(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】ヒートシンクの製造方法及びヒートシンク
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20230905BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230905BHJP
B21D 28/10 20060101ALI20230905BHJP
B21D 53/04 20060101ALI20230905BHJP
B23P 15/26 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H05K7/20 D
B21D28/10 Z
B21D53/04 Z
B23P15/26
(21)【出願番号】P 2019205793
(22)【出願日】2019-11-13
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391039601
【氏名又は名称】ナカムラマジック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敬一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 和人
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-216975(JP,A)
【文献】実開平05-055558(JP,U)
【文献】特開2007-123547(JP,A)
【文献】特開平09-017905(JP,A)
【文献】特開2000-114439(JP,A)
【文献】特開2000-323607(JP,A)
【文献】特表2008-543112(JP,A)
【文献】特開2001-102782(JP,A)
【文献】特開2001-246426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D28/00 -28/36
B21D47/00 -55/00
B23P 5/00 -17/06
B23P23/00 -25/00
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属でなるヒートシンクの製造方法であって、
平板状の基材をプレスにより塑性変形させて該基材の表面側に第1溝及び第2溝を形成することにより、前記第1溝及び前記第2溝に挟まれた領域にリブ部を形成するリブ部形成工程と、
前記基材の裏面側に形成された凸条部を切除する裏面凸条部切除工程と、
前記リブ部を加工することにより複数のフィンを形成するフィン形成工程と、
前記フィンを含む所定範囲の部位を前記基材から分離して当該ヒートシンクを得るヒートシンク分離工程と、
をこの順序で含むことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のヒートシンクの製造方法において、
前記フィン形成工程では、前記リブ部をスカイブ加工により削ぎ起こすことにより前記フィンを形成する、
ことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒートシンクの製造方法において、
前記第1溝の幅、前記リブ部の幅及び前記第2溝の幅の総和は、前記フィン形成工程の前記加工の際に用いる刃の幅よりも大きくなるように前記第1溝の幅、前記リブ部の幅及び前記第2溝の幅を相互に設定する、
ことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のヒートシンクの製造方法において、
前記リブ部形成工程と前記ヒートシンク分離工程との間に、第3溝形成工程を更に含み、
前記第3溝形成工程では、前記第1溝及び前記第2溝の少なくとも一方の溝の底面において、ヒートシンク基部の端となるべき位置から外側の位置に第3溝を形成する、
ことを特徴とするヒートシンクの製造方法。
【請求項5】
金属でなるヒートシンクであって、
当該ヒートシンクの表面側においては、フィンの基部であるヒートシンク基部と、前記ヒートシンク基部の側から立ち上がるようにして形成された複数の前記フィンと、を備え、
当該ヒートシンクの裏面においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕を有し、
前記ヒートシンクの前記裏面に垂直でありかつ前記フィンの幅方向に平行である面で前記ヒートシンク基部及び前記フィンを切断して、当該切断面を顕微鏡で観察したときに、
前記ヒートシンク基部の上面の直下における金属組織に関係する筋の方向は、前記ヒートシンク基部の上面と凡そ平行となっており、
