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特許7343268任意信号挿入方法及び任意信号挿入システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】任意信号挿入方法及び任意信号挿入システム
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20230905BHJP
   G10H 1/40 20060101ALI20230905BHJP
   G10L 19/018 20130101ALI20230905BHJP
【FI】
G10H1/00 Z
G10H1/00 B
G10H1/40
G10L19/018
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018082899
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019191336
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】515053885
【氏名又は名称】唐沢 培雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094226
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100087066
【弁理士】
【氏名又は名称】熊谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】柏 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】唐沢 培雄
【審査官】上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-197497(JP,A)
【文献】特開2006-106411(JP,A)
【文献】特開2001-239485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
G10L 19/00-19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入方法であって、
前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、
奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、
前記リアルタイム演奏部の奏者に対して演奏する音響のリズム情報を発報するリズム発信装置と、
を用意し、
前記演算装置は、前記リズム発信装置に対して第一のリズムを出力すると同時に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入方法。
【請求項2】
所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入方法であって、
前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、
奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、
を用意し、
前記リアルタイム演奏部は、演奏を行うことで生じる第二のリズムの情報を前記演算装置に送信し、
前記演算装置は、前記リアルタイム演奏部から送信された第二のリズムが前記第一のリズムに同期したことを確認した後に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入方法。
【請求項3】
前記同期の確認は、前記実演による音響に関するMIDIデータに含まれる前記第二のリズムと、予め記録されている前記音響の楽譜情報に関するMIDIデータに含まれる前記第一のリズムとを照合することで行われることを特徴とする請求項2に記載の任意信号挿入方法。
【請求項4】
前記音響内に挿入される任意信号には、周辺機器を操作・制御して所定の動作を実施するよう命じる挿入情報を少なくとも含むことを特徴とする請求項1乃至3の内の何れかに記載の任意信号挿入方法。
【請求項5】
前記周辺機器は複数あり、
前記挿入情報は、前記複数の周辺機器それぞれが有する固有の情報に対応して異なる動作を実施するよう命じることを特徴とする請求項4に記載の任意信号挿入方法。
【請求項6】
所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入システムであって、
前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、
前記演算装置に演奏の開始を指示する開始指示部と
奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、
前記リアルタイム演奏部の奏者に対して演奏する音響のリズム情報を発報するリズム発信装置と、
前記リアルタイム演奏部から出力される音響内に挿入された前記任意信号を受信して当該任意信号に含まれる挿入情報によって操作・制御される周辺機器と、
を具備し、
前記演算装置は、前記リズム発信装置に対して第一のリズムを出力すると同時に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入システム。
【請求項7】
所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入システムであって、
前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、
奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、
前記リアルタイム演奏部から出力される音響内に挿入された前記任意信号を受信して当該任意信号に含まれる挿入情報によって操作・制御される周辺機器と、
を具備し、
前記リアルタイム演奏部は、演奏を行うことで生じる第二のリズムの情報を前記演算装置に送信する手段を有し、
前記演算装置は、前記リアルタイム演奏部から入力された第二のリズムが前記第一のリズムに同期したことを確認した後に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンサート会場などで実演奏される音響(楽曲)のなかに容易に任意信号を挿入することができる任意信号挿入方法及び任意信号挿入システムに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
