(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】全有機体炭素測定装置及び全有機体炭素測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20230905BHJP
G01N 31/10 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G01N31/00 D
G01N31/10
(21)【出願番号】P 2022508184
(86)(22)【出願日】2021-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2021007834
(87)【国際公開番号】W WO2021187079
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2020046718
(32)【優先日】2020-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】居原田 健志
(72)【発明者】
【氏名】矢幡 雅人
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-190465(JP,A)
【文献】特開昭51-105886(JP,A)
【文献】実開昭51-73088(JP,U)
【文献】特公昭52-48039(JP,B2)
【文献】特開2005-43186(JP,A)
【文献】実公平6-45882(JP,Y2)
【文献】特開平10-160720(JP,A)
【文献】特開2000-155117(JP,A)
【文献】特開2011-21938(JP,A)
【文献】国際公開第2009/153264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化触媒が配置された空間を有し、該空間内に配置される試料を加熱するための試料加熱部と、
前記試料加熱部にキャリアガスとして水蒸気を含む不活性ガスを導入させるキャリアガス導入部と、
前記試料加熱部において試料中の有機体炭素が水蒸気改質反応することにより発生する二酸化炭素を検出するための検出部とを備える、全有機体炭素測定装置。
【請求項2】
前記キャリアガス導入部は、水蒸気を生成する水蒸気生成部を含み、前記水蒸気生成部で生成される水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させる、請求項1に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項3】
前記キャリアガス導入部は、前記水蒸気生成部と前記試料加熱部とを連通させる配管と、前記配管を加熱するための配管加熱部とを含む、請求項2に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項4】
前記水蒸気生成部は、水を貯留するための貯水部と、前記貯水部内の水を加熱するための水加熱部とを備え、前記貯水部内の水が加熱されることにより生成される水蒸気が、前記貯水部内を通過するキャリアガスに混合される、請求項2に記載の全有機体炭素測定装置。
【請求項5】
酸化触媒が配置された空間を有する試料加熱部に、水蒸気を含む不活性ガスをキャリアガスとして導入させるキャリアガス導入ステップと、
前記試料加熱部において前記空間に配置される試料を加熱し、試料中の有機体炭素を水蒸気改質反応させることにより二酸化炭素を発生させる試料加熱ステップと、
発生する前記二酸化炭素を検出する検出ステップとを含む、全有機体炭素測定方法。
【請求項6】
前記試料加熱ステップでは、試料に含まれる全有機体炭素が水蒸気と反応することに基づいて二酸化炭素が発生する、請求項5に記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項7】
前記キャリアガス導入ステップでは、水蒸気生成部において水蒸気を生成し、前記水蒸気生成部で生成される水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させる、請求項5に記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項8】
前記キャリアガス導入ステップでは、前記水蒸気生成部と前記試料加熱部とを連通させる配管を加熱しながら、前記配管を介して、水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させる、請求項7に記載の全有機体炭素測定方法。
【請求項9】
