(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】谷地形用排水構造および暗渠ブロック
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20230905BHJP
E03F 3/04 20060101ALI20230905BHJP
E03F 5/04 20060101ALI20230905BHJP
【FI】
E02D17/20 103D
E03F3/04 A
E03F5/04 Z
(21)【出願番号】P 2020196141
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-07-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598108364
【氏名又は名称】キッコウ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉村 隆顕
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-70339(JP,U)
【文献】実開昭57-22585(JP,U)
【文献】特開2001-241044(JP,A)
【文献】特開2020-94461(JP,A)
【文献】特開2018-21342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
E03F 3/04
E03F 5/04- 5/06
E02B 11/00-11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
谷地形において谷底寄りに形成される法面と前記谷底に設けられる暗渠とからなる排水構造であって、
前記暗渠は、
コンクリートからなる一対の側壁と、コンクリートからなり一対の前記側壁の鉛直上方端縁同士をつなぐ天井壁と、前記側壁の厚み方向を貫通して設けられ同方向に水を移動させる第1の通水孔と、を備えてなる暗渠ブロックと、
前記暗渠ブロックの前記側壁の外側に配され、個々の固形物からなる固形物群と、を備え、
前記法面は、
コンクリートからなり前記谷底寄りにおいて前記法面を形成する平板と、前記平板の背面側に突設され、前記法面に前記平板を固定する控えと、前記平板の厚み方向を貫通して設けられ同方向に水を移動させる第2の通水孔と、を備えてなる法面ブロックと、
前記平板の前記背面側に配され、個々の固形物からなる固形物群と、を備え、
前記暗渠ブロックは、前記側壁の前記鉛直上方端縁に沿って形成され、前記谷地形の傾斜面に向かって傾いている支保面を備え、
前記法面ブロックの前記平板は、前記暗渠ブロックの前記支保面に掛止されていることを特徴とする谷地形用排水構造。
【請求項2】
前記暗渠ブロックは、前記側壁の前記鉛直上方端縁に沿って形成される突条を備え、
前記支保面は、前記突条に、又は、前記側壁と前記突条に跨って、形成されていることを特徴とする請求項1に記載の谷地形用排水構造。
【請求項3】
前記暗渠ブロックの前記第1の通水孔は、鉛直方向に細長いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の谷地形用排水構造。
【請求項4】
前記暗渠ブロックの前記天井壁は、貫通孔を有していないことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の谷地形用排水構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の谷地形用排水構造に用いられる前記暗渠ブロックであって、
前記暗渠ブロックは、
前記側壁と、前記天井壁と、前記第1の通水孔と、前記側壁に設けられる前記支保面と、を備えていることを特徴とする暗渠ブロック。
【請求項6】
前記暗渠ブロックは、前記側壁の前記鉛直上方端縁に沿って形成される突条を備え、
前記支保面は、前記突条に、又は、前記側壁と前記突条に跨って、形成されていることを特徴とする請求項5に記載の暗渠ブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、谷地形を形成する傾斜面の谷底側を保護しつつ、この谷底から効率良く排水させることができる谷地形用排水構造およびそのための暗渠ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での温暖化に伴い、集中豪雨やゲリラ豪雨等のように想定外の雨量が短時間に生じる事態が頻発している。
このように短期間に生じる雨量が通常時と比較して多い場合は、土中への雨水の浸透が追い付かず、表土上又は表土中を雨水が流動する。この結果、特に谷地形において傾斜面の崩壊や土石流等が生じ易くなる。
このような課題に対処するための先願としては、以下に示すようなものが知られている。
【0003】
特許文献1には「風化傾向の強い土質の斜面における排水設備施工方法及びその方法に使用する水路ブロック」という名称で、風化の強い土質、特に風化軟岩系の土質の斜面において、排水設備を安全に施工する方法及びその方法に使用する水路ブロックに関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である水路ブロックは、同文献中の
図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、斜面(1)の高さ方向の途中に設けられた小段(1c)の、谷側(2b)から山側(2a)にかけて低くなる上面(2)における該小段(1c)の上側斜面(1a)との境界部(2c)に縦列設置された状態において、該小段上面(2)に開口(4)の谷側の縁(4b)が配置される、扁平凹形の横断面を有することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される水路ブロックによれば、斜面の高さ方向の途中に設けられた小段の、谷側から山側にかけて低くなる上面における該小段の上側斜面との境界部に縦列設置された状態において、該小段上面に開口の谷側の縁が配置される、扁平凹形の横断面を有する。このため、特許文献1に開示される発明によれば、小段上面における上側斜面との境界部を深く掘り下げることなく、排水路を敷設できる。このため、上側斜面を不安定な状態にすることなく、排水設備を安全に施工できる。しかも、特許文献1に開示される発明によれば、水路ブロックを水密に接合することは比較的容易であり、また、水路ブロック同士を水密に接合しておけば、その継目位置から地山に水が浸透するおそれもない。更に、特許文献1に開示される発明によれば、敷設された排水路は、横断面が扁平凹形の長い溝となり、この溝が通常の通水部として機能するため、傾斜する小段上面と上側斜面とで形成された鈍角の境界部を通水部とした場合に比べ、その排水・通水性能は格段に優れたものとなる。
【0004】
特許文献2には、「箱型擁壁」という名称で、基礎地盤の流出及び応力度低下を防ぎ、基礎地盤や背面地盤の安定性を維持することができる擁壁構造に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される箱型擁壁は、同文献中の
