(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】低減された粘着性を有するポリマーを作製する方法、及びこれらのポリマーを組み込んだゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 6/12 20060101AFI20230905BHJP
C08F 236/10 20060101ALI20230905BHJP
C08F 297/04 20060101ALI20230905BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
C08F6/12
C08F236/10
C08F297/04
C08K5/09
(21)【出願番号】P 2021114489
(22)【出願日】2021-07-09
(62)【分割の表示】P 2019534341の分割
【原出願日】2017-12-21
【審査請求日】2021-08-06
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504396748
【氏名又は名称】ファイヤーストーン ポリマーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】テランス・イー・ホーガン
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・エル・マッキンタイア
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ・ヅァオ
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/030806(WO,A1)
【文献】特開2008-195923(JP,A)
【文献】特開2014-055264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン官能化ポリマーを調製する方法であって、
i.アニオン重合開始剤を、共役ジオレフィンモノマー及び溶媒を含む反応性混合物を含む反応器に導入して、アニオン重合を介してリビングポリマーを形成することと、
ii.前記反応器にアルコキシシランを導入して、前記リビングポリマーと反応させて、アルコキシシラン官能化ポリマーを形成することと、
iii.水のいかなる接触前に、ステアリン酸を前記アルコキシシラン官能化ポリマーに添加することと、
iv.前記ステアリン酸の添加後、前記アルコキシシラン官能化ポリマーから溶媒を除去することと、を含み、
前記ステアリン酸の添加が、前記アルコキシシラン官能化ポリマーのムーニー粘度を少なくとも25増加させ、且つ、
前記ステアリン酸の添加が、前記アルコキシシラン官能化ポリマーが1000gf・mm未満の接着エネルギーを有するように、前記アルコキシシラン官能化ポリマーの粘着性を低減する、
方法。
【請求項2】
前記共役ジオレフィンモノマーが、1,3ブタジエン、イソプレン、ミルセン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応性混合物が、ビニル芳香族炭化水素を更に含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビニル芳香族炭化水素が、スチレン、アルファメチルスチレン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステアリン酸が、前記反応器に、又は前記反応器の下流の別の混合機に添加される、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つのポリマー改質剤を前記反応器に添加することを更に含み、前記ポリマー改質剤が、環状オリゴマーオキソラニルアルカン、カリウムt-アミレート、又はその両方を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
酸化防止剤を添加することを更に含む、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸化防止剤が、前記反応器又は前記反応器の下流の別の混合機に添加される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
シラン安定化剤を添加することを更に含む、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記重合開始剤が、リチウム触媒である、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルコキシシランが、3-(1,3-ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシラン、オルトケイ酸テトラエチル、3-
グリシジルプロピルトリメトキシシラン、3-
グリシジルプロピルメチルジメトキシシラン、又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルコキシシラン官能化ポリマーが、アルコキシシラン官能化スチレンブタジエンコポリマーである、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、一般に、アニオン重合を介して安定化されたポリマーを生成する方法に関し、具体的には、少なくとも10個の炭素を有する少なくとも1つの脂肪族カルボン酸を添加してポリマー中の粘着性又は粘性を低減することによって、安定化されたアルコキシシラン官能化ポリマーを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムーニー粘度の制御は、ゴム製造の主な考慮事項である。アニオン重合を終端させるために、リビングポリマーの末端は、多くの場合、官能基でキャップされる。これは、ムーニー粘度の増加をもたらすが、これらの末端は、多くの場合、更なる加水分解、縮合、及びカップリングを受け得、これらによりムーニー粘度を増加させることができる。加工を改善するために、ポリマー生成中にはより高いムーニー粘度が望ましい。しかしながら、高いムーニー粘度のポリマーは、加工上の懸念(例えば、弱い押出)に起因して、ゴム化合物を不向きにする場合がある。結果として、多くの場合、ポリマー工場及びタイヤ工場で粘度安定化剤を添加して、より高粘度のポリマーの生成及び加工を可能にする。
【0003】
ムーニー粘度を制御するために様々な成分が添加され得るが、ポリマーの粘着性はゴム加工装置との問題もまた生じ得る。具体的には、この高い粘着性は、装置の汚れ及びつまりをもたらし得る。この粘着性のために、プロセス設備は、再使用され得る前に多くの場合、オフラインにする必要がある。
【0004】
