(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/06 20060101AFI20230905BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20230905BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20230905BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230905BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20230905BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20230905BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60W10/02 900
B60K6/445 ZHV
B60K6/547
B60W20/16
B60W10/08 900
F01N3/20 D
(21)【出願番号】P 2020067567
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】勇 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】今村 達也
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007437(JP,A)
【文献】特開2019-108073(JP,A)
【文献】特開2014-094691(JP,A)
【文献】特開平11-173175(JP,A)
【文献】特開2017-047823(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0305411(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 10/30
B60W 20/00 - 20/50
F01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源であるエンジンと、前記エンジンの排気を浄化する浄化装置と、発電機能を有する第1モータと、少なくとも三つ以上の回転要素を有する差動機構と、前記エンジンと前記第1モータとをトルク伝達可能に連結する係合機構とを備え、
前記エンジンが前記回転要素のいずれか一つの回転要素に連結され、前記第1モータが前記回転要素のいずれか他の一つの回転要素に連結され、前記係合機構を連結することにより前記エンジンを回転させた際に前記第1モータが連れて回転するように構成されたハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記差動機構よりも出力側の部材に連結された前記駆動力源としての第2モータと、
前記ハイブリッド車両を制御するコントロー
ラとを更に備え、
前記コントローラは、
前記浄化装置を暖機する要求があるか否かを判断し、
前記浄化装置を暖機する要求があると判断し
たことにより前記浄化装置を暖機している間にアクセル操作された場合に
、前記第2モータにより駆動力を発生させ、
前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が予め定められた所定値よりも大きい場合に、前記係合機構の連結を解除し、かつ前記エンジンの点火時期を遅角させる遅角制御を実
行し、
前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下である場合に、前記係合機構を連結し、かつ前記遅角制御を実行し、
前記係合機構の連結を解除している場合の遅角量が、前記係合機構を連結している場合の遅角量よりも大きくなるように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記浄化装置の温度を検出する温度センサと、前記検出した浄化装置の温度と前記浄化装置の活性温度とを比較する温度比較器と、前記エンジンの点火時期を制御する点火指令器とを更に備え、
前記コントローラは、
前記温度センサにより前記浄化装置の温度を検出し、
前記温度比較器により前記検出した浄化装置の温度と前記活性温度とを比較し、
前記浄化装置の温度が前記活性温度未満であると判断した場合に、前記浄化装置の暖機の要求があると判断し
て、前記点火指令器により前記遅角制御を実行するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記コントローラは、
前記浄化装置を暖機する要求があると判断した場合に、前記エンジンが自立運転中であるか否かを判断し、
前記エンジンが自立運転中でないと判断された場合に、前記第1モータにより前記エンジンを自立運転可能な所定の回転数までモータリングし、
前記モータリングが完了した後に前記係合機構の連結を解除するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
請求
項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記コントローラは、
前記係合機構を連結して前記浄化装置の暖機を行う際に、前記エンジンで前記第1モータを駆動して発電させるように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
請求
項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記第1モータおよび前記第2モータに対して電気的に連結された蓄電装置を更に備え、
前記コントローラは、
前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下であるか否かの判断を、前記蓄電装置の充電残量が予め定められた所定残量以下の場合に前記発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下であると判断し、
前記充電残量が前記所定残量以下である場合に、前記係合機構を連結し、
前記充電残量が前記所定残量より大きい場合に、前記係合機構の連結を解除するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
請求
項1から4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記第1モータおよび前記第2モータに対して電気的に連結された蓄電装置を更に備え、
前記ハイブリッド車両は、前記蓄電装置の充電残量を維持する第1走行モードと、前記蓄電装置に蓄電された電力を積極的に使用する第2走行モードとを選択的に設定できるように構成され、
前記コントローラは、
前記第1走行モードが設定されている場合に、前記係合機
構を連結し、
前記第2走行モードが設定されている場合に、前記係合機
構の連結を解除するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
請求項1か
ら6のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記コントローラは、
前記浄化装置を暖機する要求があるか否かを判断し、
前記浄化装置を暖機する要求がないと判断した場合に、前記係合機構を連結するように構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
請求項1か
ら7のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装
置であって、
前記差動機構は、
前記エンジンが連結されている第1回転要素と、前記第1モータが連結されている第2回転要素と、駆動輪にトルクを出力する第3回転要素とによって差動作用を行う第1差動機構と、出力部材が連結されている第4回転要素と、前記第3回転要素に連結されている第5回転要素と、第6回転要素とによって差動作用を行う第2差動機構とを含み、
前記係合機構は、
前記第6回転要素と前記第1回転要素とを連結し、またその連結を解く第1係合機構と、前記第4回転要素と前記第5回転要素と前記第6回転要素とのうち少なくともいずれか二つの回転要素を連結し、またその連結を解く第2係合機構とを含んで構成されている
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンとモータとを駆動力源として備えたハイブリッド車両の制御装置に関し、特に、車両に搭載された排気浄化触媒暖機の制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1ないし特許文献3には、排気系に設けられた浄化触媒を暖機するように構成されたハイブリッド車両の制御装置が記載されている。特許文献1に記載されたハイブリッド車両の制御装置では、エンジンから出力すべき要求パワーが所定パワー以上の場合に、エンジンを負荷運転しながら浄化触媒を暖機するように構成されている。それとは反対に、前記要求パワーが所定パワー未満の場合に、エンジンをアイドル回転数で自立運転させながら浄化触媒を暖機するように構成されている。なお、この特許文献1に記載された制御装置では、触媒暖機を実行する際に、その触媒の暖機を促進させるために、エンジンの点火時期を遅角させている。