図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、法面10に沿って階段状に積み上げられた複数の段z1,z2を含み、各段z1,z2は、表面板2と後方の控板3とそれらを繋ぐ繋ぎ板4,4とを含み構成された箱型擁壁用ブロック1が法面10の手前に左右に複数並べられるとともに、表面板2から法面10までの間の空所6,7,8に充填石材19が充填されて構築されている。最下段z1の箱型擁壁用ブロック1の下に、左右に延び、左右長さ1m当たりの貯水容量が0.4~4m
3であり、貯水槽上面部から貯水槽内に水が入り、周囲地盤11の土砂が貯水槽内に実質的に入らない貯水槽14が設けられていることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、ゲリラ豪雨などにより想定外の雨量が短時間に生じても、箱型擁壁の下に一時的に所定量以上の雨水や湧水を貯水することにより、基礎地盤の流出及び応力度低下を防ぎ、基礎地盤や背面地盤の安定性を維持することができる。
【0005】
特許文献3には、「排水溝付法面保護ブロック」という名称で、どのような角度の法面に対しても良好に対応して設置施工できる排水溝付法面保護ブロックに関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明は、同文献中の
図3に記載される符号をそのまま用いて説明すると、法面Aの傾斜下方に配設される排水溝ブロック1と、この法面Aに沿設状態に設置して法面Aを被覆する壁面ブロック2とから成り、この壁面ブロック2の下端部を、排水溝ブロック1の側端部に連結せしめる連結構造3を壁面ブロック2の下端部と排水溝ブロック1の側端部とのいずれか一方若しくは双方に設けると共に、この連結構造3は、排水溝ブロック1に対して壁面ブロック2の連結角度を調整変更可能な構造としたことを特徴とするものである。
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、法面保護用の壁面ブロックと排水溝ブロックとを連結できるように構成して壁面ブロックと排水溝ブロックとを一体的にして法面に設置固定できるようにするとともに、排水溝ブロックに対して壁面ブロックを角度調整変更可能に連結し得る構成としたことで、どのような角度の法面に対しても良好に対応して設置施工できるという効果を奏する。
【0006】
なお、本願の発明者は、本発明に関連する先願として過去に特開2020-94461(特許文献4)や特開2018-21342(特許文献5)を出願し、これらはいずれも特許されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-291487号公報
【文献】特開2019-132095号公報
【文献】特開2001-241044号公報
【文献】特開2020-94461号公報
【文献】特開2018-21342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような特許文献1に開示される発明では、当該発明にかかる水路ブロックから地山側に雨水が浸透する、あるいはその逆方向に雨水が流入することがない。
このため、集中豪雨やゲリラ豪雨が発生した際に、地山の表層上又は表層中を流動する雨水により特許文献1に開示される水路ブロックと土の境界部分に洗堀が起こり、当該ブロックからなる排水路が崩壊してしまう懸念がある。
【0009】
特許文献2に開示される発明における箱型擁壁用ブロックは、その背面側(控板側)から表面側(表面板側)に向かって排水する機能を備えていない。
このため、集中豪雨やゲリラ豪雨が発生した場合で、かつ貯水槽に集められる雨水が貯水槽の容量を超えた場合、行き場を失った雨水が箱型擁壁用ブロック内に滞留し、さらにこの状態が続くことで箱型擁壁用ブロックを表面側(表面板側)に向かって崩壊させてしまう懸念がある。
【0010】
特許文献3に開示される発明の場合は、同文献中の明細書段落0037に記載されるように、壁面ブロックの外形を方形枠体とし、枠内開口部から地面を裸出させる旨の記載がある。このため、特許文献3に開示される発明では、壁面ブロックの背面側(傾斜面側)から排水溝ブロック側(表面側)に向かって水が流れる場合もその発明の概念に含まれると考えられる。
しかしながら、特許文献3に開示される発明において壁面ブロックが方形枠体からなる場合、枠内開口部から裸出する地面を保護するものとして草木が想定されている。このため、この草木の生育が不十分である場合や、草木が枯死する期間(例えば冬季)に集中豪雨やゲリラ豪雨が起きた際に、壁面ブロックを構成する方形枠体の枠内開口部から土が流出して排水溝ブロック内に溜まり、排水溝ブロック内の水の流れを妨げる懸念があった。
【0011】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、谷地形の谷底における排水性を良好に維持しつつ、集中豪雨やゲリラ豪雨が起きた際に、谷底寄りの傾斜面の崩壊を防ぐことができ、しかもこの傾斜面を排水構造として使用可能にする谷地形用排水構造およびそのための暗渠ブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため第1の発明である谷地形用排水構造は、谷地形において谷底寄りに形成される法面と谷底に設けられる暗渠とからなる排水構造であって、暗渠は、コンクリートからなる一対の側壁と、コンクリートからなり一対の側壁の鉛直上方端縁同士をつなぐ天井壁と、上記側壁の厚み方向を貫通して設けられ同方向に水を移動させる第1の通水孔と、を備えてなる暗渠ブロックと、この暗渠ブロックの側壁の外側に配され、個々の固形物からなる固形物群と、を備え、法面は、コンクリートからなり谷底寄りにおいて法面を形成する平板と、平板の背面側に突設され、法面に平板を固定する控えと、平板の厚み方向を貫通して設けられ同方向に水を移動させる第2の通水孔と、を備えてなる法面ブロックと、この法面ブロックにおける平板の背面側に配され、個々の固形物からなる固形物群と、を備え、暗渠ブロックは、その側壁の鉛直上方端縁に沿って形成され、谷地形の傾斜面に向かって傾いている支保面を備え、法面ブロックの平板は、暗渠ブロックの支保面に掛止されていることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成の第1の発明において、暗渠は谷底の地中に排水路を形成するという作用を有する。また、この暗渠を構成する暗渠ブロックの一対の側壁は、谷地形を形成する土と、谷底の地中に新たに形成される排水路とをコンクリートにより分画するという作用を有する。また、暗渠ブロックにおける天井壁は、谷底の地中に暗渠ブロックが埋設された際に、その設置対象である谷地形の谷底になる。さらに、暗渠ブロックの側壁に形成される第1の通水孔は、側壁の厚み方向に水を流動させるという作用を有する。つまり、この第1の通水孔から暗渠ブロックの中空側に水が移動する場合、この第1の通水孔は谷底の土中水を暗渠ブロック内に集める集水孔として作用する。また、この第1の通水孔から暗渠ブロックの外側に水が移動する場合、この第1の通水孔は暗渠ブロックの中空部内を流れる水をその周囲の土中に浸透排水させるための排水孔として作用する。さらに、上記暗渠において谷底の地中に暗渠ブロックが埋設された際に、側壁の外側に配され、個々の固形物からなる固形物群は、互に係合し合うことで谷底の土中に暗渠ブロックを固定するためのアンカーとして作用する。さらに、固形物群は、谷地形を形成する土が暗渠ブロックの中空側に流入するのを妨げるフィルターとしても作用する。
