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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】匂い物質提示装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 21/00 20060101AFI20230905BHJP
   A61B 5/08 20060101ALI20230905BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20230905BHJP
   A61M 15/08 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
A61M21/00 Z
A61B5/08
A61L9/12
A61M15/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019165854
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021040989
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【弁理士】
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】和田 有史
(72)【発明者】
【氏名】天野 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 拓志
(72)【発明者】
【氏名】小林 正佳
(72)【発明者】
【氏名】小早川 達
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-086741(JP,A)
【文献】特開2003-260122(JP,A)
【文献】特開2007-289298(JP,A)
【文献】特開2016-214495(JP,A)
【文献】特開2009-082273(JP,A)
【文献】特表2017-529885(JP,A)
【文献】特開平07-313600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
A61B 5/06- 5/22
A61M 11/00-19/00、
15/00、21/00
G06F 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物の匂いを提示する装置において、人の呼吸の呼気と吸気をそれぞれ検知する手段と、呼気時と吸気時に別の匂い物質を提示する手段と、を有した匂い物質提示装置であって、
前記匂い物質提示装置は、異なる匂い物質を入れた複数の匂い物質提供源と、当該匂い物質提供源に連通し鼻孔から中鼻甲介付近にまで達する挿管可能な長さを備えて先端から匂いを放出する可撓性管と、前記可撓性管に付随し鼻孔を塞いで鼻腔内の密封性を保つ鼻孔栓と、前記複数の匂い物質提供源の内少なくとも一つを選択し可撓性管と継ぐ経路切換弁と、前記匂い物質提供源から前記可撓性管へと匂いを送り出すポンプと、具備することを特徴とする匂い物質提示装置。
【請求項2】
前記呼気と吸気を検出する手段は、鼻孔付近に圧力センサ、サーモセンサ、音響装置、および肺の膨らみまたは収縮から呼気または吸気を判断する呼吸計測器を有し、当該呼吸計測器から呼気または吸気の判断の信号を制御部および記憶部に送る手段、を具備することを特徴とする請求項1に記載の匂い物質提示装置。
【請求項3】
前記呼気時と吸気時に別の匂いを提示する手段は、前記可撓性管と鼻孔栓を装備し、
使用者自身の判断で呼気時、吸気時のタイミングを見極め手動、もしくは前記呼吸計測器からの信号で経路切換弁およびポンプを操作して呼気時、吸気時においてそれぞれ別の匂いを提示することで呼吸と連動した匂い提示をすることを特徴とする請求項2に記載の匂い物質提示装置。
【請求項4】
前記呼気時と吸気時に別の匂いを提示する手段は、前記可撓性管と鼻孔栓を装備し、
