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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】状態判定装置及び状態判定方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20230905BHJP
【FI】
G06N20/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019060344
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020160852
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】313016554
【氏名又は名称】株式会社toor
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】金田 哲也
【審査官】渡辺 順哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0012651(US,A1)
【文献】国際公開第2017/009888(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0143038(US,A1)
【文献】特開2013-011987(JP,A)
【文献】特開2016-200971(JP,A)
【文献】特開平09-231079(JP,A)
【文献】M.J. TAX, David ほか,Support Vector Data Description,Machine Learning,2004年,pp.45-66,[retrieved on 2023.02.16], Retrieved from the Internet: <URL: https://link.springer.com/article/10.1023/B:MACH.0000008084.60811.49>
【文献】瀬戸 洋一 ほか ,技術者のためのIoTの技術と応用 ,初版,日本工業出版株式会社,2016年07月25日,pp.72-75
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00-99/00
G06F 11/07-11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間における、当該参照ベクトルデータ母集団の形成する多次元部分空間を求め、
前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する、
状態判定装置であって、
前記多次元部分空間の表面は、前記参照ベクトルデータ母集団から求めた1点を原点とした系において、次式で表される、
態判定装置。
Q=β*Max{<q,A>}・q
ただし、Aは全ベクトルデータであり、Qは原点と前記多次元部分空間の表面上の一点を結ぶベクトルであり、ベクトルqはQの単位ベクトルであり、<q,A>はベクトルqとAの内積であり、Max{<q,A>}は参照ベクトルqと母集団に含まれる全ての参照ベクトルデータAとの内積<q,A>の最大値である。
【請求項2】
判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間において、前記参照ベクトルデータ母集団を内包しかつ前記参照ベクトルデータ母集団に含まれる少なくとも一つのベクトルデータに外接する多次元形状を有する多次元部分空間を求め、
前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定し、
前記参照ベクトルデータ母集団から求めた1点を原点とした系において、前記新たなベクトルデータの大きさと、前記新たなベクトルデータと同一方向の前記原点から前記多次元部分空間の外周面までの距離と、を用いて前記判定対象の前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なる程度を判定する、
状態判定装置。
【請求項3】
判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間において、前記参照ベクトルデータ母集団の各次元の最大値及び最小値を頂点とする多次元の直方体を有する多次元部分空間を求め、
前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する、
状態判定装置。
【請求項4】
状態判定装置が、判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間における、当該参照ベクトルデータ母集団の形成する多次元部分空間を求め、
状態判定装置が、前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する、
状態判定方法であって、
前記多次元部分空間の表面は、前記参照ベクトルデータ母集団から求めた1点を原点とした系において、次式で表される、