【0003】
また、特許文献2に記載されたハイブリッド車両の制御装置は、浄化触媒の暖機要求がない場合に、電動機の温度を検出し、その検出した電動機の温度が高温である程、電動機の出力を制限するように構成されている。また、浄化触媒の暖機要求がある場合に、前記電動機の出力の制限を伴わずに、浄化触媒の暖機を行いつつ、要求駆動力を満たすようにエンジンおよび電動機が制御される。
【0004】
また、特許文献3に記載されたハイブリッド車両の制御装置は、触媒暖機中に、制動操作されたことによるエンジンのトルク変動によって、車両の挙動が不安定になることを抑制するように構成されている。具体的には、制動要求があった際に、エンジンの出力による触媒の暖機を中止する。なお、通常走行している際には、エンジンのトルク変動は、制動時よりは比較的小さいため、触媒暖機を実行している。
【0005】
そして、特許文献4には、エンジンの出力トルクを、動力分割機構により第1モータ側と出力側とに分割し、第1モータ側に伝達された動力を電力として第2モータに伝達し、第2モータから出力されたトルクを、エンジンから直接伝達されるトルクに加算して走行するハイブリッド車両が記載されている。この動力分割機構は、第1クラッチ機構と第2クラッチ機構とを選択的に係合することによりハイブリッド・ローモードとハイブリッド・ハイモードとを設定することができるように構成され、それらハイブリッド・ローモードとハイブリッド・ハイモードとは、エンジン回転数と出力回転数との回転数比がそれぞれ異なる走行モードである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-067297号公報
【文献】特開2009-274628号公報
【文献】特開2015-051734号公報
【文献】特開2017ー007437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エンジンの排気経路には、排気中に含まれる有害物質を酸化あるいは還元して浄化するための触媒(三元触媒)が設けられている。触媒が所定の浄化作用を行う活性温度は、ある程度高温であるから、例えば触媒の温度が低い冷間始動の際には、その触媒の温度を活性温度に昇温するための暖機(すなわち触媒暖機)を行う。触媒暖機を早期に実現するためには、上述の特許文献1や特許文献2の制御装置に記載されているように、エンジンの点火時期を遅角させることが有効である。しかしながら、エンジンの遅角制御を実行すると、特許文献3の制御装置に記載されているように燃焼が不安定になるなどのことによってエンジンのトルク変動が増大することがある。また、このような遅角制御を、特許文献4に記載されたハイブリッド車両に適用した場合には、エンジンと第1モータとがクラッチ機構を介してトルク伝達可能に連結されているから、触媒暖機をする際に、遅角制御を実行すると、エンジンの回転に伴って第1モータが連れ回ることになる。その場合、第1モータが慣性負荷となってしまい、ひいてはエンジンのトルク変動が更に増大し、車両の挙動が不安定となるおそれがある。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、触媒を暖機する際のエンジンのトルクの変動を抑制することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明は、駆動力源であるエンジンと、前記エンジンの排気を浄化する浄化装置と、発電機能を有する第1モータと、少なくとも三つ以上の回転要素を有する差動機構と、前記エンジンと前記第1モータとをトルク伝達可能に連結する係合機構とを備え、前記エンジンが前記回転要素のいずれか一つの回転要素に連結され、前記第1モータが前記回転要素のいずれか他の一つの回転要素に連結され、前記係合機構を連結することにより前記エンジンを回転させた際に前記第1モータが連れて回転するように構成されたハイブリッド車両の制御装置であって、前記差動機構よりも出力側の部材に連結された前記駆動力源としての第2モータと、前記ハイブリッド車両を制御するコントローラとを更に備え、前記コントローラは、前記浄化装置を暖機する要求があるか否かを判断し、前記浄化装置を暖機する要求があると判断したことにより前記浄化装置を暖機している間にアクセル操作された場合に、前記第2モータにより駆動力を発生させ、
前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が予め定められた所定値よりも大きい場合に、前記係合機構の連結を解除し、かつ前記エンジンの点火時期を遅角させる遅角制御を実行し、前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下である場合に、前記係合機構を連結し、かつ前記遅角制御を実行し、前記係合機構の連結を解除している場合の遅角量が、前記係合機構を連結している場合の遅角量よりも大きくなるように構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、この発明では、前記浄化装置の温度を検出する温度センサと、前記検出した浄化装置の温度と前記浄化装置の活性温度とを比較する温度比較器と、前記エンジンの点火時期を制御する点火指令器とを更に備え、前記コントローラは、前記温度センサにより前記浄化装置の温度を検出し、前記温度比較器により前記検出した浄化装置の温度と前記活性温度とを比較し、前記浄化装置の温度が前記活性温度未満であると判断した場合に、前記浄化装置の暖機の要求があると判断して、前記点火指令器により前記遅角制御を実行するように構成してよい。
【0011】
また、この発明では、前記コントローラは、前記浄化装置を暖機する要求があると判断した場合に、前記エンジンが自立運転中であるか否かを判断し、前記エンジンが自立運転中でないと判断された場合に、前記第1モータにより前記エンジンを自立運転可能な所定の回転数までモータリングし、前記モータリングが完了した後に前記係合機構の連結を解除するように構成してよい。
【0015】
また、この発明では、前記コントローラは、前記係合機構を連結して前記浄化装置の暖機を行う際に、前記エンジンで前記第1モータを駆動して発電させるように構成してよい。
【0016】
また、この発明では、前記第1モータおよび前記第2モータに対して電気的に連結された蓄電装置を更に備え、前記コントローラは、前記第2モータにより発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下であるか否かの判断を、前記蓄電装置の充電残量が予め定められた所定残量以下の場合に前記発生させることが可能な駆動力が前記所定値以下であると判断し、前記充電残量が前記所定残量以下である場合に、前記係合機構を連結し、前記充電残量が前記所定残量より大きい場合に、前記係合機構の連結を解除するように構成してよい。
【0017】
また、この発明では、前記第1モータおよび前記第2モータに対して電気的に連結された蓄電装置を更に備え、前記ハイブリッド車両は、前記蓄電装置の充電残量を維持する第1走行モードと、前記蓄電装置に蓄電された電力を積極的に使用する第2走行モードとを選択的に設定できるように構成され、前記コントローラは、前記第1走行モードが設定されている場合に、前記係合機構を連結し、前記第2走行モードが設定されている場合に、前記係合機構の連結を解除するように構成してよい。
【0018】
また、この発明では、前記コントローラは、前記浄化装置を暖機する要求があるか否かを判断し、前記浄化装置を暖機する要求がないと判断した場合に、前記係合機構を連結するように構成してよい。
【0019】
そして、この発明では、前記差動機構は、前記エンジンが連結されている第1回転要素と、前記第1モータが連結されている第2回転要素と、駆動輪にトルクを出力する第3回転要素とによって差動作用を行う第1差動機構と、出力部材が連結されている第4回転要素と、前記第3回転要素に連結されている第5回転要素と、第6回転要素とによって差動作用を行う第2差動機構とを含み、前記係合機構は、前記第6回転要素と前記第1回転要素とを連結し、またその連結を解く第1係合機構と、前記第4回転要素と前記第5回転要素と前記第6回転要素とのうち少なくともいずれか二つの回転要素を連結し、またその連結を解く第2係合機構とを含んで構成してよい。
【発明の効果】
【0020】
この発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、触媒の暖機を実行する際に、点火時期を遅角する制御を実行し、温度の高い排ガスを触媒に導いて触媒を早期に活性温度に昇温する。また、この遅角制御を実行する際に、エンジンと第1モータとの連結を解除するために、係合機構を解放するように構成されている。具体的には、第1モータでエンジンをモータリングした後、エンジンが自立運転可能な回転数に達したら第1モータとエンジンとを切り離すように構成されている。そのため、触媒を暖機する際に、エンジンの回転に伴って、第1モータが連れ回ることを回避できる。言い換えれば、第1モータが負荷となってしまうことを回避でき、その結果、遅角制御を実行した際に生じるトルクの変動(回転変動)、ならびに、そのエンジントルクの変動に伴う駆動トルクの変動を抑制できる。また、そのように、エンジントルクならびに駆動トルクの変動を抑制できるため、点火時期の遅角量を第1モータが連結されている場合に比べて大きくでき、その結果、早期に触媒を暖機することができる。