前記フィンの基端の直下における金属組織に関係する筋の方向は、前記ヒートシンク基部の上面と平行な方向と交差し、かつ、当該金属組織に関係する筋が前記フィンの基端付近に向かって収束するようになっている、
ことを特徴とするヒートシンク。
【請求項6】
金属でなるヒートシンクであって、
当該ヒートシンクの表面側においては、フィンの基部であるヒートシンク基部と、前記ヒートシンク基部の側から立ち上がるようにして形成された複数の前記フィンと、を備え、
当該ヒートシンクの裏面においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕を有し、
前記ヒートシンクの前記裏面に垂直でありかつ前記フィンの幅方向に平行である面で前記ヒートシンク基部及び前記フィンを切断して、当該切断面を顕微鏡で観察したときに、
前記ヒートシンク基部の上面の直下における金属組織の粒界の平均粒径が、前記フィン先端付近の所定深さの位置における金属組織の粒界の平均粒径よりも小さくなっている、
ことを特徴とするヒートシンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクの製造方法及びヒートシンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品、電子機器等から生ずる熱を放熱するためのヒートシンクが知られている。
図8は従来のヒートシンクを説明するために示す図である。
図8(a)は短冊状の基材900を示す斜視図であり、
図8(b)は短冊状の基材900に基づいて製造されたヒートシンク9を示す斜視図である。
【0003】
図8(b)に示すように、ヒートシンク9の表面には、放熱効率を上げるために肉薄のフィン20が多数個設けられている。フィン20は、例えば短冊状の基材900のリブ部940《
図8(a)参照》をスカイブ加工により削ぎ起こすことによりフィン20をヒートシンク基部910の側から立ち上がるようにして形成することができる(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-232300号公報
【文献】特開平11-168160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8(a)に示すような基部(ヒートシンク基部)910及びリブ部940からなる短冊状の基材900は、例えば押出成形によって得ることができる(特許文献1参照)。
しかしながら、一般に、金属を扱う押出成形の場合、1ロット当たりで扱う材料の重量は膨大であり、例えばトン単位の重量の材料を扱うことが通常となっている。このため、生産数量を調整するときもこの場合トン単位で生産数量を増減させることとなる。こうしたことから、比較的小型のヒートシンクを製造するためにこの押出成形による方法を採用した場合には、生産数量が過剰となりやすく、結果的に製造コストが高くなってしまう。
また、押出成形は、一般に、扱う材料がアルミニウム材の場合には適しているが、銅材の場合には技術的な課題が多く適していないと言われている。銅材は、アルミニウム材よりも熱伝導率が高いためヒートシンクの材料として近年期待されているものの、残念ながら上記した諸事情もあり、押出成形によって銅材からなる短冊状の基材900を得るという方法は現実的な選択肢になっていない。
【0006】
一方で、切削加工によって短冊状の基材900を得るという方法を検討することもできる。すなわち、平板状の基材(図示を省略)の表面側FSからエンドミル等により不要な部分を切削することにより短冊状の基材900を得ることもできる。
しかしながら、切削加工による方法によると加工時間が長時間となるためサイクルタイムが長くなり、生産性が上がらず、結果的に製造コストが高くなってしまう。
【0007】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、銅材を用いた製造も可能であると共に、従来よりも生産数量が調整し易く、かつ、製造コストを抑制することができるヒートシンクの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、需要者が、比較的安価でありながら高い放熱効率を享受することができるヒートシンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明のヒートシンクの製造方法は、金属でなるヒートシンクの製造方法であって、平板状の基材をプレスにより塑性変形させて該基材の表面側に第1溝及び第2溝を形成することにより、前記第1溝及び前記第2溝に挟まれた領域にリブ部を形成するリブ部形成工程と、前記基材の裏面側に形成された凸条部を切除する裏面凸条部切除工程と、前記リブ部を加工することにより複数のフィンを形成するフィン形成工程と、前記フィンを含む所定範囲の部位を前記基材から分離して当該ヒートシンクを得るヒートシンク分離工程と、をこの順序で含むことを特徴とする。
