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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】変更可能なヒステリシスクラッチ
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/10 20060101AFI20230905BHJP
   H02K 49/06 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
H02K49/10 A
H02K49/06 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020540425
(86)(22)【出願日】2019-01-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2019051706
(87)【国際公開番号】W WO2019145397
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】102018101765.0
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】519287367
【氏名又は名称】シュタール クレーンシステムズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ゴルター、マルクス
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-513077(JP,A)
【文献】特開2010-183684(JP,A)
【文献】特開平07-111772(JP,A)
【文献】特開2013-048522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/00- 49/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置において特に回転エネルギーを伝達するためのヒステリシスクラッチ(10)であって、
第1保磁力(HC1)を有する複数の永久磁石(18)を備える、回転軸(Ax)を中心に回転可能な第1回転子(11)と、
前記第1保磁力(HC1)より小さい第2保磁力(HC2)を有し、摺動方向に順番に配置された、少なくとも2つの永久磁石(19)を備える、前記回転軸(Ax)を中心に回転可能な第2回転子(12)と、
前記第1回転子(11)と前記第2回転子(12)の間に形成された、回転軸方向に延在し断面が円錐台形又は円筒形の空隙(15)を有し、
前記第1回転子に配置される磁極片(17)は回転軸方向に見て断面が台形であり、
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は台形断面を有し、隣接する前記磁極片(17)の間に形成されるポケット内に幅の狭い側を半径方向外向きに、かつ幅の広い側を半径方向内向きに配置され、
前記第1回転子(11)は第1の数Mの永久磁石(18)を有し、前記第2回転子(12)は第2の数Sの永久磁石(19)を有し、前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)の数Mと前記第2回転子(12)の前記永久磁石(19)の数Sとは互いに素であり、
前記第1回転子の永久磁石の数Mと前記第2回転子の永久磁石の数Sが共通の整数の約数を持たず、
前記2つの数MとSの積を180で割ったものが数字2のべき乗、すなわち
M*S/180=2
であって、ここで、Nは自然数[N=0,1,2,3…]である、ヒステリシスクラッチ。
【請求項2】
第1及び第2回転子(11、12)の前記永久磁石(18、19)は、異なる硬磁性材料でできていることを特徴とする、請求項1に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項3】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、100kJ/mより大きい最大エネルギ―積(B-H)maxを有し、及び/又は前記第2回転子(12)の前記少なくとも1つの永久磁石(19)は、50kJ/m