(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】複合半透膜及び複合半透膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20230905BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230905BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230905BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
B01D69/10
(21)【出願番号】P 2023509446
(86)(22)【出願日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2023002534
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2022009924
(32)【優先日】2022-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾形 雅美
(72)【発明者】
【氏名】高谷 清彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 芳機
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-039003(JP,A)
【文献】特開2019-177342(JP,A)
【文献】特開2021-023928(JP,A)
【文献】特開2017-109202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層とを有する複合半透膜であって、
条件A(7MPa、35℃、6時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EA)、及び、条件B(7MPa、45℃、24時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EB)の少なくとも一方が、0.6GPa以上、1.0GPa以下である複合半透膜。
【請求項2】
前記条件Aまたは条件Bで加圧された前記多孔質層が、10%以下の空隙率を有する緻密層を備え、
前記緻密層の厚み(d)は300nm以下である、
請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
前記条件Aで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaA)と条件C(5.5MPa、25℃、2時間)で加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaC)との比(RaA/RaC)、及び、前記条件Bで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaB)と前記条件Cで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaC)との比(RaB/RaC)の少なくとも一方が1.15以下である、
請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記複合半透膜は基材をさらに備え、前記多孔質層は前記基材上に設けられることで、前記基材と前記多孔質層との複合体を形成し、
前記条件Aまたは条件Bで加圧された前記複合体の少なくとも一方の純水透過係数が0.12×10
-9m
3/(m
2・sec・Pa)以上である、請求項1
または2に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記多孔質層の表面から深さ1.5μmまでの範囲における、全孔面積に対する膜厚方向孔の面積比率が45%以上である、請求項1
または2に記載の複合半透膜。
【請求項6】
操作圧力5.5MPaで供給される、pH6.5、温度25℃、ホウ素濃度5ppm、NaCl濃度3.2重量%の原水に対して、80%以上のホウ素除去率(%)を示す、
請求項1
または2に記載の複合半透膜。
【請求項7】
操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minの条件下で供給される、温度25℃、pH6.5の1000ppmグルコース水溶液、および温度25℃、pH6.5の1000ppmイソプロピルアルコール水溶液に対して、グルコース除去率が90%以上であり、(グルコース除去率-イソプロピルアルコール除去率)が30%以上である、
請求項1
または2に記載の複合半透膜。
【請求項8】
(a)熱可塑性樹脂を良溶媒に溶解させた樹脂溶液を、平膜状に形成する工程、
(b)前記熱可塑性樹脂の非溶媒および良溶媒を含有する凝固液中で前記熱可塑性樹脂を凝固させることで多孔質層を得る工程、及び
(c)前記多孔質層上に分離機能層を形成する工程を備える複合半透膜の製造方法であって、
前記工程(b)は、前記凝固液に浸漬してから3秒以内に前記樹脂溶液内にその厚み方向の前記凝固液の流れを形成することを含む複合半透膜の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂溶液は基材の表面に塗布され、かつ
前記基材にその裏面から前記凝固液を押し込むことで、前記流れを形成する、
請求項8に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温度・高圧力運転時に有用な半透膜に関し、初期造水量に優れ、かつ高圧運転後も高い透水性、除去率に優れた複合半透膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材、支持層、分離機能層を有する複合半透膜は、海水淡水化など、原水から溶質を除く逆浸透処理に用いられている。逆浸透処理では、供給水側の浸透圧と透過水側の浸透圧の差以上の圧力が複合半透膜の供給水側にかけられる。
【0003】
海水淡水化装置の運転時に、複合半透膜の透水性が低下することがあり、低下の原因として、支持層が押しつぶされ、その内部の孔が閉塞することが、特許文献1~3で指摘されている。
【0004】
特許文献1では、5.5MPaの圧力を3時間加えてから圧力を解除した後の支持層の平均膜厚t0(μm)と純水透過係数p0(g/(cm2・s・MPa))、膜厚方向に10MPaの圧力を3時間加えてから解除した後の支持層の平均膜厚t1(μm)と純水透過係数p1(g/(cm2・s・MPa))において、t1/t0およびp1/p0が特定の数値範囲を満たす複合半透膜が開示されている。特許文献1によると、t1/t0およびp1/p0は、支持層の圧密化に抵抗する能力を表す指標、つまり、支持膜の骨格部分の強度を表す指標であり、上記条件を満足する膜は圧密化が抑制される。
【0005】
特許文献2の複合半透膜は、支持層が分離機能層に接する緻密層と、緻密層と基材との間に位置するマクロボイド層とを備える。特許文献2では、特に、マクロボイド層における膜面方向の単位長さあたりのマクロボイドの数が特定の範囲にあると、高圧力での運転においても支持層の厚みが維持されることが開示されている。
【0006】
特許文献3では、運転中の性能の変化を小さく抑えるために、予め2時間以上、複合半透膜を圧密化することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2001-252538号公報
【文献】日本国特開2018-039003号公報
【文献】日本国特開2014-014739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
海水淡水化のような自然の供給水を用いる場合は、年間を通じて供給水の温度は一定ではなく、夏場は温度が高くなり、圧力だけでなく高温も増水量を低下させる要因となる。
【0009】
本発明は、高い初期造水量を持ち、さらに高圧力かつ高温での運転でも造水量をより維持できる複合半透膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、下記(1)~(9)のいずれかの構成を備える。
なお、本明細書において、重量を基準とする部、百分率、比率等は、質量を基準とする部、百分率、比率等とそれぞれ同義である。
(1)多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層とを有する複合半透膜であって、