前記水蒸気生成部は、水を貯留するための貯水部と、前記貯水部内の水を加熱するための水加熱部とを備え、
前記キャリアガス導入ステップでは、前記貯水部内の水が加熱されることにより生成される水蒸気が、前記貯水部内を通過するキャリアガスに混合される、請求項7に記載の全有機体炭素測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全有機体炭素測定装置及び全有機体炭素測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれるTOC(Total Organic Carbon:全有機体炭素)を測定するために、全有機体炭素測定装置が用いられている。試料には、全有機体炭素以外にも、IC(Inorganic Carbon:無機体炭素)が含まれている場合がある。TOC及びICは、TC(Total Carbon:全炭素)と総称される。
【0003】
TOCを測定する方法の一例としては、TC及びICをそれぞれ測定し、それらの差分(TC-IC)をTOCとして算出する方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。TCは、燃焼管において試料を燃焼させたときに発生する二酸化炭素を検出部で検出することにより測定される。一方、ICは、試料に酸を添加してから通気したときに発生する二酸化炭素を検出部で検出することにより測定される。
【0004】
また、TOCを測定する別の方法として、試料に酸を添加してから通気することによりICを二酸化炭素に変換して除去し、IC除去後の試料を燃焼管において燃焼させたときに発生する二酸化炭素を検出部で検出することにより、TOCを測定する方法も知られている。
【0005】
上記2つの方法のいずれにおいても、燃焼管にはキャリアガスが導入され、キャリアガスと試料の混合物が燃焼管において燃焼される。キャリアガスとしては、高純度空気などが用いられる。キャリアガスは、試料から発生した二酸化炭素を検出部に送る機能だけでなく、燃焼管において試料を燃焼させる際の支燃ガスとしての機能も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の全有機体炭素測定装置では、キャリアガスが支燃ガスとしての機能も有しているため、不活性ガスをキャリアガスとして使用することが困難であった。すなわち、不活性ガスをキャリアガスとして使用した場合、試料から発生した二酸化炭素をキャリアガスにより検出部に送ることはできるが、燃焼管において試料を効率よく燃焼させることが困難である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、キャリアガスとして不活性ガスを使用することができる全有機体炭素測定装置及び全有機体炭素測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、試料加熱部と、キャリアガス導入部と、検出部とを備える、全有機体炭素測定装置である。前記試料加熱部は、酸化触媒が配置された空間を有し、該空間内に配置される試料を加熱する。前記キャリアガス導入部は、前記試料加熱部にキャリアガスとして水蒸気を含む不活性ガスを導入させる。前記検出部は、前記試料加熱部において試料中の有機体炭素が水蒸気改質反応することにより発生する二酸化炭素を検出する。
【0010】
本発明の第2の態様は、キャリアガス導入ステップと、試料加熱ステップと、検出ステップとを含む、全有機体炭素測定方法である。前記キャリアガス導入ステップでは、酸化触媒が配置された空間を有する試料加熱部に、水蒸気を含む不活性ガスをキャリアガスとして導入させる。前記試料加熱ステップでは、前記試料加熱部において前記空間に配置される試料を加熱し、試料中の有機体炭素を水蒸気改質反応させることにより二酸化炭素を発生させる。前記検出ステップでは、発生する前記二酸化炭素を検出する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャリアガスに含まれる水蒸気の作用により、試料中の全有機体炭素から二酸化炭素を発生させることができるため、キャリアガスとして不活性ガスを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】全有機体炭素測定装置の構成例を示した概略図である。
【
図3】全有機体炭素を測定する方法について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.全有機体炭素測定装置の全体構成
