載のガス発生方法において、前記管状部材の前記中空部内の温度を調整するステップをさらに備えてよい。
【0104】
管状部材内で発生する試料ガスの濃度は蒸気圧に依存し、蒸気圧は管状部材の温度に依存する。よって、第8項に記載のガス発生方法によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を制御できる。
【0105】
(第9項)第7または8項に記載のガス発生方法において、前記ガス供給源から前記管状部材の前記中空部内に供給する前記キャリアガスの流量を調整するステップをさらに備えてよい。
【0106】
管状部材から発生する試料ガスの濃度は、管状部材内に供給されるキャリアガスの流量に依存する。よって、第9項に記載のガス発生方法によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を制御できる。
【0107】
(第10項)第7~9項のいずれか1項に記載のガス発生方法において、前記管状部材の前記第2の端部から発生する気相の前記物質の濃度を検出するステップをさらに備えてよい。
【0108】
第10項に記載のガス発生方法によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度が検出できる。
【0109】
(第11項)第7に記載のガス発生方法において、前記管状部材の前記第2の端部から発生する気相の前記物質の濃度を検出するステップと、前記検出するステップにより検出される気相の前記物質の濃度が目標濃度になるように、前記管状部材内に供給する前記キャリアガスの流量および前記管状部材の温度の少なくとも一方を調整するステップとをさらに備えてよい。
【0110】
第11項に記載のガス発生方法によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度が検出できる。また、検出された濃度が、目標濃度範囲内にない場合、当該検出された濃度と目標濃度との偏差を基に、温調部および/またはガス供給源の設定を調整することで、管状部材から発生する試料ガスの濃度を目標濃度に近づけることができる。
【0111】
(第12項)第7に記載のガス発生方法において、前記管状部材の前記第2の端部の下流側に希釈用ガスを導入することにより、気相の前記物質を希釈するステップをさらに備えてよい。
【0112】
第12項に記載のガス発生方法によれば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を、希釈することで調整することができる。例えば、管状部材から発生する試料ガスの濃度を、匂いセンサ等の匂いに対する応答を評価したい装置に供給するのに適した濃度に調整できる。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0114】
1,1a~1d カラム、3a~3j ボンベ、4 バルブ、5 装置、6 FID、7 GC、8 制御部、9a,9b 恒温部、10 管状部材、10a 第1の端部、10b 第2の端部、11 担体、12 隔壁、41,41a~41d,42,43 混合点、82 メモリ、84 入力部、85 表示部、100,100A ガス発生装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10