(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】スリット銅材、電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20230905BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20230905BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230905BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20230905BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B5/00 Z
C22F1/00 604
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
C22F1/00 651A
(21)【出願番号】P 2021170964
(22)【出願日】2021-10-19
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2020178072
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】福岡 航世
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122112(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181593(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170699(WO,A1)
【文献】特開2018-016823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C22F 1/00
C22F 1/08
H01B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuの純度が99.96mass%以上であり、板幅Wと板厚tとの比W/tが10以上とされ、
導電率が97.0%IACS以上とされ、
板厚中心部において、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が2.0以上30.0未満であ
り、
曲げ加工性評価として、曲率半径(R)と板幅(W)の比率(R/W)を1.00とした条件でエッジワイズ曲げ加工を行った際
に曲げ部が破断しないことを特徴とするスリット銅材。
【請求項2】
前記板厚中心部の平均結晶粒径Aが50μm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載のスリット銅材。
【請求項3】
前記板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスリット銅材。
【請求項4】
圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のスリット銅材。
【請求項5】
板厚中心部において、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が10.0未満であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のスリット銅材。
【請求項6】
厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のスリット銅材。
【請求項7】
表面に金属めっき層を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のスリット銅材。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載されたスリット銅材を用いて作られたことを特徴とする電子・電気機器用部品。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載されたスリット銅材からなることを特徴とするバスバー。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載されたスリット銅材を用いて作られたことを特徴とする放熱基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品に適したスリット銅材、このスリット銅材を用いて作られた電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品には、導電性の高い銅又は銅合金が用いられている。
ここで、電子機器や電気機器等の大電流化にともない、電流密度の低減およびジュール発熱による熱の拡散のために、これら電子機器や電気機器等に使用される電子・電気機器用部品においては、導電率に優れた無酸素銅等の純銅材が適用されている。
しかしながら、従来の純銅材においては、電子機器や電気機器等に成形する際に必要となる曲げ加工性が不十分であり、特にエッジワイズ曲げなどの厳しい加工を施した際に割れが生じるなどの問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1には、0.2%耐力を150MPa以下とした無酸素銅で形成された平角銅線を備えた絶縁平角銅線が開示されている。
特許文献1に記載された銅圧延板においては、0.2%耐力を150MPa以下に抑えているので、エッジワイズ曲げ加工を施した際の曲げ加工部分における耐電圧特性の低下を抑制することが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、上述の電子・電気機器用部品を構成する銅材においては、大電流が流された際の発熱を十分に抑制するために、また、純銅材が用いられていた用途に使用可能なように、導電率をさらに向上させることが求められている。