前記呼吸計測器により信号が制御部および記憶部に送られることで、制御部および記憶部が呼気時、吸気時のタイミングを判断して経路切換弁、および圧力を調節する電磁弁へと信号が送られて操作がされ、それぞれ呼気時、吸気時においてそれぞれ別の匂いを提示することで呼吸と連動した匂い提示をすることを特徴とする請求項2または請求項3のいずれか一項に記載の匂い物質提示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人が呼吸をするに伴い、匂い物質供給源から鼻孔を通り鼻腔内部に送り込まれた匂い成分を知覚できる匂い物質提示装置に関し、特に吸気時と呼気時に別の匂いを提示することで鼻咽腔側からの匂い物質による嗅知覚経験を再現する提示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の五感の一つである味覚と嗅覚とは強い関係で結ばれており、食物の匂いを知覚することは味を感じる要素の一つであることが知られている。また、食物の匂いを知覚することに関して、食物を食べている際には、呼吸をするに伴い吸気時には外界からの匂いを知覚しているのに対して、呼気時でも鼻から抜ける口からの匂いを知覚していることが知られている。つまり食物を食べているときに吸気時では実際のその食物の匂いを知覚しているのに対し、呼気時でもその食物を食べているときのフレーバーリリースによる口からの匂いを知覚している。そして呼気時における口からの匂いの知覚の方が吸気時の外界からの匂いの知覚よりも味覚の影響が大きいことが報告されている。そこで匂いを提示する装置として以下のものが挙げられる。
【0003】
例えば特許文献1に示しているように、匂いを提示する装置としてヘッドフォン型の匂い提示装置が開発されている。当該装置は当付部からアームを介して鼻付近に呼吸センサを取り付けることで吸気時に臭気発生装置から匂いを提示する装置である。
【0004】
特許文献2では、匂いを提示する装置として、鼻孔付近に呼吸音から呼気の終了のタイミングを検知する音響入力装置を取り付けた匂い提示装置が開示されている。当装置はディスプレイに示した匂いを意識する映像を提示し、眼球近傍撮影装置から瞳孔径の変化を計測し興味を示して匂いを強く意識したときに空気砲を用いて香料含有気体を鼻孔付近に提示する化学物質提示装置である。
【0005】
特許文献3では、匂いを提示する装置として、コンピュータが3次元空間内をカメラ撮影によって感知し、人間の臭覚器の3次元位置を特定して臭覚器と匂い発生源である空気砲との距離や向きを決定し、臭覚器に向けて匂いの塊を放出することで匂いを提示することができる装置が開示されている。
【0006】
特許文献4では、匂いを提示する装置として、匂い物質が送風により外部に通じる放出口が設けられ、検出用のマーカー物質とともに匂い提示装置の外部に放出する放出機構とその放出機構が放出したマーカー物質を検出するセンサを有する匂い提示装置が開示されている。
【0007】
特許文献5では、匂いを提示する装置として、ヘッドマウントディスプレイと一体となっており、再生される動画像のタイミングに応じて、匂いを送出部から送り出して匂いを再生する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2018-527099号公報
【文献】特開2008-86741号公報
【文献】特開2004-81851号公報
【文献】特再表2017/098748号公報
【文献】特再表2015/025511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に示すように、開示されているこれらの装置は全て吸気時でしか匂い提示がされず、つまり外界からの匂いだけでしか知覚できないため呼気時における口からの匂いは知覚できずにいた。そのため、これらの装置を用いて食物を食べながら匂い提示を行っても嗅覚の知覚は低く、味覚への影響も乏しいままであった。
【0010】
さらに、これらの匂い提示装置では被験者の鼻孔付近の空気中に匂いを放出しているので、匂いが周りに拡散してしまい、複数人が同時に同じ場所で使用をすると匂いが混沌し個人間での匂い提示が難しい問題がある。
【0011】
本発明の目的は上記問題点を解決するために、装着が簡便であり、安定的に吸気時には食物が発する外界の匂いを提示し、呼気時にはその食物を口に入れて咀嚼する際の匂いを提示するような呼吸と連動することを特徴とした匂い物質提示装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって食物を食べながら安定的に呼吸と連動する匂い物質提示装置を提供するものである。
【0014】
