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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230905BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230905BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
H02P5/46 J
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020013498
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120236
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田代 祐基
(72)【発明者】
【氏名】岸田 文夫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 美雄
(72)【発明者】
【氏名】尾形 俊明
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-359108(JP,A)
【文献】特開2008-168658(JP,A)
【文献】特開2011-098625(JP,A)
【文献】特開2004-182039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
H02P 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるための駆動力を発生する2つのモータと、
前記2つのモータへの給電をそれぞれ個別に制御する電流制御回路を含む2つの制御装置と、を備え、
前記2つの制御装置のうちいずれか一方の制御装置は、前記2つのモータに発生させるべきトルクの合計値に応じた電流指令値を演算するとともに、その演算される電流指令値を前記モータごとに設定される比率で配分し、
前記2つの制御装置は、それぞれ自己の制御対象であるモータに配分される個別の電流指令値に応じた電流を自己の制御対象であるモータへ供給する転舵装置であって、
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータおよび電流制御回路のうちいずれか一方の系統のモータまたは電流制御回路の温度が前記2つの系統のモータおよび電流制御回路に許容される限界温度に至る前の予兆としての温度上昇を検出すべく定められる第1の温度しきい値を超えるとき、温度の高い方の系統のモータである高温側のモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる一方、温度の低い方の系統のモータである低温側のモータに対する前記電流指令値の配分比率を増加させるように構成され、
さらに、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統の双方のモータまたは電流制御回路の温度が前記第1の温度しきい値を超える状態が設定時間だけ継続するとき、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限するように構成される転舵装置。
【請求項2】
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記高温側の系統のモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる分だけ、前記低温側の系統のモータに対する前記電流指令値の配分比率を増加させる請求項1に記載の転舵装置。
【請求項3】
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限する際、その旨報知すべく定められた報知動作を行う請求項1または請求項2に記載の転舵装置。
【請求項4】
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限した状態で、前記2つの系統の双方のモータまたは電流制御回路の温度が前記2つの系統のモータおよび電流制御回路に許容される限界温度を基準として設定される第2の温度しきい値を超えるとき、前記2つの系統のモータの双方を停止させる請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の転舵装置。
【請求項5】
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの双方を停止させる際、その旨報知すべく定められた報知動作を行う請求項4に記載の転舵装置。
【請求項6】
前記2つの系統のモータへ供給される電流をそれぞれ個別に検出する2つの系統の電流センサを有し、
前記2つの制御装置は、前記2つの系統の電流センサを通じて検出される電流の積算値に基づき前記2つの系統のモータの温度を演算する請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵装置。
【請求項7】
前記2つの制御装置は、それぞれ温度センサを有するとともに自己の制御対象であるモータと一体的に設けられていて、
前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統の温度センサを通じて検出される温度を前記2つの系統のモータの温度として取得する請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵輪を転舵させる転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、転舵輪を転舵するための動力を発生するモータを有する転舵装置が存在する。たとえば、特許文献1の転舵装置は、複数のモータと、これらモータを制御する制御装置とを有している。制御装置は、モータに電流を供給するハードウェアである制御回路(駆動回路)を含み、複数のモータのうち過熱状態に至ったモータおよび制御回路を停止させる過熱保護機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-238957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の転舵装置によれば、たしかに過熱状態に至った系統のモータおよび制御回路を保護することができる。しかし、この過熱状態に至った系統のモータが停止される分だけ転舵輪を転舵するためのトータルとしての動力が減少する。このため、転舵輪の円滑な動作が阻害されるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、転舵輪を転舵するための動力を確保しつつモータおよびその制御装置を発熱から保護することができる転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る転舵装置は、車両の転舵輪を転舵させるための駆動力を発生する2つのモータと、前記2つのモータへの給電をそれぞれ個別に制御する電流制御回路を含む2つの制御装置と、を備えている。前記2つの制御装置のうちいずれか一方の制御装置は、前記2つのモータに発生させるべきトルクの合計値に応じた電流指令値を演算するとともに、その演算される電流指令値を前記モータごとに設定される比率で配分する。前記2つの制御装置は、それぞれ自己の制御対象であるモータに配分される個別の電流指令値に応じた電流を自己の制御対象であるモータへ供給する。前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータおよび電流制御回路のうちいずれか一方の系統のモータまたは電流制御回路の温度が前記2つの系統のモータおよび電流制御回路に許容される限界温度に至る前の予兆としての温度上昇を検出すべく定められる第1の温度しきい値を超えるとき、温度の高い方の系統のモータである高温側のモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる一方、温度の低い方の系統のモータである低温側のモータに対する前記電流指令値の配分比率を増加させる。
【0007】
この構成によれば、2つの系統のモータおよび電流制御回路のうちいずれか一方の系統のモータまたは電流制御回路の温度が第1の温度しきい値を超えるとき、高温側の系統のモータへ供給される電流が減少する一方、低温側の系統のモータへ供給される電流が増加する。高温側の系統のモータへ供給される電流が減少する分だけ高温側の系統のモータの発熱が抑えられる。また、低温側の系統のモータへ供給される電流が増加する分だけ低温側の系統のモータの出力が増大する。したがって、2つのモータが発生するトータルとしてのトルクを確保しつつ、高温側の系統のモータを発熱から保護することができる。また、2つの系統の電流制御回路のうちいずれか一方の系統の電流制御回路の温度が第1の温
度しきい値を超えるときには、高温側の系統の制御装置に対応するモータへ供給される電流が減少する。このため、高温側の系統の制御装置、特にその電流制御回路の発熱が抑えられる。したがって、2つのモータが発生するトータルとしてのトルクを確保しつつ、高温側の系統の制御装置を発熱から保護することができる。
