(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】複合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20230905BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20230905BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20230905BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20230905BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/38
C08K5/54
B29C43/34
C09K5/14 E
C01B21/064 M
(21)【出願番号】P 2021046356
(22)【出願日】2021-03-19
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョンハン
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】大平 喜恵
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/112048(WO,A1)
【文献】特開2014-056974(JP,A)
【文献】特開2016-017086(JP,A)
【文献】特表2002-507229(JP,A)
【文献】特開2015-096587(JP,A)
【文献】特開2006-135201(JP,A)
【文献】特開2000-150283(JP,A)
【文献】特開平03-216298(JP,A)
【文献】特開平04-053716(JP,A)
【文献】特表2019-519460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 43/34
C09K 5/14
C01B 21/064
C08J 5/00-5/22
H01L 23/34-23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導粒子とバインダの混合物
を加圧して複合材を得る成形工程を備える複合材の製造方法であって、
該熱伝導粒子は、六方晶系の窒化ホウ素からなるBN粒子を含み、
該BN粒子は、
鱗片状で、レーザ回折法により求まる粒度分布から定まる50%径(D50)である粒径
が1~100μmで
、顕微鏡観察像の視野内で測定したBN粒子の厚さの算術平均値として求まる厚さ
が0.1~5μmであると共に
、該厚さに対する該粒径の比率であるアスペクト比が10~300であ
り、
該BN粒子は、該混合物全体に対して70~98体積%含まれる複合材の製造方法。
【請求項2】
前記BN粒子は、嵩密度が0.1~0.6g/cm
3である請求項1に記載の複合材の製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、前記熱伝導粒子と前記バインダとの親和性を高めるカップリング剤を含む請求項1
または2に記載の複合材の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程は、前記混合物を5~500MPaで圧縮する圧縮工程を備える請求項1~
3のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、前記圧縮工程前に、該圧縮工程の圧縮力よりも小さい圧力を前記混合物へ少なくとも一回加える予圧工程をさらに備える請求項
4に記載の複合材の製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、前記混合物を加振する加振工程をさらに備える請求項1~
5のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項7】
前記混合物を加圧して得られた成形体を該加圧方向に沿って切り出してシートを得る請求項1~6のいずれかに記載の複合材の製造方法。
【請求項8】