本発明の匂い物質提示装置は、食物の匂いを提示する装置において、人の呼吸の呼気と吸気をそれぞれ検知する手段と、呼気時と吸気時に別の匂い物質を提示する手段と、を有した匂い物質提示装置であって、異なる匂い物質を入れた複数の匂い物質提供源と、当該匂い物質提供源に連通し鼻孔から中鼻甲介付近にまで達する挿管可能な長さを備えて先端から匂いを放出する可撓性管と、前記可撓性管に付随し鼻孔を塞いで鼻腔内の密封性を保つ鼻孔栓と、前記複数の匂い物質提供源の内少なくとも一つを選択し可撓性管と継ぐ経路切換弁と、前記匂い物質提供源から前記可撓性管へと匂いを送り出すポンプと、具備することにある。
【0015】
前記呼気と吸気を検出する手段は、鼻孔付近に圧力センサ、サーモセンサ、音響装置、および肺の膨らみまたは収縮から呼気または吸気を判断する呼吸計測器を有し、当該呼吸計測器から呼気または吸気の判断の信号を制御部および記憶部に送る手段、を具備することにある。
【0016】
前記呼気時と吸気時に別の匂いを提示する手段は、前記可撓性管と鼻孔栓を装備し、使用者自身の判断で呼気時、吸気時のタイミングを見極め手動、もしくは前記呼吸計測器による信号により経路切換弁およびポンプを操作して呼気時、吸気時に匂いを提示することで呼吸と連動した匂い提示をすることにある。
【0017】
前記呼気時と吸気時に別の匂いを提示する手段は、前記可撓性管と鼻孔栓を装備し、前記呼吸計測器により信号が制御部および記憶部に送られることで、制御部および記憶部が呼気時、吸気時のタイミングを判断して経路切換弁、および圧力を調節する電磁弁へと信号が送られて操作がされ、それぞれ呼気時、吸気時においてそれぞれ別の匂いを提示することで呼吸と連動した匂い提示をすることにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明の特徴によれば、可撓性管を感覚器である中鼻甲介付近にまで鼻腔内に挿管することにより、安定的に呼気時でも感覚器に匂いを送ることで匂い提示が可能になる。
【0019】
吸気時には食物それ自体の匂いを提示し、呼気時にはその食物を咀嚼して噛んだ時の口からの匂いを提示することで味覚増強、体験伝送および風味変換などの効果が従来の吸気時でしか匂い提示しない場合と比べて高く得られる。
【0020】
そして可撓性管に鼻孔栓を装備することで、可撓性管を挿管すると同時に鼻孔が蓋をされて鼻腔内の密封性が高まり匂いを外部に漏らさず安定的に直接匂い物質を提示することができ、少ない匂い物質量で高い効果を得ることができる。
【0021】
また鼻腔付近に圧力センサ、サーモセンサ、音響機器および肺の膨らみまたは収縮から呼気または吸気の判断する呼吸計測器から信号を制御部、記憶部に送ることで自動的に呼気時または吸気時のタイミングを見極められることができ、それぞれのタイミングに応じた匂いの提示を行うことができる。
【0022】
前記呼吸計測器からの信号または被験者自身が手動で、呼気時および吸気時のタイミングを見極めて経路切換弁およびポンプを操作することで、電磁弁を用いて圧力の調整をしなくても、呼気時と吸気時のタイミングに応じた匂いを提示することで呼吸と連動した匂い提示が可能になる。
【0023】
前記計測器からの信号が制御部と記憶部に送られ、制御部と記憶部が信号を処理して呼気時または吸気時のタイミングを見極め、経路切換弁および電磁弁へと、呼気時と吸気時それぞれのタイミングに応じた匂いを提示できるような経路切換弁の切換や圧力の調整を行う信号を送ることで、被験者は呼吸をするだけで自動的に呼吸と連動した匂い提示をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】可撓性管に鼻孔栓を外嵌した図。
図2】可撓性管と鼻孔栓を被験者の鼻孔に装着した図。
図3】可撓性管と鼻孔栓を装着している際の被験者の頭部断面図。
図4】本発明に係る匂い物質提示装置の使用実施説明図。
図5】本発明に係る匂い物質提示装置の他の使用実施説明図。
図6】本発明に係る電気配線図。
図7】呼吸と電磁弁を開閉するタイミングのグラフ。
図8】薄味の食物を食べていない時の匂い物質提示装置を装着した被験者の要部断面説明図。
図9】薄味の食物を食べている時の呼気時または吸気時における匂い物質提示装置を装着した被験者の要部断面説明図。
図10】食物の画面を見ながら匂い物質提示装置を装着した状態の被験者の要部断面説明図。
図11】食物の画面を見せながら食物を食べていない時の匂い物質提示装置を装着した状態の説明図。
図12】食物の画面を見せながら食物を食べている時の呼気時または吸気時における匂い物質提示装置を装着した状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【0026】
