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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】測温用具
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20230905BHJP
   G01K 7/02 20210101ALI20230905BHJP
【FI】
G01K1/08 P
G01K7/02 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019200503
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021076378
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】山下 正和
(72)【発明者】
【氏名】塚田 尚久
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-086274(JP,A)
【文献】特開2002-022548(JP,A)
【文献】実開昭62-112167(JP,U)
【文献】特開昭52-097778(JP,A)
【文献】実開昭52-107682(JP,U)
【文献】特開平06-003196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製の外管と、
上記外管の中空部内に同軸心状に挿入されたセラミック製の内管と、
上記内管の中空部内の中心軸に沿って挿入された熱電対と、
上記内管の中空部内で且つ上記熱電対を包囲して充填された耐火物の粉末充填部とを備え、
上記外管または上記内管の何れか一方の先端側に開放した開口部を有し、且つ残る他方の前記外管または前記内管の先端側に閉塞部を有する、
ことを特徴とする測温用具。
【請求項2】
前記内管を構成するセラミックは、ムライト、アルミナ、ジルコニアの一種または2種以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の測温用具。
【請求項3】
前記粉末充填部を構成する耐火物は、マグネシア、ジルコニア、カルシアの一種または2種以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の測温用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、溶鋼を冷却する際の温度を測定するための測温用具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、溶鋼の温度を高精度で素早く検出するため、中心軸に沿って配置した鉄ロッドと、該鉄ロッドを包囲して外装する高純度アルミナ製の内部絶縁管と、該内部絶縁管の周囲を覆い且つ先端側が開放しているか、または閉じた有底形のモリブデン管と、該モリブデン管の先端側を除く周囲に外装する高純度アルミナ製の外部絶縁管と、を備えた熱電対式温度計が提案されている(例えば、特許文献1参照)。前記鉄ロッドとモリブデン管とは、熱電対を形成している。
しかし、前記熱電対式温度計のように、鉄ロッドとモリブデン管とからなる熱電対では、大気雰囲気中における溶鋼の温度を測定することが困難である。
【0003】
一方、先端部以外をアルミナ絶縁管で覆った熱電対と、先端が密閉された内部(中空部の中心軸付近)に前記熱電対を挿入できる耐溶損性の筒状耐火物と、該筒状耐火物の外周に設けた易溶損性または燃焼性物質層とからなり、耐熱衝撃性に優れた測温用熱電対保護管も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかし、前記測温用熱電対保護管のように、熱電対の周囲に空隙を置いて複数の絶縁管で保護した場合、全体の構造が複雑となると共に、溶鋼を所定の温度域から冷却した際に、降下し始める初期の温度履歴を正確に捉えることが困難となる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-142059号公報(第1~6頁、図1~5)