したがって、ゴム組成物に使用されるコポリマーの粘着性低減が、継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、ステアリン酸などの少なくとも10個の炭素を有する脂肪族カルボン酸を添加することによって、アルコキシシラン官能化ポリマーの粘着性を低減する方法に関する。
【0006】
一実施形態によれば、アルコキシシラン官能化ポリマーを調製する方法が提供される。方法は、アニオン重合開始剤を、共役ジオレフィンモノマー及び溶媒を含む反応性混合物を含む反応器に導入して、アニオン重合を介して反応性ポリマーを形成することと、アルコキシシランを反応器に導入して反応性ポリマーと反応させて、アルコキシシラン官能化ポリマーを形成することと、少なくとも10個の炭素を有する少なくとも1つの脂肪族カルボン酸をアルコキシシラン官能化ポリマーに添加することと、アルコキシシラン官能化ポリマーから溶媒を除去することと、を含む。
【0007】
本明細書に記載の実施形態の更なる特色及び利点は、以下の「発明を実施するための形態」に記載され、ある程度において、当業者はこの記載から容易に理解する、又は、以下の「発明を実施するための形態」、「特許請求の範囲」を含む、本明細書に記載の実施形態を実施することにより認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本明細書に記載の粘着性試験方法による、金属ディスクからスチレンブタジエン(styrene butadiene、SBR)コポリマー試料を分離するのに必要な垂直力のグラフ図である。
【
図2】本明細書に記載の粘着性試験方法による、スチレンブタジエン(SBR)コポリマー試料と金属ディスクとの間の接着エネルギーのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、より詳細な実施形態を参照して本開示を説明するが、本開示は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、主題を当業者に完全に伝えるために提供される。
【0010】
特に定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書の本開示において使用される専門用語は、特定の実施形態のみを説明するものであり、制限することを意図するものではない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されるように、「1つの(a)、「1つの(an)」、及び「その(the)」という単数形は、文脈が明らかに別途指示しない限り、複数形をも含むことを意図する。本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に明示的に援用される。
【0011】
定義
本明細書に記載の専門用語は、実施形態を説明するためだけのものであり、全体として本開示の範囲を限定すると解釈すべきではない。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「phr」は、ゴムの重量部を意味する。ゴム組成物が2種以上のゴムを含む場合、「phr」は、全てのゴムを合わせた100部に対する重量部を意味する。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「ポリブタジエン」は、1,3-ブタジエンモノマーから製造されたポリマーを示すために使用される。用語ポリブタジエンはまた、句「ポリブタジエンゴム」及び略記「BR」と互換的に使用される。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「スチレン-ブタジエンコポリマー」、「スチレン-ブタジエンゴム」、又は「SBR」は、スチレン及び1,3-ブタジエンモノマーから製造されたコポリマーを意味する。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「天然ゴム」又は「NR」は、パラゴムノキ属のゴムの木及び非パラゴムノキ属の原料(例えば、グアユールゴムの木)などの原料から採取することができるものなどの、天然由来のゴムを意味する。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「コポリマー」は、2つ以上のモノマーから生成されるポリマーを指し、したがって、2つのモノマー又はターポリマーなどの3つ以上のモノマーから生成されるポリマーを包含し得る。
【0017】
本明細書で使用する場合、「ビニル含有量」は、ポリマー中の1,2-ビニル二重結合(例えば、官能化水素化コポリマー)の百分率を指す。
【0018】
本明細書で使用する場合、「ゴム組成物」は、コポリマー(例えば、官能化水素化コポリマー)、並びにタイヤ及び非タイヤ用途での使用のためにブレンドされる追加の充填剤及び添加剤を指す。
【0019】
本開示の実施形態は、アルコキシシラン官能化ポリマーを調製する方法に関する。方法は、アニオン重合開始剤を、共役ジオレフィンモノマー及び溶媒を含む反応性混合物を含む反応器に導入して、アニオン重合を介して反応性ポリマーを形成することと、アルコキシシランを反応器に導入して反応性ポリマーと混合して、アルコキシシラン官能化ポリマーを形成することと、少なくとも10個の炭素を有する少なくとも1つの脂肪族カルボン酸をアルコキシシラン官能化ポリマーに添加することと、アルコキシシラン官能化ポリマーから溶媒を除去することと、を含み得る。
【0020】
モノマー
共役ジオレフィンは、様々な炭化水素組成物を含み得る。例えば、共役ジオレフィンとしては、1,3-ブタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、4-メチル-1,3-ペンタジエン、及び2,4-ヘキサジエン、又はこれらの組み合わせなどの約4~約12個の炭素原子を有するものが挙げられる。本明細書で使用する場合、共役ジオレフィンはまた、ミルセンなどのトリエンを包含し得る。これらの共役ジオレフィンは、ポリブタジエン及びポリイソプレンなどのジエンホモポリマーを生成するために利用され得る。
【0021】
更なる実施形態では、反応器内の混合物はまた、共役ジオレフィンと共重合してコポリマーを生成することができるコモノマーを含み得る。コモノマーは、約8~約20個の炭素原子、又は約8~10個の炭素原子を有するビニル芳香族炭化水素を含み得る。これらのビニル芳香族炭化水素は、モノビニル芳香族炭化水素を含み得る。1つ以上の実施形態では、ビニル芳香族モノマーは、スチレン、アルファ-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1-アルファ-メチルビニルナフタレン、2-アルファメチル-ビニルナフタレン、及びこれらの混合物、並びにこれらのハロ、アルコキシ、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリル、及びアラルキル誘導体を含み得る。これら後者の化合物の例としては、4-メチルスチレン、ビニルトルエン、3,5-ジエチルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-フェニルスチレン、4-パラ-トリルスチレン、及び4,5-ジメチル-1-ビニルナフタレン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
