(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】炭素繊維をリサイクルする方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/14 20060101AFI20230905BHJP
C08J 11/08 20060101ALI20230905BHJP
B09B 3/45 20220101ALI20230905BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230905BHJP
【FI】
C08J11/14 ZAB
C08J11/08
B09B3/45
B09B3/70
(21)【出願番号】P 2020118141
(22)【出願日】2020-07-09
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】高山 晃史
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-104847(JP,A)
【文献】特開2019-172799(JP,A)
【文献】特開平07-033904(JP,A)
【文献】米国特許第10610911(US,B1)
【文献】特開2018-109184(JP,A)
【文献】特開2009-138143(JP,A)
【文献】特開2014-189935(JP,A)
【文献】国際公開第2018/212016(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 11/00-11/28
B09B 1/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維をリサイクルする方法であって、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成型品を用意する工程、
炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理又は第一の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び
第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を引き出して巻き取る工程
を含み、
巻き取り工程が、炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理又は第二の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び第二の加熱処理又は第二の溶解処理後の炭素繊維にサイジング剤を付与する工程をさらに含
み、
第一の加熱処理を、過熱水蒸気を用いて行う、方法。
【請求項2】
炭素繊維は、上流で引き剥がされながら下流で巻き取られ、引き剥がされた後であって巻き取られる前に、第二の加熱処理又は第二の溶解処理により樹脂の残渣が除去され、次いでサイジング剤が付与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理により熱分解させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一の加熱処理の温度が、400℃~500℃である、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理により熱分解させる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第二の加熱処理を、過熱水蒸気を用いて行う、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
第二の加熱処理の温度が、500℃~600℃である、請求項
5又は
6に記載の方法。
【請求項8】
炭素繊維に4~5MPaの張力が付与されるように炭素繊維を引き出す、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
炭素繊維強化樹脂成型品がタンクである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維をリサイクルする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、軽量かつ高剛性であり、高圧水素に耐え得る材料である。そのため、燃料電池(FC)車の水素タンク等の炭素繊維強化樹脂成型品に用いられている。また、炭素繊維強化樹脂成型品は、タンク以外にも、スポーツ・レジャー用品や航空宇宙用構成部品等の幅広い分野にわたって使用されている。しかしながら、炭素繊維強化樹脂に含まれる炭素繊維は、高価であり、また、製造時CO2発生量が多く且つ廃棄処理が困難であるため環境負荷が高い。そこで、使用済みの炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を回収し、リサイクルする方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、複数の炭素繊維基材及びマトリックス樹脂を含む炭素繊維強化樹脂から前記炭素繊維基材を再生炭素繊維束として得る方法であり、前記炭素繊維強化樹脂を加熱することによって前記マトリックス樹脂を熱分解して加熱処理物を得て、前記加熱処理物を解砕することによって前記複数の炭素繊維基材を分離する、再生炭素繊維束の製造方法を開示している。
