(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20230905BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20230905BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20230905BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230905BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230905BHJP
F01N 3/18 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60W20/16
B60W10/08 900
F02D29/02 321B
F01N3/18 D
(21)【出願番号】P 2020002799
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸平
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176737(JP,A)
【文献】特開2018-105190(JP,A)
【文献】特開2003-027924(JP,A)
【文献】特開2005-233115(JP,A)
【文献】特開2016-179740(JP,A)
【文献】特開2002-349251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F01N 3/00 - 3/02
F01N 3/04 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
F02D 29/00 - 29/06
F02D 43/00 - 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両を制御する車両制御装置であって、
前記車両制御装置は、車両システムの起動中に前記内燃機関を間欠的に停止させるエンジン間欠運転を行うように前記内燃機関及び前記電動機を制御し、
前記内燃機関は、排気通路の上流側から順に第1触媒及び第2触媒を備え、
前記車両制御装置は、
前記エンジン間欠運転中のエンジン間欠停止からの前記内燃機関の
再始動時に、前記第1触媒が劣化しており、かつ、前記第2触媒の活性度が活性度閾値よりも低い場合
、前記
エンジン間欠停止からの再始動初期における目標吸入空気量を、前記第1触媒が劣化していない場合と比べて少なくし、かつ
、前記目標吸入空気量を少なくしたことに伴うエンジンパワーの不足分のパワーを補うように前記電動機を制御し、
前記再始動時に、前記第1触媒が劣化していない場合、又は前記第1触媒が劣化していても前記第2触媒の活性度が前記活性度閾値以上である場合、前記目標吸入空気量の制限を行わず、
前記活性度閾値は、前記第1触媒が劣化していない時に浄化可能な量の排気ガスを、前記第1触媒と前記第2触媒とによって浄化するために必要な前記第2触媒の活性度の値であって、前記第1触媒の劣化度に基づく値である
ことを特徴とする車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動源として内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両の車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関及び電動機の少なくとも一方の駆動により走行可能なハイブリッド車両に設置される車両制御装置が開示されている。内燃機関の排気通路には、排気ガスを浄化するための2つの触媒が直列に配置されている。車両制御装置は、これら2つの触媒の劣化状態を検出し、その劣化状態に応じて内燃機関及び電動機の少なくとも一方の出力(パワー)を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、2つの触媒の劣化度は、ほぼ同じであるとして扱われている。経年的な劣化については、2つの触媒の劣化は、特許文献1に記載のように同様に進行する場合がある。しかしながら、2つの触媒の劣化は、必ずしも同様に進行するとは限られない。例えば、内燃機関を間欠的に停止させるエンジン間欠運転を行うハイブリッド車両では、間欠的なエンジン停止及びその後の再始動が繰り返されることに伴って空燃比のリッチ化/リーン化が繰り返される。その結果、上流側に配置された触媒(第1触媒)の劣化のみが進む場合がある。
【0005】