複数の音によって構成された音響のなかに、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、事前に定められたタイミングで挿入する任意信号挿入方法に関して、例えば特許文献1に記載の方法が従来技術として存在する。この特許文献1に記載の方法は、CDやDVD等の記録媒体に録音・録画された既成の音楽コンテンツを音源とする音響(音響信号)のなかに、周辺機器を制御するための制御コードを予め埋め込んでおき、当該制御コードを所定のタイミングで発報することで周辺機器の制御を行うという方法である。当該制御コードが埋め込まれた音響(音響信号)は、映像・音楽プレーヤなどの再生装置で再生され、さらにこの再生音から抽出装置を用いて制御コードを抽出し、これによって周辺機器を制御することを可能にしている。特許文献1に記載の方法においては、所定数のサンプルを1フレームとして読み込み、このフレームに含まれる音響(音響信号)のなかに、電子透かし手法により制御コードを埋め込むといった手法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-323161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の従来技術によれば、予め定められた所望のタイミングで任意信号(制御コード)を音響内に挿入することができるものの、任意信号(制御コード)が挿入される前記音響は、CDやDVD等のように、予め記録媒体に録音・録画することができる音楽コンテンツである。即ち、前記特許文献1に記載の従来技術では、予め決まったリズムで奏でられるとは限らない音響、例えば奏者がコンサート会場で実演する音響のように、演奏する者、時間、場所などが異なることで変化し得るリズムの音響に対して、その実演の場で直接任意信号(制御コード)を挿入することは、技術的に困難であった。
【0005】
本発明の目的は、例えばコンサート会場での奏者の演奏など、リアルタイムで演奏されている音響などの中に、事前に定められた挿入タイミングで、任意信号を容易に挿入することができる任意信号挿入方法及び任意信号挿入システムを提供することにあり、加えてこの挿入された任意信号を用いて周辺機器を遠隔操作・制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入方法であって、前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、前記リアルタイム演奏部の奏者に対して演奏する音響のリズム情報を発報するリズム発信装置と、を用意し、前記演算装置は、前記リズム発信装置に対して第一のリズムを出力すると同時に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入方法である。
本発明によれば、奏者の実演による音響などのように、その演奏の度、またはその演奏の途中に変化し得るリズムの音響内に、事前に定められた所望のタイミングで任意信号を容易且つ正確に挿入することができる。
【0007】
また本発明によれば、奏者が第一のリズムで音響を奏でるように促されることで前記2つのリズムの同期が図られる。この結果、実演による音響内に、直接、事前に定められた所望の挿入タイミングで任意信号を容易且つ正確に挿入することができる。
【0008】
また、前記課題を解決するための本発明は、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入方法であって、前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、を用意し、前記リアルタイム演奏部は、演奏を行うことで生じる第二のリズムの情報を前記演算装置に送信し、前記演算装置は、前記リアルタイム演奏部から送信された第二のリズムが前記第一のリズムに同期したことを確認した後に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入方法である。
奏者が実演している音響の現在のリズムは、少なくともその後所定時間(例えば40秒間)までは、そのまま一定に保たれることが実験によって確認されている。即ち、奏者の音響のリズム(第二のリズム)が第一のリズムに同期した直後であれば、これら2つのリズムが少なくとも所定時間同期している。そこで本発明では、この所定時間(同期していると推定される時間)内に任意信号を所望の挿入タイミングで前記演奏中の音響の中に挿入することとした。これによって、実演による音響内に、直接、事前に定められた所望の挿入タイミングで任意信号を容易且つ正確に挿入することができる。
【0009】
また、前記課題を解決するための本発明は、前記特徴に加え、前記同期の確認は、前記実演による音響に関するMIDIデータに含まれる前記第二のリズムと、予め記録されている前記音響の楽譜情報に関するMIDIデータに含まれる前記第一のリズムとを照合することで行われる、ことを特徴とする。
本発明によれば、MIDIデータという電気信号を用いることで、第一のリズムと第二のリズムの同期の確認を容易且つ確実に行うことができる。
【0010】
また、前記課題を解決するための本発明は、前記特徴に加え、前記音響内に挿入される任意信号には、周辺機器を操作・制御して所定の動作を実施するよう命じる挿入情報を少なくとも含むことを特徴とする。
本発明によれば、音響内に挿入された任意信号によって、周辺機器に対し所定の動作を実施するよう命じることが可能になる。例えば、携帯端末の表示画面の色彩をリズムに合わせて変化させたりすることもできる。
【0011】
さらに、前記課題を解決するための本発明は、前記特徴に加え、前記周辺機器は複数あり、前記挿入情報は、前記複数の周辺機器それぞれが有する固有の情報に対応して異なる動作を実施するよう命じることを特徴とする。
異なる動作の中には、動作しないということも含まれる。
本発明によれば、例えば演奏会場にいる多数の聴衆の所持する携帯端末の内の所定のグループの携帯端末の動作と、他の所定のグループの携帯端末の動作とを異ならせること等ができ、これにより、演奏会場において、種々のパフォーマンスが可能になる。
【0012】
また前記課題を解決するための本発明は、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入システムであって、前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、前記演算装置に演奏の開始を指示する開始指示部と奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、前記リアルタイム演奏部の奏者に対して演奏する音響のリズム情報を発報するリズム発信装置と、前記リアルタイム演奏部から出力される音響内に挿入された前記任意信号を受信して当該任意信号に含まれる挿入情報によって操作・制御される周辺機器と、を具備し、前記演算装置は、前記リズム発信装置に対して第一のリズムを出力すると同時に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入システムである。