条件A(7MPa、35℃、6時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EA)、及び、条件B(7MPa、45℃、24時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EB)の少なくとも一方が、0.6GPa以上、1.0GPa以下である複合半透膜。
(2)前記条件Aまたは条件Bで加圧された前記多孔質層が、10%以下の空隙率を有する緻密層を備え、
前記緻密層の厚み(d)は300nm以下である、
(1)に記載の複合半透膜。
(3)前記条件Aで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaA)と条件C(5.5MPa、25℃、2時間)で加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaC)との比(RaA/RaC)、及び、前記条件Bで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaB)と前記条件Cで加圧された前記多孔質層の表面粗さ(RaC)との比(RaB/RaC)の少なくとも一方が1.15以下である、
(1)または(2)に記載の複合半透膜。
(4)前記複合半透膜は基材をさらに備え、前記多孔質層は前記基材上に設けられることで、前記基材と前記多孔質層との複合体を形成し、
前記条件Aまたは条件Bで加圧された前記複合体の少なくとも一方の純水透過係数が0.12×10-9m3/(m2・sec・Pa)以上である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(5)前記多孔質層の表面から深さ1.5μmまでの範囲における、全孔面積に対する膜厚方向孔の面積比率が45%以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(6)操作圧力5.5MPaで供給される、pH6.5、温度25℃、ホウ素濃度5ppm、NaCl濃度3.2重量%の原水に対して、80%以上のホウ素除去率(%)を示す、
(1)~(5)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
(7)操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minの条件下で供給される、温度25℃、pH6.5の1000ppmグルコース水溶液、および温度25℃、pH6.5の1000ppmイソプロピルアルコール水溶液に対して、グルコース除去率が90%以上であり、(グルコース除去率-イソプロピルアルコール除去率)が30%以上である、
(1)~(6)のいずれか1つに記載の複合半透膜。
【0011】
(8)(a)熱可塑性樹脂を良溶媒に溶解させた樹脂溶液を、平膜状に形成する工程、
(b)前記熱可塑性樹脂の非溶媒および良溶媒を含有する凝固液中で前記熱可塑性樹脂を凝固させることで多孔質層を得る工程、及び
(c)前記多孔質層上に分離機能層を形成する工程を備える複合半透膜の製造方法であって、
前記工程(b)は、前記凝固液に浸漬してから3秒以内に前記樹脂溶液内にその厚み方向の前記凝固液の流れを形成することを含む複合半透膜の製造方法。
(9)前記樹脂溶液は基材の表面に塗布され、かつ
前記基材にその裏面から前記凝固液を押し込むことで、前記流れを形成する、
(8)に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、初期造水量に優れると共に、高温高圧運転後に標準的な条件で運転を行っても、優れた造水性と脱塩率を示す複合半透膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の一形態における複合半透膜の模式断面図である。
【
図3】
図3は、多孔質層における膜厚方向孔を示す断面模式図である。
【
図4】
図4の(a)および(b)はそれぞれ、実施例3および比較例2の多孔質層の断面において孔形状を楕円近似した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.複合半透膜]
本発明の実施の一形態として、以下では、
図1に示すように、基材2と、基材2上に設けられた多孔質層3と、多孔質層上に設けられた分離機能層4と、を有する複合半透膜1について説明する。ただし、複合半透膜は、多孔質層と多孔質層上に設けられた分離機能層を備えていればよく、基材は必須の要件ではない。
【0015】
(1-1)基材
基材は、複合半透膜に強度を与え、十分な透水性を有していればよい。基材の構造および組成は、複合半透膜として公知の技術を適用可能である。具体的には、基材としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、またはこれらの混合物若しくは共重合体等のポリマーで構成される布帛が挙げられる。また、基材は不織布であることが好ましい。
【0016】
基材の厚みは10~200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30~150μmの範囲内である。
【0017】
基材の25℃における純水透過係数は、200~700[10-9m3/m2/s/Pa]であることが好ましい。純水透過係数がこの範囲にあることで、多孔質層の形成時に、後述する「流れ」を樹脂溶液中に形成しやすい。
【0018】
(1-2)多孔質層
多孔質層は熱可塑性樹脂によって形成されることが望ましい。ここで、熱可塑性樹脂とは、鎖状高分子物質からできており、加熱すると外力によって変形または流動する性質が表れる樹脂のことをいう。
【0019】
熱可塑性樹脂の例として、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、塩素化塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニルあるいは塩素化塩化ビニルが好ましい。
より好ましくは酢酸セルロース、ポリ塩化ビニルあるいは塩素化塩化ビニル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。多孔質層は、これら列挙された化合物を主成分として含有することが好ましい。
【0020】
ポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN-メチルピロリドンを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の質量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは15000以上100000以下である。
【0021】
ポリスルホンのMwが10000以上であることで、多孔質層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0022】
また、多孔質層の厚みは、20μm以上250μm以下であることが好ましく、20μm以上100μm以下、または30μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、複合半透膜が基材を有する場合には、基材と多孔質層との複合体(以下「多孔質支持体」と呼ぶ)の厚みは、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上220μm以下であるとより好ましい。
【0024】
なお、本書において、特に付記しない限り、厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、多孔質支持体の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に2cm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0025】
<条件A、BまたはCによる加圧>
条件Aによる加圧は、35℃、7MPaで6時間に渡ってNaCl濃度3.2重量%の水溶液を複合半透膜に透過させることで行う。
条件Bによる加圧は、45℃、7MPaで24時間に渡ってNaCl濃度5.0重量%の水溶液を複合半透膜に透過させることで行う。
【0026】
条件Cによる加圧は、25℃、5.5MPaで2時間に渡ってNaCl濃度3.2重量%の水溶液を複合半透膜に透過させることで行う。
なお、加圧の前に分離機能層を除去した場合は、多孔質層(多孔質支持体であってもよい)に、PTFEフィルムのような非透水性フィルムを多孔質層表面に重ねた状態で、非透水性フィルム側に水溶液によって同条件で圧力をかければよい。
【0027】
<表層弾性率(EAおよびEB)>