図1は、全有機体炭素測定装置の構成例を示した概略図である。この全有機体炭素測定装置には、シリンジ1、流路切替部2、TOC測定部(全有機体炭素測定部)3、ガス源4、フローコントローラ5、加湿器6、制御部7及び表示部8などが備えられている。
【0014】
シリンジ1は、例えば筒体11及びプランジャ12を備えている。プランジャ12は、筒体11内に挿入されており、筒体11の内面とプランジャ12とにより囲まれたシリンジ1の内部空間に液体を吸引することができる。具体的には、筒体11に対してプランジャ12を変位させることにより、シリンジ1への液体の吸引動作及びシリンジ1からの液体の吐出動作が行われる。プランジャ12は、例えばモータなどを含む駆動部(図示せず)の駆動により変位される。
【0015】
シリンジ1は、流路切替部2に対して流体的に接続されている。流路切替部2は、例えば複数のポートを任意に連通させることができるマルチポートバルブを含む。流路切替部2の各ポートには配管21A,22A,23A,24A,25Aが流体的に接続されており、流路切替部2を切り替えることにより、各配管21A,22A,23A,24A,25Aのいずれかをシリンジ1内に連通させることができる。
【0016】
配管21Aをシリンジ1に連通させた状態でシリンジ1による吸引動作が行われた場合には、分析対象である試料が貯留された試料貯留部21Bからシリンジ1内に試料が吸引される。また、配管22Aをシリンジ1に連通させた状態でシリンジ1による吸引動作が行われた場合には、酸が貯留された酸貯留部22Bからシリンジ1内に酸が吸引される。
【0017】
このように、シリンジ1内には、試料又は酸を選択的に吸引することができる。酸としては、塩酸を例示することができるが、これに限られるものではない。配管21A及び試料貯留部21Bは、試料を供給するための試料供給部21を構成している。配管22A及び酸貯留部22Bは、シリンジ1内に酸を導入することにより試料に酸を添加するための添加部22を構成している。
【0018】
配管23Aは、流路切替部2とTOC測定部3を流体的に接続している。配管23Aをシリンジ1に連通させた状態でシリンジ1による吐出動作が行われた場合には、シリンジ1内の液体が配管23Aを介してTOC測定部3に供給される。配管24Aは、ドレンに連通している。また、配管25Aは、シリンジ1内のガス抜きのために大気中に連通している。
【0019】
TOC測定部3には、試料注入機構31、反応管32、電気炉33、除湿器34及び検出部35などが備えられている。配管23Aは、TOC測定部3における試料注入機構31に連通している。したがって、シリンジ1による吐出動作により、シリンジ1内の液体を配管23Aから試料注入機構31に供給することができる。
【0020】
試料注入機構31には、試料供給路としての配管23A以外に、キャリアガス供給路としての配管41が流体的に接続されている。配管41は、ガス源4と試料注入機構31とを連通させるものであり、ガス源4から供給されるキャリアガスが配管41を介して試料注入機構31に導入される。ガス源4から供給されるキャリアガスは、例えば高純度窒素などの不活性ガスである。ただし、キャリアガスは、窒素に限らず、他の不活性ガスであってもよい。
【0021】
配管41の途中には、フローコントローラ5及び加湿器6が介在している。加湿器6は、水蒸気を生成する水蒸気生成部を構成している。配管41の途中に加湿器6を介在させ、加湿器6内にキャリアガスを通過させることにより、加湿器6で生成された水蒸気をキャリアガスに混合させることができる。これにより、水蒸気が混合されたキャリアガスを試料注入機構31に導入させることができる。
【0022】
配管41の少なくとも一部は、配管加熱部41Aにより加熱される。配管加熱部41Aは、配管41における加湿器6と試料注入機構31との間の少なくとも一部を加熱するものであってもよい。これにより、配管41内を流れるキャリアガス中の水蒸気を配管加熱部41Aで加熱することができる。配管加熱部41Aにより加熱される部分の配管41の温度は、例えば約50℃に温調される。配管41は、例えばステンレスなどの金属により形成されており、当該配管41に外側から接触又は近接するように配管加熱部41Aが設けられる。
【0023】
配管加熱部41Aは、例えばシースヒータにより構成することができるが、これに限られるものではない。また、配管加熱部41Aを省略することも可能である。すなわち、配管41内を流れるキャリアガス中の水蒸気は、加熱されなくてもよい。この場合、水蒸気の温度は、0℃以上であればよく、例えば室温と同程度の温度であってもよい。
【0024】