【0004】
特許文献2は、プラスチック材料のリサイクル方法であって、常圧で400℃以下の過熱水蒸気を用いて前記プラスチック材料を加熱する工程を有することを特徴とするリサイクル方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、炭素繊維及びマトリックス成分を含有する炭素繊維強化プラスチックを通気性材料で各面が形成された筐体状の加熱ケージの中に予め規定された嵩密度となるように充填する嵩密度充填工程と、耐火性素材によって内部に細長トンネル形状の再生処理空間が構築され、前記再生処理空間に連通する導入口及び排出口がそれぞれ開口した再生処理部に前記炭素繊維強化プラスチックの充填された前記加熱ケージを搬送する加熱ケージ搬送工程と、前記再生処理空間の加熱領域に設けられた加熱除去部によって、搬送される前記加熱ケージ内の前記炭素繊維強化プラスチックを加熱し、前記マトリックス成分を除去する加熱除去工程と、前記再生処理空間の前記加熱領域の搬送下流側の冷却領域に設けられた冷却部によって、前記マトリックス成分の加熱除去された再生炭素繊維を搬送しながら冷却する冷却工程とを具備することを特徴とする炭素繊維の再生処理方法を開示している。
【0006】
特許文献4は、炭素繊維強化樹脂からなる筒状体を含む炭素繊維強化樹脂成型品を、該筒状体の形状を保ったまま熱分解炉に設置してマトリックス樹脂を熱分解する熱分解工程と、該筒状体の内面から、該筒状体の軸の方向に炭素繊維を引き出して炭素繊維を回収する回収工程とを含む、炭素繊維強化樹脂成型品からの炭素繊維の回収方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2018/212016
【文献】特開2015-000897号公報
【文献】特開2013-237716号公報
【文献】特開2019-172799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に開示されるように、炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を回収する方法が検討されている。しかしながら、特許文献1では、マトリックス樹脂を破砕する工程が提案されており、連続した炭素繊維を得ることができない。そのため、連続した炭素繊維を必要とする成形品に再利用可能な炭素繊維を得ることができない。特許文献2でも、加熱されたプラスチック材料を粉砕する工程が提案されており、連続した炭素繊維は得ることができない。特許文献3でも、炭素繊維強化プラスチックを予め規定されたサイズに裁断する工程が提案されており、連続した炭素繊維は得ることができない。特許文献1~3のように、破砕や粉砕、裁断工程が入ると、数mm~数cmの長さの炭素繊維しか得ることができず、炭素繊維を連続繊維としてリサイクルすることができない。一方、特許文献4の方法では、連続した炭素繊維を得ることができると考えられるが、炭素繊維に樹脂の残渣(例えば、スス)が多く残り、再利用に適さない炭素繊維が得られてしまう。
【0009】
そこで、本実施形態は、再利用に適した連続する炭素繊維を効率的に得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0011】
(1) 炭素繊維をリサイクルする方法であって、
炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成型品を用意する工程、
炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理又は第一の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び
第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を引き出して巻き取る工程
を含み、
巻き取り工程が、炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理又は第二の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び第二の加熱処理又は第二の溶解処理後の炭素繊維にサイジング剤を付与する工程をさらに含む、方法。
(2) 炭素繊維は、上流で引き剥がされながら下流で巻き取られ、引き剥がされた後であって巻き取られる前に、第二の加熱処理又は第二の溶解処理により樹脂の残渣が除去され、次いでサイジング剤が付与される、(1)に記載の方法。
