(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルおよび超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルのエコー画像における針先の視認性調整方法
(51)【国際特許分類】
G09B 23/30 20060101AFI20230905BHJP
A61B 8/00 20060101ALI20230905BHJP
G09B 9/00 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
G09B23/30
A61B8/00
G09B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2019068156
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】316010252
【氏名又は名称】株式会社アピール
(74)【代理人】
【識別番号】100130823
【氏名又は名称】三浦 誠一
(72)【発明者】
【氏名】荒田 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】葛西 裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和善
(72)【発明者】
【氏名】吹田 博之
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146414(JP,A)
【文献】特開平11-155856(JP,A)
【文献】特開2003-310610(JP,A)
【文献】特開2014-032253(JP,A)
【文献】特開2019-045602(JP,A)
【文献】特開2007-143946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,23/28-23/34
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺し、針先のエコー画像を視認しつつ穿刺手技訓練を行わせる超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルであり、平均重合度が500~4000、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコールの水溶液に、エコー画像
における針先の視認性を得るため平均粒子径が100μm以下である非水溶性の粉体又は繊維を混合する混合液をゲル化したものであって、
かつ、針先を明確にするため非水溶性の粉体又は繊維の濃度を0.2質量%~4.0質量%にすることを特徴とする超音波ガイド法の穿刺手技訓練
用皮膚モデル。
【請求項2】
非水溶性の粉体が、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルのエコー画像
における針先の視認性を非水溶性の粉体又は繊維の濃度により調整することを特徴とする超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルのエコー画像
における針先の視認性調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮膚をシミュレーションして医療処置訓練を行うための医療処置の訓練用皮膚モデル、医療処置の訓練用皮膚モデルのエコー画像の視認性調整方法および超音波ガイド法の穿刺手技訓練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置を用いた超音波検査は、現代医療において日常的に行われており、重要な検査となっている。人体の皮膚にプローブを当てると、超音波診断装置のモニタにエコー画像(超音波断層像)が描出される。そのエコー画像を介して体内の検査を行うことができる。
超音波検査は、穿刺の介助にも用いられている。例えば、中心静脈カテーテルの挿入法には、エコー画像を用いる超音波ガイド法(Ultrasound-guided technique)がある。また、超音波ガイド法には、エコーガイド下(超音波ガイド下)に穿刺を行うエコーガイド下による穿刺法(Real-time approach)がある。エコーガイド下による穿刺法は、中心静脈カテーテルの挿入に伴うリスク(合併症)が少ないとも言われている。
【0003】
しかし、エコーガイド下による穿刺には、熟練した手技が必要となる。そのため、穿刺訓練のために人体の皮膚モデル(模擬皮膚)などの教育機材が求められている。
【0004】
現在、医師や技術者などの訓練のために供する人体に近似した超音波ファントムが提供されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の超音波ファントムは、母材にポリビニルアルコールを用いて、音響定数を人体のそれに近似させるため、グラファイト、ガラスビーズ、樹脂製微小中空球などの粉体を母材であるポリビニルアルコール懸濁液に混入するものである。これにより、医用超音波の研究、関連装置、器具等の開発製造、医師や技術者などの訓練のために供する、人体に近似した音響特性に調整が容易な、経時安定性に優れた超音波ファントムを提供することができる。
【0007】
特許文献1の超音波ファントムでは、音響定数を人体に近似させるためにグラファイトを重量濃度6~13%混入させている。しかし、グラファイト重量濃度6~13%の超音波ファントムのエコー画像(超音波検査において超音波診断装置のモニタに描出される画像)は、不明瞭なものであり、内部の対象物体を視認できない場合があった。したがって、特許文献1の超音波ファントムは、エコーガイド下による穿刺法の訓練をおこなうための皮膚モデルとして使用することができないものであった。
【0008】
本発明は、上述の問題を解決するものであって、エコーガイド下による穿刺法の訓練をおこなうことができる医療処置の訓練用皮膚モデル、医療処置の訓練用皮膚モデルのエコー画像の視認性調整方法および超音波ガイド法の穿刺手技訓練方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルは、穿刺し、針先のエコー画像を視認しつつ穿刺手技訓練を行わせる超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルであり、平均重合度が500~4000、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコールの水溶液に、エコー画像における針先の視認性を得るため平均粒子径が100μm以下である非水溶性の粉体又は繊維を混合する混合液をゲル化したものであって、かつ、針先を明確にするため非水溶性の粉体又は繊維の濃度を0.2質量%~4.0質量%にする、超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルである。