試料注入機構31には反応管32が連通しており、シリンジ1から試料注入機構31に供給される試料は、試料注入機構31からキャリアガスともに反応管32内へと注入される。ガス源4、フローコントローラ5、加湿器6、試料注入機構31、配管41及び配管加熱部41Aは、反応管32内にキャリアガスを導入させるキャリアガス導入部40を構成している。
【0025】
反応管32は、例えば石英ガラス又はセラミックにより形成されており、内部に形成された空間321内に酸化触媒322が配置されている。酸化触媒としては、例えば白金担持アルミナ触媒が用いられる。反応管32は、電気炉33により外部から加熱される。電気炉33は、約680℃の高温で反応管32を加熱することにより、反応管32の空間321内に配置される試料を加熱する。反応管32及び電気炉33は、試料を加熱するための試料加熱部30を構成している。ただし、試料加熱部30は、反応管32及び電気炉33により構成されるものに限らず、他の部材により構成されていてもよい。
【0026】
試料注入機構31から反応管32内に注入された試料は、その試料に含まれる有機物が酸化されることにより、二酸化炭素を生じさせる。試料から発生する二酸化炭素の量は、試料に含まれる有機物の量に応じた量となる。反応管32内で発生した二酸化炭素は、キャリアガスとともに除湿器34へと送られ、除湿器34において除湿された後に検出部35へと導かれる。
【0027】
検出部35は、例えばNDIR式センサ(非分散形赤外線吸収式センサ)により構成することができるが、これに限られるものではない。検出部35は、反応管32内で試料から発生する二酸化炭素を検出する。検出部35における二酸化炭素の検出信号は、制御部7に入力される。
【0028】
制御部7は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含むプロセッサにより構成されている。制御部7は、検出部35から入力される二酸化炭素の検出信号に基づいて演算を行うことにより、試料に含まれるTOCを算出する。また、制御部7は、全有機体炭素測定装置に備えられたフローコントローラ5などの各部の動作を制御する。
【0029】
表示部8は、例えば液晶表示器などにより構成されている。表示部8に対する表示は、制御部7により制御される。表示部8には、例えばTOCの測定結果などの各種情報が表示される。
【0030】
フローコントローラ5には、試料注入機構31に連通する配管41とは別に、シリンジ1に連通する配管51が接続されている。フローコントローラ5は、配管41を介した試料注入機構31側へのキャリアガスの流量の制御と、配管51を介したシリンジ1側へのキャリアガスの流量の制御とを、個別に行うことができる2系統式のフローコントローラである。フローコントローラ5は、試料注入機構31側へのキャリアガスの流量を制御することにより、ガス源4から配管41を介して試料注入機構31にキャリアガスを常時供給する(TOC測定状態)。また、フローコントローラ5は、シリンジ1側へのキャリアガスの流量を制御することにより、ガス源4から配管51を介してシリンジ1にキャリアガスを一時的に供給する(IC除去状態)。
【0031】
試料貯留部21Bからシリンジ1内に試料を吸引した後、酸貯留部22Bからシリンジ1内に酸を添加し、フローコントローラ5をIC除去状態とすれば、シリンジ1内に供給されるキャリアガスによりシリンジ1内の液体(試料と酸の混合液)に対する通気が行われる。これにより、シリンジ1内の試料に含まれるICを二酸化炭素に変換して除去することができる。このとき、シリンジ1内で発生する二酸化炭素は、配管25Aを介して大気中に放出される。
【0032】
その後、フローコントローラ5から配管41を介して試料注入機構31側へキャリアガスを供給した状態(TOC測定状態)で、シリンジ1からIC除去後の試料を試料注入機構31を介して反応管32に注入する。このようにしてIC除去後の試料を反応管32において反応させ、反応管32内で発生する二酸化炭素を検出部35で検出することにより、TOCを測定することができる。
【0033】
2.加湿器の具体的構成
図2は、加湿器6の構成例を示した概略断面図である。加湿器6は、スチーム式であり、水を加熱することにより水蒸気を生成する。この加湿器6には、貯水部61、ヒータ62及び保温材63などが含まれる。
【0034】
貯水部61は、中空状の部材であり、内部に水(例えば純水)を貯留することができる。貯水部61は、例えば金属などの熱伝導率が高い材料により形成されていてもよい。貯水部61の上部には、貯水部61内に給水を行うための給水口611が形成されている。給水口611には、キャップ612が着脱可能となっている。貯水部61内の水は、加湿器6の使用とともに減少する。したがって、ユーザは、キャップ612を取り外して給水口611を開放し、当該給水口611から貯水部61内に水を補給した後、キャップ612を給水口611に取り付けるという作業を定期的に行うこととなる。