より大きい最大エネルギ―積(B-H)maxを有することを特徴とする、請求項1~請求項2のいずれか1項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項4】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、鉄、コバルト及びニッケルの群の内の少なくとも1つの元素と、それに加えてネオジム、サマリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、ガドリニウム及びイットリウムの群の内の少なくとも1つの希土類金属から成ることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項5】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、前記永久磁石(18)の磁化容易軸を規定する磁気異方性を備え、前記磁化容易軸は前記第1回転子(11)の前記回転軸(Ax)に関して円周方向に向いていることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項6】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、円周方向に分極し、隣接する永久磁石(18)はそれぞれ逆方向に分極することを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項7】
前記第2回転子(12)の前記少なくとも1つの永久磁石(19)は、200kA/mより大きい保磁力(HC)を有することを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項8】
前記永久磁石(19)の少なくとも1つはAlNiCo磁石であることを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項9】
前記第2回転子(12)の前記永久磁石(19)はそれぞれ、前記空隙(15)を半径方向外向きに制限する皿の内側を有する、円筒-皿-形状の形で構成されることを特徴とする、請求項8に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項10】
前記第2回転子(12)の前記永久磁石(19)の径方向厚さ(r)は、前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)により生成される磁束φによって、前記第2回転子(12)の各永久磁石(19)の長手方向断面(21)上の少なくとも1点において、その飽和磁束密度(Bsat)が達成される寸法であることを特徴とする、請求項9に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項11】
前記第2回転子(12)の各永久磁石(19)は、互いに隣接する前記第1回転子(11)の永久磁石(18)の間に配置される少なくとも2つの磁極片(17)に渡っていることを特徴とする、請求項7~請求項10のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項12】
前記第2回転子(12)の前記少なくとも1つの永久磁石(19)は積層ホルダ(24)内に保持されることを特徴とする、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項13】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、200kJ/m より大きい最大エネルギ―積(B-H)maxを有し、及び/又は前記第2回転子(12)の前記少なくとも1つの永久磁石(19)は、50kJ/m より大きい最大エネルギ―積(B-H)maxを有することを特徴とする、請求項1~請求項2のいずれか1項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項14】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、ネオジム-鉄-ボロン合金で構成される希土類磁石であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項15】
前記第1回転子(11)の前記永久磁石(18)は、Nd Fe 14 Bで構成される希土類磁石であることを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【請求項16】
