(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】開発支援装置、開発支援方法、および状態検知方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20230905BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230905BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20230905BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20230905BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230905BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/48 301
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2019223148
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2019114361
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和 1年 6月25日に、GS Yuasa Technical Report,第16巻,第1号,第11~20頁にて公開 令和 1年 9月 6日に、18th Asian Battery Conferenceにて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克征
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド シャヒド
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-9963(JP,A)
【文献】特開2017-122622(JP,A)
【文献】特開2005-274280(JP,A)
【文献】特開2012-247374(JP,A)
【文献】特開2017-227653(JP,A)
【文献】特開2010-283922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部と、
該推定部による推定結果を出力する出力部と
を備え
、
前記等価回路モデルは、
前記蓄電デバイスの直流抵抗成分を模擬する抵抗器と、
第1時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第1分極特性を模擬する第1RC並列回路と、
前記第1時定数よりも大きい第2時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第2分極特性を模擬する第2RC並列回路と
を含み、
前記第2RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、前記高変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してある
開発支援装置。
【請求項2】
前記第1RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に低い低変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してある
請求項
1に記載の開発支援装置。
【請求項3】
前記第1RC並列回路および前記第2RC並列回路が備える各抵抗素子の値を、充電電圧-分極電圧特性に基づき設定してある
請求項
1に記載の開発支援装置。
【請求項4】
前記等価回路
モデルは、前記蓄電デバイスの充電状態に応じた起電力を計算する部分と、開放状態における理論起電力との差分を補正する部分とを含み、
前記推定部は、直前までの充放電バランスに基づき、前記等価回路
モデルを構成する素子の値を逐次補正し、前記蓄電デバイスの挙動を推定する
請求項1に記載の開発支援装置。
【請求項5】
前記推定部は、直前までのSOCの最大値及び最小値の一方又は両方に基づき、前記値を逐次補正する
請求項
4に記載の開発支援装置。
【請求項6】
前記開放状態における理論起電力との差分を補正する部分は、RC並列回路により構成してある
請求項
4又は請求項
5に記載の開発支援装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記RC並列回路における抵抗素子の抵抗値を補正する
請求項
6に記載の開発支援装置。
【請求項8】
蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定し、
前記蓄電デバイスの挙動の推定結果を出力する
処理をコンピュータにより実行する開発支援方法であって、
前記等価回路モデルは、
前記蓄電デバイスの直流抵抗成分を模擬する抵抗器と、
第1時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第1分極特性を模擬する第1RC並列回路と、
前記第1時定数よりも大きい第2時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第2分極特性を模擬する第2RC並列回路と
を含み、
前記第2RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、前記高変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してある
開発支援方法。
【請求項9】
蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの実測値から電池状態を推定する
処理をコンピュータにより実行する状態検知方法であって、
前記等価回路モデルは、
