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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ボールねじ機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20230905BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021090422
(22)【出願日】2021-05-28
(65)【公開番号】P2022182715
(43)【公開日】2022-12-08
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 修二
(72)【発明者】
【氏名】篠田 治
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020624(JP,A)
【文献】特開2018-008693(JP,A)
【文献】特開2019-210997(JP,A)
【文献】特開2006-097832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に形成された雄ねじ溝を有するねじ軸と、
前記ねじ軸を包囲するように配置されたナットであって、内周面に形成された雌ねじ溝と、径方向に貫通する孔と、を有するナットと、
対向する前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝と間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ナットの前記孔内に配置され、前記転走路の一端から他端へとボールを戻す循環路を有するコマと、
前記ナットの外周面に配置される環状部材と、
を備えるボールねじ機構であって、
前記環状部材は、前記コマを径方向外側から押さえる円筒部と、前記円筒部の軸方向一端部から径方向外側に突出するフランジ部と、を有し、
前記環状部材の前記円筒部の内周面と、前記フランジ部の軸方向一端面と、を接続する角部が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう傾斜面であり、
前記フランジ部の前記軸方向一端面は、前記環状部材の軸方向一端面である、
ことを特徴とするボールねじ機構。
【請求項2】
外周面に形成された雄ねじ溝を有するねじ軸と、
前記ねじ軸を包囲するように配置されたナットであって、内周面に形成された雌ねじ溝と、径方向に貫通する孔と、を有するナットと、
対向する前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝と間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ナットの前記孔内に配置され、前記転走路の一端から他端へとボールを戻す循環路を有するコマと、
前記ナットの外周面に配置される環状部材と、
を備えるボールねじ機構であって、
前記環状部材は、前記コマを径方向外側から押さえる円筒部と、前記円筒部の軸方向一端部から径方向外側に突出するフランジ部と、を有し、
前記環状部材の前記円筒部の内周面と、前記フランジ部の軸方向一端面と、を接続する角部が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう傾斜面であり、
前記ナットの前記外周面には、前記環状部材の前記フランジ部と軸方向に当接する突出部が配置され、
前記環状部材は、前記ナットの前記外周面に、前記フランジ部を先頭に、前記フランジ部が前記突出部に当接するまで挿入される
ボールねじ機構。
【請求項3】
前記傾斜面は、R形状を含む
請求項1又は2に記載のボールねじ機構。
【請求項4】
前記傾斜面は、テーパ形状を含む
請求項1~3の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項5】
前記ナットの前記外周面には、前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部が係合する周溝が形成され、
前記周溝は、底部と、前記底部よりも軸方向一端側の第一面と、前記底部よりも軸方向他端側の第二面と、を含み、
前記第一面の傾斜角度は、前記第二面の傾斜角度よりも小さい、
請求項1~4の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項6】
前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部には、カシメ加工が行われることにより前記周溝に入り込むカシメ部が形成される
請求項5に記載のボールねじ機構。
【請求項7】
前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部には、径方向内側に突出する凸部が形成され、
前記凸部は、前記周溝に係合する、