【文献】特開平6-323918号公報(第1~5頁、図1~2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、大気中を含む種々の雰囲気中における溶鋼などの温度を応答性良く正確且つ迅速に測定でき、耐久性にも優れた測温用具を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、熱電対を内外2重の保護管で囲み、且つ前記熱電対と内管との間に伝熱性を有する耐火物の粉末を充填する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の測温用具(請求項1)は、ガラス製の外管と、該外管の中空部内に同軸心状に挿入されたセラミック製の内管と、該内管の中空部内の中心軸に沿って挿入された熱電対と、前記内管の中空部内で且つ上記熱電対を包囲して充填された耐火物の粉末充填部とを備え、上記外管または上記内管の何れか一方の先端側に開放した開口部を有し、且つ残る他方の前記外管または前記内管の先端側に閉塞部を有する、ことを特徴とする。
【0007】
記測温用具によれば、以下の効果(1),(2)が得られる。
(1)同軸心状に配置された前記外管および内管と、該内管の中空部内の中心軸に沿って挿入された熱電対と、該熱電対を包囲しつつ前記内管の中空部内に充填された耐火物の粉末充填部とを備え、外管または内管の何れか一方の先端側に開放した開口部を有し、且つ残る他方の先端側に閉塞部を有している。その結果、溶鋼中に先端側を浸漬した際に、該溶鋼の熱は、外管または内管の何れか一方の先端側と粉末充填部とを介して、前記熱電対に素早く伝達されるので、前記溶鋼の温度を応答性良く正確且つ迅速に検出することが可能となる。
(2)先端側を除いた前記外管および内管の2重構造によって、溶鋼の熱から防護されているので、軟化による曲がり変形や熱応力による割れを生じにくく、長時間に亘る測温においても、使用に耐える耐久性を有している。
【0008】
尚、前記測温用具は、溶鋼などの溶融金属の冷却速度を精度良く迅速に測定するものである
また、前記外管は、例えば、石英ガラスからなり、外径が6mmで内径が5mmのものが例示される
【0009】
に、前記内管は、例えば、ムライトからなり、外径が5mmで内径が3mmのものが例示される。
また、前記閉塞部は、側面視で半球形状であるか、短径に沿ってほぼ2分割した半長円形状または半楕円形状を呈する。
更に、前記耐火物の粉末は、耐火性、耐熱性、および伝熱性を併有し、その粒径は、例えば、MgOの場合、0.3~1mmの範囲にある。該耐火物の前記内管の中空部内への充填時の見かけ密度は、約1×10-4g/mm3以上が望ましい。
【0010】
また、前記熱電対には、例えば、B熱電対が用いられる。
更に、前記測温用具の溶鋼中への浸漬深さは、約5~12cmの範囲である。
また、測定温度の望ましい応答性は、溶鋼(例えば、SUJ2)を1600℃台から降温した際、溶鋼および鋳造物における実際の温度と、前記測温用具で検知される温度との時間差が20秒以下、より望ましくは10秒以下である。
加えて、前記測温用具の耐久時間は、例えば、10分以上で2時間以下、より望ましくは2時間超である。
【0011】
更に、本発明には、前記内管を構成するセラミックは、ムライト、アルミナ、ジルコニアの一種または2種以上である、測温用具(請求項)も含まれる。
これによれば、前記セラミックが、耐熱性および熱衝撃特性に優れているので、前記測温用具による前記効果(2)を一層確実に得ることができる。
【0012】
加えて、本発明には、前記粉末充填部を構成する耐火物は、マグネシア、ジルコニア、カルシアの一種または2種以上である、測温用具(請求項)も含まれる。
これによれば、前記耐火物が高温での絶縁性に優れ且つ熱伝導率も良好であるため、前記測温用具による前記効果(1)を一層確実に得ることが可能となる。
尚、前記耐火物の熱伝導率は、1cal/s・m・℃(室温~1000℃)以上であることが推奨される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(A)、(B)は、本発明による実施例の測温用具を示す断面図、(C)は、参考形態の測温用具を示す断面図
図2】(A)~(E)は、比較例の測温用具を示す断面図。
図3】(A)は、実施例の測温用具を用いた溶鋼の温度および時間の経過を示すグラフ、(B)は、比較例の測温用具を溶鋼の温度および時間の経過を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1(A)、(B)は、実施例の測温用具1a,1bを示す断面図図1(C)は、参考形態の測温用具1cを示す断面図である。尚、図1と、後述する図2とでは、図示の左側を先端側と称している。