状態判定方法。
Q=β*Max {<q,A >}・q
ただし、A は全ベクトルデータであり、Qは原点と前記多次元部分空間の表面上の一点を結ぶベクトルであり、ベクトルqはQの単位ベクトルであり、<q,A >はベクトルqとA の内積であり、Max {<q,A >}は参照ベクトルqと母集団に含まれる全ての参照ベクトルデータA との内積<q,A >の最大値である。
【請求項5】
状態判定装置が、判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間において前記参照ベクトルデータ母集団を内包しかつ前記参照ベクトルデータ母集団に含まれる少なくとも一つのベクトルデータに外接する多次元形状を有する多次元部分空間を求め、
状態判定装置が、前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定し、
状態判定装置が、前記参照ベクトルデータ母集団から求めた1点を原点とした系において、前記新たなベクトルデータの大きさと、前記新たなベクトルデータと同一方向の前記原点から前記多次元部分空間の外周面までの距離と、を用いて前記判定対象の前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なる程度を判定する、
状態判定方法。
【請求項6】
状態判定装置が、判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータが収集された参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間において、前記参照ベクトルデータ母集団の各次元の最大値及び最小値を頂点とする多次元の直方体を有する多次元部分空間を求め、
状態判定装置が、前記参照ベクトルデータ母集団と異なる新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記新たなベクトルデータが前記多次元部分空間の外側に位置する場合は前記判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する、
状態判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、状態判定装置及び状態判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
対象となるシステムや機器の状態は、一つのパラメータでは状態の判定精度が落ちるが、対象から得られる複数のパラメータを総合的に用いて判定することで、判定精度を向上させることができる。その場合、複数のパラメータから生成される多次元データを使った分析が必要となる(例えば、特許文献1参照。)。そのような多次元データの分析には、一般的には専門的な分析スキルを持つデータサイエンティストと呼ばれる専門家が必要とされる。しかしながらデータサイエンティストは高コストであるばかりではなく人材の供給も限られるため、専門的な分析スキルのない者でも対象の状態を簡単に判定できる装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2017/217069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、専門的な分析スキルのない者であっても対象の状態を判定可能な装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の状態判定装置は、
判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータを生成し、
一定期間当該ベクトルデータを収集することにより参照ベクトルデータ母集団を作成し、
前記参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間における、当該参照ベクトルデータ母集団の形成する多次元部分空間を求め、
新たに発生するベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記多次元部分空間の外側に位置する場合は判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する。
【0006】
本開示の状態判定方法は、
判定対象の状態に関わるパラメータを次元に有する多次元のベクトルデータを生成し、
一定期間当該ベクトルデータを収集することにより参照ベクトルデータ母集団を作成し、
前記参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい多次元空間における、当該参照ベクトルデータ母集団の形成する多次元部分空間を求め、
