(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】円筒状成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 11/04 20060101AFI20230905BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20230905BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20230905BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230905BHJP
C08F 8/06 20060101ALI20230905BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20230905BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
F16L11/04
C08L23/08
C08L23/02
C08L23/12
C08F8/06
C08J5/00 CES
C08J3/24 A
(21)【出願番号】P 2019209837
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中出 宏
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097964(WO,A1)
【文献】特開平10-131666(JP,A)
【文献】特開平07-091588(JP,A)
【文献】特開平02-098425(JP,A)
【文献】特開2018-083937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/04
C08L 23/08
C08L 23/02
C08L 23/12
C08F 8/06
C08J 5/00
C08J 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を成形してなる円筒状成形体
であって、
前記ポリオレフィン組成物が更に過酸化物と不飽和シラン化合物を含み、該過酸化物と該不飽和シラン化合物で架橋されてなる円筒状成形体。
【請求項2】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体と前記ポリオレフィンの合計100質量%に占める該ポリオレフィンの割合が2~50質量%である、請求項1に記載の円筒状成形体。
【請求項3】
前記ポリオレフィンが、プロピレン単位を主成分とするプロピレン系重合体である、請求項1又は2に記載の円筒状成形体。
【請求項4】
示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンとの合計100質量部に対して、過酸化物0.01~1.00質量部
と不飽和シラン化合物0.1~5.0質量部を配合し、これを成形する、円筒状成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン組成物からなる円筒状成形体に係り、特に外観が良好で、耐熱間内圧クリープ性能に優れ、さらに柔軟で曲げ伸ばしや施工時の作業性に優れる架橋ポリオレフィン円筒状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
給水給湯、床暖房、ロードヒーティング等に使用される水道水パイプ、暖房用パイプ等の円筒状成形体や、飲料チューブ、液体食品移送チューブ、圧縮空気配送チューブ等の工業用円筒状成形体には、内容物の漏れ防止の観点からパイプクリープ破壊時間の長い耐久性が要求される。
【0003】
従来、耐久性の観点から長いパイプクリープ破壊時間が要求される用途に用いられる円筒状成形体製品には、高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを架橋した架橋ポリエチレン管が用いられてきた。しかし、架橋ポリエチレン管は、結晶部が多いため密度が高く硬度が高いことから、曲げ難く、作業性や施工性に課題があった。また十分に密度の低い直鎖状低密度ポリエチレンから得られる架橋ポリエチレンは、結晶部が少なくまた結晶の融点も低いため、熱水の通水に耐えられず、沸騰に近い状態の熱水を、水圧をかけて通水するとすぐに破裂してしまうという課題があった。
【0004】
特許文献1には、特定のMFR及び密度を有する高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンを用いた架橋ポリエチレン管状成形体が提案されている。特許文献1の実施例では、密度0.940~0.943g/cm3のポリエチレンを使用して、シラン架橋ポリエチレン管状成形体を製造している。
特許文献1の変性ポリオレフィン組成物においては、密度が0.940~0.943g/cm3と高いため、結晶部が多く、硬度が高くなることから、管状成形体の曲げ伸ばし性や施工性の悪さが課題であった。また特許文献1に記載の変性ポリオレフィン組成物は密度が高いため、水冷冷却工程において大きく収縮し、凹み易い、外観が荒れやすい等の問題もあり、減圧工程が必要となる課題もあった。
【0005】
このような曲げ伸ばし性や施工性を改善するために、特許文献2には、エチレン・α-オレフィン共重合体とランダムポリプロピレンをシラン変性したポリオレフィン樹脂組成物が提案されている。
特許文献2に記載のエチレン・α-オレフィン共重合体はエラストマーとしては柔らかいが、エチレン・α-オレフィン共重合体の結晶の融点が低いため、熱水通水時の瞬時の破裂が課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-168229号公報
【文献】特開2016-134312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、エチレン・α-オレフィン共重合体を含むポリオレフィン組成物からなる円筒状成形体であって、成形体の外観や膜厚均一性、耐熱性、耐熱間内圧クリープ性能に優れ、さらに柔軟で曲げ伸ばし等、施工時の作業性にも優れる円筒状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の融点を持つエチレン・α-オレフィン共重合体と、このエチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる特定の融点を持つポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] 示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物を成形してなる円筒状成形体。
【0010】
[2] 前記エチレン・α-オレフィン共重合体と前記ポリオレフィンの合計100質量%に占める該ポリオレフィンの割合が2~50質量%である、[1]に記載の円筒状成形体。
【0011】
[3] 前記ポリオレフィンが、プロピレン単位を主成分とするプロピレン系重合体である、[1]又は[2]に記載の円筒状成形体。
【0012】
[4] 前記ポリオレフィン組成物が更に過酸化物を含み、該過酸化物で架橋されてなる、[1]~[3]のいずれかに記載の円筒状成形体。
【0013】