【0009】
[2]本発明のヒートシンクの製造方法の好ましい一態様として、前記フィン形成工程では、前記リブ部をスカイブ加工により削ぎ起こすことにより前記フィンを形成する、ものとしてもよい。
【0010】
[3]本発明のヒートシンクの製造方法の好ましい一態様として、前記第1溝の幅、前記リブ部の幅及び前記第2溝の幅の総和は、前記フィン形成工程の前記加工の際に用いる刃の幅よりも大きくなるように前記第1溝の幅、前記リブ部の幅及び前記第2溝の幅を相互に設定する、ものとしてもよい。
【0011】
[4]本発明のヒートシンクの製造方法において、前記リブ部形成工程と前記ヒートシンク分離工程との間に、第3溝形成工程を更に含み、前記第3溝形成工程では、前記第1溝及び前記第2溝の少なくとも一方の溝の底面において、ヒートシンク基部の端となるべき位置から外側の位置に第3溝を形成する、ことが好ましい。
【0012】
[5]本発明の第1の態様によるヒートシンクは、金属でなるヒートシンクであって、当該ヒートシンクの表面側においては、フィンの基部であるヒートシンク基部と、前記ヒートシンク基部の側から立ち上がるようにして形成された複数の前記フィンと、を備える。
このとき、当該ヒートシンクの裏面においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕を有し、前記ヒートシンクの前記裏面に垂直でありかつ前記フィンの幅方向に平行である面で前記ヒートシンク基部及び前記フィンを切断して、当該切断面を顕微鏡で観察したときに、前記ヒートシンク基部の上面の直下における金属組織に関係する筋の方向は、前記ヒートシンク基部の上面と凡そ平行となっており、前記フィンの基端の直下における金属組織に関係する筋の方向は、前記ヒートシンク基部の上面と平行な方向と交差し、かつ、当該金属組織に関係する筋が前記フィンの基端付近に向かって収束するようになっている、ことを特徴とする。
好ましい一態様としてヒートシンクは銅材でなるものであってもよい。
【0013】
[6]本発明の第2の態様によるヒートシンクは、金属でなるヒートシンクであって、当該ヒートシンクの表面側においては、フィンの基部であるヒートシンク基部と、前記ヒートシンク基部の側から立ち上がるようにして形成された複数の前記フィンと、を備える。
このとき、当該ヒートシンクの裏面においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕を有し、前記ヒートシンクの前記裏面に垂直でありかつ前記フィンの幅方向に平行である面で前記ヒートシンク基部及び前記フィンを切断して、当該切断面を顕微鏡で観察したときに、前記ヒートシンク基部の上面の直下における金属組織の粒界の平均粒径が、前記フィン先端付近の所定深さの位置における金属組織の粒界の平均粒径よりも小さくなっている、ことを特徴とする。
好ましい一態様としてヒートシンクは銅材でなるものであってもよい。
【0014】
「7」本発明の第3の態様によるヒートシンクは金属でなる平板状の基材をプレスにより塑性変形させて該基材の表面側に第1溝及び第2溝を形成しつつ、前記第1溝及び前記第2溝に挟まれた領域にリブ部を形成し、前記基材の裏面側に形成された凸条部を切除し、 前記リブ部に対応した位置に複数のフィンを形成し、前記基材から所定範囲の部位を分離することにより得られたヒートシンクである。
好ましい一態様として、前記複数のフィンは、前記リブ部においてスカイブ加工により削ぎ起こされて形成したものであってもよい。また、好ましい一態様としてヒートシンクは銅材でなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のヒートシンクの製造方法によれば、銅材を用いた製造も可能であると共に、従来よりも生産数量が調整し易く、かつ、製造コストを抑制することができる。また、本発明のヒートシンクによれば、需要者が、比較的安価でありながら高い放熱効率を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態1に係るヒートシンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】実施形態1に係るヒートシンクの製造方法におけるリブ部形成工程S10~裏面凸条部切除工程S20を説明するために示す図である。
【
図3】実施形態1に係るヒートシンクの製造方法におけるフィン形成工程S30及びヒートシンク分離工程S50を説明するために示す図である。
【
図4】実施形態1に係るヒートシンク1を説明するために示す図である。
【
図5】実施形態2に係るヒートシンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施形態2に係るヒートシンクの製造方法の要点を説明するための図である。
【