前記第2回転子(12)の前記少なくとも1つの永久磁石(19)は、1000kA/mより大きい保磁力(HC)を有することを特徴とする、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のヒステリシスクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、クレーン、ホイスト、トラクション駆動装置、機械工具などの機械及び装置におけるトルク伝達のためのヒステリシスクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイストの駆動トレインにおけるヒステリシスクラッチ装置は、例えば米国特許第3,573,518号明細書から知られる。ヒステリシスクラッチは2つの回転子から成り、その1つはモータシャフトに連結されてそれで駆動される。ヒステリシスクラッチのもう一方の回転子は、ホイストの一部を構成する伝動装置の入力シャフトに連結される。モータに連結される回転子は、回転軸に関して同軸円状に配置されて円周方向に分極されたセラミック磁石を備える。磁石同士の間には磁極片が配置されて、回転子の軸面において変化する磁極を規定する。第2回転子は、同じ回転軸の周りに回転支持される、例えばAlNiCoなどの永久磁石材料のプレートによって形成される。
【0003】
永久磁石を担持し、モータシャフトに連結される回転子は、伝達入力シャフトに連結される回転子よりも明らかに容積が大きく、したがって、伝達器側の回転子よりも高い慣性モーメントを有する。さらに、モータ側の回転子は、その周囲に延在する調整バンドを介して部分的に導かれる、その磁石配置による比較的強い径方向の漏洩磁場を不可避的に含む。そのため一部の漏洩場に関して磁気的な短絡回路を形成する。径方向の漏洩場の残りの部分は、クラッチ筐体を通過してモータの回転中にそこに渦電流を生成する。これがモータを減速して出力損失となる。
【0004】
さらに、米国特許第4,876,471号明細書からヒステリシスクラッチが知られる。そこでは、2つの軸面側にヒステリシススプレートを備える第2回転子の実質的に円筒形の内部空間に、永久磁石から成る第1回転子が回転可能に配置される。これらはその容積の大部分が、AlNiCo粉末で充填された電気絶縁性の結合材料から成る。第2回転子は外周側が封鎖される。
【0005】
円盤形状の空隙を制限する2つの回転子を有するヒステリシスクラッチがさらに独国実用新案第202008003931(U1)号明細書から知られる。回転子の1つが磁石を担持し、もう1つの回転子がヒステリシス円盤として構成される。2つの回転子間の距離を調節することで、伝達トルクを調節できる。
【0006】
さらには、ヒステリシスクラッチを有するホイストが、独国特許出願第102014101655(A1)号明細書から知られる。そこではヒステリシスクラッチの第1と第2の回転子の間には、円筒形の空隙が画定される。
【0007】
従来技術で知られるヒステリシスクラッチはその計画寸法に関して個別に設計される。それぞれに提示される概念では、他の関係での使用に必要とされ得るような、異なる全体寸法を実現することは不可能であるか又は限られた形でしか可能でない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、荷重と使用範囲が大きく、異なるサイズでの構築を可能とするヒステリシスクラッチの概念を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1によるヒステリシスクラッチによって解決される。
【0010】
本発明のヒステリシスクラッチは2つの回転子から成り、それぞれが異なる保磁力の、複数の永久磁石を装備する。2つの回転子の間には円錐台形、又は好ましくは円筒形の空隙が画定される。そうすることで、これまでに使用されてきた構築原理、すなわちヒステリシス材料を備える第2回転子が、今日まで可能な範囲で持続的に連続して構成されたように、構築原理が残る。円周方向に連続的に配置された複数の個別の永久磁石で第2回転子を構築することにより、より小さいクラッチの構築と共に、直径の大きい、著しくトルクの強力なクラッチの構築が可能となる。
【0011】
第2回転子は、摺動方向すなわち円周方向に、少なくとも2つ、好ましくは複数の、直列に配置されて閉リングを形成する永久磁石を含む。そうすることで、他の場合には、特にAlNiCo磁石ではリング形状の永久磁石に対する限られた製造可能性のために、寸法に関する制約があるが、その制約が排除される。摺動方向に、第2回転子の永久磁石が不連続的に直列に繋がるために、任意寸法のヒステリシスクラッチを実現可能である。第2回転子の一連の永久磁石は、複数、例えば3、5、7、8又は他の数の個別の、好ましくは円筒-皿-形状(cylinder-dish-shaped)の磁石を備えることが望ましい。磁石同士の間には、軸方向及び径方向に延在する空隙又は隙間を構成可能である。空隙には磁石の保持手段を含むことができる。
【0012】
ヒステリシスクラッチは円周方向に閉じており、これが周辺環境、特にクラッチ筐体への漏洩磁場の影響を軽減する。そうして、高回転速度を可能とする。さらに、ヒステリシスクラッチのこの構造が、両方の回転子が小さい慣性モーメントを有するコンパクトな設計の基礎をなす。それにより、空隙において実質的に半径方向を向く磁場が得られ、特に、有害な漏洩磁場を抑制し同時に高い伝達可能トルクを得ることが達成される。本発明により、高い伝達可能トルクを提供し、同時に小寸法であって慣性モーメントの小さいクラッチが生成される。