条件Aで加圧した多孔質層の表面(分離機能層側の面)について、原子間力顕微鏡(AFM)で測定された表層弾性率EA、及び、条件Bで加圧した多孔質層の表面について測定された表層弾性率EBの少なくとも一方は、0.60GPa以上、1.0GPa以下であることが好ましい。この範囲の表層弾性率を有する多孔質層を含む複合半透膜では、高温および/または高圧運転時でも造水性の低下が抑制される。表層弾性率EA及びEBの少なくとも一方は、好ましくは0.65GPa以上1.0GPa以下であり、より好ましくは0.70GPa以上0.95GPa以下である。また、表層弾性率EA及びEBの両方が、0.60GPa以上1.0GPa以下であることも好ましい態様である。
【0028】
多孔質層内では、孔が透水経路として機能する。多孔質膜の場合、圧縮強度は弾性率に比例し、空隙率に反比例することが知られている。空隙率が低い方が、圧縮強度が高くなるので、高温および/または高圧運転時の潰れが抑制される。一方で、空隙率が高い方が、多孔質層内での透水経路が多くなるので、透水性が向上する。このように相反する潰れ抑制と透水経路の確保という要求に対して、発明者らは、多孔質層において透水性に最も大きな影響を与える表層構造に着目し、検討を行った。
【0029】
表層弾性率EAおよびEBは、多孔質層の表層からサブミクロン領域の弾性率を測定しており、表層弾性率EAまたはEBが上記範囲であることで、圧力による多孔質構造の潰れ(水の通路の閉塞)が抑制されるので、透水経路が維持される。その結果、高温および/または高圧で運転を行っても、多孔質層の透水性の低下、さらには複合半透膜の造水量低下を抑制することができる。
【0030】
表層弾性率EAおよびEBは、分離機能層が除去され、表面が露出した多孔質層について測定される値である。分離機能層の除去は、条件Aまたは条件Bによる加圧の前または後のいずれで行ってもよい。例えば、複合半透膜から分離機能層を除去してから、多孔質層(多孔質支持体であってもよい)を条件Aまたは条件Bで加圧してもよいし、条件Aもしくは条件Bで加圧した複合半透膜から分離機能層を除去してもよい。
【0031】
複合半透膜から分離機能層を除去する手法として、分離機能層がポリアミドで構成されている場合には、次亜塩素酸ナトリウム2wt%水溶液に複合半透膜を24~48時間浸漬する方法が挙げられる。
【0032】
表層弾性率EAおよびEBは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。具体的には、多孔質層(多孔質支持体であってもよい)をスライドガラスに固定し、原子間力顕微鏡のカンチレバーを多孔質層の表面に押し当ててから離す動作を行い、得られたフォースカーブから読み取られるカンチレバーのたわみ量とカンチレバーの変形量、および、あらかじめ求めているカンチレバーのバネ係数から、弾性率を算出する。詳細は後述する。
【0033】
具体的には、以下の少なくとも1つの条件を満たすことで、多孔質層は、上記範囲の表層弾性率EAまたはEBを持つことができる。多孔質層は、2つ以上の下記条件を満たすことが好ましい。
(a)表層から深さ500nmまでの部分での空隙率が、10%~30%である。より好ましくは12~25%である。
(b)表面から深さ500nmまでの部分が深さ500nmを越える部分よりも柔軟な熱可塑性樹脂で形成されている。例えば、表面から深さ500nmまでの部分がポリ塩化ビニルで、深さ500nmを越える部分はポリスルホンである。
(c)多孔質層の表層から深さ1.5μmにおける膜厚方向孔の比率が45%以上である。
条件(c)は、膜厚方向に加圧された後も孔経路が閉塞しにくく、表層空隙を維持できるため、弾性率を上記範囲に収めることができ好ましい。
【0034】
<緻密層>
多孔質層3は、非対称構造を有している。多孔質層3では、分離機能層側の表面での孔径が小さく、厚み方向に沿って、他方の表面に向かって孔径が連続的または不連続的に大きくなる。多孔質層の分離機能層側の表面を含み、このうち、断面画像における樹脂割合が90%以上である領域を緻密層31と呼び、樹脂割合が90%未満の部分を粗大層32とよぶ(
図2)。
【0035】
緻密層は以下のように決定される。凍結した複合半透膜を割断し、得られた断面を観察する。割断した膜を乾燥させた後、膜断面に白金/パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを蒸着することで、観察サンプルを得る。電解放出型電子顕微鏡により、100,000倍の倍率で膜断面を撮影し、画像を得る。画像を処理ソフトで8bitに変換し、閾値の最小値を0、最大値を115にして、範囲内を黒、それ以外を白とする2値化処理を行う。表層から20nm毎に、黒と白の割合を計算し、断面方向あたりの黒部面積が10%以下(すなわち、空隙率が10%以下)である範囲を緻密層とする。
【0036】
条件Aまたは条件Bで加圧した多孔質層において、緻密層厚みdは、300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましい。
【0037】
緻密層31は抵抗が大きいので、緻密層厚みdが300nm以下であることで、高圧で運転しても高い透水性が得られる。その結果、複合半透膜の造水量低下を抑制することができる。なお、加圧した多孔質層の緻密層厚みdの下限は問わないが、膜の強度の点から50nm以上が好ましい。
【0038】
加圧後300nm以下の緻密層厚みを達成する具体的な手段としては、
(a)熱可塑性樹脂にファイバー素材を添加するなどして、支持層の強度を高めること、
(b)膜厚方向孔の面積比率を45%以上とすること、
(c)初期の緻密層厚みを100nm以下とすること、
の少なくとも1つ、好ましくは2つ以上を満たすようにすることが挙げられる。特に、(b)および(c)を満たすこと好ましい。上記(a)および(b)は、支持層の潰れを抑制することができる。また、上記(c)は、加圧により支持層が潰れて緻密層の厚みが増大しても、加圧後の緻密層厚みを300nm以下に抑えることができる。
【0039】
<条件A、BまたはCで加圧された多孔質層の表面粗さの比(RaA/RaC)、(RaB/RaC)>
前記条件Aまたは条件Bで加圧した多孔質層の表面粗さ(RaA、RaB)と、条件Cで加圧した多孔質層の表面粗さ(RaC)の比(RaA/RaC)及び(RaB/RaC)の少なくとも一方が1.0以上1.15以下であることが好ましい。(RaA/RaC)及び(RaB/RaC)の少なくとも一方を本範囲とすることで、高圧運転時の支持体表層の凹凸変化を抑制することができ、それにより多孔質層上に形成される分離機能層の凹凸変化(落ち込み)を小さくすることができる。その結果、分離機能層の表面積を維持できるため、造水量低下を抑制することができ、好ましい。また、(RaA/RaC)及び(RaB/RaC)の両方が1.0以上1.15以下であることも好ましい態様である。
【0040】
比(RaA/RaC)もしくは比(RaB/RaC)を上記範囲にするためには、例えば膜厚方向孔の面積比率を45%以上とすればよい。膜厚方向孔の面積比率がこの範囲にあると膜面全体が均一に圧縮される。
【0041】
<多孔質層の表面孔径>
多孔質層の表面孔径は3nm以上10nm以下であることが好ましい。これによって、分離機能層と接する面の孔径を小さくすることができ、分離機能層の落ち込みを小さく抑えることができる。
【0042】
<条件Aまたは条件Bで加圧された多孔質層の純水透過係数>
条件Aまたは条件Bで加圧した多孔質層(多孔質支持体であってもよい)の純水透過係数は、0.12(×10-9m3/(m2・sec・Pa))以上であることが好ましい。加圧後の多孔質層(多孔質支持体であってもよい)の透水性が0.12以上であることで、複合半透膜における多孔質層の抵抗が十分小さくなる。その結果、高圧運転時の複合半透膜での高圧運転後の造水量低下を抑制できる。
【0043】
条件Aまたは条件Bで加圧した多孔質層(多孔質支持体であってもよい)の純水透過係数を0.12(×10-9m3/(m2・sec・Pa))以上にするには、多孔質層表層が高い空隙率(例えば10%以上30%以下)を有するか、多孔質層が親水性官能基を有する樹脂を含有するか、膜厚方向孔の面積比率が45%以上であることが好ましい。
条件Aまたは条件Bで加圧した多孔質層(多孔質支持体であってもよい)の純水透過係数は、0.15(×10-9m3/(m2・sec・Pa))以上がより好ましく、更に0.20以上がより好ましい。
【0044】
<膜厚方向孔の面積比率>
緻密層を検出する場合と同方向の膜断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)で撮影する。得られた画像の多孔質層表面から1.5μmの範囲で、孔部を画像処理により楕円近似する(