【0021】
また、この発明によれば、上述のように、第1モータをエンジンから切り離すことにより上述のトルク変動を抑制できるため、クランクシャフトの回転変動により判定する失火判定において、その失火の誤判定が生じることを抑制もしくは回避できる。
【0022】
そして、この発明によれば、駆動力源として第2モータを更に備えており、前記係合機構の連結が解除されている場合には、第2モータにより駆動力を発生させることができる。したがって、早期に触媒暖機を実現するとともに、駆動トルクを出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】駆動装置の一例を説明するためのスケルトン図である。
【
図2】電子制御装置(ECU)の構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】各走行モードでのクラッチ機構、ブレーキ機構の係合および解放の状態、モータの運転状態、エンジンの駆動の有無をまとめて示す図表である。
【
図4】HV-Hiモードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図5】HV-Loモードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図6】直結モードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図7】EV-Loモードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図8】EV-Hiモードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図9】シングルモードでの動作状態を説明するための共線図である。
【
図10】CSモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示す図である。
【
図11】CDモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示す図である。
【
図12】この発明の実施形態における制御例を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図12に示す制御例を実行した場合における各パラメータの変化を説明するためのタイムチャートである。
【
図14】この発明の実施形態における他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【
図15】
図14に示す制御例を実行した場合における各パラメータの変化を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態におけるハイブリッド車両(以下、車両と記す)Veの一例を
図1を参照して説明する。
図1は、前輪(駆動輪)1R,1Lを駆動するための駆動装置2を示し、駆動装置2は、エンジン(ENG)3と二つのモータ4,5とを駆動力源として備えたいわゆる2モータタイプの駆動装置である。第1モータ4は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG1)によって構成され、エンジン3の回転数を第1モータ4によって制御するとともに、第1モータ4で発電した電力により第2モータ5を駆動し、その第2モータ5が出力するトルクを走行のための駆動力に加えるように構成されている。なお、第2モータ5は発電機能のあるモータ(すなわちモータ・ジェネレータ:MG2)によって構成することができる。
【0025】
エンジン3には、この発明の実施形態における差動機構に相当する動力分割機構6が連結されている。この動力分割機構6は、エンジン3が出力したトルクを第1モータ4側と出力側とに分割する機能を主とする分割部7と、そのトルクの分割率を変更する機能を主とする変速部8とにより構成されている。
【0026】
分割部7は、三つの回転要素によって差動作用を行う構成であればよく、遊星歯車機構を採用することができる。
図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構(第1差動機構)によって構成されている。
図1に示す分割部7は、サンギヤ9と、サンギヤ9に対して同心円上に配置された、内歯歯車であるリングギヤ10と、これらサンギヤ9とリングギヤ10との間に配置されてサンギヤ9とリングギヤ10とに噛み合っているピニオンギヤ11と、ピニオンギヤ11を自転および公転可能に保持するキャリヤ12とを有している。なお、キャリヤ12がこの発明の実施形態における「第1回転要素」に相当し、サンギヤ9がこの発明の実施形態における「第2回転要素」に相当し、リングギヤ10がこの発明の実施形態における「第3回転要素」に相当する。
【0027】
エンジン3が出力した動力が前記キャリヤ12に入力されるように構成されている。具体的には、エンジン3の出力軸13に、動力分割機構6の入力軸14が連結され、その入力軸14がキャリヤ12に連結されている。なお、キャリヤ12と入力軸14とを直接連結する構成に替えて、歯車機構などの伝動機構(図示せず)を介してキャリヤ12と入力軸14とを連結してもよい。また、その出力軸13と入力軸14との間にダンパ機構やトルクコンバータなどの機構(図示せず)を配置してもよい。
【0028】
サンギヤ9に第1モータ4が連結されている。
図1に示す例では、分割部7および第1モータ4は、エンジン3の回転中心軸線と同一の軸線上に配置され、第1モータ4は分割部7を挟んでエンジン3とは反対側に配置されている。さらに、変速部8が、この分割部7とエンジン3との間で、これら分割部7およびエンジン3と同一の軸線上に、その軸線の方向に並んで配置されている。
【0029】
変速部8は、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、変速部8は、上記の分割部7と同様に、サンギヤ15と、サンギヤ15に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ16と、これらサンギヤ15とリングギヤ16との間に配置されてこれらサンギヤ15およびリングギヤ16に噛み合っているピニオンギヤ17と、ピニオンギヤ17を自転および公転可能に保持しているキャリヤ18とを有している。したがって、変速部8は、サンギヤ15、リングギヤ16、およびキャリヤ18の三つの回転要素によって差動作用を行う差動機構(第2差動機構)となっている。この変速部8におけるサンギヤ15に分割部7におけるリングギヤ10が連結されている。また、変速部8におけるリングギヤ16に、出力ギヤ19が連結されている。なお、上記のリングギヤ16がこの発明の実施形態における「第4回転要素」に相当し、サンギヤ15がこの発明の実施形態における「第5回転要素」に相当し、キャリヤ18がこの発明の実施形態における「第6回転要素」に相当し、出力ギヤ19がこの発明の実施形態における「出力部材」に相当する。
【0030】
上記の分割部7と変速部8とが複合遊星歯車機構を構成するように第1クラッチ機構(第1係合機構)CL1が設けられている。第1クラッチ機構CL1は、変速部8におけるキャリヤ18を、分割部7におけるキャリヤ12および入力軸14に選択的に連結するように構成されている。具体的には、第1クラッチ機構CL1は、互いに係合することによりトルクを伝達し、また互いに解放することによりトルクを遮断する回転部材12a,12bを有している。一方の回転部材12aは入力軸14に連結され、他方の回転部材12bはキャリヤ18に連結されている。この第1クラッチ機構CL1は、湿式多板クラッチなどの摩擦式のクラッチ機構であってもよく、あるいはドグクラッチなどの噛み合い式のクラッチ機構であってもよい。または、制御信号が入力されることにより連結状態と解放状態とを切り替え、かつ制御信号が入力されていない場合に、制御信号が入力されなくなる直前の状態(連結状態または解放状態)を維持するように構成されたいわゆるノーマルステイ型のクラッチ機構であってもよい。この第1クラッチ機構CL1を係合させることにより分割部7におけるキャリヤ12と変速部8におけるキャリヤ18とが連結されてこれらが入力要素となり、また分割部7におけるサンギヤ9が反力要素となり、さらに変速部8におけるリングギヤ16が出力要素となった複合遊星歯車機構が形成される。すなわち、入力軸14と第1モータ4の出力軸4aと、後述するドリブンギヤ21とが差動回転できるように複合遊星歯車機構が構成されている。
【0031】
さらに、変速部8の全体を一体化させるための第2クラッチ機構(第2係合機構)CL2が設けられている。この第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16もしくはサンギヤ15、あるいはサンギヤ15とリングギヤ16とを連結するなどの少なくともいずれか二つの回転要素を連結するためのものであって、摩擦式、噛み合い式、あるいは、ノーマルステイ型のクラッチ機構によって構成することができる。