また、最近では、上述の電子・電気機器用部品において、さらに複雑な曲げ加工を行うことがあり、従来よりもさらに曲げ加工性を向上させる必要があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高い導電率、および、優れた曲げ加工性を有するスリット銅材、このスリット銅材を用いて作られた電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、スリット銅材において、さらに曲げ加工性を向上させるためには、結晶組織を適正に制御することが必要であることが明らかになった。すなわち、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値を適正に制御することで、従来よりも高い水準で曲げ加工性を向上させることが可能となるとの知見を得た。
【0008】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の一態様に係るスリット銅材は、Cuの純度が99.96mass%以上であり、板幅Wと板厚tとの比W/tが10以上とされ、導電率が97.0%IACS以上とされ、板厚中心部において、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が2.0以上30.0未満であり、曲げ加工性評価として、曲率半径(R)と板幅(W)の比率(R/W)を1.00とした条件でエッジワイズ曲げ加工を行った際に、曲げ部が破断しないことを特徴としている。
【0009】
なお、スリット銅材とは、銅板条材を所定の幅にスリット加工したものである。
また、本明細書において、板厚中心部とは、板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域とする。
【0010】
この構成のスリット銅材によれば、Cuの純度が99.96mass%以上とされているので、導電性を確保することができ、導電率を97.0%IACS以上とすることが可能となる。
そして、板厚中心部において、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が2.0以上30.0未満とされているので、曲げ加工性を十分に向上させることが可能となる。
【0011】
ここで、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、前記板厚中心部の平均結晶粒径Aが50μm以下とされていることが好ましい。
この場合、前記板厚中心部の平均結晶粒径Aが50μm以下とされているので、曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。また、スリット時のバリの発生を抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、前記板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされているので、加工時に応力が局所的に集中することを抑制でき、曲げ加工性をさらに向上させることができる。
なお、本明細書において、板厚表層部とは、板厚方向における表面から全厚の20%までの領域とする。
【0013】
さらに、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満であることが好ましい。
この場合、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満に抑えられているので、曲げ加工性をさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、板厚中心部において、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が10.0未満であることが好ましい。
この場合、圧延集合組織が少なくなり、曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内であってもよい。
この場合、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内であることから、このスリット銅材に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
【0016】
さらに、本発明の一態様に係るスリット銅材においては、表面に金属めっき層を有することが好ましい。
この場合、スリット銅材は、スリット銅材本体と、スリット銅材本体の表面に設けられた金属めっき層とを有すると言うこともできる。スリット銅材本体は、前述した本発明の一態様に係るスリット銅材と同一の特徴を有する。表面に金属めっき層を有しているので、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
なお、金属めっき層としては、例えば、Snめっき、Agめっき、Niめっき等が挙げられる。また、本発明の一態様においては、「Snめっき」は純Snめっき又はSn合金めっきを含み、「Agめっき」は純Agめっき又はAg合金めっきを含み、「Niめっき」は純Niめっき又はNi合金めっき、を含む。
【0017】
本発明の一態様に係る電子・電気機器用部品は、上述のスリット銅材を用いて作られたことを特徴としている。なお、本発明の一態様における電子・電気機器用部品とは、バスバー、放熱基板等を含むものである。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述のように優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、複雑な曲げ加工を行うことができ、部品の小型化を図ることが可能となる。
【0018】
本発明の一態様に係るバスバーは、上述のスリット銅材からなることを特徴としている。
この構成のバスバーは、上述のように優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、複雑な曲げ加工を行うことができ、バスバーの小型化を図ることが可能となる。
【0019】
本発明の一態様に係る放熱基板は、上述のスリット銅材を用いて作られたことを特徴としている。
この構成の放熱基板は、上述のように優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、複雑な曲げ加工を行うことができ、放熱基板の小型化を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、高い導電率、および、優れた曲げ加工性を有するスリット銅材、このスリット銅材を用いて作られた電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態であるスリット銅材の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態であるスリット銅材について説明する。