【0014】
さらに、第1の発明において、法面は谷地形の谷底寄りの傾斜面の表面を保護しつつ、同傾斜面の地中側から表面側に土中水を排水させるとともに、谷地形の谷底を流れる水流を法面ブロックの表面側から背面側(地中側)に浸透排水させるという作用を有する。また、このような傾斜面を構成する法面ブロックの平板は、谷地形の谷底寄りの傾斜面の表面を被覆して保護するという作用を有する。また、上記法面ブロックにおける控えは、平板を鉛直方向に対して傾斜させた状態で自立させるという作用を有する。加えて、控えは谷底寄りの傾斜面を構成する土中に埋設されて、平板が傾斜面から離間するのを抑制するアンカーとして作用する。また、平板の厚み方向を貫通するように形成される第2の通水孔は、平板の厚み方向に水を流動させるという作用を有する。つまり、この第2の通水孔から平板の正面側に水が移動する場合、第2の通水孔は谷地形を形成する傾斜面の土中水を谷底側に排水する排水孔として作用する。また、この第2の通水孔から平板の背面側に水が移動する場合、第2の通水孔は谷地形の谷底を流れる水を、同谷地形をなす傾斜面の土中に浸透排水させるための排水孔として作用する。さらに、上記法面において法面ブロックの平板と谷地形をなす土の間に介設され、個々の固形物からなる固形物群は、法面ブロックにおける控えと協働して、谷地形の谷底側の傾斜面に平板を固定しておくためのアンカーとして作用する。また、固形物群は、谷地形の谷底寄りの傾斜面を形成する土が、平板の厚み方向を透過して谷底に流出するのを防ぐフィルターとしても作用する。
【0015】
さらに、第1の発明において暗渠ブロックに形成される支保面は、法面ブロックの平板と接触することで、法面ブロックの平板を谷地形の傾斜面側に向かって傾斜させた状態で保持するという作用を有する。
また、第1の発明では、暗渠ブロックの鉛直上方側が一対の法面ブロックにより挟持された状態となる。この場合、谷地形の一方の傾斜面においてこの傾斜面を崩壊させるような土圧が生じた際に、この土圧を暗渠ブロック及び他方の法面ブロックを介して他方の傾斜面で間接的に支えるという作用を有する。これにより、谷地形における谷底側の傾斜面が崩壊するのを好適に抑制するという作用を有する。
【0016】
第2の発明である谷地形用排水構造は、上述の第1の発明であって、暗渠ブロックは、側壁の鉛直上方端縁に沿って形成される突条を備え、支保面は、この突条に、又は、側壁と突条に跨って、形成されていることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。加えて、暗渠ブロックが一対の突条を備え、かつこの突条に支保面が形成される場合又は側壁と突条に跨って支保面が形成される場合は、支保面が暗渠ブロックの側壁にのみ形成されている場合に比べて、暗渠ブロックにおいて第1の通水孔が形成される側壁の面積を相対的に大きくなる。この場合、第2の発明において谷底側の土と暗渠ブロックの接触面積が増大し、暗渠ブロックへの集水効率又は暗渠ブロックからその周囲の土中への排水効率が向上する。
【0017】
第3の発明である谷地形用排水構造は、上述の第1又は第2の発明であって、第1の通水孔は、鉛直方向に細長いことを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。加えて、第3の発明によれば、第1の通水孔を水の流れと略平行な細長形状にする場合に比べて、谷底側の土から暗渠ブロックへの集水効率を向上させるという作用を有する。
【0018】
第4の発明である谷地形用排水構造は、上述の第1乃至第3のいずれかの発明であって、暗渠ブロックの天井壁は、貫通孔を有していないことを特徴とするものである。
上記構成の第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じ作用を有する。加えて、第4の発明は、暗渠ブロックの天井壁に貫通孔を有していないことで、天井壁が貫通孔を有している場合に比べて、天井壁の強度を高めるという作用を有する。つまり、暗渠ブロックの天井壁に側壁側から圧縮するような力が作用した際の暗渠ブロックの強度が高くなる。
この結果、暗渠ブロックの支保面に掛止される法面ブロック及びその背面側の土(法面ブロックの埋土)を長期間にわたり安定した状態で支え続けるという作用を有する。
【0019】
第5の発明である暗渠ブロックは、第1乃至第4の発明のいずれかの谷地形用排水構造に用いられる暗渠ブロックであって、この暗渠ブロックは、上述の第1の発明における暗渠ブロックと同じ側壁と、同暗渠ブロックと同じ天井壁と、同暗渠ブロックに形成される第1の通水孔と同じ通水孔と、同暗渠ブロックと同じ支保面と、を備えていることを特徴とするものである。
上記構成の第5の発明は、上述の第1乃至第4の発明に用いられる暗渠ブロックを物の発明として特定したものであり、その作用は第1の発明における暗渠ブロックによる作用と同じである。
【0020】
第6の発明である暗渠ブロックは、第5の発明であって、この暗渠ブロックは、側壁の鉛直上方端縁に沿って形成される突条を備え、支保面は、突条に、又は、側壁と突条に跨って、形成されていることを特徴とするものである。
上記構成の第6の発明は、上述の第2の発明に用いられる暗渠ブロックを物の発明として特定したものであり、その作用は第2の発明における暗渠ブロックによる作用と同じである。
【発明の効果】
【0021】
上述のような第1の発明によれば、通常時は谷地形の谷底側に流れ込む雨水又は土中水を、暗渠に集水して排水することができる。この場合、雨水等が直接谷底を流れないので、流水による谷底の浸食を防止することができる。これにより谷地形をなす傾斜面において崩壊や地滑りが起きるのを抑制することができる。
また、第1の発明では、その暗渠を構成する暗渠ブロックの天井壁上が実質的に谷底となる。そして、上記の通り第1の発明では、谷底側に集まる雨水等は通常暗渠内(暗渠ブロックの中空部内)を流動して排水される。他方、第1の発明が設けられる谷底地形の近辺で短時間に想定を上回る降雨があった場合は、暗渠ブロックの天井壁上が第2の排水路となって雨水が排水される。この場合、第2の排水路の水底はコンクリート製の天井壁であり、かつ上記第2の排水路を構成する川岸も同じくコンクリート製の法面ブロックを備えてなる法面である。このため、この第2の排水路を雨水が流れる際の谷底及びこの谷底に隣接する傾斜面(法面)の浸食や崩壊を好適に防ぐことができる。
さらに、第1の発明では、暗渠ブロックの鉛直上方側が一対の法面ブロックで挟持された状態で谷地形の谷底側に設置される。この場合、谷地形をなす一方の法面をその背面側から押し崩そうとする土圧が生じた際に、この土圧を他方の法面側の傾斜面で受け止めて支えることができる。つまり、第1の発明によれば、暗渠ブロックを介して谷底側の法面が互いに支え合う構造が実現される。この結果、谷地形の谷底側の排水を良好に維持しつつ、長期間にわたってその地形を安定した状態で維持することができる。
【0022】
