(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】接着性樹脂シート、プリント配線板および、電子機器。
(51)【国際特許分類】
H05K 1/03 20060101AFI20230905BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20230905BHJP
H01B 3/30 20060101ALI20230905BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230905BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
H05K1/03 610H
H05K3/46 G
H05K3/46 T
H01B3/30 B
H01B3/30 C
H01B3/30 D
H01B3/44 K
H01B17/56 A
(21)【出願番号】P 2021121487
(22)【出願日】2021-07-26
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】若田部 悟史
(72)【発明者】
【氏名】森 祥太
(72)【発明者】
【氏名】岸 大将
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/071154(WO,A1)
【文献】特開2013-221113(JP,A)
【文献】特開2007-099928(JP,A)
【文献】国際公開第2016/001949(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/131267(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262579(WO,A1)
【文献】特開2016-157838(JP,A)
【文献】国際公開第2014/147903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
H05K 3/46
H01B 3/30
H01B 3/44
H01B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たし、
アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂から選ばれるバインダー樹脂(A)と、硬化剤(B)とを含み、ただし、
酸無水物基を有する変性エラストマーと溶剤可溶性ポリイミド樹脂とを共に含むことはなく、ビスマレイミド樹脂を含まない、ことを特徴とする接着性樹脂シート。
(イ)23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。
(ロ)23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。
(ハ)23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。
(ニ)JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。
【請求項2】
180℃で1時間加熱した際のガラス転移温度(Tg)が、0~150℃であることを特徴とする請求項1記載の接着性樹脂シート。
【請求項3】
さらに、フィラー(C)を含有し、
前記フィラー(C)の含有量が、
前記接着性樹脂シートの全質量に対して50質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の接着性樹脂シート。
【請求項4】
前記フィラー(C)が、フッ素系フィラー、窒化ホウ素、液晶ポリマー、シリカおよびリン系フィラーからなる群より選ばれる少なくとも一種類を含むことを特徴とする請求項3記載の接着性樹脂シート。
【請求項5】
前記バインダー樹脂(A)が、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基、アミノ基、シアネート基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、イミダゾール基、ピロール基、アセタール基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アルデヒド基、ヒドラジド基、ヒドラゾン基およびリン酸基から選ばれる反応性官能基を有することを特徴とする請求項
1~4のいずれか記載の接着性樹脂シート。
【請求項6】
前記バインダー樹脂(A)が、窒素、リンおよび硫黄原子から選ばれる元素を有することを特徴とする請求項
1~5のいずれか記載の接着性樹脂シート。
【請求項7】
前記バインダー樹脂(A)の23℃における測定周波数40GHzでの誘電正接が、0.005以下であることを特徴とする請求項
1~6のいずれか記載の接着性樹脂シート。
【請求項8】
前記硬化剤(B)が、エポキシ基含有化合物(B-1)、イソシアネート基含有化合物(B-3)、金属キレート化合物(B-4)およびカルボジイミド基含有化合物(B-5)から選ばれる化合物を含むことを特徴とする請求項
1~7のいずれか記載の接着性樹脂シート。
【請求項9】
プリント配線板用であることを特徴とする請求項1~
8のいずれか記載の接着性樹脂シート。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか記載の接着性樹脂シートの硬化物を有するプリント配線板。
【請求項11】
請求項
10記載のプリント配線板を具備してなる電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着性樹脂シートに関する。さらに当該接着性樹脂シートの硬化物を含むプリント配線板、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、大量の情報を高速で処理する必要が生じ、電子機器、通信機器等に用いられるプリント配線板に使用される信号の周波数帯は、MHz帯からGHz帯に移行し、今後広い高周波数帯での材料適正が要求されることが想定される。
一般に電気信号の伝送損失は、配線周辺の絶縁層の誘電特性等に起因する誘電体損失と、導体の形状、表皮抵抗、特性インピーダンス等に起因する導体損失からなるとされている。しかし、高周波回路の場合は誘電体損失の影響が大きく、誘電体損失が材料の比誘電率の平方根と材料の誘電正接の積に比例して大きくなるため、比誘電率と誘電正接がいずれも低い材料が求められている。中でも誘電正接は誘電体損失と比例関係にあり、比誘電率よりも誘電体損失に与える影響が大きいといった理由から誘電正接を低くすることが重要であった。
例えば、下記の特許文献1にはナフタレンエーテル骨格を有する第1の化合物と、ダイマージアミンまたはトリマートリアミンに由来する骨格を有する第2の化合物とを含み、第2の化合物がポリイミド化合物とは異なる化合物である、樹脂材料を提供することで、低周波数帯から高周波数帯の広い周波数帯に亘って、硬化物の誘電正接を低くすることができ、かつデスミア処理によってスミアを効率的に除去することができる樹脂材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器内部の省スペース化に伴って、プリント配線板等の内蔵部品は折り曲げられた状態で組み込まれることから高い屈曲性が求められていた。
更に、電子デバイスの小型化、高性能化に伴い、プリント配線板における回路の細線化、ライン(配線幅)/スペース(配線間隔)への信頼性要求が厳しくなっており、回路間に用いられる接着性樹脂シートの硬化物(以下、接着剤層とも省略する)は、高いマイグレーション耐性も必要とされている。
一方、環境保護を背景とした鉛フリーはんだへの切り替えによって、プリント配線板に電子部品を実装するはんだリフロー工程が高温化している。リフロー工程の熱で接着剤層が劣化しマイグレーション耐性が著しく悪化する問題があった。
【0005】