【0008】
上記の転舵装置において、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記高温側の系統のモータに対する前記電流指令値の配分比率を減少させる分だけ、前記低温側の系統のモータに対する前記電流指令値の配分比率を増加させるようにしてもよい。
【0009】
この構成によれば、2つのモータが発生するトルクの合計値は電流指令値に応じたトルクとなる。すなわち、2つのモータが発生するトータルとしてのトルクを減少させることなく高温側のモータを発熱から保護することができる。
【0010】
上記の転舵装置において、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統の双方のモータまたは電流制御回路の温度が前記第1の温度しきい値を超える状態が設定時間だけ継続するとき、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、2つの系統のモータおよび電流制御回路の温度上昇を抑えつつ、車両の転舵輪を転舵させることができる。
上記の転舵装置において、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限する際、その旨報知すべく定められた報知動作を行うようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、2つの系統のモータの出力が制限されることが報知される。このため、車両の運転者は2つの系統のモータの出力が制限されることを認識することができる。
【0013】
上記の転舵装置において、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限した状態で、前記2つの系統の双方のモータまたは電流制御回路の温度が前記2つの系統のモータおよび電流制御回路に許容される限界温度を基準として設定される第2の温度しきい値を超えるとき、前記2つの系統のモータの双方を停止させるようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、2つの系統のモータがそれぞれ停止されることにより、2つの系統のモータおよび電流制御回路をより確実に過熱から保護することができる。
上記の転舵装置において、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統のモータの双方を停止させる際、その旨報知すべく定められた報知動作を行うようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、2つの系統のモータの双方が停止されることが報知される。このため、車両の運転者は2つの系統のモータの双方が停止されることを認識することができる。
【0016】
上記の転舵装置において、前記2つの系統のモータへ供給される電流をそれぞれ個別に検出する2つの系統の電流センサを有していてもよい。この場合、前記2つの制御装置は、前記2つの系統の電流センサを通じて検出される電流の積算値に基づき前記2つの系統のモータの温度を演算するようにしてもよい。
【0017】
この構成によるように、2つの系統のモータへそれぞれ供給される電流の積算値に基づ
き2つの系統のモータの温度をそれぞれ得ることができる。
上記の転舵装置において、前記2つの制御装置は、それぞれ温度センサを有するとともに自己の制御対象であるモータと一体的に設けられていてもよい。この場合、前記電流指令値を演算する制御装置は、前記2つの系統の温度センサを通じて検出される温度を前記2つの系統のモータの温度として取得するようにしてもよい。
【0018】
この構成によるように、制御装置がモータと一体的に設けられる場合、制御装置が有する温度センサを通じて検出される温度にはモータの発熱が反映される。このため、2つの制御装置は、それぞれ自己が有する温度センサを通じて検出される温度に基づき自己の制御対象であるモータの発熱状態を認識することが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の転舵装置によれば、転舵輪を転舵するための動力を確保しつつモータおよびその制御装置を発熱から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】転舵装置の第1の実施の形態の構成図。
図2】第1および第2の実施の形態の制御装置のブロック図。
図3】第1の実施の形態の2つのモータの発熱特性を示すグラフ。
図4】第1の実施の形態の制御装置により実行される過熱保護制御の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、車両の転舵装置を具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、転舵装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11の内部には車体の左右方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵軸12が収容されている。転舵軸12の両端には、それぞれタイロッド13,13を介して転舵輪14,14が連結される。転舵軸12がその軸方向に沿って移動することにより転舵輪14,14の転舵角θw,θwが変更される。
【0022】
転舵軸12には、第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bが設けられている。第1のボールねじ溝部12aは、転舵軸12における第1の端部(図1中の左端部)に寄った所定範囲にわたって右ねじが設けられた部分である。第2のボールねじ溝部12bは、転舵軸12における第2の端部(図1中の右端部)に寄った所定範囲にわたって左ねじが設けられた部分である。
【0023】
転舵装置10は、第1のボールナット15および第2のボールナット16を有している。第1のボールナット15は、転舵軸12の第1のボールねじ溝部12aに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。第2のボールナット16は、転舵軸12の第2のボールねじ溝部12bに対して図示しない複数のボールを介して螺合されている。転舵軸12の第1のボールねじ溝部12a、図示しないボールおよび第1のボールナット15は、第1のボールねじBS1を構成する。転舵軸12の第2のボールねじ溝部12b、図示しないボールおよび第2のボールナット16は、第2のボールねじBS2を構成する。
【0024】
転舵装置10は、第1のモータ17および第2のモータ18を有している。これら第1のモータ17および第2のモータ18は、転舵輪14,14を転舵させるための動力である転舵力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。第1のモータ17および第2のモータ18は、それぞれハウジング11の外側の部分に固定される。
第1のモータ17の出力軸17aおよび第2のモータ18の出力軸18aは、それぞれ転舵軸12に対して平行に延びている。
【0025】
転舵装置10は、第1のベルト伝動機構21および第2のベルト伝動機構22を有している。
第1のベルト伝動機構21は、駆動プーリ23、従動プーリ24、および無端状のベルト25を有している。駆動プーリ23は、その外周面に歯23aが設けられた歯付きプーリであって、第1のモータ17の出力軸17aに固定されている。従動プーリ24は、その外周面に歯24aが設けられた歯付きプーリであって、第1のボールナット15の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト25は、その内周面に歯25aが設けられた歯付きのベルトであって、駆動プーリ23と従動プーリ24との間に掛け渡されている。したがって、第1のモータ17の回転は、駆動プーリ23、ベルト25および従動プーリ24を介して第1のボールナット15に伝達される。
【0026】
第2のベルト伝動機構22は、第1のベルト伝動機構21と同様に、駆動プーリ26、従動プーリ27、および無端状のベルト28を有している。駆動プーリ26は、その外周面に歯26aが設けられた歯付きプーリであって、第2のモータ18の出力軸18aに固定されている。従動プーリ27は、その外周面に歯27aが設けられた歯付きプーリであって、第2のボールナット16の外周面に嵌められた状態で固定されている。ベルト28は、その内周面に歯28aが設けられた歯付きのベルトであって、駆動プーリ26と従動プーリ27との間に掛け渡されている。したがって、第2のモータ18の回転は、駆動プーリ26、ベルト28および従動プーリ27を介して第2のボールナット16に伝達される。
【0027】
第1のベルト伝動機構21および第1のボールねじBS1は、第1のモータ17の駆動力を転舵軸12に伝達する第1の伝動機構を構成する。第2のベルト伝動機構22および第2のボールねじBS2は、第2のモータ18の駆動力を転舵軸12に伝達する第2の伝動機構を構成する。ちなみに、第1のモータ17から転舵軸12までの間の減速比(第1の伝動機構の減速比)、および第2のモータ18から転舵軸12までの間の減速比(第2の伝動機構の減速比)は同じ値である。また、転舵軸12における第1のボールねじ溝部12aのリード、および第2のボールねじ溝部12bのリードは同じ値である。したがって、第1のモータ17が1回転したときの転舵軸12の移動量と、第2のモータ18が1回転したときの転舵軸12の移動量とは、同じ値になる。
