(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】イオン分析方法、イオン分析装置、及びイオン分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20230905BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20230905BHJP
G01N 27/62 20210101ALN20230905BHJP
【FI】
H01J49/00 360
H01J49/16 400
H01J49/00 310
G01N27/62 G
(21)【出願番号】P 2020075281
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2022-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細井 孝輔
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-225285(JP,A)
【文献】特開2007-127485(JP,A)
【文献】特開2012-038459(JP,A)
【文献】特開2013-210396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0114388(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0141719(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0052898(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00
H01J 49/16
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にレーザ光を照射することにより生成されるイオンを分析するイオン分析装置であって、
前記試料の光学画像を取得する画像取得部と、
表示部と、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点
を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記複数の測定点を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部と
を備えるイオン分析装置。
【請求項2】
前記測定領域入力受付部は、さらに、前記複数の測定点の間隔又は数を設定する入力を受け付
ける、請求項1に記載のイオン分析装置。
【請求項3】
さらに、前記複数の測定点に対して所定の順番にレーザ光を照射してイオンを生成及び分析する分析実行部を備える、請求項1又は2に記載のイオン分析装置。
【請求項4】
前記表示処理部は、前記イオンの生成及び分析を実行中である測定点が画面の中央に位置するように前記光学画像の位置を変更する、請求項1から3のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項5】
前記表示処理部は、さらに、前記イオンの生成及び分析を終了した測定点を、それ以外の測定点と異なる形態で表示する、請求項1から4のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項6】
さらに、
前記複数の測定点において取得した測定データを収集して統合する測定データ収集部
を備える、請求項1から5のいずれかに記載のイオン分析装置。
【請求項7】
試料の光学画像を取得し、
前記光学画像を表示画面上に表示し、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点
を設定し、
前記
複数の測定点を前記光学画像に重畳表示する
イオン分析方法。
【請求項8】
試料の光学画像を取得する画像取得部を備えたイオン分析装置及び表示部に接続されたコンピュータを、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定
点を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記
複数の測定点を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部
として動作させる、イオン分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン分析方法、イオン分析装置、及びイオン分析装置用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置において用いられる試料のイオン化法の一つにマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI: Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法がある(例えば特許文献1)。例えばMALDI法で液体試料をイオン化する場合、レーザ光を吸収しやすい物質(マトリックス物質)を混合した試料をサンプルプレート上に滴下し、そこにレーザ光を照射して試料分子をイオン化する。MALDI法によりイオンを生成するイオン源はMALDIイオン源と呼ばれ、MALDIイオン源を備えた質量分析装置はMALDI-MSと呼ばれる。