可撓性管1は、図1に示すように、匂いが付きにくく被験者Pの鼻腔内4の鼻腔面に当たっても傷つかないような柔らかいシリコン素材等の合成樹脂素材であり、鼻腔内4の孔の形状に合わせて湾曲している。また、可撓性管1には、匂いが鼻腔内4から漏れないようにするために鼻孔3に蓋をするための鼻孔栓2を移動自在に外嵌している。鼻孔栓2は可撓性管1の外周を覆うゴム製の楕円体が二つ連続したような形態をしているが、匂いが漏れたりしなければ鼻孔栓2は楕円体やゴム製に限られない。また、可撓性管1も人体に害がなければシリコンの素材に限られない。可撓性管1や鼻孔栓2は衛生の問題上、使い捨てで用いられることが望ましい。
【0027】
図2は可撓性管1と鼻孔栓2を被験者Pの鼻孔3に装着した状態を示し、可撓性管1と鼻孔栓2を被験者Pの左右どちらか一方の鼻孔3に挿管して鼻孔栓2が鼻孔3を塞ぐように装着する。もう片方の鼻孔3は何も挿管していないので通常通りの呼吸ができる。また口腔内も何も挿管しないので飲食物の摂取も同時に可能となる。鼻孔栓2を用いることにより、鼻腔内4の密閉性が向上し可撓性管1から放出された匂いが鼻孔3から外に漏れるのを防ぐと同時に、可撓性管1が鼻孔3から抜け落ちずに安定して使用することができる。可撓性管1の直径は0.5cm~1.0cmの太さが好適に用いられ、鼻孔栓2から可撓性管1の先端までの距離Lは一般的には2.0~6.0cmの範囲であり個人間で相違し、鼻孔3から嗅覚の感覚器である中鼻甲介付近5までの距離によって決まる。距離の測定は医者の診断に基づくのがよく、一度測定して自己の長さが分かれば、その後は同じ長さに調節して用いることができる。
【0028】
可撓性管1と鼻孔栓2を鼻孔3に装着した頭部の断面図は、図3に示すように片方の鼻孔3から挿管された可撓性管1を嗅覚の感覚器である中鼻甲介付近5に達する直前まで挿管し匂いを先端から放出する。呼気時では肺からの空気が鼻孔栓2をしていない鼻孔3から外へと押し出されるが、中鼻甲介付近5の手前で匂いを出しているので匂いの知覚が可能になる。また、直接匂い物質を中鼻甲介付近5に送ることで少量の匂い物質でも効率的かつ安定的に匂い提示が可能になる。
【0029】
本実施形態に係る匂い物質提示装置19は、図4に示すように、可撓性管1、鼻孔栓2、複数の匂い物質提供源7から1つを選択するための経路切換弁6、連結部13から連結管10、11を通過して匂い物質提供源7へ空気を送り出すためのポンプ9を備えている。この実施形態においては、匂い物質提供源7は3個備えており、それぞれ異なった匂いの匂い物質提供源7を用意することでそれに応じた様々な匂いを提示することができる。例えば、匂い物質提供源7のAにはその食物自体から発する匂い物質である臭気成分を備える。具体的には、臭気成分がバニリンであればバニラの香りを嗅覚でき、クマリンなどの香料であれば桜餅の匂いを嗅覚できる。また、食品香料、胡椒、醤油、コーヒーなど食品そのものを瓶に入れて匂いの提示も可能である。そして、匂い物質提供源7のBにはその食物を口に入れて噛むことにより発せられる口の中の匂いを備えて、匂い物質提供源7のCには、匂いが全くしない無臭もしくは匂いを吸着させる物質を備える。また、必要に応じて3個以上の匂い物質提供源7を用いてもよい。実際の使用態様としては、ポンプ9を起動させた状態のまま、ポンプ9により送り出された空気が連結部13、連結管11を通って、匂い物質提供源7を経由することで例えば匂い物質Aを含んだ空気が連結管10を通って送り出されて経路切換弁6に到達する。そして経路切換弁6を匂い物質Aの匂い物質提供源7の連結管10と連通するように切り替えることで匂い物質Aを提示することができ、別の匂い物質B、Cも経路切換弁6を操作することで希望の匂いを選択することが可能となる。
【0030】
本実施形態に係る他の匂い物質提示装置20は、図5に示すように、可撓性管1、鼻孔栓2、複数の匂い物質提供源から少なくとも一つの匂いを選択するための経路切換弁6、匂い物質提供源7、ある一定の圧力になると自動的に弁が閉まる電磁弁8、匂い物質提供源7と経路切換弁6を繋ぐ連結管10、電磁弁8と匂い物質提供源7を繋ぐ連結管11、連結部13と電磁弁8を繋ぐ連結管12、連結部13および空気を送り出すためのポンプ9を備えている。なお、図を簡略化するために、以下の実施例の図面上では呼吸計測器21、制御部22、記憶部23および当該装置に係る電気配線は図6に示す通りではあるが、具体的装置の図は省略してある。