特許文献1に記載の樹脂材料では、剛直なナフタレン骨格を有するため屈曲性が損なわれ、折り曲げ工程時に破断を生じる問題があった。加えて、耐熱性も不足しており高温処理した後のマイグレーション耐性は要求される品質を満たしてはいなかった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、高周波数帯における優れた誘電正接を有するとともに、約280℃のはんだリフロー工程後も高いマイグレーション耐性を発揮し、同時に良好な屈曲性を発揮する接着性樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討を行ったところ、以下の態様において本発明の課題を解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、180℃で1時間加熱した際、以下の(イ)、(ロ)、(ハ)および(ニ)を満たすことを特徴とする接着性樹脂シートの提供によって課題は解決される。
(イ) 23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下である。
(ロ) 23℃において、測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下である。
(ハ) 23℃において、測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。
(ニ) JIS K7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の接着性樹脂シートの硬化物は、10GHz、20GHz、40GHzの各周波数帯で優れた誘電正接を発現し、高温のはんだリフロー工程でも劣化せず、高いマイグレーション耐性を発揮し同時に優れた屈曲性を有する接着性樹脂シートを提供することができる。これにより高周波機器でも誤作動が無く長期にわたり信頼性の高いプリント配線板及び電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明におけるマイグレーション耐性の評価基板を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。尚、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。また、本明細書において「任意の数A~任意の数B」なる記載は、当該範囲に数Aが下限値として、数Bが上限値として含まれる。また、本明細書における「シート」とは、JISにおいて定義される「シート」のみならず、「フィルム」も含むものとする。また、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0011】
<接着性樹脂シート>
本発明の接着性樹脂シートは180℃で1時間加熱した際に、10GHz、20GHz、40GHzといった各高周波数帯でも優れた誘電正接を発現し、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性、高屈曲性を有することから、プリント配線板、および電子機器の接着用部材に用いることが好ましい(以後、180℃で1時間加熱した接着性シートを接着性樹脂シートの硬化物又は、接着剤層とも省略する)。接着性樹脂シートは接着したい部材同士の間に挟み仮接着を行った後に加熱、もしくは熱プレス工程を経ることにより硬化し、被着体同士を接着する。
【0012】
接着性樹脂シートは、バインダー樹脂(A)、硬化剤(B)、フィラー(C)およびその他の任意成分を含有することが好ましい。
【0013】
<バインダー樹脂(A)>
本発明におけるバインダー樹脂(A)は、接着性樹脂シートの基体として機能する他、他成分の分散状態を保持する機能を有することが好ましい。
【0014】
本発明におけるバインダー樹脂(A)は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系エラストマー、フッ素樹脂およびスチレン無水マレイン酸系樹脂などが挙げられる。これらは適宜選択し複数を用いることができる。なかでも、疎水性の高さに由来する高い絶縁性、誘電特性、また熱分解点の少なさに由来する高い耐熱性の観点からスチレン系エラストマー、ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタンが好ましく、スチレン系エラストマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタンがより好ましい。
尚、上記スチレン系エラストマーとは、スチレンから構成される部分と、ブタジエンやイソプレンやエチレン等から構成される部分とが「ブロック」を成しているブロック共重合体をいう。
【0015】
本発明におけるバインダー樹脂(A)は、硬化剤(B)の有するエポキシ基、マレイミド、イソシアネート基、カルボジイミド基等の官能基や金属キレートと反応し得る、反応性官能基を有することが好ましい。
前記反応性官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)、アミノ基、シアネート基、イソシアノ基、シアナト基、イソシアナト基、イミダゾール基、ピロール基、アセタール基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アルデヒド基、ヒドラジド基、ヒドラゾン基、リン酸基等が挙げられ、カルボキシル基、酸無水物基、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)、およびアミノ基からなる群より選ばれることが好ましく、2種類以上の反応性官能基を含んでもよい。
【0016】
バインダー樹脂(A)は、窒素、リン、硫黄原子を有することが好ましい。窒素、リン、硫黄といった非共有電子対を有する元素を有するバインダー樹脂(A-1)を用いることで、それら非共有電子対を利用したバインダー樹脂(A-1)間の相互作用によって、接着剤層の凝集力が向上し、イオンの移動を抑制するためマイグレーション耐性が向上する。本発明が奏する効果の機構としては前述の内容に限定されるものではない。
【0017】
窒素、リン、硫黄原子を有するバインダー樹脂(A-1)と、当該原子を含有しないバインダー樹脂(A-2)を併用する場合、バインダー樹脂(A)全体に占める、バインダー樹脂(A-1)の質量割合は30質量%以上であることが、マイグレーション耐性向上の観点から好ましい。バインダー樹脂(A-1)の質量割合は40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。
【0018】
バインダー樹脂(A)の酸価は、0.5~30mg/KOHであることが好ましく、1~20mg/KOHであることがより好ましい。酸価を0.5~30mg/KOHとすることにより、誘電正接の値を低くすることができる。更に耐熱性が向上することで、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性が良化する。
【0019】
高周波数帯における接着剤層の誘電正接を低くする観点から、バインダー樹脂(A)の10GHz、20GHz、40GHzにおける誘電正接が0.005以下であることが好ましく、0.004以下であることがより好ましく、0.003以下であることが更に好ましい。ここでバインダー樹脂(A)の誘電正接とは、バインダー樹脂(A)のみを加熱硬化させ後述する方法で誘電正接を測定した値である。
【0020】
さらに高周波数帯における接着剤層の誘電正接を低くする観点から、JIS K7209に準拠した測定方法におけるバインダー樹脂(A)の吸水率が0.5%以下であることが好ましい。
【0021】
バインダー樹脂(A)のTgは接着剤層の屈曲性を向上させる観点から、0~140℃あることが好ましく、0~120℃あることがより好ましく、0~100℃あることが更に好ましい。
【0022】
バインダー樹脂(A)の重量平均分子量は5,000~200,000であることが好ましく、20,000~100,000であることがより好ましい。バインダー樹脂(A)の重量平均分子量が5,000以上であることで、十分な成膜性が発現できるとともに、5%重量分解温度を上げることができ、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性が良化する。又、塗工時の粘度やハンドリングの観点から、重量平均分子量は150,000以下であることが好ましい。
【0023】
<硬化剤(B)>
硬化剤(B)は、バインダー樹脂(A)の有する反応性官能基と反応可能な官能基を有するものであり、反応可能な官能基を複数有することが好ましい。