第2の発明によれば、上述のような第1の発明による効果と同じ効果を有する。加えて、第2の発明では、第1の発明における暗渠ブロックを用いる場合に比べて、谷地形の谷底を構成する土からの集水効率が高くなる。この結果、第2の発明によれば、第1の発明と比較してより排水性が良好な谷地形用排水構造を提供することができる。
【0023】
第3の発明によれば、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第3の発明によれば、暗渠ブロックの側壁において第1の通水孔を水の流れと略平行な細長形状にする場合に比べて、谷底側の土から暗渠ブロックへの集水効率が高くなる。
この結果、第3の発明によれば、谷底側の土中からの排水性がより優れた谷地形用排水構造を提供することができる。
【0024】
第4の発明によれば、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第4の発明によれば、暗渠ブロックの天井壁が貫通孔を有する場合に比べて、その強度が高くなる。
このため、谷地形に第4の発明に係る谷地形用排水構造を設けることで谷地形の谷底側の保護効果が高まる。
【0025】
第5の発明は、上述の第1乃至第4のそれぞれの谷地形用排水構造に用いられる暗渠ブロックを物の発明として特定したものである。より詳細には、第5の発明は、上述の第1の発明を構成する暗渠ブロックと同じである。
よって、第5の発明による効果は、第1の発明における暗渠ブロックの効果と同じである。
【0026】
第6の発明は、上述の第5の発明の細部構造を特定している。より詳細には、第6の発明は、上述の第2の発明を構成する暗渠ブロックと同じである。
よって、第6の発明による効果は、第2の発明における暗渠ブロックによる効果と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造をその流路を横断する方向から見た断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロックの斜視図である。
【
図4】(a)本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における法面ブロックを正面側からみた斜視図であり、(b)同法面ブロックを背面側からみた斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造の使用状態を示すイメージ図である。
【
図6】(a)本発明に係る暗渠ブロックの第1の変形例を示す斜視図であり、(b)本発明に係る暗渠ブロックの第2の変形例を示す斜視図である。
【
図7】変形例2に係る暗渠ブロックを用いてなる本発明に係る谷地形用排水構造の要部の斜視図である。
【
図8】本発明の他の変形例に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。
【
図9】本発明の別の変形例に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造およびそれに用いられる暗渠ブロックについて
図1乃至
図9を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
[1-1;本発明の基本構成について]
はじめに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aについて
図1乃至
図4を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造をその流路を横断する方向から見た断面図である。また、
図2は本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。さらに、
図3は本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロックの斜視図である。加えて、
図4(a)は本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造における法面ブロックを正面側からみた斜視図であり、(b)は同法面ブロックを背面側からみた斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aは、主に谷地形30において谷底の地中に埋設される暗渠32と、この暗渠32に連続して形成される一対の法面33,33により構成される排水構造である。
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける暗渠32は主に、例えば
図1に示すように、暗渠ブロック2と、この暗渠ブロック2の外側に配され、個々の固形物12からなる固形物12群とにより構成されている。
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける暗渠ブロック2は、例えば
図1乃至
図3に示すように、鉄筋コンクリートからなる一対の側壁3,3と、同じく鉄筋コンクリートからなり一対の側壁3,3におけるそれぞれの鉛直上方端縁同士をつなぐ天井壁4と、それぞれの側壁3の厚み方向を貫通して設けられ、側壁3の厚み方向に水を移動させる第1の通水孔5と、側壁3,3の鉛直上方端縁に沿って形成され、法面33を構成する法面ブロック8を掛止するための支保面7とを備えてなるものである。
また、上述の暗渠ブロック2における支保面7は、
図1乃至
図3に示すように、側壁3,3の鉛直上方端縁に沿って形成される平坦面である。なお、暗渠ブロック2に形成される支保面7は、暗渠ブロック2を谷底の土中に埋設した際に、その谷地形30の傾斜面30aに向かって傾斜するよう形成されている(
図1を参照)。
【0030】
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける法面33は、例えば
図1に示すように、上述の暗渠ブロック2に形成される支保面7,7のそれぞれに掛止される法面ブロック8と、この法面ブロック8の背面側に配され、個々の固形物12からなる固形物12群とにより構成されている。
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける法面ブロック8は、例えば
図1,2,4に示すように、谷地形30の谷底30bに近接する位置において法面33を形成する平板9と、この平板9の背面9b側に突設され、法面33に平板9を固定する控え10と、平板9の厚み方向を貫通して設けられ、同方向に水を移動させる第2の通水孔11と、を備えている。
なお、法面ブロック8の控え10は、法面33に平板9を固定しておくためのアンカーとして作用する。さらに、この控え10は、法面33を形成する際に平板9を自立可能に支持するという作用も有する。
【0031】
上述のような本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、上述のように暗渠ブロック2の側壁3,3のそれぞれに形成される支保面7が、暗渠ブロック2が設置される谷地形30の傾斜面30aに向かって傾斜しているため、この支保面7に掛止されて保持される法面ブロック8の平板9も谷地形30の傾斜面30aに向かって傾斜した状態になる。
つまり、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、