[5] 前記ポリオレフィン組成物が更に不飽和シラン化合物を含み、該不飽和シラン化合物と前記過酸化物で架橋されてなる、[4]に記載の円筒状成形体。
【0014】
[6] 示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンとの合計100質量部に対して、過酸化物0.01~1.00質量部を配合し、これを成形する、円筒状成形体の製造方法。
【0015】
[7] 前記エチレン・α-オレフィン共重合体と前記ポリオレフィンの合計100質量部に対して、更に、不飽和シラン化合物0.1~5.0質量部を配合し、これを成形する、[6]に記載の円筒状成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柔軟で曲げ伸ばし等、施工時の作業性に優れると共に、耐熱間内圧クリープ性能、即ち、高温の通水耐久性に優れた円筒状成形体が提供される。
本発明の円筒状成形体は、固化速度低下に伴う製品の外観不良や、膜厚不良の問題がなく、高温の水圧による破裂をも防止できるため、優れた外観を有すると共に、高温耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0018】
本発明の円筒状成形体は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物(以下、「本発明のポリオレフィン組成物」と称する場合がある。)を用いたものである。
【0019】
[ポリオレフィン組成物]
まず、本発明のポリオレフィン組成物について説明する。
【0020】
本発明のポリオレフィン組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が115℃以上であるエチレン・α-オレフィン共重合体と、該エチレン・α-オレフィン共重合体とは異なる、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度が125℃以上であるポリオレフィンを含むものであり、更に過酸化物を含んでもよく、また、不飽和シラン化合物及び過酸化物を含んでもよい。また、更に以下の成分(A)、或いは成分(A)と炭化水素系ゴム用軟化剤を含んでもよい。
【0021】
成分(A):ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群の内の少なくとも1つのブロック共重合体
以下、成分(A)を、「スチレン系熱可塑性エラストマー」と称する場合がある。
【0022】
本発明のポリオレフィン組成物において、エチレン・α-オレフィン共重合体とポリオレフィンの合計100質量%に占めるポリオレフィンの割合は2~50質量%であり、好ましくは5~45質量%である。
本発明のポリオレフィン組成物中のポリオレフィンの含有率が上記範囲内であれば、柔軟性及び外観の観点で好ましい。ポリオレフィンの含有率が上記上限値以下であれば、円筒状成形体として曲げやすく、上記下限値以上であれば、成形時に水冷した際に硬化しやすく円筒状成形体として優れた外観となる。
【0023】
本発明のポリオレフィン組成物が過酸化物を含む場合、過酸化物の含有量は、エチレン・α-オレフィン共重合体とポリオレフィンの合計100質量部に対して、0.01~1.00質量部が好ましい。
また、本発明のポリオレフィン組成物が不飽和シラン化合物を含む場合、不飽和シラン化合物の含有量は、エチレン・α-オレフィン共重合体とポリオレフィンの合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましい。
過酸化物及び不飽和シラン化合物の含有量が上記下限以上であると、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性量が得られる。一方、上記上限以下であると、未反応物が残留して性能に悪影響を及ぼす虞がない。
【0024】
本発明のポリオレフィン組成物が成分(A)を含む場合、成分(A)の含有量は、エチレン・α-オレフィン共重合体とポリオレフィンの合計100質量部に対して、2~50質量部が好ましく、3~45質量部がより好ましく、5~40質量部が更に好ましい。
成分(A)の含有量が上記下限以上であると、架橋により圧縮永久歪が低下し押出成形時の外観が良好となる傾向がある。一方、成分(A)の含有量が上記上限以下であると、押出機に負荷がかからずに押出作業性が良好となる。
【0025】
炭化水素系ゴム用軟化剤は成分(A)の100質量部に対して5~300質量部、特に50~200質量部用いることが、炭化水素系ゴム用軟化剤による効果を十分に得た上で成形後の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードアウトを低減する観点から好ましい。
【0026】
以下、本発明のポリオレフィン組成物に含まれる各成分について説明する。尚、以下において、エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリオレフィン、必要に応じて用いられる成分(A)や後述する炭化水素系ゴム用軟化剤を、「エラストマー成分」と称する場合がある。
また、過酸化物、不飽和シラン化合物、及び後述の不飽和シアヌレート化合物を「架橋助剤成分」と称する場合がある。
また、本発明のポリオレフィン組成物をグラフト変性及び/又は架橋処理して得られるものを、「本発明の変性ポリオレフィン組成物」と称する場合がある。
【0027】
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレン単位とα-オレフィン単位を含み、かつその構成単位の合計に対し、エチレン単位の含有率が50質量%以上のものである。エチレン・α-オレフィン共重合体はこのようなものであればその種類は特に限定されず、公知のエチレン・α-オレフィン共重合体が適宜用いられる。
【0028】
エチレン・α-オレフィン共重合体の具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレンと、炭素数3~10のα-オレフィンの1種又は2種以上との共重合体が挙げられる。
【0029】
エチレン・α-オレフィン共重合体を製造する際に用いられる触媒の種類は特に限定されないが、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒が挙げられる。これらの中でも、メタロセン触媒により製造されたエチレン・α-オレフィン共重合体であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解の終了ピーク温度(以下「融解終了点」と称する場合がある。)が115℃以上のものである。エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が115℃以上であると高温でも結晶により形状を保持可能である。この観点からエチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は115℃以上であり、117℃以上であることが好ましい。