【0013】
好ましくは両回転子の永久磁石は、保磁力は異なるが、硬磁性材料からなる。さらに、2つの回転子の永久磁石は、好ましくはそれぞれに使用される材料の最大エネルギー積によって区別される。第1回転子は好ましくは、最大エネルギー積が100kJ/mより大きく、好ましくは200kJ/mより大きくて最大で500kJ/m超迄に達することができる永久磁石を備え、第2回転子の少なくとも1つの永久磁石のエネルギー積は好ましくは50kJ/m超である。例えば、第1回転子の永久磁石は、例えばネオジム磁石などの希土類磁石であり、他方、第2回転子の永久磁石はAlNiCo磁石であってよい。第1回転子の永久磁石は動作時にその磁化を維持し、第2回転子の永久磁石は動作中にクラッチが摺動すると同時に連続的に再磁化される。
【0014】
第1回転子の永久磁石は、好ましくは回転子の回転軸に関して円周方向に分極され、それによって、互いに隣接する磁石はそれぞれが反対方向に分極される。このために永久磁石は、円周方向に磁化容易軸を有する明瞭な磁気異方性を有することが好ましい。次に、第1回転子の磁石同士の間にそれぞれの磁極片が配置され、隣接する磁石の円周方向逆向きの分極に起因する径方向の磁束が生成される。
【0015】
好ましくは第1回転子の永久磁石は、台形断面を有する、回転軸に平行に配向した角柱として構成され、これによって台形の狭い側が径方向外側に配置され、大きい側が径方向内側に配置される。こうして、第1回転子の永久磁石は好ましくは、回転子の回転軸と同軸の円上に配置される。
【0016】
好ましくは、第2回転子もまた、回転軸に対して同軸の円上に配置された複数の永久磁石を備える。これにより第2回転子の永久磁石は好ましくは円筒-皿状の形状に構成され、それぞれの皿の内側が、空隙を半径方向外向きに制限する。皿の内側は好ましくは仮想円筒の外表面上に配置され、その中央軸が第1回転子、及びしたがってクラッチの回転軸に一致する。
【0017】
第2回転子の永久磁石の半径方向厚さは、好ましくは、第1回転子の永久磁石によって生成される磁束が、第2回転子の永久磁石の少なくとも1つの位置に飽和磁束密度を生成するような寸法となっている。好ましくは第2回転子の永久磁石の半径方向厚さは、第1回転子の永久磁石により生成される磁束が、第2回転子の各永久磁石材料の長手断面において永久磁石材料に飽和磁束密度をもたらすような寸法となっている。そうすることで、同時に低重量又は低慣性モーメントの状態で、高い伝達可能なトルクが達成される。
【0018】
第2回転子の永久磁石の数は、第1回転子の永久磁石の数とは異なる。第1の永久磁石により画定される第1の磁極角度は、360°を第1の永久磁石の数で割って得られる。第2の永久磁石により画定される第2の磁極角度は、360°を第2の永久磁石の数で割って得られる。第1と第2の磁極角は好ましくは共通の整数の約数を持たない。こうして、2つの回転子の永久磁石の数が、摺動状態においても特に滑らかなトルク伝達が得られるように規定される。
【0019】
好ましくは、第1回転子の永久磁石の数Aと第2回転子の永久磁石の数Bとは互いに素である。このことは、a)第1回転子の永久磁石の数Aと第2回転子の永久磁石の数Bは互いに割ることができず、かつb)両方の数を同様に割ることのできる整数は存在しない、ということを意味する。可能な対としては、例えば30個の第1永久磁石と7個の第2永久磁石、20個の第1永久磁石と9個の第2永久磁石などである。
【0020】
第2回転子の永久磁石は回転軸に同軸のカラーを形成する。第2回転子の個々の永久磁石の間に均一な隙間が形成され、それが好ましくは軸方向に回転軸と平行に配向する。円周方向に測定すると、隙間は好ましくは空隙部で円周方向に測った磁極片のそれぞれの幅よりも狭い。好ましくは、第2回転子の永久磁石が積層ホルダに保持され、その個々の金属シートが永久磁石の嵌合支持を形成するために隙間に係合する突出部を備えることができる。個々の金属シートは、好ましくはアルミニウムなどのような非磁性又は反磁性であって、良好な熱伝導金属で形成されることが望ましい。あるいは、ホルダはプラスチック又は別の電気的及び磁気的な非伝導材料で作ることができる。個別の金属シートを積層した形状にホルダを構成することで、あるいは電気的、磁気的に非伝導の材料で構成することで、渦電流損が最小化され、第2回転子の永久磁石の電気伝導度によって規定される、傾斜を有する摺動特性曲線を得ることができる。
【0021】