前記複合材は、前記BN粒子の配向度
が50%以上であ
ると共に該BN粒子の接触率
が70%以上である
請求項1~7のいずれかに記載の複合材
の製造方法。
【請求項9】
前記複合材
は、その全体に対する空隙率
が15%以下である請求項
1~8
のいずれかに記載の複合材
の製造方法。
【請求項10】
前記複合材
は、熱伝導率が20~60W/mKである請求項
1~9
のいずれかに記載の複合材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素を用いた複合材の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器(半導体モジュール等)の高密度化や高性能化等に伴う構造変化により、従来と異なる高放熱性の電気絶縁材料が用いられるようになった。例えば、高熱伝導なセラミックス(AlN等)の基板に替えて、樹脂(マトリックス)中に高熱伝導な絶縁材(フィラー)を分散させた複合材料が、絶縁シート等に用いられる。このような(有機/無機)複合材料は、成形性、加工性、異種材との接着性等に優れる共に、比較的安価でもある。
【0003】
ところで、複合材料用のフィラーには、種々のセラミックス粒子(繊維を含む)が用いられる。例えば、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)等の粒子が利用される。しかし、シリカやアルミナは熱伝導率が小さい。また窒化アルミニウムは水(H2O)と反応してアンモニア(NH3)を発生するため、耐湿性が低く長期信頼性に劣る。そこで、熱伝導性、耐熱性、電気絶縁性等に優れ、化学的にも安定な窒化ホウ素(BN)が複合材料のフィラーとして用いられるようになった。
【0004】
窒化ホウ素には、一般的に、六方晶系の常圧相(適宜「h-BN」ともいう。)と立方晶系の高圧相(適宜「c-BN」ともいう。)がある。通常、六方晶系窒化ホウ素(h-BN)がフィラーとして用いられる。
【0005】
h-BNは、黒鉛と類似した六角網目層が積層された鱗片状からなり、面方向(a軸方向)と厚さ方向(c軸方向)で熱伝導率が大きく異なる熱伝導異方性を有する。そこで、h-BN粒子を配向させて、特定方向(例えば熱源側から冷却源側へ向かう方向)の熱伝導率(放熱性等)を高めた複合材料が提案されている。これに関連した記載が、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-255055
【文献】特開2018-159062
【文献】特開2020-45456
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3はいずれも、粉砕等により微細化したh-BN粒子を用いて、その充填量を抑制しつつ、複合材料の熱伝導率の向上を図っている。しかし、それらの熱伝導率は必ずしも十分ではなかった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、高熱伝導な新たな複合材等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、六方晶系の窒化ホウ素からなる粒子(単に「BN粒子」という。)の形態制御により、BN粒子を含む複合材の熱伝導率を顕著に高めることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《複合材の製造方法》
本発明は、熱伝導粒子とバインダの混合物から複合材を得る成形工程を備える複合材の製造方法であって、該熱伝導粒子は、六方晶系の窒化ホウ素からなるBN粒子を含み、該BN粒子は、粒径:1~100μmで厚さ:0.1~5μmであると共に該厚さに対する該粒径の比率であるアスペクト比が10~300である複合材の製造方法である。
【0011】
本発明の製造方法によれば、熱伝導性に優れる複合材を得ることができる。この理由は定かではないが次のように考えられる。本発明に係るBN粒子は、特定の形態(粒径と厚さ)を有することにより、複合材中において、高熱伝導率な方向(面方向、a軸方向、(100)方向)へ配向し易くなり、また隣接する粒子間で接触し易くなった。これにより、熱伝導粒子(BN粒子)間における熱伝導パスが多数形成されるようになり、本発明に係る複合材は高い熱伝導率を発揮するようになったと考えられる。