本実施形態であるスリット銅材においては、銅板条材を所定の幅にスリット加工して得られたものである。本実施形態であるスリット銅材においては、板幅Wと板厚tとの比W/tが10以上とされている。
【0023】
本実施形態であるスリット銅材は、Cuの純度が99.96mass%以上とされている。従って、スリット銅材は、Cu:99.96mass%以上を含有し、残部は不可避不純物であると言うこともできる。
また、本実施形態であるスリット銅材においては、導電率が97.0%IACS以上とされている。
そして、本実施形態であるスリット銅材においては、板厚中心部において、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が2.0以上30.0未満とされている。
【0024】
また、本実施形態であるスリット銅材においては、板厚中心部の平均結晶粒径Aが50μm以下とされていることが好ましい。
さらに、本実施形態であるスリット銅材においては、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされていることが好ましい。
なお、本実施形態において、板厚中心部とは、板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域とする。また、板厚表層部とは、板厚方向における表面から全厚の20%までの領域とする。
【0025】
さらに、本実施形態であるスリット銅材においては、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満であることが好ましい。
【0026】
また、本実施形態であるスリット銅材においては、板厚中心部において、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が10.0未満であることが好ましい。
【0027】
ここで、本実施形態のスリット銅材において、上述のように成分組成、組織、各種特性を規定した理由について以下に説明する。
【0028】
(Cu)
Cuの含有量が高く、相対的に不純物濃度が少ない程、導電率が高くなる。このため、本実施形態では、Cuの含有量を99.96mass%以上としている。
なお、本実施形態のスリット銅材において、さらに導電率を向上させるためには、Cuの含有量を99.97mass%以上とすることが好ましく、99.98mass%以上とすることがより好ましく、99.99mass%以上とすることがさらに好ましい。Cuの含有量の上限は特に制限はないが、製造コストが増加するため99.9995mass%未満とする。
【0029】
(その他の不可避不純物)
上述した元素以外のその他の不可避的不純物としては、Al,Ag, As, B,Ba,Be,Bi, Ca,Cd,Cr,Sc,希土類元素,V,Nb,Ta,Mg,Mo,Ni,W,Mn,Re,Ru,Sr,Ti,Os,P, Co,Rh,Ir,Pb,Pd,Pt,Au,Zn,Zr,Hf,Hg,Ga,In,Ge,Y,Tl,N,S, Sb, Se, Si,Sn,Te , Li等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
ここで、これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.04mass%以下とすることが好ましく、0.03mass%以下とすることがさらに好ましく、0.02mass%以下とすることがより好ましく、さらには0.01mass%以下とすることが好ましい。
また、これらの不可避不純物のそれぞれの含有量の上限は、30massppm以下とすることが好ましく、20massppm以下とすることがさらに好ましく、15massppm以下とすることがより好ましい。
【0030】
(φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値)
オイラー角は試料座標系と個々の結晶粒の結晶軸との関係により結晶方位を表しており、結晶軸(X-Y-Z)が一致した状態から、(Z-X-Z)軸周りにそれぞれ(φ1,Φ,φ2)回転させることで結晶方位が表現される。3次元オイラー空間に級数展開法によりODF(crystal orientation distribution function)を表示することで、測定範囲の結晶方位密度の分布を確認することが可能となる。この方位密度分布は標準粉末試料等で得られる完全にランダムな配向状態を1としており、例えばある方位の方位密度が2である場合、その方位はランダムな配向の2倍存在しているという意味になる。
【0031】
板厚中心部において、オイラー角(φ1,Φ,φ2)で表した際にφ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の集合組織は特定の熱処理と圧延加工の組み合わせによって形成される再結晶組織であり、この集合組織の方位密度の平均値が2.0以上と高い場合には、良好な曲げ加工性を得ることができる。一方、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の方位密度の平均値が過剰に高い場合には、同じ結晶方位を持つ結晶粒同士が隣接する可能性高まり、必然的に大角粒界が減少する。すなわち結晶粒は粗大化するため、曲げ加工性が劣化するおそれがある。
よって、本実施形態では、板厚中心部において、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の方位密度の平均値を2.0以上30.0未満の範囲内とする。
なお、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の方位密度の平均の下限は、2.5以上とすることが好ましく、3.0以上とすることがより好ましく、3.5以上とすることがさらに好ましい。一方、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の方位密度の平均の上限は、20.0未満とすることが好ましい。
【0032】
(φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値)
板厚中心部において、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の集合組織は圧延加工で形成される圧延集合組織であり、曲げ加工性を劣化させる。
このため、本実施形態においては、板厚中心部において、EBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角で表したとき、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値を10未満とすることが好ましい。
ここで、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値は5.0未満とすることがより好ましく、3.0未満とすることがさらに好ましい。φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値の下限は特に制限はないが、0.1超えが好ましい。
【0033】
(導電率:97.0%IACS以上)
本実施形態である銅合金においては、導電率が97.0%IACS以上とされている。
導電率を97.0%IACS以上とすることにより、通電時の発熱を抑えて、純銅材の代替として端子、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品として良好に使用することが可能となる。
なお、導電率は97.5%IACS以上であることが好ましく、98.0%IACS以上であることがさらに好ましく、98.5%IACS以上であることがより好ましく、99.0%IACS以上であることが一層好ましい。導電率の上限値は、特に限定されないが、103.0%IACS以下が好ましい。
【0034】
(板厚中心部の平均結晶粒径A)
本実施形態であるスリット銅材において、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)における平均結晶粒径Aが微細であると、優れた曲げ加工性を得られる。また、スリット加工時にバリの発生を抑制できるため、曲げ加工の際に、バリを起点として発生する割れを抑制することも可能となる。
このため、本実施形態では、板厚中心部の平均結晶粒径Aを50μm以下とすることが好ましい。
ここで、本実施形態のスリット銅材において、さらに優れた曲げ加工性を得るためには、板厚中心部の平均結晶粒径Aを40μm以下とすることがさらに好ましく、30μm以下とすることがより好ましい。また、板厚中心部の平均結晶粒径Aの下限に特に制限はないが、実質的には1μm以上となる。
【0035】
(板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/A)
本実施形態であるスリット銅材において、結晶粒径が不均一であると、加工時に粗大粒の粒界に応力集中が発生し、局所的な変形が起こり、割れの発生が加速されるおそれがある。
このため、本実施形態では、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)の平均結晶粒径Aと板厚表層部(板厚方向における表面から全厚の20%までの領域)の平均結晶粒径Bとの比B/Aを、0.80以上1.20以下の範囲内とすることが好ましい。
ここで、本実施形態のスリット銅材において、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aの下限は0.82以上であることがより好ましく、0.85以上であることがさらに好ましい。一方、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aの上限は1.18以下であることがより好ましく、1.15以下であることがさらに好ましい。
なお、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bは、後述する実施例に記載されたように同一の方法で測定される。
【0036】
(圧延方向に平行な方向における0.2%耐力:150MPa未満)
本実施形態であるスリット銅材において、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満である場合には、曲げ加工時の割れを抑制できる。
ここで、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力は140MPa未満であることがより好ましく、130MPa未満であることがさらに好ましい。
なお、0.2%耐力の下限は70MPa以上であることが好ましい。
【0037】
次に、このような構成とされた本実施形態であるスリット銅材の製造方法について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0038】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して銅溶湯を製出する。ここで、銅原料は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
溶解時においては、水素濃度の低減のため、H2Oの蒸気圧が低い不活性ガス雰囲気(例えばArガス)による雰囲気での溶解を行い、溶解時の保持時間は最小限に留めることが好ましい。
そして、得られた銅溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0039】
(均質化/溶体化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化および溶体化のために加熱処理を行う。鋳塊の内部には、凝固の過程において不純物が偏析で濃縮することにより発生した金属間化合物等が存在することがある。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、鋳塊を300℃以上1080℃以下にまで加熱する加熱処理を行う。これにより、鋳塊内において、不純物を均質に拡散させる。なお、この均質化/溶体化工程S02は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
【0040】