硬化剤(B)は、エポキシ化合物(B-1)、マレイミド化合物(B-2)、イソシアネート基含有化合物(B-3)、金属キレート化合物(B-4)およびカルボジイミド基含有化合物(B-5)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これら硬化剤を用いることで、接着剤層の耐熱性を上げることができ、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性が向上する。硬化剤は、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
<エポキシ基含有化合物(B-1)>
エポキシ基含有化合物(B-1)としては、エポキシ基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、1分子中に平均2個以上のエポキシ基を有するものを好ましく用いることができる。エポキシ基有化合物としては、例えば、グリジシルエーテル型エポキシ樹脂、グリジシルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、又は環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂を用いることができる。
【0025】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、又はテトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0026】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、又はテトラグリシジルメタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0027】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、又はジグリシジルテトラヒドロフタレート等が挙げられる。
【0028】
環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシシクロヘキシルメチル-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、又はビス(エポキシシクロヘキシル)アジペートなどが挙げられる。
【0029】
エポキシ基含有化合物としては、前記化合物の一種を単独で、若しくは二種以上を組み合わせて用いることができる。
エポキシ基含有化合物としては、高接着性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、又はテトラグリシジルメタキシリレンジアミンを用いることが好ましく、3官能以上のエポキシ基を含有しているものが耐熱性の観点から更に好ましい。
【0030】
<マレイミド基含有化合物(B-2)>
マレイミド基含有化合物(B-2)としては、マレイミド基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、1分子中に平均2個以上のマレイミド基を有するものを好ましく用いることができる。
【0031】
本発明におけるマレイミド基含有化合物の具体例としては、o-フェニレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(トルエン-2,6-ジイル)ビスマレイミド)、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ポリフェニルメタンマレイミド(CASNO:67784-74-1、ホルムアルデヒドとアニリンからなるポリマーと無水マレイン酸の反応物)、N,N’-エチレンビスマレイミド、N,N’-トリメチレンビスマレイミド、N,N’-プロピレンビスマレイミド、N,N’-テトラメチレンビスマレイミド、N,N’-ペンタメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,3-ペンタンジイル)ビス(マレインイミド)、N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,7-ヘプタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,8-オクタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,9-ノタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,10-デカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,11-ウンデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,12-ドデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-[(1,4-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,2-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、N,N′‐[(メチルイミノ)ビス(4,1‐フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐(2‐ヒドロキシプロパン‐1,3‐ジイルビスイミノビスカルボニルビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐(ジチオビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐[ヘキサメチレンビス(イミノカルボニルメチレン)]ビスマレイミド、N,N′‐カルボニルビス(1,4‐フェニレン)ビスマレイミド、N,N′,N′′‐[ニトリロトリス(エチレン)]トリスマレイミド、N,N’,N’’-[ニトリロトリス(4,1-フェニレン)]トリスマレイミド、N,N′‐[p‐フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビス(マレインイミド)N,N′‐[ジメチルシリレンビス[(4,1-フェニレン)(1,3,4,-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1’-[3’-オキソスピロ[9H-キサンテン-9,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3,6-ジイル]ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)、N,N’-(3,3’-ジクロロビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレミド、N,N’-(3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2,6-ジエチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-ブロモ-6-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-メチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[エチレンビス(オキシエチレン)]ビスマレイミド、N,N’-[スルホニルビス(4,1-フェニレン)ビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ナフタレン-2,7-ジイルビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[p-フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[(2,6-ジクロロベンゼン-4,1-ジイル)オキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(フェニルイミノ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[アゾビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、2,6-ビス[4-(マレインイミド-N-イル)フェノキシ]ベンゾニトリル、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ビス[9-オキソ-9H-9-ホスファ(V)-10-オキサフェナントレン-9-イル]メチレンビス(p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ヘキサフルオロイソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[カルボニルビス[(4,1-フェニレン)チオ(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-カルボニルビス(p-フェニレンオキシp-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-[5-tert-ブチル-1,3-フェニレンビス[(1,3,4-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[5-[2-[5-(ジメチルアミノ)-1-ナフチルスルホニルアミノ]エチルカルバモイル]-1,3-フェニレン]ビスマレイミド、N,N’-(オキシビスエチレン)ビスマレイミド、N,N’-[ジチオビス(m-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(エチレンビス-p-フェニレン)ビスマレイミド、DesignerMolecules社製のBMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000、JFEケミカル社製のODA-BMI、BAF-BMI、などの多官能マレイミドを挙げることができる。
【0032】
また、多官能アミンと無水マレイン酸を反応させて得られる多官能マレイミドを挙げることができる。多官能アミンとしては、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジアミン、ハンツマン・コーポレーション社製の、末端アミノ化ポリプロピレングリコール骨格を有するジェファーミンD-230、HK-511、D-400、XTJ-582、D-2000、XTJ-578、XTJ-509、XTJ-510、T-403、T-5000、末端アミノ化エチレングリコール骨格を有するXTJ-500、XTJ-501、XTJ-502、XTJ-504、XTJ-511、XTJ-512、XTJ-590末端アミノ化ポリテトラメチレングリコール骨格を有するXTJ-542、XTJ-533、XTJ-536、XTJ-548、XTJ-559などが挙げられる。
【0033】
<イソシアネート基含有化合物(B-3)>
イソシアネート基含有化合物(B-3)としては、イソシアネート基を分子内に有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。
1分子中にイソシアネート基を1個有するイソシアネート基含有化合物としては、具体的には、n-ブチルイソシアネート、イソプロピルイソシアネート、フェニルイソシアネート、ベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。
また、1,6-ジイソシアナトヘキサン、ジイソシアン酸イソホロン、ジイソシアン酸4,4’-ジフェニルメタン、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアン酸トリレン、ジイソシアン酸トルエン、2,4-ジイソシアン酸トルエン、ジイソシアン酸ヘキサメチレン、ジイソシアン酸4-メチル-m-フェニレン、ナフチレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、P-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等のジイソシアン酸エステル化合物と水酸基、カルボキシル基、アミド基含有ビニルモノマーとを等モルで反応せしめた化合物もイソシアン酸エステル化合物として使用することができる。
【0034】
1分子中にイソシアネート基を2個有するイソシアネート基含有化合物としては、具体的には、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、
トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、
ω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、
3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート[別名:イソホロンジイソシアネート]、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
【0035】
また、1分子中にイソシアネート基を3個有するイソシアネート基含有化合物としては、具体的には、芳香族ポリイソシアネート、リジントリイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられ、前記で説明したジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュウレット体、イソシアヌレート環を有する3量体が挙げられる。
【0036】
イソシアネート基含有化合物としては、さらに例示した種々のイソシアネート基含有化合物中のイソシアネート基がε-カプロラクタムやMEKオキシム等で保護されたブロック化イソシアネート基含有化合物も用いることができる。
具体的には、前記イソシアネート基含有化合物のイソシアネート基を、ε-カプロラクタム、メチルエチルケトン(以下、MEKという)オキシム、シクロヘキサノンオキシム、ピラゾール、フェノール等でブロックしたものなどが挙げられる。特に、イソシアヌレート環を有し、MEKオキシムやピラゾールでブロックされたヘキサメチレンジイソシアネート三量体は、本発明に使用した場合、耐熱性に優れるため、非常に好ましい。また耐熱性の観点から3官能以上のイソシアネート基を有していることが好ましい。
【0037】
<金属キレート化合物(B-4)>
金属キレート化合物(B-4)は、金属と有機物からなる有機金属化合物であり、バインダー樹脂(A)の反応性官能基と反応して架橋を形成するものである。有機金属化合物の種類は特に限定されないが、有機アルミニウム化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物などが挙げられる。また、金属と有機物の結合は金属-酸素結合でもよく、金属-炭素結合に限定されるものではない。加えて、金属と有機物の結合様式は化学結合、配位結合、イオン結合のいずれであってもよい。更に3官能以上であることが耐熱性の観点から好ましい。
【0038】
前記有機アルミニウム化合物はアルミニウム金属キレート化合物が好ましい。アルミニウム金属キレート化合物は、例えば、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムジ-n-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジイソブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムジ-sec-ブトキシドモノメチルアセトアセテート、アルミニウムイソプロピレート、モノsec-ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウム-sec-ブチレート、アルミニウムエチレート等が挙げられる。
【0039】