【0012】
《複合材》
本発明は、複合材としても把握される。例えば、本発明は、熱伝導粒子がバインダで結着させてなる複合材であって、該熱伝導粒子は、六方晶系の窒化ホウ素からなるBN粒子を含み、該BN粒子の配向度は50%以上であり、該BN粒子の接触率は70%以上である複合材でもよい。本発明の複合材は、例えば、その全体に対する空隙率が15%以下であるとよい。
【0013】
《その他》
(1)本明細書でいう「~材」は、「材料」または「部材」を意味する。複合材は、形状が不定な複合材料(素材等)でもよいし、所望形状に成形、加工等された複合部材でもよい。
【0014】
(2)本明細書でいう「x~y」は、特に断らない限り、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~yμm」は、特に断らない限り、xμm~yμmを意味する。他の単位系(MPa、W/mK、Ωm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】試料の製作に用いた各BN粉末の粒度分布図である。
【
図2】試料3と試料C4の複合材の断面を観察したSEM像である。
【
図3A】配向度と熱伝導率の関係を示す散布図である。
【
図3B】空隙率と熱伝導率の関係を示す散布図である。
【
図4A】BN粒子の含有率と熱伝導率の関係を示す散布図である。
【
図4B】BN粒子の含有率と空隙率の関係を示す散布図である。
【
図5A】各試料の試験片に関するX線回折測定を示す模式図である。
【
図5B】SEM像に基づく接触率の算出方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、複合材(材料、部材等)のみならず、その製造方法等にも適宜該当する。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《熱伝導粒子》
熱伝導粒子には、少なくとも六方晶構造の窒化ホウ素(h-BN)の粒子(BN粒子)が含まれる。以下、このBN粒子について詳しく説明する。なお、熱伝導粒子として、立方晶構造の窒化ホウ素(c-BN)の粒子や他種粒子(セラミックス粒子、金属粒子等)が含まれてもよい。
【0018】
BN粒子は、以下のような特定の形態(例えば、粒径、厚さ、アスペクト比等)を有するとよい。
【0019】
(1)粒径
BN粒子の粒径は、例えば、1~100μm、10~60μm、14~40μmさらには18~30μmである。粒径が過小でも過大でも、複合材中におけるBN粒子の配向度が低下し得る。
【0020】
本明細書でいうBN粒子の「粒径」は、特に断らない限り、BN粒子からなる粉末(単に「BN粉末」という。)の粒度分布から定まる50%径(D50:メディアン径)とする。粒度分布はレーザ回折法により求められる。なお、本明細書でいう「粒径」は、粒子の大きさを代表する指標値であり、粒子の形状(略球状、略円板状、略鱗片状、略繊維状、略長球状、略球状等)とは関係ない。
【0021】
(2)厚さ
BN粒子の厚さは、例えば、0.1~5μm、0.3~3μm、0.5~2.5μmさらには1~2μmである。薄くなるほど、BN粒子が一定方向に配列しやすくなる。厚さが過大になると、BN粒子は変形し難くなり、複合材中において、空隙率の増加等が生じ得る。なお、BN粒子は、六角格子構造の網目状をしたh-BN単層でも、それらの積層体または集合体(凝集体、二次粒子)でもよく、必ずしも鱗片状でなくてもよい。
【0022】
本明細書でいうBN粒子の「厚さ」は、顕微鏡によるBN粉末の観察像に基づいて、所定の視野内から任意に抽出した複数のBN粒子について測定した厚さの算術平均値とする。
【0023】
(3)アスペクト比
BN粒子のアスペクト比は、例えば、10~300、20~100さらには30~75である。アスペクト比が過小なBN粒子は、空隙率の増加や接触率の低下を招く。なお、本明細書でいうアスペクト比(粒径/厚さ)は、上述した方法で定まるBN粒子の「厚さ」と「粒径」に基づいて算出される。
【0024】
(4)嵩密度