特許文献1に記載の技術によれば、上述の例のように第1触媒のみが劣化している場合には、下流側に配置された触媒(第2触媒)が劣化していなくても、出力制限が行われる。このことは、内燃機関の燃費悪化に繋がる可能性がある。
【0006】
本発明は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、上流側の第1触媒の劣化に起因するエンジンパワー制限の機会を減少させることによって燃費悪化を抑制しつつ、触媒劣化に起因する排気エミッションの悪化を抑制できるようにしたハイブリッド車両用の車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両制御装置は、駆動源として内燃機関と電動機とを備えるハイブリッド車両を制御する。
車両制御装置は、車両システムの起動中に内燃機関を間欠的に停止させるエンジン間欠運転を行うように内燃機関及び電動機を制御する。
内燃機関は、排気通路に上流側から順に配置された第1触媒及び第2触媒を備えている。
車両制御装置は、エンジン間欠運転中のエンジン間欠停止からの内燃機関の再始動時に、第1触媒が劣化しており、かつ、第2触媒の活性度が活性度閾値よりも低い場合、エンジン間欠停止からの再始動初期における目標吸入空気量を、第1触媒が劣化していない場合と比べて少なくし、かつ、目標吸入空気量を少なくしたことに伴うエンジンパワーの不足分のパワーを補うように電動機を制御する。一方、車両制御装置は、上記再始動時に、第1触媒が劣化していない場合、又は第1触媒が劣化していても第2触媒の活性度が活性度閾値以上である場合、目標吸入空気量の制限を行わない。
活性度閾値は、第1触媒が劣化していない時に浄化可能な量の排気ガスを、第1触媒と第2触媒とによって浄化するために必要な第2触媒の活性度の値であって、第1触媒の劣化度に基づく値である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1触媒のみ劣化が進んだ場合であっても、第2触媒の活性度を考慮して第1及び第2触媒の全体で十分な浄化性能を発揮できるかどうかが判断される。そして、全体で十分な浄化性能を発揮できる場合(第2触媒の活性度≧活性度閾値)には、エンジンパワーは制限されない。すなわち、第2触媒の活性度が活性度閾値よりも低い場合に限ってエンジンパワーの制限が実行される。このため、第2触媒の活性度を考慮せずに第1触媒が劣化していることに基づいてエンジンパワー制限を行う例と比べて、第1触媒の劣化に起因するエンジンパワー制限の機会を減少させることによって燃費悪化を抑制しつつ、触媒劣化に起因する排気エミッションの悪化を抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る車両制御装置50によって制御されるハイブリッド車両1のパワートレーンシステムの構成を示す模式図である。
【
図2】エンジン間欠運転の実行中の第1触媒及び第2触媒のそれぞれの許容ガス量の変化の一例を表したタイムチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態1に係るエンジン始動初期の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】第1触媒の劣化度と酸素吸蔵量との関係を表したグラフである。
【
図5】第2触媒の活性度と温度との関係を表したグラフである。
【
図6】第1触媒の劣化度と許容ガス量の関係を表したグラフである。
【
図7】第2触媒の活性度と目標吸入空気量との関係を表したグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態2に係るエンジン始動初期の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造やステップ等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【0011】
1.実施の形態1
図1~
図7を参照して、本発明の実施の形態1について説明する。
【0012】
1-1.システム構成の例
図1は、実施の形態1に係る車両制御装置50によって制御されるハイブリッド車両1のパワートレーンシステムの構成を示す模式図である。
図1に示す例では、ハイブリッド車両1は、駆動源として、内燃機関10と、モータジェネレータ(MG)12とを備えている。内燃機関10の出力軸であるクランク軸14は、例えば油圧式のクラッチ16を介してMG12の出力軸18に連結されている。MG12の出力軸18は、変速機(図示省略)等を介して車輪20に連結されている。
【0013】