生成されるポリマーとしては、ジエンホモポリマー、及びジエンホモポリマーとビニル芳香族コモノマーとのコポリマーを挙げることができる。1つ以上の実施形態では、生成されるポリマーは、ポリブタジエン及びポリイソプレンなどのジエンホモポリマー、又はスチレンブタジエンゴム(SBR)などのコポリマーであり得る。コポリマーは、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり得る。ブロックコポリマーとしては、熱可塑性ポリマーであるポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)が挙げられるが、これに限定されない。
【0023】
コポリマーの実施形態では、コポリマーは、共役ジオレフィンモノマーを20~100重量%、又は約40~90重量%含み得る。逆に、コポリマーは、0~約80重量%、又は約10~約60重量%のビニル芳香族モノマーを含み得る。コポリマーは、ランダムコポリマー又はブロックコポリマーであり得る。一実施形態では、共役ジオレフィンモノマーは1,3-ブタジエンであり、ビニル芳香族モノマーはスチレンであり、これらを共重合してスチレンブタジエンコポリマーを生成する。特定の実施形態では、コポリマーは、ランダムスチレンブタジエンコポリマーである。
【0024】
溶媒
本開示の重合は、溶媒、例えば不活性溶媒の存在下で行われ得る。用語「不活性溶媒」は、得られるポリマーの構造に入らず、得られるポリマーの特性に悪影響を及ぼさず、用いられる触媒の活性に悪影響を及ぼさない溶媒を意味する。好適な不活性溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサンなどの脂肪族、芳香族、又は脂環式炭化水素を含有し得る炭化水素溶媒が挙げられる。テトラヒドロフランなどのエーテル、並びにトリエチルアミン及びトリブチルアミンなどの三級アミンも溶媒として使用され得るが、これらは、スチレン分布、ビニル含有量、及び反応速度に応じて重合を変化させ得る。1つ以上の実施形態では、溶媒は、ヘキサン又はヘキサン類(例えば、直鎖及び分枝鎖)のブレンド及び混合物、例えば、単独の又は他の形態のヘキサンと混合されているシクロヘキサンを含み得る。
【0025】
アニオン重合開始剤
本開示のアニオン重合プロセスには、様々なアニオン重合開始剤が考慮される。アニオン重合開始剤は、リチウム触媒、具体的には、有機リチウムアニオン開始剤触媒を含み得る。用いられる有機リチウム開始剤は、共役ジオレフィンモノマー(例えば、1,3-ブタジエンモノマー)の重合に有用な任意のアニオン有機リチウム開始剤であり得る。一般に、有機リチウム化合物としては、式中、Rが、1~約20個の炭素原子、好ましくは約2~約8個の炭素原子を含有する炭化水素基を表し、xが、1~2の整数である、式R(Li)xの炭化水素含有リチウム化合物が挙げられる。炭化水素基は脂肪族基であることが好ましいが、炭化水素基は脂環式又は芳香族であってもよい。脂肪族基は、一級、二級、又は三級基であってもよいが、一級及び二級基が好ましい。脂肪族ヒドロカルビル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-アミル、sec-アミル、n-ヘキシル、sec-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-ドデシル、及びオクタデシルが挙げられる。脂肪族基は、アリル、2-ブテニルなどの不飽和をいくらか含有し得る。シクロアルキル基は、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロペンチルメチル、及びメチルシクロペンチルエチルによって例示される。芳香族ヒドロカルビル基の例としては、フェニル、トリル、フェニルエチル、ベンジル、ナフチル、フェニルシクロヘキシルなどが挙げられる。R及びxが上記に定義したようなR(Li)xなどの1つ以上のリチウム化合物を含有するものなど、異なるリチウム開始剤化合物の混合物を用いることもできる。単独で又はヒドロカルビルリチウム開始剤と組み合わせて用いることができる他のリチウム触媒は、トリブチルスズリチウム、リチウムジアルキルアミン、リチウムジアルキルホスフィン、リチウムアルキルアリールホスフィン、及びリチウムジアリールホスフィンである。一実施形態では、有機リチウム開始剤は、n-ブチルリチウムである。
【0026】
所望の重合をもたらすのに必要な開始剤の量は、所望のポリマー分子量、共役ジエンの所望の1,2-及び1,4-含有量、並びに生成されるポリマーの所望の物理的特性などの多数の要因に応じて広範囲にわたって変化し得る。一般に、利用される開始剤の量は、所望のポリマー分子量(典型的には1,000~10,000,000グラム/モル平均分子量)に応じて、モノマー100グラム当たり最低0.2ミリモル程度のリチウリチウム~モノマー100グラム当たり最高約100ミリモルと変化し得る。
【0027】
モノマー(複数可)及び溶媒を好適な反応容器に導入し、続いてアニオン重合開始剤を添加することによって重合を開始する。重合反応は、バッチ重合反応器システム又は連続重合反応器システムで実行することができる。温度、圧力、及び時間などの重合条件は、上述のアニオン重合開始剤を用いて記載されている、モノマーを重合することで当該技術分野において周知である。例えば、例示目的のみのために、重合に用いられる温度は一般に重要ではなく、約-60℃~約150℃の範囲であり得る。数分~最長24時間以上の重合時間、及び重合混和物を実質的に液相で維持するのに一般的に十分な圧力を用いる例示的な重合温度は、約25℃~約130℃の範囲であり得る。この手順は、無水嫌気性条件下で実行され得る。有機リチウム開始剤の存在下で、上で特定されたモノマーのうちのいずれかの重合は、「リビング」ポリマーの形成をもたらす。ポリマーの形成又は成長を通して、ポリマー構造は、アニオン性であり、リビングであり得る。言い換えれば、炭素アニオンが存在する。続いて反応に付加されるモノマーの新バッチは、既存の鎖のリビング末端に付加され、重合度を増加させることができる。したがって、リビングポリマー又はコポリマーは、アニオン反応性末端を有するポリマー部分を含み得る。
【0028】
官能基
次いで、リビングポリマーのアニオン反応性末端に官能基を適用して、リビングポリマーをキャップ又は終端させてもよい。様々なアルコキシシランは、官能基に好適であると考えられる。1つ以上の実施形態では、ポリマーに結合しているアルコキシシランは、以下の式によって表されるシラン終端ポリマーであり、
