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  • 特許-血液指紋採取用シート及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】血液指紋採取用シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1172 20160101AFI20230905BHJP
【FI】
A61B5/1172
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019206390
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021078556
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000130178
【氏名又は名称】株式会社コスモ計器
(74)【代理人】
【識別番号】110000501
【氏名又は名称】翠弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 貢
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰宏
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特許第4219667(JP,B2)
【文献】特開平09-075329(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0136159(US,A1)
【文献】特開2019-103724(JP,A)
【文献】特開2009-137752(JP,A)
【文献】特開平06-058927(JP,A)
【文献】実開昭59-085201(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1172
G01N 1/00 -1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を備えたシート基材と、このシート基材の一面を被覆するとともに表面を血液指紋採取面とした血液指紋採取層とから成り、上記血液指紋採取層は少なくとも、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系樹脂と、シリカとを含有することを特徴とする血液指紋採取用シート。
【請求項2】
柔軟性を備えたシート基材の一面に、血液指紋採取層を塗布する血液指紋採取用シートの製造方法において、上記血液指紋採取層は少なくとも、水とシリカとを攪拌した混合液に、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系エマルジョンを混合することにより塗布液を生成し、この塗布液を、上記シート基材の一面に塗布することにより得られることを特徴とする血液指紋採取用シートの製造方法。
【請求項3】
記塗布液は、水の含有量が、塗布液の全重量の60wt%~90wt%であることを特徴とする請求項2の血液指紋採取用シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷害事件や殺人事件等の流血事件が発生した際に、鑑識が現場に残された血液指紋を転写するための血液指紋採取シート、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、傷害事件や殺人事件等の現場に残された血液指紋を採取するための鑑識用の血液指紋採取用シートが種々開発されている。血液指紋は一般的に、写真撮影が行われた後、血液指紋採取用シートにて転写され保存されている。このような血液指紋採取用シートは現在、特許文献1に示す如く湿布剤を基にして開発されたものや、インクジェットプリンター用紙を基にして開発されたもの等が一般的に用いられている。そしてこのような従来の血液指紋採取用シートのうち、PET等の硬いシート基材の表面に、アクリル系樹脂と白色顔料とシリコン系界面活性剤とから成る塗料を塗布して形成した血液指紋採取層を備えたものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4219667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように弾力性や柔軟性の乏しいシート基材に塗膜を設けた血液指紋採取用シートを使用した場合には、この血液指紋採取用シート全体を曲げるなどして変形した際に、塗膜についても弾力性や柔軟性が乏しい場合には、塗膜部分にひび割れが生じやすいものとなる上、取り扱いの際に、爪などによって塗膜にキズがつきやすいものとなっていた。またこのように硬いシート基材を使用した場合には、血液指紋が付着した被転写物に湾曲面や段差や凹凸等がある場合に、このような湾曲面や凹凸等に応じてシート全体を柔軟に変形させることが困難であるため、被転写物に付着した血液指紋の全体を確実に転写することが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は上述の如き課題を解決しようとするものであって、取り扱いの際に塗膜に割れやキズが生じにくく、また、血液指紋を採取する際に、血液指紋全体を、被転写物に凹凸等がある場合でも容易且つ確実に転写することができる血液指紋採取用シートを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第一、二発明は上述の如き課題を解決するものであって、本願の第一発明は、柔軟性を備えたシート基材と、このシート基材の一面を被覆するとともに表面を血液指紋採取面とした血液指紋採取層とから成り、上記血液指紋採取層は少なくとも、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系樹脂と、シリカとを含有するものである。