本発明によれば、奏者の実演による音響などのように、その演奏の度、またはその演奏の途中に変化し得るリズムの音響内に、事前に定められた所望のタイミングで任意信号を容易且つ正確に挿入することができる。
【0013】
また前記課題を解決するための本発明は、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号を、所望の挿入タイミングで音響内に挿入する任意信号挿入システムであって、前記挿入タイミングを、予め設定された第一のリズムとともに所定のタイムコードに関連付けて記憶しておく演算装置と、奏者が演奏を行うことで生じる第二のリズムによる音響を、前記任意信号を挿入した状態で出力するリアルタイム演奏部と、前記リアルタイム演奏部から出力される音響内に挿入された前記任意信号を受信して当該任意信号に含まれる挿入情報によって操作・制御される周辺機器と、を具備し、前記リアルタイム演奏部は、演奏を行うことで生じる第二のリズムの情報を前記演算装置に送信する手段を有し、前記演算装置は、前記リアルタイム演奏部から入力された第二のリズムが前記第一のリズムに同期したことを確認した後に、前記リアルタイム演奏部に対して前記第一のリズムに関連付けた挿入タイミングで前記任意信号を出力することを特徴とする任意信号挿入システムである。
本発明によれば、奏者の実演による音響などのように、その演奏の度、またはその演奏の途中に変化し得るリズムの音響内に、事前に定められた所望のタイミングで任意信号を容易且つ正確に挿入することができる。
【0014】
また、前記課題を解決するため、前記特徴に加え、前記所定の周波数が可聴帯域(20~20kHz)中の、可聴容易周波数(20~15kHz)であるか、又は、可聴困難周波数(15k~20kHz)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、例えば、奏者によって実演される楽曲の音響のように、演奏する者、時間、場所が異なることで変化し得るリズムの音響であっても、当該音響内に予め定められた所望のタイミングで任意信号を容易且つ確実に挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】任意信号挿入システム1の構成を示すブロック図である。
図2】タイムコードやこれと関連付けられた挿入タイミングなどを示す図である。
図3】任意信号挿入方法の実施手順を示すフローチャートである。
図4】打楽器等が発するハンドクラップ音の波形である。
図5】打楽器等が発するハンドクラップ音に挿入信号を挿入した波形である。
図6】挿入情報の挿入プロセスを示すフローチャートである。
図7】挿入情報の挿入プロセスを示すフローチャートである。
図8】挿入情報の挿入プロセスを示すフローチャートである。
図9】任意信号挿入システム2の構成を示すブロック図である。
図10】タイムコードやこれと関連付けられた挿入タイミングなどを示す図である。
図11】任意信号挿入方法の実施手順を示すフローチャートである。
図12】MIDI信号を使用して楽譜追跡を行う手順を示すフローチャートである。
図13】挿入タイミングの判定条件を規定する際の基準となる実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
本発明に係る第1実施形態を、図1ないし8を参照しながら説明する。
〔システム構成〕
はじめに、第1実施形態を実施するために用いられる任意信号挿入システム1の構成について説明する。任意信号挿入システム1は、図1に示すように、楽曲の開始指示部10、演算装置20、装置対応インターフェース30、リズム発信装置40、リアルタイム演奏部50及び被制御装置60とを具備して構成されている。
【0018】
楽曲の開始指示部10は、楽曲の演奏開始と同時に演算装置20に作動開始の指示を与える部位であり、例えば演算装置20に接続するフットペダルやキーボード、又は液晶モニター等のタッチパネルなどから構成されている。前記作動開始の指示は、奏者又はPAエンジニア等によって実行される。
【0019】
演算装置20は、詳細については後述する実施手順を、所定の演算処理に基づいて履行する部位であり、記憶装置22と、演算部24と、外部インターフェース26とを具備して構成されている。
【0020】
前記記憶装置22は、事前にプログラミングされた伝送情報(以下、「マスターデータMD」という。)を記憶・格納する装置であり、例えばハードディスク又はSSDから構成されている。
【0021】
マスターデータMDは、少なくともタイムコードTCと、楽曲のリズム情報(以下、「マスターリズム情報MR」という。このマスターリズム情報MRは、特許請求の範囲に記載の「第一のリズム」に相当する。)と、所望のタイミングで周辺機器を操作・制御するための情報である挿入情報(以下、「挿入情報M」という。)及び挿入タイミングに関する情報(以下、「挿入タイミングT」という。)とを含む。挿入情報Mは、所定の周波数によって構成された伝送可能な任意信号から構成され、また少なくともマスターリズム情報(高,低)MR及び挿入タイミングTは、図2に示すように、タイムコードTCに関連付けられている。マスターデータMDは、例えばMIDI(Musical Instruments Digital Interface)データの形式をとるが、その他のデータ形式であってもよい。
【0022】
タイムコードTCは、演算装置20の有する時計(タイマー)の時刻であり、マスターリズム情報MR及び挿入タイミングT等の各種情報を時間的に管理するパラメータ(指標)である。タイムコードTCは、この例では一定の間隔で刻まれた時分秒であるが、その他にもテンポ基準となる音符(八分音符や十六分音符等)を一単位としてもよい。また図2には、0.1秒刻みの時分秒を一単位とするタイムコードTCが示されているが、当該時間間隔は任意に設定できる。この例でのマスターリズム情報MRには高音と低音がある。一般的にリズムセッション楽器51、例えばドラムセットにおいて、音程は大きく分けて2種類になる。例えば一方はバスドラムなどで打つ低い音程、他方はスネアドラムなどで発せられる高い音程であり、これら高音と低音がそれぞれリズムになる。挿入タイミングTは、挿入情報Mを挿入する時刻をタイミングコードTCとの関係で示している。挿入情報Mは、楽曲中に挿入する情報をいい、前記挿入タイミングTの二重丸で示した時刻(01時23分01.80秒)に楽曲中に挿入される。
【0023】
任意信号は、挿入情報Mを挿入した下記する音響情報伝送機能を有した楽器53用の楽器音であっても良いし、挿入情報Mその物であっても良い。
【0024】
演算部24は、楽曲の開始指示部10からの指示命令をトリガーとして、詳細については後述する実施手順にしたがい、所定の基準時間STが経過した後にマスターリズム情報MRをリズム発信装置40に向けて出力し、また、挿入情報M及び挿入タイミングTをリアルタイム演奏部50(より具体的には、後述する音響情報伝送情報を有した楽器53)に出力するよう構成された部位であり、CPU、キャッシュメモリ(メインメモリ)及び当該キャッシュメモリ(メインメモリ)に記憶された前記演算処理を実行する動作プログラムなどから構成されている。キャッシュメモリ(メインメモリ)には、例えば音声編集ソフト(DAW)を予め記憶・格納しておき、この音声編集ソフト(DAW)を用いて、マスターデータMDを適宜編集できるように構成してもよい。