また、非水溶性の粉体が炭酸カルシウムである、超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルである。
【0010】
本発明の超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルのエコー画像における針先の視認性調整方法は、上記の超音波ガイド法の穿刺手技訓練用皮膚モデルのエコー画像における針先の視認性を非水溶性の粉体又は繊維の濃度により調整するようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、エコーガイド下による穿刺を可能とするものである。これにより、人体の皮膚への穿刺などの医療処置のシミュレーションを行うことができる。また、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、MRI装置の撮像対象としても利用できるものである。
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルのエコー画像の視認性調整方法によると、穿刺する人体の皮膚のエコー画像に近似するエコー画像を用いて、穿刺手技の訓練を行うことができる。
本発明の超音波ガイド法の穿刺手技訓練方法により、人体の皮膚でも再現できるように穿刺法を訓練することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルの使用状態を表わす図である。
【
図2】実験例及び比較例の実験に使用する皮膚モデルへの超音波ガイド法による穿刺を示す図である。
【
図3】比較例1の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図4】実験例1の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図5】実験例2の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図6】実験例3の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図7】実験例4の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図8】実験例5の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図9】実験例6の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図10】実験例7の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図11】実験例8の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図12】実験例9の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図13】実験例10の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図14】実験例11の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図15】実験例12の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図16】実験例13の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図17】実験例14の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図18】実験例15の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図19】実験例16の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図20】比較例2の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【
図21】比較例3の実験により得たエコー画像を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、人体の皮膚の医療処置又は皮膚を通じた医療処置のシミュレーションを実現するものである。
【実施例】
【0015】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルを
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルの使用状態を表わす図である。
図1(a)は、人体モデル(模擬人体)の動脈及び静脈に本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルを取り付けた状態を表わす図であり、
図1(b)は
図1(a)のA-A断面図である。
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、医療処置を行う部位の模擬皮膚である。
図1において、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデル10は、直方体に形成されているものであり、コンニャクのように弾力性のあるものであり、人体の皮膚に似た質感を有するものである。なお、
図1の医療処置の訓練用皮膚モデル10には、細長い管状の道具(たとえば、ストロー)を差し通して、人体モデルの動脈及び静脈を通すための貫通穴12を形成している。
本発明の超音波ガイド法の穿刺手技訓練方法を
図1に基づいて説明する。人体モデルの動脈と静脈を医療処置の訓練用皮膚モデル10の貫通穴12に差し入れ、人体モデルに医療処置の訓練用皮膚モデル10を取り付ける(
図1(a)(b))。
医療処置の訓練用皮膚モデル10(エコーガイド下)に穿刺し、針14の針先14aのエコー画像16を視認しつつ穿刺手技訓練を行う。エコー画像16はプローブ18を通じてモニタに描出される。