但し、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点が過度に高いと、成形昇温時の未溶融のブツや成形冷却時の早期結晶化(メルトフラクチャー)により外観不良となる虞があることから、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は通常145℃以下である。エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0031】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体の密度(JIS K6922-1,2:1997にて測定)は、好ましくは0.850~0.910g/cm3であり、より好ましくは0.860~0.900g/cm3である。密度が上記上限値以下であると柔軟性に優れ曲げやすい傾向がある。また、密度が上記下限値以上であると、べた付き難く、自動吸引でホッパーに投入でき、また、ホッパーに付着しにくい等、成形性に優れる傾向がある。
【0032】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999)を参考にして、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)で、好ましくは0.1~50g/10分である。MFRが大き過ぎると、成形時に溶融樹脂が垂れやすくなり、歩留りが低下する又は成形し難くなる虞がある。また、MFRが小さ過ぎると、変性押出時のモーター負荷が大きく、樹脂圧力が上昇し、生産性が悪化するほか、成形後の表面も荒れる虞がある。
これらの観点から、エチレン・α-オレフィン共重合体のMFRは、好ましくは0.1g/10分以上であり、より好ましくは0.5g/10分以上である。一方、好ましくは50g/10分以下であり、より好ましくは30g/10分以下である。
【0033】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体のA硬度は、JIS K6253を参考にして、温度23℃、湿度50%、15秒後の条件で測定されるA硬度で、好ましくは40~95である。A硬度が大き過ぎると、円筒状成形体として曲げ難くなり、施工時の作業性が低下し、曲げて使用する際、歪が発生するため長期耐久性が損なわれる虞がある。また、A硬度が小さ過ぎると、成形冷却時、固まりにくく、成形時の外観が悪化する他、円筒状成形体として、水圧や内容物の圧力に耐えることができず、長期耐久性が著しく損なわれる。
これらの観点から、エチレン・α-オレフィン共重合体のA硬度は、好ましくは40以上であり、より好ましくは50以上である。一方、好ましくは95以下であり、より好ましくは90以下である。
【0034】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は、衛生性の観点から外添材等の添加がないものが好ましい。べた付き防止のため、タルクやPEワックスが添加されている場合、水等の円筒状成形体の内容物側に浸出する虞があるため、外添材は添加されていない方が好ましい。
【0035】
本発明で用いるエチレン・α-オレフィン共重合体は市販品として入手することができる。例えば、デュポンダウエラストマー社製エンゲージ(登録商標)シリーズ、日本ポリエチレン社製カーネル(登録商標)シリーズ、デュポンダウエラストマー社製インフューズ(登録商標)シリーズ、三井化学社製タフマー(登録商標)シリーズ、三井化学社製エボリュー(登録商標)シリーズから該当品を選択して用いることができる。
【0036】
これらのエチレン・α-オレフィン共重合体は1種のみを用いてもよく、α-オレフィンの種類や共重合組成、物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0037】
<ポリオレフィン>
本発明で用いるポリオレフィンは、エチレン単位及び/又はα-オレフィン単位からなるものである。但し、本発明で用いるポリオレフィンは、前述のエチレン・α-オレフィン共重合体とは異なるものである。
【0038】
本発明で用いるポリオレフィンの具体例としては、エチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン単位を主成分とする重合体;プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体等のプロピレン単位を主成分とする重合体;1-ブテン単独重合体、1-ブテン・エチレン共重合体、1-ブテン・プロピレン共重合体等の1-ブテン単位を主成分とする重合体が挙げられる。
ここで「主成分」とは、含有率が50質量%以上であることを示す。
【0039】
ポリオレフィンとしては、エチレン・α-オレフィン共重合体との相溶性の観点からは、エチレン単独重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体が好ましい。
【0040】
また、ポリオレフィンとしては、柔軟性及び外観の観点からは、プロピレン単位を主成分とするプロピレン系重合体が好ましく、具体的には、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体が好ましい。
【0041】
本発明で用いるポリオレフィンは、示差走査熱量計(DSC)で測定される融解終了点が125℃以上のものである。ポリオレフィンの融解終了点が125℃以上であると成形時の冷却中にエチレン・α-オレフィン共重合体より早く固化することが可能である。この観点からポリオレフィンの融解終了点は125℃以上であり、130℃以上が好ましい。
但し、ポリオレフィンの融解終了点が過度に高いと、成形昇温時の未溶融のブツや成形冷却時の早期結晶化(メルトフラクチャー)により肌荒れ等の外観不良となる虞があることから、ポリオレフィンの融解終了点は通常180℃以下である。
【0042】
また、エチレン・α-オレフィン共重合体とは融解終了点が異なり、エチレン・α-オレフィン共重合体よりも融解終了点が高いポリオレフィンを混合して用いることによる本発明の効果を有効に得る上で、ポリオレフィンの融解終了点は、エチレン・α-オレフィン共重合体の融解終了点よりも1℃以上高いことが好ましく、2℃以上高いことがより好ましい。一方で、ポリオレフィンの融解終了点が過度に高いことは好ましくないことから、この融解終了点の差は50℃以下であることが好ましい。
ポリオレフィンの融解終了点は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0043】
本発明で用いるポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210(1999)を参考にして、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)で、好ましくは0.1~50g/10分である。MFRが大き過ぎると、成形時に溶融樹脂が垂れやすくなり、歩留りが低下する又は成形し難くなる虞がある。また、MFRが小さ過ぎると、変性押出時のモーター負荷が大きく、樹脂圧力が上昇し、生産性が悪化するほか、成形後の表面も荒れる虞がある。
これらの観点から、ポリオレフィンのMFRは、好ましくは0.1g/10分以上であり、より好ましくは0.5g/10分以上である。一方、好ましくは50g/10分以下であり、より好ましくは30g/10分以下である。
【0044】
本発明で用いるポリオレフィンは市販品として入手することができる。例えば、日本ポリエチレン社製ノバテック(登録商標)シリーズ、三菱ケミカル社製ゼラス(登録商標)シリーズから該当品を選択して用いることができる。
【0045】