前記蓄電デバイスの直流抵抗成分を模擬する抵抗器と、
第1時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第1分極特性を模擬する第1RC並列回路と、
前記第1時定数よりも大きい第2時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第2分極特性を模擬する第2RC並列回路と
を含み、
前記第2RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、前記高変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してある
状態検知方法。
【請求項10】
前記実測値として電流、電圧、温度の一部または全部を入力情報とし、前記等価回路モデルを用いて、前記実測値とモデル計算値とが一致するために必要な電池状態として最適なSOCおよびSOHの一方または両方を推定する
請求項
9に記載の状態検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開発支援装置、開発支援方法、および状態検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池やリチウムイオン電池といった二次電池が広く利用されている。例えば、二次電池は、自動車等の車両に搭載され、エンジン始動時におけるスタータへの電力供給源や、ライト等の各種電装品への電力供給源として利用される。
【0003】
二次電池の充放電挙動を模擬する手法として、電気化学反応に基づいた数式モデルや電気素子の組み合わせによって表現した等価回路モデルを用いた様々な手法が提案されている。
【0004】
例えば、公益社団法人自動車技術会によって提案されているモデルは、目的に応じてモデル構造やパラメータを調整することを前提とした等価回路モデルである(例えば、非特許文献1を参照)。この等価回路モデルでは、アイドリングシストップシステムが搭載された車両用の鉛蓄電池に関して、業界標準であるSBA_S0101において定められたアイドリングストップ寿命試験(以下、SBA-IS試験)から得られるデータに基づき、等価回路モデルにおける各種パラメータが設定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】自動車システムのモデルベース開発入門、公益社団法人自動車技術会、2017年5月10日、初版第1版、P77-P81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、充電制御システムが搭載された車両における二次電池の使われ方としては、限られた充電状態(SOC,State Of Charge)に応じて細かく制御されることも多い。街中での実車走行データでは、車両独自の充放電制御によって、SBA-IS試験よりも頻繁な充放電の繰り返しが行われていることが確認されている。このため、SBA-IS試験中の充放電挙動のみを参考にした上記モデルでは、実車での充放電制御において十分な精度が得られない可能性がある。
【0007】
本発明は、実車での充放電制御を考慮したモデルを用いて、蓄電デバイスの挙動を推定し、推定結果をユーザに提供できる開発支援装置、開発支援方法、および状態検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開発支援装置は、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部と、該推定部による推定結果を出力する出力部とを備える。
【0009】
開発支援方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定し、前記蓄電デバイスの挙動の推定結果を出力する。
【0010】
状態検知方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの実測値から電池状態を推定する。
【発明の効果】
【0011】
本願によれば、実車を模擬した充放電制御を考慮したモデルを用いて、蓄電デバイスの挙動を推定し、推定結果をユーザに提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施の形態に係る開発支援システムの全体構成を説明するブロック図である。
【
図2】サーバ装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図3】クライアント装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図4】蓄電デバイスの等価回路モデルの一例を示す回路図である。
【
図7】第1RC並列回路について得られた回路パラメータの電流特性を示すグラフである。
【
図9】抵抗素子について得られた抵抗値のSOC依存性を示すグラフである。
【
図13】抵抗値に上限を設定した場合の検証結果を示すグラフである。
【
図14】抵抗値に上限を設定した場合の検証結果を示すグラフである。
【
図15】充放電時の蓄電デバイスの挙動を説明するグラフである。
【
図16】補正係数Kr1を用いて抵抗値を補正した場合の検証結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
開発支援装置は、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定する推定部と、該推定部による推定結果を出力する出力部とを備える。
この構成によれば、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、蓄電デバイスの挙動を推定するので、例えば、車両において充放電を頻繁に繰り返すような充電制御が実施されている場合であっても、精度良く蓄電デバイスの挙動を推定できる。更に、高SOC領域における分極電圧の立ち上がり特性を等価回路モデルに反映できるので、充電末期における分極変化に対応した電流、電圧挙動を比較的良く再現できる。