図4の(a)、(b))。実際に一方向に長い孔が楕円として認識される場合もあれば、近接する複数の小さい孔が連結されて1つの楕円として認識される場合もある。こうして検出される楕円のうち、長軸の角度θが、膜面方向に対して45度以上135度以下の孔が膜厚方向孔である(
図3)。
【0045】
膜厚方向孔の面積比率とは、全ての楕円近似された孔面積の合計に対し、膜厚方向孔が占める割合である。
【0046】
多孔質層の表面から深さ1.5μmの範囲における、膜厚方向孔の面積比率が45%以上であることが好ましい。
【0047】
通水時には、分離機能層を透過した水が多孔質層の孔を通って基材に抜ける。つまり孔が通水経路として機能する。膜面方向孔面積比率が45%以上であると、膜厚方向に圧力がかかって多孔質層の一部が潰れても、膜厚方向の通水経路が維持されるので、加圧後の透水性の低下を抑制することができる。
【0048】
膜厚方向孔の面積比率の好ましい範囲は45%以上90%以下、より好ましくは65%以上80%以下である。
【0049】
(1-3)分離機能層
分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを含有する。特に、分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを主成分として含有することが好ましい。主成分とは分離機能層の成分のうち、50重量%以上を占める成分を指す。分離機能層は、架橋芳香族ポリアミドを50重量%以上含むことにより、高い除去性能を発現することができる。また、分離機能層における架橋芳香族ポリアミドの含有率は80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。
【0050】
架橋芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミン、多官能芳香族酸クロリドを化学反応させることにより形成できる。ここで、多官能芳香族アミンおよび多官能芳香族酸クロリドの少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。これにより、剛直な分子鎖が得られ、水和イオンやホウ素などの微細な溶質を除去するための良好な孔構造が形成される。
【0051】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。多官能芳香族アミンとしては、例えば、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、o-ジアミノピリジン、m-ジアミノピリジン、p-ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、3-アミノベンジルアミン、4-アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。また、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、2,3,5-トリメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,3,5-トリエチルピペラジン、2-n-プロピルピペラジン、2,5-ジ-n-ブチルピペラジン、1,3-ビスピペリジルプロパン、4-アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。これらの多官能アミンは、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0052】
特に、膜の選択分離性、透過性および耐熱性を考慮すると、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及び1,3,5-トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m-フェニレンジアミン(以下、m-PDAとも記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能芳香族アミンは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
多官能芳香族酸クロリドとは、一分子中に少なくとも2個のクロロカルボニル基を有する芳香族酸クロリドをいう。例えば、3官能酸クロリドでは、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸クロリドでは、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。また、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0054】
膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2~4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸クロリドであることが好ましい。
【0055】
[2.複合半透膜の製造方法]
本発明の複合半透膜の製造方法は、(a)熱可塑性樹脂を良溶媒に溶解させた樹脂溶液を、平膜状に形成する工程、(b)前記熱可塑性樹脂の非溶媒および良溶媒を含有する凝固液中で前記熱可塑性樹脂を凝固させることで多孔質層を得る工程、及び(c)前記多孔質層上に分離機能層を形成する工程を備える複合半透膜の製造方法であって、前記工程(b)は、凝固液に浸漬してから3秒以内に樹脂溶液内にその厚み方向の凝固液の流れを形成するステップを含む。
【0056】
(2-1)多孔質層の形成工程
多孔質層の形成工程は、
(a)熱可塑性樹脂(以下、樹脂と呼ぶ。)を良溶媒に溶解させた樹脂溶液を、平膜状に形成する工程、
(b)前記樹脂の非溶媒および良溶媒を含有する凝固液中で前記樹脂を凝固させることで多孔質層を得る工程、を備える。
多孔質層の形成工程は、多孔質層の成分である樹脂を、その樹脂の良溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程を、さらに含んでいてもよい。
【0057】
「樹脂」は多孔質層の主成分となる材料であり、具体的には上述したとおりである。以下の条件は、樹脂がポリスルホンである場合に特に好ましく適用される。
【0058】
「良溶媒」は、樹脂を溶解するものである。良溶媒の選択によって、上記工程(b)において樹脂溶液から流出する良溶媒の速度を調整することができる。その結果、多孔質層の表層弾性率、緻密層厚みおよび表面粗さを制御することができる。良溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラメチル尿素(THU)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)・N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルイソブチルアミド(DMIB)、N,N-ジイソプロピルイソブチルアミド、N,N-ビス(2-エチルヘキシル)イソブチルアミド等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等の低級アルキルケトン;リン酸トリメチル等のエステル;γ-ブチロラクトン等のラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒が好ましく用いられる。より好ましくは、良溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられる。
【0059】
工程(a)は、基板上または上述の基材上に樹脂溶液を塗布すること、または基材を樹脂の溶液に浸漬することによって実行可能である。基板を用いる場合は、工程(b)後に多孔質層を基板から剥離する。
【0060】
基板または基材上への樹脂溶液の塗布は、種々のコーティング法によって実施できるが、正確な量の溶液を塗布できるダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング等の前計量コーティング法が好ましく適用される。さらに、多孔質層の形成においては、樹脂溶液を塗布するスリットダイ法がさらに好ましく用いられる。
【0061】
樹脂溶液における樹脂濃度濃度(すなわち固形分濃度)は、好ましくは15重量%以上であり、より好ましくは16重量%以上、更に好ましくは17重量%以上である。また、樹脂濃度は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。