図1に示すように、その流路を遮る方向から谷地形用排水構造1Aを見た際に、暗渠ブロック2の鉛直上方寄りにおいて法面ブロック8の平板9が逆ハ字状に配された状態になる。
【0032】
[1-2;本発明の基本構成の設置方法について]
本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aは、以下に示すような手順で山地等の谷地形30に設置することができる。
より具体的には、山地や人工的に形成された谷地形30における図示しない谷筋を掘削して
図1に示すような一対の内側面31a,31aと底面31bとを備える掘削溝31を形成する(ステップS1)。
この後、必要に応じて掘削溝31の底面31bに、例えば砕石や、掘削溝31の形成時に土中から出た自然石等からなる固形物12(固形物12群)を敷設してから、この固形物12群上に、天井壁4を鉛直上方に向けた状態で暗渠ブロック2を設置する(ステップS2)。つまり、暗渠ブロック2における側壁3の上方端縁3aを鉛直上方側に配するとともに、下方端縁3bを掘削溝31の底面31b上に配した状態で設置する。
また、複数の暗渠ブロック2を用いる場合は、掘削溝31の底面31b上に、その中空部を互いに連通させながら複数の暗渠ブロック2を直列状に配すればよい。
なお、掘削溝31の底面31bが特に硬い地盤や地層からなり、流水により容易に浸食されない場合は、底面31b上に固形物12群を敷設することなく直に暗渠ブロック2を載置してもよい。
【0033】
そして、上記ステップS2の後、掘削溝31の底面31b上に配設された暗渠ブロック2のそれぞれの側壁3,3の外側に、例えば砕石や、掘削溝31の形成時に土中から出た自然石等からなる固形物12(固形物12群)を配置する(ステップS3)。
この時、側壁3に形成される第1の通水孔5に隣接して配される固形物12は、この第1の通水孔5を通過しない大きさである必要がある。
さらに、上記ステップS3の後、掘削溝31を形成する際に生じた土の一部を暗渠ブロック2の側壁3の外側に配設される固形物12群と、掘削溝31の内側面31aとの間に埋土13aとして戻すことで、掘削溝31内への暗渠ブロック2の設置作業が完了する(ステップS4)。
このとき、掘削溝31内に埋設される暗渠ブロック2の鉛直上方側に設けられる支保面7は、埋土13a及び固形物12群中に埋設されることなく裸出させておく必要がある。
加えて、掘削溝31内に埋設される暗渠ブロック2の外側における埋土13aの上面は、以降の工程において法面ブロック8を設置可能にすべく平坦状にしておくとよい。
なお、上記ステップS1~ステップS4までが本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける暗渠32を形成する工程である。
【0034】
さらに、上記ステップS4に続く工程が、暗渠ブロック2上に法面ブロック8を用いて法面33を形成する工程である。
より具体的には、先のステップS4の後、暗渠ブロック2と掘削溝31の内側面31aの間に埋め戻された埋土13a上に、法面ブロック8を載置する。この時、埋土13a及び固形物12群から裸出している暗渠ブロック2の支保面7に、法面ブロック8の平板9を掛止することで、より詳細には法面ブロック8における平板9の正面9aを支保面7に掛止することで、暗渠ブロック2と法面ブロック8を連係させることができる(ステップS5)。
この場合、暗渠ブロック2の支保面7の平面方向と、この支保面7に掛止される法面ブロック8の平板9(正面9a)の平面方向は平行(略平行の概念を含む)になる。
つまり、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aを、その流路を遮る方向から見た場合に、暗渠ブロック2の鉛直上方側に、一対の法面ブロック8,8を構成する平板9が、逆ハ字状をなすように配される(
図1を参照)。
【0035】
また、上記ステップS5の後、法面ブロック8を構成する平板9の背面9b側に、例えば砕石や、掘削溝31の形成時に土中から出た自然石等からなる固形物12(固形物12群)を配置する(ステップS6)。
このとき、平板9の背面9bにおいて第2の通水孔11に隣接して配される固形物12は、この第2の通水孔11を通過しない大きさである必要がある。
さらに、上記ステップS6の後、掘削溝31を形成する際に生じた土の一部を法面ブロック8の背面9b側に配される固形物12群と、掘削溝31の内側面31aの間に埋土13bとして戻すことで、掘削溝31内への法面ブロック8の設置作業が完了する(ステップS7)。
【0036】
上述の通りステップS1~ステップS7を実施することで、山地や人工的に形成された谷地形30に本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aを設置することができる。
なお、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aを構成する暗渠ブロック2及び法面ブロック8の最少単位は、1つの暗渠ブロック2と2つの法面ブロック8からなる組み合わせであるが、谷地形用排水構造1Aの設置対象に応じて暗渠ブロック2及び法面ブロック8の数を適宜変更してよい。
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、暗渠ブロック2の流路方向における長さを、同方向における法面ブロック8の長さと略同一に設定している場合を例に挙げて説明しているが、これらは必ずしも一致していなくともよい。
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、暗渠ブロック2の流路方向における端部位置と、同方向における法面ブロック8の端部位置を略一致させながらこれらを配設する場合を例に挙げて説明しているが、暗渠ブロック2の端部位置と法面ブロック8の端部位置は一致していなくともよい。つまり、暗渠ブロック2の端部同士からなる隙間をふさぐように法面ブロック8の平板9を配設してもよい。
【0037】
[1-3;本発明の基本構成による作用・効果について]
上述のような本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは通常、暗渠ブロック2の側壁3,3の外側に配される埋土13a中の水が、第1の通水孔5を通じて暗渠ブロック2の中空部内に集水され、この後暗渠ブロック2の中空部内を通じて谷地形30の外に排出される。
このとき、暗渠ブロック2の側壁3と埋土13aの間に固形物12群が介設されていることで、埋土13aの一部が土中水とともに暗渠ブロック2の中空部内に流入するのを防ぐことができる。つまり、暗渠ブロック2における側壁3の外側に配される固形物12群は、埋土13a中に暗渠ブロック2を係止しておくためのアンカーとしての作用に加えて、暗渠ブロック2内への埋土13aの流入を防ぐためのフィルターとしても作用する。
【0038】
このように、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、
図1に示すように暗渠ブロック2の天井壁4の天面4aが、その設置対象である谷地形30の谷底30bになる。その一方で、この谷底30bに集まる水は、暗渠ブロック2の中空部内に集水されて谷地形30の外に排出される。