これらのポリオレフィンは1種のみを用いてもよく、α-オレフィンの種類や共重合組成、物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0046】
<不飽和シラン化合物>
本発明で用いる不飽和シラン化合物は特に限定されないが、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物が好適に用いられる。
RSi(R’)3 ・・・(1)
【0047】
上記式(1)において、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’の内の少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。
【0048】
式(1)において、Rは好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~6のエチレン性不飽和炭化水素基である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
【0049】
式(1)において、R’は好ましくは炭素数1~6の炭化水素基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。また、R’の内の少なくとも1つは、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基である。
R’の炭素数1~10の炭化水素基は脂肪族基、脂環族基、芳香族基のいずれであってもよいが、脂肪族基であることが好ましい。また、R’の炭素数1~10のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
R’が炭化水素基の場合、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基が挙げられる。
R’がアルコキシ基の場合、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、β-メトキシエトキシ基が挙げられる。
【0050】
不飽和シラン化合物が前記式(1)で表される場合、3つのR’の内の少なくとも1つはアルコキシ基であるが、2つのR’がアルコキシ基であることが好ましく、全てのR’がアルコキシ基であることがより好ましい。
【0051】
不飽和シラン化合物としては、式(1)で表されるものの中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン等に代表されるビニルトリアルコキシシランが好ましい。これはビニル基によってエチレン・α-オレフィン共重合体への変性を可能とし、アルコキシ基によって後述の架橋反応が進行するからである。
即ち、不飽和シラン化合物によりエチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト変性されて導入されたアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解してシラノール基を生成させ、シラノール基同士が脱水縮合することにより、エチレン・α-オレフィン共重合体同士が結合して架橋反応が起こる。
【0052】
これらの不飽和シラン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
<過酸化物>
本発明で用いる過酸化物は炭素ラジカルを発生させ、不飽和シラン化合物をエチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト変性させるため、及び/又は、エチレン・α-オレフィン共重合体の水素を引き抜き、エチレン・α-オレフィン共重合体の架橋反応を促進するために用いられる。
【0054】
過酸化物としては、樹脂との相溶性の観点から、有機過酸化物が好ましい。
有機過酸化物としては、例えば、キュメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、ジt-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエイト、2,5-ジメチル-2,5-ジt-ブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジt-ブチルパーオキシヘキシン-3、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキサイド;ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル;シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイドが挙げられる。
【0055】
これらの有機過酸化物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
グラフト効率、連鎖移動効率、及び臭気等の衛生性の観点から、有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシ2エチルヘキサノエイト、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジt-ブチルパーオキサイドが好ましい。
【0057】
<成分(A)>
本発明に用いる成分(A)は、ビニル芳香族化合物に由来する少なくとも2個の重合体ブロックPと、共役ジエン及び/又はイソブチレンに由来する少なくとも1個の重合体ブロックQとを有するブロック共重合体、並びに該ブロック共重合体を水素添加してなるブロック共重合体からなる群の内の少なくとも1つのブロック共重合体である。本発明のオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物は、成分(A)を配合することにより、更なる永久歪低下と流動性向上の効果を得ることができる。
【0058】
成分(A)において、ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は特に限定されないが、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。ここで、成分(A)における「主体とする」とは、50質量%以上であることを意味する。尚、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0059】
上記ビニル芳香族化合物以外の単量体としては、エチレン、α-オレフィン等が挙げられる。また、ブロックPが、上記ビニル芳香族化合物以外の単量体を原料として含む場合、その含有量は、50質量%未満、好ましくは40質量%以下である。上記ビニル芳香族化合物以外の単量体の含有量がこの範囲であることにより耐熱性や圧縮永久歪が良好となる傾向がある。
【0060】
ブロックQを構成する単量体の共役ジエンは特に限定されないが、ブタジエン及び/又はイソプレンを主体とすることが好ましく、より好ましくはブタジエン及びイソプレンである。尚、ブロックQには、共役ジエン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0061】
