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特許7342866樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂シートおよびプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂シートおよびプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20230905BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20230905BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20230905BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230905BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20230905BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230905BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20230905BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230905BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C08L71/12
C08L79/00 Z
C08L101/02
C08J5/04 CEZ
B32B5/28 Z
B32B15/08 Q
B32B25/04
B32B27/20 Z
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020531267
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027336
(87)【国際公開番号】W WO2020017412
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2018137021
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】本田 紗央里
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 恵一
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-016709(JP,A)
【文献】特開2011-246406(JP,A)
【文献】特開2010-138364(JP,A)
【文献】特開2009-161725(JP,A)
【文献】特開平04-077553(JP,A)
【文献】特開2019-077761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子内に2つ以上の芳香環構造と、-Si(OR01m(R023-mで表される基を有する化合物(A)と、
芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの少なくとも1種(B)と、
充填材(C)を含有し、
前記R01およびR02は、それぞれ独立に、炭化水素基であり、mが1~3の整数であり、
前記化合物(A)が、式(X)で表される化合物を含み、
前記芳香環構造を有するエラストマーが、スチレン系エラストマーを含み、
前記芳香環構造を有する樹脂が、ポリフェニレンエーテル化合物を含み、
さらに、マレイミド化合物を含有し、
前記充填材(C)が無機系の充填材であり、
前記充填材(C)の含有量が、樹脂成分100質量部に対し、50~300質量部である、樹脂組成物
式(X)
【化1】
式(X)中、Xは、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基を表し、R 1 およびR 2 は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、A 1 は、単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、A 2 は、単結合または2価の連結基を表し、mは1~3の整数であり、nは1~10の数である。
【請求項2】
前記化合物(A)が、式(Y)で表される化合物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物;
式(Y)
【化2】
式(Y)中、A2は、単結合または2価の連結基であり、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、mは、1~3の整数であり、nは1~10の数である。
【請求項3】
前記化合物(A)の重量平均分子量が1000以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香環構造を有する樹脂が、下記式(1)で表されるポリフェニレンエーテル化合物を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物;
【化3】
式(1)において、Xは芳香族基を表し、-(Y-О)n2-はポリフェニレンエーテル構造を表し、R1、R2、および、R3は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表し、n1は1~6の整数を表し、n2は1~100の整数を表し、n3は1~4の整数を表す。
【請求項5】
前記芳香環構造を有する樹脂に含まれるポリフェニレンエーテル化合物の数平均分子量が1000以上7000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記マレイミド化合物が、式(2M)で表される化合物、式(3M)で表される化合物、および式(4M)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物;
【化4】
式(2M)中、R4はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、n4は1以上の整数を表す;
【化5】
式(3M)中、R5はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基またはフェニル基を表し、n5は1以上10以下の整数を表す;
【化6】
式(4M)中、R6はそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し、R7はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。
【請求項7】
前記マレイミド化合物が、式(3M)で表される化合物を含む、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、シアン酸エステル化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、難燃剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記化合物(A)の含有量が、樹脂成分100質量部に対し、1~10質量部である、請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの合計含有量が、樹脂成分100質量部に対し、1~50質量部である、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
基材と、請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたプリプレグ。
【請求項13】
少なくとも1枚の請求項12に記載のプリプレグと、前記プリプレグの片面または両面に配置された金属箔とを含む、金属箔張積層板。
【請求項14】
支持体と、前記支持体の表面に配置された請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された層を含む樹脂シート。
【請求項15】
絶縁層と、前記絶縁層の表面に配置された導体層とを含むプリント配線板であって、
前記絶縁層が、請求項1~11のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された層および請求項12に記載のプリプレグから形成された層の少なくとも一方を含むプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂シートおよびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に用いられる半導体の高集積化・微細化はますます加速している。これに伴い、プリント配線板に用いられる半導体パッケージ用積層板(例えば、金属箔張積層板等)に求められる諸特性はますます厳しいものとなっている。求められる特性としては、例えば、低誘電率性、低誘電正接性、低熱膨張性、耐熱性等が挙げられる。中でも誘電率および誘電正接の大きな絶縁体材料では、電気信号が減衰され、信頼性が損なわれるために、誘電率および誘電正接の小さな材料が必要となる。
【0003】
これらの諸特性が向上したプリント配線板を得るために、プリント配線板の材料として用いられる材料について検討が行われている。例えば、特許文献1および2には、誘電率および誘電正接が低いビニル化合物が開示されている。
【0004】
一方、特許文献3には、良好な銅箔密着性および誘電率や誘電正接といった誘電特性を発揮し得る硬化物を与える有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)として、平均構造式(i)で表されることを特徴とする有機ケイ素化合物が開示されている。
【化1】
(式中、Xは、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基を表し、Rは、互いに独立して、非置換もしくは置換の炭素原子数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表し、Rは、互いに独立して、非置換もしくは置換の炭素原子数1~10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基を表し、Aは、単結合、またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、Aは、ヘテロ原子を含まない、非置換もしくは置換の炭素原子数1~20の2価炭化水素基を表し、mは、1~3の数であり、nは、1~10の数である。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-59644号公報
【文献】特開2006-83364号公報
【文献】特開2018-16709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、プリント配線板などの電子材料用途に適した材料は種々検討されている。しかしながら、近年の技術開発に伴い、さらに新規材料の需要がある。特に、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度、および優れた製造性、すなわち低溶融粘度であることを達成できる材料の需要がある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度および低溶融粘度を達成可能な樹脂組成物、ならびに、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂シートおよびプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、樹脂またはエラストマーと、充填材とを含む樹脂組成物において、樹脂またはエラストマーとして、芳香環構造を有するものを用い、さらに、一分子内に2つ以上の芳香環構造を有する化合物(A)を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<22>により、上記課題は解決された。
<1>一分子内に2つ以上の芳香環構造と、-Si(OR01(R023-mで表される基を有する化合物(A)と、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの少なくとも1種(B)と、充填材(C)を含有し、前記R01およびR02は、それぞれ独立に、炭化水素基であり、mが1~3の整数である、樹脂組成物。
<2>前記化合物(A)が芳香環構造を含む繰り返し単位を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記化合物(A)が有する芳香環構造を含む繰り返し単位がポリフェニレンエーテルである、<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記化合物(A)が、式(X)で表される化合物を含む、<1>に記載の樹脂組成物;
式(X)
【化2】
式(X)中、Xは、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、Aは、単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、Aは、単結合または2価の連結基を表し、mは1~3の整数であり、nは1~10の数である。
<5>前記化合物(A)が、式(Y)で表される化合物を含む、<1>に記載の樹脂組成物;
式(Y)