【0029】
【0030】
式中、Xが存在していても存在しなくてもよく、連結原子、化学結合、又は連結基(例えば、酸素、硫黄など)を表し、R1が、C1~C18アルキル、窒素又は酸素などのヘテロ原子を含有するQ~C18アルキル基、C4~C8シクロアルキル、又はC6~C18芳香族基であり、R2及びR3が、同じであっても異なっていてもよく、-OR1、Q~C18アルキル、C4~C8シクロアルキル、又はC6~C18芳香族基からなる群から選択される。一実施形態では、官能基は、R1がC2であり、エトキシ基を形成し、R2が、OR1と同じ基であり、R3が、3-(1,3-ジメチルブチリデン)アミノプロピル基である、上の式で表される、3-(1,3,-ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシランを含む。
【0031】
更なる実施形態では、アルコキシシラン化合物は、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3-グリシジルプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、又は3-(1,3-ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシランなどのトリメトキシシラン組成物を含み得る。加えて、アルコキシシリル組成物としては、オルトケイ酸テトラエチル、3-グリシジルプロピルメチルジメトキシシラン、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。アルコキシシラン化合物の好適な市販の例は、Chisso Corporationにより生成されたSila-Ace S340、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミンであり得る。
【0032】
重合条件によって、官能基をどの程度添加するかを決定してもよい。1つ以上の実施形態では、官能基は、約0.25~2、又は約0.3~1のモル比(開始剤に対する)で存在し得る。
【0033】
追加の重合成分
加えて、共重合においてランダム化を促進するために、及びビニル含量を制御するために、任意選択的に、1つ以上のポリマー改質剤を重合成分に添加してもよい。ポリマー改質剤の量は、開始剤(例えば、リチウム触媒)1当量当たり0~約90当量以上の範囲であり得る。ポリマー改質剤として有用な化合物は、典型的には有機物であり、酸素又は窒素ヘテロ原子及び非結合電子対を有するものが挙げられる。例としては、モノ及びオリゴアルキレングリコールのジアルキルエーテル、「クラウン」エーテル、テトラメチエチレン(tetramethyethylene)ジアミン(tetramethyethylene diamine、TMEDA)などの三級アミン、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)、2,2-ビス(2-テトラヒドロフリル)プロパン、THFオリゴマー直鎖及び環状オリゴマーオキソラニルアルカン(例えば、環状オリゴマーオキソラニルプロパン)などが挙げられる。ポリマー改質剤として使用されるオキソラニル化合物の追加の実施形態及びその詳細は、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第9,309,330号に提供されている。1つ以上の実施形態では、ポリマー改質剤としては、環状オリゴマーオキソラニルプロパン、カリウムt-アミレート(potassium t-amylate、KTA)、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0034】
本開示のプロセスはまた、任意選択的に、安定化剤、例えば、ムーニー粘度を安定化するために使用されるシラン安定化剤を含んでもよい。シラン安定化剤は、以下の構造式のアルキルアルコキシシランからなる群から選択され得、
【0035】
R1
nSi(OR2)4-n
【0036】
式中、R1が、C1~C20アルキル、C4~C10シクロアルキル、又はC5~C20芳香族基からなる群から選択され、R2が、もしあればR1又は他のR2と同じであっても異なっていてもよく、C1~C20アルキル、C4~C10シクロアルキル、又はC5~C20芳香族基からなる群から選択され、nが、ポリマーが水と接触する前に1~3の整数である。1つの好適なシラン安定化剤は、オクチルトリエトキシシランである。シラン安定化剤の追加の実施形態及びその詳細は、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第6,255,404号に提供されている。
【0037】
更に、酸化カップリングに起因するムーニー粘度の不安定性の可能性を低減するために、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(ブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydoxytoluene、BHT)とも呼ばれる)などの酸化防止剤を添加してもよい。安定化剤を反応器又は反応器の下流の別の混合機に添加してもよい。同様に、酸化防止剤を反応器又は反応器の下流の別の混合機に添加してもよい。メタノール又はイソプロパノールなどのアルコールもまた、終端工程を支援するために使用してもよい。
【0038】
脂肪族カルボン酸
アニオン重合及びアルコキシシラン官能化工程が開始された後、少なくとも10個の炭素を有する少なくとも1つの脂肪族カルボン酸をアルコキシシラン官能化ポリマーと混合する。理論に束縛されるものではないが、脂肪族カルボン酸は、アルコキシシラン官能化ポリマーの加水分解及び縮合を触媒し、ムーニー粘度を増加させる。粘度を増加させることに加えて、脂肪族カルボン酸は、驚くべきことに、アルコキシシラン官能化ポリマーの粘着性を低減することが見出された。より短鎖の脂肪族カルボン酸(<10炭素)は、粘着性を低減せず粘度を増加させた。
【0039】
少なくとも10個の炭素を有する様々な脂肪族カルボン酸が好適であると考えられる。理論に限定されるものではないが、少なくとも10個の炭素の疎水性炭化水素鎖と組み合わせた極性親水性カルボン酸終端基は、アルコキシシラン官能化ポリマー中の粘着性を低減するのに有効であることが見出されている。2-エチルヘキサン酸又は酢酸などの従来のカルボン酸は、縮合を触媒するために使用されているが、これらのより短い炭化水素鎖は、粘着性を低減するのに有効ではない。更なる実施形態では、脂肪族カルボン酸は、少なくとも12個の炭素、又は少なくとも14個の炭素、又は少なくとも16個の炭素、又は少なくとも18個の炭素を含み得る。一実施形態では、脂肪族カルボン酸は、ステアリン酸を含み得る。下流のゴム配合及びゴム加硫にステアリン酸が使用されることが多いが、ムーニー粘度を増加させるために溶媒除去の前に上流でステアリン酸を使用して、粘着性を低減することは知られておらず、予想されていなかった。