上記共役ジエン以外の単量体としては、イソブチレン、スチレン等が挙げられる。また、ブロックQが、上記共役ジエン以外の単量体を原料として含む場合、その含有量は、50質量%未満、好ましくは40質量%以下である。上記共役ジエン以外の単量体の含有量がこの範囲であることによりブリードアウトが抑制される傾向がある。
【0062】
成分(A)のブロック共重合体は、少なくとも2個の上記重合体ブロックPと少なくとも1個の上記重合体ブロックQとを有するブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であってもよい。より具体的には、ブロック共重合体のブロックQが有する二重結合を水素添加した水添ブロック共重合体であってもよい。ブロックQの水素添加率は特に限定されないが、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%である。ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、得られるポリオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物の粘着的性質が低下し、弾性的性質が増加する傾向がある。尚、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。また、水素添加率は、13C-NMRにより測定することができる。
【0063】
成分(A)を構成するブロックPとブロックQとの質量割合は任意であるが、本発明のポリオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物の機械的強度及び熱融着強度の点からはブロックPが多い方が好ましく、一方、柔軟性、異形押出成形性、ブリードアウト抑制の点からはブロックPが少ない方が好ましい。
【0064】
成分(A)中のブロックPの質量割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。
【0065】
成分(A)は市販品として入手することができる。水添型のブロック共重合体の市販品としては、クレイトンポリマー社製「KRATON(登録商標)-Gシリーズ」、「KRATON(登録商標)-Aシリーズ」,クラレ社製「セプトン(登録商標)シリーズ」、「ハイブラー(登録商標)シリーズ」、旭化成社製「タフテック(登録商標)シリーズ」「アサプレン(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。また、非水添型のブロック共重合体の市販品としては、クラレ社製「ハイブラー(登録商標)シリーズ」、旭化成社製「タフプレン(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。
【0066】
成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
<炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明のポリオレフィン組成物に成分(A)を用いる場合は、炭化水素系ゴム用軟化剤を併用することが好ましい。炭化水素系ゴム用軟化剤は本発明のポリオレフィン組成物及び変性ポリオレフィン組成物を軟化させ、柔軟性、弾性、加工性、流動性、永久歪の向上に寄与する。
【0068】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50質量%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45質量%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35質量%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。尚、炭化水素系ゴム用軟化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20センチストークス以上、より好ましくは50センチストークス以上であり、また、好ましくは800センチストークス以下、より好ましくは600センチストークス以下である。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
【0070】
炭化水素系ゴム用軟化剤は市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製日石ポリブテン(登録商標)HVシリーズ、出光興産社製ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPWシリーズが挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
【0071】
<その他の成分>
本発明のポリオレフィン組成物には、上記成分の他に、その他の成分として各種の添加剤や成分(A)以外の樹脂等を本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0072】
添加剤としては、例えば、架橋助剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、粘度調整剤、及び顔料が挙げられる。これらの内、酸化防止剤、特にフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤又はリン系酸化防止剤を含有させることが好ましい。
酸化防止剤は、ポリオレフィン組成物100質量部に対して、0.1~1質量部を含有させることが好ましい。
【0073】
架橋助剤としては、不飽和シアヌレート化合物が挙げられる。不飽和シアヌレート化合物としては、トリアリロキシトリアジン、トリアリルイソシアヌレート等に代表されるトリアリルシアヌレートが好ましい。これはアリル基によってエチレン・α-オレフィン共重合体及び成分(A)の変性を可能とし、これらに含まれるビニル基とアリル基との動的架橋反応が進行するからである。即ち、不飽和シアヌレート化合物により変性エチレン・α-オレフィン共重合体にグラフト変性されて導入されたアリル基が、ラジカルを発生させる過酸化物の存在下、エチレン・α-オレフィン共重合体及び成分(A)のビニル基とラジカル連鎖移動により付加反応することにより、変性エチレン・α-オレフィン共重合体同士及び変性エチレン・α-オレフィン共重合体と成分(A)が結合して架橋反応が起こる。尚、これらの不飽和シアヌレート化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
本発明のポリオレフィン組成物に不飽和シアヌレート化合物を用いる場合、エチレン・α-オレフィン共重合体とポリオレフィンの合計100質量部に対して、0.01~5質量部用いることが好ましい。
【0075】
また、その他の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ロジンとその誘導体、テルペン樹脂や石油樹脂とその誘導体、アルキッド樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、合成テルペン樹脂、アルキレン樹脂が挙げられる。
【0076】
[変性ポリオレフィン組成物]
前記のエチレン・α-オレフィン共重合体及びポリオレフィンに、前記の不飽和シラン化合物、過酸化物と、必要に応じて成分(A)、更に炭化水素系ゴム用軟化剤を含む本発明のポリオレフィン組成物を、グラフト変性及び/又は化学架橋することにより、本発明の変性ポリオレフィン組成物を得ることができる。