図1に示す例では、第2クラッチ機構CL2は、変速部8におけるキャリヤ18とリングギヤ16とを連結するように構成されている。具体的には、第2クラッチ機構CL2は、互いに係合することによりトルクを伝達し、また互いに解放することによりトルクを遮断する回転部材18a,18bを有している。一方の回転部材18aはキャリヤ18に連結され、他方の回転部材18bはリングギヤ16に連結されている。
【0032】
上記のエンジン3や分割部7あるいは変速部8の回転中心軸線と平行にカウンタシャフト20が配置されている。前記出力ギヤ19に噛み合っているドリブンギヤ21がこのカウンタシャフト20に取り付けられている。また、カウンタシャフト20にはドライブギヤ22が取り付けられており、このドライブギヤ22が終減速機であるデファレンシャルギヤユニット23におけるリングギヤ24に噛み合っている。さらに、前記ドリブンギヤ21には、第2モータ5におけるロータシャフト25に取り付けられたドライブギヤ26が噛み合っている。したがって、前記出力ギヤ19から出力された動力もしくはトルクに、第2モータ5が出力した動力もしくはトルクを、上記のドリブンギヤ21の部分で加えるように構成されている。このようにして合成された動力もしくはトルクをデファレンシャルギヤユニット23から左右のドライブシャフト27に出力し、その動力やトルクが前輪1R,1Lに伝達されるように構成されている。
【0033】
なお、駆動装置2には、第1モータ4を走行のための駆動力源とする場合に、エンジン3の回転を止めるための摩擦式あるいは噛み合い式のブレーキ機構(第3係合機構)B1が設けられている。すなわち、ブレーキ機構B1は所定の固定部と出力軸13または入力軸14との間に設けられ、係合して出力軸13または入力軸14を固定することにより、分割部7におけるキャリヤ12や、変速部8におけるキャリヤ18を反力要素として機能させ、分割部7におけるサンギヤ9を入力要素として機能させることができるように構成されている。なお、ブレーキ機構B1は、第1モータ4が駆動トルクを出力した場合に、反力トルクを発生させることができればよく、出力軸13または入力軸14を完全に固定する構成に限らず、要求される反力トルクを出力軸13または入力軸14に作用させることができればよい。または、出力軸13や入力軸14が、エンジン3がその駆動時に回転する方向とは逆方向に回転することを禁止するワンウェイクラッチをブレーキ機構B1として設けてもよい。
【0034】
また、エンジン3の排気系統28に、この発明の実施形態における「エンジンの排気を浄化する浄化装置」に相当する浄化触媒(以下、単に触媒と称する)29が設けられている。触媒29は、エンジン3から排出される燃焼排ガス中のHC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)などを酸化させてその濃度を低下させ、また窒素酸化物を還元してその濃度を低下させる排ガス浄化装置であり、所定の活性化温度まで昇温することが要求される装置である。なお、過熱による損傷を避けるために所定の上限温度が定められている。
【0035】
第1モータ4にインバータやコンバータなどを備えた第1電力制御装置30が連結され、第2モータ5にインバータやコンバータなどを備えた第2電力制御装置31が連結され、それらの各電力制御装置30,31は、リチウムイオン電池、キャパシタ、全固体電池などから構成された蓄電装置32に電気的に連結されている。また、上記第1電力制御装置30と第2電力制御装置31とが相互に電力を供給できるように構成されている。具体的には、第1モータ4が反力トルクを出力することに伴って発電機として機能する場合には、第1モータ4で発電された電力を第2モータ5に供給することができるように構成されている。
【0036】
なお、上記の蓄電装置32は、上述したようにリチウムイオン電池、キャパシタ、全固体電池などによって構成される。それら蓄電装置32は、それぞれ特性が異なるから、車両Veは、蓄電装置32を単一種類の装置から構成することに限られず、複数の蓄電装置32を、各装置の特性を考慮して組み合わせて構成してもよい。
【0037】
上記の各電力制御装置30,31におけるインバータやコンバータ、エンジン3、各クラッチ機構CL1,CL2およびブレーキ機構B1を制御するための電子制御装置(ECU)33が設けられている。このECU33は、この発明の実施形態における「コントローラ」に相当するものであり、マイクロコンピュータを主体にして構成されている。
図2は、ECU33の構成の一例を説明するためのブロック図である。
図2に示す例では、統合ECU34、MG-ECU35、エンジンECU36、および、クラッチECU37によりECU33が構成されている。
【0038】
統合ECU34は、車両Veに搭載された種々のセンサから入力されたデータと、予め記憶されているマップや演算式などとに基づいて演算を行い、その演算結果を、MG-ECU35、エンジンECU36、およびクラッチECU37に指令信号を出力するように構成されている。統合ECU34に入力される各種センサからのデータの一例を
図2に示してある。車速、アクセル開度、第1モータ(MG1)4の回転数、第2モータ(MG2)5の回転数、エンジン3の出力軸13の回転数(エンジン回転数)、変速部8におけるカウンタシャフト20の回転数である出力回転数、各クラッチ機構CL1,CL2やブレーキ機構B1に設けられたピストン(アクチュエータ)のストローク量、蓄電装置32の温度、各電力制御装置30,31の温度、第1モータ4の温度、第2モータ5の温度、分割部7や変速部8などを潤滑するオイル(ATF)の温度、蓄電装置32の充電残量(SOC)、触媒29の温度などのデータが、統合ECU34に入力される。また、統合ECU34は、
図2に示すように、入力された触媒29の温度と触媒29の活性温度とを比較する温度比較器34aを備えており、例えば触媒温度センサで検出した触媒29の温度が、前記活性温度より低い場合に、触媒暖機の要求があると判断する。
【0039】
そして、統合ECU34に入力されたデータなどに基づいて第1モータ4の運転状態(出力トルクや回転数)、第2モータ5の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてMG-ECU35に出力する。同様に、統合ECU34に入力されたデータなどに基づいてエンジン3の運転状態(出力トルクや回転数)を求めて、その求められたデータを指令信号としてエンジンECU36に出力する。同様に、統合ECU34に入力されたデータなどに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2、およびブレーキ機構B1の伝達トルク容量(「0」を含む)を求めて、それらの求められたデータを指令信号としてクラッチECU37に出力する。
【0040】
MG-ECU35は、上記のように統合ECU34から入力されたデータに基づいて各モータ4,5に通電するべき電流値を求めて、各モータ4,5に指令信号を出力する。各モータ4,5は、交流式のモータであるから、上記の指令信号は、インバータで生成するべき電流の周波数や、コンバータで昇圧するべき電圧値などが含まれる。
【0041】
エンジンECU36は、上記のように統合ECU34から入力されたデータに基づいて電子スロットルバルブの開度を定めるための電流値やパルス数、点火装置で燃料を着火するための電流値やパルス数、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブの開度を定めるための電流値やパルス数、吸気バルブや排気バルブの開度を定めるための電流値やパルス数などの指令値を求め、それぞれのバルブや装置に指令信号を出力する。すなわち、エンジン3の出力(パワー)や、エンジン3の出力トルク、もしくはエンジン回転数を制御するための指示信号を、エンジンECU36から出力する。なお、エンジンECU36は、
図2に示すように点火時期を制御する点火指令器36aを備えており、例えば触媒暖機の要求があり、点火時期の遅角制御を実行する場合、この点火指令器36aにより点火時期を制御するための指令信号を点火装置に出力する。
【0042】
クラッチECU37は、上記のように統合ECU34から入力されたデータに基づいて各クラッチ機構CL1,CL2およびブレーキ機構B1の係合圧を定めるアクチュエータに通電するべき指令値を求めて、それぞれのアクチュエータに指令信号を出力する。
【0043】
上記の駆動装置2は、エンジン3から駆動トルクを出力して走行するHV走行モードと、エンジン3から駆動トルクを出力することなく、第1モータ4や第2モータ5から駆動トルクを出力して走行するEV走行モードとを設定することが可能である。さらに、HV走行モードは、第1モータ4を低回転数で回転させた場合(「0」回転を含む)において、変速部8のリングギヤ16の回転数よりもエンジン3(または入力軸14)の回転数が高回転数となるHV-Loモードと、変速部8のリングギヤ16の回転数よりもエンジン3(または入力軸14)の回転数が低回転数となるHV-Hiモードと、変速部8のリングギヤ16の回転数とエンジン3(または入力軸14)の回転数が同一である直結モード(固定段モード)とを設定することが可能である。なお、HV-LoモードとHV-Hiモードとでは、トルクの増幅率はHV-Loモードの方が大きくなる。