【0040】
脂肪族カルボン酸は、重合反応器に、又は反応器の下流の別の混合機に添加してもよい。1つ以上の実施形態では、脂肪族カルボン酸(例えば、ステアリン酸)は、少なくとも50℃、又は少なくとも60℃の温度の溶融形態で添加してもよい。加えて、脂肪族カルボン酸は、上述の1つ以上の安定化剤(例えば、アルキルトリエトキシシラン)、蒸気、又はその両方との溶液中で送達され得ることが考慮される。脂肪族カルボン酸を添加すると、アルコキシシラン官能化ポリマー及び脂肪族カルボン酸は、反応を完了するのに十分な時間、例えば約0.05~約2時間の間反応し得る。
【0041】
その後次いで、溶媒をアルコキシシラン官能化ポリマーから除去する。蒸気脱溶媒、ドラム乾燥、押出機又は混練機揮発分除去などの様々な溶媒除去プロセスを利用して、溶媒を除去してもよい。
【0042】
理論に束縛されるものではないが、脂肪族カルボン酸(例えば、ステアリン酸)の添加は、アルコキシシラン官能化ポリマーの粘着性を低減する。1つ以上の実施形態では、脂肪族カルボン酸の添加は、アルコキシシラン官能化ポリマーの金属(例えば、ステンレス鋼)への接着エネルギーを、1000グラム重ミリメートル(gf・mm)未満、又は750gf・mm未満、又は500gf・mm未満のレベルまで低減する。これらの接着エネルギー値は、後述する粘着性試験方法を使用して測定することができる。加えて、脂肪族カルボン酸は、アルコキシシラン官能化ポリマーのムーニー粘度を増加させる。1つ以上の実施形態では、脂肪族カルボン酸の添加に起因して、ムーニー粘度は、5、又は10、又は20、又は25増加され得る。
【0043】
ゴム組成物
次に、上に詳述されているポリマーは、タイヤ及び非タイヤ用途のゴム組成物に含まれてもよい。ゴム組成物は、少なくとも1つの硬化剤と、少なくとも1つの補強充填剤とを含み得る。
【0044】
硬化剤
本明細書で使用する場合、硬化剤は、官能化コポリマーの加硫に使用される加硫剤である。1つ以上の実施形態では、硬化剤としては、硫黄系硬化剤又は過酸化物系硬化剤が挙げられる。特定の好適な硫黄硬化剤の例としては、「ゴム製造業者(rubbermaker)」の可溶性硫黄、二硫化アミン、ポリマー性ポリスルフィド、又は硫黄オレフィン付加物などの硫黄供与性硬化剤、及び不溶性のポリマー性硫黄が挙げられる。一実施形態では、硫黄硬化剤は、可溶性硫黄、又は可溶性及び不溶性ポリマー硫黄の混合物を含む。硬化に使用される好適な硬化剤及びその他の成分、例えば、加硫阻害剤、スコーチ阻害剤の一般的な開示として、Kirk-Othmer、Encyclopedia of Chemical Technology,3rd ed.,Wiley Interscience,N.Y.1982年、Vol.20、pp.365~468、特に「Vulcanization Agents and Auxiliary Materials」、pp.390~402、又はA.Y.Coran、「Encyclopedia of Polymer Science and Engineering」第2版(1989年、John Wiley & Sons,Inc.)を参照可能であり、これらは参照により本明細書に援用される。様々な量が考慮されるが、硬化剤を、1~5phr及び好ましくは1~3.5phrを含む1~7.5phrを含む、0.1~10phrの範囲の量で使用してもよい。
【0045】
補強充填剤
本明細書で使用する場合、「補強充填剤」は、窒素吸着比表面積(N2SA)が、約100m2/g超、及びある特定の場合では、100m2/g超、約125m2/g超、125m2/g超、又は更に約150m2/g超、又は150m2/g超を有する粒子材料を指し得る。あるいは、「補強充填剤」はまた、約10nm~約50nmの粒径を有する粒子材料を指すためにも使用することができる。
【0046】
1つ以上の実施形態では、補強充填剤は、シリカ、カーボンブラック、又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0047】
様々なカーボンブラック組成物が好適であると考えられる。中でも有用なカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャネルブラック、及びランプブラックである。より具体的には、有用なカーボンブラックの例としては、超耐摩耗性ファーネス(super abrasion furnace、SAF)ブラック、高耐摩耗性ファーネス(high abrasion furnace、HAF)ブラック、良押出性ファーネス(fast extrusion furnace、FEF)ブラック、微細ファーネス(fine furnace、FF)ブラック、準超耐摩耗性ファーネス(intermediate super abrasion furnace、ISAF)ブラック、中補強性ファーネス(semi-reinforcing furnace、SRF)ブラック、中加工性チャネルブラック、難加工性チャネルブラック、及び導電性チャネルブラックが挙げられる。利用され得る他のカーボンブラックとしては、アセチレンブラックが挙げられる。ある特定の実施形態では、ゴム組成物は、前述のカーボンブラックのうちの2つ以上の混合物を含む。
【0048】
様々な量のカーボンブラックが考慮される。1つ以上の実施形態では、補強カーボンブラック充填剤の合計量は、5~175phr、約5~約150phr、5~150phr、約5~約100phr、5~100phrを含む5~約175phr、又は10~200phr、約20~約175phr、20~175phr、約20~約150phr、20~150phr、約25~約150phr、25~150phr、約25~約100phr、25~100phr、約30~約150phr、30~150phr、約30~約125phr、30~125phr、約30~約100phr、30~100phr、約35~150phr、35~150phr、約35~約125phr、35~125phr、約35~約100phr、35~100phr、約35~約80phr、及び35~80phrを含む、約10~約200phrである。使用されるカーボンブラックは、ペレット化形状又は非ペレット化綿状塊であり得る。ゴム組成物中のより均一な混合のために、いくつかの実施形態では、非ペレット化カーボンブラックが使用され得る。
【0049】
更に、補強充填剤として、シリカ充填剤も使用され得る。使用に好適な補強シリカ充填剤の例としては、沈殿非晶質シリカ、湿式シリカ(水和ケイ酸)、乾燥シリカ(無水ケイ酸)、フュームドシリカ、ケイ酸カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に開示の第1~第3の実施形態のうちの、ある特定の実施形態のゴム組成物に使用するための他の好適なシリカ充填剤としては、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3など)、ケイ酸カルシウムマグネシウム(CaMgSiO4)、ケイ酸カルシウムアルミニウム(Al2O3.CaO2SiO2など)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