匂い物質提示装置19と同様に匂い物質提供源7のA、B、Cよび電磁弁8のa、b、cはそれぞれ3個ずつ揃えられており、それぞれ異なった種類の匂い物質提供源7のA、B、Cを準備することでそれに応じた様々な匂いを提示することができる。必要に応じて3個以上の匂い物質提供源7、電磁弁8を用いてもよい。具体的な使用態様としては、ポンプ9を起動させた状態のまま、ポンプ9により送り出された空気が電磁弁8により圧力が調節された状態で連結管11から匂い物質提供源7および連結管10を経由することでA、B、Cいずれかの匂い物質を含んだ空気が送り出されて経路切換弁6に到達する。そして経路切換弁6を切り替えることで物質提供源7のA、B、Cから希望の匂いを選択することが可能である。
【0031】
次に、図5を参照しつつ呼吸と連動した匂いの提示について詳しく説明する。図7のグラフは、食物を食べている際における呼気時または吸気時に応じて匂いを提示するタイミングを表しており、横軸に時間軸を、また縦軸に呼吸による空気の排気量と電磁弁a、bの開閉を示している。排気量が減っているとき、つまり吸気時ではその時に食物自体が発する匂いである匂いAを電磁弁8のaの開放によって例えば0.5L/min ~2.0 L/minの範囲の流量で匂いを提示する。吸気が終わるタイミングで電磁弁8のaが閉められる。続けて排気量が増えているとき、つまり呼気時では経路切換弁6が匂い物質供給源7のBにつながり電磁弁8のbが開く。電磁弁8のbが開くことで食物を咀嚼することによりフレーバーリリースされる口からの匂いである匂い物質供給源7のBから電磁弁8のbの開放に応じて例えば0.5L/min ~2.0L/minの範囲の流量で匂いを提示する。呼気が終わるタイミングで電磁弁8のbが閉じられ、また吸気時に経路切換弁6が匂い物質供給源7のA方向に向き、電磁弁8のaが開く。これを繰り返すことで、被験者Pは呼吸と連動した匂いを提示することができる。また流量は個人間や呼気時、吸気時等で相違し上記の値に限られず、電磁弁8で圧力の調節が可能である。
【0032】
前記した図6は匂い物質提示装置20の電気配線の図を示している。まず、鼻孔3付近に備え付けた図示していない音響装置、圧力センサ、サーモセンサ、または肺の膨らみなどから呼吸状態を感知するような呼吸計測器21から制御部22へと呼気時と吸気時の開始と終了のタイミングについての信号が送られる。そして制御部22が呼気時と吸気時の開始と終了のタイミングを判断することで、電磁弁8、経路切換弁6へと信号が伝わり圧力の調節や弁の開閉が自動的に行われる。被験者Pは匂い物質提示装置20を装着して呼吸をするだけで、安定的に呼吸と連動した匂い提示が可能になる。これらのデータファイルについては記憶部23に保存される。また、匂い物質提示装置19に示すように電磁弁8、呼吸計測器21、制御部22および記憶部23を用いず、被験者Pが呼気時と吸気時の開始と終了を判断して手動により経路切換弁6とポンプ9を操作して用いてもよい。
【0033】
図8図9に示す実施例1では、味覚増強効果の実施例を挙げる。図8に示すように被験者Pの前に薄味の食べものを置き、匂い物質提供源7のAにはその薄味食物自体が発している匂いを備えておき、また匂い物質提供源7のBには薄味の食物を咀嚼することによって口の中で広がる匂いを備えておく。まだ、何も食べていない時は図8に示すように呼気時、吸気時ともに匂い物質提供源7のAにつなげておき、薄味の食物の匂いを提示する。被験者Pが薄味の食物を食べている際は図9に示すように吸気時では匂い物質提供源7のAにつなげておくが、呼気時では経路切換弁6を切換して匂い物質提供源7のBにつなげる。これによって被験者Pは吸気時ではその食物自体の匂いを、また呼気時では食物を咀嚼することによって口の中で広がる匂いを呼吸と連動して提示が可能になる。被験者Pは呼吸と連動した匂い提示により薄味の食物を食べているのにも関わらず、味が濃く感じる効果を、従来の吸気時にだけ匂い提示を行う装置を用いるときよりも高く得ることが出来る。
【0034】
図10で示す実施例2では体験伝送効果の実施例を挙げる。図10に示すように被験者Pの前の画面15に餃子16の動画像が映し出されている。匂い物質提供源7のAには餃子の匂いを有する物質を備えて置おき、匂い物質提供源7のBには予め餃子を噛むことによって口の中でフレーバーリリースされる匂い物質を備えておく。この時に、画面を見ながら吸気時に匂い物質提供源7のAにつながるように管経路切換弁6を切り替えることで餃子の匂いを提示し、呼気時で経路切換弁6を作動させ匂い物質提供源7のBに切り替える。よって吸気時では餃子を嗅ぐときのような匂いを、呼気時では餃子が口の中で広がる匂いを呼吸と連動して提示することができる。そうすることで、被験者Pは視覚に加えて呼吸と連動した餃子の匂い提示を行うことにより、餃子16を食べていないのにも関わらず餃子16を食べている味を、従来の吸気時にだけ匂い提示を行う装置を用いるときよりも忠実に再現することができる。