【0025】
出力インターフェース26は、記憶装置22に記憶・格納されているマスターデータMD(より具体的には、マスターデータMDに含まれるマスターリズム情報MRおよび挿入情報M及び挿入タイミングT)を所定のデータ形成の形で外部装置(より具体的には、リズム発信装置40及びリアルタイム演奏部50)に向けて出力するために、この外部装置と演算装置20とを電気的に接続するための部位(接続端子)である。
【0026】
装置対応インターフェース30は、演算装置20(より具体的には、演算装置20が具備する出力インターフェース26)とリズム発信装置40との間で電気信号の送受信を可能にする部位(接続端子)であり、この部位を通じて、演算装置20のマスターリズム情報MR(より具体的には、演算装置20の記憶装置24に記憶・格納されたマスターリズム情報MR)が、演算装置20からリズム発信装置40へと出力される。
【0027】
リズム発信装置40は、装置対応インターフェース30を介して演算装置20から送信されるマスターリズム情報MR(より具体的には、マスターリズム情報MRに関するリズム信号SR)を受信し、これを所定の形に変換して奏者に発信(報知)する装置であり、例えばリズムを音の形で伝達するヘッドホンやスピーカといった音響装置、又はリズムを光の形で伝達する照明器具から構成されている。
【0028】
リアルタイム演奏部50は、奏者等によって実際に楽曲が演奏される部位であり、リズムセッション楽器51、その他の楽器52及び音響情報伝送機能を有した楽器53からなる楽器群、並びにステージ音響システム54から構成されている。
【0029】
リズムセッション楽器51は、例えばドラムスやベース等のリズムを取るのに好適な楽器から構成されており、当該楽器の演奏者を通じて所定のリズム(以下、「リズムR」という。このリズムRは、特許請求の範囲に記載の「第二のリズム」に相当する。)の音響が発せられる。リズムセッション楽器51の奏者は、リズム発信装置40を通じて発信される音又は照明にリードされたリズム(マスターリズム情報MRのリズム)を感知することでマスターリズム情報MRのリズムに従ったリズムの演奏が促され、これにより、実際の演奏リズム(第二のリズム)とマスターリズム情報MRのリズム(第一のリズム)との同期(この同期は、特許請求の範囲に記載の「同期」に相当する。)が図られることになる。
【0030】
その他の楽器52は、リズムセッション楽器51から発せられるリズムにしたがって楽曲の主旋律を奏でる部位であり、例えばギターなどの他、ボーカル等も含まれる。
【0031】
音響情報伝送機能を有した楽器53は、出力インターフェース26を通じて演算装置20から出力された挿入情報M及び挿入タイミングTを受信し、当該挿入情報M及び挿入タイミングTをステージ音響システム54に向けて出力する部位であり、例えばサンプラーやシンセサイザー等から構成されている。この音響情報伝送機能を有した楽器53は、図示しない記憶手段を有しており、演算装置20から入力した挿入情報Mなどを記憶する。なお、演算装置20から入力する挿入情報Mが、この挿入情報Mを挿入した楽器音である場合は、当該挿入情報Mの挿入タイミングTを受信した際に、この楽器音をそのまま出力するように構成する。一方、演算装置20から入力する挿入情報Mが、当該挿入情報M(この場合の挿入情報は、当該挿入情報Mが挿入された楽器音を検索するのに用いる検索用信号であっても良い)のみであるような場合は、予め前記図示しない記憶手段に挿入情報Mが挿入された楽器音を記憶しておき、演算装置20から挿入情報M(前記検索用信号であっても良い)を受信した際に、前記挿入情報Mを挿入した楽器音を検索して待機し、挿入タイミングTを受信した際に当該楽器音を出力するように構成する。
【0032】
ステージ音響システム54は、リズムセッション楽器51、その他の楽器52及び音響情報伝送機能を有した楽器53から発せられた音(音響)(より具体的には、これら音(音響)に関する電気信号)を受信し、これら複数の音から1つの楽曲音(音響)を構成した後、これを聴衆等に向けて発報する部位であり、ミキサー、PA装置及び楽器個別アンプ等から構成されている。前記楽曲音には、挿入情報Mが含まれており、後述するように、この挿入情報Mに基づいて被制御装置60を、遠隔操作・制御する。
【0033】
被制御装置60は、リアルタイム演奏部50から発せられる音、より具体的には、リアルタイム演奏部50を構成するステージ音響システム54から発せられた楽曲音(音響)に組み込まれた挿入情報Mに基づいて遠隔操作・制御される部位であり、特許請求の範囲に記載の周辺機器に相当する。被制御装置60は、例えば聴衆が所持する携帯端末(スマートフォン等)から構成されている。
【0034】
〔実施手順〕
次に、任意信号挿入システム1を用いて第1実施形態を実施するための具体的手順を、図1ないし図3を参照しながら説明する。当該具体的手順は、図3に示すように、タイムコードのカウントアップステップS11(以下、「カウントアップステップS11」という。)、マスターリズム情報MRの出力ステップS12(以下、「出力ステップS12」という。)、挿入情報Mの出力ステップS13(以下、「出力ステップS13」という。)、挿入タイミングTの出力ステップS14(以下、単に「出力ステップS14」という。)から構成されている。これらステップは、いずれも演算装置20の演算部24において実行される。
【0035】
カウントアップステップS11では、タイムコードTC、すなわち、時刻に合わせた一定の間隔で刻まれた時分秒(またはテンポ基準となる音符(八分音符や十六分音符等)でもよい)を一単位とする時間的パラメータ(指標)を、タイマーを用いてカウントアップする。具体的には、前記一単位に相当する時間を前記タイマーで計測し、当該一単位に相当する時間間隔で、タイムコードTCを累積的にカウントする。
【0036】
このカウントアップステップS11が実行されることで、タイムコードTCに関連付けられたマスターリズム情報MR及び挿入タイミングTが、タイムコードTCの時間軸で管理される。これにより、以下の出力ステップS12,S13,S14において、これら情報を、適正なタイミングで外部装置(具体的には、リズム発信装置40及びリアルタイム演奏部50)に向けて出力することが可能になる。
【0037】
タイムコードTCのカウントアップが開始されると、マスターリズム情報MRの出力ステップS12へと移行する。この出力ステップS12では、マスターリズム情報MRが、関連付けられたタイムコードTCに対応した時刻(図2で示された実施形態では、1時23分1.4秒及び1時23分1.6秒等)に、マスターリズム情報MRが、出力インターフェース26及び装置対応インターフェース30を通じてリズム発信装置40へと出力される。