カーボンブラックのように、補強充填剤として使用するために、シリカの様々な量が考慮される。1つ以上の実施形態では、補強シリカ充填剤又はシリカ充填剤の合計量は、5~175phr、約5~約150phr、5~150phr、約5~約100phr、5~100phrを含む約5~約175phr、又は10~200phr、約20~約175phr、20~175phr、約20~約150phr、20~150phr、約25~約150phr、25~150phr、約25~約100phr、25~100phr、約30~約150phr、30~150phr、約30~約125phr、30~125phr、約30~約100phr、30~100phr、約35~150phr、35~150phr、約35~約125phr、35~125phr、約35~約100phr、35~100phr、約35~約80phr、及び35~80phrを含む、約10~約200phrであり得る。
【0051】
他の実施形態では、ゴム組成物は、カーボンブラック又はシリカ以外、又は代替的に補強カーボンブラック及び補強シリカ充填剤に加えて、少なくとも1つの補強充填剤を含み得る。本明細書に開示のゴム組成物中での使用に好適なこのような補強充填剤の非限定例としては、水酸化アルミニウム、タルク、アルミナ(Al2O3)、アルミニウム水和物(Al2O3H2O)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、炭酸アルミニウム(Al2(CO3)2)、酸化マグネシウムアルミニウム(MgOAl2O3)、パイロフィライト(Al2O34SiO2H2O)、ベントナイト(Al2O34SiO22H2O)、雲母、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム(MH(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸マグネシウム(MgCO3)、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム(ZrO2)、水酸化ジルコニウム[Zr(OH)2nH2O]、炭酸ジルコニウム[Zr(CO3)2]、結晶性アルミノケイ酸塩、補強等級の酸化亜鉛(即ち、補強酸化亜鉛)、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。補強カーボンブラック充填剤及び補強シリカ充填剤の他に、又は代替的にこれらに加えて、少なくとも1つの補強充填剤が存在するとき、全ての補強充填剤の合計量は、5~200phrを含む約5~約200phrである。換言すれば、少なくとも1つの補強充填剤が、カーボンブラックシリカに加えて又はその両方が存在するとき、補強充填剤の合計量が約5~約200phr(5~200phrを含む)であるように、補強カーボンブラック充填剤及び補強シリカ充填剤のいずれかの量を調整する。
【0052】
追加のゴム
更なる実施形態では、ゴム組成物は、天然ゴム、合成ゴム、又はこれらの組み合わせを含む追加のゴム成分を含んでもよい。例えば、限定するものではないが、合成ゴムは、合成ポリイソプレン、ポリイソブチレン-co-イソプレン、ネオプレン、ポリ(エチレン-co-プロピレン)、ポリ(スチレン-co-ブタジエン)、ポリ(スチレン-co-イソプレン)、及びポリ(スチレン-co-イソプレン-co-ブタジエン)、ポリ(イソプレン-co-ブタジエン)、ポリ(エチレン-co-プロピレン-co-ジエン)、ポリスルフィドゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0053】
追加の添加剤
任意選択的に、シランカップリング剤をシリカ補強充填剤ブレンドして、補強特性を更に改善することができる。例えば、シランカップリング剤としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィドなどを挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、単独で又は2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
また、有用な加工油又は伸展油が含まれてよい。このような油としては、パラフィン系、芳香族系、又はナフテン系油として市販のものが挙げられる。1つ以上の実施形態では、油の主成分はナフテン系である。ゴム成分はまた、抗オゾン剤、ワックス、スコーチ阻害剤、加工助剤、酸化亜鉛、粘着性樹脂、補強樹脂、ステアリン酸などの脂肪酸、ペプチド化剤、及び1つ又は促進剤などの他の添加剤を含み得る。
【0055】
抗オゾン剤は、N,N’-二置換-p-フェニレンジアミン、例えば、N-1,3-ジメチルブチル-N’フェニル-p-フェニレンジアミン(N-l,3-dimethylbutyl-N’phenyl-p-phenylenediamine、6PPD)、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン(N,N’-Bis(l,4-dimethylpently)-p-phenylenediamine、77PD)、N-フェニル-N-イソプロピル-p-フェニレンジアミン(N-phenyl-N-isopropyl-p-phenylenediamine、IPPD)、及びN-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン(N-phenyl-N’-(l,3-dimethylbutyl)-p-phenylenediamine、HPPD)を含んでよい。抗オゾン剤の他の例には、アセトンジフェニルアミン縮合生成物(Alchem BL)、2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン(2,4-Trimethyl-l,2-dihydroquinoline、TMQ)、オクチル化ジフェニルアミン(Octylated Diphenylamine、ODPA)、及び2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(2,6-di-t-butyl-4-methyl phenol、BHT)が挙げられる。
【0056】