【0003】
MALDI-MSでは、試料分子とマトリックス物質の混合状態が一様にはならないことが多く、試料のどの位置にレーザ光を照射するかによってイオン化効率にばらつきが生じやすい。そのため、MALDI-MSではラスター測定と呼ばれる測定手法が用いられる。ラスター測定では、試料表面に所定の配列で(例えば格子状に)複数の測定点を設定し、各測定点について予め決められた回数のレーザ照射を行ってマススペクトルデータを取得する。そして、取得したマススペクトルデータを全て積算することにより最終的なマススペクトルデータを得る。このような方法を採ることにより、イオン化効率のばらつきの影響を排除した、再現性の高いマススペクトルデータを得ることができる。
【0004】
MALDI-MSにおいてラスター測定を行う際には、従来、次のような手順で測定条件を設定している。まず、マトリックス物質を混合した試料を滴下したサンプルプレートをセットしてその光学顕微鏡像を表示させる。次に、光学顕微鏡像を確認し、その中央に試料が位置するようにサンプルプレートを移動させる。続いて、ラスター測定の条件設定画面を立ち上げる。ラスター測定条件には、複数の測定点を設定する領域(ラスター測定領域)の大きさと、測定点の間隔が含まれる。使用者がこれらの値を入力するとラスター測定条件設定画面に複数の測定点が表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来、使用者は光学顕微鏡像により試料の位置を確認し、その後、光学顕微鏡像を表示する画面とは別の画面でラスター測定条件を設定している。ここで、試料表面の関心領域を探索する際には、試料の大きさに応じて光学顕微鏡像を適宜に拡大あるいは縮小する。一方、ラスター測定条件設定画面は予め決められており、通常は不変である。そのため、試料に対して適切な大きさのラスター測定領域を設定することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、試料に対して適切な大きさのラスター測定領域を簡便に設定することができるイオン分析技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン分析方法は、
試料の光学画像を取得し、
前記光学画像を表示画面上に表示し、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定し、
前記領域を前記光学画像に重畳表示する
ものである。
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、試料にレーザ光を照射することにより生成されるイオンを分析するイオン分析装置であって、
前記試料の光学画像を取得する画像取得部と、
表示部と、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記領域を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部と
を備える。
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明のさらに別の態様であるイオン分析装置用プログラムは、
試料の光学画像を取得する画像取得部を備えたイオン分析装置及び表示部に接続されたコンピュータを、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記領域を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部
として動作させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、まず、試料の光学画像を取得して表示部の画面上に表示する。そして、試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域(ラスター測定領域)を設定する。ラスター領域内で複数の測定点を配置する形態は、予め決められたもの(例えば格子状に測定点を配置するもの)であってもよく、あるいは都度、使用者に指定させるものであってもよい。設定されたラスター領域は、光学画像に重畳表示される。この表示は、ラスター領域の外縁を示す図形であってもよく、該ラスター領域内に配置する複数の測定点(測定点の集合により領域を示すもの)であってもよい。本発明では、設定されたラスター測定領域が試料の光学画像に重畳表示されるため、試料に対して適切な大きさのラスター測定領域を簡便に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るイオン分析装置の一実施例である質量分析装置の概略構成図。
【
図2】本発明に係るイオン分析方法の一実施例である質量分析方法のフローチャート。
【