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、暗渠ブロック2からなる法面33の底は、例えば
図1に示すように固形物12群等からなる洗堀防止材が敷詰められている、あるいは谷地形30に自然に存在する硬い地層や岩盤が裸出した状態になる。このため、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、谷地形30の谷底30bが水流によって浸食され難いので、その周辺が地滑りを起こしたり、崩壊したりするリスクは極めて小さい。
【0039】
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、その設置対象である谷地形30の周辺において集中豪雨や、ゲリラ豪雨等のように短時間に想定を超える降雨があった場合に、傾斜面30a中に浸透し切らなかった雨水が、掘削溝31内に埋め戻された埋土13bから法面ブロック8に形成される第2の通水孔11を通じて暗渠ブロック2の天井壁4上に排出される。
そして、暗渠ブロック2の天井壁4上に排出された土中水は、一対の法面ブロック8,8及び暗渠ブロック2の天井壁4からなる水路(第2の水路)を通じて、谷地形30の外に排出される。
この場合、法面ブロック8と埋土13bの間に固形物12群が介設されていることで、埋土13bの一部が土中水とともに法面ブロック8の正面9a側に流出するのを防ぐことができる。つまり、法面ブロック8の平板9の背面9b側に配される固形物12群は、埋土13b中に法面ブロック8を係止しておくためのアンカーとしての作用に加えて、法面ブロック8の正面9a側への埋土13bの流出を防止するためのフィルターとしても作用する。
【0040】
このように、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは通常時は、暗渠ブロック2の天井壁4上に水は流れないが、谷地形30の周辺に予想を超える降雨があった場合は、暗渠ブロック2の天井壁4上が第2の水路となって谷地形30から迅速に排水することができる。
この場合、暗渠ブロック2の天井壁4は鉄筋コンクリートからなるため、上述のように第2の水路として用いる場合でも、天井壁4が浸食されるおそれがほとんどない。
さらに、暗渠ブロック2の天井壁4上を水が流れる場合、対をなす法面ブロック8の正面9a側が一時的に川岸となるが、この川岸も鉄筋コンクリートからなる平板9で保護されているため水流で浸食されるおそれはほとんどない。
よって、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aによれば、通常時も非常時も排水性を良好に維持しながら谷地形30の谷底30b側を強固に保護することができる。
この結果、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aによれば、谷地形30の排水性を良好に維持しつつ、その地形を長期間にわたり安定した状態で保全することができる。
【0041】
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、その法面33を形成する法面ブロック8が控え10を備えており、かつこの控え10が埋土13b中に埋設されていることで(
図1を参照)、法面ブロック8の背面9b側から正面9a側に向かって平板9を押し倒そうとする土圧が作用した際に、法面ブロック8が埋土13bともども暗渠ブロック2の天井壁4側に崩れるのを抑制することができる。
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、その流路を遮る方向から見た際に、一対の法面33が暗渠ブロック2を介して互いに支え合うように形成されている。よって、この点からも法面33の崩壊を好適に抑制することができる。
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける暗渠ブロック2は、対をなす法面ブロック8,8により挟持されているため、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aの設置後に、周囲の土圧により暗渠ブロック2の位置が意図せずずれるという不具合も生じ難い。
よって、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aによれば、上記点からも安定性に優れた排水構造を提供することができる。
【0042】
図5は本発明の実施形態に係る谷地形用排水構造の使用状態を示すイメージ図である。なお、
図1乃至
図4に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aを構成する暗渠ブロック2及び法面ブロック8の大きさを特定する必要は特にないが、例えば
図5に示すように暗渠ブロック2及び法面ブロック8の大きさをメートル単位の大きさに設定してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、暗渠32を構成する暗渠ブロック2の天井壁4上(天面4a)は、通常時は水が流れていないので、谷地形用排水構造1Aの周辺の山地等の監視や管理、あるいはメンテナンスのための人の往来が可能な通路として使用できる。
よって、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aによれば、利便性に優れた排水構造を提供することができる。
【0043】
[2;本発明の細部構造について]
[2-1;暗渠ブロックに形成される突条について]
先の
図1乃至
図3及び
図5に示すように、本実施形態に係る暗渠ブロック2は、その側壁3の上方端縁3a(鉛直上方端縁)に沿って形成される突条6を備えるとともに、この突条6の外側面に支保面7を備えていてもよい(任意選択構成要素)。あるいは、本実施形態に係る暗渠ブロック2は特に図示しないが、上記突条6の外側面と側壁3の外側面に跨って支保面7が形成されていてもよい(任意選択構成要素)。
いずれの場合も、本実施形態に係る暗渠ブロック2が突条6を有することなく、かつ側壁3の外側面の上方端縁3aに沿って支保面7を備えている場合に比べて、側壁3の外側面の面積を相対的に大きくすることができる。
この場合、暗渠ブロック2が突条6を有しない場合に比べて、第1の通水孔5の形成領域が相対的に広くなる。この結果、暗渠ブロック2への集水効率を向上させるとともに、暗渠ブロック2から埋土13aへの排水効率も向上させることができる。
【0044】
さらに、暗渠ブロック2が突条6を備える場合は、暗渠ブロック2の鉛直上方側のより高い位置に法面ブロック8の平板9を掛止することができる(
図1,2及び
図5を参照)。
この場合、法面ブロック8の平板9により保護することができる鉛直上方側のエリアを広げることができる。この場合は、暗渠ブロック2や法面ブロック8の大きさを極力小さくしながら、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにより谷地形30の谷底30b側の広い範囲を保護することができる。
【0045】
[2-2;暗渠ブロックにおける第1の通水孔の形状について]