【0028】
転舵装置10は、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32を有している。第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32としては、たとえばレゾルバが採用される。また、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32の検出範囲は、第1のモータ17および第2のモータ18の電気角の1周期に対応する360°である。
【0029】
第1の回転角センサ31は第1のモータ17に設けられている。第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転角(電気角)αを検出する。第1の回転角センサ31は、第1のモータ17の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第1の正弦信号(sin信号)、および第1のモータ17の回転に応じて余弦波状に変化する第1の余弦信号(cos信号)を生成する。第1の回転角センサ31は、第1の正弦信号および第1の余弦信号に基づく逆正接を第1のモータ17の回転角αとして演算する。この回転角αは、第1の回転角センサ31の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。すなわち、回転角αは、第1のモータ17の回転に応じて立ち上がりと急峻な立ち下がりとを繰り返すかたちで変化する。
【0030】
第2の回転角センサ32は、第2のモータ18に設けられている。第2の回転角センサ32は、第2のモータ18の回転角β(電気角)を検出する。第2の回転角センサ32は、第2のモータ18の回転に応じた電気信号として正弦波状に変化する第2の正弦信号、および第2のモータ18の回転に応じて余弦波状に変化する第2の余弦信号を生成する。第2の回転角センサ32は、第2の正弦信号および第2の余弦信号に基づく逆正接を第2のモータ18の回転角βとして演算する。この回転角βは、第2の回転角センサ32の軸倍角に応じた周期でのこぎり波状に変化する。
【0031】
第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32は、互いに異なる軸倍角を有している。軸倍角とは、第1のモータ17および第2のモータ18の回転角(機械角)に対する電気信号の電気角の比をいう。たとえば第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が1周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は1倍角(1X)である。また、第1のモータ17が1回転する間に第1の回転角センサ31が4周期分の電気信号を生成する場合、第1の回転角センサ31の軸倍角は4倍角(4X)である。
【0032】
第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32は互いに異なる軸倍角を有しているため、第1のモータ17の1回転あたりの回転角αおよび第2のモータ18の1回転あたりの回転角βの周期数は互いに異なる。すなわち、第1の回転角センサ31および第2の回転角センサ32により生成される電気信号の一周期あたりの第1のモータ17および第2のモータ18の回転角(機械角)の値は互いに異なる。
【0033】
第1のモータ17は第1のベルト伝動機構21および第1のボールねじBSを介して転舵軸12、ひいては転舵輪14,14に連結されている。また、第2のモータ18は第2のベルト伝動機構22および第2のボールねじBSを介して転舵軸12、ひいては転舵輪14,14に連結されている。このため、第1のモータ17の回転角αおよび第2のモータ18の回転角βは、それぞれ転舵軸12の軸方向における絶対位置、ひいては転舵輪14,14の転舵角を反映する値である。
【0034】
転舵装置10は、第1の制御装置41および第2の制御装置42を有している。第1の制御装置41および第2の制御装置42は、それぞれCPU(Central Processing Unit
)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などからなるマイクロコンピュータを主体として構成される。
【0035】
第1の制御装置41は、第1のモータ17を制御する。第1の制御装置41は、たとえば車載される上位の制御装置が車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じて演算する目標転舵角θを取り込む。また、第1の制御装置41は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込む。
【0036】
第1の制御装置41は、第1のモータ17の駆動制御を通じて転舵輪14,14を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第1の制御装置41は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを使用して転舵軸12の実際の絶対位置を演算する。また、第1の制御装置41は、目標転舵角θに基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。第1の制御装置41は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する給電を制御する位置フィードバック制御を実行する。第1の制御装置41は、転舵軸12の目標絶対位置と実際の絶対位置との差に応じて第1のモータ17および第2のモータ18に対する電流指令値を演算し、この演算される電流指令値に応じた電流を第1のモータ17へ供給する。
【0037】
第2の制御装置42は、第2のモータ18を制御する。第2の制御装置42は、第2のモータ18の駆動制御を通じて転舵輪14,14を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。第2の制御装置42は、第1の制御装置41により演算される電流指令値を取り込み、この取り込まれる電流指令値に基づき第2のモータ18に対する給電を制御する。
【0038】
ちなみに、転舵軸12に対する第1のボールナット15および第2のボールナット16の相対回転に伴い、転舵軸12には軸周りのトルクが作用する。転舵軸12を特定の方向へ向けて移動させようとする場合、第1のボールナット15および第2のボールナット16が互いに反対方向へ向けて回転するとともに、それらボールナットの回転に伴い転舵軸12に作用するトルクの大きさが基本的には同じ値になるように、第1のモータ17および第2のモータ18の動作が制御される。このため、互いに逆方向のトルクである、第1のボールナット15の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクと、第2のボールナット16の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクとが相殺される。したがって、転舵軸12に軸周りのトルクが作用することが抑制される。
【0039】
<制御装置>
つぎに、第1の制御装置41および第2の制御装置42について詳細に説明する。
図2に示すように、第1の制御装置41は、位置検出回路51、位置制御回路52、配分演算回路53、乗算器54および電流制御回路55、および減算器56を有している。
【0040】
位置検出回路51は、第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角α、および第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βを取り込み、これら取り込まれる回転角α,βに基づき転舵軸12の絶対位置P1を演算する。
【0041】
位置制御回路52は、前述した上位の制御装置が演算する目標転舵角θに基づき転舵軸12の目標絶対位置を演算する。転舵軸12と転舵輪14,14とは互いに連動するため、転舵軸12の絶対位置と転舵輪14,14の転舵角θwとの間には相間関係がある。この相間関係を利用して目標転舵角θから転舵軸12の目標絶対位置を求めることができる。位置制御回路52は、転舵軸12の目標絶対位置と位置検出回路51により演算される転舵軸12の実際の絶対位置P1との差を求め、この差を無くすように第1のモータ17および第2のモータ18に対する電流指令値Iを演算する。この電流指令値Iは、第1のモータ17および第2のモータ18に発生させるべきトータルとしてのトルクに対応する。
【0042】