(3) 炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理により熱分解させる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 第一の加熱処理を、過熱水蒸気を用いて行う、(3)に記載の方法。
(5) 第一の加熱処理の温度が、400℃~500℃である、(3)又は(4)に記載の方法。
(6) 炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理により熱分解させる、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7) 第二の加熱処理を、過熱水蒸気を用いて行う、(6)に記載の方法。
(8) 第二の加熱処理の温度が、500℃~600℃である、(6)又は(7)に記載の方法。
(9) 炭素繊維に4~5MPaの張力が付与されるように炭素繊維を引き出す、(1)~(8)のいずれか1つに記載の方法。
(10) 炭素繊維強化樹脂成型品がタンクである、(1)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態によれば、再利用に適した連続する炭素繊維を効率的に得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る方法のフローチャートである。
【
図2】タンク100の構成例を示す模式的断面図である。
【
図3】本実施形態における巻き取り工程の一態様を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法であって、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成型品を用意する工程、炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理又は第一の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を引き出して巻き取る工程を含み、巻き取り工程が、炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理又は第二の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び第二の加熱処理又は第二の溶解処理後の炭素繊維にサイジング剤を付与する工程をさらに含む、方法である。
【0015】
本実施形態によれば、再利用に適した連続する炭素繊維を得ることができる、炭素繊維のリサイクル方法を提供することができる。
【0016】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態は、炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維をリサイクルする方法である。炭素繊維強化樹脂成型品は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する。炭素繊維強化樹脂成型品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。タンクとしては、例えば、水素を貯蔵するための水素タンクが挙げられる。以下の例では、炭素繊維強化樹脂成型品としてタンクを例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されるものではない。なお、本実施形態は、炭素繊維をリサイクルする方法に関するものであるが、炭素繊維をリサイクルする方法は、炭素繊維を製造する方法を意味するものとして把握されるべきである。
【0018】
図1に、本実施形態に係る方法のフローチャートを示す。
図1に示すように、本実施形態は、成型品用意工程、熱分解/溶解工程、及び巻き取り工程を含む。巻き取り工程では、炭素繊維は、巻き取られながら、樹脂残渣が除去され、且つサイジング剤が付与される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0019】
(成型品用意工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維及び樹脂を含む炭素繊維強化樹脂を有する炭素繊維強化樹脂成型品を用意する工程を含む。
【0020】
上述の通り、炭素繊維強化樹脂成型品としては、特に制限されるものではないが、例えば、タンク等が挙げられる。
【0021】
図2は、タンク100の構成例を示す断面図である。
図2は、タンク100の中心軸に平行でかつ中心軸を通る面で切断された断面図を示している。タンク100の中心軸は、略円筒状を有するタンク本体の円の中心を通る軸と一致する。タンク100は、例えば、圧縮水素等の気体を充填するために用いることができる。例えば、タンク100は、圧縮水素が充填された状態で、燃料電池に水素を供給するために、燃料電池車に搭載される。