ここで、加熱温度が300℃未満では、溶体化が不完全となり、母相中に金属間化合物が多く残存するおそれがある。一方、加熱温度が1080℃を超えると、銅素材の一部が液相となり、組織や表面状態が不均一となるおそれがある。よって、加熱温度を300℃以上1080℃以下の範囲に設定している。
なお、後述する粗圧延の効率化と組織の均一化のために、前述の均質化/溶体化工程S02の後に熱間圧延を実施してもよい。熱間加工温度は、300℃以上1080℃以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
(粗圧延工程S03)
所定の形状に加工するために、粗加工を行う。なお、この粗圧延工程S03における温度条件は特に限定はないが、再結晶を抑制するために、あるいは寸法精度の向上のため、冷間または温間圧延となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。ここで、材料中に均一にひずみが導入されることで、後述する中間熱処理工程S04で均一な再結晶粒が得られる。また、中間熱処理工程S04での再結晶によって形成されるφ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値を2.0以上30.0未満とするためには、総加工率は85%以上とすることが好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上とすることがより好ましい。また、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aを1に近づけるために、また生産性を向上させるために、1パス当たりの加工率は20%以上とすることが好ましく、30%以上がさらに好ましく、40%以上とすることがより好ましい。
【0042】
(中間熱処理工程S04)
粗圧延工程S03後に、再結晶組織にするために熱処理を実施する。なお、粗圧延工程S03と中間熱処理工程S04は繰り返し実施しても良い。
ここで、この中間熱処理工程S04が実質的に最後の再結晶熱処理となるため、この工程で得られた再結晶組織の結晶粒径は最終的な結晶粒径にほぼ等しくなる。そのため、この中間熱処理工程S04では、板厚中心の平均結晶粒径が50μm以下となるように、適宜、熱処理条件を選定することが好ましい。
また、再結晶によって形成されるφ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値を2.0以上30.0未満とするためには、中間熱処理工程S04の昇温速度を1℃/秒以上50℃/秒以下、到達温度を200℃以上700℃以下、保持時間を10秒以上500秒以下、降温速度を1℃/秒以上50℃/秒以下とすることが好ましい。
【0043】
(仕上圧延工程S05)
中間熱処理工程S04後の銅素材を所定の形状に加工するため、仕上圧延を行う。なお、この仕上圧延工程S05における温度条件は、圧延時の再結晶を抑制するため、冷間、または温間加工となる-200℃から200℃の範囲内とすることが好ましく、特に常温が好ましい。
また、圧延率は、最終形状に近似するように適宜選択されることになるが、ここでの圧延率が高すぎると、中間熱処理工程S04の再結晶によって形成されたφ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度が減少してしまう。また、圧延集合組織であるφ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度も過剰に増加する。このため、圧延率を60%以下とすることが好ましく、圧延率を50%以下とすることがより好ましい。
【0044】
(機械的表面処理工程S06)
仕上圧延工程S05後に、機械的表面処理を行う。機械的表面処理は、所望の形状がほぼ得られた後に表面近傍に圧縮応力を与える処理であり、表面近傍の圧縮応力によって曲げ加工時に発生する割れを抑制させ、曲げ加工性を向上させる効果がある。
機械的表面処理は、ショットピーニング処理、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨、テンションレベラー処理、1パス当りの圧下率が低い軽圧延(1パス当たりの圧下率1~10%とし3回以上繰り返す)など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
【0045】
(仕上熱処理工程S07)
次に、機械的表面処理工程S06によって得られた銅材に対して、残留ひずみの除去のため、仕上熱処理を実施してもよい。
この際、熱処理温度が高すぎると再結晶により、中間熱処理工程S04で形成された集合組織や結晶粒径が変化するため、熱処理温度は、100℃以上800℃以下の範囲内とすることが好ましい。例えば200℃では0.1秒から100秒程度保持することが好ましく、100℃では1分から100時間保持することが好ましい。この熱処理は、非酸化雰囲気または還元性雰囲気中で行うことが好ましい。熱処理の方法は特に限定はないが、製造コスト低減の効果から、連続焼鈍炉による短時間の熱処理が好ましい。
さらに、上述の仕上圧延工程S05、機械的表面処理工程S06、仕上熱処理工程S07を、繰り返し実施してもよい。
また、仕上熱処理工程S07の後に金属めっき(Snめっき、Niめっき、又はAgめっき等)を施してもよい。
【0046】
(スリット加工工程S08)
仕上熱処理工程S07によって得られた銅材に対して、所望の形状に加工するためにスリット加工を行う。スリット加工はスリットカッタによるせん断加工で行われるが、この際に銅材に発生するバリは、その後のエッジワイズ曲げ等の加工時に、応力集中の起点となり、加工性を大きく劣化させる。スリット加工時のクリアランスが大きくなれば、バリも大きくなる傾向にある。しかし、スリット加工時のクリアランスが過剰に小さい場合はスリットの切口面の全面がせん断面となってしまい、破断面が形成されないため、塑性バリと呼ばれる大きなバリが発生してしまう。そのため、スリット加工時のクリアランスは適切な値を取る必要があり、クリアランスと板厚との比(クリアランス/板厚)は0.5%以上、12%以下とすることが好ましく、1%以上、10%以下とすることがさらに好ましく、2%以上、8%以下とすることが最も好ましい。
なお、スリット加工後に、スリット加工時に発生したバリを取り除くために、バリ取りを行ってもよい。バリ取りはサンドペーパー、研磨シート、ロータリーバー、研磨ディスク、研磨ベルト、ブラスト処理など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