【0007】
また、上記血液指紋採取層は少なくとも、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系エマルジョンと、シリカと、水とを含有する塗布液をシート基材の一面に塗布することにより形成されたものであっても良い。尚、上記酢酸ビニル系樹脂にはエチレン-酢酸ビニル系樹脂も含まれる。
【0008】
また本願の第二発明は、本願の第一発明の血液指紋採取用シートの製造方法であって、柔軟性を備えたシート基材の一面に、血液指紋採取層を塗布する血液指紋採取用シートの製造方法において、上記血液指紋採取層は、少なくとも水とシリカとを攪拌した混合液に、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系エマルジョンを混合することにより塗布液を生成し、この塗布液を、上記シート基材の一面に塗布することにより得られるものである。
【0009】
更に上記第一、二発明の塗布液は、水の含有量が、塗布液の全重量の60wt%~90wt%としたものであっても良い。
【0010】
尚、水の含有量を、塗布液の全重量の60wt%~90wt%とした理由としては、この範囲内であれば塗布液中におけるシリカの分散が良好となるとともに、塗布液自体の粘性を所望の状態に調整することが出来るためである。
【発明の効果】
【0011】
本願の第一、二発明の血液指紋採取層は上記の如く、少なくとも塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ウレタン系、ラテックス系、アクリル系、アクリル・ウレタン系、シリコーン系、又は、SBR系樹脂と、シリカとを含有するものであるから、高い弾力性及び柔軟性を得ることができる。そのためこの弾力性及び柔軟性の高い血液指紋採取層を、同じく柔軟性を備えたシート基材に設けることにより、この血液指紋採取用シートを曲げるなどして変形した場合でも、血液指紋採取層がシート基材に追従して柔軟に変形するものとなる。そのため、血液指紋採取層にひび割れが生じにくいものとなり、血液指紋の転写作業を円滑に行うことができるとともに、採取の対象となる血液指紋を確実に採取することが可能となる。また、本願の血液指紋採取用シートを持ち運ぶなどする場合には、血液指紋採取面にキズがつくなどの事態が生じにくく、製品の品質を良好に保つことができる。
【0012】
また本願の第一、二発明は上記の如く、弾力性及び柔軟性のある血液指紋採取層及び柔軟性を備えたシート基材を備えたものであるから、血液指紋が付着した被転写物に凹凸や段差がある場合などでも、この凹凸や段差などに追従して血液指紋採取シートを自在に変形させることができるため、当該被転写物に付着した血液指紋全体を迅速且つ明瞭に転写することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1を示す部分拡大断面図。
図2】本発明の実施例1を用いてガラス板の平面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面を示す写真。
図3】実施例1を用いてガラス板の曲面の血液指紋を転写した血液指紋採取面を示す写真。
図4】比較例を用いてガラス板の平面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面を示す写真。
図5】比較例を用いてガラス板の曲面の血液指紋を転写した血液指紋採取面を示す写真。
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1について以下に説明する。まず、図1に示す本実施例のシート基材(1)は柔軟性を備えたポリ塩化ビニル製であって、厚さ0.08mmである。またこのシート基材(1)の物性は、可塑剤部数38部、引っ張り強さ23.5N(縦)及び20.6N(横)、伸び280%(縦)及び290%(横)、引っ張り強さ6.8N(縦)及び5.8N(横)である。尚、本実施例では上記の如く、シート基材(1)としてポリ塩化ビニルを使用しているが、他の異なる実施例ではこれに限らず、軟質ウレタンシート、軟質オレフィンシート、軟質アクリルシート、エステル系エラストマーシート等の柔軟性を備えたフィルムをシート基材として用いることができる。
【0015】
また、上記シート基材(1)に塗布する本実施例の塗布液(配合全体量1000g)の配合は、以下の通りである。
【0016】
エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン固形分 118.75g
ゲル法シリカ 125.00g
分散剤 6.25g
水 750.00g
尚、本実施例の酢酸ビニル系樹脂エマルジョンであるエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンは、住化ケムテックス株式会社製の「住化フレックス7400」(登録商標)(固形分72.8%)を用いている。そして、上記塗布液配合の分散剤の項目には、この水中分散剤中の分散剤のみの重さを表記している。また、この水中分散剤中の水の重量は、上記塗布液配合の水の重量に含まれている。
【0017】
上記配合量から換算して、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンの固形分及び分散剤の総重量:ゲル法シリカの重量=118.75g+6.25g:125.00g=1:1、分散剤の含有量は、ゲル法シリカの含有量に対して5.0wt%であり、水の含有量は、塗布液の全重量の75.00wt%である。
【0018】
次に、上記塗布液の製造方法について説明する。まず、上記水中分散剤を配合容器内に投入した後、この水中分散剤に水を添加し、均一になるよう攪拌する。その後、水と水中分散剤とがよくなじむよう、数時間~半日程度静置する。次に、この水と分散剤との分散液にゲル法シリカを投入して攪拌し、数時間~半日程度静置する。更にこの上記分散液とゲル法シリカとの混合液に、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンを投入して数時間~半日程度静置することにより、本実施例の塗布液を得た。