【0022】
タンク100は、ライナー10(ナイロン樹脂製)と、外殻としての炭素繊維強化樹脂層20と、バルブ側口金30と、エンド側口金40と、バルブ50と、を備える。また、ライナー10と炭素繊維強化樹脂層20の間には、保護層60が配置されている。ライナー10は、内部に水素が充填される空間を備える中空形状とされ、水素が外部に漏れないように内部空間を密閉するガスバリア性を有する。
【0023】
炭素繊維強化樹脂層20は、ライナー10及び保護層60の外側を覆うように形成された樹脂層である。炭素繊維強化樹脂層20は、保護層60の外側表面を覆うように形成されている。保護層60は、炭素繊維強化樹脂層20の内側表面を覆うように形成されており、また、口金30、40の一部を覆うように形成されている。炭素繊維強化樹脂層は、主にライナー10を補強する機能を有する(補強層)。ライナー10は、保護層60の内側表面を覆うように形成されている。
【0024】
図2において、バルブ側口金30は、略円筒状を成し、ライナー10と保護層60との間に嵌入されて、固定されている。バルブ側口金30の略円柱状の開口が、タンク100の開口として機能する。本実施形態において、バルブ側口金30は、例えば、ステンレスから形成できるが、アルミニウム等の他の金属から成るものであってもよいし、樹脂製であってもよい。バルブ50は、円柱状の部分に、雄ねじが形成されており、バルブ側口金30の内側面に形成されている雌ねじに螺合されることにより、バルブ50によって、バルブ側口金30の開口が閉じられる。エンド側口金40は、例えばアルミニウムから成り得、一部分が外部に露出した状態で組み立てられ、タンク内部の熱を、外部に導く働きをする。
【0025】
炭素繊維強化樹脂層は、炭素繊維及び樹脂(マトリックス樹脂)を含む。
【0026】
樹脂としては、特に制限されるものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、当該技術分野において従来知られているものを使用することができる。エポキシ樹脂としては、制限されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、直鎖型であっても分岐型であってもよい。樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
炭素繊維は、当該技術分野において従来知られている方法により調製することができる。炭素繊維としては、炭素を主成分とする材料であればよく、例えば、アクリルを原料とする炭素繊維、又はピッチを原料とする炭素繊維等がある。中でも、ポリアクリロニトリル繊維を原料として製造されるPAN系炭素繊維が好ましい。
【0028】
炭素繊維強化樹脂層は、例えば、フィラメントワインディング法により形成することができる。フィラメントワインディング成型品は、炭素繊維束を必要に応じて複数本引き揃え、マトリックス樹脂を含浸させて、回転する基体や金型に適宜の厚さまでテンションを掛けながら適宜の角度で巻き付けることにより製造することができる。
【0029】
(熱分解/溶解工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、炭素繊維強化樹脂成型品中の樹脂を第一の加熱処理又は第一の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程を含む。
【0030】
本実施形態では、炭素繊維強化樹脂成型品の破砕や粉砕は行わない。炭素繊維強化樹脂成型品として、タンクの筒状態部分のみを用いてもよい。炭素繊維強化樹脂成型品中の金属部品等は、分解/溶解工程前に取り外してもよいし、分解/溶解工程後に取り外してもよい。
【0031】
第一の加熱処理は、炭素繊維強化樹脂成型品を熱処理チャンバー内で行うことができる。炭素繊維強化樹脂成型品を熱処理チャンバー内で加熱して、炭素繊維強化樹脂成型品のマトリックス樹脂を熱分解させる。熱処理チャンバーは、加熱炉であってもよく、また、加熱媒体を内部に導入及び/又は排出可能に構成された空間を有する加熱装置であってもよい。
【0032】
第一の加熱処理の温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは、400℃~500℃である。加熱処理の温度が400℃以上である場合、樹脂の分解が速やかに進む。第一の加熱処理の温度が500℃以下である場合、炭素繊維の損傷を抑制することができる。
【0033】
第一の加熱処理は、過熱水蒸気を用いて行うことが好ましい。過熱水蒸気を用いることにより、炭素繊維の分解を抑制することができる。過熱水蒸気の温度は、400℃~500℃であることが好ましい。例えば、第一の加熱処理は、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。また、第一の加熱処理は、特に制限されるものではないが、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよい。熱処理チャンバー内に加熱した過熱水蒸気、空気又は不活性気体を供給しつつ、熱分解によって発生する樹脂の分解ガスを除去することが好ましい。