【0038】
マスターリズム情報MRは、単一の種類のリズムから構成されるだけでなく、例えば前述のように、低い音程のマスターリズム情報MR(低)及び高い音程のマスターリズム情報MR(高)といった複数種類のリズム情報から構成されるなど、種々の形態をとることができる。
【0039】
マスターリズム情報MRの出力先であるリズム発信装置40は、前述したように、例えばリズムを音として伝達するヘッドホンやスピーカ等の音響装置、又はリズムを光で伝達する照明器具から構成されている。奏者(より具体的には、リズムセッション楽器51の奏者)は、リズム発信装置40が発信する音(音響)又は光を通じてマスターリズム情報MRを感知することになる。
【0040】
リズム発信装置40を通じてマスターリズム情報MRを感知した奏者(より具体的には、リズムセッション楽器51の奏者)は、当該マスターリズム情報MRに含まれるリズムに従って演奏するように促される。この結果、実際の演奏リズム(第二のリズム)とマスターリズム情報MRのリズム(第一のリズム)との同期が図られる。
【0041】
次に、出力ステップS13では、挿入情報M(または挿入情報Mを挿入した楽器音、以下同様)が、出力インターフェース26を通じてリアルタイム演奏部50(音響情報伝送機能を有した楽器53)へと出力され、次に、出力ステップS14では、挿入情報Mの挿入タイミングTが、出力インターフェース26を通じてリアルタイム演奏部50(音響情報伝送機能を有した楽器53)へと出力される。
【0042】
ここで、挿入情報Mは、当該挿入情報Mを挿入(発報)するタイムコードTCの時刻よりも少し前のタイミングで音響情報伝送機能を有した楽器53へ送信され、一方、挿入タイミングTは、当該挿入情報Mを挿入(発報)するタイムコードTCの時刻丁度に音響情報伝送機能を有した楽器53へ送信される。これは以下の理由による。出力インターフェース26のデータ伝送速度と、音響情報伝送機能を有した楽器53の信号処理能力が何れも超高速であるような場合は、挿入情報Mを、その挿入タイミングの時刻丁度に演算部24から出力してもよい。即ちこの場合は挿入タイミングTの演算部24からの出力は不要になる。しかし、一般的に、使用される出力インターフェース26の伝送速度はそれほど高速ではなく、また使用される音響情報伝送機能を有した楽器53の信号処理能力(例えば、挿入情報Mに紐付けられた楽器音を検索したりするなど)もそれほど高速ではなく、挿入情報量の多い挿入情報Mは、その挿入タイミングの時刻丁度に演算部24から出力したのでは発報タイミングが遅れてしまう。一方、挿入タイミングTは短い信号で済むので、その挿入タイミングの時刻丁度に演算部24から出力してもその発報タイミングが遅れることはない。このため、タイムコードTCの時刻(図2で示された実施形態では、1時23分1.8秒)となる少し前のタイミングに事前に挿入情報量の多い挿入情報Mを出力して音響情報伝送機能を有した楽器53に発報の前準備をさせておき、実際の発報タイミング(前記時刻、1時23分1.8秒)に情報量の少ない挿入タイミングTの信号を出力し、この出力タイミング丁度に音響情報伝送機能を有した楽器53から挿入情報Mを含む音響(音響情報データを含んだ楽器音)を出力させる構成としたのである。
【0043】
即ち、挿入タイミングTを受信したリアルタイム演奏部50(音響情報伝達情報を有した楽器53)は、前述したように、挿入情報Mを音響(音響情報データを含んだ楽器音)として発報する。この音響(音響情報データを含んだ楽器音)は、前述したように、ミキサー等から構成されたステージ音響システム54によって1つの楽曲音(音響情報データを含んだ楽曲音)に構成された後、例えばコンサート会場の聴衆に向けて発報される。この楽曲音には、聴衆が所持する携帯端末(スマートフォン等)の被制御装置60を遠隔操作・制御する挿入情報Mが含まれている。
【0044】
図2に示す例は、挿入情報Mがスマートフォンの表示画面を所望の色で点灯させる命令情報(制御情報)である場合の例を示している。この例によれば、例えばコンサート会場の聴衆が所持するスマートフォンの表示画面を、挿入タイミングTが関連付けられたタイムコードTCに対応する時刻(01時23分01.80秒)に、緑色からピンク色に切換えるという遠隔操作・制御を行っている。挿入情報Mによる命令情報としては、上記以外にも、女性の有するスマートフォンの表示画面をピンク色に、男性の有するスマートフォンを緑色に表示させるなど、複数のスマートフォン(周辺機器)それぞれが有する固有の情報に対応して異なる動作を実施するよう命じることもできる。またスマートフォンを振動させたり、その表示画面に所望の広告を表示させたり、所望の音声を発報させたりすること等、他の各種の動作をさせることもできる。
【0045】
〔任意信号(挿入情報M)を楽器音の中に挿入する方法(音響情報の生成法)〕
次に、前記音響情報伝送機能を有した楽器53(具体的にはサンプラー)において、任意信号(より具体的には挿入情報M)を楽器音の中に挿入する方法の一例を、図4ないし8を参照しながら説明する。挿入情報Mは、所定の周波数の音(音響)の形で楽曲(楽曲を構成する音響)の中に挿入されるが、当該周波数は、人間の可聴帯域(20~20kHz)にあることが望ましい。なぜなら、本発明を有効活用するためには、“音”を扱う既存のシステム(例えばラジオ、テレビ、音楽プレーヤー等)を有効利用することが望ましいところ、これら既存のシステムの略全てが、主として可聴帯域の音を出力することを前提に設計されているからである。
【0046】
ここで、標準的な体格の成人が意味のある音として聞き分けることのできる音は、15kHzが上限と言われている。すなわち、多くの人において、20~15kHzの音は、可聴が容易な周波数(以下、「可聴容易周波数」という。)であり、他方、15k~20kHzの音は、可聴が困難な周波数(以下、「可聴困難周波数」という。)の音である。そこで本発明では、人間の可聴帯域(20~20kHz)を前記可聴容易領域と可聴困難領域とに区別し、それぞれの領域に適した挿入方法を以下に記載する。
【0047】
可聴容易領域にある周波数の音(音響)を利用して挿入情報Mを挿入する方法においては、元の音響の雰囲気(品質)に影響を与え難い方法で挿入することが求められる。このような方法として、例えば、特願2014-74180(特開2015-197497)に記載の「音響を用いた任意信号の伝達方法」(以下、「挿入方法1」という。)がある。
【0048】
この挿入方法1では、音を形成する波形を、音の認識に主体的に寄与する本質部分(本質音)と音の認識に付随的に寄与する付随部分(付随音)とに分離し、前記付随音に替えて、挿入情報Mを構成する任意信号を挿入する。ここで、前記付随音は、音の認識において前記本質音の下に隠れるため、これを任意信号に差し替えても元の音響の雰囲気(品質)に大きな影響を与えることがない。
【0049】