クラッチ16によって内燃機関10とMG12とが接続された状態では、内燃機関10の駆動力のみを伝達することができ(エンジン走行モード)、又は内燃機関10の駆動力とMG12の駆動力との合力を車輪20に伝達することができる(パラレルモード)。また、クラッチ16が切り離された状態では、MG12の駆動力のみを車輪20に伝達することができる(EV走行モード)。なお、MG12は、本発明に係る「電動機」の一例に相当する。
【0014】
内燃機関10は、火花点火式エンジンであり、エンジントルクを制御するためのアクチュエータとして、スロットル弁22と燃料噴射装置(燃料噴射弁のみ図示)24と点火装置(点火プラグのみ図示)26とを備えている。内燃機関10の排気通路28には、上流側から順に、排気ガスを浄化するための第1触媒30及び第2触媒32(共に三元触媒)が配置されている。より詳細には、第1触媒30は、スタートキャタリスト(S/C)であり、エンジン本体の近傍に配置され、特にエンジン始動後の冷間時に排気ガス中の各成分(HC、CO、NOx)を素早く浄化する役割を果たす。第2触媒32は、アンダーフロア触媒(UF/C)であり、ハイブリッド車両1のボディの床下に配置されている。
【0015】
第1触媒30の上流には、各気筒からの排気の空燃比に比例した信号を出力する空燃比センサ34が取り付けられている。第1触媒30の下流かつ第2触媒32の上流にも、同様の構成の空燃比センサ36が配置されている。この空燃比センサ36に代え、O2センサが配置されてもよい。また、第2触媒32には、その温度に応じた信号を出力する触媒温度センサ38が取り付けられている。さらに、内燃機関10は、クランク角に応じた信号を出力するクランク角センサ40を備えている。
【0016】
ハイブリッド車両1は、さらに、内燃機関10及びMG12を制御するための車両制御装置50を備えている。車両制御装置50は、電子制御ユニット(ECU)52と、インバータ54とを含む。ECU52は、プロセッサ52aとメモリ52bとを有する。メモリ52bには、内燃機関10及びMG12の各制御に用いられるマップを含む各種のデータ及び各種の制御プログラムが記憶されている。ECU52は、上述の空燃比センサ34等の各種センサからの信号を取り込む。プロセッサ52aがメモリ52bから制御プログラムを読み出して実行することにより、車両制御装置50による各種の処理及び制御が実現される。インバータ54は、ECU52からの指令に基づいてMG12を制御するように構成されている。なお、車両制御装置50は、複数のECUを用いて構成されてもよい。
【0017】
MG12を駆動するための電力は、バッテリ56から供給される。MG12は、例えば、三相交流型であり、ECU52からの要求に応じてバッテリ56の充電のための発電を行う発電機としての機能も有する。MG12による発電は、内燃機関10の動力を用いて行われる。より詳細には、MG12は、インバータ54とDCDCコンバータ58とを介してバッテリ56と電力の授受を行う。インバータ54は、バッテリ56に蓄えられた電力を直流から交流に変換してMG12に供給するとともに、MG12によって発電される電力を交流から直流に変換してバッテリ56に蓄える。このため、バッテリ56は、MG12で生じた電力によって充電され、MG12で消費される電力により放電される。
【0018】
上述のように構成されたハイブリッド車両1では、車両システムの起動中に内燃機関10を間欠的に停止させるエンジン間欠運転が行われる。エンジン間欠運転中には、MG12のみの駆動力でハイブリッド車両1を駆動するEV走行モードが実行される。
【0019】
1-2.エンジン始動初期の制御
エンジン間欠運転を行うハイブリッド車両1では、間欠的なエンジン停止及びその後の再始動が繰り返されることに伴って空燃比のリッチ化/リーン化が繰り返される。その結果、上流側の第1触媒30の劣化のみが進む場合がある。第1触媒30が劣化していると、エンジン間欠停止からの再始動初期に浄化可能な排気ガス量(後述の
図2中の許容ガス量)が未劣化時(新品時)と比べて減少する。許容ガス量よりも多い量の排気ガスを第1触媒30に流すと、排気エミッションを悪化させてしまう。このため、第1触媒30が劣化している場合において排気エミッションの悪化を抑制するために、許容ガス量を超えないように内燃機関10の目標吸入空気量を制限することが考えられる。
【0020】
その一方で、第1触媒30が劣化している場合であっても、第2触媒32が活性していれば、第2触媒32において排気ガスを浄化できる。このため、第1触媒30が劣化しているという事実だけで一律に目標吸入空気量を制限するのではなく、第2触媒32の活性度をも考慮して目標吸入空気量の制限の要否及び制限量を決定することが望ましいといえる。
【0021】