配分演算回路53は、位置制御回路52により演算される電流指令値Iの第1のモータ17に対する第1の配分比率DRを演算する。第1の配分比率DRは、「0」以上「1」以下の範囲内の値に設定される。本実施の形態では、互いに逆方向のトルクである、第1のボールナット15の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクと、第2のボールナット16の回転に伴い転舵軸12に作用するトルクとを相殺する観点から、第1の配分比率DR1の値はそのデフォルト値である「0.5」に設定される。これは、位置制御回路52により演算される電流指令値Iを100%としたときの50%に相当する値である。
【0043】
乗算器54は、配分演算回路53により演算される第1の配分比率DRを位置制御回路52により演算される電流指令値Iに乗算することにより第1のモータ17に対する第1の電流指令値I を演算する。
【0044】
電流制御回路55は、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路を含んでなる。スイッチング素子としては、たとえばパワー素子であるFET(Field Effect Transistor)が採用される。電流制御回路55は、乗算器54により演算される第1の電流指令値
に応じた電力を第1のモータ17へ供給する。これにより、第1のモータ17は、第1の電流指令値I に応じたトルクを発生する。
【0045】
減算器56は、第1の制御装置41の記憶装置に格納された固定値である「1」から、配分演算回路53により演算される第1の配分比率DR1を減算することにより、電流指令値Iの第2のモータ18に対する第2の配分比率DRを演算する。本実施の形態では、第1の配分比率DRが「0.5」に設定されるため、第2の配分比率DRの値は「0.5」となる。
【0046】
図2に示すように、第2の制御装置42は、位置検出回路61、位置制御回路62、乗算器63、および電流制御回路64を有している。
位置検出回路61は、第1のモータ17の回転角αおよび第2のモータ18の回転角βに基づき転舵軸12の絶対位置P2を演算する。位置制御回路62は、目標転舵角θに基づき演算される転舵軸12の目標絶対位置と位置検出回路61により演算される転舵軸12の実際の絶対位置P2とに基づき電流指令値Iを演算する。ただし、位置検出回路61および位置制御回路62は、第1の制御装置41のバックアップ用であって、第1の制御装置41が正常に動作している通常の状態においては機能が停止した状態に維持される。
【0047】
乗算器63は、第1の制御装置41の減算器56により演算される第2の配分比率DRを第1の制御装置41の位置制御回路52により演算される電流指令値Iに乗算することにより第2のモータ18に対する第2の電流指令値I を演算する。
【0048】
電流制御回路64は、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路を含んでなる。電流制御回路64は、乗算器63により演算される第2の電流指令値I に応じた電力を第2のモータ18へ供給する。これにより、第2のモータ18は、第2の電流指令値I に応じたトルクを発生する。
【0049】
<過熱保護機能>
第1の制御装置41は、第1のモータ17および第2のモータ18を過熱から保護する過熱保護機能を有している。本実施の形態では、第1のモータ17および第2のモータ18の過熱状態を検出するために、第1の制御装置41および第2の制御装置42として、つぎの構成を採用している。
【0050】
図2に示すように、第1の制御装置41は、第1の電流センサ57を有している。第1の電流センサ57は、電流制御回路55と第1のモータ17との間の給電経路58に設けられている。第1の電流センサ57は、電流制御回路55から第1のモータ17へ供給される電流の値である電流値Iを検出する。また、第2の制御装置42は、第2の電流センサ65を有している。第2の電流センサ65は、電流制御回路64と第2のモータ18との間の給電経路66に設けられている。第2の電流センサ65は、電流制御回路64から第2のモータ18へ供給される電流の値である電流値Iを検出する。
【0051】
第1のモータ17および第2のモータ18が三相モータである場合、第1の電流センサ57および第2の電流センサ65は、それぞれUVWの各相に対応するU相電流センサ、V相電流センサおよびW相電流センサから構成される。ちなみに、第1のモータ17および第2のモータ18が単相モータである場合、第1の電流センサ57および第2の電流センサ65は、それぞれ1個の電流センサから構成される。モータの相数と電流センサの数
との関係、ならびに電流検出方法は周知であるため、その詳細な説明を割愛する。
【0052】
配分演算回路53は、第1の電流センサ57を通じて検出される第1のモータ17の電流値I、および第2の電流センサ65を通じて検出される第2のモータ18の電流値Iを定められたサンプリング周期で取り込む。配分演算回路53は、第1のモータ17の電流値Iあるいはその積算値に基づき第1のモータ17の温度を演算する。また、配分演算回路53は、第2のモータ18の電流値Iあるいはその積算値に基づき第2のモータ18の温度を演算する。ただし、配分演算回路53は、第1のモータ17および第2のモータ18の温度を演算する際、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱特性を考慮してもよい。なお、第1のモータ17および第2のモータ18の温度には、モータコイルの温度も含まれる。
【0053】
配分演算回路53は、第1のモータ17および第2のモータ18の温度に基づき第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態が保護すべき状態であるかどうかを判定する。配分演算回路53は、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態に応じて第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRおよび第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRをデフォルト値(DR:DR=0.5:0.5)と異なる値に変更する。
【0054】
配分演算回路53は、第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRを変更する場合、ならびに第1のモータ17および第2のモータ18のうち少なくとも一方の発熱状態が保護すべき態である場合、たとえば車室内に設けられる報知装置70に対する報知指令信号Swを生成する。報知指令信号Swは、報知装置70に対して所定の報知動作を実行させるための命令である。報知装置70は、報知指令信号Swに基づき報知動作を行う。報知動作としては、たとえば警告音を発したり、車室内に設けられるディスプレイに警告を表示したりすることが挙げられる。
【0055】
<モータの発熱特性>
つぎに、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱特性を説明する。
第1のモータ17の温度および第2のモータ18の温度は、それらの運転時間の経過に伴い徐々に上昇する。本実施の形態では、第1のモータ17および第2のモータ18は同一品であって、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱特性も同じである。このため、第1のモータ17へ供給される電流量と第2のモータ18へ供給される電流量とが同じである場合、運転時間の経過に対する第1のモータ17の温度変化量と第2のモータ18の温度変化量とは、理想的には同じになる。
【0056】
しかし、第1のモータ17または第2のモータ18の内部において絶縁劣化などの異常が発生した場合、第1のモータ17の発熱特性または第2のモータ18の発熱特性が正常時と異なる特性を示すことが想定される。この場合、第1のモータ17へ供給される電流量と第2のモータ18へ供給される電流量とが同じであったとしても、運転時間の経過に対する第1のモータ17の温度変化量と第2のモータ18の温度変化量とが異なる。このため、つぎのような状況が発生する。
【0057】
図3のグラフに示すように、第1のモータ17の発熱特性と第2のモータ18の発熱特性とが異なる場合、たとえ第1のモータ17および第2のモータ18へ供給される電流量が同じであったとしても、図3のグラフに破線の特性線L1で示される一方のモータの温度が、図3のグラフに実線の特性線L2で示される他方のモータの温度よりも速く上昇する。このことを前提として、第1の制御装置41は第1のモータ17および第2のモータ18を過熱から保護するための過熱保護処理を実行する。
【0058】
<過熱保護処理の手順>
つぎに、第1の制御装置41の配分演算回路53により実行される過熱保護処理の手順を図4のフローチャートに従って説明する。このフローチャートの処理は、車両の電源が投入されることを契機として実行開始される。また、このフローチャートの処理は、定められた制御周期で繰り返し実行される。
【0059】
図4のフローチャートに示すように、配分演算回路53は、第1の電流センサ57を通じて検出される第1のモータ17の電流値I、および第2の電流センサ65を通じて検出される第2のモータ18の電流値Iを取り込む(ステップS101)。
【0060】
つぎに、配分演算回路53は、先のステップS101において取り込まれる電流値Iあるいはその積算値に基づき第1のモータ17の温度Tを演算するとともに、先のステップS101において取り込まれる電流値Iあるいはその積算値に基づき第2のモータ18の温度Tを演算する(ステップS102)。