【化3】
式(Y)中、Aは、単結合または2価の連結基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、mは、1~3の整数であり、nは1~10の数である。
<6>前記化合物(A)の重量平均分子量が1000以上である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記芳香環構造を有するエラストマーが、スチレン系エラストマーを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記芳香環構造を有する樹脂が、ポリフェニレンエーテル化合物を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>前記ポリフェニレンエーテル化合物が、下記式(1)で表されるポリフェニレンエーテル化合物を含む、<8>に記載の樹脂組成物;
【化4】
式(1)において、Xは芳香族基を表し、-(Y-О)-nはポリフェニレンエーテル構造を表し、R、R、および、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表し、nは1~6の整数を表し、nは1~100の整数を表し、nは1~4の整数を表す。
<10>前記ポリフェニレンエーテル化合物の数平均分子量が1000以上7000以下である、<8>または<9>に記載の樹脂組成物。
<11>さらに、マレイミド化合物を含有する、<1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<12>前記マレイミド化合物が、式(2M)で表される化合物、式(3M)で表される化合物、および式(4M)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、<11>に記載の樹脂組成物;
【化5】
式(2M)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、nは1以上の整数を表す;
【化6】
式(3M)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基またはフェニル基を表し、nは1以上10以下の整数を表す;
【化7】
式(4M)中、Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。
<13>前記マレイミド化合物が、式(3M)で表される化合物を含む、<12>に記載の樹脂組成物。
<14>さらに、シアン酸エステル化合物を含む、<1>~<13>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<15>さらに、難燃剤を含む、<1>~<14>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<16>前記化合物(A)の含有量が、樹脂成分100質量部に対し、1~10質量部である、<1>~<15>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<17>、前記芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの合計含有量が、樹脂成分100質量部に対し、1~50質量部である、<1>~<16>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<18>前記充填材(C)の含有量が、樹脂成分100質量部に対し、50~300質量部である、<1>~<17>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<19>基材と、<1>~<18>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたプリプレグ。
<20>少なくとも1枚の<19>に記載のプリプレグと、前記プリプレグの片面または両面に配置された金属箔とを含む、金属箔張積層板。
<21>支持体と、前記支持体の表面に配置された<1>~<18>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された層を含む樹脂シート。
<22>絶縁層と、前記絶縁層の表面に配置された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が、<1>~<18>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された層および<19>に記載のプリプレグから形成された層の少なくとも一方を含むプリント配線板。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度および低溶融粘度を達成可能な樹脂組成物、ならびに、プリプレグ、金属箔張積層板、樹脂シートおよびプリント配線板を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本実施形態の樹脂組成物は、一分子内に2つ以上の芳香環構造と、-Si(OR01(R023-mで表される基を有する化合物(A)(以下、「化合物(A)」ということがある)と、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの少なくとも1種(B)と、充填材(C)を含有し、前記R01およびR02は、それぞれ独立に、炭化水素基であり、mが1~3の整数であることを特徴とする。このような構成とすることにより、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度を達成できる。さらに、低溶融粘度を達成できるため製造性に優れた樹脂組成物とすることができる。
この理由は、以下の通りであると推定される。
すなわち、化合物(A)の有する-Si(OR01(R023-mで表される基が充填材(C)と結合する。また、化合物(A)の2つ以上の芳香環構造が、芳香環構造を有する樹脂および/または芳香環構造を有するエラストマーとπ-π系の相互作用をする。これらの作用によって、樹脂および/またはエラストマーと充填材(C)との結びつきが強まることで、ピール強度が高められるものと考えられる。そして、化合物(A)が有する芳香環構造が芳香環構造を有する樹脂および/または芳香環構造を有するエラストマーと効果的に相溶するため、樹脂組成物中の充填材(C)の分散性が向上し、溶融粘度が低下すると考えられる。
さらに、樹脂組成物をワニスの状態としたときに、成分が凝集したりすることを効果的に抑制できる。また、樹脂組成物を層状にした際に、層内での層分離を起こりにくくすることができる。すなわち、製造性にも優れた樹脂組成物とすることが可能になる。
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0011】
<(A)一分子内に2つ以上の芳香環構造と、-Si(OR01(R023-mで表される基を有する化合物>
本実施形態にかかる樹脂組成物は、一分子内に2つ以上の芳香環構造と、-Si(OR01(R023-mで表される基を有する化合物(化合物(A))を含む。化合物(A)は、-Si(OR01(R023-mで表される基が充填材(C)と結合し、化合物(A)の芳香環構造が、芳香環構造を有する樹脂および/または芳香環構造を有するエラストマーと相溶する。すなわち、化合物(A)は、シランカップリング剤のような働きをする。この結果、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度および低溶融粘度を達成できる。
化合物(A)は芳香環構造を含む繰り返し単位を含むことが好ましく、前記芳香環構造を含む繰り返し単位がポリフェニレンエーテルであることがより好ましく、化合物(A)が、ポリフェニレンエーテルを含むことが更に好ましい。化合物(A)が芳香環構造を含む繰り返し単位を含むことにより、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーとの相溶性がより向上する。特に、芳香環構造を有する樹脂がポリフェニレンエーテル化合物を含む場合、化合物(A)がポリフェニレンエーテルを含むことが好ましい。
【0012】
-Si(OR01(R023-mで表される基において、R01およびR02は、それぞれ独立に、炭化水素基であり、mが1~3の整数である。R01およびR02は、それぞれ独立にアルキル基またはアリール基であることが好ましく、後述する式(X)における、RおよびRと同じ範囲がより好ましい。mは2~3が好ましく、3がより好ましい。
化合物(A)は、-Si(OR01(R023-mで表される基を一分子中に1つのみ有していてもよいし、2つ以上有していてもよく、1~10つ有していることが好ましく、1~5つ有していることがより好ましく、1つまたは2つ有していることがさらに好ましい。化合物(A)は、一分子中に、-Si(OR01(R023-mで表される基を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
【0013】
化合物(A)は、式(X)で表される化合物を含むことが好ましい。
式(X)
【化8】
式(X)中、Xは、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、Aは、単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、Aは、単結合または2価の連結基を表し、mは1~3の整数であり、nは1~10の数である。
【0014】
式(X)中、Xは、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基を表し、その中に直鎖構造、分岐構造、または架橋構造を有していてもよい。本発明では、直鎖構造が好ましい。
上記Xとしては、ポリフェニレンエーテル構造を含むn価の有機基であれば特に限定されるものではないが、金属箔密着性および低誘電特性を向上させることを考慮すると、本発明では、特に、下記式(X1)~(X3)で表される基が好適である。
【0015】
【化9】
式(X1)~(X3)中、R3およびR4は、それぞれ独立に、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のアルコキシ基、または、ハロゲン原子である。aおよびbは、それぞれ独立して1~100の数である。Zは、式(XX)で表される連結基を表す。
【0016】
【化10】
【0017】
式(XX)中、R4は、上記式(X1)~(X3)におけるRと同じ意味を表し、Lは、下記式から選ばれる連結基を表す。
【0018】
【化11】
【0019】
上記Rは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~12のアルキル基を表し、Rは、それぞれ独立して炭素原子数1~12のアルキル基を表し、kは、1~12の整数を表し、jは1~1,000の数を表す。
【0020】
式(X1)~(X3)中、R3およびR4としての炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖、分枝、環状のいずれであってもよい。R3およびR4の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基等の直鎖または分岐アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の環状アルキル基が挙げられる。これらの基は、置換基で置換されていてもよい。
式(X1)~(X3)中、R3およびR4としての炭素原子数1~12のアルコキシ基としては、直鎖、分枝、環状のいずれでもよい。R3およびR4の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基等の直鎖または分岐アルコキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基等の環状アルキルオキシ基が挙げられる。これらの基は、置換基で置換されていてもよい。
式(X1)~(X3)中、R3およびR4の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、メルカプト基、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3-クロロプロピル、3,3,3-トリフルオロプロピル、3-メルカプトプロピル、2-シアノエチル基等を例示することができる。
式(X1)~(X3)中、R3およびR4としてのハロゲン原子としては、F、Cl、Br等が挙げられる。
これらの中でも、R3としては、製造の容易性の観点から、メチル基、メトキシ基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、R4としては、水素原子、メチル基、メトキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0021】
式(X1)~(X3)中、aおよびbは、それぞれ独立して1~100の数であるが、化合物(A)の金属箔密着性および誘電特性の観点から、3~50が好ましく、5~20がより好ましい。aおよびbを1以上とすることにより、金属箔密着性がより向上し、誘電特性もより良好になる傾向にある。また、aおよびbを100以下とすることにより、化合物(A)の樹脂成分への相溶性がより向上する傾向にある。
【0022】
式(X)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、炭素原子数1~10のアルキル基が好ましい。