BN粒子の嵩密度は、例えば、0.1~0.6g/cm3、0.15~0.5g/cm3さらには0.2~0.4g/cm3である。嵩密度が過大では、BN粒子の比表面積(単位質量あたりの表面積)の減少、BN粒子間へのバインダ(樹脂)の介入性(侵入性)の低下等により、複合材が脆くなり得る。なお、本明細書でいうBN粒子の嵩密度は、100mlのメスシリンダーに匙で掬い取ったBN粉末の質量を測定して求まる。BN粉末は、体積に影響を与える動作(タッピング等)を行わずにメスシリンダーへ投入した。
【0025】
《バインダ》
バインダ(マトリックス)は、複合材の仕様に応じて適宜選択される。例えば、樹脂やゴム・エラストマー等の有機材料をバインダに用いると、複合材の絶縁性、熱伝導性、成形性等が確保され易い。
【0026】
樹脂は、熱硬化性樹脂でも、熱可塑性樹脂でもよい。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等である。ゴムは、例えば、エチレン- プロピレン- ジエンゴム(EPDM) 、ブチルゴム等である。本明細書では、特に断らない限り、ゴム・エラストマーを含めて、単に「樹脂」という。なお、複合材の絶縁性が不要なら、金属材料(例えば低融点金属等)をバインダとしてもよい。
【0027】
《複合材》
複合材は、熱伝導粒子(特にBN粒子)がバインダで結着されてなる。複合材を特定する指標として、例えば、配向度、接触率、空隙率、含有率、熱伝導率等がある。
【0028】
(1)配向度
配向度は、複合材中におけるBN粒子の向きを指標する。配向度が大きいほど、配向方向の熱伝導率が向上し得る。配向度は、例えば、50~100%、55~95%、60~90%、70~85%である。
【0029】
配向度は、複合材のX線回折測定(
図5A参照)から得られるプロファイル(XRDパターン)に基づくピーク強度比から特定される。具体的にいうと、h-BNについて、(100)面のピーク強度:I(100)、(002)面のピーク強度:I(002)として、次式から配向度が定まる。
配向度(%)=100×I(100)/{I(100)+I(002)}
【0030】
(2)接触率
接触率は、複合材中における熱伝導粒子(主にBN粒子)の接触割合(緻密具合)を指標する。接触率も大きいほど、複合材の熱伝導率が向上し得る。接触率は、例えば、70~99%、75~97%さらには80~95%である。
【0031】
接触率は、複合材の断面を顕微鏡で観察した断面像を画像処理して、次のように定量的に求めた(
図5B参照)。先ず、断面像を二値化処理した二値画像を得る。二値画像から任意に抽出した視野(例えば130μm×70μm)に解析線を引く。その解析線に沿って、接触部(例えばBN粒子同士の接触部)と非接触部(例えばBN粒子と樹脂部または空隙部との接触部)を判定する。それぞれの数(解析線に沿ってカウントされる画素数)から、次式により接触率が定まる。
接触率(%)=100×(接触部の数)/{(接触部の数)+(非接触部の数)}
【0032】
このような操作を、二値画像から任意に抽出した3視野について、視野毎に引いた5本の解析線について行う。つまり、合計15本の解析線それぞれについて、上述した接触率を算出する。これらの算術平均値を本発明でいう「接触率」とする。
【0033】
(3)空隙率
空隙率は、複合材中で熱伝導粒子およびバインダが無い領域の割合を指標する。空隙率は小さいほど、複合材の熱伝導率が向上し得る。空隙率は、例えば、0~15%さらには5~10%である。
【0034】
空隙率は、アルキメデス法により求めた複合材の見掛密度(D)と、複合材の原料(BN粉末、バインダ等)の配合量と真密度から算出した理論密度(Dth)とから、下式により算出される。
空隙率(%)=100×{1-(D/Dth)}
【0035】
(4)含有率
含有率は、複合材全体に対するBN粒子の体積割合である。BN粒子の含有率は多いほど、複合材の熱伝導率が向上し得る。含有率は、例えば、50~98体積%、65~97体積%、70~96体積%さらには80~94体積%である。
【0036】
含有率は、複合材の製造時なら、原料(例えば熱伝導粒子とバインダ)の真密度と配合量から特定される。製造後の複合材なら、上述した複合材の断面像を画像処理して求まる熱伝導粒子の面積割合から算出・特定されてもよい。