【0077】
グラフト変性及び/又は化学架橋の方法には特に限定されず、公知の手法に従って行なうことができ、例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性が好適に用いられる。これらの中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性がより好ましい。
溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサーが挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
【0078】
一般に、エチレン・α-オレフィン共重合体への不飽和シラン化合物及び/又は過酸化物のグラフト変性は、エチレン・α-オレフィン共重合体の炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これへ不飽和官能基が付加するといったグラフト反応によって行なわれる。
炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行なうこともできる。コストや操作性の観点で有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0079】
本発明の変性ポリオレフィン組成物を製造する際に用いるラジカル発生剤には限定は無いが、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれる有機過酸化物、並びにアゾ化合物が挙げられる。
【0080】
一般的に用いられる溶融押出変性の操作としては、前記エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリオレフィン、不飽和シラン化合物及び/又は過酸化物、必要に応じて成分(A)、更に炭化水素系ゴム用軟化剤やその他の成分を配合、ブレンドして混練機や押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出しを行ない、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して変性ポリオレフィン組成物を得るものである。
本発明の変性ポリエチレン組成物を単軸スクリュー押出機又は二軸スクリュー押出機等で混練して製造する場合、通常140~240℃、好ましくは160~220℃に加熱した状態で溶融混練を行なうことができる。
【0081】
エチレン・α-オレフィン共重合体、ポリオレフィン、不飽和シラン化合物、及び過酸化物の配合比率は前述の通りである。
不飽和シラン化合物と過酸化物との配合の割合は特に限定されないが、好ましい配合の割合は、不飽和シラン化合物100質量部に対し、過酸化物が1~20質量部である。不飽和シラン化合物に対する過酸化物の量が上記下限値以上であると、十分な量のラジカルが発生して必要な所定の変性量が得られやすく、また、上記上限値以下であるとエチレン・α-オレフィン共重合体及びポリオレフィンの劣化を抑えやすくなる傾向にある。
【0082】
[シラノール縮合触媒]
本発明のポリオレフィン組成物にシラノール縮合触媒を配合することにより、ポリオレフィン組成物中のシラン変性ポリオレフィンを分子間で架橋反応させることができる。
【0083】
本発明に用いることのできるシラノール縮合触媒としては、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸及び有機酸、並びに無機酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物等が挙げられる。
【0084】
金属有機酸塩としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄が挙げられる。
チタネートとしては、例えば、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネートが挙げられる。
有機アミンとしては、例えば、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジンが挙げられる。
アンモニウム塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドが挙げられる。
ホスホニウム塩としては、例えば、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイドが挙げられる。
無機酸及び有機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸等のスルホン酸が挙げられる。
無機酸エステルとしては、例えば、エチルヘキシルリン酸エステル等のリン酸エステルが挙げられる。
【0085】
これらの中で、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸、リン酸エステルが挙げられ、より好ましくは錫の金属カルボン酸塩、例えばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルが挙げられる。
シラノール縮合触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
シラノール縮合触媒の配合量としては特に限定されるものではないが、ポリオレフィン組成物100質量部に対して好ましくは0.0001~0.01質量部であり、より好ましくは0.0001~0.005質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上記下限値以上であると架橋反応が十分に進行し、耐熱性が良好となる傾向にあるために好ましく、上記上限値以下であると押出機内で早期架橋が起こりにくく、ストランド表面や製品外観の荒れが発生しにくくなる傾向があるために好ましい。
【0087】
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いることが好ましい。このマスターバッチに用いることのできるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレン・エチレン共重合体等が挙げられる。
【0088】
シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有量には特に限定されないが、0.1~5.0質量%が好ましい。
【0089】
シラノール縮合触媒含有マスターバッチとしては市販品を用いることができ、例えば、三菱ケミカル社製「LZ082」を用いることができる。
【0090】
[架橋ポリオレフィン組成物]
本発明のポリオレフィン組成物において、不飽和シラン化合物を用いた場合、前述のシラノール縮合触媒を配合し、押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形方法により成形した後、水雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、架橋ポリオレフィン組成物とすることができる。水雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法等が挙げられる。
【0091】