図3】本実施例の質量分析装置における試料の光学画像の画面表示の例。
【
図4】本実施例の質量分析装置におけるラスター測定条件設定画面の例。
【
図5】本実施例の質量分析装置における質量分析実行中の画面表示の例。
【
図6】本実施例の質量分析装置における質量分析実行中の画面表示の別の例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るイオン分析方法、イオン分析装置、及びイオン分析装置用プログラムの実施例である質量分析方法、質量分析装置、及び質量分析装置用プログラムについて、以下、図面を参照して説明する。本実施例の質量分析装置は、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)イオン源で生成したイオンを、イオントラップ(IT)で質量分離して検出する、マトリックスレーザ脱離イオン化-イオントラップ(MALDI-IT)型の質量分析装置である。
【0014】
図1に、本実施例の質量分析装置1の要部構成を示す。この質量分析装置1は、大別してイオン化室10、質量分析室20、及び制御・処理部40から構成されている。イオン化室10と質量分析室20の間には隔壁21が設けられている。隔壁21には、質量分析室20側に向かって徐々に広くなるテーパ状の開口211が形成されている。
【0015】
イオン化室10には、サンプルプレート111を載置する試料ステージ12が設けられている。本実施例で用いるサンプルプレート111は、試料113を収容する複数のウェル112を有している。また、試料ステージ12を測定位置(
図1に示す位置)と交換位置の間で移動させるとともに、測定位置において開口211と近接/離間するためのステージ移動機構13が設けられている。また、バルブ14と、該バルブ14を、開口211を封鎖する封鎖位置(開口211を塞ぐ位置)と退避位置の間(
図1に示す位置)で上下動させるためのバルブ移動機構15が設けられている。このバルブ14とバルブ移動機構15によりロードロック機構が構成される。イオン化室10には、さらに、分析者がサンプルプレート111を交換するためにイオン化室10を開閉するための機構(図示略)が設けられている。その他、イオン化室10にはロードック動作を行う際に該イオン化室10を10
3Pa程度に減圧する粗引きポンプ(例えばダイアフラムポンプ。図示略)が接続されている。
【0016】
質量分析室20を構成するチャンバの上部には窓部201が設けられている。窓部201の外には、測定位置にある試料ステージ12上の試料113にレーザ光を照射するレーザ光源3、ハーフミラー4を介して該試料の表面を観察するカメラ5が配置されている。
【0017】
質量分析室20には、イオン化室10に近い側から順に、第1イオンレンズ22、偏向部23、第2イオンレンズ24、イオントラップ25、及びイオン検出器26が設けられている。第1イオンレンズ22及び第2イオンレンズ24は、イオンの飛行経路の中心軸(イオン光軸C)に沿って配置された、複数枚の円環状の電極から構成されている。
【0018】
偏向部23は、4本のロッド電極231~234を備えている。制御・処理部40による制御の下で、ロッド電極231にはイオンと逆極性の電圧が、それ以外のロッド電極232~234にはイオンと同極性の電圧が、それぞれ電圧印加部30から印加される。
【0019】
イオントラップ25は、円環状のリング電極251と、該リング電極251を挟んで対向配置された一対のエンドキャップ電極(入口側エンドキャップ電極252、出口側エンドキャップ電極253)とを含む三次元イオントラップである。入口側エンドキャップ電極252にはイオン導入孔254が、出口側エンドキャップ電極253にはイオン射出孔255が、それぞれ形成されている。制御・処理部40による制御の下で、上記リング電極251、入口側エンドキャップ電極252、及び出口側エンドキャップ電極253のそれぞれに対して所定のタイミングで高周波電圧と直流電圧のいずれか一方又はそれらを合成した電圧が電圧印加部30から印加される。これらの電圧を適宜に変更することにより、イオントラップ25の内部にイオンが捕捉され、また、捕捉されたイオンが放出される。イオントラップ25から放出されたイオンはイオン検出器26で検出される。
【0020】
入口側エンドキャップ電極252とリング電極251、及び出口側エンドキャップ電極253とリング電極251は、それぞれ円環状の絶縁部材256により接続され固定されている。この絶縁部材256には、周方向に複数の(例えば4つの)開口が等間隔に設けられており、これによってイオントラップ25の内部空間と質量分析室20が連通している。絶縁部材256の開口は、入口側エンドキャップ電極252のイオン導入孔254や出口側エンドキャップ電極253のイオン射出孔255よりも十分に大きく形成されている。
【0021】
また、イオントラップ25には、該イオントラップ25の内部に1乃至複数種類の不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴン等)を所定の流量で供給するガス供給部27が接続されている。ガス供給部27は、択一的に送給される複数種類のガス源271と該ガス源271とイオントラップ25を接続するガス流路272と、該ガス流路272に設けられたバルブ273を備えている。