【0061】
つぎに、配分演算回路53は、先のステップS102において演算される第1のモータ17の温度Tまたは第2のモータ18の温度Tが第1の温度しきい値Tth0を超えているかどうかを判定する(ステップS103)。第1の温度しきい値Tth0は、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態が保護すべき状態である過熱状態に至る前に、その予兆としての温度上昇を検出する観点に基づき設定される。この観点に基づき、第1の温度しきい値Tth0は、第1のモータ17および第2のモータ18に許容される限界の温度である限界温度よりも低い温度に設定される。第1の温度しきい値Tth0は、第1の制御装置41の記憶装置に格納されている。
【0062】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tがいずれも第1の温度しきい値Tth0を超えていないとき(ステップS103でNO)、処理を終了する。
【0063】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tまたは第2のモータ18の温度Tが第1の温度しきい値Tth0を超えているとき(ステップS103でYES)、第1のモータ17の温度Tが第2のモータ18の温度Tよりも高い温度であるかどうかを判定する(ステップS104)。
【0064】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tが第2のモータ18の温度Tよりも高い温度であるとき(ステップS104でYES)、第1のモータ17および第2のモータ18の状態としてつぎの状態(A1),(A2)を認識し(ステップS105)、ステップS107へ処理を移行する。
【0065】
(A1)第1のモータ17は、その温度が第1の温度しきい値Tth0よりも高い高温側のモータであること。
(A2)第2のモータ18は、その温度が第1の温度しきい値Tth0よりも低い低温側のモータであること。
【0066】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tが第2のモータ18の温度Tよりも高くない温度であるとき(ステップS104でNO)、第1のモータ17および第2のモータ18の状態としてつぎの状態(A3),(A4)を認識し(ステップS106)、ステップS107へ処理を移行する。
【0067】
(A3)第1のモータ17は、その温度が第1の温度しきい値Tth0よりも低い低温側のモータであること。
(A4)第2のモータ18は、その温度が第1の温度しきい値Tth0よりも高い高温側のモータであること。
【0068】
ステップS107において、配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tまたは第2のモータ18の温度Tが第1の温度しきい値Tth0を超える温度まで上昇していること、具体的には第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRをデフォルト値と異なる値に変更することを、報知装置70を通じて報知する(ステップS107)。
【0069】
つぎに、配分演算回路53は、電流指令値Iの配分制御として、高温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率を減らす一方、低温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率を増やす(ステップS108)。
【0070】
配分演算回路53は、第1のモータ17が高温側のモータであって、第2のモータ18が低温側のモータである場合、次式(B1)を使用して第1の配分比率DRを演算する。
【0071】
DR=(T/T)・K …(B1)
ただし、「T」は高温側のモータの温度である。「T」は低温側のモータの温度である。「K」は所定の係数であって、たとえば「0.5」に設定される。
【0072】
たとえば、第1のモータの温度Tが100℃であって、第2のモータの温度Tが50℃である場合、第1の配分比率DRの値は「0.25」となる。このため、減算器56により演算される第2の配分比率DRの値は「0.75」となる。すなわち、高温側のモータである第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRはデフォルト値である「0.5」よりも小さい値に減少する。低温側のモータである第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRはデフォルト値である「0.5」よりも大きい値に増加する。したがって、第1のモータ17の出力(すなわち、発生トルク)は、第1の配分比率DRの値がデフォルト値である「0.5」に設定される場合に本来発生することが要求される出力である通常出力よりも低い出力となる。第2のモータ18の出力は、第2の配分比率DRの値がデフォルト値である「0.5」に設定される場合に本来発生することが要求される出力である通常出力よりも高い出力となる。
【0073】
配分演算回路53は、第1のモータ17が低温側のモータであって、第2のモータ18が高温側のモータである場合、次式(B2)を使用して第1の配分比率DRを演算する。
【0074】
DR=1-(T/T)・K …(B2)
ただし、「T」は高温側のモータの温度である。「T」は低温側のモータの温度である。「K」は所定の係数であって、たとえば「0.5」に設定される。
【0075】
たとえば、第1のモータの温度Tが50℃であって、第2のモータの温度Tが100℃である場合、第1の配分比率DRの値は「0.75」となる。このため、減算器56により演算される第2の配分比率DRの値は「0.25」となる。すなわち、高温側のモータである第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRはデフォルト値である「0.5」よりも小さい値に減少する。低温側のモータである第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRはデフォルト値である「0.5」よりも大きい値に増加する。したがって、第2のモータ18の出力は、第2の配分比率DRの値がデフォルト値である「0.5」に設定されるときの出力である通常出力よりも低い出力となる。第1のモータ17の出力は、第1の配分比率DRの値がデフォルト値である「0.5」に設定されるときの出力である通常出力よりも高い出力となる。
【0076】
つぎに、配分演算回路53は、第1の電流センサ57を通じて検出される第1のモータの電流値Iあるいはその積算値に基づき第1のモータ17の温度Tを演算するとともに、第2の電流センサ65を通じて検出される第2のモータ18の電流値Iあるいはその積算値に基づき第2のモータ18の温度Tを演算する(ステップS109)。
【0077】
つぎに、配分演算回路53は、先のステップS109において演算される第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第1の温度しきい値Tth0を超えているかどうかを判定する(ステップS110)。
【0078】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第1の温度しきい値Tth0を超えていないとき(ステップS110でNO)、第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力をそれぞれ通常出力の100%に復帰させる(ステップS111)。すなわち、配分演算回路53は、第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRをデフォルト値である「0.5」に設定する。これにより、減算器56により演算される第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRもデフォルト値である「0.5」となる。配分演算回路53は、ステップS111において第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRをデフォルト値に復帰させた後、処理を終了する。
【0079】
先のステップS111において、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第1の温度しきい値Tth0を超えているとき(ステップS110でYES)、設定時間だけ経過したかどうかを判定する(ステップS112)。設定時間は、たとえば先のステップS108において高温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率をデフォルト値よりも小さい値に減少させた場合、その高温側のモータの温度が第1の温度しきい値Tth0を下回るまでに必要とされる時間を基準として設定される。設定時間は、シミュレーションなどを通じて設定される。
【0080】
配分演算回路53は、設定時間だけ経過していない旨判定されるとき(ステップS112でNO)、先のステップS110へ処理を移行する。