式(X)中、R1およびR2の炭素原子数1~10のアルキル基としては、直鎖、分枝、環状のいずれでもよく、具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖または分岐アルキル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の環状アルキル基が挙げられる。
式(X)中、R1およびR2の炭素原子数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル基、α-ナフチル基、β-ナフチル基等が挙げられる。
式(X)中、R1およびR2の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基、トリル基、キシリル基等を例示することができる。
【0023】
式(X)中、R1としては、加水分解性の観点から、炭素原子数1~5の直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
式(X)中、R2としては、直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
【0024】
式(X)中、mは、1~3の整数であり、反応性の観点から2~3が好ましく、3がより好ましい。
式(X)中、nは1~10の数であり、1~5が好ましく、1~2がより好ましい。nは平均の数である。nを1以上とすることにより、反応性をより向上させることができ、nを10以下とすることにより、保存安定性が向上し、樹脂組成物を硬化させた時にクラックを発生しにくくできる。
【0025】
式(X)中、Aは、単結合またはヘテロ原子を含む2価の連結基を表す。
式(X)中、Aが示すヘテロ原子を含む2価の連結基の具体例としては、エーテル結合(-O-)、チオエーテル結合(-S-)、アミノ結合(-NH-)、スルホニル結合(-S(=O)2-)、ホスフィニル結合(-P(=O)OH-)、オキソ結合(-C(=O)-)、チオオキソ結合(-C(=S)-)、エステル結合(-C(=O)O-)、チオエステル結合(-C(=O)S-)、チオノエステル結合(-C(=S)O-)、ジチオエステル結合(-C(=S)S-)、炭酸エステル結合(-OC(=O)O-)、チオ炭酸エステル結合(-OC(=S)O-)、アミド結合(-C(=O)NH-)、チオアミド結合(-C(=S)NH-)、ウレタン結合(-OC(=O)NH-)、チオウレタン結合(-SC(=O)NH-)、チオノウレタン結合(-OC(=S)NH-)、ジチオウレタン結合(-SC(=S)NH-)、尿素結合(-NHC(=O)NH-)、チオ尿素結合(-NHC(=S)NH-)等が挙げられる。
これらの中でも、A1としては、エーテル結合(-O-)、またはウレタン結合(-OC(=O)NH-)が好ましい。
【0026】
式(X)中、Aは、単結合または2価の連結基を表す。
一方、Aが示す2価の連結基としては、ヘテロ原子を含まない連結基であることが好ましい。
式(X)中、Aが示す2価の連結基は、炭素原子数1~20の2価炭化水素基が好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、テトラメチレン基、イソブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ペンタデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、へプタデカメチレン基、オクタデカメチレン基、ノナデカメチレン基、エイコサデシレン基等のアルキレン基;シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基;フェニレン、α-,β-ナフチレン基等のアリーレン基などが挙げられる。
これらの中でも、トリメチレン基、オクタメチレン基が好ましく、トリメチレン基がより好ましい。
【0027】
式(X)中、-A-A-基としては、式(12)で表されるウレタン結合(-OC(=O)NH-)を有するトリメチレン基、式(13)で表されるエーテル結合(-O-)を有するトリメチレン基が好適である。
【0028】
【化12】
【0029】
したがって、化合物(A)としては、平均構造式が式(1A)または式(2A)で表されるものが好ましく、これらの化合物を用いることで、さらに良好な金属箔密着性および誘電特性が発揮される。
【0030】
【化13】
【0031】
式(1A)および(2A)中、R1、R2、A1、A2およびmは、式(X)におけるR1、R2、A1、A2およびmと同じ意味を表し、R3は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のアルコキシ基、炭素原子数1~12のアルキルチオ基、または炭素原子数1~12のハロゲン化アルコキシ基を表し、R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~12のアルキル基、炭素原子数1~12のアルコキシ基、炭素原子数1~12のアルキルチオ基、または炭素原子数1~12のハロゲン化アルコキシ基を表し、aおよびbは、それぞれ独立して、1~100の数であり、cは、0以上2未満の数であり、Zは、後述する式(3)で表される連結基を表す。
【0032】
本実施形態では、化合物(A)は、式(Y)で表される化合物を含むことが一層好ましい。
式(Y)
【化14】
式(Y)中、Aは、単結合または2価の連結基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基、または、炭素原子数6~10のアリール基を表し、mは、1~3の整数であり、nは1~10の数である。
式(Y)中、A、R、R、m、nの好ましい範囲は、式(X)におけるそれらの範囲と同じである。
【0033】
化合物(A)の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、1000以上であることが好ましく、4000以上であることがより好ましい。重量平均分子量の上限値としては、例えば、20000以下であり、さらには、10000以下である。なお、本実施形態における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
その他、化合物(A)の詳細は、特開2018-016709号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0034】
化合物(A)の含有量の下限値は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。化合物(A)の含有量の上限値は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
また化合物(A)の含有量の下限値は、樹脂組成物中、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。化合物(A)の含有量の上限値は、樹脂組成物中、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であってもよい。
本実施形態における樹脂組成物は、化合物(A)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<<他のシランカップリング剤>>
本実施形態にかかる樹脂組成物は、上記化合物(A)以外のシランカップリング剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
化合物(A)以外のシランカップリング剤を含む場合、一般に電子材料用途の充填材の表面処理に使用されているものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。具体的には、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ-メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルートリ(β-メトキシエトキシ)シランなどのビニルシラン系、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、フェニルシラン系などが挙げられる。
本実施形態にかかる樹脂組成物が、化合物(A)以外のシランカップリング剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して、1~5質量部程度であってもよい。
また、本実施形態にかかる樹脂組成物は、化合物(A)以外のシランカップリング剤を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、化合物(A)の含有量の10質量%以下であることをいい、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
<(B)芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマー>
本実施形態にかかる樹脂組成物は、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの少なくとも1種を含み、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの両方を含むことが好ましい。
本実施形態にかかる樹脂組成物は、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーの合計で、樹脂成分の10質量%以上を占めることが好ましく、20質量%以上を占めることがより好ましく、30質量%以上を占めることがさらに好ましい。また、上限値としては、樹脂成分の90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であってもよい。
【0037】
また、樹脂組成物における樹脂成分(芳香環構造を有する樹脂、芳香環構造を有するエラストマー、および、他の樹脂成分を合わせたものをいう)の含有量は、合計で、樹脂組成物の10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記樹脂成分の含有量の上限値は、合計で、樹脂組成物の80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
以下、芳香環構造を有する樹脂、芳香環構造を有するエラストマー、および、他の樹脂成分の詳細について説明する。
【0038】
<<芳香環構造を有する樹脂>>
芳香環構造を有する樹脂は、芳香環構造を一分子内に1つ以上含む樹脂であり、一分子内に2つ以上含むことが好ましく、芳香環構造を含む繰返し単位を2つ以上含むポリマー(例えば、重量平均分子量1000以上の化合物)であることがより好ましい。
芳香環構造を有する樹脂としては、ポリフェニレンエーテル化合物、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン化合物が例示され、少なくともポリフェニレンエーテル化合物を含むことが好ましく、少なくとも炭素-炭素不飽和二重結合(マレイミドを除く)を含む置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル化合物を含むことがより好ましい。
【0039】
<<<ポリフェニレンエーテル化合物>>>
ポリフェニレンエーテル化合物としては、ポリフェニレンエーテル構造を有する限り、特に定めるものではなく、公知の化合物を用いることができる。例えば、下記式(X1)で表されるフェニレンエーテル骨格を有する化合物が例示される。
【0040】
【化15】
(式(X1)中、R24、R25、R26、およびR27は、同一または異なってもよく、炭素原子数6以下のアルキル基、アリール基、ハロゲン、または水素を表す。)
【0041】
ポリフェニレンエーテル化合物は、式(X2):
【化16】
(式(X2)中、R28、R29、R30、R34、R35は、同一または異なってもよく、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R31、R32、R33は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
で表される繰り返し単位、および/または、式(X3):
【化17】
(式(X3)中、R36、R37、R38、R39、R40、R41、R42、R43は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。-A-は、炭素原子数20以下の直鎖、分岐または環状の2価の炭化水素である)で表される繰り返し単位をさらに含んでもよい。
【0042】
ポリフェニレンエーテル化合物は、末端の一部または全部を、エチレン性不飽和基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、およびシリル基等で官能基化された変性ポリフェニレンエーテル化合物を用いることもできる。特にエチレン性不飽和基により官能基化された変性ポリフェニレンエーテル化合物が好ましい。このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を採用することにより、よりDfを小さくし、かつ、ピール強度を高めることが可能になる。これらは1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