また、バリのない切口面を得るために精密せん断法のスリット加工を用いてもよい。具体的には、半せん断と逆せん断で材料を分離するカウンタカット法や、半せん断とロールによる押圧で材料を分離するロールスリット法など一般的に使用される種々の方法が使用できる。
【0047】
このようにして、本実施形態であるスリット銅材が製出されることになる。
ここで、スリット銅材の板厚を0.1mm以上とした場合には、大電流用途での導体としての使用に適している。また、スリット銅材の板厚を10.0mm以下とすることにより、プレス機の荷重の増大を抑制し、単位時間あたりの生産性を確保することができ、製造コストを抑えることができる。
このため、スリット銅材の板厚は0.1mm以上10.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、スリット銅材の板厚の下限は0.5mm以上とすることが好ましく、1.0mm以上とすることがより好ましい。一方、スリット銅材の板厚の上限は9.0mm未満とすることが好ましく、8.0mm未満とすることがより好ましい。
【0048】
以上のような構成とされた本実施形態であるスリット銅材においては、Cuの純度が99.96mass%以上とされているので、導電性を確保することができ、導電率を97.0%IACS以上とすることが可能となる。
そして、板厚中心部において、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が2.0以上30.0未満とされているので、曲げ加工性を十分に向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施形態であるスリット銅材において、板厚中心部の平均結晶粒径Aが50μm以下とされている場合には、曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。また、スリット時のバリの発生を抑制でき、曲げ加工時におけるバリを起点とした割れの発生を抑制することができる。
【0050】
さらに、本実施形態であるスリット銅材において、板厚中心部の平均結晶粒径Aと板厚表層部の平均結晶粒径Bとの比B/Aが0.80以上1.20以下の範囲内とされている場合には、加工時に応力が局所的に集中することを抑制でき、曲げ加工性をさらに向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態であるスリット銅材において、圧延方向に平行な方向における0.2%耐力が150MPa未満である場合には、曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。
【0052】
さらに、本実施形態であるスリット銅材において、板厚中心部において、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値が10.0未満である場合には、圧延集合組織が少なくなり、曲げ加工性をさらに向上させることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態であるスリット銅材において、厚さが0.1mm以上10mm以下の範囲内である場合には、このスリット銅材に対して打ち抜き加工や曲げ加工を施すことで、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品を成形することができる。
さらに、本実施形態であるスリット銅材においては、表面に金属めっき層を有する場合には、バスバー、放熱基板等の電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0054】
本実施形態である電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板は、上述のように高い耐力と優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を用いて製造されているので、小型化および軽量化を図ることが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態であるスリット銅材、電子・電気機器用部品(バスバー、放熱基板等)について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、スリット銅材の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
帯溶融精製法により、純度99.9mass%以上とされたいわゆる3NCu、もしくは純度99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuからなる原料を高純度グラファイト坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた雰囲気炉内において高周波溶解した。
得られた銅溶湯を、断熱材(イソウール)鋳型に注湯することにより、表1,2に示す成分組成の鋳塊を製出した。なお、鋳塊の大きさは、厚さ約70mm×幅約500mm×長さ約150~200mmとした。
【0057】
得られた鋳塊に対して、Arガス雰囲気中において、900℃、1時間の加熱を行い、次いで酸化被膜を除去するために表面研削を実施し、所定の大きさに切断を行った。
その後、適宜最終厚みになる様に厚みを調整して切断を行った。切断されたそれぞれの試料は表1,2に記載の条件で粗圧延を行った。次いで、表1,2に記載の条件中間熱処理を実施した。
【0058】
次に、表1,2に記載された条件にて仕上圧延工程を実施した。
そして、これらの試料に表1,2に記載された手法で機械的表面処理工程を施した。
なお、バフ研磨は、♯1000の研磨紙を用いて行った。
サンドペーパー研磨は、♯400の研磨紙を用いて行った。
グラインダー研磨は、番手♯400の軸受ホイルを用い、1分間に4500回転の速度で研磨を行った。
その後、表1,2に記載の条件で仕上熱処理を行った。次いで、クリアランス/板厚比が2%から8%となる条件でスリット加工、または精密せん断法のスリット加工(カウンタカット法とロールスリット法)を行い、それぞれ表1,2に記載された板厚t、板幅Wと板厚tとの比W/tとなるようにスリット銅材を製出した。