第2回転子の永久磁石は好ましくは磁極片の軸方向寸法に一致する軸方向寸法を有する。そうすることで、第2回転子の円周上の各位置には、常に最大でも1つの永久磁石しか存在しない。ただしこれに代わり、2つ以上の群の永久磁石、すなわち回転軸と同軸の第1のカラー上に配置された第1の群と、回転軸と同軸の第2のカラー上に配置された第2の群で第2回転子を構成することも可能である。所望であれば、永久磁石の更なる群をそれに応じて提供することも可能である。2つ以上の群の永久磁石は、互いに軸方向に当接して配置することが可能である。2つの群の軸方向に隣接する永久磁石の間に、渦電流を低減する、電気的絶縁中間層を設けることも可能である。2つの群の軸方向に隣接する磁石は、互いに面一に配置することも、あるいは角度的に互いにずれて配置して、1つの群の1つの永久磁石が、他の群の周方向に隣接する磁石間の隙間を覆うようにすることも可能である。そのような構成によって、特に平坦なトルク伝達特性曲線を実現することが可能であり、そこでは伝達されるトルク量が摺動の増加に対して僅かしか増加しない。
【0022】
第1回転子の永久磁石の数Mと第2回転子の永久磁石の数Sが、特定の条件に従いつつ相互を考慮して定義されれば、戻りトルクがないか又は少なくとも戻りトルクの小さい、滑らかなトルク進行が達成される。2つの数MとSは、以下で示す2つの条件のうちの少なくとも1つに従って、好ましくは両方の条件を満たして、規定される。
【0023】
a)2つの数MとSが互いに素である。すなわち数MとSが共通の整数の約数を持たず、それにより戻りトルクの低いトルク進行が達成される。
【0024】
及び/又は
b)2つの数MとSの積を180で割ったものが2の整数乗(M*S/180=2[N=0,1,2,3...])である。それにより戻りトルクのないトルク進行が達成される。
【0025】
これらの条件は、少なくともMが160以下であり、かつSが45以下である場合に当てはまる。
【0026】
MとSの適切な対の例は、20と9、36と5、40と9、72と5、80と9である。
【0027】
図面には本発明の実施形態が示される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のヒステリシスクラッチを示す概略側面図である。
図2図1の線II-IIで切断した、図1のヒステリシスクラッチの断面図である。
図3】第2回転子の永久磁石の斜視図である。
図4】使用する磁石材料のB-H図である。
図5】第1の実施形態のヒステリシスクラッチの外側回転子の内側の展開図である。
図6】第2の実施形態のヒステリシスクラッチの外側回転子の内側の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、それぞれが駆動シャフト13と従動シャフト14に連結されるか又は連結可能な、第1回転子11と第2回転子12を備える、ヒステリシスクラッチ10を示す。2つの回転子11、12のその構造は、特に図1のII-IIの断面を少し図式化して示す、図2の断面図から明らかである。2つの回転子11、12の間には、リング形状の実質的に円筒空隙15が画定され、そこを回転子11、12の間に作用する磁束線が、実質的に放射状に走る。
【0030】
第1回転子11は、例えばアルミニウム、適切なプラスチック又は別の反磁性若しくは非磁性材料で構成される、非磁性ハブ16を備える。加えて、ハブ16には、それ以上示されていないが、シャフト13との連結手段を設けることができる。あるいは、シャフト13とのつなぎ目のないハブ16の一体構成も可能である。
【0031】
ハブから放射状に延在する偶数個の磁極片17が設けられる。図2では、必要な区別のために、その参照番号17にa~eの個別の文字インデックスが付されている。したがって、この後、文字インデックスなしで磁極片17を参照する場合は、全ての磁極片に対して単数形及び複数形で同様に適用される。磁極片17はその外周が、仮想円筒の表皮面に倣う形で構成される。その半径方向の内側は、ハブ16に固定される。そのために、摩擦及び/又は材料接着の連結を適宜用いた、適切な形状嵌合連結を使用可能である。各磁極片17は実質的に柱状の楔形をしており、各磁極片のほぼ台形をした面が軸方向を向いている。
【0032】