前記測温用具1aは、図1(A)に示すように、石英ガラスからなり、且つ先端側に半球形状の閉塞部3を有する外管2と、該外管2の中空部内に同軸心状に挿入され、且つ先端側に開口部6を有するムライト(3Al23・2SiO2、セラミック)製の内管5と、を備えている。該内管5の中空部内の中心軸に沿って熱電対9が挿入されていると共に、該熱電対9を包囲しつつ前記内管5の中空部内および前記外管2の閉塞部3の内側には、マグネシア(MgO、耐火物)の粉末を充填した粉末充填部8が配設されている。
【0015】
また、前記測温用具1bは、図1(B)に示すように、石英ガラスからなり、且つ先端側に開口部4を有する外管2と、該外管2の中空部内に同軸心状に挿入され、且つ先端側に前記同様の閉塞部7を有するムライト製の内管5と、を備えている。該内管5の中空部内の中心軸に沿って熱電対9が挿入されていると共に、該熱電対9を包囲しつつ前記内管5の中空部内には、マグネシアの粉末を充填した粉末充填部8が配設されている。
更に、前記測温用具1cは、図1(C)に示すように、石英ガラスからなり、且つ先端側に閉塞部3を有する外管2と、該外管2の中空部内に同軸心状に挿入され、且つ先端側に閉塞部7を有するムライト製の内管5と、を備えている。該内管5の中空部内の中心軸に沿って熱電対9が挿入されていると共に、該熱電対9を包囲しつつ前記内管5の中空部内には、マグネシアの粉末を充填した粉末充填部8が配設されている。
【0016】
前記測温用具1a~1cにおける前記外管2は、外径が6mmで且つ内径が5mmであり、前記内管5は、外径が5mmで且つ内径が3mmである。
また、前記測温用具1aにおける前記外管2の閉塞部3の頂部と前記内管5の開口部6との軸方向に沿った長さは、約3mmである。
更に、前記測温用具1bにおける前記外管2の開口部4と前記内管5の閉塞部7の頂部との軸方向に沿った長さも、前記と同様である。
また、前記粉末充填部8を構成する前記マグネシアの粉末の粒径は、約0.3~1mmの範囲にある。
加えて、前記熱電対9は、一対の素線(白金・ロジウム30%~白金・ロジウム6%)の先端同士間に測温接点10を配置したB熱電対である。
【0017】
前記のような測温用具1a、1bによれば、同軸心状に配置された外管2および内管5と、該内管5の中空部内の中心軸に沿って挿入された熱電対9と、該熱電対9を包囲しつつ内管5の中空部内に充填された耐火物の粉末充填部8とを備え、外管2または内管5の何れか一方の先端側に開放した開口部4,6を有し、且つ残る他方の先端側に閉塞部3,7を有している。そのため、溶鋼中に先端側を浸漬した際に、該溶鋼の熱は、外管2または内管5の何れか一方の先端側と粉末充填部8とを介して、前記熱電対9の測温接点10に素早く伝達されるので、前記溶鋼の温度を正確且つ応答性良くに検出することが可能となる。
更に、先端側を除いて前記外管2および内管5の2重構造によって、溶鋼の熱から防護されているので、軟化による曲がり変形や熱応力による割れを生じにくく、長時間に亘る測温においても、使用に耐える耐久性も有している。
従って、測温用具1a、1bは、前記効果(1),(2)を併有している。
【0018】
一方、前記のような参考形態の測温用具1cによれば、何れの先端側にも閉塞部3,7を有する前記外管2および内管5と、前記同様の熱電対9およびマグネシアの粉末充填部8とを備えているので、前記測温用具1a1bに比べて、測定温度の迅速(応答)性では前記効果(1)よりも僅かに劣っているものの、耐久性の点では前記効果(2)よりも優れたものとなっている
【実施例
【0019】
以下において、前記測温用具1a,1bの実施例と前記測温用具1cの参考例について、各種の比較例と併せて説明する。
予め、前述した構造および寸法を有する測温用具1a~1cの実施例1,2と参考例を1本ずつ用意した。
一方、図2(A)~(E)に示す比較例1~5の測温用具11~15を1本ずつ用意した。
比較例1の測温用具11は、図2(A)に示すように、参考例の前記測温用具1cからマグネシア(耐火物)の粉末充填部8を取り除いたものである。
また、比較例2の測温用具12は、図2(B)に示すように、先端側に閉塞部3を有する前記外管2と、その中空部内の中心軸に沿って前記熱電対9とを配置したものである。
【0020】
更に、比較例3の測温用具13は、図2(C)に示すように、先端側に閉塞部7を有する前記内管5と、その中空部内の中心軸に沿って前記熱電対9とを配置したものである。尚、上記内管5の外径は6mmで且つ内径が5mmである。
また、比較例4の測温用具14は、図2(D)に示すように、先端側に開口部6を有する前記内管5と、その中空部内の中心軸に沿って前記熱電対9とを配置したものである。該熱電対9の測温接点10の位置は、前記開口部6とほぼ一致している。