変性ポリフェニレンエーテル化合物の製造方法は本発明の効果が得られるものであれば特に限定されない。例えば、エチレン性不飽和基(具体的には、ビニルベンジル基等)で官能基化されたものは、2官能フェニレンエーテルオリゴマーとビニルベンジルクロライドを溶剤に溶解させ、加熱撹拌下で塩基を添加して反応させた後、樹脂を固形化することで製造できる。カルボキシル基で官能基化されたものは、例えばラジカル開始剤の存在下または非存在下において、ポリフェニレンエーテル化合物に不飽和カルボン酸やその官能基化された誘導体を溶融混練し、反応させることによって製造される。あるいは、ポリフェニレンエーテル化合物と不飽和カルボン酸やその官能的誘導体とをラジカル開始剤存在下または非存在下で有機溶剤に溶かし、溶液下で反応させることによって製造される。
【0044】
変性ポリフェニレンエーテル化合物は、両末端にエチレン性不飽和基を有する変性ポリフェニレンエーテル化合物(以下、「変性ポリフェニレンエーテル化合物(g)」ということがある)を含むものであることが好ましい。エチレン性不飽和基としては、エテニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基およびオクテニル基等のアルケニル基、シクロペンテニル基およびシクロヘキセニル基等の環状アルケニル基、ビニルベンジル基およびビニルナフチル基等のアルケニルアリール基が挙げられ、ビニルベンジル基が好ましい。両末端の2つのエチレン性不飽和基は、同一の官能基であってもよいし、異なる官能基であってもよい。このような変性ポリフェニレンエーテル化合物を採用することにより、よりDfを小さくし、かつ、ピール強度を高めることが可能になる。
【0045】
変性ポリフェニレンエーテル化合物(g)としては、式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化18】
式(1)において、Xは芳香族基を表し、-(Y-О)n-はポリフェニレンエーテル構造を表し、R、R、および、Rは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を表し、nは1~6の整数を表し、nは1~100の整数を表し、nは1~4の整数を表す。
【0046】
本実施形態における変性ポリフェニレンエーテル化合物(g)は、式(2)で表されることが好ましい。
【化19】
ここで、-(O-X-O)-は、式(3):
【化20】
(式(3)中、R、R、R、R10、R11は、同一または異なってもよく、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R、R、Rは、同一または異なってもよく、水素原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)
および/または式(4):
【化21】
(式(4)中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。-A-は、炭素原子数20以下の直鎖、分岐または環状の2価の炭化水素基である。)で表されることが好ましい。
【0047】
また、-(Y-O)-は、式(5):
【化22】
(式(5)中、R22、R23は、同一または異なってもよく、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。R20、R21は、同一または異なってもよく、水素原子、炭素原子数6以下のアルキル基またはフェニル基である。)で表されることが好ましい。
式(2)において、a、bは、少なくともいずれか一方が0でない、0~100の整数を示す。aおよび/またはbが2以上の整数の場合、2以上の-(Y-O)a-および/または2以上の-(Y-O)b-は、それぞれ独立に、1種の構造がめ配列したものであってよく、2種以上の構造がブロックまたはランダムに配列していてもよい。
【0048】
式(4)における-A-としては、例えば、メチレン、エチリデン、1-メチルエチリデン、1,1-プロピリデン、1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)、シクロヘキシリデン、フェニルメチレン、ナフチルメチレン、1-フェニルエチリデン等の2価の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
上記変性ポリフェニレンエーテル化合物(g)のなかでは、R、R、R、R10、R11、R20、R21が炭素原子数3以下のアルキル基であり、R、R、R、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R22、R23が水素原子または炭素原子数3以下のアルキル基であるポリフェニレンエーテル化合物が好ましく、特に式(3)または式(4)で表される-(O-X-O)-が、式(9)、式(10)、および/または式(11)であり、式(5)で表される-(Y-O)-が、式(12)または式(13)であることが好ましい。aおよび/またはが2以上の整数の場合、2以上の-(Y-O)a-および/または2以上の-(Y-O)b-は、それぞれ独立に、式(12)および/または式(13)が2以上配列した構造であるか、あるいは式(12)と式(13)がブロックまたはランダムに配列した構造であってよい。
【0050】
【化23】
【化24】
(式(10)中、R44、R45、R46、R47は、同一でも異なってもよく、水素原子またはメチル基である。-B-は、炭素原子数20以下の直鎖、分岐または環状の2価の炭化水素基である。)
-B-は、式(4)における-A-の具体例と同じものが具体例として挙げられる。
【化25】
(式(11)中、-B-は、炭素原子数20以下の直鎖、分岐または環状の2価の炭化水素基である)
-B-は、式(4)における-A-の具体例と同じものが具体例として挙げられる。
【化26】
【化27】
【0051】
本実施形態の式(2)で表される変性ポリフェニレンエーテル化合物(g)の調製方法(製造方法)は、特に限定されず、例えば、2官能性フェノール化合物と1官能性フェノール化合物とを酸化カップリングして2官能性フェニレンエーテルオリゴマーを得る工程(酸化カップリング工程)と、得られる2官能性フェニレンエーテルオリゴマーの末端フェノール性水酸基をビニルベンジルエーテル化する工程(ビニルベンジルエーテル化工程)とにより製造できる。また、このような変性ポリフェニレンエーテル化合物は、例えば、三菱ガス化学社製(OPE-2St1200など)を用いることができる。
【0052】
酸化カップリング工程では、例えば、2官能性フェノール化合物、1官能性フェノール化合物、および触媒を溶剤に溶解させ、加熱撹拌下で酸素を吹き込むことにより2官能性フェニレンエーテルオリゴマーを得ることができる。2官能性フェノール化合物としては、特に限定されず、例えば、2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-(1,1’-ビフェノール)-4,4’-ジオール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-ジヒドロキシフェニルメタン、および4,4’-ジヒドロキシ-2,2’-ジフェニルプロパンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。1官能性フェノール化合物としては、特に限定されず、例えば、2,6-ジメチルフェノール、および/または2,3,6-トリメチルフェノールが挙げられる。触媒としては、特に限定されず、例えば、銅塩類(例えば、CuCl、CuBr、CuI、CuCl、CuBr等)、アミン類(例えば、ジ-n-ブチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン、ピリジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、イミダゾール等)等が挙げられる。溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、メタノール、メチルエチルケトン、およびキシレンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0053】
ビニルベンジルエーテル化工程では、例えば、酸化カップリング工程により得られた2官能フェニレンエーテルオリゴマーとビニルベンジルクロライドを溶剤に溶解させ、加熱撹拌下で延期を添加して反応させた後、樹脂を固形化することにより製造できる。ビニルベンジルクロライドとしては、特に限定されず、例えば、o-ビニルベンジルクロライド、m-ビニルベンジルクロライド、およびp-ビニルベンジルクロライドからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。塩基としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキサイド、およびナトリウムエトキサイドからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。ビニルベンジルエーテル化工程では、反応後に残存した塩基を中和するために酸を用いてもよく、酸としては、特に限定されず、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、および硝酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。溶剤としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、塩化メチレン、およびクロロホルムからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。樹脂を固形化する方法としては、例えば、溶剤をエバポレーションして乾固させる方法、反応液を貧溶剤と混合し、再沈殿させる方法等が挙げられる。
【0054】
上記の他、本実施形態で用いられるポリフェニレンエーテル化合物は、末端が水酸基である、未変性ポリフェニレンエーテル化合物であってもよい。未変性ポリフェニレンエーテル化合物としては、例えば、特開2017-119739号公報の段落0011~0016の記載を採用でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0055】
ポリフェニレンエーテル化合物(好ましくは、変性ポリフェニレンエーテル化合物)のGPC法によるポリスチレン換算の数平均分子量は、500以上3000以下であることが好ましい。数平均分子量が500以上であることにより、本実施形態の樹脂組成物を塗膜状にする際にべたつきがより一層抑制される傾向にある。数平均分子量が3000以下であることにより、溶剤への溶解性がより一層向上する傾向にある。
また、ポリフェニレンエーテル化合物のGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は、800以上10000以下であることが好ましく、800以上5000以下であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、誘電率および誘電正接がより低くなる傾向にあり、上記上限値以下とすることにより、溶剤への溶解性、低粘度および成形性がより向上する傾向にある。
さらに、変性ポリフェニレンエーテル化合物である場合の、末端の炭素-炭素不飽和二重結合当量は、炭素-炭素不飽和二重結合1つあたり400~5000gであることが好ましく、400g~2500gであることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、誘電率および誘電正接がより低くなる傾向にある。上記上限値以下とすることにより、溶剤への溶解性、低粘度および成形性がより向上する傾向にある。
【0056】
ポリフェニレンエーテル化合物の含有量の下限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが一層好ましく、20質量部以上であることがより一層好ましい。ポリフェニレンエーテル化合物の含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。特に、変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量が上記範囲であることにより、低誘電正接性および反応性がより一層向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0057】
<<<フェノール樹脂>>>
フェノール樹脂は、1分子中に2個以上のフェノール性ヒドロキシ基を有するフェノール化合物又は樹脂であれば特に限定されない。
フェノール樹脂は、例えば、ビスフェノールA型フェノール樹脂、ビスフェノールE型フェノール樹脂、ビスフェノールF型フェノール樹脂、ビスフェノールS型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック型フェノール樹脂、グリシジルエステル型フェノール樹脂、アラルキルノボラックフェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、多官能フェノール樹脂、ナフトール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、多官能ナフトール樹脂、アントラセン型フェノール樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、脂環式フェノール樹脂、ポリオール型フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、水酸基含有シリコーン樹脂類等が挙げられる。これらの中でも、耐燃性をより一層向上する観点から、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、リン含有フェノール樹脂、および水酸基含有シリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0058】