【0019】
そして上記製造方法により得られた塗布液を、上記シート基材(1)の一面(4)に塗布した。尚、この塗布作業は、バーコーターにて手塗りで行った。その後、このシート基材(1)に塗布した塗布液を室内にて自然乾燥することにより、図1に示す如くシート基材(1)の一面(4)に本発明の血液指紋採取層(2)を設けた本実施例の血液指紋採取用シート(7)を得た。
【0020】
上記材料及び配合により、弾力性及び柔軟性を備えた血液指紋採取層(2)を形成することができるため、このような血液指紋採取層(2)を、同じく弾力性及び柔軟性のあるシート基材(1)に設けた場合に、このシート基材(1)の変形に追随して血液指紋採取層(2)も柔軟に変形するものとなる。そのため、血液指紋採取層(2)にひびが入ったり割れてしまったりする事態が生じにくいものとなる。よって、血液指紋を迅速且つ明瞭に転写することができるとともに、製品の品質を良好に保つことができる。
【0021】
尚、本実施例では上記の如く、調整した塗布液をシート基材(1)の一面(4)にバーコーターにて手塗りで塗布しているが、他の異なる実施例としては、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ロールコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーター、リップコーター、カーテンコーター、スクイズコーター等の手段により塗布液をシート基材(1)に塗布することも可能である。
【0022】
そして上記の如く形成した血液指紋採取用シート(7)を使用して、血液指紋の転写像(5)(6)(34)(35)を採取する試験を行った。この試験は、平らなガラス板の表面と、湾曲したガラス板の曲面にそれぞれ付着した血液指紋を、本実施例及び比較例の血液指紋採取用シート(7)(31)の血液指紋採取面(3)(32)に転写することにより、上記血液指紋の転写像(5)(6)(34)(35)を採取するものである。
【0023】
尚、比較例は従来より使用されている血液指紋採取用シート(31)であって、シート基材をポリエチレンテレフタレートにて形成するとともに、このシート基材の一面に、血液指紋採取面(32)として、アクリル系樹脂と白色顔料とシリコン系界面活性剤とから成る血液指紋採取層(33)を設けたものを使用した。
【0024】
そして、これら本実施例及び比較例の血液指紋採取用シート(7)(31)を用いて血液指紋の転写像(5)(6)(34)(35)を採取した試験の結果について、図2~5に示す。
【0025】
即ち図2は、本実施例の血液指紋採取用シート(7)にて、平らなガラス板の表面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面(3)を写真撮影した図である。また図4は、比較例の血液指紋採取用シート(31)にて、本実施例と同じガラス板の表面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面(32)を写真撮影した図である。
【0026】
また図3は、本実施例の血液指紋採取用シート(7)にて、湾曲したガラスの曲面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面(3)を写真撮影した図である。また図5は、比較例の血液指紋採取用シート(31)にて、本実施例と同じガラスの曲面に付着した血液指紋を転写した血液指紋採取面(32)を写真撮影した図である。
【0027】
そして、まず上記の如く平らなガラス板に採取した血液指紋の、実施例及び比較例の血液指紋採取用シート(7)(31)に転写された転写像(5)(6)(34)(35)について比較検討した。その結果、図2に示す実施例1の血液指紋の転写像(5)は、全体的に色むらも少なく指紋もはっきりと明瞭に転写されていることが明らかに示されている。これに対し、図4に示す従来例の血液指紋の転写像(34)は、指紋全体が転写されているものの鮮明とは言えず、全体的に色むらが激しく、転写した血液の色が薄く、指紋の稜線を確認することが難しい部分が存在する。
【0028】
次に、湾曲したガラスの曲面における血液指紋の、実施例及び比較例の血液指紋採取用シート(7)(31)に転写された転写像(5)(6)(34)(35)についても比較検討した。その結果、図3に示す実施例1の血液指紋の転写像(6)は、全体的にやや色むらが見られるものの、指紋全体の輪郭が明確であり、指紋の輪郭のみならず稜線もはっきり確認できるほど、明瞭に転写されている。これに対し、図5に示す従来例の血液指紋の転写像(35)は、指紋の輪郭が中央方向に向かってV字型に大きく欠けている部分が何箇所か存在する上に、輪郭自体もぼやけていて指紋全体及び指紋の稜線が確認困難な部分が複数個所あり、指紋全体を確実に転写できておらず指紋の特定が困難なものとなる。
【0029】
以上の結果より、本実施例の血液指紋採取シート(7)を使用した場合には、シート基材(1)及び血液指紋採取層(2)ともに弾力性及び柔軟性を備えているため、ガラス板の平らな面に付着した血液指紋を、ムラなく明瞭且つ確実に転写することができる。また、ガラスの曲面に付着した血液指紋についても、シート基材(1)及び血液指紋採取層(2)を曲面に沿って変形させることができるため、本実施例の血液指紋採取面(3)を、血液指紋が付着したガラス板の曲面に全体的に密着させることが出来る。従って、血液指紋の転写像(5)(6)の輪郭がぼやけることなく、また欠けた部分が生じることなく、血液指紋の全体を明瞭且つ確実に転写することが出来る。
【符号の説明】
【0030】
1 シート基材
2 血液指紋採取層
3 血液指紋採取面
4 一面
7 血液指紋採取用シート
図1
図2
図3
図4
図5