請求項5に記載のボールねじ機構。
【請求項8】
前記環状部材は、絞り加工によって成形される
請求項1~7の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【請求項9】
前記環状部材は、亜鉛メッキ鋼板からなる
請求項1~8の何れか1項に記載のボールねじ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コマを備えたボールねじ機構に関し、例えば電動アクチュエータなど種々の用途に用いることができるボールねじ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両等の省力化が進み、例えば自動車のトランスミッションやパーキングブレーキ、マスターシリンダなどを手動でなく、電動モータの力により動作させるシステムが開発されている。そのような用途に用いる電動アクチュエータには、電動モータから伝達される回転運動を高効率で軸線方向運動に変換するために、ボールねじ機構が用いられる場合がある。
【0003】
通常、ボールねじ機構は、ねじ軸と、ナットと、ボールと、を備え、ねじ軸に対してナットが相対回転する際に、ナット内の転走路に沿ってボールが転動する。これにより円滑な動作が行われるが、転走路の一端に到達したボールをその他端へと循環させる循環手段が必要となる。このような循環手段としては、チューブやコマなどが知られているが、コマはナットの孔内に埋め込まれて用いられるため、ナットの構成がコンパクトになりやすいという利点がある。
【0004】
このようなコマをナットの孔に取り付ける場合、従来においては、接着剤等で接着固定することが行われている。しかしながら、接着固定の場合には、接着剤が固化するまでの時間が必要になり、製造時間を短縮することが困難になる。一方、ナットの孔内にコマを取り付けた後、孔の内周面をカシメにより塑性変形させることで、コマを取り付けることも考えられる。しかしながら、摩耗防止等のためにナットを全体焼入れした場合には、適用が困難であり、組立てが簡単にできないという問題がある。更に、接着やナットのカシメの場合、ボールねじ機構を一度組み立てた後、調整やメンテナンスのために再度分解するような場合、コマの取り外しと再組立が困難になる。
【0005】
これに対し、特許文献1には、コマを径方向外側から押さえる円筒部材を備えるボールねじ機構が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-97832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の円筒部材は単純な円筒形状であり、このような円筒部材は、通常、絞り加工(深絞り)によって成形される。絞り加工による成形品は、一端側には径方向外側に延びるフランジ部を有し、フランジ部とは逆側の他端側には底面を有する容器状である。したがって、両端に開口を有する円筒形状とするためには、成形品から底面及びフランジ部を切り落とす必要がある。しかし、刃で円筒部材の内径及び外径に合うように底面及びフランジ部を切り落とすことは一般的に困難であり、一端側には径方向外側に向かう微小なフランジ部(外向き微小フランジ部)が残り、他端側(底面側)には径方向内側に向かう微小なフランジ部(内向き微小フランジ部)が残る。特に、他端側(底面側)には円筒部の軸方向外側に向かって抜きバリが生じることがある。
【0008】
円筒部材を、内向き微小フランジ部側からナットに挿入しようとした場合、微小フランジ部がナットの外周面と干渉し、微小フランジ部が脱落したり、ナットやコマが傷ついたりすることで、金属片の脱落が発生してしまう。円筒部材とナットとの間に金属片の脱落が発生してしまった場合は、洗浄で完全に除去するのも困難であり、使用している間にコマが設置される孔を通して回路内に侵入してしまう恐れがある。金属片が侵入してしまうと、ボール転送面が損傷し、剥離、効率の低下、逆作動力の増大、寿命の低下など様々な故障を引き起こす可能性がある。
【0009】
したがって、円筒部材をナットに挿入する際には、外向き微小フランジ部側から挿入して、金属片の脱落の発生を抑制する必要がある。しかしながら、円筒部材は単純な円筒形状であり、内向き微小フランジ部及び外向き微小フランジ部も非常に微細な構造であるので、挿入方向の識別が困難であった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、環状部材の挿入方向の識別が容易であり、挿入時の金属片の脱落の発生を抑制可能なボールねじ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に形成された雄ねじ溝を有するねじ軸と、
前記ねじ軸を包囲するように配置されたナットであって、内周面に形成された雌ねじ溝と、径方向に貫通する孔と、を有するナットと、
対向する前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝と間に形成された転走路に沿って転動自在に配置された複数のボールと、