さらに、本実施形態に係る暗渠ブロック2において側壁3に形成される第1の通水孔5は、先の
図1乃至
図3及び
図5に示すように、掘削溝31の底面31b上に設置した際に、鉛直方向に細長い形状をなすものを複数本並設してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、先の
図1乃至
図3及び
図5に示すように、暗渠ブロック2の側壁3の外観は鉛直方向に複数の棒が並設された柵状をなす。
そして、本実施形態に係る暗渠ブロック2において第1の通水孔5が上記のように形成される場合は、第1の通水孔5が谷地形用排水構造1Aの流路と平行にかつ細長形状をなすように複数本並設される場合に比べて、埋土13aから暗渠ブロック2内への集水効率を向上させるとともに、暗渠ブロック2から埋土13aへの排水効率も向上させることができる。
よって、上述のような暗渠ブロック2を備える谷地形用排水構造1Aによれば、埋土13aから暗渠ブロック2への集水効率が高く、かつ暗渠ブロック2から埋土13aへの排水効率が高い排水構造を提供することができる。
【0046】
[2-3;暗渠ブロックにおける天井壁について]
先の
図1乃至
図3及び
図5に示すように、本実施形態に係る暗渠ブロック2の天井壁4は、貫通孔を有しない厚板状の壁体であってもよい(任意選択構成要素)。
この場合、暗渠ブロック2の天井壁4が貫通孔を有する場合に比べて、天井壁4の強度及び剛性を高くすることができる。
また、先にも述べた通り、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aでは、暗渠ブロック2の天井壁4を介して、対をなす法面ブロック8同士が互いに支え合っている。
よって、暗渠ブロック2の天井壁4の強度及び剛性が高いということは、相対して配される法面ブロック8同士が互いに支え合う力も大きくなることを意味している。
したがって、貫通孔を有しない厚板状の壁体からなる天井壁4を備える暗渠ブロック2を用いる場合は、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aにおける暗渠ブロック2と法面ブロック8からなる連係構造の強度を向上させることができる。
よって、上述のような暗渠ブロック2を備える谷地形用排水構造1Aによれば、谷地形30の谷底30bの保護効果及び補強効果が一層優れた排水構造を提供することができる。
【0047】
[2-4;暗渠ブロックの変形例について]
続いて、
図6を参照しながら本実施形態に係る谷地形用排水構造1Aに用いられる暗渠ブロック2の変形例について説明する。
図6(a)は本発明に係る暗渠ブロックの第1の変形例を示す斜視図であり、(b)は本発明に係る暗渠ブロックの第2の変形例を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
変形例1に係る暗渠ブロック2’は、
図6(a)に示すように側壁3の上方端縁3aに形成される突条6の所望箇所に凹部6aを備えていてもよい(任意選択構成要素)。
図6(a)に示すような変形例1に係る暗渠ブロック2’は、先の
図1,2に示すような谷地形用排水構造1Aにおいて暗渠32を形成する暗渠ブロック2の代替品として用いることができるだけでなく、暗渠ブロック2’の上下方向を反転させることで浸透排水用の明渠ブロックとしても用いるもとができる。
変形例1に係る暗渠ブロック2’は、突条6が凹部6aを備えていることで、突条6の稜線部分が鋸歯状をなす。このため、暗渠ブロック2’を浸透排水用の明渠ブロックとして用いる際に、設置面(例えば土中に形成された掘削面)に鋸歯状をなす突条6の稜線部分を押し付けることで、暗渠ブロック2’の設置時の安定性を向上させることができる。つまり、暗渠ブロック2’の使用時に、意図しない位置ずれが生じるのを防ぐことができる。
よって、変形例1に係る暗渠ブロック2’によればより汎用性及び機能性が高い暗渠ブロックを提供することができる。
【0048】
さらに、変形例2に係る暗渠ブロック2”は、
図6(b)に示すように、側壁3の上方端縁3aに突条6を有さず、かつ側壁3の外側面上でかつ上方端縁3aに沿って形成される支保面7を備えていてもよい(任意選択構成要素)。
図7は変形例2に係る暗渠ブロックを用いてなる本発明に係る谷地形用排水構造の要部の斜視図である。なお、
図1乃至
図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図7に示すように、
図6(b)に示す変形例2に係る暗渠ブロック2”を用いる場合も、その支保面7に法面ブロック8の平板9を掛止させることで変形例に係る谷地形用排水構造1Bを形成することができる。
よって、突条6を有しない暗渠ブロック2”も、先の
図1乃至
図3及び
図5に示す暗渠ブロック2と同じ作用・効果を奏する。
【0049】
[2-5;本発明に係る谷地形用排水構造の変形例について]
先の
図1,2及び
図5では、暗渠ブロック2上に法面ブロック8を1段のみ配する場合を例に挙げて説明しているが、暗渠ブロック2上に配される法面ブロック8は2段以上の複数段でもよい(任意選択構成要素)。この点について
図8,9を参照しながら詳細に説明する。
図8は本発明の他の変形例に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の
図4(a),(b)に示すように、本発明に係る法面ブロック8は、その平板9の上方端縁9cの長手方向に沿って切欠き9fを設けておいてもよい(任意選択構成要素)。
この場合、
図8に示すように、暗渠ブロック2の支保面7に掛止された法面ブロック8の上方端縁9cに、さらに新たな法面ブロック8を掛止してこれらを連係させることができる。
【0050】
より具体的には、
図8に示すように、暗渠ブロック2の支保面7に掛止される法面ブロック8の上方端縁9cに形成される切欠き9fに、他の法面ブロック8の下方端縁9dを掛止することで、鉛直下方側に配される法面ブロック8と鉛直上方側に配される法面ブロック8を連係させることができる。なお、同様の手順により暗渠ブロック2上に2段以上の法面ブロック8を鉛直方向に連係させながら配することができる。
このような法面ブロック8を鉛直上方側に複数段連係させてなる本発明に係る谷地形用排水構造1Cによれば、谷地形30の谷底30b寄りの広範囲に法面33を形成することができる。
【0051】
この場合、谷地形30をなす傾斜面30aが風化傾向の強い土質である場合でも、広い範囲に法面33を形成して保護することができる。この結果、谷地形30の谷底30b側の傾斜面の広範囲をしっかりと保護することができる。
また、
図8に示すような本発明の変形例に係る谷地形用排水構造1Cによれば、谷地形30の谷底30b寄りの広範囲に法面33を形成する必要がある場合でも、個々の法面ブロック8の平板9の平面サイズを大型化する必要がない。
このため、本発明の変形例に係る谷地形用排水構造1Cの施工性を大幅に向上させることができる。
また、
図8に示すような法面ブロック8を用いる場合は、暗渠ブロック2の鉛直上方側において複数段の法面ブロック8を連係させる場合に、平板9が切欠き9f備えていることで鉛直方向における法面ブロック8の位置決めを正確かつ容易に行うことができる。
【0052】
なお、