【0044】
またさらに、EV走行モードは、第1モータ4および第2モータ5から駆動トルクを出力するデュアルモードと、第1モータ4から駆動トルクを出力せずに第2モータ5のみから駆動トルクを出力するシングルモード(切り離しモード)とを設定することが可能である。更にデュアルモードは、第1モータ4から出力されたトルクの増幅率が比較的大きいEV-Loモードと、第1モータ4から出力されたトルクの増幅率がEV-Loモードより小さいEV-Hiモードとを設定することが可能である。なお、シングルモードでは、第1クラッチ機構CL1を係合した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行することや、第2クラッチ機構CL2を係合した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行すること、あるいは各クラッチ機構CL1,CL2を解放した状態で第2モータ5のみから駆動トルクを出力して走行することが可能である。
【0045】
それらの各走行モードは、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、ブレーキ機構B1、およびエンジン3、各モータ4,5を制御することにより設定される。
図3に、これらの走行モードと、各走行モードにおける、第1クラッチ機構CL1、第2クラッチ機構CL2、ブレーキ機構B1の係合および解放の状態、第1モータ4および第2モータ5の運転状態、エンジン3からの駆動トルクの出力の有無の一例を図表として示してある。図中における「●」のシンボルは係合している状態を示し、「-」のシンボルは解放している状態を示し、「G」のシンボルは主にジェネレータとして運転することを意味し、「M」のシンボルは主にモータとして運転することを意味し、空欄はモータおよびジェネレータとして機能していない、または第1モータ4や第2モータ5が駆動のために関与していない状態を意味し、「ON」はエンジン3から駆動トルクを出力している状態を示し、「OFF」はエンジン3から駆動トルクを出力していない状態を示している。
【0046】
各走行モードを設定した場合における動力分割機構6の各回転要素の回転数、およびエンジン3、各モータ4,5のトルクの向きを説明するための共線図を
図4ないし
図9に示している。共線図は、動力分割機構6における各回転要素を示す直線をギヤ比の間隔をあけて互いに平行に引き、これらの直線に直交する基線からの距離をそれぞれの回転要素の回転数として示す図であり、それぞれの回転要素を示す直線にトルクの向きを矢印で示すとともに、その大きさを矢印の長さで示している。
【0047】
図4に示すようにHV-Hiモードでは、エンジン3から駆動トルクを出力し、第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、第1モータ4から反力トルクを出力する。また、
図5に示すようにHV-Loモードでは、エンジン3から駆動トルクを出力し、第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、第1モータ4から反力トルクを出力する。上記HV-HiモードやHV-Loモードが設定されている場合の第1モータ4の回転数は、エンジン3の燃費や第1モータ4の駆動効率などを考慮した駆動装置2全体としての効率(消費エネルギー量を前輪1R,1Lのエネルギー量で除算した値)が最も良好となるように制御される。上記の第1モータ4の回転数は無段階に連続的に変化させることができ、その第1モータ4の回転数と車速とに基づいてエンジン回転数が定まる。したがって、動力分割機構6は、無段変速機として機能できる。
【0048】
上記のように第1モータ4から反力トルクを出力することにより、第1モータ4が発電機として機能する場合には、エンジン3の動力の一部が第1モータ4により電気エネルギーに変換される。そして、エンジン3の動力から第1モータ4により電気エネルギーに変換された動力分を除いた動力が変速部8におけるリングギヤ16に伝達される。その第1モータ4から出力する反力トルクは、動力分割機構6を介してエンジン3から第1モータ4側に伝達されるトルクの分割率に応じて定められる。この動力分割機構6を介してエンジン3から第1モータ4側に伝達されるトルクと、リングギヤ16側に伝達されるトルクとの比、すなわち動力分割機構6におけるトルクの分割率は、HV-LoモードとHV-Hiモードとで異なる。
【0049】
具体的には、第1モータ4側に伝達されるトルクを「1」とした場合、HV-Loモードではリングギヤ16側に伝達されるトルクの割合であるトルク分割率は、「1/(ρ1×ρ2)」となり、HV-Hiモードではそのトルク分割率は、「1/ρ1」となる。すなわち、エンジン3から出力されたトルクのうちリングギヤ16に伝達されるトルクの割合は、HV-Loモードでは、「1/(1-(ρ1×ρ2))」となり、HV-Hiモードでは、「1/(ρ1+1)」となる。ここで、「ρ1」は分割部7のギヤ比(リングギヤ10の歯数とサンギヤ9の歯数との比率)であり、「ρ2」は変速部8のギヤ比(リングギヤ16の歯数とサンギヤ15の歯数との比率)である。なお、ρ1およびρ2は、「1」よりも小さい値である。したがって、HV-Loモードが設定されている場合には、HV-Hiモードが設定されている場合と比較して、リングギヤ16に伝達されるトルクの割合が大きくなる。
【0050】
なお、エンジン3の出力を増大させてエンジン3の回転数を増大させている場合には、エンジン3の出力のうちエンジン3の回転数を増大させるために要したパワーを減じたパワーに相当するトルクが、エンジン3から出力されるトルクとなる。そして、第1モータ4により発電された電力が第2モータ5に供給される。その場合、必要に応じて蓄電装置32に充電されている電力も第2モータ5に供給される。
【0051】
直結モードでは、各クラッチ機構CL1,CL2が係合されることにより、
図6に示すように動力分割機構6における各回転要素が同一回転数で回転する。すなわち、エンジン3の動力の全てが動力分割機構6から出力される。言い換えると、エンジン3の動力の一部が、第1モータ4や第2モータ5により電気エネルギーに変換されることがない。したがって、電気エネルギーに変換する際に生じるジュール損などを要因とした損失がないため、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0052】
さらに、
図7および
図8に示すようにEV-LoモードとEV-Hiモードとでは、ブレーキ機構B1を係合するとともに各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。具体的には、
図7に示すようにEV-Loモードでは、ブレーキ機構B1および第1クラッチ機構CL1を係合するとともに、各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。すなわち、ブレーキ機構B1により、出力軸13またはキャリヤ12が回転することを制限するための反力トルクを作用させる。その場合における第1モータ4の回転方向は、正方向になり、かつ出力トルクの向きは、その回転数を増大させる方向となる。また、
図8に示すようにEV-Hiモードでは、ブレーキ機構B1および第2クラッチ機構CL2を係合するとともに、各モータ4,5から駆動トルクを出力して走行する。すなわち、ブレーキ機構B1により、出力軸13またはキャリヤ12が回転することを制限するための反力トルクを作用させる。その場合における第1モータ4の回転方向は、エンジン3の回転方向(正方向)とは反対方向(負方向)になり、かつ出力トルクの向きは、その回転数を増大させる方向となる。
【0053】
また、変速部8のリングギヤ16の回転数と第1モータ4の回転数との回転数比は、EV-Loモードの方がEV-Hiモードよりも大きくなる。すなわち、同一車速で走行している場合には、EV-Loモードを設定する場合の方が、EV-Hiモードを設定する場合よりも第1モータ4の回転数が高回転数になる。つまり、EV-Loモードの方が、EV-Hiモードよりも減速比が大きい。そのため、EV-Loモードを設定することにより大きな駆動力を得ることができる。なお、上記のリングギヤ16の回転数は、出力部材(あるいは出力側)の回転数であって、
図1のギヤトレーンでは、便宜上リングギヤ16から駆動輪までの各部材のギヤ比は1とする。そして、シングルモードでは、
図9に示すように第2モータ5のみから駆動トルクを出力しており、かつ各クラッチ機構CL1,CL2が解放されていることにより、動力分割機構6の各回転要素は停止した状態になる。したがって、エンジン3や第1モータ4を連れ回すことによる動力損失を低減することができる。
【0054】