図2は、エンジン間欠運転の実行中の第1触媒30及び第2触媒32のそれぞれの許容ガス量の変化の一例を表したタイムチャートである。
図2に示すように、各触媒30、32の許容ガス量(浄化可能な排気ガス量)は、時点t0でのエンジン始動後の触媒温度の上昇に伴う触媒活性度の増大に起因して増加している。また、既述したように、第1触媒30が劣化していると、劣化なしの場合と比べて、許容ガス量が低下している。
【0022】
その後、時点t1においてエンジン間欠停止がなされると、触媒温度の低下に伴って各触媒30、32の許容ガス量が低下している。その後の時点t2は、第2触媒32が活性化していない状態(より詳細には、第2触媒32の活性度が後述の閾値X未満の状態)において、エンジン間欠停止からの再始動がなされた時点に相当する。そして、その後の時点t3は、再始動後に第2触媒32が再び活性化した時点(活性度が閾値Xに到達した時点)に相当する。
【0023】
本実施形態では、第1触媒30が劣化しており、かつ、第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低いという判定条件Yが成立する場合に、目標吸入空気量の制限を実行する。このような目標吸入空気量の制限は、
図2中の時点t2から時点t3の期間のように、エンジン始動(間欠停止からの再始動)後の初期(始動直後)に実行される。
【0024】
上記の閾値Xは、第1触媒30が劣化していない時に浄化可能な量の排気ガスを、劣化している第1触媒30と第2触媒32とによって浄化するために必要な第2触媒32の活性度の値であって、第1触媒30の劣化度に基づいて算出される値である。なお、閾値Xは、本発明に係る「活性度閾値」の一例に相当する。
【0025】
目標吸入空気量の制限は、次のような手法で実行される。すなわち、エンジン始動初期(すなわち、上述の判定条件Yが成立する期間)における目標吸入空気量が、第1触媒30が劣化していない場合(新品時)と比べて少なくされる。より詳細には、排気ガス量を触媒30、32の全体で浄化可能な量に抑えるために、第1触媒30の劣化度と第2触媒32の活性度とに応じた値となるように目標吸入空気量が制限される。そして、目標吸入空気量を少なくしたことに伴うエンジンパワーPeの不足分のパワーを補うようにMG12が制御される。
【0026】
図2に示す例では、第2触媒32の活性度が閾値Xに到達した時点t3において、目標吸入空気量の制限が解除される。また、
図2に示す例とは異なり、エンジン始動時(間欠停止からの再始動時)に第2触媒32の活性度が既に閾値X以上となっている場合であれば、エンジン始動初期における目標吸入空気量の制限は行われない。
【0027】
1-2-2.車両制御装置による処理
図3は、実施の形態1に係るエンジン始動初期の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンは、エンジン始動時(より詳細には、エンジン間欠停止からの再始動時)に起動される。
【0028】
図3に示すルーチンでは、車両制御装置50(ECU52)は、まず、ステップS100において現在のエンジン運転状態を読み込む。具体的には、第1触媒30の酸素吸蔵量(より詳細には、最大酸素吸蔵量Cmax)及び第2触媒32の温度が取得される。第1触媒30の酸素吸蔵量は、第1触媒30の上下流に配置された空燃比センサ34、36の出力を利用して、公知の手法(例えば、特開2004-76681号公報に示される手法)にて求めることができる。第2触媒32の触媒温度は、ここでは触媒温度センサ38を用いて取得されるが、公知の手法でエンジン運転状態に基づいて推定されてもよい。
【0029】
ステップS100に続き、ECU52は、ステップS102において第1触媒30の劣化度を算出する。この劣化度は、例えば次のような手法で算出できる。
図4は、第1触媒30の劣化度と酸素吸蔵量との関係を表したグラフである。
図4に示すように、第1触媒30の劣化が進むと、酸素吸蔵量が少なくなる。ECU52は、
図4に示すような関係をマップとして記憶しており、ステップS100において取得した酸素吸蔵量に応じた劣化度をそのようなマップから算出する。その後、ECU52はステップS104に進む。
【0030】
ステップS104では、ECU52は、第2触媒32の活性度を算出する。この活性度は、例えば次のような手法で算出できる。
図5は、第2触媒32の活性度と温度との関係を表したグラフである。第2触媒32の活性度は、その温度(床温)が高くなるにつれ、
図5に表されるように高くなる。ECU52は、
図5に示すような関係をマップとして記憶しており、ステップS100において取得した第2触媒32の温度に応じた活性度をそのようなマップから算出する。その後、ECU52はステップS106に進む。