図8】従来のヒートシンクを説明するために示す図である。なお符号902は短冊状の基材900の裏面であり、符号FSは同裏面側を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る熱交換器の実施形態について図面を参照して説明する。各図面は一例を示した模式図であり、必ずしも実際の寸法、比率等を厳密に反映したものではない。
【0018】
[実施形態1]
1.実施形態1に係るヒートシンクの製造方法
(1)ヒートシンクの製造方法の概要
図1は、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法は、金属でなるヒートシンクの製造方法であって、少なくともリブ部形成工程S10、裏面凸条部切除工程S20、フィン形成工程S30及びヒートシンク分離工程S50をこの順序で含む。以下、各工程を、
図2及び
図3を用いながら順に説明する。
【0019】
(2)ヒートシンクの製造方法の詳しい構成
図2は、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法におけるリブ部形成工程S10~裏面凸条部切除工程S20を説明するために示す図である。
図2(aa),
図2(ba),
図2(ca),
図2(da),
図2(ea)は正面図又は断面図であり、
図2(ab),
図2(cb),
図2(eb)はそれぞれ
図2(aa),
図2(ca),
図2(ea)に対応する斜視図である。例えば
図2(ab)は平板状の基材100を準備した状態を示す斜視図であり、
図2(aa)は
図2(ab)の矢印P1に沿って視たときの正面図である。以下においても同様の関係で図示をしている。
図3は、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法におけるフィン形成工程S30及びヒートシンク分離工程S50を説明するために示す図である。
図3(ba),
図3(ca),
図3(da)は正面図であり、
図3(bb),
図3(db)はそれぞれ
図3(ba),
図3(da)に対応する斜視図である。
図3(ab)はフィン形成工程S30を説明するために示す斜視図である(対応する正面図は省略)。
【0020】
(i)平板状の基材
リブ部形成工程S10に先立ち、
図2(aa)及び
図2(ab)に示すような平板状の基材100を準備する。平板状の基材100は、概ね一定の厚みを有する平板状をなす材料である。ここでは金属からなる材料とし、例えば、アルミニウムを含む金属、銅を含む金属等の材料を採用することができる。また、平板状の基材100は、圧延された材料を採用することができる。
なお、本明細書において、フィン形成工程S30(詳細は後述)でフィン20を形成する側の面を平板状の基材100,100’の「表面101」といい、表面101とは反対側の面を「裏面102」という。また、表面101の側を「表面側FS]といい、裏面102の側を「裏面側RS」という。
【0021】
(ii)リブ部形成工程S10
リブ部形成工程S10では、平板状の基材100をプレスにより塑性変形させて該基材100の表面側FSに第1溝110及び第2溝120を形成することにより、第1溝110及び第2溝120に挟まれた領域にリブ部140を形成する。
なお、以降において平板状の基材100を一部でも加工した基材を符号100’として示すものとする。
【0022】
ここでの加工は、切削等の切除によるものではなく塑性変形によるものである。
例えば、
図2(ba)に示すような上金型510及び下金型520を用いたプレス装置を用いてリブ部形成工程S10を行ってもよい。上金型510及び下金型520の間に平板状の基材100を配置し、板押え514で矢印A1の方向に基材100を押さえつつ、矢印A2の方向に沿ってパンチ512を基材100の表面101に対して打撃することにより基材100をプレスする。下金型520には、パンチ512が配置されている位置に対応してキャビティ523が設けられたダイ522が備えられており、パンチ512が基材100を打撃した際には基材100の裏面側RSに材料の一部の体積分が退避する。
【0023】
ここでのプレスによる塑性変形は、基材100の表面側FSに、基材100の板厚の中途の深さまで溝を形成するもので、完全なる打抜きではなく、「半抜き」、「ハーフカット」などと呼ばれるものである。このようなプレスを行うと、第1溝110及び第2溝120が形成される。これに伴い第1溝110及び第2溝120に挟まれた領域にリブ部140が形成される。パンチ512及びキャビティ523を適宜の設計とすることで第1溝110及び第2溝120をある程度の長さのものとすることができ、結果リブ部140もある程度の長さを有する長尺状の部位とすることができる。なお、ここでの溝の「長さ」とは、例えば
図2(ba)でいうと紙面に垂直な方向に沿った長さをいう。また、溝の形成に伴って、基材100’の裏面側RSにはキャビティ523の内側形状に倣った形状の凸条部150が形成される《