前記有機チタン化合物はチタン金属キレート化合物が好ましい。チタン金属キレート化合物は、例えば、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタン-1.3-プロパンジオキシビス(エチルアセトアセテート)、ポリチタンアセチルアセチルアセトナート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラオクチルチタネート、ダーシャリーアミルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート、テトラステアリルチタネート、チタンイソステアレート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジステアレート、チタニウムステアレート、ジ-i-プロポキシチタンジイソステアレート、(2-n-ブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン等が挙げられる。
有機ジルコニウム化合物はジルコニウム金属キレート化合物が好ましい。ジルコニウム金属キレート化合物は、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ノルマルプロピルジルコネート、ノルマルブチルジルコネート、ステアリン酸ジルコニウム、オクチル酸ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物が熱硬化反応性の点から好ましい。
【0040】
<カルボジイミド基含有化合物(B-5)>
カルボジイミド基含有化合物(B-5)としては分子内にカルボジイミド基を有するものであれば、特に限定されない。カルボジイミド基含有化合物としては、例えば、カルボジライトV-01、V-03、V-05、V-07、V-09(日清紡ケミカル株式会社)、環状カルボジイミド(帝人株式会社)などが挙げられる。耐熱性の観点から1分子中に平均3個以上のカルボジイミド基を有するものを好ましい。
【0041】
本発明に用いられる硬化剤(B)は、前記バインダー樹脂(A)100部に対して、合計が1~30質量部となる範囲で含有することが好ましく、1~20部含有することがより好ましく、1~10部含有することがさらに好ましい。硬化剤(B)の添加量を1~30部とすることで、接着性樹脂シートに含まれる硬化剤(B)由来の極性基含有量を低くすることができ、誘電正接を低くすることができる。またこの硬化剤(B)の添加量を制御することで、接着剤層のTgを好ましい範囲へ制御でき、高い屈曲性と低い誘電正接の両立を実現することができる。
【0042】
硬化剤(B)成分の官能基当量は好ましくは50~1,000g/eqであり、より好ましくは50~500g/eq、さらに好ましくは50~300g/eqである。この範囲となることで、架橋密度が十分となり、高い耐熱性を発現できる。また官能基当量を上記範囲内にすることで、接着性樹脂シート中に含まれる硬化剤(B)由来の極性基含有量をコントロールでき、誘電正接を低くすることができる。
【0043】
また耐熱性を向上させる観点から、硬化剤(B)は構造中に芳香族構造を有することが好ましい。
【0044】
<フィラー(C)>
次に、本発明で用いるフィラー(C)について詳細に説明する。本発明の接着性樹脂シートは、5%重量分解温度を上げ、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性を向上させるためにフィラー(C)を含むことが好ましい。
【0045】
フィラー(C)としては、特に限定されないが、形状としては球状、粉状、繊維状、針状、鱗片状等が挙げられる。フィラー(C)としては例えば、ポリテトラフルオロエチレン粉末やその変性物、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル粉末、テトラフルオロエチレン-エチレン粉末、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン粉末、テトラフルオロエチレン-フッ化ビニリデン粉末、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル粉末、ポリクロロトリフルオロエチレン粉末、クロロトリフルオロエチレン-エチレン粉末、クロロトリフルオロエチレン-フッ化ビニリデン粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末、ポリフッ化ビニル粉末等のフッ素系フィラー。ポリエチレン粉末、ポリアクリル酸エステル粉末、エポキシ樹脂粉末、ポリアミド粉末、ポリイミド粉末、ポリウレタン粉末、液晶ポリマービーズ、ポリシロキサン粉末等の他、シリコーン、アクリル、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム等を用いた多層構造のコアシェル等の高分子フィラー;リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート等の(ポリ)リン酸塩系化合物、有機リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、ホスホン酸化合物、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、エチルブチルホスフィン酸アルミニウム、メチルブチルホスフィン酸アルミニウム、ポリエチレンホスフィン酸アルミニウム等のホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、ホスホルアミド化合物等のリン系フィラー;
ベンゾグアナミン、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール化合物、ジアゾ化合物、尿素等の窒素系フィラー;
シリカや中空シリカや多孔質シリカ、マイカ、タルク、カオリン、クレー、ハイドロタルサイト、ウォラストナイト、ゾノトライト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ガラスフレーク、水和ガラス、チタン酸カルシウム、セピオライト、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ニッケル、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム等の無機フィラー等が挙げられる。
【0046】
はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性に加えて、誘電正接を低下させる観点から、フッ素系フィラー、窒化ホウ素、液晶ポリマー、シリカおよび、リン系フィラーを使用することが好ましく、フッ素系フィラー、窒化ホウ素、リン系フィラー、シリカがより好ましい。これらフィラーは強固な結晶構造を有していることから、高周波数帯においても分子振動が小さく、誘電正接が優れている。本発明において、これらフィラー(C)は、単独又は複数を併用して用いることができる。
【0047】
接着性樹脂シート中のフィラー(C)の含有量は、接着性樹脂シート全質量に対して、3~50質量%以下であることが好ましく、3~30質量%であることがより好ましく、3~25質量%であることが特に好ましい。当該フィラーを3質量%以上含有することで、
接着剤層の熱安定性を上昇させ、はんだリフロー工程の熱による接着剤層の分解によって発生する空隙を少なくできることで耐マイグレーション性が向上できる。更に誘電正接を下げる効果を奏する。また50質量部以下にすることで接着剤層の屈曲性が向上する。
【0048】
フィラー(C)は誘電正接の観点から、フィラー(C)の10GHzにおける誘電正接が0.005以下であることが好ましく、0.004以下であることがより好ましく、0.003以下であることが更に好ましい。
【0049】
フィラー(C)の平均粒子径D50は、0.1~25μmであることが好ましく、1~10μmがより好ましい。フィラー(C)の平均粒子径D50は、0.1~25μmであることで、塗工性の向上が期待できる。
【0050】
フィラー(C)の添加方法は特に制限されるものではなく、従来公知のいかなる方法を用いても良いが、具体的には、バインダー樹脂(A)の重合前または途中に重合反応液に添加する方法、3本ロールなどを用いてバインダー樹脂(A)にフィラーを混錬する方法、フィラーを含む分散液を用意しこれをバインダー樹脂(A)に混合する方法などが挙げられる。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等を接着性樹脂シートの物性に影響を及ぼさない範囲で用いることもできる。
【0051】
<その他添加剤>