【0022】
質量分析室20を構成するチャンバ壁面の、イオントラップ25とイオン検出器26を臨む位置に真空排気機構28が接続されている。真空排気機構28は、主ポンプであるターボ分子ポンプと、補助ポンプであるダイアフラムポンプを備えている。また、質量分析室20の、イオン検出器26の近傍には質量分析室20内の圧力を測定する真空計29が取り付けられている。
【0023】
制御・処理部40は記憶部41を備えている。また、機能ブロックとして光学画像取得部421、測定領域入力受付部422、表示処理部423、分析実行部424、及び測定データ収集部425を備えている。制御・処理部40の実体は一般的なコンピュータであり、予めインストールされている質量分析用プログラム42をプロセッサで実行することにより、上記の各機能ブロックが動作する。制御・処理部40には、また、液晶ディスプレイ等からなる表示部51と、キーボードやマウスなどからなる入力部52が接続されている。
【0024】
次に、本実施例の質量分析装置を用いた測定の流れを説明する。
図2は、本実施例の質量分析方法に関するフローチャートである。ここでは液体試料をラスター測定する場合を例に説明する。
【0025】
ラスター測定では、試料表面に所定の配列で(本実施例では格子状に)複数の測定点(以下に説明する例では25点)を設定し、各測定点について予め決められた回数(例えば5回)のレーザ照射を行って生成したイオンをスキャン測定してマススペクトルデータを取得する。そして、取得したマススペクトルデータを全て積算することにより最終的なマススペクトルデータを得る。
【0026】
上記のスキャン測定は試料成分から生成されたイオンをそのままスキャン測定するMSスキャン測定であってもよく、あるいは生成されたイオンの中から所定の質量電荷比を有するイオンをプリカーサイオンとして選択し、該プリカーサイオンを解離させて生成したプロダクトイオンを測定するMS/MSスキャン測定であってもよい。さらには、プリカーサイオンの選択と解離を繰り返した後にプロダクトイオンをスキャン測定するMSnスキャン測定(nは3以上の整数)であってもよい。
【0027】
使用者は、バルブ移動機構15によりバルブ14を封鎖位置に移動し、質量分析室20を閉鎖する。続いて、試料ステージ12を交換位置に移動させ、マトリックス物質を混合した液体試料をウェル112に滴下したサンプルプレート111を試料ステージ12にセットする。そして、イオン化室10を閉じてイオン化室10を粗引きし、ステージ移動機構13を動作させて試料ステージ12を測定位置に移動する。
【0028】
試料ステージ12を測定位置に移動したあと、イオン分析装置用プログラム42を動作させると、光学画像取得部421は、カメラ5を動作させ、試料ステージ12にセットされたサンプルプレート111の光学画像60を取得し、表示部51に表示する(ステップ1)。
図3に示すように、この光学画像60の表示画面には、画像の中心を十字の交点で示すクロスヘア61が固定表示される。使用者は、表示部51に表示された光学画像を適宜、拡大あるいは縮小するなどしてサンプルプレート111のウェル112に滴下した試料113のマトリックス結晶を確認し、試料ステージ12を移動させて、試料113を光学画像の中央(クロスヘア61の交点)に移動する(ステップ2)。このクロスヘア61の交点は、レーザ光源3からのレーザ光の照射位置である。
【0029】
光学画像の中央に試料113を移動した後、完了ボタンを押す等の所定の動作を行うと、測定領域入力受付部422は、
図4に示すようなラスター測定条件入力欄を表示部51に表示する。本実施例のラスター測定領域は正方形である。また、複数の測定点は格子状に配置される。本実施例では、これら複数の測定点の測定順をサーペンスタイン方式とテレビスキャン方式の中からプルダウン操作により選択することができる。サーペンスタイン方式では、左上に位置する測定点から右方向に向かって順に質量分析を実行し、右端の測定点における質量分析が終了すると、その1つ下に位置する測定点から順に左方向に向かって順に質量分析を実行する。テレビスキャン方式では、左端の測定点から右方向への一方向にのみ質量分析を実行する。ラスター測定領域の形状は正方形に限らず、円形、楕円形等、適宜に変更することができる。また、測定点の配置も格子状に限らず、ハニカム状、同心円状等、適宜に変更することができる。ラスター測定領域の形状や測定点の配置は、予め用意された複数種類の中から使用者が試料113の特性等に応じて適切なものを選択するようにしてもよい。
【0030】
使用者がラスター測定条件を入力すると(ステップ3)、それらの値に基づいて、表示処理部423は、
図4に示すように、表示部51に表示されている光学画像60に複数の測定点62を重畳表示する(ステップ4)。この画面が表示された段階でラスター測定領域の一辺の長さあるいは測定点間隔の値を変更すると、変更後の値に応じた位置に複数の測定点62が表示される。また、この状態で、使用者が光学画像60を拡大(あるいは縮小)すると、それに応じて複数の測定点62も拡大(あるいは縮小)される。以下の説明では、試料113の光学画像に複数の測定点62を重畳表示することによりラスター領域を示す例を説明するが、