【0035】
ヒータ62は、貯水部61を外部から加熱することにより、貯水部61内の水を加熱するための水加熱部を構成している。これにより、貯水部61内の水は、例えば約45℃となるように温調される。ヒータ62は、例えば貯水部61の底面を加熱する。ただし、ヒータ62は、貯水部61の底面以外の面(例えば側面)を加熱するような構成であってもよい。
【0036】
貯水部61の側面は保温材63により囲まれており、貯水部61内の水の熱が外部に逃げるのを保温材63により防止することができる。保温材63の材料は、特に限定されるものではないが、例えば発泡ウレタンなどが用いられる。なお、保温材63は、省略されてもよい。
【0037】
貯水部61内には、上部に空間Sが形成されるように水が貯留される。したがって、ヒータ62で貯水部61内の水を加熱することにより生成された水蒸気は、空間Sに充満する。貯水部61内の空間Sには、ガス流入管613及びガス流出管614が連通している。ガス流入管613及びガス流出管614がそれぞれ空間Sに連通する位置は、特に限定されるものではないが、
図2のように、ガス流出管614の方がガス流入管613よりも上方で空間Sに連通していてもよい。
【0038】
ガス流入管613及びガス流出管614は、配管41の一部を構成している。すなわち、ガス源4からのキャリアガスは、ガス流入管613を介して貯水部61内の空間Sに流入した後、当該空間Sを通ってガス流出管614から貯水部61の外部に流出し、試料注入機構31を介して反応管32に導入される。
【0039】
キャリアガスには、貯水部61内の空間Sを通過する過程で、空間Sに充満している水蒸気が混合される。これにより、反応管32に導入されるキャリアガスは、水蒸気を含む不活性ガスとなる。スチーム式の加湿器6から発生する水蒸気は不純物を含まないため、貯水部61内の水に含まれるTOCが反応管32に導入されることによる検出ノイズの発生を防止することができる。
【0040】
上記のような加湿器6を用いることにより、反応管32内に導入されるキャリアガスに対して、水蒸気を連続的に安定して混合させることができる。これにより、反応管32内に導入されるキャリアガス中の水蒸気量を、所定値以上に保つことも可能となる。反応管32内に導入されるキャリアガスの湿度は、10~80g/m3であってもよい。なお、試料が水である場合、反応管32内に試料を導入するだけでも水蒸気が発生するが、試料から発生した水蒸気はキャリアガスによって速やかに反応管32内から流出するため、一般的な酸化反応時間(例えば2~5分程度)にわたって必要な水蒸気量を安定的に確保することは困難である。
【0041】
3.二酸化炭素の発生原理
本実施形態では、試料中の有機体炭素が水蒸気改質反応することにより二酸化炭素が発生する。具体的には、水蒸気を含む不活性ガスがキャリアガスとして反応管32に導入された場合、酸化触媒を有する反応管32内では、下記式(1)で示されるような反応が生じる。このとき、反応管32は、例えば500~1100℃に加熱される。下記式(1)において、C
mH
nが試料に含まれるTOC(全有機体炭素)である。
【数1】
【0042】
キャリアガスに水蒸気(H
2O)が含まれているため、反応管32内では、試料に含まれるTOCが水蒸気と反応する。この反応は、酸素を必要としない。また、上記式(1)に示す反応に付随して、下記式(2)に示す反応(水性ガスシフト反応)が生じることにより、最終的に二酸化炭素(CO
2)と水素(H
2)が得られる。
【数2】
【0043】
上記式(1)において、水蒸気と炭素のmol比はスチーム/カーボン比(S/C比)と呼ばれており、この値が量論比より小さい場合には反応が完結せず、反応管32内の酸化触媒上にTOCが残留してしまう。したがって、S/C比以上の水蒸気をキャリアガスに含ませれば、試料中のTOCが全て反応することとなる。
【0044】
例えば、キャリアガスの流量を150mL/minとして、50mg/LのTOCを含む試料が100μLだけ反応管32に導入された場合、反応管32に導入される炭素量は0.005mg、すなわち0.005/12mmolである。この炭素量と当量の水蒸気量は、0.005/12×18=0.0075mgである。この量の水蒸気が、150mL/minで反応管32内に導入されるキャリアガス中に常に存在することが必要である。そのためには、キャリアガス中の水蒸気量が、0.0075/150×10003=50g/m3以上であればよい。この水蒸気量は、気温約40℃における飽和水蒸気量に相当する。
