(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 1/18 20060101AFI20230905BHJP
F02B 23/02 20060101ALI20230905BHJP
F16J 10/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
F02F1/18 F
F02B23/02 E
F02B23/02 H
F16J10/00 Z
(21)【出願番号】P 2022047840
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 巧
(72)【発明者】
【氏名】山本 和成
(72)【発明者】
【氏名】後藤 操
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-530340(JP,A)
【文献】実開昭56-011345(JP,U)
【文献】西独国特許出願公開第3038235(DE,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3670882(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
F02F 7/00
F02F 1/00-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部でピストンが往復動するシリンダと、
前記シリンダの内周面の上端部に形成された段差部と、
前記段差部に設けられた円筒状のリング部材と、
を備え、
前記リング部材の厚さは、前記ピストンの下死点に向かって小さくなっており、
前記リング部材の外周面は、下端が上端よりも前記リング部材の半径方向の中央側に位置する傾斜面となって
おり、
燃料を噴射する噴射部を更に備え、
前記リング部材において前記噴射部の前記燃料の噴射先である複数の噴射先部分の厚さが、他の部分の厚さよりも小さい、内燃機関。
【請求項2】
前記リング部材の内周面は、鏡面となっている、
請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記噴射先部分は、前記リング部材の外周面において窪み部が形成された部分である、
請求項
1に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記シリンダの内周面には、各噴射先部分の前記窪み部の各々と嵌合する凸部が複数形成されている、
請求項
3に記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ及びピストンを有する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関において、シリンダの内周面の上部に形成された段差部に、リング部材が設けられている。例えば、下記の特許文献1には、ピストンに付着した煤を落とすために、段差部にスクレーパリングが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関においては、熱損失を低減させることが望ましい。しかし、シリンダの上部にリング部材を配置した場合には、リング部材によって熱量が失われるため、燃焼室内を高い温度に保ち難い。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、リング部材を設けても熱損失を低減可能な内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様においては、内部でピストンが往復動するシリンダと、前記シリンダの内周面の上端部に形成された段差部と、前記段差部に設けられた円筒状のリング部材と、を備え、前記リング部材の厚さは、前記ピストンの下死点に向かって小さくなっており、前記リング部材の外周面は、下端が上端よりも前記リング部材の半径方向の中央側に位置する傾斜面となっている、内燃機関を提供する。
【0007】
また、前記リング部材の内周面は、鏡面となっていることとしてもよい。
【0008】
また、燃料を噴射する噴射部を更に備え、前記リング部材において前記噴射部の前記燃料の噴射先である複数の噴射先部分の厚さが、他の部分の厚さよりも小さいこととしてもよい。
【0009】
また、前記噴射先部分は、前記リング部材の外周面において窪み部が形成された部分であることとしてもよい。
【0010】
また、前記シリンダの内周面には、各噴射先部分の前記窪み部の各々と嵌合する凸部が複数形成されていることとしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リング部材を設けても内燃機関の熱損失を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一の実施形態に係る内燃機関1の内部構成を説明するための模式図である。