前記ナットの前記孔内に配置され、前記転走路の一端から他端へとボールを戻す循環路を有するコマと、
前記ナットの外周面に配置される環状部材と、
を備えるボールねじ機構であって、
前記環状部材は、前記コマを径方向外側から押さえる円筒部と、前記円筒部の軸方向一端部から径方向外側に突出するフランジ部と、を有し、
前記環状部材の前記円筒部の内周面と、前記フランジ部の軸方向一端面と、を接続する角部が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう傾斜面である、
ことを特徴とするボールねじ機構。
(2) 前記傾斜面は、R形状を含む
(1)に記載のボールねじ機構。
(3) 前記傾斜面は、テーパ形状を含む
(1)又は(2)に記載のボールねじ機構。
(4) 前記ナットの前記外周面には、前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部が係合する周溝が形成され、
前記周溝は、底部と、前記底部よりも軸方向一端側の第一面と、前記底部よりも軸方向他端側の第二面と、を含み、
前記第一面の傾斜角度は、前記第二面の傾斜角度よりも小さい、
(1)~(3)の何れか1つに記載のボールねじ機構。
(5) 前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部には、カシメ加工が行われることにより前記周溝に入り込むカシメ部が形成される
(4)に記載のボールねじ機構。
(6) 前記環状部材の前記円筒部の軸方向他端部には、径方向内側に突出する凸部が形成され、
前記凸部は、前記周溝に係合する、
(4)に記載のボールねじ機構。
(7) 前記ナットの前記外周面には、前記環状部材の前記フランジ部と軸方向に当接する突出部が配置され、
前記環状部材は、前記ナットの前記外周面に、前記フランジ部を先頭に、前記フランジ部が前記突出部に当接するまで挿入される
(1)~(6)の何れか1つに記載のボールねじ機構。
(8) 前記環状部材は、絞り加工によって成形される
(1)~(7)の何れか1つに記載のボールねじ機構。
(9) 前記環状部材は、亜鉛メッキ鋼板からなる
(1)~(8)の何れか1つに記載のボールねじ機構。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環状部材の挿入方向の識別が容易であり、挿入時の金属片の脱落の発生を抑制可能なボールねじ機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、第1実施形態に係るボールねじ機構の分解斜視図である。
図2図2は、ボールねじ機構の断面図である。
図3図3は、環状部材の斜視図である。
図4図4は、環状部材の断面図である。
図5図5は、環状部材の正面図である。
図6図6は、環状部材の軸方向他端部の周辺の拡大図である。
図7図7は、環状部材の軸方向一端部の周辺の拡大図である。
図8図8は、変形例に係る環状部材の軸方向一端部の周辺の拡大図である。
図9図9は、変形例に係る環状部材の軸方向一端部の周辺の拡大図である。
図10図10は、第2実施形態における環状部材の軸方向他端部の周辺の拡大図である。
図11図11は、第2実施形態における環状部材の斜視図である。
図12図12は、変形例に係る環状部材50の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係るボールねじ機構1の分解斜視図である。図2は、ボールねじ機構1の断面図である。図3は、環状部材50の斜視図である。図4は、環状部材50の断面図である。図5は、環状部材50の正面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、ボールねじ機構1は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、コマ40と、環状部材50と、を備える。
【0016】
ねじ軸10は、外周面に形成された雄ねじ溝11を有し、軸線方向にのみ移動可能に支持されている。回転のみ可能となるように支持された略円筒状のナット20は、ねじ軸10の外周を包囲するように配置されている。ナット20は、内周面に形成された雌ネジ溝21と、径方向に貫通するコマ用の孔23と、を有する。複数のボール30は、径方向に対向するねじ軸10の雄ねじ溝11とナット20の雌ネジ溝21と間に形成された螺旋状の転走路に沿って、転動自在に配置されている。
【0017】
図2に示すように、ナット20の孔23内には、コマ40が配置されている。コマ40は、孔23の段部23aに当接する頭部41と、径方向内側に設けられた循環路43と、を有している。この循環路43によって、転送路の一端から他端へとボール3を戻して循環させる。
【0018】