新たに発生するベクトルデータが前記多次元部分空間の内側に位置する場合は判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、前記多次元部分空間の外側に位置する場合は判定対象が前記参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、専門的な分析スキルのない者であっても判定対象の状態を判定可能な装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るシステムの一例を示す概略構成図である。
図2】状態判定部における判定例を示す。
図3】第2の実施形態に係る多次元形状の第1例を示す。
図4】第2の実施形態に係る多次元形状の第2例を示す。
図5】第3の実施形態に係る多次元形状の一例を示す。
図6】第4の実施形態に係る多次元形状の一例を示す。
図7】第5の実施形態に係る多次元形状の一例を示す。
図8】状態の程度の第1の判定例を示す。
図9】状態の程度の第2の判定例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係るシステムの一例を示す概略構成図である。本実施形態に係る状態判定装置10は、ベクトルデータ生成部11、多次元形状生成部12、多次元部分空間定義部13、状態判定部14、データ収集部21を備える。本実施形態に係る状態判定装置10は、コンピュータを、ベクトルデータ生成部11、多次元形状生成部12、多次元部分空間定義部13、状態判定部14、データ収集部21として機能させることで実現してもよい。
【0011】
データ収集部21は、判定対象に関わるパラメータとなりうる任意のデータを収集し、記憶部22に記憶する。ベクトルデータ生成部11は、記憶部22に記憶されているデータからパラメータを抽出し、各パラメータを次元とする多次元のベクトルデータを生成する。
【0012】
ベクトルデータ生成部11は、作成したベクトルデータを記憶部22に蓄積する。状態判定装置10は、一定期間、データを収集し、ベクトルデータを蓄積することにより参照ベクトルデータ母集団を作成する。ここで、一定期間は、判定対象が一定の状態にある期間である。一定の状態は、例えば、判定対象が正常な状態である。一定の状態及び一定期間は、状態判定装置10のユーザが設定可能なことが好ましい。これにより、判定対象の色々な状態に応じた複数のベクトルデータ母集団をユーザが設定することができる。
【0013】
多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団を内包しかつ参照ベクトルデータ母集団に含まれる少なくとも一つのベクトルデータに外接する多次元形状SMDを求める。多次元形状SMDの具体的な導出例は後述する。多次元空間は、参照ベクトルデータ母集団の次元数に等しい空間である。例えば、ベクトルデータの次元数が1000であれば、1000次元空間である。
【0014】
多次元部分空間定義部13は、多次元空間において参照ベクトルデータ母集団が形成する多次元部分空間SSUBを求める。図2に、多次元形状SMD及び多次元部分空間SSUBの一例を示す。多次元部分空間SSUBは、判定基準に応じた補正を多次元形状SMDに行うことで得られる。例えば、ベクトルデータ生成部11の作成したベクトルデータの誤差等によって、判定対象が一定の状態にあるようなベクトルデータがβ(β≧1)の範囲で分布する可能性がある場合、多次元部分空間定義部13は、多次元形状SMDをβ倍拡大する処理を行う。補正は、多次元形状SMDを拡大する補正のほか、多次元形状SMDを縮小する補正もありうる。多次元部分空間定義部13は、次元によって、異なる補正を行ってもよい。その場合、補正係数βは次元ごとに異なることとなり、その場合β(iは次元を示す)と表される。
【0015】
多次元部分空間SSUBを求めた後に、データ収集部21がデータを収集して記憶部22に記憶すると、ベクトルデータ生成部11は、記憶部22に記憶された新たなデータからパラメータを抽出し、各パラメータを次元とするベクトルデータに変換する。状態判定部14は、多次元部分空間定義部13の生成した多次元部分空間SSUBを用いて、判定対象の状態を判定する。
【0016】
例えば、図2に示すND1のように、新たなデータのベクトルND1が多次元部分空間SSUBの範囲内の場合、状態判定部14は、当該新たなデータに対応した判定対称の状態が、参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と同じと判定し、図2に示すND2のように、新たなデータのベクトルND2が多次元部分空間SSUBの範囲外の場合、状態判定部14は判定対象が参照ベクトルデータ母集団に対応した状態と異なると判定する。
【0017】
以上説明したように、本実施形態は、判定対象が一定の状態にあるときの参照ベクトルデータ母集団を包含する多次元空間における多次元部分空間SSUBを求める。これにより、本実施形態は、新たなデータが多次元部分空間SSUBの内側か外側かで、新たなデータに対応した判定対象の状態を判定することができる。
【0018】
ここで、多次元部分空間SSUBは一定の演算により、参照ベクトルデータ母集団から自動的に定義され、また新たなデータが当該多次元部分空間の内側か外側のどちらに位置するかを自動的に判定することで、新たなデータに対応する判定対象の状態を自動的に判定することが可能となる。したがって、本開示は、専門的な分析スキルのない者であっても判定対象の状態を判定可能な装置を提供することができる。