【0016】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、平均重合度が500~4000であり、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコールの水溶液と、平均粒子径が100μm以下である非水溶性の粉体又は繊維とを混合する混合液をゲル化したものである。
ポリビニルアルコールは、人体の皮膚の弾性に近づける観点から、平均重合度500~4000が好ましく、1000~3000がより好ましい。けん化度は、95モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましい。また、濃度は5~15質量%が好ましい。
【0017】
非水溶性の粉体は、入手性・安全性・コスト面等の点から、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、グラファイトの粉体が好ましい。但し、これらの粉体に限定するものではない。
【0018】
非水溶性の繊維は、例えば、綿、麻、セルロース、絹、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが挙げられる。但し、これらの繊維に限定するものではない。
また、繊維として、セルロースを機械処理や化学処理によって平均繊維径が200nm以下まで解繊処理したセルロースナノファイバーや、酢酸菌等のバクテリアにより産生されるバクテリアセルロースも利用できる。
【0019】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルの良好なエコー画像の視認性を得るため、非水溶性の粉体又は繊維の平均粒子径は100μm以下であることが好ましい。
平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により得られる体積基準の50%粒子径(メジアン径)である。非水溶性の粉体又は繊維の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製マスターサイザー3000)により分散媒として水を用いて測定した。
【0020】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、以下の工程1~工程3により成形することができる。
(工程1)水を攪拌しながらポリビニルアルコールと非水溶性の粉体又は繊維を加えた混合液を90~95℃に昇温し溶解するまで攪拌することにより、ポリビニルアルコール水溶液と非水溶性の粉体又は繊維を混合する混合液を得る。
なお、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルを用いた医療処置訓練が実際の医療処置の感覚に近いものになるよう、混合液に顔料や染料などの着色剤や抗菌剤や安定剤などの添加剤を加えても良い。但し、添加剤は、エコー画像の視認性を妨げない程度の量にとどめるものとする。
(工程2)混合液を所定の型(成形缶)に流し込み凍結融解することにより、ゲル化させる。人体の皮膚の弾性に近づける観点から、凍結温度は-5℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましい。凍結時間は、1時間から20時間が好ましい。融解は、例えば、室温中に静置する、もしくは乾燥機などにより加熱することにより行う。但し、これらの融解方法に限るものではない。
また、人体の部位の皮膚に近似する弾性を得るために、凍結と融解の工程を複数回繰り返して行う。
(工程3)ゲルを型から取り外すことにより、医療処置の訓練用皮膚モデルを得る。
【0021】
図2は、実験例及び比較例の実験に使用する皮膚モデルへの超音波ガイド法による穿刺を示す図である。実験例1~16及び比較例1~3の皮膚モデル20に超音波ガイド法により穿刺し、プローブ18を移動させながらエコー画像16中の針先14aの視認性(見え易さ)を確認する実験を実施した。実験例及び比較例の実験に得たエコー画像16を
図3乃至
図21に示す。
図3乃至
図21のエコー画像16中に表れる輝点が針先14aである。また、
図3乃至
図21のエコー画像16は短軸像である。
【0022】
(本実験にて使用した皮膚モデル)
蒸留水に実験例及び比較例の非水溶性の粉体または繊維と、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製JC‐17KB、平均重合度1700、けん化度99モル%)とを加え、加熱しながら攪拌することによりポリビニルアルコールを溶解し、ポリビニルアルコール10質量%と実験例及び比較例の非水溶性の粉体または繊維を含む混合液を調製した。調整した混合液を型(成形缶)に流し込み、冷凍庫中で-20℃にて8時間凍結した後、解凍した。さらに、同様の操作(-20℃で8時間の凍結の後解凍)を繰り返し、混合液をゲル化した。得られたゲルを型から取り外すことにより実験に使用する皮膚モデル20を得た。
【0023】
(実験例1~11について)
実験例1~11では、非水溶性の粉体として平均粒子径15.9μmの炭酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度0.05質量%(実験例1)、0.1質量%(実験例2)、0.2質量%(実験例3)、0.3質量%(実験例4)、0.5質量%(実験例5)、1.0質量%(実験例6)、1.5質量%(実験例7)、2.0質量%(実験例8)、3.0質量%(実験例9)、4.0質量%(実験例10)、5.0質量%(実験例11)の各皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性(針先14aの見え易さ)の確認実験を行った。
【0024】
(実験例12~16について)
実験例12では、非水溶性の粉体として平均粒子径49.5μmの酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度0.3質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
実験例13では、非水溶性の粉体として平均粒子径27.4μmのグラファイト(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度0.3質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