蓄電装置32の充電残量(SOC)、車速、要求駆動力などに基づいて上記の各走行モードを定めるように構成されている。この発明の実施形態では、蓄電装置32の充電残量を維持するように各走行モードを設定するCS(Charge Sustain)モードと、蓄電装置に充電された電力を積極的に使用するCD(Charge Depleting)モードとを、蓄電装置32の充電残量に応じて選択するように構成されている。具体的には、蓄電装置32の充電残量が低下している場合などに、CSモードを選択し、蓄電装置32の充電残量が比較的多い場合などにCDモードを選択するように構成されている。なお、上記のCSモードがこの発明の実施形態における「第1走行モード」に相当し、CDモードがこの発明の実施形態における「第2走行モード」に相当する。
【0055】
図10には、CSモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
【0056】
図10に示す例では、前進走行しており、要求駆動力が比較的小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ5の特性に基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
【0057】
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が比較的大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置32の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
【0058】
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかのモードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両Veの運転状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
【0059】
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードは、
図10に示す各ラインを運転点が横切ることにより切り替えるように構成されている。具体的には、
図10における「Lo←Fix」のラインを運転点が
図10における右側から左側に向けて横切って変化した場合や、下側から上側に向けて横切って変化した場合に、直結モードからHV-Loモードに切り替えるように構成され、「Lo→Fix」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切って変化した場合や、上側から下側に向けて横切って変化した場合に、HV-Loモードから直結モードに切り替えるように構成されている。同様に、
図10における「Fix←Hi」のラインを運転点が右側から左側に向けて横切って変化した場合や、下側から上側に向けて横切って変化した場合に、HV-Hiモードから直結モードに切り替えるように構成され、「Fix→Hi」のラインを運転点が左側から右側に向けて横切って変化した場合や、上側から下側に向けて横切って変化した場合に、直結モードからHV-Hiモードに切り替えるように構成されている。
【0060】
図11には、CDモードが選択されている際に各走行モードを定めるためのマップの一例を示している。このマップの横軸は車速を示し、縦軸は要求駆動力を示している。なお、車速は車速センサにより検出されたデータから求めることができ、要求駆動力はアクセル開度センサにより検出されたデータから求めることができる。
【0061】
図11に示す例では、前進走行しており、要求駆動力が第1駆動力F1よりも小さい場合(減速要求を含む)に、シングルモードを設定するように構成されている。このシングルモードを設定する領域は、第2モータ5の特性などに基づいて定められている。なお、シングルモードを設定する領域にハッチングを付してある。
【0062】
また、前進走行しており、かつ要求駆動力が第1駆動力F1よりも大きい場合には、デュアルモードが設定される。さらに、第1車速V1よりも高車速である場合や、第2車速V2よりも高車速でありかつ要求駆動力が第2駆動力F2よりも大きい場合には、HV走行モードが設定される。なお、HV走行モードは、低車速域から高車速域に亘って駆動力を出力できるため、蓄電装置32の充電残量が下限値近傍となった場合などには、シングルモードやデュアルモードが設定されるべき領域であっても、HV走行モードを設定することがある。
【0063】
さらに、HV走行モードを設定する場合においては、車速と要求駆動力に応じてHV-LoモードやHV-Hiモード、あるいは直結モードのいずれかの走行モードを選択するように構成されている。具体的には、比較的低車速の場合や要求駆動力が比較的大きい場合に、HV-Loモードが選択され、比較的高車速でかつ要求駆動力が比較的小さい場合に、HV-Hiモードが選択され、車両Veの走行状態がHV-LoモードとHV-Hiモードとを設定する領域の間の運転点(車速と要求駆動力とに基づいた値)の場合に、直結モードが選択されるように構成されている。
【0064】
また、上記のHV-Loモード、直結モード、HV-Hiモードの各走行モードは、
図11に示す各ラインを横切って運転点が変化することにより切り替えられるように構成されている。具体的には、
図11における「Lo⇔Fix」のラインを運転点が横切って変化した場合に、直結モードとHV-Loモードとが相互に切り替えられるように構成されている。同様に、
図11における「Fix⇔Hi」のラインを運転点が横切って変化した場合に、HV-Hiモードと直結モードとが相互に切り替えられるように構成されている。
【0065】
なお、
図10や
図11に示す走行モードを設定する領域や、HV走行モードを設定する条件下におけるモードの切り替えを行うためのラインは、駆動装置2を構成する各部材の温度や、蓄電装置32あるいは電力制御装置30,31の温度、もしくは蓄電装置32の充電残量などに応じて変動するように構成してもよい。
【0066】
このように構成された車両Veは、上述したように、エンジン3の排気系統28には、排気を浄化する触媒29が設けられており、例えばエンジン3の温度が低い冷間始動の際には、その触媒29の温度が低く、触媒29を活性化させる所定の温度に制御あるいは昇温すべく触媒暖機を行う。触媒の暖機を行う際は、一般的にエンジン3の制御において、点火時期を遅角させる。つまり、点火時期を遅角することにより排気行程側で燃焼を行い、温度の高い排気を触媒29に導いて触媒29を早期に活性化させるとともに暖機を促進させる。
【0067】
一方、
図1に示す車両Veで、点火時期を遅角させて触媒29を暖機すると、エンジン3と第1モータ4とはクラッチ機構CL1(CL2)を介して連結されているから、第1モータ4が慣性負荷となってしまい、エンジン3のトルク変動が増大する、ならびに、それに起因した駆動トルクの変動が生じることがあり、ひいては車両Veの挙動が不安定となることがある。そこで、この発明の実施形態では、触媒29を暖機する際のトルク変動を抑制するように構成されている。以下に、ECU33で実行される制御例について説明する。
【0068】
図12は、その制御の一例を説明するためのフローチャートであって、先ず、触媒暖機の要求があるか否かを判断する(ステップS1)。触媒暖機の要求があるか否かの判断は、例えば触媒温度センサよって検出した触媒29の温度と、所定の触媒活性温度とを比較することで判断でき、したがって、触媒29の温度が活性温度未満の場合には、このステップS1で肯定的に判断される。なお、触媒29の温度が活性温度未満か否かは、上述の温度比較器34aによって判断される。
【0069】
このステップS1で肯定的に判断された場合、すなわち触媒暖機の要求があると判断された場合には、エンジン3が自立運転中か否かを判断する(ステップS2)。触媒29の暖機は、エンジン3が回転している状態が条件であるため、未だエンジン3が自立運転(例えばアイドル運転状態)していない場合には、エンジン3を自立運転(自立回転)させることを要する。したがって、このステップS2で否定的に判断された場合、すなわちエンジン3が自立運転していない場合には、第1モータ4でエンジン3をモータリングする(ステップS3)。具体的には、第1モータ4が負トルクを出力することにより、エンジン3の回転数を自立運転可能な回転数まで引き上げる。
【0070】
そして、モータリングされることによりエンジン3が自立運転に移行した場合、あるいは、上記のステップS2でエンジン3が自立運転中であると肯定的に判断された場合には、第1モータ4は切り離した状態であるか否かを判断する(ステップS4)。
【0071】
触媒29の暖機は、エンジン3の始動後に早期に活性温度まで昇温させることが望ましい。早期に触媒29を暖機するためには、従来知られているように、点火時期を遅角させることにより排気温度を上昇させて暖機を促進する。一方、エンジン3と第1モータ4とがトルク伝達可能な状態に接続されている場合には、触媒29を暖機する際に、第1モータ4が連れ回ることになり、その状態で点火時期を遅角させると、トルクの変動が増大する。そこで、この発明の実施形態では、点火時期を遅角させるにあたり、第1モータ4とエンジン3とのトルク伝達を不能とする。したがって、このステップS4で否定的に判断された場合、すなわち第1モータ4を切り離した状態でないと判断された場合には、第1モータ4を動力伝達経路から切り離す(ステップS5)。つまり、現在係合している第1クラッチ機構CL1あるいは第2クラッチ機構CL2を解放する。HV-Loモードの状態であれば係合している第1クラッチ機構CL1を解放し、HV-Hiモードの状態であれば係合している第2クラッチ機構CL2を解放する。