図4に一点鎖線で示すような、ラスター領域の外縁を示す枠線を重畳表示するようにしてもよい。
【0031】
使用者が、試料113の大きさに対して適切な領域がラスター領域が設定され、該ラスター領域内に適切な数の測定点62が設定されたことを確認した後、完了ボタンを押す等の所定の入力操作を行うと、ラスター測定条件が決定する(ステップ5)。また、ラスター測定領域の一辺の長さ(この例では0.4mm)、測定点間隔(この例では0.1mm)、及び測定点数n(この例では25)が記憶部41に保存される。
【0032】
ラスター測定条件の設定完了後、使用者が分析開始を指示すると(ステップ6)、分析実行部424は、変数kを1にセットする(ステップ7)。続いて、複数の測定点62のうち、予め決められた場所に位置する最初の測定点(ここでは画面左上の測定点)にレーザ光源3からのレーザ光が照射されるように、試料ステージ12を移動させる(ステップ8)。試料ステージ12の移動により、表示部51に表示される光学画像60における試料113及び測定点62の表示位置も移動し、
図5に示すように質量分析実行中の測定点621が画面の中央に表示される。これと平行して、表示処理部423は、質量分析実行中の測定点621を表示部51の画面上で点滅表示させる。
【0033】
分析実行部424は、上記最初の測定点にレーザ光を照射して生成されたイオンの質量分析を所定回数行う(ステップ9)。各測定回のイオン検出器26の検出信号は、順次、制御・処理部40に送られ、記憶部41に保存される。
【0034】
最初の測定点における所定回数の質量分析を完了すると、表示処理部423は、所定回数の質量分析を完了した測定点622を表示部51の画面上で黒塗り表示する(ステップ10)。また、分析実行部424は、全ての測定点での質量分析が完了したか否かを判定する(ステップ11)。この時点では、最初の測定点以外の測定点では質量分析を実行していないため(ステップ11でNO)、分析実行部424は、kの値に1を足し(ステップ12)、ステップ8に戻って次の測定点(ここでは画面左上の測定点)にレーザ光源3からのレーザ光が照射されるように、試料ステージ12を移動させ、上記同様に所定回数の質量分析を行う(ステップ9)。測定中の画面表示の一例として、
図6に、7点目の測定点において質量分析を実行中に表示される画面を示す。
【0035】
ステップ8~10を繰り返し実行し、全ての測定点62において所定回数の質量分析を完了すると(ステップ11でYES)、測定を終了する。測定終了後、測定データ収集部425は、一連の測定で得られたマススペクトルデータを統合して最終的な1つのマススペクトルデータを作成する(ステップ13)。マススペクトルデータの統合は、例えば同一の質量電荷比のマスピーク強度を合計あるいは平均することにより行う。
【0036】
本実施例の質量分析装置1では、上記のように、ラスター測定を実行する複数の測定点を配置する領域の大きさ(正方形状の領域の一辺の長さ)と測定点間隔を入力すると、複数の測定点が試料の光学画像に重畳表示される。使用者は、この表示を確認することにより、試料113に対して適切な領域に測定点が設定されていることを簡便に確認することができる。
【0037】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0038】
上記実施例では、表示処理部423が、測定実行中の測定点621を点滅表示し、測定を完了した測定点622を黒塗り表示するものとしたが、これらの表示は相互に識別可能なものであればよく、相互に異なる色で測定点を表示したり、異なる図形で測定点を表示したりする等、適宜に変更することができる。
【0039】
また、上記実施例では、測定データ収集部425が、複数の測定点のそれぞれにおいて所定回数のスキャン測定を行って取得したマススペクトルデータを統合して1つのマススペクトルデータを作成したが、上記構成の質量分析装置をイメージング質量分析にも使用することができる。イメージング質量分析を行う場合には、測定データ収集部425は、測定点毎にマススペクトルデータを統合し、それを測定点の位置情報に対応付けたイメージング質量分析データを作成する。
【0040】
さらに、上記実施例はMALDIイオン源でイオンを生成する質量分析装置(MALDI-IT型の質量分析装置)としたが、MALDI以外のイオン源(マトリックス物質を使用せずレーザ光の照射のみでイオンを生成するレーザ脱離イオン化(LDI)法を用いるイオン化源)を使用する際にも上記同様の構成を用いることができる。また、イオントラップ以外の質量分離部(例えば四重極マスフィルタ)を備えた質量分析装置を用いても良い。例えば、三連四重極型の質量分析装置を用いる場合には、上記実施例のようなスキャン測定以外に、SIM測定や、MRM測定を行うことができる。あるいは、生成したイオンを移動度に応じて分離するイオン移動度分析装置等の、他のイオン分析装置においても上記同様の構成を用いることができる。