図2(ca)及び
図2(cb)参照》。
【0024】
リブ部140の側面144は、主にプレスによって生じたせん断面によって構成される。第1溝110の底面112(一部は後のヒートシンク基部10の上面11となる)及びその直下の深部、並びに、第2溝120の底面122(一部は後のヒートシンク基部10の上面11となる)及びその直下の深部は、パンチ512による打撃により従前に比べ圧縮された金属組織となる。一方、リブ部140の頂面はパンチ512の打撃を受けないため金属組織の状態は従前のまま維持される。
なお、プレスの打撃回数は単数回でもよいが、これを複数回に分けて行ってもよい。
また、第1溝110の底面112及び第2溝120の底面122は平面であることが望ましい。製品(ヒートシンク1)の使用者が冷却媒体を封止する際に、図示しない封止部材を当該平面状の底面112,122に対して当接することができ、漏れのない封止を容易に実現することができる。
【0025】
(iii)裏面凸条部切除工程S20
裏面凸条部切除工程S20では、例えば
図2(da)に示すように刃具530(例えばエンドミル)で切削することにより、基材100’の裏面側RSに形成された凸条部150を切除する。そして、凸条部150を切除しつつ、基材100’の裏面側RSの形状を顧客要求仕様に従った面形状とする。
裏面凸条部切除工程S20では、少なくとも凸条部150を切除するが、更に基材100’の板の厚みの一部を削除してもよい。
以上、リブ部形成工程S10及び裏面凸条部切除工程S20を実施することにより、従来の短冊状の基材900に一部類似する形状の材料を得ることができる《
図2(ea)及び
図2(eb)参照》。
【0026】
(iv)フィン形成工程S30
フィン形成工程S30では、リブ部140を加工することにより複数のフィン20を形成する《
図3(ba)及び
図3(bb)参照》。
【0027】
フィン20を形成するための加工方法は適宜の加工方法を採用することができる。
例えば、
図3(ab)に示すように、刃具540をリブ部140に当てて矢印A4の方向に移動させ、リブ部140をスカイブ加工により削ぎ起こすことによりフィン20を形成してもよい。スカイブ加工については特許文献2等に記載された技術を参照してフィン形成工程S30に導入することもできるため、詳細な説明はこれらの文献の記載を援用する。
【0028】
なお、フィン形成工程S30において、第1溝110の幅WG1、リブ部140の幅WR及び第2溝120の幅WG2の総和は、フィン形成工程S30の加工の際に用いる刃540の幅WBよりも大きくなるように第1溝110の幅WG1、リブ部140の幅WR及び第2溝120の幅WG2を相互に設定することが望ましい。なお、ここでのそれぞれの幅WG1,WR,WG2,WBは、第1溝110及び第2溝120の長手方向に沿って第1溝110,リブ部140,第2溝120,刃(刃具)540をそれぞれ視たときの幅を指す。
【0029】
また、フィンの形状は顧客要求仕様に応じて適宜の形状とすることができる。例えば
図3(ba)及び
図3(bb)に示すフィン20はストレート形の平面状のフィンとしている。
【0030】
(v)ヒートシンク分離工程S50
ヒートシンク分離工程S50では、フィン20を含む所定範囲の部位104を基材100’から分離して当該ヒートシンク1を得る。ここで「フィン20を含む所定範囲の部位104」とは、当該部位を分離したならばヒートシンク1となる部位である《
図3(ca)参照》。
【0031】
ヒートシンク1を分離させるための加工方法は適宜の加工方法を採用することができる。
例えば、
図3(ca)に示すように、所定範囲の部位104を、パンチ550で矢印A5の方向に打ち抜く(外形打抜)ことによってヒートシンク1を分離してもよい。
以上、リブ部形成工程S10、裏面凸条部切除工程S20、フィン形成工程S30及びヒートシンク分離工程S50を実施することにより、
図3(da)及び
図3(db)に示すようなヒートシンク1を得ることができる。なお、得られたヒートシンク1の構成については以降の章で説明するため、ここでの説明を省略する。
【0032】
2.実施形態1に係るヒートシンクの製造方法の効果
(1)実施形態1に係る製造方法は、平板状の基材100をプレスにより塑性変形させて該基材の表面側に第1溝110及び第2溝120を形成することにより、第1溝110及び第2溝120に挟まれた領域にリブ部140を形成するものであり、押出成形に依らない方法であるため、銅材を用いた製造も可能となる。また、必要な数量分だけ平板状の基材100を加工すればよいため、押出成形のように過剰に製造することもなく従来よりも生産数量が調整しやすく、製品価格に過剰なコストが載ることもない。また、プレスによる塑性変形に依る方法であるため、切削加工よりも加工時間が短時間で済み、生産性が上がり、製造コストを抑制することができる。さらに、平板状の基材100は例えば一般市場に流通している圧延材等を活用することもできるため押出成形に比べてコストを抑制することもできる。