【0072】
そして、エンジン3と第1モータ4との連結が解かれた状態で、点火時期の遅角制御を実行する(ステップS6)。なお、この状態で、遅角制御を実行した場合は、第1モータ4を切り離している状態であるから、比較的トルクの変動が少ない。したがって、その遅角制御における遅角量は、過熱による損傷を避けるための上限温度を考慮した上で、比較的大きく制御されてよい。
【0073】
また、上記のステップS4で肯定的に判断された場合も同様にステップS6へ進む。つまり、第1モータ4を切り離した状態である場合には、上記のステップS6で説明したように、遅角制御を実行する。なお、この遅角制御は、上述の点火指令器36aによって実行される。
【0074】
一方、上述のステップS1で否定的に判断された場合、すなわち触媒29の温度が所定温度以上であることにより、触媒暖機を要しないと判断された場合には、通常の制御を実行し(ステップS7)、リターンする。すなわち、ステップS6で説明した大きな遅角制御は実行せず、現在の走行状態に応じてエンジン、各モータ4,5、ならびに、各クラッチ機構CL1,CL2を制御する。
【0075】
つぎに、
図12の制御例を実行した場合における遅角量などの変化をタイムチャートを参照して説明する。
図13は、そのタイムチャートを示す図であって、触媒29の温度、各クラッチ機構CL1,CL2の状態、エンジン3、第1モータ4、および、第2モータ5の各トルク、ならびに、各回転数、遅角量の変化をそれぞれ示している。また、この
図13に示すタイムチャートは、READY ONしたタイミングであり、したがって、車両Veが停車している状態から触媒29を暖機する場合の例を示している。以下、具体的に説明する。
【0076】
先ず、停車時は、Loモードで停車しているのが通常である。したがって、
図13に示すように、第1クラッチ機構CL1がONとされ、第2クラッチ機構CL2がOFFとされている。その状態から、触媒29の温度が所定温度(活性温度)より低いことが検知されたことにより、エンジン3の始動を開始する(t1時点)。エンジン3の始動は、上述のフローチャートで説明したように、第1モータ4によりエンジン3が自立運転可能な回転数までモータリングする。したがって、t1時点からt2時点に渡って、第1モータ4がエンジン3の回転方向とは反対側にトルク(負トルク)を出力するとともに、第1モータの回転数も負方向に増大する。なお、この際に、出力部材側に負トルクが伝達されるので、その負トルクを相殺するように第2モータ5のトルクを増大させる。また、
図13に示す第2モータ5のトルクは、リングギヤの軸トルクに換算した値を示している。
【0077】
ついで、エンジン回転数が第1モータ4のモータリングにより自立運転可能な回転数まで増大したので、それに応じて第1モータ4のトルクを「0」に戻す(t2時点)。そして、第1モータ4のトルクを「0」にしたら、エンジン3と第1モータ4との連結を解除すべく、第1クラッチ機構CL1を解放する(t3時点)。つまり、触媒29を暖機するにあたり、第1モータ4が慣性負荷となってしまうことを防止するために、第1クラッチ機構CL1を解放する。そして、第1クラッチ機構CL1が解放されたら、第1モータ4の回転数を「0」に向けて低減させる(t4~t5時点)。
【0078】
ついで、第1モータの回転数が「0」になったら、エンジン3の点火時期の遅角量の変更を開始する(t6時点)。すなわち、触媒29の暖機を早期に実行するために、点火時期を遅角することにより排気行程側で燃焼を行い、温度の高い排気を触媒29に導いて触媒29を早期に活性温度に向けて促進する。なお、遅角量は、現在の触媒29の温度に応じて決定してよい。また、この
図13に示す例では、第1クラッチ機構CL1が解放されており、エンジン3と第1モータ4との間のトルク伝達は不能とされているため、第1モータ4が慣性負荷とならない。したがって、遅角制御を実行することによるトルク変動が少ない。そのため、早期に触媒29を暖機するために遅角量を所定の大きさに制御してよい。すなわち比較的大きな遅角量としてよい。
【0079】
なお、この発明の実施形態では、
図13に示すように第1モータ4の回転数を「0」に低減させた後に、点火時期の遅角を開始しているものの、この点火時期の遅角の開始は、第1モータ4の回転数を低減させる制御と同時に、あるいは、その制御と並行して開始してもよい。すなわちt4時点から遅角制御を開始してもよい。
【0080】
そして、t7時点でアクセル操作されている。したがって、駆動力を発生させるために第2モータ5でトルクを発生させる。すなわちEV走行モード(シングルモード)で走行する。
【0081】
このように、この発明の実施形態では、触媒29の暖機を実行する際に、点火時期を遅角する制御を実行し、排気行程側で燃焼を行い、温度の高い排気を触媒29に導いて触媒29を早期に活性化させるように構成されている。また、この遅角制御を実行する際に、エンジン3と第1モータ4との連結を解除するために、第1クラッチ機構CL1を解放するように構成されている。具体的には、第1モータ4でエンジン3をモータリングすることによりエンジン3が自立運転可能な回転数に達したら第1モータ4とエンジン3とを切り離すように構成されている。そのため、触媒29を暖機する際に、エンジン3の回転に伴って、第1モータ4が連れ回ることを回避できる。言い換えれば、第1モータ4が慣性負荷となることを回避でき、その結果、遅角制御を実行した際に生じるトルクの変動(回転変動)を抑制できる。また、そのように、トルクの変動を抑制できるため、遅角量を第1モータ4が連結されている場合に比べて大きくでき、その結果、早期に触媒29を暖機することができる。
【0082】
また、この発明の実施形態では、上述のように、第1モータ4をエンジン3から切り離すことにより上述のトルク変動を抑制できるため、クランクシャフトの回転変動により判定する失火判定において、その失火の誤判定が生じることを抑制もしくは回避できる。
【0083】
また、上述のようなエンジン3のトルク変動を抑制できることにより、車両Veの挙動が不安定になることを抑制できる。さらに、早期に触媒29を暖機することにより、効率よくエンジン3を運転させることができるので、ひいては燃費を向上させることができる。
【0084】
また、この発明の実施形態では、アクセルがONされた場合には、第2モータ5のトルクで駆動力を発生させるように構成されている。つまり、上述のように第1クラッチ機構CL1を解放した場合には、エンジン3の動力によって走行することができないものの、蓄電装置32から電力を第2モータ5へ供給して走行することにより、EV走行できる。したがって、この発明の実施形態によれば、触媒29の暖機を早期に実現するとともに、駆動力を発生させて走行することができる。
【0085】
つぎに、この発明の実施形態における他の例について説明する。上述した例では、触媒29を暖機する際に、第1クラッチ機構CL1を解放することにより、エンジン3と第1モータ4とのトルク伝達を遮断し、遅角制御における遅角量を比較的大きくするように構成されている。また、運転者がアクセル操作した場合には、第2モータ5により駆動力を発生させるように構成されている。一方、第2モータ5で発生させることが可能な駆動力(以下、EV駆動力とも称する)は、蓄電装置32の充電残量や設定されている走行モードに依存するため、例えば、蓄電装置32の充電残量が低下している場合、あるいは、蓄電装置32の充電残量を維持するCSモードが選択されている場合には、要求駆動力を満たすためにエンジン3で駆動力を発生させる場合がある。そこで、以下に示す実施形態では、発生させることが可能なEV駆動力が比較的に小さい所定値以下の場合に、エンジン3の動力を付加できる状態にしつつ、触媒29の暖機の制御を実行するように構成されている。
【0086】
図14は、その制御の一例を示すフローチャートである。なお、上述の
図12の制御例と同様のステップについては、同じステップ番号を付し、そのステップにおける制御内容の説明については、簡略化あるいは省略する。先ず、触媒暖機の要求があるか否かを触媒29の温度によって判断し(ステップS1)、このステップS1で肯定的に判断された場合、すなわち触媒29の温度が所定の活性温度未満の場合には、エンジン3が自立運転中か否かを判断する(ステップS2)。このステップS2で否定的に判断された場合、すなわちエンジン3が自立運転していないと判断された場合には、エンジン3を自立運転可能な回転数まで第1モータ4によりモータリングする(ステップS3)。
【0087】
そして、エンジン3が既に自立運転中の場合、あるいは、上記のモータリングにより自立運転可能となった場合には、第1モータ4が発電中か否かを判断する(ステップS40。上述したように、この