【0014】
開発支援装置において、前記等価回路モデルは、前記蓄電デバイスの直流抵抗成分を模擬する抵抗素子と、第1時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第1分極特性を模擬する第1RC並列回路と、前記第1時定数よりも大きい第2時定数によって特徴付けられる過渡応答を示す前記蓄電デバイスの第2分極特性を模擬する第2RC並列回路とを含み、前記第2RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、前記高変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してもよい。この構成によれば、高SOC領域における分極電圧の立ち上がり特性を等価回路モデルに反映できるので、充電末期における分極変化に対応した電流、電圧挙動を比較的良く再現できる。
【0015】
開発支援装置において、前記第1RC並列回路が備える抵抗素子および容量素子の各値を、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に低い低変化量領域のSOC-動作電圧特性に基づき設定してもよい。この構成によれば、早期に安定する分極特性を等価回路モデルに反映できる。
【0016】
開発支援装置において、前記第1RC並列回路および前記第2RC並列回路が備える各抵抗素子の値を、充電電圧-分極電圧特性に基づき設定してもよい。この構成によれば、早期に安定する分極特性を等価回路モデルに反映できる。
【0017】
開発支援装置において、前記等価回路は、前記蓄電デバイスの充電状態に応じた起電力を計算する部分と、開放状態における理論起電力との差分を補正する部分とを含み、前記推定部は、直前までの充放電バランスに基づき、前記等価回路を構成する素子の値を逐次補正し、前記蓄電デバイスの挙動を推定してもよい。この構成によれば、例えば、放電傾向が続いた期間から充電傾向に転じたときの分極特性を等価回路モデルに反映できるので、充放電状態に応じた蓄電デバイスの電流、電圧の挙動を比較的良く再現できる。
【0018】
開発支援装置において、現在のSOCに加え、直前までのSOCの最大値及び最小値の一方又は両方に基づき、前記値を逐次補正してもよい。この構成によれば、充放電履歴に基づき、同一SOCであっても異なる特性を再現する補正係数を設定できる。
【0019】
開発支援装置において、前記開放状態における理論起電力との差分を補正する部分は、RC並列回路により構成してもよい。この構成によれば、分極(残分極)を表現するRC並列回路について回路素子の値を補正できる。
【0020】
開発支援装置において、前記推定部は、前記RC並列回路における抵抗素子の抵抗値を補正してもよい。この構成によれば、RC並列回路における抵抗素子の抵抗値を補正することによって、例えば放電傾向が続いた期間から充電傾向に転じたときにより充電しやすくなる分極特性を等価回路モデルに反映できる。
【0021】
開発支援方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの挙動を推定し、前記蓄電デバイスの挙動の推定結果を出力する。
この構成によれば、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、蓄電デバイスの挙動を推定するので、例えば、車両において充放電を頻繁に繰り返すような充電制御が実施されている場合であっても、精度良く蓄電デバイスの挙動を推定できる。更に、高SOC領域における分極電圧の立ち上がり特性を等価回路モデルに反映できるので、充電末期における分極変化に対応した電流、電圧挙動を比較的良く再現できる。
【0022】
状態検知方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスの定電流充放電時におけるSOC-動作電圧特性のうち、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、前記蓄電デバイスの実測値から電池状態を推定する。
この構成によれば、SOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域のSOC-動作電圧特性が反映された等価回路モデルを用いて、蓄電デバイスの電池状態を推定するので、例えば、車両において充放電を頻繁に繰り返すような充電制御が実施されている場合であっても、精度良く蓄電デバイスの電池状態を推定できる。更に、高SOC領域における分極電圧の立ち上がり特性を等価回路モデルに反映できるので、充電末期における分極変化に対応した電池状態を比較的良く再現できる。
【0023】
図1は本実施の形態に係る開発支援システムの全体構成を説明するブロック図である。本実施の形態に係る開発支援システムは、通信網Nを介して互いに通信可能に接続されるサーバ装置100とクライアント装置200,200,…,200とを備える。サーバ装置100は、クライアント装置200からの要求に応じて、蓄電デバイスの挙動をシミュレートし、シミュレーション結果をクライアント装置200へ提供する。ここで、シミュレーション対象の蓄電デバイスは、鉛蓄電池、リチウムイオン電池等の二次電池、またはキャパシタ等の再充電可能な蓄電素子(セル)を含む。代替的に、シミュレーション対象の蓄電デバイスは、複数のセルを直列に接続したモジュール、複数のモジュールを直列に接続したバンク、複数のバンクを並列に接続したドメイン等を含んでもよい。
【0024】
クライアント装置200は、ユーザによって利用されるパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などの端末装置である。クライアント装置200には、サーバ装置100にアクセスするためのソフトウェア(アプリケーションプログラム)がインストールされているものとする。サーバ装置100は、クライアント装置200からのアクセスを受付けた際に例えばユーザIDおよびパスワードに基づくユーザ認証を行い、ユーザ認証に成功した場合、クライアント装置200に対して適宜のサービスを提供する。