また本発明のポリオレフィン組成物において、過酸化物を単独で用いた場合、前述のシラノール縮合触媒を配合する必要はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形中に、残存する過酸化物等のラジカル発生剤により架橋反応がさらに進行し、架橋ポリオレフィン組成物とすることができる。
【0092】
本発明のポリオレフィン組成物において、不飽和シラン化合物を用いた場合、エチレン・α-オレフィン共重合体のグラフト変性に用いた不飽和シラン化合物由来の加水分解可能なアルコキシ基がシラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、架橋反応が進行し、変性ポリオレフィン同士が結合して架橋ポリオレフィン組成物を生成する。
【0093】
架橋反応の進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、通常20~130℃の温度範囲、且つ、10分~1週間の範囲で曝せばよい。好ましい条件は、20~130℃の温度範囲、1~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲から選択される。
【0094】
架橋ポリオレフィン組成物が長期間に亘って優れた特性を発揮するために、架橋ポリオレフィン組成物のゲル分率(架橋度)は、0%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。ゲル分率は、ポリオレフィン組成物の不飽和シラン化合物及び/又は過酸化物の配合量、シラノール縮合触媒の種類と配合量、架橋させる際の条件(温度、時間)等を変えることにより、調整することができる。このゲル分率の上限は特に限定されないが通常90%である。ゲル分率は、後掲の実施例の項に記載される方法により測定することができる。
【0095】
[円筒状成形体]
本発明の円筒状成形体は、本発明のポリオレフィン組成物を円筒状に成形して得ることができる。
円筒状成形体の層厚み(肉厚)は0.5~10mmが好ましい。層厚みが前記上限値以下であれば、押出冷却時に冷えやすく、巻取りしやすい。また前記下限値以上であれば、押出時に垂れにくく、内圧をかけても割れにくく耐久性に優れるものとなる。
【0096】
円筒状成形体の外直径は7~20mmが好ましい。外直径が前記上限値以下であれば、押出冷却時に冷えやすく、巻取りしやすい。また前記下限値以上であれば、つぶれにくく、効率よく内容物を通水することができる。
【0097】
本発明の円筒状成形体は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。
【0098】
[円筒状成形体の製造方法]
本発明の円筒状成形体を製造する方法には特に制限はなく、例えば、本発明のポリオレフィン組成物のペレットをパイプ製造装置のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押出し、冷却してパイプとする方法が挙げられる。
より具体的には、本発明のポリオレフィン組成物を例えば150~230℃の温度で押出機からダイスを通して押出し、サイジングを行なった後、冷却水槽で冷却し、引取り機を通して切断又は巻取る。
【0099】
押出機としては、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等が利用できる。
ダイスとしては、ストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイス等いずれのタイプのものも利用できる。
サイジング方法は、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法も利用できる。
【0100】
[用途]
本発明の円筒状成形体の用途は特に限定されないが、例えば、自動車用冷却水ホース、ゴムホース等の自動車用ホース部材;給水給湯、床暖房、ロードヒーティング、エコキュート及びエネファーム配管、食品及び各種産業工場用チューブ及び配管、自動販売機向け飲料チューブ、圧縮空気配送チューブ等の工業用円筒状成形体として好適に用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
【0102】
〔原料〕
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0103】
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
・PE-1:エンゲージ(登録商標)XLT8677
ダウ・デュポンエラストマー社製、メタロセン線状低密度ポリエチレン(エチレン・1-オクテン共重合体)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.87g/cm3、融解終了点:128℃、A硬度:50、タルク外添材あり
・PE-2:インフューズ(登録商標)9010
ダウ・デュポンエラストマー社製、メタロセン線状低密度ポリエチレン(エチレン・1-オクテン共重合体)、MFR:0.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.88g/cm3、融解終了点:128℃、A硬度:77、外添材なし
・PE-3:エンゲージ(商標登録)7256
ダウ・デュポンエラストマー社製、メタロセン線状低密度ポリエチレン(エチレン・ブテン共重合体)、MFR:2.5g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.89g/cm3、融解終了点:90℃、A硬度:85、外添材なし
・PE-4:三井EPT(登録商標)3072EM
三井化学社製、メタロセン触媒系EPDM、ムーニー粘度:51ML(予備加熱1分、及び回転後4分後の値)125℃
【0104】
<ポリオレフィン>
・PP-1:ノバテックPP(商標登録)FY6
日本ポリプロ社製プロピレン・エチレン共重合体、MFR:2.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、融解終了点:172℃
・PP-2:ゼラス(商標登録)7025
三菱ケミカル社製プロピレン・エチレン共重合体、MFR:2.5g/10分(230℃、2.16kg荷重)、融解終了点:168℃
【0105】
<成分(A)>
・スチレン系熱可塑性エラストマー:アサプレン(登録商標)T411
旭化成社製、ポリスチレン/ブタジエン/スチレンブロックポリマー、MFR:0g/10分(190℃、2.16kg荷重)、密度:0.94g/cm3、ブロックPの質量割合:30質量%
【0106】
<炭化水素系ゴム用軟化剤>
・オイル:ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90
出光興産社製、石油系炭化水素、動粘度380mm2/s、密度(15℃):0.88g/cm3
【0107】
<不飽和シラン化合物>
・ビニルトリメトキシシラン:KBM-1003(信越化学社製)
【0108】
<不飽和シアヌレート化合物(架橋助剤)>
・トリアリルイソシアヌレート:TAIC(日本化成社製)
【0109】
<過酸化物>
・POX1:ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、パーブチルP(日油社製)
・POX2:ジt-ブチルパーオキサイド、パーブチルD(日油社製)