互いに隣接する磁極片17aと17b、17bと17cなどの間には、軸方向に延在しかつ断面が台形又は楔形である隙間が画定され、そこに永久磁石18が配置される。図2においては、その参照番号には必要に応じて区別するためにそれぞれの文字インデックスa~eが与えられる。したがって、この後、永久磁石18を文字インデックスなしで参照する場合は、すべての永久磁石に対して適用される。永久磁石18は、磁極片17の間の隙間に適合する台形断面を有し、これらの隙間に嵌め込まれる。永久磁石18は好ましくは、エネルギー積が100kJ/mより大、好ましくは200kJ/mより大で、1000kA/mよりはるかに大きい保磁力を有する、硬磁性磁石材料でできている。例えば第1回転子の永久磁石18は、鉄、コバルト及びニッケルの群の内の少なくとも1つの元素に、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、ガドリニウム及びイットリウムの群の内の少なくとも1つの希土類金属を加えた希土類磁石である。好ましくは第1磁石18の材料は、ネオジム-鉄-ボロン合金、特にはNdFe14Bである。磁石18の主たる磁気方位は好ましくは円周方向を向いており、したがって、空隙に隣接する幅の狭い面及びハブ16に向いた幅の広い面に対して実質的に平行である。磁化された永久磁石18は、平面状に構成されたその側面が磁極片17の側面に当接し、そこでクランプされ、適宜、接着剤により保持される。1つの磁極片17に対してそれぞれ当接する2つの磁石18は、従って逆方向に分極し、それぞれの磁極片の側面(平坦側)に同じ特性の磁極が当接する。このために、当接する磁石18はそれぞれ逆方向に分極する。その結果、隣接する磁極片17は、図2に模式的に示すように、その外周面にN極とS極を交互に形成する。
【0033】
第2回転子12は少なくとも1群の永久磁石19からなり、その参照番号19にはそれぞれa~eの文字インデックスが与えられて個別の参照を可能とする。この後、永久磁石19を文字インデックスなしで参照する場合は、すべての永久磁石に相応して適用される。群の一部を成す永久磁石19の数は、好ましくは3以上である。図5においては、回転子12の内面の展開部分を径方向外向きに見て示す。
【0034】
第2回転子12の永久磁石19はその内側で空隙15に隣接する。こうして、それぞれの永久磁石19の内側は円弧に倣って湾曲し、永久磁石19が最終的に円筒形の皿を形成する。永久磁石19は、好ましくは丸められた端部を除いて、半径方向に実質的に均一な厚さを備える。永久磁石19は、その端部を丸められてもよいし、あるいは平坦面で終端してもよい。図3において、永久磁石19は、すべての永久磁石19a~19iに関して例示的に、文字インデクスなしで、分かり易い図とするために少し誇張した曲率で示されている。
【0035】
永久磁石19a~19iは、軸方向と半径方向に延在する小さな間隙20を有する、回転軸Axと同軸のカラーを形成する。これらの間隙20は、好ましくは隣接する磁極片間の距離よりも大きくはなく、いずれにしても周方向に測った磁極片17の幅よりも狭い。回転軸Axは両方の回転子11、12の共通の回転軸であり、したがって、同時にヒステリシスクラッチ10の回転軸である。
【0036】
円周に沿って直列に配置された、偶数個の磁極片17のために、偶数のM個の第1磁石18が得られる(例えば20個の磁石18)。円周に沿って直列に配置された、S個の第2磁石19は、好ましくは、第1磁石18の数Mと第2磁石19の数Sが、異なる磁極角度となるように選択される。これは、第1回転子11の永久磁石18の数Mと、第2回転子12の永久磁石19の数Sが、360°を2つの数M、Sで割ったものが、異なる、好ましくは互いに素の磁極角α、βをもたらすようにそれぞれ定義される。磁極角α、βは共通の整数の約数を持たない。さらに、第2磁石19は好ましくは、図2の磁極片17a、17bと磁石19bから明らかなように、少なくとも2つの磁極片17を跨ぐような円周方向の長さを有する。
【0037】
互いに隣接する磁極片17aと17b、17bと17cなどの間には、軸方向に延在しかつ断面が台形又は楔形である隙間が画定され、そこに永久磁石18が配置される。図2においては、その参照番号には必要に応じて区別するためにそれぞれの文字インデックスa~eが与えられる。したがって、この後、永久磁石18を文字インデックスなしで参照する場合は、すべての永久磁石に対して適用される。永久磁石18は、磁極片17の間の隙間に適合する台形断面を有し、これらの隙間に嵌め込まれる。永久磁石18は好ましくは、エネルギー積が100kJ/mより大、好ましくは200kJ/mより大で、1000kA/mよりはるかに大きい保磁力を有する、硬磁性磁石材料でできている。例えば第1回転子の永久磁石18は、鉄、コバルト及びニッケルの群の内の少なくとも1つの元素に、ネオジム、サマリウム、プラセオジム、ジスプロシウム、テルビウム、ガドリニウム及びイットリウムの群の内の少なくとも1つの希土類金属を加えた希土類磁石である。好ましくは第1磁石18の材料は、ネオジム-鉄-ボロン合金、特にはNdFe14Bである。磁石18の主たる磁化容易軸は好ましくは円周方向を向いており、したがって、空隙に隣接する幅の狭い面及びハブ16に向いた幅の広い面に対して実質的に平行である。磁化された永久磁石18は、平面状に構成されたその側面が磁極片17の側面に当接し、そこでクランプされ、適宜、接着剤により保持される。1つの磁極片17に対してそれぞれ当接する2つの磁石18は、従って逆方向に分極し、それぞれの磁極片の側面(平坦側)に同じ特性の磁極が当接する。このために、当接する磁石18はそれぞれ逆方向に分極する。その結果、隣接する磁極片17は、図2に模式的に示すように、その外周面にN極とS極を交互に形成する。