【0025】
本実施の形態に係るサーバ装置100は、ユーザ認証の後、クライアント装置200のユーザによる各種入力を受付けるためのインタフェース画面をクライアント装置200へ送信する。このインタフェース画面には、例えば、シミュレーション条件を受付けるための受付画面が含まれる。サーバ装置100は、受付けた条件に基づいて実行したシミュレーション結果をクライアント装置200へ送信する。
【0026】
サーバ装置100がクライアント装置200に対して送信するシミュレーション結果は、シミュレーションの実行結果として得られる数値データ、グラフ等のデータである。
【0027】
本実施の形態では、クライアント装置200においてシミュレーション条件を受付け、受付けたシミュレーション条件等をサーバ装置100へ送信してシミュレーションを実行する構成とした。代替的に、クライアント装置200にシミュレーションプログラムをインストールしておき、クライアント装置200にて、シミュレーション条件を受付け、受付けたシミュレーション条件等に基づきシミュレーションを実行し、シミュレーション結果を表示する構成としてもよい。
【0028】
図2はサーバ装置100の内部構成を説明するブロック図である。サーバ装置100は、制御部101、記憶部102、通信部103、操作部104および表示部105を備える。
【0029】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。制御部101が備えるCPUは、ROMまたは記憶部102に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を本願の開発支援装置として機能させる。なお、サーバ装置100は、開発支援装置の一実施形態に過ぎず、クライアント装置200と通信可能に接続された任意の情報処理装置であればよい。
【0030】
制御部101は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性または不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路または演算回路であってもよい。また、制御部101は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0031】
記憶部102は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等を用いた記憶装置を備える。記憶部102には、制御部101によって実行される各種コンピュータプログラム、およびコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部102に記憶されるコンピュータプログラムは、蓄電デバイスの挙動をシミュレートするシミュレーションプログラムSPを含む。シミュレーションプログラムSPは、例えば実行バイナリである。シミュレーションプログラムSPでは、蓄電デバイスの挙動を模擬する等価回路モデルECMが用いられる。等価回路モデルECMの詳細については、後に詳述することとする。なお、シミュレーションプログラムSPは単一のコンピュータプログラムであってもよく、複数のコンピュータから構成されるプログラム群であってもよい。
【0032】
記憶部102に記憶されるプログラムは、当該プログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体Mにより提供されてもよい。記録媒体Mは、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部101は、不図示の読取装置を用いて記録媒体Mからプログラムを読み取り、読み取ったプログラムを記憶部102にインストールする。また、記憶部102に記憶されるプログラムは、通信部103を介した通信により提供されてもよい。この場合、制御部101は、通信部103を通じてプログラムを取得し、取得したプログラムを記憶部102にインストールする。
【0033】
また、記憶部102には、シミュレーションで用いられる蓄電デバイスの等価回路モデルECMが記憶される。等価回路モデルECMは、回路構成を示す構成情報、および等価回路モデルECMを構成する各素子の値等により記述される。記憶部102には、このような等価回路モデルECMの回路構成を示す構成情報、および等価回路モデルECMを構成する各素子の値等が記憶される。
【0034】
更に、記憶部102は、蓄電デバイス(電池)の情報をユーザIDに関連付けて記憶する電池テーブルBTを有していてもよい。電池テーブルBTは、例えば、電池を識別する電池ID、ユーザを識別するユーザID、および電池情報を関連付けて記憶する。電池テーブルBTに登録される電池情報は、例えば、正極および負極の情報、電解液の情報、タブの情報などを含む。正極および負極の情報とは、正極および負極の活物質名、厚み、幅、奥行き、開回路電位などの情報である。電解液およびタブの情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、導電率などの情報である。また、電池テーブルBTには、蓄電デバイスの物理的性質、動作状態、回路構成等の情報を参照するリンクが含まれてもよい。電池テーブルBTに記憶される情報は、サーバ装置100の管理者によって登録されてもよく、クライアント装置200を介してユーザによって登録されてもよい。電池テーブルBTに記憶されている情報は、蓄電デバイスの挙動をシミュレートする際に、パラメータの一部として利用される。
【0035】
通信部103は、通信網Nを通じてクライアント装置200と通信を行うためのインタフェースを備える。通信部103は、クライアント装置200へ送信すべき情報が制御部101から入力された場合、入力された情報をクライアント装置200へ送信する共に、通信網Nを通じて受信したクライアント装置200からの情報を制御部101へ出力する。