この他、本発明の接着性樹脂シートには、目的を損なわない範囲で任意成分として更に、エネルギー線吸収剤、染料、顔料、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、イオン捕集剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤などを添加することができ、レーザー加工性向上の点から、エネルギー線吸収剤を配合することが好ましい。
【0052】
<接着性樹脂シートの誘電正接>
本発明の接着性樹脂シートの硬化物は、23℃において、(イ)測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下であり、(ロ)測定周波数20GHzでの誘電正接が0.007以下であり、かつ、(ハ)測定周波数40GHzでの誘電正接が0.01以下である。
誘電正接が上記の数値範囲であることで、電子デバイスにおける電気信号の伝送損失が改善する。
【0053】
特に近年では、電子機器においてsub6G帯(3.6~6GHz)、ミリ波帯(28~300GHz)の信号を用いた情報通信、伝送への移行が進んでいることから、当該電子機器に適用される本発明の接着性樹脂シートの硬化物である接着剤層が(イ)(ロ)(ハ)を満たすことは隣接する回路の電気信号の伝送損失改善に対して大いに効果を奏する。
【0054】
接着剤層の誘電正接は23℃において、測定周波数10GHzでの誘電正接が0.005以下であり、0.004以下であることが好ましく、0.003以下であることが更に好ましく、0.002以下であることが特に好ましい。測定周波数20GHzでの誘電正接は0.007以下であり、0.006以下であることが好ましく、0.005以下であることが更に好ましく、0.004以下であることが特に好ましい。測定周波数40GHzでの誘電正接は0.010以下であり、0.008以下であることが好ましく、0.007以下であることが更に好ましく、0.006以下であることが特に好ましい。
【0055】
接着剤層の誘電正接は、バインダー樹脂(A)の種類よって制御することができる。上記誘電正接とするためには、バインダー樹脂(A)の種類はスチレン系エラストマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタンが好ましい。
【0056】
本発明における特定の誘電正接を満たす接着剤層は、上述した特定のバインダー樹脂を用いること以外にも、硬化剤(B)の含有量や官能基当量、フィラー(C)の含有量、フィラー(C)の誘電正接をコントロールすることによって実現できる。
【0057】
<接着性樹脂シートの5%重量分解温度>
接着剤層の熱安定性は、JIS K7120で規定された熱重量測定方法に準拠した測定法によって求めることができる。本接着性樹脂シートを180℃で1時間加熱して得られる接着剤層は、JISK7120に規定された熱重量測定に準拠し、流入ガス:窒素、測定温度範囲:25℃~500℃、加熱速度:10℃/分、にて測定した質量減少率が5%であるときの温度が280℃以上である(以降、5%重量分解温度とも省略する)。本明細書での5%重量分解温度とは、測定前の接着剤層の重量を100%したとき、昇温によって重量が5%減少した時点での温度と定義する。接着剤層の5%重量分解温度が280℃以上であることで、本接着性樹脂シートの適用例、および本発明の別態様であるプリント配線板の電子部品実装工程のひとつであるはんだリフロー工程での揮発成分(アウトガス)を低減することができ、アウトガスの加熱膨張に伴う層間剥離や発泡(フクレ)といった現象を抑制することができ、はんだリフロー工程後のマイグレーション耐性が向上する。接着剤層の5%重量分解温度は290℃以上が好ましく、300℃以上であることがより好ましい。5%重量分解温度の上限は500℃以下が好ましく450℃以下がより好ましい。
【0058】
接着剤層の5%重量分解温度は、フィラー(C)の添加量の制御やバインダー樹脂(A)種、特定の分子量を有するバインダー樹脂(A)を用いる、特定の構造(芳香族構造)を有する硬化剤(B)を用いること、また硬化剤(B)の官能基当量により制御することができる。
【0059】
<接着性樹脂シートの硬化物のガラス転移温度(Tg)>
接着性樹脂シートの硬化物のガラス転移温度(以下、Tgともいう)の求め方について説明する。TgはDVA法(動的粘弾性分析法)測定装置等を使用して測定することができる。当該装置によって得られた接着剤層についての粘弾性曲線から、各温度の貯蔵弾性率/損失弾性率の比(tanδ)を求めることができ、tanδ曲線が極大点となる点をTgとして求めることができる。尚、tanδ曲線において極大点が複数存在する場合は最も高い極大点をTgとする。接着剤層のTgは、バインダー樹脂(A)のガラス転移温度、硬化剤(B)の量により制御することができる。
【0060】
<接着性樹脂シートの製造方法>
接着性樹脂シートの製造方法は、例えば、バインダー樹脂(A)と硬化剤(B)とフィラー(C)およびその他任意成分と溶剤を含む塗布用溶液を剥離フィルムの片面に塗布後、含まれている有機溶剤等の液状媒体を通常40~150℃で除去・乾燥し、形成された接着性樹脂シートの表面に別の剥離フィルムを積層することにより、両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを得ることができる。両面を剥離フィルムで積層することにより、接着性樹脂シートの表面汚染を予防することができる。剥離フィルムを剥がすことによって、接着性樹脂シートを単離することができる。
2つの剥離フィルムは、同種または異種のいずれも用いることができる。剥離性の異なる剥離フィルムを用いることによって、剥離力に強弱をつけることができるので順番に剥がしやすくなる。
【0061】
塗布方法としては、例えば、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等、公知の方法を選択することができる。
【0062】
接着性樹脂シートの乾燥後の厚みは、十分な接着性を発揮させる為、また取り扱い易さの点から、5μm~500μmであることが好ましく、10μm~100μmであることが更に好ましい。
【0063】
<接着性樹脂シート、剥離フィルム付き接着性樹脂シートの利用>
本発明の接着性樹脂シート等を用いて、銅張積層板やプリント配線板を得ることができる。
銅張積層板は、銅箔と絶縁性フィルムとが、本発明の接着性樹脂シートの硬化物である接着剤層を介して積層されたものである。
このような銅張積層板は、例えば、剥離フィルム付き接着性樹脂シートから剥離性フィルムを順次剥がし、接着性樹脂シート各面に銅箔と絶縁性フィルムをそれぞれ重ね(この工程を仮接着ということがある)、加熱、もしくは熱プレス工程を経ることにより、銅箔と絶縁性フィルムとの間の接着性樹脂シートを熱硬化することにより得られる。
あるいは、絶縁性フィルム上に接着性樹脂シート形成用の塗布用溶液を塗布・乾燥し、形成された接着性樹脂シート上に銅箔を重ね、加熱、もしくは熱プレス工程を経ることにより、銅箔と絶縁性フィルムとの間の接着性樹脂シートを熱硬化することにより、銅張積層板を得ることもできる。
銅張積層板は、銅箔/接着剤層/絶縁性フィルム/接着剤層/銅箔のように両面最外層をともに銅箔としてもよいし、さらに銅箔の内層を設けることもできる。複数の接着性樹脂シートを利用して銅箔や絶縁性フィルムを積層する場合、仮接着を複数回経た後に、複数の接着性樹脂シートの加熱硬化を1度に行うこともできる。
【0064】
<プリント配線板>
銅張積層板における銅箔をエッチング等によって加工し、信号回路やグランド回路を形成し、プリント配線板を得ることができる。剥離フィルム付き接着性樹脂シートから剥離フィルムを剥がし、接着性樹脂シート面を回路面に貼り合せ、加熱硬化することで、信号回路を保護したり、更なる多層化のための基体として利用したりすることもできる。
信号回路やグランド回路を設ける方法としては、例えば、銅張積層板における銅箔上に感光性エッチングレジスト層を形成し、回路パターンを持つマスクフィルムを通して露光させて、露光部のみを硬化させ、次いで未露光部の銅箔をエッチングにより除去した後、残っているレジスト層を剥離するなどして、銅箔から導電性回路を形成することができる。
【0065】
また、本発明のプリント配線板は銅張積層板を用いずに得ることもできる。