硬化促進剤としては、典型的には約0.2~約10phrの量で添加されるアミン、グアニジン、チオウレア、チオール、チウラム、スルホンアミド、ジチオカルバメート、及びキサンタートを挙げることができる。硬化促進剤には、例えば、亜鉛ジブチルジチオカルバメート(zinc dibutyldithiocarbamate、ZDBDC)、亜鉛ジエチルジチオカルバメート、亜鉛ジメチルジチオカルバメート、及び鉄ジメチルジチオカルバメートなど金属ジアルキルジチオカルバメートを含むジチオカルバメート促進剤;2-メルカプトベンゾチアゾール、例えばメルカプトベンゾチアゾールジスルフィド(mercaptobenzothiazole disulfide、MBTS)などベンゾチアゾールジスルフィドを含むチアゾール促進剤;例えば、n-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのベンゾチアゾールスルフェンアミド、及び例えば、t-ブチル-2-ベンゾチアジイルスルフェンアミド(t-butyl-2-benzothiazyl sulfenamide、TBBS)などのスルフェンアミド促進剤を挙げることができるが、これらに限定されない。加えて、硬化促進剤は、ジフェニルグアニジン(diphenyl guanidine、DPG)を挙げることができる。
【0057】
ゴム組成物は、ゴム1000部(phr)、又は約5~約1000phr、又は約20~約80phr、又は約30~約50phr当たり、少なくとも3重量部の充填剤を含み得る。ゴム組成物はまた、ゴム100重量部当たり約0~約80部、又は約5~約50phr、又は約10~約30phrの加工油又伸展油を含み得る。
【0058】
合計100部のゴムのうちの官能性コポリマーは、合計100のうちの約20~約100部、又は合計100のうちの約25~約75部、合計100のうちの30~約60部を含み得る。
【0059】
タイヤトレッド、アンダートレッド、カーカス、サイドウォール、ビードなどのタイヤ用途、並びにゴムクッション、ベルト、ホース、及び他の工業用製品に使用するために成形及び加硫することができるが、タイヤトレッドでの使用に特に好適であるゴム組成物は、圧延、内部混合機などの粉砕機で粉砕することによって得られてもよい。
【0060】
本開示の実施形態は、以下の実施例を参照して更に例示される。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
バッチ反応器に、42.88kgのヘキサン溶媒を14.32kg/分で添加し、32.7%の重量濃度のスチレンモノマー35.37kgを11.77kg/分で添加した。混合物を撹拌する。次いで、重量濃度21.4%の1,3-ブタジエンモノマー100.38kgを、16.72kg/分で反応器に添加した。温度は、37.78℃で安定させる。次に、3重量%のn-ブチルリチウム(n-butyllithium、BuLi)アニオン重合触媒0.606kgを、バッチ反応器に添加した。次いで、4.4mLのオリゴマーオキソラニルプロパンランダム化剤を100.0%濃度で添加し、23.0mLのカリウムt-アミレートを15.0%の重量濃度で添加する。混合物を反応させ、そのピーク温度に到達させ、混合物が82.2℃に到達したときに冷却剤を添加した。次に、反応性セメントの試料を1Lのボトルに入れる。
【0062】
1Lのボトルに、Chisso Corporationにより生成された37.0mLの37.0mLのSila-Ace S340(N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン)を100.0%濃度で添加し、ステアリン酸とオクチルトリエトキシシランとの溶液を1Lのボトルに添加した。ステアリン酸を、モノマー100グラム当たり1gの量で添加した(BuLiに対して1モル当量)。
【0063】
(実施例2)
実施例2は、ステアリン酸とオクチルトリエトキシシランとの溶液に添加したステアリン酸の濃度を除いて、実施例1と同じプロセスによって生成した。ステアリン酸を、モノマー100グラム当たり2gの量で添加した(BuLiに対して2モル当量)。
【0064】
(実施例3)
同様に、実施例3は、ステアリン酸とオクチルトリエトキシシランとの溶液に添加したステアリン酸の濃度を除いて、実施例1及び2と同じプロセスによって生成した。ステアリン酸を、モノマー100グラム当たり3gの量で添加した(BuLiに対して3モル当量)。
【0065】
比較例
実施例1~3と比較して、比較例は、実施例1~3と同じプロセスを利用するが、ステアリン酸を利用しない。代わりに、比較例は、2-エチルヘキサン酸の溶液を使用し、オクチルトリエトキシシランを1Lのボトルに添加した。
【0066】
【0067】
【0068】
次いで、実施例1~3及び比較例のポリマー組成物をゴム化合物に組み込んだ。表2において、ブレンドタンク粘度「ブレンドタンクムーニー粘度」は、Sila-Ace S340(アルコキシシラン)の添加後のムーニー粘度であり、「乾燥ムーニー粘度」は、ステアリン酸添加後のムーニー粘度である。示されるように、ステアリン酸は、全ての試料において少なくとも25のムーニー増加をもたらした。ゴム化合物は、3段階の混合プロセスによって生成した。第1段階では、以下の表3に列挙した成分をBanbury混合機で混合してマスターバッチを形成した。具体的には、表3に列挙した成分を、165℃の最低温度が得られるまで混合した。
【0069】
【0070】
次に、第1混合段階から生成されたマスターバッチ混合物に、150℃の最低温度が得られるまで第2の混合を行った。この段階で追加の成分を添加しなかった。この第2混合段階は、多くの場合、再混合又は再粉砕段階と呼ばれる。
【0071】
第3及び最終混合段階は、110℃の温度に到達するまで、以下の表4に列挙された以下の成分を混合することを含む。
【0072】
【0073】
次いで、第3段階で生成された得られたゴム化合物を、以下の表5に列挙される測定基準に従って分析した。
【0074】
【0075】
表2及び5のデータに示すように、ステアリン酸を使用して縮合を制御した実施例1~3の特性は、2-エチルヘキサン酸を使用して縮合を制御した比較例の特性と同等である。具体的には、ステアリン酸の実施例1~3は、比較例と同等の粘度制御を達成した。しかしながら、以下に示すように、ステアリン酸の実施例1~3は、比較例よりもはるかに低い粘着性を達成する。
【0076】
粘着性は、以下の粘着性試験方法を使用して、上記試料に対してレオメータを用いて測定する。具体的には、実施例1~3及び比較例の試験試料を、個々に容器の底部に添加した。容器内側に同軸状に配置された粘着性試験プローブは、その下端部にステンレス鋼の金属ディスクを有する円筒状ロッドを含む。粘着性試験プローブを、金属ディスクが個々の試料と接触するように一定速度で下げた。試料と接触させた後、粘着性試験プローブを一定速度で上昇させて、各試料から引き離した。レオメータは、各試料から粘着性試験プローブを引くのに必要な垂直力、及び金属ディスクと試料との間の接着エネルギーを算出した。
【0077】