【
図2】比較例に係る内燃機関100を説明するための模式図である。
【
図3】内燃機関1の変形例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<内燃機関の構成>
一の実施形態に係る内燃機関の構成について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、一の実施形態に係る内燃機関1の内部構成を説明するための模式図である。なお、
図1では、説明の便宜上、内燃機関1の一部のみが示されており、他の構成は省略されている。
【0014】
内燃機関1は、例えば、車両に搭載されているエンジンである。内燃機関1は、
図1に示すように、シリンダ10と、ピストン15と、段差部20と、シリンダヘッド25と、ガスケット30と、リング部材40を有する。
【0015】
シリンダ10は、金属製であり、円筒状に形成されている。シリンダ10の内部には、ピストン15が収容されている。
【0016】
ピストン15は、シリンダ10内にて上死点と下死点の間で往復動する。
図1においては、ピストン15が上死点に位置している。ピストン15の外周面に形成された溝には、ピストンリング16が装着されている。
【0017】
段差部20は、
図1に示すように、シリンダ10の内周面11の上端部に位置している。段差部20は、ピストン15が上死点に位置している際に、ピストンリング16よりも上方の位置している。段差部20は、シリンダ10の内周面11において周方向に1周するように形成されている。また、段差部20は、ガスケット30の下方に位置している。
【0018】
段差部20は、
図1に示すように傾斜面となっている内周面22を有する。内周面22は、ここでは所定の傾斜角度で直線状に傾斜している。内周面22は、底面に近づくにつれて、シリンダ10の中心側に位置するように傾斜している。
【0019】
シリンダヘッド25は、シリンダ10の上に位置している。シリンダヘッド25は、金属製であり、例えばシリンダ10と同じ材質から成る。
ガスケット30は、シリンダ10とシリンダヘッド25の間に配置されている。ガスケット30は、シリンダ10内の気密性を高める機能を有している。
【0020】
リング部材40は、
図1に示すように、段差部20に設けられている。具体的には、リング部材40は、段差部20に嵌め込まれている。リング部材40は、円筒状に形成されており、上死点に位置するピストン15の周囲を覆っている。リング部材40は、金属製である。リング部材40は、ここではシリンダ10と同じ材質から成るが、これに限定されず、シリンダ10とは異なる材質から成ってもよい。
【0021】
リング部材40は、シリンダ10とピストン15の間の空間を狭めるために設けられている。すなわち、リング部材40の内周面41が、シリンダ10の内周面11よりもピストン15の外周面の近くに位置している。リング部材40が設けられていない場合には、シリンダ10の内周面11とピストン15の外周面の間の空間は、燃焼に用いられない無駄な空間となってしまい、燃焼効率が低下してしまう。これに対して、本実施形態のようにリング部材40を設けた場合には、無駄な空間を狭めることができるので、圧縮比が大きくなり、燃費が向上する。
【0022】
リング部材40の内周面41は、シリンダ10の内周面11と平行であるが、リング部材40の外周面42は、シリンダ10の内周面11と平行になっていない。リング部材40の外周面42は、下端が上端よりもリング部材40の半径方向の中央側に位置する傾斜面となっている。外周面42の傾斜角度は、段差部20の内周面22の傾斜角度と同じ大きさである。
【0023】
リング部材40の厚さは、段差部20の底面に向かって小さくなっている。別言すれば、リング部材40の厚さは、ピストン15の下死点に向かって小さくなっている。上記のような厚さのリング部材40を設けることによって、
図2に示す比較例に対してメリットがある。
【0024】
図2は、比較例に係る内燃機関100を説明するための模式図である。比較例においては、リング部材140の内周面141と外周面142が平行であり、リング部材140の厚さが一定である。また、段差部120の内周面122は、シリンダ10の内周面11と平行である。リング部材140を設けた場合には、リング部材を設けない場合に比べて、リング部材140によって熱量が失われるため、シリンダ10内を高い温度に保ち難くなる。
【0025】
これに対して、本実施形態では、リング部材40の外周面42が傾斜面となっていることで、リング部材40の厚さを一定ではなく、段差部20の底面に近づくにつれてリング部材40の厚さが小さくなっている。この場合には、比較例に比べて、リング部材40の体積が小さくなるので、リング部材40の熱容量が小さくなる。これにより、リング部材40の温度が上昇しやくなり、遮熱効果が高まり、熱損失を低減できる。