例えば、打楽器等が発するハンドクラップ音においては、図4に示すように、11ms周期程度のインパルス応答に類似した2,3個の波形a1が続いた後に長い波形a2が現れる。前記波形a1は、連続時間は数ms程度であって、音程感のない音となって聞こえる部分であることが本発明者によって確認されている。この波形a1が、前記付随音(以下、「付随音a1」という。)に相当し、また、波形a1の後に続く長い波形a2が、前記本質音(以下、「本質音a2」という。)に相当する。第1実施形態では、この付随音a1に替えて任意信号(以下、「任意信号b1」という。)を挿入する。ここで、任意信号b1は、挿入情報Mを構成する所定の周波数からなる音である。図5に、前記例にならって、打楽器等が発するハンドクラップ音をベースに付随音a1を任意信号b1に替えた一実施例を示す。この例では、任意信号b1が、複数の任意信号b-1及びb-2から構成されている。なお、汎用的なサンプラーの音は、ハンドクラップ音や短い効果音が使用され、基本的に楽曲のメインメロディーを奏でることよりもリズムタイミング的に補完音として使用されることが多いので、上記の方法で任意信号を容易に挿入でき、好適である。
【0050】
次に、前記挿入方法1にならって、挿入情報MをマスターデータMDに含まれる情報として生成されるプロセスを、図6を参照しながら説明する。
【0051】
この図6で示されるプロセスでは、はじめにサンプリング音源を音響情報伝送機能を有した楽器53から録音し、このサンプリング音源を分析する(プロセスP10)。具体的には、前記挿入方法1にならって、前記本質音a2と前記付随音a1とを区別し、これらを分離する。
【0052】
次に、プロセスP10によって実施された分析結果に基づいて、サンプリング音源が挿入情報Mを構成する任意信号を挿入するのに適した音源か否かを判断する(プロセスP11)。
【0053】
プロセスP11において、サンプリング音源が挿入情報Mを構成する任意信号を挿入するのに適した音源と判断されると、挿入情報Mの主要部を形成する挿入信号を生成する(プロセスP12)。この挿入信号は、挿入方法1に関する説明のなかの任意信号b1に相当し(以下、「挿入信号b1」という。)、前述したように、人間の可聴帯域(20~20kHz)のなかの、可聴容易周波数(20~15kHz)の音として構成される。なお、プロセスP11で、サンプリング音源が挿入情報Mを構成する任意信号を挿入するのに不適当であると判断されると、その旨が作業者に向けて表示される。
【0054】
プロセスP12で挿入信号b1が生成されると、この挿入信号b1と予め録音されたサンプリング音源とを、前記挿入方法1にならって合成する(プロセスP13)。具体的には、本質音a2はそのままに(合成後の本質音を便宜的に本質音b2と称する。)、付随音a1を挿入信号b1(b1-1及びb1-2)に差し替える。この結果、挿入信号b1(b1-1及びb1-2)と本質音b2とから構成された挿入情報Mが生成される。
【0055】
前記プロセスP10ないしP13を経て生成された挿入情報Mは、前述したように、演算装置20の記憶装置22、または音響情報伝送機能を有した楽器53の記憶手段に記憶・格納される。
【0056】
前記挿入方法1によれば、帯域の広い可聴容易周波数を利用することでより多くの情報を挿入することができ、かつ元の音響の雰囲気(品質)に影響を与えることもない。
【0057】
可聴容易領域にある周波数の音(音響)を利用して挿入情報Mを挿入する別の方法として、挿入情報Mの主要部を形成する挿入信号b1を、楽曲を構成する音(音響)の一部として積極的に活用する方法(以下、「挿入方法2」という。)がある。例えば挿入信号b1に対応するコード音を効果音等の意味のある音として活用する。
【0058】
挿入方法2の実施プロセスを図7に示す。このプロセスでは、はじめに適切な本質音b2を作成し、又は種々のサンプリング音源の中から適当なものを選択しこれを本質音b2として使用する(プロセスP20)。
【0059】
次に、挿入情報Mの主要部を形成する挿入信号b1(b1-1及びb1-2)を生成する(プロセスP21)。このとき、挿入信号b1は、前述したように、20~15kHzの範囲にある可聴容易周波数の音からなる効果音等の、楽曲において意味のある音とする。即ちこの例の場合、挿入情報Mが楽曲の一部を構成する。
【0060】
その後前記プロセスP20で生成された本質音b2と、プロセスP21で生成された挿入信号b1とを合成する(プロセスP22)。これにより、挿入信号b1と本質音b2とから構成された挿入情報Mが生成される。
【0061】
前記プロセスP20ないしP22を経て生成された挿入情報Mは、挿入方法1と同様、演算装置20の記憶装置22、または音響情報伝送機能を有した楽器53の記憶手段に記憶・格納される。
【0062】
一方、可聴困難領域にある周波数の音(音響)を利用して挿入情報Mを挿入する方法においては、前記挿入方法1又は2を用いてもよいが、元来意味ある音(音響)として識別困難であることから、挿入音秘匿、又は意味のある音として構成することが厳格に要求されない。このため、所望のタイミング(挿入タイミングT)に楽曲を構成する音響に付加する方法(以下、「挿入方法3」という。)によって実施してもよい。
【0063】
挿入方法3の実施プロセスを図8に示す。このプロセスでは、はじめに適当な本質音を生成し、又は種々のサンプリング音源の中から適当なものを選択しこれを本質音として使用する(プロセスP30)。なお、サンプリング音源の中には挿入信号と同じ周波数(挿入情報Mのキャリヤ周波数)が含まれている可能性がある。したがって、サンプリング音源を本質音に使用する際には、フィルターを用いて事前にキャリヤ周波数を除去しておくことが望ましい。また、可聴可能な音に寄与しない周波数成分であっても、レベルが飽和しないように注意する必要がある。
【0064】
次に、挿入情報Mの主要部を形成する挿入信号を生成する(プロセスP31)。このとき、挿入信号は、前述したように、15k~20kHzの範囲にある可聴困難周波数の音から構成される。
【0065】
前記プロセスP30で生成された本質音と、プロセスP31で生成された挿入信号とを合成する(プロセスP32)。これにより、挿入信号と本質音とから構成された挿入情報Mが生成される。
【0066】
前記プロセスP30ないしP32を経て生成された挿入情報Mは、挿入方法1及び2と同様に、演算装置20の記憶装置22、または音響情報伝送機能を有した楽器53の記憶手段に記憶・格納される。
【0067】
この挿入方法3によれば、挿入方法1及び2のように、挿入音秘匿、又は意味のある音として構成することが厳格に要求されないことから構成に自由度が生まれ、構成が単純化及び演出の多様化を図ることができる。
【0068】
以上に述べた第1実施形態によれば、事前にプログラミングされた伝送情報に含まれるマスターリズム情報MRにしたがったリズムで奏者が演奏することになるので、マスターリズム情報MRと実際に奏でられるリズムとが同期する。この結果、演奏する者や時間や場所が異なることで変化し得るリズムからなる音響内に、事前に定められた所望のタイミングで、被制御装置60を制御等する伝送可能な任意信号を容易に挿入することが可能になる。