【0034】
第一の加熱処理の時間は、特に制限されるものではなく、加熱温度や樹脂等に応じて適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、1~10時間である。
【0035】
第一の加熱処理における樹脂の分解度合いは、加熱処理の温度(例えば過熱水蒸気の温度)と加熱処理の時間で制御することができる。加熱処理の温度が高すぎると、炭素繊維が脆くなる傾向があり、加熱処理の温度が低すぎると、樹脂の残量が多くなる傾向がある。加熱処理の時間が長すぎると、炭素繊維が脆くなる傾向があり、加熱処理の時間が短すぎると、樹脂の残量が多くなる傾向がある。
【0036】
第一の溶解処理は、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解可能な溶解液を用いて行う。溶解液としては、樹脂を溶解可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、リン酸や硫酸等の酸性溶液が挙げられる。酸性溶液としては、特開2020-37638号公報に記載されるような、硫酸を含む溶液(例えば、90質量%以上の濃度)、特開2020-50704号公報に記載されるような、リン酸を含む溶液等が挙げられる。また、溶解液としては、例えば、特開2020-45407号公報に記載されるような、有機溶媒と必要に応じて分解触媒とを含む液体も挙げられる。有機溶媒の種類は特に制限されるものではないが、例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒又はエステル系溶媒が挙げられる。
【0037】
第一の溶解処理の時間は、特に制限されるものではなく、溶解液や樹脂等に応じて適宜設定することができる。
【0038】
第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維は、樹脂の残渣が繊維中に残存している。この樹脂の残渣のため、炭素繊維は束状の形態を保ち得る。この残渣が残ったまま回収した炭素繊維は、再利用する際に新たな樹脂組成物と混合すると、樹脂組成物と炭素繊維の間に残渣が残るため、密着性が低く強固な複合材料を再生できず、再利用に不適である。本実施形態において、この樹脂の残渣は、巻き取り工程により除去される。
【0039】
(巻き取り工程)
本実施形態に係るリサイクル方法は、第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維を引き出して巻き取る工程を含み、該巻き取り工程が、炭素繊維に付着する樹脂の残渣を第二の加熱処理又は第二の溶解処理により熱分解又は溶解させる工程、及び第二の加熱処理又は第二の溶解処理後の炭素繊維にサイジング剤を付与する工程をさらに含む。具体的には、上流で引き剥がされながら下流で巻き取られ、引き剥がされた後であって巻き取られる前に、第二の加熱処理又は第二の溶解処理により樹脂の残渣が除去され、次いでサイジング剤が付与される。巻き取りながら、樹脂の残渣の除去、及びサイジング剤の付与を行うことにより、再利用に適した炭素繊維を得ることができる。
【0040】
具体的には、まず、第一の加熱処理又は第一の溶解処理後の炭素繊維強化樹脂成型品から炭素繊維の一部を取り出す。炭素繊維の一部は、炭素繊維の端部であることが好ましい。この取り出した炭素繊維の一部を、巻き取り機に繋ぎ、巻き取り機により連続繊維の状態で炭素繊維を引っ張りながら巻き取っていく。そして、巻き取りながら、樹脂残渣の除去及びサイジング剤の付与を行う。
【0041】
樹脂残渣の除去は、特に制限されるものではないが、例えば、加熱処理又は溶解処理(第二の加熱処理又は第二の溶解処理)により行うことができる。
【0042】
第二の加熱処理は、熱処理チャンバーを用いて行うことができる。具体的には、巻き取り機と炭素繊維強化樹脂成型品の間に熱処理チャンバーを配置し、引き出した炭素繊維が熱処理チャンバー内に入り込んで加熱処理されるように各要素を構成する。加熱処理により炭素繊維に付着している樹脂の残渣は熱分解により除去される。炭素繊維は熱処理チャンバーで加熱されてから外に搬送され、次のサイジング剤処理を受ける。
【0043】
第二の加熱処理の温度は、特に制限されるものではないが、好ましくは、500℃~600℃である。第二の加熱処理は、炭素繊維を巻き取りながら(すなわち搬送しながら)加熱するため、その時間は比較的短くなる。そのため、加熱処理の温度を比較的高めの500℃以上に設定することにより、樹脂残渣を効果的に除去することができる。第二の加熱処理の温度が600℃以下である場合、炭素繊維の損傷を抑制することができる。第二の加熱処理の時間は、例えば、1~30分である。
【0044】