【0036】
操作部104は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部105は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。なお、本実施の形態では、サーバ装置100が操作部104および表示部105を備える構成としたが、操作部104および表示部105は必須ではなく、サーバ装置100の外部に接続されたコンピュータを通じて操作を受付け、通知すべき情報を外部のコンピュータへ出力する構成であってもよい。
【0037】
図3はクライアント装置200の内部構成を説明するブロック図である。クライアント装置200は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末等であり、制御部201、記憶部202、通信部203、操作部204および表示部205を備える。
【0038】
制御部201は、CPU、ROM、RAMなどにより構成される。制御部201が備えるCPUは、ROMまたは記憶部202に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体の制御を実行する。
【0039】
制御部201は、上記の構成に限定されるものではなく、複数のCPU、マルチコアCPU、マイコン等を含む任意の処理回路または演算回路であってもよい。また、制御部201は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えていてもよい。
【0040】
記憶部202は、EEPROM(Electronically Erasable Programmable Read Only Memory)などの不揮発性メモリにより構成されており、各種コンピュータプログラムおよびデータを記憶する。記憶部202に記憶されるコンピュータプログラムは、サーバ装置100と情報の授受を行うために用いられる汎用または専用のアプリケーションを含む。汎用のアプリケーションプログラムの一例は、ウェブブラウザである。なお、ウェブブラウザを用いてサーバ装置100にアクセスする場合、ユーザIDおよび認証コードを用いたユーザ認証を行うことが好ましく、ユーザ認証に成功した場合にのみ、サーバ装置100とクライアント装置200との間の通信を許可すればよい。
【0041】
通信部203は、通信網Nを通じてサーバ装置100と通信を行うためのインタフェースを備える。通信部203は、サーバ装置100へ送信すべき情報が制御部201から入力された場合、入力された情報をサーバ装置100へ送信する共に、通信網Nを通じて受信したサーバ装置100からの情報を制御部201へ出力する。
【0042】
操作部204は、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力インタフェースを備えており、ユーザによる操作を受付ける。表示部205は、液晶ディスプレイ装置などを備えており、ユーザに対して報知すべき情報を表示する。なお、本実施の形態では、クライアント装置200が操作部204を備える構成としたが、クライアント装置200にキーボード、マウス等の入力インタフェースが接続される構成であってもよい。
【0043】
以下、サーバ装置100において蓄電デバイスの挙動のシミュレーションに用いられる等価回路モデルECMについて説明する。
【0044】
図4は蓄電デバイスの等価回路モデルECMの一例を示す回路図である。
図4に一例として示す等価回路モデルECMは、蓄電デバイスとして鉛蓄電池を用いたときのモデルであり、正極端子EL-POSと負極端子EL-NEGとの間に直列に接続される回路部10,20および定電圧源30を備える。
【0045】
正極端子EL-POSおよび負極端子EL-NEGは、蓄電デバイスの外部の要素と電気的に接続される端子であり、等価回路モデルECMに発生する電圧を与える。等価回路モデルECMに発生する電圧は、時間tに応じて変動する蓄電デバイスの端子電圧V(t)によって表す。ここで、時間tは、シミュレーションを開始してからの経過時間を表す。
【0046】
回路部10は、蓄電デバイスの直流抵抗成分(直流インピーダンス)を模擬するための回路部である。回路部10は、抵抗素子11を含む。蓄電デバイスの直流抵抗成分として、例えば電極の抵抗が挙げられる。抵抗素子11の抵抗値は放電電流、充電電圧、SOC、温度などによって変化する値である。回路部10のインピーダンスが定まれば、この等価回路モデルECMに電流I(t)が流れたときに回路部10に発生する電圧を計算できる。回路部10に発生する電圧を、直流抵抗電圧Vdc(t)とする。
【0047】
回路部20は、蓄電デバイスの過渡的な分極特性を模擬するための回路部である。回路部20は、並列に接続された抵抗素子および容量素子から構成されるRC並列回路を含む。本実施の形態に係る等価回路モデルECMでは、2つのRC並列回路が直列に接続されている。具体的には、抵抗素子21と容量素子22とが並列に接続された第1RC並列回路と、抵抗素子23と容量素子24とが並列に接続された第2RC並列回路とが直列に接続されている。
【0048】
第1RC並列回路を構成する抵抗素子21の抵抗値、および容量素子22の容量値は、蓄電デバイスのSOCに応じて変動する値として与えられる。抵抗素子21は、蓄電デバイスの第1分極抵抗成分を表し、容量素子22は、蓄電デバイスの第1分極容量成分を表す。
【0049】
同様に、第2RC並列回路を構成する抵抗素子23の抵抗値、および容量素子24の容量値は、蓄電デバイスのSOCに応じて変動する値として与えられる。抵抗素子23は、蓄電デバイスの第2分極抵抗成分を表し、容量素子24は、蓄電デバイスの第2分極容量成分を表す。
【0050】