以上より、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法によれば、銅材を用いた製造も可能であると共に、従来よりも生産数量が調整し易く、かつ、製造コストを抑制することができる。
【0033】
(2)フィン形成工程S30では、リブ部140をスカイブ加工により削ぎ起こすことによりフィン20を形成する。このようなスカイブ加工を採用することにより、放熱効率の高い肉薄のフィンを形成することができる。また、スカイブ加工では切削屑を殆ど発生しないため、材料使用効率を高めることができ製造コストを一層抑制することができる。
【0034】
(3)フィン形成工程S30では、第1溝110の幅WG1、リブ部140の幅WR及び第2溝120の幅WG2の総和は、フィン20を形成する際に用いる刃540の幅WBよりも大きくなるように第1溝110の幅WG1、リブ部140の幅WR及び第2溝120の幅WG2を相互に設定する。それぞれ部位の幅の関係をこのように設定することで、第1溝110及び第2溝120の内側まで刃540を入れることができるようになり、フィン形成作業が容易かつ効率的になる。
【0035】
3.実施形態1に係るヒートシンク1の構成と効果
次に、実施形態1に係るヒートシンク1について説明する。
図4は、実施形態1に係るヒートシンク1を説明するために示す図である。
図4(a)はヒートシンク1の斜視図であり、
図4(b)はヒートシンク1の裏面14を
図4(a)の矢印P2に沿って視たときの様子を示す模式図である。
図4(c)~
図4(e)は、
図4(a)のB-B線で切断した断面を観察したときの様子の一例を模式的に表した図である。
図4(d)及び
図4(e)は
図4(c)の破線C2で囲まれた領域を顕微鏡で拡大した要部拡大図である。
【0036】
(1)実施形態1に係るヒートシンク1は、金属でなる平板状の基材100をプレスにより塑性変形させて該基材100の表面側FSに第1溝110及び第2溝120を形成しつつ、第1溝110及び第2溝120に挟まれた領域にリブ部140を形成し、基材100’の裏面側RSに形成された凸条部150を切除し、リブ部140に対応した位置に複数のフィン20を形成し、基材100’から所定範囲の部位104を分離することにより得られたヒートシンク1である(
図2及び
図3も併せて参照)。
また複数のフィン20は、リブ部140においてスカイブ加工により削ぎ起こされて形成したものであってもよい。また、ヒートシンク1は銅材でなるものであってもよい。
【0037】
このようなヒートシンクは、上記実施形態1に係るヒートシンクの製造方法の欄で説明したように、銅材でなるヒートシンクとしても適用可能であり、押出成形や切削加工に依らず簡易な方法で得られたヒートシンクとなるため、需要者が、比較的安価でありながら高い放熱効率を享受することができる。
【0038】
(2)実施形態1に係るヒートシンク1は別の言い方(別言)をすると以下のようにも特定することができる。
実施形態1に係るヒートシンク1は、金属(例えば銅材)でなるヒートシンクであって、当該ヒートシンク1の表面側FSにおいては、フィン20の基部であるヒートシンク基部10と、ヒートシンク基部10の側から立ち上がるようにして形成された複数のフィン20と、を備える《
図4(a)参照》。
このとき、フィン20はヒートシンク基部10から直に起立した状態となっている。しかしながら、実施形態1に係るヒートシンク1はこのような構成に限定されるものではない。
【0039】
ヒートシンク1の裏面14においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕160を有している《
図4(b)参照》。
【0040】
断面の観察に先立ち、ヒートシンク1の裏面14に垂直でありかつフィン20の幅方向に平行である面でヒートシンク基部10及びフィン20を切断して、切断面に対し研磨、エッチング等の適宜の処理を施すものとする。切断面をエッチングすると、エッチングレートの差により粒界辺りには、例えば介在物の存在を裏付けるような痕跡が出現することとなる。その上で、当該切断面をSEM(走査電子顕微鏡)等の顕微鏡で観察したものとする。
このとき、例えば
図4(d)に示すように、ヒートシンク基部10の上面11の直下における金属組織に関係する筋18a(例えば、プレスにより金属材料内の介在物が延ばされることにより観察される筋18a)の方向D2は、ヒートシンク基部10の上面11と凡そ平行となっている。なお、
図4(d)においてヒートシンク基部10の上面11の接線方向をD1で示している。