【0059】
得られた条材について、以下の項目について評価を実施した。
【0060】
(組成分析)
得られた鋳塊から測定試料を採取し、銅電解重量法(JIS H 1051)を用いて銅成分を測定した。なお、測定は試料中央部と幅方向端部の2カ所で測定を行い、銅成分量の多い方をそのサンプルの銅成分量とした。その結果、表1,2に示す成分組成であることを確認した。
【0061】
(平均結晶粒径)
得られた特性評価用条材から幅20mm×長さ20mmに切り出し、圧延の幅方向に垂直な面、すなわちTD面(Tranverse Direction)を観察面として樹脂に埋め、観察用サンプルとした。SEM-EBSD(Electron Backscatter Diffraction Patterns)測定装置によって、下記のように、平均結晶粒径を測定した。表3,4に測定した結晶粒径を示した。
圧延の幅方向に垂直な面を、水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った。次いで、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行って測定用サンプルを得た。その後、EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製(現 AMETEK社) OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製(現 AMETEK社)OIM Data Analysis ver.7.3.1)を用いて、電子線の加速電圧15kV、10000μm2以上の測定面積にて、0.25μmの測定間隔のステップで観察面をEBSD法により測定した。測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより各結晶粒の方位差の解析を行った。そして、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間の境界を大角粒界とし、隣接する測定点間の方位差が15°未満となる測定点間の境界を小角粒界とした。この際、双晶境界も大角粒界とした。また、各サンプルで100個以上の結晶粒が含まれるように測定範囲を調整した。得られた方位解析の結果から大角粒界を用いて結晶粒界マップを作成した。JIS H 0501の切断法に準拠し、結晶粒界マップに対して、縦、横の所定長さの線分を5本ずつ引き、完全に切られる結晶粒の数を数え、その切断長さ(結晶粒界で切り取られた線分の長さ)の合計を結晶粒の数で割り平均値を得た。この平均値を平均結晶粒径とした。
そして、板厚中心部(板厚方向における表面から全厚の25%から75%までの領域)の平均結晶粒径Aと、板厚表層部(板厚方向における表面から全厚の20%までの領域)の平均結晶粒径Bを算出した。
【0062】
(方位密度)
上記の測定用サンプルを用い、電子線の加速電圧15kVにて、板厚中心部の平均結晶粒径Aの10分の1以下となる測定間隔のステップで観察面(TD面)をEBSD測定装置及びOIM解析ソフトにより測定した。板厚方向における表面から全厚の25%から75%の深さまでの範囲(板厚中心部)において、総数1000個以上の結晶粒が含まれるように、複数視野で合計面積が10000μm2以上となる測定面積で、測定結果をデータ解析ソフトOIMにより解析して各測定点のCI(Confidence Index)値を得た。CI値が0.1以下である測定点を除いて、データ解析ソフトOIMにより集合組織の解析を行い、結晶方位分布関数を得た。
解析により得られた結晶方位分布関数はオイラー角で表示された。得られたφ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値と、φ2=40°、φ1=0°~15°、Φ=0°~15°の範囲における方位密度の平均値を表3、4に示す。
【0063】
(導電率)
特性評価用条材から幅10mm×長さ60mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。また、マイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして、測定した電気抵抗値と体積とから、導電率を算出した。なお、試験片は、その長手方向が特性評価用条材の圧延方向に対して平行になるように採取した。評価結果を表3,4に示す。
【0064】
(機械的特性)
特性評価用条材からJIS Z 2241に規定される13B号試験片を採取し、JIS Z 2241のオフセット法により、0.2%耐力を測定した。なお、試験片は、圧延方向に平行な方向で採取した。評価結果を表3,4に示す。
【0065】
(曲げ加工性)
曲率半径(R)と板幅(W)の比率(R/W)が表3,4に示す値となる条件でエッジワイズ曲げ加工を行い、外周側面の曲げ部を観察した。しわがないものを「A」(excellent)と評価し、しわがあるものを「B」(good)と評価し、小さな割れがあるものを「C」(fair)と評価し、曲げ部が破断し、エッジワイズ曲げが出来なかったものを「D」(poor)と評価した。なお、評価結果A~Cまでを許容できる曲げ加工性と判断した。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
比較例1においては、Cuの含有量が99.79mass%と低く、導電率が83.1%IACSと低くなった。また、0.2%耐力が339MPaとなり、曲げ加工性が「D」(poor)となった。
比較例2においては、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が1であり、曲げ加工性が「D」(poor)となった。
比較例3は、φ2=5°、φ1=0°~90°、Φ=0°の範囲における方位密度の平均値が38あり、曲げ加工性が「D」(poor)となった。
【0071】
これに対して、本発明例1~24においては、導電率および曲げ加工性に優れていることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、高い導電率、および、優れた曲げ加工性を有するスリット銅材を提供可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本実施形態のスリット銅材は、電子・電気機器用部品、バスバー、放熱基板に好適に適用される。