【0038】
MとSの適切な対の例は、20と9、36と5、40と9、72と5、80と9である。
【0039】
磁極片17の軸方向の寸法は、好ましくは永久磁石19の軸方向長さに実質的に対応する。そうすることで、永久磁石19は磁極片17から発する全磁束φを受け取る。
【0040】
永久磁石19の半径方向の厚さは好ましくは長手方向と半径方向に同時に延在する磁石19を貫く仮想断面21が、永久磁石19の磁性材料が少なくとも1つの位置においてその飽和磁束密度BS2に達するような領域を含む寸法となっている。さらに、図4を参照すると、曲線22がネオジム-鉄-ボロン合金の第1永久磁石18のB-H特性曲線を示し、第2の曲線23がアルミニウム-ニッケル-コバルト合金から成る第2磁石19のB-H特性曲線を示す。第2磁石19の半径方向厚さは十分大きく、平面21の面積を飽和磁束密度で掛け算したものは、隣接する磁極片(例えば17aと17b)から第2磁石19を介して供給される磁束φに等しい磁束φをもたらす。
【0041】
明らかなように、第1磁石18は、第2磁石19の材料の保磁力HC2よりも大きい保磁力HC1である材料から成る。さらに、好ましくは第1磁石18の残留誘導Br1は第2磁石19の残留誘導Br2よりも大きい。同じことが飽和磁束密度BS1とBS2についても当てはまる。第1磁石18の全体積は第2磁石19の全体積以下であり得る。第1磁石の全体積は、すべての第1磁石18の全体積の合計である。第2磁石19の全体積は、すべての第2磁石19の全個別体積の合計である。第1永久磁石18の磁石材料は、第2永久磁石19の磁石材料のエネルギー積より好ましくは5倍から10倍大きいエネルギー積を備える。
【0042】
第2永久磁石19は、隙間20に広がる網を備えるホルダ24に配置される。好ましくはホルダ24は積層されている。すなわち同じ形の金属シートブランクを互いの上に積み重ねて、それをタイロッドなどのような、図示されていない手段によって締め付けて堅固な束とすることで形成される。このために、穴24a、24bが金属シートブランクに設けられて、それぞれのねじ又はタイロッドを受ける役目をする。代替又は追加として、個別のホルダ金属シートは互いに接着されてもよい。ホルダ24はさらに保護板25に接続され、保護板は次にシャフト14に接続されるか接続可能である。保護板25及びシャフト14は、互いに一体接続されてもよい。ホルダ24、保護板25及びシャフト14もまた、例えば射出成形の完全部品として形成されるなどして、相互に一体接続されてもよい。
【0043】
これまでに述べたヒステリシスクラッチ10は以下のように動作する。
【0044】
シャフト13、14のうちの1つが駆動トルクを受けて、そのトルクを回転子11、12間の磁気的効果によってそれぞれの相手のシャフトに伝達する。次に、シャフト13が入力シャフトとして回転駆動されると仮定する。そうして、回転する第1回転子11が、実施例によれば10個の磁極によって、第2の永久磁石19を貫通する回転磁場を生成する。これは、図3のスケッチ風のイラストから磁極片17a、17bに関して明らかである。N極として分極した磁極片17aから、磁束φが発生し、それが空隙15に隣接する湾曲した内側から永久磁石19に入り、そこで、実質的に直交する長手方向断面21を通過するために円周方向に向きを変え、その後今度は空隙15に面する内面から出て磁極片17bに達する。磁束φの強度と長手方向断面21の大きさとの間の相互作用により、この長手方向断面21の少なくとも1つの地点において、第2磁石19の磁性材料の飽和磁束密度BS2に達する。このとき、ヒステリシスクラッチの放射方向の近隣に存在する浮遊磁束を回避又は最小化するために、長手方向断面21は、平面全体ではないが、可能な限りいかなる地点においても飽和磁束密度BS2を超えないような寸法とされる。さらにこうして、伝達可能なトルクがその最大値に達する。
【0045】
ただし、長手方向断面21が非常に大きくて、その長手方向断面21のいずれの場所においても飽和磁束密度に到達しない場合には、図4に示す曲線23はもはや最大に設定されず、したがって、伝達可能なトルクもその最適値に到達しない。
【0046】