図1に示すように、比較例試料を粘着性試験プローブの金属ディスクから分離するために、著しい垂直力が必要であるが、実施例1~3にステアリン酸を含めることによって、実施例1~3の試料を金属ディスクから分離するのに必要な垂直力を大幅に最小化する。
図2を参照すると、比較例試料は、実施例1~3の試料と比較して、金属ディスクへの接着エネルギーの4倍超を実証している。したがって、ステアリン酸は、ポリマー試料と金属ディスクとの間の接着エネルギー(すなわち、粘着性)を大幅に低減し、それによって、粘着性試験プローブの金属ディスクを試料から分離するのに必要な垂直力を大幅に最小化する。この低減された粘着性は、ゴム製造プロセス中の結集、汚れ、及びつまりの可能性を低減する。
【0078】
試験方法
ムーニー粘度(化合物ムーニー及びガムムーニー):本明細書に開示のポリマーのムーニー粘度は、大型ローター、1分間の予備加熱時間、及び4分間の運転時間を用いて、Alpha Technologiesムーニー粘度計を使用して100℃で決定した。より具体的には、ローターが始動する前に1分間100℃に各重合体を予備加熱することにより、ムーニー粘度を測定した。ローターが始動した後に4分間トルクとして、各サンプルについてムーニー粘度を記録した。4分間の測定を終了した後に、トルク緩和を記録した。
【0079】
フーリエ変換赤外線分光法(Fourier Transform Infrared Spectroscopy、FTIR)
重合体のミクロ構造(シス、トランス、及びビニル含有量)はFTIRによって測定した。具体的には、試料をCS2に溶解させ、Perkin Elmer製Spectrum GX機器でFTIRを行った。
【0080】
粘弾特性:硬化したゴム化合物の粘弾特性は、TA Instruments製Advanced Rheometric Expansion System(ARES)で行った温度掃引試験によって測定した。試験標本は、47mmの長さ、2mmの厚さ、及び12.7mmの幅を有する矩形形状を有した。試験機上のグリップ間の標本の長さ、すなわち間隙はおよそ27mmである。試験は、62.8rad/秒の周波数を使用して行った。温度は-100℃で開始し、100℃まで上げた。ひずみは、-100℃~-10℃の温度範囲に対して0.1%~0.25%、-10℃以上の温度範囲に対して2%である。
【0081】
引張特性:機械的引張特性は、幅4mm及び厚さ1.91mmの寸法を有するマイクロダンベル標本を用いて、ASTM D412に記載の標準的な手順には限定されない指針に従って測定した。引張試験には、44mmの特定のゲージ長を用いた。標本を一定速度でひずませ、得られる力を、伸び(ひずみ)に応じて記録した。試験片の元の断面積を参照して、力の読み出し値を工学応力として表現した。標本は23℃で試験された。同じ機械的引張特性を100℃でも試験した。また、両方の温度で最大応力及び最大ひずみ率を測定した。
【0082】
加硫時間の計算
Tc10、Tc50、及びTc90は、ゴム化合物のうちの10%、50%、及び90%の加硫が完了し、ASTM D-5099を使用して可動ダイレオメータを使用して測定した時間である。
【0083】
引裂き抵抗
ダイC(角度90°ダイ)を用いて切断した、粉砕された45ミルの平坦なゴムシートの引裂き特性を、ASTM法D-624に従って決定した。ダイC引裂き標本は、試験前に刻み目を付けなかった。kg/cmでの引裂き抵抗を、卓上モデルInstron(登録商標)試験機モデル1130を使用して得、試験結果をASTM法D-624に従って計算した。室温(23℃)で試験を再び実行した。
【0084】
添付の「特許請求の範囲」で定められる本開示の範囲から逸脱することなく修正及び変形が可能であることは明らかであろう。より具体的には、本開示のいくつかの態様は、本明細書において好ましい、又は特に有利なものとして特定されるが、本開示はこれらの態様に必ずしも限定されていないことが企図される。
[付記]
<1> アルコキシシラン官能化ポリマーを調製する方法であって、
i.アニオン重合開始剤を、共役ジオレフィンモノマー及び溶媒を含む反応性混合物を含む反応器に導入して、アニオン重合を介してリビングポリマーを形成することと、
ii.前記反応器にアルコキシシランを導入して、前記リビングポリマーと反応させて、アルコキシシラン官能化ポリマーを形成することと、
iii.少なくとも10個の炭素を有する少なくとも1つの脂肪族カルボン酸を前記アルコキシシラン官能化ポリマーに添加することと、
iv.前記アルコキシシラン官能化ポリマーから溶媒を除去することと、を含む、方法。
<2> 前記脂肪族カルボン酸が、ステアリン酸である、<1>に記載の方法。
<3> 前記共役ジオレフィンモノマーが、1,3ブタジエン、イソプレン、ミルセン、又はこれらの組み合わせを含む、<1>又は<2>のいずれか一つに記載の方法。
<4> 前記反応性混合物が、ビニル芳香族炭化水素を更に含む、<1>~<3>のいずれか一つに記載の方法。
<5> 前記ビニル芳香族炭化水素が、スチレン、アルファメチルスチレン、又はこれらの組み合わせを含む、<4>に記載の方法。
<6> 前記脂肪族カルボン酸が、前記反応器に、又は前記反応器の下流の別の混合機に添加される、<1>~<5>のいずれか一つに記載の方法。
<7> 少なくとも1つのポリマー改質剤を前記反応器に添加することを更に含み、前記ポリマー改質剤が、環状オリゴマーオキソラニルアルカン、カリウムt-アミレート、又はその両方を含む、<1>~<6>のいずれか一つに記載の方法。
<8> 酸化防止剤を添加することを更に含む、<1>~<7>のいずれか一つに記載の方法。
<9> 酸化防止剤が、前記反応器又は前記反応器の下流の別の混合機に添加される、<8>に記載の方法。
<10> シラン安定化剤を添加することを更に含む、<1>~<9>のいずれか一つに記載の方法。
<11> 前記重合開始剤が、リチウム触媒である、<1>~<10>のいずれか一つに記載の方法。
<12> 前記アルコキシシランが、3-(1,3-ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトキシシラン、オルトケイ酸テトラエチル、3-グリルシジイル(glylcydiyl)プロピルトリメトキシシラン、3-グリシジイル(glycydiyl)プロピルメチルジメトキシシラン、又はこれらの組み合わせから選択される、<1>~<11>のいずれか一つに記載の方法。
<13> 前記アルコキシシラン官能化ポリマーが、アルコキシシラン官能化スチレンブタジエンコポリマーである、<1>~<12>のいずれか一つに記載の方法。
<14> 脂肪族カルボン酸の前記添加が、前記アルコキシシラン官能化ポリマーのムーニー粘度を少なくとも5増加させる、<1>~<13>のいずれか一つに記載の方法。
<15> 脂肪族カルボン酸の前記添加が、前記アルコキシシラン官能化ポリマーが1000gf・mm未満の接着エネルギーを有するように、前記アルコキシシラン官能化ポリマーの粘着性を低減する、<1>~<14>のいずれか一つに記載の方法。