【0035】
図11図12で示す実施例3では風味変換の効果を示す。画面15にチョコレート味のクッキー17の動画像を映し出され、被験者Pの前にはプレーン味のクッキー18が置かれてある。匂い物質供給源7のAにチョコレート味のクッキー17その自体の匂いを備えておき、匂い物質供給源7のBにチョコレート味のクッキー17が口の中で広がる匂いを備えておく。図11に示すように、画面だけを見てまだ何も食べていない時は経路切換弁6を呼気時、吸気時ともに匂い物質供給源7のAにつながるように切換してチョコレート味のクッキー17の匂いを提示する。そして図12に示すように、実際に目の前のプレーン味のクッキー18を食べるときは、吸気時の際は匂い物質提供源7のAにつなげたままでよいが、呼気時で経路切換弁6を作動させて匂い物質提供源7のBに切り替える。そうすることで先ほどと同様に、吸気時ではチョコレート味のクッキー17を嗅ぐときのような匂いを、呼気時ではチョコレート味のクッキー17が口の中で広がる匂いを呼吸と連動して提示することができる。そうすることにより、被験者Pはプレーン味のクッキー18を食べているのにも関わらず、視覚に加えて呼吸と連動したチョコレート味のクッキー17の匂い提示を行うことにより、チョコレート味のクッキー17を食べているかのような感覚を得ることができる。仮に従来の装置を用いて吸気時にだけチョコレート味のクッキー17の匂いを提示してプレーン味のクッキー18を食べても、呼気時には口からのプレーン味のクッキー18の匂いを知覚してしまうので、鼻腔空間内にチョコレート味のクッキー17の匂いとプレーン味のクッキー18の匂いが混ざってしまい効果は薄くなってしまうが、呼吸と連動した匂い提示をすることで格段に高い風味変換の効果が得られる。
【0036】
他にも、仮にチョコレートについてアレルギー等の理由でチョコレート食べられない人達にとっては、本実施例を用いることでアレルギー等について気にすることなくチョコレートの風味を体験できる効果が得られる。また本実施例においては、食物としてクッキーを例にして挙げたが、他にも例えば松茸の匂いを提示しながら、触感が似ているエリンギ等を食べることで、高級食材として知られている松茸を比較的手に入りやすいエリンギ等を用いて手軽に風味を体験できる効果が得られる。
【0037】
本発明は第1~3の実施例によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこれらの実施例に限定されるものでない。上記実施例では匂い物質提示装置20を用いて説明をしたが、匂い物質提示装置19を用いてもよい。また、いずれも単一の食物を例に挙げたが、本発明は単一の食物に限定されず、複数の食物でもその食物の数に応じた匂い物質供給源7を組み合わせて用いることで利用が可能になる。吸気時においては、匂い物質供給源7から同時に複数の匂いを出して、また匂いの強い食物や画面上で近くに置いてある食物は匂い供給量を増やすことでより効果が高いものとなる。このように、本発明では記載していない様々な実施例、実施形態等を含むことはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる匂い物質提示装置によれば、呼吸と連動した匂い提示が可能になり、様々な食物・飲料を摂取しながらVR映像などの組み合わせで、より一層実際に食事をしている感覚に近い食の疑似体験を提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 可撓性管
2 鼻孔栓
3 鼻孔
4 鼻腔
5 中鼻甲介付近
6 経路切換弁
7 匂い物質提供源
8 電磁弁
9 ポンプ
10 連結管
11 連結管
12 連結管
13 連結部
14 薄味の食物
15 画面
16 餃子
17 チョコレート味のクッキー
18 プレーン味のクッキー
19 簡便に用いる際の本発明に係る匂い物質提示装置
20 本発明に係る匂い物質提示装置
21 呼吸計測器
22 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12