実験例14では、非水溶性の粉体として平均粒子径9.13μmの二酸化ケイ素(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度0.3質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
実験例15では、非水溶性の繊維として平均粒子径54.6μmのセルロース(SIGMA‐ALDRICH Co.製)を用いた、繊維の濃度0.5質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
実験例16では、非水溶性の繊維としてセルロースナノファイバー(株式会社スギノマシン製BiNFi-s(登録商標))を用いた、繊維の濃度0.3質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
【0025】
(比較例について)
比較例1(比較実験)では、非水溶性の粉体又は繊維を混合しない、ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール株式会社製JC‐17KB、平均重合度1700、けん化度99モル%)の水溶液のみをゲル化した皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
比較例2(比較実験)では、非水溶性の粉体として平均粒子径27.4μmのグラファイト(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度10質量%の皮膚モデルを使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。本比較例で使用する医療処置の訓練用皮膚モデルの材質は、特許文献1に記載の超音波ファントムの材質とほぼ同じものである。
比較例3では、非水溶性の粉体として平均粒子径116μmの二酸化ケイ素(和光純薬工業株式会社製)を用いた、粉体の濃度0.3質量%の皮膚モデル20を使用して、穿刺手技における針先14aの視認性の確認実験を行った。
【0026】
実験の結果は、表1に示すとおりである。
図3乃至
図21は、実験例1~16、比較例1~3の実験により得たエコー画像を表わす図である。
図3乃至
図21のエコー画像は、皮膚モデル20の短軸像である。
穿刺手技における針先の視認性の判断は、
図3乃至
図21のエコー画像に基づいて穿刺された針の針先と皮膚モデル部分とが明瞭に区別できるかどうか(針先を明確に確認できるか)で判断した。明瞭に区別できると判断した皮膚モデルには表1に「〇」を、明瞭に区別できないと判断した皮膚モデルには表1に「×」をそれぞれ表記した。
【0027】
【0028】
本実験によると、実験例で使用した非水溶性の粉体(炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、グラファイト、二酸化ケイ素)が所定の濃度である皮膚モデルは、穿刺手技における針先の視認性が認められた(実験例3乃至実験例10及び
図6乃至
図13、実験例12乃至実験例14及び
図15乃至
図17)。また、非水溶性の繊維(セルロース、セルロースナノファイバー)についても所定の濃度である皮膚モデルにおいて針先の視認性が認められた(実験例15、16及び
図18、19)。
本実験により、非水溶性の粉体又は繊維の濃度が0.2質量%以上4.0質量%以下であるとき、針先の視認性が認めることが分かった(実験例3乃至実験例10、実験例12乃至実験例16)。
他方、実験例1及び実験例2(粉体の濃度0.2質量%未満の場合)では、皮膚モデル内部が不均一であったため、針先を明確に確認することができなかった(
図4及び
図5)。
また、実験例11(粉体の濃度4.0質量%を超える場合)では、針先と皮膚モデル内部とのコントラストが明確ではなかったため、針先が不明瞭であった(
図14)。
【0029】
比較例1では、針先の特定が困難であった(
図3)。
比較例2では、針先は不明瞭であった(
図20)。なお、特許文献1には、混入グラファイトの重量濃度が6~13%の間で人体の脂肪、腎臓、肝臓等の超音波に対する減衰係数を近似できると記載されているが、グラファイトの濃度10質量%の皮膚モデルでは、針先が不明瞭であった。
比較例3(粉体又は繊維が平均粒子径100μmを超える場合)では、皮膚モデル内部が不均一であったため、針先を明確に確認することができなかった(
図21)。
【0030】
本実験により得たエコー画像を比較すると、非水溶性の粉体又は繊維の濃度により皮膚モデルのエコー画像の視認性が変化することが分かった(
図6乃至
図13、
図15乃至
図19)。これにより、穿刺する人体の皮膚のエコー画像に近似するエコー画像を用いて、穿刺手技の訓練を行うことができる。
【0031】
本実験において、複数の観察者(実験者)による医療処置の訓練用皮膚モデルの官能評価では、コンニャクのように弾力性があり、皮膚モデルの強度、質感・触感、穿刺、切開などの感触が人体の皮膚に酷似するものであることが分かった。
なお、本実験において、医療処置の訓練用皮膚モデルの強度と濃度の関係について、セルロースナノファイバーの混合濃度によって強度を調整できることが分かった。
【0032】
以上のことから、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルに穿刺し、針先のエコー画像を視認しつつ穿刺手技訓練を行わせることが可能であることが分かった。本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルを用いると、人体の皮膚でも再現できるように穿刺法を訓練することができる。たとえば、1)動静脈へカテーテルを挿入をするためのエコーガイドによる穿刺、2)胸腔内の液体貯留の確認及び吸引を行うためのエコーガイドによる穿刺、3)上記1)と2)に付随する穿刺部位付近の皮膚切開、4)皮膚内への液体の投与等について、その医療処置をシミュレーションすることができる。
【0033】
本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、人体の表面を覆っている層(血管などの器官を除く、表皮・真皮・皮下組織の構成からなる層に相当するもの)の模擬皮膚であるが、例えば、胸壁(皮膚から壁側胸膜までの部分)のように、皮膚を含む部位のモデルも含む概念である。すなわち、本発明の医療処置の訓練用皮膚モデルは、胸腔内の液体貯留の確認及び吸引を行うための、エコーガイドによる穿刺手技訓練にも利用可能なものである。
【符号の説明】
【0034】
10 医療処置の訓練用皮膚モデル
14a 針先
16 エコー画像