【0041】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0042】
(第1項)
一態様は、試料にレーザ光を照射することにより生成されるイオンを分析するイオン分析装置であって、
前記試料の光学画像を取得する画像取得部と、
表示部と、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記領域を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部と
を備える。
【0043】
(第7項)
別の一態様に係るイオン分析方法は、
試料の光学画像を取得し、
前記光学画像を表示画面上に表示し、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定し、
前記領域を前記光学画像に重畳表示する
ものである。
【0044】
(第8項)
さらに別の一態様に係るイオン分析装置用プログラムは、試料の光学画像を取得する画像取得部を備えたイオン分析装置及び表示部に接続されたコンピュータを、
前記試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域を設定する入力を受け付ける測定領域入力受付部と、
前記領域を前記光学画像に重畳させて前記表示部に表示する表示処理部
として動作させるものである。
【0045】
第1項に記載のイオン分析装置、第7項に記載のイオン分析方法、及び第8項に記載のイオン分析装置用プログラムでは、試料の光学画像を取得して表示部の画面上に表示する。そして、試料に対してレーザ光を照射する複数の測定点を配置する領域(ラスター測定領域)を設定する。ラスター領域内で複数の測定点を配置する形態は、予め決められたもの(例えば格子状に測定点を配置するもの)であってもよく、あるいは都度、使用者に指定させるものであってもよい。設定されたラスター領域は、光学画像に重畳表示される。この表示は、ラスター領域の外縁を示す図形であってもよく、該ラスター領域内に配置する複数の測定点(測定点の集合により領域を示すもの)であってもよい。第1項に記載のイオン分析装置、第7項に記載のイオン分析方法、及び第8項に記載のイオン分析装置用プログラムでは、設定されたラスター測定領域が試料の光学画像に重畳表示されるため、試料に対して適切な大きさのラスター測定領域を簡便に設定することができる。
【0046】
(第2項)
第1項に記載のイオン分析装置において、
前記測定領域入力受付部は、さらに、前記複数の測定点の間隔又は数を設定する入力を受け付け、
前記表示処理部は、さらに、前記領域内に前記複数の測定点を表示する。
【0047】
第2項に記載のイオン分析装置では、ラスター領域内に配置する複数の測定点の間隔又は数を入力することにより、測定点の配置を適宜に設定し、表示部の画面上で確認することができる。
【0048】
(第3項)
第1項又は第2項に記載のイオン分析装置において、さらに、
前記複数の測定点に対して所定の順番にレーザ光を照射してイオンを生成及び分析する分析実行部
を備える。
【0049】
第3項に記載のイオン分析装置では、ラスター領域及び該ラスター領域内の複数の測定点を設定した後、イオンの生成及び分析を実行することができる。
【0050】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載のイオン分析装置において、
前記表示処理部は、前記イオンの生成及び分析を実行中である測定点が画面の中央に位置するように前記光学画像の位置を変更する。
【0051】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載のイオン分析装置において、
前記表示処理部は、さらに、前記イオンの生成及び分析を終了した測定点を、それ以外の測定点と異なる形態で表示する。
【0052】
第4項及び第5項に記載のイオン分析装置では、分析の進行状況を画面上で確認することができる。
【0053】
(第6項)
第1項から第5項のいずれかに記載のイオン分析装置において、さらに、
前記複数の測定点において取得した測定データを収集して統合する測定データ収集部
を備える。
【0054】
第6項に記載のイオン分析装置では、ラスター測定データを簡便に得ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1…質量分析装置
10…イオン化室
111…サンプルプレート
112…ウェル
113…試料
12…試料ステージ
13…ステージ移動機構
20…質量分析室
201…窓部
22…第1イオンレンズ
23…偏向部
24…第2イオンレンズ
25…イオントラップ
26…イオン検出器
27…ガス供給部
30…電圧印加部
40…制御・処理部
41…記憶部
42…質量分析用プログラム
421…光学画像取得部
422…測定領域入力受付部
423…表示処理部
424…分析実行部
425…測定データ収集部
51…表示部
52…入力部
3…レーザ光源
4…ハーフミラー
5…カメラ
60…光学画像
61…クロスヘア
62…測定点
621…測定実行中の測定点
622…測定終了後の測定点