配分演算回路53は、設定時間だけ経過している旨判定されるとき(ステップS112でYES)、第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力である通常出力よりも低い出力、たとえば通常出力の50%とする(ステップS113)。すなわち、配分演算回路53は、第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRおよび第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRを、それぞれデフォルト値である「0.5」の半分(50%)である「0.25」に設定する。具体的には、配分演算回路53は、次式(C1),(C2)で示されるように、自己が演算した第1の配分比率DRおよび減算器56により演算される第2の配分比率DRに対してそれぞれ制限倍率LRを乗ずる。ただし、制限倍率LRは第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力を制限する観点に基づき設定される。制限倍率LRは「0」を超え「1」未満の小数であって、たとえば「0.5」に設定される。
【0081】
DR・LR …(C1)
DR・LR …(C2)
この後、配分演算回路53は、第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力をそれぞれ通常出力よりも低い出力に抑えることを、報知装置70を通じて報知する(ステップS114)。
【0082】
つぎに、配分演算回路53は、第1のモータ17の電流値Iあるいはその積算値に基
づき演算される第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の電流値Iあるいはその積算値に基づき演算される第2のモータ18の温度Tの双方が第2の温度しきい値Tthを超えているかを判定する(ステップS115)。第2の温度しきい値Tthは、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態が過熱から保護すべき状態であるかどうかを判定する際の基準となる温度であって、第1のモータ17および第2のモータ18に許容される限界の温度である限界温度を基準として設定される。第2の温度しきい値Tthは、第1の制御装置41の記憶装置に格納されている。
【0083】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第2の温度しきい値Tthを超えていないとき(ステップS115でNO)、先のステップS113へ処理を移行する。すなわち、先のステップS113において第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力がそれぞれ通常出力の50%に設定された以降、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第2の温度しきい値Tthを超えるまでの期間、第1のモータ17および第2のモータ18を動作させることが可能である。
【0084】
配分演算回路53は、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第2の温度しきい値Tthを超えているとき(ステップS115でYES)、第1のモータ17および第2のモータ18をそれぞれ停止させることを、報知装置70を通じて報知する(ステップS116)。
【0085】
その後、配分演算回路53は、第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力をそれぞれ通常出力の0%に設定する(ステップS117)。すなわち、配分演算回路53は、第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DRおよび第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRを、それぞれ「0」に設定する。ただし、この場合、配分演算回路53は、第1の制御装置41の減算器56から第2の制御装置42の乗算器63への第2の配分比率DRの供給を遮断したうえで、第2の配分比率DRを第2の制御装置42の乗算器63に対して直接供給する。
【0086】
第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRの値がそれぞれ「0」に設定されることにより、位置制御回路52により演算される電流指令値Iにかかわらず、第1のモータ17および第2のモータ18に対してそれぞれ電力が供給されることがない。このため、第1のモータ17および第2のモータ18の内部における絶縁劣化、あるいはモータコイルの焼損などの発生が抑制される。すなわち、第1のモータ17および第2のモータ18が発熱あるいは過熱から保護される。
【0087】
ちなみに、第1の制御装置41および第2の制御装置42は、第1のモータ17および第2のモータ18の過熱保護機能のみならず、第1の制御装置41および第2の制御装置42をそれぞれ過熱から保護する過熱保護機能を有していてもよい。この場合、先の図4のフローチャートに示される第1のモータ17および第2のモータ18の過熱保護処理と同様の処理の実行を通じて、第1の制御装置41および第2の制御装置42を過熱から保護することができる。ただし、先の図4のフローチャートの各処理において、第1のモータ17を第1の制御装置41と、第2のモータ18を第2の制御装置42と読み替える。
【0088】
なお、ステップS102において検出される第1の制御装置41および第2の制御装置42の温度には、FETなどの複数のパワー素子を有する電流制御回路55,64の温度が含まれる。また、ステップS102において使用される第1の温度しきい値Tth0は、たとえば第1の制御装置41および第2の制御装置42の温度が、それらに許容される限界温度に至る前の予兆としての温度上昇を検出する観点に基づき定められる。
【0089】
また、第1のモータ17および第2のモータ18の過熱保護処理と、第1の制御装置41および第2の制御装置42の過熱保護処理とは、互いに並列的に実行するようにしてもよいし、プログラムを統合して実行するようにしてもよい。
【0090】
また、第1のモータ17および第2のモータ18の過熱保護処理と、第1の制御装置41および第2の制御装置42の過熱保護処理とを統合して実行する場合、たとえば先のステップS108の処理を、つぎのように変更してもよい。すなわち、第1のモータ17の温度Tまたは第2のモータ18の温度T、ならびに第1の制御装置41の温度および第2の制御装置42の温度のうち、先の式(B1)における「T/T」の値がもっとも小さくなる2つの温度の値を使用して第1の配分比率DRを演算する。
【0091】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tのいずれか一方が第1の温度しきい値Tth0を超えるとき、第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DR、および第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRがそれぞれ変更される。すなわち、第1の温度しきい値Tth0を超える高温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率はデフォルト値よりも小さい値に設定される。第1の温度しきい値Tth0を超えない低温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率はデフォルト値よりも大きい値に設定される。このため、高温側のモータへ供給される電流が減少する分だけ高温側のモータの発熱が抑えられる。また、低温側のモータへ供給される電流が増加する分だけ低温側のモータの出力が増大する。このため、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトータルとしてのトルクを確保しつつ、高温側のモータを発熱から保護することができる。また、低温側のモータをより有効に活用することができるため、転舵装置10としての動作信頼性が高められる。
【0092】
(2)第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tのいずれか一方が第1の温度しきい値Tth0を超えるとき、高温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率が減少される分だけ、低温側のモータに対する電流指令値Iの配分比率が増加される。このため、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトータルとしてのトルクは、位置制御回路52により演算される電流指令値Iに応じたトルクとなる。すなわち、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトータルのトルクを減少させることなく、高温側のモータを発熱から保護することができる。
【0093】
(3)第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第1の温度しきい値Tth0を超える状態が設定時間だけ経過する場合、第1のモータ17の出力および第2のモータの出力をそれぞれ本来発生することが要求される出力の半分に制限される。このため、第1のモータ17および第2のモータ18の温度上昇を抑えつつ、車両の転舵輪14,14を転舵させることができる。