図1及び図2に示すように、ナット20の軸方向一端部(図1の左上端部。図2の右端部)には、径方向外側に突出するフランジ部25が形成される。フランジ部25には、後述するように、環状部材50のフランジ部53が軸方向に突き当てられる。したがって、フランジ部25は、ナット20の外周面に配置され、環状部材50のフランジ部53と軸方向に当接する突出部である。なお、ナット20は、図示しない駆動部品によって駆動されて回転可能である。
【0019】
環状部材50は、略円筒状のフランジ付スリーブであり、例えば錆防止のため亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼からなる。なお、環状部材50は、メッキ無しの鋼板からなってもよい。環状部材50は、ナット20の外周面に配置される。図3図5も参照し、環状部材50は、ナット20の外周面に配置されてコマ40を径方向外側から押さえる円筒部51と、円筒部51の軸方向一端部から径方向外側に突出するフランジ部53と、を備える。
【0020】
図6は、環状部材50の軸方向他端部の周辺の拡大図である。図2及び図6に示すように、ナット20の外周面のうち、コマ40よりも軸方向他端側には、環状部材50の円筒部51の軸方向他端部が係合する周溝28が形成される。そして、環状部材50の円筒部51の軸方向他端部には、カシメ加工が行われることにより周溝28に入り込むカシメ部51aが形成される。このように、環状部材50をナット20に挿入した後にカシメ部51aが形成されることで、環状部材50の抜け止めがなされる。カシメ部51aは、円筒部51の軸方向他端部に、少なくとも周方向一箇所に設けられていればよいが、複数箇所設けてもよく、その場合カシメ部51aは例えば周方向等間隔に設けられる。
【0021】
なお、周溝28の形状は特に限定されないが、図示の例の周溝28は、底部28aと、底部28aよりも軸方向一端側の第一面28bと、底部28aよりも軸方向他端側の第二面28cと、を含む。そして、第一面28bの傾斜角度は、第二面28cの傾斜角度よりも小さくなるように設定されている。本例では、第一面28bは断面テーパ形状であり、第二面28cは断面半円形状である。このように、第一面28bの傾斜角度を比較的小さくすることにより、ナット20に対する環状部材50の挿入性が向上する。また、第二面28cの傾斜角度を比較的大きくすることにより、環状部材50をナット20に挿入し、カシメ部51aが形成された後、環状部材50が抜け難くなる。
【0022】
図7は、環状部材50の軸方向一端部の周辺の拡大図である。図7に示すように、ナット20の外周面と、ナット20のフランジ部25の軸方向他端面と、を接続する角部には逃げ部29が凹設される。環状部材50には、上記逃げ部29と対向する位置の角部に傾斜面55が形成される。より具体的には、環状部材50の円筒部51の内周面と、フランジ部53の軸方向一端面と、を接続する角部が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう傾斜面55とされている。
【0023】
図7に示すように、傾斜面55は、全体がR形状(断面曲線形状)であってもよい。環状部材50の板厚が0.5mmの場合、傾斜面55の角Rは例えば0.2mm以上とされる。すなわち、傾斜面55の角Rは、環状部材の板厚の0.4倍以上である。
【0024】
なお、傾斜面55の形状は、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう形状である限り特に限定されない。例えば、図8に示すように、傾斜面55は、軸方向中間部がテーパ形状(断面直線形状)であり、軸方向両端部がR形状(断面曲線形状)であってもよい。また、図9に示すように、傾斜面55の全体が、テーパ形状であってもよい。
【0025】
組み付け時には、まず各コマ40を孔23に組み付ける。頭部41が段部23aに当接することで、コマ40の径方向の位置決めができる。この状態で、環状部材50を、軸方向他端側から軸方向一端側に向かって、フランジ部53を先頭に、ナット2に挿入し、ナット2の外周面に嵌合させる。分離容易性を考慮すると、環状部材50はナット2に対してルーズフィットであることが望ましいが、目的・用途等によってはタイトフィットを採用してもよい。環状部材50のフランジ部53をナット20のフランジ部25(突出部)につき当てると、孔23内に配置されたコマ40が環状部材50によって覆われる。
【0026】
ここで、本実施形態の環状部材50は、絞り加工(深絞り)によって成形されている。すなわち、金属の薄板を絞り加工することによって得られた容器形状の中間成形品から、底面を切り落とすことによって環状部材50が成形される。なお、中間成形品は、軸方向一端側に径方向外側に延びるフランジ部を有し、軸方向他端側に底面を有する。そして、中間成形品のフランジ部は切り落とさず残すことで環状部材50のフランジ部53とし、中間成形品の底面は切り落とす。上述した通り、刃で環状部材50の円筒部51の内径に合うように底面を切り落とすことは多量生産を目的とする場合には、一般的に困難であり、プレス加工で底面の打ち抜き加工を行う場合には、円筒部の内面と打ち抜きパンチの外径との間にクリアランスが必要となる。これにより、環状部材50の円筒部51の軸方向他端側には径方向内側に向かう微小なフランジ部(内向き微小フランジ部)が残り、さらに、円筒部51の軸方向他端側には軸方向外側に向かって抜きバリが生じることがある。したがって、環状部材50をナット20に挿入する際には、内向き微小フランジ部とは逆側(軸方向一端側)から挿入する必要がある。