【0037】
(5)熱伝導率
複合材の熱伝導率は、例えば、20~60W/mKさらには35~50W/mKとなり得る。なお、特に断らない限り、熱伝導率は、BN粒子の主たる配向方向(a軸方向/
図5A参照)に沿って測定される。
【0038】
《製造方法》
(1)成形工程
熱伝導粒子(フィラー)とバインダ(マトリックス)の混合物を成形することにより、それらが結着(分散)した複合材が得られる。
【0039】
成形工程は、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、トランスファー成形等によりなされる。混合物全体に対する熱伝導粒子(特にBN粒子)の含有率や複合材の仕様(特性、形状等)に応じて、適切な方法が選択されるとよい。BN粒子の含有率を大きくした複合材は、例えば、圧縮成形により製造されるとよい。
【0040】
圧縮成形には、一軸圧縮成形、冷間等方加圧成形(CIP:Cold Isostatic Press)等がある。一軸圧縮成形は、成形型のキャビティへ充填した混合物へ、一軸方向の圧縮力を印加してなされる。これにより、鱗片状(板状)のBN粒子を、その一軸方向に対して略直交する方向に配向(つまり、その一軸方向にc軸が沿うように配向)させた複合材が効率的に得られる。
【0041】
混合物を圧縮して複合材にする圧縮工程は、例えば、圧縮力(成形圧力)が5~100MPa、10~50MPaさらには20~35MPaである。圧縮力が過小では、緻密(高熱伝導率)な複合材が得られず、圧縮力が過大では 生産性の低下やコストの増加を招き得る。
【0042】
混合物(混練物、コンパウンド等)を成形型(金型)のキャビティへ充填する際、または圧縮工程中に、混合物を加振してもよい(加振工程)。これにより、空隙率の小さい緻密な複合材が得られ易くなる。なお、混合物の加振は、成形型に取り付けたバイブレータ、超音波振動装置等により行える。
【0043】
また、圧縮工程前(混合物を複合材にする本成形工程前)に、圧縮工程の圧縮力よりも小さい圧力を混合物へ加える予圧工程を行ってもよい。予圧工程により、空隙率の小さい緻密な複合材が得られ易くなる。予圧工程は、一回だけ行っても、複数回行ってもよい。予圧工程の圧縮力は、例えば、0.1~3MPaさらには0.5~1MPaである。予圧工程は、混合物を充填した成形型のキャビティ内でなされると、本来の圧縮工程へ移行し易くて効率的である。なお、混合物のキャビティへの充填を複数回に分けて、その都度、予圧工程を行ってもよい。
【0044】
加振工程と予圧工程の両方を行う場合、各工程は逐次なされてもよいし、併行(同時)になされてもよい。各工程を逐次行う場合、その順序は問わないが、例えば、加振工程後に予圧工程がなされるとよい。
【0045】
(2)カップリング剤
混合物は、熱伝導粒子とバインダとの親和性を高めるカップリング剤を含んでもよい。これにより、バインダと熱伝導粒子の接触性(濡れ性)が改善され、熱伝導粒子間へバインダが侵入し易くなり、緻密で高熱伝導率な複合材が得られる。
【0046】
混合物中のカップリング剤は、熱伝導粒子の表面処理(カップリング処理、疎水化処理等)により導入されたものでも、熱伝導粒子とバインダの混合(混練)時に添加されたものでもよい。バインダが有機材料(樹脂、ゴム・エラストマー等)なら、例えば、バインダ側の官能基(アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基、アクリル基等)に対応する反応基を備えた種々のシランカップリング剤を用いるとよい。
【0047】
代表的なシランカップリング剤として、例えば、ヘキサメチルジシラザン(HMDS:C6H19NSi2)がある。なお、シランカップリング剤は、通常、無機材料である熱伝導粒子(BN粒子等)側にある官能基(ヒドロキシキ基、メトキシ基、エトキシ基等)にも対応する反応基(シリル基等)を備える。
【0048】
カップリング剤の含有量(配合量・添加量)は、例えば、未処理の熱伝導粒子全体100質量部に対して0.1~3質量部、0.5~2.5質量部さらには1~2質量部である。過少では効果が乏しく、過多にしても効果の向上は少ない。
【0049】
(3)補足