フェノール樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、50質量部以下であることが好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、フェノール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、フェノール樹脂を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、フェノール樹脂の含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部未満であることをいう。
【0059】
<<<ベンゾオキサジン化合物>>>
ベンゾオキサジン化合物としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物であれば特に限定されない。
ベンゾオキサジン化合物としては、例えば、ビスフェノールA型ベンゾオキサジンBA-BXZ(小西化学(株)製品)、ビスフェノールF型ベンゾオキサジンBF-BXZ(小西化学(株)製品)、ビスフェノールS型ベンゾオキサジンBS-BXZ(小西化学(株)製品)等が挙げられる。
【0060】
ベンゾオキサジン化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、50質量部以下であることが好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、ベンゾオキサジン化合物の含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部未満であることをいう。
【0061】
上記の他、後述する他の樹脂成分であって、芳香環構造を有する樹脂も、好ましい例として例示される。
本実施形態にかかる樹脂組成物は、芳香環構造を有する樹脂の含有量が、樹脂成分の100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部であることがより好ましく、10質量部以上を占めることがより好ましい。また、上限値としては、樹脂成分100質量部に対し、100質量部であってもよいが、90質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、45質量部以下であることが一層好ましく、40質量部以下であってもよい。
本実施形態における樹脂組成物は、芳香環構造を有する樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0062】
<<芳香環構造を有するエラストマー>>
芳香環構造を有するエラストマーは、芳香環構造を一分子内に1つ以上含むエラストマーであり、一分子内に2つ以上含むことが好ましく、芳香環構造を含む繰返し単位を2つ以上含むエラストマー(例えば、重量平均分子量1000以上の化合物)であることがより好ましい。
芳香環構造を有するエラストマーは、スチレン系エラストマーが好ましい。
スチレン系エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンエラストマー(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンエラストマー(SIS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)エラストマー(SEP)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-プロピレン)-ポリスチレンエラストマー(SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-ブチレン)-ポリスチレンエラストマー(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/エチレン-プロピレン)-ポリスチレンエラストマー(SEEPS)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0063】
スチレン系エラストマーにおける、スチレン由来の繰り返し単位の割合は10質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。このような範囲とすることにより、溶剤溶解性、低誘電特性を向上させることができる。
【0064】
本実施形態にかかる樹脂組成物は、芳香環構造を有するエラストマーの含有量が、樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、8質量部以上であることがより好ましい。また、上限値としては、樹脂成分100質量部に対し、60質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、芳香環構造を有するエラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0065】
<他の樹脂成分>
本実施形態における樹脂組成物は、上記の他、他の樹脂成分を含んでいてもよい。他の樹脂成分としては、マレイミド化合物、シアン酸エステル化合物、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマー、活性エステル化合物および重合可能な不飽和基を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種以上を例示でき、マレイミド化合物およびシアン酸エステル化合物を少なくとも含むことが好ましい。
【0066】
<<マレイミド化合物>>
マレイミド化合物は、分子中に2つ以上のマレイミド基を有する化合物であれば特に限定されない。
マレイミド化合物の一例として、式(2M)~式(4M)で表されるマレイミド化合物が挙げられる。これらのマレイミド化合物を用いることにより、プリント配線板用材料(例えば、積層板、金属箔張積層板)等に用いると、優れた耐熱性を付与できるとともに、ピール強度、低吸水性、耐デスミア性、および耐燃性を向上できる。
【化28】
式(2M)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、nは1以上の整数を表す。nは1~10の整数が好ましく、1~5の整数がより好ましく、1~3の整数がさらに好ましく、1または2であることが一層好ましい。
【化29】
式(3M)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~8のアルキル基またはフェニル基を表し、nは1以上10以下の整数を表す。
は、水素原子、エチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、フェニル基が好ましく、水素原子およびメチル基の一方であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
は1以上5以下の整数であることが好ましく、1~3の整数がさらに好ましく、1または2であることが一層好ましい。
【化30】
式(4M)中、Rはそれぞれ独立に水素原子、メチル基またはエチル基を表し、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。
【0067】
前記式(2M)~式(4M)で表されるマレイミド化合物は、式(3M)で表されるマレイミド化合物であることがより好ましい。
マレイミド化合物は、公知の方法で調製してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、日本化薬株式会社製品「MIR-3000」が挙げられる。
【0068】
また、上記以外のマレイミド化合物としては、例えば、4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、フェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル)プロパン、3,3-ジメチル-5,5-ジエチル-4,4-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、4,4-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ポリフェニルメタンマレイミド、およびこれらのプレポリマー、これらのマレイミドとアミンのプレポリマー等が挙げられる。
【0069】
マレイミド化合物の含有量の下限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であってもよい。マレイミド化合物の含有量が1質量部以上であることにより、耐燃性が向上する傾向にある。また、マレイミド化合物の含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、30質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが一層好ましい。マレイミド化合物の含有量が70質量部以下であることにより、ピール強度および低吸水性が向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、マレイミド化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0070】
<<シアン酸エステル化合物>>
シアン酸エステル化合物は、シアネート構造を有する化合物である限り、特に定めるものでは無い。
シアン酸エステル化合物としては、例えば、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(ナフトールアラルキル型シアネート)、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、トリスフェノールメタン型シアン酸エステル化合物、アダマンタン骨格型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールM型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールA型シアン酸エステル化合物、およびジアリルビスフェノールA型シアン酸エステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、低吸水性がより一層向上する観点から、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールM型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールA型シアン酸エステル化合物、およびジアリルビスフェノールA型シアン酸エステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物であることがより好ましい。これらのシアン酸エステル化合物は、公知の方法により調製してもよく、市販品を用いてもよい。なお、ナフトールアラルキル骨格、ナフチレンエーテル骨格、キシレン骨格、トリスフェノールメタン骨格、またはアダマンタン骨格を有するシアン酸エステル化合物は、比較的、官能基当量数が大きく、未反応のシアン酸エステル基が少なくなるため、吸水性がより一層低下する傾向にある。また、芳香族骨格またはアダマンタン骨格を有することに主に起因して、めっき密着性がより一層向上する傾向にある。
【0071】
シアン酸エステル化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、その含有量の下限値は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。シアン酸エステル化合物の含有量が、1質量部以上、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であることにより、耐熱性、耐燃焼性、耐薬品性、低誘電率、低誘電正接、絶縁性が向上する傾向にある。シアン酸エステル化合物の含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることがさらに好ましく、60質量部以下であることが一層好ましく、50質量部以下であることがより一層好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、シアン酸エステル化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0072】
<<エポキシ樹脂>>
エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物または樹脂であれば特に限定されない。
エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエステル、ブタジエン等の二重結合をエポキシ化した化合物、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。これらの中でも、難燃性および耐熱性をより一層向上する観点から、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂であることが好ましく、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂であることがより好ましい。
【0073】