【0069】
[第2実施形態]
本発明に係る第2実施形態を、図9ないし13を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同一の符号又は記号を付された文言は、特に説明が無い限り、第1実施形態と同一の概念を表す。
【0070】
〔システム構成〕
第2実施形態に用いられる任意信号挿入システム2は、図9に示すように、演算装置200、リアルタイム演奏部500及び被制御装置600といった装置から主に構成されている。
【0071】
演算装置200は、詳細については後述する実施手順を、所定の演算処理に基づいて履行する部位であって、入力インターフェース210、記憶装置220、演算部240及び出力インターフェース260から主に構成されている。
【0072】
入力インターフェース210は、リアルタイム演奏部500(より具体的には、後述するMIDI出力付き主旋律担当楽器510)から、例えばMIDIデータ形式化された実演奏MIDIデータDを受信するための部位である。
【0073】
記憶装置220は、タイムコードTCと、予め記録された楽曲の楽譜情報(以下、「楽譜情報GD」という。)と、挿入情報M(挿入情報Mそのもの、または挿入情報Mを挿入した音響情報伝送機能を有した楽器530用の楽器音)と、挿入タイミングTなどを記憶・格納しており、例えばハードディスクまたはSSDから構成されている。楽譜情報GDは、下記するMIDI出力付き主旋律担当楽器510のMIDI信号データを予めリハーサルなどで記録したものであり、少なくともリズム情報GRを含み、このリズム情報GRと挿入タイミングTとは、図10に示すように、タイムコードTCに関連付けられている。これら各種情報は、例えばMIDIデータ形式の形をとるが、その他のデータ形式であってもよい。なお、タイムコードTCは、第1実施形態のタイムコードTCと同じ概念である。
【0074】
演算部240は、詳細については後述する実施手順にしたがって楽譜追跡を実行することで、挿入情報Mを挿入するのに適した挿入タイミングTを抽出し、この抽出された挿入タイミングTと挿入情報Mとを外部装置(より具体的には、後述するリアルタイム演奏部500の音響情報伝送情報を有した楽器530)に向けて出力するよう構成された部位であり、CPUとキャッシュメモリ(メインメモリ)と、キャッシュメモリ(メインメモリ)に記憶された前記楽譜追跡を実行するための動作プログラムとを具備して構成されている。
【0075】
出力インターフェース260は、記憶装置220に記憶・格納されている挿入情報Mと挿入タイミングTを所定のデータ形成の形で外部装置(より具体的には音響情報伝達情報を有した楽器530)へ出力するために、この外部装置と演算装置200とを電気的に接続するための部位である。
【0076】
リアルタイム演奏部500は、奏者等によってリアルタイムに奏でられる楽器音と、後述する挿入情報Mが挿入された音響情報データを含んだ楽器音とからなる楽曲音を生成し、これを外部に向けて発する部位であり、MIDI出力付き主旋律担当楽器510、その他の楽器520及び音響情報伝送機能を有した楽器530からなる楽器群と、ステージ音響システム540とから主に構成されている。
【0077】
MIDI出力付き主旋律担当楽器510は、楽曲の主旋律を奏でる部位であり、また、前述したように、演算装置200の入力インターフェース210を通じて演算部240に実演奏MIDIデータDを出力する部位である。MIDI出力付き主旋律担当楽器510は、例えばMIDI出力付きギター等の楽器から構成されている。
【0078】
その他の楽器520は、前記MIDI出力付き主旋律担当楽器510とともに楽曲を奏でる楽器やボーカル、及び所定のリズムを奏でるベースやドラム等のリズムセッション楽器から構成されている。
【0079】
音響情報伝送機能を有した楽器530は、出力インターフェース260を通じて演算装置200から出力された挿入情報Mと挿入タイミングT(より具体的には、挿入情報Mと挿入タイミングTに関するそれぞれの電気信号)を受信し、当該挿入情報Mが挿入された前記音響情報データを含む楽器音を前記挿入タイミングで出力する部位であり、例えばサンプラーやシンセサイザー等から構成されている。この音響情報伝送機能を有した楽器530も、前記音響情報伝送機能を有した楽器53と同様の記憶手段及び機能を有している。即ち、この記憶手段に演算装置200から入力した挿入情報Mなどを記憶する。また、演算装置200から入力する挿入情報Mが、この挿入情報Mを挿入した楽器音である場合は、当該挿入情報Mの挿入タイミングTを受信した際に、この楽器音をそのまま出力するように構成する。一方、演算装置200から入力する挿入情報Mが、当該挿入情報M(この場合の挿入情報は、当該挿入情報Mが挿入された楽器音を検索するのに用いる検索用信号であっても良い)のみであるような場合は、予め前記図示しない記憶手段に挿入情報Mが挿入された楽器音を記憶しておき、演算装置200から挿入情報M(前記検索用信号であっても良い)を受信した際に、前記挿入情報Mを挿入した楽器音を検索して待機し、挿入タイミングTを受信した際に当該楽器音を出力するように構成する。
【0080】
ステージ音響システム540は、MIDI出力付き主旋律担当楽器510及びその他の楽器520が奏でる楽器音と、音響情報伝送機能を有した楽器530によって生成された前記音響情報データを含む楽器音(より具体的には、これら音(音響)に関する電気信号)を受信し、これら複数の楽器音から1つの楽曲音(楽曲情報)を構成し、これを聴衆等に向けて発報する部位であって、ミキサー、PA装置及び楽器個別アンプ等から構成されている。前記楽曲音には、挿入情報Mが含まれており、第1実施形態と同様に、挿入情報Mに基づいて被制御装置600を、遠隔操作・制御する。なお、挿入情報Mは、第1実施形態のところで述べた方法により、前記音響情報データとして可聴容易周波数領域、又は可聴困難周波数領域の信号(音)の形で楽曲音に組み込まれている。
【0081】
被制御装置600は、第1実施形態の被制御装置60と同様に、ステージ音響システム540から発せられた楽曲音(楽曲情報)に組み込まれた挿入情報Mに基づいて遠隔操作・制御される部位であって、例えば聴衆が所持する携帯端末(スマートフォン等)から構成されている。
【0082】
〔実施手順〕
次に、任意信号挿入システム2を用いて第2実施形態を実行するための具体的手順を説明する。当該具体的手順は、図11に示すように、楽譜追跡ステップS20、挿入情報出力ステップS21及び挿入タイミング出力ステップS22から構成されている。
【0083】
楽譜追跡ステップS20は、楽譜追跡、すなわち、事前に記録された楽曲の楽譜情報とリアルタイムに演奏されている楽曲情報とを、タイムコードTCを時間軸として比較するステップである。
【0084】