【0031】
ステップS106では、ECU52は、エンジン始動初期の目標吸入空気量を減らす必要があるか否かを判断するために、次のような判定を実行する。すなわち、ECU52は、第1触媒30が劣化しているか否かを判定するとともに、第2触媒32の活性度が上述の閾値Xよりも低いか否かを判定する。まず、前者の第1触媒30が劣化しているか否かの判定は、ステップS102において算出された劣化度が所定の閾値よりも高いか否かに基づいて行うことができる。
【0032】
また、後者の判定に関し、閾値Xは、第1触媒30の劣化度に基づいて、例えば次のような手法で算出できる。閾値Xは、既述したように、第1触媒30が劣化していない時に浄化可能な量の排気ガスを、劣化している第1触媒30と第2触媒32とによって浄化するために必要な第2触媒32の活性度の値である。
図6は、第1触媒30の劣化度と許容ガス量の関係を表したグラフである。
図6に示すように、第1触媒30の許容ガス量は、第1触媒30の劣化が進むほど少なくなる。
図6に示すような関係をマップとして記憶しておくことで、「第1触媒30が劣化していない時に浄化可能な排気ガス量(許容ガス量)」と、現在の劣化度の下での第1触媒30の許容ガス量とを算出できる。これらの許容ガス量の差分に相当する排気ガス量を浄化可能な値以上の活性度で第2触媒32が活性化していれば、第1触媒30が劣化していても、第1触媒30の未劣化時と同等の許容ガス量を第1触媒30と第2触媒32とによって確保できるといえる。そこで、一例として、ECU52は、第2触媒32の許容ガス量と活性度との関係(図示省略)をマップとして記憶しており、そのようなマップから、上記差分相当の第2触媒32の許容ガス量の確保に必要な第2触媒32の活性度を閾値Xとして算出する。そのうえで、上記の後者の判定に関し、ECU52は、ステップS104において算出した第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低いか否かを判定する。
【0033】
ステップS106において、第1触媒30が劣化しており、かつ、第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低い場合、つまり、エンジン始動初期の目標吸入空気量を制限する必要があると判断できる場合には、ECU52は、ステップS108に進む。
【0034】
ステップS108では、ECU52は、制限後の目標吸入空気量を決定する。具体的には、例えば次のような手法により、ECU52は、第1触媒30の劣化度と第2触媒32の活性度とに応じた値を、制限後の目標吸入空気量として算出する。
図7は、第2触媒32の活性度と目標吸入空気量との関係を表したグラフである。この図に示すように、第2触媒32の活性度が閾値X以上であれば目標吸入空気量の制限は行われず、第1触媒30が劣化していない場合と同じ値となるように目標吸入空気量が算出される。一方、第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低い場合には、活性度が低いほど少なくなるように目標吸入空気量が算出される。すなわち、活性度が低いほど、目標吸入空気量の制限量が大きくなる。
図7は、第1触媒30の劣化度がある値の時の関係を示している。第1触媒30の劣化度が高いほど、上記の差分相当の第2触媒32の許容ガス量の確保に必要な第2触媒32の活性度が高くなる。また、第1触媒30の劣化度が高いほど、第2触媒32が未活性の場合に目標吸入空気量の減少量が多くなる。これらを考慮して、ECU52は、
図7に示すような関係を定めたマップを、第1触媒30の劣化度に応じて複数記憶している。そして、ECU52は、第1触媒30の劣化度に応じたマップを用いて現在の第2触媒32の活性度に応じた目標吸入空気量を算出する。ECU52は、算出された目標吸入空気量が得られるようにスロットル弁22の開度を制御する。
【0035】
ステップS108に続き、ECU52はステップS110に進む。ステップS110では、ECU52は、目標吸入空気量を少なくしたことに伴うエンジンパワーPeの不足分のパワーを補うようにMG12を制御するために、MG指令値(トルク指令値及び回転数指令値)を加算する。より詳細には、ECU52は、車両要求パワーに対するエンジンパワーPeの不足分を補うために必要なMG12のトルク及び回転数の補正値を基本指令値に加算する。加算後のMG指令値は、インバータ54に出力される。エンジンパワーPeの不足分は、例えば、次のような手法で算出できる。すなわち、ECU52は、吸入空気量とエンジントルクとの関係を定めたマップ(図示省略)を記憶しておき、そのようなマップを利用して、吸入空気量の減少分に応じたエンジントルクの減少分を算出する。そのうえで、ECU52は、算出したエンジントルクの減少分と、クランク角センサ40を用いて算出された現在のエンジン回転数とに基づいて、エンジンパワーPeの不足分を算出する。また、車両要求パワーの算出は、例えば、アクセル開度と車速とに基づいて行うことができる。