エポキシ樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。成形性、密着性の観点から、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂の含有量が0.1質量部以上であることにより、金属箔ピール強度、靭性が向上する傾向にある。エポキシ樹脂の含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、8質量部以下であることがより一層好ましい。エポキシ樹脂の含有量が50質量部以下であることにより、電気特性が向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、エポキシ樹脂を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、エポキシ樹脂の含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部未満であることをいう。
【0074】
<<オキセタン樹脂>>
オキセタン樹脂としては、オキセタニル基を2つ以上有する化合物であれば、特に限定されない。
オキセタン樹脂としては、例えば、オキセタン、アルキルオキセタン(例えば、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキサタン等)、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成(株)製品)、OXT-121(東亞合成(株)製品)等が挙げられる。
【0075】
オキセタン樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。オキセタン樹脂の含有量が0.1質量部以上であることにより、金属箔ピール強度および靭性が向上する傾向にある。オキセタン樹脂の含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、8質量部以下であることがより一層好ましい。オキセタン樹脂の含有量が50質量部以下であることにより、電気特性が向上する傾向にある。
本実施形態における樹脂組成物は、オキセタン樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、オキセタン樹脂を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、オキセタン樹脂の含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部未満であることをいう。
【0076】
<<芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマー>>
芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリアクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマー、ポリイミド系エラストマー等であって、芳香環を含まないものが例示される。
芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーは、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましい。芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーの含有量の上限値は、含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが一層好ましく、8質量部以下であることがより一層好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーを実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、芳香環構造を有するエラストマー以外のエラストマーの含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.1質量部未満であることをいう。
【0077】
<<活性エステル化合物>>
活性エステル化合物としては、特に限定されず、例えば、1分子中に2個以上の活性エステル基を有する化合物が挙げられる。
活性エステル化合物は、直鎖若しくは分岐または環状の化合物であってもよい。これらの中でも、耐熱性を一層向上させる点から、カルボン酸化合物および/またはチオカルボン酸化合物と、ヒドロキシ化合物および/またはチオール化合物とを反応させることにより得られる活性エステル化合物が好ましく、カルボン酸化合物と、フェノール化合物、ナフトール化合物、およびチオール化合物からなる群より選択される1種以上の化合物とを反応させることにより得られる活性エステル化合物がより好ましく、カルボン酸化合物とフェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを反応させることにより得られ、1分子中に2個以上の活性エステル基を有する芳香族化合物がさらに好ましく、少なくとも2個以上のカルボン酸を1分子中に有する化合物と、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物とを反応させることにより得られ、1分子中に2個以上の活性エステル基を有する芳香族化合物が特に好ましい。上記のカルボン酸化合物としては、安息香酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、およびピロメリット酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、これらの中でも、耐熱性をより一層向上させる観点から、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、およびテレフタル酸からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、イソフタル酸およびテレフタル酸からなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。上記のチオカルボン酸化合物としては、チオ酢酸およびチオ安息香酸からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。上記のフェノール化合物またはナフトール化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールフタリン、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、およびフェノールノボラックからなる群より選ばれる1種以上が挙げられ、耐熱性および溶剤溶解性をより一層向上させる観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、メチル化ビスフェノールA、メチル化ビスフェノールF、メチル化ビスフェノールS、カテコール、α-ナフトール、β-ナフトール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、フェノールノボラックが好ましく、カテコール、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、フロログルシン、ベンゼントリオール、ジシクロペンタジエニルジフェノール、およびフェノールノボラックからなる群より選ばれる1種以上がより好ましく、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジシクロペンタジエニルジフェノール、およびフェノールノボラックからなる群より選ばれる1種以上がさらに好ましく、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジシクロペンタジエニルジフェノール、およびフェノールノボラックからなる群より選ばれる1種以上(好ましくは、ジシクロペンタジエニルジフェノールおよびフェノールノボラックからなる群より選ばれる1種以上、より好ましくはジシクロペンタジエニルジフェノール)であることが特に好ましい。上記のチオール化合物としては、ベンゼンジチオールおよびトリアジンジチオールからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。また、活性エステル化合物は、エポキシ樹脂との相溶性を一層向上させる観点から、少なくとも2個以上のカルボン酸を1分子中に有し、かつ脂肪族鎖を含む化合物であることが好ましく、耐熱性を一層向上させる観点から、芳香環を有する化合物であることが好ましい。より具体的な活性エステル化合物としては、特開2004-277460号公報に記載の活性エステル化合物が挙げられる。
【0078】
活性エステル化合物は市販品を用いてもよく、公知の方法により調製してもよい。市販品としては、ジシクロペンタジエニルジフェノール構造を含有する化合物(例えば、EXB9451、EXB9460、EXB9460S、HPC-8000-65T(いずれもDIC(株)製品)等)、フェノールノボラックのアセチル化物(例えば、DC808(三菱ケミカル(株)製品))、およびフェノールノボラックのベンゾイル化物(例えば、YLH1026、YLH1030、YLH1048(いずれも三菱ケミカル(株)製品))が挙げられ、ワニスの保存安定性、樹脂組成物を硬化させたとき(硬化物)の低熱膨張率をより一層向上させる観点から、EXB9460Sが好ましい。
【0079】
活性エステル化合物は、公知の方法により調製でき、例えば、カルボン酸化合物とヒドロキシ化合物との縮合反応によって得ることができる。具体例としては、(a)カルボン酸化合物またはそのハライド、(b)ヒドロキシ化合物、(c)芳香族モノヒドロキシ化合物を、(a)のカルボキシル基または酸ハライド基1モルに対して、(b)のフェノール性水酸基0.05~0.75モル、(c)0.25~0.95モルの割合で反応させる方法が挙げられる。
【0080】
活性エステル化合物は、本発明の効果を損なわない範囲で、含有することが好ましい。含有する場合、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、90質量部以下であることが好ましい。
本実施形態における樹脂組成物は、活性エステル化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態における樹脂組成物は、活性エステル化合物を実質的に含まない構成とすることもできる。実質的に含まないとは、活性エステル化合物の含有量が樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1質量部未満であることをいう。
【0081】
<(C)充填材>
本実施形態の樹脂組成物は、低誘電率性、低誘電正接性、耐燃性および低熱膨張性の向上のため、充填材(C)を含むことが好ましい。本実施形態で使用される充填材(C)としては、公知のものを適宜使用することができ、その種類は特に限定されず、当業界において一般に使用されているものを好適に用いることができる。具体的には、天然シリカ、溶融シリカ、合成シリカ、アモルファスシリカ、アエロジル、中空シリカ等のシリカ類、ホワイトカーボン、チタンホワイト、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、凝集窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム加熱処理品(水酸化アルミニウムを加熱処理し、結晶水の一部を減じたもの)、ベーマイト、水酸化マグネシウム等の金属水和物、酸化モリブデンやモリブデン酸亜鉛等のモリブデン化合物、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛、アルミナ、クレー、カオリン、タルク、焼成クレー、焼成カオリン、焼成タルク、マイカ、E-ガラス、A-ガラス、NE-ガラス、C-ガラス、L-ガラス、D-ガラス、S-ガラス、M-ガラスG20、ガラス短繊維(Eガラス、Tガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等のガラス微粉末類を含む。)、中空ガラス、球状ガラスなど無機系の充填材の他、スチレン型、ブタジエン型、アクリル型などのゴムパウダー、コアシェル型のゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダー、シリコーン複合パウダーなど有機系の充填材などが挙げられる。
これらの中でも、シリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムからなる群から選択される1種または2種以上が好適である。これらの充填材を使用することで、樹脂組成物の熱膨張特性、寸法安定性、難燃性などの特性が向上する。
【0082】
本実施形態の樹脂組成物における充填材(C)の含有量は、所望する特性に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、50質量部以上が好ましく、より好ましくは75質量部以上である。また、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、1600質量部以下が好ましく、より好ましくは1200質量部以下であり、さらに好ましくは1000質量部以下であり、一層好ましくは750質量部以下であり、より一層好ましくは500質量部以下であり、さらに一層好ましくは300質量部以下である。
本実施形態における樹脂組成物は、充填材(C)を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0083】
<難燃剤>