リアルタイムに楽譜追跡を行う方法として、MIDI信号を使用して行う方法と、汎用的な楽器音を使用して行う方法とが考えられるが、以下ではより実用的なMIDI信号を使用して行う方法を説明する。
【0085】
図12は、前記MIDI信号を使用して楽譜追跡を行う方法の一実施例を示す図である。この実施例においては、楽譜情報GD及び実演奏データDが、いずれもMIDI形式のデータであって、これら2つのデータに含まれているリズム情報を照合する(ステップS20-1)。次に、楽譜情報GDに含まれるリズム情報が、実演奏データDに含まれるリズム情報を有効に追跡しているか否かを、音符(小節)を一単位として判定する(ステップS20-2)。
【0086】
ステップS20-1における前記照合は、例えば以下のようにして実行される。すなわち、楽譜情報GDの中に含まれるリズム情報GR(第一のリズム)と実演奏データDに含まれるリズム情報R2(第二のリズム)とを、所定の音符群(小節)単位で一致しているか否かを照合する。
【0087】
また、ステップS20-2における前記判定は、例えばDannenberg のDP(dynamic programming)マッチングの手法が用いられる。このDPマッチングの手法では、前記音符(小節)の単位で楽譜追跡アルゴリズムの正解率gを算出し、当該正解率gが、予め規定された閾値G以上であれば有効な音符群(小節)と判定する。閾値Gは、挿入情報Mの重要度に応じて変えることができる。例えば多少送信タイミング等を間違ってもいい場合は小さな値を設定し、スポンサー情報など(誤送信よりは送信しない方が良い)重要な内容の場合は大きくする。
【0088】
楽譜追跡アルゴリズムの正解率gは、以下のようにして算出される。すなわち、楽譜情報GD及び実演奏データDの所定の音符群(小節)に含まれるリズム情報GR及びリズム情報R2を同一時間軸(同一タイムコード)に関連付けた上で、双方の時間差Δtを演算装置200が具備するタイマー(ハードウエアクロック等)によって測定する。時間差Δtが、予め規定した閾値T以下のときは、一音符群(小節)において有効と判定し、閾値Tより大きいときは、一音符群(小節)において無効と判定する。これを、予め定められた時間内に含まれる前記音符群(小節)の数(以下、「判定回数N」という。)だけ繰り返す。一音符群(小節)において有効と判定された数nを判定回数Nで除した数の百分率が正解率gとなる。すなわち正解率gは、g=n/N×100(%)の式で定義される。この正解率gが、予め規定した閾値G以上のときは、ステップS20-2において有効と判定され、閾値G未満のときは、ステップS20-2において無効と判定される。
【0089】
楽譜追跡ステップS20(より具体的にはステップS20-2)で有効と判定されると、挿入情報出力ステップS21及び挿入タイミング出力ステップS22へと移行する。これに対し、楽譜追跡ステップS20(より具体的にはステップS20-2)で無効と判定されると、ステップS20-1へと戻る。
【0090】
挿入情報出力ステップS21では、タイムコードTCの進行にしたがって、対応する挿入情報M(または挿入情報Mを挿入した楽器音、以下同様)を、リアルタイム演奏部500(具体的には、音響情報伝送機能を有した楽器530)に向けて出力する。また、挿入タイミング出力ステップS22では、タイムコードTCの進行にしたがって、対応する挿入タイミングTを、リアルタイム演奏部500(具体的には、音響情報伝送機能を有した楽器530)に向けて出力する。なお、挿入情報Mと挿入タイミングTを、音響情報伝送機能を有した楽器530に送信するそれぞれのタイミングは、上記第1実施形態の場合と同様である。挿入タイミングTを受信した音響情報伝送機能を有した楽器530は、音響情報データを含んだ楽器音を、ステージ音響システム540を通じて、聴衆等に向けて発報する。
【0091】
このように、第2実施形態では、例えば図10に示すように、事前に記録されている曲の楽譜情報GDのリズム情報GRが、同じ曲の実演奏データDのリズム情報R2を有効に追跡しているか否か(同期しているか否か)を判定し、有効に追跡しているとき(同期しているとき、図10で有効のとき)に挿入タイミングTが存在していると、その挿入情報Mをその挿入タイミングTで発報する。一方、有効に追跡していないとき(同期していないとき、図10で無効のとき)は、挿入情報Mを発報しない。
【0092】
ここで、上記第2実施形態のように、楽譜追跡によって挿入タイミングTを求める方法は、上記第1実施形態のように、リズム発信装置40からの音や照明によってリズムを常に同期させながら挿入タイミングを求める方法と異なり、リズムが同期したと判断した後でもリズムが同期しているであろうと予測して、同期と判断した後の挿入タイミングを決めている(換言すれば、過去の有効性の判定結果から将来の挿入タイミングTの有効性を予測することになる)。この挿入タイミングの予測の妥当性については、以下に述べる実験結果によって担保されている。
【0093】
すなわち、演奏が速くなる現象(走る)を論理的に評価することを目的に、一般成人24 名(12 ペア)に対して実施された実験から、図13で示すように、人間のリズムの維持能力は高いことが確認されている。この図13に示された結果によれば、基準のリズム(メトローム)を停止してから40秒の間は、比較的正確にリズムを刻めることが実証されており、特に停止直後においてはほとんど正確にリズムを維持できることがわかる。
【0094】
前記図13に示す実験結果によれば、少なくとも実演奏と同期したリズムを刻んでいると判定された後から40秒の間に存在する挿入タイミングT、すなわち、楽譜追跡ステップS20(より具体的にはステップS20-2)で有効と判定された後の40秒の間に存在する挿入タイミングTは、楽譜情報GD及び実演奏MIDIデータDに含まれるリズムが同期した状態下でのタイミングと解することができる。
【0095】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0096】
1:任意信号挿入システム
2:任意信号挿入システム
10:楽曲の開始指示部(開始指示部)
20:演算装置
22:記憶装置
24:演算部
26:出力インターフェース
30:装置対応インターフェース
40:リズム発信装置
50:リアルタイム演奏部
51:リズムセッション楽器
52:その他の楽器
53:音響情報伝送機能を有した楽器
54:ステージ音響システム
60:被制御装置
200:演算装置
210:入力インターフェース
220:記憶装置
240:演算部
260:出力インターフェース
500:リアルタイム演奏部
510:MIDI出力付き主旋律担当楽器
520:その他の楽器
530:音響情報伝送機能を有した楽器
540:ステージ音響システム
600:被制御装置
MD:マスターデータ
MR:マスターリズム情報(第一のリズム)
D:実演奏データ
R:リズム(第二のリズム)
M:挿入情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13