複合材は、その特性向上に寄与する補助粒子を含んでもよい。熱伝導粒子は、BN粒子のみでもよいし、材質、特性、粒径等が異なる複数種の粒子が混在したものでもよい。例えば、BN粒子以外に、c-BN粒子、炭素粒子(ナノカーボン粒子、黒鉛粒子、ダイヤモンド粒子等)、磁性粒子等が、複合材に含まれてもよい。
【0050】
バインダが熱硬化性樹脂からなる場合、成形後に、熱硬化処理(キュア処理)がなされるとよい。複合材は、最終製品形状またはそれに近い形状のものでもよいし、後加工される素材や中間材でもよい。
【0051】
所望形態のBN粒子は、例えば、市販のBN粉末を分級(振り分け等)して得られる。BN粉末は、ホウ酸メラミン(C3H6N6・2H3BO3)の熱分解により調製されてもよい。ちなみに、ホウ酸メラミンは、例えば、ホウ酸とメラミンの加温水溶液を冷却(放冷)して得られる。
【0052】
《用途》
熱伝導性や絶縁性に優れる複合材は、例えば、電子機器等の基板、ケース、放熱部材等、またはそれらの一部に用いられるとよい。複合材の熱伝導率や比抵抗(電気抵抗率)は、熱伝導粒子の含有率やバインダの種類により調整され得る。
【実施例】
【0053】
諸元の異なるBN粉末を用いて複数の試料(複合材)を製作し、各試料の特性を評価した。以下、このような実施例を示しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0054】
《BN粉末》
(1)諸元
表1と
図1A、
図1B(両者を併せて「
図1」という。)に示した4種類(呼称:A~D)のBN粉末を用意した。表1に示した呼称に応じて、各BN粉末をA粉、B粉、C粉およびD粉という。
【0055】
図1Aは、各粉末の粒度分布である。その粒度分布から定まる各粉末の50%径(D50)を表1に「粒径」として示した。粒度分布の測定は、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社セイシン企業製LMS-2000E)を用いて室温下(約20℃)で行った。
【0056】
図1Bは、各粉末を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製S-4800)で観察して得たSEM像である。そのSEM像に基づいて、視野(例えば250μm×200μm)内にある5~10個のBN粒子の厚さを測定した。その算術平均値を表1に「厚さ」として示した。
【0057】
表1に示した各粉末のアスペクト比(粒径/厚さ)は、表1に示した「粒径」と「厚さ」から算出した。
【0058】
表1に示した嵩密度は、既述した方法により、BN粉末:100mlの質量を測定して求めた。
【0059】
(2)調製
各粉末は次のように調製した。
A粉は、市販のh-BN粉末(モメンティブ社製PT110)を微粒化装置(株式会社スギノマシン製スターバーストHJP-25008)により粉砕加工して得た。B粉にはデンカ株式会社製窒化ホウ素粉末HGP、C粉にはデンカ株式会社製窒化ホウ素粉末SGP、D粉にはモメンティブ社製PT110をそれぞれ用いた。
【0060】
(3)表面処理
試料4では、ヘキサメチルジシラザン(HMDS/信越化学工業株式会社製SZ-31)を用いて疎水化処理(シランカップリング処理)したA粉を用いた。HMDSは、BN粉末100質量部に対して5質量部加えた。疎水化処理は、具体的にいうと、BN粉末とトルエンとHMDSを攪拌混合(60℃×5hr)した後、常温真空乾燥炉で12hr乾燥させた。こうして疎水化したBN粒子からなる粉末を試料4の製作に用いた。
【0061】
《試料の製作》
各BN粉末を用いて、表1に示す複数の試料(複合材)を製作した。バインダ(マトリックス)には、一液加熱硬化型エポキシ樹脂(セメダイン株式会社製EP160/以降、単に「樹脂」という。)を用いた。表1に示したBN粒子の含有率は、BN粉末とバインダの合計に対する体積割合である。その含有率は、BN粉末とバインダの配合量と真密度から算出して求めた。
【0062】
具体的には、次のようにして複合材を製作した。各BN粉末と樹脂をプラスチック製容器内で10分間混練した。真空乾燥させた混練物を解砕して、BN粒子の表面に樹脂が付着したコンパウンド(粒状の混合物)を得た。
【0063】