本実施形態の樹脂組成物は、難燃剤を含んでいてもよい。
難燃剤としては、公知のものが使用でき、例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン、臭素化スチレン、臭素化フタルイミド、テトラブロモビスフェノールA、ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート、ペンタブロモトルエン、トリブロモフェノール、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、ビス-1,2-ペンタブロモフェニルエタン、塩素化ポリスチレン、塩素化パラフィン等のハロゲン系難燃剤、赤リン、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ホスファゼン、1,3-フェニレンビス(2,6-ジキシレニルホスフェート)、10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、部分ベーマイト、ベーマイト、ほう酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤、シリコーンゴム、シリコーンレジン等のシリコーン系難燃剤が挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、1,3-フェニレンビス(2,6-ジキシレニルホスフェート)が低誘電特性を損なわないことから好ましい。
【0084】
難燃剤の含有量は、含有する場合、樹脂組成物の0.1~20質量%であることが好ましい。
難燃剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となる。
【0085】
<分散剤>
本実施形態の樹脂組成物は、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、一般に塗料用に使用されているものを好適に用いることができ、その種類は特に限定されない。本実施形態では、ウレタン系分散剤が例示される。また、分散剤は、好ましくは、共重合体ベースの湿潤分散剤が使用され、その具体例としては、ビックケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk-110、111、161、180、2009、2152、2155、BYK-W996、BYK-W9010、BYK-W903、BYK-W940などが挙げられる。
【0086】
分散剤の含有量は、含有する場合、その下限値は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であってもよい。また、前記分散剤の含有量の上限は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
分散剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となる。
【0087】
<硬化促進剤>
本実施形態の樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルイミダゾール等のイミダゾール類;過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチル-ジ-パーフタレートなどの有機過酸化物;アゾビスニトリルなどのアゾ化合物;N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2-N-エチルアニリノエタノール、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N-メチルピペリジンなどの第3級アミン類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどのフェノール類;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸マンガン、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの水酸基含有化合物に溶解してなるもの;塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩;ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物などが挙げられる。
好ましい硬化促進剤は、イミダゾール類および有機金属塩であり、イミダゾール類および有機金属塩の両方を組み合わせて用いることがより好ましい。
【0088】
硬化促進剤の含有量は、含有する場合、その下限値は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。また、前記硬化促進剤の含有量の上限は、樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。
硬化促進剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となる。
【0089】
<溶剤>
本実施形態の樹脂組成物は、溶剤を含有してもよく、有機溶剤を含有することが好ましい。この場合、本実施形態の樹脂組成物は、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部が溶剤に溶解または相溶した形態(溶液またはワニス)である。溶剤としては、上述した各種樹脂成分の少なくとも一部、好ましくは全部を溶解または相溶可能な極性有機溶剤または無極性有機溶剤であれば特に限定されず、極性有機溶剤としては、例えば、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、セロソルブ類(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等)、エステル類(例えば、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、ヒドロキシイソ酪酸メチル等)、アミド類(例えば、ジメトキシアセトアミド、ジメチルホルムアミド類等)が挙げられ、無極性有機溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、キシレン等)が挙げられる。
溶剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となる。
【0090】
<その他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上記の成分以外の他、熱可塑性樹脂、およびそのオリゴマー等の種々の高分子化合物、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、流動調整剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
<用途>
本実施形態の樹脂組成物は、硬化物として用いられる。具体的には、本実施形態の樹脂組成物は、低誘電率材料および/または低誘電正接材料として、プリント配線板の絶縁層、半導体パッケージ用材料として好適に用いることができる。本実施形態の樹脂組成物は、プリプレグ、プリプレグを用いた金属箔張積層板、樹脂シート、およびプリント配線板を構成する材料として好適に用いることができる。
本実施形態の樹脂組成物は、プリント配線板の絶縁層、プリプレグ、樹脂シート等の層状(フィルム状、シート状等を含む趣旨である)の材料として用いられるが、かかる層状の材料としたとき、その厚さは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。上限値としては、200μm以下であることが好ましく、180μm以下であることがより好ましい。尚、上記層状の材料の厚さは、例えば、本実施形態の樹脂組成物をガラスクロス等に含浸させたものである場合、ガラスクロスを含む厚さを意味する。
本実施形態の樹脂組成物から形成される材料は、露光現像してパターンを形成する用途に用いてもよいし、露光現像しない用途に用いてもよい。特に、露光現像しない用途に適している。
【0092】
<<プリプレグ>>
本実施形態のプリプレグは、基材(プリプレグ基材)と、本実施形態の樹脂組成物から形成される。本実施形態のプリプレグは、例えば、本実施形態の樹脂組成物を基材に適用(例えば、含浸または塗布)させた後、加熱(例えば、120~220℃で2~15分乾燥させる方法等)によって半硬化させることにより得られる。この場合、基材に対する樹脂組成物の付着量、すなわち半硬化後のプリプレグの総量に対する樹脂組成物量(充填材(C)を含む)は、20~99質量%の範囲であることが好ましい。
【0093】
基材としては、各種プリント配線板材料に用いられている基材であれば特に限定されない。基材の材質としては、例えば、ガラス繊維(例えば、E-ガラス、D-ガラス、L-ガラス、S-ガラス、T-ガラス、Q-ガラス、UN-ガラス、NE-ガラス、球状ガラス等)、ガラス以外の無機繊維(例えば、クォーツ等)、有機繊維(例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等)が挙げられる。基材の形態としては、特に限定されず、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等が挙げられる。これらの基材は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの基材の中でも、寸法安定性の観点から、超開繊処理、目詰め処理を施した織布が好ましく、強度と吸水性の観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m以下のガラス織布が好ましく、吸湿耐熱性の観点から、エポキシシラン処理、アミノシラン処理などのシランカップリング剤等により表面処理したガラス織布が好ましい。電気特性の観点から、L-ガラスやNE-ガラス、Q-ガラス等の低誘電率性、低誘電正接性を示すガラス繊維からなる、低誘電ガラスクロスがより好ましい。
【0094】
<<金属箔張積層板>>
本実施形態の金属箔張積層板は、少なくとも1枚の本実施形態のプリプレグから形成された層と、前記プリプレグから形成された層の片面または両面に配置された金属箔とを含む。本実施形態の金属箔張積層板は、例えば、本実施形態のプリプレグを少なくとも1枚配置し(好ましくは2枚以上重ね)、その片面または両面に金属箔を配置して積層成形する方法が挙げられる。より詳細には、プリプレグの片面または両面に銅、アルミニウム等の金属箔を配置して積層成形することにより作製できる。プリプレグの枚数としては、1~10枚が好ましく、2~10枚がより好ましく、2~7枚がさらに好ましい。金属箔としては、プリント配線板用材料に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が挙げられる。金属箔(好ましくは、銅箔)の厚さは、特に限定されず、1.5~70μm程度であってもよい。成形方法としては、プリント配線板用積層板および多層板を成形する際に通常用いられる方法が挙げられ、より詳細には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機等を使用して、温度180~350℃程度、加熱時間100~300分程度、面圧20~100kg/cm程度で積層成形する方法が挙げられる。また、本実施形態のプリプレグと、別途作製した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることもできる。多層板の製造方法としては、例えば、本実施形態のプリプレグ1枚の両面に35μm程度の銅箔を配置し、上記の成形方法にて積層形成した後、内層回路を形成し、この回路に黒化処理を実施して内層回路板を形成し、この後、この内層回路板と本実施形態のプリプレグとを交互に1枚ずつ配置し、さらに最外層に銅箔を配置して、上記条件にて好ましくは真空下で積層成形することにより、多層板を作製することができる。本実施形態の金属箔張積層板は、プリント配線板として好適に使用することができる。
【0095】
<<プリント配線板>>
本実施形態のプリント配線板は、絶縁層と、前記絶縁層の表面に配置された導体層とを含むプリント配線板であって、前記絶縁層が、本実施形態の樹脂組成物から形成された層および本実施形態のプリプレグから形成された層の少なくとも一方を含む。このようなプリント配線板は、常法に従って製造でき、その製造方法は特に限定されない。以下、プリント配線板の製造方法の一例を示す。まず上述した金属箔張積層板等の金属箔張積層板を用意する。次に、金属箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を行い、次いでその内層回路表面に上述したプリプレグを所要枚数重ね、さらにその外側に外層回路用の金属箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の金属箔との間に、基材および樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、この穴の壁面に内層回路と外層回路用の金属箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、さらに外層回路用の金属箔にエッチング処理を施して外層回路を形成することで、プリント配線板が製造される。
【0096】
上記の製造例で得られるプリント配線板は、絶縁層と、この絶縁層の表面に形成された導体層とを有し、絶縁層が上述した本実施形態の樹脂組成物を含む構成となる。すなわち、上述した本実施形態のプリプレグ(例えば、基材およびこれに含浸または塗布された本実施形態の樹脂組成物から形成されたプリプレグ)、上述した本実施形態の金属箔張積層板の樹脂組成物から形成された層が、本実施形態の絶縁層となる。