【0062】
樹脂濃度が15重量%以上、かつ、多孔質層の表層から深さ1.5μmまでの範囲における膜厚方向孔の面積比率が45%以上であることで、表層弾性率の値を0.6GPa以上にすることができる。膜厚方向孔の面積比率は、樹脂濃度を上記範囲内とすることと、後述のとおり凝固液の流れを形成することで調整することができる。また、膜厚方向孔の面積比率が同範囲で、かつ樹脂濃度が17重量%以上であることで、表層弾性率を0.7GPa以上とすることができる。
【0063】
また、樹脂濃度が30重量%以下であることで、樹脂溶液の粘度が適切な範囲となり、緻密層の孔が連結した構造を得ることができる。よって、この範囲であれば、良好な複合半透膜の初期造水量および加圧後造水量を得ることができる。
【0064】
基材に塗布する時の樹脂溶液の温度は、10~60℃の範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、樹脂溶液が析出することなく、樹脂溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、含浸により多孔質層が基材に強固に接合し、多孔質層を得ることができる。なお、樹脂溶液の好ましい温度範囲は、用いる樹脂溶液の粘度などによって適宜調整すればよい。
【0065】
なお、樹脂溶液が含有する溶媒は、樹脂の良溶媒であれば同一の溶媒でも、異なる溶媒でもよい。適宜、製造する多孔質層の強度特性、樹脂溶液の基材への含浸を勘案して、調整することができる。
【0066】
また、上記樹脂溶液は、多孔質層の緻密層、ボイド層、孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水、アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその塩、さらに塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩、ホルムアルデヒド、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0067】
基材に樹脂溶液を塗布することにより、上記のとおり基材中に樹脂溶液が含浸する。樹脂溶液の基材への含浸を制御するためには、例えば、基材上に樹脂溶液を塗布した後、凝固液に浸漬させる(凝固浴)までの時間を制御する方法、或いは樹脂溶液の温度または濃度を制御することにより粘度を調節する方法が挙げられ、これらの方法を組み合わせることも可能である。
【0068】
工程(b)では、基材上に配置された樹脂溶液を、樹脂溶液中の良溶媒よりも小さい樹脂溶解度を有する凝固液に浸漬させて樹脂を凝固させることで、三次元網目構造を形成することができる。
【0069】
また、凝固液に水等の非溶媒と良溶媒を含有させることで、非溶媒誘起相分離により膜表面に緻密層を形成することが可能となる。
【0070】
凝固液における良溶媒の濃度は、好ましくは0.5重量%以上、5重量%以上、または10重量%以上であり、50重量%以下、または30重量%以下である。良溶媒の種類は上述したとおりである。
【0071】
また、凝固液における非溶媒の濃度は、好ましくは50重量%以上または70重量%以上であり、好ましくは95重量%以下または90重量%以下である。
非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0072】
また、工程(b)は、相分離初期に、樹脂溶液内にその厚み方向の凝固液の流れを形成することを含む。相分離初期とは、樹脂溶液を凝固液に浸漬してから凝固が完了する前の期間であり、例えば、凝固液に浸漬してから3秒以内、好ましくは2秒以内、さらに好ましくは1秒以内である。凝固前に凝固液の流れを形成することで、膜厚方向孔の面積比率を向上させることができる。「流れを形成する」手段として、具体的には、基材側から樹脂溶液に向けて(すなわち、基材に対してその裏面から)凝固液を押し込むか、または基材側から(基材の裏面から)凝固液を吸引することが挙げられる。
【0073】
流れを形成するための押し込みまたは吸引の圧力は、1~3kPaが好ましい。
押し込みまたは吸引の時間は、3~10秒であることが好ましい。
【0074】
凝固液の液体温度は、好ましくは5~50℃、より好ましくは5~30℃の範囲内である。50℃以下であれば、熱運動による凝固液面の振動が激化せず、多孔質層の表面の平滑性が高くなる。また5℃以上であれば十分な凝固速度が得られ、製膜性が良好である。凝固液の温度が上記範囲であることで、表面孔径を3nm以上10nm以下とすることができる。
【0075】
次に、得られた多孔質支持体を、膜中に残存する製膜溶媒を除去するために熱水洗浄することが好ましい。このときの熱水の温度は50~100℃が好ましく、さらに好ましくは60~95℃である。100℃以下で洗浄することで、多孔質支持体の収縮度を小さく抑えることができる。50℃以上で洗浄することで、高い洗浄効果が得られる。
【0076】
(2-2)分離機能層の形成工程
次に、分離機能層の形成工程(c)について説明する。
【0077】
分離機能層は、多官能芳香族アミン、多官能芳香族酸クロリドを化学反応させることにより架橋芳香族ポリアミドを形成することで得られる。化学反応の方法として、界面重合法が生産性、性能の観点から最も好ましい。すなわち、分離機能層は、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒とを用い、多孔質層の表面で界面重縮合を行うことにより形成される。この工程により、架橋ポリアミドが形成される。
【0078】
より詳細には、界面重合の工程は、多官能芳香族アミンを含有する水溶液を多孔質層に接触させる工程(i)と、工程(i)の後に、多官能芳香族酸クロリドを溶解させた溶液を多孔質層に接触させる工程(ii)と、を有する。
【0079】
工程(i)において、多官能芳香族アミン水溶液における多官能芳香族アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。多官能芳香族アミンの濃度がこの範囲であると十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。
【0080】
多官能芳香族アミン水溶液の接触は、多孔質層上に均一かつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能芳香族アミン水溶液を多孔質層にコーティングする方法や、多孔質層を多官能芳香族アミン水溶液に浸漬する方法などを挙げることができる。多孔質層と多官能芳香族アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分間以下であることが好ましく、10秒以上3分間以下であるとさらに好ましい。
【0081】
多官能芳香族アミン水溶液を多孔質層に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように液切りする。液切りによって、分離機能層における欠点の発生を抑制することができる。液切りの方法としては、多官能芳香族アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0082】
工程(ii)において、有機溶媒溶液中の多官能芳香族酸クロリドの濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。
【0083】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能芳香族酸クロリドを溶解し、支持膜を破壊しないものが好ましく、多官能芳香族アミンおよび多官能芳香族酸クロリドに対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n-ノナン、n-デカン、n-ウンデカン、n-ドデカン、イソオクタン、イソデカン、イソドデカンなどの炭化水素化合物および混合溶媒が挙げられる。
【0084】
多官能芳香族酸クロリドの有機溶媒溶液の多官能芳香族アミン水溶液と接触させた多孔質層への接触の方法は、多官能芳香族アミン水溶液の多孔質層への被覆方法と同様に行えばよい。
【0085】
反応後には、膜面から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法、送風機で風を吹き付けることで有機溶媒を乾燥除去する方法、水とエアーの混合流体で過剰の有機溶媒を除去する方法等を用いることができる。
【0086】