【0110】
<触媒マスターバッチ(MB)>
・シラノール縮合触媒MB:LZ082
三菱ケミカル社製、1%錫触媒(ジオクチル錫ジラウレート)含有線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンのMFR:3g/10分(190℃、2.16kg荷重)、低密度ポリエチレンの密度:0.92g/cm3、低密度ポリエチレンの融解終了点:130℃
【0111】
〔測定・評価方法〕
各種物性、特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0112】
[エチレン・α-オレフィン共重合体及びポリプロピレンの測定・評価]
<融解終了点>
(株)日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し、融解終了点とした。
【0113】
[変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物の測定・評価]
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210(1999)に準拠して、190℃、10kg荷重にて測定した。
【0114】
<A硬度>
製造されたシート状の成形体を直径30mmの円形状に打ち抜き、これを6枚重ね、JIS K6253を参考して、試験温度23℃でASKER社製CL150を用いて測定した。
【0115】
<外観>
後述する材料を用いて、IKG社製PMS40パイプ成形機で設定温度200℃の条件で10Aパイプ(外径13mm、内径10mm、厚さ1.5mm)を成形した。その際の得られた水冷後のパイプの外観を目視で確認し以下の通り評価した。
OK:表面平滑で膜厚が均一
NG:表面に凹凸があり、膜厚が不均一
【0116】
<ゲル分率>
製造された円筒状成形体を長さ5mm×横5mmに切り出し、キシレン沸点にて10時間ソックスレー抽出した後の不溶分の割合(質量%)を測定した。
【0117】
<パイプクリープ破壊時間>
パイプクリープ破壊時間はISO9080を参考に周応力0.8MPa、温度95℃の条件で評価した。
【0118】
[実施例1]
エチレン・α-オレフィン共重合体としてPE-1を53部、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(EPDM)を13部、ポリオレフィンとしてPP-1を20部、成分(A)としてスチレン系熱可塑性エラストマーを7部、炭化水素系ゴム用軟化剤としてオイルを7部、不飽和シラン化合物のビニルトリメトキシシランをエラストマー成分100部に対して2.0部、不飽和シアヌレート化合物(トリアリルイソシアヌレート)を0.04部、過酸化物であるPOX1を0.2部及びPOX2を0.08部配合してブレンダーにて攪拌した。
その後、温度200℃に設定された二軸スクリュー押出機(東芝機械社製、TEM26-SS)に投入し、ノズルより出てきたストランドを水槽にて冷却固化させた後にペレット状にカッティングして変性ポリオレフィン組成物を得た。得られた変性ポリオレフィン組成物の物性を表1に示す。
【0119】
上記で得られた変性ポリオレフィン組成物100部に対して、シラノール縮合触媒MBとしてLZ033を5部加えて触媒MBを含有する変性ポリオレフィン組成物を得た。これを射出成形機により200℃の条件下で成形し、80℃の温水に24時間浸して架橋ポリオレフィン組成物よりなる厚さ2mmのシート状成形体を製造した。得られた架橋ポリオレフィン組成物のA硬度を評価した。
また前述の方法で10Aパイプを製造後、80℃の温水に24時間浸して架橋ポリオレフィン組成物よりなる円筒状成形体を製造した。得られた架橋ポリオレフィン組成物よりなるパイプの外観、ゲル分率、パイプクリープ破壊時間の評価、測定結果を表1に示す。
【0120】
[実施例2]
エラストマー成分としてPE-2、PP-2、架橋助剤成分として不飽和シラン化合物、過酸化物であるPOX2を表1に示す配合量で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物を得、実施例1と同様にして各種評価を行なった。
結果を表1に示す。
【0121】
[比較例1~3]
使用した原料の種類、組成を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして変性ポリオレフィン組成物及び架橋ポリオレフィン組成物を得、実施例1と同様にして各種評価を行なった。
結果を表1に示す。
【0122】
【0123】
上記の結果より次のことがわかる。
【0124】
実施例1,2に示すように、融解終了点が128℃のエチレン・α-オレフィン共重合体及び融解終了点が170℃近辺のポリオレフィンを用いた架橋ポリオレフィン組成物は、融解終了点が170℃近辺のポリオレフィンを含有しないエチレン・α-オレフィン共重合体を用いた比較例1~3よりも長いパイプクリープ破壊時間を示した。
また実施例1,2は、エチレン・α-オレフィン共重合体を単独で用いた比較例3よりも高い融解終了点を有するため、水冷において固化速度が速くなり、良好な外観が得られた。
【0125】
さらに、実施例1,2はポリオレフィンを含まない比較例1と比較して、A硬度が高いため、降伏弾性率が向上し高い水圧に耐えることができるため、長いパイプクリープ破壊時間を示した。
またさらに、実施例1,2はエチレン・α-オレフィン共重合体を単独で用いた比較例2よりも高い融解終了点を有するため、高い温度の熱水中での耐久性に優れ、長いパイプクリープ破壊時間を示した。
【0126】
比較例2のように、融解終了点が低い場合、沸点に近い熱水中で結晶が融解するためパイプクリープ破壊時間が短く、熱水の通水に耐えられない。
融解終了点が比較的高くエチレン・α-オレフィン共重合体を単独で用いた比較例3は、硬度が低いため、非晶部が多く、水冷による固化速度が遅いことから、表面に凹凸が発生しやすく、また膜厚が不均一になり円筒状成形体として外観に劣る。膜厚が不均一であると、パイプクリープ試験における周応力も不均一となるため、比較例3はクリープ試験の実施に値しない円筒状成形体となった。
【0127】
以上のことから、融解終了点が高いエチレン・α-オレフィン共重合体と融解終了点がより高いポリオレフィンを含有する変性ポリオレフィン組成物から成形される架橋ポリオレフィン組成物よりなる円筒状成形体は、A硬度が低く円筒状成形体として作業性に優れ、パイプクリープ破壊時間の長い円筒状成形体であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0128】
融解終了点が高いエチレン・α-オレフィン共重合体と融解終了点がより高いポリオレフィンを含有する本発明のポリオレフィン組成物を用いた本発明の円筒状成形体は、外観が優れると共に、柔軟で作業性に優れる。しかも、本発明の円筒状成形体ではパイプクリープ破壊時間が長いため、沸騰水に近い温度の熱水をある程度の水圧で通水することができ、短時間の使用で割れにくい円筒状成形体を与えることができる。
このため、本発明の円筒状成形体は、自動車用冷却水ホース、ゴムホース等の自動車用ホース部材;給水給湯、床暖房、ロードヒーティング、エコキュート及びエネファーム配管、食品及び各種産業工場用チューブ及び配管、自動販売機向け飲料チューブ、圧縮空気配送チューブ等の工業用円筒状成形体として好適に用いることができる。