【0019】
(第2の実施形態)
本実施形態では、多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団に含まれるベクトルデータの少なくとも一つに外接する多次元の球体を、多次元形状SMDとして求める。多次元部分空間SSUBは、多次元形状SMDから補正係数βを使って定義される。
【0020】
図3に、本実施形態に係る多次元形状の一例を示す。多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団内のベクトルデータを、当該参照ベクトルデータ母集団の重心GMDを新たな原点Pとしたベクトルデータに変換する。こうして得られた新たな原点Pを持つ参照ベクトルデータ母集団を以下「2次の参照ベクトルデータ母集団」と呼ぶ。2次の参照ベクトルデータ母集団に含まれるベクトルデータのなかからベクトル長が最大のベクトルを求め、このベクトル長の半径φを有する多次元の球体を求める。この球体を、多次元形状SMDとする。参照ベクトルデータ母集団内のベクトルデータは全てこの多次元形状SMDに内包される。多次元部分空間SSUBは、補正係数βを使って半径β*φを持つ多次元の球体と定義される。
【0021】
また、本実施形態では、多次元空間の原点を参照ベクトルデータ母集団の重心GMDとし、これを球の中心としたが、本開示の新たな原点Pは重心に限らず、参照ベクトルデータ母集団から求めた任意の1点を原点とすることができる。例えば、図4に示すように、参照ベクトル母集団内の全データについて、次元毎にその次元の値の中間値(最大値と最小値の中間の値)を求め、全ての次元の中間値を持つ点を原点Pとしてもよい。この場合、原点Pを中心とし、参照ベクトルデータ母集団に含まれるベクトルデータの最大値の半径φを有する球体を、多次元形状SMDとして求める。多次元部分空間SSUBは半径βφ(βは補正係数)を持つ多次元の球体となる。
【0022】
本実施形態は、参照ベクトルデータ母集団を内包する球体を多次元部分空間SSUBとする。本実施形態の多次元部分空間SSUBの定義および判定対象の状態の判定は、参照ベクトルデータ母集団および新たなベクトルデータのベクトル長を比較するだけで求めることができる。このため、本実施形態は、判定対象の状態の判定を少ない演算量で行うことができる。
【0023】
(第3の実施形態)
本実施形態では、多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団に含まれるベクトルデータの少なくとも一つに外接する多次元空間における直方体を、多次元形状SMDとして求める。
【0024】
図5に、3次元空間における本実施形態に係る多次元形状SMDの一例を示す。多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団に含まれる全てのベクトルデータに対して次元ごとに最大値と最小値を求める。例えば、参照ベクトルデータ母集団に含まれる全ベクトルデータから第1次元の値を抽出し、第1次元の最大値と最小値を求める。他の次元についても同様にして最大値と最小値を求める。そして、多次元形状生成部12は、全ての各次元の最大値と最小値の範囲で区切られる多次元空間における直方体を求める。
【0025】
例えば、ベクトルデータの次元数が3である場合、図5に示すように、多次元形状生成部12は、第1次元の最大値及び最小値を求めることでxmax及びxminを求め、第2次元の最大値及び最小値を求めることでymax及びyminを求め、第3次元の最大値及び最小値を求めることでzmax及びzminを求める。これにより、(xmin,ymin,zmin)、(xmin,ymin,zmax)、(xmin,ymax,zmin)、(xmin,ymax,zmax)、(xmax,ymin,zmin)、(xmax,ymin,zmax)、(xmax,ymax,zmin)、(xmax,ymax,zmax)を頂点とする直方体が求まる。この3次元の直方体が、多次元形状SMDとなる。多次元部分空間SSUBは同じく多次元の直方体の形状を持ち、多次元形状SMDから補正係数βを用いて簡単に求めることができる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態は、参照ベクトルデータ母集団を内包する多次元空間における直方体を多次元部分空間SSUBとする。本実施形態は、ベクトルデータの次元ごとに、最大値と最小値を求めることで、多次元部分空間SSUBを求めることができる。このため、本実施形態は、判定対象の状態の判定を少ない演算量で行うことができる。
【0027】
なお、図5では、理解が容易になるよう、多次元形状SMDが3次元の直方体である例を示したが、本開示はベクトルデータの次元数に等しい任意の次元数の直方体でありうる。
【0028】
(第4の実施形態)