例えば、ポリエステルやポリイミド、液晶ポリマー、PTFEフィルム等のフレキシブル性、絶縁性のあるプラスチックフィルム上に、導体パターンをプリント技術によって形成した後、導体パターンを覆うように、本発明の接着性樹脂シートを介して保護層を重ね、加熱・加圧することによって、接着性樹脂シートを硬化させ、保護層を設けたフレキシブルプリント配線板を得ることもできる。
あるいは、フレキシブル性、絶縁性のあるプラスチックフィルム上にスパッタリングやメッキ等の手段で必要な回路のみを設け、以下同様に、本発明の接着性樹脂シートの硬化物を介して保護層が設けられたフレキシブルプリント配線板を得ることもできる。
【0066】
さらに、複数のフレキシブルプリント配線の間に、本発明の接着性樹脂シートを挟み、加熱・加圧することによって、接着性樹脂シートを硬化させることで、層間接着用樹脂シートとして利用することができ、多層フレキシブルプリント配線板等を得ることもできる。
【0067】
本発明のプリント配線板は、接着性樹脂シートを硬化させた接着剤層や、保護層を挟んで配置された複数の銅箔間での導通を行うために、ブラインドビアやスルーホールといったビア開口を設けることがある。ビア開口はレーザー光を用いたレーザー加工や、ドリルを用いたドリル加工によって形成されるのが一般的であるが、ビア開口の形状精度を高める観点から、レーザー加工を行うことが好ましい。
【0068】
本発明のプリント配線板を用いて、スマートフォン、タブレット端末、カメラ等の各種電子機器を製造することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中の「部」とあるのは「質量部」を、「%」とあるのは「質量%」をそれぞれ表すものとする。なお、実施例19は参考例である。
【0070】
なお、樹脂の酸価測定は次の方法で行なった。
《バインダー樹脂(A)の酸価》
酸価はJIS K0070に準じて測定した。共栓三角フラスコ中に試料約1gを精密
に量り採り、テトラヒドロフラン/エタノール(容量比:テトラヒドロフラン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定し、指示薬が淡紅色を30秒間保持した時を終点とした。酸価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)。
式(1)
酸価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0071】
《バインダー樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)の測定》
重量平均分子量(Mw)の測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC-8020」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本測定は、カラムに「LF-604」(昭和電工株式会社製:迅速分析用GPCカラム:6mmID×150mmサイズ)を直列に2本接続して用い、流量0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で行い、重量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0072】
《フィラー(C)の平均粒子径測定》
D50平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320(ベックマン・コールター社製)を使用し、トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、フィラー(C)を測定して得た数値であり、粒子径累積分布における累積値が50%の粒子径である。なお、屈折率の設定は1.6とした。
【0073】
《原料:バインダー樹脂(A)》
(A-1):スチレン系エラストマー、FG1901GT(マレイン酸変性されたスチレン系エラストマー)、酸価10mgKOH/g、重量平均分子量は95,000、Tgは80℃(クレイトン社製)。
(A-2):ポリイミド樹脂、酸価9mgKOH/g、重量平均分子量は45,000、Tgは50℃(トーヨーケム社製)
(A-3):ポリアミド樹脂、酸価10.6mgKOH/g、重量平均分子量は21,000、Tgは55℃(トーヨーケム社製)
(A-4): ポリウレタン樹脂、酸価10mgKOH/g、重量平均分子量は12,0000、Tgは25℃(トーヨーケム社製)
(A-5):ポリエステル樹脂、バイロン637、酸価5mgKOH/g、重量平均分子量は30,000、Tgは21℃のポリエステル樹脂(東洋紡社製)
【0074】
《原料:硬化剤(B)》
(B-1):YX-8800(グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、官能基当量180g/eq、2官能)三菱ケミカル社製
(B-2):MIR-3000(ビフェニルアラルキル型マレイミド樹脂、官能基当量275g/eq)日本化薬社製
(B-3):TKA-100(イソシアヌレート型イソシアネート化合物、官能基当量:180g/eq、3官能)旭化成社製
(B-4):オルガチックスZC-150(有機ジルコニア化合物、官能基当量122g/eq、4官能)マツモトファインケミカル社製
(B-5):カルボジライトV―05(カルボジイミド基含有化合物、官能基当量:262g/eq、多官能)日清紡ケミカル社製
(B-6):BAPP(ポリアミノ基含有化合物、官能基当量205g/eq、2官能)セイカ社製
【0075】
《原料:フィラー(C)》
(C-1):SC2050-MB(シリカ、平均粒子径D50;0.5μm)アドマテックス社製
(C-2):SP-2(窒化ホウ素、平均粒子径D50;4.0μm)デンカ社製
(C-3):KT-300(フッ素系フィラー、平均粒子径D50;10.0μm)喜多村社製
(C-4):E101―S(液晶ポリマー、平均子粒径D50;17.5μm)住友化学社製
(C-5):エクソリットOP935(ホスフィン酸アルミニウム塩、平均子粒径D50;2.5μm)クラリアント社製
(C-6):H-Tグレード(アルミナ、平均粒子径D50;1.2μm)トクヤマ社製
【0076】
[実施例1]
<<塗布液の製造>>
固形分換算でバインダー樹脂(A-1)を100部、硬化剤(B-1)を5部、フィラー(C-1)を10部容器に仕込み、不揮発分濃度が30%になるように混合溶剤(トルエン:MEK=9:1(重量比))を加えディスパーで10分攪拌して塗布液を得た。
【0077】
<<接着性樹脂シートの製造>>
得られた塗布液を、ドクターブレードを使用して乾燥後の厚さが25μmとなるように厚さ50μmの重剥離フィルム(重離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に均一塗工して100℃で2分乾燥させた後、室温まで冷却し片面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを得た。次いで、得られた片面剥離フィルム付き接着性樹脂シートの接着性樹脂シート面を厚さ50μmの軽剥離フィルム(軽離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に重ね合わせ、重剥離フィルム/接着性樹脂シート/軽剥離フィルムからなる両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを得た。
後述する方法に従って、接着性樹脂シートの硬化物について、10GHz、20GHz、40GHzにおける誘電正接、窒素雰囲気下における5%重量分解温度、ガラス転移温度(Tg)を測定した。また後述する方法に従って、接着性樹脂シートの硬化物である接着剤層の10GHz、20GHz、40GHzにおける誘電正接、接着性樹脂シートを用いてなる積層配線板Aのマイグレーション耐性並びに、屈曲性に関して評価し、結果を表1~3に示す。
【0078】
<10GHz、20GHz、40GHzにおける誘電正接>