回路部20を構成する抵抗素子21,23の抵抗値、および容量素子22,24の容量値によって、回路部20のインピーダンスが定まる。回路部20のインピーダンスが定まれば、この等価回路モデルECMに電流I(t)が流れたときに回路部20に発生する電圧を計算できる。回路部20に発生する電圧を分極電圧Vp(t)とする。分極電圧Vp(t)は、第1RC並列回路に発生する分極電圧Vp1(t)と、第2RC並列回路に発生する分極電圧Vp2(t)との合計電圧である。
【0051】
ここで、第1RC並列回路における時定数をτ1とし、第2RC並列回路における時定数をτ2とする。時定数τ1は、第1RC並列回路を構成する抵抗素子21の抵抗値と容量素子22の容量値とを乗じた値として定められる。時定数τ1は、第1RC並列回路に発生する分極電圧Vp1(t)の時間変化に反映される。同様に、時定数τ2は、第2RC並列回路を構成する抵抗素子23の抵抗値と容量素子24の容量値とを乗じた値として定められる。時定数τ2は、第2RC並列回路に発生する分極電圧Vp2(t)の時間変化に反映される。本実施の形態では、時定数τ1<時定数τ2の関係を満たすものとする。
【0052】
定電圧源30は、直流電圧を出力する電圧源である。定電圧源30が出力する電圧は、蓄電デバイスの開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)であり、Vo(t)と記載する。開放電圧Vo(t)は、例えばSOCの関数として与えられる。また、開放電圧Vo(t)は、蓄電デバイスの温度等の関数として与えられてもよい。
【0053】
以上説明した等価回路モデルECMにおいて発生する端子電圧V(t)は、直流抵抗電圧Vdc(t)、分極電圧Vp(t)、および開放電圧Vo(t)を用いて、
V(t)=Vdc(t)+Vp(t)+Vo(t)
のように記述することができる。
【0054】
等価回路モデルECMを構成する各素子の値(以下、回路パラメータと称する)を設定する方法として、本実施の形態では、後述の実測結果を基に、電流やSOCなどとの関係を考慮しつつ、回路パラメータを設定する手法を用いた。
【0055】
鉛蓄電池により構成される蓄電デバイスでは、起電力(上述の開放電圧Vo(t))と電池の電解液である硫酸濃度との間に線形関係があること、硫酸濃度はSOCと対応することを考慮し、蓄電デバイスの起電力を、以下の式(1)のように記述することができる。
【0056】
Vo(t)=Ka×(SOC)+Kb…(1)
【0057】
ここで、Ka,Kbは、液量、硫酸濃度、満充電時の電池容量などによって定まる係数を設定した。また、等価回路モデルECM内で用いるSOCは、満充電時の電池容量および積算電気量を基に算出した。
【0058】
なお、開放電圧Vo(t)は、副反応によって生じる電圧変動を考慮した値をさらに加味して設定してもよい。
【0059】
実際に充放電している時の電池電圧は、Voで与えられる起電力とは異なる値を示す。この起電力と実際の電池電圧の差は分極として記述される。本実施の形態では、
図4に示すような等価回路モデルECMにおいて、第1RC並列回路および第2RC並列回路を組み合わせることにより、分極特性を模擬している。
【0060】
以下、第1RC並列回路を構成する抵抗素子21の抵抗値R1および容量素子22の容量値C1、第2RC並列回路を構成する抵抗素子23の抵抗値R2および容量素子24の容量値C2を導出するにあたって使用した実測特性について説明する。
【0061】
図5は各種試験の条件を説明するテーブルである。本実施の形態において、対象電池は、例えばアイドリングストップ車用の12V電池(M-42,定格容量32Ah)であり、
図5のテーブルに示す試験A,試験Bを行うことによって、各種特性を取得した。試験Aは、充放電開始後数%のSOC変動で安定する電圧電流推移と各充放電条件との関係を調べることを目的として行った試験である。一方、試験Bは、完全放電や満充電といった極端なSOC領域を含む電圧推移と各充放電条件との関係を調べることを目的として行った試験である。なお、
図5に示すテーブルにおいて、I
5 は6.4Aである。
【0062】
本実施の形態では、充電または放電開始後数%程度のSOC変動で安定する分極(以下、分極1とする)と、低SOCおよび高SOC領域における劇的な挙動変化に対応した分極(以下、分極2とする)とを考慮して、回路部20の各素子の値が設定された。分極1は、極板近傍の電気二重層容量などが関係していると考えられ、比較的小さな時定数(時定数τ1)を有する第1RC並列回路により模擬された。一方、分極2は、極板構造変化や副反応量の変化などが関係していると考えられ、比較的大きな時定数(時定数τ2)を有し、SOC特性を考慮して設定した第2RC並列回路により模擬された。
【0063】
図6は試験Aの試験結果を示すグラフである。グラフの横軸は時間(s)であり、縦軸は電圧(V)である。
図6のグラフは、放電電流を様々に変更した場合の、電圧の時間推移を示している。この試験結果Aの結果により、早期に安定する分極1に関する特性が抽出される。一般に、時刻tにおけるRC並列回路の端子電圧V
RC(t)は、電流I、抵抗素子の抵抗値R、容量素子の容量値Cを用いて、以下の式(2)により表される。
【0064】
VRC(t)=I×R×(1-e-t/RC )…(2)
【0065】
時刻tが十分に大きいときには、VRC≒I×Rとなるので、試験Aの実施時の充放電電圧を定常状態と仮定することによって、各電流条件の抵抗値Rを算出することができる。また、一般に、RC並列回路において、時刻t=R×Cとなる時刻が時定数τであるので、このとき、式(2)からVRC(τ)≒I×R×0.63の関係が成り立つことが分かる。この特性を用いて、実際の電圧変動から時定数τを求めることができ、更にその時定数τを先の抵抗値Rで除算することによって、容量値Cを求めることができる。このようにして、第1RC並列回路を構成する抵抗素子21の抵抗値R1、容量素子22の容量値C2、および時定数τ1を算出することができる。
【0066】
図7は第1RC並列回路について得られた回路パラメータの電流特性を示すグラフである。