【0045】
なお、上記式(1)及び(2)の反応により発生する水素は数ppm程度であり、極微量であるため、爆発の危険性はない。したがって、発生した水素は、そのまま排気されてもよいが、発生した水素に対して特定の処理を行うための処理部を設けてもよい。
【0046】
4.全有機体炭素測定方法の具体例
図3は、全有機体炭素を測定する方法について説明するためのフローチャートである。試料に含まれるTOCを測定する場合には、まず、シリンジ1内に試料が吸引され、その後にシリンジ1内に酸が吸引される(ステップS101:酸添加ステップ)。シリンジ1内に吸引される試料の量は例えば500μLである。一方、シリンジ1内に吸引される酸の量は、試料の量よりも少なく、例えば10μLである。
【0047】
その後、シリンジ1内にキャリアガスが供給されることにより、シリンジ1内の液体(試料と酸の混合液)に対して約90秒間通気が行われる。これにより、シリンジ1内の試料に含まれるICが除去される(ステップS102:通気ステップ)。
【0048】
このようにしてICが除去された試料は、シリンジ1から反応管32へと供給される。反応管32への試料の供給量は、例えば100μLである。このとき、ガス源4から加湿器6を介して、水蒸気を含むキャリアガスが反応管32内に導入される(ステップS103:キャリアガス導入ステップ)。なお、キャリアガスは、このとき初めて反応管32内に導入されるのではなく、装置電源を入れたときから切るまでの間は連続的に、反応管32を介して検出器35へと供給されている。
【0049】
その結果、反応管32において試料が加熱され、試料に含まれるTOCが水蒸気と反応することにより、試料から二酸化炭素が発生する(ステップS104:試料加熱ステップ)。試料から発生する二酸化炭素は、キャリアガスにより検出部35へと導かれ、検出部35により検出される(ステップS105:検出ステップ)。
【0050】
5.変形例
以上の実施形態では、ヒータ62が貯水部61を外部から加熱することにより、貯水部61内の水を間接的に加熱するような構成について説明した。しかし、このような構成に限らず、例えば、ヒータ62が貯水部61内に設けられることにより、貯水部61内の水を直接加熱するような構成などであってもよい。
【0051】
加湿器6は、スチーム式に限らず、超音波式などの他の構成であってもよい。採用する方式によっては、加湿器6を小型化し、装置全体を小型化することも可能である。超音波式の加湿器では、超音波を用いて水に振動を与えることにより、水を霧状にして水蒸気を生成する。ただし、水を霧状にしてキャリアガスに混合させるような構成の場合には、水に含まれるTOCが反応管32に導入されることにより検出ノイズが発生する場合があるため、試料の種類などの条件によっては採用が難しい場合がある。
【0052】
試料は、液体に限らず、固体であってもよい。このような場合であっても、固体試料を加熱して二酸化炭素を発生させる反応管内に、水蒸気を含む不活性ガスをキャリアガスとして導入すればよい。
【0053】
上記実施形態では、試料に酸を添加してから通気することによりICを二酸化炭素に変換して除去し、IC除去後の試料を反応管32において反応させたときに発生する二酸化炭素を検出部35で検出するような構成について説明した。しかし、本発明は、TC及びICをそれぞれ測定し、それらの差分(TC-IC)をTOCとして算出するような構成においても適用可能である。この場合、TCを測定する際に、水蒸気を含むキャリアガスが試料とともに反応管に導入されてもよい。
【0054】
6.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0055】
(第1項)一態様に係る全有機体炭素測定装置は、
酸化触媒が配置された空間を有し、該空間内に配置される試料を加熱するための試料加熱部と、
前記試料加熱部にキャリアガスとして水蒸気を含む不活性ガスを導入させるキャリアガス導入部と、
前記試料加熱部において試料中の有機体炭素が水蒸気改質反応することにより発生する二酸化炭素を検出するための検出部とを備えていてもよい。
【0056】
第1項に記載の全有機体炭素測定装置によれば、キャリアガスに含まれる水蒸気の作用により、試料中の全有機体炭素から二酸化炭素を発生させることができるため、キャリアガスとして不活性ガスを使用することができる。
【0057】
(第2項)第1項に記載の全有機体炭素測定装置において、
前記キャリアガス導入部は、水蒸気を生成する水蒸気生成部を含み、前記水蒸気生成部で生成される水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させてもよい。