また、目的とする複合半透膜の性能に応じて、多官能芳香族アミンの代わりに脂肪族アミンまたは脂環式多官能アミンを用い、かつ多官能芳香族酸クロリドの代わりに脂肪族2官能酸ハロゲン化物または脂環式2官能酸ハロゲン化物を用いることにより、架橋脂肪族ポリアミドまたは架橋脂環式ポリアミドを形成してもよい。
【0087】
[3]複合半透膜の利用方法
複合半透膜は、プラスチックネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0088】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0089】
供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0090】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、12MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。
また、供給水pHが高くなると、海水などの高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0091】
[4]複合半透膜の逆浸透膜としての性能
(4-1)脱塩率(NaCl除去率)及びホウ素除去率
本発明の複合半透膜は、海水淡水化に好適な性能として、操作圧力5.5MPaで供給される、pH6.5、温度25℃、ホウ素濃度5ppm、NaCl濃度3.2重量%の原水に対して、80%以上のホウ素除去率(%)を示すことが好ましい。
ホウ素除去率は、下記のようにして求めることができる。
まず、複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度3.2重量%、ホウ素濃度5ppm)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を2時間行ない、その後の供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定する。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しNaCl濃度を算出する。このNaCl濃度から、次の式により塩除去性能すなわちNaCl除去率を求める。
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
つづいて、下記の式に基づき、ホウ素除去率を算出する。
ホウ素除去率(%)=100×{1-(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
なお原水および透過水の中のホウ素濃度は、脱塩性能測定時のサンプル液を採取しておき、ICP発光分析装置(アジレント・テクノロジー社製5110 ICP-OES)を用いて測定すればよい。
【0092】
(4-2)グルコース除去率、イソプロピルアルコール除去率
(4-2-1)イソプロピルアルコール除去率
複合半透膜のイソプロピルアルコール除去率は、下記のようにして求められる。
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調製した1000ppmイソプロピルアルコール水溶液を操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minで供給したときの透過水と供給水のイソプロピルアルコール濃度を比較することにより評価する。すなわち、イソプロピルアルコール除去率(%)=100×(1-(透過水中のイソプロピルアルコール濃度/供給水中のイソプロピルアルコール濃度))で算出する。なお、イソプロピルアルコール濃度はガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-18A)を用いて求められる。
【0093】
アルカリ金属塩の分離用の膜としては、複合半透膜のイソプロピルアルコール除去率は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましい。また、その下限値としては特に限定されないが、例えば5%である。
【0094】
(4-2-2)グルコース除去率
複合半透膜のグルコース除去率は、下記のようにして求められる。
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調製した1000ppmグルコース水溶液を操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minで供給したときの透過水と供給水のグルコース濃度を比較することにより評価する。すなわち、グルコース除去率(%)=100×(1-(透過水中のグルコース濃度/供給水中のグルコース濃度))で算出する。なお、グルコース濃度は屈折率計(島津製作所製RID-6A)により求められる。
【0095】
本発明において、アルカリ金属塩の分離用途の観点から、複合半透膜のグルコース除去率は90%以上であることが好ましい。また、その上限値としては特に限定されないが、例えば99.9%である。
【0096】
(4-2-3)(グルコース除去率-イソプロピルアルコール除去率)
本発明の複合半透膜においては、アルカリ金属塩の分離用途の観点から、(グルコース除去率-イソプロピルアルコール除去率)が30%以上であることが好ましい。また、その上限値としては特に限定されないが、例えば50%である。
【実施例】
【0097】
以下実施例をもって本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0098】
(1)分離機能層の除去
後述のとおり作成した複合半透膜を20℃の次亜塩素酸ナトリウム2wt%水溶液に24時間浸漬することで、分離機能層を除去した。
【0099】
(2)加圧
上記(1)により得られた多孔質体を切って、直径7.6cmの試料を得た。試料の多孔質層表面に厚み100μmのPTFEフィルムを被せた。加圧装置に焼結板、多孔質体、PTFEフィルムの順番に重ね、PTFEフィルム側に所定条件で水溶液を供給することで、上述の条件A、BおよびCのそれぞれの条件で加圧を行った。
【0100】
(3)表層弾性率EAおよびEB
加圧後の多孔質支持体をスライドガラスに固定し、下記条件で原子間力顕微鏡のカンチレバーを多孔質層の表面に押し当ててから離す動作を行い、フォースカーブを得て、弾性率を算出した。
・観察装置 :Bruker社製走査型プローブ顕微鏡(SPM)、NanoScopeV DimensionIcon
・探針 :Siカンチレバー(バネ定数2N/m程度)
・走査モード:フォースボリューム(コンタクトモード)
・走査範囲 :2μm四方
・カウント数:1辺あたり64
得られたフォースカーブから多孔質層の変形量δを算出し、また、多孔質層に加えた荷重Fは、カンチレバーのバネ定数kを用いて以下の式で得た。
荷重F=k×カンチレバーのたわみ量d 式(1)
変形量δ=[カンチレバーの変形量Δx]-[カンチレバーのたわみ量Δy] 式(2)
ここで、カンチレバーを半径Rの剛体球、多孔質層を単位面積当たりの凝着エネルギーωを持つ換算弾性率Kの弾性体平面と仮定し、探針と多孔質層の接触面積をaとすれば、JKR接触理論を用いて以下の関係が成り立つ。
α3=R/K[F+3πωR+{6πRF+(3πωR)2}1/2] 式(3)
δ=a2/3R+2F/3aK 式(4)
さらに、換算弾性率Kは、多孔質層の弾性率ヤング率Eとポアソン比νを用いて以下のように表される。
K=1.33×E/(1-ν2) 式(5)
以上の関係式(1)~(5)とあらかじめ求めておいたカンチレバーのバネ係数kと半径Rの値より、弾性率Eの値を算出した。なお、本発明では、ポアソン比はν=0.4を用いた。
一連の動作を2μm×2μmの範囲でカンチレバーを2次元走査しながら繰り返して、表面の弾性率の分布を取得し、全データ(64×64)の平均値を表層弾性率EAまたはEBとした。
【0101】
(4)緻密層測定
加圧後の多孔質支持体を多孔質形態保持のための前処理として液体窒素に浸漬して凍結させ、割断して乾燥させた。膜断面に白金/パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを薄く蒸着し、観察サンプルを得た。その後、撮影倍率を100,000倍に設定し、膜断面の任意の断面写真を得た。この断面写真の範囲に対し、膜断面写真画像をimage-Jで読み込み、imageでtypeを8bitにした。Thresholdで閾値の最小値を0、最大値を115にして、範囲内を黒、それ以外を白として2値化処理を行った。そのうち表面から20nm毎に、黒と白の割合を計算し、断面方向あたりの黒部面積が10%未満である範囲を緻密層厚みとした。