図7のグラフにおいて、横軸は放電電流の値、縦軸は抵抗値R1および容量値C1を表す。ここで、抵抗値R1および容量値C1については、放電電流が-6.4Aの値によって規格化された値を示している。
【0067】
図8は試験Bの試験結果を示すグラフである。グラフの横軸は時間(s)であり、縦軸は動作電圧(V)であり、満充電や完全放電といった極端なSOC領域を含む電圧推移の一例を示している。本実施の形態では、
図8に示すような試験Bの結果を参考とし、満充電や完全放電といった極端なSOC領域(すなわちSOCの変化量に対する動作電圧の変化量が他の領域よりも相対的に高い高変化量領域)のSOC-動作電圧特性を用いて、SOCに依存する抵抗素子23の抵抗値R2を算出した。
【0068】
図9は抵抗素子23について得られた抵抗値R2のSOC依存性を示すグラフである。グラフの横軸はSOC(%)であり、縦軸は抵抗値R2の値を表す。ここで、抵抗値R2については、SOCが100%の値によって規格化された値を示している。なお、第2RC並列回路における容量素子24の容量値C2は、SOCの関数を用いて、容量値C1の係数倍(ここで、係数は1~10の値)の範囲で設定した。
【0069】
更に、瞬間的な分極特性を表現する抵抗素子11の抵抗値R0については、例えばハイレート放電時の瞬間的な電圧変動などから読み取ることができ、本実施の形態では、試験Aの実験結果を基に算出した。
【0070】
本実施の形態では、サーバ装置100において、VHDL-AMSを用いて、等価回路モデルECMを記述した。このVHDL-AMSは、機械、熱、電気、油圧、電気化学などを統合したマルチドメインシミュレーションにおいて取り扱いが可能であり、幅広く活用できるコンピュータ言語の一種である。
【0071】
作成した等価回路モデルECMは、図に示していない検証用回路に接続し、検証パターンを入力した際の電流挙動を実測値と比較することによって、モデルの適否を検証できる。検証パターンとしては、充放電の切り替え周期がSBA-IS試験よりも短くなるように作成した充放電パターンを用意した。このような、充放電パターンは、例えば、独自に実施した発進および停止が頻繁に起こるような街乗りでの実車試験結果などを模擬して作成される。検証パターンにおいて、電流電圧レンジは、SBA-IS試験の試験条件を参考に設定し、初期SOCを90%に調整した後、充放電試験を行い、電流の時間変化を計測した。
【0072】
図10および
図11は検証結果の一例を示すグラフである。
図10に示すグラフの横軸はシミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は電流(A)を表している。同様に、
図11に示すグラフの横軸は、シミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は積算電気量(Ah)を表している。
図10および
図11において、実測値は実線により示され、本願の等価回路モデルECMを用いたシミュレーション結果と、自動車技術会のモデル(以下、自技会モデルという)を用いたシミュレーション結果とは、それぞれ異なる破線により示されている。
【0073】
図10および
図11に示されるように、本願による等価回路モデルECMでは、従来の自技会モデルと比較して、挙動の推定精度を高めることができた。特に、充放電が頻繁に起こり得る上記のような充放電パターンでは、積算電気量の平均誤差が自技会モデルと比較して1/6程度まで低減されていることが分かった。平均誤差は、以下の式(3)によって表される二乗平均平方根誤差(EMSE : Root Means Square Error)を使用し、0.1秒毎の各データを用いて計算した。
【0074】
【0075】
ここで、nはデータ数、fi は予測値、yi は実測値である。
【0076】
本願の等価回路モデルECMでは、自技会モデルよりも充電直後の電圧立ち上がりが早く、より実測に近い挙動となっている。
ここで、電流の時間変動に着目すると、実測電流が制限電流到達後に早期に垂下しているのに対し、自技会モデルでは、一定時間だけ制限電流が流れた後に電流垂下に移行している現象がみられた。実測のように、頻繁な充放電において充電電流が早期に垂下する原因としては、直前の放電分極の影響が考えられる。例えば、充電開始時の電圧を放電分極の減少と充電分極の増加との合成と考えると、充電直前の充電量が少ない場合には、放電分極が小さくなるため、充電開始時の電圧が充電分極の増加の影響を受けやすくなり、早期に電圧上昇となることが想定される。本願のモデル作成では、試験Bで得られたSOC特性をモデルに反映することで、高SOC領域の分極特性を考慮している。すなわち、この特性を基に充電分極の増加をより正確に再現できるように設計したため、電流および積算電流量の時間変動を精度よく再現できたと考えられる。
【0077】
図12は検証結果の他の例を示すグラフである。
図12に示すグラフの横軸は、シミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は端子電圧(V)を表している。
図12に示すように、従来の自技会モデルでは、全体的に電圧が低く推移しており、特に充電末期において電圧が立ち上がることなく収束しているのに対し、本実施の形態の等価回路モデルECMでは、充電末期の電圧上昇を含め、比較的良く再現することが可能となった。
【0078】
鉛蓄電池における充電末期の分極電圧の立ち上がりについては、主に負極での副反応に由来し、その副反応量は充電電圧によって変化することが知られており、実際の車両においては、副反応量を考慮した充電制御が行われているが、その制御は車両によって様々である。本実施の形態における等価回路モデルECMは、副反応量を考慮しているため、様々な充電制御に対して適正な挙動を出力することが可能となった。
【0079】
サーバ装置100の制御部101は、クライアント装置200からの要求に応じて、上述したような等価回路モデルECMを用いて、電流、積算電流値等の時間変動をシミュレートし、シミュレーション結果をクライアント装置200へ送信することによって、開発支援を行う。代替的に、制御部101は、等価回路モデルECMを用いて、端子電圧等の時間変動をシミュレートし、シミュレーションをクライアント装置200へ送信してもよい。