【0094】
(4)第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tの双方が第2の温度しきい値Tthを超えるとき、第1のモータ17および第2のモータ18の動作が停止される。第1のモータ17および第2のモータ18への給電がそれぞれ停止されることにより、第1のモータ17および第2のモータ18をより確実に過熱から保護することができる。
【0095】
(5)第1のモータ17または第2のモータ18の温度が第1の温度しきい値Tth0を超える温度まで上昇することに伴い第1の配分比率DRの値および第2の配分比率DRの値がデフォルト値と異なる値に変更されるとき、その旨報知装置70を通じて報知される。このため、車両の運転者は、第1のモータ17または第2のモータ18の温度が
第1の温度しきい値Tth0を超える温度まで上昇していることを認識することができる。
【0096】
(6)第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力がそれぞれ本来発生することが要求される出力の50%に制限されるとき、その旨報知装置70を通じて報知される。このため、車両の運転者は、第1のモータ17の出力および第2のモータ18の出力がそれぞれ制限されることを認識することができる。
【0097】
(7)第1のモータ17および第2のモータ18がそれぞれ停止されるとき、その旨報知装置70を通じて報知される。このため、車両の運転者は、第1のモータ17および第2のモータ18がそれぞれ停止されることを認識することができる。
【0098】
(8)ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された転舵装置10においては、ステアリングホイールを介した操舵トルクが転舵軸12に付与されないため、第1のモータ17および第2のモータ18に要求されるトータルとしての発生トルクがより大きな値となりやすい。このため、転舵装置10の第1のモータ17および第2のモータ18は、電動パワーステアリング装置の動力源となるモータに比べて過熱状態に至りやすい。したがって、高温側のモータに対する電流指令値の配分比率を減少させる一方、低温側のモータに電流指令値の配分比率を増加させる過熱保護機能は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離された転舵装置10に好適である。
【0099】
(9)第1のモータ17および第2のモータ18が協調して動作する際、これら第1のモータ17および第2のモータ18へ供給される電流は第1の制御装置41により決定される。第2の制御装置42は、第1の制御装置41により一方的に決定される第2の配分比率DR2に基づく個別の電流指令値(I )に応じた電流を自己の制御対象である第2のモータ18に供給するべく動作するだけである。すなわち、第1の制御装置41と第2の制御装置42とは、互いにマスター機とスレーブ機との関係にある。このため、たとえば第1の制御装置41および第2の制御装置42がそれぞれ位置制御を行うことによって自己の制御対象であるモータに対する電流指令値を個別に演算し、それら個別に演算される電流指令値に基づき自己の制御対象であるモータに対する給電を制御する場合と異なり、第1の制御装置41の制御と第2の制御装置42の制御とが互いに干渉することが抑制される。
【0100】
たとえば、転舵軸12の第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bのリード誤差などに起因して、第1の制御装置41による転舵軸12の位置フィードバック制御と第2の制御装置42による転舵軸12の位置フィードバック制御とが互いに干渉することが発生しない。したがって、第1のモータ17および第2のモータ18が互いに協調して適切に動作することにより、2つの転舵輪14,14をより適切に転舵させることができる。
【0101】
(10)第1の制御装置41および第2の制御装置42に自身を過熱から保護する過熱保護機能を持たせた場合、つぎの作用および効果が得られる。すなわち、第1の制御装置41の温度および第2の制御装置42の温度のいずれか一方が第1の温度しきい値Tth0を超えるとき、第1のモータ17に対する電流指令値Iの第1の配分比率DR、および第2のモータ18に対する電流指令値Iの第2の配分比率DRがそれぞれ変更される。すなわち、第1の温度しきい値Tth0を超える高温側の制御装置に対応するモータに対する電流指令値Iの配分比率はデフォルト値よりも小さい値に設定される。第1の温度しきい値Tth0を超えない低温側の制御装置に対応するモータに対する電流指令値Iの配分比率はデフォルト値よりも大きい値に設定される。このため、高温側の制御装置に対応するモータへ供給される電流が減少する分だけ高温側の制御装置(特に、イン
バータ回路を含む電流制御回路)の発熱が抑えられる。また、低温側の制御装置に対応するモータへ供給される電流が増加する分だけ低温側の制御装置に対応するモータの出力が増大する。このため、第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトータルとしてのトルクを確保しつつ、高温側の制御装置を発熱から保護することができる。
【0102】
<第2の実施の形態>
車両の転舵装置を具体化した第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の図1に示す第1の実施の形態と同様の構成を有している。
【0103】
第1の実施の形態において、第1の制御装置41は、第1のモータ17の電流値Iに基づく第1のモータ17の温度T、および第2のモータ18の電流値Iに基づく第2のモータ18のTを使用して第1のモータ17および第2のモータ18に対する過熱保護処理を実行するようにしたが、つぎのようにしてもよい。
【0104】
図2に示すように、第1の制御装置41には温度センサ59が設けられている。また、第2の制御装置42には温度センサ67が設けられている。配分演算回路53は、温度センサ59,67を通じて検出される温度T11,T21を使用して第1のモータ17および第2のモータ18に対する過熱保護処理を実行する。
【0105】
第1の制御装置41が第1のモータ17と一体的に設けられる場合、第1のモータ17の発熱に伴い第1の制御装置41の温度が上昇する。また、第2の制御装置42が第2のモータ18と一体的に設けられる場合、第2のモータ18の発熱に伴い第2の制御装置42の温度が上昇する。すなわち、第1の制御装置41および第2の制御装置42が有する温度センサ59,67を通じて検出される温度T11,T21には、第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態が反映される。このため、温度センサ59,67を通じて検出される温度T11,T21に基づき第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態を監視することができる。
【0106】
ちなみに、第1の温度しきい値Tth0および第2の温度しきい値Tthは、過熱保護対象である第1のモータ17および第2のモータ18の限界温度のみならず、第1の制御装置41および第2の制御装置42に許容される限界の温度である限界温度などを考慮して適宜の値に設定される。
【0107】
第1の制御装置41の配分演算回路53は、温度センサ59を通じて検出される温度T11を第1のモータ17の温度として取得するとともに、温度センサ67を通じて検出される温度T21を第2のモータ18の温度として取得する。配分演算回路53は、先の図4のフローチャートに示される手順と同様の手順で第1のモータ17および第2のモータ18に対する過熱保護処理を実行する。
【0108】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)~(10)と同様の効果に加え、以下の効果を得ることができる。
【0109】
(11)第1の制御装置41および第2の制御装置42が第1のモータ17および第2のモータ18と一体的に設けられる場合、第1の制御装置41および第2の制御装置42が有する温度センサ59,67を通じて検出される温度T11,T21には第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態が反映される。このため、第1の制御装置41および第2の制御装置42は、それぞれ自己が有する温度センサ59,67を通じて検出される温度T11,T21に基づき自己の制御対象である第1のモータ17および第2のモータ18の発熱状態を認識することができる。
【0110】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1および第2の実施の形態において、先の図4のフローチャートにおけるステップS108およびステップS110の処理のように第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRを変更する場合、変更前の第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRから変更後の第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRへ向けて徐々に変化させてもよい。このようにすれば、第1の配分比率DRおよび第2の配分比率DRの急変、ひいては第1のモータ17および第2のモータ18が発生するトルクの急変が抑えられる。