また、フィン20の基端24の直下におけるヒートシンク基部10内における金属組織に関係する筋18bの方向(例えばD3)は、ヒートシンク基部10の上面11と平行な方向D1と交差し、かつ、当該金属組織に関係する筋18bがフィン20の基端24付近に向かって収束するようになっている。
【0041】
(3)実施形態1に係るヒートシンク1はさらに別言すると以下のようにも特定することができる。
実施形態1に係るヒートシンク1は、金属(例えば銅材)でなるヒートシンクであって、当該ヒートシンク1の表面側FSにおいては、フィン20の基部であるヒートシンク基部10と、ヒートシンク基部10の側から立ち上がるようにして形成された複数のフィン20と、を備える《
図4(a)参照》。
【0042】
ヒートシンク1の裏面14においては、突起した部分が切除され表面が調整されてなる表面加工痕160を有している《
図4(b)参照》。
【0043】
上記(2)で説明したときと同様に、ヒートシンク1の裏面14に垂直でありかつフィン20の幅方向に平行である面でヒートシンク基部10及びフィン20を切断して、切断面を顕微鏡で観察したものとする。
このとき、ヒートシンク基部10の上面11の直下における金属組織の粒界19aの平均粒径が、フィン先端22付近の所定深さの位置における金属組織の粒界19bの平均粒径よりも小さくなっている。換言すると、ヒートシンク基部10付近は厚み方向に圧縮されたものとなっている。このため、実施形態1に係るヒートシンク1は、より強固で耐久性の高いヒートシンクとなる。
【0044】
[実施形態2]
次に、実施形態2に係るヒートシンクの製造方法について説明する。
図5は、実施形態2に係るヒートシンクの製造方法を説明するためのフローチャートである。
図6は、実施形態2に係るヒートシンクの製造方法の要点を説明するための図である。
図6(a)は第3溝形成工程S40を、
図6(b)はヒートシンク分離工程S50を説明するために示す正面図又は断面図である。実施形態2において、基本的な構成及び特徴が実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を使用し、説明を省略する。
【0045】
実施形態2に係るヒートシンクの製造方法は、基本的には実施形態1に係るヒートシンクの製造方法と同様の構成を有するが、第3溝形成工程S40を更に実施する点において実施形態1に係るヒートシンクの製造方法とは異なる(
図5参照)。
【0046】
すなわち、
図5に示すように、実施形態2に係るヒートシンクの製造方法は、リブ部形成工程S10とヒートシンク分離工程S50との間に、第3溝形成工程S40を更に含む。この
図5のフローチャートでは、第3溝形成工程S40は、フィン形成工程S30を実施した後であってヒートシンク分離工程S50を実施する前に行うものとしている。しかしながら、これに限定されるものではなく、例えば、リブ部形成工程S10と裏面凸条部切除工程S20との間に実施してもよいし、裏面凸条部切除工程S20とフィン形成工程S30との間に実施してもよい。
【0047】
第3溝形成工程S40は、
図6(a)に示すように、第1溝110及び第2溝120の少なくとも一方の溝の底面において、ヒートシンク基部10の端12となるべき位置12’から外側の位置に第3溝130を形成する。なお、第3溝130は如何なる方法によって形成してもよい。例えば、切削加工によって形成してもよい。
【0048】
このような実施形態2に係るヒートシンクの製造方法によれば、ヒートシンク基部10の端12となるべき位置12’の外側(ここでは第3溝の部分)が肉薄となる。
そうすると、
図6(b)に示すように、ヒートシンク分離工程S50を、パンチ552を用いたプレス(外形打抜き)で行うとした場合には、上記のように第3溝130を形成することにより肉薄となった分だけプレスに伴って引きずられる材料の体積が小さくなり、プレス時の抵抗を低減することができる。したがって、ヒートシンク基部10の端12のダレの発生を抑制することができる。
【0049】
なお、実施形態2に係るヒートシンクの製造方法は、第3溝形成工程S40を更に実施する点以外の構成においては、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係るヒートシンクの製造方法及びヒートシンク1が有する効果のうち該当する効果を同様に奏する。
【0050】
[変形例]
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0051】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0052】
(2)フィン20の構造は本発明の効果を損なわない範囲において種々の態様を採ることができる。実施形態1に係るヒートシンクの製造方法及びヒートシンク1の説明においては、フィン20の側面(符号なし)がヒートシンク基部10の裏面14に垂直に直線状となっており、かつ、フィン20の放熱面積を主として担う面が平面のストレート形のフィン20を例に挙げて説明した《