両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを4枚用意し、剥離フィルムを順次剥がし、露出した接着性樹脂シート同士を重ね合わせ、真空ラミネーター(ニチゴーモートン製 小型加圧式真空ラミネーターV-130)で貼り合せることで厚さ100μmの接着性樹脂シートが、重剥離フィルムと軽剥離フィルムの間に挟まれた両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを得た。尚、真空ラミネート条件は加熱温度90℃、真空時間60秒、真空到達圧2hPa、圧力0.4MPa、加圧時間60秒で行った。
次いで、両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを180℃、2MPaにて1時間プレスし、剥離フィルムを剥がし、接着性樹脂シートの硬化物を測定用試験片とした。測定用試験片を、23℃相対湿度50%の雰囲気下で24時間以上保管後、同温湿度環境下、エー・イー・ティー社製の誘電率測定装置を用い、空洞共振器法により、測定周波数10GHzにおける誘電正接を求めた。測定周波数20GHz、40GHzにおいては同様の試験片をそれぞれ対応する周波数の共振器を用いて測定を行った。
【0079】
<ガラス転移温度(Tg)>
<測定用の接着剤層の作成>
各実施例、各比較例で得られた塗布液を、ドクターブレードを使用して乾燥後の厚さが200μmとなるように厚さ50μmの重剥離フィルム(重離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に均一塗工して100℃で2分乾燥させた後、室温まで冷却し片面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを形成した。
次いで、得られた片面剥離フィルム付き接着性樹脂シートの接着性樹脂シート面を厚さ50μmの軽剥離フィルム(軽離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に重ね合わせ、重剥離フィルム/接着性樹脂シート/軽剥離フィルムからなる両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを得た。
得られた両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートを、180℃、1時間、2MPaで熱硬化させ、重剥離フィルムと軽剥離フィルムを剥離することで200μmの接着剤層を得た。
【0080】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
得られた接着剤層から5mm×30mmの大きさに切り出した測定用試験片について、動的粘弾性測定装置「DVA200」(アイティー計測制御(株)製)を用い、0℃まで冷却後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させ、振動周波数10Hzで粘弾性を測定した。
得られた粘弾性曲線から貯蔵弾性率を求めると共に、損失弾性率から損失正接(tanδ)を各温度で算出し、プロットを行い、tanδ曲線が極大となる点を算出した。尚、極大点が複数存在する場合には、温度が最も高い値をその硬化物のtanδピークとする。
【0081】
<マイグレーション耐性>
図1を参照してマイグレーション耐性の評価方法を説明する。厚さ12μmの銅箔と厚さ25μmポリイミドフィルムの積層体をエッチング処理することで
図1(1)の平面図に示した通り、ポリイミドフィルム1上にライン/スペース=0.05mm/0.05mmの、カソード電極接続点2’を備えたカソード電極用櫛型信号配線2と、アノード電極接続点3’を備えたアノード電極用櫛型信号配線3とをそれぞれ形成した。
次いで
図1(2)の平面図に示した通り、カソード電極用櫛型信号配線2およびアノード電極用櫛型信号配線3を覆い、カソード電極接続点2’付近およびアノード電極接続点3’付近が露出する程度の大きさに、両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートの軽剥離フィルムを剥がした面を貼り付け、真空ラミネーターにて仮接着した。その後、重剥離フィルムを剥離し、その上にCCL5の絶縁層5bが接着性樹脂シートと接するようにして、真空ラミネーターで仮接着し、熱プレスにて180℃、1時間、2MPaで熱硬化させ接着剤層とし、評価用積層配線板Aを得た。
【0082】
次いで、評価用積層板Aに、はんだフロート処理を行った。288℃の溶融はんだに評価用積層板Aのポリイミド面を下にして10秒間浮かべ、試料を取り出した。
【0083】
その後取り出した試料を85℃-85%RH(相対湿度)の雰囲気下で、アノード電極接続点3’にアノード電極を接続し、カソード電極接続点2’にカソード電極を接続した上で、電圧50Vを印加し1000時間継続した。そして1000時間を経過するまでの抵抗値の変化を継続して測定した。なお「リークタッチ」とは、短絡による絶縁破壊があり、瞬間的に抵抗が低下し電流が流れることをいう。リークタッチがない場合は絶縁性が低下しない。評価基準は以下の通りである。
A:1000時間経過後の抵抗値が1×1010Ω以上、かつリークタッチ無し。極めて良好。
B:1000時間経過後の抵抗値が1×108Ω以上、1×1010Ω未満かつリークタッチ無し。良好。
C:1000時間経過後の抵抗値が1×107Ω以上、1×108Ω未満かつリークタッチ1回有り。実用上問題ない。
D:1000時間経過後の抵抗値が1×107Ω未満、または、500時間経過後の抵抗値が1×107Ω以上、かつリークタッチ3回以上有り。実用不可。
【0084】
<屈曲性>
両面剥離フィルム付き接着性樹脂シートの軽剥離フィルムを剥がし、ライン/スペース=0.05mm/0.05mmの回路基板上へ真空ラミネートした。その後、マイグレーション耐性と同様の手順で、評価用積層配線板Aを形成した。
この積層配線板Aを、CCL5が外側になるように180度折り曲げて、折り曲げ部位に500gの錘を5秒間載せた後、折り曲げた箇所を元の平面状態に戻して、再び500gの錘を5秒間載せ、これを折り曲げ回数を1回とした。接着剤層にクラックが発生する回数をカウントし、以下基準で評価した。
クラックが発生したかどうかは積層配線板Aを剃刀で裁断し、その断面を(株)キーエンス製マイクロスコープ「VHX-900」で観察することで確認した。
500g荷重を掛けた折り曲げ部にクラックが発生までの折り曲げ回数をカウントした。評価基準は以下の通りである。
A:5回以上。極めて良好。
B:3回以上、5回未満。良好。
C:2回以上、3回未満。実用上問題ない。
D:2回未満。実用不可。
【0085】
<窒素雰囲気下における5%重量分解温度>
上記、誘電正接測定と同様に作製した接着性樹脂シートの硬化物をTGDTA220(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて測定を行う。アルミ製オープンサンプルパンを使用して、試料5mg、窒素ガス流量エアー毎分200mL、開始温度25℃、昇温速度毎分10℃の条件で実施し、500℃まで測定を行った。
以下式(2)で重量変化を計算し、横軸に温度、縦軸に重量変化をプロットして、5%重量変化があった温度を5%重量分解温度とした。
式(2)
重量変化(%)=温度ごとの重量(g)/測定前硬化物の重量(g)×100
下記の評価基準にて耐熱性の評価とした。
A:300℃以上。極めて良好。
B:290℃以上、300℃未満。良好。
C:280℃以上、290℃未満。実用上問題ない。
D:280℃未満。実用不可。
【0086】
[実施例2~25、比較例1~2]
表1~3に示すように、バインダー樹脂(A)、硬化剤(B)、フィラー(C)の種類や量を変更した以外は、実施例1と同様にして、接着性樹脂シートを得、同様に評価した。
【0087】
【0088】
【0089】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の接着性シートの硬化物は高周波数帯(10GHz、20GHz、40GHz)で優れた低い誘電正接を発揮し、はんだリフロー工程後において高いマイグレーション耐性、優れた屈曲性を有する。これらは高い信頼性や屈曲性が求められるプリント配線板や電子機器等の製造に好適である。
【符号の説明】
【0091】
1 ポリイミドフィルム
2 カソード電極用櫛形信号配線
2’ カソード電極接続点
3 アノード電極用櫛形信号配線
3’ アノード電極接続点
4 接着性樹脂シートの硬化物
5 片面CCL
5a 銅箔
5b 絶縁層