第二の加熱処理は、過熱水蒸気を用いて行うことが好ましい。過熱水蒸気を用いることにより、炭素繊維の分解を抑制することができる。過熱水蒸気の温度は、500℃~600℃であることが好ましい。例えば、第二の加熱処理は、常圧反応容器に常圧過熱水蒸気を導入して行うことができる。また、第二の加熱処理は、特に制限されるものではないが、窒素等の不活性雰囲気下で行ってもよい。熱処理チャンバー内に加熱した過熱水蒸気、空気、酸素ガス、不活性ガス又はこれらの混合物を供給しつつ、熱分解によって発生する樹脂の分解ガスを除去することができる。また、第二の加熱処理は、過熱水蒸気並びに空気又は酸素ガスを熱処理チャンバー内に導入することが好ましい。過熱水蒸気に加えて酸素も熱処理チャンバー内に導入することにより、樹脂残渣を効率的に除去することができる。また、第二の加熱処理は、調質ガスとしての窒素及び/又は二酸化炭素を熱処理チャンバー内に導入してもよい。過熱水蒸気に加えて窒素及び/又は二酸化炭素も導入することにより、炭素繊維強度を向上することができる。
【0045】
第二の加熱処理における樹脂残渣の分解度合いは、加熱処理の温度(例えば過熱水蒸気の温度)又は加熱処理の時間等で制御することができる。加熱処理の時間は、例えば、炭素繊維の搬送速度で調整することができる。
【0046】
第二の加熱処理の代わりに、第二の溶解処理を用いて樹脂残渣を除去してもよい。
【0047】
第二の溶解処理に用いる溶解液としては、第一の溶解処理と同様に、炭素繊維強化樹脂中の樹脂を溶解可能な溶解液であれば特に制限されるものではない。溶解液としては、例えば、上述のものが挙げられる。第二の溶解処理は、炭素繊維を巻き取りながら(すなわち搬送しながら)、溶解液に炭素繊維を浸漬させて樹脂残渣を溶解除去する。
【0048】
第二の加熱処理又は第二の溶解処理後の炭素繊維は、樹脂の残渣が実質的に全て除去されており、炭素繊維の束が解れて単繊維の形態になっている。この炭素繊維にサイジング剤を付与することにより、炭素繊維束をボビンとして巻き取ることができ、また、炭素繊維の毛羽立ち・単繊維の絡まりの発生を抑制することができる。
【0049】
サイジング剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレンやポリプロピレン)、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又はこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、又はポリオレフィン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。サイジング剤としてエポキシ樹脂を用いることで、炭素繊維とエポキシ樹脂の接着性を向上することができる。サイジング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
炭素繊維へのサイジング剤の付与は、サイジング剤を炭素繊維に接触させることにより行われる。サイジング剤の付与方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ディッピング法、ダイコーティング法、バーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法等が挙げられる。これらの中でも、ディッピング法が好ましい。具体的には、サイジング剤は、サイジング浴内に配置されたサイジング剤に浸漬するように炭素繊維をローターで搬送することにより炭素繊維に付与することができる。サイジング剤は、水、又はアセトン等の有機溶剤に分散又は溶解させ、分散液又は溶液として使用することが好ましい。サイジング剤の分散性を高め、液安定性を良好にする観点から、当該分散液又は溶液には適宜界面活性剤を添加してもよい。
【0051】
炭素繊維へのサイジング剤の付着量としては、炭素繊維とサイジング剤との合計量を100質量部とした場合、例えば、0.1~10質量部である。付着量がこの範囲にあれば、適度な炭素繊維の収束性が得られ、炭素繊維の充分な耐擦過性が得られて機械的摩擦等による毛羽の発生が抑制される。
【0052】
図3は、巻き取り工程の一実施形態を説明するための模式図である。
図3では、上流側のタンクから炭素繊維が引き出され、下流側でボビンとして巻き取りローラーで巻き取られている。上流側において、熱分解/溶解工程後のタンクが回転駆動可能な軸受に設置され、タンクから炭素繊維が引き出されている。上流側のタンクと下流側の巻き取りローラーの間には、第二の加熱処理を行うための熱処理チャンバーと、サイジング剤処理を行うためのサイジング剤浴が配置されている。熱処理チャンバーは、サイジング剤処理の上流側に位置する。炭素繊維の搬送方向は、複数のガイドローラーにより制御され、熱処理チャンバー及びサイジング剤浴に炭素繊維が搬送されるように制御されている。タンクから引き出された炭素繊維は、熱処理チャンバー内で加熱処理が施されて樹脂残渣が除去される。そして、樹脂残渣が除去された炭素繊維は、次にサイジング剤浴に導かれて浸漬される。サイジング剤浴に浸漬された炭素繊維は、ガイドローラーが配設された方向にサイジング剤浴から引き上げられ、最終的に巻き取りローラーにてボビンとして巻き取られる。サイジング剤の付着量(含浸量)は、例えばニップローラー(不図示)等により、所望の範囲となるように調整することができる。また、サイジング剤を乾燥させるための乾燥ユニットを配置してもよい。