【0026】
また、外周面42が傾斜面となっている場合には、外周面42の面積が、比較例の外周面142の面積よりも広くなる。すなわち、外周面42の段差部20の内周面22に対向する面積が広くなるので、ガス漏れを抑制できる。さらに、外周面42と段差部20の内周面22が傾斜面となっているので、リング部材40を段差部20に嵌めこみやすくなる。
【0027】
リング部材40の内周面41は、鏡面となっており、内周面41の凹凸が極めて小さい。例えば、内周面41の表面粗さを示す算術平均粗さが、0.1μm以下となっている。内周面41が鏡面となっていることで、内周面41に煤が付着することを抑制できる。内周面41への煤の付着を抑制することで、煤による熱容量を減少できるので、シリンダ10内の遮熱効果を高められる。なお、内周面が鏡面でない場合には、内周面の凹凸に煤が付着しやすい。
【0028】
<変形例>
図3は、内燃機関1の変形例を説明するための模式図である。なお、
図3では、説明の便宜上、ピストン15等が省略されている。
【0029】
変形例のリング部材40及びシリンダ10の内周面11の構成が、
図1に示すリング部材40及び内周面11の構成と相違する。変形例の他の構成は、
図1に示す構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0030】
内燃機関1は、燃料を噴射する噴射部60を有する。噴射部60は、例えばシリンダ10の中心軸上に位置し、ここではシリンダ10内において半径方向に噴射するものとする。噴射部60から噴射された燃料の流れる向きが、
図3の破線の領域で示されている。
【0031】
変形例のリング部材40の幅は、一定ではない。具体的には、
図3に示すように、リング部材40において噴射部60の燃料の噴射先である複数の噴射先部分45の厚さが、他の部分の厚さよりも小さい。噴射先部分45は、リング部材40の周方向において所定間隔で4か所設けられている。噴射先部分45以外の部分の厚さは、一定である。
【0032】
リング部材40の外周面42には、窪み部46が形成されている。窪み部46は、ここでは、曲面状の凹みとなっている。窪み部46は、外周面42において所定間隔で4か所形成されている。噴射先部分45は、リング部材40の外周面42において窪み部46が形成された部分である。なお、上記では、リング部材40の外周面42に窪み部46が形成されているとしたが、これに限定されず、例えば、リング部材40の内周面41に窪み部が形成されていてもよい。
【0033】
上記のようにリング部材40の噴射先部分45の厚さを小さくすることで、リング部材40の体積が更に小さくなり、リング部材40の熱容量が更に小さくなる。これにより、リング部材40の温度が更に上昇しやくなり、遮熱効果が一層高まる。
【0034】
シリンダ10の内周面11には、各噴射先部分45の窪み部46の各々と嵌合する凸部18が複数形成されている。凸部18は、周方向において所定間隔で4か所設けられている。凸部18は、ここでは、湾曲した凸形状となっている。凸部18は、リング部材40の窪み部46と嵌合している。これにより、リング部材40をシリンダ10の段差部20に嵌め込む際に、噴射先部分45を適切な位置に位置決めできる。また、例えば内燃機関1の動作中にリング部材40が周方向に回転しようとしても、嵌合している窪み部46と凸部18が回転止めの機能を有することになる。
【0035】
<本実施形態における効果>
上述した実施形態の内燃機関1は、シリンダ10の内周面11の上端部に形成された段差部20に設けられた円筒状のリング部材40を有する。リング部材40の厚さは、ピストン15の下死点に向かって小さくなっており、リング部材40の外周面42は、下端が上端よりもリング部材40の半径方向の中央側に位置する傾斜面となっている。
外周面42が傾斜面となっているリング部材40を設ける場合には、リング部材40の体積が小さくなるので、リング部材40の熱容量が小さくなる。これにより、リング部材40の温度が上昇しやくなり、遮熱効果が高まり、熱損失を低減できる。
【0036】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0037】
1 内燃機関
10 シリンダ
11 内周面
18 凸部
20 段差部
40 リング部材
41 内周面
42 外周面
45 噴射先部分
46 窪み部
60 噴射部
【要約】
【課題】リング部材を設けても熱損失を低減可能な内燃機関を提供する。
【解決手段】内燃機関1は、内部でピストン15が往復動するシリンダ10と、シリンダ10の内周面11の上端部に形成された段差部20と、段差部20に設けられた円筒状のリング部材40を備える。リング部材40の厚さは、ピストン15の下死点に向かって小さくなっており、リング部材40の外周面42は、下端が上端よりもリング部材40の半径方向の中央側に位置する傾斜面となっている。
【選択図】
図1