本実施形態では、多次元形状生成部12は、参照ベクトルデータ母集団の外縁に位置する複数のベクトルデータに外接する面を、多次元形状SMDとして求める。
【0029】
図6に、本実施形態に係る多次元形状SMDの一例を示す。参照ベクトルデータ母集団に含まれる全ベクトルデータの重心GMDを多次元座標の原点Pとし、参照ベクトルデータ母集団に含まれる全ベクトルデータをAとする。ここで、「A」におけるiは、i=1,2,3,……,参照ベクトルデータ母集団の全データ数である。原点Pと多次元形状の表面上の一点を結ぶベクトルをR、その単位ベクトルをrとすると、参照ベクトルデータ母集団の多次元形状の表面は、次式で表すことができる。
【0030】
(数1)
R=Max{<r,A>}・r (1)
ここで、<r,A>はベクトルrとAの内積、Max{<r,A>}は全てのiの値に対する内積<r,A>の最大値とする。式(1)に示すRを求めることで、多次元形状SMDを求めることができる。
【0031】
本実施形態では、多次元部分空間SSUBの表面をベクトル表記Q=β*R=β*Max{<q,A>}・qで表すことができる。ここで、qはQを構成する単位ベクトルであり、補正係数βは簡単のため次元などによらず一定とした。このため、新たなデータに対応し、判定対象の状態を以下のように判定できる。
【0032】
|Q|<|β*Max{<q,A>}・q|の場合、すなわちQが多次元部分空間SSUBの内側に位置する場合、状態判定部14は、参照ベクトル母集団に対応した判定対象の状態と同じであると判定する。
|Q|>|β*Max{<q,A>}・q|の場合、すなわちQが多次元部分空間SSUBの外側に位置する場合、状態判定部14は、参照ベクトル母集団に対応した判定対象の状態と異なると判定する。
【0033】
本実施形態の多次元部分空間定義部13は、β*Max{<q,A>}・qの演算処理を行うことで、判定対象の状態を判定することができる。ここで、βはβ≧1とするのが一般的であるが、必ずしも限定されない。また、新たなベクトルの方向によって補正係数の値に重み付けを行うこともできる。
【0034】
なお、上記では参照ベクトルデータ母集団に含まれる全ベクトルデータの重心GMDを多次元座標の原点Pとしたが、本開示はこれに限定されない。第2の実施形態において図4を参照して述べたように、例えば、参照ベクトル母集団内の全データについて、次元毎にその次元の値の中間値(最大値と最小値の中間の値)を求め、全ての次元の中間値を持つ点を原点Pとしてもよい。
【0035】
以上説明したように、本実施形態は、参照ベクトルデータ母集団を包含する多次元形状SMDおよび多次元部分空間SSUBを参照ベクトルデータ母集団からベクトル表記で簡単に求めることができる。このため、本実施形態は、参照ベクトルデータ母集団を用いた判定を少ない演算量で行うことができる。
【0036】
(第5の実施形態)
前述の実施形態では多次元部分空間SSUBが1つである場合を説明したが、多次元部分空間SSUBは2以上であってもよい。
【0037】
例えば、ベクトルデータを蓄積する一定期間の間に、時間帯によって第1のモードから第2のモードに切り替わる場合、多次元形状生成部12は、図7に示すように、第1のモードの多次元形状SMD1と、第2のモードの多次元形状SMD2と、を生成する。
【0038】
多次元形状SMD1及びSMD2の生成方法は、第2~第4の実施形態で説明した方法を用いることができる。例えば、前述の図4において説明したように、モード毎に全ての次元の中間値を持つ点を各モードの原点P1及びP2として求め、各モードの参照ベクトルデータ母集団に含まれるベクトルデータの最大値以上の半径を有する球体を求める。これにより、各モードの多次元形状SMD1及びSMD2及び多次元部分空間SSUB1及びSSUB2を求めることができる。
【0039】
本実施形態では、2モードでの切り替え例について説明したが、モード数は3以上であってもよい。モードごとに多次元形状SMD及び多次元部分空間SSUBを生成することで、モードごとの状態の判定を行うことができる。
【0040】
なお、モードごとの状態の判定を行う必要がない場合や、共通の多次元部分空間SSUBとしても状態の判定を行うことができる場合は、2以上のモードであっても共通の多次元形状SMD及び多次元部分空間SSUBとしてもよい。
【0041】
(第6の実施形態)
本実施形態の状態判定部14は、判定対象の状態に加え、さらに状態の程度を判定する。多次元部分空間SSUBを求めた後の、データ収集部21、ベクトルデータ生成部11の動作は、第1の実施形態と同様である。
【0042】
例えば、図8に示すように、多次元部分空間SSUBの外にベクトルPのベクトルデータが新たに発生した場合、状態判定部14は、ベクトルPと同一方向の多次元部分空間SSUBを形成しているベクトルQを求め、|P|と|Q|を比較する。例えば、|P|>|Q|の場合、判定対象が一定の状態とどの程度異なるかを判定することができる。比較は、例えば、|P|および|Q|の差又は比が例示できる。
【0043】