・装置: 電解放出型電子顕微鏡 JEM-F200(JEOL製)
・測定条件:加速電圧200kV
【0102】
(5)表面粗さRaA、RaB、RaC
加圧後の多孔質支持体について、多孔質支持層の表面粗さRaA、RaB、RaCは、以下の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して以下の条件で測定した。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Brucker社(株)製Dimension Fastscan)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Brucker社(株)製ScanAsyst Air)
・走査モード ScanAsyst in Air(気中測定)
・レート 3.91Hz
・荷重 5nN
・走査範囲 20μm 四方(気中測定)
・走査解像度 512×512
・試料調製:測定に際し膜サンプルは常温でエタノールに15分浸漬後RO水中に24時間浸漬し洗浄した後風乾し用いた。
【0103】
(6)膜厚方向孔の面積比率
上記(4)に記載の方法で得られた膜断面写真画像について、画像ソフトであるimage-Jにより以下の処理および解析を行った。まず、「image」機能で画像を8bit画像に変換した。次に、閾値の最小値を0、最大値を65にして、最小値~最大値の範囲内を黒、それ以外を白として「Threshold」にて2値化処理を行った(孔部分が黒となる)。さらに、「Filters」でMedian, 1pixelsを選択してノイズを除去した。表面から10nmの深さの位置を上端として、幅1800nm×深さ1500nmの範囲を選択し、「Crop」で選択範囲以外を削除した。こうして選択した領域の画像について、「Set Measurements」で「Area」を選択し、更に「Fit ellipse」を選択し、「Analyze Particles」で粒子解析を行った。このとき「include holes」機能を有効にすることで、粒子の中空部もその粒子の面積に含めた。実施例3および比較例2の楕円近似の結果を
図4の(a)および(b)に示す。
こうして得られた解析で得られた結果で、Angleが45度以上135度以下の孔を厚み方向孔とした。
膜厚方向孔の面積比率 = 厚み方向孔の面積合計/すべての孔の面積合計
【0104】
(7)支持体の透水性
多孔質支持体を直径4.3cmの円形に切り抜き、切り抜いたサンプルを撹拌型ウルトラホルダー(アドバンテック東洋株式会社製 UHP-43K)にセットした(有効ろ過面積:10.9cm2)。続いて、セル内に25℃の純水を入れ、キャップを取り付けた後、窒素で0.2MPaとなるように昇圧した。最後に、一定時間における純水透過量を測定し、以下の式から純水透過係数(×10-9m3/(m2・s・Pa),25℃)を算出した。
純水透過係数=純水透過量÷(膜面積×採水時間×供給圧力)
【0105】
(8)多孔質膜表面から深さ500nmまでの部分での空隙率
多孔質形態保持のための前処理として膜サンプルを液体窒素に浸漬して凍結させたものを、割断して乾燥させた後、膜断面に白金/パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを薄く蒸着し、観察サンプルを得る。その後、撮影倍率を100,000倍に設定し、膜断面の任意の断面写真を得る。この断面写真の範囲に対し、表面から500nmの範囲の膜断面写真画像をimage-Jで読み込み、imageでtypeを8bitにする。Thresholdで閾値の最小値を0、最大値を115にして、範囲内を黒、それ以外を白として2値化処理を行い、黒部面積割合を空隙率とした。
【0106】
(9)複合半透膜の逆浸透膜としての性能評価
(9-1)脱塩率(NaCl除去率)及びホウ素除去率
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した原水(NaCl濃度3.2重量%、ホウ素濃度5ppm)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を2時間行ない、その後の供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定した。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しNaCl濃度を算出した。このNaCl濃度から、次の式により塩除去性能すなわちNaCl除去率を求めた。
NaCl除去率(%)=100×{1-(透過水中のNaCl濃度/供給水中のNaCl濃度)}
つづいて、下記の式に基づき、ホウ素除去率を算出する。
ホウ素除去率(%)=100×{1-(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
なお原水および透過水の中のホウ素濃度は、脱塩性能測定時のサンプル液を採取しておき、ICP発光分析装置(アジレント・テクノロジー社製5110 ICP-OES)を用いて測定した。
【0107】
(9-2)造水量(Flux)
前項の試験において、一定時間における膜透過水量を測定し、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)に換算し、造水量(m3/m2/日)として表した。
【0108】
(9-3)加圧後脱塩率、造水量
上記(9-1)にて性能評価を実施した複合半透膜に、その後温度35℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行ない、更に温度25℃、操作圧力を5.5MPaに戻し、7-1と同様の方法で加圧後のNaCl除去率、造水量を求め、高圧運転後の脱塩率や造水量を求めた。
【0109】
(10)グルコース除去率、イソプロピルアルコール除去率
(10-1)イソプロピルアルコール除去率
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調製した1000ppmイソプロピルアルコール水溶液を操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minで供給したときの透過水と供給水のイソプロピルアルコール濃度を比較することにより評価した。すなわち、イソプロピルアルコール除去率(%)=100×(1-(透過水中のイソプロピルアルコール濃度/供給水中のイソプロピルアルコール濃度))で算出した。なお、イソプロピルアルコール濃度はガスクロマトグラフ(島津製作所製GC-18A)を用いて求めた。
【0110】
(10-2)グルコース除去率
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調製した1000ppmグルコース水溶液を操作圧力0.75MPaかつ濃縮水流量3.5L/minで供給したときの透過水と供給水のグルコース濃度を比較することにより評価した。すなわち、グルコース除去率(%)=100×(1-(透過水中のグルコース濃度/供給水中のグルコース濃度))で算出した。なお、グルコース濃度は屈折率計(島津製作所製RID-6A)により求めた。
【0111】
(10-3)架橋脂肪族ポリアミド分離機能層系複合分離膜の脱塩率(MgSO4除去率)、造水量(Flux)
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5、MgSO4濃度2000mg/Lに調整した塩水を操作圧力0.48MPaで供給して膜ろ過処理を行なった。その後、供給水および透過水の電気伝導度を東亜ディーケーケー株式会社製マルチ水質計(MM60R)で測定した。次に、事前に作成した検量線を用いて、この電導度を換算しMgSO4濃度を算出した。このMgSO4濃度から、次の式により塩除去性能すなわちMgSO4濃度を求めた。
MgSO4除去率(%)=100×{1-(透過水中のMgSO4濃度/供給水中のMgSO4濃度)}
また、上記試験において、一定時間における膜透過水量を測定し、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)に換算し、造水量(m3/m2/日)として表した。
【0112】
(10-4)加圧後脱塩率(MgSO4除去率)、造水量
上記(10-3)にて性能評価を実施した複合半透膜に、その後温度35℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行ない、更に温度25℃、操作圧力を0.48MPaに戻し、上記(10-3)と同様の方法で加圧後のMgSO4除去率、造水量を求め、高圧運転後の脱塩率や造水量を求めた。