【0036】
一方、ステップS106の判定結果が否定的である場合(第1触媒30が劣化していない場合、又は、第1触媒30は劣化しているが第2触媒32の活性度が閾値X以上の場合)、つまり、目標吸入空気量を制限する必要がないと判断できる場合には、ECU52は、今回の処理サイクルを終了する。したがって、この場合には、目標吸入空気量の制限は行われない。
【0037】
1-3.効果
以上説明した本実施形態のエンジン始動初期の制御によれば、第1触媒30のみ劣化が進んだ場合であっても、第2触媒32の活性度を考慮して触媒30、32の全体で十分な浄化性能を発揮できるかどうかが判断される。そして、全体で十分な浄化性能を発揮できる場合(第2触媒32の活性度≧閾値X)には、エンジンパワーPeは制限されない。すなわち、第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低い場合に限ってエンジンパワーPeの制限が実行される。このため、第2触媒32の活性度を考慮せずに第1触媒30が劣化していることに基づいてエンジンパワー制限を行う例と比べて、第1触媒30の劣化に起因するエンジンパワー制限の機会を減少させることによって燃費悪化を抑制しつつ、エンジン始動初期(エンジン間欠停止からの再始動初期)における排気エミッションの悪化を抑制できるようになる。
【0038】
また、本実施形態の制御によれば、エンジンパワーPeの制限のための目標吸入空気量の制限量(減少量)は、第1触媒30の劣化度と第2触媒32の活性度とに基づいて決定される。これにより、触媒30、32の全体で十分な浄化性能を発揮できるかどうかを考慮しながら当該制限量を決定できるため、エンジンパワーPeの制限量をより適切に必要最小限に抑えられる。付け加えると、エンジンパワーPeの制限量を必要最小限にできることも、燃費悪化の抑制に繋がる。
【0039】
2.実施の形態2
次に、
図8を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。実施の形態2は、以下の点において、上述した実施の形態1と相違している。
【0040】
具体的には、本実施形態におけるエンジン始動初期の制御では、第1触媒30が劣化しており、かつ、第2触媒32の活性度が閾値Xよりも低いという判定条件Yが成立する場合には、パラレルモードへの移行が禁止される。
【0041】
図8は、実施の形態2に係るエンジン始動初期の制御に関する処理のルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンのステップS100~S106の処理は、実施の形態1において説明した通りである。
【0042】
図8に示すルーチンでは、ECU52は、ステップS106の判定結果が肯定的である場合に、ステップS200に進む。ステップS200では、ECU52は、パラレルモードへの移行を禁止する。その結果、ECU52は、内燃機関10の駆動力を車両駆動に用いないEV走行モードを実行する。
【0043】
以上説明した実施の形態2の制御によっても、上述の判定条件Yが成立する場合には、エンジン始動初期の目標吸入空気量が減らされる(ゼロとされる)。一方、判定条件Yが成立しない場合には、目標吸入空気量の制限は実行されない。このため、実施の形態2によっても、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0044】
なお、本発明に係るエンジン始動初期の制御は、駆動源として内燃機関と電動機(電動機及び発電機のうちの少なくとも電動機としての機能を有するもの)とを備えるハイブリッド車両であれば、
図1に示す駆動方式のハイブリッド車両1に限らず、適用可能である。
【0045】
以上説明した各実施の形態に記載の例及び他の各変形例は、明示した組み合わせ以外にも可能な範囲内で適宜組み合わせてもよいし、また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 ハイブリッド車両
10 内燃機関
12 モータジェネレータ(MG)
16 クラッチ
20 車輪
28 排気通路
30 第1触媒
32 第2触媒
34、36 空燃比センサ
38 触媒温度センサ
40 クランク角センサ
50 車両制御装置
52 電子制御ユニット(ECU)
54 インバータ
56 バッテリ