【0053】
巻き取りローラーには、炭素繊維を巻き取るための駆動力を与える駆動装置(不図示)が取り付けられている。また、一部のガイドローラーにも、ガイドローラーを回動させる駆動装置が取り付けられていてもよい。巻き取り張力、すなわち炭素繊維に付与する張力は、4~5MPaであることが好ましい。巻き取り張力をこの範囲に設定することにより、炭素繊維の糸切れや巻きずれを防止することができ、その結果、より長い連続繊維を得ることができる。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、これまでは得られなかった、再利用に適した連続繊維のリサイクル炭素繊維ボビンを得ることができる。したがって、本実施形態に係る方法により得られた炭素は、新品の炭素繊維と同様の用途に使用可能であり、幅広い用途に適用可能である。
【実施例】
【0055】
以下、本実施形態を実施例を用いて説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
(成型品用意工程)
炭素繊維強化樹脂成型品として、水素タンクを用意した。該水素タンクは、炭素繊維強化樹脂を有し、樹脂はエポキシ樹脂である。
【0057】
(熱分解工程)
熱分解工程として、上記水素タンクを第一の熱処理チャンバー内に配置し、導入口から過熱水蒸気を吹き入れ、炭素繊維強化樹脂成型品を加熱し、樹脂を熱分解した。分解された樹脂は、ガス成分として排出口から外部に排出された。加熱処理の温度は500℃とし、加熱時間は5時間とした。これにより、炭素繊維と分解せずに残った炭化物(樹脂残渣)が得られた。
【0058】
(巻き取り工程)
巻き取り工程を、
図3に示すようなプロセスにより、炭素繊維をボビンに巻き取った。熱分解工程(第一の加熱処理)後のタンクは、炭素繊維と残渣物から構成される硬質なリボン状テープの積層体である。まず、タンクの中心に紙管を挿入し、型崩れを防止した。次に、炭素繊維の端部を探し出し、治具で引き剥がしてクリップで把持した。次に、巻き取りローラーに設置されているボビンに繋がっているガイド用の炭素繊維を第二の熱処理チャンバーの入り口まで引き出し、タンクから引き出した炭素繊維の端部と固結びで結んだ。
【0059】
第二の熱処理チャンバーは、引き出された炭素繊維をローラーで搬送しながら、炭素繊維を連続的に熱処理する構成を有する。第二の加熱処理として、第二の熱処理チャンバーの導入口から過熱水蒸気を酸素を吹き入れて炭素繊維を加熱し、炭素繊維を搬送しながら樹脂残渣を熱分解により除去した。この第二の加熱処理により、樹脂残渣はほぼ完全に除去された。樹脂残渣の除去により、炭素繊維間の結束も解けるため、炭素繊維は、繊維束でなく、単繊維の状態となる。ただし、本プロセスでは炭素繊維は結んだ状態で巻き出されているため、見かけ上は解けていなかった。樹脂の分解度合いは、過熱水蒸気の温度と処理時間(送り速度)で制御することができる。送り速度はボビンの巻き取り速度で制御し、張力はガイドロールで制御することができる。
【0060】
次に、第二の加熱処理後の炭素繊維をサイジング剤浴に送り、浸漬法によりサイジング剤処理を施した。このサイジング剤処理によって単繊維を結束させて繊維束とし、表面の平滑性も付与した。サイジング剤としては、エポキシ樹脂(商品名:デタナイト、ナガセケムテックス社製)を用いた。
【0061】
次に、ボビンで炭素繊維を巻き取り、リサイクル炭素繊維を得た。
【0062】
[実施例2~5、比較例1]
第一の加熱処理の温度及び時間、第二の加熱処理の温度及び時間、巻き取りの張力及び速度、サイジング剤付与の有無を表1の通りに設定したこと以外は、実施例1と同様にしてリサイクル炭素繊維を得た。
【0063】
得られたリサイクル炭素繊維の長さを表1に示す。
【0064】
【0065】
表1に示されるように、実施例1~5ではメートルオーダーの連続繊維を得ることができた。特に、実施例1及び2の条件では、糸切れが発生せずにキロメートルオーダーの連続繊維を得ることができた。一方、比較例1では、巻き取り不良のため、再利用可能な状態の連続繊維を得ることができなかった。したがって、本実施形態により、再利用に適した連続する炭素繊維を得ることができることが確認された。
【0066】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0067】
以上、本実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
10 ライナー
20 繊維強化樹脂層
30 バルブ側口金
40 エンド側口金
50 バルブ
60 保護層
100 タンク