【0058】
第2項に記載の全有機体炭素測定装置によれば、水蒸気生成部において生成される水蒸気をキャリアガスに混合させるだけで、水蒸気を含むキャリアガスを試料加熱部に導入させることができる。
【0059】
(第3項)第2項に記載の全有機体炭素測定装置において、
前記キャリアガス導入部は、前記水蒸気生成部と前記試料加熱部とを連通させる配管と、前記配管を加熱するための配管加熱部とを含んでいてもよい。
【0060】
第3項に記載の全有機体炭素測定装置によれば、水蒸気が混合されたキャリアガスを加熱しながら試料加熱部に導入させることができるため、試料加熱部に導入される前にキャリアガス中の水蒸気が減少するのを防止することができる。
【0061】
(第4項)第2項又は第3項に記載の全有機体炭素測定装置において、
前記水蒸気生成部は、水を貯留するための貯水部と、前記貯水部内の水を加熱するための水加熱部とを備え、前記貯水部内の水が加熱されることにより生成される水蒸気が、前記貯水部内を通過するキャリアガスに混合されてもよい。
【0062】
第4項に記載の全有機体炭素測定装置によれば、貯水部内の水を加熱させるだけの簡単な構成で水蒸気を発生させ、その水蒸気をキャリアガスに混合させて試料加熱部に導入させることができる。
【0063】
(第5項)一態様に係る全有機体炭素測定方法は、
酸化触媒が配置された空間を有する試料加熱部に、水蒸気を含む不活性ガスをキャリアガスとして導入させるキャリアガス導入ステップと、
前記試料加熱部において前記空間に配置される試料を加熱し、試料中の有機体炭素を水蒸気改質反応させることにより二酸化炭素を発生させる試料加熱ステップと、
発生する前記二酸化炭素を検出する検出ステップとを含んでいてもよい。
【0064】
第5項に記載の全有機体炭素測定方法によれば、キャリアガスに含まれる水蒸気の作用により、試料中の全有機体炭素から二酸化炭素を発生させることができるため、キャリアガスとして不活性ガスを使用することができる。
【0065】
(第6項)第5項に記載の全有機体炭素測定方法において、
前記試料加熱ステップでは、試料に含まれる全有機体炭素が水蒸気と反応することに基づいて二酸化炭素が発生してもよい。
【0066】
第6項に記載の全有機体炭素測定方法によれば、試料に含まれる全有機体炭素が水蒸気と反応することに基づいて発生する二酸化炭素を検出することにより、全有機体炭素を測定することができる。
【0067】
(第7項)第5項又は第6項に記載の全有機体炭素測定方法において、
前記キャリアガス導入ステップでは、水蒸気生成部において水蒸気を生成し、前記水蒸気生成部で生成される水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させてもよい。
【0068】
第7項に記載の全有機体炭素測定方法によれば、水蒸気生成部において生成される水蒸気をキャリアガスに混合させるだけで、水蒸気を含むキャリアガスを試料加熱部に導入させることができる。
【0069】
(第8項)第7項に記載の全有機体炭素測定方法において、
前記キャリアガス導入ステップでは、前記水蒸気生成部と前記試料加熱部とを連通させる配管を加熱しながら、前記配管を介して、水蒸気が混合されたキャリアガスを前記試料加熱部に導入させてもよい。
【0070】
第8項に記載の全有機体炭素測定方法によれば、水蒸気が混合されたキャリアガスを加熱しながら試料加熱部に導入させることができるため、試料加熱部に導入される前にキャリアガス中の水蒸気が減少するのを防止することができる。
【0071】
(第9項)第7項又は第8項に記載の全有機体炭素測定方法において、
前記水蒸気生成部は、水を貯留するための貯水部と、前記貯水部内の水を加熱するための水加熱部とを備え、
前記キャリアガス導入ステップでは、前記貯水部内の水が加熱されることにより生成される水蒸気が、前記貯水部内を通過するキャリアガスに混合されてもよい。
【0072】
第9項に記載の全有機体炭素測定方法によれば、貯水部内の水を加熱させるだけの簡単な構成で水蒸気を発生させ、その水蒸気をキャリアガスに混合させて試料加熱部に導入させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 シリンジ
2 流路切替部
3 TOC測定部
4 ガス源
5 フローコントローラ
6 加湿器
7 制御部
8 表示部
21 試料供給部
22 添加部
30 試料加熱部
31 試料注入機構
32 反応管
33 電気炉
34 除湿器
35 検出部
40 キャリアガス導入部
41 配管
41A 配管加熱部
61 貯水部
62 ヒータ
63 保温材