【0027】
そこで、本実施形態の環状部材50には、挿入時に先頭となる軸方向一端部に、フランジ部53が設けられているので、挿入方向の識別を容易且つ確実に行うことができる。すなわち、フランジ部53が設けられる側とは逆の軸方向他端側を先頭に挿入してしまう等のミスを防止でき、ひいては、挿入時の金属片の脱落の発生を抑制できる。
【0028】
さらに、環状部材50の円筒部51の内周面と、フランジ部53の軸方向一端面と、を接続する角部が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かうにしたがって径方向外側に向かう傾斜面55とされている。したがって、ナット20に対する環状部材50の挿入性が向上し、バリや金属片の脱落の発生をさらに抑制できる。
【0029】
そして、環状部材50がナット20に挿入された後、図6に示すように、カシメ部51aが形成されることで、環状部材50の抜け止めがなされる。
【0030】
このように構成されたボールねじ機構1においては、不図示の電動モータからの動力が駆動部品を介してナット20に伝達されると、転走路を転動し且つコマ40の循環路43を介して潤滑するボール30により、回転運動がねじ軸10の軸線方向運動に効率よく変換され、不図示の被駆動部材を軸線方向に移動させることができる。なお、本発明のボールねじ機構は、ナット20を回転させてねじ軸10を駆動する方式のみならず、ねじ軸10を回転させてナット20を駆動する方式にも適用可能である。
【0031】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るボールねじ機構1について説明する。図10は、第2実施形態における環状部材50の軸方向他端部の周辺の拡大図である。図11は、第2実施形態における環状部材50の斜視図である。
【0032】
図10及び図11に示すように、本実施形態のボールねじ機構1は、環状部材50の円筒部51の軸方向他端部に、カシメ部51a(図6参照)が形成されず、径方向内側に突出し、周溝28に係合する複数の凸部51bが形成される。凸部51bは、それぞれ、円筒部51の軸方向他端部を径方向内側に折り曲げることによって形成される。
【0033】
組み付け時には、環状部材50を、軸方向他端側から軸方向一端側に向かって、フランジ部53を先頭に、ナット2の外周面に挿入する。ここで、環状部材50の軸方向他端部は、径方向外側に弾性変形しながら進み、凸部51bが周溝28に係合した時点で収縮して元の大きさに戻る。
【0034】
なお、図示の例の複数の凸部51bは、周方向等配に6個設けられているが、この配置や数に限られるものではない。また、必ずしも複数の凸部51bを設ける必要はなく、少なくとも1つの凸部51bが設けられればよい。
【0035】
図12は、変形例に係る環状部材50の斜視図である。図12の環状部材50においては、円筒部51の軸方向他端部の内周面には、全周にわたって径方向内側に突出する内向きフランジ部51cが形成される。本例の環状部材50は、絞り加工(深絞り)によって成形されている。すなわち、金属の薄板を絞り加工することによって得られた容器形状の中間成形品から、内向きフランジ部51cを残すように底面の中央を切り落とすことによって環状部材50が成形される。
【0036】
以上、各実施形態を参照して本発明について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるべきではなく、その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0037】
上記実施形態では、環状部材50のフランジ部53と軸方向に当接する突出部としてナット20のフランジ部25を例示したが、突出部は、ナット20の外周面に配置され、環状部材50のフランジ部53と軸方向に当接する構成を有するものであれば、フランジ部25に限られるものではない。例えば、突出部は、ナット20の外周面に固定された軸受であってもよく、その軸受の軸方向移動を規制する止め輪であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 ボールねじ機構
10 ねじ軸
11 雄ねじ溝
20 ナット
21 雌ネジ溝
23 孔
23a 段部
25 フランジ部(突出部)
28 周溝
29 逃げ部
30 ボール
40 コマ
41 頭部
43 循環路
50 環状部材
51 円筒部
51a カシメ部
51b 凸部
51c 内向きフランジ部
53 フランジ部
55 傾斜面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12