図9に示すように、多次元部分空間SSUBの外にベクトルPのベクトルデータが新たに発生した場合、状態判定部14は、|P|と半径β*φを比較する。例えば、|P|>β*φの場合、判定対象が一定の状態とどの程度異なるかを判定することができる。比較は、例えば、|P|および半径β*φの差又は比が例示できる。
【0044】
(第7の実施形態)
本開示は、ベクトルデータ生成部12がベクトル化可能であれば、任意のデータをパラメータに用いることができる。以下、データ収集部21の収集するデータと状態判定部14の判定例の具体例について説明する。
【0045】
(パケットの異常の判定)
データ収集部21は、パケットのヘッダ情報を収集する。ベクトルデータ生成部11は、ヘッダ情報やパケットのトラヒック量などからパラメータを抽出し、各パラメータを次元とする多次元のベクトルデータを生成する。ベクトルデータ生成部11におけるベクトルデータへの変換は、パケット単位であってもよいし、複数のパケットデータを組み合わせてもよい。状態判定部14は、ベクトルデータを用いて、パケットの異常の有無を判定する。
【0046】
例えば、遠隔操作ウィルスに感染している端末の場合、正規ユーザの使用とは全く異なる動作を行う。例えば、正規ユーザが使用していなかった時間に動作する、正規ユーザの使用していなかった大量のデータを送付するなどである。この場合のベクトルデータは、参照ベクトルデータ母集団とは全く異なる。このため、状態判定部14は、正規ユーザとは異なる第三者によって送受信されたパケットであることを検出することができる。
【0047】
ヘッダ情報は、例えば、時刻、発信元情報、送信先情報、プロトコル、パケットサイズ(正整数)、付随情報(テキスト)が例示できる。発信元情報及び送信先情報は、IP(Internet Protocol)アドレス、MAC(Media Access Control)アドレス、ドメイン、ドメインにおけるゾーンの情報を含む。プロトコルとしては、例えば、HTTP(Hypertext Transfer Protocol)、TCP(Transmission Control Protocol)、TLS(Transport Layer Security)、DNS(Domain Name System)、MQTT(Message Queue Telemetry Transport)などが例示できる。
【0048】
送信先IPアドレスをベクトルデータに変換する方法としては、例えば、個別のパケットデータの送信先IPアドレスに該当する次元値を1とする方法が考えられる。プロトコルをベクトルデータに変換する方法としては、例えばプロトコルを次元として、個別のパケットデータのプロトコルに該当する次元値を1とする方法が考えられる。
【0049】
ヘッダ情報は、プロトコルを含むことが好ましい。ウィルスによって送信されたパケットデータは、正常なパケットデータとは異なるプロトコルを用いていることがある。そのため、プロトコルをベクトルデータに変換することで、ウィルスによって送信された可能性のあるパケットデータを検出できる確率が向上する。
【0050】
ベクトルデータに変換する情報は、ヘッダ情報を用いて算出される統計情報であってもよい。統計情報は、ヘッダに記載されている情報に依らない単位時間に通過するパケット数又はパケットサイズ、及び、特定の特性を有するパケットデータについてのパケット数又はパケットサイズを含む。単位時間は、任意に設定しても良い。
【0051】
例えば、DDoS(Distributed Denial of Service attack)攻撃が発生する場合、同じ送信先に多量のパケットデータが送信される。そのため、送信先ごとの単位時間あたりのパケット数又は総パケットサイズをベクトルデータに変換することで、任意の送信先に対するDDoS攻撃の特徴を捕捉できる確率が向上する。この場合、ベクトルデータ生成部11は、単位時間あたりのパケット数又は総パケットサイズを送信先ごとに求める。そして、ベクトルデータ生成部11は、単位時間あたりのパケット数又は総パケットサイズをベクトルデータに変換する。
【0052】
(装置の異常の判定)
データ収集部21は、判定対象の装置やシステムのログ情報を収集する。ベクトルデータ生成部11は、ログ情報からパラメータを抽出し、各パラメータを次元とする多次元のベクトルデータを生成する。ログ情報には、センサを用いて検出されたセンサ情報を含んでいてもよい。センサ情報には、音声データや画像データが含まれていてもよい。
【0053】
データ収集部21の収集するデータに音声データや画像データが含まれている場合、ベクトルデータ生成部11は、音声データを時間周波数のスペクトラムに変換し、画像データを空間周波数のスペクトラムに変換し、スペクトラムに含まれる各周波数成分を次元としかつ各周波数成分の振幅を値とするベクトルデータに変換する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
10:状態判定装置
11:ベクトルデータ生成部
12:多次元形状生成部
13:多次元部分空間定義部
14:状態判定部
21:データ収集部
22:記憶部
図1
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図9