【0111】
・第1および第2の実施の形態において、第1のモータ17および第2のモータ18は、車両の進行方向からみて車両の左右に並んで位置する。すなわち、第1のモータ17および第2のモータ18の車両における搭載位置は異なる。このため、エンジンなどの熱源との距離も第1のモータ17と第2のモータ18とでは異なる。また、第1のモータ17と第2のモータとでは、冷却風のあたり方も異なる。このため、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tは、第1のモータ17の電流値Iおよび第2のモータ18の電流値Iのみならず、第1のモータ17および第2のモータ18の周辺に存在する熱源の影響、あるいは冷却風の影響の重み付けを考慮して求めるようにしてもよい。このようにすれば、第1のモータ17の温度Tおよび第2のモータ18の温度Tをより正確に求めることが可能となる。
【0112】
・第1および第2の実施の形態において、第1のモータ17および第2のモータ18は同一品でなくてもよい。たとえば、第1のモータ17が発生することのできる最大の出力と、第2のモータ18が発生することのできる最大の出力とが互いに異なっていてもよい。
【0113】
・第1および第2の実施の形態において、第1のモータ17および第2のモータ18は、互いに異なる発熱特性を有していてもよい。この場合、第1の温度しきい値Tth0および第2の温度しきい値Tthは、第1のモータ17および第2のモータ18に対してそれぞれ固有の値として別個に設定する。
【0114】
・第1および第2の実施の形態では、転舵軸12が中立位置Pに位置している場合、電流指令値Iの第1のモータ17に対する第1の配分比率DRを「0.5」に設定したが、これに限らない。転舵軸12が中立位置Pに位置している場合の第1の配分比率DRを製品仕様などに応じて「0.6」あるいは「0.4」などの適宜の値に設定してもよい。ちなみに、第1の配分比率DRが「0.6」に設定され得る場合、第2の配分比率DRは「0.4」となる。また、第1の配分比率DRが「0.4」に設定され得る場合、第2の配分比率DRは「0.6」となる。
【0115】
・第1および第2の実施の形態において、第1のボールねじ溝部12aを左ねじ、第2のボールねじ溝部12bを右ねじとしてもよい。すなわち、第1のボールねじ溝部12aと第2のボールねじ溝部12bとが互いに逆ねじの関係を有していればよい。また、第1のボールねじ溝部12aおよび第2のボールねじ溝部12bの双方を右ねじ、または左ねじとしてもよい。ただし、この構成を採用する場合、転舵軸12には、ハウジング11に対する転舵軸12の相対回転を抑制するための回転規制部を設ける。
【0116】
・第1および第2の実施の形態において、車載される上位の制御装置は目標転舵角θではなく、車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に応じた転舵軸12の目標絶対位置を演算するものであってもよい。この場合、第1の制御装置41および第2の制御装置42
は、上位の制御装置により演算される転舵軸12の目標絶対位置を取り込み、この取り込まれる目標絶対位置を使用して第1のモータ17および第2のモータ18に対する給電を制御する。
【0117】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41は、目標転舵角θに基づき第1のモータ17の目標回転角を演算し、この演算される第1のモータ17の目標回転角と第1の回転角センサ31を通じて検出される第1のモータ17の回転角αとの差を求め、この差を無くすように第1のモータ17に対する給電を制御するようにしてもよい。また、第2の制御装置42は、第1の制御装置41と同様に、目標転舵角θに基づき第2のモータ18の目標回転角を演算し、この演算される第2のモータ18の目標回転角と第2の回転角センサ32を通じて検出される第2のモータ18の回転角βとの差を求め、この差を無くすように第2のモータ18に対する給電を制御するようにしてもよい。
【0118】
・第1および第2の実施の形態において、第1のモータ17の駆動力を転舵軸12に伝達する第1の伝動機構として第1のベルト伝動機構21を割愛した構成を採用するとともに、第2のモータ18の駆動力を転舵軸12に伝達する第2の伝動機構として第2のベルト伝動機構22を割愛した構成を採用してもよい。この場合、たとえば第1のモータ17および第2のモータ18を転舵軸12と同軸に設ける。そして第1のモータ17の出力軸17aを第1のボールナット15に対して一体回転可能に連結するとともに、第2のモータ18の出力軸18aを第2のボールナット16に対して一体回転可能に連結する。この構成を採用した場合であれ、第1および第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0119】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41だけにではなく第2の制御装置42にも配分演算回路53および減算器56に相当する構成を設けてもよい。このようにすれば、第2の制御装置42を第1の制御装置41と同一の構成とし、第1の制御装置41のバックアップ装置とすることができる。ちなみに、第2の制御装置42の配分演算回路は、位置制御回路62により演算される電流指令値Iの第2のモータ18に対する第2の配分比率DRを演算する。第2の制御装置42の減算器は、第2の制御装置42の記憶装置に格納された固定値である「1」から、第2の制御装置42の配分演算回路により演算される第2の配分比率DRを減算することにより、電流指令値Iの第1のモータ17に対する第1の配分比率DRを演算する。ただし、第2の制御装置42の配分演算回路および減算器は、第1の制御装置41のバックアップ用であって、第1の制御装置41が正常に動作している場合には機能が停止した状態に維持される。
【0120】
・第1および第2の実施の形態において、第2の制御装置42として、位置検出回路61および位置制御回路62を割愛した構成を採用してもよい。このようにすれば、第2の制御装置42の構成を簡単にすることができる。
【0121】
・第1および第2の実施の形態において、第1の制御装置41と第1のモータ17とを互いに分離して設けてもよい。また、第2の制御装置42と第2のモータ18とを互いに分離して設けてもよい。ただし、この構成を第2の実施の形態において採用する場合、第1の制御装置41と第1のモータ17とを互いに近接して設けるとともに、第2の制御装置42と第2のモータ18とを互いに近接して設ける。このようにすれば、第2の実施の形態の(10)と同様の効果を得ることができる。
【0122】
・第1および第2の実施の形態における転舵装置10は、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離したステアバイワイヤ式の操舵装置に適用してもよい。ステアバイワイヤ式の操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および反力モータの駆動を制御する反力制御装置を有するところ、反力制御
装置として車両の操舵状態あるいは車両の走行状態に基づきステアリングホイールの目標操舵角を演算するものが存在する。この場合、第1の制御装置41および第2の制御装置42は、たとえば上位の制御装置としての反力制御装置により演算される目標操舵角を目標転舵角θとして取り込むようにしてもよい。
【0123】
・第1および第2の実施の形態において、転舵装置10を、第1の転舵輪および第2の転舵輪をそれぞれ独立して転舵させる、左右独立型の転舵装置として構成してもよい。この場合、転舵装置として、第1のボールねじBSが設けられる第1の転舵軸、および第2のボールねじBSが設けられる第2の転舵軸を有する構成を採用する。
【0124】
・第1および第2の実施の形態において、転舵装置10の第1の伝動機構は第1のベルト伝動機構21および第1のボールねじBS1を、転舵装置10の第2の伝動機構は第2のベルト伝動機構22および第2のボールねじBS2を有していたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、転舵装置10の第1の伝動機構および第2の伝動機構のうちいずれか一方または両方を、ウォーム減速機およびラックアンドピニオン機構を備える、いわゆるピニオンアシスト機構に置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0125】
10…転舵装置
14…転舵輪
17…第1のモータ
18…第2のモータ
41…第1の制御装置
42…第2の制御装置
55…電流制御回路
57…第1の電流センサ
64…電流制御回路
65…第2の電流センサ
59,67…温度センサ
70…報知装置
th0…第1の温度しきい値
th…第2の温度しきい値
図1
図2
図3
図4