加えて、比較例5の測温用具15は、図2(E)に示すように、純鉄からなり且つ先端側に半球形状の閉塞部17を有する金属管16と、その中空部内の中心軸に沿って配置した前記同様の熱電対9と、該熱電対9を包囲しつつ前記金属管16の中空部内に前記同様のマグネシアの粉末を充填した粉末充填部8とを備えている。尚、前記金属管16は、外径が5mmで且つ内径が4mmである。
【0021】
更に、大気中において配置した図示しない誘導加熱式のルツボ内で、50kgの鋼(SUJ2:高炭素クロム軸受鋼)を溶解して1600℃超とした溶鋼中に、前記実施例1,2および参考例の測温用具1a~1cと、比較例1~5の測温用具11~15とを、個別に先端側から垂直に同じ深さで浸漬して、順次冷却しつつ凝固させた。
これらの冷却過程における実施例1,2および参考例の測温用具1a~1cと、比較例1,3の測温用具11,13とにおける温度と経過時間との関係を、図3(A),(B)のグラフ中に示した。
併せて、前記実施例1,2および参考例の測温用具1a~1cと、比較例1~5の測温用具11~15とについての評価および挙動を表1中に示した。尚、該表1中の下段は、温度応答性と耐久性との各判定基準を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
図3(A)に示すように、実施例1,2の測温用具1a,1bの場合には、外管2,内管5の何れか一方に開口部4,6を有し且つ熱電対9を前記粉末充填部8で包囲した構造であるため、ピーク温度として1600℃付近を検出した後、所要の冷却速度の範囲内において連続的に冷却していった温度履歴を検出することができた。
また、参考例の測温用具1cの場合には、外管2および内管5の先端側の双方に閉塞部3,7を個別に有しているため、ピーク温度の応答性が実施例1,2の測温用具1a,1bの場合よりも僅かに低下したが、その後は所要の冷却速度の範囲内において連続的に冷却していった温度履歴を検出することができた。
【0024】
一方、図3(B)に示すように、比較例1の測温用具11の場合には、参考例の測温用具1cから粉末充填部8を除去し、且つ熱電対9が空隙に囲まれているため、ピーク温度の応答性が実施例1、2、参考例の測温用具1a~1cおける何れの場合よりも低下していた。
更に、比較例3の測温用具13の場合には、前記内管5の中空部内に熱電対9を空隙を介して挿入している構造のため、冷却過程において前記内管5に割れが生じたことで、耐久性に問題があることが判明した。
【0025】
尚、比較例2の測温用具12の場合には、前記外管2の中空部内に空隙を介して熱電対9を挿入している構造のため、該外管2が全長において軟化により径方向に曲がったことで、耐久性に問題があることが判明した。
また、比較例4,5の測温用具14,15の場合には、前記構造であるため、何れも溶鋼からの熱を過度に受けて、熱電対9の素線が溶損したことにより、測温不能となり、耐久性に問題があることが判明した。
以上のような実施例1,2の測温用具1a,1bの結果によれば、本発明の優位性が容易に理解される。
【0026】
本発明は、前記実施形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、前記外管2および内管5ごとの外径と内径とは、測温上で支障のない範囲内で適宜変更しても良い。
また、前記内管5を構成するセラミックは、アルミナまたはジルコニアなどの耐火物としても良い。
更に、前記測温用具の長さやその浸漬深さは、測温上支障のない範囲で適宜変更しても良い。
【0027】
更に、前記粉末充填部8を構成する耐火物の粉末は、カルシアまたはジルコニアとしても良いし、前記マグネシア、カルシア、およびジルコニアの二種以上の粉末を混合したものでも良い。
また、前記熱電対9は、前記B熱電対に限らず、実施上で支障のないものを用いても良い。
加えて、本発明の測温用具は、前記溶鋼に限らず、銅、チタン、ニッケル、錫、あるいはこれらの何れかをベースとする合金の溶融物の測温にも適用し得る。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、大気中を含む各種の雰囲気中における溶鋼などの温度を応答性良く正確且つ迅速に測定でき、耐久性にも優れた測温用具を提供できる。
【符号の説明】
【0029】
1a,1b…測温用具
2……………外管
3,7………閉塞部
4,6………開口部
5……………内管
8……………粉末充填部
9……………熱電対
図1
図2
図3