【0080】
なお、回路部10、回路部20が備える各素子(抵抗素子11、抵抗素子21、抵抗素子31、容量素子22、および容量素子24)の値は、シミュレーションを開始する時刻よりも前の蓄電素子の充放電バランスを考慮して設定してもよい。例えば、回路部20が含む抵抗素子21および抵抗素子31の抵抗値、ならびに容量素子22および容量素子24の容量値は、直前の状態に応じて変化する実電池の特性に追従するように、一連のSOC変動や充放電収支を参照し決定される補正係数を考慮して設定してもよい。
【0081】
また、副反応による分極は充電電圧によって変化するので、充電電圧-分極電圧(最大値)特性に基づき、分極を表現する抵抗値に上限を設定してもよい。この場合、高SOC領域の抵抗上昇が過剰とならないように制御でき、より高精度なモデルを作成することができる。
【0082】
図13および
図14は抵抗値に上限を設定した場合の検証結果を示すグラフである。
図13は、
図10および
図11と同様の充放電パターンが入力された場合の検証結果を示しており、横軸は、シミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は積算電気量(Ah)を表している。分極を表現する抵抗値に上限を設定しなかった場合(制限なしの場合)と、上限を設定した場合(制限ありの場合)との双方において、比較的精度良く実測を再現していることが分かる。
【0083】
図14は、
図10に示す充放電パターンと比較して充放電の頻度が少ない充放電パターンが入力された場合の検証結果を示しており、横軸は、シミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は積算電気量(Ah)を表している。分極を表現する抵抗値に上限を設定することによって(制限ありの場合)、抵抗値に上限を設定しなかった場合(制限なしの場合)よりも実測の再現精度を高めることが可能となった。
【0084】
また、分極(残分極)を表現するRC並列回路に関し、直前までの充放電バランスを考慮して、RC並列回路を構成する回路素子の値を補正してもよい。以下、直前までのSOCの最大値及び最小値の一方又は両方を考慮して、第1RC並列回路における抵抗素子21の抵抗値を補正する構成について説明する。
【0085】
図15は充放電時の蓄電デバイスの挙動を説明するグラフである。
図15Aは、ある特定の充放電パターンにて充放電を行ったときの積算電気量の時間推移を示しており、横軸は経過時間(s)、縦軸は積算電気量(Ah)を表している。
図15Aに示すグラフは実測値であり、時間に対して積算電気量が上昇する期間(充電期間)をそれぞれT1~T11の符号により示している。
【0086】
ここで、期間T2,T9,T10,T11の初期においては、積算電気量が同一レベルにあるため、SOCも同一レベルであると考えられる。上述した等価回路モデルECMにおける各回路素子の値を同一レベルのSOCに基づいて設定し、シミュレーションを行った場合、蓄電デバイスの挙動は略同一の挙動を示すと考えられる。
図15Bは、シミュレーションによる電流の時間推移を示すグラフである。
図15Bに示すグラフの横軸は充電時間(s)、縦軸は電流(A)を表している。
図15Bに示すように、同一レベルのSOCに基づいて各回路素子の値を設定し、シミュレーションを行った場合、蓄電デバイスの挙動(
図15Bは電流の時間推移)は、略同一の挙動を示す。
【0087】
図15Cは、実測による電流の時間推移を示すグラフである。
図15Cに示すグラフの横軸は充電時間(s)、縦軸は電流(A)を表している。同一レベルのSOCに基づき設定した回路素子の値を用いてシミュレーションを行った場合、蓄電デバイスの挙動は略同一の挙動を示すのに対し、実測では充電期間に応じて相違が見られる。特に、全体的に充電の傾向を示す期間(
図15Aの例では50~600sの期間)の始期に該当する期間T2と、全体的に放電の傾向を示す期間(
図15Aの例では650~1000s)の終期に該当する期間T9~T11とでは、蓄電デバイスの挙動が大きく異なる。
【0088】
そこで、本実施の形態では、直前までの充放電バランスを考慮した補正係数Kr1を導入する。この補正係数Kr1は、第1RC並列回路における抵抗素子21(
図4を参照)の抵抗値を補正するための補正係数である。
【0089】
補正係数Kr1は、例えば、一連の充放電バランスにおいて、直前までのSOC最大値と現時点のSOCとを参照し、直前までの放電よりも充電が多い場合は小さな値をとり、逆に、直前までの充電よりも放電が多い場合は小さくなるように、0.5~1.0の間で逐次設定しながら推定を進める。代替的に、補正係数Kr1は、一連の充放電バランスにおいて、直前までのSOC最小値と現時点のSOCとに基づき逐次設定してもよく、直前までのSOC最大値及びSOC最小値と現時点のSOCとに基づき逐次設定してもよい。
【0090】
図16は補正係数Kr1を用いて抵抗値を補正した場合の検証結果を示すグラフである。
図16に示すグラフの横軸はシミュレーション開始からの経過時間(s)、縦軸は積算電気量(Ah)を表している。参考として、実測値のグラフと、抵抗値を補正しなかった場合のグラフとを併せて
図17に示している。補正係数Kr1を用いて、分極(残分極)を表現する抵抗素子21の抵抗値を補正することにより(補正ありの場合)、抵抗値を補正しなかった場合(補正なしの場合)と比較して、実測の再現精度を高めることが可能となった。
【0091】
今回開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0092】
100 サーバ装置
101 制御部
102 記憶部
103 通信部
104 操作部
105 表示部
200 クライアント装置
201 制御部
202 記憶部
203 通信部
204 操作部
205 表示部
N 通信網