図14に示す制御例では、発生させることが可能なEV駆動力が比較的小さく、エンジン3による駆動力を発生させることが可能なように第1クラッチ機構CL1を係合している。すなわち、エンジン3と第1モータ4とがトルク伝達可能な状態とされている。また、第2モータ5で発生させることが可能な駆動力が制限されている要因としては、蓄電装置32の充電残量が小さいことが想定されるため、第1モータ4で発電して、蓄電装置32の充電残量を増大させることが好ましい。
【0088】
また、この発明の実施形態は、触媒29の暖機を早期に実現することが目的であり、早期に触媒29を暖機するためには、上述したように温度の高い排気を触媒29に導く、あるいは、排気中の空気量を多くすることが有効である。したがって、このステップS40で否定的に判断された場合、すなわち第1モータ4が発電中でないと判断された場合には、第1モータ4を発電機として機能させる(ステップS50)。また、第1クラッチ機構CL1が係合しており、エンジン3と第1モータ4とはトルク伝達可能な状態であるから、エンジントルクで第1モータ4を駆動して発電量を増大させる。つまり、エンジン3の出力を増大させることで排出する空気量を増大させて、触媒29での酸化反応を促進する。
【0089】
そして、ステップS40で肯定的に判断された場合、すなわち既に第1モータ4で発電中の場合、あるいは、ステップS50で第1モータ4による発電を実行した場合には、併せて触媒暖機のための遅角制御を行う(ステップS60)。なお、この遅角制御は、上述の第1モータ4を切り離した
図12の制御例におけるステップ6と同様であるものの、その遅角量は、
図12の制御例に比べて小さい。つまり、この
図14に示す制御例では、第1クラッチ機構CL1が係合しているため、エンジン3を回転させることによって第1モータ4が連れ回ることになり、上述の遅角制御によるトルク変動が増大する。そのため、
図14に示す制御例では、そのトルク変動を低減させるために、遅角量を小さくする。
【0090】
つぎに、
図14の制御例を実行した場合における遅角量などの変化をタイムチャートを参照して説明する。
図15は、そのタイムチャートを示す図であって、触媒29の温度、各クラッチ機構CL1,CL2の状態、エンジン3、第1モータ4、および、第2モータ5の各トルク、ならびに、各回転数、遅角量の変化をそれぞれ示している。また、この
図15に示すタイムチャートは、READY ONしたタイミングであり、したがって、車両Veが停車している状態から触媒29を暖機する場合の例を示している。なお、
図13で説明したタイムチャートと同様の内容については、その内容を簡略化あるいは省略する。
【0091】
先ず、停車時はLoモードで停車しているのが通常である。したがって、
図15に示すように、第1クラッチ機構CL1がONとされ、第2クラッチ機構CL2がOFFとされている。その状態から、触媒29の温度が所定温度(活性温度)より低いことが検知されたことにより、エンジン3の始動を開始する(t1時点)。エンジン3の始動は、上述したように、第1モータ4によりエンジン3が自立運転可能な回転数までモータリングする。したがって、t1時点からt2時点に渡って、第1モータ4がエンジン3の回転方向とは反対側にトルク(負トルク)を出力するとともに、第1モータ4の回転数も負方向に増大する。なお、この際に、出力部材側に負トルクが伝達されるので、その負トルクを相殺するように第2モータ5のトルクを増大させる。そしてエンジン回転数が第1モータ4のモータリングにより自立運転可能な回転数まで増大したら、それに応じて第1モータ4のトルクを「0」に戻す(t2時点)。
【0092】
ついで、第1モータ4で発電するために第1モータ4のトルクを増大させる(t3時点)。また、併せてエンジントルクによって第1モータ4を駆動させるために、エンジントルクを増大させる。つまり、上述のステップS50で説明したように、エンジンの出力により第1モータ4を発電させるとともに、エンジン3からの排気する空気量を増大させることにより、触媒29を活性化させる。すなわち触媒29を暖機する。なお、
図15に示す例では、t3時点から第1モータ4の発電を開始しているものの、エンジン3の始動完了と同時(t2時点)に発電を開始してもよい。
【0093】
そして、併せて遅角制御を実行する(t4時点)。なお、この場合の点火時期の遅角量は、上述したように、第1モータ4を切り離した例(
図13のタイムチャート)に比べて、その遅角量を小さくする。つまり、第1クラッチ機構CL1が係合しているため、第1モータ4がエンジン3に連れ回されるので、トルクの変動や失火の誤判定が生じることを抑制するために遅角量を小さくする。なお、t3時点からt4時点において、第1モータ4でトルクを発生させているため、出力部材側にエンジントルクが伝達される。したがって、このt3時点からt4時点では、第2モータ5で負トルクを出力することで、その出力部材側に伝達するトルクを相殺している。
【0094】
そして、運転者によりアクセル操作されたら第2モータ5のトルクを増大させて駆動力を発生させる(t5時点)。また、更にアクセルが踏み込まれて要求駆動力が増大した場合には、エンジン3により駆動力を発生させる。つまり、
図15に示す例では、第1クラッチ機構CL1は、係合した状態が維持されているから、早期に要求駆動力を発生させることが可能となる。
【0095】
このように、
図14および
図15に示す例では、触媒29の暖機を実行する際に、発生させることが可能なEV駆動力が比較的小さいことにより、予め第1クラッチ機構CL1を係合した状態で触媒29の暖機を行うように構成されている。具体的には、停車時に、エンジン3で第1モータ4を駆動して発電させるとともに、エンジン3の出力を増大させてエンジン3から排出される空気量を増大させるように構成されている。つまり、EV駆動力が小さく、言い換えれば蓄電装置32の充電残量が低いので、第1モータ4で発電をしつつ、触媒29の暖機を実行するように構成されている。なお、この際の点火時期の遅角は、トルク変動による失火の誤判定を抑制するために、比較的小さく制御される。そのため、この発明の実施形態によれば、エンジン3の出力の増大により触媒29の暖機を早期に実現でき、また遅角量を制限しているためトルク変動によって生じる失火の誤判定が生じることをも抑制できる。
【0096】
また、第1クラッチ機構CL1が既に係合している状態であるから、例えばアクセルONされて要求駆動力が増大した場合には、スムーズにエンジン3によって駆動力を発生させることができる。
【0097】
以上、この発明の複数の実施形態について説明したが、この発明は上述した例に限定されないのであって、この発明の目的を達成する範囲で適宜変更してもよい。上述した例では、いずれも停車状態では、Loモードが選択されていることが通常であるから、係合機構の制御対象として第1クラッチ機構CL1を制御対象として説明したものの、Hiモードで停車するような場合には、第1クラッチ機構CL1に替えて第2クラッチ機構CL2を制御対象としてもよい。
【0098】
また、上述したように、蓄電装置32の充電残量が所定値以下である場合、あるいは、CSモードが選択されている場合などEV駆動力が比較的小さい場合には、エンジン3でスムーズに駆動力を発生させることができるように
図14の制御例を実行するように構成されていたものの、それとは反対にEV駆動力が比較的大きい場合には、第1モータ4を切り離す
図12の制御例を実行してよい。つまり、蓄電装置32の充電残量が所定値より大きい場合、あるいは、蓄電装置に充電された電力を積極的に使用するCDモードが選択されている場合には、第2モータ5で比較的大きな駆動力を発生させることができるため、各クラッチ機構CL1,CL2を解放(すなわちエンジン3と第1モータ4とのトルク伝達を遮断)して、遅角制御における遅角量を大きくする。
【0099】
また、遅角量の大きさは、各クラッチ機構CL1,CL2の係合時と解放時とに応じて遅角量を予め定めたマップに応じて決定してもよい。そのようなマップに基づいて遅角量を決定することにより制御内容を簡素化することができる。また、上述したように、遅角制御において、クラッチ機構CL1(CL2)を解放している場合の方がクラッチ機構CL1(CL2)を係合している場合より遅角量を大きくするように制御するものの、遅角中に、要求駆動力が増大するなどして係合要求がされた場合には、遅角量を小さくするように構成してよい。それとは反対に、要求駆動力が低下するなどしてクラッチ機構CL1(CL2)の解放要求がされたら、遅角量を大きくしてよい。
【0100】
また、上述の実施形態においては、触媒暖機中にクラッチ機構CL1(CL2)を解放させる例を説明したものの、クラッチ機構CL1(CL2)が多板クラッチの場合には、そのクラッチ機構CL1(CL2)を係合状態から伝達トルク容量を低減させるように制御してもよい。また、その伝達トルク容量は、例えば蓄電装置32の充電残量が多いほど小さくするように構成してよい。つまり、第2モータ5におけるEV駆動力が大きいほど伝達トルク容量を小さくしてよい。
【符号の説明】
【0101】
1R,1L 前輪
2 駆動装置
3 エンジン
4 第1モータ
5 第2モータ
6 動力分割機構
7 分割部
8 変速部
19 出力ギヤ
28 排気系統
29 触媒(浄化装置)
32 蓄電装置
33,34,35,36,37 ECU
34a 温度比較器
36a 点火指令器
CL1,CL2 クラッチ機構
Ve 車両