図8では、暗渠ブロック2上において複数段の法面ブロック8を連係させるべく法面ブロック8の上方端縁9cに切欠き9fを設ける場合を例に挙げて説明しているが、法面ブロック8の平板9は必ずしも切欠き9fを備えていなくともよい。この点について
図9を参照にしながら詳細に説明する。
図9は本発明の別の変形例に係る谷地形用排水構造における暗渠ブロック及び法面ブロックの連関を示す斜視図である。なお、
図1乃至
図8に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
平板9の上方端縁9cに切欠き9fを備えていない法面ブロック8’を用いる場合は、
図9に示すように、その平板9の上方端縁9cの背面9b側に、他の法面ブロック8’の平板9の下方端縁9dの背面9b側を接触させてこれらを連係させればよい。なお、同様の手順により暗渠ブロック2上に2段以上の法面ブロック8’を配することができる。
そして、
図9に示すような法面ブロック8’を鉛直上方側に複数段連係させてなる本実施形態に係る谷地形用排水構造1Dによれば、先の
図8に示す谷地形用排水構造1Cと同様の作用・効果を発揮させることができる。
また、特に
図9に示すような法面ブロック8’を用いる場合は、その成形時に平板9に切欠き9fを形成する必要がないので、法面ブロック8’を形成する平板9の強度低下を防ぐことができる。加えて、法面ブロック8’を成型するための金型をシンプルにできるというメリットも有する。
よって、本実施形態に係る谷地形用排水構造1Dによれば、特にその法面の強度を高めつつ、法面ブロック8’の製造コストを廉価にできる。この結果、強度と安定性に優れた谷地形用排水構造1Dの施工費用を廉価にできる。
【0053】
[2-6;本発明に係る谷地形用排水構造の細部構造について]
なお、本実施形態に係る谷地形用排水構造(例えば
図1に示す谷地形用排水構造1A)では、暗渠ブロック2の側壁3の外側に配される固形物12群と掘削溝31の内側面31aの間に埋土13aを入れる場合を例に挙げて説明しているが、固形物12群と埋土13aの間に、固形物12群よりも平均粒径が小さい粒状物群を介設してもよい。これと同様に、法面ブロック8の背面9b側に配される固形物12群と埋土13bの間にも固形物12群よりも平均粒径が小さい粒状物群を介設してもよい(粒状物群はいずれも任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る谷地形用排水構造が、固形物12群に加えて粒状物群(図示せず)を備えていることで、固形物12群のみを備える場合に比べてより優れたフィルター効果を発揮させることができる。
【0054】
この場合、埋土13a中の土中水を暗渠ブロック2に集水する際に、暗渠ブロック2内への埋土13aの混入を一層確実に防止できる。さらに、埋土13b中の土中水を法面ブロック8の正面9a側(暗渠ブロック2の天面4a上)に排水する際に、この排水中に埋土13bが混入するのを一層確実に防止できる。
よって、本実施形態に係る谷地形用排水構造が固形物12群に加えてさらに粒状物群を備えている場合は、暗渠ブロック2の中空部内に埋土13aが溜まるのを防ぐことができる。同様に、本実施形態に係る谷地形用排水構造において暗渠ブロック2の天面4aと、一対の法面33,33からなる第2の排水路内に埋土13bが溜まるのを防ぐことができる。
この結果、本実施形態に係る谷地形用排水構造の使用時に、排水路に流入した埋土13aや埋土13bによる詰まりが生じ難い谷地形用排水構造を提供することができる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る谷地形用排水構造では、暗渠ブロック2(又は暗渠ブロック2’又は暗渠ブロック2”)の側壁3に形成される第1の通水孔5の平面形状が細長状である場合を例に挙げて説明しているが、側壁39の厚み方向に通水可能であれば側壁39に形成される第1の通水孔5の平面形状は図示されるもの以外の形状でもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造では、法面ブロック8や法面ブロック8’の平板9が格子状である場合を例に挙げて説明しているが、平板9の形態は必ずしも格子状である必要はなく、平板9の厚み方向に通水可能であれば平板9に形成される第2の通水孔11の平面形状は図示されるもの以外の形状でもよい。
【0057】
加えて、本実施形態に係る谷地形用排水構造は、主に山地の谷地形30に設置して使用することを想定しているが、市街地等において人工的に形成された谷地形30にも支障なく適用することができる。
その際、本実施形態に係る谷地形用排水構造を構成する暗渠ブロック(暗渠ブロック2~2”等)及び法面ブロック(法面ブロック8,8’等)は、必ずしもメートル単位の大きさである必要はなく、その使用目的に応じて1メートル未満(数十センチ単位)の大きさであってもよい。
また、本実施形態に係る谷地形用排水構造を構成する暗渠ブロック(暗渠ブロック2~2”等)及び法面ブロック(法面ブロック8,8’等)は、その使用目的に応じた十分な強度を有するのであれば、鉄筋を有しないコンクリート製であってもよい。
【0058】
なお、本実施形態では固形物12や図示しない粒状物群として例えば砕石(従来公知のグリ石等)や、掘削溝31を形成する際に採取された自然石を用いる場合を例に挙げて説明しているが、これら以外にも廃コンクリート破砕物を分級した物等を使用することができる。この場合、廃コンクリート破砕物等を単体で用いてもよいし、必要に応じて砕石や自然石と混合して用いてもよい。いずれの場合も、砕石や自然石を用いる場合と同様の作用・効果を奏する。
【0059】
本実施形態では、暗渠ブロック(暗渠ブロック2~2”等)及び法面ブロック(法面ブロック8,8’等)を必須の構成として備える谷地形用排水構造について説明しているが、このような本発明に係る谷地形用排水構造に用いられる暗渠ブロック(暗渠ブロック2~2”等)も独立した物の発明として成り立つ。
また、本実施形態では埋土13a,13bとして、例えば堀削溝31を形成する際に生じた土を用いる場合を例に挙げて説明しているが、埋土13a,13bは必ずしも土である必要はなく、固形物12群と同様の砕石や、所望サイズの自然石、あるいは、廃コンクリート破砕物を必要に応じて分級した物、あるいはこれらを適宜組み合わせたもの等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように本発明は、谷地形の谷底における排水を良好に維持しつつ、谷地形の谷底及び谷底寄りの傾斜面を強固に保護することができる谷地形用排水構造およびそのための暗渠ブロックであり、農業、土木、治水等に関する分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1A~1D…谷地形用排水構造 2,2’,2”…暗渠ブロック 3…側壁 3a…上方端縁 3b…下方端縁 4…天井壁 4a…天面 5…第1の通水孔 6…突条 6a…凹部 7…支保面 8,8’…法面ブロック 9…平板 9a…正面 9b…背面 9c…上方端縁 9d…下方端縁 9f…切欠き 10…控え 11…第2の通水孔 12…固形物 13a,13b…埋土 30…谷地形 30a…傾斜面 30b…谷底 31…掘削溝 31a…内側面 31b…底面 32…暗渠 33…法面