【0113】
(11)複合半透膜の作製
下記のとおり複合半透膜を作製した。多孔質支持体の形成条件を表1に、多孔質支持体の特性を表2及び4に、複合半透膜の特性を表3及び5に示す。
【0114】
(実施例1)
基材であるポリエステル不織布(厚み90μm、透水性700[10-9m3/m2/s/Pa])上にポリスルホン(PSf)の15重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、純水中に浸漬後1.0秒以内に、基材側から圧力1kPaで3秒ほど純水を押し当てたのち、純水中に5分間放置し、多孔質支持体を作製した。ポリスルホン層の厚みは40μmであった。
得られた多孔質支持体をm-フェニレンジアミン(m-PDA)の3重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持体を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド(TMC)0.165重量%を含むデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、純水で洗浄することで、架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0115】
(実施例2)
ポリスルホン濃度を16重量%にした以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0116】
(実施例3)
ポリスルホン濃度を17重量%にした以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0117】
(実施例4)
ポリスルホン濃度を18重量%にした以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0118】
(実施例5)
基材側から圧力3kPaで10秒ほど純水を押し当てた以外は実施例4と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0119】
(実施例6)
ポリエステル不織布(厚み90μm、透水性700[10-9m3/m2/s/Pa])上にポリスルホン(PSf)の18重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、純水中に浸漬すると同時に、基材側から圧力1kPaで10秒ほど純水を吸引したのち、純水中に5分間放置し、多孔質支持体を作製した。ポリスルホン層の厚みは40μmであった。
それ以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0120】
(実施例7)
ポリスルホン濃度を21重量%にした以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0121】
(実施例8)
まず、実施例1と同様の方法で、多孔質支持体を作製した。得られた多孔質支持体をピペラジンが1.0重量%、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムが100ppmとなるように溶解した水溶液に30秒間浸漬した後、該支持体を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け多孔質層表面から余分な水溶液を取り除いた。次に、トリメシン酸クロリド(TMC)0.40重量%を含むデカン溶液を多孔質層表面が完全に濡れるように塗布して30秒間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、送風機を使い25℃の空気を吹き付けてデカン溶液を乾燥させた。最後に、80℃の純水で洗浄することで、架橋脂肪族ポリアミド分離機能層を有する複合分離膜を得た。
【0122】
(実施例9)
実施例3と同様の方式で多孔質支持体を作成した。その後実施例8と同様に架橋脂肪族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0123】
(実施例10)
基材としてポリエステル不織布(厚み90μm、透水性200[10-9m3/m2/s/Pa])を用いた以外は実施例4と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0124】
(実施例11)
基材としてポリエステル不織布(厚み90μm、透水性200[10-9m3/m2/s/Pa])を用いた以外は実施例5と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0125】
(比較例1)
ポリエステル不織布(厚み90μm、透水性700[10-9m3/m2/s/Pa])上にポリスルホン(PSf)の16重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって、多孔質支持体を作製した。ポリスルホン層の厚みは40μmであった。
それ以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0126】
(比較例2)
ポリスルホン濃度を17重量%にした以外は比較例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0127】
(比較例3)
ポリエステル不織布(厚み90μm、透水性700[10-9m3/m2/s/Pa])上にポリスルホン(PSf)の18重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、純水中に浸漬後5.0秒後に、基材側から圧力1kPaで3秒ほど純水を押し当てたのち、純水中に5分間放置し、多孔質支持体を作製した。ポリスルホン層の厚みは40μmであった。それ以外は実施例1と同様に架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0128】
(比較例4)
ポリエステル不織布(厚み90μm、透水性700[10-9m3/m2/s/Pa])上にポリスルホン(PSf)の18重量%DMF溶液を25℃の条件下でキャストし、純水中に浸漬後1.0秒以内に、基材側から圧力1kPaで3秒ほど純水を押し当てたのち、純水中に5分間放置し、多孔質支持体を作製した。
更に作製した多孔質支持体に対し、多孔質支持体の熱可塑性樹脂層側に厚さ0.1mmのPTFEフィルムを原水が多孔質支持体、複合半透膜の順に透過するように積層し、操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を2時間行ない、その後に温度35℃、操作圧力7.0MPaで供給して膜ろ過処理を6時間行ない、多孔質支持体を得た。
得られた多孔質支持体をm-フェニレンジアミン(m-PDA)の3重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持体を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド(TMC)0.165重量%を含むデカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置したのち、膜を垂直にして余分な溶液を液切りして除去し、純水で洗浄することで、架橋芳香族ポリアミド分離機能層を有する複合半透膜を得た。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2022年1月26日付で出願された日本特許出願(特願2022-009924)に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の複合半透膜は、海水淡水化、かん水淡水化、飲料水製造、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられる。
【符号の説明】
【0136】
1 複合半透膜
2 基材
3 多孔質層
31 緻密層
32 粗大層
4 分離機能層
【要約】
本発明は、多孔質層と、前記多孔質層上に設けられた分離機能層とを有する複合半透膜であって、条件A(7MPa、35℃、6時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EA)、及び、条件B(7MPa、45℃、24時間)で加圧された前記多孔質層の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で測定したときの表層弾性率(EB)の少なくとも一方が、0.6GPa以上、1.0GPa以下である複合半透膜に関する。