ヒステリシスクラッチ10の動作の説明を、シャフト14にはトルクがかかっておらず、回転子13が回転駆動されると最初に仮定すると、2つの回転子11、12は同期して運動する。これは、滑りの限界未満のトルクのみがシャフト14から取り込まれる限りはそうである。この滑りの限界は、永久磁石18によって供給される磁束φにより、永久磁石19の内側に磁極が誘導されることで生成される。その移動は所定の最小の力で初めて開始可能である。ヒステリシスクラッチのトルク荷重が増加すると、まず2つの回転子11、12の間の角度回転が起こり、その過程において、第2永久磁石19の誘導されたS極と誘導されたN極が、磁極片17a、17bのN極とS極に関して少し移動する。第2磁石19の誘導磁極は、飽和磁束密度BS2に至るまでの可能な限りは、永久磁石19の磁石材料の磁化に基づく。
【0047】
トルクの増大とともに増加もする磁極の移動のために、第2永久磁石19の磁石材料が保磁力HC2に達して超えるまではトルクは最初滑りなしで伝達される。この場合、誘導された磁極が第2磁石19のカラー上を円周方向に移動開始する。これによりシャフト13とシャフト14の間で伝達されるトルクはその限界に達しそれ以降第2磁石19内に誘導される渦電流によってのみ増大する。
【0048】
ヒステリシスクラッチ10においては同様にシャフト14が入力シャフトとして作用することができ、そこから生じるトルクをシャフト13に伝達可能である。トルクの流れは双方向性である。
【0049】
回転子12は、上記のヒステリシスクラッチ10の実施形態において第2永久磁石19の1つの群を含み、回転軸Axに同軸的に配向するカラーを形成し、かつ第1回転子11又はその磁極片17を軸方向に完全に覆う。第2回転子12は、図6に示すように2つ以上の群の第2永久磁石19を含むこともできる。永久磁石1-19の第1群#1、永久磁石2-19の第2群#2及び永久磁石3-19の第3群#3が図6に示されている。第1群#1の永久磁石1-19(1-19a~1-19dで表示)が、回転軸Axの同軸に配向する第1カラーを形成する。したがって、第2群#2の永久磁石2-19が回転軸Axに同軸の第2のカラーを形成し、第3群#3の永久磁石3-19が回転軸Axに同軸の第3のカラーを形成する。3つの群#1、#2、#3の永久磁石19は、図6に示すように互いに対して角度的にずれることが可能であり、それにより、互いに軸方向に隣接する永久磁石19が、円周方向にそれぞれ互いに隣接する永久磁石19の間に形成される隙間をそれぞれ覆う。第1群#1の永久磁石1-19と第2群#2の永久磁石2-19の間に2次元絶縁体26を配置して、好ましくは永久磁石1-19を永久磁石2-19から絶縁することが可能である。同様に、絶縁体27は第2群#2の永久磁石2-19と第3群#3の永久磁石3-19の間に配置可能である。
【0050】
この配置により、永久磁石19に生じる渦電流が低減され、それによって2つの回転子11と12との間の回転速度差への伝達トルクの依存性が低減される。トルク-スリップ特性曲線はこうして特にフラットである。さらに、この手段により戻りトルクを形成する傾向が、発生するとしても低減可能である。永久磁石19の数を3つの群#1、#2、#3において、同数又は異なる数に規定することが可能である。さらに、3つの群のそれぞれの永久磁石19の数は、それが好適ではあるが、磁極片17の数と互いに素であることは必ずしも必要としない。また、2つの回転子11、12の磁極角度α、βは、これも好適ではあるが必ずしも互いに素である必要はない。
【0051】
本発明のヒステリシスクラッチ10において、第1回転子11には円周方向に逆向きに対をなして分極する磁石18が設けられ、それらの間に半径方向に磁束を再配向させる磁極片17が設けられる。第2回転子12は、回転軸Axと同軸の円上にあって、円周方向に延在する、一連の第2永久磁石19を備える。第1磁石18の数と、第2磁石19の数は好ましくは、戻りトルクなしの滑らかな、又は少なくとも戻りトルクの小さい、トルク進行が達成される。この目的のために、第1回転子の永久磁石の数Mと第2回転子の永久磁石の数Sは、特定の条件を遵守しつつ、相互を考慮して規定される。このために、2つの数MとSは、以下の条件のうちの少なくとも1つによって規定可能である。2つの数MとSは互いに素である、及び/又は2つの数MとSの積を180で割ったものが、数字2の整数乗、M*S/180=2[N=0,1,2,3…])、である。
【符号の説明】
【0052】
10 ヒステリシスクラッチ
11 第1回転子
12 第2回転子
13 第1シャフト
14 第2シャフト
15 空隙
16 ハブ
17 磁極片
18 第1回転子の永久磁石
19 第2回転子の永久磁石
A 回転軸
20 隙間
21 長手方向断面
22 第1永久磁石のB-H特性曲線
23 第2永久磁石のB-H特性曲線
24 ホルダ
24Aa 取り付け開口
25 保護板
26 絶縁体
27 絶縁体
Ax 回転軸
A 第1永久磁石の数
B 第2永久磁石の数
図1
図2
図3
図4
図5
図6