【0097】
<<樹脂シート>>
本実施形態の樹脂シートは、支持体と、前記支持体の表面に配置された本実施形態の樹脂組成物から形成された層を含む。樹脂シートは、ビルドアップ用フィルムまたはドライフィルムソルダーレジストとして使用することができる。樹脂シートの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を支持体に塗布(塗工)し乾燥することで樹脂シートを得る方法が挙げられる。
【0098】
ここで用いる支持体としては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム、ポリイミドフィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔、アルミ箔等の導体箔、ガラス板、SUS(Steel Use Stainless)板、FRP(Fiber-Reinforced Plastics)等の板状のものが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0099】
塗布方法(塗工方法)としては、例えば、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。また、乾燥後に、支持体と樹脂組成物が積層された樹脂シートから支持体を剥離またはエッチングすることで、単層シートとすることもできる。なお、上記の本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、支持体を用いることなく単層シートを得ることもできる。
【0100】
なお、本実施形態の単層シートまたは樹脂シートの作製において、溶剤を除去する際の乾燥条件は、特に限定されないが、低温であると樹脂組成物中に溶剤が残り易く、高温であると樹脂組成物の硬化が進行することから、20℃~200℃の温度で1~90分間が好ましい。また、単層シートまたは樹脂シートにおいて、樹脂組成物は溶剤を乾燥しただけの未硬化の状態で使用することもできるし、必要に応じて半硬化(Bステージ化)の状態にして使用することもできる。さらに、本実施形態の単層シートまたは樹脂シートにおける樹脂層の厚みは、本実施形態の樹脂組成物の溶液の濃度と塗布厚みにより調整することができ、特に限定されないが、一般的には塗布厚みが厚くなると乾燥時に溶剤が残り易くなることから、0.1~500μmが好ましい。
【実施例
【0101】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0102】
<合成例1 ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(SNCN)の合成>
1-ナフトールアラルキル樹脂(新日鉄住金化学株式会社製)300g(OH基換算1.28mol)およびトリエチルアミン194.6g(1.92mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.5mol)をジクロロメタン1800gに溶解させ、これを溶液1とした。
塩化シアン125.9g(2.05mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、ジクロロメタン293.8g、36%塩酸194.5g(1.92mol)(ヒドロキシ基1モルに対して1.5モル)、水1205.9gを、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液1を30分かけて注下した。溶液1注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン65g(0.64mol)(ヒドロキシ基1molに対して0.5mol)をジクロロメタン65gに溶解させた溶液(溶液2)を10分かけて注下した。溶液2注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を水1300gで5回洗浄した。水洗5回目の廃水の電気伝導度は5μS/cmであり、水による洗浄により、除けるイオン性化合物は十分に除けられたことを確認した。
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に90℃で1時間濃縮乾固させて目的とするナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(SNCN)(橙色粘性物)を331g得た。得られたSNCNの重量平均分子量は600であった。また、SNCNのIRスペクトルは2250cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0103】
<合成例2 変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成>
<<2官能フェニレンエーテルオリゴマーの合成>>
撹拌装置、温度計、空気導入管、および、じゃま板のついた12Lの縦長反応器にCuBr9.36g(42.1mmol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン1.81g(10.5mmol)、n-ブチルジメチルアミン67.77g(671.0mmol)、トルエン2,600gを仕込み、反応温度40℃にて撹拌を行い、予め2,300gのメタノールに溶解させた2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-(1,1’-ビフェノール)-4,4’-ジオール129.32g(0.48mol)、2,6-ジメチルフェノール878.4g(7.2mol)、N,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン1.22g(7.2mmol)、n-ブチルジメチルアミン26.35g(260.9mmol)の混合溶液を、窒素と空気とを混合して酸素濃度8体積%に調整した混合ガスを5.2L/分の流速でバブリングを行いながら230分かけて滴下し、撹拌を行った。滴下終了後、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム48.06g(126.4mmol)を溶解した水1,500gを加え、反応を停止した。水層と有機層を分液し、有機層を1Nの塩酸水溶液、次いで純水で洗浄した。得られた溶液をエバポレーターで50質量%に濃縮し、2官能性フェニレンエーテルオリゴマー体(樹脂「A」)のトルエン溶液を1981g得た。樹脂「A」のGPC法によるポリスチレン換算の数平均分子量は1975、GPC法によるポリスチレン換算の重量平均分子量は3514、水酸基当量が990であった。
【0104】
<<変性ポリフェニレンエーテル化合物の合成>>
撹拌装置、温度計、および還流管を備えた反応器に樹脂「A」のトルエン溶液833.4g、ビニルベンジルクロライド(セイミケミカル(株)製、「CMS-P」)76.7g、塩化メチレン1,600g、ベンジルジメチルアミン6.2g、純水199.5g、30.5質量%のNaOH水溶液83.6gを仕込み、反応温度40℃で撹拌を行った。24時間撹拌を行った後、有機層を1Nの塩酸水溶液、次いで純水で洗浄した。得られた溶液をエバポレーターで濃縮し、メタノール中へ滴下して固形化を行い、濾過により固体を回収、真空乾燥して変性ポリフェニレンエーテル化合物450.1gを得た。変性ポリフェニレンエーテル化合物のGPC法によるポリスチレン換算の数平均分子量は2250、GPC法によるポリスチレン換算の重量平均分子量は3920、ビニル基当量は1189g/ビニル基であった。
【0105】
<製造性の評価>
後述する実施例および比較例で得られたワニスおよび銅箔張積層板とした後の状態について、以下の通り目視で評価した。
A:ワニスの時に、成分の凝集が認められず、銅箔張積層板とした後も相分離が認められなかった。
B:ワニスの時に、やや成分の凝集が認められたが、銅箔張積層板を作製することができ、また銅箔張積層板とした後も相分離が認められなかった。
C:成分の分離が見られワニスの調整ができない、あるいは、ワニスの調整は可能であったが、成分の凝集が多く認められた。
【0106】
<電気特性(DkおよびDf)>
後述する実施例および比較例で得られた0.8mm厚の銅箔張積層板をエッチングし、銅箔を除去した試験片について、摂動法空洞共振器を用いて、10GHzにおける誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を測定した。
摂動法空洞共振器は、アジレントテクノロジー(株)製品、Agilent8722ESを用いた。
【0107】
<ピール強度>
後述する実施例および比較例で得られた0.8mm厚の銅箔張積層板について、JIS C6481に準じて、オートグラフ装置(島津製作所製のAG-IS)にて、25℃の温度下で試験数5で曲げ強度を測定し、最大値の平均値を測定値とした。単位は、kN/mで示した。
【0108】
<最低溶融粘度>
後述する実施例および比較例で得られた混合樹脂粉末1gをサンプルとして使用し、レオメータにより、最低溶融粘度を測定した。ここでは、プレート径25mmのディスポーサブルプレートを使用し、40℃から200℃の範囲において、昇温速度2℃/分、周波数10.0rad/秒、歪0.1%の条件下で、混合樹脂粉末の最低溶融粘度を測定した。単位は、poiseで示した。
レオメータは、TAインスツルメンツ社製、ARES-G2を用いた。
【0109】
<実施例1>
ビフェニルアラルキル型ポリマレイミド化合物(「MIR-3000」、日本化薬社製)15質量部、合成例1で得られたSNCN35質量部、スチレン-イソプレン-スチレンエラストマー(「SEPTON2104」、クラレ社製)10質量部、リン系難燃剤(「PX200」、大八化学工業社製)20質量部、上記合成例2で得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物20質量部、PPE系カップリング剤(信越化学工業社製、X-12-1288)2.5質量部、球状シリカ(SC2500SQ、アドマテックス製、平均粒子径0.5μm)100質量部、ウレタン系分散剤(BYK161、ビックケミー社製)1質量部、オクチル酸マンガン(「Oct-Mn」、日本化学産業社製、硬化促進剤)0.05質量部、TPIZ(2,4,5-トリフェニルイミダゾール、硬化促進剤)0.3質量部をメチルエチルケトンで溶解させて混合し、ワニスを得た。なお、上記の各配合量は、固形分量を示す。得られたワニスについて、製造性の評価を行った。結果は銅箔張積層板の製造性とあわせて表1に示した。
【0110】
さらに、得られたワニスからメチルエチルケトンを蒸発留去することで混合樹脂粉末を得た。混合樹脂粉末を長さ40mm×80mm、深さ0.8mmの型に充填し、両面に12μm銅箔(3EC-M3-VLP、三井金属鉱業(株)製)を配置し、圧力40kg/cm、温度210℃で120分間真空プレスを行い、長さ40mm×80mm、厚さ0.8mmの硬化物を得た。得られた硬化物を用いて電気特性(DkおよびDf)、ピール強度を測定した。また、混合樹脂粉末を用いて最低溶融粘度を測定した。これらの結果は、表1に示した。
【0111】
<実施例2>
実施例1において、PPE系カップリング剤の配合量を5質量部に変更した他は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
【0112】
<比較例1>
実施例1において、PPE系カップリング剤を配合しなかった他は、実施例1と同様の組成とした。充填材の凝集が見られ、均一なワニスを調製することができなかった。そのため、それ以降の評価は行わなかった。結果を表1に示した。
【0113】
<比較例2>
実施例1において、PPE系カップリング剤を等量のエポキシ系カップリング剤(信越シリコーン社製、KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2.5質量部)に変更した他は、同様の組成とした。実施例1と同様に各種評価・測定を行った。結果を表1に示した。
【0114】
<比較例3>
実施例2において、PPE系カップリング剤を等量のエポキシ系カップリング剤(信越シリコーン社製、KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、5質量部)に変更した他は、同様の組成とした。実施例2と同様に各種評価・測定を行った。結果を表1に示した。
【0115】
<比較例4>
実施例1において、上記合成例2で得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物およびスチレン-イソプレン-スチレンエラストマーを配合せず、代わりに、ニトリルゴム(N220S、JSR社製)10質量部を配合した他は、同様の組成とした。成分の分離が見られ、均一なワニスを調製することができなかった。そのため、それ以降の評価は行わなかった。結果を表1に示した。
【0116】
【表1】
【0117】
上記結果から明らかなとおり、本実施形態の樹脂組成物は、低誘電率(Dk)および低誘電正接(Df)を維持しつつ、高いピール強度および低溶融粘度を達成できた(実施例1、2)。さらに製造性にも優れていた。これに対し、化合物(A)を配合しない場合、ワニスが製造できないか、製造できても、誘電正接(Df)が高くなったり、ピール強度が小さくなったり、最低溶融粘度が高くなってしまった(比較例1~3)。また、化合物(A)を配合しても、芳香環構造を有する樹脂および芳香環構造を有するエラストマーのいずれも配合しない場合、ワニスが製造できなかった。