図4(a)等参照》。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、ヒートシンクの顧客要求仕様に応じて適宜のフィン形状及びそれに応じた溝(第1溝110及び第2溝120)の形状を採用することが可能である。
【0053】
例えば、リブ部形成工程S10で形成する第1溝110及び第2溝120は、単純な方形の溝として形成し、リブ部140の断面形状としては単純な長方形のものとして図示・説明をした。しかしながらこれに限定されるものではなく、例えば
図7(a)に示すようにリブ部の側面144aが傾斜した断面形状とすることにより台地状のリブ部140aを形成するものでであってもよいし、
図7(b)に示すように断面形状が階段状のリブ部140bを形成するものであってもよい。
【0054】
また例えば、フィン形成工程S30で形成するフィン20は平板状のストレート形フィンとして図示・説明をした。しかしながらこれに限定されるものではなく、例えば
図7(c)に示すようにカール形のフィン20aを形成するものであってもよい。また、図示しない波形、ピン形等の形状のフィンを形成するものであってもよい。
【0055】
なお、
図7は変形例を説明するための図である。
図7(a)及び
図7(b)は
図2(ea)及び
図2(eb)に対応する正面図又は断面図である。
図7(c)は変形例のフィン20aを右側面からみたときの要部拡大図である。基本的な構成及び特徴が実施形態1及び実施形態2と同じ構成要素については、実施形態1及び実施形態2と同じ符号を使用し、説明を省略している。
【0056】
(3)上記実施形態において裏面凸条部切除工程S20は、刃具530(例えばエンドミル)で凸条部150を切削する例を説明した。しかしながらこれに限定されるものではなく、例えば、ヒートシンク基部10の裏面14と平行な方向にパンチを移動させて凸条部150を切除してもよい(プレス加工)。なお、ヒートシンク基部10の裏面14は、ヒートシンク1を製品として使用する際に発熱部品と接触する面となるため、プレス加工の後に仕上げ挽きをして表面の粗さを抑えておくことが望ましい。
【0057】
(4)上記実施形態においてフィン形成工程S30では、リブ部140をスカイブ加工により削ぎ起こすことによりフィン20を形成するものとした。しかしながらこれに限定されるものではない。例えば、切削加工によってフィンを形成してもよい。例えば、例えばディスク状のメタルソーでリブ部の部材を切除してフィンとフィンの間にスリット(又はルーバー)を設ける方法を採用してもよい。メタルソーを用いた場合でも、基材100’は第1溝110及び第2溝120を有しているので、第1溝110及び第2溝120の部分でメタルソーの刃を逃がすことができ、仕上がったフィン20のスリットの根本であってフィンの第1溝110側/第2溝120側の部分に曲面が残らない(つまりスリットの底が平面となる)ように加工することができる。
【0058】
(5)上記実施形態においてヒートシンク分離工程S50では、外形打抜(プレス加工)により行うものとした。しかしながらこれに限定されるものではない。例えば、機械加工(切削加工)によってヒートシンク1を基材100’から切り落とす方法を採用してもよい。
【0059】
(6)上記実施形態においてはフィン形成工程S30を行ってからヒートシンク分離工程S50を行うものとした。しかしながらこれに限定されるものではない。例えば、リブ部形成工程S10、裏面凸条部切除工程S20を終えた状態となったならば、その後、基材100’から所定範囲の部位104を分離してヒートシンクの基となる部分を得て、その後にフィン形成工程S30を行ってもよい。このような順番を経る製造方法も本発明におけるヒートシンクの製造方法と等価なものとして位置付けられる。
【符号の説明】
【0060】
1,9…ヒートシンク、10,910…ヒートシンク基部、11…(ヒートシンク基部の)上面、12…(ヒートシンク基部の)端、14…(ヒートシンク基部の)裏面、18a,18b…金属組織に関係する筋、19a,19b…粒界、20,20a…フィン、21…(フィンの)上辺、22…フィン先端、24…(フィンの)基端、100,100',900 …基材、101…基材の表面、102…基材の裏面、104…フィンを含む所定の部位、110…第1溝、112…(第1溝の)底面、120…第2溝、122…(第2溝の)底面、130…第3溝、140,140a,140b,940…リブ部、142…(リブ部の)頂面、144,144a…(リブ部の)側面、150…凸条部、160…表面加工痕、510…上金型、512,550,552…パンチ、514…板押え、520…下金型、522…ダイ、523…キャビティ、530,540…刃具