コンパウンドを3等分して、金型(成形型)へ3回に分けて充填した(充填工程)。各充填は、バイブレータ(CH25A(エクセン株式会社社製)を150Hzで振動させて、金型を加振しつつ行った(加振工程)。また、1回充填する毎に、キャビティ内のコンパウンドを軽く加圧(3~5MPa程度)して、その上面を平坦にした(予圧工程)。
【0064】
このような予成形後に、コンパウンド全体を一軸方向に加圧する一軸圧縮成形(成形工程/圧縮工程)を行った。その成形圧力は表1にまとめて示した。なお、コンパウンドの充填および成形は、金型を130℃に加熱して行った。
【0065】
こうして円柱状の成形体(φ14mm×20mm)を得た。その成形体を大気雰囲気中で加熱(120℃×30分)して樹脂(バインダ)を熱硬化させた。得られた円柱状の複合材から切り出した正方形状のシート(12mm×12mm×2mm)を試験片に供した。切り出しはビューラー社製IsoMet1000を用いて、加圧方向(一軸方向)に沿って行った。つまり、その加圧方向に対して、シート面(12mm×12mm)の方向が平行で、シート厚(1mm)の方向が垂直となるように切り出した。
【0066】
《観察・測定》
(1)XRD/配向度
図5Aに示すようにして、各試料の表面をX線回折解析(XRD/Cu-Kα/株式会社リガク製UltraV)した。こうして、各試料のXRD(2θ=20°~60°)を得た。
【0067】
各試料のBN粒子のa軸方向の配向度を、XRDに基づいて既述した方法により算出した。得られた結果を表1に併せて示した。
【0068】
(2)SEM/接触率
各試料の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。試料3と試料C4の断面のSEM像を
図2に例示した。
図2中の配向方向は、上述した加圧方向に直交する方向(試験片の厚さ方向)である。
【0069】
各試料の接触率をSEM像に基づいて既述した方法により算出した(
図5B参照)。画像処理は、フリーソフトウェア(Image J)を用いて行った。得られた結果を表1に併せて示した。
【0070】
(3)密度/空隙率
各試料の見掛の密度(D)をアルキメデス法により求めた。得られた結果を表1に併せて示した。
【0071】
また、各試料の見掛の密度(D)と理論密度(Dth)から、次式により空隙率を求めた。理論密度(Dth)は、各試料の製作に用いた原料(BN粉末、バインダ等)の配合量と真密度から算出した。算出した各空隙率を表1に併せて示した。
空隙率(%)=100×{1-(D/Dth)}
【0072】
(4)熱伝導率
各試料の熱伝導率(λ)をナノフラッシュ法により求めた。具体的にいうと、ナノフラッシュ法(測定装置:NETZSCH製LFA447)で測定した熱拡散率(α)と、示差走査熱量計(DSC)で求めた比熱(Cp)と、アルキメデス法で求めた密度(D)とから、λ=α・Cp・Dとして熱伝導率を算出した。
【0073】
熱拡散率は、BN粒子の配向方向(a軸方向/
図2、
図5A参照)について測定した。こうして得られた各試料の熱伝導率(試験片の厚さ方向)を表1に併せて示した。
【0074】
表1に示した各試料の特性に基づいて、配向度と熱伝導率の関係を
図3Aに、空隙率と熱伝導率の関係を
図3Bに、BN粒子の含有率と熱伝導率の関係を
図4Aに、BN粒子の含有率と空隙率の関係を
図4Bにそれぞれ示した。なお、
図3Aと
図3Bを併せて「
図3」、
図4Aと
図4Bを併せて「
図4」という。
【0075】
《評価》
表1、
図2、
図3および
図4から、次のことがわかった。粒径、厚さまたはアスペクト比が所定の範囲にあるBN粒子からなるA粉を用いた試料1~4はいずれも、試料C1~C5よりも、高配向度および高接触率であり、非常に高い熱伝導率を示した。特に、カップリング剤で表面処理したBN粒子を用いた試料4は、大きな熱伝導率は発揮した。
【0076】
また、試料2~4はいずれも、BN粒子の含有率が多いにも拘わらず、空隙率が10%以下となり、高い熱伝導率を示すこともわかった。さらに、いずれの試料も、比抵抗が1014Ω・m程度あることは確認している。こうして本発明によれば、高熱伝導率で絶縁性に優れる複合材が提供されることが確認された。
【0077】